説明

アクリルシラップおよびその製造方法

【課題】硬化性が良好で、透明性に優れ、表面硬度が高く耐傷つき性に優れたアクリルシラップ、さらに、強靱で意匠性に優れたアクリルシラップを、工業的に安全な製造方法を提供する。
【解決手段】分子中にエチレン尿素あるいはエチレンチオ尿素構造を有するメタクリル酸エステルを共重合成分として0.3〜25重量%含むアクリルポリマー5〜95重量%とメタクリル酸メチル95〜5重量%を含むアクリルシラップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性が良好で、透明性に優れ、表面硬度が高く耐傷つき性が良好なアクリルシラップに関する。
【0002】
本発明のアクリルシラップの製造方法は、アクリルシラップ製造時の温度制御を容易にし、アクリルシラップに使用されるアクリルポリマーの分子量、含有量が任意に調節可能な、工業的に安全、安心なアクリルシラップの製造方法である。
【背景技術】
【0003】
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの(メタ)アクリル酸エステルポリマーをメタクリル酸メチルなどのアクリル単量体に溶解した水あめ状の重合性液状混合物をアクリルシラップ(アクリルシロップとも言う)という。
【0004】
アクリルシラップは、硬化剤と、硬化促進剤を用いて、室温〜150℃位の温度で硬化される。硬化剤としては、一般に有機過酸化物が使用されており、硬化促進剤は、硬化する温度域により選択され、使用しない場合もあり、一般にジメチルベンジルアミン、エチレンチオ尿素などの還元剤が使用される。
【0005】
PMMAは、架橋に関与しないため、アクリルシラップの耐熱性や耐薬品性、強度などを改善、向上するために、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エポキシジメタクリレートなどの多官能重合性モノマーの添加や、例えば、メタクリル酸メチルとメタクリル酸との共重合物にグリシジルメタクリレートを付加反応し、分子側鎖にアクリル性不飽和二重結合を導入したラジカル重合性アクリルポリマーの使用などが検討されている。
【0006】
さらに、アクリルシラップは、硬化性が良好で、硬化物に着色が少なく透明性がよいことから、シート・モールディング・コンパウンド(SMC)やバルク・モールディング・コンパウンド(BMC)として例えば人造大理石調などの高意匠性が要求される、例えば、トイレタリー関連の成形物の製造などに広く用いられている。
【0007】
特許文献1で提案されているアクリルシラップの主原料であるアクリルポリマーは、それ自身では架橋性を有さず、仮にアクリルシラップに架橋剤を配合したとしても、成形物や塗膜の表面硬度が十分に高くならず、このままでは成形物や塗膜の傷つき易い。特許文献1で提案されている製造方法では、製造時の温度制御、分子量制御などがはなはだ困難であり、本製造方法では、暴走反応、爆発の危険性が大いに懸念されるため、工業化は至難である。
【0008】
特許文献2で提案されている分子側鎖にラジカル重合性二重結合(アクリル性不飽和二重結合)を有するアクリルポリマーは、側鎖のラジカル重合性二重結合のラジカル重合活性が乏しく、硬化反応性が悪い。さらに、ゆっくりと経時で反応が進行するため貯蔵安定性が不良である。また、特許文献2で提案されているハイドロパーオキサイド系硬化剤、チオ尿素系硬化促進剤を使用する硬化系では、硬化後、塗膜や成形物が着色し、アクリルシラップの特徴である無色透明性が失われ、高品位な成形物、塗膜が形成できない。特許文献2で提案されている製造方法では、製造時の温度制御、分子量制御などがはなはだ困難であり、本製造方法では、暴走反応、爆発の危険性が大いに懸念されるため、工業化は至難である。
【0009】
特許文献3には、非水媒体溶液中、ウレア基含有アクリル単量体が共重合されたアクリル共重合体(A)の存在下に、アクリル単量体を共重合するアクリル共重合体(B)の製造方法が提案されている。特許文献3で提案されている技術は、有機溶剤が必須でありアクリルシラップとしては不適切である。また、アクリル共重合体(B)は、有機溶剤中に溶解しており、架橋構造を含まないため、アクリルシラップ用途としては塗膜や成形物の表面硬度などの機械的性質、耐水性、浴室の洗剤などに対する耐性などの化学的性質が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−211003号公報
【特許文献2】特開2004−292527号公報
【特許文献3】特開2007−106871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、硬化性が良好で、透明性に優れ、表面硬度が高く耐傷つき性に優れたアクリルシラップとすることを課題としている。
【0012】
本発明はアクリルシラップに含有されるアクリルポリマーの分子量、含有量、アクリルシラップの架橋密度などを任意に調節し、強靱で意匠性に優れたアクリルシラップを、工業的に安全な製造方法で製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、分子中に下記構造式で示される化学構造
【0014】
【化1】

【0015】
(ここで、Rは水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)
を0.3〜25重量%含むアクリルポリマー5〜95重量%とメタクリル酸メチル95〜5重量%を含むアクリルシラップである。
【0016】
本発明は、α−メチルスチレンダイマーの存在下で、下記化学構造
【0017】
【化2】

【0018】
のN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア0.3〜25重量%を含むアクリル単量体を塊状ラジカル重合し、重合したアクリルポリマーを、メタクリル酸メチルと混合して、アクリルポリマーを5〜95重量%、メタクリル酸メチル95〜5重量%を含むアクリルシラップとするアクリルシラップの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアクリルシラップは、好ましくは、SMC法、BMC法などで、例えば、浴槽、ドレッサーなどの水回り製品などの、大型成形品の製造のために使用される。本発明のアクリルシラップは、硬化性が良好で、硬化時の発熱が少なく、残留応力、歪みが残りにくい、透明性が高い、強靱な成形物が製造できる。同時に、高い表面硬度は傷つきやすい水回り製品に好適である。
【0020】
本発明のアクリルシラップの製造方法は、硬化性が良好で、透明性に優れ、表面硬度が高く耐傷つき性に優れたアクリルシラップを、アクリルシラップ製造中に急激な発熱、粘度上昇、暴走反応などを起こすことなく、安全、安心に製造できる。
【0021】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、アクリルシラップに含有されるアクリルポリマーの分子量、含有量、アクリルシラップの架橋密度などが任意に調節でき、強靱で意匠性に優れたアクリルシラップを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1に、アクリルシラップAS−1のDSCで測定した硬化温度(昇温条件)を示した。
【図2】図2に、アクリルシラップAS−1のDSCで測定した硬化性(温度一定条件)を示した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、分子中に下記構造式で示される化学構造
【0024】
【化3】

【0025】
(ここで、Rは水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)
を0.3〜25重量%含むアクリルポリマー5〜95重量%とメタクリル酸メチル95〜5重量%を含むアクリルシラップである。
【0026】
本発明のアクリルシラップは、好ましくは、アクリルポリマーのRが、水素原子、Xが酸素原子である。
【0027】
本発明のアクリルシラップでは、分子中に下記構造式で示される化学構造
【0028】
【化4】

【0029】
(ここで、Rは水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)
の含有量が0.3重量%未満の場合には、アクリルシラップの硬化性、架橋性が不足し、十分な強度を有する成形品が製造できない。
【0030】
本発明のアクリルシラップでは、分子中に下記構造式で示される化学構造
【0031】
【化5】

【0032】
(ここで、Rは水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)
の含有量が25重量%を超える場合には、アクリルシラップが着色し、無色透明で高意匠性のアクリルシラップとならない。
【0033】
本発明のアクリルシラップでは、分子中に下記構造式で示される化学構造
【0034】
【化6】

【0035】
(ここで、Rは水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)
を0.3〜25重量%含むアクリルポリマーにおいて、
下記構造式で示される化学構造
【0036】
【化7】

【0037】
(ここで、Rは水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)
以外の分子構造は、
【0038】
【化8】

【0039】
(ここで、Rは水素原子またはメチル基、Rは水素原子、炭素原子数が1〜8個のアルキル基、アルキル基の炭素原子数が1〜4個のヒドロキシアルキル基、または、下記構造式の化学構造
【0040】
【化9】

【0041】
(ここで、R4は水素原子またはメチル基を表す。)を表す。)
または、下記分子構造
【0042】
【化10】

【0043】
(ここで、Rは水素原子またはメチル基、Rは水素原子、メチル基、ヒドロキシエチル基、または、下記構造式の化学構造
【0044】
【化11】

【0045】
を表す。)
本発明のアクリルシラップでは、分子中に下記構造式で示される化学構造
【0046】
【化12】

【0047】
(ここで、Rは水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)
を0.3〜25重量%含むアクリルポリマーの含有量が5重量%未満の場合には、アクリルシラップの硬化反応性、架橋性が悪く、耐熱性、耐湿熱性、耐薬品性などに満足できる成形品や塗膜が形成されない。本発明のアクリルシラップでは、上記のアクリルポリマーの含有量が95重量%を超える場合には、シート・モールディング・コンパウンド(以下、SMCとも言う)やバルク・モールディング・コンパウンド(以下、BMCとも言う)で成形品を製造する際、脱泡、充填などの作業性が悪く、工業的観点から製造効率よく意匠性の高い成形品が製造できない。
【0048】
本発明のアクリルシラップでは、分子中に下記構造式で示される化学構造
【0049】
【化13】

【0050】
(ここで、Rは水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、Xは酸素原子または硫黄原子を表す。)
を0.3〜25重量%含むアクリルポリマーは、好ましくは、10〜95重量%、より好ましくは、20〜85重量%含むのが望ましい。このとき、アクリルシラップの耐熱性、耐湿熱性、耐薬品性などがより向上し、SMCやBMCで成形品を製造する場合、あるいは、塗装する際の作業性が良好となる傾向が見られる。
【0051】
本発明のアクリルシラップは、メタクリル酸メチルを95〜5重量%を含む。本発明のアクリルシラップは、好ましくは、メタクリル酸メチルを75〜5重量%を含む。
【0052】
本発明のアクリルシラップでは、メタクリル酸メチル以外にも、別のアクリル単量体を含有することができる。本発明のアクリルシラップでは、アクリルシラップに使用されるアクリル単量体としてメタクリル酸メチル以外にも、分子中に(メタ)アクリロイル基を1個しか有さない単官能のアクリル単量体、および、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、ウレタンジメタクリレート、ウレタンポリメタクリレート、ウレタンジアクリレート、ウレタンポリアクリレートなどの分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレートモノマー、オリゴマーなどが例示される。本発明のアクリルシラップでは、これらのアクリル単量体、多官能(メタ)アクリレートモノマー、オリゴマーは単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0053】
本発明のアクリルシラップでは、アクリルシラップに良好な硬化性および架橋性を付与し、強靱で、耐熱性や耐湿熱性が良好な成形品を製造するために、メタクリル酸メチル以外に使用するアクリル単量体として、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレートなどの多官能メタクリレートモノマー、オリゴマーが推奨される。
【0054】
本発明のアクリルシラップでは、メタクリル酸メチル以外に使用するアクリル単量体は、メタクリル酸メチルとの合計量を100重量%として、好ましくは、0〜50重量%、より好ましくは、5〜35重量%、さらに好ましくは、10〜35重量%であるのが望ましい。
【0055】
本発明のアクリルシラップは、貯蔵安定性が良好である。本発明のアクリルシラップは、例えば、23℃で密栓して保存するなどの、一般的な貯蔵方法であれば、数ヶ月貯蔵しても粘度上昇、変色などの変化、劣化を起こすことがない。貯蔵中や輸送中に不用意に重合反応を起こすことがないため、安全に安心して貯蔵、輸送ができる。
【0056】
本発明のアクリルシラップは、一般に硬化剤として使用される、例えば、有機過酸化物などの配合有無に係わらず、一定温度以上に加温すれば急速に硬化を開始し、短時間で強固な硬化物を生成する。本発明のアクリルシラップは、硬化感度に優れた、好ましくは、一液型のアクリルシラップとして使用することが可能である。本発明のアクリルシラップは、硬化後は、高い表面硬度、透明性を有する成形物や塗膜を形成する。
【0057】
また、本発明のアクリルシラップは、硬化物の表面硬度が高く、耐傷つき性が優れているため、使用経時で意匠性が失せられることが少ない傾向が見られ、長期にわたって美麗な製品外観が継続される。
【0058】
本発明のアクリルシラップは、透明性、高い表面硬度、優れた耐薬品性、耐溶剤性、良好な硬化性、流動性などSMC、BMCなどの成形材料として要求される種々性能を高いレベルで達成可能であり、洗面化粧台、浴槽、浴槽周り製品(エプロンなど)、洗浄便座、便器などの水回り製品などに好適な材料として使用することができる。
【0059】
本発明のアクリルシラップの製造方法は、α−メチルスチレンダイマーの存在下で、下記化学構造
【0060】
【化14】

【0061】
のN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア0.3〜25重量%を含むアクリル単量体を塊状ラジカル重合し、重合したアクリルポリマーを、メタクリル酸メチルと混合して、アクリルポリマーを5〜95重量%、メタクリル酸メチル95〜5重量%を含む。
【0062】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、ウレア基含有アクリル単量体は、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアである。N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアは、全アクリル単量体の合計量を100重量%として0.3〜25重量%使用する。
【0063】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアは、好ましくは、0.5〜22重量%、より好ましくは、3.0〜20重量%を使用することが望ましい。N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアの使用量が0.5〜22重量%であれば、着色がなく、より硬化性、透明性に優れたアクリルシラップになる傾向が見られる。
【0064】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、アクリルポリマーに使用される、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア以外のアクリル単量体として、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルへキシルなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、メタクリル酸、アクリル酸などのカルボキシル基含有アクリル単量体、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの水酸基含有アクリル単量体、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−(2−メタクリルアミドエチル)エチレンウレアなどのアミド基含有アクリル単量体、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルメタクリレート、または、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルメタクリレートなどのヒンダードアミノ基含有アクリル単量体などのアクリル単量体が例示される。本発明のアクリルシラップの製造方法では、これらのアクリル単量体は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0065】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、これらのアクリル単量体の中では、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのアルキル基の炭素原子数が1〜6個のメタクリル酸アルキルエステルが推奨され、強靱で表面硬度が高く、耐湿熱性、耐熱性などが良好なアクリルシラップが製造できる傾向が見られる。
【0066】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、α−メチルスチレンダイマーは、好ましくは、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンであり、ABS樹脂製造時等で使用される無臭の連鎖移動剤(重合度調節剤)としてよく知られている。
【0067】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、重合開始剤として、好ましくは、有機アゾ系重合開始剤、有機過酸化物などを使用するのが望ましい。
【0068】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、好ましく使用される有機アゾ系重合開始剤として、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)社製「V−70」;融点50〜96℃、10時間半減期30℃)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)社製「V−65」;融点45〜70℃、10時間半減期51℃)、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)((和光純薬工業(株)社製「V−60」;融点100〜103℃、10時間半減期65℃)、2,2´−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(和光純薬工業(株)社製「V−59」;融点48〜52℃、10時間半減期67℃)、ジメチル 2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬工業(株)社製「V−601」;融点22〜28℃、10時間半減期66℃)などが例示される。本発明のアクリルシラップでは、これらの有機アゾ系重合開始剤は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0069】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、好ましく使用される有機過酸化物として、過酸化ベンゾイル(日油(株)社製「ナイパーBW」など;10時間半減期温度73.6℃)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油(株)社製「パーブチルO」;10時間半減期温度72.1℃)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(日油(株)社製「パーブチルZ」;10時間半減期温度104.3℃)などが例示される。本発明のアクリルシラップの製造方法では、これらの有機過酸化物は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0070】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、重合開始剤として、アクリルポリマー製造時の重合温度制御、アクリルシラップの貯蔵安定性の観点から、有機アゾ系重合開始剤の使用が望ましい。
【0071】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、好ましく使用される有機アゾ系重合開始剤の中では、10時間半減期温度が、好ましくは、30〜80℃、より好ましくは、30〜75℃、さらに好ましくは、30℃〜67℃の有機アゾ系重合開始剤が望ましい。本発明のアクリルシラップの製造方法では、10時間半減期温度が30〜80℃の有機アゾ系重合開始剤が使用されることにより、重合温度制御が容易となりアクリルシラップをより安全に製造できる傾向が見られる。また、アクリルシラップ中に未反応で残存する有機アゾ系重合開始剤量が減少し、アクリルシラップの貯蔵安定性が向上し、成形物や塗膜のボイドが減少し、製品の品位がよくなるとともに機械的強度が向上する傾向が見られる。
【0072】
本発明のアクリルシラップでは、10時間半減期温度が30〜80℃の有機アゾ系重合開始剤として、好ましくは、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)社製「V−70」;融点50〜96℃、10時間半減期30℃)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)社製「V−65」;融点45〜70℃、10時間半減期51℃)、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)((和光純薬工業(株)社製「V−60」;融点100〜103℃、10時間半減期65℃)、2,2´−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(和光純薬工業(株)社製「V−59」;融点48〜52℃、10時間半減期67℃)、ジメチル 2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬工業(株)社製「V−601」;融点22〜28℃、10時間半減期66℃)などが例示される。
【0073】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対して、重合開始剤を、好ましくは、0.02〜1.0モル使用するのが望ましい。本発明のアクリルシラップでは、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し、重合開始剤が、好ましくは、0.02〜1.0モルであれば、アクリルシラップ製造時の重合温度制御が容易になる傾向があり、より安全にアクリルシラップを、好ましくは、塊状ラジカル重合で製造することができる。また同時に、重合速度の調節が容易になり、アクリルポリマーの分子量調節、アクリルシラップ中のアクリルポリマー濃度調節が容易となる傾向があり、よりパフォーマンスの高いアクリルシラップが製造可能となる傾向が見られる。
【0074】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し、重合開始剤は、より好ましくは、0.02〜0.8モル、さらに好ましくは、0.02〜0.5モル、もっとも好ましくは、0.04〜0.25モルであるのが望ましい。本発明のアクリルシラップの製造方法では、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し、重合開始剤が、0.02〜0.8モルであれば、アクリルシラップをより安全に、好ましくは、塊状ラジカル重合で製造できるようになり、重合速度制御、濃度制御などがより容易になる傾向が見られる。
【0075】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、アクリルポリマーが、塊状ラジカル重合で製造されることにより、アクリルポリマーの有機溶媒等からの単離、精製などが不要となり、工業的見地から生産の効率化が可能である。また、製造過程で、有機溶剤、水などの環境への排出がなくなり、また、脱溶媒、脱水、乾燥等で必要な莫大な熱エネルギーも不要となって、環境負荷の低減がはかれる。
【0076】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、塊状ラジカル重合とは、アクリル単量体、スチレンモノマーなどビニル基を持つモノマーのラジカル重合を行う際に用いられる重合方法の一つである。ビニルモノマーだけをそのまま、または少量の重合開始剤を加えて、加熱して重合を行う方法である。塊状ラジカル重合の特徴は、重合速度が大きく、未反応の重合開始剤や連鎖移動剤が少量含まれることがあるが、比較的純粋なポリマーが塊状で得られることである。一方で、重合の進行とともに急激な粘度上昇が起こり、撹拌能力が粘度上昇速度に追随できなくなって、重合熱を取り除くことが困難であり、局部加熱が生じるなど重合温度の制御がはなはだ困難である。急激な発熱が起こり、暴走反応、爆発に至ることもしばしば見られる。
【0077】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し、好ましくは、重合開始剤0.02〜1.0モルを使用することで、アクリル単量体のラジカル重合速度が制御されるため、アクリルポリマー製造時の重合熱の発生が重合率に関係なく一定になる傾向が見られ、工業的に実施できる範囲で除熱がきわめて容易である。本発明のアクリルシラップの製造方法では、したがって、重合温度制御に係わる負荷が大きく軽減され、容易であり、安全、安心してアクリルポリマーを塊状ラジカル重合で製造できる。
【0078】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、重合したアクリルポリマーを、メタクリル酸メチルと混合して、アクリルポリマーを5〜95重量%、メタクリル酸メチル95〜5重量%を含むアクリルシラップとする。
【0079】
本発明のアクリルシラップ製造方法では、好ましくは、アクリルポリマーを25〜95重量%、メタクリル酸メチルを75〜5重量%を含む。
【0080】
本発明のアクリルシラップの製造方法では、ウレア基含有アクリル単量体を含むアクリル単量体の重合速度が適切に制御可能であり、アクリルシラップ製造時の単位時間あたりの発熱量が定量化され、低減されるため、除熱が容易となり、分子量が制御されたアクリルポリマーを、塊状ラジカル重合で安全に製造することが可能となる。
【0081】
本発明のアクリルシラップは、有機過酸化物などの硬化剤を配合しなくても単独で硬化性を有するため、および、特定の硬化温度までは硬化することなく安定に存在するため、一液で使用することが可能であり、作業性の改善、向上が図れ、生産効率化につながる。
【0082】
以下、実施例で本発明を詳細に説明する
【実施例】
【0083】
実施例で本発明の詳細を説明するのに先立ち、試験方法、評価方法を説明する。また、特に断りがない限り使用量は部数(g)を表し、組成は重量%を表す。
【0084】
1.重合率(%):
JIS K 5407:1997にしたがって140℃で60分間加熱残分を測定し、これを重合率とした。
【0085】
2.分子量:
重量平均分子量(以下、Mwとも言う)、数平均分子量(以下、Mnとも言う)、分子量分布(以下、dとも言う)=Mw/Mnは、東ソー(株)の「HLC−8220 GPC」システムで測定した。
【0086】
3.アクリルシラップの硬化性:
(1)硬化温度(℃)と硬化時間(分)
ティー・エイ・インスツルメント(株)社製示差走査熱量計「DSC Q10」を使用し、窒素雰囲気下で、30℃〜200℃まで10℃/minで昇温し硬化温度(℃)を求めた。また、120℃で温度をキープし硬化時間(分)を測定した。
【0087】
(2)内部硬化性と表面硬化性
アクリルシラップを厚みが約5mmになるよう東洋アルミエコープロダクツ製ホイルコンテナー107にとり、アルミホイルで簡単な蓋をした後、100℃のオーブンで30分間、硬化性の試験を行った。内部硬化性の有無、大気側の表面硬化不良の有無を評価した。表面、内部ともしっかり硬化しているものは合格(○)、硬化性を示さずどろどろしたままのもの、および、表面に硬化不良が認められ未硬化部分、粘着部分があるものは不合格(×)とした。
【0088】
4.硬度:
アクリルシラップを厚みが約5mmになるよう東洋アルミエコープロダクツ製ホイルコンテナー107にとり、アルミホイルで簡単な蓋をした後、120℃のオーブンで30分間、硬化した。ホイルコンテナ側の平滑な面を使用し、JIS K 5400:1997にしたがって鉛筆硬度を求めた。鉛筆硬度が高いほど表面硬度は高く、耐傷つき製が良好である。4H以上で合格とした。
【0089】
5.貯蔵安定性:
1Lマヨネーズ瓶にアクリルシラップ800gをとり、密栓して、23℃で1ヶ月間静置した。1ヶ月静置後の重量平均分子量/試験開始時の重量平均分子量求め、変化が20%以内であれば貯蔵安定性は良好(○)、変化が20%を越える場合は貯蔵安定性が不良(×)とした。
【0090】
6.耐溶剤性・架橋性:
アクリルシラップを厚さが約5mmになるよう東洋アルミエコープロダクツ製ホイルコンテナー107にとり、アルミホイルで蓋をした後、120℃で30分間硬化した。硬化物のホイルコンテナーに接していた部分をアセトンでこすり、透明性、艶がなくなるかどうかを評価した。透明性、艶が全く変化しないものを耐溶剤性および架橋性が良好(○)、溶解したり、透明性、艶が少しでもなくなるものは耐溶剤性、架橋性が不良(×)とした。
【0091】
以下、実施例に先立ち、実施例および比較例で使用するアクリルポリマーの製造を記述する。
【0092】
アクリルポリマーAP−1の製造
窒素ガス吹き込み口、撹拌機、温度計がついた300mL4つ口フラスコに、メタクリル酸メチル99.0g、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア1.0g、α−メチルスチレンダイマー6.65g、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.00g(α−メチルスチレンダイマーを1.0モルとしたとき、0.143モル)を仕込み、窒素ガスでバブリングを30分間行った。この後、窒素ガスは吹き込みに変更した。
【0093】
撹拌しながら、昇温を開始し、30℃から重合温度の75℃まで120分間で昇温した。75℃で120分間重合を行った後、室温まで冷却して実施例で使用するアクリルポリマーAP−1を製造した。
【0094】
アクリルポリマーAP−1は、重合率85.2%、重量平均分子量18750、数平均分子量12500、分子量分布1.5であった。アクリルポリマーAP−1製造中は、急激で大きい発熱は見られず、温度制御はきわめて容易で、安全に製造できた。
【0095】
アクリルポリマーAP−2〜AP−5の製造
表1に示すとおり仕込み組成を変える以外はアクリルポリマーAP−1と同様にして実施例のアクリルシラップに使用するアクリルポリマーAP−2〜AP−5を製造した。
【0096】
表1にアクリルポリマーAP−2〜AP−5の製造条件、特性値などを示した。アクリルポリマーAP−2〜AP−5製造中は、急激で大きい発熱は見られず、温度制御はきわめて容易で、安全に製造できた。
【0097】
【表1】

【0098】
アクリルポリマーAP−6〜AP−9の製造
表2に示すとおり仕込み組成を変える以外はアクリルポリマーAP−1と同様にして実施例のアクリルシラップに使用するアクリルポリマーAP−6〜AP−9を製造した。
【0099】
表2にアクリルポリマーAP−6〜AP−9の製造条件、特性値などを示した。アクリルポリマーAP−6〜AP−9製造中は、急激で大きい発熱は見られず、温度制御はきわめて容易で、安全に製造できた。
【0100】
【表2】

【0101】
アクリルポリマーAP−10〜AP−14の製造
表3に示すとおり仕込み組成を変える以外はアクリルポリマーAP−1と同様にして実施例のアクリルシラップに使用するアクリルポリマーAP−10〜AP−14を製造した。
【0102】
表3にアクリルポリマーAP−10〜AP−14の製造条件、特性値などを示した。アクリルポリマーAP−10〜AP−14製造中は、急激で大きい発熱は見られず、温度制御はきわめて容易で、安全に製造できた。
【0103】
【表3】

【0104】
アクリルポリマーAP−1〜AP−14の製造で明らかなとおり、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し、重合開始剤を0.02〜1.00モル使用することで、塊状重合であるにもかかわらず、重合温度制御が容易で、実施例のアクリルシラップに使用するアクリルポリマーを安全に製造できた。
【0105】
アクリルポリマーAP−15の製造
窒素ガス吹き込み口、撹拌機、温度計がついた300mL4つ口フラスコに、メタクリル酸メチル100.0g、α−メチルスチレンダイマー6.65g、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.00g(α−メチルスチレンダイマーを1.0モルとしたとき、0.143モル)を仕込み、窒素ガスでバブリングを30分間行った。この後、窒素ガスは吹き込みに変更した。
【0106】
撹拌しながら、昇温を開始し、30℃から重合温度の75℃まで120分間で昇温した。75℃で120分間重合を行った後、室温まで冷却して比較例のアクリルシラップに使用するアクリルポリマーAP−15を製造した。
【0107】
アクリルポリマーAP−15は、重合率84.6%、重量平均分子量17700、数平均分子量11800、分子量分布1.5であった。アクリルポリマーAP−15製造中は急激で大きい発熱は見られず、温度制御はきわめて容易で、安全に製造できた。
【0108】
アクリルポリマーAP−16〜AP−19の製造
表4に示すとおり製造条件、仕込み組成などを変える以外は、アクリルポリマーAP−15と同様にして比較例のアクリルシラップに使用するアクリルポリマーAP−16〜AP−19の製造を試みた。アクリルポリマーAP−16、AP−19は、製造中に急激で大きい発熱は見られず、温度制御は容易で、安全に製造できた。ところが、アクリルポリマーAP−19は、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対して、重合開始剤の使用量が少なすぎるため、製造に十分時間をかけたにもかかわらず重合率が上がらず、以後の試験を実施できなかった。アクリルポリマーAP−17、AP−18は、α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対して、重合開始剤の使用量が1.020モルと多すぎるため、製造中に急激で大きい発熱が頻繁に起こり、昇温途中で暴走反応となったため製造することができなかった。
【0109】
【表4】

【0110】
以下に、実施例のアクリルシラップの組成、試験結果を示した。
【0111】
実施例1〜14
表5に、実施例1〜6のアクリルシラップAS−1〜AS−6の組成、試験結果を、表6に、実施例7〜9のアクリルシラップAS−7〜AS−9の組成、試験結果を、表7に、実施例10〜14のアクリルシラップAS−10〜AS−14の組成、試験結果を示した。表5〜表7に見られるとおり、実施例1〜14のアクリルシラップAS−1〜AS−14は、貯蔵安定性、硬化性、表面硬度、耐溶剤性の全ての項目で優れた性能を発揮した。
【0112】
【表5】

【0113】
【表6】

【0114】
【表7】

【0115】
実施例1のアクリルシラップAS−1を例に取り説明する。アクリルシラップAS−1はアクリルポリマーAP−1の100gを容器に仕込み、撹拌しながらメタクリル酸メチル21.7gを添加して、均一になるまで撹拌し、アクリルシラップAS−1を製造した。アクリルシラップAS−1には、一般に硬化剤として使用される有機過酸化物は配合しなかった。アクリルシラップAS−1の加熱残分を測定した後、貯蔵安定性、硬化性、表面硬度、耐溶剤性の試験、評価を行った。
【0116】
アクリルシラップAS−1は、加熱残分70.1%、貯蔵経時で分子量変化を起こすことなく貯蔵安定性が良好であった。DSCで測定した硬化温度は120℃、硬化時間は10分であり、シャープな硬化特性を有していた。図1に、アクリルシラップAS−1のDSCで測定した硬化温度を、図2に、硬化性を示した。
【0117】
実施例1のアクリルシラップAS−1は内部まで硬化し、酸素による重合阻害を受けることなく表面も硬化した。以上の記載からわかるように、実施例1のアクリルシラップAS−1は優れた硬化性を有していた。アクリルシラップAS−1の表面硬度は4Hであった。市販されているハードコート同レベルの表面硬度を有しており、耐傷つき性が良好である。
【0118】
実施例1のアクリルシラップAS−1はアセトンでこすっても膨潤したり、艶引けすることはなかった。表面硬度、耐溶剤性の試験から、アクリルシラップAS−1は必要十分なレベルの架橋構造を有していることがわかった。
【0119】
表5に示したように、実施例1〜5のアクリルシラップAS−1〜AS−5では、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアの使用量が多くなれば、硬化性がよくなり、表面硬度がより高くなる。
【0120】
表5、表6に示したように、実施例6〜9のアクリルシラップAS−6〜AS−9の試験結果から、アクリルポリマーの分子量が大きくなれば硬化性がよくなり、表面硬度が高くなることが示されている。また、重合開始剤を変えても、重合開始剤の使用モル数、α−メチルスチレンダイマーに対する使用量を変えなければ、アクリルポリマーの製造には何らの影響もなく、アクリルシラップの性能にも影響がない。
【0121】
表7に示した実施例10〜14のアクリルシラップAS−10〜AS−14は、アクリルポリマーの製造条件をふった試験結果である。アクリルシラップとして満足できる性能を発揮した。
【0122】
表8、表9に、比較例1〜4のアクリルシラップの組成、試験結果を示した。アクリルポリマーAP−17、AP−18は製造中に温度制御が困難となったため、アクリルポリマーAP−17、AP−18を使用したアクリルシラップを製造することができなかった。アクリルポリマーAP−19は重合率が上がらず、アクリルポリマーAP−19を使用したアクリルシラップを製造することができなかった。
【0123】
【表8】

【0124】
【表9】

【0125】
表8に示したように、硬化剤であるt−ブチル−パーオキシ−2−エチルヘキサノエートを配合したアクリルシラップAS−15、AS−16は貯蔵中にゲル化した。アクリルシラップAS−15は、表面は空気による硬化阻害を受け全く硬化しなかった。また、架橋性を有さず、表面硬度が低く、アセトンで溶解し耐溶剤性も悪かった。アクリルシラップAS−16は、硬化物が黄褐色に着色し、無色透明で意匠性が要求されるアクリルシラップとしては不適切であった。
【0126】
表9に示したように、アクリルポリマーAP−15(ポリメタクリル酸メチル)が使用されているアクリルシラップAS−17は硬化剤が配合されていないため、硬化しなかった。アクリルシラップAS−18は硬化物が黄褐色に着色し、無色透明で意匠性が要求されるアクリルシラップとしては不適切であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に下記構造式で示される化学構造
【化1】

(ここで、Rは、水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、Xは、酸素原子または硫黄原子を表す。)
を0.3〜25重量%含むアクリルポリマー5〜95重量%とメタクリル酸メチル95〜5重量%を含むアクリルシラップ。
【請求項2】
アクリルポリマーのRが水素原子、Xが酸素原子である請求項1に記載のアクリルシラップ。
【請求項3】
α−メチルスチレンダイマーの存在下で、下記化学構造
【化2】

のN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア0.3〜25重量%を含むアクリル単量体を塊状ラジカル重合し、重合したアクリルポリマーを、メタクリル酸メチルと混合して、アクリルポリマーを5〜95重量%、メタクリル酸メチル95〜5重量%を含むアクリルシラップとするアクリルシラップの製造方法。
【請求項4】
α−メチルスチレンダイマー1.0モルに対し、重合開始剤を、0.02〜1.0モルを使用し、重合開始剤が、10時間半減期温度が30〜80℃の有機アゾ系重合開始剤である請求項3に記載のアクリルシラップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−162600(P2011−162600A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24124(P2010−24124)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】