説明

アクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム、およびこれらを含む積層成形品

【課題】インモールド成形の際に加飾流れ等の外観欠陥を発生することのない、優れた成形性を有するアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム、ならびにこれらのフィルムを表面に有する積層成形品を提供すること。
【解決手段】250℃における貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上であり、かつ熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)が80℃以上であるアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム、およびこれらを積層した成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムを含有するアクリル樹脂からなるアクリル樹脂フィルムは、透明性、耐候性、柔軟性、加工性における優れた特性を活かし、各種樹脂成形品、木工製品、および金属成形品の表面に積層し、車輌内外装、家具・ドア材・窓枠・巾木・浴室内装等の建材用途等の表皮材、マーキングフィルム、高輝度反射材被覆用フィルムとして使用されている。
【0003】
従来、上記用途に用いられているアクリル樹脂フィルム原料としては、様々な樹脂組成物が提案され、実用化されている。このうち、特に耐候性、透明性に優れ、かつ耐折り曲げ白化性等の耐ストレス白化性に優れたアクリル樹脂フィルムを与える原料として、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、およびグラフト交叉剤を重合体の構成成分とする特定構造の多層構造重合体が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。また、同様の特性を有するアクリル樹脂フィルムの原料としての多層構造重合体が開示されている(例えば、特許文献3〜5参照)。
【0004】
一方、低コストで成形品に意匠性を付与する方法として、インモールド成形法がある。インモールド成形法は、印刷等の加飾を施したポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などのシート、あるいはフィルムを射出成形金型内に設置し、真空成形を施した後、同じ金型内で基材となる樹脂を射出成形することにより一体化させた成形品を得るものである。このインモールド成形法によれば、シート、あるいはフィルムと基材とを生産性良く一体化したり、印刷部のみを転写したりすることができる。
【0005】
インモールド成形に用いることができる表面硬度、耐熱性に優れたアクリル樹脂フィルムとして、特定の組成からなるゴム含有重合体と、特定の組成からなる熱可塑性重合体とを特定の割合で混合してなるアクリル樹脂フィルムが開示されている(例えば、特許文献6〜9参照)。このようなアクリル樹脂フィルムは、成形品に加飾性を付与するばかりでなく、クリア塗装の代替材料としての機能を有する。
【0006】
ところで、インモールド成形法では、上述の通り、成形用金型内部に加飾を施したシートまたはフィルムを装着した後、溶融した高温度の基材用樹脂が高圧力で射出されるために、射出成形条件、金型の形状によっては、特にゲート付近で該シートまたはフィルムに施した加飾が流れてしまう、酷い場合には加飾層が消失してしまう問題(以下、「加飾流れ」と称する)が生じたり、加飾流れによって該シートまたはフィルムと基材用樹脂との接着強度が不十分なものが発生することがあった。特にメタリック調などの高輝度加飾層の場合は、ゲート付近で上記加飾流れの欠陥が目立つだけでなく、加飾層が凹んだように見える外観欠陥が発生することがあった。また、該シートまたはフィルムが変形を起こす問題が生じ、製品の品質が劣り、製品として使用することが出来ないものが発生することがあった。
【0007】
そこで、こうした問題点を解決するために、耐熱性が高い印刷インキを用いる方法(例えば、特許文献10参照)や特定の表面被覆処理のなされた金属微粒子を含有したインキを用いる方法(例えば、特許文献11参照)、特定の金型ゲート径を有する金型や、特定の厚さの成形品および加飾シートとする方法(例えば、特許文献12参照)、加飾シートの加飾層に熱伝導抑制層を積層する方法(例えば、特許文献13参照)、特定の厚みの加飾シートを用いる方法(例えば、特許文献14参照)などが提案されている。
【特許文献1】特公昭62−19309号公報
【特許文献2】特公昭63−8983号公報
【特許文献3】特開平11−60876号公報
【特許文献4】特開平11−335511号公報
【特許文献5】特開2001−81266号公報
【特許文献6】特許第3142774号公報
【特許文献7】特許第3287315号公報
【特許文献8】特開2002−80678号公報
【特許文献9】特許第3479645号公報
【特許文献10】特許第2997636号公報
【特許文献11】特許第3422966号公報
【特許文献12】特許第3396654号公報
【特許文献13】特開2002−113738号公報
【特許文献14】特許第2725735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜5には、得られたアクリル樹脂フィルムのインモールド成形に関する記載はなく、さらには、表面硬度、耐熱性に関する記載もない。このため、本発明者らが該公報実施例に記載されているアクリル樹脂フィルムを作成し、これに加飾を施した後インモールド成形したところ、フィルムが変形し、成形品に皺が発生した。また、該フィルムの表面硬度(耐擦傷性)、耐熱性は、いずれも車輌用途に必要なレベルに達していなかった。
【0009】
また、特許文献6〜9記載のアクリル樹脂フィルムは、加飾層を施した後インモールド成形した際の成形品外観に関して詳細には記載しておらず、本発明者らが、この公報記載のアクリル樹脂フィルムを実際に作成し、加飾を施した後、インモールド成形を行ったところ、ゲート付近の加飾層が流れ、基材用樹脂の色調が現れる外観欠陥が発生した。
【0010】
また、特許文献6〜9記載のアクリル樹脂フィルム等を用いて、特許文献10〜13記載の方法でインモールド成形を施した際に発生する諸問題(加飾流れ、加飾流れによるフィルムと基材用樹脂との接着性低下、およびフィルムの変形等)を抑える工夫がなされているが、これら公報にはアクリル樹脂等の加飾シートまたはフィルムの材料面からインモールド成形性を改良する手法は記述されていない。加えて、これらの改良手法は、加飾層に用いるインキ層の材料を制約したり、金型の設計を制約したり、射出成形条件を制約したり、断熱層を設けることにより加飾フィルムの構成を制約する等、積層成形品を得るための設計の自由度を狭くするものであり、アクリル樹脂フィルムからの改良が望まれていた。
【0011】
また、特許文献14の実施例には、ポリメタクリル酸メチルフィルムに関する記載がなされているが、該フィルムの組成やポリメタクリル酸メチルフィルムの商品名等の記述が全くなされていない。このため、特許文献6〜9記載のアクリル樹脂フィルムを、100μmの厚みに調整したものを用いて、加飾層を施した後、インモールド成形を施した際、いずれも加飾流れが観察された。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、インモールド成形に用いた際に加飾流れ等の外観欠陥を発生することのない、優れた成形性を有するアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム、ならびにこれらのフィルムを表面に有する積層成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、以下の本発明により解決できる。
・250℃における貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上であり、かつ熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)が80℃以上であるアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルム。
・少なくとも片面に加飾層を有する上記のアクリル樹脂フィルム。
・上記のアクリル樹脂フィルムを、基材上に積層した積層成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、250℃における貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上であり、かつ熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)が80℃以上であるアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムを採用することで、該フィルムに加飾層を施した後にインモールド成形を行った際、特にゲート付近での加飾流れによる外観欠陥の発生、および、これに伴う該フィルムと基材用樹脂との接着強度の低下、さらに、該フィルムの変形による成形品表面の皺の発生といったインモールド成形時の不具合を起こすことなく積層成形品を提供することができる。
【0015】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムを用いることにより、加飾層に用いるインキ層の材料の制約、金型設計の制約、射出成形条件の制約、断熱層配置等の加飾フィルム構成上の制約等、積層成形品を得るための設計の自由度を狭くさせる問題を少なからず解決することができる。本発明のアクリル樹脂フィルムは、工業的利用価値が極めて高いものであり、従来の使用用途を飛躍的に広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物は、250℃における貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上である。インモールド成形した際に生じる加飾流れは、基材用樹脂が高温・高圧力で金型キャビティ内に射出された瞬間の加飾層に接している側のアクリル樹脂フィルム界面付近の流動により発生する。そこで、本発明のように、250℃における貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上のアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムを用いた場合、射出成形時に基材用樹脂の大量の熱量が伝達されても、加飾を施した該フィルム(以下、特に「加飾アクリル樹脂フィルム」と称することがある)に流動等が生じるのを防ぐことができ、その結果、加飾流れによる外観欠陥やこれに伴う該フィルムと基材用樹脂との接着強度低下が発生することなく積層成形品を得ることができるため、工業的利用価値が高くなる。
【0017】
また、250℃における貯蔵弾性率(G’)が9×103Pa以上のアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムを用いることがより好ましい。この場合、外観欠陥が目立つアルミニウム粒子等の金属粒子を含有したメタリック印刷柄においても、上記のような問題を生じることなく積層成形品を得ることができるため、工業的利用価値は極めて高くなる。さらに250℃における13×103Pa以上の貯蔵弾性率(G’)を有するアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムが好ましい。
【0018】
また、250℃における貯蔵弾性率(G’)が、150×103Pa以下のアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムを用いることが好ましい。この場合、該アクリル樹脂フィルムは射出成形金型内で良好な真空成形性または圧空成形性を有する。また、該アクリル樹脂フィルムを溶融押出法により製造する際、良好な製膜性を有する。さらに250℃における130×103Pa以下の貯蔵弾性率(G’)を有するアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムが好ましい。
【0019】
なお、貯蔵弾性率(G’)の測定は、アクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物からなる原料ペレットを、射出成形にて厚さ2mmのプレート状に成形し、この成形品からディスク状に切り出したものを試験片に用いて測定できる。測定には、レオメトリックス社製RDA−700(商品名)を使用し、測定条件は、測定温度:150〜270℃(昇温速度2℃/分)、測定角周波数:10rad/秒とする。
【0020】
加えて、本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物は、熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)が80℃以上である。熱変形温度が80℃以上のアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムを用いた場合、基材用樹脂が高温・高圧力で金型キャビティ内に射出されても、成形品になったときに皺として残ってしまう程の大きな変形を起こすことなく、外観良好な積層成形品を得ることができる。さらに、高温で長時間曝露した際に、アクリル樹脂フィルム表面に白化、曇りが見られないため、工業的利用価値は高い。これにより、例えば車輌用途において、本発明のアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム、およびこれらを含む積層成形品は、フロントコントロールパネルなど、車内で直射日光を受ける部分にも使用することができる。用途がさらに拡大するという観点から、熱変形温度が90℃以上であることが好ましい。なお、上記熱変形温度の測定は、アクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物からなる原料ペレットを射出成形にて成形後、60℃で4時間アニールした熱変形温度測定試片により行うものであり、測定される熱変形温度は、通常、アクリル樹脂フィルムの熱変形温度と同じとされる。
【0021】
特に限定されないが、本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物の熱変形温度は130℃以下が好ましい。この場合、該アクリル樹脂フィルムは射出成形金型内で良好な真空成形性または圧空成形性を有する。また、真空成形時に良好な生産性を有する。さらに熱変形温度が120℃以下であることが好ましい。
【0022】
インモールド成形時に、基材となる樹脂は特に限定されないが、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、ポリメタクリル酸メチル樹脂などが一般的である。基材用樹脂の射出時の温度は、シリンダー内で十分に溶解、混練され、金型内に射出してきたときにキャビティの隅々まで充填できる温度で樹脂に応じて設定される。なお、金型内に入ってくる溶融状態の基材用樹脂の温度は、厳密にいえばノズル部の設定温度ではなく、それより低くなり、大半の場合が200〜260℃となる。
【0023】
したがって、本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物は、200℃〜260℃の範囲において、貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上であることが好ましい。200℃〜260℃の範囲において、貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上のアクリル樹脂フィルムを用いた場合、該温度範囲で基材用樹脂が射出され、大量の熱量が伝達されても、加飾を施した該フィルムに流動等が生じるのを防ぐことができ、その結果、加飾流れによる外観欠陥やこれに伴う該フィルムと基材用樹脂との接着強度低下が発生することなく積層成形品を得ることができるため、工業的利用価値が高くなる。またこの効果が、インモールド成形に用いられる代表的な基材用樹脂で適用でき、インモールド成形で積層成形品を得る大半の場合に該アクリル樹脂フィルムが使用できるようになるため、工業的利用価値は非常に高くなる。また、200〜260℃の範囲における貯蔵弾性率(G’)が9×103Pa以上のアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムを用いると、外観欠陥が目立つアルミニウム粒子等の金属粒子を含有したメタリック印刷柄においても、上記のような問題を生じることなく積層成形品を得ることができるため、工業的利用価値が極めて高くなる。なお、仮に260℃より高温で射出される基材用樹脂の場合であっても、本発明のアクリル樹脂フィルムは従来から知られているアクリル樹脂フィルムに比べて高い貯蔵弾性率を有するため、加飾を施したフィルムの流動等を防ぐ効果が高く、加飾流れを起こしにくく、またこれに伴う該フィルムと基材用樹脂との接着性不良を起こしにくい。また、200〜260℃の範囲における貯蔵弾性率(G’)が150×103Pa以下のアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムを用いることが好ましい。この場合、該アクリル樹脂フィルムは射出成形金型内で良好な真空成形性または圧空成形性を有する。また、該アクリル樹脂フィルムを溶融押出法により製造する際、良好な製膜性を有する。さらに200〜260℃の範囲における貯蔵弾性率(G’)が130×103Pa以下のアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムが好ましい。
【0024】
以上の特徴を有するアクリル樹脂組成物としては、例えば、多層構造を有するアクリル重合体(以下、単に「多層構造重合体(I)」ともいう)を含むことが好ましい。
【0025】
本発明で用いるアクリル樹脂組成物は、上記の多層構造重合体(I)のみとしても良いが、さらに、メタクリル酸アルキルエステルユニットを主成分とする重合体(以下、単に「熱可塑性重合体(II)」ともいう)を併用した樹脂組成物(III)とすることも好ましい。この場合、多層構造重合体(I)と熱可塑性重合体(II)との比率を変えることで、容易に耐熱性や硬度を調整することができる。例えば、車輌部材等のように、高温にさらされやすく手や物の触れやすい部材に、アクリル樹脂フィルムを最表層に有する積層体に適用した時に、十分な耐熱性を発揮させることができる。
【0026】
《多層構造重合体(I)》
多層構造重合体(I)は、内側から順に、最内層重合体(I−A)、中間層重合体(I−B)、最外層重合体(I−C)を基本構造とする多層構造を有する。
【0027】
以下に、上述の多層構造重合体(I)の構成について具体的に説明する。
【0028】
[最内層重合体(I−A)]
最内層重合体(I−A)は、上記多層構造を有する重合体の中心部分を構成するものであって、アクリル酸アルキルエステル(I−A1)、メタクリル酸アルキルエステル(I−A2)、これらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I−A3)、多官能性単量体(I−A4)及びグラフト交叉剤(I−A5)を構成成分とする単量体成分を重合してなる重合体である。なお、この単量体成分において、成分(I−A1)及び成分(I−A5)は必須成分であり、成分(I−A2)、成分(I−A3)及び成分(I−A4)は任意成分である。
【0029】
最内層重合体(I−A)を構成するための単量体成分に含まれる成分(I−A1)のアクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらは単独または二種以上を混合して使用することができる。これらのうち、好ましいものはアクリル酸n−ブチルである。
【0030】
最内層重合体(I−A)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I−A2)のメタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
【0031】
最内層重合体(I−A)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I−A3)の共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは単独で、または、二種以上を混合して使用することができる。
【0032】
最内層重合体(I−A)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I−A4)の多官能性単量体とは、同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体と定義する。その具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も使用可能である。これらは単独で、または、二種以上を混合して使用することができる。これらのうち、好ましいものは1,3−ブチレングリコールジメタクリレートである。また、多官能性単量体が全く作用しない場合でも、グラフト交叉剤(I−A5)が存在する限り、かなり安定な多層構造重合体(I)を与える。例えば、熱間強度等が厳しく要求されたりする場合など、その添加目的に応じて任意に行えばよい。
【0033】
最内層重合体(I−A)を構成するための単量体成分に含まれるグラフト交叉剤(I−A5)とは、異なる共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体と定義する。その具体例としては、共重合性のα,β−不飽和カルボン酸またはジカルボン酸のアリル、メタリルまたはクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸またはフマル酸のアリルエステルが好ましい。これらのうち、メタクリル酸アリルエステルが優れた効果を奏し、好ましい。その他、上記多官能性単量体(I−A4)のトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等はグラフト交叉剤(I−A5)としても有効である。グラフト交叉剤(I−A5)は、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基またはクロチル基よりはるかに速く反応し、重合される。この間、アリル基、メタリル基、またはクロチル基の実質上、かなりの部分は、次層の重合体を重合する間に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与える。
【0034】
なお、重合は連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
【0035】
最内層重合体(I−A)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(I−A1)とメタクリル酸アルキルエステル(I−A2)との合計の含有量は、80〜99.9質量%が好ましい。
【0036】
最内層重合体(I−A)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(I−A1)の含有量は、50〜99.9質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の観点から、より好ましくは55質量%以上、最も好ましくは60質量%以上である。また、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の表面硬度の観点から、より好ましくは79.9質量%以下、最も好ましくは69.9質量%以下である。
【0037】
最内層重合体(I−A)を構成するための単量体成分における、メタクリル酸アルキルエステル(I−A2)の含有量は、0〜49.9質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の表面硬度の観点から、より好ましくは20質量%以上、最も好ましくは30質量%以上である。また、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の観点から、より好ましくは44.9質量%以下、最も好ましくは39.9質量%以下である。
【0038】
最内層重合体(I−A)を構成するための単量体成分における、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I−A3)の含有量は、0〜20質量%が好ましい。より好ましくは15質量%以下である。
【0039】
最内層重合体(I−A)を構成するための単量体成分における、多官能性単量体(I−A4)の含有量は、0〜10質量%が好ましい。より好ましくは0.1質量%以上であり、6質量%以下である。
【0040】
最内層重合体(I−A)を構成するための単量体成分における、グラフト交叉剤(I−A5)の含有量は、0.1〜10質量%が好ましい。0.1質量%以上の含有量では、得られる多層構造重合体(I)を、透明性等の光学的物性を低下させずに成形することができる。また、10質量%以下の含有量では、多層構造重合体(I)に十分な柔軟性、強靭さを付与することができるため、好ましい。より好ましくは0.5質量%以上であり、2質量%以下である。
【0041】
特に限定されないが、最内層重合体(I−A)単独のTgは、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐衝撃性および耐成形白化性の観点から、後述の中間層重合体(I−B)単独のTg未満であることが好ましい。より好ましくは25℃未満、さらに好ましくは10℃以下、最も好ましくは0℃以下である。なお、Tgは、ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)〕に記載されている値を用いてFOXの式から算出することができる。
【0042】
特に限定されないが、多層構造重合体(I)中の最内層重合体(I−A)の含有量は15〜50質量%が好ましい。15質量%以上の場合、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、およびインモールド成形時の耐加飾流れ性等を付与することができ、さらに、アクリル樹脂をフィルム状に成形するときの製膜性、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルムをインサート成形およびインモールド成形するのに可能な靭性を両立させることができる。より好ましくは20質量%以上である。また、50質量%以下の場合、車輌用途に必要な表面硬度および耐熱性が得られるため、好ましい。より好ましくは35質量%以下である。
【0043】
最内層重合体(I−A)は、単層でも多層でも良いが、より好ましくは2層である。特に限定はされないが、最内層重合体(I−A)中の2層の単量体構成比は異なることが好ましい。
【0044】
最内層重合体(I−A)が2層からなる場合、内側層(I−A1)のTgと外側層(I−A2)のTgは、同一でも構わないが、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、耐衝撃性、および表面硬度の観点から、内側層(I−A1)のTgは外側層(I−A2)のTgよりも低いほうが好ましい。具体的には、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性および耐衝撃性の観点から、内側層(I−A1)のTgは−30℃未満が好ましく、外側層(I−A2)のTgは10℃以下が好ましい。特に、表面硬度の観点からは、外側層(I−A2)のTgは−15℃以上が好ましい。この時、得られる表面硬度の観点から、最内層重合体(I−A)中の内側層(I−A1)の含有量は1質量%以上、20質量%以下が好ましく、外側層(I−A2)の含有量は80質量%以上、99質量%以下が好ましい。
【0045】
[中間層重合体(I−B)]
中間層重合体(I−B)は、上記最内層重合体(I−A)の存在下に、アクリル酸アルキルエステル(I−B1)、メタクリル酸アルキルエステル(I−B2)、これらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I−B3)、多官能性単量体(I−B4)及びグラフト交叉剤(I−B5)を構成成分とする単量体成分を重合してなる、好ましくは、最内層重合体のTgよりもここでの単量体成分での重合体のTgが高い、重合体である。なお、この単量体成分において、成分(I−B1)、成分(I−B2)及び成分(I−B5)は必須成分であり、成分(I−B3)及び成分(I−B4)は任意成分である。
【0046】
中間層重合体(I−B)を構成するための単量体成分に含まれる成分(I−B1)のアクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらは単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはアクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチルである。
【0047】
中間層重合体(I−B)を構成するための単量体成分に含まれる成分(I−B2)のメタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
【0048】
中間層重合体(I−B)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I−B3)の共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。
【0049】
中間層重合体(I−B)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I−B4)の多官能性単量体は、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も使用可能である。これらのうち、好ましいものは1,3−ブチレングリコールジメタクリレートである。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。
【0050】
多官能性単量体が全く作用しない場合でも、グラフト交叉剤が存在する限り、かなり安定な多層構造重合体(I)を与える。例えば、熱間強度等が厳しく要求されたりする場合など、その添加目的に応じて任意に行えばよい。
【0051】
中間層重合体(I−B)を構成するための単量体成分に含まれるグラフト交叉剤(I−B5)としては、共重合性のα,β−不飽和カルボン酸またはジカルボン酸のアリル、メタリル、またはクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、またはフマル酸のアリルエステルが好ましい。これらのうち、メタクリル酸アリルエステルが優れた効果を奏し、好ましい。その他、上記多官能性単量体(I−B4)のトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等はグラフト交叉剤(I−B5)としても有効である。グラフト交叉剤(I−B5)は、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基、またはクロチル基よりはるかに早く反応し、化学的に結合する。この間、アリル基、メタリル基、またはクロチル基の実質上、かなりの部分は、次層重合体の重合中に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与える。
【0052】
なお、ここでの重合も連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
【0053】
中間層重合体(I−B)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(I−B1)とメタクリル酸アルキルエステル(I−B2)との合計の含有量は、19.8〜90質量%が好ましい。
【0054】
中間層重合体(I−B)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(I−B1)の含有量は、9.9〜90質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、表面硬度、耐熱性、およびインモールド成形した際の耐加飾流れ性等の観点から、より好ましくは19.9質量%以上、最も好ましくは29.9質量%以上である。また、より好ましくは60質量%以下、最も好ましくは50質量%以下である。
【0055】
中間層重合体(I−B)を構成するための単量体成分における、メタクリル酸アルキルエステル(I−B2)の含有量は、9.9〜90質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、表面硬度、耐熱性、およびインモールド成形した際の耐加飾流れ性等の観点から、より好ましくは39.9質量%以上、最も好ましくは49.9質量%以上である。また、より好ましくは80質量%以下、最も好ましくは70質量%以下である。
【0056】
中間層重合体(I−B)を構成するための単量体成分における、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I−B3)の含有量は、0〜20質量%が好ましい。より好ましくは15質量%以下である。
【0057】
中間層重合体(I−B)を構成するための単量体成分における、多官能性単量体(I−B4)の含有量は、0〜10質量%が好ましい。より好ましくは6質量%以下である。
【0058】
中間層重合体(I−B)を構成するための単量体成分における、グラフト交叉剤(I−B5)の含有量は、0.1〜10質量%が好ましい。0.1質量%以上の含有量では、得られる多層構造重合体(I)を、光学的物性を低下させずに成形することができる。また、5質量%以下の含有量では、多層構造重合体(I)に十分な柔軟性、強靭さを付与することができるため、好ましい。より好ましくは0.5質量%以上であり、2質量%以下である。
【0059】
ここで、中間層重合体(I−B)の組成は、最内層重合体(I−A)の組成と異なることが好ましい。これらの重合体の組成が異なることで、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐衝撃性、および耐成形白化性を同時に満足することができる。なお、本発明で言う「異なる組成」の定義とは、各重合体を形成するアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、共重合可能な二重結合を有する他の単量体、多官能性単量体、およびグラフト交叉剤の、種類および/または量が異なることである。
【0060】
特に限定はされないが、中間層重合体(I−B)を構成する単量体成分のみを重合した時に得られる重合体単独のTgが、25〜100℃となるものが好ましい。Tgが25℃以上の場合、インモールド成形した際の耐加飾流れ性等が良好となり、また、表面硬度および耐熱性が車輌用途に必要なレベルとなる。より好ましくは40℃以上、最も好ましくは50℃以上である。またTgが100℃以下の場合、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性良好で、アクリル樹脂をフィルム状に成形するときの製膜性が良好となる。より好ましくは80℃以下、最も好ましくは70℃以下である。
【0061】
このように、特定の組成およびTgの中間層重合体(I−B)を設けることで、これまで必要物性を満たすのに適した多層構造重合体(I)、あるいは樹脂が設計されてこなかったために実現困難であった、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、表面硬度、耐熱性、およびインモールド成形した際の耐加飾流れ性等を両立させることができる。
【0062】
特に限定されるわけではないが、好ましい多層構造重合体(I)中の中間層重合体(I−B)の含有量は、5〜35質量%が好ましい。この範囲内であれば、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性と、表面硬度、耐熱性、およびインモールド成形した際の耐加飾流れ性等を両立するために重要な中間層重合体(I−B)の機能を発現させることができるとともに、得られるフィルムのその他の物性、例えば、アクリル樹脂をフィルム状に成形するときの製膜性、得られるアクリル樹脂フィルム及び加飾アクリル樹脂フィルムをインサート成形およびインモールド成形するのに可能な靭性を付与することができるため好ましい。より好ましくは、20質量%以下である。
【0063】
[最外層重合体(I−C)]
最外層重合体(I−C)は、上記の中間層まで形成した重合体の存在下に、メタクリル酸アルキルエステル(I−C1)、アクリル酸アルキルエステル(I−C2)、及びこれらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I−C3)を構成成分とする単量体成分をグラフト重合して形成する。最外層重合体(I−C)は、少なくとも1段以上で重合して得ることができ、1層または2層以上の構造とすることができる。なお、この単量体成分において、成分(I−C1)は必須成分であり、成分(I−C2)及び成分(I−C3)は任意成分である。
【0064】
最外層重合体(I−C)を構成するための単量体成分に含まれる成分(I−C1)のメタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
【0065】
最外層重合体(I−C)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I−C2)のアクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらは単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはアクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチルである。
【0066】
最外層重合体(I−C)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分成分(I−C3)の共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは単独で、または二種以上を混合して使用できる。
【0067】
最外層重合体(I−C)を構成するための単量体成分における、メタクリル酸アルキルエステル(I−C1)の含有量は、51〜100質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルムの表面硬度、耐熱性、およびインモールド成形した際の耐加飾流れ性等の観点から、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは93質量%以上である。また、より好ましくは99質量%以下である。
【0068】
最外層重合体(I−C)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(I−C2)の含有量は、0〜20質量%が好ましい。より好ましくは1質量%以上である。また、より好ましくは10質量%以下、最も好ましくは7質量%以下である。
【0069】
最外層重合体(I−C)を構成するための単量体成分における、共重合可能な二重結合を有する単量体(I−C3)の含有量は、0〜49質量%が好ましい。より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0070】
特に限定されないが、最外層重合体(I−C)の重合時に連鎖移動剤を使用し、最外層重合体(I−C)の分子量を調整することができる。この連鎖移動剤は通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いるのが好ましく、具体例としては、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等が挙げられ、これらは単独、または二種以上を混合して使用できる。連鎖移動剤の含有量は、重合体(I−C)を構成するための単量体成分に含まれる単量体((I−C1)〜(I−C3))100質量%に対して、0.01〜5質量%が好ましい。より好ましくは0.2質量%以上、最も好ましくは0.4質量%以上である。
【0071】
特に限定されないが、最外層重合体(I−C)を構成するための単量体成分のみの重合体のTgが、60℃以上となるものが好ましい。Tgが60℃以上の場合、インモールド成形した際の耐加飾流れ性等が良好となり、また、車輌用途に適した表面硬度、および耐熱性を有するフィルムが得られるため、好ましい。より好ましくは80℃以上、最も好ましくは90℃以上である。また、凝固性および得られる多層構造重合体(I)の取り扱い性の観点から、105℃以下が好ましい。
【0072】
特に限定されないが、多層構造重合体(I)中の最外層重合体(I−C)の含有量は10〜80質量%が好ましい。表面硬度、耐熱性の観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは45質量%以上である。また含有量が80質量%以下の場合、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体に耐成形白化性、得られるアクリル樹脂フィルム及び加飾アクリル樹脂フィルムにインモールド成形するのに可能な靭性、およびインモールド成形した際の耐加飾流れ性等を付与することができ、より好ましくは70質量%以下である。
【0073】
本発明の多層構造重合体(I)は、上述した各(I−A)、(I−B)および(I−C)の重合体層から構成されるものであるが、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体において、さらに優れた耐成形白化性、インモールド成形した際の耐加飾流れ性等を得るためには、多層構造重合体(I)はゲル含有率が50%以上であることが好ましい。より好ましくは60%以上である。この場合のゲル含有率(%)とは、多層構造重合体(I)の所定量(抽出前質量:W0(g))をアセトン溶媒中還流下で抽出処理し、遠心分離によりアセトン可溶分を除去し、残ったアセトン不溶分を乾燥した後、質量(抽出後質量:W1(g))を測定し、下記式にて算出したものである。
【0074】
ゲル含有率=抽出後質量W1/抽出前質量W0×100
得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、およびインモールド成形した際の耐加飾流れ性等の点から述べると、ゲル含有率は大きい程有利であるが、易成形性の点からは、ある量以上のフリーポリマーの存在が必要であり、ゲル含有率は80%以下が好ましい。
【0075】
なお、多層構造重合体(I)は、特に限定されないが、その重量平均粒子径が、0.05〜0.3μmの範囲にあるものが好ましい。得られるアクリル樹脂フィルムの機械的特性の観点から、より好ましくは0.07μm以上、最も好ましくは0.09μm以上である。また、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、およびインモールド成形した際の耐加飾流れ性等の観点から、より好ましくは0.15μm以下、最も好ましくは0.13μm以下である。なお、重量平均粒子径は、大塚電子(株)製の光散乱光度計DLS−700(商品名)を用い、動的光散乱法で測定することができる。
【0076】
次に、多層構造重合体(I)の製造方法について説明する。
【0077】
多層構造重合体(I)の製造法としては、乳化重合法による逐次多段重合法が最も適した重合法であるが、特にこれに制限されることはなく、例えば、乳化重合後、最外層重合体(I−C)の重合時に懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合法によっても行うことができる。
【0078】
また、特に限定されるわけではないが、多層構造重合体(I)を乳化重合により製造する場合は、多層構造重合体(I)中の最内層重合体(I−A)を与える単量体成分を、あらかじめ水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し重合した後、中間層重合体(I−B)および最外層重合体(I−C)を与える単量体成分をそれぞれ順に反応器に供給し、重合する方法が好ましい。
【0079】
最内層重合体(I−A)を与える単量体成分を、あらかじめ水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し、重合させることにより、特にアセトン中に分散させた際に、その分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体(I)100gあたり0〜50個である多層構造重合体(I)を容易に得ることができる。こうして得られた多層構造重合体(I)を原料に用いたフィルムは、フィルム中のフィッシュアイ数が少ないという特性を有し、特に印刷抜けが発生しやすい印圧の低い淡色の木目柄やメタリック調、漆黒調等のベタ刷りのグラビア印刷を施した場合でも、印刷抜けが少なく、高いレベルでの印刷性を有するため、好ましい。
【0080】
乳化液を調製する際に使用される界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、およびノニオン系の界面活性剤が使用できるが、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。
【0081】
アニオン系界面活性剤としては、ロジン石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩等が挙げられる。このうち、特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩が好ましい。
【0082】
上記界面活性剤の好ましい市販品の例としては、三洋化成工業社製のエレミノールNC−718、東邦化学工業社製のフォスファノールLS−529、フォスファノールRS−610NA、フォスファノールRS−620NA、フォスファノールRS−630NA、フォスファノールRS−640NA、フォスファノールRS−650NA、フォスファノールRS−660NA、花王社製のラテムルP−0404、ラテムルP−0405、ラテムルP−0406、ラテムルP−0407等(以上いずれも商品名)が挙げられる。
【0083】
また、乳化液を調製する方法としては、水中に単量体成分を仕込んだ後、界面活性剤を投入する方法、水中に界面活性剤を仕込んだ後、単量体成分を投入する方法、単量体成分中に界面活性剤を仕込んだ後、水を投入する方法等が挙げられる。このうち、水中に単量体成分を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法、および水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体成分を投入する方法、が多層構造重合体(I)を得る方法としては好ましい。
【0084】
最内層重合体(I−A)を与える単量体成分を水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を調製するための混合装置としては、攪拌翼を備えた攪拌機およびホモジナイザー、ホモミキサー等の各種強制乳化装置、膜乳化装置等が挙げられる。
【0085】
調製する乳化液としては、単量体成分の油中に水滴が分散したW/O型、水中に単量体成分の油滴が分散したO/W型のいずれの分散構造でも使用することができるが、特に水中に単量体成分の油滴が分散したO/W型で、分散相の油滴の直径が100μm以下であることが好ましい。
【0086】
一方、本発明の好ましい多層構造重合体(I)を構成する最内層重合体(I−A)、中間層重合体(I−B)および最外層重合体(I−C)を形成する際に使用する重合開始剤は公知のものが使用でき、その添加方法は、水相、単量体相のいずれか片方、または双方に添加する方法を用いることができる。特に好ましい重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。レドックス系開始剤が好ましく、特に、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0087】
上述の最内層重合体(I−A)を与える単量体成分を水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し、重合した後、中間層重合体(I−B)および最外層重合体(I−C)を与える単量体成分をそれぞれ順に反応器に供給し、重合する方法においては、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリットを含む水溶液を重合温度まで昇温した後、調製した乳化液を反応器に供給して重合し、次いで過酸化物等の重合開始剤を含む中間層重合体(I−B)および最外層重合体(I−C)を与える単量体成分を順次反応器に供給し、重合する方法が、本発明の多層構造重合体(I)を得る方法としては最も好ましい。
【0088】
なお、重合温度は用いる重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは60〜95℃である。
【0089】
上記の方法で得られる好ましい多層構造重合体(I)を含むポリマーラテックスを必要に応じて濾材を配した濾過装置を用いて処理することができる。この濾過処理は、重合中に発生するスケールのラテックスからの除去、あるいは重合原料中、また重合中に外部から混入する夾雑物を除去するためのものであり、多層構造重合体(I)を得るためにより好ましい方法である。
【0090】
なお、その際使用される濾材を配した濾過装置としては、袋状のメッシュフィルターを利用したISPフィルターズ・ピーテーイー・リミテッド社のGAFフィルターシステムや円筒型濾過室内の内側面に円筒型の濾材を配し、該濾材内に攪拌翼を配した遠心分離型濾過装置、あるいは濾材が該濾材面に対して水平の円運動および垂直の振幅運動をする振動型濾過装置が好ましい。
【0091】
多層構造重合体(I)は、上述の方法で製造した重合体ラテックスから回収することによって製造することができる。重合体ラテックスから多層構造重合体(I)を回収する方法としては、特に限定はされないが、塩析または酸析凝固、あるいは噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法が挙げられ、粉状で回収される。
【0092】
このうち、金属塩を用いて塩析処理する場合、最終的に得られた多層構造重合体(I)中への残存金属含有量を800ppm以下にすることが好ましい。特に、マグネシウム、ナトリウム等の水との親和性の強い金属塩を塩析剤として使用する際は、その残存金属含有量を極力少なくしないと、最終的に得られた多層構造重合体(I)を原料としたアクリル樹脂フィルムを沸騰水中に浸漬する際、白化現象を生じ、実用上大きな問題となる。なお、カルシウム系、硫酸系凝固を行うと、比較的良好な傾向を示すが、いずれにしても優れた耐水白化性を与えるためには、残存金属量を800ppm以下にすることが必要であり、微量であるほどよい。
【0093】
《熱可塑性重合体(II)》
熱可塑性重合体(II)は、メタクリル酸アルキルエステルが50〜100質量%、アクリル酸アルキルエステルが0〜50質量%、これらと共重合可能な二重結合を有する単量体が0〜49質量%である単量体成分を重合した重合体であって、重合体の還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mLに溶解し、25℃で測定)が0.15L/g以下の熱可塑性重合体であることが好ましい。
【0094】
熱可塑性重合体(II)の還元粘度が0.15L/g以下であることにより、アクリル樹脂をフィルム状に加工するときの溶融時に適度な伸びが生じ、製膜性が良好となる。0.1L/g以下であることがより好ましい。また、この還元粘度の下限値については、0.05L/g以上であることが好ましい。0.05L/g以上であれば、インモールド成形した際の耐加飾流れ性等が良好となり、また、脆さに起因するアクリル樹脂のフィルム状製膜時およびフィルムへの印刷時のフィルム切れの問題が生じ難くなる。
【0095】
熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分に使用するメタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられる。この中で、メタクリル酸メチルが最も好ましい。熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分中に、メタクリル酸アルキルエステルは50〜100質量%の範囲となるようにすることが好ましい。より好ましくは、85〜99.9質量%の範囲であり、さらに好ましくは92〜99.9質量%の範囲である。該範囲とすることで、インモールド成形した際の耐加飾流れ性等が良好となる。また、例えば、車輌部材等は、高温にさらされやすく、手や物の触れやすい部材であるが、アクリル樹脂を最表層に有する積層体を車輌部材に適用した場合に必要な耐熱性と高い硬度を発揮することができる。
【0096】
熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分に必要に応じて使用するアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分中に、アクリル酸アルキルエステルは0〜50質量%の範囲となるようにすることが好ましい。より好ましくは0.1〜40質量%の範囲であり、さらに好ましくは、0.1〜15質量%の範囲であり、最も好ましくは0.1〜8質量%の範囲である。該範囲とすることで、インモールド成形した際の耐加飾流れ性等が良好となる。また、例えば、車輌部材等は、高温にさらされやすく、手や物の触れやすい部材であるが、アクリル樹脂を最表層に有する積層体を車輌部材に適用した場合に必要な耐熱性と高い硬度を発揮することができる。
【0097】
熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分に必要に応じて使用する共重合可能な二重結合を有する単量体としては、従来より知られる各種の単量体が使用可能で、例えば、スチレンやα−メチルスチレン等のスチレン類、N−フェニルマレイミドやN−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類、マレイン酸、無水マレイン酸、およびアクリロニトリル等である。熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分中に0〜49質量%の範囲となるようにすることが好ましい。
【0098】
熱可塑性重合体(II)は、これらの単量体成分を重合して成るものである。その重合方法は特に限定されず、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等により行うことができる。重合体の還元粘度を所定の範囲内にするには、連鎖移動剤を使用するとよい。連鎖移動剤としては、従来より知られる各種のものが使用できるが、特にメルカプタン類が好ましい。連鎖移動剤の使用量は、単量体の種類および組成により適宜決めれば良い。
【0099】
本発明で用いるアクリル樹脂組成物としては、上記した多層構造重合体(I)及び熱可塑性重合体(II)とからなる樹脂組成物(III)を含むことが好ましい。これらの配合比は、多層構造重合体(I)および熱可塑性重合体(II)の合計100質量部を基準として、多層構造重合体(I)1〜99質量部および熱可塑性重合体(II)1〜99質量部とするのが好ましい。
【0100】
得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、およびインモールド成形した際の耐加飾流れ性等の観点から、多層構造重合体(I)、熱可塑性重合体(II)の合計を100質量部とした時に、多層構造重合体(I)は50質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましい。
【0101】
また、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、およびインモールド成形時の耐加飾流れ性等の観点から、熱可塑性重合体(II)は50質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。また、耐熱性、硬度の観点から、5質量部以上が好ましく、20質量部以上が好ましい。そうすることで、本発明のアクリル樹脂フィルムを基材上に積層した積層体を車輌部材に適用した場合に、それに耐えうる耐熱性と高い硬度を発揮することができるうえに、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性も損なわれず、またインモールド成形時に発生する、加飾流れの問題がなく、加飾流れによって該フィルムと基材用樹脂との接着強度が不十分なものが生じる問題がなく、また、該フィルムの変形の問題がなく積層成形品を提供することができる。
【0102】
本発明のアクリル樹脂フィルムを構成する樹脂組成物(III)のゲル含有率は、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、およびインモールド成形時の耐加飾流れ性の観点から、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、アクリル樹脂組成物をフィルム状に成形する時の製膜性の観点から、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0103】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、特に限定されないが、鉛筆硬度(JIS K5400に基づく測定)が2B以上(2Bを含めて、より高硬度)であることが好ましい。さらにHB以上が好ましく、最も好ましくはF以上である。鉛筆硬度が2B以上のアクリル樹脂フィルムを用いると、インモールド成形を施す工程中で、アクリル樹脂フィルム、および加飾アクリル樹脂フィルムに傷がつきにくく、さらにこれらを積層した積層成形品の耐擦傷性も良好である。
【0104】
例えば車輌用途に使用される場合、本発明のアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度はHB以上であることが好ましい。鉛筆硬度はHB以上のアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム、およびこれらを積層した積層成形品は、ドアウエストガーニッシュ、フロントコントロールパネル、パワーウィンドウスイッチパネル、エアバッグカバーなど、各種車輌用部材に好適に使用することができる。用途拡大の観点から工業上非常に有用である。さらに、鉛筆硬度がF以上であると、ガーゼなど表面の粗い布で擦傷しても傷が目立たなく、鉛筆硬度が2Hのアクリル樹脂フィルムを用いた成形品と同等の実用上の耐擦傷性能を付与することができるため、工業的利用価値は極めて高くなる。
【0105】
本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物は、必要に応じて、一般の配合剤、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、艶消し剤、光拡散剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、着色剤、抗菌剤、防かび剤、離型剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を含むことができる。
【0106】
意匠性付与の観点から、本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物に艶消し剤を含有してもよい。含有する艶消し剤としては、有機系・無機系に関わらず従来公知の各種艶消し剤が挙げられる。艶消し剤は単独で、または二種以上を混合して使用することができる。艶消し剤としては、例えば、透明性の観点から、ポリメチルメタクリレートを主成分とする架橋樹脂からなる重量平均粒子径が2〜20μm程度の、例えば球状の微粒子が好ましい。また、透明性、艶消し性、製膜性、および成形性の観点から、水酸基を含有する重合体が好ましい。また、エンボス加工により艶消し意匠性を付与しても構わない。
【0107】
意匠性付与、およびメタリック調の高輝度加飾を施した加飾アクリル樹脂フィルムを用いてインモールド成形を行った際に、ゲート付近で加飾層が凹んだように見える外観欠陥を軽減させる観点から、本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物に光拡散剤を含有してもよい。特に限定されないが、光拡散剤を含有したアクリル樹脂フィルムは、該フィルムを130℃に加熱した鏡面SUS板に挟持し、3MPaの条件で熱プレス成形を施し、表面を鏡面化して得られたフィルムの内部ヘーズ(JIS K7136;「プラスチック−透明材料のヘーズの求め方」に基づく測定)が2〜75%の範囲であり、かつ、白色度(JIS L1015;「化学繊維ステープル試験方法」記載の白色度測定法C法(ハンター法)に基づく測定)が30%以下であることが好ましい。
【0108】
使用する光拡散剤としては、有機系・無機系に関わらず従来公知の各種光拡散剤が挙げられる。光拡散剤は単独で、または二種以上を混合して使用することができる。使用する光拡散剤としては、積層体の加飾部を白濁化させ過ぎない、およびアクリル樹脂フィルムの製膜性の観点等から、2〜30μm程度のものが好ましく、例えば、シリコーン樹脂、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、アクリル樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン−メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、シリカ等が挙げられる。
【0109】
基材を保護する観点から、耐候性を付与するために本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物に紫外線吸収剤を添加することが好ましい。この紫外線吸収剤の分子量は、300以上が好ましく、400以上がより好ましい。この分子量が300以上であれば、射出成形金型内で真空成形または圧空成形を施す際に揮発し難く、金型汚れを発生し難い。紫外線吸収剤の種類は、特に限定されないが、分子量400以上のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、分子量400以上のトリアジン系紫外線吸収剤が特に好ましい。前者の市販品としては、例えば、チバガイギー社の商品名チヌビン234、旭電化工業社の商品名アデカスタブLA−31、後者の市販品としては、例えば、チバガイギー社の商品名チヌビン1577等が挙げられる。
【0110】
上記のようなアクリル樹脂組成物を実現するために、上記必要に応じて用いられる配合剤を除いた樹脂成分として、250℃における貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上、かつ、熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)が80℃以上のものを使用することができる。樹脂成分の250℃における貯蔵弾性率(G’)は9×103Pa以上であることが好ましく、13×103Pa以上であることがより好ましく、150×103Pa以下であることが好ましく、130×103Pa以下であることがより好ましい。また、樹脂成分の熱変形温度が90℃以上であることが好ましい。このような樹脂成分を含有するアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルムとすることで、インモールド成形の際に加飾流れ等の外観欠陥を発生することのない、優れた成形性を有するアクリル樹脂フィルムとなる。
【0111】
また、樹脂成分の200℃〜260℃の範囲における貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上であることが好ましい。この場合、該温度範囲で基材用樹脂が射出され、大量の熱量が伝達されても、加飾を施した該フィルムに流動等が生じるのを防ぐことができ、その結果、加飾流れによる外観欠陥やこれに伴う該フィルムと基材用樹脂との接着強度低下が発生することなく積層成形品を得ることができるため、工業的利用価値が高くなる。またこの効果が、インモールド成形に用いられる代表的な基材用樹脂で適用でき、インモールド成形で積層成形品を得る大半の場合に該アクリル樹脂フィルムが使用できるようになるため、工業的利用価値は非常に高くなる。また、樹脂成分の200℃〜260℃の範囲における貯蔵弾性率(G’)が9×103Pa以上であると、外観欠陥が目立つアルミニウム粒子等の金属粒子を含有したメタリック印刷柄においても、上記のような問題を生じることなく積層成形品を得ることができるため、工業的利用価値が極めて高くなる。なお、仮に260℃より高温で射出される基材用樹脂の場合であっても、本発明のアクリル樹脂フィルムは従来から知られているアクリル樹脂フィルムに比べて高い貯蔵弾性率を有するため、加飾を施したフィルムの流動等を防ぐ効果が高く、加飾流れを起こしにくく、またこれに伴う該フィルムと基材用樹脂との接着性不良を起こしにくい。また、樹脂成分の200〜260℃の範囲における貯蔵弾性率(G’)が150×103Pa以下であることが好ましい。この場合、該アクリル樹脂フィルムは射出成形金型内で良好な真空成形性または圧空成形性を有する。また、該アクリル樹脂フィルムを溶融押出法により製造する際、良好な製膜性を有する。さらに、樹脂成分の200〜260℃の範囲における貯蔵弾性率(G’)が130×103Pa以下であることが好ましい。
【0112】
以上の特徴を有する樹脂成分としては、例えば、上述の多層構造重合体(I)を含むことが好ましい。また、この樹脂成分は、多層構造重合体(I)のみとしても良いが、さらに、上述の熱可塑性重合体(II)を併用した樹脂組成物(III)とすることも好ましい。この場合、多層構造重合体(I)と熱可塑性重合体(II)との比率を変えることで、容易に耐熱性や硬度を調整することができる。例えば、車輌部材等のように、高温にさらされやすく手や物の触れやすい部材に、アクリル樹脂フィルムを最表層に有する積層体に適用した時に、十分な耐熱性を発揮させることができる。
【0113】
本発明で用いられるアクリル樹脂フィルムの製造法としては、溶融流延法や、Tダイ法、インフレーション法などの溶融押出法、カレンダー法等の公知の方法が挙げられるが、経済性の点からTダイ法が好ましい。
【0114】
Tダイ法などで溶融押出しをする場合は、200メッシュ以上のスクリーンメッシュで溶融状態にあるアクリル樹脂を濾過しながら押出しすることが好ましい。より好ましくは300メッシュ以上、もっとも好ましくは500メッシュ以上である。
【0115】
なお、Tダイ法によりアクリル樹脂フィルムを成形する場合、複数の金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトから選ばれる複数のロール又はベルトに狭持して製膜する方法を用いれば、得られるアクリル樹脂フィルムの表面平滑性を向上させ、アクリル樹脂フィルムに印刷処理した際の印刷抜けを抑制することができる。金属ロールとしては、金属製の鏡面タッチロール;特許第2808251号公報またはWO97/28950号公報に記載の金属スリーブ(金属製薄膜パイプ)と成型用ロールからなるスリーブタッチ方式で使用されるロール等を例示することができる。また、非金属ロールとしては、シリコンゴム性等のタッチロール等を例示することができる。更に、金属ベルトとしては、金属製のエンドレスベルト等を例示することができる。なお、これらの金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトを複数組み合わせて使用することもできる。
【0116】
以上に述べた、複数の金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトから選ばれる複数のロール又はベルトに狭持して製膜する方法では、溶融押出後のアクリル樹脂組成物を、実質的にバンク(樹脂溜まり)が無い状態で狭持し、実質的に圧延されることなく面転写させて製膜することが好ましい。バンク(樹脂溜まり)を形成することなく製膜した場合は、冷却過程にあるアクリル樹脂組成物が圧延されることなく面転写されるため、この方法で製膜したアクリル樹脂フィルムの加熱収縮率を低減することもできる。
【0117】
なお、複数の金属ロール、非金属ロール及び金属ベルトから選ばれる複数のロール又はベルトを使用して製膜する場合に、使用する少なくとも1本の金属ロール、非金属ロール又は金属ベルトの表面にエンボス加工、マット加工等の形状加工を施すことによって、アクリル樹脂フィルムの片面あるいは両面に形状転写させることもできる。
【0118】
本発明のアクリル樹脂フィルムの厚みは、10〜500μmが好ましい。アクリル樹脂フィルムの厚みを500μm以下とすることにより、インサート成形およびインモールド成形に適した剛性が得られ、より安定にフィルムを製造することができる。また、アクリル樹脂フィルムの厚みを10μm以上とすることにより、基材の保護性とともに、得られる成形品に深み感をより十分に付与することができる。アクリル樹脂フィルムの厚みは、30μm以上がより好ましい。また、アクリル樹脂フィルムの厚みは、200μm以下がより好ましい。
【0119】
成形品に塗装によって十分な厚みの塗膜を形成するためには、十数回の重ね塗りが必要になることがあり、この場合、コストがかかり、生産性があまりよくない。それに対して、本発明のアクリル樹脂フィルム又は加飾アクリル樹脂フィルムを基材上に積層した積層体は、アクリル樹脂フィルム自体が塗膜となるため、容易に非常に厚い塗膜を形成することができ、工業的利用価値が高い。
【0120】
本発明の加飾アクリル樹脂フィルムは、以上で述べたアクリル樹脂フィルムの一方の面に、例えば木目調やメタリック調などの加飾層を形成することにより得られる。加飾層を形成する方法としては、公知な印刷法、コート法によりインクを塗布する方法が挙げられる。具体的には、グラビア印刷法、フレキソグラフ印刷法、シルクスクリーン印刷法、オフセット印刷法、ロールコート法、グラビアコート法、コンマコート法など、従来公知の各種方法を使用することができる。
【0121】
木目調の加飾層を形成するために使用するインキは、アクリル系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂など公知の熱可塑性樹脂をバインダ−として用いることができる。
【0122】
メタリック調の加飾層を形成するために使用するインキは、アクリル系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂など公知の熱可塑性樹脂をバインダ−として用いることができる。メタリック調の加飾層の場合、インキ中には高輝度顔料を必須成分として含むが、例えば、ノンリーフィングアルミニウムペースト(昭和アルミパウダー社製商品名)等のアルミ顔料、イリオジン(メルク社製商品名)等のパール顔料など公知の高輝度顔料を用いる。上記アルミ顔料の好ましい市販品の例としては、また、適当な色の顔料または染料を着色剤として含有することができる。
【0123】
また、印刷法、コート法以外の方法として、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等の公知の方法でメタリック調の加飾層を形成することができる。公知の金属を加飾層として用いることができるが、展性に優れたアルミニウム、インジウム、あるいはこれらを含有する合金を用いることがインモールド成形性の観点から好ましい。
【0124】
なお、本発明のアクリル樹脂フィルムおよび加飾アクリル樹脂フィルムは、インモールド成形を施す際に、加飾流れ等の諸問題を起こさない、つまり、インモールド成形工程において、基材となる樹脂を射出成形する際に大量の熱量が伝達されても、該フィルムに流動等が生じないことを特徴としている。
【0125】
この特徴を活かして、本発明のアクリル樹脂フィルムの構成成分であるアクリル樹脂組成物を加飾層の熱可塑性樹脂バインダーとして用いることにより、加飾流れを起こさない加飾層を形成することも可能である。
【0126】
加飾アクリル樹脂フィルムの印刷抜けの個数は、意匠性、加飾性の観点から、10個/m2以下が好ましい。印刷抜けの個数を10個/m2以下とすることにより、このフィルムの積層成形品の外観がより良好となる。印刷を施した面における印刷抜けの個数は、5個/m2以下がより好ましく、1個/m2以下が特に好ましい。
【0127】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムに着色加工したものを用いることができる。
【0128】
さらに、加飾層以外に、基材となる樹脂との接着性を高めるために、接着層を設けることが好ましい。接着層は加飾層の上に設けても良く、加飾層とは反対側のフィルム表面に設けても良い。加飾層を持たないアクリル樹脂フィルムの表面に接着層を設けることも可能である。
【0129】
本発明の積層成形品は、本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを基材上に積層したことを特徴とするものである。特に、前記アクリル樹脂フィルムを射出成形金型内で真空成形または圧空成形を施し、その後、該射出成形金型内で前記基材となる樹脂を射出成形して一体化するインモールド成形法により得られる積層成形品とすることが好ましい。真空成形または圧空成形などの予備成形を施し、予備成形品を別の金型内に挿入した後、基材である樹脂を射出成形して積層成形品を得るインサート成形法により得られる積層成形品とすることもできる。
【0130】
なお、本発明の積層成形品は、本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを熱可塑性樹脂層上に積層した積層シートまたはフィルムを用いて積層成形品とすることもできる。積層シートまたはフィルムに用いる熱可塑性樹脂層としては、公知の熱可塑性樹脂フィルムまたはシートを用いることができる。例えば、アクリル樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。中でも、印刷性、積層フィルムまたはシートの二次成形性の観点から、アクリル樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂が好ましい。加飾アクリル樹脂フィルムを熱可塑性樹脂層上に積層した積層シートまたはフィルムにおける加飾層の位置は特に限定されないが、積層成形品に所望する絵柄の意匠性を付与する観点から、熱可塑性樹脂層とアクリル樹脂層の間に設けることが好ましい。これにより、加飾層を保護でき、かつ深みのある意匠性を実現することができる。
【0131】
さらに、基材となる樹脂との接着性を高めるために、接着層を設けることが好ましい。接着層は熱可塑性樹脂層の上に設けても良く、熱可塑性樹脂層とは反対側のフィルム表面に設けても良い。
【0132】
真空成形または圧空成形などの予備成形を施し、予備成形品を別の金型内に挿入した後、基材である樹脂を射出成形して積層成形品を得るインサート成形法の場合は、積層シートまたはフィルムを用いることが好ましい。このとき、積層シートまたはフィルムには熱可塑性樹脂層が存在するため、上述したインモールド成形法に比べて、アクリル樹脂フィルムに伝達される熱量が軽減され、加飾流れを起こしにくく、またこれに伴う該フィルムと基材用樹脂との接着性不良を起こしにくく、さらに、該フィルムが変形を起こしにくい。しかしながら、成形条件によっては、熱可塑性樹脂層が消失してしまい、インモールド成形時と同様の諸問題(加飾流れ、フィルムと基材用樹脂との接着性低下、およびフィルムの変形等)が発生することがある。このため、本発明のアクリル樹脂フィルムは、このような積層シートまたはフィルムのアクリル樹脂層としても有用である。
【0133】
本発明の積層成形品における基材となる樹脂は、アクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムと溶融接着可能なものであることが好ましい。例えば、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂、あるいはこれらを主成分とする樹脂が挙げられる。接着性の点でABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、あるいはこれらを主成分とする樹脂が好ましく、特にABS樹脂、ポリカーボネート樹脂あるいはこれらを主成分とする樹脂がより好ましい。ただし、ポリオレフィン樹脂等の熱融着しない基材樹脂でも接着性の層を用いることでアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムと基材とを成形時に接着させることは可能である。
【0134】
本発明の積層成形品は、二次元形状に成形する場合、熱融着できる基材に対しては、熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。熱融着しない基材に対しては、接着剤を介して貼り合せることは可能である。また、三次元形状に成形する場合は、インサート成形法やインモールド成形法等の公知の方法を用いることができ、生産性の点からインモールド成形法が好ましい。インモールド成形法は、アクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを加熱した後、真空引き機能を持つ型内で真空成形を行う。この方法は、フィルムの成形と射出成形を一工程で行えるため、作業性、経済性の点から好ましい。
【0135】
前述したとおり、木目調やメタリック調などの加飾層を有するアクリル樹脂フィルムを用いてインモールド成形を行った場合、金型の形状、射出成形の条件によっては、ゲート付近の加飾層が流れたり、消失したりすることがある。また、加飾層が流れることによって加飾アクリル樹脂フィルムと基材用樹脂との接着強度が不十分なものが生じることがある。また加飾アクリル樹脂フィルムが変形を起こすことがある。ゲートは大別してゲート部で樹脂流路が狭められない非制限ゲートと流路が狭められる制限ゲートに大別される。後者の代表例としてピンポイントゲート、サイドゲート、サブマリンゲートなどがある。これらのゲート形状はゲート付近の残留応力は小さくなるものの、ゲート通過樹脂の温度上昇をともなったり、ゲート付近の加飾アクリル樹脂フィルム面にかかる単位面積あたりの射出樹脂圧力が大きくなったりするために、加飾アクリル樹脂フィルム面の加飾層が消失しやすく、メタリック調の加飾層の場合はゲート付近で加飾層が凹んだように見える外観欠陥が発生しやすく、また加飾アクリル樹脂フィルムが変形しやすい。
【0136】
本発明の加飾アクリル樹脂フィルムを用いると、従来から知られているアクリル樹脂フィルムを使用した場合と比較して、ゲート付近で加飾層が流れたり、加飾層が消失したり、加飾アクリル樹脂フィルムが変形することなくインモールド成形を行うことができる。また、メタリック調などの高輝度加飾アクリル樹脂フィルムの場合には、ゲート付近が凹んだように見える外観欠陥を軽減することができる。
【0137】
インモールド成形時の加熱温度は、アクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムが軟化する温度以上が望ましい。具体的にはフィルムの熱的性質あるいは成形品の形状に左右されるが、通常70℃以上である。また、あまり温度が高いと、表面外観が悪化したり、離型性が悪くなったりする傾向にある。これもフィルムの熱的性質あるいは成形品の形状に左右されるが、通常は170℃以下が好ましい。
【0138】
さらに、エネルギー効率の観点からは、真空成形時の予備加熱温度は低い方が好ましい。具体的には135℃以下が好ましい。また、予備加熱温度が低くても成形ができるフィルムは、予備加熱温度を低くする代わりに予備加熱時間を短くすることもできる。この場合は、真空成形のハイサイクル化が可能となり、工業的利用価値が高い。
【0139】
加飾流れ等の諸問題を成形条件から抑制する方法として、真空成形時の予備加熱温度を高くすることがある。これは、熱架橋反応性成分を有する加飾層を用い、熱を通常成形時より多く加えることで、加飾層をアクリル樹脂フィルムに強固に固定化したのち成形することを目的としている。この方法は、当然のことながら成形のサイクルを低下させるものである。本発明のアクリル樹脂フィルムを用いると、このような方法を採用せずに、良好な外観を有する積層成形品を得ることができるため、成形のハイサイクル化を可能とし、工業的利用価値は非常に高い。
【0140】
このように、真空成形によりフィルムに三次元形状を付与する場合、アクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムは高温時の伸度に富んでおり、非常に有利である。
【0141】
本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを基材上に積層した積層成形品は、必要に応じて各種機能付与のための表面処理をフィルム表面に施すことができる。例えば、シルク印刷、インクジェット印刷等の印刷処理、金属調付与あるいは反射防止のための金属蒸着・スパッタリング・湿式メッキ処理、表面硬度向上のための表面硬化処理、汚れ防止のための撥水化処理あるいは光触媒層形成処理、塵付着防止あるいは電磁波カットを目的とした帯電防止処理、防眩処理等が挙げられる。
【0142】
本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを基材上に積層した積層成形品は、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード等の自動車内装用途、ウェザーストリップ、バンパー、バンパーガード、サイドマッドガード、ボディーパネル、スポイラー、フロントグリル、ストラットマウント、ホイールキャップ、センターピラー、ドアミラー、センターオーナメント、サイドモール、ドアモール、ウインドモール等、窓、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、風防部品等の自動車外装用途、AV機器や家具製品のフロントパネル、ボタン、エンブレム、表面化粧材等の用途、携帯電話等のハウジング、表示窓、ボタン等の用途、さらには家具用外装材用途、壁面、天井、床等の建築用内装材用途、サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材用途、窓枠、扉、手すり、敷居、鴨居等の家具類の表面化粧材用途、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材用途、あるいは電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗り物の内外装用途、瓶、化粧品容器、小物入れ等の各種包装容器および材料、景品や小物等の雑貨等のその他各種用途等に好適に使用することができる。
【0143】
本発明のアクリル樹脂フィルムおよび加飾アクリル樹脂フィルムは、表面硬度および耐熱性、成形性に優れるため、従来の使用用途を飛躍的に広げることが可能である。特に、本発明の加飾アクリル樹脂フィルムにインモールド成形を施した際の成形品外観に優れており、本発明のアクリル樹脂フィルムを用いることにより、インモールド成形法において金型の設計に制約が生じていたり、射出成形条件に制約があったり、加飾フィルムの構成を工夫しなければならないといった問題を少なからず解決できるために工業的利用価値が極めて高い。
【実施例】
【0144】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の「部」とあるのは「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。また、実施例中の略号は以下の通りである。
【0145】
メチルメタクリレート MMA、
メチルアクリレート MA、
n−ブチルアクリレート n−BA、
スチレン St、
1,3−ブチレングリコールジメタクリレート 1,3−BD、
アリルメタクリレート AMA、
クメンハイドロパーオキサイド CHP、
t−ブチルハイドロパーオキサイド t−BH、
n−オクチルメルカプタン n−OM、
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム EDTA。
【0146】
多層構造重合体(I)、熱可塑性重合体(II)、アクリル樹脂フィルム、およびインモールド成形品(積層成形品)については、以下の試験法により諸物性を測定した。
【0147】
(1)多層構造重合体(I)[(I−1)〜(I−3)]の各重合体層のガラス転移温度
ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)〕に記載されている値を用い、FOXの式から算出した。
【0148】
(2)多層構造重合体(I)[(I−1)〜(I−3)]のゲル含有率G(%)
多層構造重合体(I)の所定量(抽出前質量:W0(g))をアセトン溶媒中還流下で抽出処理し、遠心分離によりアセトン可溶分を除去し、残ったアセトン不溶分を乾燥した後、質量(抽出後質量:W1(g))を測定し、下記式にて算出した。
【0149】
ゲル含有率G=抽出後質量W1/抽出前質量W0×100
(3)多層構造重合体(I)[(I−1)〜(I−3)]の重量平均粒子径
乳化重合にて得られた多層構造重合体(I)のポリマーラテックスの重量平均粒子径を光散乱光度計(大塚電子(株)製、DLS−700(商品名))を用い、動的光散乱法で測定した。
【0150】
(4)熱可塑性重合体(II)の還元粘度
サン電子工業製AVL−2C(商品名)自動粘度計を使用して、溶媒にはクロロホルムを用い、25℃で測定した。還元粘度の測定ではクロロホルム100mLにサンプル0.1gを溶かしたものを使用した。
【0151】
(5)アクリル樹脂フィルムの貯蔵弾性率G’(Pa)
アクリル樹脂フィルムの原料であるペレット状のアクリル樹脂組成物を、射出成形にて厚さ2mmのプレート状に成形した。この成形品からディスク状に切り出したものを試験片に用いて、レオメトリックス社製RDA−700(商品名)にて測定した。その他の測定条件は、測定温度:150〜270℃(昇温速度2℃/分)、測定角周波数:10rad/秒である。
【0152】
(6)アクリル樹脂フィルムの熱変形温度(HDT)
アクリル樹脂フィルムの原料であるペレット状のアクリル樹脂組成物を、射出成形にて、ASTM D648に基づく熱変形温度測定試片に成形し、60℃で4時間アニールした。そして、この試験片を使用し、低荷重(0.45MPa)で、ASTM D648に従って測定した。
【0153】
(7)アクリル樹脂フィルム、および積層成形品の鉛筆硬度
JIS K5400に従って測定した。
【0154】
(8)インモールド成形性の評価
インモールド成形で得られた積層体のゲート付近での成形品の外観を以下の基準に従って評価した。
○:外観良好(加飾流れ等が発生しなかった)
△:軽度の加飾流れが確認できるが、基材樹脂の色調は明らかではない
×:外観不良(加飾流れ発生:完全に加飾が流れてしまい、基材樹脂の色調が明らかとなる程の外観欠陥が発生した、皺発生:フィルム変形による皺が発生した)
(9)積層成形品の耐擦傷性
5枚重ねのガーゼ上に0.049MPaの荷重をかけ、ストローク100mm間を30 往復/分の速さで200往復擦傷したときの積層成形品の外観を以下の基準に従って評価した。
○:傷つきなし
×:傷つきあり、擦傷した部分に白化も見られる
(10)積層成形品の耐熱老化性
80℃で400時間加熱したときの積層成形品の外観を以下の基準に従って評価した。
○:変化なし
×:白化、曇りあり
<1.多層構造重合体(I−1)の製造>
攪拌機を備えた容器に脱イオン水10.8部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−BA4.5部、1,3−BD0.2部、AMA0.05部およびCHP0.025部からなる単量体成分を投入し、室温下にて攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、乳化剤(東邦化学工業社製、商品名「フォスファノールRS610NA」)1.3部を上記容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
【0155】
次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水139.2部を投入し、75℃に昇温した。さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部およびEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を該重合容器内に一度に投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、調製した乳化液を8分間にわたって該重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、最内層重合体内側層(I−1−A1)の重合を完結した。続いて、MMA9.6部、n−BA14.4部、1,3−BD1.0部およびAMA0.25部からなる単量体成分を、CHP0.016部と共に、90分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、最内層重合体外側層(I−1−A2)を含む最内層重合体(I−1−A)を得た。なお、最内層重合体内側層(I−1−A1)単独のTgは−48℃、最内層重合体外側層(I−1−A2)単独のTgは−10℃であった。
【0156】
続いて、MMA6部、MA4部およびAMA0.075部からなる単量体成分を、CHP0.0125部と共に、45分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間層重合体(I−1−B)を形成させた。なお、中間層重合体(I−1−B)単独のTgは60℃であった。
【0157】
続いて、MMA57部、MA3部、n−OM0.264部およびt−BH0.075部からなる単量体成分を140分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、最外層重合体(I−1−C)を形成して、多層構造重合体(I−1)の重合体ラテックスを得た。なお、最外層重合体(I−1−C)単独のTgは99℃であった。
【0158】
重合後に測定した多層構造重合体(I−1)の重量平均粒子径は0.11μmであった。
【0159】
得られた多層構造重合体(I−1)の重合体ラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い、濾過した後、酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状の多層構造重合体(I−1)を得た。多層構造重合体(I−1)のゲル含有率は、70%であった。
【0160】
また、得られた多層構造重合体(I−1)214.3gを目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン1500mLに投入し、3時間攪拌して、多層構造重合体(I−1)のアセトン分散液を調製した。次いで、この分散液を目開き32μmのナイロンメッシュで濾過した後、ナイロンメッシュごとクロロホルム中で15分間超音波洗浄することでメッシュ上の捕捉物をクロロホルム洗浄した。次いで、目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン150mLに上記超音波洗浄後の捕捉物をナイロンメッシュごと投入し、この液を15分間超音波処理した後、ナイロンメッシュを除去して、メッシュ上の捕捉物のアセトン分散液150mLを調製した。次いで、この分散液70mLをリオン株式会社製、自動式液中微粒子計測器(型式:KL−01)にて25℃下で測定し、直径55μm以上の粒子の数を求めたところ、10個であった。
【0161】
<2.多層構造重合体(I−2)の製造>
窒素雰囲気下、還流冷却器付き反応容器内に脱イオン水244部を入れ、80℃に昇温した。そして、以下に示す(イ)を添加し、撹拌しながら、以下に示す最内層重合体内側層(I−2−A1)用の原料(ロ)の1/15を仕込み、15分間保持した。次いで、残りの原料(ロ)を、水に対する単量体成分[原料(ロ)]の増加率8%/時間で、連続的に添加した後、60分間保持し、最内層重合体内側層(I−2−A1)のラテックスを得た。なお、最内層重合体内側層(I−2−A1)単独のTgは24℃であった。
【0162】
続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.6部を加え、15分間保持した。そして、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、以下に示す最内層重合体外側層(I−2−A2)用の原料(ハ)を、水に対する単量体成分[原料(ハ)]の増加率4%/時間で、連続的に添加した後、120分間保持し、最内層重合体外側層(I−2−A2)の重合を行って、最内層重合体(I−2−A)のラテックスを得た。なお、最内層重合体外側層(I−2−A2)単独のTgは−38℃であった。
【0163】
続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部を加え、15分間保持した。そして、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、以下に示す最外層重合体(I−2−C)用の原料(ニ)を、水に対する単量体成分[原料(ニ)]の増加率10%/時間で、連続的に添加した後、60分間保持し、最外層重合体(I−2−C)の重合を行って、多層構造重合体(I−2)の重合体ラテックスを得た。なお、最外層重合体(I−2−C)単独のTgは99℃であった。
【0164】
重合後に測定した多層構造重合体(I−2)の重量平均粒子径は0.28μmであった。
【0165】
得られた多層構造重合体(I−2)の重合体ラテックスに対し、酢酸カルシウムを用いて凝析、凝集、固化反応を行い、ろ過、水洗後、乾燥して多層構造重合体(I−2)を得た。得られた多層構造重合体(I−2)のゲル含有率は、90%であった。
【0166】
(イ)ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.6部、
硫酸第一鉄 0.00012部、
EDTA 0.0003部、
(ロ)MMA 22.0部、
n−BA 15.0部、
St 3.0部、
AMA 0.4部、
1,3−BD 0.14部、
t−BH 0.18部、
モノ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸40%と
ジ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸60%との
水酸化ナトリウムの混合物の部分中和物 1.0部、
(ハ)n−BA 50.0部、
St 10.0部、
AMA 0.4部、
1,3−BD 0.14部、
t−BH 0.2部、
モノ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸40%と
ジ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸60%との
水酸化ナトリウムの混合物の部分中和物 1.0部、
(ニ)MMA 57.0部、
MA 3.0部、
n−OM 0.3部、
t−BH 0.06部。
【0167】
<3.多層構造重合体(I−3)の製造>
攪拌機を備えた容器に脱イオン水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−BA4.5部、1,3−BD0.2部、AMA0.05部およびCHP0.025部からなる単量体成分を投入し、室温下にて攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、乳化剤(東邦化学工業社製、商品名「フォスファノールRS610NA」)1.3部を上記容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
【0168】
次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水186.5部を投入し、70℃に昇温した。さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部およびEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を該重合容器内に一度に投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、調製した乳化液を8分間にわたって該重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、最内層重合体内側層(I−3−A1)の重合を完結した。続いて、MMA1.5部、n−BA22.5部、1,3−BD1.0部およびAMA0.25部からなる単量体成分を、CHP0.016部と共に、90分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、最内層重合体外側層(I−3−A2)を含む最内層重合体(I−1−A)を得た。なお、最内層重合体内側層(I−3−A1)単独のTgは−48℃、最内層重合体外側層(I−3−A2)単独のTgは−48℃であった。
【0169】
続いて、MMA6部、n−BA4部およびAMA0.075部からなる単量体成分を、CHP0.0125部と共に、45分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間層重合体(I−3−B)を形成させた。
【0170】
なお、中間層重合体(I−3−B)単独のTgは20℃であった。
【0171】
続いて、MMA55.2部、n−BA4.8部、n−OM0.19部およびt−BH0.08部からなる単量体成分を140分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、最外層重合体(I−3−C)を形成して、多層構造重合体(I−3)の重合体ラテックスを得た。なお、最外層重合体(I−3−C)単独のTgは84℃であった。
【0172】
重合後に測定した多層構造重合体(I−3)の重量平均粒子径は0.12μmであった。
【0173】
得られた多層構造重合体(I−3)の重合体ラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い、濾過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状の多層構造重合体(I−3)を得た。多層構造重合体(I−3)のゲル含有率は、60%であった。
【0174】
また、得られた多層構造重合体(I−3)214.3gを目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン1500mLに投入し、3時間攪拌して、多層構造重合体(I−3)のアセトン分散液を調製した。次いで、この分散液を目開き32μmのナイロンメッシュで濾過した後、ナイロンメッシュごとクロロホルム中で15分間超音波洗浄することでメッシュ上の捕捉物をクロロホルム洗浄した。次いで、目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン150mLに上記超音波洗浄後の捕捉物をナイロンメッシュごと投入し、この液を15分間超音波処理した後、ナイロンメッシュを除去して、メッシュ上の捕捉物のアセトン分散液150mLを調製した。次いで、この分散液70mLをリオン株式会社製、自動式液中微粒子計測器(型式:KL−01)にて25℃下で測定し、直径55μm以上の粒子の数を求めたところ、10個であった。
【0175】
(実施例1)
多層構造重合体(I−1)90部、熱可塑性重合体(II)としてMMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度0.06L/g)10部、配合剤としてチバスペシャリティケミカルズ社製;商品名「チヌビン234」1.4部、旭電化工業社製;商品名「アデカスタブAO−60」0.1部、旭電化工業社製;商品名「アデカスタブLA−67」0.3部をヘンシェルミキサーにて混合した。この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)社製;商品名「PCM−30」)に供給し、混練してアクリル樹脂組成物のペレットを得た。
【0176】
このペレットを80℃で一昼夜乾燥し、300mm巾のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いて、シリンダー温度180〜240℃、Tダイ温度240℃の条件で、500メッシュの金属フィルター、Tダイを介して溶融押出を行い、125μm厚みのアクリル樹脂フィルムを製膜した。なおこの際、幅0.5mmのスリットから押出した溶融状態のアクリル樹脂組成物を2本の金属製冷却ロール間に通し、バンク(樹脂溜まり)の無い状態で樹脂を挟持し、圧延されず面転写させた後、これを巻き取り機で紙巻に巻き取りアクリル樹脂フィルムを得た。
【0177】
得られたアクリル樹脂フィルムの鏡面側に、アクリル系樹脂をMEKとトルエン(=1/1(vol/vol))に固形分25%で溶解したグラビアインキ10部に対し、鱗片状のアルミ顔料を2部含有するインキを用いて、シルバーメタリック調の印刷をグラビア印刷にて実施し、加飾アクリル樹脂フィルムを得た(メタリック調加飾アクリル樹脂フィルム)。印刷抜けは発生しなかった。
【0178】
また、別途、得られたアクリル樹脂フィルムの鏡面側に、木目調の印刷をグラビア印刷にて実施し、加飾アクリル樹脂フィルムを得た(木目調加飾アクリル樹脂フィルム)。なお、いずれの加飾層とも5μmであった。印刷抜けは発生しなかった。
【0179】
次に、基材樹脂に耐熱性ABS樹脂バルクサムTM25B(商品名、UMGABS社製)、および上記の2種の加飾アクリル樹脂フィルムを用いて、真空引き機能を有し、金型(成形品形状:縦150mm×横120mm×厚み2mm、深さ10mmの箱型、ゲート位置:成形品中央に1箇所と、中央ゲートの上下(成形品縦方向)40mmの位置に各1箇所の計3箇所、ゲート形状:直径1mmのピンポイントゲート)を用いて、J85ELII型射出成形機(商品名、日本製鋼所社製)およびホットパックシステム(日本写真印刷社製)を組み合わせたインモールド成形装置により、インモールド成形(フィルム真空成形条件:ヒーター温度260℃、加熱時間15秒、ヒーターとフィルムの距離15mm、射出成形条件:シリンダー〜ノズル温度250℃(射出樹脂温度250℃と推定)、射出速度30%、射出圧力43%、金型温度60℃、非加飾面が金型と接する向きに真空成形し、加飾面側から基材樹脂を射出した)を行って積層成形品(250℃成形品)を得た。
【0180】
また、上述したインモールド成形時の射出成形条件において、シリンダー〜ノズル温度260℃(射出樹脂温度260℃と推定)に変更して、同様にインモールド成形を行い、積層成形品(260℃成形品)を得た。
【0181】
(実施例2)
多層構造重合体(I−1)と熱可塑性重合体(II)の配合比率を、75/25(部/部)にする以外は実施例1と同様に実施した。
【0182】
(実施例3)
多層構造重合体(I−1)と熱可塑性重合体(II)の配合比率を、70/30(部/部)にする以外は実施例1と同様に実施した。
【0183】
(実施例4)
多層構造重合体(I−1)と熱可塑性重合体(II)の配合比率を、55/45(部/部)にする以外は実施例1と同様に実施した。
【0184】
(比較例1)
多層構造重合体(I−2)16部、熱可塑性重合体(II)としてMMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度0.06L/g)84部、配合剤としてチバスペシャリティケミカルズ社製;商品名「チヌビン234」1.4部、旭電化工業社製;商品名「アデカスタブAO−60」0.1部、旭電化工業社製;商品名「アデカスタブLA−67」0.3部をヘンシェルミキサーにて混合した。この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)社製;商品名「PCM−30」)に供給し、混練してアクリル樹脂組成物のペレットを得た。そして、このペレットを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【0185】
(比較例2)
多層構造重合体(I−3)100部、配合剤として旭電化工業社製;商品名「アデカスタブLA−31」2.1部、旭電化工業社製;商品名「アデカスタブAO−50」0.1部、旭電化工業社製;商品名「アデカスタブLA−57」0.3部をヘンシェルミキサーにて混合した。この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)社製;商品名「PCM−30」)に供給し、混練してアクリル樹脂組成物のペレットを得た。そして、このペレットを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
【0186】
以上で得られたアクリル樹脂フィルム、および積層成形品における各評価結果を表1にまとめて示す。
【0187】
【表1】

【0188】
250℃における貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上、かつ熱変形温度が80℃以上であるアクリル樹脂組成物からなる本発明のアクリル樹脂フィルムを用いた実施例1〜4で得られた積層成形品の外観評価は、木目調加飾をしたアクリル樹脂フィルムを用いた場合において、いずれも加飾流れ、フィルムと基材用樹脂との接着性低下、およびフィルム変形による皺が確認されず良好であった。さらに、該温度における貯蔵弾性率(G’)が9×103Pa以上であるアクリル樹脂組成物からなる実施例1〜3のアクリル樹脂フィルムを用いると、加飾流れ等の欠陥が目立つシルバーメタリック調の印刷を施した場合においても、加飾流れが確認されず良好であった。さらに、260℃における貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上であるアクリル樹脂組成物からなる実施例1〜3のアクリル樹脂フィルムを用いると、射出樹脂温度が260℃の条件でも、得られた積層成形品の外観評価は、木目調加飾をしたアクリル樹脂フィルムを用いた場合において、いずれも加飾流れ、フィルムと基材用樹脂との接着性低下、およびフィルム変形による皺が確認されず良好であった。さらに、該温度における貯蔵弾性率(G’)が9×103Pa以上であるアクリル樹脂組成物からなる実施例1、2のアクリル樹脂フィルムを用いると、加飾流れ等の欠陥が目立つシルバーメタリック調の印刷を施した場合においても、加飾流れが確認されず良好であった。
【0189】
一方、250℃における貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa未満であるアクリル樹脂組成物からなる比較例1のアクリル樹脂フィルムでは、いずれも加飾流れが確認され、成形性不良であった。また、熱変形温度が80℃未満であるアクリル樹脂組成物からなる比較例2のアクリル樹脂フィルムを用いると、インモールド成形を施した際、フィルム変形してしまい、その結果、成形品に皺が発生し積層成形品は外観不良なものとなった。加えて、得られた積層成形品の耐熱老化性能が低く、例えば車輌用途に必要なレベルに達しておらず、工業的利用を考えると価値は低くなる。さらに、鉛筆硬度が2B未満(2Bを含めず、より低硬度)である比較例2のアクリル樹脂フィルムを用いると、得られた積層成形品の耐擦傷性能が低く、インモールド成形に用いるには不向きであり、さらに例えば車輌用途に必要なレベルに達しておらず、工業的利用を考えると価値は低くなる。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを基材に積層接着した積層成形品は、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード等の自動車内装用途、ウェザーストリップ、バンパー、バンパーガード、サイドマッドガード、ボディーパネル、スポイラー、フロントグリル、ストラットマウント、ホイールキャップ、センターピラー、ドアミラー、センターオーナメント、サイドモール、ドアモール、ウインドモール等、窓、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、風防部品等の自動車外装用途、AV機器や家具製品のフロントパネル、ボタン、エンブレム、表面化粧材等の用途、携帯電話等のハウジング、表示窓、ボタン等の用途、さらには家具用外装材用途、壁面、天井、床等の建築用内装材用途、サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材用途、窓枠、扉、手すり、敷居、鴨居等の家具類の表面化粧材用途、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材用途、あるいは電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗り物の内外装用途、瓶、化粧品容器、小物入れ等の各種包装容器および材料、景品や小物等の雑貨等のその他各種用途等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
250℃における貯蔵弾性率(G’)が7×103Pa以上であり、かつ熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)が80℃以上であるアクリル樹脂組成物からなるアクリル樹脂フィルム。
【請求項2】
少なくとも片面に加飾層を有する請求項1記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアクリル樹脂フィルムを、基材上に積層した積層成形品。

【公開番号】特開2006−22262(P2006−22262A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203260(P2004−203260)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】