説明

アクリル系収縮繊維及びその製造方法

染色時の収縮が小さく、染色後においても高収縮率を有する染色可能なアクリル系収縮繊維を得ることを課題とし、非相溶な紡糸原液を紡糸する事で、上記課題を解決し、染色時の収縮が小さく、染色後においても高収縮率を有する染色可能なアクリル系収縮繊維が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、染色後においても高収縮率を有する染色できるアクリル系高収縮繊維及び製造方法に関する。
【背景技術】
従来、アクリル系繊維は、獣毛様風合いを有し、その特徴から玩具、衣料等の立毛商品に用いられている。なかでも、立毛感、天然調の外観を持たせるために、外観上ダウンヘアー部を収縮繊維、ガードヘアー部を非収縮繊維で構成する例が多い。パイル布帛には、外観特性が要求されるため、収縮繊維にも様々な色相が求められるが、収縮繊維は紡糸工程で着色された限られた色相の収縮繊維しか存在しない。
本発明のアクリル系収縮繊維は、染色工程を経た後、パイル加工におけるテンター工程で乾熱処理され収縮する。これまでに、アクリロニトリル30〜58重量%、塩化ビニリデンおよび塩化ビニル70〜42重量%及び1種以上のエチレン性不飽和単量体0〜10重量%で構成される共重合体より高収縮性を有するアクリロニトリル系合成繊維が得られているが(特開昭60−110911号公報)、本発明者らの知見では、上記の収縮繊維は70℃以上の染色で収縮してしまい、パイル加工時のパイル裏面に接着剤を付着し乾燥させるテンター工程の
熱では大きく収縮しない。また、70℃未満の染色では収縮を抑えテンター工程の熱で収縮させる事が出来るが、十分な染色性が得られない。
低温染色性を向上させる為、アクリロニトニル40重量%以上と塩化ビニリデン及びスルホン酸含有モノマー20〜60重量%とよりなる重合体(I)95〜60重量部に、高い染色性を有するアクリロニトリル30〜75重量%とメチルアクリレート25〜70重量%とよりなる重合体(II)5〜40重量部を混合する事で、染色できる収縮繊維が得られている(特許2566890号公報)。この収縮繊維は低温での染色性を向上させる事で染色収縮率を抑え、染色後に20%以上収縮する収縮繊維が得られているが、
重合体(I)と重合体(II)は相溶するとされている。本発明者らの知見では、重合体(I)と重合体(II)が相溶する場合、低温での染色性を向上させる性質の他に耐熱性を低くする性質を持つ重合体(II)が繊維中に連続して存在する為、繊維の収縮挙動に大きく反映し、低い染色温度でも染色収縮率を抑える事が困難となる。染色時に大きく収縮すると染色後収縮率が小さくなり、また、染色時に収縮すると染色機中の繊維の詰め密度が小さくなりバイパスが生じる為、染め斑の原因となる。さらには、収縮時に生じる捲縮がパイル加工時のポリッシャー工程で伸びにくい等の欠点があり、所望の外観、風合いを有するパイル布帛が得られない。これらの問題はいまだ解決されておらず、染色時の収縮が小さく、染色後においても高収縮率を有する染色可能なアクリル系縮繊維は得られていない。
【発明の開示】
そこで本発明は、上記の従来技術の問題を解消し、染色時の収縮を小さく、染色後においても高収縮率を有する染色可能なアクリル系収縮繊維を得る事にある。
本発明者らは、鋭意検討した結果、非相溶な紡糸原液を紡糸する事で、染色収縮を小さく、かつ高い染色後収縮率を有する染色できるアクリル系収縮繊維を見出した。
すなわち、本発明は、アクリロニトリル40〜80重量%とハロゲン含有モノマー20〜60重量%及びスルホン酸含有モノマー0〜5重量%とよりなる重合体(A)50〜99重量部に、アクリロニトリル5〜70重量%とその他共重合可能なモノマー20〜94重量%及びスルホン酸含有モノマー1〜40重量%とよりなる重合体(B)1〜50重量部を混合した重合組成物よりなり、重合体(A)と重合体(B)が非相溶である紡糸原液から製造される染色できるアクリル系収縮繊維に関する。
上記のアクリル系収縮繊維におけるその他共重合可能なモノマーは、アクリル酸エステルである事が好ましい。
上記のアクリル系収縮繊維におけるその他共重合可能なモノマーは、アクリル酸エステルである事が好ましい。
上記のアクリル系収縮繊維における紡糸原液が0.1〜30μm以上の粒子状に相分離している事が好ましい。
上記のアクリル系収縮繊維において、80℃以下の染色収縮率が10%以下及び染色後収縮率が20%以上である事が好ましい。
上記のアクリル系収縮繊維における、60℃以上の相対飽和値が0.1以上であり、かつ、70℃以上の相対飽和値が0.8以上である事が好ましい。
上記のアクリル系収縮繊維の製造方法において、1〜20%の緩和処理を行う事が好ましい。
本発明のアクリル系収縮繊維の製造に用いられる重合体(A)は、アクリロニトリル40〜80重量%とハロゲン含有モノマー20〜60重量%及びスルホン酸含有モノマー0〜5重量%を含む重合体である。
前記重合体(A)において、アクリロニトリルを40〜80重量%用いる事が好ましいが、
アクリロニトリルの含有量が40重量%未満では、得られる繊維の耐熱性が低くなる。また、アクリロニトリルの含有量が80重量%を超えると、耐熱性が高くなり十分な染色性、収縮率が得られない。
本発明の重合体(A)において、ハロゲン含有モノマーとは塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等に代表されるハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン類等が好ましく、単独もしくは2種以上混合して用いる事ができる。このハロゲン含有モノマーは重合体(A)において20〜60重量%用いる事が好ましい。60重量%を超えると疎水性が高くなり十分な染色性が得られない。また、20重量%未満では繊維にがさつきが生じ蝕感が悪くなる。
本発明の重合体(A)においてスルホン酸含有モノマーとは、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはこれらの金属塩類およびアミン塩類等が好ましく、単独もしくは2種以上混合して用いる事ができる。本発明の重合体(A)において、スルホン酸含有モノマーの含有量を0〜5重量%用いる事が好ましいが、5重量%を超えるとでは繊維にボイドや膠着が生じ、強度が低下する。
本発明のアクリル系収縮繊維の製造に用いられる重合体(B)は、アクリロニトリル5〜70重量%とその他共重合可能なモノマー20〜94重量%及びスルホン酸含有モノマー1〜40重量%含む重合体である。
前記重合体(B)において、アクリロニトリルを5〜70重量%用いる事が好ましい。70重量%を超えると、耐熱性が高くなり十分な染色性、収縮率が得られない。
本発明の重合体(B)において、その他共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸やメタクリル酸及びそれらの低級アルキルエステル、NまたはN,N−アルキル置換したアミノアルキルエステルやグリシジルエステル、アクリルアミドやメタクリルアミド及びそれらのNまたはN,N−アルキル置換体、アクリル酸、メタクリル酸やイタコン酸等に代表されるカルボキシル基含有ビニル単量体およびそれらのナトリウム、カリウムまたはアンモニウム塩等のアニオン性ビニル単量体、アクリル酸やメタクリル酸の4級化アミノアルキルエステルをはじめとするカチオン性ビニル単量体、あるいはビニル基含有低級アルキルエーテル、酢酸ビニルに代表されるビニル基含有低級カルボン酸エステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等に代表されるハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン類、さらにはスチレン等が好ましく、これらのモノマーを単独もしくは2種以上混合して用いる事ができる。その他の共重合可能なモノマーは20〜94重量%である事が好ましい。20重量%未満では耐熱性が高くなり十分な染色性が得られない。特に、染色性の点で、その他共重合可能なモノマーとしてアクリル酸エステルを用いる事が好ましい。アクリル酸エステルとしてはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等が好ましく、これらのモノマーを単独もしくは2種以上混合して用いる事ができる。
重合体(B)においてスルホン酸含有モノマーとは、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはこれらの金属塩類およびアミン塩類等が好ましく、単独もしくは2種以上混合して用いる事ができる。本発明の重合体(B)において、スルホン酸含有モノマーは1〜40重量%である事が好ましいが、40重量%を超えると繊維にボイドや膠着が生じ、強度が低下する。
本発明のアクリル系収縮繊維は、染色性を向上させる為、繊維中に含まれている重合体(A)および重合体(B)におけるスルホン酸基含有モノマーの合計含有量が、重合体(A)および重合体(B)のモノマー合計量の0.1〜10重量部である事が好ましく、0.2〜5重量部であることがより好ましい。0.1重量部未満であると、充分な染色性が得られず、10重量部を超えると繊維にボイドや膠着が生じ、強度が低下するので好ましくない。また、重合体(B)のスルホン酸含有モノマーを10重量%以上含有させる事で、重合体(A)と重合体(B)とは非相溶化する傾向がある。
本発明の重合体(A)、重合体(B)は、重合開始剤として概知の化合物、例えばパー
オキシド系化合物、アゾ系化合物、または各種のレドックス系化合物を用い、乳化重合、
懸濁重合、溶液重合等一般的なビニル重合方法により得る事ができる。
本発明の重合体(A)、重合体(B)は、有機溶剤、例えばアセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドあるいは無機溶剤、例えば塩化亜鉛、硝酸、ロダン塩に溶解させて紡糸原液とする。この紡糸原液に、酸化チタンまたは着色用顔料のような無機及び/又は有機の顔料、防鎮、着色紡糸、耐候性等に効果のある安定剤等を紡糸に支障をきたさない限り便用することも可能である。
本発明の重合体(A)と重合体(B)の混合割合は、重合体(B)が1重量%未満では、十分な染色性が得られず、50重量%を超えると、繊維にボイドや膠着が生じ、強度、染色性が低下するので好ましくない。
本発明の非相溶とは、紡糸原液が0.1〜30μmの粒状に相分離している状態が好ましく、6〜12μmの粒状に相分離している状態がより好ましい。0.1μm未満の相分離状態では、重合体(B)の性質が反映され染色時の収縮率が高くなり、30μmを超える相分離状態では、繊維にボイドや膠着が生じ、強度、染色性が低下するため好ましくない
本発明のアクリル系収縮繊維は、重合体(A)と重合体(B)は非相溶である紡糸原液からなる為、繊維中で存在比率の高い重合体(A)が海、存在比率の低い重合体(B)が島となる海島構造をとっていると考えられる。よって、重合体(B)は繊維中で連続して存在しないため耐熱性の低い性質を有しているが収縮挙動には大きく影響しない。その為、非相溶な紡糸原液からなる繊維は、相溶な紡糸原液からなる繊維と比較して染色収縮率を低くする事ができる。また、収縮繊維の収縮率は、樹脂組成と紡糸方法により決まる為、染色工程で大きく収縮するとその後のパイル加工工程での収縮率は小さくなる。よって、染色収縮率を小さくする事で染色後収縮率をより大きくする事ができる。
さらに、本発明において、重合体(A)に塩化ビニルを含有させる事で、重合体(A)と重合体(B)との相溶性が低下することにより非相溶化を進めることができる。
本発明でいう染色収縮率とは、繊維が染色でどれだけ収縮するかという指標であり、次のようにして求められる。長さLoの繊維を任意の温度の水浴で60分間処理した後の繊維の長さLを測定し、下記の式より求めた。
染色収縮率(%)=((Lo−L)/Lo)×100
本発明でいう染色後収縮率とは、染色後の繊維がテンター工程でどれだけ収縮するかという指標であり、次のようにして求められる。染色後の長さLdoの繊維を均熱オーブンを用い130℃で5分間処理した後、繊維の長さLdを測定し、下記式より求めた。
染色後収縮率(%)=((Ldo−Ld)/Ldo)×100
本発明のアクリル系収縮繊維の製造方法は、常法の湿式あるいは乾式の紡糸法でノズルより紡出し、延伸、乾燥を行う。また必要に応じ更に延伸、熱処理を行ってもよい。さらに、得られた繊維を70〜140℃で1.3〜4.0倍に延伸して収縮繊維を得る事ができる。
本発明のアクリル系収縮繊維は、染色収縮率が大きい場合、収縮を抑える為、繊維製造工程で1%以上の緩和処理を行う事が好ましい。緩和処理は、湿熱又は乾熱の70℃〜140℃で行う事が好ましい。処理温度を高く、緩和率を大きくする事で染色収縮率を抑える事が出来るが、過剰な条件での緩和処理は染色後収縮率も抑えてしまうため、110℃前後の温度で20%以下の緩和処理が好ましい。
本発明のアクリル系収縮繊維は、パイル加工におけるテンター工程で収縮させる。テンター工程は乾熱110〜150℃が好ましく、通常130℃前後である為、染色後収縮率は乾熱130℃5分の条件で測定する。
本発明のアクリル系収縮繊維は、染色温度が高くなると染色収縮率が高くなる。その為、染色温度が90℃を超えると染色収縮率が大きくなるため好ましくない。さらには、染色で大きく収縮すると残された収縮率が小さくなる為、染色後収縮率を20%以上にする事が困難になる。また、染色収縮率が10%を超えると、染色機中の繊維の詰め密度が小さくなりバイパスが生じる為、染め斑の原因となりやすい。さらには、収縮時に生じる捲縮がパイル加工時のポリッシャー工程で伸びにくくなるといった欠点があり、所望の外観、風合いを有するパイル布帛が得られない。
本発明のアクリル系収縮繊維は、染色後収縮率が20%未満になると、パイル布帛に加工した時、非収縮原綿との段差が小さくなる為、段差が強調されず、天然調または、意匠性のある外観特性をもつパイル布帛が得られない。
本発明でいう相対飽和値とは、繊維の染色能力の指標であり、繊維を任意の温度で60分間、過飽和な量のMalachite Greenを用いて染色し飽和染着量を求め、
飽和染着量より相対飽和値を求めた。飽和染着量、相対飽和値は下記の式より求めた。
飽和染着量=((Ao−A)/Ao)×2.5)
A:染色後の染浴の吸光度(618nm)
Ao:染色前の染浴の吸光度(618nm)
相対飽和値=飽和染着量×400/463
本発明のアクリル系収縮繊維は、相対飽和値が0.1以上で淡色の染色が可能となる。
さらには、相対飽和値が0.8以上で淡色から濃色、さらには黒色まで染色可能となる為、相対飽和は0.8以上が好ましい。
以下、実施例の記載に先立って供試繊維の性能評価方法等について詳述する。
(1)相分離状態
相分離状態は、ベースドープとブレンドポリマーを任意の比率で混合させた紡糸原液を位相差顕微鏡(アリオテクノ株式会社製 ANS30)を用いて観察し、粒状に分離したブレンドポリマーの粒系を無作為に10箇所測定し、その平均値で評価した。
(2)ハイパイル試作
収縮性繊維および非収縮性繊維を混綿・調湿した後オープナー、カードを経てカードスライバーを作成した。次いでハイパイル編織機でスライバーニッティングを行い、シャーリングでパイル部をカットしてパイル長を一定に揃えた後、パイルの裏面をアクリル酸エステル系接着剤でバックコーティング行った。次いで130℃、5分で接着剤を乾燥させると共に収縮性繊維を収縮させた。その後ポリッシャー仕上げ及びシャーリングを行ってハイパイルに仕上げた。
(3)ハイパイルの外観評価
(2)のようにして作成した段差パイル布帛に対し、長パイル部と短パイル部の段差が強調された外観特性の程度を視覚的及び感覚的な観点から、4段階評価による官能的評価を行い、以下の基準で評価した。
◎:段差パイル布帛において長パイル部と短パイル部の段差が非常に強調された外観特性を有する。
○:段差パイル布帛において長パイル部と短パイル部の段差が強調された外観特性を有する。
△:段差パイル布帛において長パイル部と短パイル部の段差があまり強調されていない。
×:段差パイル布帛において長パイル部と短パイル部の段差がほとんど見られない。
以下、実施例を記すが、実施例中の部は特記しない限り重量部を意味する。
【実施例】
(製造例1)
内容積20Lの耐圧重合反応装置にイオン交換水200部、ラウリル硫酸ナトリウム0.9部、亜硫酸0.43部、亜硫酸水素ナトリウム0.22部、硫酸鉄0.001部、アクリロニトリル(以下ANと記す。)4.9部、塩化ビニル(以下VCと記す。)52.5部を投入し、窒素置換した。重合機内温を50℃に調整し、開始剤として過硫酸アンモニウム0.035部を投入し、重合を開始した。途中、AN42.1部、スチレンスルホン酸ナトリウム(以下3Sと記す。)0.5部、過硫酸アンモニウム0.23部を追加しながら、重合時間5時間10分で重合した。その後、未反応VCを回収し、ラテックスを重合機より払い出し、塩析、熱処理、ろ過、水洗、脱水、乾燥し、重合体1を得た。
次に、内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン187部、水47部、AN40部、アクリル酸メチル(以下MAと記す。)45部、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(以下SAMと記す。)15部を投入し、窒素置換した。重合機内温度を65℃に調整し、開始剤として2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.5部を投入し重合を開始した。途中、アゾビス1.0部を追加しながら2時間重合し、その後70℃に昇温し2時間重合させ重合体濃度30重量%の重合体2の溶液を得た。重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え溶解した重合体1の溶液に、重合体2の溶液を重合体の重量比が重合体1:重合体2=9:1の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を0.08mmφ、8500孔の口金を通して25℃、30重量%のアセトン水溶液中に吐出し、さらに25℃、20重量%アセトン水溶液中で2.0倍に延伸した後60℃で水洗した。ついで130℃で乾燥、更に105℃で1.8倍に延伸した4.4dtexの延伸糸を得た。
続いて、得られた収縮繊維にクリンプを付与して32mmにカットした後、Maxilon Red GRL(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ株式会社製)0.2%omfの染料とウルトラMT#100(ミテジマ化学株式会社製)0.5g/Lの染色助剤を用いて60℃、70℃、80℃で60分間染色した。染色した繊維70重量%と非収縮原綿である「カネカロン(登録商標)」RCL12.2dtex、44mm(鐘淵化学工業株式会社製)を30重量%混綿してハイパイルを作成した。その際スライバーニッティング後のシャーリングではパイル長を15mm、ポリッシャー仕上げ後のパイル長を18mmにカットし、ハイパイルを得た。
(製造例2)
製造例1で得られた延伸糸に110℃で5%の緩和処理を行った。
さらに、緩和処理を行った繊維を、製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例3)
内容積20Lの耐圧重合反応装置にイオン交換水200部、ラウリル硫酸ナトリウム1.1部、亜硫酸0.13部、硫酸水素ナトリウム0.17部、硫酸鉄0.002部、アクリロニトリル10.7部、塩化ビニリデン4.4部を投入し、窒素置換した。重合機内温を55℃に調整し、開始剤として過硫酸アンモニウム0.012部を投入し、重合を開始した。途中、アクリロニトリル42.7部、塩化ビニリデン41.0部、スチレンスルホン酸ナトリウム1.2部、過硫酸アンモニウム0.135部を追加しながら、重合時間6時間10分で重合した。その後、ラテックスを重合機より払い出し、塩析、熱処理、ろ過、水洗、脱水、乾燥し重合体3を得た。重合体3が30重量%になるようにアセトンを加え溶解した重合体3の溶液に、製造例1で作成した重合体2の溶液を重合体の重量比が重合体3:重合体2=9:1の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を0.08mmφ、8500孔の口金を通して25℃、30重量%のアセトン水溶液中に吐出し、さらに25℃、20重量%アセトン水溶液中で2.0倍に延伸した後60℃で水洗した。ついで、130℃で乾燥、更に105℃で1.8倍に延伸した4.4dtexの延伸糸に110℃で5%の緩和処理を行った。さらに、緩和処理を行った繊維を、製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例4)
内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン187部、水47部、AN40部、MA55部、SAM5部を投入し製造例1の重合体2と同様の方法で重合し、重合体4の溶液を得た。製造例1で得た重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え溶解した重合体1の溶液に、重合体4の溶液を重合体の重量比が重合体1:重合体4=7:3の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を製造例1と同様の方法を用いて紡糸し延伸糸を得た。得られた延伸糸を製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例5)
製造例4で得られた延伸糸に110℃で5%の緩和処理を行った。さらに、緩和処理を行った繊維を、製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例6)
製造例3で作成した重合体3が30重量%になるようにアセトンを加え溶解した重合体3の溶液に、製造例4で作成した重合体4の溶液を重合体の重量比が重合体3:重合体4=7:3の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を製造例3と同様の方法を用いて緩和処理を行った繊維を作成した。ついで、その緩和処理を行った繊維を用いて製造例1と同様の方法でハイパイルを作成した。
(製造例7)
内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン187部、水47部、AN30部、MA55部、SAM15部を投入し製造例1の重合体2と同様の方法で重合し、重合体5の溶液を得た。製造例1で得た重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え溶解した重合体1の溶液に、重合体5の溶液を重合体の重量比が重合体1:重合体5=9:1の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を製造例1と同様の方法を用いて紡糸し延伸糸を得た。得られた延伸糸を製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例8)
製造例7で得られた延伸糸に110℃で5%の緩和処理を行った。
さらに、緩和処理を行った繊維を、製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例9)
内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン187部、水47部、AN60部、MA25部、SAM15部を投入し製造例1の重合体2と同様の方法で重合し、重合体6の溶液を得た。製造例1で得た重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え溶解した重合体1の溶液に、重合体6の溶液を重合体の重量比が重合体1:重合体6=9:1の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を製造例1と同様の方法を用いて紡糸し延伸糸を得た。得られた延伸糸を製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例10)
製造例9で得られた延伸糸に110℃で5%の緩和処理を行った。
さらに、緩和処理を行った繊維を、製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例11)
内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン140部、水94部、AN10部、アクリル酸メチル(以下MAと記す。)60部、SAM30部を投入し製造例1の重合体2と同様の方法で重合し、重合体7の溶液を得た。製造例1で得た重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え溶解した重合体1の溶液に、重合体7の溶液を重合体の重量比が重合体1:重合体7=96:4の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を製造例1と同様の方法を用いて紡糸し延伸糸を得た。得られた延伸糸を製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例12)
製造例11で得られた延伸糸に110℃で5%の緩和処理を行った。
さらに、緩和処理を行った繊維を、製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例13)
内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン187部、水47部、AN50部、アクリル酸エチル(以下EAと記す。)35部、SAM15部を投入し製造例1の重合体2と同様の方法で重合し、重合体8の溶液を得た。製造例1で得た重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え溶解した重合体1の溶液に、重合体8の溶液を重合体の重量比が重合体1:重合体8=9:1の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を製造例1と同様の方法を用いて紡糸し延伸糸を得た。得られた延伸糸を製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例14)
製造例11で得られた延伸糸に110℃で5%の緩和処理を行った。
さらに、緩和処理を行った繊維を、製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例15)
内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン187部、水47部、AN50部、メタクリル酸メチル(以下MMAと記す。)35部、SAM15部を投入し製造例1の重合体2と同様の方法で重合し、重合体9の溶液を得た。製造例1で得た重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え溶解した重合体1の溶液に、重合体9の溶液を重合体の重量比が重合体1:重合体9=9:1の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を製造例1と同様の方法を用いて紡糸し延伸糸を得た。得られた延伸糸を製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例16)
製造例13で得られた延伸糸に110℃で5%の緩和処理を行った。
さらに、緩和処理を行った繊維を、製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例17)
内容積5Lの耐圧重合反応装置にアセトン187部、水47部、AN50部、MA25部、塩化ビニリデン(以下VDと記す。)10部、SAM15部を投入し製造例1の重合体2と同様の方法で重合し、重合体10の溶液を得た。製造例1で得た重合体1が30重量%になるようにアセトンを加え溶解した重合体1の溶液に、重合体10の溶液を重合体の重量比が重合体1:重合体10=9:1の比率になるように混合した物を紡糸原液とした。得られた、紡糸原液を製造例1と同様の方法を用いて紡糸し延伸糸を得た。得られた延伸糸を製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
(製造例18)
製造例17で得られた延伸糸に110℃で5%の緩和処理を行った。
さらに、緩和処理を行った繊維を、製造例1と同様の方法を用いてハイパイルを作成した。
製造例1〜18で得られた繊維の製造方法を表1に示す。
【表1】

[実施例1〜16]
製造例1、2、4、5、7〜18で得られた収縮繊維を60℃、70℃、80℃で60分間染色した。そのときの相対飽和値、染色収縮率、染色後収縮率の値を表2に示す。紡糸原液が非相溶な場合、60〜80℃の染色で染色収縮率が10%以下に、染色後収縮率が20%以上になり、60℃以上の染色で相対飽和値が0.1以上に、かつ70℃以上の温度で相対飽和値が0.8以上になる。
さらに、製造例1、2、4、5、7〜18で得られたハイパイルの外観評価を行った。その結果を表2に示す。染色後収縮率が20%以上であれば、長パイル部と短パイル部の段差が強調された外観特性を有するハイパイルを得る事ができる。
(比較例1、2)
製造例3、6で得られた収縮繊維を60℃、70℃、80℃で60分間染色した。そのときの相対飽和値、染色収縮率、染色後収縮率の値を表2に示す。
紡糸原液が相溶な場合、70〜80℃の染色で染色収縮率を10%以下にする事が困難である。
さらに、製造例3、6で得られたハイパイルの外観評価を行った。その結果を表2に示す。染色後収縮率が20%以下になると長パイル部と短パイル部の段差がほとんど見られなくなる。
【表2】

【産業上の利用可能性】
本発明のアクリル系収縮繊維は、染色時の収縮を小さく、染色後においても高収縮率を有するものであり、その結果、衣料、玩具(ぬいぐるみ等)及びインテリア用等の広範囲に新たな商品企画を可能とするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル40〜80重量%とハロゲン含有モノマー20〜60重量%及びスルホン酸含有モノマー0〜5重量%とよりなる重合体(A)50〜99重量部に、アクリロニトリル5〜70重量%とその他共重合可能なモノマー20〜94重量%及びスルホン酸含有モノマー1〜40重量%とよりなる重合体(B)1〜50重量部を混合した重合組成物よりなり、重合体(A)と重合体(B)が非相溶である紡糸原液から製造される染色できるアクリル系収縮繊維
【請求項2】
重合体(A)および重合体(B)におけるスルホン酸基含有モノマーの合計含有量が、重合体(A)および重合体(B)のモノマー合計量の0.1〜10重量部である請求項1記載のアクリル系収縮繊維
【請求項3】
前記重合体(B)において、その他共重合可能なモノマーがアクリル酸エステルである、請求項1〜2記載のアクリル系収縮繊維
【請求項4】
前記紡糸原液が0.1〜30μmの粒子状に相分離している事を特徴とする、請求項1〜3記載のアクリル系収縮繊維
【請求項5】
80℃以下の染色収縮率が10%以下であることを特徴とする請求項1〜4記載のアクリル系収縮繊維
【請求項6】
80℃以下で染色後、130℃、5分間の乾熱処理による収縮率が20%以上であることを特徴とする請求の請求項1〜5記載のアクリル系収縮繊維
【請求項7】
60℃以上の染色で相対飽和値が0.1以上であり、かつ、70℃以上の相対飽和値が0.8以上である事を特徴とする請求項1〜6記載のアクリル系収縮繊維
【請求項8】
1〜20%の緩和処理を行う事を特徴とする請求項1〜7記載のアクリル系収縮繊維の製造方法

【国際公開番号】WO2005/064050
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516717(P2005−516717)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019725
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】