説明

アクリル系熱可塑性樹脂の製造方法及びアクリル系フィルムの製造方法

【課題】加熱時の揮発分が少ない耐熱性に優れたアクリル系熱可塑性樹脂の製造方法及びアクリル系フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】メタクリル酸エステル70〜99.9質量%(単量体混合物100質量%基準)を含む単量体混合物を、アゾ系重合開始剤の存在下で重合させるアクリル系熱可塑性樹脂の製造方法において、前記アゾ系重合開始剤の10時間半減期温度T10〔℃〕と、前記単量体混合物の重合率が15%に到達したときの内温Tp[℃]とが以下の式(0)で示される関係を満たすように重合させることを特徴とするアクリル系熱可塑性樹脂の製造方法。 Tp≦T10+1 (0)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱時の揮発分が少ない耐熱性に優れたアクリル系熱可塑性樹脂の製造方法及びアクリル系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系熱可塑性樹脂は、透明性、成形加工性、耐候性、表面硬度、リサイクル適正などといった多くの特徴を持っており、自動車部品、建材、情報材料、電子部品材料など多くの分野で用いられ、近年は、さらに低複屈折性などの優れた光学特性により光学フィルムへその使用領域を広げている。しかし一方で、アクリル系熱可塑性樹脂は、耐熱性が低く、熱安定性が低いので高温を要する製造プロセスでは変色やガス発生といった課題がある。
【0003】
アクリル系熱可塑性樹脂の耐熱性向上や光学用樹脂組成物としての試みは多くなされている。例えば、特許文献1では、アクリル系モノマーにスチレンを共重合させる方法が記載されている。しかし、この方法では、材料にブタジエン系共重合体が含まれているので、光学特性に劣るという問題がある。また、重合開始剤に過酸化物系を用いており、さらには高温での反応を行っているので、樹脂の熱分解に起因して耐熱性が劣る。
【0004】
また、特許文献2では、重合開始剤の10時間半減期より低温で重合することにより、揮発分となる残留モノマーの低減がなされている。しかし、この方法では過酸化物系重合開始剤を用いているので、樹脂の熱分解に起因して耐熱性が不十分である。
【0005】
また、アクリル系熱可塑性樹脂を用いたアクリル系フィルムとして、例えば特許文献3では、ゴム質含有共重合体とアクリル系熱可塑性樹脂の多層構造重合体を用いたアクリル系フィルムが記載されている。しかし、ゴム含有多段重合体を含むので光学特性に劣り、重合は重合開始剤の10時間半減期以下で行われているが過酸化物系重合開始剤を用いているので、樹脂の熱分解に起因して耐熱性が劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−326919号公報
【特許文献2】特開2008−266555号公報
【特許文献3】特開2009−209295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の課題を解決すべくなされたものである。すなわち本発明の目的は、加熱時の揮発分が少ない耐熱性に優れたアクリル系熱可塑性樹脂の製造方法及びアクリル系フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、単量体組成と開始剤種類及び単量体の重合率と重合温度を特定の範囲にすることにより、揮発分を抑制し、耐熱性に優れたアクリル系熱可塑性樹脂及びアクリル系フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、メタクリル酸エステル70〜99.9質量%(単量体混合物100質量%基準)を含む単量体混合物を、アゾ系重合開始剤の存在下で重合させるアクリル系熱可塑性樹脂の製造方法において、前記アゾ系重合開始剤の10時間半減期温度T10[℃]と前記単量体混合物の重合率が15%に到達したときの内温Tp[℃]とが以下の式(0)で示される関係を満たすように重合させることを特徴とするアクリル系熱可塑性樹脂の製造方法である。
【0010】
Tp−T10≦+1 (0)
さらに本発明は、上記の製造方法によって得たアクリル系熱可塑性樹脂をフィルム状に成形する工程を含むアクリル系フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来法と比較して加熱時の揮発分を低減された耐熱性に優れるアクリル系熱可塑性樹脂を製造できる。またそのような優れた特性を有するアクリル系フィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<メタクリル酸エステル>
本発明においては、メタクリル酸エステルを含む単量体混合物を用いる。メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリシクロデカニル、メタクリル酸ジシクロペンタジエニル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピル、メタクリル酸ペンタフルオロプロピル、メタクリル酸オクタフルオロペンチル、メタクリル酸2−(ペルフルオロオクチル)エチルが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。中でも、樹脂の透明性及び光学特性の面からメタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0013】
単量体混合物は、メタクリル酸エステルと共重合できる他の単量体も含有する。他の単量体としては、例えば、アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、ジエン系化合物、不飽和カルボン酸、アクリルアミド誘導体類が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。中でも、メタクリル酸エステルの解重合を防ぐ点から、アクリル酸エステルが特に好ましい。アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルアクリル酸トリシクロデカニル、アクリル酸ジシクロペンタジエニル、アクリル酸アダマンチルなどのアクリル酸エステルが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。中でも、樹脂の機械特性、耐熱性の点からアクリル酸メチルが特に好ましい。
【0014】
単量体混合物100質量%(即ちアクリル系熱可塑性樹脂を構成する為の単量体の合計100質量%)中、メタクリル酸エステルの量は70〜99.9質量%、好ましくは90〜99.9質量%、より好ましくは97〜99.9質量%である。したがって、他の単量体の量は0.1〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。上記各範囲におけるメタクリル酸エステルの量の下限値は、フィルムの機械特性や光学特性の点で意義が有る。
【0015】
<重合開始剤>
本発明では、単量体混合物を重合させる為にアゾ系重合開始剤を用いる。これにより、過酸化物系重合開始剤を用いた場合と比較して、得られる樹脂の耐熱性が向上する。またアゾ系開始剤は工業的に入手し易く、重合開始剤の中では比較的安全な化合物である。
【0016】
アゾ系重合開始剤の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−{1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−{2−(1−ヒドロキシブチル)}プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェート・ジハイドレート、2,2'−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2'−アゾビス[2−{1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル}プロパン]ジハイドロクロライド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2'−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチル−プロピオンアミジン]、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドキシム)、ジメチル2,2'−アゾビスブチレート、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
<10時間半減期温度(T10)>
アゾ系重合開始剤の10時間半減期温度T10(以下、単にT10という)とは、アゾ系重合開始剤の濃度が初期値の半分まで減少する時間が10時間となる温度のことである。本発明ではトルエン中における測定値を用いた。
【0018】
ここでアゾ系重合開始剤の熱分解を一次反応と近似すると、下記式(1)が成り立つ。
【0019】
【数1】

【0020】
0:重合開始剤の初期濃度
t:t時間熱分解後の重合開始剤濃度
d:熱分解速度定数
半減期とはCtがC0/2となる時間に相当するため、半減期t1/2とkdの関係について下記式(2)が成り立つ。
【0021】
【数2】

【0022】
したがって、重合開始剤をある一定温度で熱分解させ、その際の時間tとln(C0/C)の関係をプロットし、得られた直線の傾きよりkdを求めると、式(2)よりその温度における半減期t1/2を知ることができる。
【0023】
また、kdは下記アレニウス式(3)で表されるので、lnt1/2と1/Tの関係をプロットし得られる直線より、重合開始剤の任意の半減期を得る分解温度が算出される。
【0024】
【数3】

【0025】
A:頻度因子
ΔE:活性化エネルギー(lnkdと1/Tの関係をプロットし得られる直線の傾きより算出)
R:気体定数(8.314J/mol・K)
T:絶対温度(K)
半減期の測定は、重合開始剤溶液をトルエンに溶解し窒素置換した後、ガラス管中に密封し、所定温度の恒温槽で熱分解させ、一定時間毎にHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で濃度測定を行うことにより実施する。
【0026】
例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリルのT10は65℃でり、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)のT10は67℃である。
【0027】
<重合方法>
本発明では、単量体混合物をアゾ系重合開始剤の存在下で重合させる。その重合方法としては、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など公知の重合方法を採用できる。中でも、高分子量の樹脂を製造でき、有機溶剤に混合および溶解が可能な点から、懸濁重合が特に好ましい。
【0028】
懸濁重合には、例えば、温度計、冷却管、撹拌機及び窒素流入管を備えた反応器を使用する。重合反応中は、樹脂特性を一定に保つ為に、一定量の窒素を流入することが好ましい。また、窒素による加圧下で反応を行っても良い。
【0029】
<重合温度>
本発明では、アクリル系熱可塑性樹脂の製造における反応器内の内容物の温度を、内温と言う。一般に、ラジカル重合反応においては、重合率増加に伴い反応物の粘度が上昇すると重合停止反応速度が急激に減少するので、重合反応が急速に進行する。
【0030】
本発明においては、この急速な進行の前、すなわち単量体混合物の重合率15%に到達したときの内温Tp(以下、単にTpという)とT10とが以下の式(0)の関係を満たすように重合する。
【0031】
Tp≦T10+1 (0)
さらに好ましくは、Tpは(T10−15)℃〜(T10+1)℃、特に好ましくは(T10−4)℃〜(T10+1)℃の温度となるように調整する。これら温度範囲の上限値は、得られる樹脂の耐熱性を大きく向上させる点で意義が有る。また下限値は、重合時間の短縮化や生産性の点で意義が有る。特に、この温度を適度に高くすることにより、例えば、連続生産における釜占有時間を短縮化できる。
【0032】
TpとT10が式(1)の関係を満たす為には、例えば、内温がT10を超えないように、ジャケット等の外部温度を調整して昇温し、外部温度一定で重合を進行させる。重合中は後述の方法で重合率を確認し、Tpが式(0)の関係を満たしていることを確認する。
【0033】
重合時の温度プロファイルとしては、樹脂特性の安定性の点から、単量体の重合率が15%に到達するまで内温が大きく変化しないことが好ましい。
【0034】
重合に伴う発熱最大値を確認した後、さらに高温で熱処理工程を行うことが好ましい。熱処理工程の加熱温度は、好ましくは80〜140℃、より好ましくは90〜120℃である。これら範囲の下限値は、樹脂内の残留モノマーの量を低減する点で意義が有る。また、上限値は、樹脂の熱分解を防止する点で意義が有る。熱処理工程の時間は0.5〜5時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。
【0035】
<フィルムの製造方法>
フィルムの製造方法としては、例えば、溶融押出成形法(インフレーション法、Tダイ法)、溶液流延法、カレンダー法が挙げられる。ただし、溶融押出成形法やカレンダー法では樹脂にかける熱量が大きく、フィルム中にゲルポリマー等の異物が含まれたり、滞留劣化による樹脂の着色や濁りが生じることが考えられる。一方、溶液流延法では、揮発分を回収し溶剤を再利用する工程が必要であり、フィルム汚染を防ぐために使用する樹脂には製膜時の耐熱性が求められるが、製造されたフィルムは厚み均一性、平面性、透明性、光沢性に優れ、また樹脂にかかる熱量が比較的小さく、ろ過工程を設置できるので異物の少ないフィルムが得られる。したがって、溶液流延法が最も好ましい。
【0036】
溶液流延法に用いる溶剤としては、トルエン、ベンゼン及びこれらの混合溶媒等の芳香族系溶媒;メタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等の塩素系溶媒;シクロヘキシサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチルが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
フィルムを製造する際は、フィルムの必要特性、特に耐熱性を損なわない程度で機能性樹脂、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤等の添加剤を配合してもよい。また、必要に応じて1軸もしくは2軸延伸処理を行ってもよい。
【0038】
<フィルムの使用用途>
本発明により製造されたアクリル系フィルムは、例えば、FPD光学フィルム用途(反射防止フィルム、配向フィルム、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルム、電磁波シールドフィルム)、その他の機能性フィルム用途(帯電防止フィルム、透明絶縁材料フィルム、インモールドフィルム、エネルギー関連部材、情報記録材料関連部材、各種包装材料)など、各種用途に使用できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。以下の説明中「部」は質量部を示す。また、各評価は以下の方法で実施した。
【0040】
<重合率>
重合率の測定は、樹脂試料の加熱残分測定より行った。具体的には、反応容器より試料約1gを採取し、105℃のオーブンで2時間乾燥し、その際の重量変化より算出した。また重合率15%の際の内温Tpは、重合中5分毎に重合率の測定を行い、重合率15%の前後2点の温度を一次関数として近似、内挿することで推定した。
【0041】
<熱減量率評価>
示差熱天秤測定で得た熱減量率により、樹脂の耐熱性を評価した。具体的には、以下の測定条件に従い、試料10mgをアルミニウムパンに採取し、装置で室温〜250℃まで10℃/minで昇温し、その際の重量変化より熱減量率を算出し、下記の基準で評価した。
「◎」:熱減量率が1.0質量%未満。
「○」:熱減量率が1.0質量%以上、1.5質量%未満。
「△」:熱減量率が1.5質量%以上、2.0質量%未満。
「×」:熱減量率が2.0質量%以上。
(測定条件)
装置:株式会社リガク社製TG−DTA
試料:10mg
試料加温温度:室温 ‐ (10℃/min) ‐ 250℃
測定雰囲気:空気中
なお、熱減量率評価条件の温度は、実プロセスでのフィルム製造やコーティング工程に鑑みて250℃に設定した。
【0042】
<生産性評価>
設定温度まで加温して単量体混合物の重合を開始した時点から、発熱最大値確認までの時間を計測し、下記の基準で生産性を評価した。
「◎」:4時間未満。
「○」:4時間以上、5時間未満。
「△」:5時間以上、6時間未満。
「×」:6時間以上。
【0043】
[分散剤(1)の調製]
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水900部、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム60部、メタクリル酸カリウム10部、メタクリル酸メチル12部を加えて撹拌した。重合装置内を窒素置換しながら50℃に昇温し、重合開始剤として2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩0.08部を添加し、更に60℃に昇温した。また、重合開始剤の添加と同時に、滴下ポンプを使用して、メタクリル酸メチルを0.24部/分の速度で75分間連続的に滴下し、60℃で6時間保持した。その後室温に冷却して、透明なポリマー水溶液である分散剤(1)を得た。
【0044】
この分散剤(1)の固形分は10質量%、ブルックフィールド粘度計(B型粘度計)[TOKIMEC製、R100型粘度計(RBタイプ)]を用いて25℃で測定した粘度は950mPa・sであった。
【0045】
[実施例1]
温度計、冷却管、撹拌機を備えた2000mlセパラブルフラスコに、脱イオン水145部、硫酸ナトリウム0.1部を仕込み、溶解を確認した。その後、重合開始剤として2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN、T10=67℃)0.12部と連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン(n−DM)0.085部を添加したメタクリル酸メチル(MMA)99部及びアクリル酸メチル(MA)1部からなる単量体混合物を加え、十分に溶解した。次いで、分散剤(1)300ppmを加え、十分に撹拌し、窒素を重合装置内に流入し、フラスコ内を67℃に加温し保持した。TpとT10とが式(1)の関係を満たしていることを確認し、重合に伴う発熱最大値を確認した。その後、フラスコ内を95℃に昇温し、2時間反応させ、冷却してアクリル系熱可塑性樹脂を含む懸濁液を得た。この懸濁液を目開き30μmのメッシュで濾過し、40℃の温風で乾燥させ、粒状のアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
【0046】
さらに、このアクリル系熱可塑性樹脂を塩化メチレンに溶解し、これをキャスティングドラムに付着させ、160℃に加熱して塩化メチレンを蒸発させ、室温に冷却してアクリル系フィルム得た。評価結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2〜8及び比較例1〜3]
表1及び表2に示す各成分を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でアクリル系熱可塑性樹脂を製造し、その樹脂を使用してアクリル系フィルム製造した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
各表中の略号は以下の通りである。
・「MMA」:メタクリル酸メチル、
・「MA」:アクリル酸メチル、
・「AMBN」:2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(T10=67℃)、
・「LPO」:ジラウロイルパーオキサイド(T10=61.6℃、ベンゼン溶媒中)、
・「n−DM」:n−ドデシルメルカプタン。
【0052】
表1及び表2に示すように、実施例1〜実施例8は、樹脂の熱減量率が少なく耐熱性に優れ、また生産性も良好であった。
【0053】
一方、表3に示すように、メタクリル酸エステル以外の単量体を使用しなかった比較例1、アゾ系重合開始剤を使用しなかった比較例2、及び、TpとT10とが式(0)の関係を満たさない、すなわち単量体の重合率が15%に到達したときの内温が高過ぎる比較例3は、耐熱性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂の製造方法、及びこの製造方法によって得られた樹脂を含むフィルムは、耐熱性に優れた熱可塑性アクリルフィルムを提供できるものであり、様々な用途におけるアクリル系フィルムの耐熱性の課題を解決でき、工業上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸エステル70〜99.9質量%(単量体混合物100質量%基準)を含む単量体混合物を、アゾ系重合開始剤の存在下で重合させるアクリル系熱可塑性樹脂の製造方法において、
前記アゾ系重合開始剤の10時間半減期温度T10〔℃〕と、前記単量体混合物の重合率が15%に到達したときの内温Tp[℃]とが以下の式(0)で示される関係を満たすように重合させることを特徴とするアクリル系熱可塑性樹脂の製造方法。
Tp≦T10+1 (0)
【請求項2】
請求項1記載の製造方法によって得たアクリル系熱可塑性樹脂をフィルム状に成形する工程を含むアクリル系フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−231173(P2011−231173A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100847(P2010−100847)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】