説明

アクリル系粘着剤組成物および粘着フィルム

【課題】透明性が優れ、高温高湿下でも優れた密着性を維持できるアクリル系粘着剤組成物と、これを用いた粘着フィルムの提供。
【解決手段】アクリル酸メチルと、アクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルと、これらと共重合可能なカルボキシル基含有モノマーおよびヒドロキシル基含有モノマーとを含むモノマー混合物(a)を共重合した重量平均分子量が50万〜200万のアクリル共重合体(A)と、メタクリル酸メチルと環状構造を有するモノマーとを含むモノマー混合物(b)を共重合した重量平均分子量が1000〜10000であるアクリル共重合体(B)と、架橋剤(C)とが配合され、前記アクリル共重合体(A)100質量部に対して、前記アクリル共重合体(B)を10〜35質量部含むアクリル系粘着剤組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイの表面に反射防止フィルムを貼着する際などに好適に使用される粘着フィルムと、該粘着フィルムの粘着層を形成するために好適に使用されるアクリル系粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置として、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイパネルなどのフラットパネルディスプレイが広く普及している。これらフラットパネルディスプレイの表面には、反射防止フィルム、保護フィルムなどの光学用の表面フィルムが貼着される場合が多い。また、タッチパネルなどの表面にも、これらの表面フィルムが貼着される場合が多い。
【0003】
このようにフラットパネルディスプレイ、タッチパネルなどの対象物(パネル基材)の表面に表面フィルムを貼着するための粘着剤には、透明性が求められるため、アクリル系の粘着剤組成物が使用されることが多い。また、その際、粘着剤組成物は、あらかじめ粘着フィルムの形態とされることが多い。
粘着フィルムとしては、粘着剤組成物からなる粘着層の両面に、表面が剥離処理された剥離フィルムを備えたノンキャリアタイプの粘着フィルム(いわゆる、両面セパレータ付フィルム。)や、粘着フィルムの片面には表面フィルムが予め貼着され、他面には剥離フィルムが設けられた表面フィルム一体型の粘着フィルムがある。剥離フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)などの基材フィルムの表面に、シリコーン樹脂などの剥離成分が塗布されて剥離処理されたものが使用される。
【0004】
ところが、このような粘着フィルムの粘着層により表面フィルムをパネル基材に貼着し、これを高温高湿下においた場合には、粘着層と表面フィルムとの界面、または、粘着層とパネル基材との界面の密着性が低下することがあった。このように界面での密着性が低下すると、パネル基材のアウトガスなどによる多数の微細気泡が密着性の低下した界面で合体、成長して、目視できる程の気泡(膨れ)となり、白化が起こる場合があった。白化が起こると、パネル基材であるフラットパネルディスプレイやタッチパネルの視認性が低下してしまう。
【0005】
そこで、厳しい条件下においても、パネル基材や表面フィルムと良好に密着し、パネル基材からのアウトガスで微細気泡が生じたとしても、これらが界面で合体、成長せず、視認性が低下しない粘着層を形成できる粘着剤組成物が検討されている。
例えば特許文献1には、アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルをモノマー主成分としたアクリル系ポリマー(a)を含む粘着剤組成物が記載されている。そして、特許文献1の実施例には、この粘着剤組成物を用いると、70℃のオーブン中に5時間投入した場合でも、粘着層とポリカーボネート板からなるパネル基材との界面には気泡が認められないことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−15524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本願発明者の検討によれば、特許文献1に記載された粘着剤組成物を用いた場合、単なる高温下では気泡の発生が認められないものの、湿度も高い高温高湿下では、気泡が発生し、視認性の低下が認められる場合があった。
また、フラットパネルディスプレイ、タッチパネルなどのパネル基材には、ポリカーボネートの他、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)が用いられることもある。そのため、ポリカーボネートからなるパネル基材だけでなく、PMMAからなるパネル基材にも密着性よく粘着し、高温高湿下でも上述したような気泡が発生しない粘着剤組成物が求められる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、透明性が優れ、高温高湿下でも優れた密着性を維持できるアクリル系粘着剤組成物と、これを用いた粘着フィルムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者が鋭意検討したところ、粘着付与剤(タッキファイヤ)として作用するアクリル共重合体(B)の構成モノマーに、メタクリル酸メチルを必須成分として採用することにより、優れた密着性が得られることに想到した。そして、このようなアクリル共重合体(B)と併用するアクリル共重合体(A)の構成モノマーに、アクリル酸メチルを必須成分として採用することにより、優れた透明性も維持できることを見出した。
【0010】
本発明のアクリル系粘着剤組成物は、アクリル酸メチルと、アクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルと、これらと共重合可能なカルボキシル基含有モノマーおよびヒドロキシル基含有モノマーとを含むモノマー混合物(a)を共重合した重量平均分子量が50万〜200万のアクリル共重合体(A)と、
メタクリル酸メチルと環状構造を有するモノマーとを含むモノマー混合物(b)を共重合した重量平均分子量が1000〜10000であるアクリル共重合体(B)と、
架橋剤(C)とが配合され、
前記アクリル共重合体(A)100質量部に対して、前記アクリル共重合体(B)を10〜35質量部含むことを特徴とする。
前記アクリル酸メチルは、前記モノマー混合物(a)中に、30〜60質量%含まれることが好ましい。
前記メタクリル酸メチルは、前記モノマー混合物(b)中に、50〜90質量%含まれることが好ましい。
前記環状構造を有するモノマーは、メタクリル酸イソボルニルであることが好ましい。
前記架橋剤(C)は、金属キレート系架橋剤と、エポキシ基を有する架橋剤とからなることが好ましい。
本発明の粘着フィルムは、前記アクリル系粘着剤組成物からなる粘着層の両面に、表面が剥離処理された剥離フィルムが設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性が優れ、高温高湿下でも優れた密着性を維持できるアクリル系粘着剤組成物と、これを用いた粘着フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
[アクリル系粘着剤組成物]
本発明のアクリル系粘着剤組成物は、アクリル共重合体(A)と、アクリル共重合体(B)と、架橋剤(C)とを含有する。
アクリル共重合体(A)は、アクリル酸メチルと、アクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルと、これらと共重合可能なカルボキシル基含有モノマーおよびヒドロキシル基含有モノマーとを含むモノマー混合物(a)を共重合したものであって、重量平均分子量が50万〜200万である。
なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸、メタクリル酸を意味する。
【0013】
アクリル酸メチルをモノマー混合物(a)の必須成分とすることによって、得られたアクリル共重合体(A)は、後述のアクリル共重合体(B)との相溶性に優れ、優れた透明性を発揮する。
アクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルが使用できる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(n−プロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−エトキシプロピル、アクリル酸2−(n−プロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)プロピルなどが挙げられ、2種以上を併用してもよい。
【0014】
アクリル酸メチルおよびアクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なカルボキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸β−カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられ、2種以上を併用してもよい。
アクリル酸メチルおよびアクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なヒドロキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)・メチルアクリレートなどが挙げられ、2種以上を併用してもよい。
【0015】
なかでも好ましいモノマー混合物(a)としては、十分に架橋反応が進行し、高い粘着力が得られやすいことから、アクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルとして(メタ)アクリル酸n−ブチルを含み、カルボキシル基含有モノマーとしてアクリル酸を含み、ヒドロキシル基含有モノマーとして(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルを含む混合物が挙げられる。
【0016】
モノマー混合物(a)中のアクリル酸メチルの含有量は、30〜60質量%が好適である。30質量%未満では、得られるアクリル共重合体(A)のアクリル共重合体(B)との相溶性が低下し、アクリル系粘着剤組成物の透明性が低下する場合がある。60質量%を超えると、得られるアクリル共重合体(A)が硬くなり、アクリル系粘着剤組成物の剥離強度が低下する場合がある。
また、得られるアクリル系粘着剤組成物の粘着力などの点から、モノマー混合物(a)中のアクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルの含有量は25〜69質量%が好ましく、カルボキシル基含有モノマーの含有量は0.5〜10質量%が好ましく、ヒドロキシル基含有モノマーの含有量は0.5〜5質量%が好ましい。
【0017】
モノマー混合物(a)を共重合して得られるアクリル共重合体(A)は、重量平均分子量が50万〜200万である。ここで重量平均分子量が50万未満では、アクリル共重合体は凝集力が小さいものとなる。そのため、これを含むアクリル系粘着剤組成物から形成された粘着層は、その内部で凝集破壊しやすくなり、その結果、破壊部分において、微細気泡同士が合体して気泡が成長し、高温高湿下における透明性、視認性の低下が大きくなる。一方、200万を超えると、アクリル共重合体の製造自体が困難となる。より好ましい重量平均分子量は、80万〜150万である。
【0018】
また、アクリル共重合体(A)のガラス転移温度は、−60〜−10℃が好ましく、−50〜−18℃がより好ましい。このような範囲未満では、凝集力が不足し、内部で凝集破壊が生じる場合があり、このような範囲を超えると、粘着力が著しく低下する場合がある。
【0019】
アクリル共重合体(A)は、例えば過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤を用いて、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合などの従来公知の重合方法により製造できる。
【0020】
アクリル共重合体(B)は、粘着付与剤(タッキファイヤ)として作用するものであって、メタクリル酸メチルと環状構造を有するモノマーとを含むモノマー混合物(b)を共重合した重量平均分子量が1000〜10000のものである。
メタクリル酸メチルをモノマー混合物(b)の必須成分とすることによって、得られたアクリル共重合体(B)が配合されたアクリル系粘着剤組成物は、ポリカーボネートからなるパネル基材やPETなどからなる表面フィルムに対してはもちろん、PMMAからなるパネル基材に対しても、良好に密着するものとなる。
環状構造を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの非芳香族環(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香族環(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、2種以上を併用してもよい。なかでも、非芳香族環(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、特に(メタ)アクリル酸イソボルニルを使用することが、より高い密着性を発現する点で好ましい。
【0021】
また、モノマー混合物(b)には、1種以上の他のモノマーが10質量%以下の範囲で含まれてもよく、このようなモノマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、先に例示したものなどを使用できる。
【0022】
モノマー混合物(b)中のメタクリル酸メチルの含有量は、50〜90質量%が好適である。50質量%未満では、PMMAからなるパネル基材に対して、密着性が低下し、その結果、視認性が低下する場合がある。一方、90質量%を超えると、得られるアクリル共重合体(B)のアクリル共重合体(A)との相溶性が低下し、アクリル系粘着剤組成物の透明性が低下する場合がある。
また、得られるアクリル系粘着剤組成物の粘着力などの点から、モノマー混合物(b)中の環状構造を有するモノマーの含有量は10〜50質量%が好ましい。
【0023】
モノマー混合物(b)を共重合して得られるアクリル共重合体(B)は、重量平均分子量が1000〜10000である。ここで重量平均分子量が1000未満では、アクリル共重合体の製造自体が困難となる。一方、10000を超えると、アクリル共重合体(A)との相溶性が低下し、アクリル系粘着剤組成物の透明性が低下する場合がある。
【0024】
また、アクリル共重合体(B)のガラス転移温度は、80℃以上が好ましく、より好ましくは100℃以上である。このような温度未満では、凝集力が不足し、内部で凝集破壊が生じる場合がある。
【0025】
アクリル共重合体(B)は、例えば過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤を用いて、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合などの従来公知の重合方法により製造できる。
【0026】
アクリル共重合体(A)およびアクリル共重合体(B)の質量比率は、アクリル共重合体(A)100質量部(固形分)に対して、アクリル共重合体(B)が10〜35質量部(固形分)である。アクリル共重合体(B)の配合量が上記範囲未満であると、配合の効果が得られにくく、アクリル系粘着剤組成物のパネル基材に対する密着性が低下し、視認性が低下する。一方、上記範囲を超えると、アクリル共重合体(B)のアクリル系共重合体(A)への相溶性が低下し、アクリル系粘着剤組成物の透明性に悪影響を与える。
【0027】
本発明のアクリル系粘着剤組成物は、架橋剤(C)を必須成分として含有し、金属キレート系架橋剤やエポキシ基を有する架橋剤が使用できるが、好ましくは、架橋剤(C)として、金属キレート系架橋剤とエポキシ基を有する架橋剤とを併用する。
金属キレート系架橋剤と、エポキシ基を有する架橋剤とを併用することによって、アクリル系粘着剤組成物のパネル基材や表面フィルムに対する密着性を十分に高めることができる。その結果、高温高湿下において、界面での気泡同士の合体を抑え、透明性、視認性の低下を抑制することができる。
【0028】
架橋剤(C)のうち、金属キレート系架橋剤は、アクリル系粘着剤組成物から形成された粘着層の表面での架橋反応をより進行させる作用を奏する。そのため、アクリル系粘着剤組成物を用いてノンキャリアタイプあるいは表面フィルム一体型の粘着フィルムの粘着層を形成した際において、粘着層と剥離フィルムの剥離面とが接しても、剥離面に塗布されている剥離成分が粘着層へ移行しにくくなる。剥離成分が粘着層に移行すると、粘着層の粘着力は低下してしまい、表面フィルムやパネル基材との密着性が不十分となる。そのため、このような移行を防止することが密着性を十分に高めるために重要である。
一方、エポキシ基を有する架橋剤は、粘着層の内部など粘着層の全体の架橋反応を進行させ、粘着層全体としての粘着力を高めるように作用する。
特に、表面フィルムがPET製である場合、表面フィルムとアクリル系粘着剤組成物からなる粘着層との密着性は不十分となることがあるが、このように金属キレート系架橋剤とエポキシ基を有する架橋剤とを併用することにより、表面フィルムがPET製である場合でも、十分な密着性を確保することができる。
【0029】
金属キレート系架橋剤としては、多価金属が有機化合物と共有結合または配位結合しているものが挙げられる。多価金属原子としては、Al、Zr、Co、Cu、Fe、Ni、V、Zn、In、Ca、Mg、Mn、Y、Ce、Sr、Ba、Mo、La、Sn、Tiなどが挙げられる。これらのなかでも、Al、Zr、Tiが好ましい。特にAlが着色が無く、透明性が良い点で好ましい。
また、共有結合または配位結合する有機化合物中の原子としては酸素原子などが挙げられ、有機化合物としては、アルキルエステル、アルコール化合物、カルボン酸化合物、エーテル化合物、ケトン化合物などが挙げられる。
具体的には、特に安定で取り扱いが容易なアルミニウムトリスアセチルアセトネートなどが好適に使用される。また、金属キレート系架橋剤としては、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0030】
エポキシ基を含有する架橋剤としては、アクリル共重合体(A)を十分に架橋できることから、1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンが好適に使用される。その他には、例えば、N,N,N,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、ビスフェノールA−エピクロルヒドリン型のエポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリジジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミンなども使用でき、2種以上を併用してもよい。
【0031】
架橋剤(C)の配合量は、アクリル共重合体(A)100質量部(固形分)に対して、金属キレート系架橋剤は0.05〜1.6質量部、エポキシ基を含有する架橋剤は0.05〜0.4質量部である。より好ましくは、金属キレート系架橋剤は0.05〜0.8質量部、エポキシ基を含有する架橋剤は0.05〜0.2質量部である。
【0032】
金属キレート系架橋剤の配合量が上記範囲未満であると、剥離フィルムからの剥離成分の粘着層への移行を防止できない可能性がある。また、エポキシ基を有する架橋剤の配合量が上記範囲未満であると、粘着層全体としての粘着力が不十分となる可能性がある。これらの場合には、粘着層と表面フィルムやパネル基材との界面における気泡同士の合体、成長を抑制するほどには、これらを密着できない可能性が生じる。一方、金属キレート系架橋剤の配合量が上記範囲を超えると、粘着層表面の架橋反応が進行しすぎ、また、エポキシ基を含有する架橋剤の配合量が上記範囲を超えると、粘着層全体としての架橋反応が進行しすぎ、その結果、いずれの場合でも、粘着層は剥離性が低下し、糊残りがしやすいものとなる。
【0033】
本発明のアクリル系粘着剤組成物は、上記アクリル共重合体(A)および(B)と、架橋剤(C)と、さらに必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、消泡剤、濡れ性調製剤等など添加剤を混合することにより製造できる。また、アクリル系粘着剤組成物は、通常、アクリル共重合体(A)および(B)の製造工程に由来した溶媒を含有するが、さらに適当な溶媒が加えられ、粘着層を形成するのに適した粘度となるように希釈されたものであってもよい。
【0034】
[粘着フィルム]
本発明のアクリル系粘着剤組成物は、各種用途に使用でき、特に、粘着フィルムの粘着層に好適に使用される。粘着フィルムとしては、粘着剤組成物からなる粘着層の両面に、表面が剥離処理された剥離フィルムを備えたノンキャリアタイプの粘着フィルムや、粘着フィルムの片面には表面フィルムが予め貼着され、他面には剥離フィルムが設けられた表面フィルム一体型の粘着フィルムがある。本発明のアクリル系粘着剤組成物は、いずれの粘着フィルムにも使用できるが、ノンキャリアタイプの粘着フィルムは、表面フィルムをあらかじめ具備したものではないため、需要に応じて、貼着させる表面フィルムの種類をその都度選択できる。よって、在庫管理などの点で非常にメリットがある。
【0035】
ノンキャリアタイプの粘着フィルムを製造する場合には、まず、表面が剥離処理された剥離フィルムを用意し、この表面に、アクリル系粘着剤組成物を塗布する。その後、塗布されたアクリル系粘着剤組成物を80〜130℃で加熱して、溶媒を除去、乾燥するとともに、架橋反応を進行させ、粘着層を形成する。ここで粘着層11の厚みには特に制限はないが、25〜150μmの範囲が好ましい。
ついで、形成された粘着層の上に、表面が剥離処理された別の剥離フィルムを配置し、貼り合わせることにより、ノンキャリアタイプの粘着フィルムを製造することができる。この際、剥離フィルムの剥離処理された表面が粘着層に接するように配置する。
【0036】
ここで剥離フィルムとしては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類、剥離処理したPETなどが使用される。特にPETからなる基材フィルムの表面に、シリコーン樹脂などを含む剥離成分が塗布されたものが好適に使用される。剥離フィルムの厚みは、通常20〜125μm程度である。
【0037】
こうして製造されたノンキャリアタイプの粘着フィルムを用いて、反射防止フィルム、保護フィルムなどの表面フィルムをフラットパネルディスプレイ、タッチパネルなどのパネル基材の表面に貼着する場合には、粘着層の片面側の剥離フィルムを剥がし、露出した粘着層上に、まず、表面フィルムを貼着する。その後、もう一方の剥離フィルムを剥がし、露出した粘着層上に、パネル基材の表面を密着させればよい。
【0038】
このように本発明のアクリル系粘着剤組成物からなる粘着層により、表面フィルムが貼着されたパネル基材では、粘着層とパネル基材との界面、粘着層と表面フィルムとの界面のいずれにおいても、密着性が非常に優れる。そのため、このパネル基材を高温高湿下におき、パネル基材からアウトガスが発生するなどし、これらの界面に多数の微細な気泡が形成された場合でも、多数の微細な気泡同士の合体が起こりにくい。そのため、透明性、視認性の低下を抑制することができる。
【0039】
なお、本発明のアクリル系粘着剤組成物は、反射防止フィルム、保護フィルムといった表面フィルムの貼着に適しているが、例えば、偏光子フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、導光板、プリズムシート、電磁波シールドフィルム、近赤外線吸収フィルムなどの光学用フィルムなどを貼着する際に使用されてもよく、制限はない。また、これらの材質としてもPETが使用される場合が多いが、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムなどでもよく、制限はない。
パネル基材としては、透明性などの点から、ポリカーボネートや(メタ)アクリル樹脂であるPMMAが使用される場合が多いが、例えば、トリアセチルセルロールなどのセルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などでもよく、制限はない。
また、粘着の対象物は、表面フィルムおよびパネル基材に限定されない。
【実施例】
【0040】
以下、本発明について、具体例を挙げて説明する。
[アクリル共重合体(A)]
表1に示す各モノマー混合物(a)を以下のように共重合して、アクリル共重合体(A1)〜(A6)を製造した。
【0041】
(1)アクリル共重合体(A1)の製造
アクリル酸メチル(MA)40質量部、アクリル酸ブチル(BA)58質量部、アクリル酸(AA)1質量部、2−ヒドロキシルエチルアクリレート(2HEA:アクリル酸2−ヒドロキシエチル)1質量部、酢酸エチル100質量部、過酸化ベンゾイル0.1質量部を反応容器に入れた。ついで、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換し、窒素雰囲気中、攪拌下で、反応容器内の反応溶液を75℃まで昇温し、12時間反応させた。
反応後、反応容器内の液を酢酸エチルで希釈し、固形分25質量%に調整し、ガラス転移温度−31℃、重量平均分子量95万のアクリル共重合体(A1)の溶液を得た。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定を行い、ポリスチレン換算での数値とした。
【0042】
(2)アクリル共重合体(A2)〜(A6)の製造
モノマー混合物(a)の組成を表1に示すように変えた以外は、アクリル共重合体(A1)と同様の方法により、表1に示す重量平均分子量およびガラス転移温度のアクリル共重合体(A2)〜(A5)の溶液を得た。
なお、アクリル共重合体(A6)については、以下のように製造した。
まず、アクリル酸メチル(MA)40質量部、アクリル酸ブチル(BA)58質量部、アクリル酸(AA)1質量部、2−ヒドロキシルエチルアクリレート(2HEA:アクリル酸2−ヒドロキシエチル)1質量部、酢酸エチル100質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.1質量部を反応容器に入れた。ついで、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換し、窒素雰囲気中、攪拌下で、反応容器内の反応溶液を80℃まで昇温し、12時間反応させた。
反応後、反応容器内の液を酢酸エチルで希釈し、固形分25質量%に調整し、ガラス転移温度−31℃、重量平均分子量30万のアクリル共重合体(A6)の溶液を得た。
【0043】
[アクリル共重合体(B)]
表2に示す各モノマー混合物(b)を以下のように共重合して、アクリル共重合体(B1)〜(B8)を製造した。
【0044】
(1)アクリル共重合体(B1)の製造
メタクリル酸メチル(MMA)75質量部、メタクリル酸イソボルニル(IBXMA)25質量部、トルエン100質量部、アゾビスイソブチロニトリル10質量部を反応容器に入れた。ついで、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換し、窒素雰囲気中、攪拌下で、反応容器内の反応溶液を100℃まで昇温し、5時間反応させた。
反応後、反応容器内の液をトルエンで希釈し、固形分30質量%に調整し、ガラス転移温度116℃、重量平均分子量5500のアクリル共重合体(B1)の溶液を得た。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定を行い、ポリスチレン換算での数値とした。
【0045】
(2)アクリル共重合体(B2)〜(B8)の製造
モノマー混合物(b)の組成を表2に示すように変えた以外は、アクリル共重合体(B1)と同様の方法により、表2に示す重量平均分子量およびガラス転移温度のアクリル共重合体(B2)〜(B7)の溶液を得た。
なお、表2中のi−BMAはメタクリル酸イソブチル、CHMAはメタクリル酸シクロヘキシルを意味する。
また、アクリル共重合体(B8)については、モノマー混合物(b)の組成を表2に示すように変えるとともに、アゾビスイソブチロニトリルの量を1質量部とした以外は、アクリル共重合体(B1)と同様の方法によりその溶液を得た。
【0046】
[実施例1]
表3に示す配合により、アクリル系粘着剤組成物を製造した。表中の数値は、固形分の質量部である。
なお、架橋剤(C)には、金属キレート系架橋剤として、川研ファインケミカル社製のアルミニウムトリスアセチルアセトネート(表中、アルミキレートA(W)と表記。)を使用し、エポキシ基を有する架橋剤として、三菱瓦斯化学社製の1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(表中、TETRAD−Cと表記。)を使用した。
ついで、シリコーン樹脂を含む剥離成分により剥離処理された軽剥離タイプの剥離PETフィルム(厚さ38μm)の剥離面に、製造されたアクリル系粘着剤組成物を乾燥後の厚み(形成された粘着層としての厚み)が50μmとなるように塗布し、100℃で溶媒を除去して乾燥するとともに架橋反応させ、粘着層を形成した。
ついで、この粘着層上に、シリコーン樹脂を含む剥離成分により剥離処理された重剥離タイプの剥離PETフィルム(厚み38μm)を剥離面側が粘着層に接するように貼り合わせ、23℃、50%RHで7日間放置し、粘着層の両面に、表面(剥離面)が剥離処理された剥離フィルムが設けられたノンキャリアタイプの粘着フィルムを得た。なお、軽剥離、重剥離とは、剥離しやすさの程度であり、軽剥離は、重剥離よりも剥離しやすいことを意味する。
【0047】
得られた粘着フィルムについて、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
(1)粘着層の透明性
粘着フィルムを50mm×50mmに裁断した後、軽剥離タイプの剥離PETフィルムを剥がし、光学用のPET製表面フィルムを貼着した。その後、これを23℃、50%RHで24時間放置した。その後、重剥離PETを剥がし、厚さ2mmのガラス板に貼り合わせて24時間静置し、透明性評価用の積層体を得た。
次に、光学用のPET製表面フィルム、ガラス板および透明性評価用の積層体について、ヘイズメーター(村上色彩研究所製、HM−65W)でヘイズ値(曇り度)を測定し、下記の式で粘着層のヘイズ値を算出した。
粘着層のヘイズ値=(透明性評価用の積層体のヘイズ値)−(光学用のPET製表面フィルムのヘイズ値+ガラス板のヘイズ値)
得られた粘着層のヘイズ値を以下の3段階で評価した。
○:ヘイズ値 0.1〜0.5
△:ヘイズ値 0.6〜0.9
×:ヘイズ値 1以上
【0048】
(2)耐気泡性
上記(1)の透明性の評価において、「○」の結果が得られたものについて、次のように耐気泡性を評価した。結果を表3に示す。
粘着フィルムを50mm×50mmに裁断した後、軽剥離タイプの剥離PETを剥がし、光学用のPET製表面フィルムを貼着した。その後、これを23℃、50%RHで24時間放置した。その後、重剥離タイプの剥離PETを剥がし、厚さ1mmのポリカーボネート基材または厚さ1mmのPMMA基材(アクリル基材)に貼り合わせて、24時間静置した。
このようにして、粘着層を介して基材表面に光学用のPET製表面フィルムが貼着された積層体を得た。
この積層体を80℃、95%RHで48時間放置した後、23℃、50%RHで24時間放置して、積層体の表面における気泡生成の様子をルーペで観察した。
耐気泡性について、以下の4段階で評価した。
○:直径0.5mm以上の気泡が観察されない。
△:直径0.5mm以上の気泡が部分的に観察される。
×:直径0.5mm以上の気泡が表面のほぼ全面に観察される。
【0049】
[実施例2〜10、比較例1〜8]
表3および4に示す配合により、アクリル系粘着剤組成物を製造した。
そして、実施例1と同様にして粘着フィルムおよび積層体を製造し、同様に評価した。
結果を表3および4に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
表の結果からわかるように、各実施例の粘着層は、透明性が優れ、高温高湿下でも優れた密着性を維持し、耐気泡性が優れていた。なお、実施例6では、アクリル共重合体(A4)を構成するモノマー混合物(a)中のアクリル酸メチル量が好ましい範囲をやや外れているため、粘着層の透明性がやや低下した。また、実施例9では、アクリル共重合体(B4)を構成するモノマー混合物(b)中のメタクリル酸メチル量、環状構造を有するモノマー量が好ましい範囲をやや外れているため、アクリル基材に対する耐気泡性がやや低下した。また、実施例10では、アクリル共重合体(B5)を構成するモノマー混合物(b)中に含まれる環状構造を有するモノマーが、メタクリル酸イソボルニルでなくメタクリル酸シクロヘキシルであるため、アクリル基材に対する耐気泡性がやや低下した。
一方、比較例1では、アクリル共重合体(A5)を構成するモノマー混合物(a)が、アクリル酸メチルを含まないため、アクリル共重合体(A5)とアクリル共重合体(B1)との相溶性が悪く、透明性が悪かった。
比較例2では、アクリル共重合体(B6)を構成するモノマー混合物(b)中に、メタクリル酸メチルが含まれないため、アクリル基材に対する耐気泡性が悪かった。
比較例3では、アクリル共重合体(B7)を構成するモノマー混合物(b)中に環状構造を有するモノマーが含まれず、メタクリル酸メチル量が多いため、透明性が悪かった。
比較例4では、アクリル共重合体(A6)の重量平均分子量が小さいため、粘着層は内部で凝集破壊しやすく、耐気泡性が悪かった。
比較例5では、アクリル共重合体(B8)の重量平均分子量が大きいため、アクリル共重合体(A1)との相溶性が悪く、透明性が悪かった。
比較例6では、アクリル共重合体(B1)が少ないため、耐気泡性が悪かった。
比較例7では、アクリル共重合体(B1)が多いため、アクリル共重合体(A1)とアクリル共重合体(B1)との相溶性が悪く、透明性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸メチルと、アクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルと、これらと共重合可能なカルボキシル基含有モノマーおよびヒドロキシル基含有モノマーとを含むモノマー混合物(a)を共重合した重量平均分子量が50万〜200万のアクリル共重合体(A)と、
メタクリル酸メチルと環状構造を有するモノマーとを含むモノマー混合物(b)を共重合した重量平均分子量が1000〜10000であるアクリル共重合体(B)と、
架橋剤(C)とが配合され、
前記アクリル共重合体(A)100質量部に対して、前記アクリル共重合体(B)を10〜35質量部含むことを特徴とするアクリル系粘着剤組成物。
【請求項2】
前記アクリル酸メチルは、前記モノマー混合物(a)中に、30〜60質量%含まれることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系粘着剤組成物。
【請求項3】
前記メタクリル酸メチルは、前記モノマー混合物(b)中に、50〜90質量%含まれることを特徴とする請求項1または2に記載のアクリル系粘着剤組成物。
【請求項4】
前記環状構造を有するモノマーは、メタクリル酸イソボルニルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系粘着剤組成物。
【請求項5】
前記架橋剤(C)は、金属キレート系架橋剤と、エポキシ基を有する架橋剤とからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系粘着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載されたアクリル系粘着剤組成物からなる粘着層の両面に、表面が剥離処理された剥離フィルムが設けられたことを特徴とする粘着フィルム。

【公開番号】特開2011−219602(P2011−219602A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89528(P2010−89528)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】