説明

アクリル系繊維束の製造方法

【課題】乾湿式紡糸法での吐出糸条の単繊維切れ、絡まり等の発生を抑制することで、糸条走行速度の向上が可能となり、得られる繊維束を安定して高品位の製品を製造可能な、アクリル系繊維束の製造方法を提供する。
【解決手段】紡糸原液を、口金1から一旦空気中に押し出して凝固浴3中に下向きに進入せしめ、方向転換ガイド5で折り返して凝固浴外に引き出す乾湿式紡糸を行ってアクリル系繊維束を得るに際して、凝固浴中で下向きに走行し方向転換ガイドで折り返されて走行する間の糸条と凝固浴槽の槽壁との間に、前記糸条より20〜200mmの範囲で隔てて、仕切板を設置する、アクリル系繊維束の製造方法。又、吐出糸条より20〜200mmの範囲で隔てて、糸条を取り囲むように仕切板4を設置する、あるいは、糸条を挟むように仕切板を設置する、アクリル系繊維束の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の製造に適した、安定して高品位のアクリル系繊維束を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の前駆体繊維などとして用いられるアクリル系繊維束の製造においては、生産効率を高め、そして製造原価を低減させることが重要である。この要求に応えるため、一錘当たりの孔数を増加させた紡糸口金や、口金錘数・糸条数を増加させる方法、更には糸条走行速度を増大させる方法等、多種多様の方法が採用されている。これらの方法のうち、口金一錘当たりの孔数を増加したり、糸条走行速度を増加させることは、大幅な設備投資を伴わずに要求に応えることができる点で大きな利点がある。
【0003】
しかしながら、アクリル系繊維束の製造において、アクリル系ポリマーを含んだ紡糸原液を口金面から一旦空気中に押し出した後、凝固浴中に下向きに吐出し、方向転換ガイドで折り返して凝固浴外に引き出す乾湿式紡糸法を採用する場合、凝固浴中の糸条走行速度を増加させると、得られるアクリル系繊維束の品位が著しく悪化し、糸切れ等の操業性の悪化を伴うことが多い。
【0004】
同様な問題を解決するために、紡糸原液を直接凝固浴中に吐出し凝固浴外に引き出す湿式紡糸法では、紡出糸条と凝固浴底面の間に仕切板を配置する技術が提案されており(特許文献1参照)、それにより、糸条走行速度を高めても凝固浴内で糸条の乱れや、絡まりの原因となる凝固浴液の乱れを抑制することが可能となることが知られている。また、同じく湿式紡糸法において、紡出糸条と凝固浴底面の間に開口を有する整流板を配置する技術によっても、同様の効果を発揮することが知られている(特許文献2参照)。しかしながら、これらの技術は、湿式紡糸法では大きな効果を発揮するが、乾湿式紡糸法においては、単に紡出糸条と凝固浴底面との間に仕切り板や整流板を配置するだけでは、凝固浴液の乱れを十分に抑制することがこれまで不可能であった。この理由として、凝固浴はその組成を一定なものに保つために、槽から一旦排出した液を槽に戻すという循環がなされているが、湿式紡糸法では一般的に、槽に供給される凝固浴液の流入方向が、糸条が吐出される方向と同一方向である。しかしながら、乾湿式紡糸法で糸条が吐出される方向(下向き)と水平方向に凝固浴液を流入させれば、糸条が乱れ、単繊維切れや絡まりを誘発が発生する。乾湿式紡糸法では、一般的に凝固浴液の流入方向は対向(上向き)であることから、図6に示すように、循環のために凝固浴下方向から供給される凝固浴液の流れと、下向きに進行する吐出糸条の周りに随伴する液の流れ、いわゆる随伴流とが、浴内で衝突することで生じる液の乱れや、凝固浴出側の槽壁に衝突して転換した、浴液の流れを糸条が受けるため、糸条の単繊維切れや絡まりを誘発し、糸条走行速度を高める上での障壁となっていた。
【0005】
前記した問題を解決するために、口金と凝固浴中の方向転換ガイドの間に、下向きに走行する糸条と適度な距離を置いて、糸条を取り囲むように整流板を設置する技術が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、かかる技術では整流筒から出た糸条が浴液の乱れを受けるため、前記した問題を解消するには不十分であった。また、図5のように凝固浴中の糸条の一部を、仕切板で仕切る方法も採られきたが、浴液が仕切板を迂回し、随伴流と衝突することで、乱れを発生させ、更に凝固浴出側の槽壁から衝突して転換した浴液の流れを糸条が受けるため、その効果は不十分であった。このように、乾湿式紡糸法において、糸条走行速度を向上させながら、安定して高品位のアクリル系繊維束を製造するためには、吐出糸条の随伴流と凝固浴へ流入する浴液の衝突を遮断し、更には浴中での浴液の乱れを可能な限り、走行する糸条に与えないことが重要であると考えられるが、かかる条件を満たし、乾湿式紡糸法において、糸条走行速度を向上させながら、安定して高品位のアクリル系繊維束を製造する方法は、開示されていなかった。
【特許文献1】特開昭62−33814号公報
【特許文献2】特開平11−229227号公報
【特許文献3】特開平11−350244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述したような従来技術の問題点に鑑み、乾湿式紡糸法において、糸条走行速度を高めつつ、高品位のアクリル系繊維束を安定して製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記目的を達成するために、次の構成を有する。すなわち、紡糸原液を、口金から一旦空気中に押し出して凝固浴中に下向きに進入せしめ、方向転換ガイドで折り返して凝固浴外に引き出す乾湿式紡糸を行ってアクリル系繊維束を得るに際して、凝固浴中で下向きに走行し方向転換ガイドで折り返されて走行する間の糸条と凝固浴槽の槽壁との間に、前記糸条より20〜200mmの範囲で隔てて、仕切板を設置する、アクリル系繊維束の製造法。
【0008】
又、吐出糸条より20〜200mmの範囲で隔てて、糸条を取り囲むように仕切板を設置する、あるいは、糸条を挟むように仕切板を設置する、アクリル系繊維束の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乾湿式紡糸法において、糸条走行速度を向上させても、吐出糸条が凝固浴中で受ける浴液抵抗を減少させることができ、それにより単繊維切れや絡まり等の品位低下要因を減少させることができ、高品位なアクリル系繊維束を短時間のうちに大量に製造することができるようになる。特に、炭素繊維用アクリル系前駆体繊維束を製造するに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明について、以下、より詳細に説明する。
【0011】
本発明において、紡糸原液は、アクリル系重合体が溶媒に溶解されてなる。アクリル系重合体としては、アクリロニトリル(以下、ANと略記する)90重量%以上を重合してなる重合体が好ましく使用される。アクリル系重合体は、AN100重量%を重合してなるホモポリマーであってもよく、ANに他のモノマーを共重合させたコポリマーであってもよい。ANに共重合させるモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、又はこれらのメチルエステル、およびエチルエステル等を採用することができる。
【0012】
紡糸原液に用いる溶媒としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記する)、およびジメチルホルムアミド等を用いることが可能である。紡糸原液におけるアクリル系重合体の濃度は、10重量%以上50重量%以下であることが好ましい。かかる濃度が低すぎると、凝固浴中へ吐出した糸条の単繊維がローラーとの擦過により切断し易くなり、濃度が高すぎると、口金内の圧力が大きくなり、吐出孔がポリマーにより詰まりやすく操業性が悪化することがある。
【0013】
以下、図面を用いて本発明を説明する。図1a〜図1cは、本発明の一態様を例示説明するための乾湿式紡糸装置の概念側面図である。
【0014】
本発明では、通常、25〜30℃、好ましくは27〜29℃に温調された紡糸原液を、口金1から一旦空気中に押し出して、紡糸原液に使用される溶媒と同種の溶媒と水との混合液からなる凝固浴3の中に下向きに進入せしめる。原液温度が低すぎると、原液粘度が高すぎるため、口金からの自由吐出線速度が遅すぎて、口金1から凝固浴液面9との間で単繊維切れが発生することがある。また、原液温度が高すぎると、逆に原液粘度が低すぎるため、口金1から凝固浴液面9との間で単繊維同士の融着による操業性低下を引き起こすことがある。
【0015】
凝固浴3の中に進入せしめた糸条は、方向転換ガイド5で折り返されて、凝固浴出フリーローラー6を介して凝固浴外へ引き取られる。図1a〜図1cにおいて、循環のための浴液が、方向転換ガイド5の下方に位置する凝固浴液流入口7から、上向きに供給されている。
【0016】
ここで、本発明では、吐出糸条の随伴流と凝固浴へ流入する浴液の衝突を遮断し、更には浴中での浴液の乱れを可能な限り、走行する糸条に与えないために、凝固浴中で下向きに走行し方向転換ガイド5で折り返されて走行する間の糸条、いわゆる吐出糸条と凝固浴槽の槽壁との間に、図1aに示すように、前記糸条より20〜200mm、好ましくは50〜200mm、さらに好ましくは50〜100mmの範囲で隔てて、仕切板4を設置する。又は、図1b、図1cに示すように、吐出糸条より20〜200mm、好ましくは50〜200mm、さらに好ましくは50〜100mmの範囲で隔てて、糸条を取り囲むように、あるいは、糸条を挟むように仕切板を設置する。
【0017】
本発明では、方向転換ガイド以降の糸条だけでなく、下向きに走行する段階、折り返し段階および方向転換ガイド以降の段階に渡るまで、流入する凝固浴液と随伴流の衝突を遮断し、更には浴中での浴液の乱れを糸条に与えないことが可能となる。即ち、図1a,b,cの構成であり、図1aは、糸条と凝固浴槽の底部壁面との間に仕切板を設置する。図1cはその糸条と凝固浴槽の反対側にも、同一形状の仕切板4を糸条を挟むように設置するものであり、更に、図1bは糸条を完全に仕切板4で囲うものである。以下、本発明について詳細を述べる。
【0018】
吐出糸条2と仕切板4の距離が小さすぎると、糸条が仕切板に触れるため、単繊維切れが発生し操業性を低下させる要因となり。又、吐出糸条2と仕切板4の距離が大きすぎると、糸条と仕切板の距離が離れすぎているため、糸条が浴液の乱れを受けやすくなり、効果が低下する。なお、吐出糸条2と仕切板4との距離はできる限り等間隔になるように設置することが好ましい。
【0019】
又、仕切板4の始端部は、凝固浴液面9よりも下に0〜30cm離れて位置させるのが好ましい。始端部が、凝固浴液面9よりもあまりに離れて下に位置すると、浴液の遮断効果が不十分であり、効果が低下する。逆に始端部が、凝固浴液面9より上方に突出していると、凝固浴液の循環を阻害し、濃度斑が発生する懸念がある。又、仕切板の終端部は、凝固浴液面よりも下に0〜30cm、より好ましくは0〜10cm離れて位置させるのが好ましい。30cmより下に位置すると、槽壁に衝突し、転換する浴液の流れを受けやすくなることがある方向転換ガイド5以降の、仕切板の長さが不十分であると、浴液の乱れを糸条が受けやすくなるため効果が低下することがある。方向転換ガイド5と仕切板4との距離も、20〜200mm、50〜200mm、さらに好ましくは好ましくは50〜100mmの範囲で隔てるのがよい。又、仕切板4の始端部は、方向転換ガイド5の位置する深さよりも、20〜100cm、より好ましくは60〜90cm、上方の深さに位置させるのが好ましい。20cm未満であると糸条が浴液の乱流を受けやすくなり、効果が低下することがある。
【0020】
又、本発明で用いられる仕切板に、特定孔径の孔が窄孔されていると、吐出糸条が走行する際に仕切板の孔を浴液が通過することで、凝固浴液の濃度斑の発生を抑制する効果がある。
【0021】
孔径は5〜30mmφの円形孔が、仕切板全体に孔間ピッチが10〜30mmとなるよう均一に分布されていることが好ましく、更に好ましくは15〜25mmである。孔間ピッチが小さすぎると、仕切板全体の開孔面積が大きすぎて浴液の遮断効果が小さくなることがあり、孔間ピッチが大きすぎると仕切板全体の開孔面積が小さく、凝固浴液の通過性が悪化する為、浴液の濃度斑が発生し、製糸性が低下することがある。
【0022】
又、吐出糸条2から方向転換ガイド5の間に、特許文献3で提案されるような、下向きに走行する吐出糸条2を適度な距離を置いて取り囲むようにして整流板8を設置することが好ましい。整流板の構成は、使用する口金の形に合わせて、円形・矩形・正方形等に加工することにより糸条走行速度を向上することが可能となる。かかる整流板は、その上端部が液面下0〜30cm、より好ましくは5〜15cmの距離を置いて設置されるのが好ましく、上端部が、凝固浴液面9より上方に突出していると、凝固浴液の循環を阻害し、濃度斑が発生する懸念がある。
【0023】
本発明で用いられる仕切板の材質は特に限定されないが、DMSOなどの溶媒に対して耐腐食性があり長期間経時変化しないものが好ましく、具体的にはステンレス、ポリ四フッ化エチレン樹脂およびアクリル樹脂等が好適である。特に耐久性の点から、ステンレスが好ましい。
【0024】
また、仕切板はその形状を維持するために適度な厚みを有することが求められ、具体的には厚みは0.2〜5.0mmの範囲であることが好ましい。厚みが大きすぎると、多様な構成への加工が困難となり好ましくないことや、重量が増加するために作業負担が大きくなるし、逆に、厚みが小さすぎると、強度的に不十分で変形し易くなる。かかる観点から、仕切板の厚みは0.2〜1.0mmの範囲であることがより好ましい。
【0025】
更に本発明では、用いられる仕切板の表面が梨地加工されていることが好ましい。理由として仕切板表面に付着する気泡が、経時的に大きく成長し、浮上した際に液面を揺らすことで、口金浸漬等のトラブルを誘発するためである。梨地加工を施すことで、気泡が大きく成長する前に仕切板から離れ、液面に浮上するので前記したトラブルを未然に防止することが可能である。又、仕切板にメッキ加工処理を施すことでも、経時的な錆の発生や埃の付着による汚染を防ぐことが可能である。
【0026】
なお、図1aでは、仕切板として、方向転換ガイド5のところで緩やかな曲線を描くように加工されたものを用いているが、仕切板としては、3枚以上の平板で繋ぎ合わせたものを用いても良く、出来る限り緩やかな曲線に近づくように構成し、随伴流を速やかに後方へ流れるようにする。
【0027】
又、図1cの様に、糸条を挟むように仕切板を2枚設置する場合には、仕切板の間で乱流が発生しないように、同一形状の仕切板で、且つ糸条からの距離を合わせて設置することが好ましい。
さらに、図1bでは、完全に糸条を取り囲むように仕切板を設置することでも、同様の効果が得られるが、糸条からの距離は出来る限り等間隔であることが好ましい。このときの仕切板の構成としては、円筒状、角筒状等の形状が用いられる。このとき、仕切板中での乱流発生や、角部での擦れによる単糸切れ等が発生しないよう、仕切板の接合面は出来る限り、丸みを持たせて加工するのが好ましい。
【0028】
このように、前記した仕切板を、凝固浴内に設置すると、図2、3、4に示すように、随伴流と凝固浴下方から流入する浴液との衝突を完全に遮断し、随伴流は、糸条と伴って、凝固浴の出側まで随伴される。又、吐出糸条が凝固浴中で受ける浴液抵抗を減少させることが可能となる。
【0029】
本発明において、凝固浴外に引き取られた凝固糸条は、通常、水洗・浴延伸工程を経て、必要に応じて、例えばアミノシリコーン等を主成分とする油剤を付与し、乾燥緻密化・後延伸工程を経て、アクリル系繊維束とされる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を、実施例により、更に具体的に説明する。
【0031】
尚、実施例中にある、可紡性とは製糸工程での糸条品位を連続的に判別した指標であり、次のようにして測定したものである。すなわち、口金から凝固浴中に吐出され、駆動ロールにより水洗工程へと搬入された糸条を、水洗工程の出側で目視および触診により単繊維切れの個数を1分間測定した値(個/分)である。
(実施例1)
図1aに示す乾湿式紡糸装置(但し、整流板8を用いない)を用いるとともに、紡糸原液として、AN99モル%、イタコン酸1モル%を共重合してなるAN共重合体を20重量%含むDMSO溶液を紡糸原液として用い、一錘当たりの孔数が4,000ホールの口金から、28℃に温調した紡糸原液を、一旦空気中に押し出して、30重量%DMSO水溶液で調整された凝固浴中へ下方向に進入させ、方向転換ガイド5で折り返して凝固浴外に引き出した。糸条と凝固浴槽の槽壁との間には、仕切板4を、糸条からの距離が100mmの間隔となるように設置した。また仕切板4の始端部は液面下15cmの深さで、方向転換ガイド5が位置する深さよりも80cm上方の深さに位置させ、仕切板4の終端部は液面と同一の高さとした。更に、仕切板4としては、その表面に、10mmφの円形孔が孔間ピッチ20mmで全体に均一に窄孔されており、その表面は梨地加工を施したもので、材質がステンレス製、厚み0.5mmのものを使用した。凝固浴外へ引き出された糸条は、駆動ロールにより搬送し、水洗工程へ搬入した。このときの可紡性は0個/分であった。その後、浴延伸工程で延伸させながらアミノシリコーンを主成分とする油剤を付与し、更に乾燥・後延伸工程を経てアクリル系繊維束を得た。このとき、後延伸工程の出側で走行毛羽を目視により3分間測定した結果、1個/分と良好な値を得た。
(実施例2)
仕切板4と糸条との距離を200mmに、仕切板4の始端部の位置を液面下30cmに、仕切板4の終端部の位置を液面下30cmにそれぞれ変更し、更に仕切板4として、その表面に、30mmφの円形孔が孔間ピッチ25mmで全体に均一に窄孔されているものに変更した以外は、実施例1と同様にしてアクリル系繊維束を得た。このときの可紡性は1個/分であり、また、後延伸工程の出側で走行毛羽を目視により3分間測定した結果、2個/分と良好な値を得た。
(実施例3)
仕切板4と糸条との距離を20mmに、仕切板4の始端部、終端部の位置を液面と同一の高さに、それぞれ変更し、更に仕切板4として、その表面に、5mmφの円形孔が孔間ピッチ15mmで全体に均一に窄孔されているものに変更した以外は、実施例1と同様にしてアクリル系繊維束を得た。このときの可紡性は1個/分であり、また、後延伸工程の出側で走行毛羽を目視により3分間測定した結果、1個/分と良好な値を得た。
(実施例4)
さらに、糸条と方向転換ガイド5との間に、逆円錐状に加工された整流板8を液面下10cmに設置した以外は、実施例1と同様にしてアクリル系繊維束を得た。このときの可紡性は0個/分であり、また、後延伸工程の出側で走行毛羽を目視により3分間測定した結果、0個/分と良好な値を得た。
(実施例5)
図1bに示す乾湿式紡糸装置(但し、整流板8を用いない)で、仕切板4を、糸条を取り囲むように、糸条からの距離が100mmの間隔となるように設置した。また仕切板4の始端部は液面下15cmの深さで、方向転換ガイド5が位置する深さよりも80cm上方の深さに位置させ、仕切板4の終端部は液面と同一の高さとした。更に、仕切板4としては、その表面に、10mmφの円形孔が孔間ピッチ20mmで全体に均一に窄孔されており、その表面は梨地加工を施したもので、材質がステンレス製、厚み0.5mmのものを使用した。凝固浴外へ引き出された糸条は、駆動ロールにより搬送し、水洗工程へ搬入した。このときの可紡性は0個/分であった。その後、浴延伸工程で延伸させながらアミノシリコーンを主成分とする油剤を付与し、更に乾燥・後延伸工程を経てアクリル系繊維束を得た。このとき、後延伸工程の出側で走行毛羽を目視により3分間測定した結果、0個/分と良好な値を得た。
(実施例6)
図1cに示す乾湿式紡糸装置(但し、整流板8を用いない)で、仕切板4を糸条と凝固浴槽の槽壁との間に、糸条からの距離が100mmの間隔となるように設置し、さらに反対側にも糸条からの距離が100mmの間隔になるよう仕切板を設置した。両方の仕切板4の始端部は液面下15cmの深さで、方向転換ガイド5が位置する深さよりも80cm上方の深さに位置させ、両方の仕切板4の終端部は液面と同一の高さとした。更に、両方の仕切板4としては、その表面に、10mmφの円形孔が孔間ピッチ20mmで全体に均一に窄孔されており、その表面は梨地加工を施したもので、材質がステンレス製、厚み0.5mmのものを使用した。凝固浴外へ引き出された糸条は、駆動ロールにより搬送し、水洗工程へ搬入した。このときの可紡性は0個/分であった。その後、浴延伸工程で延伸させながらアミノシリコーンを主成分とする油剤を付与し、更に乾燥・後延伸工程を経てアクリル系繊維束を得た。このとき、後延伸工程の出側で走行毛羽を目視により3分間測定した結果、0個/分と良好な値を得た。

(比較例1)
仕切板4と糸条との距離を10mmに変更し、更に仕切板4として、その表面に、35mmφの円形孔が孔間ピッチ5mmで全体に均一に窄孔されているものに変更した以外は、実施例1と同様にしてアクリル系繊維束を得た。その結果、可紡性が5個/分、後延伸工程出側の走行毛羽が22個/分と大幅に悪化する値となった。
(比較例2)
仕切板4と糸条との距離を250mmに変更した以外は、比較例1と同様にしてアクリル系繊維束を得た。その結果、可紡性が5個/分、後延伸出側の走行毛羽が15個/分と大幅に悪化する値となった。
(比較例3)
仕切板を設置しないこと以外は、実施例1と同様にしてアクリル系繊維束を得た。その結果、可紡性が10個/分、後延伸工程では糸切れが多発した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1a】本発明に用いる乾湿式紡糸装置の1例を示す概念図である。
【図1b】本発明に用いる乾湿式紡糸装置の別の1例を示す概念図である。
【図1c】本発明に用いる乾湿式紡糸装置の別の1例を示す概念図である。
【図2】本発明の製造方法において、図1aに示す乾湿式紡糸装置を用いた場合の凝固浴液の流れを示した概念側面図である。
【図3】本発明の製造方法において、図1bに示す乾湿式紡糸装置を用いた場合の凝固浴液の流れを示したの概念側面図である。
【図4】本発明の製造方法において、図1cに示す乾湿式紡糸装置を用いた場合の凝固浴液の流れを示した概念側面図である。
【図5】従来の製造方法において、凝固浴液の流れを示した乾湿式紡糸装置の概念側面図である。
【図6】従来の製造方法において、凝固浴液の流れを示した乾湿式紡糸装置の概念側面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 口金
2 吐出糸条
3 凝固浴
4 仕切板
5 方向転換ガイド
6 凝固浴出フリーローラー
7 凝固浴液流入口
8 整流板
9 凝固浴液面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸原液を、口金から一旦空気中に押し出して凝固浴中に下向きに進入せしめ、方向転換ガイドで折り返して凝固浴外に引き出す乾湿式紡糸を行ってアクリル系繊維束を得るに際して、凝固浴中で下向きに走行し方向転換ガイドで折り返されて走行する間の糸条と凝固浴槽の槽壁との間に、前記糸条より20〜200mmの範囲で隔てて、仕切板を設置する、アクリル系繊維束の製造方法。
【請求項2】
紡糸原液を、口金から一旦空気中に押し出して凝固浴中に下向きに進入せしめ、方向転換ガイドで折り返して凝固浴外に引き出す乾湿式紡糸を行ってアクリル系繊維束を得るに際して、凝固浴中で下向きに走行し方向転換ガイドで折り返されて走行する間の糸条より20〜200mmの範囲で隔てて、糸条を取り囲むように仕切板を設置する、アクリル系繊維束の製造方法。
【請求項3】
紡糸原液を、口金から一旦空気中に押し出して凝固浴中に下向きに進入せしめ、方向転換ガイドで折り返して凝固浴外に引き出す乾湿式紡糸を行ってアクリル系繊維束を得るに際して、凝固浴中で下向きに走行し方向転換ガイドで折り返されて走行する間の糸条より20〜200mmの範囲で隔てて、糸条を挟むように仕切板を設置する、アクリル系繊維束の製造方法。
【請求項4】
前記仕切版を、前記糸条より50〜200mmの範囲で隔てて設置する、請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系繊維束の製造方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−291594(P2007−291594A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76068(P2007−76068)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】