説明

アクリル系重合体の製造方法

【課題】粘着剤に適した分子量を有するアクリル系重合体を、短い重合時間で且つ高い重合転化率で製造することが可能なアクリル系重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体成分を塊状重合させるアクリル系重合体の製造方法であって、
上記単量体成分、イニファーター及び連鎖移動剤を含有する反応性組成物に、活性エネルギー線を照射することを特徴とするアクリル系重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に溶媒を用いない塊状重合によるアクリル系重合体の製造方法に関し、特に粘着剤などに好適に用いられるアクリル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系重合体は、粘着テープ、粘着シートにおける粘着剤層、ホットメルト型粘着剤、ホットメルト型接着剤など、粘着剤として広く用いられている。アクリル系重合体の製造方法としては、従来から(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体成分を塊状重合させる方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アクリル系単量体に100重量部に対して10時間半減期温度が41℃以下の重合開始剤を0.0001〜0.1重量部で添加して重合反応を開始させ、重合開始剤が消費されることによる反応系の自己発熱を利用して反応物の最高温度を100〜140℃の範囲内の温度に到達させることにより、単量体を塊状重合させるアクリル系重合体の製造方法が開示されている。
【0004】
一方、特許文献2には、安定な遊離ラジカルとイニファーターとの存在下で少なくとも1種の単量体をラジカル重合または共重合させる方法が開示されている。この方法では、安定な遊離ラジカルの存在によって重合または重合時のイニファーターの性能が大幅に改質され、高収率で多分散性が低いポリマーまたはコポリマーが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4270480号公報
【特許文献2】特開平10−182705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
粘着剤として用いられるアクリル系重合体は、分子量が高すぎると粘度が高くなり塗工時などの作業性が低下する恐れがあり、分子量が低すぎると粘着剤とした際に凝集力が低下して接着性や高温雰囲気下での保持力が低下する恐れがある。このような観点から、アクリル系重合体の重量平均分子量Mwは、8万〜100万であるのが好ましい。したがって、アクリル系重合体の製造には、粘着剤に適した特性を有するように分子量を制御できることが強く求められている。
【0007】
しかしながら、特許文献1のアクリル系重合体の製造方法では、自己発熱を利用して重合体を製造しているため、反応系内の温度上昇が一定にならず、得られる重合体の分子量制御が困難になるという問題がある。さらに、引用文献1の実施例2では、冷却剤として25℃の2−エチルヘキシルアクリレートおよびアクリル酸を添加して反応系の温度を100℃以下まで冷却することにより、ポリマー分50%の部分重合シロップが得られている。一般的に工業的な製造方法ではポリマー分50%では歩留まりが低く、したがって上記方法では塊状重合により得られるコストメリットが小さく、重量平均分子量Mwが8万〜100万のアクリル系重合体の製造には適していない。
【0008】
また、特許文献2の方法において粘着剤に適した分子量のアクリル系重合体を製造しようとする場合、反応時間が10時間以上と長くなり、製造効率が悪いといった問題がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、粘着剤に適した分子量を有するアクリル系重合体を、短い重合時間で且つ高い重合転化率で製造することが可能なアクリル系重合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体成分を塊状重合させるアクリル系重合体の製造方法であって、
上記単量体成分、イニファーター及び連鎖移動剤を含有する反応性組成物に、活性エネルギー線を照射することを特徴とする方法により上記課題を解決する。
【0011】
以下に、本発明の方法における好適な態様を列挙する。
(1)イニファーターが、N,N,N',N'−テトラエチルチウラムジスルフィド、及び/又はジエチルジチオカルバミン酸ベンジルである。
(2)反応性組成物が、イニファーターを、単量体成分100重量部に対して、0.001〜0.5重量部含有する。
(3)連鎖移動剤が、ラウリルメルカプタン、及び/又はメルカプト1,2−プロパンジオールである。
(4)反応性組成物が、連鎖移動剤を、単量体成分100重量部に対して、0.01〜0.5重量部含有する。
(5)重合反応開始時から180分までの最大反応速度定数Kmaxが0.05〜0.60 L1/2・mol-1/2・s-1である。
(6)反応時間420分経過した時の重合転化率が70重量%以上である。
(7)アクリル系重合体の重量平均分子量Mwが8万〜60万である。
(8)アクリル系重合体の130℃における溶融粘度が、50Pa・s以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体成分を塊状重合させるアクリル系重合体の製造方法において、イニファーター及び連鎖移動剤を組み合わせて用いることを特徴とする。このような本発明の方法では、重合反応を安定に進行させることが可能となることで重合度(分子量)が制御されたアクリル系重合体が高い重合転化率で得られ、さらに重合を促進させることが可能となることで重合時間を短縮させることができる。したがって、本発明の方法によれば、粘着剤に適した所望の重量平均分子量Mwを有する、特に重量平均分子量Mwが8万〜60万であるアクリル系重合体を、短い反応時間で且つ高い重合転化率で製造することが可能となる。このようなアクリル系重合体によれば、接着性、塗工性、耐熱性、及び凝集力に優れた接着剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体成分、イニファーター及び連鎖移動剤を含有する反応性組成物に、活性エネルギー線を照射することにより、上記単量体成分を塊状重合させる。
【0014】
なお、本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0015】
(単量体成分)
反応性組成物に用いられる単量体成分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする。ここで、「主成分」とは、単量体成分の中で最も多重量を占めることを意味する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単量体成分の全量に対して50重量%以上であるのが好ましい。
【0016】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルには、好ましくはアルキル基の炭素数が1〜18個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシルなどが挙げられる。なかでも、得られる(メタ)アクリル系共重合体の粘着性を考慮すると、アクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、及びアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは一種で又は二種以上を混合して使用できる。
【0017】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのみを単量体成分として用いてもよいが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これと共重合可能な他の単量体を併用してもよい。共重合可能な単量体の代表的な例として、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基を含有する単量体、酢酸ビニル等のビニルエステル、スチレン等のスチレン系単量体、アクリロニトリル等のシアノ基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリン等のアミド基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、エポキシ基含有単量体などが挙げられる。なかでも、ヒドロキシル基含有単量体が好ましい。ヒドロキシル基含有単量体として、具体的には、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルが好ましい。ヒドロキシル基含有単量体であれば、アクリル系重合体を含む粘着剤を粘着テープ又は粘着シートの粘着剤層として用いた場合に、アクリル系重合体を架橋することができるので粘着剤の凝集力を高めることができる。
【0018】
共重合可能な単量体の使用量は、得られるアクリル系重合体の粘着性を考慮すると、単量体成分の全量に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは0.5〜10重量%、特に好ましくは0.5〜5重量%とするのが好ましい。
【0019】
(イニファーター)
本発明においてイニファーターとは、ラジカル連鎖移動による重合停止機能を有するラジカル重合開始剤のことであり、紫外線などの活性エネルギーを受けることによって重合開始能を有する活性ラジカルと、連鎖移動可能であって一旦、連鎖移動した後、再度、解離可能な比較的安定なラジカルとを発生するものをいう。
【0020】
イニファーターとしては、例えば、N,N,N',N'−テトラエチルチウラムジスルフィド、N,N,N',N'−テトラメチルチウラムジスルフィド、N,N'−ジエチル−N,N'−ビス(2−ヒドロキシエチル)チウラムジスルフィド、N,N'−ビス(N−(2−フタルイミドエチル)ピペラジンチウラムジスルフィド、N,N−ジメチルチウラムジスルフィド、N,N'−ジエチルチウラムジスルフィド、ジエチルジチオカルバミン酸ベンジル、p−キシレンビス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)、p−キシレンビス(N,N−ジメチルジチオカーバメート)、n−ブチル−N,N−ジメチルジチオカーバメート、ベンジルジチオカーバメート、及びベンジル−N,N−ジメチルジチオカーバメートなどが挙げられる。なかでも、重合反応を制御して所望の分子量を有するアクリル系重合体の製造を容易にすることから、N,N,N',N'−テトラエチルチウラムジスルフィド、及びジエチルジチオカルバミン酸ベンジルが好ましく挙げられる。なお、これらのイニファーターは単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0021】
反応性組成物におけるイニファーターの含有量は、単量体成分100重量部に対して、好ましくは0.001〜0.5重量部、特に好ましくは0.01〜0.15重量部である。イニファーターの含有量が0.001重量部未満であるとアクリル系重合体が得られない恐れがある。また、イニファーターの含有量が0.5重量部を超えると、反応時間が長くなるだけでなく、粘着剤の凝集力が不足するために、アクリル系重合体を含む粘着剤を粘着シート等の粘着剤層として用いた場合に、高温雰囲気下での粘着剤層の保持力が低下する恐れがある。
【0022】
(連鎖移動剤)
反応性組成物に用いられる連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、メルカプト1,2―プロパンジオール、グリシジルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、メルカプト酢酸、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸メトキシブチル、エチレングリコールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸ドデシル、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、トリメリロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、チオリンゴ酸、2−メルカプトプロピオン酸、コハク酸、及び2,3−ジメチルカプト−1−プロパノールなどが挙げられる。なかでも、重合を促進させて反応時間をより短くすることができることから、ラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、及びメルカプト1,2―プロパンジオールが好ましく挙げられる。なお、連鎖移動剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0023】
反応性組成物における連鎖移動剤の含有量は、単量体成分100重量部に対して、好ましくは0.001〜0.5重量部、特に好ましくは0.01〜0.5重量部である。連鎖移動剤の含有量が0.001重量部未満であると、重合を促進させる効果が低くなり、反応時間を短くすることができない恐れがある。また、連鎖移動剤の含有量が0.5重量部を超えると粘着剤の凝集力が不足するため、アクリル系重合体を含む粘着剤を粘着シート等の粘着剤層として用いた場合に、高温雰囲気下での粘着剤層の保持力が低下する恐れがある。
【0024】
(塊状重合)
本発明の方法では、上述した反応性組成物に活性エネルギー線を照射することにより、単量体成分を重合させる。単量体成分の重合は、実質的に溶媒を用いない塊状重合により行う。したがって、反応性組成物に溶媒を添加しないことが好ましい。
【0025】
活性エネルギー線を照射する際、反応性組成物の温度は、好ましくは20〜100℃、より好ましくは40〜95℃、特に好ましくは50〜90℃である。反応性組成物の温度が20℃未満の場合には、反応速度が遅くなる恐れがある。また、反応性組成物の温度が100℃を超える場合には、急激に反応が進行して熱架橋が発生したり、重合の温度制御が困難になる恐れがある。
【0026】
反応性組成物を加熱する方法としては、特に限定されず、オイルバスやホットプレートなどの従来の加熱手段の他、遠赤外線を照射する方法などが用いられる。
【0027】
本発明の方法では、まず単量体成分及び連鎖移動剤を含む混合物を調製した後、前記混合物を好ましくは20〜100℃、より好ましくは40〜95℃、特に好ましくは50〜90℃に加熱した後に、前記混合物にイニファーターを添加し、これにより得られた反応性組成物を上記加熱温度に維持しつつ、反応性組成物に活性エネルギー線を照射するのが好ましい。これにより、重合反応をより高く制御し、所望の分子量を有するアクリル系重合体が得られる。
【0028】
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、α線、β線、及びγ線などが挙げられる。なかでも、波長領域が200〜450nmの紫外線を用いるのが好ましい。活性エネルギー線を照射する光源としては、特に限定されず、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、蛍光灯、太陽光、電子線照射装置などが挙げられる。これらは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0029】
反応性組成物に照射する活性エネルギー線の照射強度は、好ましくは0.005〜5mW/cm2、特に好ましくは1〜5mW/cm2である。このような照射強度で活性エネルギー線を照射することにより、安定した重合反応を迅速に進行させることができ、所望の分子量を有するアクリル系重合体を短時間で得ることが可能となる。
【0030】
反応性組成物に活性エネルギー線を照射する時間は、好ましくは180〜500分、特に好ましくは300〜450分である。活性エネルギー線の照射時間が180分未満の場合には充分な重合転化率を得ることができない恐れがある。また、活性エネルギー線の照射時間が500分を超える場合には、熱架橋が発生する恐れがある。
【0031】
本発明の方法では、最大反応速度定数Kmaxを0.05〜0.6 L1/2・mol-1/2・s-1となるように重合反応を制御するのが好ましい。
【0032】
ここで、反応速度定数Kとは、下記式(1)で定義される。
K=kp(f×kd/kt)1/2 (1)
本発明における最大反応速度定数Kmaxとは、重合反応開始時から180分経過時までの各時間における反応速度定数のうちの最大の反応速度定数を意味し、下記式(2)を積分することにより得られる下記式(3)において、イニファーター濃度を一定と仮定した場合に算出される値である。
Rp=−d[M]/dt=K[M][I]1/2 (2)
−ln[M]/[M]0=K[I]1/2・t (3)
【0033】
なお、上記式(3)において、[M]/[M]0は重合転化率から求めることができる。すなわち、重合転化率=([M]0−[M])/[M]0=1−[M]/[M]0であるから、上記式(3)は下記式(4)と表すことができる。
−ln(1−重合転化率)=K[I]1/2・t (4)
【0034】
上記式(1)〜(4)における各符号は以下の意味を有する。
Rp:重合速度
[M]:単量体濃度(mol/L)
[M]0:単量体初期濃度(mol/L)
[I]:イニファーター濃度(mol/L)
t:重合反応開始時からの経過時間(秒)
f:イニファーター効率
kd、kp、ktは、それぞれ次の反応の速度定数を表す。
kd: I→2I
kp:Mn+M→Mn+1
kt:Mm+Mn→Mm+n、又は、Mm+Mn
Iはイニファーターを表し、Mは単量体を表す。
【0035】
ここで、重合転化率は、重合反応開始から30分、60分、120分、及び180分経過した時点でそれぞれ測定する。重合転化率の測定は、次の方法により行う。活性エネルギー線の照射開始時点から30分を経過した時に、活性エネルギー線が照射されている反応性組成物から所定量の反応物を採取し、この反応物の重量A(g)を測定した後、140℃の乾燥オーブン中で2時間以上乾燥させることにより液体分を除去して、さらに重量が減少しないことを確認した後、残存した固形分の重量B(g)を測定し、下記式により重合反応開始から30分経過した時の重合転化率を算出することができる。
重合転化率(重量%)=(B/A)×100
【0036】
また、活性エネルギー線の照射開始時点から60分、120分、及び180分経過した時で、活性エネルギー線が照射されている各反応性組成物から所定量の反応物を採取した以外は上記と同様にして、活性エネルギー線の照射開始から60分、120分、及び180分経過した時の重合転化率をそれぞれ算出する。
【0037】
本発明の方法において、重合反応開始時から180分までの最大反応速度定数Kmaxを、0.05〜0.6 L1/2・mol-1/2・s-1とすることにより、安定した重合反応を迅速に進行させることができ、所望の分子量を有するアクリル系重合体を短時間で得ることが可能となる。最大反応速度定数Kmaxが0.05 L1/2・mol-1/2・s-11未満であると、反応時間が長くなり、製造効率が悪化する恐れがある。また、最大反応速度定数Kmaxが0.6L1/2・mol-1/2・s-1を超えると、急激に反応が進行して熱架橋が発生したり、重合系内の温度制御が困難になる恐れがある。
【0038】
本発明の方法では、上述した通り、イニファーター及び連鎖移動剤を組み合わせて用いることにより安定した重合反応を迅速に進めることができ、したがって単量体成分の重合転化率を高くすることが可能となる。具体的には、重合反応開始から180分経過した時における単量体成分の重合転化率を50重量%以上とすることができる。さらに、重合反応開始から420分経過した時における単量体成分の重合転化率を70重量%以上とすることができる。
【0039】
本発明において重合反応開始時とは、反応性組成物に活性エネルギー線が照射された時点を意味する。
【0040】
(アクリル系重合体)
本発明の方法により得られるアクリル系重合体は、重合度が制御されていることにより、所望の分子量、特に粘着剤として用いられる際に好適な重量平均分子量、分子量分布及び溶融粘度を有する。
【0041】
アクリル系重合体の重量平均分子量Mwは、好ましくは8万〜60万、特に好ましくは10万〜40万である。アクリル系重合体の重量平均分子量が8万未満であると、粘着剤の凝集力が不足するため、アクリル系重合体を含む粘着剤を粘着シート等の粘着剤層として用いた場合に、高温雰囲気下での粘着剤層の保持力が低下する恐れがある。また、アクリル系重合体の重量平均分子量が60万を超えると、溶融粘度が上昇するため粘着剤をホットメルト塗工する際の作業性が低下する恐れがある。
【0042】
また、アクリル系重合体の分子量分布[重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)]は、好ましくは3.0以下、特に好ましくは1〜2.9である。このような分子量分布を有するアクリル系重合体からなる粘着剤を粘着シート等の粘着剤層として用いた場合に、高温雰囲気下であっても長時間に亘り粘着剤層が高い保持力を維持することができる。アクリル系重合体における重量平均分子量や分子量分布は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分の種類や割合、イニファーターの種類や量、重合条件(反応温度、反応時間、活性エネルギー量等)等を適宜選択することにより調整できる。
【0043】
アクリル系重合体の130℃における溶融粘度は、好ましくは50Pa・s以下、特に好ましくは1〜30Pa・sである。アクリル系重合体の溶融粘度が50Pa・sを超えると、ホットメルト塗工する際の塗工作業性が低下しやすい。また、アクリル系重合体の溶融粘度が低すぎると、粘着剤の凝集力が不足するため、アクリル系重合体を含む粘着剤を粘着シート等の粘着剤層として用いた場合に、高温雰囲気下での粘着剤層の保持力が低下する恐れがある。
【0044】
(粘着剤)
本発明の方法により得られるアクリル系重合体は、粘着剤、特にホットメルト型粘着剤として好ましく用いられる。本発明のアクリル系粘着剤は、粘着テープ、粘着シートにおける粘着剤層などとして用いられる。アクリル系粘着剤には、アクリル系重合体が用いられ、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。例えば、粘着剤の粘着性を調整するため、公知の粘着付与樹脂(例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン系樹脂など)を配合してもよい。本発明のアクリル系重合体を紫外線硬化型粘着剤に用いる場合には、前記粘着剤に光開始剤(例えば、ベンゾフェノン及びその誘導体)を配合してもよい。また、可塑剤や炭酸カルシウム、微粉末シリカなどの充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、架橋剤、酸化防止剤などの公知の各種添加物を配合することもできる。これらの添加剤の使用量は、いずれもアクリル系粘着剤に適用される通常の量でよい。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0046】
(実施例1)
攪拌機、冷却器、温度計及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、アクリル酸2―エチルヘキシル(日本触媒社製)94重量部、メタクリル酸メチル(日本触媒社製)3重量部、アクリル酸2−ヒドロキシルエチル(和光純薬社製)3重量部を含む単量体成分100重量部、連鎖移動剤としてメルカプト1,2―プロパンジオール(和光純薬社製)0.1重量部を投入して、均一に混合することにより混合物を得た。
【0047】
得られた混合物を、窒素ガスを用いて30分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ内を窒素ガスで置換し攪拌しながらホットプレートにて混合物が50℃になるまで昇温させた。混合物が50℃に到達した時点で、単量体成分100重量部に対して、イニファーターとしてジエチルジチオカルバミン酸ベンジル(東京化成社製)0.13重量部を加えて反応性組成物を得、この反応性組成物の温度を50℃に維持しつつ反応性組成物にメタルハライドランプ(紫外線照度計:UIT−101ウシオ電機社製)により波長365nmの紫外線を2mW/cm2の照射強度で420分間照射することにより塊状重合させ、アクリル系重合体を得た。
【0048】
(実施例2)
連鎖移動剤の量を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてアクリル系重合体を得た。
【0049】
(比較例1)
連鎖移動剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にしてアクリル系重合体を得た。
【0050】
(実施例3)
攪拌機、冷却器、温度計及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、アクリル酸2―エチルヘキシル(日本触媒社製)94重量部、メタクリル酸メチル(日本触媒社製)3重量部、アクリル酸2−ヒドロキシルエチル(和光純薬社製)3重量部を含む単量体成分100重量部、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタン0.01重量部を投入して、均一に混合することにより混合物を得た。
【0051】
得られた混合物を、窒素ガスを用いて30分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ内を窒素ガスで置換し攪拌しながらホットプレートにて混合物が90℃になるまで昇温した。混合物が90℃に到達した時点で、単量体成分100重量部に対して、イニファーターとしてN,N,N’,N’−テトラエチルチウラムジスルフィド(三新化学社製 サンセラーTET)0.02重量部を加えることにより反応性組成物を得、この反応性組成物の温度を90℃に維持しつつ反応性組成物にメタルハライドランプ(紫外線照度計:UIT−101ウシオ電機社製)により波長365nmの紫外線を2mW/cm2の照射強度で420分間照射することにより塊状重合させ、アクリル系重合体を得た。
【0052】
(実施例4)
連鎖移動剤の量を表1の通りに変更した以外は、実施例3と同様にしてアクリル系重合体を得た。
【0053】
(比較例2)
連鎖移動剤を用いなかった以外は、実施例3と同様にしてアクリル系重合体を得た。
【0054】
(評価試験)
上記塊状重合における紫外線照射開始から180分経過した時の重合転化率、420分経過した時の重合転化率を以下の手順にしたがって測定した。さらに、上記の通りにして得られたアクリル系重合体について、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)、及び130℃における溶融粘度を以下の手順にしたがって測定した。結果をまとめて表2に示す。また、上記塊状重合における紫外線照射開始から180分経過した時の最大反応速度定数Kmaxを併せて表2に示す。
【0055】
(重合転化率)
紫外線照射開始から180分経過した時で、紫外線が照射されている反応性組成物から所定量の反応物を採取し、この反応物の重量A(g)を測定した後、140℃の乾燥オーブン中で2時間以上乾燥させることにより液体分を除去して、さらに重量が減少しないことを確認した後、残存した固形分の重量B(g)を測定し、下記式により紫外線照射開始から180分経過した時の重合転化率を算出した。
重合転化率(重量%)=(B/A)×100
【0056】
また、紫外線照射開始から420分経過した時に紫外線が照射されている反応性組成物から所定量の反応物を採取した以外は上記と同様にして、紫外線照射開始から420分経過した時の重合転化率を算出した。
【0057】
(重量平均分子量及び分子量分布)
アクリル系重合体の重量平均分子量及び分子量分布は下記の方法により測定した。カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行い、ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn))を測定した。
【0058】
(溶融粘度)
アクリル系重合体の130℃における溶融粘度は、ブルックフィールド社製B型粘度計(型式RVDV−II+Pro)スピドールNo.4を用いて、JIS K6862に準処して測定した。
【0059】
【表1】


【0060】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体成分を塊状重合させるアクリル系重合体の製造方法であって、
上記単量体成分、イニファーター及び連鎖移動剤を含有する反応性組成物に、活性エネルギー線を照射することを特徴とするアクリル系重合体の製造方法。
【請求項2】
イニファーターが、N,N,N',N'−テトラエチルチウラムジスルフィド、及び/又はジエチルジチオカルバミン酸ベンジルであることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項3】
反応性組成物が、イニファーターを、単量体成分100重量部に対して、0.001〜0.5重量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項4】
連鎖移動剤が、ラウリルメルカプタン、及び/又はメルカプト1,2―プロパンジオールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項5】
反応性組成物が、連鎖移動剤を、単量体成分100重量部に対して、0.001〜0.5重量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項6】
最大反応速度定数Kmaxが0.05〜0.60 L1/2・mol-1/2・s-1であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項7】
反応開始から420分経過した時の重合転化率が70重量%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項8】
アクリル系重合体の重量平均分子量Mwが、8万〜60万であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のアクリル系重合体の製造方法。
【請求項9】
アクリル系重合体の130℃における溶融粘度が、50Pa・s以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアクリル系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2011−219528(P2011−219528A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86913(P2010−86913)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】