説明

アクリル酸の製造方法

プロパンを分子状酵素により酸化してアクリル酸を製造するプロセスにおいて、工業的規模で高い生産性で安定してアクリル酸を製造することの可能なプロセスが提供される。該プロセスは、反応生成ガスからアクリル酸を回収して得られる未反応プロパン含有ガスを、該ガス中の二酸化炭素の少なくとも一部を除去したのち、再循環ガスとして再使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロパンを分子状酸素により接触気相酸化してアクリル酸を製造する方法に関し、更に詳しくは、プロパンを分子状酸素の存在下に酸化脱水素することによりプロピレンを生成させ、得られたプロピレンを接触気相酸化することによって、高い生産性でかつ安定してアクリル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸の工業的製造方法としては、プロピレンの分子状酸素による接触気相酸化法が広く採用されている。特に、プロピレンを接触気相酸化してアクロレインを生成させる第一酸化工程と、得られたアクロレインを接触気相酸化してアクリル酸を生成させる第二酸化工程とからなる二段酸化法が主流である。
【0003】
アクリル酸は、そのエステルおよびポリマーなどの原料として広く用いられており、重要な工業製品である。近年、アクリル酸を原料として製造される高吸水性樹脂の需要が増大し、それに伴ってアクリル酸の需要も増大している。
【0004】
高吸水性樹脂とは、アクリル酸および/またはその塩を基本単量体(好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上)とし、さらに0.001〜5モル%(アクリル酸に対する値)程度の架橋剤および0.001〜2モル%(アクリル酸に対する値)程度のラジカル重合開始剤を用いて架橋重合させ、乾燥し、粉砕することにより得られる、架橋構造を有した水膨潤性水不溶性のポリアクリル酸であり、自重の3倍以上、好ましくは10〜1000倍の純水或いは生理食塩水を吸水し、水溶性成分(水可溶分)が好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下の水不溶性ヒドロゲルを生成するものをいう。
【0005】
一方、原料であるプロピレンはポリプロピレン、アクリロニトリル等の原料でもあり、その需要は年々増加している。その結果、アクリル酸の原料としてのプロピレンの供給が追いつかず、プロピレン不足になる可能性が想定される。これを解決するため、近年、安価で容易に入手可能なプロパンを原料とするアクリル酸の製造方法の検討が増加している。
【0006】
プロパンを原料としたアクリル酸の製法としては、プロパンの酸化により直接アクリル酸を製造する方法や、プロパンを単純脱水素あるいは酸化脱水素してプロピレンを生成させ、得られたプロピレンから二段酸化法によりアクリル酸を製造する方法など、種々の提案がなされているが、いずれも、工業的規模で実施するには未だ十分ではなく改善が望まれている。
【0007】
例えば、プロパンの酸化脱水素によりプロピレンを生成させ、得られたプロピレンの二段酸化によりアクリル酸を製造する方法については、酸化脱水素反応工程でのプロピレン選択率を高く維持するために、プロパン転化率を比較的低く抑え、引き続き未反応プロパンの存在下に、生成したプロピレンからアクロレインを経てアクリル酸を生成させた後、未反応のプロパンを再循環して使用する方法など、種々の検討がされている。
【0008】
特許文献1には、酸素源として空気を用いると空気中の含有窒素が流出ガスの再循環に悪影響を及ぼす可能性があるため、少なくとも90%以上の酸素を含む酸素源の使用が好ましいことが記載されている。
【0009】
一方、特許文献2では、供給する酸素源として空気を用い、再循環するガス中に含有される分子状窒素の少なくとも一部を分離する方法が提案されており、また、特許文献3および特許文献4では、供給する酸素源として窒素含量が空気より小さく、酸素含量が空気より大きい変性空気を用い、再循環するガス中に含有される分子状窒素の少なくとも一部を分離する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2000−502719号公報
【特許文献2】特表2002−523387号公報
【特許文献3】特表2002−523389号公報
【特許文献4】特表2002−523390号公報
【発明の概要】
【0011】
しかしながら、これらの方法は、工業規模での実施に当たっては未だ十分とは言えず、改善されるべき点が残されている。
【0012】
特表2000−502719号公報の方法では、酸素供給源のみに着目されているにすぎない。このような方法では、十分の改善は得られない。何故なら、再循環ガス中には未反応プロパン以外に酸化反応での副生成物が含まれており、それらは再循環することによって徐々に反応系内に蓄積され、そのために、反応系内のガス量やガス組成が徐々に変化する結果となり、安定した反応ができなくなる。また、特表2002−523387号公報、特表2002−523389号公報及び特表2002−523390号公報の方法では、再循環ガスから窒素を除去しているものの、副反応生成物を除去しないため、副生成物が徐々に反応系内に蓄積されて、反応ガス組成の変化が起こる。また、反応ガス中には窒素が含まれているため反応系内の流通ガス量が増大し、その結果、反応器等の設備が大きくなることや、送風用ブロワーでの消費エネルギーが増大するなどの問題がある。
【0013】
本発明は、プロパンを原料としてアクリル酸を製造するに際し、工業的規模で高い生産性で安定してアクリル酸を製造することが可能なプロセスの提供を目的とする。
【0014】
本発明者らは、プロパンを分子状酸素により接触気相酸化してアクリル酸を製造するプロセスにおいて、反応生成ガスからアクリル酸を回収して得られる未反応プロパン含有ガスを再循環ガスとして再使用する際に、該再循環ガス中の二酸化炭素の少なくとも一部を除去することによって、上記課題が解決できることを見出した。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明によれば、再循環ガス中の二酸化炭素量を制御する結果として、安定して最適な反応条件を得ることができ、原料プロパンを有効利用することができ、比較的コンパクトな設備を用いて少ないエネルギー消費で運転することができ、従って、高い生産性でアクリル酸を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によれば、その好ましい実施態様として、以下の工程(a)〜(f):
(a)プロパンおよび分子状酸素を含有する原料混合ガスをプロピレン合成域に通過させて、未反応プロパンおよびプロピレンを含有する第1流れを形成する酸化脱水素工程、
(b)該第1流れをアクロレイン合成域に通過させて、アクロレインを含有する第2流れを形成する第1酸化工程、
(c)該第2流れをアクリル酸合成域に通過させて、アクリル酸を含有する第3流れを形成する第2酸化工程、
(d)該第3流れを、アクリル酸を含有する液体流れと、未反応プロパンおよび二酸化炭素を含有するガス状の第4流れとに分離するアクリル酸回収工程、
(e)該第4流れから二酸化炭素の少なくとも一部を除去し、未反応プロパンを含有する第5流れを形成する二酸化炭素除去工程、および
(f)該第5流れの少なくとも一部を再循環ガスとして再使用する循環工程、
から成ることを特徴とする、プロパンからのアクリル酸の製造方法が提供される。
【0017】
酸化脱水素工程
本発明において、プロパンの酸化脱水素工程は、気相中で分子状酸素を用いて、均一系および/または不均一系触媒の存在下に実施することができる。分子状酸素の供給源としては、空気をそのまま用いることも可能であるが、好ましくは、空気から窒素を選択的に除去するなどすることにより酸素濃度を空気の酸素濃度(21容量%)よりも高めた変性空気を用いるのがよい。例えば酸素濃度が90容量%以上の変性空気を用いることが好ましく、更に有利には酸素濃度が98容量%以上の変性空気を用いることが好ましい。可能であれば、純酸素を用いるのが最も好ましい。
【0018】
また、本発明のプロパンの酸化脱水素工程においては、水蒸気は必須ではないが、ある程度含有させることが好ましい。その際、水蒸気の供給方法は特に限定されるものではない。
【0019】
プロパンの酸化脱水素によるプロピレンの生成に用いられる触媒は、当該反応に有効な触媒であれば特に限定はされず、任意の触媒を用いることができる。例えば、Co−Mo系酸化物触媒(米国特許第4131631号公報)、V−Mg系酸化物触媒(米国特許第4777319号公報)、Ni−Mo系酸化物触媒(米国特許第5063032号公報)、CeO/CeF系触媒(中国特許公開第1073893号公報)およびMn系酸化物触媒(特開2004−141764号公報)等が使用可能である。
【0020】
プロパンの酸化脱水素工程で使用する反応器については、特に限定されるものではなく、任意の反応器を用いることができる。有利には多管式固定床型反応器であるが、移動床型反応器や流動床型反応器を用いることも可能である。また、反応器は1つであっても、2つ以上であっても構わない。この場合、分子状酸素含有ガスを各反応器それぞれに導入することも可能である。
【0021】
プロパンの酸化脱水素によりプロピレンを生成する反応条件は、以下の条件を目安に適宜設定される。一般にプロパンからプロピレンへの酸化脱水素反応においては、プロパン転化率を高めるとプロピレン選択率が大きく低下する傾向にあり、経済性の点からできるだけプロピレン選択率を高く維持する必要がある。一方、プロピレン選択率を高めるためにはできるだけプロパン転化率を低く抑える必要があるが、あまりプロパン転化率を低くすると、再循環ガスの量が膨大になり、その結果、未反応のプロパンを含む再循環ガスの一部を反応系外にパージする必要があるなど、生産性の面や、経済面から大きな損失となる。プロパン転化率は、約5〜50モル%、好ましくは10〜40モル%が適当であり、プロピレン選択率は約50〜98モル%、好ましくは65〜98モル%が適当である。
【0022】
プロパンの酸化脱水素によるプロピレンの生成における反応温度および空間速度は、上記条件を満たすものであれば特に限定されるものではなく、使用する触媒の性能が最大限に発揮できる反応条件を設定すればよい。
【0023】
第1酸化工程
プロパンの酸化脱水素工程で得られたプロピレンを含有する第1流れをアクロレイン合成域に通過させ、プロピレンからアクロレインを生成する第1酸化工程では、特定の触媒
に限られることなく、プロピレンからアクロレインへの転化に有効な触媒をいずれも使用することができる。例えば、特公昭47−42241号公報、特開昭48−119346号公報などに記載のMo−Bi−Fe系酸化物触媒が好適に使用できる。
【0024】
触媒の形状についても特に限定されるものではない。例えば、多管式固定床型反応器を用いる場合には、ペレット状、球状、円柱状、リング状またはタブレット状に、触媒活性成分を成形した成形触媒の形態で、あるいは、触媒活性成分を上記の形状のアルミナ、シリカ−アルミナ等の不活性担体に担持させた担持触媒の形態で、それぞれ使用することができる。
【0025】
アクロレイン合成域に導入される反応ガスは、通常、プロピレンが5〜20容量%、好ましくは7〜15容量%、分子状酸素が8〜40容量%、好ましくは12〜30容量%、プロパンが5〜70容量%、好ましくは10〜60容量%、二酸化炭素が3〜40容量%、好ましくは5〜30容量%であり、プロパンと二酸化炭素との和が20〜80容量%、好ましくは30〜70容量%という組成を有する。水蒸気は3〜50容量%、好ましくは5〜40容量%であって、水蒸気のプロピレンに対するモル比(水蒸気/プロピレン)は0.5〜8.0、好ましくは0.6〜5.0である。また、分子状酸素のプロピレンに対するモル比(分子状酸素/プロピレン)は1.4〜4.0、好ましくは1.6〜3.0の範囲である。
【0026】
本発明においては、第1酸化工程で、酸化脱水素工程からの第1流れをそのまま使用できるように、未反応プロパンを含有する再循環ガス中の二酸化炭素の全量または一部を除去することが必須である。また、上記の反応ガス組成比を安定的に保つため、第1流れに、プロパン、プロピレン、酸素、水蒸気または二酸化炭素を添加することも可能である。例えば、プロパンを添加する場合には、反応生成ガスからアクリル酸を回収した後の第4流れの一部や更に第4流れから二酸化炭素を除去した第5流れを用いることが好ましい。また、二酸化炭素を添加する場合には、第4流れから分離した二酸化炭素を用いることもできる。
【0027】
第1酸化工程の反応条件としては、250〜450℃、好ましくは270〜370℃の温度および1.0〜7.2秒、好ましくは1.8〜6.0秒の接触時間が適当である。
【0028】
第2酸化工程
第1酸化工程で得られたアクロレインを含有する第2流れをアクリル酸合成域に通過させ、アクロレインからアクリル酸を生成する第2酸化工程では、特定の触媒に限られることなく、アクロレインからアクリル酸への転化に有効な触媒はいずれも使用することができる。例えば、特公昭49−11371号公報、特開昭64−85139号公報などに記載されているMo−V系酸化物触媒が好適である。
【0029】
触媒の形状は使用する反応器の形態に合わせて適宜選択でき、特に限定されるものではないが、多管式固定床型反応器を用いる場合には、触媒活性成分をペレット状、球状、円柱状、リング状またはタブレット状に成形した成形触媒、あるいは、触媒活性成分をアルミナ、シリカアルミナなどの不活性担体に担持させた担持触媒が、それぞれ好適に使用される。
【0030】
第2酸化工程の反応条件としては、180〜350℃、好ましくは200〜320℃の温度および1.0〜7.2秒、好ましくは1.6〜6.0秒の接触時間が適当である。
【0031】
第2酸化工程のアクリル酸合成域に導入される反応ガスは、第1酸化工程で得られるアクロレインを含有する第2流れをそのままの組成で用いるのが好ましいが、必要に応じ分
子状酸素を供給しても構わない。この際、分子状酸素の供給源としては、空気をそのまま用いるのは好ましくなく、窒素を選択的に除去するなどにより酸素濃度を高めた変性空気を用いるのが好ましい。有利には酸素濃度が90モル%以上の変性空気を用いるのが好ましく、更に有利には酸素濃度が98モル%以上の変性空気を用いることが好ましい。可能であれば、純酸素を用いるのが最も好ましい。
【0032】
第1酸化工程および第2酸化工程で用いる反応器は特に限定されないが多管式固定床型反応器が好ましい。なお、それぞれが別個の反応器であっても構わないが、特開平11−130722号公報などに記載されている上下2段に仕切られた1つの多管式固定床型反応器を用いて、その上段および下段でそれぞれ第1酸化工程および第2酸化工程を行う方法も好適である。
【0033】
アクリル酸回収工程
第2酸化工程で形成された第3流れから目的生成物であるアクリル酸を回収する方法は、従来公知の方法により実施できる。例えば、第2酸化工程で形成された第3流れを水あるいは有機溶剤などの捕集溶剤に接触させて吸収する方法や第3流れを冷却してアクリル酸などの凝縮成分を直接凝縮する方法などを用いて、アクリル酸含有液体流れを形成し、得られたアクリル酸含有液体流れから、抽出、蒸留、晶析など公知の方法で精製することで高純度のアクリル酸を得ることができる。
【0034】
得られた高純度のアクリル酸は、各種エステルの原料として、また、高吸水性樹脂などの各種ポリマーの原料として使用できる。
【0035】
二酸化炭素除去工程
上記アクリル酸回収工程からの、未反応プロパンおよび二酸化炭素を含有する第4流れは、未反応プロパンを有効利用するという観点から、循環再使用される。
【0036】
しかしながら、この第4流れをそのまま再循環ガスとして用いると、第4流れに含まれる未反応プロパン以外の二酸化炭素などが徐々に反応系内に蓄積され、酸化脱水素工程、第1酸化工程および第2酸化工程の各工程で、反応ガス組成や反応ガス量が徐々に変化する結果となり、反応を長期間安定して行うことができなくなる。
【0037】
本発明では、この第4流れを、それから二酸化炭素の少なくとも一部を除去したのち、循環再使用する結果として、プロパンが有効利用でき、かつ、酸化脱水素工程、第1酸化工程および第2酸化工程の各工程での反応ガス組成を制御することが可能となる。
【0038】
二酸化炭素の除去は、一般的に公知の方法により行うことができる。たとえば、特公昭37−951号公報に記載の、硼酸、燐酸、バナジン酸等を添加したアルカリ性吸収液を使用する方法や英国特許第1084526号公報に記載の、エタノールアミンを添加したアルカリ性吸収液を使用する方法を用いることができる。また、二酸化炭素を吸収するアルカリ性吸収液としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、ジグリコールアミンなどの水溶液が使用できる。
【0039】
本発明においては、以下の二酸化炭素吸収工程および放散工程が好適に使用できる。具体的には、第4流れを二酸化炭素吸収塔に導入し、アルカリ性吸収液、例えば熱炭酸カリウム水溶液、と向流接触させて二酸化炭素ガスをアルカリ性吸収液に吸収させ、次いで、二酸化炭素を含有するアルカリ性吸収液を二酸化炭素ガス放散塔へ導入し、二酸化炭素ガス放散塔底部を加熱することにより二酸化炭素ガスを放散分離し、二酸化炭素ガス放散塔
頂より実質的に二酸化炭素を放散分離した炭酸カリウム水溶液は再び二酸化炭素吸収塔の吸収液として使用する。場合により、二酸化炭素を含有したアルカリ性吸収液を二酸化炭素放散塔へ導入する前にフラッシュドラムに通すことにより、二酸化炭素以外のガスを該吸収液から予め取り除くことも可能である。ただし、第4流れから二酸化炭素を選択的に全量または一部を除去できる方法であれば、上記の方法に限定されない。
【0040】
二酸化炭素吸収塔の操作条件としては、約0.1〜5.0MPa、好ましくは0.2〜4.0MPaの圧力および50〜150℃、好ましくは80〜120℃の温度が、二酸化炭素放散塔の操作条件としては,約0.5MPa以下、好ましくは0.2MPa以下の圧力および50〜150℃、好ましくは80〜120℃の温度が、また、フラッシュドラムの操作条件としては、約1.0MPa以下、好ましくは0.5MPa以下の圧力および50〜150℃、好ましくは80〜120℃の温度が、それぞれ適当である。勿論、操作条件は酸化脱水素工程、第1酸化工程および第2酸化工程での反応ガス組成、特に第1酸化工程に導入される反応ガス中の二酸化炭素濃度、が最適になるように操作されるべきである。
【0041】
循環工程
上記のように第4流れから二酸化炭素の少なくとも一部を除去した第5流れは再循環ガスとして、酸化脱水素工程、第1酸化工程および第2酸化工程の少なくとも1つの工程に循環再使用される。プロパンの有効利用の観点からは再循環ガスはプロパンおよび分子状酸素を含有する原料混合ガスと併せて酸化脱水素工程に供給するのが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下に実施例および比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、プロパン供給量に対するアクリル酸の収率は次式により求めた。
アクリル酸収率(モル%)
=(生成したアクリル酸(モル))/(供給したプロパン(モル))×100
【実施例1】
【0043】
−触媒−
プロパン酸化脱水素用触媒として、特開2004−141764号公報の実施例1に記載の触媒を用意した。また、アクロレイン製造用触媒およびアクリル酸製造用触媒として、特開昭64−63543号公報の実施例1に記載の前段触媒および後段触媒を用意した。それぞれの触媒の酸素を除く金属元素の組成は以下のとおりであった。
プロパン酸化脱水素用触媒:
MnSn0.17Sb0.30.1Cr0.2Ni0.2Li0.020.02アクロレイン製造用触媒:
CoFeBiMo10Si1.350.06
アクリル酸製造用触媒:
Mo124.6Cu2.2Cr0.62.4
【0044】
−反応−
[酸化脱水素工程]
プロパン酸化脱水素用触媒1.0Lを内径25mm、長さ3000mmの鋼鉄製反応管に充填し、460℃に加熱した。反応管入口からプロパン46.3容量%、酸素53.4容量%および残部アルゴンからなる混合ガス990L/hr(標準状態)と再循環ガスとを混合したガス(A)を供給し、反応ガスを反応管の出口から排出させた(このガスを出口ガス(B)とする)。
【0045】
[第1酸化工程]
アクロレイン製造用触媒2.5Lを内径25mm、長さ3000mmの鋼鉄製反応管2本からなる第1酸化工程用の多管式反応器に均等に充填し、320℃に加熱した。酸化脱水素工程用の上記反応管の出口と第1酸化工程用の反応器の入口とを鋼鉄製配管で連結し、350℃に保温した。反応器入口から、酸化脱水素工程の出口ガス(B)を供給し、反応ガスを反応器の出口から排出させた(このガスを出口ガス(C)とする)。
【0046】
[第2酸化工程]
アクリル酸製造用触媒2.5Lを内径25mm、長さ3000mmの鋼鉄製反応管2本からなる第2酸化工程用の多管式反応器に均等に充填し、260℃に加熱した。第1酸化工程用の上記反応器の出口と第2酸化工程用の反応器の入口とを連結し、170℃に保温した。第1酸化工程の出口ガス(C)を、反応器入口から供給し、反応ガスを反応器の出口から排出させた(このガスを出口ガス(D)とする)。
【0047】
[アクリル酸回収工程]
次いで、第2酸化工程の出口ガス(D)をアクリル酸捕集装置に導入し、50℃にてアクリル酸水溶液(E)を捕集した(このときアクリル酸捕集装置から排出されたガスをガス(F)とする)。得られたアクリル酸水溶液(E)に、必要に応じ、ハイドロキノンを主成分とする重合防止剤を添加した。
【0048】
[二酸化炭素除去工程]
アクリル酸回収工程から排出されるガス(F)を1.5MPaに昇圧後、二酸化炭素吸収塔に導入した。
【0049】
二酸化炭素吸収塔では、約100℃に過熱された35%炭酸カリウム水溶液と排出ガスとを接触させて二酸化炭素を吸収した。二酸化炭素吸収塔から排出されたガス(G)は一部をパージした後、酸化脱水素工程に再循環ガスとして循環再利用した。
【0050】
二酸化炭素を吸収した炭酸カリウム水溶液は二酸化炭素放散塔に送り、二酸化炭素放散塔にて二酸化炭素を放散後、再び二酸化炭素吸収塔で利用した。
【0051】
定常状態に達した時の、二酸化炭素吸収塔から排出されたガス(G)のパージ率は5容量%であり、各部位のガス組成は表1のとおりであった。なお、液化したものについてもガス化したと仮定して算出した。
【0052】
アクリル酸の理論収量は921g/hr、アクリル酸収率は62.4モル%であった。
【0053】
【表1】

【0054】
比較例1
実施例1において、アクリル酸捕集装置から排出されるガス(F)を二酸化炭素吸収塔に導入することなく、一部をパージした後、酸化脱水素工程に循環再使用した。
【0055】
反応開始後から、反応系内に二酸化炭素が蓄積され、系内圧力の増加が見られた。そこで、原料混合ガス(プロパン容量44.5%、酸素容量55.3%および残部アルゴンからなる混合ガス)の供給量を406L/hr(標準状態)に減少したところ、ほぼ安定状態に達した。この時のアクリル酸捕集装置から排出されたガス(F)のパージ率は5容量%であり、各部位のガス組成は表2のとおりであった。また、アクリル酸の理論収量は374g/hr、アクリル酸の収率は64.3モル%であり、実施例1と比較して、アクリル酸の理論収量が非常に低いレベルであった。
【0056】
【表2】

【0057】
比較例2
比較例1において、反応系内圧力の増加が見られた時に、比較例1におけるように原料
混合ガスの供給量を減じる代わりに、パージ率を変えることにより、系内圧力の安定を図った。系内圧力がほぼ安定になった後、更に酸素の供給量を最適化するために、プロパン50.3容量%、酸素49.5容量%および残部アルゴンからなる混合ガスを912L/hr(標準状態)で供給したところ、ほぼ定常状態に達した。この時のパージ率は14.7%、各部位のガス組成は表3のとおりであった。またアクリル酸の理論収量は779g/hr、アクリル酸の収率は52.9モル%であり、実施例1と比較して、アクリル酸の理論収量および収率が低下した。
【0058】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロパンを分子状酸素により接触気相酸化してアクリル酸を製造するプロセスにおいて、反応生成ガスからアクリル酸を回収して得られる未反応プロパン含有ガスの少なくとも一部を再循環ガスとして再使用する際に、該再循環ガス中の二酸化炭素の少なくとも一部を除去することを特徴とするプロパンを原料とするアクリル酸の製造方法。
【請求項2】
以下の工程(a)〜(f):
(a)プロパンおよび分子状酸素を含有する原料混合ガスをプロピレン合成域に通過させて、プロピレンを含有する第1流れを形成する酸化脱水素工程、
(b)該第1流れをアクロレイン合成域に通過させて、アクロレインを含有する第2流れを形成する第1酸化工程、
(c)該第2流れをアクリル酸合成域に通過させて、アクリル酸を含有する第3流れを形成する第2酸化工程、
(d)該第3流れを、アクリル酸を含有する液体流れと、未反応プロパンおよび二酸化炭素を含有するガス状の第4流れとを分離するアクリル酸回収工程、
(e)該第4流れから二酸化炭素の少なくとも一部を除去し、未反応プロパンを含有する第5流れを形成する二酸化炭素除去工程、および
(f)該第5流れの少なくとも一部を再循環ガスとして再使用する循環工程、
を含むことを特徴とするプロパンを原料とするアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
前記第5流れの少なくとも一部を、工程(a)、工程(b)および工程(c)の少なくとも1つの工程に循環することを特徴とする請求項2に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
更に分子状酸素を、工程(b)および/または工程(c)に供給する請求項2または3に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
分子状酸素の供給源の酸素濃度が21容量%より高濃度である請求項1から4のいずれか1つに記載のアクリル酸の製造方法。

【公表番号】特表2010−537949(P2010−537949A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504103(P2010−504103)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際出願番号】PCT/JP2008/063708
【国際公開番号】WO2009/028292
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】