説明

アジピン酸の製造方法

【課題】 シクロヘキサンの一段酸化を利用した場合にも、優れた色相を有するアジピン酸を得ることができるアジピン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のアジピン酸の製造方法は、酸素を用いたシクロヘキサンの一段酸化反応により生成したアジピン酸を含む溶液を、平均細孔径が20〜120Åである多孔質吸着剤を用いて処理する工程を含むことを特徴とする。前記多孔質吸着剤として、活性炭及び/又は合成吸着剤を用いてもよい。前記一段酸化反応において、触媒として、下記式(i)
【化1】


式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物を用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロヘキサンの酸素酸化により一段で得られたアジピン酸を精製してアジピン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アジピン酸は、ナイロン66やポリウレタンの製造における重要な出発材料の1つであり、用途に応じて高度な特性が要求される。例えば、重合体を得るためには、加熱しても着色しにくいアジピン酸であることが求められる。
【0003】
従来、アジピン酸は、シクロヘキサンを原料とする2段からなる酸化反応を利用した方法により合成されている。前記酸化反応は、コバルト触媒存在下、シクロヘキサンを空気酸化してシクロヘキサノンとシクロヘキサノールの混合物(K/Aオイル)を得る前段の反応と、K/Aオイルを硝酸酸化することによりアジピン酸を得る後段の反応で構成される。反応により生成したアジピン酸は着色しているため、脱色処理等を施すことにより色相を改善した後、工業製品の原料等として利用される。
【0004】
特開昭52−148016号公報、及び特開平8−225485号公報には、上記方法で得られたアジピン酸を活性炭処理して精製アジピン酸を製造する方法が記載されている。この方法によれば、工業製品に利用可能な優れた色相を有する精製アジピン酸を得ることができるが、硝酸酸化により生成するN2OやNOxなどの窒素酸化物を除去するため、高価な排ガス処理設備が必要である。また、特公昭44−24093号公報、特公昭47−35414号公報、特公昭48−16902号公報、特公昭48−16903号公報、特開昭52−148016号公報には、シクロヘキサンからK/Aオイルを製造する際に、副生したアジピン酸を精製するため、アルカリ水溶液を用いたけん化、若しくは水蒸気蒸留、又はオゾン酸化のいずれかの処理を施した後、活性炭処理を行うことにより脱色されたアジピン酸を得ている。しかし、この方法では、アルカリ水溶液を用いたけん化や、水蒸気蒸留、オゾン酸化などの処理を施すための複雑な工程を含むため好ましくない。
【0005】
一方、窒素酸化物の発生がなく、少ない工程でアジピン酸を製造する方法として、例えば、特開平10−286467号公報には、イミド化合物と金属化合物からなる酸化触媒存在下、シクロヘキサンを酸素により酸化して一段でアジピン酸を製造する方法(一段合成法、直接合成法)が開示されている。
【0006】
本発明者らは、特開平10−286467号公報に記載の方法に従い、シクロヘキサンから一段の酸化反応を用いてアジピン酸を生成し、次いで水晶析による脱色処理を施した。しかし、一段酸化反応は2段酸化反応と比較して副生物が多いためか、著しく着色されたアジピン酸が生成され、続く水晶析によっても脱色効果を十分には得られなかった。しかも、水晶析を繰り返し行っても色相は改善されなかった。このように、一段の酸化反応を利用して工業製品に利用可能な品質のアジピン酸を得ることは困難であった。
【0007】
特表2002−524545号公報には、一段の酸化反応により生成したアジピン酸(粗アジピン酸)を精製する方法において、粗アジピン酸を水晶析後、活性炭処理を施してもよいことが記載されている。これに対し、特表2002−524544号公報には、水晶析によっては粗アジピン酸が不純物として含む有機物等は除去できないことから、有機溶媒を用いて晶析する方法が記載されている。しかし、この方法では有機溶媒の回収工程が別途必要となり好ましくない。
【0008】
【特許文献1】特開平10−286467号公報
【特許文献2】特公昭44−24093号公報
【特許文献3】特公昭47−35414号公報
【特許文献4】特公昭48−16902号公報
【特許文献5】特公昭48−16903号公報
【特許文献6】特開昭52−148016号公報
【特許文献7】特開昭52−148016号公報
【特許文献8】特開平8−225485号公報
【特許文献9】特表2002−524545号公報
【特許文献10】特表2002−524544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、シクロヘキサンの一段酸化を利用した場合にも、優れた色相を有するアジピン酸を得ることができるアジピン酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、シクロヘキサンの一段の酸素酸化により生成したアジピン酸を特定の多孔質吸着剤を用いて処理することにより、色相が著しく改善したアジピン酸を得ることができるを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、酸素を用いたシクロヘキサンの一段酸化反応により生成したアジピン酸を含む溶液を、平均細孔径が20〜120Åである多孔質吸着剤を用いて処理する工程を含むアジピン酸の製造方法を提供する。前記多孔質吸着剤として、例えば、活性炭及び/又は合成吸着剤を用いることができる。前記一段酸化反応において、触媒として、下記式(i)
【化1】

[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物を用いてもよい。本発明のアジピン酸の製造方法は、さらに、アジピン酸を、非極性溶媒を用いて抽出処理する工程を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シクロヘキサンの一段酸化反応により生成したアジピン酸を含む溶液を、特定の多孔質吸着剤を用いて処理するため、アジピン酸に混入していた着色原因物質が吸着、除去され、色相が著しく改善されたアジピン酸を簡便に得ることができる。こうして得られたアジピン酸は加熱によっても着色しにくいため、広範囲な利用が可能である。また、多孔質吸着剤を用いて処理する前に、非極性溶媒を用いて抽出処理する工程を設けることにより、ある程度の着色原因物質を予め除去できるため、多孔質吸着剤の処理負担を軽減でき経済的であり、多孔質吸着処理を効率よく行うことができる。
【0013】
本明細書中、「平均細孔径」とは、ガス蒸気吸着によるCranston−Inkley法(吸着法)による測定値を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、酸素を用いたシクロヘキサンの一段酸化反応により生成したアジピン酸を含む溶液が用いられる。前記反応は、酸素を用いて、シクロヘキサンを酸素により一段で酸化してアジピン酸を生成しうる反応であれば特に限定されず、公知の反応を利用できる。酸素としては、分子状酸素及び発生期の酸素の何れを使用してもよい。分子状酸素は特に制限されず、純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素や空気を使用してもよい。酸素は系内で発生させてもよい。酸素の使用量は、基質の種類によっても異なるが、通常、基質1モルに対して0.5モル以上(例えば、1モル以上)、好ましくは1〜100モル、さらに好ましくは2〜50モル程度である。基質に対して過剰モルの酸素を使用する場合が多い。
【0015】
酸化は触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、シクロヘキサンをアジピン酸に変換可能な酸化触媒であれば特に限定されないが、好ましい触媒には、コバルト化合物、マンガン化合物などの遷移金属化合物が含まれる。コバルト化合物としては、例えば、ギ酸コバルト、酢酸コバルト、プロピオン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、乳酸コバルトなどの有機酸塩;水酸化コバルト、酸化コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、リン酸コバルトなどの無機化合物;コバルトアセチルアセトナートなどの錯体等の2価又は3価のコバルト化合物などが挙げられる。また、マンガン化合物としては、例えば、ギ酸マンガン、酢酸マンガン、プロピオン酸マンガン、ナフテン酸マンガン、ステアリン酸マンガン、乳酸マンガンなどの有機酸塩;水酸化マンガン、酸化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン、リン酸マンガンなどの無機化合物;マンガンアセチルアセトナートなどの錯体等の2価又は3価のマンガン化合物などが挙げられる。これらの遷移金属化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、コバルト化合物、マンガン化合物又はこれらの混合物が好ましく、特に、酢酸コバルト、酢酸コバルト4水和物、コバルトアセチルアセトナート又はこれらの混合物が好ましい。
【0016】
触媒として遷移金属化合物等を用いる場合、その使用量は、仕込液全体1kg当たり、例えば1〜200ミリモル程度、好ましくは5〜100ミリモル程度である。
【0017】
また、触媒として前記式(i)で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物を用いることもできる。この窒素原子含有環状化合物は前記遷移金属化合物(例えば、コバルト化合物及び/又はマンガン化合物)と組み合わせて用いてもよい。触媒として、イミド系化合物と遷移金属化合物とを組み合わせて用いると、反応速度や反応選択性が大幅に向上することがある。
【0018】
式(i)において、窒素原子とXとの結合は単結合又は二重結合である。前記窒素原子含有環状化合物は、分子中に、式(i)で表される骨格を複数個有していてもよい。また、この窒素原子含有環状化合物は、前記Xが−OR基であり且つRがヒドロキシル基の保護基である場合、式(i)で表される骨格のうちRを除く部分が複数個、Rを介して結合していてもよい。式(i)中、Rで示されるヒドロキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用のヒドロキシル基の保護基を用いることができる。
【0019】
また、Xが−OR基である場合において、式(i)で表される骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状イミド骨格)が複数個、Rを介して結合する場合、該Rとして、例えば、オキサリル、マロニル、スクシニル、グルタリル、アジポイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイル基などのポリカルボン酸アシル基;カルボニル基;メチレン、エチリデン、イソプロピリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、ベンジリデン基などの多価の炭化水素基(特に、2つのヒドロキシル基とアセタール結合を形成する基)などが挙げられる。
【0020】
好ましいRには、例えば、水素原子;メトキシメチルなどのヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基;カルボン酸、スルホン酸、炭酸、カルバミン酸、硫酸、リン酸、ホウ酸などの酸からOH基を除した基(アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基等)などの加水分解により脱離可能な加水分解性保護基などが含まれる。
【0021】
前記窒素原子含有環状化合物には、例えば、下記式(I)
【化2】

[式中、nは0又は1を示す。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表されるN−置換環状イミド骨格を有する環状イミド系化合物が含まれる。前記環状イミド系化合物は、分子中に、式(I)で表されるN−置換環状イミド骨格を複数個有していてもよい。また、この環状イミド系化合物は、前記Xが−OR基であり且つRがヒドロキシル基の保護基である場合、N−置換環状イミド骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状イミド骨格)が複数個、Rを介して結合していてもよい。
【0022】
式(I)において、nは0又は1を示す。すなわち、式(I)は、nが0の場合は5員のN−置換環状イミド骨格を表し、nが1の場合は6員のN−置換環状イミド骨格を表す。
【0023】
好ましいイミド化合物のうち5員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α−メチルコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、α,β−ジアセトキシ−N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシ−α,β−ビス(プロピオニルオキシ)コハク酸イミドなどの式(I)におけるXが−OR基で且つRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシフタル酸イミド、N−(2−メトキシエトキシメチルオキシ)フタル酸イミド、N−テトラヒドロピラニルオキシフタル酸イミドなどの式(I)におけるXが−OR基で且つRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシフタル酸イミド、N−(p−トルエンスルホニルオキシ)フタル酸イミドなどの式(I)におけるXが−OR基で且つRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシフタル酸イミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(I)におけるXが−OR基で且つRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0024】
好ましいイミド化合物のうち6員のN−置換環状イミド骨格を有する化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−α,α−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−β,β−ジメチルグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−デカリンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−デカリンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド(N−ヒドロキシナフタル酸イミド)、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(I)におけるXが−OR基で且つRが水素原子である化合物;これらの化合物に対応する、Rがアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メトキシメチルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(I)におけるXが−OR基で且つRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ビス(メタンスルホニルオキシ)−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどの式(I)におけるXが−OR基で且つRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド又はN,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどの式(I)におけるXが−OR基で且つRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0025】
前記窒素原子含有環状化合物には、上記環状イミド系化合物の他に、下記式(II)
【化3】

[式中、mは1又は2を示す。Gは炭素原子又は窒素原子を示し、mが2のとき、2つのGは同一でもよく異なっていてもよい。Rは前記に同じ]
で表される環状アシルウレア骨格を有する環状アシルウレア系化合物が含まれる。前記環状アシルウレア系化合物は、分子中に、式(II)で表される環状アシルウレア骨格を複数個有していてもよい。また、この環状アシルウレア系化合物は、式(II)で表される環状アシルウレア骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状アシルウレア骨格)が複数個、Rを介して結合していてもよい。前記環状アシルウレア骨格を構成する原子G、及び該Gに結合している窒素原子は各種置換基を有していてもよく、また、前記環状アシルウレア骨格には非芳香族性又は芳香族性環が縮合していてもよい。さらに、前記環状アシルウレア骨格は環に二重結合を有していてもよい。
【0026】
好ましい環状アシルウレア系化合物の代表的な例として、例えば、3−ヒドロキシヒダントイン、1,3−ジヒドロキシヒダントイン、4−ヒドロキシ−1,2,4−トリアゾリジン−3,5−ジオン、4−ヒドロキシ−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン、ヘキサヒドロ−3−ヒドロキシ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、ヘキサヒドロ−1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジアジン−2,4−ジオン、ヘキサヒドロ−1,3−ジヒドロキシ−1,3−ジアジン−2,4,6−トリオン、3−ヒドロキシウラシル、ヘキサヒドロ−4−ヒドロキシ−1,2,4−トリアジン−3,5−ジオン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、1,3,5−トリアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、1,3,5−トリス(ベンゾイルオキシ)−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(メトキシメチルオキシ)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、ヘキサヒドロ−1−ヒドロキシ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−アセトキシ−ヘキサヒドロ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−ベンゾイルオキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、1−ベンゾイルオキシ−ヘキサヒドロ−3,5−ジメチル−1,3,5−トリアジン−2,6−ジオン、ヘキサヒドロ−5−ヒドロキシ−1,2,3,5−テトラジン−4,6−ジオン等が挙げられる。
【0027】
前記窒素原子含有環状化合物のうち、Xが−OR基で且つRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状化合物)は、公知の方法に準じて、又は公知の方法の組み合わせにより製造することができる。また、前記窒素原子含有環状化合物のうち、Xが−OR基で且つRがヒドロキシル基の保護基である化合物は、対応するRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状化合物)に、慣用の保護基導入反応を利用して、所望の保護基を導入することにより調製することができる。
【0028】
具体的には、前記環状イミド系化合物のうち、Xが−OR基で且つRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状イミド化合物)は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミンとを反応させ、酸無水物基の開環及び閉環を経てイミド化する方法により得ることができる。例えば、N−アセトキシフタル酸イミドは、N−ヒドロキシフタル酸イミドに無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。また、これ以外の方法で製造することも可能である。
【0029】
特に好ましいイミド化合物は、脂肪族多価カルボン酸無水物(環状無水物)又は芳香族多価カルボン酸無水物(環状無水物)から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物(例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、N,N′−ジヒドロキシ−1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなど);及び該N−ヒドロキシイミド化合物のヒドロキシル基に保護基を導入することにより得られる化合物などが含まれる。
【0030】
前記環状アシルウレア系化合物のうち、例えば、1,3,5−トリアセトキシ−ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリアセトキシイソシアヌル酸)は、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリヒドロキシ−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン(=1,3,5−トリヒドロキシイソシアヌル酸)に無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。
【0031】
式(i)で表される骨格を環の構成要素に含む窒素原子含有環状化合物は、反応において、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。例えば、式(I)で表される環状イミド骨格を有する環状イミド系化合物と、式(II)で表される環状アシルウレア骨格を有する環状アシルウレア系化合物などとを併用することもできる。窒素原子含有環状化合物は反応系内で生成させてもよい。窒素原子含有環状化合物は、活性炭、シリカなどの担体に担持した形態で用いてもよい。
【0032】
前記窒素原子含有環状化合物の使用量は、広い範囲で選択でき、例えば、シクロヘキサン(基質)1モルに対して0.0000001〜1モル、好ましくは0.000001〜0.5モル、さらに好ましくは0.00001〜0.4モル程度であり、0.0001〜0.35モル程度である場合が多い。また、窒素原子含有環状化合物の使用量は、仕込液全体1kg当たり、例えば0.0000006〜6モル程度、好ましくは0.0006〜2.1モル程度である。
【0033】
反応においては助触媒を用いることができる。上記触媒と助触媒とを併用することにより反応速度や反応の選択性を向上させることができる。助触媒として、少なくとも1つの有機基が結合した周期表15族又は16族元素を含む多原子陽イオン又は多原子陰イオンとカウンターイオンとで構成された有機塩が挙げられる。好ましい有機塩には、例えば、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩などが含まれる。有機塩の使用量は、例えば、前記触媒1モルに対して、0.001〜0.1モル程度、好ましくは0.005〜0.08モル程度である。
【0034】
また、助触媒として、強酸(例えば、pKa2(25℃)以下の化合物)が使用されることもある。好ましい強酸には、例えば、ハロゲン化水素、ハロゲン化水素酸、硫酸、ヘテロポリ酸などが含まれる。強酸の使用量は、前記触媒1モルに対して、例えば0.001〜3モル程度である。
【0035】
さらに、助触媒として、電子吸引基が結合したカルボニル基を有する化合物が用いられる場合もある。電子吸引基が結合したカルボニル基を有する化合物の代表的な例として、ヘキサフルオロアセトン、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロフェニルケトン、ペンタフルオロフェニルケトン、安息香酸などが挙げられる。この化合物の使用量は、シクロアルカン類(基質)1モルに対して、例えば0.0001〜3モル程度である。
【0036】
また、反応系内にラジカル発生剤やラジカル反応促進剤を存在させることもある。このような成分として、例えば、ハロゲン(塩素、臭素など)、過酸(過酢酸、m−クロロ過安息香酸など)、過酸化物(過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)等のヒドロペルオキシドなど)、硝酸又は亜硝酸若しくはそれらの塩、二酸化窒素、ベンズアルデヒド等のアルデヒドなどが挙げられる。これらの成分を系内に存在させると、反応が促進される場合がある。これらの成分の使用量は、前記触媒1モルに対して、例えば0.001〜3モル程度である。
【0037】
反応は通常溶媒の存在下で行われる。溶媒としては、例えば、ベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;t−ブタノール、t−アミルアルコールなどのアルコール類;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類などが例示でき、これらの溶媒は混合して使用してもよい。反応生成物であるアジピン酸を反応溶媒として使用することもできる。上記の溶媒の中でも、カルボン酸等のプロトン性有機溶媒及びニトリル類などが好ましく、特に酢酸などのカルボン酸が好ましい。また、反応溶媒を供給することなく反応を行ってもよい。
【0038】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、好ましくは、原料としてのシクロヘキサンと溶媒との比率(重量比)が、例えば20:80〜60:40程度の範囲内となる量で用いられる。
【0039】
反応温度は、例えば80〜200℃、好ましくは80〜150℃、さらに好ましくは80〜140℃である。反応温度が80℃未満では反応速度が遅くなり、反応温度が高すぎると、目的のジカルボン酸の選択率が低下しやすくなる。反応圧力は、常圧、加圧下の何れであってもよい。加圧下で行う場合、反応圧力は、例えば0.5MPa以上(0.5〜20MPa程度)、好ましくは1〜15MPa、特に1.5〜8MPa程度である。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。
【0040】
上記反応により、原料として用いたシクロヘキサンが酸化的に開裂して一段でアジピン酸が生成する。この際、一段酸化反応を利用するため、酸化により窒素酸化物等が生じることがないため簡易な設備で行うことができ、しかも、少ない工程数で効率よくアジピン酸を生成することができる。
【0041】
なお、条件により、シクロヘキサン環を構成する炭素数よりも1又は2個炭素数の少ない炭素鎖を有するジカルボン酸や、対応するシクロアルカノール、シクロアルカノン等が副生する場合がある。また、酸化反応において、触媒として窒素原子含有環状化合物を用いた場合には、当該副生物と窒素原子含有環状化合物との反応生成物が生じる場合がある。具体的には、例えば、酢酸や酢酸シクロヘキシル、ヒドロキシカプロン酸などのカルボン酸及びそのエステル類、グルタル酸やコハク酸などのジカルボン酸及びそのエステル類、アルデヒド類、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、ラクトン類(ブチロラクトン、バレロラクトン)、アジピン酸エステル類などが副生することがある。このように、一段酸化反応では多様な副生物が形成されやすく、該副生物がアジピン酸に混入して着色原因物質を構成すると考えられている。
【0042】
本発明者らは、一段酸化反応により生成したアジピン酸には、カルボン酸系不純物、アルデヒド系不純物が多く含まれること、特にジカルボン酸エステルなどのエステル類を不純物として多く含むアジピン酸は着色が著しいことを見いだした。本発明によれば、上記反応により生成したアジピン酸を吸着処理する工程を含むため、上記のような不純物が除かれ、色相の改善されたアジピン酸を製造できる。
【0043】
本発明は、アジピン酸を含む溶液を平均細孔径が20〜120Åである多孔質吸着剤を用いて処理する工程を含んでいる。より詳細には、アジピン酸を含む溶液に、平均細孔径が20〜120Åである多孔質吸着剤を加え、アジピン酸に含まれる着色物質を多孔質吸着剤に吸着させた後、濾過等により多孔質吸着剤を分離する工程により行われる。
【0044】
アジピン酸を含む溶液には、一段酸化反応後の反応液、及び該反応液に晶析、濾過、濃縮、希釈、抽出、液性調整などの処理を施した処理液などが含まれる。アジピン酸を含む溶液としては、例えば、反応液を晶析して得た固相アジピン酸を溶媒に溶解したアジピン酸溶液、該アジピン酸溶液を晶析して得た固相アジピン酸を溶媒に溶解したアジピン酸含有処理液が用いられる場合が多い。前記溶媒としては、水、有機溶剤等を用いることができる。本発明におけるアジピン酸を含む溶液としては、溶媒として水を用いたアジピン酸水溶液が好ましく用いられる。
【0045】
前記アジピン酸を含む溶液としては、また、アジピン酸を、非極性溶媒を用いて抽出処理を施した処理液であってもよい。すなわち、吸着処理工程の前工程として抽出処理工程が設けられていてもよい。溶媒抽出等の液−液抽出、リンス、リパルプ等を含む固−液抽出の何れであってもよい。抽出処理に用いる非極性溶媒は、一次酸化反応における未反応原料(シクロヘキサン)、上述した反応副生物、添加した塩等が溶解しやすく、生成物としてのアジピン酸は溶解しにくい溶媒が好ましく、例えば、ヘキサン、ヘプタン等の炭素数6以上(例えば炭素数6〜20程度)の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素などの水と分液可能な溶媒等が挙げられる。非極性溶媒の使用量は、抽出手段に応じて適宜選択されるが、アジピン酸を含む被処理液に対して例えば0.2〜5倍量、好ましくは0.5〜3倍量程度である。
【0046】
このようなアジピン酸を含む溶液としては、例えば、反応液を非極性溶媒を用いて抽出処理して得たアジピン酸溶液、反応液を晶析して得た固相アジピン酸を非極性溶媒を用いてリンス(固−液抽出)した後に溶媒に溶解したアジピン酸溶液、これらの処理を施したアジピン酸溶液を晶析して得た固相アジピン酸を非極性溶媒でリンス(固−液抽出)抽出した後に溶媒に溶解したアジピン酸溶液、前記処理を施したアジピン酸溶液を晶析して得た固相アジピン酸を溶媒に溶解した後、非極性溶媒を用いて抽出処理して得たアジピン酸含有処理液が好適に用いられる。
【0047】
抽出温度は、抽出手段に応じて選択され、例えば、固−液抽出の場合には5〜50℃程度、液−液抽出の場合には60〜120℃程度である。抽出時間は、例えば0.2〜5時間程度である。
【0048】
本発明では、平均細孔径が20〜120Åの範囲内である多孔質吸着剤が用いられる。多孔質吸着剤を構成する細孔の大きさは、一般に、吸着目的物の大きさや、吸着を避けたい物質の大きさに応じて適宜選択される。本発明では、平均細孔径が上記範囲内である多孔質吸着剤を用いるため、反応により生成したアジピン酸に混入する着色原因物質が吸着により除去され、アジピン酸の色相を改善することができる。多孔質吸着剤の平均細孔径が20Å未満では、多孔質吸着剤の使用による脱色効果が十分に発揮されず、120Åを越える場合には、吸着した着色原因物質を脱着しやすく、何れの場合も優れた色相を有するアジピン酸を得ることができない。
【0049】
本発明における多孔質吸着剤としては、平均細孔径が20〜120Åの範囲内である細孔を有するものであれば特に限定されず、例えば、活性炭、合成吸着剤、シリカ、ケイソウ土、ゼオライトなどを用いることができる。多孔質吸着剤は単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。なかでも、活性炭、合成吸着剤、平均細孔径の異なる2種以上の活性炭の組み合わせ、平均細孔径の異なる2種以上の合成吸着剤の組み合わせ、活性炭と合成吸着剤の組み合わせが好ましい。2種の活性炭の組み合わせ及び2種の合成吸着剤の組み合わせとしては、平均細孔径の差が、例えば20Å以上、好ましくは30Å以上である組み合わせが用いられる。また、2種の活性炭の組み合わせ及び2種の合成吸着剤の組み合わせとしては、一方の平均細孔径が20Å〜38Åの範囲内であり、他方の平均細孔径が38Å〜120Åの範囲内である組み合わせが好ましく用いられる。また、多孔質体吸着剤を用いた処理を複数回行う場合には、同じ種類の多孔質吸着剤を用いてもよく、異なる種類の多孔質吸着剤を用いてもよい。好ましくは、平均細孔径の異なる合成吸着剤を用いて2回以上処理を行う。
【0050】
活性炭には、例えば、木材、木質、木炭、ヤシ殻等の果実殻などを原料とする植物系活性炭;石炭、コークス、コールタール、石油ピッチなどを原料とする鉱物系活性炭;海藻や再生繊維などの天然素材、フェノール樹脂やアクリル樹脂などの合成素材などを原料とするその他の活性炭が含まれる。なかでも、木質、木炭、ヤシ殻などを原料とする植物系活性炭、及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0051】
合成吸着剤には、例えば、ポリスチレン系重合体、ポリスチレン−ジビニルベンゼン系重合体などを骨格とする芳香族系吸着剤;芳香族系重合体の芳香環に臭素などのハロゲン原子が結合した重合体などを骨格とする置換芳香族系吸着剤;ポリメタクリル酸エステル系重合体などを骨格とするアクリル系吸着剤が含まれる。合成吸着剤は、骨格となる重合体の化学構造に基づいた親水性、疎水性などの特性を有するため、吸着目的物の性質(親水性、疎水性)に応じて適宜選択して使用することにより、高い吸着効果を得ることができる。本発明では、非極性、中極性の物質に対する吸着性に優れる点で、芳香族系吸着剤が好ましく用いられる。
【0052】
平均細孔径が20〜120Åの細孔を有する植物系活性炭の具体例としては、日本エンバイロケミカルズ社製の「特製白鷺」(平均細孔径33Å)及び「白鷺A」(24Å)、太平化学社製の「梅蜂A」(25Å)、二村化学社製の「太閤A」(約30Å)及び「太閤S」(約30Å)などの木質原料の活性炭;クラレケミカル社製の「クラレコールGLC」(35Å)などのヤシ殻原料の活性炭などが市販されている。
【0053】
平均細孔径が20〜120Åの細孔を有する合成吸着剤の具体例としては、三菱化学(株)製の「SEPABEADS SP850」(40Å)、「SEPABEADS SP825」(55Å)、「SEPABEADS SP700」(90Å)などの芳香族系吸着剤;「SEPABEADS SP207」(100Å)などの置換芳香族系吸着剤等が市販されている。
【0054】
多孔質吸着剤の形状は、特に限定されず、粉末状、粒状、顆粒状、繊維状、柱状、球状などのいずれであってもよい。多孔質吸着剤の大きさは、分散性を損なわない範囲で形状に応じて適宜選択することができる。例えば、多孔質吸着剤が合成吸着剤である場合には、好ましい有効径は250μm以上である。多孔質吸着剤の比表面積は、大きいほど吸着量が高く、例えば500m2/g以上、好ましくは600m2/g以上である。
【0055】
多孔質吸着剤の使用量は、多孔質吸着剤の種類に応じて適宜選択されるが、被処理液に含まれるアジピン酸重量に対して、例えば0.5〜50重量%、好ましくは、3〜45重量%である。0.5重量%未満では、色相改善効果がなく、50重量%を越える場合には、多孔質吸着剤を用いた処理の後、濾過時に多孔質吸着剤に水が吸収されて、アジピン酸の析出による損失が生じやすくなる。例えば、活性炭の使用量は、被処理液に含まれるアジピン酸重量に対して、3〜30重量%程度が好ましく、合成吸着剤の使用量は、好ましくは0.5重量%以上(例えば0.5〜45重量%程度)である。
【0056】
多孔質吸着剤を用いた処理は、バッチ式、連続式などのいずれの方式でも行うことができる。処理時間は、アジピン酸が含む着色物質を吸着除去しうる範囲で適宜選択することができ、例えば0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上である。
【0057】
多孔質吸着剤を用いて処理する工程の好ましい態様としては、例えば、一段酸化反応後の反応液を、反応溶媒が冷却しない温度を下限(酢酸溶媒に対しては5℃が下限)として冷却し、晶出したアジピン酸を、遠心分離、吸引濾過などの公知の方法により分離、回収する。得られたアジピン酸を80℃程度の温度下で水に溶解して調製したアジピン酸水溶液を、多孔質吸着剤を充填した充填塔(吸着塔)内へ流すことにより吸着処理が行われる。前記吸着処理は、アジピン酸水溶液に多孔質吸着剤を添加し、撹拌することにより行うこともできる。
【0058】
多孔質吸着剤を用いて処理する工程の特に好ましい態様としては、例えば、一段酸化反応後の反応液に晶析処理を施し、晶出したアジピン酸を80℃程度の温度下で水に溶解して調製したアジピン酸水溶液に非極性溶媒を加え、80℃程度の温度下で1時間程度撹拌し、アジピン酸が抽出された水相を、遠心分離などの公知の方法により分離、回収する。次いで、回収した水相を晶析処理して得た固相アジピン酸を80℃程度の温度下で水に溶解して調製したアジピン酸水溶液を、多孔質吸着剤を充填した充填塔(吸着塔)内へ流すことにより吸着処理が行われる。前記吸着処理は、アジピン酸水溶液に多孔質吸着剤を添加し、撹拌することにより行うこともできる。また、前記晶出したアジピン酸は、30℃付近で非極性溶媒によりリンス又はリパルプ処理を施した後、固相アジピン酸を80℃程度の温度下で水に溶解して調製したアジピン酸水溶液に吸着処理を施すこともできる。上記のように、多孔質吸着剤を用いて処理する工程の前工程に抽出処理工程を設けた場合には、抽出により予め比較的除去が容易な不純物を除去することができるため、次工程の多孔質吸着剤の使用量を低減でき、効率よく多孔質吸着処理を行うことができる。
【0059】
吸着処理後、濾過等の公知の方法により多孔質吸着剤を除去し、回収したアジピン酸溶液を、例えば10〜40℃に冷却する晶析処理を施すことにより、精製されたアジピン酸を得ることができる。晶析時の冷却速度は、例えば10〜50℃/hr、好ましくは15〜45℃/hr、特に好ましくは15〜35℃/hr程度である。本発明においては、上記多孔質吸着剤を用いた処理を複数回行ってもよく、他の手段による処理とを組み合わせてもよい。他の手段による処理としては、例えば、通常の水晶析処理や、非極性溶媒を用いた抽出処理、イオン交換樹脂を用いた脱色処理、パラジウムカーボンを用いた接触水素還元などの処理が挙げられる。前記他の手段による処理は、多孔質吸着剤を用いた処理の前工程として又は後工程として行うことができる。これらの処理を組み合わせることにより、多様な着色原因物質を効率よく除去することができるため、より優れた色相のアジピン酸を得ることができる。
【0060】
本発明は、多孔質吸着剤を用いて処理する工程(吸着処理工程)の他に、アジピン酸を、非極性溶媒を用いて抽出処理する工程(抽出処理工程)を含んでいてもよい。抽出処理工程は、吸着処理工程の前工程及び後工程のいずれに設けてもよいが、製造工程中に着色原因物質が多く含まれる段階で設けることが好ましく、特に、吸着処理工程の前工程として行うことにより、吸着処理剤の使用量を低減できるため経済的であり、吸着処理工程を効率よく行うことができ好ましい。吸着処理工程の前工程としてアジピン酸を抽出処理する工程を設ける場合は上述した通りである。吸着処理工程の後工程にアジピン酸を抽出処理する工程を設ける場合、抽出処理に付するアジピン酸としては、アジピン酸を含む溶液、及び固相のアジピン酸のいずれの形態であってもよく、例えば、吸着処理後に多孔質吸着剤を除去して回収したアジピン酸溶液、該アジピン酸溶液を晶析して得た固相アジピン酸水溶液等が挙げられる。
【0061】
アジピン酸の色相は、例えば、特表2002−524544号公報に記載の方法により評価することができる。具体的には、評価対象となるアジピン酸の固体を、常圧窒素雰囲気下、密閉状態で215℃の温度下、205分間加熱、溶融した後、5重量%アンモニア水溶液を添加し、得られたアジピン酸アンモニウム水溶液に波長454nmのUVを照射したときの吸光度を測定し、5重量%アンモニア水を標準とした相対吸光度[Abs.]により色相を評価することができる。ここで、相対吸光度が小さいほど色相に優れたアジピン酸が得られたことを評価できる。
【0062】
従来のアジピン酸を製造する工程における具体的な相対吸光度としては、例えば、一段の酸化反応により生成した直後は0.825程度を示し、これに通常の水晶析処理を施した後は0.168程度を示す。なお、水晶析処理を複数回繰り返したが、0.077より低い相対吸光度を有するアジピン酸を得ることはできなかった。
【0063】
一方、本発明の方法に従い、多孔質体を用いて処理する工程を行った後のアジピン酸の相対吸光度は、例えば0.020未満、好ましくは0.010以下、より好ましくは0.003以下、特に0.002以下である。相対吸光度が0.02以上では、肉眼で着色が認められるため好ましくない。また、相対吸光度が0.003以下であるアジピン酸は工業製品の原料等として特に好適である。
【0064】
本発明の製造方法で得られたアジピン酸は、ポリアミド(ナイロン)やポリエステルの原料、ポリウレタン等のポリマーの添加剤、精密化学品の中間原料などとして利用できる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、アジピン酸の色相は、以下の色相評価法に従って得られた相対吸光度により評価した。これらの結果を表1に示す。表1中、「*」は、水素還元処理後に多孔質吸着剤を用いた水晶析を行ったことを示しており、多孔質吸着剤の「使用量」の欄は、処理液に含まれるアジピン酸に対する多孔質吸着剤の割合(重量%)を示している。また、「抽出処理」の欄は、抽出処理を施した時点が吸着剤処理前又は後であったことをそれぞれ「前」又は「後」と示し、括弧内に抽出処理方法を示している。なお、実施例17及び18については、相対吸光度[Abs.]の欄における「処理前」の値は、固−液抽出前の粗湿結晶の相対吸光度の値であって、実際には、同値の粗湿結晶を固液抽出処理した後の結晶について吸着処理を行っている。
【0066】
色相評価法
直径1cm、高さ10cmのすり付き試験管に、評価対象の固体アジピン酸を1.5g入れ、試験管内に200mL/minで5分間(試験管容積の3倍以上)窒素を流入して窒素置換を行った。試験管を封じて250℃で30分間加熱し、冷却後、溶融アジピン酸の8重量倍の5重量%アンモニア水溶液に溶解した。得られたアジピン酸アンモニウム水溶液に波長400nmのUVを照射して吸光度を測定し、5重量%アンモニア水溶液を標準として算出した相対吸光度に基づき評価を行った。
【0067】
実施例1
3枚のパドル翼及び撹拌翼からなる撹拌機、酸素を含む気体成分を仕込むための閉口部、及びガス成分を抜き出すための開口部、仕込み液を仕込むための閉口部、反応液を抜き出すための開口部を備えた1Lのチタン製ジャケット付きオートクレーブに、シクロヘキサン45重量%(2.939モル)、酢酸53.93重量%、N−ヒドロキシコハクイミド0.1重量%、酢酸コバルト(II)四水和物1重量%からなる混合液550gを充填した。
オートクレーブ(反応器)内を窒素で3MPaに加圧した後、撹拌機を500rpmで回転しながら昇温し、反応器内の温度が100℃に到達したところで空気100L(標準状態)/hrの流量で供給を開始した。空気を供給し始めてすぐに反応が始まり、若干の温度上昇が見られた。反応器内部の温度を100℃に維持しながら120分間反応を継続した後、仕込みガスを空気から窒素に換え、反応器を冷却し、室温になったところで気体を放出して常圧に戻し、反応液を5℃まで冷却することにより晶析処理を施した後、スラリー液を遠心分離することにより、固相としてアジピン酸83g(純度42%)を得た。
得られたアジピン酸83gに水52gを加えて80℃で溶解してアジピン酸水溶液とした後、該アジピン酸水溶液を20℃/hrで30℃まで冷却することにより水晶析処理を施し、次いでスラリー液を濾過することにより、粗アジピン酸湿結晶30.1g(純度91.3%)を得た。得られた粗アジピン酸湿結晶を乾燥した後の粗アジピン酸(純度98.1%)の色相を評価したところ0.825Abs.であった。
【0068】
得られた粗アジピン酸湿結晶を以下の方法で多孔質吸着剤を用いた処理を行った。すなわち、得られた粗アジピン酸湿結晶15gに水20.5gを加えて80℃で溶解してアジピン酸水溶液とし、該水溶液に活性炭(商品名「特製白鷺」、日本エンバイロケミカルズ社製:平均細孔径35Å、木質、高賦活活性炭)を2.7g(含有アジピン酸の20重量%)加え、80℃で1時間撹拌することにより吸着処理を施した後、活性炭を濾過により除去した。濾液を40℃/hrで30℃まで冷却して晶析処理を行った。得られたスラリー液を濾過することにより、湿アジピン酸9.2gを得、これを80℃、10mmHgで4時間乾燥させて精製アジピン酸8.0gを得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.014Abs.であった。
【0069】
実施例2
実施例1と同様の操作により得られた粗アジピン酸湿結晶(0.825Abs.)15gに水20.5gを加えて80℃で溶解してアジピン酸水溶液とし、該水溶液に活性炭(商品名「特製白鷺」、日本エンバイロケミカルズ社製:平均細孔径35Å、木質、高賦活活性炭)を2.7g(含有アジピン酸の20重量%)加え、80℃で1時間撹拌することにより吸着処理を施した後、活性炭を濾過により除去した。濾液を20℃/hrで30℃まで冷却して晶析処理を行った。得られたスラリー液を濾過することにより、湿アジピン酸9.4gを得、これを80℃、10mmHgで4時間乾燥させて精製アジピン酸8.1gを得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.004Abs.であった。
【0070】
実施例3
実施例1において、活性炭として、「特製白鷺」の代わりに日本エンバイロケミカルズ社製の商品名「白鷺A」(平均細孔径35Å、木質)を含有アジピン酸の20重量%用いて処理を施した点以外は、実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.007Abs.であった。
【0071】
実施例4
実施例1において、活性炭として、「特製白鷺」の代わりに太平化学産業社製の商品名「梅蜂A」(平均細孔径25Å、木質)を含有アジピン酸の20重量%用いて処理を施した点以外は、実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.004Abs.であった。
【0072】
実施例5
実施例1において、活性炭として、「特製白鷺」の代わりにクラレケミカル(株)製の商品名「クラレコール GLC」(平均細孔径35Å、ヤシ殻)を含有アジピン酸の20重量%用いて処理を施した点以外は、実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.005Abs.であった。
【0073】
実施例6
実施例1において、活性炭として、「特製白鷺」の代わりに二村化学社製の商品名「太閤A」(平均細孔径37Å、木質)を含有アジピン酸の20重量%用いて処理を施した点以外は、実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.010Abs.であった。
【0074】
実施例7
実施例1において、活性炭として、「特製白鷺」の代わりに二村化学社製の商品名「太閤S」(平均細孔径20Å、木質)を含有アジピン酸の20重量%用いて処理を施した点以外は、実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.010Abs.であった。
【0075】
実施例8
実施例1において、吸着剤として、「特製白鷺」の代わりに三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を含有アジピン酸の5重量%用いて処理を施した点以外は、実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.010Abs.であった。
【0076】
実施例9
実施例1と同様の操作により粗アジピン酸湿結晶(0.825Abs.)を30g得た。
得られた粗アジピン酸湿結晶30gに水35.3gを加えて80℃で溶解し、溶解時に活性炭、商品名「太閤S」(平均細孔径20Å、木質)を5.5g(含有アジピン酸の20重量%)添加し、80℃で1時間撹拌した。その後活性炭を濾過により除去し、濾液62.0gを得た。
得られた濾液に三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を1.4g(含有アジピン酸の5重量%)添加し、80℃で2時間撹拌した。2時間後吸着剤を濾過し、濾液を20℃/hrで30℃まで冷却した。濾過により、湿アジピン酸18.8gを得、80℃、10mmHgで4時間乾燥させて精製アジピン酸15.2gを得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.004Abs.であった。
【0077】
実施例10
実施例9において、吸着剤として、「太閤S」の代わりにクラレケミカル(株)製の商品名「クラレコール GLC」(平均細孔径35Å、ヤシ殻)を含有アジピン酸の20重量%用い、三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を含有アジピン酸の40重量%用いて処理を施した点以外は、実施例9と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.004Abs.であった。
【0078】
実施例11
実施例9において、吸着剤として、「太閤S」の代わりにクラレケミカル(株)製の商品名「クラレコール GLC」(平均細孔径35Å、ヤシ殻)を含有アジピン酸の20重量%用い、「SEPABEADS SP700」(平均細孔径90Å、芳香族系吸着剤)を含有アジピン酸の40重量%用いて処理を施した点以外は、実施例9と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.006Abs.であった。
【0079】
実施例12
実施例9において、吸着剤として、「太閤S」の代わりに三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を含有アジピン酸の40重量%用い、「SEPABEADS SP825」(平均細孔径55Å、芳香族系吸着剤)を含有アジピン酸の40重量%用いて処理を施した点以外は、実施例9と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.011Abs.であった。
【0080】
実施例13
実施例9において、吸着剤として、「太閤S」の代わり三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP700」(平均細孔径90Å、芳香族系吸着剤)を含有アジピン酸の20重量%用い、同社製「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を含有アジピン酸の20重量%用いて処理を施した点以外は、実施例9と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.007Abs.であった。
【0081】
実施例14
実施例9において、吸着剤として、「太閤S」の代わりに三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP700」(平均細孔径90Å、芳香族系吸着剤)を含有アジピン酸の40重量%用い、同社製「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を含有アジピン酸の40重量%用いて処理を施した点以外は、実施例9と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.003Abs.であった。
【0082】
実施例15
実施例1と同様の操作により粗アジピン酸湿結晶(0.825Abs.)を29.2g得た。
得られた粗アジピン酸湿結晶29.2gに水20.2gを加えて80℃で溶解し、溶解時にパラジウムカーボンを含有アジピン酸の5重量%加え、80℃で4時間撹拌して水素還元した。4時間後、パラジウムカーボンを濾過により除去し、濾液を回収した。
得られた濾液に三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP700」(平均細孔径90Å、芳香族系吸着剤)を含有アジピン酸の40重量%添加し、80℃で2時間撹拌した。2時間後吸着剤を濾過により除去し、濾液を回収した。
さらに、得られた濾液に「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を含有アジピン酸の40重量%添加し、80℃で2時間撹拌した。2時間後吸着剤を濾過し、濾液を20℃/hrで30℃まで冷却した。濾過により、湿アジピン酸15.6gを得、80℃、10mmHgで8時間乾燥させて精製アジピン酸12.8gを得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.002Abs.であった。
【0083】
比較例1
実施例1において、多孔質吸着剤を用いないで処理を施した点以外は実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。すなわち、得られた粗アジピン酸湿結晶15gに水20.5gを加えて80℃で溶解してアジピン酸水溶液とし、該水溶液を40℃/hrで30℃まで冷却して晶析処理を行った。得られたスラリー液を濾過することにより、湿アジピン酸9,2gを得、これを80℃、10mmHgで4時間乾燥させて精製アジピン酸8.0gを得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.168Abs.であった。
【0084】
比較例2
実施例1と同様の操作により粗アジピン酸湿結晶を得た。得られた粗アジピン酸湿結晶の色相を評価したところ0.825Abs.であった。
得られた粗アジピン酸湿結晶を、多孔質吸着剤を用いないで処理を施した点以外は実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。すなわち、得られた粗アジピン酸湿結晶30gに水35.3gを加えて80℃で溶解してアジピン酸水溶液とし、該水溶液を20℃/hrで30℃まで冷却して晶析処理を行った。得られたスラリー液を濾過することにより、湿アジピン酸23gを得、これを80℃、10mmHgで8時間乾燥させて精製アジピン酸18.9gを得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.077Abs.であった。さらに一度水による再結晶を行ったが、色相は改善されなかった。
【0085】
比較例3
実施例1において、活性炭として、「特製白鷺」の代わりに、太平化学社製の商品名「ヤシコールM」(平均細孔径16Å、やし)を用いて処理を施した点以外は実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.097Abs.であった。
【0086】
比較例4
実施例1において、活性炭として、「特製白鷺」の代わりに、ツルミ社製の商品名「カルゴン GMC22」(平均細孔径15Å、やし)を用いて処理を施した点以外は実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.098Abs.であった。
【0087】
比較例5
実施例1において、活性炭として、「特製白鷺」の代わりに、日本ノリット社製の商品名「DARCO S−51」(平均細孔径200Å、石炭)を用いて処理を施した点以外は実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.165Abs.であった。
【0088】
比較例6
実施例1において、活性炭として、「特製白鷺」の代わりに、太平化学社製の商品名「プロコールM」(平均細孔径18Å、石炭)を用いて処理を施した点以外は実施例1と同様の操作を行って精製アジピン酸を得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.187Abs.であった。
【0089】
実施例16
実施例1と同様の反応によりアジピン酸を調製し、晶析処理を施すことにより固相としてアジピン酸83g(純度42%)を調製した。
得られたアジピン酸に水52gを加えて80℃で溶解してアジピン酸水溶液とした後、非極性溶媒であるシクロヘキサン52gを添加し、80℃で1時間撹拌して液−液抽出処理を施した。その後、分液、回収した下層のアジピン酸水溶液を20℃/hrで30℃まで冷却することにより水晶析処理を施し、次いでスラリー液を濾過することにより、粗アジピン酸湿結晶30.1g(純度91.3%)を得た。得られた粗アジピン酸湿結晶を乾燥した後の粗アジピン酸(純度98.1%)の色相を評価したところ0.247Abs.であった。
【0090】
得られた粗アジピン酸湿結晶を以下の方法で多孔質吸着剤を用いた処理を行った。すなわち、得られた粗アジピン酸湿結晶30gに水35.3gを加えて80℃で溶解してアジピン酸水溶液とし、該水溶液に三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を5.5g(含有アジピン酸の20重量%)加え、80℃で2時間撹拌することにより吸着処理を施した後、吸着剤を濾過により除去した。得られた濾液に、再度、三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を5.5g(含有アジピン酸の20重量%)加え、80℃で2時間撹拌することにより吸着処理を施した後、吸着剤を濾過により除去した。濾液を20℃/hrで30℃まで冷却して晶析処理を行った。得られたスラリー液を濾過することにより、湿アジピン酸18.8gを得、これを80℃、10mmHgで4時間乾燥させて精製アジピン酸15.2gを得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.002Abs.であった。
【0091】
実施例17
実施例1と同様の操作により粗アジピン酸湿結晶(0.825Abs.)を30g得た。
【0092】
得られた粗アジピン酸湿結晶を以下の方法で多孔質吸着剤を用いた処理を行った。すなわち、得られた粗アジピン酸湿結晶30gにトルエン41gを添加し、室温で1時間撹拌して固−液抽出処理を施した。その後、濾過して回収したアジピン酸湿結晶に水を35.3g加えて80℃で溶解してアジピン酸水溶液とし、該水溶液に三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を5.5g(含有アジピン酸の20重量%)加え、80℃で2時間撹拌することにより吸着処理を施した後、吸着剤を濾過により除去した。得られた濾液に、再度、三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を5.5g(含有アジピン酸の20重量%)加え、80℃で2時間撹拌することにより吸着処理を施した後、吸着剤を濾過により除去した。濾液を20℃/hrで30℃まで冷却して晶析処理を行った。得られたスラリー液を濾過することにより、湿アジピン酸18.8gを得、これを80℃、10mmHgで4時間乾燥させて精製アジピン酸15.2gを得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.002Abs.であった。
【0093】
実施例18
実施例1と同様の操作により粗アジピン酸湿結晶(0.825Abs.)を30g得た。
【0094】
得られた粗アジピン酸湿結晶を以下の方法で多孔質吸着剤を用いた処理を行った。すなわち、得られた粗アジピン酸湿結晶30gにシクロヘキサンを添加し、室温で1時間撹拌して固−液抽出処理を施した。その後、濾過して回収したアジピン酸湿結晶に水を35.3g加えて80℃で溶解してアジピン酸水溶液とし、該水溶液に合成吸着剤(実施例16と同様)を5.5g(含有アジピン酸の20重量%)加え、80℃で2時間撹拌することにより吸着処理を施した後、吸着剤を濾過により除去した。得られた濾液に、再度、合成吸着剤(実施例16と同様)を5.5g(含有アジピン酸の20重量%)加え、80℃で2時間撹拌することにより吸着処理を施した。濾液を20℃/hrで30℃まで冷却して晶析処理を行った。得られたスラリー液を濾過することにより、湿アジピン酸18.8gを得、これを80℃、10mmHgで4時間乾燥させて精製アジピン酸15.2gを得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.002Abs.であった。
【0095】
実施例19
実施例1と同様の反応によりアジピン酸を調製し、晶析処理を施すことにより固相としてアジピン酸83g(純度42%)を調製した。
得られたアジピン酸に水52gを加えて80℃で溶解してアジピン酸水溶液とした後、非極性溶媒であるシクロヘキサン17gを添加し、80℃で1時間撹拌して液−液抽出処理を施した。その後、分液、回収した下層のアジピン酸水溶液を20℃/hrで30℃まで冷却することにより水晶析処理を施し、次いでスラリー液を濾過することにより、粗アジピン酸湿結晶30.1g(純度91.3%)を得た。得られた粗アジピン酸湿結晶を乾燥した後の粗アジピン酸(純度98.1%)の色相を評価したところ0.247Abs.であった。
【0096】
得られた粗アジピン酸湿結晶を以下の方法で多孔質吸着剤を用いた処理を行った。すなわち、得られた粗アジピン酸湿結晶30gに水35.3gを加えて80℃で溶解してアジピン酸水溶液とし、該水溶液に三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を5.5g(含有アジピン酸の20重量%)加え、80℃で2時間撹拌することにより吸着処理を施した後、吸着剤を濾過により除去した。得られた濾液に、再度、三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を5.5g(含有アジピン酸の20重量%)加え、80℃で2時間撹拌することにより吸着処理を施した後、吸着剤を濾過により除去した。濾液を20℃/hrで30℃まで冷却して晶析処理を行った。得られたスラリー液を濾過することにより、湿アジピン酸18.8gを得、これを80℃、10mmHgで4時間乾燥させて精製アジピン酸15.2gを得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.005Abs.であった。
【0097】
実施例20
実施例1と同様の操作により粗アジピン酸湿結晶(0.825Abs.)を30g得た。
得られた粗アジピン酸湿結晶30gに水35.3gを加えて80℃で溶解し、溶解時に三菱化学(株)製の商品名「SEPABEADS SP850」(平均細孔径40Å、芳香族系吸着剤)を5.5g(含有アジピン酸の20重量%)添加し、80℃で2時間撹拌した。その後吸着剤を濾過により除去した。
得られた濾液に同じ芳香族系吸着剤を5.5g(含有アジピン酸の20重量%)添加し、80℃で2時間撹拌した。2時間後吸着剤を濾過し、濾液を20℃/hrで30℃まで冷却した。濾過により、湿アジピン酸18.8gを得、80℃、10mmHgで4時間乾燥させて精製アジピン酸15.2gを得た。得られた精製アジピン酸の色相を評価したところ0.012Abs.であった。
【0098】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、ポリアミド(ナイロン)やポリエステルの原料、ポリウレタン等のポリマーの添加剤、精密化学品の中間原料などとして有用なアジピン酸の製造に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を用いたシクロヘキサンの一段酸化反応により生成したアジピン酸を含む溶液を、平均細孔径が20〜120Åである多孔質吸着剤を用いて処理する工程を含むアジピン酸の製造方法。
【請求項2】
多孔質吸着剤として活性炭及び/又は合成吸着剤を用いる請求項1記載のアジピン酸の製造方法。
【請求項3】
一段酸化反応において、触媒として、下記式(i)
【化1】

式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される骨格を環の構成要素として含む窒素原子含有環状化合物が用いられている請求項1記載のアジピン酸の製造方法。
【請求項4】
さらに、アジピン酸を、非極性溶媒を用いて抽出処理する工程を含む請求項1記載のアジピン酸の製造方法。

【公開番号】特開2006−52199(P2006−52199A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62650(P2005−62650)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】