説明

アジュバント

【課題】 特にDNA免疫法において感作効果を高めることが可能な新規なアジュバント、および前記アジュバントを用いて動物を免疫する方法を提供すること。
【解決手段】 無機化合物の針状結晶体(好ましくは前記針状結晶体が針状単結晶を含む結晶体)を含むアジュバント、および前記アジュバントと抗原との混合物を動物に投与する工程を含んだ動物を免疫する方法により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアジュバントおよびそれを用いて動物を免疫する方法に関する。特に本発明は、DNAで動物を免疫するためのアジュバントとして有用である。
【背景技術】
【0002】
タンパクまたはその部分ペプチドを抗原として免疫する従来の免疫方法の場合、液性免疫の誘導は可能だが細胞性免疫の誘導は困難なことが多い。そのため、細胞性免疫を誘導する必要がある感染症に対しては、微生物やウイルスを弱毒化した生ワクチンが用いられているが、生ワクチンには副作用など安全性の面で解決すべき課題が多い。一方、別の免疫方法として、標的タンパク遺伝子を含む発現ベクターを動物に投与することで、前記標的タンパクに対する液性免疫および細胞性免疫を誘導するDNA免疫法が知られている(特許文献1、非特許文献1から4)。
【0003】
DNA免疫法は、液性免疫と細胞性免疫の両方を誘導できることから、細胞性免疫の誘導が困難な感染症に対する安全な免疫手法として臨床応用研究が進められている。また近年、前記液性免疫の誘導能から従来の抗体作製方法(すなわちタンパクまたはその部分ペプチドを抗原として免疫し、得られた抗体産生細胞から抗体を作製する方法)では取得が困難だった、動物種間でアミノ酸配列が高度に保存されている抗原タンパクを特異的に認識する抗体や、生体内に自然状態で存在する構造(いわゆる天然型)の抗原タンパクを特異的に認識する抗体を作製するための手法としても用いられている(特許文献2および3、非特許文献5)。従来の免疫方法では、免疫源であるタンパクまたはペプチドを調製する過程で構造変化する可能性があるため、前記方法を用いて得られた抗体が、天然型の抗原に対して高い特異性や結合力を有さない場合がある。一方、DNA免疫法では、免疫された動物の体内で、投与した抗原タンパク遺伝子を含む発現ベクターにより天然型の抗原タンパクが発現するため、天然型抗原に対して高い特異性や結合力を有した抗体の作製が可能である。
【0004】
DNA免疫法では、抗原タンパク遺伝子を含む発現ベクターが免疫箇所近傍の細胞中に取り込まれることで前記細胞内で抗原タンパクを発現し、前記抗原タンパクに対する免疫が誘導されるため、前記細胞内に前記発現ベクターを効率よく導入すること、および前記細胞自身の免疫機構を効果的に誘導することが重要である。また、DNA免疫法では免疫された動物の体内で発現する抗原タンパク量が、従来の免疫方法で投与する抗原量と比較し著しく少なく、従来の免疫方法と比較し感作効果が低い。そのため、他の方法で感作効果を高める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−582427号公報
【特許文献2】特開2004−344118号公報
【特許文献3】特開2009−067678号公報
【特許文献4】特開2002−114708号公報
【特許文献5】特開2008−174466号公報
【特許文献6】特開平1−252599号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Proc.Natl.Acad.Sci.USA、94、14626−14631(1997)
【非特許文献2】Annu.Rev.Immunol.、18、927−974(2000)
【非特許文献3】Nature、356、152−154(1992)
【非特許文献4】Immunol.Today、19、89−97(1998)
【非特許文献5】Nature Biotechnology、21(9)、1088−1092(2003)
【非特許文献6】日本痛風・核酸代謝学会誌、29(2)、119−124(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
DNA免疫法における感作効果を高めることを目的に、免疫する方法や免疫賦活物質(アジュバント)について検討されている。
【0008】
免疫する方法については、遺伝子銃が最も感作効果が高いとされているが、抗原金粒子の調製工程および専用の免疫機器の使用が必要であること、外皮が厚い大型動物ではその感作効果が著しく減少することなど、臨床応用に向けては解決すべき課題が多い。また、イオンポリマー、リポソーム、ウイルスエンベロープベクターなどで発現ベクターを修飾したり、超音波を活用したソノポレーション法などで発現ベクターの安定性および導入効率を向上させる研究が進められているものの、さらに感作効果が高い方法が求められている。
【0009】
一方、アジュバントについては、
(1)炎症などによる免疫対象細胞自体の免疫機構の誘導、
(2)抗原の免疫対象細胞への取り込み促進、
(3)抗原の持続的な放出(いわゆる徐放作用)、
などを目的としたものが検討されており、Ribiアジュバント(Corixa社製)、Titermax(Titermax社製)などの油含有アジュバント、α抗原、ムラミルジペプチド(MDP)、リピドA、リポ多糖類(LPS)などの細菌由来のアジュバント、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、リン酸化カルシウムなどの無機化合物、リポソーム、膜タンパク質抗原(免疫刺激複合体)に複合されたサポニン、スペルミジンなどのポリアミン、種々のサイトカイン遺伝子またはサイトカインタンパクなどを単独または併用して用いられている(特許文献4および5)。しかしながら、前記例示したアジュバントによる感作効果の向上は必ずしも十分なものではない。
【0010】
本発明は、特にDNA免疫法において感作効果を高めることが可能な新規なアジュバント、および前記アジュバントを用いて動物を免疫する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、無機化合物の針状結晶体が、物理的に細胞を傷つけることで抗原免疫箇所近傍細胞への取り込みを促進し、また前記細胞の炎症を惹起することで、十分な感作効果が得られることを見出した。
【0012】
すなわち第一の発明は、無機化合物の針状結晶体を含む、アジュバントである。
【0013】
また第二の発明は、針状結晶体が針状単結晶を含む結晶体である、第一の発明に記載のアジュバントである。
【0014】
また第三の発明は、無機化合物が酸化亜鉛であり、針状結晶体が核部と前記核部から異なる4軸方向に伸びた針状単結晶部からなる結晶体である、第一の発明に記載のアジュバントである。
【0015】
また第四の発明は、第一から第三の発明のいずれかに記載のアジュバントと抗原との混合物を動物に投与する工程を含む、動物を免疫する方法である。
【0016】
また第五の発明は、抗原がタンパク遺伝子を含む発現ベクターである、第四の発明に記載の方法である。
【0017】
また第六の発明は、第四または第五の発明に記載の方法により得られた抗体産生細胞を用いて、抗体を製造する方法である。
【0018】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明は、鋭利かつ強度の高い無機化合物の針状結晶体をアジュバントとして用いることを特徴としており、前記針状結晶体が細胞の物理的傷害および炎症を惹起することで、動物を免疫する際、アジュバントとともに投与する抗原の感作効果を高め、液性免疫を誘導させることができる。本発明のアジュバントで用いる無機化合物の針状結晶体は鋭利かつ強度の高い針状結晶を含んでいれば、多結晶からなる針状結晶であってもよいし、単結晶からなる針状結晶(いわゆるウィスカー)であってもよいが、結晶粒界などの構造的な欠陥が少なく、不純物をほとんど含まないため強度が高い、単結晶からなる針状結晶を含んだ針状結晶体が好ましい。前記好ましい無機化合物の針状結晶体の例としては、グラファイトウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、アルミナウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、ムライトウィスカー、マグネシアウィスカー、ホウ酸マグネシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ホウ化チタンウィスカーといった、樹脂、金属、セラミックスなどの強度を高めるための添加剤として用いられるウィスカーをあげることができる。
【0020】
本発明のアジュバントに含まれる好ましい無機化合物の針状結晶体の一例として、核部と前記核部から異なる4軸方向に伸びた針状単結晶部からなる三次元形状を有した酸化亜鉛ウィスカー(特許文献6)があげられ、例えば、樹脂の精密成形性、摺動、耐摩耗性、帯電防止性、導電性を向上させるための添加剤として市販されているパナテトラ(アムテック社製)を前記酸化亜鉛ウィスカーとして用いることができる。
【0021】
本発明のアジュバントは無機化合物の針状結晶体を含んでいればよく、無機化合物の針状結晶体単独であってもよいし、アジュバントとして用いられている公知の物質(例えばスペルミジンなどのポリアミンや尿酸結晶)と混合したものであってもよい。
【0022】
本発明のアジュバントと抗原とを動物に投与して動物を免疫する際に使用するアジュバントの量は、免疫する動物の大きさや、本発明のアジュバントに含まれる無機化合物の針状結晶体における無機化合物の物性、針状結晶体(針状単結晶部)の長さ、などを考慮し適宜決定すればよく、マウスやラットといった通常免疫に用いられる動物に対しては、1回の免疫で1個体あたり50から5000μgの無機化合物の針状結晶体を含む本発明のアジュバントを抗原とともに投与すればよい。例えば、免疫する動物がマウスであり、本発明のアジュバントが核部と前記核部から異なる4軸方向に伸びた針状単結晶部からなる三次元形状を有した酸化亜鉛ウィスカー(特許文献6)を含む場合は、1回の免疫で1匹のマウスに対して、前記酸化亜鉛ウィスカーを800から1000μg(例えば900μg)含む本発明のアジュバントを、抗原とともに投与すればよい。
【0023】
本発明のアジュバントに含まれる無機化合物の針状結晶体は、細胞の物理的傷害および炎症を惹起することで、感作効果を高めている。そのため、本発明のアジュバントを用いて動物を免疫する方法において、アジュバントとともに投与する抗原は、タンパクまたはその部分ペプチドであってもよいし、タンパク遺伝子を含む発現ベクターであってもよいが、これまで検討された方法では感作効果の低かった、タンパク遺伝子を含む発現ベクターを抗原とした場合に、本発明による効果が大きい。
【0024】
本発明のアジュバントを用いて動物を免疫する方法で得られた免疫動物が抗体を産生しているかを確認するには、当業者が通常用いるイムノアッセイを用いればよく、例として、液相または固相化抗原を用いたEIA(酵素免疫測定法)、ウェスタンブロッティング、抗原遺伝子を導入した一過性発現細胞株を用いたフローサイトメトリーまたは細胞ELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)などがあげられる。
【0025】
本発明のアジュバントを用いた動物を免疫する方法は、ヒトなどの動物への疾病治療や疾病防御を目的としたワクチンへの適用に限られるものではなく、投与した抗原に対する免疫した動物のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の製造への適用も可能である。前記抗体を製造するには、本発明のアジュバントと抗原との混合物を投与することで動物を免疫し、免疫された動物から脾臓、リンパ節、抹消血などを採取し抗体産生B細胞を取得後、前記B細胞を当業者に知られた方法でミエローマなどの適切な不死化細胞と融合させてハイブリドーマを作製することで、投与した抗原に対して特異的な抗体を製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は無機化合物の針状結晶体をアジュバントとして用いることに特徴があり、前記針状結晶体が、免疫箇所周辺部の細胞を物理的に傷害することで前記細胞への抗原の取り込みが促進され、また、免疫箇所周辺部にて強い炎症作用を惹起することで免疫対象物自身の免疫応答反応が活性化されることで効果的に液性免疫を誘導することできる。
【0027】
なお、本発明のアジュバントは、抗原タンパク遺伝子を含んだ発現ベクターとともに動物に投与して動物を免疫させるDNA免疫法で、免疫動物における、発現した抗原タンパクに対する感作効果を高めることができる。よって、従来の免疫方法(タンパクまたはその部分ペプチドを投与して動物を免疫する方法)では困難であった、動物種間でアミノ酸配列が高度に保存されている抗原タンパクや、天然型の抗原タンパクに対する免疫を容易に動物に付与することができる。
【0028】
本発明のアジュバントを用いた動物を免疫する方法は、単に本発明のアジュバントとともに投与した抗原に対する免疫を動物に付与するだけにとどまらず、前記免疫された動物から抗体産生細胞を取得し適切な不死化細胞と融合させてハイブリドーマを作製することで、投与した抗原に対して特異的な抗体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】SND1全長タンパク遺伝子(SND1全長区)またはSND1 Region 3遺伝子(Region 3区)を導入した細胞を抗FLAG抗体によりFACS解析した結果を示した図。図中右側にFACSのアッセイフォーマットを示す。蛍光強度(Count)が右にシフトしているほどタンパク発現量が多いことを示している。
【図2】CELISA解析による各免疫群のマウス血清抗体価測定結果を示した図。縦軸は蛍光強度を示す。
【図3】FACS解析による各免疫群のマウス血清抗体価測定結果を示した図。縦軸は蛍光強度を示す。
【図4】CELISA解析およびFACS解析により得られた各免疫群の平均値(棒グラフ)、標準誤差(エラーバー)を示した図。
【実施例】
【0030】
以下に本発明を更に詳細に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1 発現ベクターの構築
DNA免疫にて液性免疫を効果的に誘導するためには、膜結合型タンパクとして対象抗原タンパクを細胞表面上に局在させることが望ましい。今回、対象抗原タンパクとして細胞内タンパクであるHomo sapiens Staphylococcal Nuclease Domain containing 1(以下、SND1とする)を選択したため、SND1にGPIアンカーを付加したタンパクを発現可能なプラスミドベクターを構築することにした。
(1)常法に従ってSND1 cDNAの開始コドンおよび終止コドンを除いた全長(GenBank Accession No.NM_014390の230から2956番目の領域)またはRegion 3(GenBank No.NM_014390の1793から2956番目の領域)の遺伝子断片をRT−PCR法により増幅後、pVAC1(Invivogen社製)のBamHI−EcoRI部位に挿入した。増幅に使用したプライマーの組み合わせを以下に示す。
(a)SND1全長増幅用プライマー
Forward:5’−ggatccaggcgtcctccgcgcagagcgg−3’(配列番号1、5’末端側6塩基はBamHI認識配列、3’末端側20塩基はGenBank No.NM_014390の230から249番目の配列に相当)
Reverse:5’−gaattcgcggctgtagccaaattcgt−3’(配列番号3、5’末端側6塩基はEcoRI認識配列、3’末端側20塩基はGenBank No.NM_014390の2937から2956番目の配列に相当)
(b)SND1 Region 3増幅用プライマー
Forward:5’−ggatccagcgggcaggtcgttctgaagc−3’(配列番号2、5’末端側6塩基はBamHI認識配列、3’末端側20塩基はGenBank No.NM_014390の1793から1812番目の配列に相当)
Reverse:5’−gaattcgcggctgtagccaaattcgt−3’(配列番号3)
(2)SND1全長またはRegion 3とpVAC1由来Placental Alkaline phosphataseのGPIアンカー領域を含む各遺伝子断片をPCR法により増幅後、SND1全長とGPIアンカーを含む遺伝子断片はpFLAG−Myc−CMV−21(Invitrogen社製)のHindIII−BamHI部位に、SND1 Region 3とGPIアンカーを含む遺伝子断片はpFLAG(Invitrogen社製)のHindIII−BamHI部位に、それぞれ挿入した。増幅に使用したプライマーの組み合わせを以下に示す。
(c)(SND1全長+GPIアンカー)増幅用プライマー
Forward:5’−aagcttgcgtcctccgcgcagagcgg−3’(配列番号4、5’末端側6塩基はHindIII認識配列、3’末端側20塩基はGenBank No.NM_014390の230から249番目の配列に相当)
Reverse:5’−ggatcctcaggtttagggagcagtgg−3’(配列番号6、5’末端側6塩基はEcoRI認識配列)
(d)(SND1 Region 3+GPIアンカー)増幅用プライマー
Forward:5’−aagcttcgggcaggtcgttctgaagc−3’(配列番号5、5’末端側6塩基はHindIII認識配列、3’末端側20塩基はGenBank No.NM_014390の1793から1812番目の配列に相当)
Reverse:5’−ggatcctcaggtttagggagcagtgg−3’(配列番号6)
(3)各プラスミドベクターに挿入した遺伝子により発現したタンパクが想定した通りに細胞表面に局在していることを確認するために、チャイニーズハムスター卵巣由来哺乳細胞(CHO−K1細胞株)を用いて検証した。
(3−1)(2)で構築したプラスミドベクターを常法に従いCHO−K1細胞株へ導入し一過性発現させた。
(3−2)前記導入したCHO−K1細胞株を、5%COインキュベータにて、10%FCS添加Hams F12培地(和光純薬社製)を用いて、24時間・37℃で培養した。
(3−3)(3−2)の培養液に、前記導入したプラスミドベクターに挿入されているFLAGタグに対するマウス抗FLAG M2抗体(SIGMA社製)を添加して30分静置後、蛍光標識した抗マウスIgG抗体(BECKMAN COULTER社製)を添加し30分間静置後、FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)解析を行なった。なお、対象区として遺伝子導入をしていないCHO−K1細胞株培養液を用いて同様な解析を行なった。
【0032】
FACS解析の結果を図1に示す。解析の結果、対照区では全く反応が認められないが、SND1全長遺伝子(SND1全長区)またはSND1 Region 3遺伝子(Region 3区)を導入した細胞はいずれも反応が認められた。本結果より発現したSND1 全長タンパクまたはSND1 Region 3タンパクは細胞表面上に局在していることが示された。なお、SND1全長区と比較してRegion 3区の方がよりFLAG抗体の反応性が高いことから、全長を断片化することで細胞表面上への発現量が増えていることが推察される。
【0033】
実施例2 免疫および採血
(1)SND1 Region 3遺伝子を挿入したプラスミドベクターをDNA量として40μg含むように100μLの5%スクロース溶液にて調製し、それをA/Jマウスに投与することで、A/Jマウスを免疫した。なお免疫群として、対照群(プラスミドベクター40μgのみを投与)、酸化亜鉛ウィスカー群(プラスミドベクター40μgと酸化亜鉛ウィスカー(商品名:パナテトラ、アムテック社製)900μgを投与)、尿酸結晶群(プラスミド40μgと尿酸結晶飽和溶液100μLを投与、なお尿酸結晶は非特許文献6に記載の方法で調製)を設け、各免疫群に対して4匹のA/Jマウスを使用した。
(2)初回の免疫から3日後、5日後、7日後、9日後、12日後、14日後、21日後、28日後、35日後に追加免疫し、初回の免疫開始後42日目に採血を行ない抗血清を採取した。なお、酸化亜鉛ウィスカー群においてのみ、免疫開始7日後から免疫箇所周辺部に鬱血を伴う強い炎症反応が認められた。
【0034】
実施例3 SND1全長タンパク発現細胞の作製
抗血清評価用としてSND1全長タンパクを恒常的に発現するCHO−K1細胞株を作製した。
(1)SND1全長遺伝子を挿入したプラスミドを常法に従いCHO−K1細胞株へ遺伝子導入後、5%COインキュベータにて、10%FCS添加Hams F12培地(和光純薬社製)を用いて、24時間・37℃で培養した。
(2)培養後、抗生物質Geneticin溶液(Invitrogen社製)を250μg/mLとなるよう添加し、3週間培養した。
(3)抗FLAG抗体を用いてセルソーターによりSND1全長タンパクを恒常的に発現するCHO−K1細胞を分取した。
【0035】
実施例4 マウス抗血清の評価
実施例3で調製したSND1全長タンパク発現細胞を用いて、細胞酵素免疫測定法(CELISA)およびFACSにより、実施例2で調製した各マウス抗血清を解析した。なお、前記抗血清は3%ウシ胎児血清を含むPBSにて1000倍希釈したものを用いた。
(1)CELISA解析
(1−1)実施例3で調製したSND1全長タンパク発現細胞を96ウェルプレートに1wellあたり5×10細胞をコートし、5%COインキュベータにて、10%FCS添加Hams F12培地(和光純薬社製)を用いて、24時間・37℃で培養した。
(1−2)1000倍希釈した抗血清を第一抗体として室温にて1時間反応後、プレートを洗浄して西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスイムノグロブリンG−Fc抗体(SIGMA社製)を2次抗体として反応させた。
(1−3)室温にて1時間反応後、プレートを洗浄しAmplex Red溶液(Invitrogen社製)を添加し、蛍光測定プレートリーダーにて蛍光強度を算出した。
(2)FACS解析
実施例1と同様に実施し、蛍光強度を算出した。
【0036】
CELISA解析の結果を図2に、FACS解析の結果を図3にそれぞれ示す。いずれの解析でも、対照群や尿酸結晶群と比較し、酸化亜鉛ウィスカー群が高値を示した。CELISA解析およびFACS解析にて算出した、各免疫群における蛍光強度の平均値および対照群と酸化亜鉛ウィスカー群間のウェルチT検定による統計処理結果を図4に示す。対象群と酸化亜鉛ウィスカー群間ではCELISA解析(p=0.0036)、FACS解析(p=0.0024)ともに統計的な有意差を示したことから、酸化亜鉛ウィスカーにより液性免疫が誘導され抗体価が上昇したことが示された。一方、針状結晶体でも尿酸結晶を投与した群(尿酸結晶群)では対照群と比較して抗体価の上昇は認められなかった。以上より、針状単結晶部を有した無機化合物である酸化亜鉛ウィスカーがアジュバント効果(液性免疫を増強する効果)を有していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
無機化合物の針状結晶体を動物を免疫する際のアジュバントとして用いることで、免疫した動物の液性免疫を増強することが可能となる。また、本発明のアジュバントと抗原を投与して動物を免疫することで得られる抗体産生細胞から、投与した抗原に対する特異的の高い抗体を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物の針状結晶体を含む、アジュバント。
【請求項2】
針状結晶体が針状単結晶を含む結晶体である、請求項1に記載のアジュバント。
【請求項3】
無機化合物が酸化亜鉛であり、針状結晶体が核部と前記核部から異なる4軸方向に伸びた針状単結晶部からなる結晶体である、請求項1に記載のアジュバント。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のアジュバントと抗原との混合物を動物に投与する工程を含む、動物を免疫する方法。
【請求項5】
抗原がタンパク遺伝子を含む発現ベクターである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の方法により得られた抗体産生細胞を用いて、抗体を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−168500(P2011−168500A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31096(P2010−31096)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】