説明

アスコルビン酸含有氷菓子及びその保存方法

【課題】低コストで保蔵されるアスコルビン酸類含有氷菓子を提供する。
【解決手段】アスコルビン酸類を含有し、−16℃〜−10℃で保蔵されることを特徴とする氷菓子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸類を含有する氷菓子及びその保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスコルビン酸は、ラクトン構造を持つ有機化合物の一種であり、光学異性体の1つのL−アスコルビン酸はビタミンCとして知られている。アスコルビン酸(ビタミンC)は、生体内において組織細胞や歯茎、血管、骨等の成長と修復、鉄の吸収の補助、コラーゲンの形成等に重要な役割をする必須の栄養素であり、栄養補助剤として用いられる他、強い抗酸化作用(還元作用)を有し(例えば、非特許文献1参照)、酸化防止剤等の食品添加物としても広く利用されている。
【0003】
アイスキャンディー、シャーベット、アイスクリーム、アイスクリーム被覆物等の氷菓子においても、従来、品質保持や栄養摂取を目的としてアスコルビン酸を添加することが行われていた。また、近年ではアスコルビン酸を多量に含む天然果汁等を添加した氷菓子が開発され(例えば、特許文献1参照)、製造販売されている。
【0004】
一方、アスコルビン酸は、熱等に不安定であり、例えば50℃保温で12週間後に70%〜95%が消失することが知られているが、氷菓子等の冷凍食品の通常の保蔵温度である−18℃以下では殆んど劣化等を起こさず安定なため(例えば、非特許文献1及び2参照)、アスコルビン酸を含有する氷菓子も、従来、他の冷凍食品と同様に−18℃で保蔵されていた。
【特許文献1】特開2001−346518
【非特許文献1】栄養学雑誌 Vol.48 No.4 p149−p156 (1999)
【非特許文献2】日本家政学会誌 Vol.39 No.4 p335−p338 (1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アスコルビン酸を含有する氷菓子を−18℃以下で保蔵することは、氷菓子の保蔵コストの点で経済的に好ましくなく、これらをより低コストで保蔵することが求められていた。
【0006】
従って、本発明は、低コストで保蔵されるアスコルビン酸類含有氷菓子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、斯かる実情に鑑み、氷菓子の保蔵条件について鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことにアスコルビン酸は−5℃の高温でも劣化せず、その構造を維持することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1)本発明は、すなわち、アスコルビン酸類を含有し、−16℃〜−10℃で保蔵されることを特徴とする氷菓子である。
【0009】
(2)本発明は、また、−14℃〜−10℃で保蔵されることを特徴とする(1)に記載の氷菓子である。
【0010】
(3)本発明は、また、前記アスコルビン酸類は、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩又はアスコルビン酸エステル誘導体の中の少なくとも一つであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の氷菓子である。
【0011】
(4)本発明は、また、前記アスコルビン酸類の含有量は、1.2%〜2.4%であることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の氷菓子である。
【0012】
(5)本発明は、また、前記氷菓子は、アイスキャンディー、シャーベット、アイスクリーム又はアイスクリーム被覆物であることを特徴とする(1)〜(4)の何れか1項に記載の氷菓子である。
【0013】
(6)本発明は、また、−16℃〜−10℃で保蔵されることを特徴とするアスコルビン酸類含有氷菓子の保存方法である。
【0014】
(7)本発明は、また、−14℃〜−10℃で保蔵されることを特徴とする(6)に記載のアスコルビン酸類含有氷菓子の保存方法である。
【0015】
(8)本発明は、また、前記アスコルビン酸類は、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩又はアスコルビン酸エステル誘導体の中の少なくとも一つであることを特徴とする(6)又は(7)に記載の氷菓子の保存方法である。
【0016】
(9)本発明は、また、前記アスコルビン酸類の含有量は、1.2%〜2.4%であることを特徴とする(6)〜(8)の何れか1項に記載の氷菓子の保存方法である。
【0017】
(10)本発明は、さらに、前記氷菓子は、アイスキャンディー、シャーベット、アイスクリーム又はアイスクリーム被覆物であることを特徴とする(6)〜(9)の何れか1項に記載の氷菓子の保存方法である。
【0018】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の氷菓子によれば、−16℃〜−10℃で保蔵されることにより、氷菓子に含有されたアスコルビン酸類の劣化を防止することができるので、従来法と比較して、保蔵コストを軽減しつつ、アスコルビン酸類の諸機能を損なうことなくアスコルビン酸類含有氷菓子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本発明の氷菓子は、アスコルビン酸類を含有し、−16℃〜−10℃で保蔵されることを特徴とするものである。ここで、氷菓子とは、氷点下に冷やして供される菓子の総称であり、本発明の氷菓子としては、アイスキャンディー、アイスクリーム、アイスクリーム被覆物、かき氷、シャーベット、アイスまんじゅう等が挙げられ、これらの中では、特にアイスキャンディー又はシャーベットが好ましい。
【0022】
また、本発明で利用されるアスコルビン酸類とは、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム等のアスコルビン酸塩、アスコルビン酸エステルマグネシウム等のアスコルビン酸エステル誘導体等をいう。
【0023】
また、本発明の氷菓子は、−16℃〜−10℃で保蔵するのが好ましく、特に−14℃〜−10℃が好ましい。すなわち、後述するように、本発明者らは、アイスキャンディーやシャーベット等の氷菓子に添加されたアスコルビン酸が、−5℃以下では安定であり殆ど劣化を生じないことを見出した。従って、アイスキャンディー又はシャーベット等の氷菓子がその形態を保持し得る限界温度付近である−14℃〜−10℃で保蔵されることにより、添加されたアスコルビン酸の劣化を有効に防止しつつ、食感、風味等に優れた氷菓子を提供することができるものである。
【0024】
また、本発明の氷菓子の原材料は、既知の氷菓子の原材料が用いられるが、アイスキャンディー又はシャーベットを例にして説明すれば、主原料として水、糖類(甘味料)、果汁や果肉等が挙げられ、さらに、酸化防止剤、乳化剤、安定剤、香料、着色料、酸味料等の食品添加物を適宜用いても良い。
【0025】
本発明で利用される甘味料としては、砂糖(ショ糖)、蜂蜜、メープルシロップ、モラセス(糖蜜)、水飴、ぶどう糖、果糖、麦芽糖、エリスリトール、トレハロース、マルチトース、甘草抽出物、ステビア加工の甘味料、羅漢果抽出物、サッカリン(サッカリンナトリウム)、チクロ(サイクラミン酸)、ズルチン、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0026】
また、本発明で利用される果汁や果肉としては、レモン、ライム、オレンジ、グレープフルーツ、カムカム、アセロラ、ローズヒップ、キウイフルーツ、グァバ、パパイヤ、ブラックベリー、イチゴ、マスクメロン、ブルーベリー等の果汁や果肉が挙げられる。
【0027】
また、本発明で利用される酸化防止剤としては、アスコルビン酸類が挙げられ、アスコルビン酸類としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩又はアスコルビン酸エステル誘導体が好ましく、本発明においてはL−アスコルビン酸が好適に利用される。なお、本発明において利用されるL−アスコルビン酸は、果汁や果肉に含まれて利用されてもよい。
【0028】
また、本発明で利用される乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0029】
また、本発明で利用される安定剤としては、アラビアガム、アルギン酸やその塩、カシアガム、ガティガム、カラギナン、カラヤガム、キサンタンガム、キチン、キトサン、グアーガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、デキストラン、トラガントガム、ファーセレラン、プルラン、ペクチン、ローカストビーンガム、寒天等が挙げられる。
【0030】
また、本発明で利用される香料としては、天然香料としてバニラエキストラクト、ハーブエキストラクト、コーヒーエキストラクト、バニラオレオレジン、スパイスオレオレジン、バニラチンキ、コーヒーチンキ、ココアチンキ、アップルフレーバー、ストロベリーフレーバー、オレンジオイル、レモンオイル、グレープフルーツオイル、シンナモンバークオイル、クローブオイル、シソオイル、ペパ−ミント、アンブレット・シードオイル、ミモザコンクリート、アジョワンオイル、フェンネルオイル、アビエスオイル、カナンガオイル、イリスレジノイド、エレミオレオレジン、エレミアブソリュート、オークモスアブソリュート、オレンジオイル、コリアンダーオイル、ローズマリーオイル、合成香料としてイソチオシアネート類、インドール及びその誘導体、エーテル類、エステル類、ケトン類、脂肪酸類、脂肪族高級アルコール類、脂肪族高級アルデヒド類、脂肪族高級炭化水素類、チオエーテル類、チオール類、テルペン系炭化水素類、フェノールエーテル類、フェノール類、フルフラール及びその誘導体、芳香族アルコール類、芳香族アルデヒド類、ラクトン類等が挙げられる。
【0031】
また、本発明で利用される着色料としては、カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、パプリカ色素、紅花色素、紅麹色素、フラボノイド色素、コチニール色素、アマランス(赤色2号)、エリスロシン(赤色3号)、アルラレッドAC(赤色40号)、ニューコクシン(赤色102号)、フロキシン(赤色104号)、ローズベンガル(赤色105号)、アシッドレッド(赤色106号)、タートラジン(黄色4号)、サンセットイエローFCF(黄色5号)、ファストグリーンFCF(緑色3号)、ブリリアントブルーFCF(青色1号)、インジゴカルミン(青色2号)等が挙げられる。
【0032】
また、本発明で利用される酸味料としては、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸(氷酢酸)、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0033】
また、アイスクリーム又はアイスクリーム被覆物を例にして説明すれば、主原料として水、乳や乳製品、甘味料、卵、果肉や果汁、トッピング類、アルコール類等が挙げられ、食品添加物として酸化防止剤、着色料、香料、酸味料、安定剤、乳化剤等が挙げられる。
【0034】
また、本発明で利用される乳製品としては、クリーム、バター、バターオイル、チーズ、生乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、濃縮ホエイ、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調整粉乳、はっ酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料等が挙げられる。
【0035】
また、本発明で利用されるトッピング類としては、チョコチップ、粉砂糖等の粉末類、ナッツ又はクッキー類、ソース類等が挙げられる。
【0036】
また、本発明で利用されるアルコール類としては、清酒、合成清酒、焼酎、味醂、ビール、果実酒類、ウイスキー類、スピリッツ類、リキユール類、雑酒等が挙げられる。
【0037】
なお、他の原料及び素材については、上述したとおりである。
【0038】
次に、本発明のアスコルビン酸類添加氷菓子の製造方法について説明する。本発明の氷菓子は、既知の製造方法を用いて製造することができるが、例えばアイスキャンディー又はシャーベットを例にして製造方法を説明する。すなわち、これは原材料の配合工程、原材料の溶解混合工程、混合溶液の均質化工程、殺菌工程、フリージング工程、充填及び硬化工程の各工程を含み、具体的には、水、砂糖及び安定剤を容器に入れ、完全に溶解するよう攪拌混合した後にホモゲナイザー等を用いて混合溶液を均質化し、殺菌処理を行ってから冷却する。次に、アスコルビン酸を添加してアイスキャンディー又はシャーベットを得るが、アスコルビン酸の添加時に、上述した果汁、香料等を加えてもよい。
【0039】
また、アイスクリーム又はアイスクリーム被覆物を例にして製造方法を説明すると、原材料の配合工程、原材料の溶解混合工程、混合溶液の均質化工程、殺菌工程、エージング工程、フリージング工程、充填工程、冷凍工程の各工程を含み、具体的には、液状の原料を加熱後に適切な温度で粉体原料を投入し、次いで過熱溶解後に適切な温度及び時間で保持して適切な温度に達した後に殺菌し、次いで適切な温度でエージングを行った後、アスコルビン酸を投入し、フリーザーにてフリージング後に充填を行い、アイスクリーム又はアイスクリーム被覆物を得る。
【実施例1】
【0040】
次に、本発明の具体的な実施例を以下に示すが、これは本発明の実施態様を例示したものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0041】
[実施例1]アイスキャンディーの作製
【0042】
下記表1に示す割合で、砂糖、ペクチン及び水を計量し、水を30℃に昇温した後砂糖及びペクチンを加えて完全に溶解するまで5分間攪拌混合した。その後、この混合溶液を65℃に昇温し、15分間静置し、圧力50kg/cm、3分の条件下でホモゲナイザー(イズミフードマシナリ社製)を用いて均質化した。その後、85℃、30分の条件下で殺菌処理を行い、この混合溶液を10℃まで降温して冷却した。その後、下記表1に示す割合でアスコルビン酸を計量して添加し、この混合溶液を−33℃〜−30℃の条件下で凍結させ、アイスキャンディーを得た。
【表1】

【0043】
[実施例2]ヒドラジン比色法を用いたアスコルビン酸の定量
【0044】
実施例1で得られたアイスキャンディーについて、各温度で保蔵中のアスコルビン酸含有量の変化を、公知のヒドラジン比色法を用いて調べた結果を表2に示した。尚、保蔵温度は−25℃、−5℃及び0℃であり、−25℃で保蔵したアイスキャンディーを指標(コントロール)とした。
【0045】
表2に示したとおり、アスコルビン酸は、−5℃で保蔵した場合でも−25℃で保蔵した場合と同様に、殆んど劣化等を起こしていなかった。よって、本発明のアイスキャンディーの保蔵温度は−16℃〜−10℃であるので、この温度でもアスコルビン酸の劣化等は起こらないことがわかった。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の氷菓子によれば、−16℃〜−10℃で保蔵されることにより、氷菓子に含有されたアスコルビン酸類の劣化を防止することができるので、従来法と比較して、保蔵コストを軽減しつつ、アスコルビン酸類の諸機能を損なうことなくアスコルビン酸類含有氷菓子を提供することができる。
【0047】
従って、本発明が、特にアイスキャンディー、アイスクリーム、アイスクリーム被覆物、シャーベット等の氷菓子に用いられた場合には、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸類を含有し、−16℃〜−10℃で保蔵されることを特徴とする氷菓子。
【請求項2】
−14℃〜−10℃で保蔵されることを特徴とする請求項1に記載の氷菓子。
【請求項3】
前記アスコルビン酸類は、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩又はアスコルビン酸エステル誘導体の中の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の氷菓子。
【請求項4】
前記アスコルビン酸類の含有量は、1.2%〜2.4%であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の氷菓子。
【請求項5】
前記氷菓子は、アイスキャンディー、シャーベット、アイスクリーム又はアイスクリーム被覆物であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の氷菓子。
【請求項6】
−16℃〜−10℃で保蔵されることを特徴とするアスコルビン酸類含有氷菓子の保存方法。
【請求項7】
−14℃〜−10℃で保蔵されることを特徴とする請求項6に記載のアスコルビン酸類含有氷菓子の保存方法。
【請求項8】
前記アスコルビン酸類は、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩又はアスコルビン酸エステル誘導体の中の少なくとも一つであることを特徴とする請求項6又は7に記載の氷菓子の保存方法。
【請求項9】
前記アスコルビン酸類の含有量は、1.2%〜2.4%であることを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の氷菓子の保存方法。
【請求項10】
前記氷菓子は、アイスキャンディー、シャーベット、アイスクリーム又はアイスクリーム被覆物であることを特徴とする請求項6〜9の何れか1項に記載の氷菓子の保存方法。

【公開番号】特開2008−212119(P2008−212119A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57685(P2007−57685)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(593222698)赤城乳業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】