説明

アスタキサンチンを含有する茶系飲料

【課題】アスタキサンチン成分に由来する、殺菌工程での高温処理などによる不快臭味の発生が効果的に抑制され、すっきりした自然な香味を有し、日常的に違和感なく飲用することのできる容器詰め飲料を提供すること。
【解決手段】本発明による容器詰め茶系飲料は、アスタキサンチンを含有してなることを特徴とするものであり、好ましくは、アスタキサンチンと茶ポリフェノール類とを併用的に含有してなることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、アスタキサンチンを含有する飲料に関するものであり、特に、飲料中に配合されるアスタキサンチン由来の不快臭味が効果的に低減・抑制され、すっきりした自然な香味を有する容器詰め茶系飲料に関するものである。
【0002】
背景技術
近年、カロチノイドの1種であるアスタキサンチン(astaxanthin)の健康増進機能に注目が集まっている。アスタキサンチンは、鮭、イクラ、マス、オキアミ、エビ・カニ類などに含まれる赤色色素であるが、もともとはヘマトコッカスという藻類の一種に含まれており、それが食物連鎖により魚介類の体内に蓄えられているといわれている。工業的にアスタキサンチンを利用する場合には、化学的な合成品を用いるか、アスタキサンチンを含有する天然物(オキアミ、ファフィア酵母、ヘマトコッカス藻など)からの抽出品が利用できる。
【0003】
ところで、最近になって、ヘマトコッカス藻類から抽出する方法が確立され(例えば、特開平8−103288号公報(特許文献1)参照)工業的に大量かつ安定的に供給されるようになったため、この製法で得られたアスタキサンチンを利用するのが主流となっている。
【0004】
一方、アスタキサンチンは水に不溶な油状物であるため、通常は飲料などに配合する場合、予め水溶化もしく水分散性を向上させる処理を施す必要がある。このような方法としては、例えば、乳化処理、環状デキストリンへの包接などがある。また、単にエタノールなど溶媒への溶解物を希釈することも可能である。また、予めそのような処理がなされ、食品原料として利用しやすく加工した製剤も市場に流通している。
【0005】
しかしながら、天然物由来のアスタキサンチン、特に藻類由来のアスタキサンチンは、容器詰め飲料に用いると、殺菌工程などの高温処理によって、生臭い、海藻様、青魚様、金属臭、サビ臭などと表現される不快な臭味を強く生じるという問題がある。
【0006】
このため、容器詰め飲料において、従来の飲食品風味を保ちつつアスタキサンチンを含有させるには、その含有濃度を制限する必要があった。また、甘味料や香料などを添加する従来の臭味マスキング方法によって、アスタキサンチン由来の不快臭味を抑制させる場合、それら添加物を相当量含有させる必要がある。その結果得られる容器詰め飲料は、濃厚で人工的な香味となり、食事中や運動時など、日常的に違和感なく摂取することが難しかった。
【0007】
よって、アスタキサンチンを高濃度で含有するにもかかわらず、すっきりした自然な香味を有しつつ、しかも外観安定性が優れ、日常的に違和感なく飲用することのできる容器詰め飲料は本発明者の知る限りこれまでなかった。
【0008】
なお、特開2006−160685号公報(特許文献2)、特開平10−155459号公報(特許文献3)および特開平10−276721号公報(特許文献4)にはアスタキサンチンを含有する製剤を添加する対象として、多数の飲食品が列挙されており、その中に茶系飲料も開示されている。しかしながら、これらの文献においては、アスタキサンチンを配合する多くの飲食品が例示的に列挙されているものの、アスタキサンチンを配合した飲料を殺菌加工して容器詰め飲料にした場合の不快臭味の発生という問題についてはいずれの文献においても認識されてはおらず、さらにこの問題を解決するための手段についてもこれを教示ないし示唆する記載はない。
【0009】
【特許文献1】特開平8−103288号公報
【特許文献2】特開2006−160685号公報
【特許文献3】特開平10−155459号公報
【特許文献4】特開平10−276721号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明者は今般、茶系飲料、特に茶ポリフェノール類を含有する茶系飲料にアスタキサンチンを含有させることにより、殺菌工程などの高温処理により発生するアスタキサンチン由来の強い不快臭味を効果的に抑制・低減させた飲料が調製できることを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0011】
よって本発明は、アスタキサンチン成分に由来する、殺菌工程での高温処理などによる不快臭味の発生が効果的に抑制され、すっきりした自然な香味を有し、日常的に違和感なく飲用することのできる容器詰飲料の提供をその目的とする。
【0012】
本発明によれば、アスタキサンチンを含有してなることを特徴とする容器詰め茶系飲料、詳しくは、アスタキサンチンと茶ポリフェノール類とを併用的に含有してなることを特徴とする容器詰め茶系飲料が提供される。
本発明の好ましい態様において、上記アスタキサンチンは、藻類から抽出されたものであり、また、茶系飲料は半発酵茶飲料であることが好ましい。
さらに、本発明の好ましい態様においては、本発明の容器詰め茶系飲料が含有するアスタキサンチン量は0.5〜3mg/100mgの範囲であり、かつ、茶ポリフェノール類濃度(タンニン値)は20〜80mg/100mlの範囲である。
【0013】
本発明においては、後述する実施例からも明らかなように、茶ポリフェノール類を含有する茶系飲料にアスタキサンチンを含有させることにより、殺菌工程などの高温処理により発生するアスタキサンチン由来の強い不快臭味を効果的に抑制し低減させることができる。これにより、健康志向の観点から種々の効果を有するとされるアスタキサンチンを従来になく飲みやすくした飲料を提供することができる。これは当該技術分野において優れた効果であると言える。
【発明の具体的説明】
【0014】
容器詰め茶系飲料
本発明による容器詰め茶系飲料は、前記したように、アスタキサンチンを含有してなることを特徴とするものであり、具体的には、アスタキサンチンと茶ポリフェノール類とを併用的に含有してなることを特徴とするものである。ここで、「併用的に含有してなる」とは、アスタキサンチンに対して茶ポリフェノール類が所望の効果である不快臭味の抑制・低減効果を奏しうる程度の量(有効量)で含まれていることを意味する。
【0015】
アスタキサンチン
本発明の容器詰め茶系飲料の含有成分であるアスタキサンチン成分としては、化学的に合成されたものおよび天然物由来品のいずれをも使用することができる。天然物由来のアスタキサンチンとしては、オキアミ、ファフィア酵母、ヘマトコッカス藻を用いる製造法によって調製されたものが知られている。このなかでも、本発明においては、ヘマトコッカス藻からの抽出によって得られるアスタキサンチンが、大量かつ安定的に供給されるものとして好ましい。
【0016】
本発明に用いるアスタキサンチンとしては、アスタキサンチンの遊離体、モノエステル、ジエステル誘導体あるいはこれらの異性体等の混合物などを用いることができ、したがって、本発明において「アスタキサンチン」とは、上述した成分の1種もしくは2種以上の混合物を含む意味である。
【0017】
アスタキサンチンは水に不溶な油状物質であるため、通常は飲料(水性溶媒)への添加に際して、水溶化処理、あるいは水分散性向上処理などが施される場合があるが、本発明において使用されるアスタキサンチンは、このような水溶化/水分散性向上のための処理が施された成分をも包含する。この場合、このような処理が施された市販の製剤(富士化学工業株式会社製「アスタリール」(商品名)、ヤマハ発動機株式会社製「アスタキサンチン PURESTA」(商品名)など)を使用することができる。
【0018】
本発明の茶系飲料においては、アスタキサンチンの含有量に特に制限はない。しかしながら、期待される機能の面と、飲料を長期保存した場合の香味、外観(液色、濁り、沈殿・浮遊物)の安定性の観点から、該含有量は、好ましくは0.5〜3mg/100ml程度の範囲、より好ましくは1.5〜2.0mg/100ml程度の範囲である。なおここで、「〜mg/100ml」とは、製品飲料100ml当たりのmg含有量を意味する。
【0019】
茶系飲料
本発明において、茶系飲料とは、カメリアシネンシスの茶葉、具体的には不発酵茶である緑茶、中国緑茶、半発酵茶であるウーロン茶(烏龍茶)、発酵茶である紅茶などを、水または湯で抽出した茶葉抽出液および/または茶葉抽出液のエキスを含有する飲料を意味する。このような茶系飲料は、通常、茶ポリフェノール類を含有する。
【0020】
本発明においては、不発酵茶(緑茶)、発酵茶(紅茶)に比べ、より効果的にアスタキサンチンの不快臭味をマスキングする上で、半発酵茶(ウーロン茶)が特に好ましい。
【0021】
茶ポリフェノール類
本発明において「茶ポリフェノール類」とは、カテキン類をはじめ、茶葉中に含まれる各種ポリフェノール類を指し、具体的には、カテキン類やプロアントシアニジン類などの一次ポリフェノールのみならず、それらの酸化重合等による生成物であるテアシネンシン類、ウーロンテアニン、テアフラビン類、テアルビジン類等の二次ポリフェノールも包含する意味で使用される。
【0022】
本発明においては、茶ポリフェノール類の量をタンニン値で規定することができる。茶系飲料において、タンニン値は、例えば、茶葉抽出液および/または茶類エキスのタンニン値を測定し、所望の濃度範囲となるように含有させることにより所定の範囲に調整することができる。あるいは、予めタンニン値が調整された茶葉抽出液および/または茶類エキスを所定量添加することによっても、製品飲料のタンニン値の調整を行うことができる。
【0023】
ここで「タンニン値」は、具体的には、茶類のポリフェノール量を評価する際の基準である酒石酸鉄法(中林敏郎他著「緑茶・紅茶・烏龍茶の化学と機能」弘学出版、137ページ参照)を用いて測定することができる。この測定方法においては、液中のポリフェノールと酒石酸鉄試薬を反応させて生じた紫色成分の吸光度(540nm)を測定することにより、没食子酸エチルを標準物質として作成した検量線を用いて定量することができる。このようにして得られた定量値を最終的に1.5倍したものを「タンニン値」とする。
【0024】
本発明においては、茶葉抽出液、茶葉抽出液の濃縮物(エキス)の含有量に特に制限はないが、香味のバランス、アスタキサンチン由来の不快臭味の効果的な抑制・低減の観点から、容器詰め茶類飲料の茶ポリフェノール類濃度(タンニン値)が20〜80mg/100mlの範囲であることが好ましく、40〜60mg/100mlとなるような添加がより好ましい。タンニン値が20mg/100ml未満であると、アスタキサンチンを含む茶系飲料における不快臭味の抑制・低減効果が充分とは言えないことがあり、また、タンニン値が80mg/100mlを超えると、不快臭味の抑制・低減効果は奏されるものの、茶ポリフェノール類による苦味等が強くなり、飲料としては需要者に受け入れられ難くなることがある。
【0025】
また本発明においては、茶系飲料に含まれるアスタキサンチンと茶ポリフェノール類の量を、重量基準の比で表すことができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、製品飲料中においてアスタキサンチン1mgに対し、茶ポリフェノール類量は6〜160mgであり、より好ましくは13〜120mgである。
【0026】
本発明の容器詰め茶系飲料においては、茶葉抽出液および/または茶葉抽出液のエキスとアスタキサンチン以外の添加成分について特に制限はない。よって、必要に応じて、糖類、甘味料、乳成分、アミノ酸類、ビタミン類、香料、酸味料、pH調整剤など、一般的に飲食品に添加される添加物を含有させることができる。
【0027】
なお本発明において「飲料」は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示を付した食品、または、病者用食品のような分類に包含される飲料も含む意味で使用することができる。
【0028】
容器詰め茶系飲料の製造法
本発明に係る容器詰め茶系飲料の製造法について以下説明する。
茶葉の抽出については、特に制限はなく、従来公知の抽出方法が適用され得る。例えば、工業レベルでは抽出タンクやニーダーなどで茶葉重量の10倍から100倍の水もしくは温水で5〜10分間程度で抽出することによって行われ得る。通常、固液分離して茶葉を除去したのち、遠心分離工程を経て抽出液を得ることができる。また、必要に応じて、別途製造あるいは購入した茶葉抽出液のエキスを使用しても同様に所定濃度の抽出物を得ることができる。
【0029】
茶葉抽出液とアスタキサンチンとの混合は.加熱殺菌前であればいずれの工程において行っても良い。外観安定性(液色変化、濁り、沈殿・浮遊物の発生予防)の観点からは、抽出液を製品濃度に希釈した後、他の原材料と混合する工程で実施することが好ましい。
【0030】
このようにしてアスタキサンチンが添加された茶系飲料に対して、所定の殺菌工程が施したのち、容器に充填することによって、本発明の容器詰め茶系飲料を得ることができる。殺菌工程については、食品衛生法に定められた条件以上の条件であれば、一般的な容器詰め飲料の殺菌処理を適用することができる。具体的には、高温高圧殺菌(HTST殺菌、UHT殺菌)によりF値4以上の殺菌処理をおこなった後、PET等の容器にホットパック充填もしくはアセプティック充填する方法、もしくは金属缶に熱充填した後、レトルト殺菌(F値4以上)を行うことによって本発明による容器詰め茶系飲料を得ることができる。この場合、各種樹脂製ボトル、缶、ガラス壜、紙容器、パウチ等、通常の容器詰め飲料において用いられる飲料用容器へ充填することができる。
【実施例】
【0031】
実施例1〜3
市販の紅茶(発酵茶)、ウーロン茶(半発酵茶)、緑茶(不発酵茶)の茶葉それぞれ100gに対して、3000gの約90℃の熱湯を加えて抽出した後、常法にしたがって固液分離を行い、各茶葉抽出液を調製した。
【0032】
このようにして得られた茶葉抽出液にそれぞれ水を加えて希釈した後に、水溶性アスタキサンチン製剤(アスタレッド(商品名)、三栄源エフエフアイ株式会社製;アスタキサンチン含有率0.5重量%)をアスタキサンチンの最終製品濃度が1.8mg/100mlになるように加えた。また紅茶についてはさらにショ糖を最終製品濃度1.5重量%になるように加えた。最後に、ビタミンCと重曹とでpHを6.5に調整したうえで、所定のタンニン値となるようにさらに水に加えた。この調整液に対してUHT殺菌(F値10相当)を行い、PET容器へ充填・密封して、本発明品である実施例1〜3を得た。
【0033】
これらとは別に、脱イオン交換水に同量のアスタキサンチン製剤を加えてからpH調整を行い、さらに上記と同等な殺菌を行って、比較例1と2の液を調製した。
【0034】
(評価試験)
調製した各飲料を、殺菌臭が消えるまで10日間常温に放置した後、熟練したパネリスト5人によって下記の判断基準にて官能評価を行った。
官能評価の判断基準(4段階評価):
◎: 不快臭味が無く、非常に飲みやすい。
○: 不快臭味がほとんど無く、飲みやすい。
△: 不快臭味が弱く、やや飲みやすい。
×: 不快臭味が強く、飲みにくい。
【0035】
結果は表1に示される通りであった。
茶ポリフェノール類を含有する茶系飲料(実施例1〜3)は、アスタキサンチン由来の不快臭味が抑えられており、非常に飲みやすい容器詰め飲料であった。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例4〜6
アスタキサンチンの製品濃度を変更した以外は、実施例1と同様にしてウーロン茶の実施例4〜6および比較例3を調製した。評価試験も実施例1の場合と同様にして行った。
結果は表2に示される通りであった。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例7〜10
ウーロン茶の濃度(茶ポリフェノール類濃度(タンニン値))を変更した以外は、実施例1と同様にしてウーロン茶の実施例7〜10を調製した。評価試験も実施例1の場合と同様にして行った。
結果は表3に示される通りであった。
【0040】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチンと茶ポリフェノール類とを併用的に含有してなることを特徴とする、容器詰め茶系飲料。
【請求項2】
前記アスタキサンチンが、藻類から抽出されたものである、請求項1に記載の容器詰め茶系飲料
【請求項3】
半発酵茶飲料である、請求項1または2に記載の容器詰め茶系飲料。
【請求項4】
アスタキサンチン含有量が0.5〜3mg/100mgの範囲であり、かつ、茶ポリフェノール濃度(タンニン値)が20〜80mg/100mlの範囲である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の容器詰め茶系飲料。

【公開番号】特開2008−199930(P2008−199930A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38113(P2007−38113)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【Fターム(参考)】