説明

アスベストの回収再生方法と再生アスベスト漁礁

【課題】 肺線維症、肺癌の他、稀な腫瘍である悪性中皮腫の原因になるとの疑いが強い、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等の種々の用途に使用されてきた、アスベストを回収し、これを原料として安価で無公害な製品に再生する。
【解決手段】 超高圧水噴射機から高圧水を噴射して基材からアスベストを剥離し、剥離されたアスベストをホッパー内の粉砕機で粉砕し、粉砕された回収アスベストにコンクリート部材を混合して芯部を成形した後、該芯部の周囲を芯部より回収アスベスト配合比の少ない組成物で被覆成形して一体化したものを静置・養生した後、脱型して漁礁とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等の様々な用途に広く使用されてきた吹付けアスベストを回収再生する方法と、回収再生されたアスベスト漁礁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在のような大量消費社会では種々の製品が毎日大量に生産されているが、大量の製品が製造されると同時に毎日大量の製品が廃棄されている。このような産業廃棄物と称される大量の廃棄物を再利用することは、これまでにもリサイクルの一環として幅広く行なわれてきている。工場から排出される廃棄物だけでなく家屋の建て替え等で排出される廃棄物をリサイクルする方法として、廃棄物を粉砕して新規原料に少しずつ混入させて新しい製品を成形することや廃棄物を粉砕して、これとバインダーとを混合して製品に成形する産業廃棄物の処理と同時に安全で安価な製品を提供すること等も普通に行なわれている。
【0003】
たとえば、産業廃棄物をバインダーと混合して新しい製品を成形する技術としては、有害な重金属を含む廃棄物、重金属固定材、セメントおよび水を配合した組成物を成形して表面にアルカリ溶出防止層を設けた漁礁(特許文献1)、貝殻を20〜75wt%、鉄鋼スラグを60wt%以下、固定化材15〜25wt%を混錬成形した漁礁(特許文献2)、家畜糞を炭化処理して得られる炭化物とセメントおよび骨材を混合して成形した人工漁礁(特許文献3)、鋳物廃砂を50wt%以上含む細骨材とセメントおよび水を混合して固化した成型品の表面にカキ貝殻やホタテの貝殻を貼り付けた漁礁(特許文献4)等がある。
【0004】
一方、厄介な産業廃棄物の一つとしてアスベストがあるが、このアスベストは耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に非常に優れ、しかも安価であるため日本では「奇跡の鉱物」などと珍重されて、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等に広く使用されてきた。しかしながら、近年になってアスベストは肺線維症、肺癌の他、稀な腫瘍である悪性中皮腫の原因になるとの疑いが強くなり、世界的にアスベストの使用が削減・禁止される方向にある。日本でも特定粉塵として工場・事業場からの排出発生規制や廃棄物処理法で、飛散性のアスベスト廃棄物は一般の産業廃棄物よりも厳重な管理が必要となる特別管理産業廃棄物に指定されており、たとえば建築物等からのアスベストの回収については高圧水による除去やバキューム車内への回収、セメントとの混合等について提案されている(特許文献5−7)ものの、アスベスト廃棄物の処理と解体されたアスベスト廃棄物の再利用が今後の大きな課題となっている。
【特許文献1】特開2001− 95414号公報
【特許文献2】特開2003−116398号公報
【特許文献3】特開2003−169562号公報
【特許文献4】特開2006−109782号公報
【特許文献5】特開平1−182457号公報
【特許文献6】特開平2−63590号公報
【特許文献7】特開平1−311925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
建築物の解体によるアスベスト廃棄物の排出量は2020年から2040年頃にピークを迎えると予測されているが、この期間中は毎年10万トン前後のアスベストが廃棄物として排出されると考えられている。そこで本願発明は、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等の種々の用途に使用されてきたアスベストの回収再利用の方法と、回収されたアスベスト廃棄物を用いて安価で無害な製品を製造することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するものとして、以下のことを提供する。
第1:次の工程を含むことを特徴とするアスベストの回収再生方法。
【0007】
(A)高圧水を噴射して基材部からアスベストを剥離する。
【0008】
(B)剥離されたアスベストをホッパー内に回収し、粉砕する。
【0009】
(C)粉砕されたアスベストをコンクリート成分と混合し、成形して漁礁とする。
第2:上記工程(C)において、芯部を成形した後に、芯部の周囲を芯部よりも回収アスベスト配合比の少ないコンクリート組成物で被覆成形することを特徴とするアスベストの回収再生方法。
第3:上記第1または第2の方法によることを特徴とする再生アスベスト漁礁の製造方法。
第4:漁礁を芯部と被覆層の二層構造にして、芯部における回収アスベストの配合量を被覆層より多くした再生アスベスト漁礁。
第5:漁礁を芯部と被覆層の二層構造にして、芯部における回収アスベストの配合量を被覆層より多くするとともに、芯部と被覆層を形成する組成物にアスベスト以外の産業廃棄物をさらに混合した再生アスベスト漁礁。
第6:アスベストの表面に鉄鋼スラグの微粒子が付着した回収アスベストを用いた再生アスベスト漁礁。
第7:発泡剤が混入されたコンクリート成分を用いることにより成形体に微細な連通気泡が設けられた再生アスベスト漁礁。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、アスベストの回収および再生アスベスト漁礁を一連の工程で効率的で製造することが可能となる。
【0011】
また、本発明の再生アスベスト漁礁によれば、再生アスベスト漁礁を二層構造にすることにより、漁礁としての強度の劣化がなくしかもアスベストの回収効率を向上することが可能となる。
【0012】
また、さらに他の産業廃棄物の処理を同時に行うことが可能となり、アスベスト表面に鉄鋼スラグの微粒子が付着した回収アスベストを使用することにより、プランクトンが増殖し好適な漁礁の製造が可能となる。さらには、再生アスベスト漁礁を連通した微細孔を有することにより漁礁への海水の浸み込み量が多くなり、鉄鋼スラグ微粒子の溶出を多くすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明は回収されたアスベスト廃棄物を漁礁の原料として利用することを特徴とするものであるが、本願アスベスト廃棄物を利用する漁礁の発明の第一の特徴は、芯部にアスベストの配合割合が多い組成物で形成しこのアスベストの配合割合が多い組成物からなる芯部の周囲をアスベストの配合割合が少ない組成物で成形された被覆層からなる構造をしている点である。このように、本願発明における漁礁が芯部と被覆層との異なった組成物からなる構造を有している理由はいうまでもなく、機械的強度が要求されない漁礁の芯部ではアスベスト廃棄物の含有量を多くしてアスベスト廃棄物の回収効率を高める一方、漁礁として使用する際に様々な衝撃を受ける被覆層に対しては、アスベストの配合割合が少なく機械的強度が強い組成物で成形して強度を高くするためである。
【0014】
なお、本願発明は回収アスベストとコンクリート成分からなる組成物を用いることを要旨とするものであるが、コストを安価にするために、廃焼結物、水産廃棄物、建設廃棄物、金属屑、廃プラスチック類、繊維屑、木屑、ゴム屑、鉱さい、炭化物等の産業廃棄物と称されるものを他の成分として加えてもよい。
【0015】
次に、本願発明の回収アスベストを利用する漁礁の第二の特徴は、表面に鉄鋼スラグの微粒子を付着させた回収アスベストを使用することである。この鉄鋼スラグは酸化鉄が主成分であるとされているが酸化鉄は紫外線の作用により鉄イオンを生成してプランクトンの増殖に寄与することが知られている。そこで、本願発明ではこの鉄鋼スラグの微粒子を適当な接着剤溶液と混合しながら適当な方法でアスベストに対して5〜20wt%付着させたものを使用する。
【0016】
本願発明の漁礁は表面に鉄鋼スラグの微粒子が付着された回収アスベストをコンクリート部材に混合して成形されているためコンクリートと回収アスベストの界面から浸み入る海水によって回収アスベスト表面に付着している鉄鋼スラグの微粒子は徐々に溶け出してプランクトンの増殖に寄与するものである。
【0017】
また、本願発明は発泡剤が混入されたコンクリート部材を用いて多孔体の漁礁を製造することにより鉄鋼スラグの溶け出し量を大きくしている点でも特徴を有している。すなわち、漁礁に連通した微細孔が設けられているためコンクリートとアスベストの界面から浸み入る海水だけでなく、連通した微細孔からも海水が浸み入るために鉄鋼スラグの微粒子の溶け出し量を多くすることが可能となる。なお、本願発明で使用する発泡剤は通常の発泡コンクリートで使用されている金属Al等でよく、また発泡剤の量も漁礁に対して2〜10%程度の空隙が生成される程度でよい。本願発明は回収アスベストを利用して漁礁を製造するものであるが、アスベストの回収からのプロセスとしては、たとえば添付の図1の形態が好適な一つの例として示される。このプロセスは、たとえば以下のステップにより構成される。
【0018】
(1)孔径0.05〜0.5mmのノズルを複数備えた超高圧水噴射機からの300〜1000kg/cm2の高圧水によってアスベスト(石綿)を剥離除去し、受けホッパーに回収して破砕機により所定の大きさに破砕する。
【0019】
(2)破砕されたアスベスト(石綿)を、水とともにモルタルミキサー換装タイプのバキューム車のミキサータンク内に減圧吸引する。
【0020】
(3)漁礁の製造場所まで、バキューム車によりアスベストを搬送する。
【0021】
(4)セメントサイロからのセメント、あるいはその他の配合成分をもバキューム車のタンクに供給して、モルタルミキサーにより混合する。
【0022】
(5)モルタルを圧送してホッパーより成形型に注入して漁礁を成形する。これによって、アスベスト(石綿)のモルタル封じ込め再利用が完了する。
【0023】
以上のプロセスにおいては、その細部において様々な実施の形態があってよく、操作条件についても同様である。
【0024】
たとえば、本願発明における漁礁を製造するための素材として、家屋の断熱材として使用されていたアスベストを、図1のプロセスに沿って高圧水噴射して剥離・粉砕した回収アスベストを用いる。たとえばこのものを鉄鋼スラグの顕濁液に浸したものと、骨材300部に対してセメント100部からなるコンクリート成分を用いる。なお、この場合の回収アスベストは、家屋の断熱材として最もよく使用されている、ケイ素とマグネシウムが主成分のクリソタイル(白石綿)と称されるものである。
【0025】
以下の例は、漁礁とした場合について説明している。
<例1>
コンクリート部材100部と回収アスベスト3部を混合して大径の管体と小径の管体を成形した後、小径の管体を大径の管体に挿入し、管体の中空部にコンクリート部材100部に回収アスベスト10部からなる組成物を充填し、上端と下端を被覆して一体化したものを静置・養生した後、脱型して漁礁を製造した。水深10mの海底に6か月間沈めた後、回収して漁礁の被覆層に破壊やひび割れが発生しているかどうかを調べた。
<例2>
コンクリート部材100部と回収アスベスト5部を混合して大径の管体と小径の管体を成形した後、小径の管体を大径の管体に挿入し、管体の中空部にコンクリート部材100部に回収アスベスト10部からなる組成物を充填し、上端と下端を被覆して一体化したものを静置・養生した後、脱型して漁礁を製造した。水深10mの海底に6か月間沈めた後、回収して漁礁の被覆層に破壊やひび割れが発生しているかどうかを調べた。
<例3>
コンクリート部材100部と回収アスベスト10部を混合して大径の管体と小径の管体を成形した後、小径の管体を大径の管体に挿入し、管体の中空部にコンクリート部材100部に回収アスベスト20部からなる組成物を充填し、上端と下端を被覆して一体化したものを静置・養生した後、脱型して漁礁を製造した。水深10mの海底に6か月間沈めた後、回収して漁礁の被覆層に破壊やひび割れが発生しているかどうかを調べた。
<例4>
コンクリート部材100部と回収アスベスト5部を混合して大径の管体と小径の管体を成形した後、小径の管体を大径の管体に挿入し、管体の中空部にコンクリート部材100部に回収アスベスト15部からなる組成物を充填し、上端と下端を被覆して一体化したものを静置・養生した後、脱型して漁礁を製造した。水深10mの海底に6か月間沈めた後、回収して漁礁の被覆層に破壊やひび割れが発生しているかどうかを調べた。
<例5>
コンクリート部材100部と回収アスベスト10部を混合して大径の管体と小径の管体を成形した後、小径の管体を大径の管体に挿入し、管体の中空部にコンクリート部材100部に回収アスベスト15部からなる組成物を充填し、上端と下端を被覆して一体化したものを静置・養生した後、脱型して漁礁を製造した。水深10mの海底に6か月間沈めた後、回収して漁礁の被覆層に破壊やひび割れが発生しているかどうかを調べた。
<評価>
漁礁の被覆層における「破壊」と「ひび割れ」の発生を調べたが、「破壊」も「ひび割れ」に発生していないことが確認された。このことから、漁礁の被覆層には回収アスベストを5wt%まで含有させても強度的には問題がないことが確認された。また、漁礁の芯部には回収アスベストを20wt%まで含有させることが可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の製造方法におけるアスベスト(石綿)の回収とモルタル形成のプロセスの一例を示した概要図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程を含むことを特徴とするアスベストの回収再生方法。
(A)高圧水を噴射して基材部からアスベストを剥離する。
(B)剥離されたアスベストをホッパー内に回収し、粉砕する。
(C)粉砕されたアスベストをコンクリート成分と混合し、成形して漁礁とする。
【請求項2】
工程(C)において、芯部を成形した後に、芯部の周囲を芯部よりも回収アスベスト配合比の少ないコンクリート組成物で被覆成形することを特徴とする請求項1に記載のアスベストの回収再生方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法によることを特徴とする再生アスベスト漁礁の製造方法。
【請求項4】
コンクリート成分に対して回収アスベストが10〜20wt%含有された組成物で成形された芯部とこの芯部の周囲をコンクリート成分に対して回収アスベストが3〜5wt%含有された組成物で被覆成形されていることを特徴とする再生アスベスト漁礁。
【請求項5】
芯部および芯部の周囲を被覆成形する組成物にアスベスト以外の産業廃棄物が5〜10wt%の割合で配合されていることを特徴とする請求項4に記載の再生アスベスト漁礁。
【請求項6】
アスベストの表面に鉄鋼スラグの微粒子が付着された回収アスベストを用いることを特徴とする請求項4または5に記載の再生アスベスト漁礁。
【請求項7】
芯部および被覆成形層に微細な連通気泡が設けられていることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の再生アスベスト漁礁。

【図1】
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【公開番号】特開2009−50(P2009−50A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164377(P2007−164377)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(594185226)ジャパン・ザイペックス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】