説明

アスベスト包囲固化処理材およびこれを用いたアスベスト包囲固化処理工法

【課題】アスベスト繊維を含む建造物構造体に塗布、吹き付け処理し、内部のアスベスト繊維を包囲固化するアスベスト包囲固化処理材およびその処理工法を提供すること。
【解決手段】建造物構造体からのアスベスト繊維の飛散を防止し、アスベスト繊維を包囲固化するべく、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油、植物性または動物性の糊とを混合してなるアスベスト処理材であり、第1のアスベスト処理材と、第2のアスベスト処理材との組み合わせでなり、第1のアスベスト処理材が、建造物構造体の表面から内部に浸透させて、乾燥後に有機金属化合物を形成するに適した浸透性の高い処理材からなり、第2のアスベスト処理材が、第1のアスベスト処理材の処理後の建造物構造体に吹き付けて凝結固化するに適した封着性の高い処理剤からなるアスベスト包囲固化処理材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アスベスト繊維成分を含む建造物構造体などから発生するアスベスト繊維成分、岩綿あるいはセメントなどの粉塵の飛散防止にとどまらず、該アスベスト繊維を確実に包囲して強固に固化し、最終的には、大気中の炭酸ガスとの反応により経時的に石灰岩化して、無害化し、且つ、再資源化するという全く新しいテーマを包含するアスベスト包囲固化処理材およびこれを用いたアスベスト包囲固化処理工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、既存のコンクリート建造物(公共施設建造物、会社工場、学舎、駅舎など)あるいは一般家屋などでは、断熱性、耐火性あるいは吸音性建材として、石綿、岩綿、 セメントなどの粉塵性物質を含む耐火被覆材が多用されてきている。特に、従来多用されてきた石綿を含有する既設の断熱性、耐火性あるいは吸音性建材については、当該建材中の石綿が粉塵化し、飛散して人体に侵入することによる有害性が指摘され、極めて大きな問題として提起されている。
【0003】
従来、上記する問題を解決するものとして、既設の粉塵含有建材に、(1) 酢酸ビニル系エマルジョンを吹き付けて、その表面を遮蔽する方法、あるいは、(2) アクリル系合成樹脂などの水溶性高分子を吹き付けて浸透させ、粉塵を封じ込める方法などが試みられている。
【0004】
しかしながら、上記する従来技術において、酢酸ビニル系エマルジョンを用いる方法では、石綿含有建材の表面を遮蔽する点においては効果があるものの、内部への浸透性がないため、吹き付け層と石綿含有建材表面との間で剥離が生じるという欠点を有するものであった。内部への浸透性がないため、当該石綿含有建材を解体あるいは改修する場合に、建材内部の石綿が飛散してしまうという大きな欠点を有していた。
【0005】
一方また、上記する従来技術において、アクリル系合成樹脂などの水溶性高分子を用いる方法では、その濃度を調整して施工しても、その建材内への浸透性に限度があり、封じ込めた場合の封じ込めの耐久性が弱く、建材の粉塵化防止効果が不十分であった。さらに、その材料コストが非常に高くなるという問題点を有していた。
【0006】
【特許文献1】特開平6−49391号公報(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、上記する従来技術における欠点並びに問題点を解消するに適したアスベスト包囲固化処理材を提供するものであり、且つ、周囲にも作業者にも極めて安全性の高いアスベスト包囲固化処理システムを提供するものである。すなわち、この発明では、特に、重大な被害をもたらすアスベスト繊維の飛散を防止し、該アスベスト繊維を確実に包囲して強固に固化し、最終的には、大気中の炭酸ガスとの反応により石灰岩化して、無害化しようとするアスベスト包囲固化処理材およびこれを用いたアスベスト包囲固化処理工法を提供するものである。
【0008】
さらに、この発明では、排出アスベストを最小のエネルギーで再資源化すること、並びに、当該アスベスト使用時に、建造物構造体内のアスベストをエステル結合して石灰化して、無害化しようとするアスベスト包囲固化処理工法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記する目的を達成するにあたって、請求項1に記載の発明は、アスベスト繊維を含む建造物構造体からのアスベスト繊維の飛散を防止し、前記アスベスト繊維を包囲して固化するべく、主として、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油と、植物性または動物性の糊とを混合してなるアスベスト処理材であり、第1のアスベスト処理材と、第2のアスベスト処理材との組み合わせでなり、第1のアスベスト処理材が、前記アスベスト繊維を含む建造物構造体の表面に塗布ないしは吹き付けにより内部に浸透させ、乾燥後に有機金属化合物を形成するに適した浸透性の高い処理材からなり、第2のアスベスト処理材が、前記第1のアスベスト処理材の処理後の建造物構造体に吹き付けて、凝結固化するに適した封着性の高い処理剤からなることを特徴とするアスベスト包囲固化処理材を構成するものである。
【0010】
さらに、この発明において、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアスベスト包囲固化処理材であって、第1のアスベスト処理材が、水100重量部に対して、0.1〜5重量部の金属の水酸化物および/または強塩基と弱酸の金属塩と、0.1〜5重量部の植物性または動物性の油と、0.1〜10重量部の植物性または動物性の糊とを混合してなる浸透性の高い処理剤であり、第2のアスベスト処理材が、水100重量部に対して、5〜40重量部の金属の水酸化物および/または強塩基と弱酸の金属塩と、0.1〜5重量部の植物性または動物性の油と、0.1〜10重量部の植物性または動物性の糊と、0.1〜5重量部の有機または無機の繊維と、1〜30重量部の骨材とを混合してなる封着性の高い処理材であることを特徴とするものである。
【0011】
さらに、この発明において、請求項3に記載の発明は、請求項1あるいは請求項2に記載のアスベスト包囲固化処理材であって、前記金属の水酸化物が、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化亜鉛あるいは水酸化鉄などであることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、この発明において、請求項4に記載の発明は、請求項1あるいは請求項2に記載のアスベスト包囲固化処理材であって、前記強塩基と弱酸の金属塩が、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸カルシウム、硼酸ナトリウムあるいはリン酸ナトリウムなどであることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、この発明において、請求項5に記載の発明は、請求項1あるいは請求項2に記載のアスベスト包囲固化処理材であって、前記植物性または動物性の油が、菜種油、ごま油、大豆油あるいはやし油などの植物性の油、または、魚油などの動物性の油であることを特徴とするものである。
【0014】
さらに、この発明において、請求項6に記載の発明は、請求項1あるいは請求項2に記載のアスベスト包囲固化処理材であって、前記植物性または動物性の糊が、澱粉、銀杏あるいはつのまたなどの植物性の糊、または、ゼラチン、コラーゲンあるいはにかわなどの動物性の糊であることを特徴とするものである。
【0015】
さらに、この発明において、請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれかに記載のアスベスト包囲固化処理材であって、前記アスベスト包囲固化処理材に、合成樹脂を添加してなることを特徴とするものである。
【0016】
さらにまた、この発明において、請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7のいずれかに記載のいずれかに記載のアスベスト包囲固化処理材であって、前記アスベスト包囲固化処理材に、天然ゴムあるいは合成ゴムを添加してなることを特徴とするものである。
【0017】
さらにまた、この発明において、請求項9に記載の発明は、請求項1〜請求項8のいずれかに記載のいずれかに記載のアスベスト包囲固化処理材であって、前記アスベスト包囲固化処理材に、有機または無機の繊維を混合してなることを特徴とするものでもある。
【0018】
さらにまた、この発明において、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載のアスベスト包囲固化処理材であって、前記有機または無機の繊維が、麻、マニラ麻あるいはセルロースなどの天然繊維、レーヨン、ナイロン、ポリプロピレンあるいはアラミド繊維などの有機繊維、または、ガラス繊維あるいは炭素繊維などの無機繊維であることを特徴とするものである。
【0019】
さらにまた、この発明において、請求項11に記載の発明は、アスベスト繊維を含む建造物構造体からのアスベスト繊維の飛散を防止し、該アスベスト繊維を包囲して固化するためのアスベスト包囲固化処理工法であって、
主として、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油、植物性または動物性の糊とを混合してなる浸透性の高い第1のアスベスト処理材を準備する工程と、
主として、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油、植物性または動物性の糊、有機または無機の繊維および骨材とを混合してなる封着性の高い第2のアスベスト処理材を準備する工程と、
前記第1のアスベスト処理材を前記建造物構造体の表面に塗布ないしは吹き付けにより内部に浸透させ、乾燥後に有機金属化合物を形成する第1の処理工程と、
しかる後、石灰を主成分とする封着性の高い第2のアスベスト処理材を吹き付けて、アスベスト繊維表面にカルシウムイオンを作用させて、アスベスト繊維と強固に結合させ、大気中の炭酸ガス作用により経時的に石灰岩化する第2の処理工程とからなることを特徴とするアスベスト包囲固化処理工法を構成するものである。
【0020】
さらにまた、この発明において、請求項12に記載の発明は、請求項11に記載のアスベスト包囲固化処理工法であって、前記第1のアスベスト処理材が、水100重量部に対して、0.1〜5重量部の金属の水酸化物および/または強塩基と弱酸の金属塩と、0.1〜5重量部の植物性または動物性の油と、0.1〜10重量部の植物性または動物性の糊とを混合してなる浸透性の高い処理剤であり、
前記第2のアスベスト処理材が、水100重量部に対して、5〜40重量部の金属の水酸化物および/または強塩基と弱酸の金属塩と、0.1〜5重量部の植物性または動物性の油と、0.1〜10重量部の植物性または動物性の糊と、0.1〜5重量部の有機または無機の繊維と、1〜30重量部の骨材とを混合してなる封着性の高い処理材であることを特徴とするものである。
【0021】
さらにまた、この発明において、請求項13に記載の発明は、請求項11あるいは請求項12に記載のアスベスト包囲処理工法であって、前記第1の処理材による第1の処理工程が、前記第1のアスベスト処理材を、前記建造物構造体の表面に塗布する塗布処理と、前記建造物構造体の内部に注入する注入処理とを含むものからなることを特徴とするものである。
【0022】
さらにまた、この発明において、請求項14に記載の発明は、請求項13に記載のアスベスト包囲処理工法であって、 前記第1の処理材による処理における前記注入処理に、アスベスト処理材注入器具を用い、該アスベスト処理材注入器具が、前記建造物構造体に対して、その表面から内部に突き刺さる複数本の注入針を備え、前記注入針を介して前記アスベスト処理材を前記建造物構造体の内部に加圧注入するものからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
以上の構成になるこの発明のアスベスト包囲固化処理材によれば、主として、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油と、植物性または動物性の糊とを混合してなり、あるいはこれに有機または無機の繊維を混合してなる第1および第2のアスベスト処理材の組み合わせにより構成し、まず、第1のアスベスト処理材を建造物構造体の表面から内部に浸透させて、乾燥後に有機金属化合物を形成し、しかる後、第2のアスベスト処理材を、前記第1のアスベスト処理材の処理後の建造物構造体に吹き付けて、凝結固化するものであり、浸透性並びに封着性に極めて優れており、該建造物構造体内にアスベスト繊維を石灰岩化して確実に且つ安全に封鎖するという点において極めて有効に作用するものといえる。
【0024】
一方、この発明になるアスベスト包囲固化処理工法では、アスベスト繊維を含む建造物構造体の内部に、浸透性の高い第1のアスベスト処理材を浸透させて、乾燥後に有機金属化合物を形成し、しかる後、石灰を主成分とする封着性の高い第2のアスベスト処理材を吹き付けて、カルシウムイオンをアスベスト繊維表面に作用させて、アスベスト繊維と強固に結合させ、大気中の炭酸ガス作用により経時的に石灰岩化するようにしたものであり、周囲環境に対し、作業者に対して極めて安全であり、最終的には、石灰岩化することにより、再資源化をも可能とする点において、極めて有効に作用するものといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明になるアスベスト包囲固化処理材およびこれを用いたアスベスト包囲固化処理工法について詳細に説明する。
まず、この発明になるアスベスト包囲固化処理材の具体的な実施例によれば、当該アスベスト包囲固化処理材は、次のようなものからなっている。当該アスベスト包囲固化処理材は、主として、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油と、植物性または動物性の糊とを混合した浸透性の高い第1のアスベスト処理材と、主として、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油と、植物性または動物性の糊と、有機または無機の繊維と、骨材とを混合した封着性の高い第2のアスベスト処理材との組み合わせからなっている。
【0026】
この第1のアスベスト処理材は、浸透性の高い溶液からなっているので、アスベスト繊維を含む建造物構造体の表面に塗布、吹き付けあるいは注入することにより、次第に建造物構造体内部に浸透していき、乾燥後に有機金属化合物を形成する。第2のアスベスト処理材は、石灰を主成分とする封着性の高い溶液からなっているので、第1のアスベスト処理材の処理後の建造物構造体に吹き付けることにより、カルシウムイオンをアスベスト繊維表面に作用させて、アスベスト繊維と強固に結合させ、大気中の炭酸ガス作用により経時的に石灰岩化する。
【0027】
この発明において、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリーは、金属の水酸化物および/または強塩基と弱酸の金属塩によるものであり、前記金属の水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化亜鉛あるいは水酸化鉄などが有効であり、前記強塩基と弱酸の金属塩としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸カルシウム、硼酸ナトリウムあるいはリン酸ナトリウムなどが有効である。
【0028】
一方、この発明において、前記植物性または動物性の油としては、菜種油、ごま油、大豆油、やし油などの植物性の油、または、魚油などの動物性の油が有効であり、前記植物性または動物性の糊としては、澱粉、銀杏、つのまたなどの植物性の糊、または、ゼラチン、コラーゲン、にかわなどの動物性の糊が有効であり、前記有機または無機の繊維としては、麻、マニラ麻、セルロースなどの天然繊維、レーヨン、ナイロン、ポリプロピレン、アラミド繊維などの有機繊維、または、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維が有効である。
【0029】
さらに、この発明においては、上記する構成により得られるアスベスト包囲固化処理材に対して、適量の合成樹脂を添加したものであってもよいし、あるいは、さらに、微量の天然ゴムあるいは合成ゴムを添加したものであってもよい。
【0030】
前記合成樹脂としては、例えば、酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが有効であり、合成ゴムとしては、スチレンブタジエンゴムなどが有効である。
【0031】
前記第2のアスベスト処理材には骨材が混入される。この骨材としては、例えば、パーライト、シラスバルーン、ビーズ発泡スチロールなどが有効である。
【0032】
この発明になるアスベスト包囲固化処理材の具体的な実施例において、当該アスベスト包囲固化処理材材は、以下に示す成分からなっている。第1のアスベスト処理材は、 水100重量部に対して、
0.1〜5重量部の金属の水酸化物および/または強塩基と弱酸の金属塩
0.1〜5重量部の植物性または動物性の油
0.1〜10重量部の植物性または動物性の糊とを混合してなる浸透性の高い処理剤としたものである。他方、第2のアスベスト処理材は、
水100重量部に対して、
5〜40重量部の金属の水酸化物および/または強塩基と弱酸の金属塩
0.1〜5重量部の植物性または動物性の油
0.1〜10重量部の植物性または動物性の糊
0.1〜5重量部の有機または無機の繊維
1〜30重量部の骨材とを混合してなる封着性の高い処理剤としたものである。
あるいは、この構成のものに、微量の合成樹脂、界面活性剤並びに天然ゴム、合成ゴムなどを添加したものであってもよい。
【0033】
上記する構成成分において、前記金属の水酸化物または/および強塩基と弱酸の金属塩に関して、前記第1のアスベスト処理材では、これが、0.1重量部以下である場合には、濃度が薄すぎて機能せず、5重量部以上である場合には、浸透性が落ちるため好ましくなかった。一方、前記第2のアスベスト処理材では、これが、5重量部以下である場合には、形成される有機金属化合物が少なすぎ、被膜が薄くなってしまい、粉塵封鎖に効果がない。一方、これが40重量部以上の場合には、混合物液体の粘度が高くなりすぎて、吹き付けなどにおいて問題があった。
【0034】
さらに、上記する構成成分において、前記植物性または動物性の油に関して、これが0.1重量部以下である場合には、形成される有機金属化合物が少なすぎて粉塵を封鎖できない。一方、これが5重量部以上の場合には、反応に寄与しない油が流出することにより逆に封鎖の妨げになる。
【0035】
さらにまた、上記する構成成分において、前記植物性または動物性の糊に関して、これが0.1重量部以下である場合には、封鎖状態を長期間にわたり固定できない。一方、これが10重量部以上の場合には、粘度が高くなりすぎて建造物構造体内に充分に浸透できない。
【0036】
さらにまた、上記する構成成分において、前記有機または無機の繊維の混合量に関しては、当該有機または無機の繊維を混合しない第1のアスベスト処理材の場合、建造物構造体内への浸透性を高める効果を奏し、当該有機または無機の繊維を混合した第2のアスベスト処理材の場合、建造物構造体内での粉塵の封着性を高める効果を奏する。
【0037】
以下、この発明になるアスベスト包囲固化処理材の具体的な実施例である〔実施例1〕、〔実施例2〕および〔実施例3〕と、特許文献1に記載の発明に係る石綿飛散防止処理剤(主として、アクリル樹脂エマルジョンを成分とするもの)である〔比較例1〕および〔比較例2〕とを表1において比較して示す。
【0038】
【表1】

【0039】
上記表1からも明らかなように、この発明になる〔実施例1〕、〔実施例2〕および〔実施例3〕に挙げるアスベスト包囲固化処理材は、いずれも、浸透性並びに封鎖性が最良であるのに対し、主として、アクリル樹脂エマルジョンを成分とする〔比較例1〕および〔比較例2〕のものは、〔比較例1〕のものにおいて、浸透性が良であるに過ぎず、封鎖性は不良であり、〔比較例2〕のものにおいては、浸透性並びに封鎖性の双方が不良であった。
【0040】
次いで、この発明になるアスベスト包囲固化処理材を用いたアスベスト包囲固化処理システムについて、その手順にそって詳細に説明する。
この発明では、上記する構成になる第1および第2のアスベスト処理材が予め準備される。一例において、前記第1のアスベスト処理材は、主として、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油と、植物性または動物性の糊とを混合してなる浸透性の高いアスベスト処理材であり、前記第2のアスベスト処理材は、主として、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油と、植物性または動物性の糊と、有機または無機の繊維とを混合してなる封着性の高いアスベスト処理材である。この発明になるアスベスト包囲固化処理システムでは、前記第1のアスベスト処理材を建造物構造体に吹き付けることによって、当該第1のアスベスト処理材を建造物構造体内に充分浸透させ、しかる後に、前記第2のアスベスト処理材を吹き付けることによって、当該第2のアスベスト処理材により建造物構造体内のアスベスト繊維を強固に封着する。
【0041】
この発明において、アスベスト繊維を含む建造物構造体に対するアスベスト包囲固化処理材の反応の様子を図1に基づいて説明する。図1Aは、該アスベスト包囲固化処理材による処理をする前のアスベスト繊維を含む建造物構造体内部の様子を示すものであり、セメント、ロックウール、アスベスト繊維が混在しており、経時的には、特に、アスベスト繊維が遊離している状態にあり、当該アスベスト繊維の飛散が生じるような状態となっている。
【0042】
図1Bは、図1Aに示す状態にある建造物構造体に対して、この発明になる第1のアスベスト処理材を、例えば、塗布により処理した状態を示すものである。この場合、前記第1のアスベスト処理材は、浸透性が高いことから、建造物構造体の内部に浸透していく。さらに、この第1のアスベスト処理材は、カルシウムイオン、並びに、植物油などを含有しているため、乾燥するとともに、有機金属化合物を形成し、アスベスト繊維の封鎖の効果を高めるのに貢献する。
【0043】
しかる後、この発明になる第2のアスベスト処理材を、建造物構造体の表面に吹き付ける。この段階で、第2のアスベスト処理材におけるカルシウムイオンが、アスベスト繊維表面に作用して、アスベスト繊維と強固に結合させる(図1C参照)。
【0044】
上記するように処理することによって、アスベスト繊維は、図1Dに示すように、石灰に包み込まれた形で凝結し、経時的には、大気中の炭酸ガスを取り込んで、最終的には石灰岩化し、無害化する。この状態で、当該建造物構造体を解体したとしても、無害化されていることから、当該解体作業は極めて安全であり、尚かつ、解体後、排出されたものを再資源化することもできる。
【0045】
図2は、この発明になるアスベスト包囲固化処理材を用いたアスベスト包囲固化処理の施工手順をフローチャート化した図である。以下、このフローチャート図に基づいて説明する。このアスベスト包囲固化処理のための準備作業としては、アスベスト構造体の吹き付け厚を計測する事前調査、周辺環境の設備・備品・壁・床・天井などの作業前清掃、アスベスト包囲固化処理に必要な諸機器の設置などが行われる。この準備作業段階で、作業前の粉塵濃度測定がなされる。
【0046】
この発明になる第1のアスベスト処理材の塗布作業としては、まず、第1のアスベスト処理材の試験吹きが行われ、飛散防止処理を介在して、第1のアスベスト処理材の吹き付け処理が行われ、浸透チェックが行われる。この段階で、作業中の粉塵濃度測定がなされる。この第1のアスベスト処理材の処理に関しては、後述するアスベスト処理材注入器具1を用いて、前記第1のアスベスト処理材を施工すべき建造物構造体内に圧入するものであってもよい。この第1のアスベスト処理材塗布作業段階において、Z形アンカー取り付け、剥落防止メッシュ取り付けが行われる。
【0047】
次いで、第2のアスベスト処理材の塗布作業としては、まず、第2のアスベスト処理材並びに第2のアスベスト処理のための機材が準備される。その後、第2のアスベスト処理材の試験吹きが行われ、第2のアスベスト処理材の吹き付け処理が行われる。
【0048】
最終的に、検査・片付け作業がなされる。この段階では、アスベスト包囲固化処理の検査・確認がなされ、諸機材の片付け作業が行われる。この検査・片付け作業中に、作業後の粉塵濃度測定がなされる。
【0049】
図3は、この発明になる第1のアスベスト処理材を建造物構造体内に圧入するためのアスベスト処理材注入器具1の具体的な実施例を示すものである。このアスベスト処理材注入器具1は、前記建造物構造体Sに対して、その表面から内部に突き刺さる複数本の注入針2を備え、前記注入針2を介して第1のアスベスト処理材を建造物構造体Sの内部に加圧注入するものからなっている。図3に示す例のものでは、基板3に対して複数の注入針2が固定されていて、前記各注入針2の一端2aには、第1のアスベスト処理材源4からの第1のアスベスト処理材を受け入れる受入口5が設けてあり、他端2bには、第1のアスベスト処理材を吐出する吐出口6が設けてある。
【0050】
前記基板3の一方の面側3aには、例えば、コイルスプリング7などにより、拡張方向に付勢された可動プレート8が進退自在に組み合わされており、当該基板3の他方の面側3bには、ハンドル9が取り付けられている。このハンドル9は、必要に応じてポール状の部材によって構成したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、アスベスト繊維を含む建造物構造体に対するアスベスト包囲固化処理材の反応の様子を示すものであって、図1Aは、当該アスベスト包囲固化処理材による処理をする前のアスベスト繊維を含む建造物構造体内部の様子を示す概略図、図2Bは、第1のアスベスト包囲固化処理材を塗布した後の建造物構造体内部の様子を示す概略図、図2Cは、第2のアスベスト包囲固化処理材を吹き付けた後の建造物構造体内部の様子を示す概略図、図2Dは、処理完了時の建造物構造体内部の様子を示す概略図である。
【図2】図2は、この発明になるアスベスト包囲固化処理材を用いたアスベスト包囲固化処理の施工手順を示すフローチャート図である。
【図3】図3は、この発明になる第1のアスベスト処理材を建造物構造体内に圧入するためのアスベスト処理材注入器具1の具体的な実施例を示す概略的な要部断面図である。
【符号の説明】
【0052】
S 建造物構造体
1 アスベスト処理材注入器具
2 注入針
2a 注入針の一端
2b 注入針の他端
3 基板
4 第1のアスベスト処理材源
5 注入針の受入口
6 注入針の吐出口
7 コイルスプリング
8 可動プレート
9 ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト繊維を含む建造物構造体からのアスベスト繊維の飛散を防止し、前記アスベスト繊維を包囲して固化するべく、主として、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油と、植物性または動物性の糊とを混合してなるアスベスト処理材であり、第1のアスベスト処理材と、第2のアスベスト処理材との組み合わせでなり、
前記第1のアスベスト処理材が、前記アスベスト繊維を含む建造物構造体の表面に塗布ないしは吹き付けにより内部に浸透させ、乾燥後に有機金属化合物を形成するに適した浸透性の高い処理材からなり、
前記第2のアスベスト処理材が、前記第1のアスベスト処理材の処理後の建造物構造体に吹き付けて、凝結固化するに適した封着性の高い処理剤からなることを特徴とするアスベスト包囲固化処理材。
【請求項2】
前記第1のアスベスト処理材が、水100重量部に対して、0.1〜5重量部の金属の水酸化物および/または強塩基と弱酸の金属塩と、0.1〜5重量部の植物性または動物性の油と、0.1〜10重量部の植物性または動物性の糊とを混合してなる浸透性の高い処理剤であり、
前記第2のアスベスト処理材が、水100重量部に対して、5〜40重量部の金属の水酸化物および/または強塩基と弱酸の金属塩と、0.1〜5重量部の植物性または動物性の油と、0.1〜10重量部の植物性または動物性の糊と、0.1〜5重量部の有機または無機の繊維と、1〜30重量部の骨材とを混合してなる封着性の高い処理材であることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト包囲固化処理材。
【請求項3】
前記金属の水酸化物が、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化亜鉛あるいは水酸化鉄などであることを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載のアスベスト包囲固化処理材。
【請求項4】
前記強塩基と弱酸の金属塩が、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸カルシウム、硼酸ナトリウムあるいはリン酸ナトリウムなどであることを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載のアスベスト包囲固化処理材。
【請求項5】
前記植物性または動物性の油が、菜種油、ごま油、大豆油あるいはやし油などの植物性の油、または、魚油などの動物性の油であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載のアスベスト包囲固化処理材。
【請求項6】
前記植物性または動物性の糊が、澱粉、銀杏あるいはつのまたなどの植物性の糊、または、ゼラチン、コラーゲンあるいはにかわなどの動物性の糊であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載のアスベスト包囲固化処理材。
【請求項7】
前記アスベスト包囲固化処理材に、合成樹脂を添加してなることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載のアスベスト包囲固化処理材。
【請求項8】
前記アスベスト包囲固化処理材に、天然ゴムあるいは合成ゴムを添加してなることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載のアスベスト包囲固化処理材。
【請求項9】
前記アスベスト包囲固化処理材に、有機または無機の繊維を混合してなることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載のアスベスト包囲固化処理材。
【請求項10】
前記有機または無機の繊維が、麻、マニラ麻あるいはセルロースなどの天然繊維、レーヨン、ナイロン、ポリプロピレンあるいはアラミド繊維などの有機繊維、または、ガラス繊維あるいは炭素繊維などの無機繊維であることを特徴とする請求項9に記載のアスベスト包囲固化処理材。
【請求項11】
アスベスト繊維を含む建造物構造体からのアスベスト繊維の飛散を防止し、該アスベスト繊維を包囲して固化するためのアスベスト包囲固化処理工法であって、
主として、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油、植物性または動物性の糊とを混合してなる浸透性の高い第1のアスベスト処理材を準備する工程と、
主として、金属イオンを含むアルカリ性の水溶液またはスラリー、植物性または動物性の油、植物性または動物性の糊、有機または無機の繊維および骨材とを混合してなる封着性の高い第2のアスベスト処理材を準備する工程と、
前記第1のアスベスト処理材を前記建造物構造体の表面に塗布ないしは吹き付けにより内部に浸透させ、乾燥後に有機金属化合物を形成する第1の処理工程と、
しかる後、石灰を主成分とする封着性の高い第2のアスベスト処理材を吹き付けて、アスベスト繊維表面にカルシウムイオンを作用させて、アスベスト繊維と強固に結合させ、大気中の炭酸ガス作用により経時的に石灰岩化する第2の処理工程とからなることを特徴とするアスベスト包囲固化処理工法。
【請求項12】
前記第1のアスベスト処理材が、水100重量部に対して、0.1〜5重量部の金属の水酸化物および/または強塩基と弱酸の金属塩と、0.1〜5重量部の植物性または動物性の油と、0.1〜10重量部の植物性または動物性の糊とを混合してなる浸透性の高い処理剤であり、
前記第2のアスベスト処理材が、水100重量部に対して、5〜40重量部の金属の水酸化物および/または強塩基と弱酸の金属塩と、0.1〜5重量部の植物性または動物性の油と、0.1〜10重量部の植物性または動物性の糊と、0.1〜5重量部の有機または無機の繊維と、1〜30重量部の骨材とを混合してなる封着性の高い処理材であることを特徴とする請求項11に記載のアスベスト包囲固化処理工法。
【請求項13】
前記第1の処理材による第1の処理工程が、前記第1のアスベスト処理材を、前記建造物構造体の表面に塗布する塗布処理と、前記建造物構造体の内部に注入する注入処理とを含むものからなることを特徴とする請求項11あるいは請求項12に記載のアスベスト包囲固化処理工法。
【請求項14】
前記第1の処理材による処理における前記注入処理に、アスベスト処理材注入器具を用い、該アスベスト処理材注入器具が、前記建造物構造体に対して、その表面から内部に突き刺さる複数本の注入針を備え、前記注入針を介して前記アスベスト処理材を前記建造物構造体の内部に加圧注入するものからなることを特徴とする請求項13に記載のアスベスト包囲固化処理工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−303057(P2007−303057A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323617(P2006−323617)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(591102822)富士工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】