説明

アスベスト含有層の被覆材及びアスベスト含有層の処理方法

【課題】アスベスト含有層を有する基板を切断した際に、前記基板に形成されたアスベスト含有層が基板から剥離して散乱することを防止するとともに、アスベスト含有層の被覆材を被覆したアスベスト含有層を、高温で加熱してアスベストを排ガス中に飛散させることなくアスベストを無害化する方法を提供すること。
【解決手段】有機糊と無機糊とを含む混合糊であって、有機糊が合成樹脂のエマルジョンであり無機糊が無機化合物のコロイド溶液であり、基板切断後にアスベスト含有層の被覆材をアスベスト含有層に被覆することにより、有機糊はアスベスト含有層が基板から剥離して散乱することを防止し、無機糊は加熱処理中に高温においてアスベストを保持(拘束)してアスベストを排ガス中に飛散させることを防止し、よってアスベストを無害化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車輌の床下鉄板等に、防錆・防音・断熱を目的として、アスベストを含有する塗料で塗装した際に形成されるアスベスト含有層が、床下鉄板等を切断した際、床下鉄板等から剥離して散乱することを防止するアスベスト含有層の被覆材に関するものであり、更に前記被覆材で被覆されたアスベスト含有層を高温で加熱してアスベストを無害化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベストは柔軟性、耐熱性、化学的に不活性等の特徴を有することから、工業材料として使用されており、移動体(自動車・鉄道車両等)の構体部の床下鉄板等に、防音・断熱・防錆を目的として塗装される塗料中に使用され、前記塗装処理によって床下鉄板等にアスベスト含有層を形成している。
【0003】
しかし、以前より、アスベストは自然環境や人体に悪影響を与える有害物質として問題になっている。例えば、アスベストは、日常的にアスベストを吸い込む環境にいると中皮腫等の病気を引き起こす原因になると言われている。そこで、アスベストを含む廃棄物の処理についても、人体や環境への影響を考慮して廃棄物処理法による処理基準が創設されている。
【0004】
例えば、アスベストを含む廃棄物を収集又は運搬する際には、飛散しないように梱包し、又はシートで覆う等の措置を講じることや、運搬のためやむを得ず破砕又は切断する場合は、飛散しないように湿潤化した上で、積込みを必要最小限にとどめること等が規定されている。
【0005】
また、アスベストを含む廃棄物を処分又は再生利用する際には、処分又は再生利用の方法は、設置許可を受けた溶融施設で行う溶融処理と、認定を受けた者が行う無害化処理に限られること等が規定されている。
【0006】
このような現状から、移動体を解体して、後処理し易いように床下鉄板等を小さく切断する際には、床下鉄板等に形成されたアスベスト含有層が、飛散したりすることのないように、水によるシャワー吹き付けや大型吸引掃除機を使用して対処していた。
【0007】
しかし、水によるシャワー吹き付けでは、上述のアスベスト含有層が吹き付けの作用で、地面に落ちてアスベストが地中に流出し環境問題を引き起しかねず、また大型吸引掃除機による吸引においては、機械の性能等に左右され必ずしも飛散しているアスベスト含有層をすべて吸引することはできなかった。
【0008】
また、床下鉄板等を小さく切断する際に、アスベスト含有層が地面に剥がれ落ちたり、切断した床下鉄板等を溶融施設に搬送する際にも、アスベスト含有層が搬送車輌の荷台等に剥がれ落ちたりするので、落ちたアスベスト含有層の収集作業も手間がかかるものとなっていた。
【0009】
更に、切断した床下鉄板等を溶融施設で高温処理する際には、アスベストの融点よりも塗料の成分(有機系)の融点の方が低いため、塗料の成分(有機系)がアスベストよりも先に融けて熱分解し燃焼してしまい、アスベストが加熱炉の中で浮遊する状態になってしまうという欠点を有していた。
【0010】
そこで、アスベスト吹き付け層の長期的なアスベストの飛散防止、あるいはアスベスト吹き付け層の剥離作業時にアスベストの飛散を確実に防止し、かつ剥離したものを処理して安定化させるための方法が提供されている(特許文献1)。
【0011】
特許文献1に記載されている方法では、軟質エポキシ樹脂をアスベスト吹き付け層に注入することにより、アスベスト吹き付け層を湿潤してアスベストを包み込むことができ、その後のアスベスト吹き付層の剥ぎ取り作業においても、アスベストは軟質エポキシ樹脂で包まれているか保持されているので、アスベストが空気中に浮遊することはない。
【0012】
しかし、特許文献1に記載されている方法では、アスベストを含む軟質エポキシ樹脂層を高温で加熱処理する際に、アスベストの融点よりも軟質エポキシ樹脂の融点の方が低いため、アスベストを包み込んでいた、あるいは保持していた軟質エポキシ樹脂がアスベストよりも先に融けて熱分解し焼失してしまうので、アスベストが加熱炉の中で浮遊し、排ガス中に飛散して流出するおそれがある欠点を有している。
【0013】
【特許文献1】特開2007−113271
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、その目的はアスベスト含有層を有する床下鉄板等を切断した際に、床下鉄板等(以下「基板」という)に形成されたアスベスト含有層が基板から剥離して散乱することを防止するとともに、前記被覆材を被覆したアスベスト含有層を高温で加熱し、アスベストを排ガス中に飛散させることなく該アスベストを無害化する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明の第1の態様は、有機糊と無機糊とを含む混合糊であることを特徴とするアスベスト含有層の被覆材である。
【0016】
本態様によれば、前記被覆材をアスベスト含有層に被覆することにより、前記混合糊がアスベスト含有層を封じ込めるとともに、混合糊中の、有機糊の接着作用により、基板を切断する際にアスベスト含有層が基板から剥がれるのを抑えることができる。更に、無機糊の耐火性の作用により、電気炉等で高温でアスベスト含有層を処理して無害化する際に、有機糊がアスベストよりも先に融けて熱分解し焼失しても、融点が高い無機糊がアスベストを保持(拘束)して、アスベストが電気炉等中で浮遊し排ガス中に飛散しない効果が得られる。
【0017】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載のアスベスト含有層の被覆材において、前記有機糊が合成樹脂のエマルジョンであり、無機糊が無機化合物のコロイド溶液であることを特徴とするものである。
【0018】
本態様によれば、第1の態様の効果に加え、各糊の粘性により基板への被覆層が形成され易いという効果が得られる。
【0019】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載のアスベスト含有層の被覆材において、前記合成樹脂のエマルジョンは、合成樹脂がエチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレンアクリル酸エチル共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレンオキサイド樹脂、ゴムから選ばれる1種以上を含む水溶性合成樹脂のエマルジョンであり、前記無機化合物のコロイド溶液は、無機化合物がシリカ、アルミナ、スメクタイト、モンモリロナイト、バーミキュライトから選ばれる1種以上を含むコロイド溶液であることを特徴とするものである。
【0020】
本態様によれば、接着性の高い合成樹脂を配合することにより、基板を切断する際にアスベスト含有層が基板から剥がれるのを一層抑えることができる。また、高温耐火性のある無機化合物を配合することにより、合成樹脂が焼失した後のより高温までアスベストを保持する効果が得られ、アスベストの飛散を防止することができる。
【0021】
さらに、水溶性合成樹脂を使用することにより、溶媒を水とすることができ、環境にも負荷をかけず経済性にも優れる。
【0022】
本発明の第4の態様は、第1の態様から第3の態様のいずれか1つに記載のアスベスト含有層の被覆材において、着色剤が添加されていることを特徴とするものである。
【0023】
本態様によれば、被覆した基材と被覆しない基材の識別を視覚的に行うことができるので、誤って再塗布するようなことがなくなり作業効率を上げることができる。
【0024】
本発明の第5の態様は、アスベスト含有層を有する基板を切断する工程と、切断した前記基板の少なくともアスベスト含有層に、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載されたアスベスト含有層の被覆材を被覆する工程と、前記被覆材を被覆した前記基板を高温で加熱してアスベストを無害化処理することを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、アスベスト含有層を加熱処理する工程の規模によって切断し、その後第1の態様から第3の態様のいずれか1つに記載のアスベスト含有層の被覆材を被覆することで、有機糊の接着作用によりアスベスト含有層が基板から剥離することを抑えることができると共に、加熱処理の工程においては、高温で無機糊がアスベストを保持(拘束)することで、アスベストが排ガス中に飛散することなく、アスベストを無害化できる効果が得られる。
【0026】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載のアスベスト含有層の処理方法において、アスベスト含有層を有する前記基板は車輌を解体して発生したものであり、前記基板の切断はガス切断であることを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、第5の態様の効果に加え、ガス切断することにより切断箇所からアスベスト含有層が飛散することを抑える効果を有する。
【0028】
また、付随的な効果として、ガス切断における火炎温度はアスベストを溶かすのには十分な温度ので、切断箇所のアスベスト含有層中のアスベストについては無害化できる効果も有する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、アスベスト含有層に本発明の被覆材を被覆することにより、基板に形成されたアスベスト含有層が、基板を切断した際や切断した基板を運搬する際にも基板から剥離して散乱することもない。さらに、本発明の被覆材を被覆したアスベスト含有層を加熱処理する際には、アスベストを排ガス中に飛散させることなくアスベストを無害化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明にかかるアスベスト含有層の被覆材について詳細に説明する。本発明の被覆材が使用されるアスベスト含有層を有する基板は、防錆、防音、断熱、結露防止等の目的でアスベスト含有(4.5〜13wt%)の瀝青系塗料を塗布した、例えば車両の構体部の床下鉄板等である。この床下鉄板のアスベスト含有層に本発明の被覆材を被覆する。
【0031】
図1に示した実施例において、アスベスト含有層の被覆材を被覆する作業は、アスベスト含有層付き基板鉄板のガス切断後に行われる。ガス切断中はアスベスト含有層が軟化するので、アスベスト含有層が基板から剥がれたり飛散したりすることはほとんどないが、切断後に放置したままにするとアスベスト含有層が硬化して、その搬送工程等において基板から剥離しやすいからである。
【0032】
なお、鉄道車両構体部を重機で解体後であって、アスベスト含有層付き基板鉄板をガス切断する前に前記基板鉄板にアスベスト含有層の被覆材を被覆しておくと、アスベスト含有層が基板から剥がれたり飛散したりすることを一層防止することができる。
【0033】
アスベスト含有層の被覆材は有機糊と無機糊との混合糊であり、本実施例では、有機糊としては水溶性の合成樹脂のエマルジョン、無機糊としては無機化合物のコロイド溶液であり、さらに着色剤が添加されている。
【0034】
なお、有機糊と無機糊との配合比率の範囲は重量部で、有機糊15〜85重量部、無機糊85〜15重量部である。特に好ましい配合比率の範囲は有機糊20〜80重量部、無機糊80〜20重量部である。有機糊の配合が高すぎると加熱処理の際にアスベストを高温まで保持(拘束)しにくくなり、アスベストが排ガス中に飛散しやすくなり、逆に無機糊の配合が高すぎると接着力が弱くなって基板から剥がれやすくなってしまう。
【0035】
アスベスト含有層の被覆材の被覆方法としては、エアレス塗装機で行う方法、エア吹付け、静電塗装、ローラー、刷毛等で被覆する方法等の公知の方法が挙げられる。
【0036】
アスベスト含有層の被覆材の被覆量については、30〜1000g/mの範囲で被覆するが、好ましい範囲は100〜500g/mである。乾燥方法については、自然乾燥あるいは強制乾燥どちらでも良い。自然乾燥であれば2時間〜16時間放置し、強制乾燥であれば送風機、熱風乾燥機等によって乾燥させる。
【0037】
水溶性の合成樹脂としては、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレンアクリル酸エチル共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレンオキサイド樹脂、ゴム等が挙げられ、接着力が高いものが望ましい。
【0038】
接着力の高い方が、基板を切断した際にアスベスト含有層が基板から剥がれにくくなり、散乱も防止できるからである。
【0039】
コロイド溶液中の無機化合物としては、シリカ、アルミナ、スメクタイト、モンモリロナイト、バーミキュライト等が挙げられ、特に高温耐火性を有するものが望ましい。高温でも融けずにしっかりとアスベストを保持(拘束)することで、アスベストの排ガス中への飛散を防止できるからである。
【0040】
着色剤としては、ゲータイト、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化チタン等の金属酸化化合物が挙げられる。これらは着色剤以外に、被覆材のだれ防止効果も有する。
【0041】
また、通常、コロイド溶液を安定させておくために保護コロイドが用いられるが、本発明も被覆材を安定して使用するために保護コロイドを添加しても良い。保護コロイドとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が用いられる。
【0042】
さらに、環境への影響を考慮した場合、本発明の被覆材には燃焼時に塩素、フッ素、シアノ基等の環境上有害な成分を含まないものが良い。
【0043】
本発明の被覆材を安定して使用するためには、混合液のpHは8〜9.5の範囲が好ましい。pHの調整剤は、例えば酸性剤としては酢酸等の有機化合物の酸性薬剤であってもいいし、無機の酸性薬剤であってもよい。塩基性剤としてはアンモニア水などの塩基性薬剤であれば良い。
【0044】
さらに、被覆材の粘度はB型回転粘度計により、500±100 mPa・sとなるように、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2%溶液で調整を行った。なお粘度は被覆層が形成できる程度の粘度があればよく、上記数値の範囲に限定されるものではない。また調整剤もその濃度も上記のものに限定されるものではない。
【0045】
アスベスト含有層を有する基板を切断する際は、切断箇所からアスベスト含有層が飛散することを抑えるためにガス切断が好ましいが、これに限定されるものではない。例えば重機の切断機による切断でも構わない。
【0046】
なお、アスベスト含有層を有する基板は、鉄板、鋼板に限らずアスベスト含有層を有していれば建材等であっても本発明の効果は得られる。
【0047】
アスベスト含有層を有する基板は電気炉内に投入可能な大きさに切断後、被覆材を塗布して、電気炉にフラックス剤(例えば石灰石)と共に投入し処理する。この際、電気炉内の温度は1350℃以上で処理することが好ましい。アスベストの軟化点が1350℃程度なので、それ以上の温度で処理することにより、アスベストを溶融させ無害化する必要があるからである。
【0048】
本発明の被覆材の無機糊の無機化合物は、アスベスト含有層中の有機成分及び本発明の被覆材の有機糊が焼失する時の温度以上の融点を有しているものであればよい。当該温度でアスベストを保持(拘束)していれば、アスベストの排ガス中への飛散を低減させることができるからである。なお、好ましくは融点の高い無機化合物が良い。高温までアスベストを保持(拘束)することにより、高温におけるアスベストの排ガス中への飛散を一層防止できるからである。
【0049】
また、電気炉内では、フラックス剤、アスベスト含有層内のアスベスト及び本発明の被覆材の無機糊の無機化合物が反応し、最終的に珪酸カルシウムが生成する。
【0050】
これは、建材の原料や土壌改良剤として使用可能である。つまり、本発明のアスベスト含有層の処理方法により、アスベスト含有層を有する廃棄物を再利用することが可能となる。
【実施例】
【0051】
本発明の効果を確認するために行った実施例を以下に示す。
【0052】
[供試体の作製]
鉄道車両解体後の構体部の基板鉄板から、基板鉄板に形成されているアスベスト含有層をカッターで剥がして、供試体であるアスベスト含有層を15mm(高さ)×50mm(幅)×80mm(長さ)の寸法に切断し、900℃で30分間加熱処理を行ってアスベスト含有層に含まれる有機質分を除去する。この目的は、本発明の被覆材単体での防塵効果を評価するためである。
【0053】
上記、加熱前処理済のアスベスト含有層を、変形防止の目的で適当な大きさの平滑な金網架台にうけて、調整した本発明の被覆材1〜3にそれぞれ10秒間含浸させて塗布を施す。次いで、105±5℃の電気恒温槽の中で約3時間乾燥を行って絶乾させ、供試体を作製する。
これらを、実施例、比較例1、比較例2とする
【0054】
[被覆材1の調整]
被覆材の配合量の基準は以下、固形分での重量部で示す。
無機糊と有機糊の混合糊として、無機質糊の成分には軟質性コロイド状スメクタイト17部、コロイド状シリカ30部、ゲータイト3部とし、有機質糊の成分には軟質性エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン49部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース1部の配合比とし、水で30wt%濃度の塗布溶液にし、被覆材1とした。これを含浸させたアスベスト含有層を実施例とした。
【0055】
[被覆材2の調整]
有機糊のエマルジョンとして、軟質性エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン49部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース1部の配合比とし、水で30wt%濃度の塗布溶液にし、被覆材2とした。これを含浸させたアスベスト含有層を比較例1とした。
【0056】
[被覆材3の調整]
無機糊のコロイド溶液として、軟質性コロイド状スメクタイト17部、コロイド状シリカ30部、ゲータイト3部とし、水で30wt%濃度の塗布溶液にし、被覆材3とした。これを含浸させたアスベスト含有層を比較例2とした。
【0057】
[比較例3]
比較例3として、被覆材1〜3を塗布しない未処理のアスベスト含有層についても粉塵測定を行うこととした。
【0058】
[供試体の粉塵測定]
調整された本発明の被覆材1〜3をそれぞれ塗布した供試体を、扉付きで室内の天上部に排気孔兼粉塵濃度測定孔(Ф30mm)を設けた耐熱鋼のSUS310S(耐熱温度1000℃)材で内張りしたマッフル電気炉(内寸150mm(高さ)×150mm(幅)×150mm(長さ))内から対流で排出する粉塵濃度を、レーザー光デジタル粉塵計(SIBATA製LD-3K2型)により5分間計った。
【0059】
マッフル電気炉内での熱処理条件(℃×分)は、300×30、600×30、900×30の3水準で行った。結果を表1に示す。
【0060】
表1中の粉塵濃度の項目が電気炉天井部の排気孔から飛散するアスベストの量に対応する。
【0061】
[被覆材1〜3の接着強さの測定]
被覆材1〜3の接着強さは、JIS K 6850の「接着剤の引張せん断接着強さ試験方法」に準拠する。ただし、被接着材の材質は一般構造用軽量形鋼板SSC41の厚さ1.6mmを用いた。結果を表1に示す。
【0062】
[被覆材1〜3の造膜硬度の測定]
被覆材1〜3の造膜硬度を測定するため被覆材1〜3の造膜体を作成した。
造膜体は、被覆材1〜3をアルミホイル(Ф50mm)の容器を使用して、被覆材1〜3の乾燥膜の厚さが5mmに仕上がるように、電気恒温乾燥機の温度105±5℃において絶乾させて作成した。
【0063】
作成した被覆材1〜3の造膜体の硬度は、ラバーテスター(テクノック製GS-701N型)により測定した。なお、ラバーテスターの最高値は100で、この値は鋼板の硬さを示す。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例と比較例3を900×30(℃×分)の値で比較すると、実施例では、粉塵濃度が0.04(mg/m)であるのに対し、比較例3は1.0(mg/m)以上であり、本発明の被覆材1を被覆した方が、未処理のアスベスト含有層より電気炉内でのアスベストの排ガス中への飛散が抑えられることが確認された。
【0066】
また、粉塵濃度を比較すると、無機糊を成分とした被覆材3を用いた場合(比較例2)、粉塵濃度は0.01(mg/m)と最小である。しかし、接着強さが2(N/mm)と弱く造膜硬度が89°と高いため、この値では、アスベスト含有層を有する基板を切断後に、比較例2の被覆材を被覆しても基板からアスベスト含有層が剥がれ落ちてしまう欠点がある。
【0067】
一方、有機糊を成分とした被覆材2を用いた場合(比較例1)、接着強さが18(N/mm)と強く造膜硬度68°と低く柔軟性があり、基板切断中や切断後の搬送時に基板からアスベスト含有層が剥がれ落ちてしまうことはないが、融点が低いため、高温でアスベストを保持することができず、粉塵濃度が0.05〜0.12(mg/m)と高くなっている。この値は排ガス中へのアスベストの飛散量が多いことを示しており、有機糊を成分とした被覆材2を用いた場合には、アスベストが排ガス中に飛散することなくアスベストを無害化するという目的は達成できない。
【0068】
上記比較例1、2に比べ、本発明の実施例である無機糊と有機糊の混合糊を用いた場合、粉塵濃度は0.02〜0.04(mg/m)と低く、接着強さは12(N/mm)と比較例2より強いので、アスベスト含有層を有する基板を切断中及び切断後の搬送時に、基板からアスベスト含有層が剥がれ落ちてしまうおそれが少ないことを示している。また、造膜硬度においても76°と一定の柔軟性を有しているので、総合的に判断すると他の比較例よりも優れていることが確認された。
【0069】
以上より、アスベスト含有層を有する基板に、本発明の被覆材を被覆した場合、有機糊の接着強さと柔軟性(造膜硬度が低い)により、基板からアスベスト含有層が剥がれ落ちるのを防止し、高温でアスベスト含有層を処理する際には、有機糊がアスベストよりも先に融けて熱分解し焼失してしまっても、無機糊がアスベストを保持(拘束)しているので、アスベストの飛散は抑えられ、アスベストを融かして無害化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本願発明は、例えば車輌の床下鉄板等に、防錆・防音・断熱を目的として、アスベストを含有する塗料で塗装した際に形成されるアスベスト含有層が、車輌解体後に床下鉄板等を切断した際、床下鉄板等から剥離して散乱することを防止したり、アスベスト含有層を高温で加熱してアスベストを無害化する方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明にかかるアスベスト含有層の被覆材を適用した、アスベスト含有層の処理方法の工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機糊と無機糊とを含む混合糊であることを特徴とするアスベスト含有層の被覆材。
【請求項2】
請求項1に記載のアスベスト含有層の被覆材において、
前記有機糊が合成樹脂のエマルジョンであり、無機糊が無機化合物のコロイド溶液であることを特徴とするアスベスト含有層の被覆材。
【請求項3】
請求項2に記載のアスベスト含有層の被覆材において、
前記合成樹脂のエマルジョンは、合成樹脂がエチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレンアクリル酸エチル共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレンオキサイド樹脂、ゴムから選ばれる1種以上を含む水溶性合成樹脂のエマルジョンであり、
前記無機化合物のコロイド溶液は、無機化合物がシリカ、アルミナ、スメクタイト、モンモリロナイト、バーミキュライトから選ばれる1種以上を含むコロイド溶液であることを特徴とするアスベスト含有層の被覆材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアスベスト含有層の被覆材において、着色剤が添加されていることを特徴とするアスベスト含有層の被覆材。
【請求項5】
アスベスト含有層を有する基板を切断する工程と、
切断した前記基板の少なくともアスベスト含有層に、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載されたアスベスト含有層の被覆材を被覆する工程と、
前記被覆材を被覆した前記基板を高温で加熱してアスベストを無害化処理することを特徴とするアスベスト含有層の処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載のアスベスト含有層の処理方法において、
アスベスト含有層を有する前記基板は車輌を解体して発生したものであり、前記基板の切断はガス切断であることを特徴とするアスベスト含有層の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−11903(P2009−11903A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174424(P2007−174424)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(501212793)東日本トランスポーテック株式会社 (5)
【出願人】(502188848)直富商事株式会社 (3)
【Fターム(参考)】