説明

アスベスト含有廃材収容容器及び当該容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法

【課題】アスベスト含有廃材を無害化処理する際に、アスベスト粉塵の飛散を抑制するとともに、無害化処理において容器の残存物を生じさせない、アスベスト含有廃材収容容器及び、当該容器を用いた環境的に安全な、アスベストの無害化処理方法を提供する。
【解決手段】アスベストを含有廃材を収容可能な、水溶性ポリマーで形成された、アスベスト含有廃材収容容器である。また、前記アスベスト含有廃材回収容器にアスベスト含有廃材を収容し、アスベスト含有廃材が収容された当該容器をそのまま水とともに湿式粉砕処理してスラリー化し、該スラリーを酸処理する、アスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト含有廃材収容容器及び当該容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法に関し、特に、アスベストの無害化処理にあたり、アスベストを含む廃材の粉塵の発生を防止することができるアスベスト含有廃材収容容器及び、当該容器を用いてアスベスト含有廃材の無害化処理を完全にかつ安全に処理することができるアスベスト含有廃材の無害化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アスベストは長期にわたって強度低下等が起きず、耐火性にも優れていることから、様々な分野で広く使用されてきており、スレート板、水道管、耐火被覆材、ブレーキパッド、ガスケット、保温板、ロープ、パッキング、アセチレンボンベの充填材などの様々な分野に多岐にわたって多くの部材に使用されてきた。
しかし、近年、アスベストは、綿肺、肺癌、悪性中皮腫など多くの健康阻害の要因となることが明らかとなり、その使用が禁止されている。
【0003】
特に、アスベストを含む部材としては、スレート部材や耐火性被覆材等として多く使用されており、これらのスレート部材等は、天井、壁材などに多く用いられている。
しかし、これらの多量に使用されてきたアスベスト含有部材は、上記したような環境的理由により、そのまま使用を継続することは環境上危険であり、早急に廃棄・無害化の処理をしなければならない状況となっている。
【0004】
かかるアスベスト(石綿)は天然に産する鉱物繊維で、蛇紋岩系のクリソタイル(3MgO・2SiO・2HO)、角閃石系のアモサイト((Mg,Fe)Si22(OH))、クロシドライト(NaFe2+Fe3+Si22(OH))、アンソフィライト(MgSi22(OH))、トレモライト(CaMgSi22(OH))、アクチノライト(Ca(Mg,Fe)Si22(OH))が挙げられる。
かかる蛇紋岩系のクリソタイルは、加熱すると約700℃で脱水、変態し、約900℃で無害なフォレストライト(2MgO・SiO)になることが知られているが、実際のスレート板等を簡便に無害化することは困難である。
【0005】
特に、耐火被覆材や崩壊した天井板等、アスベスト吹付け建材を用いた建造物の解体等がピークを迎えているが、アスベストの暴露とそのアスベストの処理の問題が深刻化している。
アスベスト吹付け材のような飛散性のアスベスト含有廃材を解体した場合には、発生するアスベスト廃材をポリエチレン製の袋で袋詰めして密封したのち、管理型処分場へ運搬され埋立処理が行われているのが現状である。
一方、埋立処理には処分場の処理能力の限界があることからアスベストを無害化処理する方法として、溶融、酸による無害化処理等、種々の検討が進められている。
【0006】
また、アスベストの有害性は、その繊維質に由来するものである。
従って、繊維質の改質、融解によりアスベストを無害化する方法として、特許第3680958号(特許文献1)には、ロータリーキルンを用いたセメントの製造方法であって、前記ロータリーキルンの排出口側に設けた燃焼手段の近傍から石綿廃材を前記ロータリーキルン内に供給し、この供給された石綿廃材、及びセメント原料を前記燃焼手段によって処理することを特徴とするセメント製造方法が記載されている。
【0007】
また、特開2005−279589号公報(特許文献2)には、アスベストを含むスレート廃材を粉砕せずにホウ砂、ホウ酸と炭酸ナトリウムの混合物、又はホウ砂と炭酸ナトリウムの混合物からなる融解剤の水溶液に漬け、それを減圧下に置いて融解剤をスレート廃材の表面からスレート内部の空隙内に含浸することによって前処理した後、該前処理したスレート廃材を融解剤を満たした溶融炉内に浸漬して780〜1000℃の範囲に加熱することによって、スレート廃材中のアスベストを溶融させてガラス化させることを特徴とするスレート廃材の処理方法が記載されている。
【0008】
更に、特開2008−246445号公報(特許文献3)には、アスベストを含有する廃材を酸で溶解して無害化するアスベストの無害化処理方法において、カルシウムまたはマグネシウムと反応して水溶性塩を生成する第1の酸により、アスベストを含有する廃材を溶解する第1工程、第1工程の処理液に、カルシウムまたはマグネシウムと反応して水不溶性塩を生成する第2の酸を接触させて、水不溶性塩を析出させる第2工程、及び第2工程の処理液を固液分離する第3工程とを有することを特徴とするアスベストの無害化処理方が開示されている。
【0009】
しかし、例えば図2に示すように、従来は酸による無害化処理を行う場合にも、現状はポリエチレン製の袋にアスベスト廃材を収容しており、酸処理を行う前に、該袋からアスベスト含有廃材を取り出す必要があった。
その際に、アスベストの粉塵が大気中に飛散する危険性がある。
また、従来のアスベストを回収していたポリエチレン製の破袋の表面にもアスベストが付着していることから、該袋も無害化処理をしなければならない。
しかし、従来は無害化処理後に、袋が不溶分として残留するため、袋の表面にアスベストが残留していないかまで確認する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許3680958号
【特許文献2】特開2005−279589号公報
【特許文献3】特開2008−246445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上述した問題点を解決し、アスベスト含有廃材を無害化処理する際に、アスベスト粉塵の飛散を抑制するとともに、無害化処理において容器の残存物を生じさせない、アスベスト含有廃材収容容器を提供することである。
本発明の他の目的は、アスベスト含有廃材粉塵を発生させることなく、完全にかつ安全にアスベストを無害化処理することができ、環境的にも極めて優れる、本発明のアスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のアスベスト含有廃材収容容器は、アスベストを含有廃材を収容可能な、水溶性ポリマーで形成されている、アスベスト含有廃材収容容器である。
好適には、前記水溶性ポリマーはポリビニルアルコールであることが望ましい。
【0013】
また、本発明のアスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、上記本発明のアスベスト含有廃材収容容器にアスベスト含有廃材を収容し、アスベスト含有廃材が収容された当該容器をそのまま酸処理する工程を備える、アスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
【0014】
また、本発明の他のアスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、上記本発明のアスベスト含有廃材収容容器にアスベスト含有廃材を収容し、アスベスト含有廃材が収容された当該容器をそのまま水とともに湿式粉砕処理してスラリー化して、該スラリーを酸処理する、アスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアスベスト含有廃材収容容器は、水溶性を有するので、アスベスト廃材を収容した後に、収容しているアスベスト廃材を該容器から取り出すことなく、そのまま無害化処理を適用することができ、環境的にも安全である。
従って、アスベスト粉塵の飛散を抑制するとともに、無害化処理において該容器の残存物を生じさせることもない。
また、本発明のアスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、上記本発明のアスベスト含有廃材収容容器にアスベスト廃材を収容しているので、該廃材のスラリー化または酸による無害化処理にそのまま適用することができ、アスベスト含有廃材粉塵を発生させることなく、完全にかつ安全にアスベストを無害化する処理が可能で、環境的にも極めて優れる方法とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のアスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法の一例の工程を概略的に示すフローチャート図である。
【図2】従来のアスベスト含有廃材を回収した袋を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法の一例の工程を概略的に示すフローチャート図である。
【図3】中和処理から得られた沈殿物を利用したセメントクリンカ(焼結体)を製造する概略を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のアスベスト含有廃材収容容器及び当該容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法について、以下に詳細に説明する。
本発明のアスベスト含有廃材収容容器は、アスベストを含有廃材を収容可能な、水溶性ポリマーで形成されている。
本発明の容器を構成する水溶性ポリマーとしては、例えばポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、デンプン、ゼラチン、にかわ等が例示できるが、これらに限定されず、常温の水に溶解できるものであれば任意のポリマーが適用できる。
特に、水に対する溶解度とフィルム強度が高いポリマーが好ましく使用でき、例えばポリビニルアルコールが望ましく用いられる。
【0018】
該容器の形態としては、アスベスト含有廃材を収容できるものであれば採用することができ、袋形態、タンク形態、蓋付き容器形態等、密閉状態を保持できる形態であれば特にこだわらない。簡易な形態であり、また収容場所の確保の点から、袋形態が望ましい。
【0019】
また、該容器は、上記水溶性ポリマーから構成される袋等の容器が2重以上の構造となって構成されていることが、強度の点から好ましく、破損等の防止がより完全となる。
【0020】
上記のように構成されたアスベスト含有廃材収容容器に収容されるアスベスト含有廃材としては、アスベスト自体だけでなく、アスベスト含有スレート板、アスベスト含有吹付け廃材等の、建材に用いられているアスベストを含有する廃材であれば、すべて対象とすることができ、特に、今後、多量の排出が予想され、アスベストの飛散・放散が特に問題となるアスベスト含有吹き付け施工品を解体して生じる廃材も有効に利用することができる。
また例えば、回収されたアスベスト含有スレート板には、パルプ繊維等の有機物の添加物も含まれているが、アスベストの無害化酸処理後に残渣をろ別することにより容易に分離することができる。
【0021】
アスベスト含有廃材を、上記本発明の収容容器、好ましくは収容袋に収容し、該容器に収容された該アスベスト含有廃材が運搬中や無害化処理中等に該容器から大気中に飛散しないように、該容器は密閉される。
【0022】
密閉された、アスベスト含有廃材を収容した本発明の容器を、以下のアスベスト含有廃材の無害化処理に利用することができる。
本発明のアスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、上記本発明のアスベスト含有廃材回収容器にアスベスト含有廃材を収容し、アスベスト含有廃材が収容された当該容器をそのまま酸処理する工程を備える、アスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
また、本発明の他のアスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、上記本発明のアスベスト含有廃材回収容器にアスベスト含有廃材を収容し、アスベスト含有廃材が収容された当該容器をそのまま水とともに湿式粉砕処理してスラリー化して、該スラリーを酸処理する、アスベスト含有収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
【0023】
即ち、本発明においては、アスベスト含有廃材を収容した本発明の容器から該アスベスト含有廃材を取り出すことなく、そのまま適用することにより、該廃材のスラリー化又は酸により無害化処理を行うことができるものである。
本発明の収容容器は水溶性ポリマーで構成されているため、水と接触すると容易に溶解することができ、これにより内部に収容されているアスベスト含有廃材がスラリー化のための水または無害化のための酸水溶液と容易に接触することができる。
【0024】
図1は、本発明のアスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法の一例の工程を概略的に示すフローチャート図である。
本発明の無害化処理方法の一例は、アスベスト含有廃材を、環境的に安全に粉砕処理してスラリー化し、酸処理する工程を備える方法であって、特にアスベスト含有廃材を粉砕するにあたり、密閉状態、例えば該アスベスト含有廃材を収容した本発明の容器を水に浸漬した湿潤状態で粉砕してスラリー化する等の密閉状態で行うことで、綿状、板状、粉末状、破片状の任意の形態のアスベスト含有廃材をより完全にかつ安全に無害化できる。
【0025】
本発明のアスベスト含有廃材の無害化処理方法は、アスベストを含有する廃材が収容されている本発明の上記容器をそのまま投入して水とともに湿式粉砕処理してスラリーとし、該湿式粉砕されたアスベスト含有廃材スラリーを酸処理することで、前記廃材中のアスベストを非アスベスト化する、アスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
ここで、アスベストの無害化または非アスベスト化とは、アスベストと酸とが反応して、クリソタイル、クロシドライト、アモサイト等の針状結晶がそれ以外の物質に転化した状態を表すものである。アスベストがこのような状態となることで、人体に対して無害となる。
【0026】
まず、本発明のアスベスト含有廃材の処理方法は、アスベストを含有する廃材を収容した本発明の容器をスラリー化装置にそのまま投入し、水を用いて湿式粉砕処理してスラリー化する。
このように、アスベストが予め容器に収容され、該容器をそのままスラリー化に適用することができるため、アスベストを含む廃材を収容している容器が水に溶解し、容器からの残存廃物を生じさせることなく、アスベストの粉塵の飛散を最低限に抑えることができるとともに、微粒子化することにより、無害化処理剤である酸との接触面積が増大し、反応性が向上して、無害化処理時間の短縮を図ることができる。また、スラリー化したアスベスト含有廃材を酸処理することで、寸法の大きいアスベスト含有廃材等の任意の形態のアスベスト含有廃材であっても、アスベストの粉塵を発生させることなく、有効にかつ安全に、完全に無害化することができることとなる。
また、該スラリー化する際に水を用いることで、酸を用いる場合に比較して、反応によるガス等の発生がなく、粉砕機等の装置の劣化を招くことが無い。
【0027】
上記スラリー化する際には、アスベスト含有廃材を収容した容器を水に浸漬した状態で実施することが、飛散防止の点から好ましく、更に、アスベスト含有廃材を微粉砕処理することが望ましい。
【0028】
粉砕手段としては、公知の建材廃材を粉砕する手段を用いることができる。
例えば、媒体撹拌ミル、タワーミル、振動ミル、ボールミル、遊星ミル、媒体撹拌ミル等が用いられる。
粉砕時間、粉砕ボール径、湿式粉砕の場合のスラリー濃度、分級条件等の運転条件は、使用する設備毎に事前に試験運転を行うことにより定める。
このように粉砕、特に微粉砕することで、アスベスト含有廃材と酸との接触面積を増大させ、無害化を効果的に行うことができる。
【0029】
また、必要に応じて、アスベスト含有廃材を湿式微粉際する前に、アスベスト含有廃材が収容されている本発明の容器を水に浸漬させた状態で、含まれる寸法の大きい廃材を予め破砕することも可能であり、該破砕工程は、前記粉砕処理と同じ容器内で、または別個の容器内で行うことも可能であり、水とともに実施する。
【0030】
上記破砕する際の手段としては、公知の建材廃材を破砕する手段を用いることができる。
例えば、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、ジョークラッシャー、回転式破砕機、シュレッダー等がある。
このように、破砕することで、大きい形状の廃材も、粉砕機にポンプ圧送しやすくなる。破砕機から粉砕機にポンプ圧送する場合には、ポンプ圧送時の詰まりや粉砕工程での能力低下がなされないように、破砕の粒子径は3mm以下とすることが好ましく、より好ましくは1mm以下とするのがよい。
【0031】
また、スラリー化する湿式粉砕処理の前処理として、必要に応じて設けられた破砕処理は、アスベスト含有廃材の飛散をより有効に防止するため、密閉状態でおこなうことが好ましく、ここで、密閉状態とは、アスベストが作業環境中の自由な大気(密閉空間内の大気を除く)と直接接触していない状態をいい、例えば、ケースにより密閉可能な破砕機による破砕及び該破砕機から湿式粉砕機への移送がケースにより密閉可能な移送状態等が挙げられる。
当該方法として、破砕・粉砕機及び移送手段を配置し、これら各装置を一つの密閉されたケースで覆う方法や、破砕・粉砕機及び移送手段それぞれを密閉可能な仕様として各装置をシールを施して接続する方法等が挙げられる。
このように、アスベスト含有廃材を本発明の容器ごと、破砕・微粉砕してスラリー化することで、酸処理によりアスベストを非アスベスト化処理物とすることが短時間で容易にでき、また該非アスベスト化時間も短時間で実施することが可能となる。
【0032】
次いで、上記スラリー化した後に、該スラリーを酸と接触させて、アスベストの無害化処理を実施する。
本発明の処理方法においては、上記スラリー化を省略して、アスベスト含有廃材が収容されている本発明の容器をそのまま酸水溶液と接触させて酸処理することも可能である。
無害化処理においては、上記スラリーまたはアスベストを収容している本発明の容器を、鉱酸とフッ素を含む化合物とを含有する処理水溶液で、含まれるアスベストを無害化処理する。
鉱酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等任意の鉱酸が使用でき、これらの鉱酸はアスベスト含有廃材中に含まれている高pHのセメント系バインダーを溶解することができる。
【0033】
かかる鉱酸の濃度は現場の状況に応じて適宜設定でき特に限定されないが、アスベストの非アスベスト化への反応が生じる条件であれば特に限定されず、濃度が高いほうが短時間でまた多量に処理することができる。好適には、得られる処理水溶液のpHが1以下となるように配合されることが望ましい。
これは、得られる処理水溶液のpHが1以下であると、アスベスト含有廃材中に含まれる高pHのセメント系バインダーを溶解することが、より短時間で可能となるからである。
また、かかる処理水溶液を用いてアスベスト含有廃材中のアスベストの無害化処理を実施している間、すなわち、該処理水溶液とアスベスト含有廃材とを浸漬等により接触させている間も、かかる処理液のpHは常時1以下に保持されることが、廃材中に含まれる高pHのセメント系バインダーを溶解させる時間を短縮させる点から好ましく、このことは、かかる該処理水溶液中に含有される鉱酸をアスベスト含有廃材の無害化処理中に必要に応じて添加することによって保持することができる。
【0034】
上記処理水溶液に含まれるフッ素を含む化合物としては、水に可溶性の化合物であれば特に限定されず、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニアのテトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩、フッ化物塩、及びフッ化水素酸よりなる群より選ばれた少なくとも1種の水に可溶性のフッ素を含む化合物が挙げられる。好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニアのフッ化物塩、及びフッ化水素酸よりなる群より選ばれた少なくとも1種の水に可溶性のフッ素を含む化合物が挙げられる。
当該フッ化物塩としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニアのフッ化物、二フッ化物、これらの混合物が挙げられる。
特に好適に使用できるフッ化物は、フッ化アンモニウム、フッ化水素酸である。
【0035】
かかるフッ素を含む化合物を処理水溶液中に含有させることにより、アスベストのSiO骨格を破壊することができる。
かかるフッ素を含む化合物の添加量は、フッ素を含む化合物がイオン源全て解離したと仮定した場合の処理水溶液中のフッ化物イオン濃度が1.5〜20質量%、特に好適には2.5〜10質量%となるように添加される。
このような範囲でフッ素を含む化合物を添加することで、より効率的にアスベストのSiO骨格を溶解することができるという作用機能を有することができる。
【0036】
上記処理水溶液を用いて、上記スラリーまたはアスベスト含有廃材が収容されている本発明の容器と該処理水溶液とを接触させることにより、具体的には、アスベスト含有廃材を処理水溶液に浸漬させて静置または撹拌することで、アスベスト含有廃材中のアスベストと該処理水溶液とを有効に接触させることができ、アスベストの無害化を図ることができる。
【0037】
その際には前記したように、処理水溶液のpHは1以下を保持することが好ましく、その保持方法としては、該処理水溶液中に含有される鉱酸を、前記無害化処理中に適宜添加することで、pHを1以下に保持する方法等が例示できる。
【0038】
本発明におけるアスベスト無害化処理におけるアスベスト含有廃材に対する処理水溶液の配合割合は、アスベスト含有廃材中に含有されるアスベスト量やセメント系バインダー量により任意に設定することができるが、好ましくは質量比で0.5〜100、更に好ましくは1〜20であると望ましい。
質量比が前記範囲内であると、鉱酸とセメント系バインダーとの反応による水溶液のpHの上昇を更に抑制でき、更なる短時間処理が可能となって処理効率が向上し、また、無害化処理後の廃液処理のコストを、より安価に抑制することができる。
【0039】
このように、好ましくは、pH1以下で特定のフッ素イオン濃度範囲を有する処理水溶液を用いることで、任意の形態のアスベスト含有廃材を、アスベスト粉塵等の飛散や放散を有効に防止して、より完全にかつ上記厚生労働省規定の0.1質量%以下に、短時間で容易に無害化処理することができる。
【0040】
次いで、アスベスト含有廃材を無害化処理した後の処理溶液に、消石灰等のアルカリを添加して中和処理を行い、沈殿物と中和濾液との固液分離ろ過を行う。
具体的には、アスベスト含有廃材を上記無害化処理水溶液に浸漬等させて、不溶分(パルプ繊維等)を濾過して、濾液に消石灰等のアルカリを添加して中和処理し、生成した沈殿物を濾過、脱水して沈殿物ケーキを得ても良いし、アスベスト含有廃材を上記無害化処理溶液に浸漬等させて、不溶分(紙等)を濾過することなく、消石灰等のアルカリを添加して中和処理し、その後濾過、脱水して沈殿物ケーキを得ても良い。
沈殿物ケーキにはフッ化カルシウム(CaF)、水酸化鉄(Fe(OH))、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、珪酸化合物等の沈殿物が生成され、これらの沈殿物を含むケーキを、セメント用原料、特に、カルシウムフルオロアルミネートを含むセメントクリンカ、速硬性を所望するセメントに用いるセメントクリンカの製造時の原料として配合することができる。
【0041】
カルシウムフルオロアルミネートを含むセメントとしては、例えば、超速硬セメントが例示できる。
ジェットセメントのような速硬性を所望するセメントである、カルシウムフルオロアルミネートを含むセメントを製造する際には、通常のポルトランドセメントに使用する原料のほかに蛍石(CaF)、ボーキサイト(Al)を原料として使用し、セメント中に含まれる速硬性成分であるカルシウムフルオロアルミネート11CaO・7Al・CaFを生成させる必要があるため、中和によって生成する上記沈殿物を濾過、脱水したケーキを、セメント原料、好適には上記セメントクリンカの原料として供することができるのである。
【0042】
次いで、上記沈殿物、好適には上記沈殿物ケーキを原料として用いて、セメント、例えば特に、カルシウムフルオロアルミネートを含むセメントクリンカを製造する。
図3は、上記中和処理により得られた沈殿物を利用したセメントクリンカ(焼結体)を製造する概略を示す工程図である。
かかるセメントクリンカを製造する工程としては、原料工程、焼成工程、仕上げ工程に大別される。
更に、原料工程は、原料受け入れ工程、粉砕・分級工程に大別される。
原料受け入れ工程では、まず、場外から運搬されてくるセメントクリンカ焼成用の原料、即ち石灰石を主体とし、ここに、上記沈殿物や、蛍石(CaF)、ボーキサイト(Al)、粘土等を受け入れホッパ1にて分別して受け入れる。
当該原料が大塊である場合には、受け入れホッパ1の下流に破砕機(図示せず)が設けられ、所定の粒径に破砕された後、輸送機により各原料が原料貯蔵庫2に貯蔵される。
【0043】
続く原料工程での粉砕・分級工程では、原料貯蔵庫2の原料を「原料粉砕機」(原料ミル)で混合粉砕し、「分級機」で分級して、安定した粉体原料が調製される。
かかる原料粉砕機は現在、乾燥、粉砕、粗粉と微粉との分級の3つの機能を合わせもつ「たて型ミル」3が多く用いられている。
そして、得られた粉体原料を、例えば、ブレンディングサイロ4で均一に混合した後、原料ストレージサイロ5に導入する。
上記沈殿物は、他の原料と同様に、受け入れホッパ1に導入されて原料として別途貯蔵されて、上記粉砕機3に導入されても、あるいは特に貯蔵されることなく粉砕機3に直接導入されてもよく、またはこの原料工程では導入されなくてもよい。
また、必要に応じて、上記沈殿物は混合粉砕の前に乾燥工程に供することが望ましい。
【0044】
次いで前記原料工程を経て調製された粉体原料は、焼成工程を経ることとなる。
かかる焼成工程は、粉体原料が所定の温度になるまで加熱され、セメントとしての水硬特性を呈するように、焼成される工程である。
かかる焼成工程は、セメントキルン供給工程、焼成工程、冷却工程に大別される。
セメントキルン供給工程では、先ず粉体原料は、予熱装置(プレヒーター)6に投入されて加熱され、次いでロータリーキルン8に投入される。
【0045】
予熱装置6に投入されたセメント原料は、予熱装置6内を下降しながら800〜900℃に加熱される。
予熱装置6内におけるセメント原料の加熱は、予熱装置6内に熱風を送り込むことにより行われる。
なお、予熱装置6の多くは、下段に仮焼炉7が設けられている。
【0046】
焼成工程では、予熱装置6で加熱され、セメントロータリーキルン8に送られたセメント原料が、該ロータリーキルン8内を1分間に2〜3回転し出口方向に移動しながら約1500℃程度の高温で焼成されてセメントクリンカとなりロータリーキルン8から取り出される。
【0047】
該ロータリーキルン8内でのセメント原料の焼成は、ロータリーキルン8の窯前(焼結体が取り出される側)方向から窯尻(セメント原料が投入される側)方向に向けて、微粉炭を燃焼させてロータリーキルン8内に送り込むことにより行われ、当該ロータリーキルン8内の温度は、窯尻で約1000℃程度であり、最高温度が約1400〜1500℃であり、窯前が約1200℃程度である。
そして、ロータリーキルン8から取り出された焼結体は、冷却機9に送られる。
冷却工程では、ロータリーキルン8から取り出された焼結体は、冷却機9で強制空冷により急冷され、仕上げ工程へと送られる。
【0048】
上記沈殿物は、原料工程を経て予熱装置6に導入されても、ロータリーキルン8の窯前で導入されても、窯尻で導入されても、該セメントキルンで溶融処理できるのであれば、供給されるタイミングは特に問われない。
【0049】
上記したように、セメント原料とともにロータリーキルン内に投入された上記沈殿物は、ロータリーキルン内で回転しながら、例えば、1000〜1500℃で20〜60分間加熱溶融処理される。
この際、最高温度を1450℃以上とするとともに、1450℃以上の温度で加熱される時間を5分以上とするのが好適である。
かかる加熱処理により、アスベスト含有廃材は、溶融されて焼成されてセメントクリンカを形成する。
【0050】
またかかる溶融処理をする際に、必要に応じて、フラックスを添加することも可能である。
かかるフラックスとしては、例えば、ホウ酸、ホウ砂、ホウ酸カルシウム、ボロナイトカルサイトなどのホウ酸化合物、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウムなどのリン酸化合物、珪酸、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムなどの珪酸化合物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどの炭酸化合物、炭酸バリウム、硫酸バリウム等のバリウム化合物、フッ化水素、氷晶石、フッ化カルシウムなどのフッ素化合物等を用いることができる。
【0051】
かかるフラックス剤の添加量は、少ないと融解が遅くなる場合や不均質になる場合もあるので、上記量のフラックスを溶融処理において添加することが望ましいが、必ず添加する必要があるものではない。
かかるフラックスは、溶融時における融点を低下させる、あるいは溶融時間を短縮させるという機能を有するものである。
【0052】
このようにして得られたセメントクリンカにセメントの凝結時間調整を目的として石膏が必要に応じて加えられ、仕上げ粉砕機(仕上げミル)で粉砕される仕上げ工程を得て、ジェットセメント等のカルシウムフルオロアルミネートを含むセメントが得られる。
このようにして得られたセメントは、安定した性能を有するものであり、アスベスト含有廃材を完全に安全に無害化して再利用を図ることができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のアスベスト含有廃材の収容容器は、スレート板、水道管、耐火被覆材、ブレーキパッド、ガスケット、保温板、ロープ、パッキング、アセチレンボンベの充填材などの任意のアスベスト含有廃材に適用することができる。
また、本発明のアスベスト含有廃材の処理方法は、本発明の容器に収容された任意のアスベスト含有材料の処理に適用することができる。
また、該無害化処理後の中和処理から得られた固体分を再利用してセメント、特に速硬性を有するカルシウムフルオロアルミネートを含むセメントクリンカを安定に製造するの原料に適用することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1 原料受け入れホッパ
2 原料貯蔵庫
3 原料粉砕機
4 ブレンディングサイロ
5 原料ストレージサイロ
6 予熱装置(プレヒーター)
7 仮焼炉
8 セメントロータリーキルン
9 冷却機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベストを含有廃材を収容可能な、水溶性ポリマーで形成された、アスベスト含有廃材収容容器。
【請求項2】
請求項1記載のアスベスト含有廃材の収容容器において、前記水溶性ポリマーはポリビニルアルコールである、アスベスト含有廃材収容容器。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアスベスト含有廃材収容容器に、アスベスト含有廃材を収容し、アスベスト含有廃材が収容された当該容器をそのまま酸処理する、アスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のアスベスト含有廃材回収容器にアスベスト含有廃材を収容し、アスベスト含有廃材が収容された当該容器をそのまま水とともに湿式粉砕処理してスラリー化し、該スラリーを酸処理する、アスベスト含有廃材収容容器を用いたアスベスト含有廃材の無害化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−235122(P2010−235122A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81932(P2009−81932)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】