説明

アセタール化合物の製造方法

【課題】 ケトンまたはアルデヒドなどのカルボニル化合物とヒドロキシ基を有する化合物をアセタール化反応させる際に好適な触媒を提供する。
【解決手段】 炭素−酸素結合(結合は、単結合または二重結合。)を有する化合物とヒドロキシ基を有する化合物またはオルトカルボン酸エステルを反応させてアセタール化合物を製造する方法において、反応系中にスカンジウム錯体を存在させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カルボニル化合物などのアセタール化反応に関し、より詳しくはスカンジウム錯体を触媒とするアセタール化合物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】アセタール化反応は有機化学において、アルコール、アルデヒドまたはケトンなどの保護を目的に広く利用されている。従来、アセタール化反応の触媒としては一般的にはブレンステッド酸が用いられているが、最近、いくつかのルイス酸が触媒活性を呈し、それらは通常のブレンステッド酸触媒よりもすぐれた触媒効果を有することが報告されている。
【0003】例えば、Tetrahedron Lett. 1989, 30, 6151には、シクロヘキサノンをメタノールでアセタール化する際に、触媒としてH3CC(CH2PPh23を配位子とするRh錯体が記載され、、またTetrahedron Lett. 1993, 34, 5169には同じ配位子を有するRu錯体が記載されている。
【0004】
【発明の解決しようとする課題】本発明は、アセタール化合物を製造する際に使用する触媒であって、より温和な反応条件で目的を達成できるルイス酸触媒を提供するものである。さらに、多段階にわたる合成経路を経る有機化合物の製造において、活性なカルボニル基またはヒドロキシ基を反応途中で反応性の低いアルコキシ基などに変成して保護し、後段階においてもとのカルボニル基やヒドロキシ基に脱保護することを予定したアセタール化合物の製造をも目的としている。
【0005】
【課題を解決するための具体的手段】本発明者らは、上記課題について鋭意検討したところ、ケトン、アルデヒドなどとヒドロキシ基またはアルコキシ基を有する化合物を反応させアセタール化合物を製造する際に、特定のスカンジウム錯体を用いると著しく温和な反応条件でアセタール化が進行することを見いだし本発明を完成させた。
【0006】すなわち、本発明は、炭素−酸素結合(結合は、単結合または二重結合。)を有する化合物とヒドロキシ基を有する化合物を反応させてアセタール化合物を得る方法において、反応系中に一般式、 Sc(NTf23 (1)
(式中、Tfは互いに独立に−SO2Rf(式中、Rfは炭素数5以下の分岐を有することもある低級パーフルオロアルキル基を表す。)を表す。)で表されるスカンジウム−パーフルオロアルカンスルホニルイミド錯体または一般式、 Sc(OTf)3 (2)
(式中、Tfは互いに独立に−SO2Rf(式中、Rfは炭素数5以下の分岐を有することもある低級パーフルオロアルキル基を表す。)を表す。)で表されるスカンジウム−パーフルオロアルカンスルホニル錯体などのスカンジウム錯体を存在させることを特徴とするアセタール化合物の製造方法である。
【0007】本発明にかかる炭素−酸素結合(結合は、単結合または二重結合。)を有する化合物としては、ビニルエーテル、アルデヒド、ケトンなどが挙げられるが、本発明の目的から明白なように、かかる化合物を特定することで実施態様を限定することは本発明者らの意図するところではない。
【0008】本発明にかかるビニルエーテルは、一般式CR2=CR−O−R(式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または一価の有機基を表すか、または任意の2個以上のRが結合して環を形成した基であってもよく、Rはヘテロ原子を含んでもよい。)で表される化合物である。具体的には、ジヒドロピラン、ジヒドロフラン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メチルイソプロペニルエーテル、エチルイソプロペニルエーテル、プロピルイソプロペニルエーテル、ブチルイソプロペニルエーテル、シクロヘキシルイソプロペニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、9−ヒドロキシノニルビニルエーテル、1−ヒドロキシメチル−4−ビニロキシメチルシクロヘキサン、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルイソプロペニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルイソプロペニルエーテル、4−ヒドロキシブチルイソプロペニルエーテル、9−ヒドロキシノニルイソプロペニルエーテル、1−ヒドロキシメチル−4−イソプロペノキシメチルシクロヘキサン、3−ヒドロキシ−2−クロロプロピルイソプロペニルエーテルなどが挙げられる。
【0009】本発明にかかるアルデヒドは、特に限定されないが、一般式、R−CHO(式中、Rは1価の有機基を表し、ヘテロ原子を含むこともできる。)で表される化合物であり、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ピバリンアルデヒド、カプロンアルデヒド、ヘプトアルデヒド、カプリルアルデヒド、ペラルゴンアルデヒド、カプリンアルデヒド、ウンデシルアルデヒド、ラウリンアルデヒド、トリデシルアルデヒド、ミリスチンアルデヒド、ペンタデシルアルデヒド、パルミチンアルデヒド、マルガリンアルデヒド、ステアリンアルデヒド、グリオキサール、スクシンジアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド、プロピオールアルデヒド、ベンズアルデヒド、o−トルアルデヒド、m−トルアルデヒド、p−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、シンナムアルデヒド、α−ナフトアルデヒド、β−ナフトアルデヒド、フルフラールなどが挙げられる。
【0010】本発明にかかるケトンは、特に限定されないが、一般式、R2C=O(式中、Rはそれぞれ独立に1価の有機基を表し、Rは互いに結合して環を形成した基であってもよく、Rはヘテロ原子を含むこともできる。)で表される化合物であり、具体的には、アセトン、エチルメチルケトン、メチルプロピルケトン、イソプロピルメチルケトン、ブチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、ピナコロン、ジエチルケトン、ブチロン、ジイソプロピルケトン、メチルビニルケトン、メシチルオキシド、メチルヘプテノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ブチロフェノン、バレロフェノン、ベンゾフェノン、ジベンジルケトン、2−アセトナフトン、アセトチエノン、2−アセトフロン、ピルビン酸、ベンゾイルギ酸、フェニルピルビン酸、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸、レブリン酸、β−ベンゾイルプロピオン酸などが挙げられる。
【0011】本発明にかかるヒドロキシ基を有する化合物としては、特に限定されないが、モノアルコール、グリコール、オキシカルボン酸などが挙げられる。本発明にかかるモノアルコールは、特に限定されず、アセタール化反応に活性な一つ以上のヒドロキシ基を有するものであればよく、一般式R−OH(式中、Rは1価の有機基を表し、ヘテロ原子を含むこともできる。)で表されるアルコールである。具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキシルアルコール、へプチルアルコール、オクチルアルコール、カプリルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、プロパルギルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、シンナミルアルコール、フルフリルアルコールなどが例示できる本発明にかかるオルトカルボン酸エステルは、特に限定されないが、一般式、H(CH2nC(OR)3(式中、Rは炭素数1〜10の分岐を有することもあるアルキル基を表し、nは0〜10の整数を表す。)で表される化合物であり、具体的には、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルトギ酸プロピル、オルトギ酸イソプロピル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル、オルト酢酸プロピル、オルト酢酸イソプロピルなどを挙げることができる。
【0012】本発明にかかるグリコールは、特に限定されないが、一般式、HO−R−OH(式中、Rは二価の有機基を表し、ヘテロ原子を含むこともできる。)で表される化合物であり、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、シクロペンタン−1,2−ジオール(cisまたはtrans)、シクロヘキサン−1,2−ジオール(cisまたはtrans)、シクロヘキサン−1,4−ジオール(cisまたはtrans)、ピナコール、ヒドロベンゾイン、ベンズピナコール、2,2−ジメチル−1,3−プロピレングリコール、酒石酸ジメチル、酒石酸ジエチル、グリセリンモノメチル、グリセリンモノエチルなどが挙げられる。
【0013】本発明にかかるオキシカルボン酸は、特に限定されないが、一般式、R1−C(OH)−R2−COOH(式中、R1は置換基を有することもある炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、芳香族基、複素環基を表し、R2は置換基を有することもある炭素数1〜20のアルキレン基、2価の芳香族基を表す。)で表される化合物であり、具体的には、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、3−オキシ−ブタン酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロバ酸などが挙げられる。
【0014】本発明にかかる一般式(1)で表されるスカンジウム−パーフルオロアルカンスルホニルイミド錯体としては、スカンジウム−トリフルオロメタンスルホニルイミド錯体またはスカンジウム−ペンタフルオロエタンスルホニルイミド錯体が特に好ましい。また、スカンジウム−パーフルオロアルカンスルホニルイミド錯体の−OTfまたは−NTf2の一部が水、酸等で配位子交換されたものであってもよい。そのような酸としては、特に限定されないが、例えば炭素数6以下の脂肪酸、具体的にはギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸などが挙げられる。
【0015】このようなスカンジウム−パーフルオロアルカンスルホニルイミド錯体は、例えば、調整例1に示す方法で調製することができる。本発明にかかる一般式(2)で表されるスカンジウム−パーフルオロアルカンスルホニル錯体としては、スカンジウム−トリフルオロメタンスルホニル錯体またはスカンジウム−ペンタフルオロエタンスルホニル錯体が特に好ましい。
【0016】本発明の方法は、ビニルエーテル、ケトンまたはアルデヒドとヒドロキシ基を有する化合物またはオルトカルボン酸エステルを溶媒に溶解し、触媒としてをスカンジウム−パーフルオロアルカンスルホニルイミド錯体をさらに加えることで行う。このとき撹拌は必須ではないが行うこともできる。反応温度は、−20〜100℃程度で行うが、0〜50℃程度が好ましい。後に述べる共沸蒸留を利用する場合は、当然反応系の溶媒の沸点で行うこととなる。
【0017】本発明において使用する溶媒は、反応基質および触媒が溶解でき、反応に不活性であれば特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族系、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、リグロインなどの脂肪族炭化水素、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、二塩化エタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタンなどのハロゲン系、その他としてジエチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類などが挙げられる。
【0018】本発明の方法においては、ビニルエーテル、ケトンまたはアルデヒドに対して必要なヒドロキシ基を有する化合物またはオルトカルボン酸エステルは0.1〜10当量であり、0.3〜3当量が好ましく、0.8〜2当量がより好ましい。0.1当量より小さいとビニルエーテル、ケトンまたはアルデヒドの反応率が低くなり、10当量より大きいとヒドロキシ基を有する化合物またはオルトカルボン酸エステルの反応率が低下し何れも収率を下げることになり好ましくない。
【0019】本発明の方法において触媒量は、ビニルエーテル、ケトンまたはアルデヒドの0.01〜50モル%であり、0.05〜20モル%が好ましく、0.1〜5モル%がより好ましい。0.01モル%よりも少ないと反応に時間がかかり、50モル%を超えても反応の点では問題はないが経済的に好ましくない。
【0020】本発明の方法において溶媒の量は、反応の際に反応基質が溶解できる範囲であれば問題はないが、特に限定されず、通常ビニルエーテル、ケトンまたはアルデヒドが0.01〜20M(mol/L)となる様に設定する。0.1〜10Mがより好ましい。
【0021】本発明の方法によりアセタール化する場合、同時に水の生成を伴うが、この水は反応系から除去することが好ましい。その方法には、例えば、反応を還流状態で行い、凝縮させた還流液をゼオライトなどの脱水剤で除去する方法(以下、「A法」という。)、予め反応液中に仕込んだ硫酸マグネシウムなどの脱水剤で除去する方法(以下、「B法」という。)などがあり、適宜選択して採用する。
【0022】
【実施例】以下に、本発明について実施例をもって説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
【0023】調整例1スカンジウムアセテート(222.1mg、1mmol)とトリフルオロメタンスルホニルイミド酸(843.5mg、3mmol)を水(0.5mL)に溶解した。この水溶液を還流条件下、3時間反応させた。その後、室温まで冷却し、ろ過した。減圧下、ろ液から溶媒を留去し、高真空下(10-3〜10-5Torr、120℃)で12時間乾燥し、スカンジウム−トリフルオロメタンスルホニルイミド錯体[Sc(NTf23]・(H2O)m・(CH3COOH)1.5のガラス状結晶として定量的に得た。[Tfは−SO2CF3であり、0≦m≦0.5であった。]
〔実施例1〕メントール(化1の(3)1mmol)と3,4−ジヒドロ−2H−ピラン(1.2mmol)を塩化メチレン(4.5mL)に溶解し、これにスカンジウム−トリフルオロメタンスルホニル錯体の塩化メチレン溶液(50μL、0.001mmol、0.02M)を0℃で添加した。0℃で4.5時間撹拌した後、NaHCO3水溶液を加え、エーテルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過し、減圧下、溶媒を留去した。1H−NMRにより分析したところ、対応するテトラヒドロピラン化したメントール(化1の(4))
【0024】
【化1】


【0025】の収率は95%であり、幾何異性体の比は53:47であった。
〔比較例1〕メントール(1mmol)および3,4−ジヒドロ−2H−ピラン(1.2mmol)を塩化メチレン(4.5mL)に溶解し、これにピリジン−トシル酸塩(py−TsOH)の0.001mmolを0℃で添加した。これを室温(約25℃)に昇温し18時間撹拌した後、NaHCO3水溶液を加え、エーテルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過し、減圧下、溶媒を留去した。1H−NMRにより分析したところ、対応するテトラヒドロピラン化したメントール(化1の(4))の収率はを80%であり、幾何異性体の比は48:51であった。
【0026】〔実施例2〕4−フェニル−2−ブタノン(1mmol)とトリメチルオルトギ酸エステル(1.2mmol)をトルエン(4.5mL)に溶解し、これに調整例1で得られたスカンジウム−トリフルオロメタンスルホニルイミド錯体のトルエン溶液(500μL、0.001mmol、0.02M)を0℃で添加した。0℃で0.5時間撹拌した後、NaHCO3水溶液を加え、エーテルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過し、減圧下、溶媒を留去した。1H−NMRにより分析したところ、4−フェニル−2,2−ジメトキシブタンの収率は92%(4−フェニル−2−ブタノン基準)であった。
【0027】〔実施例3〜5、比較例2〜3〕実施例2と同じ実験操作を触媒および/または溶媒のみを替えて行った。触媒および溶媒並びにその結果を実施例1の結果と併せて表1に示す。
【0028】
【表1】


【0029】〔実施例6〕4−フェニル−2−ブタノンをトルエンに溶解して0.2M濃度の溶液を調製した。この溶液の5mL(4−フェニル−2−ブタノン 1mmol)に2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(1.2mmol)とトリメチルオルトギ酸エステル(1.2mmol)を溶解し、これに調整例1で得られたスカンジウム−トリフルオロメタンスルホニルイミド錯体のトルエン溶液(500μL、0.001mmol、0.02M)を0℃で添加した。0℃で3時間撹拌した後、NaHCO3水溶液を加え、エーテルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過し、減圧下、溶媒を留去した。これを1H−NMRにより分析したところ2−(3−フェニルプロピル)−2−メチル−5,5,−ジメチル−1,3−ジオキサンの収率は92%(4−フェニル−2−ブタノン基準)であった。
【0030】〔実施例7〜8〕実施例6と同じ実験操作を4−フェニル−2−ブタノンの代わりにt−ブチルメチルケトン(実施例7)、フェニルメチルケトン(実施例8)を用いて行った。対応する2−t−ブチル−2−メチルジメチル−1,3−ジオキサン、2−フェニル−2−メチルジメチル−1,3−ジオキサンをそれぞれ89%および87%の収率で得た。
【0031】〔実施例9〕4−フェニル−2−ブタノンをアセトニトリルに溶解して0.2M濃度の溶液を調製した。この溶液の5mL(4−フェニル−2−ブタノン 1mmol)に酒石酸ジエチル(1.2mmol)とトリメチルオルトギ酸エステル(1.2mmol)を溶解し、これにスカンジウム−トリフルオロメタンスルホニル錯体のアセトニトリル溶液(500μL、0.001mmol、0.02M)を0℃で添加した。室温(約25℃)に昇温して3時間撹拌した後、NaHCO3水溶液を加え、エーテルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過し、減圧下、溶媒を留去した。これを1H−NMRにより分析したところ、2−(2−フェニルエチル)−2−メチル−4,5,−ジエトキシカルボニル−1,3−ジオキソランの収率は95%(4−フェニル−2−ブタノン基準)であった。
【0032】実施例6〜9の反応条件、結果を表2に示す。
【0033】
【表2】


【0034】〔実施例10〕3−フェニル−1−プロパナールを塩化メチレンに溶解して0.17M濃度の溶液を調製した。この溶液の6mL(3−フェニル−1−プロパナール 1mmol)に乳酸(1.2mmol)を溶解し、これにスカンジウム−トリフルオロメタンスルホニル錯体の塩化メチレン溶液(500μL、0.001mmol、0.02M)を0℃で添加した。これを撹拌下加熱して40℃に昇温し、発生する水と塩化メチレンの共沸成分からソックスレー・シンブルに入れたゼオライト4Aで水を除きながら(この脱水方法を「A法」という。)2時間反応させた後、NaHCO3水溶液を加え、エーテルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過し、減圧下、溶媒を留去した。これを1H−NMRにより分析したところ、5−メチル−2−(2−フェニルエチル)−1,3−ジオキソラン−4−オンの収率は82%(3−フェニル−1−プロパナール基準)であり、幾何異性体の比はcis:tras=71:29であった。
【0035】〔実施例11〜15〕実施例10と同じ実験操作を触媒、触媒量、反応時間を変えて行った。反応条件並びにその結果を実施例10の結果と併せて表3に示す。
【0036】
【表3】


【0037】〔実施例16〕3−フェニル−1−プロパナールをアセトニトリルに溶解して0.2M濃度の溶液を調製した。この溶液の5mL(3−フェニル−1−プロパナール 1mmol)に乳酸(1.2mmol)を溶解し、硫酸マグネシウム500mgを添加し、これに調整例1で得られたスカンジウム−トリフルオロメタンスルホニルイミド錯体のアセトニトリル溶液(500μL、0.001mmol、0.02M)を0℃で添加した。ここで述べるように、反応により生成する水を反応液中に脱水剤を入れることで行う方法を「B法」という。これを室温(23℃)に昇温し、20時間撹拌した後、NaHCO3水溶液を加え、エーテルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過し、減圧下、溶媒を留去した。これを1H−NMRにより分析したところ、5−メチル−2−(2−フェニルエチル)−1,3−ジオキソラン−4−オンの収率は65%(3−フェニル−1−プロパナール基準)であり、幾何異性体の比はcis:tras=80:20であった。反応条件並びにその結果を表3に示す。
【0038】〔実施例17〜18〕実施例16と同じ実験操作を溶媒および/または脱水剤の量を変えて行った。反応条件並びにその結果を表3に示す。
【0039】〔実施例19〜27、比較例4〕実施例10の方法(A法)または実施例16の方法(B法)に従って、表4に示すアルデヒドまたはケトンとヒドロキシカルボン酸の反応を同表に示す反応条件で行った。得られた結果を表4に示す。
【0040】
【表4】


【0041】
【化2】


【0042】
【発明の効果】本発明の方法は、従来から用いられてきたブレンステッド酸を触媒とする方法と比べ反応活性が高いため、著しく温和な反応条件でアセタール化反応を進めることができ、比較的アセタール化され難いケトンや2級または3級アルコールでも広く適用でき、さらに立体的に混雑した位置にあって通常の場合アセタール化による保護の困難なカルボニル基やヒドロキシ基を保護し得るという顕著な効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 炭素−酸素結合(結合は、単結合または二重結合。)を有する化合物とヒドロキシ基を有する化合物またはオルトカルボン酸エステルを反応させてアセタール化合物を製造する方法において、反応系中にスカンジウム錯体を存在させることを特徴とするアセタール化合物の製造方法。
【請求項2】 炭素−酸素結合を有する化合物が、ビニルエーテル、アルデヒドまたはケトンである請求項1記載のアセタール化合物の製造方法。
【請求項3】 ヒドロキシ基を有する化合物が、モノアルコール、グリコール、オキシカルボン酸である請求項1記載のアセタール化合物の製造方法。
【請求項4】 ビニルエーテルとモノアルコールを反応させてアセタールを製造する方法において、反応系中にスカンジウム錯体を存在させることを特徴とするアセタール化合物の製造方法。
【請求項5】 ケトンまたはアルデヒドとオルトカルボン酸エステルを反応させてアセタールを製造する方法において、反応系中にスカンジウム錯体を存在させることを特徴とするアセタール化合物の製造方法。
【請求項6】 ケトンまたはアルデヒドとグリコールを反応させてアセタールを製造する方法において、反応系中にスカンジウム錯体を存在させることを特徴とするアセタール化合物の製造方法。
【請求項7】 ケトンまたはアルデヒドとグリコールとオトルトカルボン酸エステルを反応させてアセタールを製造する方法において、反応系中にスカンジウム錯体を存在させることを特徴とするアセタール化合物の製造方法。
【請求項8】 ケトンまたはアルデヒドとヒドロキシカルボン酸を反応させてアセタールを製造する方法において、反応系中にスカンジウム錯体を存在させることを特徴とするアセタール化合物の製造方法。
【請求項9】 スカンジウム錯体が一般式 Sc(NTf23 (1)
(式中、Tfは互いに独立に−SO2Rf(式中、Rfは炭素数5以下の分岐を有することもある低級パーフルオロアルキル基を表す。)を表す。)で表されるスカンジウム−パーフルオロアルカンスルホニルイミド錯体である請求項1〜8記載のアセタール化合物の製造方法。
【請求項10】 スカンジウム錯体が一般式 Sc(OTf)3 (2)
(式中、Tfは互いに独立に−SO2Rf(式中、Rfは炭素数5以下の分岐を有することもある低級パーフルオロアルキル基を表す。)を表す。)で表されるスカンジウム−パーフルオロアルカンスルホニル錯体である請求項1〜8記載のアセタール化合物の製造方法。

【公開番号】特開平10−45657
【公開日】平成10年(1998)2月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−205986
【出願日】平成8年(1996)8月5日
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)