説明

アセチルセルロース樹脂組成物

【課題】射出成形、押出成形、異形押出成形に特に優れ、生分解性、もしくは低環境負荷型であり、溶融成形してなる成形材料の分野に広く応用することができる、生分解性、または低環境負荷型アセチルセルロース樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】生分解性を有するアセチル基置換度が1.9〜2.9のアセチルセルロース樹脂100重量部に対し、特定のグリセリン誘導体系可塑剤の混合物を5〜100重量部、ならびに(A)〜(C)成分の合計量100重量部に対し、(D)有機系充填剤を5〜200重量部、さらに必要に応じて(E)滑剤を0.01〜5重量部配合したアセチルセルロース樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチルセルロース樹脂組成物に関し、詳しくは、射出成形、押出成形、異形押出成形、ブロー成形、フィルム・シート成形などによって溶融成形してなる成形材料の分野に広く応用することができる、生分解性、もしくは低環境負荷型アセチルセルロース樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油原料から合成される合成樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミドなどに代表され、生活必需品から工業製品に到るまで広く用いられている。これら合成樹脂の利便性、経済性は、我々の生活を大きく支えるに至り、合成樹脂は、まさに石油化学産業の基盤となっている。
そのため、国内で生産される合成樹脂の生産量は、年間約1,500万トンに達し、その約1/3に及ぶ莫大な量が廃棄されており、焼却、埋め立てによる廃棄物処理はもはや限界に達している。近年、資源の回収、リサイクルなどの動きが活発化しており、2000年より施行される容器包装リサイクル法案について、新たに合成樹脂が加えられることにより、合成樹脂の強力かつ効率的な回収と再利用が必要とされることが予測される。しかしながら、莫大な合成樹脂生産量から見て、回収困難な用途に使用されるなど、リサイクルの難しい状況が残り、充分に回収、再利用ができるとは思われない。
また、自然環境中に散逸する合成樹脂製品も年々顕著になっており、野生動物の保護の必要性の増大や、生活環境破壊を招くなど大きな社会問題になっている。
【0003】
このような環境をめぐる問題は年々クローズアップされており、環境庁をはじめとする国や各自治体は本格的に対策を講ずる必要性に迫られている。
合成樹脂の市場では自然環境における分解性を求める動きが活発化しており、屋外に投棄されても、やがては分解資化する、生分解性樹脂が開発されている。また、一方、合成樹脂の焼却時に発生する有毒ガスなどへの対策から、より天然に近い素材が求められており、焼却対策の一環からも生分解性樹脂の要求が高まってきている。
【0004】
生分解性樹脂は、土壌中や海水中、河川、湖沼中の微生物によって分解できる樹脂であり、自然環境に直接接触する需要以外にも、合成樹脂廃棄物をリサイクルすることが効率的に悪く、コストもかかる用途などへの展開が急速に広がりつつある。散逸ゴミ対策などに関しても、生分解性樹脂は、ますますその価値が認識されるに到っており、今後利用が一段と広がることが期待されている。
現在、各地でコマーシャルコンポストの建設が進み、一方では消費者個々に向けた家庭用コンポストの販売も始まるなど、各地で生分解性材料の展開が期待されている。また、通産省にも実用化検討委員会が発足し、生分解性材料の推進に向けた動きが活発化している。さらに、世界的に見ても、年産1億トン規模の合成樹脂需要のかなりな部分が生分解性樹脂で占められる巨大市場になると予測されており、21世紀はまさに本格的な生分解性市場の広がりが予測される。
現在実用化されている生分解性材料、環境低負荷型材料としては、脂肪族ポリエステル、変性澱粉、ポリ乳酸、およびこれらの樹脂をマトリックスとした各種複合素材、ポリマーアロイなどが知られている。
【0005】
近年、アセチルセルロース樹脂が生分解性機能を有することが発見されたが、アセチルセルロース樹脂は、他の生分解性樹脂よりも安価に取り扱うことができ、かつ石油資源への依存が無いことから、その需要が急速に拡大していくものと考えられる。このような生分解性材料として利用されるアセチルセルロース樹脂は、以下に示す公知文献等に開示されている。
【特許文献1】特開平4−142344号
【特許文献2】特開平6−49275号
【特許文献3】特開平9−241425号
【0006】
しかし、アセチルセルロース樹脂は、汎用合成樹脂のように種々な成形方法によって溶融加工し、成形品を得るには幾つかの問題点を有している。例えば、アセチルセルロース樹脂の融点は、分解点より高い280℃近傍であり、融点を下げて溶融加工に適した温度とするために可塑剤を多量に混合しなければならない。しかし、アセチルセルロース樹脂は、アセチル基置換度が変化することに伴い、溶融挙動が変わるだけでなく、可塑剤との相溶性が微妙に変化する。従って、すべてのアセチル基置換度の範囲に最適な、アセチルセルロース樹脂の可塑剤が存在していない。また、可塑剤を多量に配合すると、成形性の低下が生ずる。さらに、組成物を得るためペレット化することにより熱劣化を受け易いこと、溶融時に、刺激的な酢酸ガスが発生しやすいことなど、通常の合成樹脂とは異なり、溶融加工する上で問題が多い。
【0007】
アセチルセルロース樹脂との相溶性のよい可塑剤としては、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)などフタル酸エステル系可塑剤が一般的に知られている。しかし、フタル酸エステル系可塑剤は、アセチルセルロース樹脂との相溶性には優れるものの、溶融時に可塑剤の揮発、分解によって発生するガスによる刺激臭が強かったり、コンパウンド製造作業において、混練り後に樹脂組成物が投入される冷却水槽表面に、組成物から分離した可塑剤が浮遊するなど、作業環境上問題がある。
その他の可塑剤としては、グリコール系可塑剤の例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが一般的である。これらのグリコール系可塑剤は、アセチルセルロース樹脂の可塑化能力が劣り、多量に混合することができず、コンパウンド製造作業や溶融成形加工の作業工程でアセチルセルロースと可塑剤が分離するなどの問題がある。また、均一で平滑な成形品を得る上で溶融安定性に欠け、均一に溶融することができず、成形品表面にメルトフラクチャー(成形品表面の凹凸)を生じたりする問題がある。また、環境湿度、温度の影響により、成形物の表面に、可塑剤がブリードアウトしたりする。
【0008】
また、トリフェニルホスフェート(TPP)に代表されるリン酸エステル系可塑剤も使用されるが、可塑化、安定化させるためにはかなり多量の混合を必要とし、かつグリコール系可塑剤と同様に、均一に溶融させるために問題がある。
さらに、脂肪族系の可塑剤としては、例えばアジピン酸エステルなどが生分解機能を有するため用いられるが、アセチルセルロース樹脂とは一般的に相溶性が悪く、分子量のかなり低いアジピン酸エステルにしか使用することができない。しかも、低分子量のアジピン酸エステルへ使用する場合においても、多量に混合できず、組成物の溶融安定性に欠け、均一に溶融できず、安定した成形品を得ることが難しい。
さらに、3個のヒドロキシル基をアセチル化したトリアセチルグリセリド、いわゆるトリアセチンも可塑剤として公知である。しかし、可塑剤としてトリアセチン単独を使用する場合、加工安定性を得るためにかなり多量の混合を必要とし、組成物の物理的特性の低下を招く問題がある。
さらに、アセチルセルロース樹脂の可塑剤との相溶性は、アセチル基置換度によって異なる。そのため、幅広いアセチル基置換度を有するアセチルセルロース樹脂に上記に挙げられた公知の可塑剤を単一で使用する場合、溶融加工性の向上には限界があり、幅広いアセチル基置換度を有するアセチルセルロース樹脂からなる溶融成形品を得ることは困難である。
【0009】
一方、アセチルセルロース樹脂に特定のグリセリン誘導体を可塑剤として添加すると、優れた加工性を有する樹脂組成物が得られる。しかしながら、この樹脂組成物を射出成形した場合、スクリュー駆動力が小さい成形機、スクリューの圧縮比が大きい成形機、L/Dが小さい成形機などのいずれかの制約を受ける成形機を用いると計量安定性が悪く、安定して成形できないという問題がある。また、押出成形した場合、スクリュー駆動力が小さい成形機、および、ダイスの開放面積が小さい成形機などの制約がある成形機を用いると、成形が困難な場合がある。例えば、塩化ビニル系樹脂用の押出成形機で成形した場合、モーター負荷が高くなり、成形できないという現象や、吐出量が上げられないという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、射出成形、押出成形、異形押出成形に特に優れ、生分解性、もしくは低環境負荷型であり、有機系充填剤として木粉を用いる場合には、木材調の風合いの成形品が得られるアセチルセルロース樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(A)生分解性を有するアセチル基置換度が1.9〜2.9のアセチルセルロース樹脂100重量部に対し、(B)下記一般式(1)で表される可塑剤および(C)下記一般式(2)で表される可塑剤を5〜100重量部〔ただし、(B):(C)の配合比率=1〜99重量%:99〜1重量%、(B)+(C)=100重量%〕、ならびに(A)〜(C)成分の合計量100重量部に対し、(D)有機系充填剤を5〜200重量部配合したことを特徴とするアセチルセルロース樹脂組成物に関する。
CH −O−R

CH−O−R ・・・・・(1)

CH −O−R
(上記式中R 〜R は、同一または異なり、炭素数2のアシル基および/または炭素数8〜14のアシル基であり、少なくとも1個は炭素数8〜14のアシル基である。)
CH −O−R

CH−O−R ・・・・・(2)

CH −O−R
(上記式中R 〜R は、同一または異なり、水素原子および/または炭素数2個のアシル基であり、少なくとも1個は炭素数2個のアシル基である。)
本発明のアセチルセルロース樹脂組成物は、上記(A)〜(C)成分の合計量100重量部に対し、さらに(E)滑剤を0.01〜5重量部含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生分解性、もしくは焼却廃棄しても有毒ガスが出ない環境低負荷型樹脂であり、かつ、射出成形、押出成形、異形押出成形、ブロー成形、フィルム・シート成形などに供すことのできる樹脂組成物として好適なアセチルセルロース樹脂組成物を提供することができる。
特に、有機系充填剤として、木粉を用いると、成形加工性を高めるばかりでなく、高い生分解性樹脂のコストダウンにもなり、さらには木材調の風合いの意匠性の高い成形品も得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
アセチルセルロース樹脂は、通常の合成樹脂よりも燃焼カロリーが低いことや有毒な分解ガスが発生しないことから、低環境負荷型の高分子材料といえる。
本発明におけるアセチルセルロース樹脂は、通常のアセチルセルロース樹脂を使用することができ、例えば、精製コットンリンター、または高純度の木材パルプを原料とする。アセチルセルロース樹脂の工業的な製法としては、混酸法、メチレンクロライド法、ベンゼン法などが知られているが、混酸法が一般的であり、セルロース原料を、前処理、アセチル化反応(酢化反応)、ケン化熟成反応に供し、洗浄/精製/脱水/乾燥工程を経て得られるものである。
上記アセチル化の度合は、熟成反応工程で行われる脱アセチル化反応における加水分解の条件を制御することによって調整され、目的のアセチル基置換度を有するアセチルセルロース樹脂が得られる。
【0014】
本発明におけるアセチルセルロース樹脂のアセチル基置換度は、1.9〜2.9、好ましくは1.9〜2.6、さらに好ましくは2.0〜2.5未満である。1.9未満あるいは2.9を超えると、著しく製造生産性が低下する。
【0015】
本発明に使用される可塑剤は、グリセリン誘導体であって、(B)上記一般式(1)で表される化合物群から選ばれた少なくとも1種の可塑剤、および(C)上記一般式(2)で表される化合物群から選ばれた少なくとも1種の可塑剤を、特定範囲内の配合比率となる組成割合で用いる。
上記(B)成分は、少なくとも1つの炭素数8〜14のアシル基を有するグリセリン誘導体であり、上記(C)成分は、少なくとも1つの炭素数2個のアシル基を有するグリセリン誘導体である。
(B)成分として、例えば、モノカプリルジアセチルグリセリド、モノラウリルジアセチルグリセリド、ジラウリルモノアセチルグリセリドなどが挙げられる。
(B)成分は、1種単独であるいは2種以上を併用することができる。
また、(C)成分として、例えば、アセチルモノグリセリド、トリアセチルグリセリドなどが挙げられる。
(C)成分は、1種単独であるいは2種以上を併用することができる。
上記(B)成分:(C)成分の配合比率は、(B)+(C)=100重量%として、1〜99重量%:99〜1重量%、好ましくは5〜95重量%:95〜5重量%、さらに好ましくは10〜90重量%:90〜10重量%である。(B)成分および(C)成分の配合比率が上記範囲外であると、コンパウンドの加工安定性、成形品の成形安定性が困難となるなどの問題があり、アセチルセルロース樹脂組成物の幅広い加工状況に対応することが困難である。
【0016】
(B)成分および(C)成分の合計配合量は、アセチルセルロース樹脂100重量部に対し、5〜100重量部、好ましくは10〜80重量部、さらに好ましくは20〜60重量部である。配合量が5重量部未満であると、混合、混練り、成形加工に際し、加工温度を高くしなければ加工することができず、樹脂の熱劣化が加速し、着色が強くなるとともに、酢酸ガスが発生しやすい。一方、100重量部を超えると、アセチルセルロース樹脂への可塑剤の配合時に、樹脂との混合に長時間を要するためコンパウンド生産性が低下し、加工条件によって成形品の外観、寸法性を調整することが難しくなる。
【0017】
次に、本発明において、(D)有機系充填剤は、成形加工性を高め、得られる成形品に木質感などの意匠外観を与え、また、生分解性樹脂のコストダウンをもなすものである。この(D)有機系充填剤としては、有機系の充填剤であれば特に限定されないが、例えば、木粉、籾殻粉、精製パルプ、ワラ、紙、綿、レーヨン、スフ、セルロースおよびヤシがら粉が挙げられる。さらには、必要に応じてこれらをシランカップリング剤、チタンカップリング剤および脂肪酸(金属塩)の群から選ばれた少なくとも1種の表面処理剤で加工を施したもの、あるいは、これらに少量の白色無機顔料を含有させた有機系充填剤などが挙げられる。成形性、コストメリット等を考慮すると、木粉が特に好ましい。
この(D)有機系充填剤の添加量は、(A)〜(C)成分の合計量100重量部に対し、5〜200重量部である。木質感や成形性などを考慮すると、15〜110重量部が好ましい。5重量部未満では、目的とする成形加工性や木質感が得られなくなり、一方、200重量部を超えると、ペレットの製造性や成形加工性が困難になる。
【0018】
次に、(E)滑剤は、ポリエチレンワックス、酸化型ポリエチレンワックス、脂肪酸ワックス、グリコール脂肪酸エステルワックス、グリセリン脂肪酸エステルワックス、脂肪酸エステルワックス、クエン酸エステルワックス、モンタン酸エステルワックス、モンタン酸部分ケン化エステルワックス、ジペンタエリスルトールエステルワックスなどが挙げられる。いずれも使用できるが、生分解性を有するものや、天然物由来、化石資源に由来しないものが好ましい。なお、滑剤として一般的なポリエチレンワックスは、成形加工時の押出し機のモーター負荷低減に効果があるものの、成形品の外観、透明性を悪化させる場合がある。また、グリセリンモノステアレートは、押出し機のモーター負荷低減に効果があり、成形品の外観、透明性にも優れるものの、微量添加ですら、ブルームする場合がある。一方、プロピレングリコールモノステアレートやステアリン酸、金属石鹸は特に好ましく、滑剤の効果が得られ、不具合などは生じない。
また、上記プロピレングリコールモノステアレートやステアリン酸、金属石鹸は、組み合わせて使用できる。
この(E)滑剤の添加量は、(A)〜(C)成分の合計量100重量部に対し0.01〜5重量部である。成形性などを考慮すると、0.01〜3重量部が好ましい。0.01重量部未満では、目的とする成形加工性が得られなくなり、一方、5重量部を超えると、ブルームなどの問題がある。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、(A)〜(D)成分に対し、(E)成分を併用することもできる。例えば、(D)木粉を少量(例えば、20重量部以下の場合)添加して木質感を付与させた場合、(E)成分の添加により、押出成形時のトルクの上昇を押さえ、優れた成形加工性の組成物が得られる。さらには、(E)を適量配合することにより、(D)の添加量に関わらず常に優れた成形加工性を有する組成物を得ることができる。
【0020】
本発明のアセチルセルロース樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、任意に他の高分子材料を含む有機、無機充填物質を添加しても構わない。本発明の組成物は、特に生分解性、環境低負荷を目的とするものであるため、任意に添加される高分子材料などの有機添加剤は、生分解性特性を有するか自然界に対し無害なものが好ましい。例えば、高分子材料としては、脂肪族ポリエステル、微生物産ポリエステル、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、変性澱粉、ポリエステルアミドなどが挙げられる。着色剤として、ベンガラ、カーボンブラック、酸化チタンなどが挙げられる。無機系充填材としては、天然鉱石由来の炭酸カルシウム、タルク、マイカ、珪酸カルシウム、シリカなどのほか、硫酸バリウム、金属粉などの特殊な充填材も、目的に応じ適宜添加することが可能である。
【0021】
本発明の樹脂組成物は、(A)〜(D)成分、あるいは、(A)〜(E)成分を、溶融混練したのち、直接溶融成形加工することが可能である。しかし、好ましくは通常の2次加工原料形態であるペレット状コンパウンドとしてから成形加工する方法であり、アセチルセルロース樹脂と可塑剤以外の各種充填材を混合させる場合に、各種成分を均一に予備分散させ、樹脂組成物の安定性を得ることができる。
【0022】
ペレット状コンパウンドの加工において用いられる混合機としては、予備分散、分配、拡散混合を目的とするブレンダーが予備混合機として用いられる。ブレンダーの代表例としては、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー(スーパーミキサー)、タンブラーミキサー、タンブルミキサー、エアーブレンダーなどが挙げられる。これらの予備混合機は、充填される可塑剤や副資材の形態や拡散レベルに応じて選定されるが、アセチルセルロース樹脂と可塑剤混合物との混合には、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーが望ましく、かつ、組成物を水蒸気、電気などで加熱できる形態のブレンダーが良い。
【0023】
本発明の樹脂組成物を製造するときは、予備混合機を使用して、アセチルセルロース樹脂へ可塑剤や有機系充填剤および/または滑剤を添加し、得られる組成物を好ましくは60℃〜160℃、さらに好ましくは70〜140℃にホットアップしてブレンドすると、可塑剤と樹脂との均一な混合が容易になり、また樹脂や木粉などに含まれる水分を取り除くことができ、生産性が向上するとともに、樹脂組成物の溶融加工に対する安定性が向上する。ホットアップ温度が60℃未満であると可塑剤組成物が充分に均一混合しないため、ベタツキが生じ、混練機への供給に支障をきたし、生産性が阻害されるとともに、樹脂組成物の溶融が不均一となる場合がある。一方、ホットアップ温度が160℃を超えると、予備混合機内で樹脂が溶融し、塊状となって、やはり混練機への供給が不可能となる。
【0024】
次に、溶融混練機であるが、一般的には単軸、二軸押し出し機、バンバリー式、ロール式などが挙げられる。これらも、組成物の形態や目的、生産性に応じて選定し、溶融混練することにより、本発明の組成物を製造することが可能である。ペレット化は、いかなる方法でもよいが、溶融した組成物を板状に取り出した後、カットする方法や、溶融した樹脂組成物をダイスから紐状に押し出しながら、ダイスカッターにてペレットを作成するホットカット法が好ましい。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、各成形機で溶融され、射出成形、異形押出を含む押出成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形、エンボス成形、フィルム・シート成形など、各種成形機による成形加工が可能である。成形機は、通常使用される一般的な仕様のものでよい。また、PVCを成形する目的で使用されている成形機でも成形可能である。
例えば、射出成形の場合、一般的な射出成形機を使用することが可能である。一般的に、ペレット状コンパウンドを用いると、成形品の仕上りが良好であり、物理的性能も安定する。このように、本発明の樹脂組成物は、用途に応じて成形方法を選択することができる。
【0026】
いずれの成形加工においても、原料の吸湿には注意が必要であり、予備乾燥と成形中の吸湿対策が重要である。つまりは、ホットカット方式により得られたペレットをアルミ袋などに保存し、開封後すぐに成形加工することが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例中の部および%は、特に断らない限り重量部および重量%である。
【0028】
試料の調製
(A)成分;
アセチルセルロース樹脂として、ダイセル化学工業株式会社製を用い、アセチル基置換度が2.1のタイプを(A−1)、2.4のタイプを(A−2)として用いた。
(B)成分;
理研ビタミン(株)製、モノカプリルジアセチルグリセリドを用いた。
(C)成分;
(C−1)理研ビタミン(株)製、モノアセチルグリセリドを用いた。
(C−2)大八化学(株)製、トリアセチン(トリアセチルグリセリド)を用いた。
(D)成分;
大林工業(株)製、木粉120M(平均粒径=120μm)を用いた。
(E)成分;
(E−1)理研ビタミン(株)製、プロピレングリコールモノステアレートを用いた。
(E−2)新日本理化(株)製、ステアリン酸を用いた。
【0029】
試料作成方法
予備混合機として、ヘンシェルミキサーを用いて、樹脂、可塑剤、木粉、滑剤などを所定の割合で混合し、組成物温度が100℃になるまで攪拌操作を行った。混練機として、スクリュー径65mm異方向2軸押出機(モーター能力:25KW)を用いて、シリンダー設定温度180〜200℃、スクリュー回転数40rpm、フィーダー回転数10rpmで溶融混練を行った。溶融した樹脂組成物をダイスから紐状に押し出しながら、ダイスカッターにてペレットを作成するホットカット法によって、ペレットコンパウンドを作製した。
【0030】
予備混合作業性
予備混合機を用いた加熱攪拌操作中の組成物の流動性を評価した。評価基準は、下記のとおりである。
良好:組成物中の樹脂粉体が、可塑剤やその他の添加剤と均一に混合している状態。
普通:組成物が若干塊状になるが、混練機へ供給できる状態
不良:組成物が溶融して塊状となり不均一である、または樹脂粉体と可塑剤混合物との混合が困難である、ベタツキが生じる、などのため混練機への供給が不可能である状態。なお、不良の場合、混練り、ペレット作成ができないため、混練作業性、成形品外観などの評価はできなかった。
【0031】
ペレットの製造性を、混練機を用いた溶融混練作業中の組成物の溶融の均一性、混練機稼働モーターの負荷の大きさ、得られたペレットの外観から評価した。評価基準は、下記のとおりである。
混練溶融安定性
良好:組成物の溶融混練りが均一である状態
普通:混練組成物に若干溶融不良が存在するが、ペレット製造できる状態
不良:組成物が不均一に溶融し、ペレット製造できない状態
混練モーターの負荷
最良:2軸押出機のモーター負荷が45A未満で安定し、フィーダー回転数を15rpmまで回転数を上げてもペレット製造ができる状態。
良好:2軸押出機のモーター負荷が45A未満で安定する。
大:2軸押出機のモーター負荷が45A以上60A未満であり、材料の供給量を制限する必要がある状態(フィーダー回転数を8rpm以下にする必要がある場合)。
特大:2軸押出機のモーター負荷が60A以上となり、ペレット製造が困難な場合。
ペレット外観
良好:安定して均一なペレットが得られる状態
普通:若干ペレットの大きさが異なるが、安定してペレットが得られる状態
不良:安定してペレットが得られない状態
【0032】
射出成形は、型締め圧力80tの射出成形機を用い、シリンダー設定温度160〜200℃とし、金型設定温度40℃にて成形を行った。射出成形性は、フィルムゲート式のプレート(幅6×長さ6×厚み0.3cm)によって、成形時の作業性、得られた成形品外観を評価した。評価基準を下記に示す。
射出成形性
最良:シリンダーのホッパー側温度が160℃で、射出圧力が最大圧力に対し、50%設定未満で安定して成形できる状態
良好:シリンダーのホッパー側温度が180℃で、射出圧力が最大圧力に対し、80%設定未満で安定して成形できる状態
不良:シリンダーのホッパー側温度が180℃で、射出圧力が80%設定以下で、安定して成形できない状態。
射出成形品外観
良好:目視で、成形品表面に特に異常が見られない場合。
不良:目視で、成形品表面が着色したり、フラッシュマーク、艶ムラ、ブツがある場合。
【0033】
押出成形は、20mm単軸押出し機を用い、シリンダー設定温度190℃〜210℃、テープ状ダイスを用いて、スクリュー回転数10rpm、20rpmで押出しし、作業性、成形品外観について評価を行った。評価基準を下記に示す。
押出し成形性
最良:スクリュー回転数20rpmで押出負荷(トルク)が、5kg/cm2 より低く、安定して成形できる状態。
良好:スクリュー回転数10rpmで押出負荷(トルク)が、5kg/cm2 より低く、安定して成形できる状態。
不良:スクリュー回転数10rpmで押出負荷(トルク)が5kg/cm2 を超える状態。
押出し成形品外観
良好:目視で、成形品表面に特に異常が見られない場合。
普通:目視で、成形品表面にややメルトフラクチャーがあるが、用途によっては使用可能である場合。
不良:目視で、成形品表面に溶融ムラ、メルトフラクチャーがある場合。
【0034】
実施例1〜7
表1の配合処方に従い、樹脂組成物を調製して評価した。結果を表1に示す。いずれの実施例もペレット製造性、射出成形性、押出し成形性とも特に優れ、またPVC用の成形加工機で容易に成形加工が可能であった。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例8
実施例5の配合処方に着色剤として酸化チタン2重量部を加え製造したペレットを98重量部、実施例1の配合処方に着色剤としてベンガラ2重量部を加え製造したペレットを2重量部とをドライブレンドしてから押出し成形を行ったところ、木目模様が成形品に表現され、特に意匠性の高い木質感のある成形品が得られた。
【0037】
実施例9
実施例5の配合処方をヘンシェルミキサーを用いて、組成物温度が100℃になるまで攪拌操作を行って得られたパウダー状の配合物を直接射出成形、押出し成形を実施した。射出成形性、押出し成形性とも特に優れ、またPVC用の成形加工機で容易に成形加工が可能であった。
【0038】
実施例10
実施例5の配合処方に従い、配合した配合物をヘンシェルミキサーを用いて50℃になるまで攪拌操作を行った。混練機として、スクリュー径65mm異方向2軸押出機を用いて、シリンダー設定温度180〜200℃、スクリュー回転数40rpm、フィーダー回転数10rpmで溶融混練を行った。溶融した樹脂組成物をダイスから紐状に押し出しながら、ダイスカッターにてペレットを作成するホットカット法によって、ペレットコンパウンドを作製した。ペレットコンパウンドを作製の際、溶融不良が認められ、ペレットコンパウンドにも一部発泡現象が見られたものの、ペレット製造は可能であった。押出し成形、射出成形とも可能ではあるが、成形品に若干発泡現象が見られた。
【0039】
比較例1〜4
表2の配合処方に従い、樹脂組成物を調製して評価した。結果を表2に示す。比較例1〜4は、本発明の(D)有機系充填剤や(E)滑剤を配合しない例であり、ペレット製造および成形加工は可能であるものの、ペレット製造において、吐出(時間あたりの製造量)は実施例と比較して少なく、成形加工性も実施例と比較して劣り、製品の生産性が制限されてしまう。
【0040】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)生分解性を有するアセチル基置換度が1.9〜2.9のアセチルセルロース樹脂100重量部に対し、(B)下記一般式(1)で表される可塑剤および(C)下記一般式(2)で表される可塑剤を5〜100重量部〔ただし、(B):(C)の配合比率=1〜99重量%:99〜1重量%、(B)+(C)=100重量%〕、ならびに(A)〜(C)成分の合計量100重量部に対し、(D)有機系充填剤を5〜200重量部配合することを特徴とするアセチルセルロース樹脂組成物。
CH−O−R

CH−O−R ・・・・・(1)

CH−O−R
(上記式中R 〜R は、同一または異なり、炭素数2のアシル基および/または炭素数8〜14のアシル基であり、少なくとも1個は炭素数8〜14のアシル基である。)
CH−O−R

CH−O−R ・・・・・(2)

CH −O−R
(上記式中R 〜R は、同一または異なり、水素原子および/または炭素数2個のアシル基であり、少なくとも1個は炭素数2個のアシル基である。)
【請求項2】
さらに、上記(A)〜(C)成分の合計量100重量部に対し、(E)滑剤を0.01〜5重量部含む請求項1記載のアセチルセルロース樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−51304(P2007−51304A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319787(P2006−319787)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【分割の表示】特願2001−335980(P2001−335980)の分割
【原出願日】平成13年11月1日(2001.11.1)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】