説明

アセチル誘導体の製造方法

【課題】 医薬・農薬その他の中間体として有用なアセトフェノン誘導体の工業的に効率の良い製造方法を提供する。
【解決手段】 各種置換基を有するハロゲン化アリール誘導体をパラジウム触媒、リガンド特にDPPP、塩基特に炭酸水素ナトリウム、溶媒特にメタノールの存在下にヘック反応によりビニルエーテル類と、150度前後の比較的高温にて位置選択的に反応させ、得られたビニルエーテル誘導体を酸加水分解し、アセトフェノン誘導体を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬、農薬中間体をはじめ各種有機中間体として有用なアセトフェノン誘導体をベンゼン環のヘック反応を経るアセチル化により製造する方法に関する。より詳しくは、置換ハロゲン化アリール誘導体を出発原料として用い、パラジウム触媒、リガンド、塩基及び水の存在下、ビニルエーテル類を反応させて、各種置換基を有するアセトフェノン誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゼン環のアセチル化は、天然物や医農薬の合成において幅広く使用される重要な反応である。しかし、代表的なアセチル化反応は、フリーデル−クラフツ反応(例えば、非特許文献文献1を参照。)、あるいはベンゼンの金属塩のアセトアルデヒドへの付加体の水酸基を酸化する方法が代表的な反応である。
ハロゲン化アリールとオレフィンを用いたヘック反応を経るアセチル化は、出発原料の官能基許容性及び反応生成物におけるアセチル基の導入位置選択性に優れている。触媒反応であることから、比較的温和な反応条件は可能であり、触媒の回収により金属塩含有廃液等による環境への影響も少なく、上記に代わる有効な手段として検討されてきた。2−ブロモナフタレン等を出発原料にして硝酸銀や酢酸タリウム等を添加物として用いて反応する例が知られている(例えば、非特許文献2を参照。)。しかしながら、ベンゼン環を出発原料とする場合では、反応性の点から、主に沃化及び臭化アリールを用いて検討されてきた。
複素環に結合した反応性の高い塩化物を出発原料とする場合は、選択性良く高い収率で目的物が得られることが見出されている(例えば、特許文献1及び2を参照。)。
【0003】
【非特許文献1】ヘニーら、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス第2巻、トロストら編集、ペルガモンプレス出版(1991年)、733頁(H.Heaney,“Comprehensive Organic Synthesis” Vol.2, B.M.Trost, I.Fleming, eds., Pergamon(1991),P.733)。
【非特許文献2】カブリら、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー、57巻、1481頁(1992年)(W. Cabriet al., J. Org. Chem., 57, 1481(1992).)。
【特許文献1】特開2002−212167号公報(発明の名称「ジアセチルピリジン誘導体の製造方法」)。
【特許文献2】特開2005−272338号公報(発明の名称「ピリジン誘導体の製造方法」)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のフリーデル−クラフツ反応やベンゼンの金属塩のアセトアルデヒドへの付加体の水酸基を酸化する方法の製造方法は、過酷な条件や高価な試薬を用い、出発原料の官能基の許容性が低い反応である。また、生成物のアセチル化位置の選択性に乏しい反応である。また、フリーデルクラフツ反応では廃液処理の困難を伴う等、いずれも工業化の難しい反応である場合が多い。このため、工業的に優れた反応条件で、効率良くベンゼン環をアセチル化してアセトフェノン誘導体を製造する方法が求められていた。
ハロゲン化アリールとオレフィンを用いたヘック反応を経るアセチル化は(上記非特許文献2)、主に沃化アリール及び臭化アリールを原料に用いて検討されてきた。また、収率向上や反応選択性の向上のために特殊な溶媒や添加物を用いた検討がなされてきた。そのため、原料や添加物の調達が必ずしも容易ではなく、また入手できたとしても高価であるために工業的製造方法としては製造コスト面から充分なものではなかった。
【0005】
更に、最も大きな問題点は、使用するオレフィンの反応位置の選択性であった。つまり、このハロゲン化アリールとオレフィンを用いたヘック反応でオレフィンとして用いられるビニールエーテルは、2個所の反応部位があり、通常の反応ではα位及びβ位で結合した2種類の生成物を与え、これらは、加水分解後に、目的とするアセチル体とアセトアルデヒド誘導体の混合物となる点であった。
これらのことから、ハロゲン化アリールとオレフィンを用いたヘック反応を経るアセチル化において、特殊な試薬や溶媒を用いず、一方の生成物を優先的・効率的に、特にアセチル誘導体を与える製造方法が求められてきた。製造コスト面からは、より安価な塩化アリールを出発原料として、アセトフェノン誘導体を製造する方法が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決し、工業的に安価に手に入る塩化アリールのアセチル化を達成すべく鋭意検討した結果、ヘック反応を用いて、リガンド、塩基、必要に応じて溶媒を組み合わせて、置換基に応じて、より高い温度で反応を行うことにより、ベンゼン環上の塩化物を選択的にアセチル基に変換する方法を開発した。又、臭化アリールについても、これまでの製造における特殊な溶媒や添加物を用いることなく選択的にアセチル化体が得られることを見出した。
【0007】
即ち本発明は、
[1]一般式(II):
【0008】
【化1】


(II)
【0009】
(式中、Rは同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基、C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基、ホルミル基、
フェニル基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−2アルキレンジオキシ基、フッ素原子で置換されたC1−2アルキレンジオキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基、C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で置換された置換フェニル基、
フェニルC1−4アルキル基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で環上に置換された置換フェニルC1−4アルキル基、
フェニルカルボニル基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で置換された置換フェニルアルキル基、
フェノキシ基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基またはハロC1−6アルキルチオ基、C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で置換された置換フェノキシ基、
フェニルカルボニル基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で置換された置換フェニルカルボニル基、
フェニルスルホニル基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で置換された置換フェニルスルホニル基、C1−6アルキルカルボニル基またはC1−6アルコキシカルボニル基を示し、
nは0〜3の整数を示し、Xは塩素原子または臭素原子を示す。)で表されるハロゲン化アリール誘導体と一般式(IV)
CH=CHOR (IV)
(式中、RはC1−6アルキル基又はヒドロキシC2−6アルキル基を示す。)で表されるビニルエーテル類とをパラジウム触媒、リガンド及び塩基の存在下に反応させて一般式(III):
【0010】
【化2】



(III)
【0011】
(式中、R、n及びRは前記に同じ。)で表されるビニルエーテル誘導体とし、該ビニルエーテル誘導体を酸加水分解することを特徴とする一般式(I):
【0012】
【化3】


(I)
【0013】
(式中、R、n及びRは前記に同じ。)で表されるアセトフェノン誘導体の製造方法、
[2]パラジウム触媒、リガンド及び塩基の存在下が、パラジウム触媒、リガンド、塩基及び溶媒の存在下である[1]に記載のアセトフェノン誘導体の製造方法、
[3]Xが塩素原子である[1]または[2]に記載のアセトフェノン誘導体の製造方法、
[4]リガンドがDPPPである[1]ないし[3]いずれか1に記載のアセトフェノン誘導体の製造方法、
[5]塩基が炭酸水素ナトリウムである[1]ないし[4]いずれか1に記載のアセトフェノン誘導体の製造方法、
[6]反応温度が140〜180℃である[1]ないし[5]いずれか1に記載のアセトフェノン誘導体の製造方法に関する。
[]
【発明の効果】
【0014】
ハロゲン化アリールを出発原料として、特殊な溶媒や添加物を用いることなく選択的にかつ安価にアセチル化誘導体を製造することができる。また、金属を含有する廃液処理等が少なくて済み、その結果、環境への負荷を低減でき、全体として製造コストに優れた工業的に有利なアセトフェノン誘導体の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一般式(I)〜(IV)で表される化合物の置換基の定義中、Rとしてはヘック反応の当該条件下において不活性な置換基であれば良く、例えば、水素原子;フッ素原子;塩素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等の直鎖、分岐鎖又は環状の炭素原子数1〜6個のアルキル基;ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロイソプロピル基、2,2−ジフルオロシクロプロピル基等の直鎖、分岐鎖又は環状の炭素原子数1〜6個のハロアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の直鎖、分岐鎖又は環状の炭素原子数1〜6個のアルコキシ基;ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、パーフルオロエトキシ基、2,2−ジフルオロシクロプロポキシ基等の直鎖、分岐鎖又は環状の炭素原子数1〜6個のハロアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、i−プロピルチオ基、シクロプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、i−ブチルチオ基、s−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、ネオペンチルチオ基、シクロペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基等の直鎖、分岐鎖又は環状の炭素原子数1〜6個のアルキルチオ基;ジフルオロメチルチオ基、トリフルオロメチルチオ基、パーフルオロエチルチオ基、パーフルオロイソプロピルチオ基、2,2−ジフルオロシクロプロピルチオ基等の直鎖、分岐鎖又は環状の炭素原子数1〜6個のハロアルキルチオ基;シアノ基等を挙げることができる。また、置換フェニル基の置換基としてはヘック反応、エステル化反応及び酸加水分解反応において不活性な置換基であれば良く、前記Rと同じ置換基が挙げられる。置換フェニルアルキル基、置換フェノキシ基、置換フェニルカルボニル基、置換フェニルスルホニル基等における環上の置換基の場合も同様である。
としては例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1〜6個のアルキル基である。
Xとしては塩素原子が好ましい。
【0016】
本発明を例えば図示的に示すと以下の通り示すことができる。
【0017】

【化4】


(式中、R、n、X及びRは前記に同じ。)
【0018】
一般式(II)で表されるハロゲン化アリール誘導体を一般式(IV)で表されるビニルエーテル類とパラジウム触媒、リガンド及び塩基の存在下、不活性溶媒の存在下又は不存在下に反応させて一般式(III)で表されるビニルエーテル誘導体とし、該ビニルエーテル誘導体を単離又は単離せずして不活性溶媒の存在下又は不存在下に酸加水分解することによって、一般式(I)で表されるアセトフェノン誘導体を製造することができる。
【0019】
1. 一般式(II)→ 一般式(III)
本反応は一般にヘック反応として知られるカップリング反応である。本反応で使用できる一般式(IV)で表されるビニルエーテル類としてはメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類が挙げられ、その使用量は一般式(II)で表されるハロゲン化アリール誘導体に対して等モル〜10倍モルの範囲で適宜選択すれば良いが、好ましくは1.5倍モル〜5倍モルの範囲である。
【0020】
本反応で触媒として使用できるパラジウム触媒としては、例えば金属パラジウム、パラジウムカーボン、パラジウムアルミナ等の担体にパラジウム金属を担持させたもの、塩化パラジウム、臭化パラジウム、沃化パラジウム、酢酸パラジウム等のパラジウム塩、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、[1,4−
ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]ジクロロパラジウム、ジクロロビスベンゾニトリルパラジウム、ジクロロビスアセトニトリルパラジウム、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム等のパラジウム錯体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。パラジウム触媒の使用量は一般式(II)で表されるハロゲン化アリール誘導体に対して、0.1〜0.00001倍モルの範囲で、好ましくは0.01〜0.00005倍モルの範囲で使用するのが良い。
【0021】
本反応で使用できるリガンドとしては、例えばトリt−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン(TPP)、トリo−トリルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPPE)、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(DPPP)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DPPB)等のホスフィン類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。リガンドの使用量は一般式(II)で表されるハロゲン化アリール誘導体に対して、0.3
〜0.00001倍モルの範囲で、好ましくは0.1〜0.0001倍モルの範囲で使用するのが良い。
【0022】
本反応で使用できる塩基としては、例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン等の有機塩基類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基類、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。使用する塩基の量としては、生成するハロゲン化水素を中和するのに必要な量を使用するのが好ましいが、過剰に使用し、また溶剤として使用することもできる。
本反応で使用できる溶媒としては、反応の進行を著しく阻害しないものであれば良く、例えばヘプタン、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド、水等を挙げることができる。好ましくはアルコール類であり、特に好ましくはメタノールである。これらの溶媒は単独で使用しても良く、二種以上混合して使用することもできる。塩基として炭酸水素ナトリウムと溶媒としてアルコール類とを組み合わせることが好ましい。
【0023】
反応温度は通常50〜250℃の範囲で行うことができ、好ましくは100〜200℃である。より好ましくは140〜180℃である。置換基にもよるが、特に好ましくは約150℃程度である。反応時間は使用化合物、反応規模、反応温度により一定しないが、1時間乃至48時間の範囲で適宜選択すれば良い。
【0024】
また、本反応は開放系の装置を用いて常圧で反応させることもできるが、低沸点の一般式(IV)で表されるビニルエーテル類を揮散させない目的でオートクレーブ等の密閉系の装置を用いて加圧下に反応することもできる。必要に応じて、本反応を促進することが知られているモレキュラーシーブ、塩化リチウム、硝酸銀等の無機塩等を添加することもできる。更に、リガンドの酸素による劣化を防ぐ目的で窒素、アルゴン等の不活性気体の雰囲気下で反応させることもできる。
反応終了後、一般式(VI)で表されるビニルエーテル誘導体を含む内容物から常法により単離し、必要に応じて精製することができる。また、単離せずに次の工程に用いることもできる。
【0025】
2.一般式(III)→ 一般式(I)
本反応は酸を用いた通常の加水分解反応の条件で行えば良く、ビニルエーテル部分のみ選択的に加水分解することができる。使用できる酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸、蟻酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸を使用することができる。酸の使用量としては、一般式(VI)で表されるビニルエーテル誘導体に対して0.01倍モル〜等モルの範囲で適宜選択すれば良い。
本反応で使用できる溶媒としては、反応の進行を著しく阻害しないものであれば良く、例えばヘプタン、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド、水等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で使用しても良く、二種以上混合して使用することもできる。
【0026】
反応温度は0℃〜100℃の範囲から選択すれば良いが、好ましくは20℃〜60℃である。反応時間は反応規模、反応温度により一定しないが、1時間乃至48時間の範囲で適宜選択すれば良い。反応終了後、一般式(I)で表されるハロゲン化アリール誘導体を含む内容物から常法により単離し、必要に応じて再結晶、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等により精製して目的物を得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1. 1−アセチル−4−(トリフルオロメチル)ベンゼン(1-Acetyl-4-(trifluoromethyl)benzene)の製造
200mLのオートクレーブに1−クロロ−4−(トリフルオロメチル)ベンゼン(1-chloro-4-(trifluoromethyl)benzene)3.61g(0.02mol)、NAHCO1.85g(1.1当量)、酢酸パラジウム18mg(0.4mol%)、DPPP66mg(0.80mol%)、n−ブチルビニルエーテル(以下「NBVE」と称する。)6.01g(3.0eq.)及びメタノール14.0g(700g/mol)を仕込み、ゆっくりと攪拌を開始する。窒素置換後、攪拌速度を500rpmlとして、150℃に加熱した。150℃に達した後、約5時間で内圧が一定になり冷却を開始した。60℃以下になったら、反応液を少量のセライトを通してろ過し、ろ液を濃縮すると油状物を与えた。これに5%塩酸5g、メタノールを5g加え、湯浴上50℃で30分間攪拌し、酢酸エチル10gで抽出した。有機層を飽和NAHCO水溶液で洗浄し、濃縮すると油状物を与えた(ガスクロマトグラフィーにてチェック)。油状物を蒸留すると沸点79〜80℃/8mmHgで無色の油状物を72%の収率で得た。
【0029】
実施例2. 1−アセチル−4−ベンゾニトリル(1-Acetyl-4-benzonitrile)の製造
200mLのオートクレーブに1−クロロ−4−ベンゾニトリル(1-chloro-4-benzonitrile)2.75g(0.02mol)、NAHCO1.85g(1.1eq.)、メタノール14.0g(700g/mol)、NBVE6.01g(3.0eq.)、酢酸パラジウム18mg(0.4mol%)、DPPP66mg(0.80mol%)を仕込み、ゆっくりと攪拌を開始する。窒素置換後、攪拌速度を500rpmlとして、150℃に加熱した。150℃に達した後、約5時間で内圧が一定になり冷却を開始した。60℃以下になったら、反応液を少量のセライトを通してろ過し(ろ液をGCにてチェック)、ろ液を濃縮すると油状物を与えた。これに5%塩酸5g、メタノールを5g加え、湯浴上50℃で30分間攪拌し、酢酸エチル10gで抽出した。有機層を飽和NAHCO水溶液で洗浄し、濃縮すると結晶を与え、ろ過後乾燥すると融点57〜59℃を75%の収率で得た。
【0030】
実施例3. 2−フルオロアセトフェノン(2-Fluoroacetophenone)の製造
200mLのオートクレーブに1−ブロモ−2−フルオロベンゼン(1-bromo-2-fluoroobenzene)3.50g(0.02mol)、NAHCO1.85g(1.1eq.)、酢酸パラジウム44.5mg(1.0mol%)、DPPP
165mg(2.0mol%)、NBVE 6.01g(3.0eq.)及びメタノール14.0g(700g/mol)を仕込み、ゆっくりと攪拌を開始する。窒素置換後、攪拌速度を500rpm1として、170℃に加熱した。170℃に達した後、約5時間で内圧が一定になり冷却を開始した。60℃以下になったら、反応液を少量のセライトを通してろ過し、ろ液を濃縮すると油状物を与えた。これに5%塩酸5g、メタノールを5g加え、湯浴上50℃で30分間攪拌し、酢酸エチル10gで抽出した。有機層を飽和NAHCO水溶液で洗浄し、濃縮すると油状物を与えた。油状物を蒸留すると沸点73〜75℃/20mmHgで無色の油状物を50%の収率で得た。
【0031】
実施例4. 4,4’−ジアセチルジフェニルスルホン(4,4’-Diacetyldiphenylsulfone)の製造
200mLのオートクレーブに4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(4,4’-dichlorodiphenylsulfone)5.74g(0.02mol)、NAHCO1.85g(1.1eq.)、メタノール14.0g(700g/mol)、NBVE10.0g(5.0eq.)、酢酸パラジウム22.5mg(0.5mol%)、DPPP82.5mg(1.0mol%)を仕込み、ゆっくりと攪拌を開始する。窒素置換後、攪拌速度を500rpm1として、150℃に加熱した。150℃に達した後、約5時間で内圧が一定になり冷却を開始した。60℃以下になったら、反応液を少量のセライトを通してろ過し、ろ液を濃縮すると油状物を与えた。これに5%塩酸10g、メタノールを10g加え、湯浴上で50℃で30分間攪拌すると結晶が析出した。濃縮する得られた結晶を再結後、ろ過、乾燥すると融点 ℃を58%の収率で得た。
【0032】
実施例を表1ないし表4に示す。
【0033】
【化5】

【0034】
【表1】

【0035】
【化6】

【0036】
【表2】

【0037】
【化7】

【0038】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(II):
【化1】


(II)

(式中、Rは同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基、C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基、ホルミル基、
フェニル基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、C1−2アルキレンジオキシ基、フッ素原子で置換されたC1−2アルキレンジオキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基、C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で置換された置換フェニル基、
フェニルC1−4アルキル基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で環上に置換された置換フェニルC1−4アルキル基、
フェニルカルボニル基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で置換された置換フェニルアルキル基、
フェノキシ基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基またはハロC1−6アルキルチオ基、C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で置換された置換フェノキシ基、
フェニルカルボニル基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で置換された置換フェニルカルボニル基、
フェニルスルホニル基、同一または異なっても良く、フッ素原子、塩素原子、C1−6アルキル基、ハロC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基、ハロC1−6アルコキシ基、C1−6アルキルチオ基、ハロC1−6アルキルチオ基C1−6アルキルスルフィニル基、ハロC1−6アルキルスルフィニル基、C1−6アルキルスルホニル基、ハロC1−6アルキルスルホニル基、ニトロ基、シアノ基またはホルミル基で置換された置換フェニルスルホニル基、C1−6アルキルカルボニル基またはC1−6アルコキシカルボニル基を示し、
nは0〜3の整数を示し、Xは塩素原子または臭素原子を示す。)で表されるハロゲン化アリール誘導体と一般式(IV)
CH=CHOR (IV)
(式中、RはC1−6アルキル基又はヒドロキシC2−6アルキル基を示す。)で表されるビニルエーテル類とをパラジウム触媒、リガンド及び塩基の存在下に反応させて一般式(III):
【化2】


(III)

(式中、R、n及びRは前記に同じ。)で表されるビニルエーテル誘導体とし、該ビニルエーテル誘導体を酸加水分解することを特徴とする一般式(I):
【化3】


(I)

(式中、R、n及びRは前記に同じ。)で表されるアセトフェノン誘導体の製造方法。
【請求項2】
パラジウム触媒、リガンド及び塩基の存在下が、パラジウム触媒、リガンド、塩基及び溶媒の存在下である請求項1に記載のアセトフェノン誘導体の製造方法。
【請求項3】
Xが塩素原子である請求項1または2に記載のアセトフェノン誘導体の製造方法。
【請求項4】
リガンドがDPPPである請求項1ないし3いずれか1項に記載のアセトフェノン誘導体の製造方法。
【請求項5】
塩基が炭酸水素ナトリウムである請求項1ないし4いずれか1項に記載のアセトフェノン誘導体の製造方法。
【請求項6】
反応温度が140〜180℃である請求項1ないし5いずれか1項に記載のアセトフェノン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2009−102264(P2009−102264A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275866(P2007−275866)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【Fターム(参考)】