説明

アセチレン系炭化水素の選択的な水素化のための触媒、該触媒の製造方法及び該触媒の使用

本発明は、特に、炭化水素流体中でのアセチレン系化合物の選択的な還元のための触媒の製造方法に関し、少なくとも1つの活性金属化合物及び少なくとも1つのプロモーター金属化合物が溶解する溶媒として、水と少なくとも1つの水混和性の有機溶媒との混合物を含む含浸溶液を提供すること、担体を提供すること、含浸溶液を担体に含浸すること、含浸された担体をか焼すること、を特徴とする。パラジウムが活性金属として使用され、銀がプロモーター金属として使用される。さらに、本発明は、アセチレン系化合物の選択的な水素化のために使用される、その方法によって得られる触媒に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、炭化水素流体中でのアセチレン系化合物の選択的な還元のための触媒の製造方法、その方法によって得られる触媒、及び、その触媒の使用に関する。
【0002】
エチレン及びプロピレンは、ポリエチレンやポリプロピレンのようなプラスチックの製造のためのモノマーとして重要である。エチレン及びプロピレンは、長鎖炭化水素の熱分解や接触分解によって、石油や石油生成物から主に得られる。しかしながら、分解生成物から得られるエチレン及びプロピレンは、アセチレンやプロピンのようなアセチレン系化合物を少量含有している。このため、例えば、ポリエチレンを形成するためのエチレンのポリマー化では、使用される前にアセチレン系化合物を除去する必要がある。エチレンのポリマー化のためには、アセチレン濃度を5ppm未満に減少させるべきである。この目的のために、アセチレンは、エチレンへ選択的に水素化される。触媒及び水素化のプロセスは、これに対する厳しい要求事項を満たす必要がある。第1に、アセチレンは、エチレンへの変換によって、できるだけ完全に除去されるべきである。第2に、エタンへのエチレンの水素化が起こらないようにすべきである。この目的のためには、水素化は、「clean−up温度」及び「runaway温度」によって制限される温度範囲の中で実施される。本発明の目的のためには、「clean−up温度」は、エチレンへのアセチレンのかなりの水素化が見られる温度である。「runaway温度」は、エタンへのエチレンのかなりの水素化が始まる温度である。温度は、例えば、温度の関数として定義されたアセチレン及びエチレンを含むガス混合物の水素消費を測定することによって決定される。
【0003】
炭化水素流体中におけるエチレンへのアセチレンの選択的な水素化のための触媒としては、銀やアルカリ金属のようなプロモーターも含むパラジウム触媒が使用される。
パラジウム、及び、適当なプロモーター(特に、銀)は、不活性で且つ耐熱性の担体素材に殻形態で塗布される。触媒は、パラジウム及びプロモーターの適当な塩(例えば、硝酸パラジウム、硝酸銀)を水溶液の形態で多孔質の担体へ塗布することで製造される。含浸は、パラジウム化合物の溶液及び銀化合物の溶液を使用することで、別々のステップにおいて実施される。しかしながら、共同の含浸ステップにおいてパラジウム及び銀を担体に塗布することも可能である。含浸された担体は、その後、触媒を活性型に変換するために、か焼されて減量される。
【0004】
DE3119850には、炭化水素混合物中で、少なくとも4つの炭素原子を有するジオレフィンの選択的な水素化のためのプロセスが開示されている。水素化は、パラジウム及び銀を同時に含む触媒上の水素によって実施される。パラジウムに対する銀の重量比は、0.7:1〜3:1である。触媒は、パラジウム及び銀の水溶液を用いた担体の同時含浸によって製造される。
【0005】
US5648576には、対応するエチレン系炭化水素へのアセチレン系炭化水素(C2〜C3)の選択的な気相式の水素化のためのプロセスが開示されている。触媒は、適当な金属塩の水溶液を用いて担体の同時含浸によって製造される。
【0006】
EP0064301には、アセチレンの選択的な気相式の水素化のための触媒が開示されている。触媒は、パラジウム及び銀の2段使用によって製造される。
【0007】
対応するエチレン系炭化水素への2つ又は3つの炭素原子を有するアセチレン系炭化水素の気相中での選択的な水素化のためのさらなる触媒は、EP0780155に開示されている。例えば、含窒素酸である硝酸パラジウム及び硝酸銀の溶液は、担体の含浸に使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで使用された多くの触媒の場合、オリゴマー及びポリマーの層は、実施の間、表面上に形成される。これは、変換及び「空隙」オリゴマー及びポリマーの減少という結果になる。これは、変換及び触媒による水素化の選択性の減少という結果になる。その上、「clean−up温度」と「runaway温度」との間の温度範囲も縮まる。その結果、エタンへのエチレンの好ましくない水素化が低い温度で生じる。触媒上の不純物は、空気の含酸素流体によって高い温度で焼き尽くされることによって除去されるが、製造が触媒の再生のために中断され、高いコストを被る。その上、生成されたエチレン中のアセチレン及びエタンの変動する濃度をさらに処理することがより困難になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明の第1の態様では、従来技術の不都合を回避し、触媒の頻繁な再生なしで長期間に亘って連続的で均一な水素化を許容する触媒を用いて、炭化水素流体中でのアセチレン系化合物(特に、アセチレン及びプロピレン)の選択的な還元のための触媒の製造方法を提供することを目的とする。触媒は、触媒の寿命を超えて全く変化しない温度窓を有し、「clean−up温度」と「runaway温度」との間の非常に広い温度窓を有する。
【0010】
第1の態様では、この目的は、請求項1の方法によって達成される。有効な実施形態は、従属している請求項の内容である。本発明によると、周期表の8族から少なくとも1つの活性金属(好ましくは、パラジウム)、及び、(提示されるなら)周期表の1B族から少なくとも1つのプロモーター金属(好ましくは、銀)が(同時)含浸によって担体に塗布される。溶媒としては、周期表元素の8族の元素の少なくとも1つの活性金属化合物と周期表の1B族の元素の少なくとも1つのプロモーター金属とが溶解される、水と、さらに、少なくとも1つの有機溶媒との混合物を使用することができる。
水と少なくとも1つの有機溶媒とを混合したものの使用は、6nm未満のサイズである活性金属粒子及び/又はプロモーター金属粒子の少なくとも90%で、活性金属が非常にきめ細かく分割された形態で存在する触媒の製造を可能にする。本発明の有効な効果は、プロモーター金属(例えば、銀)が欠如しているとき(即ち、1つ以上の活性金属たけが使用されるとき)でも明白である。しかしながら、本発明の好ましい実施形態によると、少なくとも1つの活性金属と少なくとも1つのプロモーター金属とが使用される。
活性金属及び(提供されるなら)プロモーター金属によって形成される活性素材は、非常に薄い殻中に含浸によって担体に塗布される。本発明の第1の態様では、驚くことに、含浸溶液の含水量によって浸透深さが変化することが見出された。含浸溶液の浸透深さは、含浸溶液の含水量の増加に伴って増加する。
【0011】
本発明の好ましい実施形態では、活性金属又は活性素材の粒子は、非常に狭い粒子サイズの分布を有している。これは、驚くべきことに、本発明の方法によって補助される。
【0012】
活性金属とプロモーター金属とは、担体に塗布される活性金属の粒子の支配的な部分(即ち、好ましくは、50%以上)中で、合金の形態で一緒に存在することが好ましい。故に、接触活性金属とプロモーター金属との間の親密な接触が達成される。
【0013】
小さい粒子サイズと薄い外殻(下記参照)中の活性金属の高い濃度とによって、非常に高い選択性を伴う非常に高い活性が達成される。さらに、触媒は、触媒の表面上にポリマーの形態で沈着された副産物の著しい減少を示す。結果として、触媒は、その特性の著しく長期の安定性を示し、故に、触媒の再生の間の周期は、著しく長くなる。
【0014】
触媒を製造するための本発明の方法は、特に、炭化水素流体中でのアセチレン系化合物の選択的な水素化のために、下記の要件によって実施される。

・周期表元素の8族の元素の少なくとも1つの活性金属化合物と周期表の1B族の元素の少なくとも1つのプロモーター金属とが溶解されている溶媒として、水と少なくとも1つの水混和性の有機溶媒との混合物を含む含浸溶液を提供すること。
・担体を提供すること。
・含浸溶液を担体に含浸すること。
【0015】
含浸された担体は、か焼されることが好ましい。その上、触媒は、例えば、触媒の「start−up」の間、別々のステップで(例えば、か焼後又はその反応装置中のみで)還元されることが好ましい。触媒のstart−upの前に水素によって還元されることが好ましい。
【0016】
本発明の方法の実施では、含浸溶液が最初に作製される。水と水混和性の有機溶媒との混合物は、この目的のための溶媒として使用される。有機溶媒は、水と完全に混和されることが好ましく、故に、多面的なシステムなしに形成される。有機溶媒は、純粋な化合物や有機溶媒の多数の混合物のどちらかである。単純さのために、単一の有機溶媒のみ使用されることが好ましい。少なくとも1つの活性金属化合物と少なくとも1つのプロモーター金属化合物は、溶媒混合物中に溶液として存在する。何らかの方法で含浸溶液の準備が実施される。従って、少なくとも1つの活性金属化合物や少なくとも1つの活性プロモーター金属化合物を水中で溶解し、他の化合物を有機溶媒中でその都度溶解し、その後、その2つの溶液を混合することが可能である。しかしながら、最初に、溶媒混合物を準備し、その後、少なくとも1つの活性金属化合物及び少なくとも1つの活性プロモーター金属化合物をこれに溶解することも可能である。その溶解のためには、溶媒は、略室温である。しかしながら、溶解プロセスを促進するために溶媒を加温することも可能である。少なくとも1つの活性金属化合物や少なくとも1つのプロモーター金属化合物の非常に濃縮された溶液が得られるように、有機溶媒、少なくとも1つの活性金属化合物、及び、少なくとも1つのプロモーター金属化合物が選択されることが好ましい。
【0017】
少なくとも1つの活性金属化合物及び少なくとも1つのプロモーター金属化合物としては、空気中で加温されることによって対応する酸化物に変換される化合物を選択することが好ましい。適当な活性金属又はプロモーター金属の化合物は、例えば、炭酸塩、炭酸水素、硝酸塩、酢酸のような有機酸の塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、又は、アセチルアセトンである。活性金属又はプロモーター金属の陰イオン塩は、非常に濃縮された含浸溶液が作製されるように、選択されることが好ましい。プロモーター金属として適当な銀化合物は、例えば、硝酸銀である。活性金属化合物として適当なパラジウム化合物は、例えば、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトネート、クエン酸パラジウム、酸化パラジウム、又は、これらの混合物である。
【0018】
更に、担体が提供される。本発明の広範な側面によれば、個体担体が使用される。アセチレン系化合物の選択的な水素化のための触媒の製造で知られている通例の担体を使用することが好ましい。好ましい実施形態としては、担体は、多孔質の担体や経路を有する担体である。担体は、含浸される(多孔質の)被覆を有する非多孔質の素材で大部分が又は全体が構成される。従って、本発明の文脈で使用される「担体」という用語は、被覆及び被覆された素材を含む。適当な担体は、例えば、Al23(好ましくは、α−Al23)白土、ケイ酸アルミニウム、SiO2、ZrO2、TiO2、SiC、ZnO、又は、それらの混合物(Al23が好ましくは含まれるもの)である。担体は、1〜60m2/g、好ましくは、3〜35m2/gの特定の表面積を有することが好ましい。担体の細孔容積は、好ましくは、0.1〜1.5ml/g、特に好ましくは、0.2〜1.0ml/gである。担体の細孔直径の平均は、好ましくは、10〜300A、特に好ましくは、30〜200Aである。担体の細孔直径の平均は、好ましくは、10〜300A、特に好ましくは、30〜200Aである。被覆された担体の場合、特定の表面積及び細孔率に対する上記の数値は、被覆に関連する。
【0019】
担体は、様々な形態を有する。担体は、成形体や被覆(上記参照)の形態で提供されることが特に好ましい。原則として、成形体の形状は、自由に選択される。好ましい実施形態によると、適当な形状は、例えば、タブレット状やペレット状である。可能な実施形態の1つでは、被覆される素材は、0.01〜15mm2の断面積を有する様々な形状(例えば、高温でか焼されたリング状のセラミックなど)で構成される。担体は、適当な場合、通例の結合剤や細孔成形体のような添加物を更に含む。ここでは、当業者がそのような成形体を製造するための知識に頼る。
【0020】
担体は、その後、含浸溶液によって含浸される。当業者によって知られている技術は、この目的のために使用される。担体は、含浸溶液中に浸漬される。担体の細孔容積に略対応する容積の溶媒中で、少なくとも1つの活性金属化合物及び少なくとも1つのプロモーター金属化合物が溶解される「incipient wetness」方法が、ここでは採用されることが好ましい。細孔容積は、完全に利用されなくてもよい。例えば、担体の細孔容積の80〜90%だけ利用することも可能である。しかしながら、少なくとも1つの活性金属化合物及び少なくとも1つのプロモーター金属化合物は、担体の細孔容積以上の容積の溶媒(過剰な含浸溶液は、排出されるか、蒸発される)中でも溶解される。しかしながら、例えば、担体上に含浸溶液を噴霧することも可能である(噴霧の間、担体の運動が保たれることが好ましい)。初めに、アルカリ性溶液(例えば、アルカリ金属の水酸化物溶液(例えば、NaOH、及び、少なくとも1つの活性金属化合物やプロモーター金属化合物が水酸化物の形態で沈殿する前処理された担体に塗布される含浸溶液))によって、担体を含浸することも可能である。含浸は、活性金属化合物及びプロモーター金属化合物の両方が担体の薄い外殻中で濃縮されるように、実施されることが好ましい。
【0021】
特に好ましい実施形態では、担体(例えば、タブレット状やペレット状)は、溶液の噴霧の間、運動が保たれ、同時に、ガスの流れによって乾燥される。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によると、被覆の場合、層厚みは、被覆によって規定される。含浸溶液が存在する経路を通過して含浸されるか、又は、別に構成されて被覆された担体が噴霧によって含浸されるかである。
【0023】
含浸された担体は、乾燥されることが好ましい。乾燥は、含浸後に行なわれるか、含浸の間に実施されることが好ましい。含浸の間の乾燥は、好ましくは、薄い殻が得られた後であることが好ましい。乾燥は、通例の方法(例えば、オーブンで含浸された担体を乾燥すること)によって実施される。乾燥は、ガスの流れ中で含浸された担体を乾燥することによって実施されることが好ましく、含浸された担体は、運動が保たれていることが好ましい。空気は、乾燥のためのガスとして使用される。しかしながら、少なくとも1つの活性金属化合物やプロモーター金属化合物の早期の酸化が防止され、少なくとも1つの活性金属化合物やプロモーター金属化合物の担体への均一な塗布が得られるように、不活性ガス(例えば、窒素)の流れを使用することが好ましい。乾燥は、少なくとも1つの活性金属化合物やプロモーター金属化合物の分解がこの段階では生じないように、室温で実施されることが好ましい。乾燥で使用される温度は、好ましくは、15〜120℃、特に好ましくは、25〜100℃である。
【0024】
乾燥後、担体上に少なくとも1つの活性金属化合物やプロモーター金属化合物を固定するために、含浸された担体は、その後、か焼されることが好ましい。か焼は、通例の装置(例えば、ロータリーチューブ加熱炉のような加熱炉)中で実施される。か焼の間、200℃以上の温度に設定されることが好ましい。しかしながら、選択された温度は、例えば、担体の表面上の還元された金属粒子の溶着が回避されるように、高すぎないことが好ましい。か焼は、酸素含有雰囲気中(特に好ましくは、空気の存在中)で実施されることが好ましい。しかしながら、不活性ガス雰囲気下で、か焼が完全に、又は、部分的に実施されることも可能である。例えば、か焼は、最初に不活性ガス雰囲気下で実施され、その後空気の存在中で実施されてもよい。か焼が実施される時間は、か焼される触媒量、及び、か焼温度に依存し、しかるべきテストによって当業者により決定される。か焼時間は、好ましくは、1〜20時間、特に好ましくは、2〜10時間である。
【0025】
活性金属化合物としては、周期表の8属の元素(好ましくは、ルセニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金)の化合物を使用することができる。パラジウムが特に好ましい。
【0026】
プロモーター金属化合物としては、周期表の1B属の元素(即ち、銅、銀及び金、特に好ましくは、銀)の化合物を使用することができる。好ましい実施形態では、銀が部分的に又は完全に金によって置換される。
【0027】
本発明の方法の好ましい実施形態では、プロモーター金属化合物(好ましくは、銀化合物)を水中で溶解することで少なくとも1つの第1溶液を作製すること、活性金属化合物(好ましくは、パラジウム化合物)を有機溶媒中で溶解することで第2溶液を作製すること、及び、少なくとも第1溶液と第2溶液とを混ぜ合わせることによって、含浸溶液が作製される。非常に小さい直径を有する金属粒子がか焼及び還元の後に得られるこのような方法が見出された。
【0028】
上記に示されているように、水量及び有機溶媒量は、非常に濃縮された含浸溶液が得られるように選択されることが好ましい。しかしながら、触媒の活性は、有機溶媒の比率が小さ過ぎない場合に有効に影響される。層厚み(含浸溶液の浸透深さ)は、含水比によって調整される。溶液中により多くの水が存在すればするほど、層厚みは厚くなる。さらなる面において、本発明は、担体中への含浸溶液の浸透深さを設定する方法を提供する(含浸溶液は、ここで記述される有機溶媒及び水を含み、浸透深さは含浸溶液の含水比によって影響される)。
【0029】
好ましい実施形態では、含浸溶液中の少なくとも1つ有機溶媒に対する水の比率(v/v)は、9.95:0.55と0.05:9.99との間、好ましくは、0.1:9.9と2:8との間、特に好ましくは、0.1:9.9と1:9との間で選択される。
【0030】
さらに好ましい実施形態では、含浸溶液中の水の比率(水及び有機溶媒の総重量に基づくもの)は、0.05〜10重量%である。
【0031】
有機溶媒(乾燥やか焼によって担体から完全に除去される溶媒が好ましい)は、原則的には、自由に選択される。含浸溶液中の少なくとも1つの活性金属化合物及び少なくとも1つのプロモーター金属化合物の十分に高い濃度を得るために、特に好ましくは完全に水と混和できる極性の有機溶媒を使用することが好ましい。好ましくは、1〜5、特に好ましくは、1〜3の酸素原子を含む酸素含有溶媒を使用することが特に好ましい。これらの溶媒は、酸素に加えてさらにいくつかのヘテロ原子を含まず、その結果、炭素、水素及び酸素のみから構成されることが好ましい。
【0032】
少なくとも1つの有機溶媒は、ケトン、カルボン酸、カルボン酸エステル、アルコール及びエーテル(ケトン及びエーテルが特に好ましい)から成る群から選択されることが特に好ましい。有機溶媒として適当なケトンは、例えば、アセトンやエチルメチルケトンである。適当なカルボン酸は、例えば、蟻酸や酢酸、適当なカルボン酸エステルは、例えば、酢酸メチルである。アルコールとしては、一価又は多価アルコールを使用することが可能である。適当な一価アルコールは、例えば、エタノール及びブタノールである。適当な多価アルコールは、例えば、グリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールである。適当なエーテルは、例えば、ジイソプロピルエーテル及びテトラヒドロフラン(好ましくは、サイクリックエーテル)である。有機溶媒としては、アセトン及びテトラヒドロフランが特に好ましい。
【0033】
処理を簡単にするため、及び、有機溶媒が乾燥の間に簡単に除去されるのを可能にするために、少なくとも1つの有機溶媒は、大気圧で150℃未満、特に好ましくは、80℃未満の沸点を有することが好ましい。しかしながら、有機溶媒は、操作を補助するために、室温における過度に高い不安定さを有してはならない。少なくとも1つ有機溶媒は、大気圧で50℃未満の沸点を有することが好ましい。
【0034】
触媒の特性は、高すぎない温度でか焼が実施されたとき、有効に影響されることを見出した。低い温度での有機溶媒の燃焼は、不完全であり、その結果、炭素含有残留物が触媒上に残り、これらは、触媒を部分的に汚染し、それによって、触媒の選択性が増加すると、発明者は想定する。か焼のための温度は、好ましくは、400℃未満、より好ましくは、350℃未満、特に好ましくは、200〜300℃である。
【0035】
含浸溶液は、終了した触媒中で少なくとも1つの活性金属化合物及び少なくとも1つのプロモーター金属化合物に求められる比率に略対応するかこれと全く同一の比率で、少なくとも1つの活性金属化合物(好ましくは、少なくとも1つのパラジウム化合物)、少なくとも1つのプロモーター金属化合物(好ましくは、少なくとも1つの銀化合物)を含むことが好ましい。少なくとも1つのプロモーター金属化合物及び少なくとも1つの活性金属化合物は、含浸溶液中に、プロモーター金属/活性金属(Ag/Pd)のモル比で、1:1〜10:1の比率、好ましくは、1:1〜7:1の比率、特に好ましくは、1.5:1〜6:1の比率で存在する。
【0036】
含浸溶液中の少なくとも1つの活性金属化合物(好ましくは、パラジウム化合物)の濃度は、活性金属化合物(金属として算出され、担体又は被覆の重量に基づく)の量が0.001〜1重量%、好ましくは、0.005〜0.8重量%、特に好ましくは、0.01〜0.5重量%、となるように選択されることが好ましい。
【0037】
含浸溶液中の少なくとも1つのプロモーター金属化合物(好ましくは、銀化合物)の濃度は、プロモーター金属化合物(金属として算出され、担体又は含浸された被覆の重量に基づく)の量が0.001〜1重量%、好ましくは、0.005〜0.8重量%、特に好ましくは、0.01〜0.5重量%、となるように選択されることが好ましい。
【0038】
活性金属及びプロモーター金属を除いて、触媒は、さらに金属化合物を含む。ここでは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物が特に好ましい。アルカリ金属は、ナトリウム及びカリウムであることが好ましい。アルカリ土類金属は、マグネシウムであることが好ましい。さらに、これらの金属又は金属化合物は、少なくとも1つの活性金属化合物又は少なくとも1つのプロモーター金属化合物と共に同時に、又は、別なステップで担体に塗布される。通例の方法(例えば、含浸方法)は、担体にさらに金属又は金属化合物を塗布するために使用される。金属化合物としては、空気中でのか焼によって金属の酸化物に変換された化合物を使用することが適当である。適当な化合物は、例えば、金属の硝酸塩、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、アセチルアセトン、シュウ酸塩又はクエン酸塩である。さらに、金属化合物(特に、アルカリ金属化合物)の量は、触媒が0.05〜0.2重量%の少なくとも1つのさらなる金属(酸化物として計算され、触媒の重量に基づく)を含むように選択される。少なくとも1つのさらなる金属の活性金属に対する原子比率は、好ましくは、2:1と20:1との間、より好ましくは、4:1〜15:1である。しかしながら、好ましい実施形態では、触媒は、活性金属及びプロモーター金属を除いて、さらなる金属を含まない。
【0039】
本発明の方法は、選択性が高いまま残っている(即ち、エチレン系化合物の比率の減少が僅かである)比較的広い温度範囲を容認する炭化水素流体中でアセチレン系化合物の選択的な水素化のための触媒につながり、問題となるプラントの生産性を維持するために必要である触媒の再生までの長い動作期間を許容する。
【0040】
従って、本発明は、例えば、上述の方法によって得られる、炭化水素流体中でのアセチレン系化合物の選択的な水素化のための触媒も提供する。触媒は、担体、及び、少なくとも活性金属、及び、担体上に配置された銀を構成する活性金属の粒子から構成され、6nm未満の直径を有する活性素材の粒子で少なくとも90%が構成される。
【0041】
好ましい実施形態では、活性素材の粒子の少なくとも75%、好ましくは、少なくとも80%、特に好ましくは、少なくとも85%、さらに好ましくは、少なくとも90%が活性金属及びプロモーター金属の両方を含む合金によって作製される。
【0042】
本発明は、高い選択性を備える触媒の高い活性は、殻中の活性成分の特定の分布や、触媒の活性に有利な作用を有する活性素材の粒子の殻サイズ(拡散制御反応のために利用可能な大きな触媒表面積をもたらす)によって、特に有利に働くことを想定する。
【0043】
活性金属及びプロモーター金属を除いて、触媒は、さらなる金属又は金属化合物も含む。適当な金属化合物は、例えば、ナトリウム化合物又はカリウム化合物のようなアルカリ金属化合物である。さらなる金属のこれらの化合物は、担体上にそれらの酸化物の形態で存在することが好ましい。
【0044】
粒子サイズ及び活性金属の粒子サイズの分布は、例えば、活性金属の粒子の数量及びサイズが決定される「lacuna」によって、決定され、対応値は、統計的に評価される。少なくとも150の粒子は、×15000の拡大で電子顕微鏡写真の補助で評価される。粒径は、電子顕微鏡写真で、粒子の目に見える最も長い寸法として得られる。
【0045】
触媒の活性素材の粒子は、好ましくは、5.5nm未満、特に好ましくは、4.5nm未満の平均粒径(非加重算術平均)を有する。
【0046】
合金から形成され、活性金属及びプロモーター金属の両方を含む粒子の比率は、活性金属としてパラジウム、プロモーター金属として銀の場合、活性素材の粒子の表面上の一酸化炭素の吸着と吸着結合の強度の評価とによって決定される。パラジウム上に吸着された一酸化炭素は、表面に対するCOの配位の異なるタイプが割り当てられた特徴的な結合を示す。最密充填球のモデルから表面CO分子への進行は、抑制され、CO分子は、単一のパラジウム原子に固められ(TOP)、2つのパラジウム原子に架橋され(bridge)、又は、3つのパラジウム原子に架橋される(hollow)。一酸化炭素は、3つのパラジウム原子上に吸着される(例えば、パラジウム原子の最密充填中のギャップに位置される)ことが好ましい。高い度合の被覆率でのみ、有効でない位置(top及びbridge)に占有される。銀原子がパラジウムに引き渡される場合、COが3つのパラジウム原子の間のギャップに配位する僅かな位置は、利用可能であり、故に、銀含有量が増加するにつれて、COがただ1つのパラジウム原子(top)に配位されるその位置が好ましくなる。活性素材の粒子の被覆率が一定の度合において、ギャップ(hollow)に、又は、単一のパラジウム原子(top)上に吸着が割り当てられた結合の強度の比率は、変化する。逆に言えば、強度の比率から合金化の度合に関する結論を引き出すことが可能である。その上、単一のパラジウム原子におけるCO分子の吸着がよく見られる波数は、合金化の度合の関数として変化する。純パラジウムの場合、パラジウム原子(top)におけるCO分子の吸着のための結合は、2070〜2065cm-1で見られる。合金化の度合の増加に伴って、2055〜2050cm-1の幅の波数への変化が見られる。
【0047】
本発明の触媒では、活性金属及びプロモーター金属の両方が非常に薄い殻中で濃縮されることが好ましい。好ましい実施形態では、活性金属の少なくとも90重量%は、250μm以下、好ましくは、200μm以下、特に好ましくは、150μm以下の担体(又は被覆)の外側表面からの層厚みを有する担体の殻中に存在する。本発明のさらなる実施形態では、プロモーター金属は、同じ方法で分散される。本発明は、触媒中へ拡散する分子(例えば、アセチレンやエチレン)が非常に短時間で活性素材に接触した状態となるので、触媒の高い選択性が非常に薄い殻と活性化合物の特定の分布の結果として得られることを想定する。
【0048】
活性素材(例えば、活性金属及びプロモーター金属)によって形成された殻の中では、好ましくは、パラジウム、銀、活性金属が殻の外側表面区域において、非常に明確な最大濃度を有することが好ましい。言い換えれば、本発明の特に好ましい実施形態によると、活性金属及び好ましくは、プロモーター金属の最高濃度は、担体(又は、被覆)の表面(外側表面)の80μm以内、好ましくは60μm以内、特に50μm以内にある。最高濃度は、担体(又は、被覆)の表面に直接にあり、担体(又は、被覆)の内部方向に向かって減少する。
【0049】
上述の方法は、活性金属及びプロモーター金属の両方を担体素材中の非常に薄い殻内で濃縮することが可能である。本発明の触媒では、担体の容積内の活性金属及びプロモーター金属は、担体の外側表面区域(上記参照)で、共に最高濃度を形成することが好ましい。
【0050】
特に好ましい実施形態では、活性素材、特に活性金属(例えば、パラジウム)及び好ましくは、プロモーター金属(例えば、銀)の粒子サイズ分布は、最大4nm未満の半値幅を有する。半値幅は、粒子サイズ分布中の最高値を有する曲線を得るために、粒子の直径に対するそれらの数をプロットすることで決定される。その結果、半値幅は、ゼロから測定して、高さの50%での最高値のピークの幅に対応する。
【0051】
活性金属及びプロモーター金属の担体中での分布は、触媒の区域を準備すること(例えば、担体の研磨や磨き上げ)によって決定される。活性金属やプロモーター金属の空間的な分布は、電子顕微鏡の下でのWDX分光法(波長分散X線回析)によって決定される。ここでは、活性金属(好ましくは、パラジウム、又は、プロモーター金属、好ましくは、銀)に対して感度がよい測定ヘッドは、その領域の上の金属の分布が決定されるように、試験片の上に移動される。
【0052】
電子マイクロプローブは、走査型電子顕微鏡(SEM)と蛍光X線分光計の複合である。精細にフォーカスされた電子ビームは、試験片に衝突する。SEMの場合、このビームは、試験片を画像化するために使用される。実験者は、測定を望む場所の試験片の拡大された二次的な電子画像を作製する(加えて、Jeolプローブは、×500の拡大を有する光光学画像を作製するカメラを有する)。この場所では、存在する要素が特定され、質量によってそれらの濃度が決定される。要素の特定及び濃度の決定は、下記のようにして実施される。電子ビームが試験片に測定位置で衝突し、素材に入り込む。入り込む深さは、1〜3μmオーダーであり、電子ビームの励起電圧を変更することによって、変えられる(励起電圧が高いほど、入り込む深さが深くなる)。試験片に入った電子は、試験片の原子と相互作用する。ここでは、電子は、減速され、電子ビームの励起電圧によって上限が決定される連続的な減速スペクトルが放射される。加えて、後述のプロセスが生じる。
電子は、原子の電子殻の電子外側を叩く。結果として、殻に穴が形成され(ボーア模型に関して)、これは、より高い殻からの電子によってすぐに置換される。そのプロセスでは、電子は、2つの殻のエネルギー差に対応するエネルギーを有するX線フォトンを放射する。放射されたフォトンは、電子殻からの電子によって吸収され、この電子は、「オージェ電子」として殻から離れるか、電子殻から離れて、試験片から放射される。この方法によって形成され、試験片から放射されたX線フォトンの全体は、不連続なエネルギーを有するラインから成る「固有X線スペクトル」を形成する。電子のエネルギーレベルは、互いに固有であり、固有のラインのエネルギーは、試験片中に存在する要素を決定することが可能である。加えて、存在する要素の濃度は、そのラインの強度から決定される。
【0053】
要素の特定及びそれらの濃度の決定を実施するために、試験片から等方的に放射されるX線放射線を解析する。
【0054】
これは、波長分散解析(WDX)(細いビームが分光計の検光子結晶に衝突するように、開口部によって放射されるX線放射線から細いビームが選ばれる)によって実施される。入射する放射線と相対的なこの結晶の方向性により、固定された波長が表面(Bragg状態)から反射され、反射されたビームが検出器(ガスフロー計測器、シンチレーション計測器)によって記録される。
【0055】
触媒は、触媒又は被覆の重量に基づく活性金属(特に好ましくは、パラジウム)を、好ましくは、0.001〜1重量%、より好ましくは、0.01〜0.8重量%、含む。
【0056】
触媒は、触媒又は被覆の重量に基づくプロモーター金属(特に好ましくは、銀)を、好ましくは、0.001〜1重量%、より好ましくは、0.01〜0.8重量%、含む。
【0057】
触媒は、全ての通例の担体素材のうちから選択される多孔質の無機担体から構成される。無機担体素材は、ケイ酸アルミニウム、SiO2、Al23、ゼオライト、珪藻土、TiO2、ZrO2、ZnO、SiC、及び、それらの混合物から成る群から選択されることが好ましい。原則的には、ここで述べられた担体素材のみならず全ての化学的に不活性なものも、研磨耐久性及び熱耐久性の担体素材も適当である。
【0058】
無機担体素材として、Al23、特に好ましくは、α−Al23を使用することが好ましい。
【0059】
触媒は、1〜80m2/g、好ましくは、2〜45m2/gのBET法による特定の表面積を有することが好ましい。
【0060】
その上、触媒は、パラジウムに基づく、1000〜5000μmol/gのCO吸着を有することが好ましい。CO吸着を測定する方法は、下記の通りである。
【0061】
原則的には、触媒は、好ましくは、成形体の形態(又は、被覆(上記参照))で、様々な形態で提供される。当業者に知られている全ての形状(例えば、球状、筒状、タブレット状、星形状、対応する中空の成形体)が使用可能である。被覆の場合、適当な形状は、例えば、高密度にか焼された全てのセラミック担体や、いくつかの形状の経路を有する金属性の担体や高密度にか焼された成形体(例えば、リング状)である。活性素材の層が非常に精密に形成されてから、成形体は、球状又はタブレット状として構成されることが好ましい。成形体のサイズは、それぞれのプロセス状態の関数として変化し、当業者によって容易に適合される。使用される成形体は、均一な形状を有するか、様々な形状の混合物として存在する。
【0062】
活性素材の最大の層、又は、活性金属及びプロモーター金属を含む含浸溶液の最大の浸透深さは、これによって決定される。
【0063】
成形体の寸法は、そのような塗布に対して適当な範囲で選択される。適当な成形体は、例えば、1〜20mm、好ましくは、2〜15mmの直径を有する球状、又は、1〜20mm、好ましくは、2〜15mmの直径及び高さを有するタブレット状である。
【0064】
周期表の1B属の元素(特に、銀)からのプロモーター金属を除いて、触媒は、さらなるプロモーターも含む。さらなるプロモーターは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物から成る群から選択されることが好ましい。
【0065】
本発明の触媒は、炭化水素流体中におけるアセチレン系化合物の水素化で高い活性及び選択性を有する。その結果、本発明は、1つの態様として、炭化水素流体中におけるアセチレン系化合物の選択的な水素化のための上述の触媒の使用も提供する。しかしながら、本発明の触媒の他の使用は、本発明によって包含される。特に、他の選択的な水素化、例えば、ジエンの水素化である。
【0066】
本発明の触媒は、2〜5の炭素原子を有するアルキン及びジエンの選択的な水素化に(特に、分解によって得られる炭化水素の混合物の中で)特に適当である。水素化は、気相中、又は、気液の混合相中で実施される。そのようなプロセスは、それ自体が当業者に知られている。反応パラメーター(例えば、炭化水素の処理能力、温度及び圧力)は、知られているプロセスに類似の方法から選択される。
【0067】
触媒は、エチレン流体中のアセチレン(C2)、及び、プロピレン流体中のプロピン(C3)の選択的な水素化に特に適当である。
【0068】
水素は、0.8〜5倍、好ましくは、0.95〜2倍の量(化学量論的反応に対して必要とされる量)で適当に使用される。水素化プロセスは、単一段階で、又は、多数の段階で実施される。
【0069】
C2流体中でのアセチレンのエチレンへの選択的な水素化では、例えば、500〜10000m3/m3の触媒容積、0〜250℃の温度、0.01〜50barの圧力に基づくC2流体の空間速度に設定することが可能である。
【0070】
C3流体中でのプロピンの選択的な水素化では、選択的な水素化が気相プロセスとして実施されるとき、アセチレンの選択的な水素化で使用されるそれらに対する類似のパラメーターが設定される。気液の混合相を使用して実施されるプロセスの場合、空間速度は、1〜50m3/m3であることが適当である。
【0071】
本発明は、以下で使用される試験方法、例、図表を参照して説明される。これらは、説明の目的のためにのみ使用され、決して本発明を限定するものではない
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】COが吸着された異なるAg/Pd比率を有する触媒のサンプルにおける各種のIRスペクトル。
【図2】本発明による2つの触媒及び比較触媒に対する活性素材の粒子のサイズ分布。
【図3】本発明による触媒の波長分散X線スペクトル(WDX)。
【発明を実施するための形態】
【0073】
1.試験方法
1.1.活性素材の粒子のサイズ分布の決定
【0074】
粒子サイズ分布の決定は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって実施される。初めにサンプルを還元する。この目的のために、酸化形態の触媒のサンプルをヘリウム下で80℃で加熱し、30分間乾燥する。水素の流れ(10 ml/min)の中で、1時間この温度でサンプルを還元する。この方法で得られたサンプルを電子顕微鏡へ直接移動する。この目的のために、サンプルを超音波で処理し、引き離された粒子をグリッド上に集める。7つの画像をその都度粒子解析に使用する。活性素材の粒子と担体素材との間のコントラストの差異に応じて、コマーシャル画像処理ソフトウェアによって画像を強調する。これは、粒子数及び粒子サイズに影響するものではない。粒子数及び粒子サイズを1nmの間隔で数え/測定する。少なくとも150粒子を×150000の拡大で測定する(上記参照)。
【0075】
1.2.波長分散X線回析(WDX)による電子マイクロプローブ
【0076】
初めに触媒を樹脂中に埋め込み、その後、測定を実施する位置へ配置する。100〜4000(最低でも4000)のメッシュサイズを有する炭化ケイ素ディスク及び潤滑剤としてのイソプロパノールをこの目的のために使用する。
【0077】
触媒における測定を実施する方法によるJeolのJXA8900は、ソフトウェアの制御下で変更される2つの異なる分析器を有する5つの波長分散分光計である。これは、同時に最大5つのX線ラインを測定することが可能である。同時測定は、X線ラインが試験片上の同じ位置から実際に来ることを裏付ける。
【0078】
触媒の測定では、Pd Lα1線、Ag Lβ1線、Al Kα線、O Kα線、及び、C Kα線を同時に測定することが可能である。
【0079】
測定のためのビームパラメーターは、以下の通りである。
ビーム電圧:20kv
ビーム電流:20nA
測定時間
ピーク位置:300s
バックグラウンド:150s(2つのバックグラウンド位置で、その都度測定を実施する)
【0080】
他の要素対しては、対応する利用可能なラインを測定に使用する。
【0081】
1.3.CO吸着
【0082】
CO吸着を決定するために、初めにサンプルを、有機性の不純物を除去するために、サンプルチャンバー内で1時間、80%のN2と20%のO2との混合物中で400℃で酸化させる。その後、サンプルを純水なN2と最初に30分間接触させ、そして、同じ温度で1時間水素の流れ(40ml/min)中で還元する。この方法で作製されたサンプルをCOと反応させる。この目的のために、COの5つのパルス(15mbar)をサンプルチャンバー内へ導入し、15分後、チャンバーを水素と接触させる。サンプルを400℃の水素雰囲気下に30分間保持する。吸着されたCOは、メタンを形成するために、水素と適量で反応する。形成されるメタンの量は、FIDによって決定される。
【0083】
1.4.Pd/Ag合金の比率の決定
【0084】
Pd/Ag合金の比率の決定は、触媒表面へのCOの結合タイプの測定によって実施される。サンプルの準備は、CO吸着の測定における類似の方法(結合されたCOのメタンへの減少を伴わない方法)で実施される。測定チャンバーへのCOの導入の後、サンプルを60分間で室温まで冷却する。その後、COが吸着した触媒サンプルをIR分光計で測定する。IR透過スペクトルで観測されたピークをパラジウム層へのCO分子の様々な結合状態に当てはめる。純パラジウム表面の場合、CO分子の直線的な結合(直線的な、「TOP」(l))に対する最大ピークは、2065〜2070cm-1であり、橋架け的な結合(bridge(edge)b(e))に対するそれは、1950〜1965cm-1であり、複合的な橋架け(hollow(h))の場合には、約1910cm-1である。銀を含む合金の場合、ピークは相応に変化する。パラジウムサンプルの波長、銀及びパラジウムを含むサンプルの波長における「TOP」のピーク比率、及び、面積比率l/((h+b(e))から、合金化の度合を決定することが可能である。合金の構成は、それぞれのピーク面積l/((h+b(e))の相対的な比率から推定され、この比率が大きいほど、合金化された金属の割合が高くなる。
【0085】
銀を含む合金の場合、ピークの位置に特徴的な変化がある。合金化の度合は、純パラジウムサンプルの波長、及び、銀及びパラジウムを含むサンプルの波長における、直線的に結合されたCOに対するピーク面積から決定される。この目的のために、「on top」ピークの総面積へのそれぞれのピークの貢献が決定される。
【0086】
図1は、一例として、COが吸着された異なるAg/Pd比率を有する触媒サンプルのIRスペクトルを示す。純Pd触媒と比較して、直線的に結合されたCOの割合は、両方の2つの金属から成るサンプルのために増加されることが明らかである。これは、より高い金属充填を有するサンプルの場合(青色曲線)に、特に明白である。これは、COの吸着のために利用可能であるより少ないhollow site及びbridge site(3又は2の連続的な表面Pd原子)で、銀との合金化が生じるための結果であると考えられる。その結果、2つの金属から成る触媒におけるCOの吸着は、孤立した表面Pd原子上で直線的な形状中で主に起こる。
【0087】
1.5.特定の表面積(BET)
【0088】
表面積の決定は、DIN66131に基づくBET法(BET法は、J.Am.Chem.Soc.60,309(1938)で公開されている)によって実施される。
【0089】
2.試験例
2.1.本発明による触媒(A)の製造
【0090】
8.0重量%の硝酸銀水溶液の3mlを0.5lのガラスフラスコに入れ、0.069重量%の酢酸パラジウムのアセトン溶液の390mlと混合する。混合物を室温で10分間撹拌する。得られた溶液を2×4mmの外形寸法を有する500gのタブレット状の酸化アルミニウムへ、ボールコーターによって塗布する。被覆された担体を窒素の流れの下で80℃で1時間乾燥し、その後、空気中で3時間300℃でか焼する。触媒Aは、PdのCO/gの3600μmolのCO吸着を有する。
【0091】
2.2.本発明による触媒(B)の製造
【0092】
0.069重量%の酢酸パラジウムのアセトン溶液の390mlを蒸留水の12mlと室温で混合し、10分間撹拌した。その溶液を2×4mmの外形寸法を有する500gのタブレット状の酸化アルミニウムへ、ボールコーターによって塗布する。被覆された担体を窒素の流れの下で80℃で1時間乾燥し、その後、空気中で3時間300℃でか焼する。触媒Bは、PdのCO/gの7400μmolのCO吸着を有する。
【0093】
2.3.本発明による触媒(C)の製造
【0094】
32.2重量%の硝酸銀水溶液の4mlを0.5lのガラスフラスコに入れ、0.08重量%の酢酸パラジウムのアセトン溶液の570mlと混合する。混合物を室温で10分間撹拌する。得られた溶液を2〜4mmの直径を有する500gの球状の酸化アルミニウムへ、ボールコーターによって塗布する。被覆された担体を窒素の流れの下で80℃で1時間乾燥し、その後、空気中で3時間300℃でか焼する。触媒Cは、PdのCO/gの2200μmolのCO吸着を有する。
【0095】
2.4.比較触媒(D)の製造
【0096】
硝酸パラジウム(0.072重量%)及び硝酸銀(0.08重量%)を含む溶液の150mlを2×4mmの外形寸法を有する250gのタブレット状の酸化アルミニウムへ、ボールコーターによって塗布する。その後、その担体を試験例2.1.のように乾燥し、か焼する(即ち、被覆された担体を窒素の流れの下で80℃で1時間乾燥し、その後、3時間300℃でか焼する)。触媒Dは、PdのCO/gの700μmolのCO吸着を有する。
【0097】
2.5.比較触媒(E)の製造
【0098】
硝酸パラジウム(0.072重量%)を含む溶液の150mlを2×4mmの外形寸法を有する250gのタブレット状の酸化アルミニウムへ、ボールコーターによって塗布する。被覆された担体を窒素の流れの下で80℃で1時間乾燥し、その後、3時間300℃でか焼する。
【0099】
2.6.比較触媒(F)の製造
【0100】
この試験例は、EP0780155の試験例1に基づいて実施される。硝酸パラジウム(0.09重量%)及び硝酸銀(0.135重量%)を含む硝酸溶液の150mlを2×4mmの外形寸法を有する250gのタブレット状の酸化アルミニウムへ噴霧する。被覆された担体を120℃で1時間乾燥し、その後、空気中で3時間750℃でか焼する。
【0101】
2.7.粒子サイズ分布の比較
【0102】
図2に示すように、タブレット状(試験例2.1.)の担体素材及び球状の担体素材(試験例2.3.)の両方における本発明による触媒は、約3.5nmが最大となる狭い粒子サイズ分布を有する。比較触媒D(試験例2.4.)は、非常に広い粒子サイズ分布と、約5.5nmの極大のみを有する。その結果、本発明による触媒は、より正確に定義されて狭いサイズ分布で存在する。これは、本発明による触媒がアセチレン系炭化水素の水素化で使用されるとき、一定の特性を保証する。加えて、狭い粒子サイズ分布は、温度窓(ΔT)が広いほど、選択性がより高くなり、Pd/Agを含む2つの金属からなる触媒(EP0780155の試験例1の説明で製造された触媒)と比較される寿命がより長くなる。
【0103】
2.8.オペレーティング温度窓及び選択性の決定
【0104】
触媒の25mlを熱したチューブ状の反応装置へ導入し、7000h-1のGHSV及び500psigの圧力で試験する。初めに、触媒を水素中において94℃で1時間還元し、その後、試験を開始する。
【0105】
未加工ガスの構成は、C22が1500ppm、COが300ppm、H2が20%、C26が85ppm、C24が45%、残りがCH4である。
【0106】
温度は、clean−up温度に達するまで増加する。clean−up温度は、25ppm未満のC22濃度をガス中で測定する排気口での温度である。
【0107】
その後、温度は、runaway温度へ、3℃ずつ増加する。runaway温度は、熱の放出が生じ、水素消費が4%より大きくなる温度として定義される。
【0108】
変換は、下記の式から算出される。

22変換=(吸気口でのC22のppm−排気口でのC22のppm)/(吸気口でのC22のppm)
【0109】
選択性は、下記の式から算出される。

22選択性=(吸気口でのC22のppm−排気口でのC22のppm−排気口でのC26のppm+吸気口でのC26のppm)/(吸気口でのC22のppm)
【0110】
【表1】

【0111】
2.9.触媒粒子中の接触活性要素の分布
【0112】
図3は、触媒の殻中の接触活性要素パラジウム及び接触活性要素銀の分布を示す。
ここでは、要素パラジウム及び要素銀は、WDXスペクトルで見れられるように、触媒上に150μmの殻深さに両方存在している。殻の外側区域中の銀とパラジウムの高い濃縮は、触媒の性能における有利な効果を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に、炭化水素流体中でのアセチレン系化合物の選択的な還元のための触媒の製造方法であって、
・水と、有機溶媒として周期表元素の8族の元素の化合物から選択される少なくとも1つの活性金属化合物と周期表の1B族の元素の化合物から選択される少なくとも1つのプロモーター金属化合物とが溶解される少なくとも1つの水混和性の有機溶媒との混合物を含む含浸溶液を提供すること、
・担体を提供すること、
・含浸溶液を担体に含浸すること、
・含浸された担体をか焼すること、
から構成されることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項2】
少なくとも1つの活性金属化合物と少なくとも1つのプロモーター金属化合物とを使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのプロモーター金属化合物を水中で溶解することで少なくとも1つの第1溶液を作製すること、少なくとも1つの活性金属化合物を有機溶媒中で溶解することで第2溶液を作製すること、及び、少なくとも第1溶液と第2溶液とを混ぜ合わせることによって、含浸溶液が作製されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
含浸溶液中の少なくとも1つ有機溶媒に対する水の比率(v/v)は、9.95:0.55と0.05:9.99との間、好ましくは、0.1:9.9と2:8との間、特に好ましくは、0.1:9.9と1:9との間で選択されることを特徴とする上記何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの有機溶媒が酸素含有溶媒であることを特徴とする上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの有機溶媒がケトン、エステル、アルコール、及び、エーテルを含む群から選択されることを特徴とする上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの有機溶媒が大気圧で150℃未満の沸点を有することを特徴とする上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
含浸された担体のか焼は、400℃未満の温度で実施されることを特徴とする上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのプロモーター金属化合物及び少なくとも1つの活性金属化合物が、含浸溶液中に、モル比で1:1〜10:1の比率で含まれることを特徴とする上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
金属としてか焼され、担体又は被覆の重量と関連する活性金属化合物の量は、0.001〜1重量%の間から選択されることを特徴とする上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
金属としてか焼され、担体又は被覆の重量と関連するプロモーター金属化合物の量は、0.001〜1重量%の間から選択されることを特徴とする上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
活性金属化合物は、パラジウム化合物であることを特徴とする上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
プロモーター金属化合物は、銀化合物又は金化合物であることを特徴とする上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つのパラジウム化合物は、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトネート、クエン酸パラジウム、酸化パラジウム、及び、これらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
担体は、含浸の間、及び/又は、含浸後に乾燥されることを特徴とする上記請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
炭化水素流体中でのアセチレン系化合物の選択的な水素化のための触媒であって、担体と該担体上に活性素材の粒子とを有し、6nm未満の直径を有する活性素材の粒子で少なくとも90%が形成され、活性素材は、周期表元素の8族の元素から選択される少なくとも1つの活性金属と周期表元素の1B族の元素から選択される少なくとも1つのプロモーター金属とから構成されていることを特徴とする触媒。
【請求項17】
活性素材(特に、活性金属、及び、好ましくはプロモーター金属)の粒子は、5.5nm未満、特には、4.5nm未満の平均粒径を有することを特徴とする請求項16に記載の触媒。
【請求項18】
活性素材の少なくとも90%は、担体の外側表面から最大250μmの層厚みを有する殻中に存在することを特徴とする請求項16又は17に記載の触媒。
【請求項19】
活性素材(特に、活性金属、及び/又は、プロモーター金属)の粒子サイズ分布は、最大4nm未満の半値幅を有することを特徴とする請求項16〜18の何れか1項に記載の触媒。
【請求項20】
活性金属及び好ましくは、プロモーター金属の最高濃度は、担体(又は、被覆)の表面(外側表面)から80μm以内、好ましくは60μm以内、特に50μm以内に位置することを特徴とする請求項16〜19の何れか1項に記載の触媒。
【請求項21】
0.001〜1重量%の活性金属を含むことを特徴とする請求項16〜20の何れか1項に記載の触媒。
【請求項22】
0.001〜1重量%のプロモーター金属を含むことを特徴とする請求項16〜21の何れか1項に記載の触媒。
【請求項23】
1〜80m2/gのBET比表面積を有することを特徴とする請求項16〜22の何れか1項に記載の触媒。
【請求項24】
活性金属がパラジウムであることを特徴とする請求項16〜23の何れか1項に記載の触媒。
【請求項25】
少なくとも1000μmol/g、好ましくは、1000〜10000μmol/gのパラジウムに関するCO吸着を有することを特徴とする請求項16〜24の何れか1項に記載の触媒。
【請求項26】
炭化水素流体中のアセチレン系化合物の選択的な水素化のための、請求項16〜25の何れか1項に記載の触媒の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−527776(P2010−527776A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509739(P2010−509739)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004327
【国際公開番号】WO2008/145387
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(508131358)ズード−ケミー アーゲー (30)
【Fターム(参考)】