説明

アセテート系繊維材料用のケン化剤、アセテート系繊維材料のケン化加工方法およびケン化加工されたアセテート系繊維材料

【課題】水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の強アルカリ化合物のように危険性のあるものを用いることなく、アセテート系繊維材料のケン化を安全に、かつ、再現性よく行うことができるアセテート系繊維材料用のケン化剤、それを用いるアセテート系繊維材料のケン化加工方法、並びにケン化加工されたアセテート系繊維材料を提供する。
【解決手段】ケン化剤の有効成分として、塩酸グアニジンと弱酸のアルカリ金属塩とを用いるか、またはグアニジンの弱酸塩を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセテート系繊維材料のケン化剤、それを用いるアセテート系繊維材料のケン化加工方法、並びにケン化加工されたアセテート系繊維材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アセテート系繊維材料においては、繊維のアセチル化部分を加水分解することによってセルロース化(脱アセチル化)する、いわゆる「ケン化」加工が行われている。アセテート系繊維材料は、ケン化されることによって部分的に酢化度が異なるものとなるので、その酢化度の差異を利用した特殊加工を施すことが可能となる。
【0003】
そのような特殊加工としては、セルロース繊維が硫酸等によって分解されやすい性質を利用して、アセテート系繊維材料の酢化度の小さい部分、すなわちケン化された部分のみを硫酸等で分解して透視性模様を得る加工や、アセテート系繊維材料の酢化度の大きい部分、すなわちケン化されていない部分はアセテート系繊維用染料で染まりやすい一方でセルロース系繊維用染料では染まりにくく、また酢化度の小さい部分はアセテート系繊維用染料では染まりにくい一方でセルロース系繊維用染料では染まりやすいという性質を利用した異色染めの加工等が挙げられる。
【0004】
具体的には、特許文献1には、アセテート繊維を含む布帛を、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ化合物で処理することによって布帛表面をケン化した後、抜蝕剤を含む糊液を柄状に印捺し、熱処理を行って印捺部のケン化部分を分解除去し、次いで96℃以上の湿熱下で加熱することにより印捺柄部分に捲縮を発現させる、微細な捲縮を有するアセテート繊維系布帛の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、アセテート系繊維布帛に皺付け加工を施した後、水酸化ナトリウム等のアルカリで連続的にケン化処理し、その後に着色することによって、アセテート系繊維布帛の表面に酢化度の異なる部分が模様状に形成され、酢化度に応じて異色に着色された特殊模様を得る方法が開示されている。
【0006】
アセテート系繊維材料をケン化するには、従来、前述した通り、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等の強アルカリ化合物が用いられている。ケン化の方法は、通常、強アルカリ化合物を、加工に適した状態に調剤した後に、印捺あるいはパッド法等の方法によりアセテート系繊維材料に付着させ、次いで熱処理を行うものである。
【0007】
しかしながら、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等の強アルカリ化合物は、潮解性が高く、また空気中の二酸化炭素を吸収するため、ケン化剤中の有効濃度が容易に低下するという欠点を有する。そのため、調剤から、アセテート系繊維材料へ付着させて熱処理が完了するまでの、ケン化加工に要する時間や、湿度、熱処理の温度等の諸条件によって、ケン化の度合いが異なるという問題が生じている。同種の素材の繊維材料であっても加工毎にケン化の度合いが異なるだけでなく、同一の繊維材料上でさえも場所によってケン化の度合いが異なり、その後の特殊加工の仕上がりにも大きな問題が生じる。
【0008】
例えば、特許文献1においては得られる捲縮の程度が、また特許文献2においては異色の表現や色の濃淡が、再現性のないものとなり、安定した品質の繊維製品を製造することが難しい。そして、再現性のある加工を行おうとすれば、ケン化加工の所要時間や湿度、熱処理の温度等の条件を厳密に管理する必要がある等、大変な困難を伴う。
【0009】
さらに、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の強アルカリ化合物を使用するにあたっては、危険がないように、眼や皮膚等への付着を防止する等、作業の際に特段の注意を払う必要がある。
【0010】
【特許文献1】特開平7−82677号公報
【特許文献2】特開平5−321167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の強アルカリ化合物のように危険性のあるものを用いることなく、アセテート系繊維材料のケン化を安全に、かつ、再現性よく行うことができるアセテート系繊維材料用のケン化剤、それを用いるアセテート系繊維材料のケン化加工方法、並びにケン化加工されたアセテート系繊維材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ケン化剤の有効成分として、塩酸グアニジンと弱酸のアルカリ金属塩とを用いるか、またはグアニジンの弱酸塩を用いることにより、上記従来の課題を解決できることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)塩酸グアニジンと弱酸のアルカリ金属塩とを含有するか、またはグアニジンの弱酸塩を含有することを特徴とするアセテート系繊維材料用のケン化剤。
(2)上記(1)に記載のケン化剤を用いてアセテート系繊維材料をケン化することを特徴とするアセテート系繊維材料のケン化加工方法。
(3)アセテート系繊維材料が、アセテート繊維からなるか、またはアセテート繊維と他の繊維との複合繊維からなる繊維材料である、上記(2)に記載のケン化加工方法。
(4)上記(1)に記載のケン化剤を用いてケン化加工されたアセテート系繊維材料。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来ケン化の有効成分として多用されていた水酸化ナトリウム等の強アルカリ化合物を用いる必要がないので、作業上の安全性に優れたケン化加工を行うことができ、さらにケン化加工の所要時間等の条件に影響されない、再現性のあるケン化加工を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のアセテート系繊維材料用のケン化剤は、有効成分として、塩酸グアニジンと弱酸のアルカリ金属塩とを含有するか、またはグアニジンの弱酸塩を含有することを特徴とする。
【0016】
弱酸のアルカリ金属塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウムおよび重炭酸カリウムが挙げられる。塩酸グアニジンに対する弱酸のアルカリ金属塩の使用量は、塩酸グアニジン1モルに対して、弱酸のアルカリ金属塩が0.1〜2モルであることが好ましい。この使用量が0.1モルより少ない場合にはケン化の能力が弱くなる傾向にあり、一方2モルを超える場合にはケン化の能力は十分であるものの、ケン化剤の調剤、特に印捺糊への調製が困難となることがあり、加工方法によっては使用が困難となることがある。
【0017】
また、グアニジンの弱酸塩としては、炭酸グアニジン、重炭酸グアニジン等の炭酸塩、酢酸グアニジン等のカルボン酸塩等が挙げられる。これらのなかでも、水への溶解度が高いことから、ケン化剤の調剤、特に印捺糊への調製の容易さ、およびケン化の能力の観点から、炭酸グアニジンおよび酢酸グアニジンが好ましい。
【0018】
本発明のケン化剤は、前記の有効成分のみからなるものであってもよいし、前記の有効成分を溶剤(例えば、水、有機溶またはそれらの混合溶剤)に溶解または分散させたものであってもよい。さらに、本発明のケン化剤には、前記の有効成分のほかに、必要に応じて、界面活性剤、還元防止剤、金属イオン封鎖剤、増量剤、吸湿剤、浸透剤、電解質、油脂、蛍光増白剤、防腐剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の、通常の繊維加工に用いられる成分を適宜配合することができる。このような本発明のケン化剤における、前記の有効成分の含有量は0.1質量%以上であることが好ましい。
【0019】
次に、本発明のケン化加工方法について説明する。本発明のケン化加工方法は、前記のケン化剤を用いてアセテート系繊維材料をケン化することを特徴とする。
【0020】
本発明に用いられるアセテート系繊維材料の素材としては、特に制限されないが、アセテート繊維、およびアセテート繊維と他の繊維(例えば、綿、絹等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、ポリアミド繊維等の合成繊維等)との複合繊維等が挙げられる。なお、アセテート繊維は、ジアセテート繊維およびトリアセテート繊維のいずれでもよく、これらの複合繊維であってもよい。アセテート系繊維材料の形態も特に制限されず、織物、編物、不織布等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、アセテート系繊維材料におけるアセテート繊維の含有量は40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。アセテート繊維の含有量が40質量%未満であると、ケン化が不十分となるおそれがあり、その後の特殊加工において顕著な効果が得られないおそれがある。
【0022】
このようなアセテート系繊維材料に対し、本発明のケン化剤を用いてケン化加工を施すには、まずケン化剤をアセテート系繊維材料に付着させる。付着の方法には特に制限はなく、例えば、アセテート系繊維材料を全体的にケン化する場合にはパッド処理することができ、アセテート系繊維材料の表面もしくは裏面のみや、柄状のように部分的にケン化する場合にはオートスクリーン、ロータリースクリーン、ローラー、手捺染、インクジェット、ナイフコーター、ロールコーター、キスロールコーター、グラビアコーター等の任意の手法により塗布または印捺する方法やスプレーする方法等を挙げることができる。
【0023】
本発明のケン化剤は、そのまま用いてアセテート系繊維材料に付着させてもよいが、付着の方法に適した状態に適宜調整されてもよい。その状態は様々であり、例えば、パッド処理を行うには、ケン化剤を水または水と低級アルコール等の水系有機溶剤との混合溶媒に溶解または分散させて用いることができる。
【0024】
塗布または印捺の方法による場合には、ケン化剤に適当な増粘剤を添加したり、印捺に適する元糊と混合して糊ペースト状とすることができる。塗布による方法では、ケン化剤に発泡剤を混合して発泡させたものを用いることもできる。
【0025】
また、ケン化後の特殊加工が異色染めである場合等には、ケン化剤と、任意のセルロース繊維用染料(好ましくは、キノン系、キノフタロン系の直接染料や反応染料等)とを混合してもよい。
【0026】
ケン化剤の使用量は、ケン化の対象となるアセテート系繊維材料の素材および目標とするケン化の程度によって適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、調剤した処理液中に、塩酸グアニジンと弱酸のアルカリ金属塩との合計量、またはグアニジンの弱酸塩の合計量が0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜40質量%となるように配合されていればよく、この範囲で十分なケン化効果が得られる。
【0027】
前記の方法によりアセテート系繊維材料にケン化剤を付着させた後、熱処理を行うことによりケン化が施される。熱処理の前に、必要に応じて予備乾燥することもできる。
【0028】
熱処理の方法には特に制限がなく、繊維加工に採用される公知の方法を適宜採用することができる。例えば、乾熱処理であっても湿熱処理であってもよい。乾熱処理の方法としては、例えば、オーブンや乾燥機、熱プレス機を用いてベーキングを施す方法が挙げられ、湿熱処理の方法としては、例えば、HTスチーマーやHPスチーマー等を用いてスチーミングを施す方法等が挙げられる。
【0029】
熱処理の条件については、対象とするアセテート系繊維材料の素材によって適宜変更されるものであるため一概には言えないが、一般に90〜200℃、好ましくは100〜180℃の温度で、30秒〜30分間程度加熱する条件を採用することが好ましい。また、本発明においては、熱処理後のアセテート系繊維材料に、必要に応じて水洗、ソーピング等の後処理を施し、乾燥させてもよい。
【0030】
本発明の方法により得られるケン化されたアセテート系繊維材料には、ケン化された部分に前述のような異色染め、透視性模様の加工、捲縮の特殊加工等を行うことができる。この場合、本発明のケン化剤は、加工の所要時間等の条件により影響を受けないので、アセテート系繊維材料が再現性よくケン化され、特殊加工で得られる模様は品質が高く意匠性に優れたものとなる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
なお、下記の実施例および比較例で得られた加工布のケン化の程度は、以下の方法にしたがって評価した。
【0033】
すなわち、得られた加工布を、下記組成の染色浴にて浴比1:20、昇温速度2℃/分で、40℃から80℃になるまで昇温し、その後温度80℃で60分間の染色加工を行った。次いで、加工布を、下記組成のソーピング浴にて浴比1:20、温度90℃で20分間のソーピング処理を行った。
【0034】
染色浴の組成
反応染料(C.I.Reactive Red 220): 5%o.w.f.
芒硝 : 60g/L
ソーダ灰: 20g/L
ソーピング浴の組成
リポトールRK-90G(ソーピング剤、日華化学(株)製): 2g/L
この評価は、アセテート系繊維材料のケン化された部分がセルロース系繊維用染料で染まりやすい性質を利用した方法であり、加工部分が赤色に染色されていればケン化されていることを意味する。加工部分の均染性と濃色性とから、ケン化の程度を判断した。
【0035】
(1)均染性を、目視にて3段階に評価した。
【0036】
○: 均一に赤色に染色されている
△: 一部に染色ムラが見られる
×: 全面に染色ムラが見られる
(2)濃色性は、SPECTROPHOTOMETER CM−3700d(ミノルタ社製)を用いて、染着濃度(K/S値)を測色して評価した。なお、各実施例および比較例において、乾燥した直後に熱処理して得られた加工布のK/S値を100とした時の相対値で表した。
【0037】
実施例1
ニッカガムAL(アルギン酸ソーダ、日華化学(株)製)3g及び水57gを混合した元糊60gと、炭酸グアニジン10gを水30g中に溶解したもの40gとを混合し、ケン化加工用の印捺糊を調製した。
【0038】
この印捺糊を、柄状にジアセテート布(白布)上に印捺(印捺部における印捺糊の塗布量:600g/m)し、105℃で90秒間の条件で乾燥した。乾燥した直後(0時間とする)、および温度20℃、相対湿度65%の環境下で1時間、3時間、5時間または10時間放置した後の印捺布を、それぞれピンテンターを用いて170℃で2分間の乾熱処理を施し、その後、水洗し、湯洗し、再度水洗を行った後、乾燥させた。
【0039】
得られた加工布のケン化の程度を前記の方法により評価した。乾燥直後の印捺布を乾熱処理して得られた加工布は、加工部分がシャープに表現され、かつ均一に染色されていることから、ケン化が均一に行われていることが確認された。
【0040】
また、乾燥した後に放置した印捺布から得られた加工布は、乾燥直後の印捺布から得られた加工布と比較し、ケン化の程度に変化がなく良好であった。
【0041】
実施例2
実施例1で用いた印捺糊の代わりに、ニッカガム3A(加工澱粉、日華化学(株)製)6gおよび水54gを混合した元糊60gと、炭酸グアニジン10gを水30gに溶解したもの40gとを混合した印捺糊を用いた以外は、実施例1と同様にケン化した。
【0042】
得られた加工布のケン化の程度を前記の方法により評価した。乾燥直後の印捺布を乾熱処理して得られた加工布は、加工部分がシャープに表現され、かつ均一に染色されていることから、ケン化が均一に行われていることが確認された。
【0043】
また、乾燥した後に放置した印捺布から得られた加工布は、乾燥直後の印捺布から得られた加工布と比較し、ケン化の程度に変化がなく良好であった。
【0044】
実施例3
実施例1で用いた印捺糊の代わりに、ニッカガム3A(加工澱粉、日華化学(株)製)6gおよび水54gを混合した元糊60gと、酢酸グアニジン15gを水35gに溶解したもの40gとを混合した印捺糊を用い、ジアセテート布(白布)の代わりにトリアセテート布(白布)を用いた以外は、実施例1と同様にケン化した。
【0045】
得られた加工布のケン化の程度を前記の方法により評価した。乾燥直後の印捺布を乾熱処理して得られた加工布は、加工部分がシャープに表現され、かつ均一に染色されていることから、ケン化が均一に行われていることが確認された。
【0046】
また、乾燥した後に放置した印捺布から得られた加工布は、乾燥直後の印捺布から得られた加工布と比較し、ケン化の程度に変化がなく良好であった。
【0047】
実施例4
実施例3で用いた印捺糊の代わりに、ニッカガムAL(アルギン酸ソーダ、日華化学(株)製)3gおよび水57gを混合した元糊60gと、塩酸グアニジン(60質量%水溶液)20g、炭酸ナトリウム10g、水10gを混合したもの40gとを混合した印捺糊を用いた以外は、実施例3と同様にケン化した。
【0048】
得られた加工布のケン化の程度を前記の方法により評価した。乾燥直後の印捺布を乾熱処理して得られた加工布は、加工部分がシャープに表現され、かつ均一に染色されていることから、ケン化が均一に行われていることが確認された。
【0049】
また、乾燥した後に放置した印捺布から得られた加工布は、乾燥直後の印捺布から得られた加工布と比較し、ケン化の程度に変化がなく良好であった。
【0050】
実施例5
実施例3で用いた印捺糊の代わりに、ニッカガム3A(加工澱粉、日華化学(株)製)6gおよび水54gを混合した元糊60gと、塩酸グアニジン(60質量%水溶液)20g、炭酸ナトリウム10g及び水10gを混合したもの40gとを混合した印捺糊を用いた以外は実施例3と同様にケン化した。
【0051】
得られた加工布のケン化の程度を前記の方法により評価した。乾燥直後の印捺布を乾熱処理して得られた加工布は、加工部分がシャープに表現され、かつ均一に染色されていることから、ケン化が均一に行われていることが確認された。
【0052】
また、乾燥した後に放置した印捺布から得られた加工布は、乾燥直後の印捺布から得られた加工布と比較し、ケン化の程度に変化がなく良好であった。
【0053】
実施例6
実施例3で用いた印捺糊の代わりに、ニッカガム3A(加工澱粉、日華化学(株)製)6gおよび水54gを混合した元糊60gと、塩酸グアニジン(60質量%水溶液)20g、炭酸カリウム10gおよび水10gを混合したもの40gとを混合した印捺糊を用いた以外は、実施例3と同様にケン化した。
【0054】
得られた加工布のケン化の程度を前記の方法により評価した。乾燥直後の印捺布を乾熱処理して得られた加工布は、加工部分がシャープに表現され、かつ均一に染色されていることから、ケン化が均一に行われていることが確認された。
【0055】
また、乾燥した後に放置した印捺布から得られた加工布は、乾燥直後の印捺布から得られた加工布と比較し、ケン化の程度に変化がなく良好であった。
【0056】
実施例7
実施例3で用いた印捺糊の代わりに、ニッカガム3A(加工澱粉、日華化学(株)製)6gおよび水54gを混合した元糊60gと、塩酸グアニジン(60質量%水溶液)20g、重炭酸ナトリウム15g及び水5gを混合したもの40gとを混合した印捺糊を用いた以外は、実施例3と同様にケン化した。
【0057】
得られた加工布のケン化の程度を前記の方法により評価した。乾燥直後の印捺布を乾熱処理して得られた加工布は、加工部分がシャープに表現され、かつ均一に染色されていることから、ケン化が均一に行われていることが確認された。
【0058】
また、乾燥した後に放置した印捺布から得られた加工布は、乾燥直後の印捺布から得られた加工布と比較し、ケン化の程度に変化がなく良好であった。
【0059】
実施例8
実施例3で用いた印捺糊の代わりに、ニッカガム3A(加工澱粉、日華化学(株)製)6gおよび水54gを混合した元糊60gと、塩酸グアニジン(60質量%水溶液)20g、酢酸ナトリウム15g及び水5gを混合したもの40gとを混合した印捺糊を用いた以外は、実施例3と同様にケン化した。
【0060】
得られた加工布のケン化の程度を前記の方法により評価した。乾燥直後の印捺布を乾熱処理して得られた加工布は、加工部分がシャープに表現され、かつ均一に染色されていることから、ケン化が均一に行われていることが確認された。
【0061】
また、乾燥した後に放置した印捺布から得られた加工布は、乾燥直後の印捺布から得られた加工布と比較し、ケン化の程度に変化がなく良好であった。
【0062】
比較例1
炭酸グアニジン10gに代えて、48%水酸化ナトリウム水溶液15gを用いた以外は、実施例2と同様にしてケン化した。
【0063】
得られた加工布のケン化の程度を前記方法により評価した。この加工では、加工部分が柄状に赤色に染色されておりケン化されていることが確認された。しかし、印捺し、乾燥した後から乾熱処理までの放置時間が長くなるほど、加工部分の色の濃度が薄くなり、また均染性にバラツキが見られ、ケン化の程度が均一でないことが確認された。
【0064】
実施例および比較例で得られた加工布の、均染性を表1に、濃色性を表2にまとめた。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
水酸化ナトリウムを用いてケン化加工を行った比較例1においては、乾燥直後(0時間)の印捺布から得られた加工布は均染性が良好であるものの、乾燥後放置した印捺布から得られた加工布は、放置時間が長くなるほど染めムラが顕著に見られて均染性が不良となり、K/S値も低下することから色の濃度も低下することが確認された。つまり、ケン化が不均一であり、さらに再現性よく行われていないことが明らかである。このような加工布を用いて異色染め等の特殊加工を行った場合、実用に耐え得るものではないことが分かる。
【0068】
一方、本発明のケン化剤を用いてケン化加工を行った実施例においては、乾燥直後の印捺布から得られた加工布の均染性が良好であるのはもちろんのこと、乾燥後放置した印捺布も、放置時間の長短に拘わらず、均染性が良好であり、K/S値から色の濃度が一定であることが確認され、ケン化が均一に、かつ再現性よく行われていた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、従来ケン化の有効成分として多用されていた水酸化ナトリウム等の強アルカリ化合物を用いる必要がないので、作業上の安全性に優れたケン化加工を行うことができ、さらに、ケン化加工の所要時間、湿度等の諸条件に影響されない、再現性のあるケン化加工を行うことが可能となる。
【0070】
したがって、本発明のケン化剤でケン化加工されたアセテート系繊維材料は、その後の透視性模様や異色染め等の特殊加工において、意匠性に優れた模様を形成させることができるものであり、また安定した品質の特殊加工繊維製品を得ることが可能であって実用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸グアニジンと弱酸のアルカリ金属塩とを含有するか、またはグアニジンの弱酸塩を含有することを特徴とするアセテート系繊維材料用のケン化剤。
【請求項2】
請求項1に記載のケン化剤を用いてアセテート系繊維材料をケン化することを特徴とするアセテート系繊維材料のケン化加工方法。
【請求項3】
アセテート系繊維材料が、アセテート繊維からなるか、またはアセテート繊維と他の繊維との複合繊維からなる繊維材料である、請求項2に記載のケン化加工方法。
【請求項4】
請求項1に記載のケン化剤を用いてケン化加工されたアセテート系繊維材料。

【公開番号】特開2008−308771(P2008−308771A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155262(P2007−155262)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】