説明

アセテート系複合加工糸及びその製造方法並びに織編物

【課題】毛羽及びループの発生が少なく、しかも高温染色での改良された染色性を有し、アセテート繊維の持つドライタッチ感と従来にない光沢感を織編物に付与し得るアセテート系複合加工糸を提供する。
【解決手段】(1)伸度が30%以上である、(2)繊維断面が、沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)からなる層と層との間に沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)が中間層として挟まれた3層接合構造をなしている、(3)繊維断面において、沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)からなる中間層の一部が繊維表面に露出している、(4)繊維表面に、繊維軸に垂直な方向に微小なヒダを有する、の要件を満足するアセテート複合繊維と、熱可塑性合成繊維とからなるアセテート系複合加工糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛羽及びループの発生が少なく、改良された染色性を有し、アセテート繊維の持つドライタッチ感と、従来にない光沢感を有するアセテート系複合加工糸、及びその製造方法、並びにこの複合加工糸を用いた織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースジアセテート繊維、セルローストリアセテート繊維等のセルロースアセテート繊維に代表されるアセテート繊維は、ドライタッチ感に優れ、また優れた発色性、光沢感を有し、従来より種々の織編物の素材として用いられている。また、近年では織編物に膨らみ感やストレッチ性を付与する目的で、アセテート繊維を仮撚加工また他繊維と混繊交絡等を含む複合加工してなる素材にて構成した織編物も提案されている。
【0003】
例えば、アセテート繊維の加工糸については、特許文献1及び特許文献2にて、セルローストリアセテート繊維と他の繊維とで構成され、糸全体に交絡部とともに毛羽とループが形成された加工糸が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの特許文献でのアセテート系加工糸は、毛羽やループの形成により嵩高で紡績糸様の風合いが得られるものの、毛羽やループが原因の製織、製編や染色工程での問題が発生し易く、またアセテート繊維の特徴である光沢感や発色性の発現が不十分である。また、特許文献3には、アセテート繊維の加工糸において交絡数と仮撚撚数の規制により毛羽の発生をある程度抑制する記載があるが、この方法でも撚糸工程及び製織、製編、染色工程における毛羽の脱落、アセテート繊維の分繊ズッコケ、染色でのイラツキの発生等工程通過性の問題を十分に解決するものではない。
【0005】
【特許文献1】特開昭54−134148号公報
【特許文献2】特開昭56−4728号公報
【特許文献3】特許第3288287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題は、用いるアセテート繊維が他の熱可塑性合成繊維に比べ繊維強度が低く、剛直性のあることから、アセテート繊維と他繊維との混繊交絡や仮撚加工等の糸加工、或いは製織、製編時での外部応力により生ずるものであり、かかる観点から本発明者等は、加工糸に対する外部応力をアセテート繊維自身の伸度によって吸収させることにより毛羽の発生等の少ないアセテート系複合加工糸の得られることを見出し、さらに検討の結果本発明に到ったものである。本発明の目的は、上記問題を解決し、毛羽及びループの発生が少なく、しかも高温染色での改良された染色性を有し、アセテート繊維の持つドライタッチ感と従来にない光沢感を織編物に付与し得るアセテート系複合加工糸を提供し、またこのアセテート系複合加工糸を用いた織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の要旨は、下記の要件(1)〜(4)を満足するアセテート複合繊維と、熱可塑性合成繊維とからなるアセテート系複合加工糸にある。
(1)伸度が30%以上である
(2)繊維断面が、沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)からなる層と層との間に沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)が中間層として挟まれた3層接合構造をなしている
(3)繊維断面において、沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)からなる中間層の一部が繊維表面に露出している
(4)繊維表面に、繊維軸に垂直な方向に微小なヒダを有する
本発明の第2の要旨は、下記の要件(1)〜(4)を満足するアセテート複合繊維と、熱可塑性合成繊維とを、混繊交絡処理した後、仮撚加工を施すことを特徴とするアセテート系複合加工糸の製造方法にある。
(1)伸度が30%以上である
(2)繊維断面が、沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)からなる層と層の間に沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)が挟まれた3層接合構造をなしている
(3)繊維断面において、沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)からなる中間層の一部が繊維表面に露出している
(4)繊維表面に、繊維軸に垂直な方向に微小なヒダを有する
本発明の第3の要旨は、前記のアセテート系複合加工糸を構成糸に用いてなる織編物にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアセテート複合繊維含有のアセテート系複合加工糸は、毛羽及びループの発生が少なく、しかも高温染色での改良された染色性を有し、アセテート繊維の持つドライタッチ感と従来にない光沢感を織編物に付与し得るものであり、本発明によれば、かかるアセテート系複合加工糸を混繊交絡処理時に交絡不良を起こすことなく、また混繊交絡処理や仮撚加工で毛羽を発生させることなく得ることができる。また、本発明のアセテート系複合加工糸を構成糸に用いてなる織編物は、膨らみ感やストレッチ性を有し、高温染色での改良された染色性を有し、アセテート繊維の持つドライタッチ感と従来にない光沢感を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のアセテート系複合加工糸を構成する一方のアセテート複合繊維は、下記の要件を満足するアセテート複合繊維である。
(1)伸度が30%以上、好ましくは35%以上である。伸度が30%未満では、複合加工糸とする際に毛羽の発生や交絡不良を生じ、目的とするアセテート系複合加工糸にはならない。
【0010】
(2)繊維断面が、沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)からなる層と層の間に沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)が挟まれた3層接合構造をなしている。本発明で沸水染色での染色特性が低いとは、高温染色ではなく沸水染色での分散染料の吸着速度、染着率が低く濃染性に欠けることをいい、沸水染色での染色特性が高いとは、分散染料の吸着速度、染着率が高く濃染性を示すことをいう。複合繊維におけるアセテート成分(a)−アセテート成分(b)−アセテート成分(a)の複合比は、体積比で、好ましくは中間層のアセテート成分(b)/両側層のアセテート成分(a)の合計で、10〜30/90〜70、より好ましく14〜26/86〜74である。
【0011】
セルロースアセテート繊維に代表されるアセテート繊維は、分散染料を用い100℃を超える高温染色にて染色されるとき鮮明色を呈するものであるが、繊維を構成するアセテート成分、例えばセルロースアセテートにおいては、セルロースの有する水酸基のアセチル基への置換度によって常圧での沸水染色ではその染色特性に著しい差を有し、平均置換度2.76以上3.00以下のセルローストリアセテートは、沸水染色での染色特性が低く、平均置換度2.22以上2.60未満のセルロースジアセテート或いは平均置換度2.22未満のセルロースアセテートは染色特性が高い。
【0012】
従い、沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)としては、例えば平均置換度2.76以上3.00以下のセルローストリアセテートが用いられ、沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)としては、例えば平均置換度2.22以上2.60未満のセルロースジアセテート或いは平均置換度2.22未満のセルロースアセテートが用いられ、また平均置換度が2.3〜3.0のセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等も染色特性の高いアセテート成分(b)として用いることができる。
【0013】
本発明におけるアセテート複合繊維は、要件(2)に加え、
(3)繊維断面において、沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)からなる中間層の一部、即ち中間層の層端部の一方または両方が繊維表面に露出していることである。本発明におけるアセテート複合繊維は、分散染料での沸水染色の際、染色特性の高いアセテート成分(b)に染料を選択的に吸着させることにより繊維表面の大部分を覆う沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)への不均一な染料吸着を防ぎ、高温染色の際には、沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)の染料吸着が進むとともに沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)から吸着された染料が吐き出されアセテート成分(a)に吸着される緩染効果を生じ、熱可塑性合成繊維との複合状態においても、均染性に優れた発色性を呈し、優れた染色製品を得ることができる。
【0014】
本発明におけるアセテート複合繊維は、さらに、下記要件を満足する。
(4)繊維表面に、繊維軸に垂直な方向に微小なヒダを有する。この微小なヒダは、従来にない光沢感を与えるうえで効果的であり、繊維表面の繊維軸方向の全体に多数存在することが望ましい。
【0015】
前記要件を満足するアセテート複合繊維は、公知の3層接合型複合紡糸装置を用いて製造することができる。アセテート複合繊維の製造においては、沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)と沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)との各々の紡糸原液を用い、特に要件(4)を備えるためには、下式(イ)、(ロ)を満たす条件で、前記の複合比にて3層接合型に乾式複合紡糸することが好ましい。
【0016】
(イ)0.15<Vf/Vj<0.60
(ロ)1000<Vj<2000
(式中、Vfは紡出糸の巻き取り速度(m/分)、Vjは紡糸原液の吐出線速度(m/分)、また、Vjは(紡糸原液の吐出量/紡糸口金の総孔面積)で定義する。)
前記の紡糸条件において、(イ)式でVf/Vj≧0.60、(ロ)式でVj≦1000では、繊維軸方向への収縮挙動が得られず、また(イ)式でVf/Vj≦0.15、(ロ)式でVj≧2000では、安定した乾燥固化挙動が得られず糸切れが発生する。
【0017】
このような条件下で得られるアセテート複合繊維は、紡糸直後に形成されるスキン層が乾燥固化過程における繊維軸方向への収縮挙動により皺寄せられながら固化することにより、繊維軸の垂直方向に微小なヒダを発現させることができる。この微小なヒダが従来にないパール調光沢感とともに、風合いの向上に大きく寄与するものである。
【0018】
本発明のアセテート系複合加工糸を構成する他方の熱可塑性合成繊維としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維が好ましいものとして挙げられ、織編物に膨らみ感、ハリコシ感を付与するうえで、熱収縮性の異なる少なくとも2種の熱可塑性合成繊維重合体を貼り合わせてなる複合繊維であることが好ましい。
【0019】
特に染色性が高く、アセテート複合繊維との同浴染めが可能で、コスト優位性のあるポリエチレンテレフタレート同士のポリエチレンテレフタレート複合繊維がより好ましいが、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートの複合繊維、ポリトリメチレンテレフタレート同士のポリトリメチレンテレフタレート複合繊維等のポリエステル系複合繊維、或いはポリアミド系複合繊維等であってよい。またこれら繊維は、その複合比、断面形状、糸長手方向における繊度斑、更にはその染色性も分散染料可染型の繊維の他、カチオン染料可染型等種々の染料可染型の繊維であってもよい。
【0020】
本発明のアセテート系複合加工糸におけるアセテート複合繊維の混率は、30〜80質量%であることが好ましい。アセテート複合繊維の混率が30質量%未満では、アセテート複合繊維の有するドライタッチ感やパール調の光沢感の発現効果が乏しく、またアセテート複合繊維の混率が80質量%を超えると、複合加工糸全体の糸強度が低下するため、撚糸工程や製編織工程中の糸切れや織編物でのハリコシ感やストレッチ感が乏しくなる等の問題が生じる。
【0021】
本発明のアセテート系複合加工糸は、糸表面の毛羽及びループの数が2ヶ/m以下であることが好ましい。毛羽及びループの数が2ヶ/mを超えると、後工程中に毛羽が増加し、糸溜りによるネップの発生や糸切れの原因となる。また、糸表面の毛羽及びループが織編物表面に毛羽及びループ、ネップとして発現することは商品品位を損なうものである。
【0022】
これらの毛羽の増加や糸溜りを防ぐためには、複合加工糸の集束度が5〜20であることが好ましい。集束度が5未満では、アセテート複合繊維と熱可塑性合成繊維との開繊部が多く集束性が乏しくなり、アセテート複合繊維の分繊、糸割れによるネップの発生や糸切れ等のトラブルの原因となる。また集束度が20を超える場合には、集束部が増えることにより、前記のトラブルは発生し難くなるものの、織編物としたときに、膨らみ感、ソフト感が乏しい風合いの織編物になる。
【0023】
本発明のアセテート系複合加工糸の製造方法は、下記の要件(1)〜(4)を満足するアセテート複合繊維と、熱可塑性合成繊維とを、好ましくはアセテート複合繊維の混率が30〜80質量%の範囲で、集束度が5〜20となるよう混繊交絡処理した後、仮撚加工を施すことにある。
(1)伸度が30%以上である
(2)繊維断面が、沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)からなる層と層の間に沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)が挟まれた3層接合構造をなしている
(3)繊維断面において、沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)からなる中間層の一部が繊維表面に露出している
(4)繊維表面に、繊維軸に垂直な方向に微小なヒダを有する
【0024】
混繊交絡処理には、インターレースノズルによる方法が好ましく用いられるが、本発明の要件を満たす範囲内であれば、撹乱流体による混繊交絡手段を用いた方法であってもよい。混繊交絡処理に引き続き、施される仮撚加工での施撚方法には、スピンドルタイプ、フリクションタイプ、ベルトニップタイプ等を用いることができるが、汎用性とアセテート複合繊維への応力の影響を考慮し、スピンドルタイプを用いることがより好ましい。なお、本発明の要件を満たす範囲内であれば、混繊交絡処理時のオーバーフィード率やエアー圧力、仮撚加工時の仮撚数等特定の加工条件を規定するものではなく、混繊交絡処理及び仮撚加工条件を適宜変更することで、種々の商品品位に適する複合加工糸を得ることができる。
【0025】
本発明のアセテート系複合加工糸は、織編物の構成糸として好適に用いられ、製織、製編の際には、公知の手段、組織が用いられ、特に制限されるものではない。織編物における本発明のアセテート系複合加工糸の含有率は、織編物に膨らみ感やストレッチ性を与え、改良された染色性、アセテート繊維の持つドライタッチ感と従来にない光沢感を与えるという目的範囲内で、任意に選択される。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明における測定項目は以下の方法により測定した。
【0027】
(複合加工糸の毛羽及びループの数)
複合加工糸を長さ1mの試料とし、この長さ1mの試料に0.1g/dtexの荷重をかけた状態で、糸表面より1mm以上突出した毛羽及びループの数を任意の一定方向より目視にて観察してかぞえ、この計数を繰り返し、10回の計数の平均値でその試料の毛羽及びループの数とした。
【0028】
(複合加工糸の集束度)
複合加工糸を長さ1mの試料とし、水張りした容器にこの長さ1mの試料を浮かべ、交絡による集束部と未交絡の開繊部に分かれたときの集束部の合計長さ(cm)を測定し、この測定を繰り返し、10回の測定の平均値でその試料の集束度とした。
【0029】
(実施例1)
沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)として、水酸基の97%が酢酸化されているセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合溶剤(質量混合比91/9)に溶解し、固形分濃度が22.0質量%の紡糸原液Aを調製した。また沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)として、水酸基の80.3%が酢酸化されているセルロースジアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合溶剤(質量混合比88/12)に溶解し、固形分濃度が22.1質量%の紡糸原液Bを調製した。この2種の紡糸原液A、Bを用いて、ノズル孔形状が円形で、孔径0.026mm、ノズル孔数20の3層接合型複合紡糸ノズルにて、セルロースジアセテートの占める体積と、全セルローストリアセテートの占める体積の比率を、20:80の複合比とし、中間層をなすセルロースジアセテートの両側にセルローストリアセテートが外層になるように各アセテート成分を配し、紡糸速度600m/分で複合紡糸し、セルローストリアセテートの外層で挟まれセルロースジアセテートの中間層の両端が繊維表面に露出した3層接合構造の84dtex/20フィラメントのアセテート複合繊維を得た。
【0030】
この複合紡糸の際、Vf(紡出糸巻き取り速度)/Vj(紡糸原液吐出線速度)=0.30、Vj=1700m/分とした。得られたアセテート複合繊維は、伸度が43%であり、繊維軸に垂直な方向には微小なヒダを有していた。また、得られたアセテート複合繊維の繊維断面の斜視図を図2に示したが、同図において、繊維断面形状はほぼ円形で、繊維断面においてセルロースジアセテート中間層はその中央部が層の両端部より厚い形状をなし、中間層の露出端部が繊維軸方向に溝状に露出し、繊維表面には繊維軸に垂直な方向の微小なヒダが繊維軸方向の全体に存在していた。
【0031】
アセテート複合繊維として得られたアセテート複合繊維糸(84dtex/20フィラメント)を用い、また熱可塑性合成繊維としてポリエチレンテレフタレート複合繊維糸(56dtex/12フィラメント)を用い、これらのアセテート複合繊維糸とポリエチレンテレフタレート複合繊維糸とを、アセテート複合繊維混率60質量%で用いて、図1に示すような、石川製作所(株)製IVF338型仮撚機により、混繊交絡処理及び引き続いて仮撚加工を行い、アセテート系複合加工糸を得た。混繊交絡処理時の糸加工速度は100m/分、交絡ノズルはインターレースノズルを用い、混繊交絡処理時のオーバーフィード率を+0.1%とし、エアー圧力を0.14Mpaとした。仮撚加工時の仮撚温度は155℃、仮撚数1640T/m(Z撚り)、仮撚時のオーバーフィード率を+1.0%、巻取り時のオーバーフィード率を+4.4%として巻取った。得られた複合加工糸は、その毛羽及びループ数が0.5ヶ/mで、集束度が14.8であった。
【0032】
(実施例2)
熱可塑性合成繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維糸(セミダル56dtex/24フィラメント)を用いた以外は、実施例1と同様の手段で複合加工糸を得た。得られた複合加工糸は、その毛羽及びループ数が1.1ヶ/mで、集束度が17.3であった。
【0033】
(実施例3)
混繊交絡処理時のオーバーフィード率を+1.2%、エアー圧力を0.20MPaとした以外は、実施例1と同様の手段で複合加工糸を得た。得られた複合加工糸は、その毛羽及びループ数が1.57ヶ/mで、集束度が18.3であった。
【0034】
(比較例1)
アセテート繊維として、水酸基の97%が酢酸化されているセルローストリアセテートの紡糸原液のみを用い、通常の紡糸ノズルにてのセルローストリアセテートの乾式紡糸法により得られた伸度が27%である84dtex/20フィラメントのセルローストリアセテート繊維を用いた以外は、実施例1と同様の手段で複合加工糸を得た。得られた複合加工糸は、その毛羽及びループ数が0.83ヶ/mで、集束度が3.3であった。
【0035】
(比較例2)
アセテート繊維として比較例1のセルローストリアセテート繊維糸(84dtex/20フィラメント)を用い、熱可塑性合成繊維として実施例2のポリエチレンテレフタレート繊維糸(セミダル56dtex/24フィラメント)を用いた以外は、実施例3と同様の手段により複合加工糸を得た。得られた複合加工糸は、その毛羽及びループ数が7.43ヶ/mで、集束度は19.7であった。
【0036】
(比較例3)
実施例1において、ノズル孔径を0.038mm、紡糸速度を750m/分、Vf/Vj=0.80、Vj=940m/分とした以外は、実施例1と同様の手段により、3層接合型のアセテート複合繊維を得た。得られたアセテート複合繊維は、伸度が28%であり、繊維軸に垂直な方向には微小なヒダを有しないものであった。このアセテート複合繊維糸(84dtex/20フィラメント)をアセテート複合繊維混率60質量%で用いた以外は、実施例1と同様の手段により複合加工糸を得た。得られた複合加工糸は、その毛羽及びループ数が0.9ヶ/mで、集束度は3.9であった。
【0037】
(実施例4、比較例4)
実施例1〜3及び比較例1〜3でそれぞれ得られた複合加工糸の毛羽、糸溜りの発生状況の評価を行った。また、実施例1〜3及び比較例1〜3でそれぞれ得られた複合加工糸を用い、20G筒編機で製編し、得られた編地を、精練、以下の条件で高温染色し、染色性及び編地の風合いの評価を行った。なお、編地の膨らみ感といった風合いはハンドリング評価にて実施した。
【0038】
(染色条件)
染料として以下のDystar社製分散染料を使用。
Dianix NTA−N Blue:0.12%owf(対繊維質量)
Dianix NTA−N Red:0.12%owf
Dianix NTA−N Yellow:0.25%owf
染色温度:130℃
染色時間:60分(昇降温速度:2℃/分)
浴比:1:50
【0039】
評価結果によれば、実施例1〜3で得られた複合加工糸は、集束度が十分あり、糸がシゴかれることに起因する毛羽の増加や糸溜りの発生もなく、染色編地も染斑のない均一な発色性を呈するとともに従来にないパール調の光沢感とソフトな膨らみ感を有していた。これに対し、比較例1で得られた複合加工糸では、集束度不足によって、アセテート繊維の糸溜りが糸道の屈曲部において発生し、アセテート繊維のみ断糸しており、また染色編地も、従来の発色性及び光沢感しか有していなかった。比較例2で得られた複合加工糸では、集束度不足による糸溜まりはないが、糸道でのシゴキによる毛羽の増加がみられ毛羽及びループが多く、アセテート繊維の断糸が発生し、また編地表面への毛羽発現により、染色編地も斑感のある発色性とイラツキのある光沢がありパール調の光沢感はなかった。また比較例3で得られた複合加工糸では、集束度不足によってアセテート複合繊維の糸溜りが糸道の屈曲部において発生し、また糸道でのシゴキによる毛羽の増加やアセテート複合繊維のみの断糸が発生し、さらに染色編地も均一な発色性を呈するものの、パール調の光沢感はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のアセテート複合繊維含有のアセテート系複合加工糸は、毛羽及びループの発生が少なく、しかも100℃を超える高温染色での均染性に優れるという改良された染色性を有し、アセテート繊維の持つドライタッチ感と従来にない光沢感を織編物に付与し得るものであり、アセテート繊維の適用分野を拡大するものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のアセテート系複合加工糸を製造する加工機の一例を示す模式図である。
【図2】実施例1で用いたアセテート複合繊維の繊維断面の斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1 アセテート複合繊維糸
2 熱可塑性合成繊維糸
3 混繊交絡用フィードローラ
4 交絡ノズル
5 仮撚フィードローラ
6 仮撚ヒータ
7 仮撚具
8 デリベリローラ
9 ワインダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の要件(1)〜(4)を満足するアセテート複合繊維と、熱可塑性合成繊維とからなるアセテート系複合加工糸。
(1)伸度が30%以上である
(2)繊維断面が、沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)からなる層と層との間に沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)が中間層として挟まれた3層接合構造をなしている
(3)繊維断面において、沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)からなる中間層の一部が繊維表面に露出している
(4)繊維表面に、繊維軸に垂直な方向に微小なヒダを有する
【請求項2】
沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)が、セルローストリアセテートであり、沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)が、セルロースジアセテートである請求項1に記載のアセテート系複合加工糸。
【請求項3】
熱可塑性合成繊維が、熱収縮特性の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂成分を貼り合わせてなる複合繊維である請求項1または請求項2に記載のアセテート系複合加工糸。
【請求項4】
複合加工糸におけるアセテート複合繊維の混率が30〜80質量%であって、該加工糸の毛羽及びループの数が2ヶ/m以下、集束度が5〜20である請求項1〜3のいずれか一項に記載のアセテート系複合加工糸。
【請求項5】
下記の要件(1)〜(4)を満足するアセテート複合繊維と、熱可塑性合成繊維とを混繊交絡処理した後、仮撚加工を施すことを特徴とするアセテート系複合加工糸の製造方法。
(1)伸度が30%以上である
(2)繊維断面が、沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)からなる層と層の間に沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)が挟まれた3層接合構造をなしている
(3)繊維断面において、沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)からなる中間層の一部が繊維表面に露出している
(4)繊維表面に、繊維軸に垂直な方向に微小なヒダを有する
【請求項6】
アセテート複合繊維として、沸水染色での染色特性の低いアセテート成分(a)が、セルローストリアセテートであり、沸水染色での染色特性の高いアセテート成分(b)が、セルロースジアセテートであるアセテート複合繊維を用いる請求項5に記載のアセテート系複合加工糸の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性合成繊維として、熱収縮特性の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂成分を貼り合わせてなる複合繊維を用いる請求項4に記載のアセテート系複合加工糸の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアセテート系複合加工糸を構成糸に用いてなる織編物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−321297(P2007−321297A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153081(P2006−153081)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】