説明

アセトアルデヒド除去用脱臭剤およびアセトアルデヒドの除去方法

【課題】室温下で脱臭性能が高く、安価なアセトアルデヒド除去用脱臭剤およびそれを用いたアセトアルデヒドの除去方法を提供する。
【解決手段】マンガン酸化物を主成分とし、酸化セリウムを0.5〜15質量%、または、酸化ジルコニウムを0.5〜17質量%含有するアセトアルデヒド除去用脱臭剤である。さらに、モルデナイト型、Y型、ZSM−5型よりなる群から選ばれる1種以上のゼオライトから構成されるハイシリカゼオライトを5〜40質量%含有させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は臭気成分であるアルデヒド類の中でも特にアセトアルデヒドを効率的に除去しうる脱臭剤およびアセトアルデヒドの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、室内や車内の快適性の向上を目的として、生活空間等で発生する不快臭を除去する要求が強くなっており、その中でも特にたばこ臭などに含まれるアルデヒド類の効率的な除去に対する要求が高まっている。一方、アセトアルデヒドなどの低級脂肪族アルデヒドは、その蒸気圧が高いため代表的な脱臭剤である活性炭などへの吸着性が低いこと、また中性成分であるため酸やアルカリを添着した吸着剤で化学吸着することも難しいことから、アルデヒド類の中でも特にアセトアルデヒドに対する効果的な除去法の開発が大きな技術課題となっている。
【0003】
従来より、アセトアルデヒドを含む低級脂肪族アルデヒドの除去性能を高めた脱臭剤あるいは空気浄化剤が種々提案されている。
【0004】
例えば、触媒作用を利用してアルデヒドの除去を行う技術として、特許文献1には、ジルコニアを主成分とする担体に白金を担持した触媒が提案されている。60℃以上の比較的低温においてアルデヒドを除去できるとされているが、室温でアセトアルデヒドを除去することは難しく、また白金という高価な貴金属を用いるため脱臭剤の価格が高くなるという問題がある。
【0005】
また、特許文献2には、活性炭にパラジウムを担持した触媒を用いることで、室温でホルムアルデヒドを除去する方法が開示されているが、アセトアルデヒドに対する効果は十分でなく、白金と同様に高価なパラジウムを用いるため脱臭剤の価格が高くなるという問題がある。
【0006】
特許文献3には、マンガン酸化物粒子とセリウム酸化物粒子の混合物であり、セリウム酸化物粒子が20〜50重量%のマンガン酸化物含有物が提案されている。この発明は、ホルムアルデヒドを対象にしたもので、セリウム酸化物の触媒としての機能のみに着目しており、中間生成物の吸着保持機能に着目した本願発明とは全く異なる技術的思想に基づくものであり、アセトアルデヒドに対する効果は不明である。また、マンガンと比較して高価なセリウムを比較的多量に使用するためコスト上の問題もある。
【0007】
また、特許文献4には、マンガン−ジルコニウム系除去剤を含有し、マンガン元素とジルコニウム元素をモル比でMn/Zr=0.2〜2.0の範囲で含有するアルデヒド類除去剤が開示されている。この発明は、除去剤の酸化活性を高めるために、酸化マンガンに加えて酸化ジルコニウムを含有させたものであるが、マンガンと比較して高価なジルコニウムをMn/Zrで0.2〜2.0と多量に使用するものであり、上記特許文献3に記載の発明と同様、コスト上の問題がある。
【特許文献1】特開2001−239162号公報
【特許文献2】特開昭52−30283号公報
【特許文献3】特許第3578259号公報
【特許文献4】特開2007−175598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる現状に対し、室温下で脱臭性能が高く、安価なアセトアルデヒド除去用脱臭剤およびそれを用いたアセトアルデヒドの除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、マンガン酸化物を主成分とし、酸化セリウムを0.5〜15質量%、または、酸化ジルコニウムを0.5〜17質量%、含有することを特徴とするアセトアルデヒド除去用脱臭剤である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、さらに、ハイシリカゼオライトを5〜40質量%含有する請求項1に記載のアセトアルデヒド除去用脱臭剤である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記ハイシリカゼオライトが、モルデナイト型、Y型およびZSM−5型よりなる群から選ばれる1種以上のゼオライトから構成される請求項2に記載のアセトアルデヒド除去用脱臭剤である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、アセトアルデヒドを含有する空気を、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアセトアルデヒド除去用脱臭剤に接触させてアセトアルデヒドを除去することを特徴とするアセトアルデヒドの除去方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マンガン酸化物を主成分とし、酸化セリウムまたは酸化ジルコニウムを比較的少量含有する脱臭剤を用いることで、空気中のアセトアルデヒドがマンガン酸化物を触媒として酸化されて生成した酢酸が、酸化セリウムまたは酸化ジルコニウムにより高効率で吸着保持される結果、アセトアルデヒドの総合的な除去効率が上昇し、室温下で脱臭性能が高く、安価なアセトアルデヒド除去用脱臭剤およびそれを用いたアセトアルデヒドの除去方法を提供できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明に係るアセトアルデヒド除去用脱臭剤(以下、単に「脱臭剤」ということあり。)は、触媒作用を利用するものであり、下記のようなアセトアルデヒドの酸化・分解反応に対する触媒作用を有するマンガン酸化物を主成分とし、中間生成物である酢酸を高効率で吸着保持する作用を有する、酸化セリウム0.5〜15質量%、または、酸化ジルコニウム0.5〜17質量%、を含有することを特徴とする。
【0016】
この脱臭剤によるアセトアルデヒドの除去は、アセトアルデヒドがマンガン酸化物の触媒作用によって、アセトアルデヒド(反応物)→酢酸という反応過程を経て酸化され、脱臭剤に吸着保持されることで行われる。
【0017】
マンガン酸化物としては、その比表面積は吸着促進の観点から高いことが好ましく、BET比表面積で100m/g以上のものが好適に利用できる。
【0018】
そして、このようなマンガン酸化物に、中間生成物の吸着保持の促進作用を有する酸化セリウムまたは酸化ジルコニウムを配合することで、以下のようにしてアセトアルデヒドの除去性能を高めることができる。
【0019】
すなわち、セリウムおよびジルコニウムはマンガンと比較して電気陰性度が低いため、酸化物である酸化セリウムおよび酸化ジルコニウムは、マンガン酸化物と比べ塩基性が強い傾向がある。このため、マンガン酸化物に酸化セリウムまたは酸化ジルコニウムを配合することで、アセトアルデヒドがマンガン酸化物の触媒作用により酸化されて生成した中間生成物である酢酸が、塩基性の強い、酸化セリウムまたは酸化ジルコニウムにより高効率で吸着保持される。この結果、上記律速過程における反応速度が上昇し、アセトアルデヒドの総合的な除去効率が向上することとなる。
【0020】
上記中間生成物(酢酸)の吸着保持の促進効果を有効に発揮させるため、酸化セリウムを配合する場合は、脱臭剤中の酸化セリウムの含有量を0.5〜15質量%、好ましくは、1〜13質量%、さらに好ましくは2〜11質量%とする(後述の実施例、図1参照)。
【0021】
一方、酸化ジルコニウムを配合する場合は、脱臭剤中の酸化ジルコニウムの含有量を0.5〜17質量%、好ましくは、3〜16質量%、さらに好ましくは5〜15質量%とする(後述の実施例、図2参照)。
【0022】
本発明に係る脱臭剤は、マンガン酸化物と、酸化セリウムまたは酸化ジルコニウムに加えて、さらに、吸着剤としてのゼオライトを含有するものとしてもよい。ゼオライトを配合することで、アセトアルデヒドの、脱臭剤への吸着量を増加することが可能となり、ゼオライトに吸着したアセトアルデヒドを酸化触媒であるマンガン酸化物で酸化することで、アセトアルデヒドの除去効率をさらに向上させることができる。
【0023】
吸着剤として用いるゼオライトは、雰囲気湿度の影響を受けにくいハイシリカゼオライト(ゼオライト中のSiO/Al比が高いもの)を採用するのが望ましい。ハイシリカゼオライトとしては、モルデナイト型、Y型、ZSM−5型などが好適に利用でき、これらを複数種類併用してもよい。
【0024】
脱臭剤中のゼオライトの含有量は、少なすぎる場合には、そのアセトアルデヒド吸着効果が十分に発揮されず、他方多すぎる場合には、酸化触媒であるマンガン酸化物の含有量が相対的に減少することから、アセトアルデヒドの総合的な除去効率が低下するので、脱臭剤中のゼオライトの含有量は、5〜40質量%、さらには10〜30質量%とするのが望ましい。
【0025】
上記のようにして、マンガン酸化物に、酸化セリウムまたは酸化ジルコニウム、必要によりさらにゼオライトを配合した脱臭剤は、シリカゾルなどのバインダを用いてペレット状に成形した脱臭剤として使用することも可能であるが、バインダを用いてハニカム状に押出成形したハニカム脱臭フィルタや、脱臭剤をバインダによりコルゲートに添着しコルゲートハニカム脱臭フィルタとして用いることも可能である。バインダを用いてフィルタ形状に成形することで、脱臭剤使用時の圧力損失を低く抑え、かつアセトアルデヒドを含む多成分の臭気を同時に除去できる高性能な脱臭フィルタとして空気清浄機用などの用途に使用できる。
【実施例1】
【0026】
〔酸化セリウム配合の効果確認試験〕
マンガン酸化物としてはBET比表面積210m/gの酸化マンガン粉末を、ゼオライトとしてはZSM−5型のゼオライト吸着剤を、酸化セリウムとしてはBET比表面積170m/gの酸化セリウム粉末を、それぞれ用いた。脱臭性能評価用の脱臭剤としては、マンガン酸化物と酸化セリウムの合計含有量が脱臭剤の58質量%になるように調整し、さらに12質量%のゼオライトとバインダとしてのコロイダルシリカを30質量%添加し、乳鉢で混合した後、ペレット形状に成形した評価剤を用いた。
【0027】
アセトアルデヒド除去性能の測定は、以下の臭気ガス流通試験で行った。臭気ガスとしては、温度25℃、アセトアルデヒド濃度2ppm、相対湿度60%の模擬ガスを用い、空間速度(GHSV)60000h−1の条件で、各評価剤が充填されたサンプルホルダ(内径8mm×長さ12mm)内を流通させ、サンプルホルダ出口におけるアセトアルデヒド濃度を測定した。除去性能は次式により求め、アセトアルデヒド除去率を算出し、評価剤間の比較を行った。
【0028】
アセトアルデヒド除去率(%)=[(Ci−Co)/Ci]×100
[ただし、Ci:サンプルホルダ入口におけるアセトアルデヒド濃度、Co:サンプルホルダ出口におけるアセトアルデヒド濃度]
【0029】
図1に、脱臭剤中の酸化セリウムの含有量と、試験開始から30分経過後のアセトアルデヒド除去率との関係を示した。同図より、アセトアルデヒド除去性能は、酸化セリウムを配合しない場合と比べ、酸化セリウムを約15質量%以下配合することで向上し、約7質量%の配合で最も高くなることが分かる。
【実施例2】
【0030】
〔酸化ジルコニウム配合の効果確認試験〕
酸化ジルコニウムとしてはBET比表面積50m/gの酸化ジルコニウム粉末を用いた。酸化マンガンとゼオライトは上記実施例1と同じものを用いた。脱臭性能評価用の脱臭剤としては、上記実施例1と同様、マンガン酸化物と酸化ジルコニウムの合計含有量が脱臭剤の58質量%になるように調整し、さらに12質量%のゼオライトとバインダとしてのコロイダルシリカを30質量%添加し、乳鉢で混合した後、ペレット形状に成形した評価剤を用いた。
【0031】
アセトアルデヒド除去性能の測定は、臭気ガスの空間速度(GHSV)を180000h−1に、サンプルホルダのサイズを内径8mm×長さ30mmにそれぞれ変更した以外は上記実施例1と同様である。
【0032】
図2に、脱臭剤中の酸化ジルコニウムの含有量と、試験開始から30分経過後のアセトアルデヒド除去率との関係を示した。同図より、アセトアルデヒド除去性能は、酸化ジルコニウムを配合しない場合と比べ、酸化ジルコニウムを約17質量%以下配合することで向上し、約10質量%の配合で最も高くなることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】脱臭剤中の酸化セリウムの含有量とアセトアルデヒド除去率との関係を示すグラフ図である。
【図2】脱臭剤中の酸化ジルコニウムの含有量とアセトアルデヒド除去率との関係を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン酸化物を主成分とし、酸化セリウムを0.5〜15質量%、または、酸化ジルコニウムを0.5〜17質量%、含有することを特徴とするアセトアルデヒド除去用脱臭剤。
【請求項2】
さらに、ハイシリカゼオライトを5〜40質量%含有する請求項1に記載のアセトアルデヒド除去用脱臭剤。
【請求項3】
前記ハイシリカゼオライトが、モルデナイト型、Y型およびZSM−5型よりなる群から選ばれる1種以上のゼオライトから構成される請求項2に記載のアセトアルデヒド除去用脱臭剤。
【請求項4】
アセトアルデヒドを含有する空気を、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアセトアルデヒド除去用脱臭剤に接触させてアセトアルデヒドを除去することを特徴とするアセトアルデヒドの除去方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−104915(P2010−104915A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279933(P2008−279933)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(503386517)神鋼アクテック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】