説明

アダマンタン構造を有するポリエステル

【課題】高い透明性と耐熱性を有し成形性に優れる透明材料を提供する。
【解決手段】下記式(1)又は(2)で表されるポリエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アダマンタン構造を有するポリエステルに関する。さらに詳しくは、透明性、成形性、耐熱性に優れたポリエステル、透明材料及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明で機械的特性に優れているプラスチックは、光学材料として広く用いられている。例えば、ポリメチルメタクリレートやポリカーボネート等がコンパクトディスク、DVD、レンズ等の光学材料として、また、自動車の透明部品等に使用されている。
近年、光学材料は、光ファイバー、光学レンズ等の種々の光学デバイス、フラットパネルディスプレイ等の表示機器等に広く用いられているようになっている。これらの用途では、最も基本的な特性である透明性の向上がさらに要求されている。また、薄膜状、フィルム状又はファイバー状の形態で、発熱を伴う部分や、断続的又は連続的に応力負荷がかかる部分に使用されることが多いため、特に耐熱性が要求されている。従って、高い透明性や成形性と同時に、耐熱性のある材料が求められている。
しかしながら、ポリメチルメタクリレートやポリカーボネートは、透明性には優れているものの耐熱性が十分とはいえなかった。
【0003】
上記の課題に対し、例えば、特許文献1には脂環族ジカルボン酸とフルオレン構造を有するジヒドロキシ化合物からなるポリエステル重合体が開示されており、透明性、耐熱性、成形性等に優れる旨、記載されている。
また、特許文献2には両末端にアルコール性水酸基、又はカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体を有する長鎖脂肪族化合物と、脂環族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体とジヒドロキシ化合物とからなるポリエステル重合体が開示され、透明性、成形性に優れると記載されている。
【0004】
しかしながら、透明性に加えて、特に、連続的な高強度光の透過により発生する熱負荷に耐える高耐熱性を具備する材料が求められている現状において、これらの重合体では性能が十分とはいえない。
【特許文献1】特開平9−302077号公報
【特許文献2】特開2000−44662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い透明性と耐熱性を有する、成形性に優れる透明材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、従来のシクロヘキシル構造やノルボルニル構造を含むポリエステルでは、環状部分を構成する炭素−炭素間結合が比較的不安定であるため、特に耐熱性、強度の面で問題が生じることを見出した。そして、ポリエステルの脂環式構造部分を、地球上で最も高強度かつ高安定性であるダイヤモンドと共通の構造を有するアダマンタン構造とすることにより、耐熱性、強度を飛躍的に向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明によれば、以下のポリエステル等が提供される。
1.下記式(1)又は(2)で表されるポリエステル。
【化2】

(式中、Rは、単結合、酸素原子、炭素数6〜30の置換もしくは非置換の二価の芳香族基、炭素数1〜20の置換もしくは非置換の二価の直鎖状脂肪族基、炭素数3〜20の置換もしくは非置換の二価の分岐状脂肪族基、炭素数5〜50の置換もしくは非置換の二価の脂環式基、又はこれらの基が複数結合して形成される二価の基である。R’は、炭素数6〜30の置換もしくは非置換の芳香族基、炭素数1〜20の置換もしくは非置換の直鎖状脂肪族基、炭素数3〜20の置換もしくは非置換の分岐状脂肪族基、又は炭素数5〜50の置換もしくは非置換の脂環式基であり、mはR’の置換数であり0〜14の整数である。nは10以上1000以下の整数である。)
2.上記1に記載のポリエステルを含む透明材料。
3.上記2に記載の透明材料を有機溶媒に溶解させた塗料。
4.上記3に記載の塗料を用いて形成した薄膜。
5.上記2に記載の透明材料からなるフィルム。
6.上記2に記載の透明材料からなる薄板。
7.上記2に記載の透明材料を含む光情報伝達装置。
8.上記2に記載の透明材料を含む光情報処理装置。
9.上記2に記載の透明材料を含む表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、アダマンタン構造を含有する新規なポリエステルが提供できる。このポリエステルからなる透明材料は、高い透明性及び耐熱性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のポリエステルは、下記式(1)又は(2)で表される構造を有している。
【化3】

【0010】
式中、Rは、単結合、酸素原子、炭素数6〜30の置換もしくは非置換の二価の芳香族基、炭素数1〜20の置換もしくは非置換の二価の直鎖状脂肪族基、炭素数3〜20の置換もしくは非置換の二価の分岐状脂肪族基、炭素数5〜50の置換もしくは非置換の二価の脂環式基、又はこれらの基が複数結合して形成される二価の基を表す。
尚、これら以外の基では、二価の基自身の分子運動や熱分解に起因する耐熱性、強度の低下が観測されるため好ましくない。また、これらの基に結合する置換基の例は、後述するR’と同様な基や、フッ素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子を含む置換基が挙げられる。
【0011】
上記のうち、単結合;フェニレン基、ナフチレン基等の炭素数6〜10の二価の芳香族基;シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基、シクロオクタンジイル基等の炭素数5〜10の二価の脂環式基;メチレン基、エタンジイル基、プロパンジイル基等の脂肪族基や、これらの基が複数結合して構成される炭素数7〜30の二価の基、又はこれらの基に、フッ素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子を含む置換基が結合した二価の基が好ましい。
尚、脂肪族基や芳香族基等が複数結合して構成される炭素数7〜30の二価の基としては、以下の基が挙げられる。
【化4】

また、フッ素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子を含む置換基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基、エーテル基、エステル基、アミド基、シリル基、シロキシ基が挙げられる。
【0012】
上記式(1)又は(2)中、R’は炭素数6〜30の置換もしくは非置換の芳香族基、炭素数1〜20の置換もしくは非置換の直鎖状脂肪族基、炭素数3〜20の置換もしくは非置換の分岐状脂肪族基、又は炭素数5〜50の置換もしくは非置換の脂環式基である。
mはR’の置換数であり0〜14である。
R’が上記以外の置換基の場合、置換基自身の分子運動や熱分解に起因する耐熱性、強度の低下が観測されるため好ましくない。尚、R’に結合する置換基の例は、R’と同様な基や、フッ素原子等が挙げられる。
【0013】
本発明において、置換数mは0〜4であることが好ましい。また、R’としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基、ジメチルビアダマンチル基、ジブチルビアダマンチル基、ジアマンチル基、又はこれらの置換基にフッ素原子が結合したものが好ましい。
【0014】
式中のnは重合度を示し、10以上1000以下である。重合度は用途や成形法等に合わせて適宜調整することができるが、一般には10〜500程度が好ましい。nが10より小さいと耐熱性に加えて機械的強度等が著しく低下し、1000を超えると有機溶媒への溶解性が著しく低下するためスピンコーティング法等の成形法が困難となり、かつ、熱成形が著しく困難になる。
本発明の好適なポリエステルとして、下記式(3)〜(10)で表されるものが例示される。
【0015】
【化5】

【0016】
本発明のアダマンタン構造含有ポリエステルは、例えば、アダマンタン構造含有ジヒドロキシ化合物と、一般に公知のジカルボン酸ジクロリド化合物と、塩基を用いる重縮合反応により効率的に製造することができる。
具体的には、下記式(11)、(12)で表されるアダマンタン構造含有ジヒドロキシ化合物と下記式(13)で表されるジカルボン酸ジクロリド化合物に、塩基を用いる重縮合反応を実施することにより、上記式(1)、(2)で表されるアダマンタン構造含有ポリエステルを製造することができる。
【0017】
【化6】

(式中、R’及びRは上述した式(1)及び(2)と同様である。)
【0018】
好ましい重合条件、その収率、及び重合度nは、製造するアダマンタン構造含有ポリエステルの構造により異なるため一概に定義できないが、反応基質、反応基質の濃度、塩基、触媒、溶媒の添加量、反応温度、反応時間等の制御により、収率や重合度nを制御することが可能である。
【0019】
重合反応は均一溶液中で行うことも、相間移動触媒存在下において塩基性水溶液と有機溶媒を用いる界面重縮合法により行うことも可能である。重合速度が向上するため、後者の方が好ましい。
重合反応におけるモノマー量比としては、アダマンタン構造含有ジヒドロキシ化合物1モルに対して、ジカルボン酸ジクロリド化合物を0.9モル〜1.1モルの範囲で、塩基を0.8モル〜20モルの範囲で用いることが望ましい。この範囲を逸脱すると分子量が大幅に低下する。
重合反応における条件としては、−100℃〜200℃の温度範囲で行うことが好ましい。−100℃を下回ると充分な重合速度が得られず、200℃を越えると望ましくない副生成物が生成するようになる。
好ましい重合時間は、用いる原料や重合条件、所望のポリエステルの構造や分子量に応じて適宜調整されるため、一概に定義できないが、1分〜24時間程度であることが一般的である。
【0020】
重縮合反応で使用する塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、重炭酸リチウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸セシウム、アンモニア等の無機塩基、ピリジン、トリエチルアミン、DBU、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の有機塩基が好適に使用できる。界面重縮合法を実施する際には、水溶液として用いることから高水溶性、強塩基性の観点から水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドが特に好ましい。
【0021】
上述した重縮合反応は、相間移動触媒を用いても用いなくても進行するが、一般に公知の相間移動触媒を用いることによりその重合速度が向上できる。特に、界面重縮合法を実施する際にその効果は顕著である。
相間移動触媒の具体例としては、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド等のアンモニウムハライド、ベンジルトリエチルホスホニウムクロリド、テトラ−n−ブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリエチルホスホニウムブロミド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロミド等のホスホニウムハライドが例示される。好ましい相間移動触媒としては、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミドが挙げられる。
【0022】
相間移動触媒の添加量は、用いるアダマンタン構造含有ジヒドロキシ化合物1モルに対して0.0001モル〜0.5モルの範囲から選択される。好ましい相間移動触媒の種類と添加量は、用いるアダマンタン構造含有ジヒドロキシ化合物とジカルボン酸ジクロリド化合物の組合せや反応条件により異なるので適宜調整すればよい。
【0023】
反応溶媒としては、一般に公知の有機溶媒であれば、いずれも好適に使用できる。具体的には、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、DMF、NMP、ジメチルアセトアミド、DMSO、ジエチルエーテル、THF、ジオキサン、酢酸エチル、乳酸エチル、PGMEA、アセトン、MEK、シクロヘキサノン、トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アニソール、アセトフェノン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン等である。
界面重縮合法を実施する際には、用いる塩基性水溶液との分離性、反応基質の溶解性の観点から、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、ニトロベンゼンが好ましい。
【0024】
尚、本発明のポリエステルは、洗浄、イオン交換樹脂処理、再沈殿、精密ろ過、乾燥等の精製を実施することが好ましい。これにより、例えば、Fe3+、Cl、Br、Na、K、Cs、Ca2+等のイオン性不純物、塩基、相間移動触媒、反応溶媒、後処理溶媒、水分等を除去でき、ポリエステルの透明性、耐熱性、強度を向上できる。
【0025】
本発明のアダマンタン構造含有ポリエステルは、従来公知のポリエステルに比較して、透明性、低吸水性、強度、又は低誘電率性が向上するが、特に、耐熱性に優れている。このため、薄膜状、フィルム状、ファイバー状の形態として、光の透過に伴い発熱を被る部分や、断続的あるいは連続的な応力負荷により局所的な発熱が生じる透明部品の材料として用いることができる。
従来のシクロヘキシル構造やノルボルニル構造等の構造を含有するポリエステルに比較して、本発明のポリエステルは、環状部分を構成するアダマンタンの炭素−炭素間結合が極めて安定であるため、耐熱性が飛躍的に向上する。
また、ポリエステル中の炭素含有量が相対的に多くなるために透明性、低吸水性、低誘電率性が併せて向上する。
【0026】
本発明のポリエステルを含む透明材料を、例えば、光ファイバー、光学レンズ等の種々の光学デバイス、フラットパネルディスプレイ等の表示機器に使用することによって、これらの性能(透明性)や耐久性(耐熱性)を飛躍的に向上できる。
尚、本発明の透明材料には、上述したアダマンタン構造含有ポリエステルの他に、樹脂成形分野で使用される各種添加剤を配合してもよい。
【0027】
本発明の透明材料は、公知の成形方法によって各種成形品、例えば、板、フィルム、薄膜等にすることができる。例えば、射出成型法、射出圧縮成型法、押出成型法、ブロー成型法、加圧成型法、トランスファー成型法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、キャスト法、蒸着法、PVD法、CVD法等が、所望の製品の形態に応じて好適に適用できる。
【0028】
スピンコーティング法等により本発明の透明材料を薄膜状に成形する場合、本発明の材料を有機溶媒に溶解させた塗料を使用することができる。
有機溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、DMF、NMP、ジメチルアセトアミド、DMSO、アニソール、アセトフェノン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン等が挙げられる。
塗料中における本発明の材料の濃度は、塗料の粘度や成形方法等を考慮して適宜調製すればよい。
薄膜の厚さは特に限定されないが、一般に10μm〜10nm程度のものが好適に使用される。
【0029】
尚、本発明の透明材料からなるフィルムの厚さは1mm〜1μm程度であり、薄板の厚さは1cm〜1mm程度である。
【0030】
本発明の透明材料は、光ファイバー、光導波路等の光情報伝達装置、CMOSイメージセンサ、CCDイメージセンサ、CD、DVD、ブルーレイディスク、HD DVD、光コンピューター等の光情報処理装置、又は液晶ディスプレー、液晶プロジェクター、プラズマディスプレー、ELディスプレー、LEDディスプレー等の表示装置の構成部材の材料として好適である。
【0031】
本発明の透明材料は、可視領域の波長において透明性を有するが、紫外領域における透明性も高い。尚、透明性を有するとは、光の一部又は全部を吸収せずに透過することを意味する。
本発明の透明材料では、透明性の指標である最大非透過光波長(λcut off)が325nm以下150nm以上の範囲であることが好ましい。最大非透過光波長が325nmを超えると黄色を帯びるおそれがある。ポリエステルにおいて、150nm以下となる場合は知られていない。
本発明の透明材料では、また透明性の指標である透過率80%の波長(λ80)が、380nm未満であることが好ましい。透過率80%波長が可視光領域になった場合には、着色が認められる可能性があるからである。好適には、360nm未満である。透明性の観点からは、透過率80%波長は短い程よい。最も短い波長としては、例えば、最大非透過光波長の下限値が挙げられる。
最大非透過光波長及び透過率80%波長は、例えば上記式(1)又は(2)の置換数mを調整することにより調整できる。
尚、最大非透過光波長及び透過率80%波長はフィルム状試料の透過スペクトルを紫外可視分光装置にて測定して決定できる。
【0032】
耐熱性の指標であるガラス転移温度(T)は250℃以上450℃以下の範囲であることが好ましい。また、10%重量減少温度(Td10)が450℃以上600℃以下の範囲であることが好ましい。
尚、ガラス転移温度は熱機械分析(TMA)にて測定された値であり、10%重量減少温度は、窒素雰囲気下、示差熱熱重量同時測定装置にて測定された値である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例等にて使用した出発原料、触媒等の試薬はすべて市販の製品である。
【0034】
[ポリエステルの製造]
実施例1
磁気撹拌子、ジムロート冷却管及び塩化カルシウム管を備えた容量100mLのナス型フラスコに、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン(0.80g、2.5ミリモル)、相間移動触媒として塩化ベンジルトリエチルアンモニウム(0.020g、0.088ミリモル)、1M水酸化ナトリウム水溶液(5.3mL)を入れ、さらに蒸留水(2mL)を加えた。
別途、容量10mLのスクリュー栓付きサンプル瓶中で、4,4’−オキシジベンゾイルクロリド(0.74g、2.5ミリモル)のクロロホルム(5mL)溶液を作製した。
室温下、上記の100mLのナス型フラスコ内の混合物をスターラーで激しく撹拌しつつ、上記のクロロホルム溶液を加え、1時間撹拌を継続した。
その結果、水溶液中に重合体とクロロホルムからなる粘調物が沈んだ混合物を得た。この混合物を、濃塩酸(1mL)を含むメタノール溶液(350mL)に徐々に投入し、白色の沈殿物として重合体を得た。この重合体をクロロホルム(25mL)に溶解させ、メタノール(400mL)に投入することにより再沈殿を行い、次いで、重合体を80℃で8時間真空乾燥をした結果、目的とするポリエステル1.29g(収率95%)を得た。
得られたポリエステルの構造は、IR測定(2903cm−1及び2850cm−1:C−H伸縮、1737cm−1:C=O伸縮、1595cm−1及び1508cm−1:C=C伸縮)と元素分析(分析値=C:79.39%;H:5.52%、計算値=C:79.68%;H:5.57%)により所望の構造となっていることを確認した。ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)分析による標準ポリスチレン換算分子量は、数平均分子量として37800、重量平均分子量として55100であった。
【0035】
実施例2
実施例1において、4,4’−オキシジベンゾイルクロリド(0.74g、2.5ミリモル)の代わりに4,4’−(パーフルオロプロパン−2,2−ジイル)ジベンゾイルクロリド(1.07g、2.5ミリモル)を用いた以外は、同様の方法でポリエステルを1.64g(収率97%)を得た。
得られたポリエステルの構造は、IR測定(2904cm−1及び2851cm−1:C−H伸縮、1744cm−1:C=O伸縮、1611cm−1及び1508cm−1:C=C伸縮)と元素分析(分析値=C:69.02%;H:4.51%、計算値=C:69.23%;H:4.47%)により所望の構造となっていることを確認した。GPC分析による標準ポリスチレン換算分子量は、数平均分子量として16800、重量平均分子量として26900であった。
【0036】
実施例3
実施例1において、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン(0.80g、2.5ミリモル)の代わりに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン(0.80g、2.5ミリモル)を用いた以外は、同様の方法でポリエステル1.26g(収率93%)を得た。
得られたポリエステルの構造は、IR測定(2912cm−1及び2856cm−1:C−H伸縮、1739cm−1:C=O伸縮、1595cm−1及び1502cm−1:C=C伸縮)と元素分析(分析値=C:78.96%;H:5.72%、計算値=C:79.68%;H:5.57%)により所望の構造となっていることを確認した。GPC分析による標準ポリスチレン換算分子量は、数平均分子量として22200、重量平均分子量として32400であった。
【0037】
実施例4
実施例2において、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン(0.80g、2.5ミリモル)の代わりに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン(0.80g、2.5ミリモル)を用いた以外は、同様の方法でポリエステル1.59g(収率94%)を得た。
得られたポリエステルの構造は、IR測定(2913cm−1及び2858cm−1:C−H伸縮、1745cm−1:C=O伸縮、1612cm−1及び1505cm−1:C=C伸縮)と元素分析(分析値=C:69.17%;H:4.53%、計算値=C:69.23%;H:4.47%)により所望の構造となっていることを確認した。GPC分析による標準ポリスチレン換算分子量は、数平均分子量として30900、重量平均分子量として44900であった。
【0038】
比較例1
実施例1において、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン(0.80g、2.5ミリモル)の代わりに4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ジフェノール(ビスフェノールA、0.57g、2.5ミリモル)を用いた以外は、同様の方法でポリエステル1.02g(収率91%)を得た。
得られたポリエステルの構造は、IR測定(2969cm−1及び2873cm−1:C−H伸縮、1737cm−1:C=O伸縮、1595cm−1及び1503cm−1:C=C伸縮)と元素分析(分析値=C:77.05%;H:5.12%、計算値=C:77.32%;H:4.92%)により所望の構造となっていることを確認した。GPC分析による標準ポリスチレン換算分子量は、数平均分子量として21500、重量平均分子量として38800であった。
【0039】
比較例2
実施例2において、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン(0.80g、2.5ミリモル)の代わりに4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ジフェノール(ビスフェノールA、0.57g、2.5ミリモル)を用いた以外は、同様の方法でポリエステル1.30g(収率89%)を得た。
得られたポリエステルの構造は、IR測定(2971cm−1及び2876cm−1:C−H伸縮、1744cm−1:C=O伸縮、1612cm−1及び1506cm−1:C=C伸縮)と元素分析(分析値=C:65.53%;H:3.68%、計算値=C:65.76%;H:3.79%)により所望の構造となっていることを確認した。GPC分析による標準ポリスチレン換算分子量は、数平均分子量として15000、重量平均分子量として26500であった。
【0040】
[評価]
上記各例で製造したポリエステルについて、下記の評価を行った。
(1)ガラス転移温度(Tg)
熱機械分析(TMA)にて測定した。
(2)10%重量減少温度(Td10
窒素雰囲気下、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)にて測定した。
(3)最大非透過光波長(λcut off)及び透過率80%の波長(λ80
実施例及び比較例で製造したポリエステルの5重量%クロロホルム溶液を作製し、これをガラス板上にガラス棒にて流延した。このガラス板をデシケーター中、室温下で12時間静置しクロロホルムを蒸発させた後、80℃で真空乾燥を12時間行った。ガラス板上に形成した膜を剥離することにより、10〜30μm厚のフィルムを作製した。尚、これらのフィルムは柔軟であり、かつ、窒素雰囲気下であれば約400℃まで分解することがないため熱による成形が容易であることから、高い成形性を有することが判明した。
また、これらのフィルムはいずれも透明無色であった。紫外可視(UV/Vis)吸収スペクトルを測定することにより透過しない光の波長の最大値(λcut off)と透過率80%の波長(λ80)を測定した。
評価結果を表1に示す。尚、表中のジオール及びジカルボン酸ジクロリドは重合に用いたモノマー成分を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果より、本発明のアダマンタン構造含有ポリエステルは、成形性に優れ、高透明性、高耐熱性を具備することが確認された。このため、透明材料として極めて有用である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のポリエステルは、光ファイバー、光学レンズ等の光学デバイス、フラットパネルディスプレイ等の表示機器の透明材料として好適に使用できる。
本発明の透明材料は、光ファイバー、光導波路等の光情報伝達装置、CMOSイメージセンサ、CCDイメージセンサ、CD、DVD、ブルーレイディスク、HD DVD、光コンピューター等の光情報処理装置、又は液晶ディスプレー、液晶プロジェクター、プラズマディスプレー、ELディスプレー、LEDディスプレー等の表示装置の構成部材の材料として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)又は(2)で表されるポリエステル。
【化1】

(式中、Rは、単結合、酸素原子、炭素数6〜30の置換もしくは非置換の二価の芳香族基、炭素数1〜20の置換もしくは非置換の二価の直鎖状脂肪族基、炭素数3〜20の置換もしくは非置換の二価の分岐状脂肪族基、炭素数5〜50の置換もしくは非置換の二価の脂環式基、又はこれらの基が複数結合して形成される二価の基である。R’は、炭素数6〜30の置換もしくは非置換の芳香族基、炭素数1〜20の置換もしくは非置換の直鎖状脂肪族基、炭素数3〜20の置換もしくは非置換の分岐状脂肪族基、又は炭素数5〜50の置換もしくは非置換の脂環式基であり、mはR’の置換数であり0〜14の整数である。nは10以上1000以下の整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載のポリエステルを含む透明材料。
【請求項3】
請求項2に記載の透明材料を有機溶媒に溶解させた塗料。
【請求項4】
請求項3に記載の塗料を用いて形成した薄膜。
【請求項5】
請求項2に記載の透明材料からなるフィルム。
【請求項6】
請求項2に記載の透明材料からなる薄板。
【請求項7】
請求項2に記載の透明材料を含む光情報伝達装置。
【請求項8】
請求項2に記載の透明材料を含む光情報処理装置。
【請求項9】
請求項2に記載の透明材料を含む表示装置。

【公開番号】特開2008−184503(P2008−184503A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17615(P2007−17615)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】