説明

アッセイ方法

試験被検体におけるγ−セクレターゼの活性を、被検体から採取される生物学的サンプルを利用して測定する方法が、開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験被検体中のγ−セクレターゼの活性を測定する方法、特に生体被検体から収集された生物学的サンプルを利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
γ−セクレターゼは、ヒトおよび他の動物の中枢神経系(CNS)および末梢神経系に生じる。これは、(少なくとも)プレセニリン−1、ニカストリン、aph−1aおよびpen−2サブユニット類を含む複合膜貫通型アスパルチルプロテアーゼであり、細胞情報伝達および他の生化学的経路に関与する種々の基質の膜内タンパク質分解に介在する。
【0003】
このような基質の1つは、(β−セクレターゼによる切断に続いて)γ−セクレターゼにより切断されてアミロイド−β(Aβ)を放出するアミロイド前駆体タンパク質(APP)であり、これはアルツハイマー病(AD)において重要な役割を果たすと考えられている(例えば、Hardy and Selkoe,Science,297,353−6(2002)を参照のこと)。γ−セクレターゼにより介在されるタンパク質分解の部位が変動することによって、様々な鎖長のAβ(例えば、Aβ(1−38)、Aβ(1−40)およびAβ(1−42))が生じる。Aβ(4−42)などのN末端の切断も脳内で見出されるが、これはおそらくβ−セクレターゼにより介在されるタンパク質分解の部位が変動する結果であると考えられる。便宜上、「Aβ(1−40)」および「Aβ(1−42)」などの表現は、本明細書中で用いられるとき、このようなN末端切断変異体類を含む。細胞外媒質中への分泌後、Aβは、ADにおける重要な神経毒性薬剤であると広く考えられている初期可溶性の凝集体を形成し(Gong et al,PNAS,100(2003),10417−22を参照のこと)、そして最終的にADの病理学的特徴である不溶性析出物および高密度な老人斑を生じる。
【0004】
もう1つのこのような基質は、Notchタンパク質であり、これはNotch情報伝達プロセスの中心である。
【0005】
Notch情報伝達系は、隣接する細胞間の受容体−リガンド相互作用により誘発される。受容体−リガンド相互作用の結果として、Notchタンパク質は、γ−セクレターゼによる膜内のタンパク質分解を受け、細胞内断片を放出し、その断片は、遺伝子発現を調節する核へ移動する。
【0006】
Notch情報伝達系は、分化、増殖、生存およびアポトーシスを含む種々の細胞のプロセスおよび発生プロセスにおいて重要な役割を果たす(Artavanis−Tsakonas et al,Science(1999),284,770−776)。また、重要な証拠により、増強されたかまたは異常に長期にわたるNotch情報伝達系が腫瘍形成に関与することもまた示唆されている(例えば、Callahan and Egan,J.Mammary Gland Biol.Neoplasia(2004),,145−163;Collins et al,Semin.Cancer Biol.(2004),14,357−64;Axelson,同書(2004),14,317−319;Zweidler−McKay and Pear、同書(2004),14,329−340;Weng et al,Mol.Cell.Biol.(2003),23,655−664;およびWeng et al,Science(2004),306,269−271を参照のこと)。
【0007】
従って、γ−セクレターゼの阻害は、かなりの治療的な関心事であり、特にADを処置する観点から多数の小分子阻害剤が開発されている(概説として、Harrison et al,Curr.Opin.Drug Discov.Devel.(2004),(5),709−719を参照のこと)。ADの処置に関連して、Aβ(1−42)の形成を選択的に阻害するためにγ−セクレターゼの作用を調節する化合物もまた関心事である(例えば、WO01/78721およびUS2002/0128319およびWeggen et al Nature,414(2001)212−16;Morihara et al,J.Neurochem.,83(2002),1009−12;Takahashi et al.J.Biol.Chem.,278(2003),18644−70およびBeher et al,J.Biol Chem.,279(2004),43419−26を参照のこと)。
【0008】
動物におけるこのような化合物の前臨床試験およびヒトにおける臨床試験は、インビボで関連化合物の有効性をモニターするための手段の利用可能性によって大いに促進されるであろう。γ−セクレターゼ阻害剤または修飾因子の有効性は、それら由来の細胞培養物または膜調製物を用いてインビトロで日常的にモニターされる(例えば、Beher et al,Biochemistry(2003),42,8133−8142;Li et al,PNAS(2000),97,6138−6143;およびGB2,296,415を参照のこと)。これまでに唯一開示されたエキソビボアッセイは、活性酵素の供給源として脳ホモジネートの使用を含む(例えば、Pinnix et al,J.Biol.Chem,(2001),276,481−487を参照のこと)。このようなアッセイは、実験動物を浪費し、試験化合物の慢性的な投薬の間の有効性を連続的にモニターできず、そしてヒトにおける臨床試験に対する関連性がない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、これらのような欠点を克服する、γ−セクレターゼ活性に対するアッセイが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、本明細書では、
(a)被検体由来の生物学的サンプルからの細胞の分離;
(b)(a)において得られた細胞を界面活性剤で処置して、可溶化された膜調製物を提供すること;
(c)可溶化された膜調製物をγ−セクレターゼに対する外来性基質と接触させること;および
(d)外来性基質の切断生成物を検出することおよび定量すること;
を含む、試験被検体におけるγ−セクレターゼ活性についてのエキソビボアッセイが提供される。
【0011】
段階(a)において、生物学的サンプルは、血液のものであっても組織のものであってもよいが、好ましくは血液のものであり、分離される細胞は好ましくは白血球または末梢血単核球(PBMC)である。白血球またはPBMC(好ましくはPBMC)の分離は、公知の方法、例えば、Accuspin(商標)チューブ内1000gでの遠心分離(Sigma−Aldrich Accuspin(商標)System−Histopaque(商標)−1077、Procedure no.A6929/A7054/A0561を参照のこと)によって実施され得る。あるいは、Leucosep(商標)チューブ(Greinerから市販の)が用いられてよい。このようにして得られた細胞は、望まれる場合は、後の分析のために凍結および保存され得る。
【0012】
段階(b)において、好ましい界面活性剤は、CHAPSO(3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパン−スルホン酸)である。可溶化された膜調製物を提供するための一般的な手順において、段階(a)からの細胞の、蒸留水中の懸濁液(血液の出発容量10mlあたり1ml)をプロテアーゼ阻害剤(例えば、Complete(商標))および0.5%CHAPSOを含む緩衝液で5倍に希釈し、その混合物を23×1ゲージのシリンジ針で6回粉砕し、そして30分間4℃で振とうする。適した緩衝液は、50mM MES、0.3mM NaCl、10mM MgClを含み、pH7.3を呈する。
【0013】
段階(b)に引き続き、調製物のタンパク質含有量をアッセイして(例えば、標準的なBCAアッセイによって)、次の段階における等量の試薬の選択を容易にすることは有利である。
【0014】
段階(c)において、外来性基質は、γ−セクレターゼによる切断を受けて検出および定量され得る断片を放出するいずれかのタンパク質またはペプチドであり得る。好ましい外来性基質は、C100Flag(Li et al、前出)であり、これはAPPの組換え類似体であって、切断生成物としてAβを生成する。適したインキュベーション条件は、前記のLi et alの参考文献および前出のBeher et alに開示されている。
【0015】
段階(d)において、切断生成物の検出および定量は、従来の手段によって実施され得る。切断生成物がAβである場合、Aβ(1−40)および/またはAβ(1−42)は、標識抗体とともにインキュベーションされ、続いて電気化学発光(ECL)分析(例えば、Beher et al,J.Biol.Chem.(2001),276,45394−45402に記載されているように)を行うことによりアッセイされ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
このようにして得られたシグナルは、好ましくはアッセイを、段階(c)に過剰量の公知のγ−セクレターゼ阻害剤の存在下で実施するという修正を施して繰り返すことによって得られるバックグラウンドシグナルを差し引くことによって補正される。適した阻害剤類は、L−685,458として同定された化合物(Shearman et al,Biochemistry(2000),34,8698−8704)およびWO03/093252に開示された化合物を含む。最も一般には、段階(c)および(d)は、いくつかのウェルが公知の阻害剤を含むマルチウェルプレートを含む自動化方法を用いて実施される。望むならば、切断生成物の実際の濃度は、既知の濃度の標準生成物について実施された測定から得られる検量線への参照により測定され得る。
【0017】
アッセイに必要な血液の量は十分に少量であるので、少なくとも大動物(例えば、霊長類およびイヌ類)の場合、動物を犠牲にすることなくアッセイが実施され得る。このような場合、アッセイは、同じ被検体からの血液を用いて適した間隔で反復することができ、それにより酵素活性の経時的な変化をモニターすることができる。最も重要なことに、アッセイは、ヒト被検体からならびに霊長類、イヌ類およびげっ歯類(特にラット類またはマウス類)を含む実験動物から得られる血液について実施することができる。1つの好ましい実施形態において、血液は、事前にγ−セクレターゼの推定上の阻害剤または修飾因子で処置した被検体から得られ、これによりアッセイは、インビボにおける前記阻害剤または修飾因子の効率の測定を提供する。
【0018】
1つの実施形態において、アッセイは、インビトロでγ−セクレターゼの作用を阻害することが知られている試験化合物で処置した被検体から得られる血液サンプルについて実施される。
【0019】
もう1つの実施形態において、アッセイは、インビトロで、APPのγ−セクレターゼ介在切断によるAβ(1−42)の形成を選択的に阻害することが知られている試験化合物で処置した被検体から得られる血液サンプルについて実施される。
【0020】
従ってアッセイにより、試験被検体中の末梢性γ−セクレターゼに対する試験化合物のインビボでの有効性をモニターすることが可能となる。試験化合物の関連PKパラメータが既知である場合、結果はCNS中の、特に脳中のγ−セクレターゼに対する有効性を推定するために用いられ得る。これは、実験動物の脳中のAβの実際のレベルを(公知の手順を用いて)測定し、その結果を本明細書中に記載されたアッセイにより測定される末梢における酵素阻害のレベルと関連させることによって達成され得る。この相関関係を用いて、試験化合物によって引き起こされるヒト被検体における末梢性の酵素阻害の程度により、前記被検体の脳中の阻害の程度を推定することができるが、試験化合物の脳対血漿の比は推定されなければならない(例えば、他の種における測定からの内挿によって)という注意を伴う。
【0021】
(実施例)
一般的な手順は以下のとおりである:
1.雄CDラットをペントバルビタール(約60mg/kg)で麻酔し、上行大静脈を露出させる。動物をヘパリン処理し(約0.5ml、1000単位/ml、i.v.)、末端血液のサンプル(8から12ml)を大静脈から採取し、動物を失血させる。
2.血液を事前に室温に温められたAccuspinチューブに注意深くピペットで移す。容量が6mlを超える場合、1サンプルにつき2本のチューブを用いる。
3.チューブを1000gで遠心し、そしてPBMC(末梢血単核球)の白いバンドを2mlエッペンドルフ(Eppendorfs)に吸引する。
4.PBMCを1000gで1分間、卓上(benchtop)遠心機でペレットにし、血漿を吸引除去する。
5.PBMCペレットを少なくとも1回、1mlのリン酸緩衝食塩水を添加することにより洗浄し、再懸濁するために渦巻攪拌し、そして別の遠心サイクルでペレットにする。
6.洗浄したペレットを−80℃で急速凍結する(タイミングによって、一晩の段階まで停止することが可能である)。
7.解凍後、ペレットを血液の出発容量各10mlあたり1mlの水の比で蒸留水中に再懸濁する。
8.次いで細胞懸濁液を5倍量の1×MES緩衝液(50mM MES、0.3mM NaCl、10r MgCl、pH7.3)、1×プロテアーゼ阻害剤(Complete(商標))および0.5%CHAPSOで容量を増量し、23×1ゲージシリンジ針で6回粉砕し、4℃で30分間振とうすることによって可溶化する。
9.このインキュベーション後、抽出物を渦巻攪拌し、標準的なBCAアッセイにより[タンパク質]について定量する。
10.すべての濃度が既知であるとき、抽出物は1×MES緩衝液/0.5%CHAPSO/1×プロテアーゼ阻害剤および以下のインキュベーションセット中に、一般的な濃度(通常、0から1mg/ml)まで希釈される。
5μlのDMSO(または20×γ−セクレターゼ阻害剤)
35μlのプレミックス(1.5μlの20%CHAPSO、8.5μlの水、25μlの4×アッセイ緩衝液
20μlのC100Flag基質
40μlの規準化膜調製物(再度渦巻攪拌された)
[すべての抽出物を、DMSOおよび他の10μM L−685458(または等価物)を含むいくつかのウェルで試験し、非特異的なアッセイシグナルを差し引くことを可能にしなければならない。合成ペプチドの検量線を組み込むことによっても、生成されるAβ(40)の定量が可能になるだろう。]
11.37℃で3時間混合した後、4G8BioおよびG2−10Ruを用い、ECL法およびBioveris M−8 Origen machineまたはMesc Scale Discovery Sector 6000 imagerのいずれかを用いる標準的な一晩の(overnight)Aβ(40)検出アッセイのために75μlを取り出す。
4×アッセイ緩衝液=80mM HEPES、8mM EDTA、0.4%BSA
【実施例1】
【0022】
上記の手順に続いて無処置のラットおよびビーグル犬からの血液を用いた。強力なECLシグナルが各場合において得られた。公知のγ−セクレターゼ阻害剤を段階10のウェルに添加したとき、シグナルが用量に依存して減弱したが、これはPBMCが活性酵素にとって生存可能の源であることを示唆する。
【実施例2】
【0023】
2匹のラット各々に、WO03/093252の実施例14において開示された化合物を、インビボでγ−セクレターゼの100%阻害を提供するように計算された用量(30mg/Kg p.o.)で投薬した。4時間後、血液サンプルを採取して上記のように処理し、2匹の無処置対照からの血液サンプルも同様に処理した。各対照サンプルは、同様の強力なECLシグナルを発したが、試験サンプルのいずれからも感知できるほどのシグナルは、検出されなかった。このことは、酵素阻害が抽出手順で残存したことを示唆する。
【実施例3】
【0024】
ラットを以下の処置群(1群あたり3匹):対照(ビークル)、陽性対照(WO03/093253の実施例14、30mpk)、試験1(10mpk試験化合物)、試験2(30mpk試験化合物)および試験3(100mpk試験化合物)に割り当てた。投薬の4時間後、血液サンプルを上記のように処理し、結果を以下の表に要約した:
【0025】
【表1】

【0026】
このようにして、アッセイによりインビボでのγ−セクレターゼの用量依存の阻害が検出された(試験2群および試験3群についての同様の結果は、用量が異なるにもかかわらずこれらの群において薬物の血漿レベルが同様であったことを反映した。)。
【実施例4】
【0027】
これらの手順を霊長類におけるγ−セクレターゼ活性の測定に適用することができることを確認するために、PBMCペレットを、3被検体により提供されたアカゲザル血液およびヒト血液から抽出し、上記のように処理し、ラットサンプルと比較した。すべての場合において、Aβ(40)(エキソビボで生成された)に対する強力なシグナルが検出された。このシグナルは、公知のγ−セクレターゼ阻害剤を添加することにより用量に依存して減弱し、その作用強度(計算されたIC50によって表される)が3つのすべての種においておおまかに似ていたことが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)試験被検体由来の生物学的サンプルからの細胞の分離;
(b)(a)において得られた細胞を界面活性剤で処置して、可溶化された膜調製物を提供すること;
(c)該可溶化された膜調製物をγ−セクレターゼに対する外来性基質と接触させること;および
(d)該外来性基質の切断生成物を検出することおよび定量すること;
を含む、該試験被検体におけるγ−セクレターゼ活性についてのエキソビボアッセイ。
【請求項2】
段階(b)における細胞が、白血球または末梢血単核球である、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項3】
段階(c)における外来性基質が、C100Flagである、請求項1または請求項2に記載のアッセイ。
【請求項4】
段階(d)において検出される切断生成物が、Aβ(1−40)またはAβ(1−42)である、請求項1から3のいずれかに記載のアッセイ。
【請求項5】
切断生成物が、電気化学発光分析を用いて検出および定量される、請求項4に記載のアッセイ。
【請求項6】
細胞が、インビトロでγ−セクレターゼの作用を阻害することが知られている化合物で処置した試験被検体から得られる、請求項1から5のいずれかに記載のアッセイ。
【請求項7】
前記細胞が、インビトロで、APPのγ−セクレターゼ介在切断によるAβ(1−42)の形成を選択的に阻害することが知られている化合物で処置した試験被検体から得られる、請求項1から5のいずれかに記載のアッセイ。
【請求項8】
試験被検体がヒトである、請求項6または請求項7に記載のアッセイ。

【公表番号】特表2008−522606(P2008−522606A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544998(P2007−544998)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【国際出願番号】PCT/GB2005/050238
【国際公開番号】WO2006/061660
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(390035482)メルク シャープ エンド ドーム リミテッド (81)
【Fターム(参考)】