説明

アデノウイルスベクターの製造および精製のための新規方法

本発明は、宿主細胞をバイオリアクター内で生育させ、そして、サイズ分画精製により精製することにより精製されたアデノウイルス組成物を得る、アデノウイルス組成物を製造するための進歩した方法に関する。本発明は、ウイルス含有組成物から夾雑物を除去するための方法を提供する。この方法は、選択されたウイルス及び望ましくない夾雑物を含む水性組成物を得る工程、及び、該水性組成物を、ウイルスは保持し、かつ夾雑物は通過させる分画細孔を有するサイズ分画膜を用いたサイズ分画精製に供して夾雑物を除去することにより精製されたウイルス組成物を得る工程、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は一般的に細胞培養及びウイルス製造の分野に関する。より詳しくは、哺乳類細胞の培養、そのような細胞のアデノウイルスによる感染、及び、それからの感染性アデノウイルス粒子の製造のための進歩した方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連分野の説明)
種々の癌及び遺伝子疾患は現在遺伝子療法の対象となっている。ウイルスは特定の細胞型への核酸送達においては高度に効率的であるが、感染した宿主の免疫系による検出を回避する場合が多い。このような態様のため、特定のウイルスが遺伝子療法において使用するための遺伝子送達ビヒクルとしての魅力的な候補となっている(Robbins and Ghivizzani,1998;Cristiano et al.,1998)。複製不能であり、このため非病原性である修飾されたアデノウイルスは多くの代謝及び癌腫瘍学的な障害のための治療用遺伝子を送達するためのビヒクルとして使用されている。これらのアデノウイルスベクターは、DNAが宿主ゲノムに組み込まれず、トランスジーンの発現が制限されるため、一過性の治療用遺伝子発現により最も良好に治療される癌のような障害に特に適している。アデノウイルスベクターはまた、遺伝子又は代謝の欠陥又は不全が、その欠陥又は不全を緩和する産物をコードする置き換え遺伝子の発現を可能にすることにより緩和される、遺伝子置き換え療法において顕著な利益をもたらす場合がある。
【0003】
アデノウイルスは治療用又はレポーターのトランスジーンを種々の細胞型に効率的に送達するように修飾できる。ヒトにおいて呼吸器疾患を誘発する組み換えアデノウイルス2型及び5型(それぞれAd2及びAdV5)は遺伝子療法のために現在開発中のものに属する。Ad2及びAdV5は共にヒトの悪性疾患には関連しないアデノウイルスのサブクラスに分類される。最近、ハイブリッドアデノウイルスベクターAdV5/F35が開発され、そして遺伝子療法及び関連の研究において多大な利点があることがわかった(非特許文献1)。
【0004】
組み換えアデノウイルスは極めて高水準のトランスジーン送達を与えることができる。遺伝子的不均衡を補完するインビボの治療用トランスジーンの送達におけるこの系の効力は種々の障害の動物モデルにおいて明らかにされている(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;及び非特許文献6)。実際、嚢胞性線維症膜貫通調節物質(CFTR)に関するcDNAをコードする組み換え複製能欠損型アデノウイルスが少なくとも2つのヒトCF臨床治験での使用において認可されている(非特許文献7)。Hurwitz等(1999)は癌(網膜芽種)のマウスモデルにおいてアデノウイルス媒介遺伝子療法の治療有効性を示している。
【0005】
臨床治験が進行するに従って、臨床用等級のアデノウイルスベクターの要求量が劇的に高まっている。300患者臨床治験のための見積上の年間要求量は約6×1014PFUに達すると考えられる。
【0006】
伝統的には、アデノウイルスは市販の組織培養フラスコ又は「セルファクトリー」中において製造されている。アデノウイルスベクター生産はTフラスコのようなHEK293細胞の結合のための培養表面を供給する培養装置中で一般的には実施されている。ウイルス感染細胞を採取し、凍結−解凍することにより粗製の細胞溶解物の形態で細胞からウイルスを放出させる。生成した粗製の細胞溶解物(CCL)は次に、二重CsCl勾配超遠心分離により精製される。典型的に報告されている100シングルトレーセルファクトリーからのウイルス収量は6×1012PFUである。明らかに、この伝統的プロセスを用いてウイルスの所要量を生産することは非現実的になりつつある。増大する要求量を満足するためには、新しい拡張可能で有効性確認可能な生産及び精製のプロセスを開発しなければならない。
【0007】
CsCl勾配超遠心分離の精製スループットには遺伝子療法用途のためのアデノウイルスベクターの要求量を満足できないような限界がある。従って、大規模なアデノウイルスベクター製造を達成するためには、CsCl勾配超遠心分離以外の精製方法を開発しなければならない。ウイルスのクロマトグラフィー精製に関する報告は、組み換え蛋白の精製のためのクロマトグラフィーの広範な適用にも関わらず、極めて限定されている。サイズエクスクルージョン、イオン交換及びアフィニティークロマトグラフィーはレトロウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルス及び植物ウイルスの精製に関して評価されているが、その良好性は多様である(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12)。アデノウイルスのクロマトグラフィー精製に関する研究はなお更に少ない。研究活動がこのように欠乏していることは部分的には、拡張不可能であってもなお有効な、アデノウイルス用のCsCl勾配超遠心分離精製法が存在していることに起因している。
【0008】
最近、非特許文献13は金属キレートアフィニティークロマトグラフィーと共にイオン交換クロマトグラフィーを使用するアデノウイルスベクターの精製を報告している。CsCl勾配超遠心分離と同様のウイルス純度が報告されている。残念なことに、二重カラム精製プロセス後にはウイルスの僅か23%しか回収されていない。この低いウイルス回収に寄与しているプロセス要因は細胞からウイルスを放出するために細胞を溶解するために著者等により使用されている凍結/解凍の工程及び2カラム精製操作法である。本発明にとって利点となるものは、参照により本明細書に組み込まれる同時保有の米国特許出願2004/0106184A1の開示であり、それは精製されたアデノウイルス粒子を提供するためにクロマトグラフィー媒体にアデノウイルス粒子調製物を通過させるための方法に関する。
【0009】
E1欠失第1世代アデノウイルスベクターの大部分について、製造はイントランスでアデノウイルスベクターE1欠失を補完するHEK293(ヒト胚性腎細胞、Invitrogen Corp.)細胞を使用しながら実施されている。HEK293細胞の足場依存性の為に、アデノウイルスベクター生産は一般的にはTフラスコ、多層CellfactoriesTM及び大規模CellCubeTMバイオリアクター系のようなHEK293細胞の結合のための培養表面を供給する培養装置内で実施されている。最近、HEK293は種々の血清非含有培地中の懸濁培養に適合され、懸濁バイオリアクター中におけるアデノウイルスベクターの生産を可能にしている。遠心分離を用いたウイルス感染時における完全な培地交換は大規模では実施が困難である。更にまた、外部濾過装置の為に必要な培地の再循環に伴う剪断応力も同様に蛋白非含有培地中の宿主細胞に対する悪影響を有している。
【0010】
本発明にとって有利なものは、参照により本明細書に組み込まれる同時保有の特許文献1及び特許文献2の開示であり、これは、血清非含有条件、そして特に血清非含有懸濁培養において生育させた細胞を用いた進歩したAd−p53生産方法に関する。同様に本発明にとって有利なものは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願09/203,078に基づく同時保有の特許文献3であり、これは、結合細胞培養系における低培地灌流速度の使用に関する。
【0011】
明らかに、このような生成物への増大し続ける要求性を満足するために高収率で生成物を回収するアデノウイルスベクター製造の進歩した方法が望まれている。アデノウイルスベクター製造の進歩した方法は、製造をより効率的にするための進歩した手法、又はアデノウイルスベクター生産を増大させる操作条件の最適化を包含する。
【特許文献1】米国特許第6,194,191号明細書
【特許文献2】米国特許第6,726,907号明細書
【特許文献3】国際公開第00/32754号パンフレット
【非特許文献1】Yotndaら、Gene Ther.,2001年,8:p.930−37
【非特許文献2】Watanabe,Atherosclerosis,1986年,36,p.261−268
【非特許文献3】Tanzawaら、FEBS Letter,1980年,118(1):p.81−84
【非特許文献4】Golastenら、New Engl.J.Med.1983年,309(11983):p.288−296
【非特許文献5】Ishibashiら、J.Clin.Invest.,1993年,92:p.883−893
【非特許文献6】Ishibashiら、J.Clin.Invest.,1994年,93:p.1885−1893
【非特許文献7】Wilson,Nature,1993年,365:p.691−692
【非特許文献8】Crooksら、J.Chromatogr.,1990年,502(1):p.59−68
【非特許文献9】Aboudら、Arch.Virol.,1982年,71:p.185−195
【非特許文献10】McGrathら、J.Virol.,1978年,25:p.923−927
【非特許文献11】Smith and Lee,Anal Biochem.,1978年,86(1):p.252−263
【非特許文献12】O’Neil and Balkovic,Biotechnology,1993年,11(2):p.173−178
【非特許文献13】Huygheら、Human Gene Therapy(1996)6:p.1403−1416
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
本発明は複雑な精製工程を必要とすることなく治療投与のために十分な純度のアデノウイルス組成物を包含する精製されたウイルス組成物を製造するための方法に関する。より詳しくは、本発明は以前には必要であると考えられていたクロマトグラフィー及び他の方法のような追加的精製工程を伴うことなく、治療投与してよい十分な純度のアデノウイルス調製物を提供するために、サイズ分画精製手法を使用してよいという発見に関する。本発明の如何なる特定の理論によっても拘束されないことを意図するが、血清非含有培地中の細胞懸濁培養物中でウイルス宿主細胞をプロセシングする工程が夾雑物の低減された負荷量を有するウイルス粒子製品をもたらすと考えられる。更にまた、夾雑物は単純なサイズ分画精製工程によりそれらがウイルス粒子から容易に分離されるようなサイズ及び性質のものである。
【0013】
伝統的なクロマトグラフィー精製工程を行うことなく精製されたアデノウイルス調製物を製造する能力は出費を低減しつつウイルス製造収率を有意に向上させる。
【0014】
特に、本発明は選択されたウイルス及び望ましくない夾雑物を含む水性組成物を得ること、及び、水性組成物を、ウイルスは保持するが夾雑物は通過させる分画細孔を有するサイズ分画膜を用いたサイズ分画精製に供して夾雑物を除去することにより精製されたウイルス組成物を得ること、を含むウイルス含有組成物から夾雑物を除去するための方法を提供する。当然ながら、分画細孔のサイズは好ましくは保持すべきウイルスのサイズに基づいて選択されることになり、そのような場合、ウイルスは保持するが夾雑物は通過させるようにウイルスよりも十分小さい細孔又は封入部のサイズを有する膜を選択することになる。同様に、細孔又は封入部のサイズが小さすぎると、一部の望ましくない夾雑物が保持される場合がある。従って、最適な孔径は大部分のウイルスは保持するが大部分の夾雑物は通過させるものである。一般的に、ウイルス及び相当する提案される好ましい孔径は以下の表1に示すものとなる。
【0015】
【表1】

特定の実施形態においては、本発明は、以下の工程、即ちa)培地中に宿主細胞を生育させること;b)該宿主細胞に栄養物を提供すること;c)該宿主細胞をアデノウイルスに感染させること;d)該宿主細胞を溶解してアデノウイルスを含有する細胞溶解物を得ること;及び、e)サイズ分画膜を用いたサイズ分画精製により該溶解物からアデノウイルスを精製することにより精製されたアデノウイルス組成物を得ること、を含む精製されたアデノウイルス組成物を製造する方法。
【0016】
本発明の方法はウイルスがアデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス又はヘルペスウイルスである場合に使用してよい。
【0017】
本発明の特に好ましい方法はサイズ分画膜が旋回流濾過装置内にあるものである。
【0018】
本発明の1つの態様によれば、サイズ分画膜は多孔性フィルターである。より詳しくはサイズ分画膜は透析膜であってよい。サイズ分画膜は好ましくは約0.08ミクロン未満であり、約0.0001ミクロン超である孔径を有する。0.05ミクロン未満であり0.0001ミクロン超である孔径を有するサイズ分画膜及び0.02ミクロン未満であり0.0001ミクロン超である孔径を有するものが好ましい。アデノ随伴ウイルス(AAV)のようなウイルスの場合は、0.01ミクロン未満であり0.0001ミクロン超である孔径が好ましい。
【0019】
本発明の1つの態様によれば、サイズ分画精製はゲル濾過精製により行われ得る。しかしながらこのような方法は、ゲル濾過サイズ分画は容量の劇的な増大を起こし、そしてウイルス調製物を希釈するため、好ましくはない。このように希釈された調製物はその後再濃縮しなければならず、これは高価であり、望ましくない。
【0020】
本発明の1つの態様によれば、イオン交換クロマトグラフィーのような追加的な精製工程を使用することなく薬学的に受容可能な程度にまでウイルスを精製してよい。薬学的に受容可能な程度とは、生成物のヒト臨床使用に影響を与えないように、動物由来の夾雑物を実質的に非含有、そして、他の蛋白不純物を非含有であることが、SDS−PAGEゲル上で観察されることを意味する。本発明の別の態様として、精製されたアデノウイルス組成物は、1ミリリットル用量当たり夾雑物DNA10ナノグラム未満の純度を有する。
【0021】
本発明の1つの態様によれば、少なくとも5×1015ウイルス粒子、より好ましくは1×1016ウイルス粒子が単一の培養調製物から得られる。
【0022】
宿主細胞は好ましくは血清非含有培地中で生育可能であり、そして血清非含有培地中で生育される。本方法によれば、宿主細胞は生育培地のウシ胎児血清含有量の逐次的低下により血清非含有培地中における生育に適合させてよい。好ましい宿主細胞はHEK293細胞である。宿主細胞は、灌流チャンバー、バイオリアクター、可撓性ベッドプラットホーム中、又は、フェッドバッチにより、少なくとも一部の時間、生育させてよい。1つの方法によれば、細胞は、0.5g/Lより高値のグルコース濃度を与えるような速度においてグルコース含有培地で灌流され、そして、0.7〜1.7g/Lのグルコース濃度を与えるような速度における灌流が特に好ましい。細胞は細胞懸濁培養物として、又は、足場依存培養物として生育させてよい。
【0023】
宿主細胞の溶解は、低張性溶液、高張性溶液、インピンジジェット、マイクロ流動化、固体剪断、洗剤、液体剪断、高圧押し出し、自己溶解又は超音波を包含するプロセスにより実施してよい。適当な洗剤は、Thesit(登録商標)、NP−40(登録商標)、Tween−20(登録商標)、Brij−58(登録商標)、Triton X−100(登録商標)又はオクチルグルコシドのような市販品を包含する。本発明の1つの態様によれば、洗剤は約1%(w/v)の濃度で溶解溶液中に存在する。次に、細胞溶解物をBenzonase(登録商標)又はPulmozyme(登録商標)で処理してよい。
【0024】
本発明の1つの態様によれば、ウイルス粒子は遺伝子療法における使用を意図される。従って、ウイルス粒子は外来遺伝子構築物をコードするアデノウイルスベクターを含むアデノウイルスである。本発明の別の態様によれば、遺伝子構築物はプロモーターに作動可能に連結している。適当なプロモーターはSV40 IE、RSV LTR、β−アクチン、CMV IE、アデノウイルス主要後期、ポリオーマF9−1又はチロシナーゼである。
【0025】
外来遺伝子構築物は治療用遺伝子をコードすることができる。このような遺伝子は当業者に知られたものであり、アンチセンスras、アンチセンスmyc、アンチセンスraf、アンチセンスerb、アンチセンスsrc、アンチセンスfms、アンチセンスjun、アンチセンスtrk、アンチセンスret、アンチセンスgsp、アンチセンスhst、アンチセンスbcl、アンチセンスabl、Rb、CFTR、p16、p21、p27、p57、p73、C−CAM、APC、CTS−1、zac1、scFV ras、DCC、NF−1、NF−2、WT−1、MEN−I、MEN−II、BRCA1、VHL、MMAC1、FCC、MCC、BRCA2、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、GM−CSF G−CSF、チミジンキナーゼ又はp53をコードするものを包含するが、これらに限定されない。
【0026】
好ましいウイルスベクターはアデノウイルスベクター、特にアデノウイルスが複製不能アデノウイルスであるものを包含する。このような複製不能アデノベクターは、アデノウイルスがE1領域の少なくとも一部分を欠失しているものを包含し、そしてE1A及び/又はE1B領域の少なくとも一部分を欠失しているものが好ましい。1つの方法によれば複製不能アデノウイルスは複製を補完することができる宿主細胞内で生産される。本発明はアデノウイルスの製造及び精製のための新しいプロセスを記載する。この新しい製造プロセスは拡張可能性で有効性確認可能性のみならず優れたウイルス純度を与える。
【0027】
本発明の好ましい実施形態においては、アデノウイルスは外来遺伝子構築物をコードするアデノウイルスベクターを含む。特定の実施形態においては、遺伝子構築物はプロモーターに作動可能に連結している。特定の実施形態においては、プロモーターはSV40 IE、RSV LTR、β−アクチン、CMV IE、アデノウイルス主要後期、ポリオーマF9−1又はチロシナーゼである。本発明の特定の実施形態においては、アデノウイルスは複製不能アデノウイルスである。別の実施形態においてはアデノウイルスはE1領域の少なくとも一部分を欠失している。特定の態様においてはアデノウイルスはE1A及び/又はE1B領域の少なくとも一部分を欠失している。別の実施形態においては、宿主細胞は複製を補完することができる。特に好ましい実施形態においては、宿主細胞はHEK293細胞である。
【0028】
本発明の好ましい実施形態においては、外来遺伝子構築物は治療用遺伝子をコードしている。例えば、治療用遺伝子は、アンチセンスras、アンチセンスmyc、アンチセンスraf、アンチセンスerb、アンチセンスsrc、アンチセンスfms、アンチセンスjun、アンチセンスtrk、アンチセンスret、アンチセンスgsp、アンチセンスhst、アンチセンスbcl、アンチセンスabl、Rb、CFTR、p16、p21、p27、p57、p73、C−CAM、APC、CTS−1、zac1、scFV ras、DCC、NF−1、NF−2、WT−1、MEN−I、MEN−II、BRCA1、VHL、MMAC1、FCC、MCC、BRCA2、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、GM−CSF G−CSF、チミジンキナーゼ又はp53をコードしている。
【0029】
本発明の特定の態様においては、細胞を採取し、そして、低張性溶液、高張性溶液、凍結解凍、超音波処理、インピンジジェット、マイクロ流動化又は洗剤を用いながらエクスサイチュにおいて溶解してよい。別の態様において、細胞を採取し、そして、低張性溶液、高張性溶液又は洗剤を用いてインサイチュで溶解する。本明細書においては、「インサイチュ」という用語は、例えばCellCubeTMのような組織培養器具内に細胞が位置することを指し、そして「エクスサイチュ」とは組織培養器具から細胞が取り出されることを指す。
【0030】
特定の実施形態においては、細胞は洗剤を用いて溶解され、採取される。好ましい実施形態においては、洗剤はThesit(登録商標)、NP−40(登録商標)、Tween−20(登録商標)、Brij−58(登録商標)、Triton X−100(登録商標)又はオクチルグルコシドであってよい。本発明の別の態様においては、溶解は感染細胞の自己溶解を介して達成される。より特定の実施形態においては、洗剤は約1%(w/v)の濃度で溶解溶液中に存在する。本発明の特定の別の態様においては、細胞溶解物はBenzonase(登録商標)又はPulmozyme(登録商標)で処理される。
【0031】
特定の実施形態においては、方法は更に膜濾過を使用する濃縮工程を含む。特定の実施形態においては、濾過は旋回流濾過である。好ましい実施形態においては、濾過は100〜1000KのNMWC、再生セルロース又はポリエーテルスルホン膜を利用してよい。
【0032】
本発明はまた、培地中で宿主細胞を生育させること、宿主細胞をアデノウイルスに感染させること、宿主細胞を採取して溶解することにより粗製の細胞溶解物を得ること、粗製の細胞溶解物を濃縮すること、粗製の細胞溶解物の緩衝液を交換すること、及び、粗製の細胞溶解物中の夾雑核酸の濃度を低減することの工程を含むプロセスにより製造されたアデノウイルスを提供する。
【0033】
更に別の実施形態においては、本発明は、血清非含有培地中で宿主細胞を生育させること;該宿主細胞をアデノウイルスに感染させること;該宿主細胞を採取して溶解することにより粗製の細胞溶解物を得ること;該粗製の細胞溶解物を濃縮すること;粗製の細胞溶解物の緩衝液を交換すること;及び、該粗製の細胞溶解物中の夾雑核酸の濃度を低減することの工程を含むアデノウイルスの精製のための方法を提供する。好ましい実施形態においては、細胞は細胞懸濁培養物として、又は、足場依存培養物として、独立して生育させてよい。
【0034】
特定の実施形態においては、宿主細胞は血清非含有培地中における生育に適合させる。より好ましい実施形態においては、血清非含有培地中での生育への適合は生育培地のウシ胎児血清含有量の逐次的低減を含む。より詳しくは、血清非含有培地は0.03%v/v未満のウシ胎児血清含有量を含む。
【0035】
本発明により同様に意図されるものは、血清非含有培地中で宿主細胞を生育させること;該宿主細胞をアデノウイルスに感染させること;該宿主細胞を採取して溶解することにより粗製の細胞溶解物を得ること;該粗製の細胞溶解物を濃縮すること;粗製の細胞溶解物の緩衝液を交換すること;及び、該粗製の細胞溶解物中の夾雑核酸の濃度を低減することの工程を含むプロセスに従って製造されたアデノウイルスである。
【0036】
本発明は更に血清非含有培地中における生育に適合された293宿主細胞を提供する。特定の態様において、血清非含有培地中における生育への適合は生育培地中のウシ退治血清含有量の逐次的低減を含む。特定の実施形態においては、細胞は懸濁培養中の生育に適合されている。特定の実施形態においては、本発明の細胞はIT293SF細胞と標記される。これらの細胞は特許手続きの目的のための微生物の寄託の国際的な認識によるブダペスト条約の要件に合致するように、American Tissue Culture Collection(ATCC)に寄託されている。細胞は1997年11月17日にIntrogen Therapeutics,Inc.(Houston,Tex)の代理としてDr.Shuyuan Zhangにより寄託された。IT293SF細胞系統は本明細書に記載する通り血清非含有懸濁培養への293細胞系統の適合により誘導される。細胞は100mg/Lヘパリン及び0.1%Puronic F−68を添加したIS293血清非含有培地(Irvine Scientific,Santa Ana,Calif.)中において培養してよく、そしてヒトアデノウイルス感染に対して許容性がある。
【0037】
本発明の他の目的、態様及び利点は以下の詳細な説明から明らかにされる。しかしながら、詳細な説明及び特定の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示しているものの、本発明の精神及び範囲内における種々の変更及び改変は本詳細な説明から当業者には明らかとなるため、単に例示に過ぎないものである。
【0038】
本発明の他の実施形態は、(1)バイオリアクター中の培地中で宿主細胞を生育させること及び新しい培地及びアデノウイルスで宿主細胞を希釈することによりウイルス感染を開始することの工程を包含する、アデノウイルス調製物を調製すること;及び(2)アデノウイルス調製物からアデノウイルスを単離すること、を包含するアデノウイルスを製造するための方法に関する。宿主細胞の生育を支援することができる当業者に知られた何れかのバイオリアクターが本発明における使用について意図される。種々の型のバイオリアクターの詳細な考察は明細書の他の部分において後述する。
【0039】
本発明の1つの態様によれば、血清非含有培地は、培地がバイオリアクター中の細胞の成育を支援することができる限り、バイオリアクターと組み合わせて使用するために好ましい。他の実施形態においては、培地は蛋白非含有培地である。一部の実施形態においては、培地はCD293倍値(Invitrogen Corp.TM)である。本発明の実施形態においては、宿主細胞は足場依存培養物、又は、非足場依存(懸濁)培養物中に生育させてよい。
【0040】
バイオリアクターを必要とするアデノウイルスを生産する方法に関する本発明の実施形態においては、当業者によく知られた何れかのバイオリアクターが本発明により意図される。特定の実施形態においては、例えばバイオリアクターはバイオリアクターの内部に波動を誘導する平面プラットホームの軸揺動を使用するバイオリアクターを含む。一部の実施形態においては、波動は宿主細胞が位置する滅菌ポリエチレン袋の内部において誘導する。別の実施形態においては、バイオリアクターは使い捨てバイオリアクターである。何れの大きさのバイオリアクターも本発明では意図している。例えばバイオリアクターは10L、20L〜200L又はそれより大容量のバイオリアクターであってよい。更に、バイオリアクターは市販のバイオリアクターであってよい。例えばバイオリアクターはWave Bioreactor(登録商標)(Wave Biotech,LLC,Bedminster,NJ)であってよい。本発明の1つの態様によれば、8Lワーキング容量を有する20L容のWave Bioreactor(登録商標)を使用してネイティブのp53遺伝子で形質転換されたアデノウイルスベクターを培養してよい。培養物はTween(登録商標)−20を用いて感染後2日に採取することにより、2.3×1011ウイルス粒子/mL又は230,000ウイルス粒子/細胞の収率を得てよい。このような収率においては、200L容のバイオリアクターは約2×1016vpを与えることが期待される。
【0041】
アデノウイルスを製造する方法に関する本発明の実施形態においては、細胞培養の操作条件は当業者に知られた何れかの手法でモニタリング又は測定してよい。モニタリングしてよいこのような条件の例は培地のpH及び培地の溶存酸素張力を包含する。
【0042】
アデノウイルスを製造する方法に関する本発明の実施形態においては、細胞培養の操作条件は当業者に知られた何れかの手法でモニタリング又は測定してよい。モニタリングしてよいこのような条件の例は培地のpH及び培地の溶存酸素張力を包含する。
【0043】
アデノウイルスを製造する方法に関する本発明の一部の実施形態は当業者に知られた何れかの方法により培地をプロセシング及び処理することに関わる。例えば本発明の特定の実施形態においては、アデノウイルスを製造するための方法はフィルターを通して培地を灌流させることに関わる。フィルターはバイオリアクターシステムに内在するフィルターであってよく、或いは、フィルターはバイオリアクターの外部にあるように組み込んでもよい。特定の実施形態においては、フィルターはフローティングフラットフィルターである。フローティングフラットフィルターはバイオリアクターから使用済み培地を除去するために使用してよい。当業者に知られた何れかの方法を用いて培地容量をモニタリングして維持してよい。一部の実施形態においては、培養物の容量は新しい培地の添加をトリガーするために使用されるロードセルにより維持される。
【0044】
本発明の実施形態において、培地は宿主細胞の培養物中に灌流してもしなくてもよい。本発明の一部の実施形態においては、培地の灌流は宿主細胞生育第3日に開始する。細胞培養系に培地を灌流するために使用する手法及び器具については広範なものを当業者は熟知しているはずである。
【0045】
アデノウイルスを製造する方法に関する本発明の実施形態においては、新しい培地で宿主細胞を希釈する工程はアデノウイルス感染工程と組合わせてよい。これはこれらの2つの工程を効率的に組合わせることによりアデノウイルスベクターの優れた収率を可能にすることができるという本発明者等の発見に基づいている。本発明は当業者に知られた希釈の如何なる方法の使用も意図している。特定の実施形態においては、宿主細胞は新しい培地及びアデノウイルスで2倍〜50倍希釈する。別の実施形態においては、宿主細胞は新しい培地及びアデノウイルスで10倍希釈する。
【0046】
アデノウイルスを製造する方法に関する本発明の実施形態においては、宿主細胞のウイルス感染の開始は当業者に知られた如何なる方法により行ってもよい。例えばバイオリアクターを使用する本発明の実施形態においては、ウイルス感染は第2のバイオリアクター中で行ってよい。例えば宿主細胞のウイルス感染は20〜100vp/宿主細胞を添加することにより行ってよい。特定の別の実施形態においては、ウイルス感染では50vp/宿主細胞を添加する。ウイルス感染は如何なる持続時間で進行させてもよい。ウイルス感染の進行をモニタリングすることに関する手法は当業者のよく知るものである。本発明の特定の実施形態においては、ウイルス感染は約4日間進行させる。
【0047】
本発明の特定の実施形態においては、アデノウイルス調製物からのアデノウイルスの単離はウイルス感染終了後約4日に行う。
【0048】
アデノウイルスの製造を行う本発明の実施形態においては、宿主細胞の使用を意図している。細胞がアデノウイルスの複製を支援することができる限り、如何なる細胞型も宿主細胞として使用できる。宿主細胞からのアデノウイルスの製造において使用できる広範な宿主細胞は当業者の良く知るものである。例えば、本発明の一部の実施形態においては、宿主細胞は複製能欠損型アデノウイルスの生育を補完する。複製能欠損型アデノウイルスはE1領域の少なくとも一部分を欠失しているアデノウイルスであってよく、或いはこれはE1A及び/又はE1B領域の少なくとも一部分を欠失しているアデノウイルスであってよい。宿主細胞は例えば293、HEK293、PER.C6,911及びIT293SF細胞であってよい。本発明の一部の実施形態においては、宿主細胞はHEK293細胞である。
【0049】
本発明の一部の実施形態において、アデノウイルスは組み換えアデノウイルスである。例えば、組み換えアデノウイルスはプロモーターに作動可能に連結する組み換え遺伝子をコードしてよい。プロモーターがプロモーターとして機能できる限り、当業者に知られた如何なるプロモーターも使用できる。例えば、特定の実施形態においては、プロモーターはSV40 EI、RSV LTR、β−アクチン、CMV−IE、アデノウイルス主要後期、ポリオーマF9−1又はチロシナーゼプロモーターである。
【0050】
アデノウイルスが組み換え遺伝子をコードするアデノウイルスである本発明の実施形態においては、何れかの組み換え遺伝子、特に治療用遺伝子が本発明により意図される。例えば、組み換え遺伝子はアンチセンスras、アンチセンスmyc、アンチセンスraf、アンチセンスerb、アンチセンスsrc、アンチセンスfms、アンチセンスjun、アンチセンスtrk、アンチセンスret、アンチセンスgsp、アンチセンスhst、アンチセンスbcl、アンチセンスabl、Rb、CFTR、p16、p21、p27、p57、p73、C−CAM、APC、CTS−1、zac1、scFV ras、DCC、NF−1、NF−2、WT−1、MEN−I、MEN−II、BRCA1、VHL、MMAC1、FCC、MCC、BRCA2、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、GM−CSF、G−CSF、チミジンキナーゼ、mda7、fus、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、ADP(アデノウイルス死滅蛋白)又はp53よりなる群から選択してよい。一部の実施形態においては、組み換え遺伝子はp53遺伝子である。他の実施形態においては、組み換え遺伝子はmda−7遺伝子である。
【0051】
本発明の一部の実施形態においては、組み換え遺伝子はアンチセンスras、アンチセンスmyc、アンチセンスraf、アンチセンスerb、アンチセンスsrc、アンチセンスfms、アンチセンスjun、アンチセンスtrk、アンチセンスret、アンチセンスgsp、アンチセンスhst、アンチセンスbcl、アンチセンスabl、Rb、CFTR、p16、p21、p27、p57、p73、C−CAM、APC、CTS−1、zac1、scFV ras、DCC、NF−1、NF−2、WT−1、MEN−I、MEN−II、BRCA1、VHL、MMAC1、FCC、MCC、BRCA2、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、GM−CSF、G−CSF、チミジンキナーゼ、mda7、fus、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、ADP、p53、ABLI、BLC1、BLC6、CBFA1、CBL、CSFIR、ERBA、ERBB、EBRB2、ETS1、ETS2、ETV6、FGR、FOX、FYN、HCR、HRAS、JUN、KRAS、LCK、LYN、MDM2、MLL、MYB、MYC、MYCL1、MYCN、NRAS、PIM1、PML、RET、SRC、TAL1、TCL3、YES、MADH4、RB1、TP53、WT1、TNF、BDNF、CNTF、NGF、IGF、GMF、aFGF、bFGF、NT3、NT5、ApoAI、ApoAIV、APoE、Rap1A、シトシンデアミナーゼ、Fab、ScFv、BRCA2、zac1、ATM、HIC−1、DPC−4、FHIT、PTEN、ING1、NOEY1、NOEY2、OVCA1、MADR2、53BP2、IRF−1、Rb、zae1、DBCCR−1、rks−3、COX−1、TFPI、PGS、Dp、E2F、ras、myc、neu、raf、erb、fms、trk、ret、gsp、hst、abl、E1A、p300、VEGF、FGF、トロンボスポンジン、BAI−1、GDAIF又はMCCである。
【0052】
本発明の別の実施形態においては、組み換え遺伝子はACPデサチュラーゼ、ACPヒドロキシラーゼ、ADPグルコースピロホリラーゼ、ATPase、アルコールデヒドロゲナーゼ、アミラーゼ、アミログルコシダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、シクロオキシゲナーゼ、デカルボキシラーゼ、デキストリナーゼ、エステラーゼ、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、ヒアルロンシンターゼ、ガラクトシダーゼ、グルカナーゼ、グルコースオキシダーゼ、GTPase、ヘリカーゼ、ヘミセルラーゼ、ヒアルロニダーゼ、インテグラーゼ、インベルターゼ、イソメアーゼ、キナーゼ、ラクターゼ、リパーゼ、リポキシゲナーゼ、リアーゼ、リソザイム、ペクチンエステラーゼ、パーオキシダーゼ、ホスファターゼ、ホスホリパーゼ、ホスホリラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテイナーゼ、ペプチダーゼ、プルラナーゼ、リコンビナーゼ、逆転写酵素、トポイソメラーゼ、キシラナーゼ、レポーター遺伝子、インターロイキンまたはサイトカインをコードする遺伝子である。
【0053】
本発明の他の実施形態においては、組み換え遺伝子はカルバモイル合成酵素I、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギノスクシネート合成酵素、アルギノスクシネートリアーゼ、アルギナーゼ、フマリルアセトアセテートヒドロラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、アルファ−1抗トリプシン、グルコース−6−ホスファターゼ、低密度リポ蛋白受容体、ポルホビリノーゲンデアミナーゼ、第VIII因子、第IX因子、シスタチオンベータシンターゼ、分枝鎖ケト酸デカルボキシラーゼ、アルブミン、イソバレリル−CoAデヒドロゲナーゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、メチルマロニルCoAムターゼ、グルタリルCoAデヒドロゲナーゼ、インスリン、ベータグルコシダーゼ、ピルベートカルボキシラーゼ、肝ホスホリラーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、グリシンデカルボキシラーゼ、H蛋白、T蛋白、メンケズ病銅輸送ATPase、ウイルソン病銅輸送ATPase、シトシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、ガラクトース−1−ホスフェートウリジルトランスフェラーゼ、グルコセルブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、α−L−イドウロニダーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、HSVチミジンキナーゼ又はヒトチミジンキナーゼをコードする遺伝子である。或いは、組み換え遺伝子は成長ホルモン、プロラクチン、胎盤ラクトーゲン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、絨毛ゴナドトロピン、甲状腺刺激ホルモン、レプチン、アドレノコルチコトロピン、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、β−エンドルフィン、β−メラノサイト刺激ホルモン、コレシストキニン、エンドセリンI、ガラニン、胃抑制性ペプチド、グルカゴン、インスリン、リポトロピン、ニューロフィシン、ソマトスタチン、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、β−カルシトニン遺伝子関連ペプチド、悪性因子の高カルシウム血症、副甲状腺ホルモン関連蛋白、副甲状腺ホルモン関連蛋白、グルカゴン様ペプチド、パンクレアスタチン、膵臓ペプチド、ペプチドYY、PHM、セクレチン、血管作用性腸ペプチド、オキシトシン、バソプレシン、バソトシン、エンケファリナミド、メトルフィナミド、アルファメラノサイト刺激ホルモン、心房性ナトリウム利尿因子、アミリン、アミロイドP成分、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出因子、黄体形成ホルモン放出ホルモン、ニューロペプチドY、サブスタンスK、サブスタンスP又は甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンをコードしてよい。
【0054】
本発明の実施形態の特定のものはアデノウイルス調製物からのアデノウイルスの単離を行うアデノウイルスの製造方法に関する。当業者に知られたアデノウイルス調製物からのアデノウイルスの単離の何れかの方法を本発明は意図している。本発明の特定の実施形態においては、宿主細胞は、アデノウイルスによる感染後であるが溶解前に採取し、そして宿主細胞の溶解は凍結−解凍、自己溶解又は洗剤溶解により行う。本発明の特定の実施形態においては、アデノウイルス製造方法ではアデノウイルス調製物中の夾雑核酸の濃度を低減させる。
【0055】
本発明の一部の実施形態においては、単離されるアデノウイルスは薬学的に受容可能な組成物内に入れられる。薬学的に受容可能な組成物の調製において使用される広範な方法及び手法は当業者のよく知るものである。アデノウイルスを製剤する何れの医薬組成物も本発明の意図するものである。例えば本発明の特定の実施形態は経口投与、局所投与又は静脈内投与のためのアデノウイルスの医薬調製物に関する。
【0056】
本発明の一部の実施形態においては、ウイルス製造を行う。例えばウイルス製造はHPLCを用いて分析してよい。当業者に知られたウイルス製造を分析するための如何なる手法も本発明の意図するものである。
【0057】
本発明の特定の実施形態においては、上記及び本明細書の他の部分において開示したアデノウイルスを製造するための方法は、以下の特性、即ち(1)ウイルス力価1×10〜約1×1013pfu/mL;(2)ウイルス粒子濃度約1×1010〜約2×1013粒子/mL;(3)粒子:pfu比約10〜約60;(4)1×1012ウイルス粒子当たり50ngBSA未満を含有;(5)1×1012ウイルス粒子当たり夾雑ヒトDNA約50pg〜1ng;(6)本質的に97%〜100%のピーク下部面積よりなる単一のHPLC溶出ピーク、の1つ以上を有する精製されたアデノウイルスを得ることを行うアデノウイルスの単離精製方法に関する。特定の実施形態においては、上記した工程に従って調製されたアデノウイルス組成物は5×1014〜1×1018ウイルス粒子を含む。他の実施形態においては、組成物は薬学的に受容可能な組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
(例示的な実施形態の説明)
アデノウイルスベクターは真核生物の遺伝子発現及びワクチン開発において良好に使用することができる。最近、動物試験によれば、組み換えアデノウイルスが遺伝子療法に使用されることが明らかにされた。種々の組織に対して組み換えアデノウイルスを投与する試験が良好であったことは、治療におけるアデノウイルスベクターの有効性を証明している。この良好な結果はヒト臨床治験におけるこのようなベクターの使用に繋がっている。現在種々の治療において使用されるべきアデノウイルスベクターの製造の要求性が増大している。現在使用可能な手法はこのような要求性を満足するには不十分である。本発明はこのような治療において使用するための大量のアデノウイルスの製造のための方法を提供する。
【0059】
従って、本発明はアデノウイルスベクターを製造及び精製することを目的とした大規模培養システム及び精製における向上点を利用するように設計されている。このようなシステム及びそれを用いたアデノウイルス製造方法の種々の要素を以下に詳述する。
【0060】
A.アデノウイルス
アデノウイルスは線状2本鎖DNAを含み、30〜35kbのサイズの範囲のゲノムを有する(Reddy et al.,1998;Morrison et al.,1997;Chillon et al.,1999)。ヒトアデノウイルスには50超の血清型及び80超の関連型が存在し、これらは免疫学的、分子及び機能の基準に基づいて6つのファミリーに分類される(Wadell et al.,1980)。物理的には、アデノウイルスは、アデノウイルス5型の場合は35,935塩基対である2本鎖の線状DNAゲノムを含有する中型サイズの正二十面体のウイルスである(Chroboczek et al.,1992)。アデノウイルスは細胞の感染及びウイルスの複製のためには、宿主細胞内への進入及び核へのウイルスゲノムの輸送を必要とする。アデノウイルスのゲノムの顕著な特徴は早期領域(E1、E2、E3及びE4遺伝子)、中期領域(pIX遺伝子、Iva2遺伝子)、後期領域(L1、L2、L3、L4及びL5遺伝子)、主要後期プロモーター(MLP)、反転末端リピート(ITR)及びΨ配列である(Zheng, et al.,1999;Robbins et al.,1998;Graham and Prevec,1995)。早期遺伝子E1、E2、E3及びE4は感染後のウイルスから発現され、そしてウイルス遺伝子の発現、細胞遺伝子の発現、ウイルス複製及び細胞アポトーシスの抑制を調節するポリペプチドをコードしている。更にウイルス感染時においてはMLPが活性化され、アデノウイルスのカプシド化の為に必要なポリペプチドをコードする後期(L)遺伝子の発現をもたらす。中期領域はアデノウイルスカプシドの成分をコードしている。アデノウイルス反転末端リピート(ITR;100〜200bp長)はシスエレメントであり、複製起点として機能し、そして、ウイルスDNA複製の為に必要である。Ψ配列はアデノウイルスゲノムのパッケージングの為に必要である。
【0061】
アデノウイルス、特にアデノウイルス血清型2及び5による感染の機序は広範に研究されている。CAR(コクサッキーアデノウイルス受容体)と標記される宿主細胞表面蛋白がこれらのアデノウイルスに対する一次結合受容体として発見されている。CARの内因性細胞機能はまだ解明されていない。ファイバーノブとCARの間の相互作用は細胞表面へのアデノウイルスの結合の為に十分である。しかしながら、ペントンベース及び別の細胞表面蛋白であるαインテグリンファミリーメンバーの間のその後の相互作用が効率的ウイルス内在化の為には必要である。アデノウイルスの解体は内在化の間に開始され;ファイバー蛋白はCARに結合して細胞表面上に残存する。アデノウイルスの残余は、ウイルス粒子が原形質を通過して核膜の細孔複合体に輸送されるに従い、段階的な態様において解体される。ウイルスDNAは核膜を通過して核内に押し出され、そこでウイルスDNAが複製され、ウイルス蛋白が発現され、そして新しいウイルス粒子が組み立てられる。アデノウイルス感染のこの機序の特定の工程がウイルス感染及び遺伝子発現をモジュレートするための潜在的標的となり得る。
【0062】
本発明の特定の実施形態においては、アデノウイルスを製造するための方法において使用されるアデノウイルスは複製能欠損型アデノウイルスであってよい。例えばアデノウイルスはE1領域の少なくとも一部分を欠失している複製能欠損型アデノウイルスであってよい。特定の実施形態においては、アデノウイルスはE1A及び/又はE1B領域の少なくとも一部分を欠失していてよい。他の実施形態においては、アデノウイルスは組み換えアデノウイルス(後に詳述)である。
【0063】
B.宿主細胞
本発明の種々の実施形態にはアデノウイルスを製造するための方法が関わっている。「宿主細胞」とはアデノウイルスの複製を支援することができる細胞として定義される。宿主細胞として使用するための何れの細胞型も、それがアデノウイルスの複製を支援することができる限り、本発明により意図される。例えば宿主細胞はHEK293、PER.C6,911又はIT293SF細胞であってよい。アデノウイルスを製造するための方法における使用の為に入手可能な宿主細胞の広範なものは当業者の良く知るものである。
【0064】
特定の実施形態においては、アデノウイルスベクターの作成及び増殖は293と標記される独特のヘルパー細胞系統に依存しており、これは、アデノウイルス血清型5(Ad5)のDNAフラグメントによりヒト胚性腎細胞から形質転換されており、そしてE1蛋白を構成的に発現する(Graham et al.,1977)。E3領域はAdゲノムから省略できる(Jones and Shenk,1978)ため、現在のAdベクターは293細胞の支援により、E1、E3又は両方の領域に外来性DNAを担持する(Graham and Prevec,1991;Bett et al.,1994)。
【0065】
本発明の種々の実施形態において使用される宿主細胞は例えば哺乳類細胞、例えばヒト胚性腎細胞又は霊長類の細胞から誘導してよい。他の細胞型は、例えば限定しないが、Vero細胞、CHO細胞、又は、細胞がアデノウイルス許容性である限り組織培養手法が確立されている何れかの他の真核生物の細胞を包含する。[アデノウイルス許容性」という用語はアデノウイルス又はアデノウイルスベクターが細胞環境内において完全な細胞内ウイルス生命周期を完了することができることを意味する。
【0066】
宿主細胞は既存の細胞系統から、例えば293細胞系統から誘導してよく、或いは、新規に開発してよい。このような宿主細胞はアデノウイルスゲノムにおけるイントランスの欠失を補完するために必要な、又は、E1、E2、E4、E5及び後期の機能のような他の態様の欠損性のアデノウイルスベクターの複製を支援する、アデノウイルス遺伝子を発現する。アデノウイルス下ボムの特定の部分であるE1領域は補完用の細部系統を作成するためにすでに使用されている。組み込まれているか、エピソームであるかに関わらず、複製ウイルス起点を欠失しているアデノウイルスゲノムの部分は、細胞系統に導入されれば、野生型アデノウイルスで細胞を超感染した場合であっても、複製することはない。更にまた、主要後期単位の転写はウイルスDNA複製後であるため、アデノウイルスの後期機能は細胞系統からは十分に発現できない。即ち、後期機能(L1−5)とオーバーラップするE2領域は細胞系統ではなくヘルパーウイルスにより提供されることになる。典型的には本発明の細胞系統はE1及び/又はE4を発現することになる。
【0067】
アデノウイルスゲノムの一部を発現する宿主細胞である組み換え宿主細胞もまた本発明における宿主細胞としての使用を意図する。本明細書においては、「組み換え」細胞という用語はアデノウイルスゲノム由来又は他の細胞由来の遺伝子のような遺伝子が導入されている細胞を指す。従って、組み換え細胞は組み換え導入された遺伝子を含有しない天然に存在する細胞とは識別可能である。即ち組み換え細胞は「人間の手」を介して導入された遺伝子を有する細胞である。
【0068】
組み換え宿主細胞系統はアデノウイルス組み換えベクター及び特定のアデノウイルス遺伝子に欠損を有するヘルパーウイルスの複製を支援することができる、即ち、これらのウイルス及びベクターの生育を「許容する」ものである。組み換え細胞は又、複製不能アデノウイルスベクターにおける欠損を補完し、その複製を支援する能力により、ヘルパー細胞とも称される。
【0069】
複製能保有ウイルスと共に使用してよいか、又は、複製能欠損型ウイルスと共に使用するための補完宿主細胞に変換できる他の有用な哺乳類細胞の例はVero及びHeLa細胞及びチャイニーズハムスター卵巣、W138、BHK、COS−7、HepG2、3T3、RIN及びMDCK細胞の細胞系統である。
【0070】
293細胞を懸濁培養に適合させるためには2つの方法論が用いられている。Grahamはヌードマウスにおける3連続継代培養により293A細胞を懸濁培養に適合させている(293N3S細胞)(Graham,1987)。懸濁293N3S細胞はE1アデノウイルスベクターを支援することができることがわかっている。しかしながらGarnier等(1994)は293N35細胞が懸濁物中においては比較的長い初期誘導期、低い生育速度及び高い凝集形成傾向を有していることを観察している。
【0071】
使用されている第2の方法は懸濁生育への293A細胞の段階的適合である(Cold Spring Harbor Laboratories,293S細胞)。Garnier等(1994)はアデノウイルスベクターからの組み換え蛋白の製造のための293S細胞の使用を報告している。著者等は、カルシウム非含有培地中においては293S細胞が遥かに低凝集形成性であり、ウイルス感染時における新鮮培地交換が蛋白生産を顕著に増大させることを発見している。グルコースは培地交換しない場合の培養における制限要因であることが分かっている。
【0072】
1.選択培地中の生育
特定の実施形態においては、望ましくない細胞の成育を排除する選択系を使用することが有用である。これは選択可能なマーカーで細胞系統を永久的に形質転換することによるか、又は、選択可能なマーカーをコードするウイルスベクターで細胞系統を形質導入又は感染させることにより達成してよい。何れの状況においても、形質転換/形質導入された細胞を適切な薬剤又は選択化合物と共に培養することにより、マーカーを担持したこれらの細胞を細胞集団中において増強させることができる。
【0073】
マーカーの例は限定しないが、それぞれ、tk−、hgprt−又はaprt−細胞におけるHSVチミジンキナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、アデニンホリボシルトランスフェラーゼを包含する。更にまた、代謝拮抗物質耐性をメトトレキセートに対する耐性を付与するdhfr;ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt;アミノグリコシドG418に対する耐性を付与するneo;及びハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygroに関する選択の基準として使用することができる。
【0074】
2.血清離脱における生育
足場依存細胞の血清非含有懸濁培養への血清離脱適合が組み換え蛋白(Berg,1993)及びウイルスワクチン(Perrin,1995)の製造の為に使用されている。最近まで血清非含有懸濁培養への293A細胞の適合に関する報告は殆どなかった。Gilbertはアデノウイルス及び組み換え蛋白の製造のための血清非含有懸濁培養への293A細胞の適合を報告している(Gilbert,1996)。同様の適合方法はアデノウイルス製造のための血清非含有懸濁培養へのA549細胞の適合の為に使用されている(Morris et al.,1996)。しかしながら、適合された懸濁細胞における細胞特異的なウイルスの収量は親結合細胞において達成されるものよりも約5〜10倍低値である。
【0075】
同様の血清離脱操作法を用いて、本発明者等は血清非含有懸濁培養に293A細胞を良好に適合させている(293SF細胞)。この操作法においては、Tフラスコ中FBS濃度を逐次的に低下させることにより市販の293倍値に293細胞を適合させた。慨すれば、培地中の初期血清濃度をT−75フラスコ中約10%FBS DMEM培地とし、逐次的に培地中のFBS濃度を低下させることによりT−フラスコ中血清非含有IS293培地に細胞を適合させた。T−75フラスコ中6継代の後、FBS%は約0.019%及び293細胞と推定された。細胞をTフラスコ中更に2回継代した後にスピナーフラスコに移した。本明細書において後述する結果は、細胞は血清非含有培地(IS293培地、Irvine Scientific,Santa Ana,Calif.)中で十分生育することを示している。細胞の平均倍化時間は20〜35時間であり、培地交換することなく3〜5×10細胞/mLのオーダーにおいて定常細胞濃度を達成した。
【0076】
3.懸濁培養に対する細胞の適合
293細胞を懸濁培養に適合させるためには2つの方法論が用いられている。Grahamはヌードマウスにおける3連続継代培養により293A細胞を懸濁培養に適合させている(293N3S細胞)(Graham,1987)。懸濁293N3S細胞はE1アデノウイルスベクターを支援することができることがわかっている。しかしながらGarnier等(1994)は293N35細胞が懸濁物中においては比較的長い初期誘導期、低い生育速度及び高い凝集形成傾向を有していることを観察している。
【0077】
使用されている第2の方法は懸濁生育への293A細胞の段階的適合である(Cold Spring Harbor Laboratories,293S細胞)。Garnier等(1994)はアデノウイルスベクターからの組み換え蛋白の製造のための293S細胞の使用を報告している。著者等は、カルシウム非含有培地中においては293S細胞が遥かに低凝集形成性であり、ウイルス感染時における新鮮培地交換が蛋白生産を顕著に増大させることを発見している。グルコースは培地交換しない場合の培養における制限要因であることが分かっている。
【0078】
本発明においては、血清非含有条件における生育に適合させた293細胞を懸濁培養に適合させた。細胞を約1.18E+5vc/mL〜約5.22E+5vc/mLの初期細胞密度において懸濁培養のための血清非含有の250mL容のスピナー懸濁培養物(100mLワーキング容量)に移した。培地にはヘパリンを添加することにより細胞の凝集を防止した。この細胞培養系は細胞密度のある程度の増大を可能にしつつ、細胞の生存性を維持する。これらの細胞が培地中に成育中となれば、次に細胞をスピナーフラスコ中で更に約7回継代培養する。細胞の倍化時間は、連続継代の終了時に倍化時間が約1.3日、即ち結合細胞培養における10%FBS培地中の細胞の1.2日に匹敵するものとなるまで、漸減することが観察される。ヘパリン添加血清非含有IS293培地中においては、殆ど全ての細胞が、懸濁培養物中で細胞凝集塊を形成していない個別の細胞として存在していた。
【0079】
C.細胞培養系
感染性ウイルスベクターを製造する能力は医薬品工業にとって、特に遺伝子療法の範囲において、ますます重要になってきている。過去10年に渡り、バイオテクノロジーの進歩により、治療薬、ワクチン及び蛋白製造器としての潜在的用途を有する多くの重要なウイルスベクターの製造がもたらされた。哺乳類培養物におけるウイルスの使用は、ジスルフィド依存性折り畳み及びグリコシル化のような複雑な蛋白構造を翻訳後プロセシングに付す能力において、細菌又は他の下等な生命体の形態の宿主において生産される蛋白を超えた利点を有する。
【0080】
ウイルスベクターの製造のための細胞培養物の開発には、哺乳類細胞培養において高度に効率的なベクター系の設計及び構築のための手法の分子生物学における開発、多数の有用な選択マーカー、遺伝子増幅スキーム、及び、導入されたベクターから最終的に生物学的に活性な分子を獲得することに関わる生化学及び細胞の機序のより包括的な理解が大きく寄与している。
【0081】
頻繁には、製造のスケールアップの下流(この場合は、細胞溶解以降)側に影響する要因は発現系のための宿主としての細胞系統を選択するより前には考慮されていなかった。又、長時間に渡り極めて高密度の培養を持続させることのできるバイオリアクターシステムはより低コストにおける増大した生産の要求の拡大に見合うものではなかった。
【0082】
本発明は最近使用可能になったバイオリアクター技術を利用する。バイオリアクターにおいて本発明により細胞を成育させることは、本発明のアデノウイルスベクターにより感染させることができる完全に生物学的に活性な細胞の大規模製造を可能にする。低灌流速度においてシステムを操作し、そして、感染粒子の精製のための異なるスキームを適用することにより、本発明は高度に精製された生成物を大量に製造するために容易にスケールアップできるような、精製の方策を与える。
【0083】
PCT公開WO98/00524、米国特許6,194,191、米国特許出願2002−0182723−A1及び米国特許暫定出願60/406,591(2002年8月28日出願)はウイルス製造方法を記載しているが、組み換えウイルス粒子の培養、製造及び精製のための手法の説明に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【0084】
本発明の特定の実施形態はバイオリアクターの使用を必要とするアデノの製造のための方法に関する。本明細書においては、[バイオリアクター」とは細胞を培養する目的の為に使用できる何れかの器具を指す。バイオリアクターにおいて本発明により細胞を培養することは、本発明のアデノウイルスベクターにより感染させることができる完全に生物学的に活性な細胞の大規模製造を可能にする。
【0085】
バイオリアクターは懸濁及び足場依存動物細胞培養物の両方からの生物学的生成物の製造の為に広範に使用されている。アデノウイルスベクター製造のための最も広範に使用されているプロデューサー細胞は足場依存性のヒト胚性腎細胞(293細胞)である。アデノウイルスベクター製造のために開発すべきバイオリアクターは高いプロデューサー細胞密度及び高いウイルス収率を達成するために高い対容量比の培養表面積の態様を有さなければならない。攪拌タンクバイオリアクター中のマイクロキャリア細胞培養はきわめて高い対容量比の培養表面積を与えるものであり、そしてウイルスワクチンの製造の為に使用されている(Griffiths,1986)。更にまた、攪拌タンクバイオリアクターはスケールアップ可能であることが工業的に証明されている。Corning−Costar製のマルチプレートCellcubeTM細胞培養システムもまた極めて高い対容量比の培養表面積を与える。細胞は小型立方体の形状に共に密閉封鎖されている培養プレートの両側上で生育する。攪拌タンクバイオリアクターとは異なり、CellCubeTM培養装置は使い捨てである。このことは、低減された資本出費、使い捨てシステムに伴う品質管理及び品質保証のため、臨床用製品の早期の段階の製造においては極めて望ましいものである。異なるシステムにより与えられる利点を鑑み、攪拌タンクバイオリアクター及びCellCubeTMの両方をアデノウイルスの製造に関して評価した。
【0086】
本発明の特定の実施形態は、特に血清非含有懸濁培養においてアデノウイルスを形成するための方法において使用するために、Wave Bioreactor(登録商標)の使用を必要とする。Wave Bioreactor(登録商標)は予め滅菌された使い捨てのバイオリアクターシステムであり、高価なCIP及びSIPプロセスユーティリティーを必要とすることなく種々のクリーンルーム配置に容易に組み込むことができる。Wave Bioreactor(登録商標)はWave Biotech(登録商標)20/50EH型であり得る。バイオリアクターは何れの容量の培地も保持できるが、特定の実施形態においてはバイオリアクターは10L(5Lワーキング容量)のバイオリアクターである。特定の実施形態においては、バイオリアクターは特定の速度及び角度においてロックされるように調節できる。特定の別の実施形態においては、バイオリアクターは使い捨て溶存酸素張力(DOT)プローブのような溶存酸素張力をモニタリングするための装置を含んでよい。バイオリアクターは又、培地の温度をモニタリングするための装置を含んでよい。他の実施形態は培地に送達されるCOガス比率を調節できるガス混合器のような培地のpHを測定及び調節するための装置を含む。バイオリアクターは使い捨てバイオリアクターであってもなくてもよい。本発明の好ましい態様によれば、Wave Bioreactor(登録商標)を血清非含有培地と共に使用し、高ラクテート濃度はウイルス生産を抑制するため、培地の初期ラクテート濃度は可能な限り低値とする。更にまた、グルコースの制限もウイルス生産を抑制するため、十分なグルコース濃度を維持しなければならない。本明細書においては、「培地」とは細胞の成育を促進できる何れかの物質を指す。本発明の1つの態様によれば、宿主細胞は血清非含有培地である培地中で生育させる。本発明の他の実施形態においては、宿主細胞は蛋白非含有培地である培地中で生育させる。蛋白非含有培地の一例はCD293である。本発明の特定の実施形態において宿主細胞の生育を支援できる培地の他の例はDMEM+2%FBSである。当業者の知るとおり、種々の成分及び薬剤を培地に添加することにより細胞の成育を促進及び制御することができる。例えば、培地のグルコース濃度はある水準に維持することができる。アデノウイルスの製造のための本発明の方法の1つの実施形態においては、グルコース濃度は約0.5〜約3.0gグルコース/リットルに維持する。
【0087】
1.足場依存性vs非足場依存性の培養
本発明の一部の実施形態においては、アデノウイルスを製造するための方法は足場依存性の培養において宿主細胞を生育させることを必要とするが、他の実施形態は非足場依存性の培養においてアデノウイルスを製造するための方法に関する。動物及びヒトの細胞はインビトロにおいては、以下の2様式、即ち、培養物の全嵩に渡る懸濁液中で自由に生育する非足場依存性細胞として;又は、自身の増殖のためには固体支持体への接着を必要とする(即ち単層型の細胞生育)足場依存性細胞として、増殖させることができる。
【0088】
連続樹立細胞系統由来の非足場依存性又は懸濁培養物が細胞及び細胞産物の最も広範に使用されている大規模製造手段である。微生物(細菌又はコウボ)の醗酵技術に基づく大規模懸濁培養は哺乳類細胞産物の製造のための明確な利点を有している。方法は操作が比較的単純であり、スケールアップが直接的である。温度、溶存酸素及びpHの厳密なモニタリングと制御を可能とする均質な条件を反応器内に維持することができ、培養物の代表的試料の採取が確実に行える。
【0089】
しかしながら、懸濁培養された細胞は生物学的製品の製造に常時使用できるわけではない。懸濁培養は腫瘍形成能を有するとなお考えられており、従ってそれらを製造の基質として使用することは、ヒト及び家畜用途における最終品の使用を制限するのである(Petricciani,1985;Larsson,1987)。足場依存性培養とは異なり懸濁培養で増殖されたウイルスは場合によりウイルスマーカーの急速な変化を誘発し、低下した免疫原性をもたらす場合がある(Bahnemann,1980)。最後に、場合によっては組み換え細胞系統であっても足場依存性培養物として増殖させれば、懸濁物中の同じ細胞系統と比較して、かなり高値の量の産物を分泌することができる(Nilsson and Mosbach,1987)。これらの理由から、異なる種々の生物学的産物の製造においては異なる種々の型の足場依存性細胞を広範に使用する。
【0090】
2.懸濁物のための反応器及びプロセス
本発明の選択された実施形態の範囲内で使用するバイオリアクターは攪拌タンクバイオリアクターであってよい。攪拌タンク内の哺乳類培養物の大規模懸濁培養が報告されている。適合させたバイオリアクターの機材設定及び制御は、醗酵器の設計と共に、関連する微生物の用途から適合されている。しかしながら、より緩徐に生育する哺乳類培養物中における汚染抑制の増大する要求が明らかになるに従い、進歩した無菌的設計が急速に施工されてこれらの反応器の信頼性が向上した。機材設定及び制御は基本的には他の醗酵器において観察されるものと同様であり、振とう、温度、溶存酸素及びpH制御を包含する。濁度(存在する粒子の関数)、キャパシタンス(存在する生存細胞の関数)、グルコース/ラクテート、カーボネート/ビカーボネート及び二酸化炭素のオンライン及びオフらいのの測定のためのより進歩したプローブ及び自動分析器が使用可能である。本発明の1つの実施形態においては、自動分析器はYSI−2700 SELECTTM分析器である。
【0091】
2つの懸濁培養反応器、即ち攪拌反応器及びエアリフト反応器が、その操作の単純性と頑健性の為に工業的に最も広範に使用されている。攪拌反応器は設計はインターフェロンの製造のための8000リットル容量の規模において良好に使用されている(Phillips et al.,1985;Mizrahi,1983)。細胞は1:1〜3:1の高さの直径に対する比を有するステンレス鋼のタンクにおいて生育させる。培養は通常はブレードつきのディスク又は船用プロペラの様式に基づいた振とう器1つ以上で混合される。ブレードよりも小さい剪断力を与える振とう器システムが報告されている。振とうは磁気連動装置により直接又は間接的に駆動してよい。間接装置は攪拌器の軸上の密封により微生物汚染の危険性を低減できる。
【0092】
当初は微生物発光に関して報告され、後に哺乳類培養物に適合されたエアリフト反応器は、培養物を混合することと酸素付与することの両方を気流に依存している。気流は反応器のライザー部分に進入し、そして循環を駆動する。ガスは培養表面において開放されて気泡非含有のより緻密な液体を生じ、反応器のダウンカマー部分内に降下する。この設計の主要な利点は単純性と機械的混合の必要がない点である。典型的には、高の直径に対する比は10:1である。エアリフト反応器は比較的容易にスケールアップでき、基体の良好な物質輸送を示し、そして比較的低い剪断力を発生させる。
【0093】
最も大規模の懸濁培養は、操作及びスケールアップが最も単純であるため、バッチ又はフェッドバッチプロセスとして操作される。しかしながら、ケモスタット又は灌流の原理に基づいた連続プロセスが使用可能である。
【0094】
バッチプロセスは典型的な生育プロファイルが観察される閉鎖系である。誘導期の後に指数期、定常期及び減衰期が続く。このような系においては、栄養分が枯渇し、そして代謝産物が蓄積するため、環境は連続的に変化している。これにより、細胞の成育及び生産性そして即ちプロセスの最適化に影響する因子の分析は複雑な作業となってしまう。バッチプロセスの生産性は生育周期を延長させるための重要な栄養の制御された供給により増大してよい。このようなフェッドバッチプロセスは、細胞、生成物及び老廃物が除去されないため、なお閉鎖された系である。
【0095】
なお閉鎖された系において、培養物全体に渡る新しい培地の灌流は種々の装置(例えば微細メッシュスピンフィルター、中空糸又はフラットプレート膜フィルター、遠沈管)を用いて細胞を保持することにより達成できる。スピンフィルター培養は約5×10個/mLの細胞密度を与えることができる。真の開放系及び最も単純な灌流プロセスは培地の流入及び細胞と生成物の流出のあるケモスタットである。培地は、細胞の最大特異的生育速度よりも低値に培地の希釈率を維持する(反応器からの細胞塊のウォッシュアウトを防止するため)予め決められた一定の速度で反応器に供給する。細胞及び細胞産物及び副生成物を含有する培養液は同じ速度で除去する。
【0096】
アデノウイルスを製造するための本発明の方法の特定の実施形態においては、バイオリアクターシステムは培地交換を可能にするシステムを含むようにセットアップする。例えば、フィルターをバイオリアクターシステムに組み込むことにより使用済み培地から細胞を分離できるようにすれば培地の交換が容易になる。アデノウイルスを製造するための本発明の方法の一部の実施形態においては、培地の交換及び灌流は細胞生育の特定日に開始するように実施する。例えば、培地の交換及び灌流は細胞生育第3日に開始できる。フィルターはバイオリアクターの外部又はバイオリアクターの内部にあってよい。
【0097】
本発明の1つの実施形態において、フィルターはバイオリアクターの内部にあるフローティングフラットフィルターである。フィルターは細胞と使用済み培地の間の分離を可能とする。特定の実施形態においては、使用済み培地はフローティングフィルターを通して引き出される。培地の再循環は本発明の種々の実施形態において必要であってもなくてもよい。1つの実施形態においては、波動を用いて培地灌流の間のフィルターの目詰まりを最小限とする。培養容量は新鮮培地添加をトリガーするために使用されるロードセルにより維持してよい。培地の灌流の為に使用できる種々の型のフィルター、及び、フィルターをバイオリアクターに連結してそれを細胞生育プロセスに組み込むために使用できる種々の方法は当業者の良く知るとおりである。
【0098】
3.非灌流結合系
伝統的には、足場依存性細胞培養物は小型のガラス又はプラスチックの容器の底部上で増殖させる。実験室規模に適する古典的及び伝統的な手法により与えられる限定された表面の体積に対する比は大規模の細胞及び細胞産物の製造において障害となっていた。少量の培養容量において細胞生育のための広い接触可能面を与える系を得る試みにおいて、多くの手法が提案されており、例えばローラーボトル系、スタックプレート増殖器、スパイラルフィルムボトル、中空糸系、充填床、プレート交換系及び膜チューブリールが挙げられる。これらの系はその性質上非均質であり、そして場合により複数のプロセスに基づいているため、以下のような難点、即ち、スケールアップ可能性の限界、細胞試料採取の困難、重要なプロセスパラメーターの測定及び制御の可能性の限界、及び、培養全体を通じて均質な環境条件を維持することの困難、を含んでいる。
【0099】
これらの難点にもかかわらず、大規模足場依存性細胞製造のための一般的に使用されているプロセスはローラーボトルである。大型の異なる形状のTフラスコと同様、系の単純性が極めて信頼性をたかくしており、このため関心をもたれている。一日当たり数腺のローラーボトルを取り扱うことができる完全自動化ロボットが使用可能であり、これにより他の態様では必要となる極度の人的操作に伴う汚染及び非一貫性の危険性を排除できる。頻繁な培地交換により、ローラーボトル培養は0.5×10個/cmに接近する細胞密度を達成できる(約10個/ボトル又は概ね10個/mL培地に相当)。
【0100】
4.マイクロキャリア上の培養
伝統的な足場依存性培養プロセスの難点を克服する研究において、van Wezel(1967)はマイクロキャリア培養系の概念を開発している。この系においては、細胞を緩徐な振とうにより生育培地中に懸濁させた小型固体粒子表面上で増殖させる。細胞はマイクロキャリアに結合し、徐々に生育してマイクロキャリア表面上でコンフルエントとなる。実際にこの大規模培養系は、結合依存性培養を単一ディスクプロセスから炭層及び懸濁培養の両方がまとめられているユニットプロセスに格上げしている。即ち、細胞が成育するために必要な表面を均質な懸濁培養の利点と組み合わせることにより生産が増大する。
【0101】
殆どの他の足場依存性大規模培養方法を超えたマイクロキャリア培養の利点は数倍である。第1にマイクロキャリア培養は表面の体積に対する比(キャリア濃度を変化させることにより変動)を高くし、これにより、高い細胞密度収率が得られ、そして高度に濃縮された細胞産物を得る可能性が生じる。細胞収率は培養物を灌流反応器様式において増殖させれば1〜2×10個/mLにも上る。第2に多くの小型の低生産性の容器(即ちフラスコ又はディッシュ)を使用する代わりに1つのユニットプロセス容器内で細胞を増殖できる。これにより遥かに良好な栄養の利用が可能となり培地をかなり節約できる。更にまた単一反応器内における増殖は施設の空間の必要性及び細胞当たりに必要な操作工程数を低減し、そしてこれにより労働力経費及び汚染の危険性を低減する。第3に、十分混合された均質なマイクロキャリア懸濁培養は環境条件(例えばpH、pO及び培地成分濃度)のモニタリング及び制御を可能とし、これにより、より再現性のある細胞増殖及び生成物回収をもたらす。第4に顕微鏡観察、化学的試験又は目録作成のための代表的試料を採取することが可能である。第5に、マイクロキャリアは急速に懸濁液から沈降するため、フェッドバッチプロセスの使用又は細胞の採取を比較的容易に行うことができる。第6に、マイクロキャリア上の足場依存性培養増殖の様式はこの系を他の細胞操作、例えば蛋白分解酵素を用いない細胞の移送、細胞の同時培養、動物への移植、及び、マイクロキャリア保持のためにデカンタ、カラム、流動床又は中空糸を用いた培養物の灌流のために使用可能とする。第7に、マイクロキャリア培養は懸濁物中の微生物及び動物細胞の培養の為に使用されている従来の機材を用いて比較的容易にスケールアップされる。
【0102】
5.哺乳類細胞のマイクロカプセル化
哺乳類細胞を培養するために特に有用であることがわかっている1つの方法はマイクロカプセル化である。哺乳類細胞を半透性のヒドロゲル膜内部に保持する。多孔性の膜を細胞周囲に形成することにより、カプセルを包囲する塊状培地との栄養分、ガス及び代謝産物の交換を可能とする。穏やかで迅速で非毒性であり、そして得られる膜が培養期間全体を通して生育中の細胞塊を持続させるために十分多孔性かつ強力であるような幾つかの方法が開発されている。これらの方法は全て、カルシウム含有溶液との液滴接触によりゲル化された可溶性アルギネートに基づいている。Lim(1982、米国特許4,352,883、参照により本明細書に組み込まれる)は小型オリフィスを強制的に通過させることにより、液滴を形成して約1%の塩化カルシウム溶液中に発散するアルギン酸ナトリウムの約1%の溶液中に濃縮した細胞を記載している。次に液滴を表面アルギネートにイオン結合するポリアミノ酸の層に流し出す。最終的に、アルギネートは、キレート剤中で液滴を処理してカルシウムイオンを除去することにより再度液化する。他の方法は中空のアルギネート球が形成されるようにアルギネート溶液中に滴下されるカルシウム溶液中において細胞を使用している。同様の方法はやはり中空の球を形成するアルギネートに滴下されるキトサン溶液中の細胞を使用している。
【0103】
マイクロカプセル化された細胞は攪拌タンク反応器中で容易に増殖でき、そして、直径150〜1500μmの範囲のビーズを用いれば、ファインメッシュスクリーンを用いた灌流反応器中に容易に保持される。カプセル容量の全培地容量に対する比は1:2〜1:10もの緻密度に維持することができる。カプセル内細胞密度10以下においては、培養物中の有効細胞密度は1〜5×10である。
【0104】
他のプロセスを超えたマイクロカプセル化の利点は、通気と振とうから生じる剪断応力の悪影響から保護できること、灌流系を用いる目的の為にビーズを容易に保持する能力、比較的単純なスケールアップ、及び移植の為にビーズを使用できる能力を包含する。
【0105】
本発明は性質上足場依存性である細胞を包含する。例えば293細胞は足場依存性であり、そして懸濁液中で生育させた場合は、細胞は相互に接着し、塊状に成育することになり、最終的には、各塊の内部コア内の細胞を培養条件では生存維持できない状態に放置してしまうようなサイズに達した時点で、そのコア細胞を窒息させることになる。従って、これらの細胞を効率的に使用して大量のアデノウイルスを作成するためには、足場依存性細胞の大規模培養の効率的な手段が必要とされる。
【0106】
6.灌流結合系
本発明の特定の実施形態は灌流結合系を使用するアデノウイルスを製造するための方法を包含する。灌流とは、(生理学的な栄養溶液の)細胞の集団を通るか又はその上を超える一定の速度での連続的な流動を指す。培地の排出と同時に細胞を洗い流す連続流動培養(例えばケモスタット)とは異なり培養ユニット内の細胞の保持を意味する。灌流の考えは世紀初頭より知られており、そして長時間の顕微鏡観察のために組織小片を生存状態に維持するために適用されていた。手法は血液、リンパ又は他の体液が細胞に連続的に供給されているインビボの細胞環境を模倣することから始まった。灌流しない場合には、培養物中の細胞は栄養充足と飢餓の交互する期間を経ることになり、その生育及び代謝能力の完全な顕在化を制限してしまう。
【0107】
灌流培養の現在の使用は高密度(即ち0.1〜5×10個/mL)の細胞を成育させる試みに対応したものである。2〜4×10個/mLを超えて密度を増大させるためには、栄養不足を補い毒性生成物を除去するために培地は定常的に新しい供給分と交換しなければならない。灌流は培養環境(pH、pO、栄養量等)の遥かに良好な制御を可能にし、そして、細胞結合のための培地中の表面の面積の利用性を顕著に増大させる手段となる。
【0108】
不織布マトリックス中の床材を使用した灌流充填床反応器の開発は10個/床材容量mLを超える密度で灌流培養物を維持するための手段を与えている(CelliGenTM、New Brunswick Scientific,Edison,NJ;Wang et al.,1992;Wang et al.,1993;Wang et al.,1994)。慨すれば、この反応器は足場依存性及び非依存性の細胞の両方の培養のための進歩した反応器を含む。反応器は内部再循環を可能にする手段を伴った充填床として設計されている。好ましくは、繊維マトリックス担体は反応器の容器内のバスケット内に入れる。バスケットの上部及び底部は孔部を有し培地がバスケットを通過して流動できるようにしている。特別に設計されたインペラーにより繊維マトリックスにより占有されている空間を通過して培地が再循環できるようにしてあり、これにより、均一な栄養補給及び老廃物の除去を確保している。これは同時に全細胞塊の無視できる量を培地中に懸濁させる。バスケット及び再循環の組み合わせはまた繊維マトリックスを通過する酸素付与された培地の気泡非含有の流動をもたらす。繊維マトリックスは10μm〜100μmの「細孔」直径を有する不織布であり、個々の細胞の容量の1〜20倍に相当する細孔容量による高い内部容量を与える。
【0109】
他の培養系と比較して、この方法は幾つかの顕著な利点を与える。繊維マトリックス担体によれば、振とう及び泡沫形成による機械的応力に対抗して細胞が保護される。バスケット内を通過する自由な培地の流動は最適に調節された水準の酸素、pH及び栄養分を細胞に与える。生成物は培地から連続的に取り出すことができ、そして採取された生成物は細胞を含まず、そして後の精製工程を容易にする低蛋白培地中で生産できる。更にまた、この反応器のシステムの独特の設計により、反応器をスケールアップする方法がより容易となる。現在、30リットルまでのサイズが使用可能である。100リットル及び300リットルの型式は開発中であり、理論的計算上では1000リットルまでの反応器が対象となっている。この技術は参照により全体が本明細書に組み込まれるWO94/17178(1994年8月4日、Freedman 等)に詳述されている。
【0110】
CellcubeTM(Corning−Costar)モジュールは固定化及び基盤結合細胞の成育のための大きなスチレン表面積を与える。これは一体としてカプセル化された滅菌単回使用用の装置であり、一連の平行した培養プレートが連結されることにより、隣接プレート間に薄い密封された層流空間が形成される。
【0111】
CellcubeTMモジュールは相互に対角線上に対向して位置し培地の流動を調節する導入口と吐出口を有する。生育の最初の数日間は、培養物は一般的に初回は播種後の系内に含有される培地により充足される。初回は播種と培地灌流の開始までの時間は播種された接種物の細胞密度及び細胞生育速度により異なる。循環培地中の栄養成分の濃度の測定は培養の状態の良好なインジケーターである。操作法を確立する際には、種々の異なる灌流速度で栄養分組成をモニタリングすることにより最も経済的で生産的な操作パラメーターを決定することが必要となる。
【0112】
系内の細胞は伝統的な培養系よりも高い溶液中密度(細胞個数/mL)に達する。多くの典型的に使用されている基礎培地は1〜2×10個/mL/日を維持するように考案されている。典型的なCellcubeTMは85000cmの表面により操作され、モジュール内に約6Lの培地を含有する。細胞密度は培養容器中10個/mLを超える場合が多い。コンフルエント時には一日当たり2〜4反応器容量の培地が必要となる。
【0113】
培養の製造段階の時期及びパラメーターは、特定の細胞系統の型及び使用により変動する。多くの培養は培養物の生育段階で必要であったものとは異なる製造用培地を必要とする。1つの段階から別の段階への移行はまた伝統的培養では複数回の洗浄工程を要することになる。しかしながら、CellcubeTMシステムは灌流系を使用している。このような系の1つの利点は種々の操作段階の間に穏やかな移行をもたらす能力である。灌流系は生育培地中の血清成分を除去することを意図していた伝統的な洗浄工程の必要性を無くす。
【0114】
7.血清非含有懸濁培養
特定の実施形態においては、遺伝子療法のためのアデノウイルスベクターを上記した通り293細胞の足場依存性培養物(293A細胞)から製造する。アデノウイルス製造のスケールアップは293A細胞の足場依存性により制約を受ける。スケールアップを容易にし、アデノウイルスの将来の要求性に対応するために、スケールアップに適する代替製造プロセスの開発に多くの研究が向けられてきた。方法はマイクロキャリア培養物中で293A細胞を成育させること、及び、293Aプロデューサー細胞を懸濁培養に適合させることを包含する。
【0115】
マイクロキャリア培養手法は上記した通りである。この手法は、機械的振とうにより培地中に懸濁されたマイクロキャリアの表面上へのプロデューサー細胞の結合に依存している。細胞結合の必要性はマイクロキャリア培養の拡張性にある程度の限界を与えている。
【0116】
本発明の特定の実施形態においては、アデノウイルスを製造するための方法において使用する培地は血清非含有培地である。本発明の他の実施形態においては、培地は蛋白非含有培地である。前述した通り、本発明の特定の実施形態はバイオリアクターの使用を包含する。バイオリアクターは、細胞の血清非含有懸濁培養に適合させてよい。培地交換を伴う培地の濾過は系内に含めても含めなくてもよい。
【0117】
D.ウイルス感染
本発明はアデノウイルスに宿主細胞を感染させることを包含するアデノウイルスの製造方法に関する。典型的には、ウイルスを単に生理学的な条件下で適切な宿主細胞に曝露してウイルスを取り込ませる。ウイルス感染を開始するために使用される広範な手法は当業者のよく知るものである。
【0118】
本発明は、1例において、治療上意味のあるベクターを形成するために細胞のアデノウイルス感染を使用する。典型的には、ウイルスを単に生理学的な条件下で適切な宿主細胞に曝露してウイルスを取り込ませる。アデノウイルスを例示したが、本発明の方法は後述するような他のウイルスベクターと共に好都合に使用してよい。
【0119】
1.アデノウイルス
アデノウイルスはその中程度の大きさのDNAゲノム、操作の容易さ、高い力価、広範な標的細胞範囲及び高い感染性のため、遺伝子転移ベクターとしての使用に適している。概ね36kBのウイルスゲノムが100〜200塩基対(bp)の反転末端リピート(ITR)により結合しており、そこにはウイルスDNA複製及びパッケージングに必要なシス作用のエレメントが含有されている。異なる転写単位を含有するゲノムの早期(E)及び後期(L)の領域はウイルスDNA複製の開始により分割される。
【0120】
E1領域(E1A及びE1B)はウイルスゲノム及び数個の細胞遺伝子の転写の調節を担う蛋白をコードしている。E2領域(E2A及びE2B)の発現はウイルスDNA複製のための蛋白の合成をもたらす。これらの蛋白はDNAの複製、後期遺伝子発現及び宿主細胞シャットオフに関与している(Renan,1990)。後期遺伝子(L1、L2、L3、L4及びL5)の産物は、ウイルスカプシド蛋白の大部分を含めて、主要後期プロモーター(MLP)により生じた単一の一次転写産物の多大なプロセシングの後にのみ発現される。MLP(16.8マップユニットに位置する)は感染の後期に特に効率的となり、このプロモーターから生じたmRNAの全ては5’トライパータイトリーダー(TL)配列を有しており、これはそれらを翻訳のための好ましいmRNAとしている。
【0121】
アデノウイルスが遺伝子療法の為に最適となるためには、DNAの大型のセグメントが含まれることができるように担持容量を最大限とすることが必要である。更にまた特定のアデノウイルス産物に伴う毒性及び免疫原性反応を低減することが非常に望ましい。アデノウイルスゲノムの大部分を除去し、そして、欠失遺伝子産物をヘルパーウイルス及び/又はヘルパー細胞によりイントランスに与えることにより、ベクターへの異種DNAの大部分の挿入が可能となる。この方策はまたアデノウイルス遺伝子産物の毒性及び免疫原性を低下させる。
【0122】
ウイルスDNA複製の為に必要なシスエレメントは全て線状ウイルスゲノムの何れかの末端の反転末端リピート(ITR)(100〜200bp)内に局在化しているため、DNAの大規模な置き換えも可能である。ITRを含有するプラスミドは非欠損型アデノウイルスの存在下に複製できる(Hay et al.,1984)。従って、アデノウイルスベクターにこれらのエレメントを含有させることは複製を可能とするはずである。
【0123】
更にまた、ウイルスカプシド化のためのパッケージングシグナルがウイルスゲノムの左末端の194〜385bp間(0.5〜1.1マップユニット)に局在化している(Hearing et al.,1987)。このシグナルはバクテリオファージλDNAにおける蛋白認識部位を模倣しており、それにおいては、左末端に近いが粘性末端配列の外側にある特定の配列がヘッド構造内へのDNAの挿入の為に必要な蛋白への結合を媒介する。AdのE1置換ベクターは、ウイルスゲノムの左末端における450bp(0〜1.25マップユニット)フラグメントが293細胞におけるパッケージングを指向できることを示している(Levrero et al.,1991)。
【0124】
以前よりアデノウイルスゲノムの特定の領域が哺乳類細胞のゲノム内に取り込まれることができ、そして、それによりコードされる遺伝子が発現されることがわかっている。これらの細胞系統は細胞系統によりコードされるアデノウイルスの機能において欠損性であるアデノウイルスベクターの複製を支援することができる。更にまた、「ヘルピング」ベクター、例えば野生型ウイルス又は条件的に欠損性の突然変異対による、複製能欠損型アデノウイルスベクターの補完の報告もある。
【0125】
複製能欠損型アデノウイルスベクターは例えばヘルパーウイルスによりイントランスに補完されることができる。しかしながら、この観察結果単独では複製能欠損型ベクターの単離が可能になるわけではなく、なぜなら複製機能を与えるのに必要なヘルパーウイルスの存在は如何なる調製物も汚染することになるからである。即ち、複製能欠損型ベクターの複製及び/又はパッケージングに対する特異性を付与する別のエレメントが必要であった。そのエレメントは、本発明において提供される状態においては、アデノウイルスのパッケージング機能から誘導する。
【0126】
アデノウイルスのパッケージングシグナルは従来のアデノウイルスマップの左末端に存在する(Tibbetts,1977)。後の研究によれば、ゲノムのE1A(194〜358bp)領域に欠失を有する突然変異対は早期(E1A)機能を補完する細胞系統においても生育不良であった(Hearing and Shenk,1983)。補償用のアデノウイルスDNA(0〜353bp)を突然変異対の右末端に組み換えたところ、ウイルスは正常にパッケージングされた。別の突然変異分析によれば、Ad5ゲノムの左末端の短い反復する位置依存性のエレメントが発見された。ゲノムの何れかの末端に存在する場合は1コピーのリピートで効率的なパッケージングの為には十分であるが、Ad5DNA分子の内部に向かって移動した場合はそうではないことがわかっている(Hearing et al.,1987)。
【0127】
パッケージングシグナルの突然変異した型を使用することにより、種々の効率でパッケージされるヘルパーウイルスを作成することが可能である。典型的には、突然変異は点突然変異又は欠失である。低効率パッケージングのヘルパーウイルスをヘルパー細胞内で成育させる場合は、ウイルスは、野生型ウイルスと比較して低減された比率ではあるが、パッケージされるため、ヘルパーの増殖を可能とする。しかしながらこれらのヘルパーウイルスを野生型パッケージングシグナルを含有するウイルスと共に細胞内で生育させる場合には、野生型パッケージングシグナルは突然変異した型よりも優先的に認識される。パッケージング因子の量に限界がある場合は、ヘルパーと比較して野生型シグナルを含有するウイルスのほうが選択的にパッケージされる。優先性が十分大きい場合は均質に近い保存株が達成されるはずである。
【0128】
2.レトロウイルス
治療上有意義なベクターの形成のための細胞のアデノウイルス感染が本発明の好ましい実施形態であるが、本発明はこのようなベクターを形成する目的の為に細胞のレトロウイルス感染を使用してもよいことも意図される。レトロウイルスはそのRNAを逆転写のプロセスにより感染細胞において2本鎖DNAに変換する能力を特長とする一本鎖RNAウイルスの群である(Coffin,1990)。次に得られるDNAをプロウイルスとして細胞内染色体内に安定に組み込み、ウイルス蛋白の合成を指向する。合成により受容体細胞およびその子孫におけるウイルス遺伝子が保持された。レトロウイルスゲノムは3つの遺伝子、即ちそれぞれカプシド蛋白、ポリメラーゼ酵素及びエンベロープ成分をコードするgag、pol及びenvを含有する。Yと称されるgag遺伝子より上流に存在する配列はビリオンへのゲノムのパッケージングのためのシグナルとして機能する。2つの長末端リピート(LTR)配列がウイルスゲノムの5’及び3’末端に存在する。これらは強力なプロモーター及びエンハンサー配列を含有し、そしてまた宿主細胞ゲノム内への組み込みの為に必要である(Coffin,1990)。
【0129】
レトロウイルスベクターを構築するためには、プロモーターをコードする核酸を特定のウイルス配列の変わりにウイルスゲノム内に挿入して複製能欠損型であるウイルスを形成する。ビリオンを形成するためには、gag、pol及びenvを含有するがLTR及びY成分を伴っていないパッケージング細胞系統を構築する(Mann et al.,1983)。レトロウイルスのLTR及びY配列と共にヒトcDNAを含有する組み換えプラスミドをこの細胞系統に導入(例えばリン酸カルシウム沈降法による)する場合、Y配列は組み換えプラスミドのRNA転写物をウイルス粒子内にパッケージさせ、次にこれが培地中に分泌される(Nicolas and Rubenstein,1988;Temin,1986;Mann et al.,1983)。次に組み換えレトロウイルスを含有する培地を採取し、場合により濃縮し、そして遺伝子転移の為に使用する。レトロウイルスベクターは広範な種類の細胞型に感染可能である。しかしながら、組み込み及び安定な発現は宿主細胞の分裂を必要とする(Paskind et al.,1975)。
【0130】
レトロウイルスベクターの特異的ターゲティングを可能とするように設計された新しい方法が、ウイルスエンベロープへのガラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学修飾に基づいて、最近開発された。この修飾は、アシアロ糖蛋白を介した肝細胞のような細胞の特異的感染が望まれる場合はそれを可能とする。
【0131】
組み換えレトロウイルスのターゲティングのための異なる方法が設計されており、それにおいては、レトロウイルスエンベロープ蛋白に対する、そして、特定の細胞受容体に対するビオチニル化抗体を使用している。抗体はストレプトアビジンを用いることによりビオチン成分を介してカップリングされている(Roux et al.,1989)。主要組織適合性複合体クラスI及びクラスII抗原に対する抗体を使用しながら、これらの表面抗原を担持している種々のヒト細胞のインビトロのエコトロピックウイルスによる感染が示されている(Roux et al.,1989)。
【0132】
3.他のウイルスベクター
本発明における発現構築物として他のウイルスベクターを用いてよい。ワクシニアウイルス(Ridgeway,1988;Baichwal and Sugden,1986;Coupar et al.,1988)、アデノ随伴ウイルス(AAV)(Ridgeway,1988;Baichwal and Sugden,1986;Hermonat and Muzycska,1984)、ヘルペスウイルス及びレンチウイルスのようなウイルスから誘導されたベクターを使用してよい。これらのウイルスは種々の哺乳類細胞内への遺伝子転移における使用のための幾つかの特徴を与える。
【0133】
4.遺伝子転移の方法
本発明のヘルパー細胞系統を作成するため、そして、それと共に使用するための組み換えアデノウイルスベクターを作成するためには、種々の遺伝子(即ちDNA)構築物を細胞に送達しなければならない。これを達成するための1つの方法は、感染性ウイルス粒子を用いたウイルス形質導入を介するもの、例えば本発明のアデノウイルスベクターによる形質転換によるものである。或いは、レトロウイルス又はウシ乳頭腫ウイルスを用いてよく、これらは両方とも目的の遺伝子による宿主細胞の永久的な形質転換を可能にする。他の状況においては、転移させるべき核酸は感染性ではなく、即ち、感染性ウイルス粒子内には含有されていない。この遺伝子材料は転移のためには非ウイルス的方法に依存しなければならない。
【0134】
培養哺乳類細胞内への発現構築物の転移のための幾つかの非ウイルス的な方法もまた本発明の意図するものである。これらにはリン酸カルシウム沈降法(Graham and Van Der Eb,1973;Chen and Okayama,1987;Rippe et al.,1990)、DEAEデキストラン(Gopal,1985)、エレクトロポレーション(Tur−Kaspa et al.,1986;Potter et al.,1984)、直接マイクロインジェクション(Harland and Weintraub,1985)、DNA負荷リポソーム(Nicolau and Sene,1982;Fraley et al.,1979)、細胞超音波処理(Fechheimer et al.,1987)、高速マイクロプロジェクタイルを用いた遺伝子衝突(Yang et al.,1990)及び受容体媒介トランスフェクション(Wu and Wu,1987;Wu and Wu,1988)が包含される。
【0135】
構築物が細胞内に送達された後、治療用遺伝子をコードする核酸を種々の部位に位置づけて発現させてよい。特定の実施形態においては、治療用遺伝子をコードする核酸は細胞のゲノム内に安定に組み込まれてよい。この組み込みは相同組み換え(遺伝子置き換え)により同族性の位置及び方向であってよく、あるいは、無作為の非特異的位置(遺伝子増強)に組み込まれてもよい。更に別の実施形態においては、核酸をDNAの別個のエピソームセグメントとして細胞内に安定に維持してよい。このような核酸セグメント又は「エピソーム」は、宿主細胞の周期とは独立した、又は、これと同調した、維持と複製を可能にするのに十分な配列をコードする。細胞に発現構築物を送達する方法、及び、核酸が残存する細胞内の場所は、使用する発現構築物に依存している。
【0136】
本発明の1つの実施形態において、発現構築物は単にネイキッドの組み換えDNA又はプラスミドよりなる。構築物の転移は細胞膜を物理的又は化学的に透過性とする上記した方法の何れかにより実施してよい。これはインビトロの転移に特に適用されるが、インビボの使用にも適用してよい。Dubensky等(1984)は成熟及び新生仔のマウスの肝臓及び脾臓にCaPO沈降物の形態のポリオーマウイルスDNAを良好に注入しており、活性なウイルスの複製及び急性期の感染を明らかにしている。Benvenisty及びNeshif(1986)もまたCaPO沈降プラスミドの直接腹腔内注射がトランスフェクトされた遺伝子の発現をもたらすことを示している。CAMをコードするDNAもまた同様の態様で転移してよく、CAMを発現することも想定される。
【0137】
ネイキッドDNA発現構築物を細胞内に転移させるための本発明の別の実施形態は粒子衝突を使用する。この方法はDNAコーティングマイクロプロジェクタイルを高速まで加速してそれらが細胞を殺傷することなく細胞膜を貫通して細胞内に進入させる能力に依存している(Klein et al.,1987)。小粒子を加速するための幾つかの装置が開発されている。1つのそのような装置は運動力を与える電流を発生させるための高電圧放電に依存している(Yang et al.,1990)。使用されるマイクロプロジェクタイルタングステン又は金のビーズのような生物学的に不活性の物質よりなるものとされている。
【0138】
本発明の別の実施形態においては、発現構築物はリポソーム内に捕獲させてよい。リポソームはリン脂質の二層および内部の水性媒体を特徴とする嚢胞構造である。多層リポソームは水性媒体で分離された複数の脂質層を有する。これらはリン脂質を過剰量の水溶液に懸濁すれば自発的に形成される。脂質成分は自己再配列を起こし、その後、閉鎖構造を形成し、そして、脂質に層の間に水及び溶解している溶質を捕獲する(Ghosh and Bachhawat,1991)。
【0139】
リポソーム媒介の核酸送達及びインビトロ外来性DNA発現は極めて良好に行われている。β−ラクタマーゼ遺伝子を使用しながら、Wong等(1980)は培養されたニワトリ胚、HeLa及び肝腫瘍細胞における外来性DNAのリポソーム媒介の送達及び発現の実現可能性を明らかにしている。Nicolau等(1987)はラットにおいて静脈内注射後に良好なリポソーム媒介遺伝子転移を達成している。同様に包含されるものは「リポフェクチン」技術を使用する種々の市販されている方法である。
【0140】
本発明の特定の実施形態においては、リポソームは赤血球凝集反応性ウイルス(HVJ)と複合体化してよい。これは細胞膜との融合を促進し、そしてリポソームカプセル化DNAの細胞への進入を促進することが分かっている(Kaneda et al.,1989)。他の実施形態においては、リポソームは核非ヒストン染色体蛋白(HMG−1)と複合体化又は組み合わせて使用してよい(Kato et al.,1991)。更に別の実施形態においては、リポソームはHVJ及びHMG−1と複合体化又は組み合わせて使用してよい。このような発現構築物インビトロ及びインビボの核酸の転移及び発現に良好に使用されているという点において、それらは本発明にも適用される。
【0141】
細胞に治療用遺伝子をコードする核酸を送達するために使用できる別の発現構築物は受容体媒介送達ビヒクルである。これらは殆ど全ての真核生物細胞内の受容体媒介エンドサイトーシスによる巨大分子の選択的取り込みを利用している。種々の受容体の細胞型特異的分布により、送達は高度に特異的なものとすることができる(Wu and Wu,1993)。
【0142】
受容体媒介遺伝子ターゲティングビヒクルは一般的に2つの成分、即ち細胞受容体特異的リガンド及びDNA結合剤よりなる。幾つかのリガンドが受容体媒介遺伝子転移に使用されている。最も広範に特性化されているリガンドはアシアロオロソムコイド(ASOR)(Wu and Wu,1987)及びトランスフェリン(Wagner et al.,1990)である。最近、ASORと同じ受容体を認識する合成のネオ糖蛋白が遺伝子送達ビヒクルとして使用されており(Ferkol et al.,1993;Perales et al.,1994)、そして表皮成長因子(EGF)もまた扁平上皮癌細胞に遺伝子を送達するために使用されている(Myers,EPO0273085)。
【0143】
他の実施形態においては、送達ビヒクルはリガンド及びリポソームを含んでよい。例えばNicolau等(1987)はリポソームに組み込まれたガラクトース末端アシアルガングリオシドであるラクトシル−セラミドを使用しており、そして肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増大を観察している。即ち、治療用遺伝子をコードする核酸も、リポソームを使用するか使用することなく、何れかの数の受容体−リガンド系により、前立腺、上皮又は腫瘍細胞のような細胞型に特異的に送達してよい。例えばヒト前立腺特異的抗原(Watt et al.,1986)を前立腺組織における核酸の媒介送達のための受容体として使用してよい。
【0144】
本発明の特定の実施形態においては、宿主細胞の感染を実施する温度は37℃である。しかしながら、他の実施形態においては、感染温度は37℃未満の温度である。これは、37℃未満の感染温度がアデノウイルスの最適な製造をもたらすことを本発明者等が発見したことに基づいている。即ち、例えば、温度は、32.1℃、32.2℃、32.3℃、32.4℃、32.5℃、32.6℃、32.7℃、32.8℃、32.9℃、33.0℃、33.1℃、33.2℃、33.3℃、33.4℃、33.5℃、33.6℃、33.7℃、33.8℃、33.9℃、34.0℃、34.1℃、34.2℃、34.3℃、34.4℃、34.5℃、34.6℃、34.7℃、34.8℃、34.9℃、35.0℃、35.1℃、35.2℃、35.3℃、35.4℃、35.5℃、35.6℃、35.7℃、35.8℃、35.9℃、36.0℃、36.1℃、36.2℃、36.3℃、36.4℃、36.5℃、36.6℃、36.7℃、36.8℃及び36.9℃、及び、何れかの範囲の温度又はそれから派生する温度の増分であってよい。当業者に知られた何れかの方法を用いて細胞培養物の培地の温度を測定してよい。培地の温度を測定するために使用される広範な手法は当業者のよく知るものである。
【0145】
例えば、温度を測定するための1つの好都合な方法はインキュベーター内の温度を測定するためのリアルタイムデジタル装置の使用である。操作を行う前に、デジタル装置の正確さを確認するために追跡可能な温度カリブレーション機器を使用してデジタル装置をカリブレーションすることができる。
【0146】
本発明の特定の実施形態においては、アデノウイルスを製造するための方法では、新しい培地及びアデノウイルスで宿主細胞を希釈することによりウイルス感染を開始する。これにより感染前に個別に培地交換する工程の必要性がなくなる。本発明は宿主細胞の希釈の何れかの量が本発明により意図されることを意図している。特定の実施形態において、宿主細胞は新しい培地で10倍希釈される。本発明はまた感染を開始するために添加されるウイルスの何れかの量を意図している。しかしながら本発明の特定の実施形態においては、ウイルス感染は50vp/宿主細胞を添加することにより開始する。
【0147】
本発明の実施形態は、何れの長さの時間もウイルス感染を進行させることができることを意図している。しかしながら、特定の実施形態においては、ウイルス感染は4日間進行させる。本発明の別の実施形態においては、宿主細胞の生育は1つのバイオリアクター中で行い、そして宿主細胞の感染は第2のバイオリアクター中で行う。
【0148】
「アデノウイルス調製物」という用語は本明細書においては、アデノウイルスによる感染の開始の後の反応混合物を記載するものである。アデノウイルス調製物は溶解を起こしている宿主細胞、アデノウイルス、培地、及び、感染中に反応混合物中に存在する何れかの他の成分を包含してよい。アデノウイルス調製物は、感染を進行させる時間の長さに応じて、未損傷の宿主細胞を包含してよい。宿主細胞の一部又は全ては周囲の培地にウイルス粒子を放出しながら細胞溶解を起こしていてよい。本発明はアデノウイルスの製造のための方法の実施形態においてアデノウイルスの単離は感染後の何れかの時点において、そして、当業者に知られた何れかの手段により行うことになることを意図している。例えば、本発明の1つの実施形態において、アデノウイルス調製物からのアデノウイルスの単離はウイルス感染が完了した4日後に行う。
【0149】
E.ウイルスベクターの操作
1.ウイルスベクター
特定の実施形態において、組み換えアデノウイルスは発現構築物の送達の為に意図される。「組み換えアデノウイルス」、「アデノウイルスベクター」又は「アデノウイルス発現ベクター」とは(a)構築物のパッケージングを支援し、そして(b)究極的にはその中でクローニングされた組織又は細胞特異的構築物を発現するために十分なアデノウイルス配列を含有する構築物を包含するものとする。組み換えアデノウイルスは組み換え遺伝子をコードしてよい。即ち、組み換えアデノウイルスはアデノウイルス配列を含む操作されたベクターのいずれかを包含してよい。
【0150】
本発明のアデノウイルス発現ベクターは、アデノウイルスの遺伝子操作された形態を含む。アデノウイルスベクターの性質は本発明の良好な実施にとって重要とはならないと考えられる。アデノウイルスは知られた血清型及び/又はサブグループA〜Fの何れかのものであってよい。サブグループCのアデノウイルス5型が本発明において使用するための1つのアデノウイルスベクターを得るための好ましい出発物質である。その理由は、アデノウイルス5型はそれに関する生化学的及び遺伝子的な情報の大量が既知であるヒトアデノウイルスであり、そしてベクターとしてアデノウイルスを使用する殆どの構築の為に歴史的に使用されているからである。
【0151】
アデノウイルス遺伝子転移の利点は、非分裂細胞を含む広範な種類の細胞型を感染させる能力、中程度の大きさのゲノム、操作の容易さ、高い感染性を包含し、そしてそれらは高い力価で生育させることができる(Wilson,1996)。更にまた、宿主細胞のアデノウイルス感染は、アデノウイルスDNAが他のウイルスベクターに伴う潜在的遺伝子毒性を呈することなくエピソームの態様に置いて複製できることから、染色体組み込みをもたらさない。アデノウイルスはまた構造的に安定であり(Marienfeld et al.,1999)、そして、広範な増幅の後にもゲノムの再配列は検出されていない(Parks et al.,1997;Bett et al.,1993)。
【0152】
アデノウイルスの生育及び操作は当業者に知られており、インビトロ及びインビボの広範な宿主の範囲を示す(米国特許5,670,488;米国特許5,932,210;米国特許5,824,544)。このウイルス群は高い力価、例えば10〜1011のmL当たりプラーク形成単位で得ることができ、そしてそれらは高度に感染性である。アデノウイルスの生命周期は宿主細胞ゲノムへの組み込みを必要としない。アデノウイルスベクターにより送達される外来遺伝子はエピソームであり、従って、宿主細胞への遺伝子毒性が低値である。
【0153】
アデノウイルス系ベクターは他のベクター系を超えた幾つかの独特の利点を与えるが、それらはしばしば、ベクターの免疫原性、組み換え遺伝子の挿入に関するサイズの制約、低水準の複製及び低水準のトランスジーン発現により制限される。アデノウイルスを使用する場合の主要な懸案はパッケージング細胞系統におけるベクター製造中、又は、個体の遺伝子療法処置中の複製可能なウイルスの形成である。複製可能なウイルスの形成は意図しないウイルス感染及び患者の病理学的転帰の重篤な危機を呈する場合がある。
【0154】
本発明の特定の実施形態は複製能欠損型アデノウイルスを使用するアデノウイルスの製造方法に関する。Armentanoet alが複製能欠損型アデノウイルスベクターの調製を記載しており、複製可能なアデノウイルスの望ましくない形成の可能性を排除したと訴えている(米国特許5,824,544)。複製能欠損型アデノウイルス法は欠失したE1領域及び再移転された蛋白IX遺伝子を含み、ここでベクターは非相同の哺乳類遺伝子を発現する。
【0155】
遺伝子転移ベクターとして使用するためのアデノウイルスを形成する一般的方法はE2、E3及びE4プロモーターの誘導に関与するE1遺伝子(E1)の欠失である(Graham and Prevec,1995)。その後、治療用遺伝子をE1遺伝子の変わりに組み換え挿入することができ、その場合、治療用遺伝子の発現はE1プロモーター又は非相同のプロモーターにより駆動される。次にE1複製能欠損型ウイルスをE1ポリペプチドをイントランスに与える「ヘルパー」細胞系統内で増殖させる(例えばヒト胚性腎細胞系統293)。或いは、E3領域、E4領域の一部分、又は両方を欠失させてよく、その場合、真核生物の細胞において作動可能であるプロモーターの制御下にある非相同の核酸配列を遺伝子転移において使用するためのアデノウイルスゲノム内に挿入する(米国特許5,670,488;米国特許5,932,210)。
【0156】
2.治療用遺伝子をコードするウイルスベクター
特定の実施形態においては、本発明はアデノウイルスが組み換え遺伝子をコードする組み換えアデノウイルスであるアデノウイルスの製造方法を包含してよい。組み換え遺伝子はプロモーターに作動可能に連結してよい。特定の他の実施形態においては、組み換え遺伝子は治療用遺伝子である。本発明は疾患又は遺伝子障害の治療において治療上又は潜在的に治療上の価値を有する何れかの遺伝子の使用を意図している。発見されているこのような遺伝子の広範なものは当業者のよく知るものである。
【0157】
遺伝子療法では一般的に、発現すれば疾患又は遺伝子障害の緩解又は治療がもたらされるトランスジーンとしても知られている治療用遺伝子の細胞内への導入を行う。使用する治療用遺伝子は蛋白、構造的又は酵素的RNA、抑制性生成物、例えばアンチセンスRNA又はDNA、又は、何れかの他の遺伝子産物をコードするものであってよい。発現はこのような遺伝子産物の形成、又は、そのような遺伝子産物の形成の結果的作用である。即ち、増強された発現は、何れかの治療用遺伝子のより高値の生成、又は、細胞、組織、臓器又は生物の状態を決定する場合のその産物の役割の増強を包含する。アデノウイルスベクターによる治療用遺伝子の送達には、細胞の形質導入と称されるものが関与している。本明細書においては、形質導入とは、アデノウイルス又は関連のベクターによる治療用遺伝子、トランスジーン又はトランスジーン構築物の細胞内への導入と定義する。
【0158】
多くの実験、技術革新、前臨床試験及び臨床治験が遺伝子送達ベクターとしてのアデノウイルスの使用の為の検討に現在付されている。例えば、アデノウイルス遺伝子送達系の遺伝子療法は肝臓疾患(Han et al.,1999)、精神疾患(Lesch,1999)、神経学的疾患(Hermens and Verhaagen,1998)、冠動脈疾患(Feldman et al.,1996)、筋肉疾患(Petrof,1998)及び種々の癌、例えば結腸直腸(Dorai et al.,1999)、膀胱(Irie et al.,1999)、前立腺(Mincheff et al.,2000)、頭部頚部(Blackwell et al.,1999)、乳房(Stewart et al.,1999)、肺(Batra et al.,1999)及び卵巣(Vanderkwaak et al.,1999)に対して開発中である。
【0159】
アデノウイルスベクターによりコードされる特定の治療用遺伝子は限定的なものではなく、種々の治療及び研究目的の為に有用なもの、並びに、トランスジーンの発現及びアデノウイルス及びアデノウイルスベクター形質導入の有効性を追跡する場合に有用なレポーター遺伝子及びレポーター遺伝子系及び構築物を包含する。即ち、例示すれば、本発明の組成物及び方法を用いることにより発現を増強してよい考えられる遺伝子のクラスは、発生遺伝子(例えば接着分子、サイクリンキナーゼ阻害剤、Wntファミリーメンバー、Paxファミリーメンバー、Wingedヘリックスファミリーメンバー、Hoxファミリーメンバー、サイトカイン/リンホカイン及びその受容体、成長又は分化因子及びその受容体、神経伝達物質及びその受容体)、癌遺伝子(例えばABLI、BLC1、BCL6、CBFA1、CBL、CSFIR、ERBA、ERBB、EBRB2、ETS1、ETS1、ETV6、FGR、FOX、FYN、HCR、HRAS、JUN、KRAS、LCK、LYN、MDM2、MLL、MYB、MYC、MYCL1、MYCN、NRAS、PIM1、PML、RET、SRC、TAL1、TCL3及びYES)、腫瘍抑制遺伝子(例えばAPC、BRCA1、BRCA2、MADH4、MCC、NF1、NF2、RB1、TP53及びWT1)、酵素(例えばACPデサチュラーゼ及びヒドロキシラーゼ、ADP−グルコースピロホリラーゼ、ATPase、アルコールデヒドロゲナーゼ、アミラーゼ、アミログルコシダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、シクロオキシゲナーゼ、デカルボキシラーゼ、デキストリナーゼ、エステラーゼ、DNA及びRNAポリメラーゼ、ヒアルロンシンターゼ、ガラクトシダーゼ、グルカナーゼ、グルコースオキシダーゼ、GTPase、ヘリカーゼ、ヘミセルラーゼ、ヒアルロニダーゼ、インテグラーゼ、インベルターゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、ラクターゼ、リパーゼ、リポキシゲナーゼ、リアーゼ、リソザイム、ペクチンエステラーゼ、パーオキシダーゼ、ホスファターゼ、ホスホリパーゼ、ホスホリラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、プロテイナーゼ及びペプチダーゼ、プルラナーゼ、リコンビナーゼ、逆転写酵素、トポイソメラーゼ、キシラナーゼ)、レポーター遺伝子(例えば緑色蛍光蛋白及びその多くの色変異体、ルシフェラーゼ、CATレポーター系、ベータ−ガラクトシダーゼ等)、血液誘導体、ホルモン、リンホカイン(インターロイキンを含む)、インターフェロン、TNF、成長因子、神経伝達物質又はその前駆体又は合成酵素、栄養因子(例えばBDNF、CNTF、NGF、IGF、GMF、aFGF、bFGF、NT3、NT5等)、アポリポ蛋白(例えばApoAI、ApoAIV、ApoE等)、ジストロフィン又はミニジストロフィック、腫瘍サプレッサ遺伝子(例えばp53、Rb、Rap1A、DCC、k−rev等)、凝固関与因子をコードする遺伝子(例えば第VII、VIII、IX因子等)、自殺遺伝子(例えばチミジンキナーゼ)、サイトカインデミナーゼ、又は天然及び人工の免疫グロブリンの全体又は部分(Fab、ScFv等)である。治療用遺伝子の他の例はfus、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、ADP(アデノウイルス死滅蛋白)を包含する。
【0160】
治療用遺伝子はまた、標的細胞におけるその発現が細胞遺伝子の発現又は細胞mRNAの転写を制御可能とするアンチセンス遺伝子又は配列、例えばリボザイムであることもできる。このような配列は例えば標的細胞内で転写されて細胞mRNAに相補なRNAとなることができる。治療用遺伝子はまた人間における免疫応答を発生させることができる抗原性ペプチドをコードする遺伝子であることもできる。この特定の実施形態においては、本発明はしたがって特に微生物及びウイルスに対してヒトを免疫化することができるワクチンを製造することを可能とするものである。
【0161】
腫瘍抑制癌遺伝子は過剰な細胞増殖を抑制する機能を有する。これらの遺伝子の不活性化はその抑制活性を破壊し、未調節の増殖をもたらす。腫瘍サプレッサp53、p16及びC−CAMを以下に説明する。
【0162】
p53は腫瘍サプレッサ遺伝子として現在は認識されている。高濃度の突然変異体p53が化学的発癌、紫外線照射及びSV40を包含する数種のウイルスにより形質転換された多くの細胞において発見されている。p53遺伝子は広範な種類のヒト腫瘍における突然変異的不活性化の頻繁な標的となり、そして一般的なヒト癌において最も頻繁に突然変異する遺伝子としてすでに報告されている。ヒトNSCLC(Hollstein et al.,1991)の50%超において、そして広範なスペクトルの他の腫瘍において突然変異する。
【0163】
p53遺伝子はラージT抗原及びE1Bのような宿主蛋白と複合体を形成できる393アミノ酸のホスホ蛋白をコードする。蛋白は正常組織及び細胞に存在するが、その濃度は形質転換細胞又は腫瘍組織と比較して僅かである。興味深いことに、野生型p53は細胞の生育及び分裂を調節する場合に重要であると考えられる。野生型p53の過剰発現は一部の場合においてはヒト腫瘍細胞系統において抗増殖性であることがわかっている。即ち、p53は細胞生育の負の調節物質として機能することができ(Weinberg,1991)、そして、未制御の細胞生育を直接抑制するか、又は、間接的に、その生育を抑制する遺伝子を活性化する場合がある。即ち、野生型p53の非存在又は不活性化は形質転換に寄与すると考えられる。しかしながら、一部の試験によれば突然変異体p53の存在は遺伝子の形質転換能力の完全な発現のためには必要であることを示している。
【0164】
野生型p53は多くの細胞型において重要な生育調節物質として認識されている。ミスセンス突然変異はp53遺伝子にとって一般的であり、癌遺伝子の形質転換能力のためには必須である。点突然変異により開始される1遺伝子変化は癌原性p53を生成する場合がある。しかしながら他の癌遺伝子とは異なり、p53点突然変異は少なくとも30の異なるコドンにおいて生じ、ホモ接合性への低下を伴わない細胞表現型のシフトをもたらす優性対立遺伝子を生成する場合が多い。更にまた、これらの優性阻害対立遺伝子は生物において耐容され、そして生殖細胞系統に引き継がれると考えられる。種々の突然変異体対立遺伝子は最低限の機能不全から強力な浸透性の優性阻害対立遺伝子に渡っていると考えられる。
【0165】
Casey等の報告によれば、2種のヒト乳癌細胞系統への野生型p53をコードするDNAのトランスフェクションはそのような細胞において生育抑制制御を回復させている(Casey et al.,1991)。同様の作用はまたヒト肺癌細胞系統への野生型p53のトランスフェクションについても観察されているが、突然変異体では観察されていない(Takahasi et al.,1992)。p53は突然変異体遺伝子よりも優性であり、突然変異体遺伝子と共に細胞にトランスフェクトされた場合は増殖に対抗した選択に付されることになる。トランスフェクトされたp53の正常な発現は内因性の野生型p53を有する正常細胞にとっては有害ではない。即ち、このような構築物は悪影響を伴うことなく正常細胞により取り込まれる。即ち、野生型p53発現構築物を用いたp53関連癌の治療は悪性細胞の数又はその生育速度を低減することになる。更にまた、最近の研究によれば、一部のp53野生型腫瘍は外来性p53発現の作用に対して感受性であることも示唆されている。
【0166】
真核生物の細胞周期の主要な変遷はサイクリン依存性キナーゼ、即ちCDKによりトリガーされる。1つのCDKであるサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)はG期を通過する進行を調節する。この酵素の活性は後期GにおいてRbをホスホリル化することと考えられる。CDK4の活性はサブユニットD型サイクリンを活性化することにより、そして、CDK4に特異的に結合して阻害する蛋白として生化学的に特性化されている例えばp16INK4のような抑制性サブユニットにより制御され、そしてこれにより、Rbホスホリル化を調節すると考えられる(Serrano et al.,1993;Serrano et al.,1995)。p16INK4蛋白はCDK4阻害剤(Serrano,1993)であるため、この遺伝子の欠失はCDK4の活性を増大させ、Rb蛋白のホスホリル化亢進をもたらす。p16はまたCDK6の機能を調節することもわかっている。
【0167】
p16INK4はp16、p21WAF1、CIP1、SDI1及びp27KIP1も包含するCDK抑制蛋白の新しく報告されたクラスに属する。p16INK4遺伝子は多くの腫瘍型において頻繁に欠失している染色体領域である9p21にマッピングされる。p16INK4遺伝子のホモ接合の欠失及び突然変異はヒト腫瘍細胞系統において頻発する。この証拠はp16INK4遺伝子が腫瘍サプレッサ遺伝子であることを示唆している。しかしながらこの解釈は、培養細胞系統よりも原発未培養腫瘍においてp16INK4遺伝子改変の頻度が遥かに低値であるという観察結果と矛盾している(Caldas et al.,1994;Cheng et al.,1994;Hussussian et al.,1994;Kamb et al.,1994a;Kamb et al.,1994b;Mori et al.,1994;Okamoto et al.,1994;Nobori et al.,1995;Orlow et al.,1994;Arap et al.,1995)。プラスミド発現ベクターを用いたトランスフェクションによる野生型p16INK4機能の回復は一部のヒト癌細胞系統によるコロニー形成を低減している(Okamoto,1994;Arap,1995)。
【0168】
C−CAMは実質的に全ての上脾細胞において発現される(Odin and Obrink,1987)。見かけの分子量105kDを有するC−CAMは、最初はラット肝細胞の原形質膜から、細胞凝集を中和する特異的抗体とのその反応により単離されている(Obrink,1991)。最近の研究によれば、構造的にはC−CAMは免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーに属し、その配列は癌胎児抗原(CEA)に対して高度な相同性を有する(Lin and Guidotti,1989)。バキュロウイルス発現系を使用しながら、Cheung等(1993a;1993b及び1993c)はC−CAMの第1のIgドメインが細胞接着活性にとって重要であることを明らかにしている。
【0169】
細胞接着分子、即ちCAMは臓器の発生及び細胞の分化を調節する分子相互作用の複雑なネットワークに関与していることがわかっている(Edelman,1985)。最近のデータによれば、CAMの異常発現は幾つかの新生物形成の腫瘍形成性に関与していると考えられ;例えば上皮細胞で主に発現されるE−カドヘリンの低減した発現は数種の新生物形成の進行に関与している(Edelman and Crossin,1991;Frixen et al.,1991;Bussemakers et al.,1992;Matsura et al.,1992;Umbas et al.,1992)。更にまた、GiancottiとRuoslahti(1990)は遺伝子転移によるαβインテグリンの増大した発現がインビボのチャイニーズハムスター卵巣細胞の腫瘍形成性を低減することができる。C−CAMは現在、インビトロ及びインビボで腫瘍の生育を抑制することがわかっている。
【0170】
本発明で使用してよい他の腫瘍サプレッサはBRCA1、BRCA2、zac1、p73、MMAC−1、ATM、HIC−1、DPC−4、FHIT、NF2、APC、DCC、PTEN、ING1、NOEY1、NOEY2、PML、OVCA1、MADR2、WT1、53BP2及びIRF−1を包含する。本発明で使用してよい他の遺伝子はRb、APC、DCC、NF−1、NF−2、WT−1、MEN−I、MEN−II、zac1、p73、VHL、MMAC1/PTEN、DBCCR−1、FCC、rsk−3、p27、p57、p27/p16融合体、p21/p27融合体、抗トロンビン遺伝子(例えばCOX−1、TFP1)、PGS、Dp、E2F、ras、myc、neu、raf、erb、fms、trk、ret、gsp、hst、abl、E1A、p300、血管形成に関与する遺伝子(例えばVEGF、FGF、トロンボスポンジン、BAI−1、GDAIF又はその受容体)及びMCCを包含する。アポトーシスの誘導物質、例えばBax、Bak、Bcl−X、Bik、Bid、Harakiri、AdE1B、Bad及びICE−CED3プロテアーゼも同様に本発明により使用できる。
【0171】
特定の実施形態においては、アデノウイルスはmda−7遺伝子である外来遺伝子構築物を含む。MDA−7はp53野生型、p53ヌル及びp53突然変異体である癌細胞の成育を抑制することがわかっている別の推定腫瘍サプレッサである。更にまた、p53ヌル細胞におけるアポトーシス関連Bax遺伝子のアップレギュレーションが観察されたことは、MDA−7が癌細胞の破壊を誘導するためにp53依存性機序を使用することができることを示している。
【0172】
研究によれば、ヒト乳癌細胞においてMDA−7の上昇した発現はインビトロの癌細胞の成育を抑制し、そして選択的にアポトーシスを誘導し、またヌードマウスにおける腫瘍生育を抑制した(Jiang et al.,1996及びSu et al.,1998)。Jiang等(1996)はMDA−7が乳房、中枢神経系、子宮頚部、結腸、前立腺及び結合組織を包含する多様な起源の癌細胞における強力な生育抑制遺伝子であることを発見したと報告している。コロニー抑制試験を用いることにより、MDA−7の上昇した発現がヒト子宮頸がん(HeLa)、ヒト乳癌(MCF−7及びT47D)、結腸癌(LS174T及びSW480)、鼻咽頭癌(HONE−1)、前立腺癌(DU−145)、黒色腫(HO−1及びC8161)、多形神経膠芽細胞腫(GBM−18及びT98G)及び骨肉種(Saos−2)において生育抑制を増強したことを明らかにしている。正常細胞(HMEC、HBL−100及びCREF−Trans6)におけるMDA−7の過剰発現は限定的な生育抑制を示し、MDA−7のトランスジーン作用が正常細胞では顕在化しないことを示している。総括すれば、データはMDA−7の上昇した発現による生育の抑制は正常細胞よりもがん細胞においてよりインビトロ有効であることを示している。Su et al.(1998)はMDA−7が癌細胞成育を抑止した機序に関する研究を報告している。その研究は乳癌細胞系統MCF−7及びT47DにおけるMDA−7の異所性の発現は、細胞周期分析及びTUNEL試験で検出した場合にアポトーシスを誘導し、正常HBL−100細胞に対する作用は無かったことを報告している。アデノウイルスMDA−7(Ad−MDA−7)を感染させた細胞からの細胞溶解物のウエスタンブロット分析によれば、アポトーシス刺激蛋白BAXのアップレギュレーションが示された。Ad−MDA−7感染はMCF−7及びT47D細胞においてのみBAX蛋白の水準を上昇させ、正常HBL−100及びHMEC細胞では上昇させなかった。これらのデータは研究者等をMCF−7つも細胞の異種移植片腫瘍形成に対するエクスビボのAd−MDA−7形質導入の作用の評価に至らせた。エクスビボの形質導入は腫瘍異種移植片モデルにおいて腫瘍の形成及び進行の抑制をもたらした。これらの特徴は、MDA−7はPKRのインデューサーとして、そしてその結果として誘導された免疫応答のエンハンサーとして、広範な治療、予後及び診断の潜在能力を有することを示している。
【0173】
種々の酵素遺伝子もまた治療用遺伝子とみなされる。発現に特に適する遺伝子は対象哺乳類において標的細胞中では正常水準より低値で発現されると考えられる遺伝子を包含する。特に有用な遺伝子産物は、カルバモイル合成酵素I、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギノスクシネート合成酵素、アルギノスクシネートリアーゼ及びアルギナーゼを包含する。他の望ましい遺伝子産物はフマリルアセトアセテートヒドロラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、アルファ−1抗トリプシン、グルコース−6−ホスファターゼ、低密度リポ蛋白受容体、ポルホビリノーゲンデアミナーゼ、第VIII因子、第IX因子、シスタチオンベータシンターゼ、分枝鎖ケト酸デカルボキシラーゼ、アルブミン、イソバレリル−CoAデヒドロゲナーゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、メチルマロニルCoAムターゼ、グルタリルCoAデヒドロゲナーゼ、インスリン、ベータグルコシダーゼ、ピルベートカルボキシラーゼ、肝ホスホリラーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、グリシンデカルボキシラーゼ(P蛋白とも称する)、H蛋白、T蛋白、メンケズ病銅輸送ATPase及びウイルソン病銅輸送ATPaseを包含する。遺伝子産物の他の例はシトシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、ガラクトース−1−ホスフェートウリジルトランスフェラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、グルコセルブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、α−L−イドウロニダーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、HSVチミジンキナーゼ又はヒトチミジンキナーゼを包含する。ホルモン類は本明細書に記載するベクターにおいて使用してよい遺伝子の別のグループである。包含されるものは、成長ホルモン、プロラクチン、胎盤ラクトーゲン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、絨毛ゴナドトロピン、甲状腺刺激ホルモン、レプチン、アドレノコルチコトロピン(ACTH)、アンジオテンシンI及びII、β−エンドルフィン、β−メラノサイト刺激ホルモン(β−MSH)、コレシストキニン、エンドセリンI、ガラニン、胃抑制性ペプチド(GIP)、グルカゴン、インスリン、リポトロピン、ニューロフィシン、ソマトスタチン、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、β−カルシトニン遺伝子関連ペプチド、悪性因子の高カルシウム血症(1−40)、副甲状腺ホルモン関連蛋白(107−139)(PTH−rP)、副甲状腺ホルモン関連蛋白(107−111)(PHT−rP)、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)、パンクレアスタチン、膵臓ペプチド、ペプチドYY、PHM、セクレチン、血管作用性腸ペプチド(VIP)、オキシトシン、バソプレシン(AVP)、バソトシン、エンケファリナミド、メトルフィナミド、アルファメラノサイト刺激ホルモン(アルファ−MSH)、心房性ナトリウム利尿因子(5−28)(ANF)、アミリン、アミロイドP成分(SAP−1)、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)、成長ホルモン放出因子(GHRH)、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、ニューロペプチドY、サブスタンスK(ニューロキニンA)、サブスタンスP及び甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)である。本発明のベクターに挿入することを意図する遺伝子の別のクラスは、インターロイキン及びサイトカインを包含する。インターロイキン1(IL−1)、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、GM−CSF及びG−CSF。
【0174】
本発明のベクターが有用となる疾患の例は、限定しないが、アデノシンデアミナーゼ不全症、B型血友病におけるヒト血液凝固代IX因子不全、及び、嚢胞性線維症コンダクタンスレギュレーター遺伝子の置き換えが関与する場合のある嚢胞性線維症を包含する。本発明のベクターは又、血管形成抑制剤又は細胞周期抑制剤をコードする遺伝子の転移により、慢性間接リューマチ又は再狭窄のような増殖亢進性障害の治療の為にも使用できる。HSV−TK遺伝子のようなプロドラッグ活性化剤の転移もまた癌を包含する増殖亢進性障害の治療において使用できる。
【0175】
3.アンチセンス構築物
癌遺伝子、例えばras、myc、neu、raf、erb、src、fms、jun、trk、ret、gsp、hst、bcl及びablもまた適当な標的である。しかしながら、治療上の利点のためには、これらの癌遺伝子は、癌遺伝子の発現を抑制するためにアンチセンス核酸として発現させる。「アンチセンス核酸」という用語は癌遺伝子をコードするDNA及びRNAの塩基配列に相補的であるオリゴヌクレオチドを指すものとする。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的細胞に導入されるとその標的核酸に特異的に結合し、そして転写、RNAプロセシング、輸送及び/又は翻訳を妨害する。オリゴヌクレオチドで2本鎖(ds)DNAをターゲティングすることは3重螺旋の形成をもたらし;RNAをターゲティングすることは二重螺旋の形成をもたらす。
【0176】
アンチセンス構築物はプロモーター及び他の制御領域、エクソン、イントロン又は更には遺伝子のエクソン−イントロン境界にも結合するように設計してよい。アンチセンスRNA構築物又はそのようなアンチセンスRNAをコードするDNAを用いることにより、インビトロ又はインビボのいずれかで、例えばヒト対象を包含する宿主動物内において、遺伝子の転写又は翻訳又は両方を抑制してよい。「相補ヌクレオチド」を含む核酸配列は標準的なワトソンクリック相補性規則に従って塩基対形成が可能であるものである。即ち、より大きいプリンはより小さいピリミジンと塩基対形成してシトシンと対になったグアニン(G:C)及びDNAの場合はチミジンと対になったアデニン(A:T)又はRNAの場合はウラシルと対になったアデニン(A:U)という組み合わせのみを形成する。
【0177】
本明細書においては、「相補」又は「アンチセンス配列」という用語は、自身の全長に渡って実質的に相補であり、そして極めて僅かの塩基のミスマッチを有する核酸配列を意味する。例えば、15塩基長の核酸配列は、それらが僅か1つ又は2つのミスマッチとともに13又は14の位置において相補のヌクレオチドを有する場合に相補であると称してよい。当然ながら、「完全に相補」である核酸配列はその全長に渡って完全に相補であり、塩基ミスマッチを有さない核酸配列となる。
【0178】
遺伝子配列の全部又は一部をアンチセンスの構築の意味において使用してよいが、統計学的には、17塩基長の何れかの配列はヒトゲノム内に僅か1回のみ生じるはずであり、従って、独特の標的配列を特定するには十分である。より短いオリゴマーはより容易に作成でき、インビボの接触性も増大するが、ハイブリダイゼーションの特異性を決定する場合には多くの他の要因が関与する。オリゴヌクレオチドのその相補標的への結合親和性及び配列特異性の両方とも長さの増大と共に増大する。8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又はそれ以上の塩基対のオリゴヌクレオチドを使用することが意図される。あるアンチセンス核酸が相当する宿主細胞遺伝子のターゲティングに効果的であるかどうかは、内因性遺伝子機能が影響されるかどうか、又は、相補配列を有する関連遺伝子の発現が影響されるかどうかを調べるためにインビトロで構築物を試験することにより、容易に調べることができる。
【0179】
特定の実施形態においては、他のエレメントを含むアンチセンス構築物、例えばC−5プロピンピリミジンを含むものを使用することが望まれる場合もある。売り人及びシチジンのC−5プロピン類縁体を含有するオリゴヌクレオチドは高い親和性でRNAに結合し、そして遺伝子発現の強力なアンチセンス抑制剤であることがわかっている(Wagner et al.,1993)。
【0180】
ターゲティングされたアンチセンス送達の代替法として、ターゲティングされたリボザイムを使用してよい。「リボザイム」という用語は、癌遺伝子のDNA及びRNA内の特定の塩基配列をターゲティングして切断することができるRNA系の酵素を指す。リボザイムはRNAオリゴヌクレオチド取り込みリボザイム配列として細胞に直接ターゲティングするか、又は、所望のリボザイムRNAをコードする発現構築物として細胞に導入することができる。リボザイムはアンチセンス核酸に関する説明とほぼ同様にして使用及び適用してよい。
【0181】
4.ワクチンのための抗原
他の治療用遺伝子はウイルス抗原、細菌抗原、カビ抗原又は寄生虫抗原のような抗原をコードする遺伝子を包含する。ウイルスはピコルナウイルス、コロナウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、ラブドウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、ブンヤウイルス、アレンウイルス、レオウイルス、レトロウイルス、パポバウイルス、パルボウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、ヘパドナウイルス及び海綿状ウイルスを包含する。好ましいウイルス標的はインフルエンザ、1型及び2型の単純疱疹ウイルス、麻疹、痘瘡、ポリオ又はHIVを包含する。病原体はトリパノソーマ類、条虫類、回虫類、蠕虫類を包含する。更にまた、腫瘍マーカー、例えば胎児抗原又は前立腺特異的抗原をこの方法においてターゲティングしてよい。好ましい例はHIVenv蛋白及びB型肝炎表面抗原を包含する。ワクチン接種目的の本発明のベクターの投与は、強力な免疫応答が望まれる対象となるトランスジーンの長期の発現を可能にするほど十分にベクター関連抗原が非免疫原性であることを必要とする。好ましくは、個体のワクチン接種は年一回又は隔年などであって頻繁に必要とされる場合は少なく、そして感染性物質に対して長期の免疫学的保護を与えるものである。
【0182】
5.制御領域
ウイルスベクターが治療用遺伝子をコードする転写産物の発現を行うためには、治療用遺伝子をコードするポリヌクレオチドはプロモーター及びポリアデニル化シグナルの転写制御下にあることになる。従って、本発明の特定の実施形態は、アデノウイルスがプロモーターに作動可能に連結した外来遺伝子構築物をコードするアデノウイルスベクターを含むアデノウイルスを製造するための方法を包含する。「プロモーター」とは遺伝子の特異的転写を開始するために必要な宿主細胞の合成機序又は導入された合成機序により認識されるDNA配列を指す。ポリアデニル化シグナルとは、適切なプロセシング及び翻訳の為の原型室内への核からの転写産物のトラフィッキングの為のmRNA転写産物の末端上の一連のヌクレオチドの付加を指向するために必要な宿主細胞の合成機序又は導入された合成機序により認識されるDNA配列を指す。「作動可能に連結した」、「制御下」及び「転写制御下」という表現は、RNAポリメラーゼ開始及びポリヌクレオチドの発現を制御するためにプロモーターがポリヌクレオチドに対して正しい位置にあることを意味する。
【0183】
プロモーターという用語は本明細書においては、RNAポリメラーゼIIに対する開始部位の周囲にクラスタリングしている転写制御モジュールのグループを指す。プロモーターがどのようにして組織化されるかに関する知見の大部分は、HSVチミジンキナーゼ(tk)及びSV40早期転写単位に関するものを含む、幾つかのウイルスプロモーターの分析から派生している。より最近の検討により増強されたこれらの研究によれば、プロモーターは異なる機能モジュールよりなり、その各々は約7〜20bpのDNAであり、転写活性化物質又はリプレッサ蛋白に対する認識部位1つ以上を含有する。
【0184】
各プロモーターの少なくとも1つのモジュールはRNA合成のための開始部位を位置付ける機能を有する。これの最も良く知られた例はTATAボックスであるが、TATAボックスを欠失している一部のプロモーター、例えば哺乳類末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子に関するプロモーター及びSV40後期遺伝子に対するプロモーターにおいては、開始部位自体に重複している異なるエレメントが開始場所を固定することを支援する。
【0185】
別のプロモーターエレメントは転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位の30〜110bp上流の領域に位置しているが、多くのプロモーターは開始部位の下流にも機能的エレメントを含有していることが最近分かった。プロモーターエレメント間の間隔は変動可能である場合が多く、これにより、エレメントが反転したり相互において相対的に移動してもプロモーター機能が温存される。tkプロモーターにおいては、プロモーターエレメントの間の感覚は活性が低下し始めるまでに50bpは慣れるまで増大することができる。プロモーターに応じて、個々のエレメントは転写を活性化するために強調的又は独立して機能することができる。
【0186】
治療用遺伝子の発現を制御するために使用される特定のプロモーターは、それがターゲティングされた細胞においてポリヌクレオチドを発現することができる限り、厳密ではないと考えられる。プロモーターは組織特異的プロモーター又は誘導プロモーターであってよい。使用してよいプロモーターの例はSV40 EI、RSV LTR、β−アクチン、CMV−IE、アデノウイルス主要後期、ポリオーマF9−1、α−フェトプロテインプロモーター、egr−1又はチロシナーゼプロモーターを包含する。治療用遺伝子の発現を制御するために使用できるプロモーターに関して入手できる広範な選択肢は当業者のよく知るものである。即ち、ヒト細胞がターゲティングされる場合は、ポリヌクレオチドコーディング領域をヒト細胞内で発現されることができるプロモーターに隣接し、その制御下となるように位置付けることが好ましい。慨してそのようなプロモーターはヒト又はウイルスプロモーターの何れかを包含する。プロモーターのリストを表2に示す。
【0187】
【表2−1】

【0188】
【表2−2】

プロモーターは構成プロモーター、誘導プロモーター又は組織特異的プロモーターであってよい。誘導プロモーターは誘導物質の存在下以外では不活性であるか、又は低活性を示すプロモーターである。本発明の部分として包含してよいプロモーターの一例は、限定しないが、MTII、MMTV、コラゲナーゼ、ストロメリシン、SV40、マウスMX遺伝子、α−2−マクログロブリン、MHCクラスI遺伝子h−2kb、HSP70、プロリフェリン、腫瘍壊死因子又は甲状腺刺激ホルモンα遺伝子を包含する。関連するインデューサーは表3に示す。何れのプロモーターも本発明の実施において使用してよく、そして全てのそのようなプロモーターは請求項に記載した本発明の精神及び範囲に包含されるものとする。「内因性」又は「構成性」であるプロモーターとは、コーディングセグメント及び/又はエクソンの上流に位置する5’非コーディング配列を単離することにより得られるもののような、遺伝子又は配列に天然に備わっているものであるプロモーターである。
【0189】
【表3】

種々の実施形態において、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前早期遺伝子プロモーター、SV40早期プロモーター及びラウス肉腫ウイルス長末端リピートを使用することにより目的のポリヌクレオチドの高水準の発現を達成することができる。ポリヌクレオチドの発現を達成するための当業者に良く知られている他のウイルス又は哺乳類細胞又は細菌のファージプロモーターの使用も、発現水準が生育抑制作用をもたらすのに十分である限り、同様に意図される。
【0190】
良く知られた特性を有するプロモーターを使用することにより、トランスフェクションの後のポリヌクレオチドの発現の水準及びパターンを最適化できる。例えば特定の細胞において活性であるプロモーター、例えばチロシナーゼ(黒色腫)、α−フェトプロテイン及びアルブミン(肝腫瘍)、CC10(肺腫瘍)及び前立腺特異的抗原(前立腺腫瘍)を選択することにより、治療用遺伝子の組織特異的発現が可能となる。
【0191】
エンハンサーはDNAの同じ分子上の離れた位置にあるプロモーターからの転写を増大させる遺伝子エレメントとして最初は検出された。遠い距離に渡って機能するこの能力は原核生物の転写調節の古典的研究には殆ど先例が無かった。その後の研究により、エンハンサー活性を有するDNAの領域はプロモーターと同様に組織化されていることが分かった。即ち、それらは多くの個々のエレメントよりなり、その各々が転写蛋白1つ以上に結合している。
【0192】
エンハンサーとプロモーターの基本的相違は作動性である。エンハンサー領域は全体として遠隔より転写を刺激できなければならず;これは、プロモーター領域又はその成分エレメントには当てはまらない。一方、プロモーターは特定の部位において、そして特定の方向で、RNA合成の開始を指向するエレメント1つ以上を有さなければならないのに対し、エンハンサーはこのような特異性を欠いている。プロモーター及びエンハンサーは重複し、隣接している場合が多く、極めて同様のモジュール的な組織化を有していると考えられる場合が多い。
【0193】
更にまた、何れかのプロモーター/エンハンサーの組み合わせ(真核生物プロモーターデータベース(EPDB)による)もまた特定の構築物の発現を駆動するために使用される。T3、T7又はSP6原形質発現系の使用は別の可能な実施形態である。真核生物細胞は、適切なバクテリオファージポリメラーゼが送達複合体の部分として、又は、別の遺伝子発現ベクターとして提供されれば、特定のバクテリオファージプロモーターからの原形質転写を支援できる。
【0194】
cDNAインサートを使用する場合は、典型的には遺伝子転写産物の適切なポリアデニル化を起こすためにポリアデニル化シグナルを含むことが望ましい。ポリアデニル化シグナルは本発明の良好な実施にとって重要であるとは考えられず、そして如何なるそのような配列も使用してよい。SV40、ウシ成長ホルモン及び単純疱疹ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子由来のもののようなポリアデニル化シグナルが多くの標的細胞内で良好に機能することがわかっている。
【0195】
F.アデノウイルスを単離する方法
アデノウイルス感染は感染されている細胞の溶解をもたらす。アデノウイルス感染の溶解特性はウイルスの単離及び製造の2つの異なる様式を可能にする。1つは細胞溶解前に感染細胞を採取することである。もう1つの様式は生産されたウイルスによる完全な細胞溶解の後にウイルス上澄みを採取することである。後者の様式の場合は、完全な細胞溶解を達成するためにはより長いインキュベーション時間が必要である。ウイルス感染後のこの長いインキュベーション時間は、特にその時点における第1世代のアデノウイルスベクター(E1−欠失ベクター)に関する複製能を有するアデノウイルス(RCA)の形成の可能性が増大するという重大な問題を生じさせる。従って、本発明の特定の実施形態においては、アデノウイルスを製造するための方法は、宿主細胞を採取すること、そして次に宿主細胞を溶解することを包含する。表4は細胞採取の後に細胞を溶解するために使用されている最も一般的な方法を列挙している。
【0196】
【表4】

1.洗剤
本発明の特定の実施形態においては、アデノウイルスを製造するための方法は洗剤で宿主細胞を溶解することによりアデノウイルスを単離することを包含する。細胞は膜により浮上させる。細胞の成分を放出させるために、細胞を破壊開放する必要がある。これを達成できる最も好都合な方法は、本発明によれば、洗剤の使用による膜の可溶化である。洗剤は脂肪族又は芳香族の性質の非極性末端及び荷電又は未荷電であってよい極性末端を有する両親媒性の分子である。洗剤は脂質よりも親水性であり、このため、脂質より高い水溶性を有する。これらは水不溶性の化合物の水性媒体中の分散を可能にし、蛋白をネイティブの形態で単離精製するために使用される。
【0197】
宿主細胞を溶解できる何れの洗剤も請求項記載の本発明により意図される。細胞を溶解するために使用できる広範な洗剤は当業者のよく知るものである。洗剤は変性又は非変性のものであり得る。前者はアニオン系、例えばドデシル硫酸ナトリウム、又はカチオン系、例えばエチルトリメチルアンモニウムブロミドであり得る。これらの洗剤は完全に膜を破壊し、そして蛋白−蛋白相互作用を破壊することにより蛋白を変性させる。非変性洗剤は非アニオン系洗剤、例えばTriton(登録商標)X−100、胆汁酸塩、例えばコレート及び両性イオン洗剤、例えばCHAPSに分類される。両性イオン物質は同じ分子内でカチオン系及びアニオン系の両方を含有し、正の電荷は同じか隣接する分子の負電荷により中和される。
【0198】
変性剤、例えばSDSは単量体としての蛋白に結合し、反応は平衡により駆動され飽和に至る。即ち、単量体の遊離濃度が必要な洗剤濃度を決定する。SDS結合は強調的であり、即ち、SDSのある分子の結合はその蛋白への別の分子の結合の確立を上昇させ、そして、自身の長さが自身の分子量に比例するロッド状物に蛋白を改変する。
【0199】
非変性剤、例えばTriton(登録商標)X−100はネイティブのコンホーメーションに結合せず、そして強調的結合機序も有さない。これらの洗剤は水溶性蛋白に浸透しない合成で嵩高な非極性の部分を有する。それらは蛋白の疎水性部分に結合する。Triton(登録商標)×100及び他のポリオキシエチレン非アニオン系洗剤は蛋白−蛋白相互作用を破壊することにおいては非効率的であり、人工的に蛋白凝集を誘発する場合がある。しかしながらこれらの洗剤は蛋白−脂質の相互作用を破壊するものの、遥かに穏やかであり、蛋白のネイティブの形態及び機能的能力を維持することができる。
【0200】
洗剤の除去は多くの方法で試みることができる。透析は単量体として存在する洗剤の場合は良好に行える。透析は、容易に凝集してミセルを形成する洗剤の場合は、ミセルが大きすぎて透析を通過できないことから、幾分非効率的である。この問題はイオン交換クロマトグラフィーを用いることにより回避できる。破壊された蛋白溶液をイオン交換クロマトグラフィーカラムに適用し、次にカラムを洗剤を含まない緩衝液で洗浄する。緩衝液の洗剤溶液との平衡の結果として洗剤が除去される。或いは、蛋白溶液を密度勾配を通過させてよい。勾配を通過して蛋白が沈降するに従い、洗剤は化学ポテンシャルにより離脱する。
【0201】
単一の洗剤は細胞内に存在する蛋白の可溶化及びその環境の分析のためには十分汎用性があるとはいえない。蛋白は1つの洗剤中で可溶化することができ、次に蛋白分析のための別の適当な洗剤中に入れる。第1工程で形成された蛋白洗剤ミセルは純粋な洗剤ミセルから分離される。これらを分析のための過剰量の洗剤に添加した場合、蛋白は両方の洗剤とのミセルにおいて存在する。洗剤−蛋白ミセルの分離はイオン交換又はゲル濾過クロマトグラフィー、透析又は浮遊密度型分離により達成できる。
【0202】
a.Triton(登録商標)X洗剤
洗剤のこのファミリー(Triton(登録商標)X−100、X114及びNP−40)は同じ基本的特性を有するが、その特異的疎水性−親水性の性質において異なっている。これらの異種の洗剤の全てが芳香族環に結合した分枝鎖8炭素鎖を有している。分子のこの部分は洗剤の疎水性の性質の大部分に寄与している。Triton(登録商標)X洗剤は非変性条件下において膜蛋白を溶解するために使用される。蛋白を可溶化するための洗剤の選択は、可溶化すべき蛋白の疎水性の性質より変動する。疎水性蛋白はそれらを効率的に可溶化するためには疎水性の洗剤を必要とする。
【0203】
Triton(登録商標)X−100及びNP−40は構造及び疎水性において極めて類似しており、そして細胞溶解、脱脂質蛋白解離、及び、膜蛋白及び脂質の可溶化を包含する大部分の用途において互換的に使用される。一般的に2mgの洗剤を用いて1mgの膜蛋白を可溶化するか、又は、10mg洗剤/1mg脂質膜とする。Triton(登録商標)X−114は親水性蛋白から疎水性のものを分離するために有用である。
【0204】
b.Brij(登録商標)洗剤
これらは疎水性の鎖に結合した種々の長さのポリオキシエチレンの鎖を有する点においてTriton(登録商標)Xと構造が類似している。しかしながら、Triton(登録商標)X洗剤とは異なり、Brij(登録商標)洗剤は芳香族環を有さず、そして炭素鎖の長さは変動できる。Brij(登録商標)は透析により溶液から除去することは困難であるが、洗剤除去ゲルにより除去される。Brij(登録商標)58はその疎水性/親水性特性においてTriton(登録商標)×100と最も類似している。Brij(登録商標)35はHPLC用途において一般的に使用されている洗剤である。
【0205】
c.透析可能な非イオン性洗剤
η−オクチル−β−D−グルコシド(オクチルグルコピラノシド)及びη−オクチル−β−D−チオグルコシド(オクチルチオグルコピラノシド、OTG)は溶液から容易に透析される非変性の非イオン性洗剤である。これらの洗剤は膜蛋白を可溶化するために有用であり、そして280nmにおいて低いUV吸光度を有する。オクチルグルコシドは23〜25mMの高いCMCを有し、膜蛋白を可溶化するためには1.1〜1.2%の濃度で使用されている。
【0206】
オクチルチオグルコシドはオクチルグルコシドの代替を得るために最初に合成された。オクチルグルコシドは製造が高価であり、それがβ−グルコシダーゼにより加水分解されるため、生物学的な系において一部の固有の問題が存在する。
【0207】
d.Tween(登録商標)洗剤
Tween(登録商標)は非変性の非イオン性洗剤である。それらは脂肪酸のポリオキシエチレンソルビタンエステルである。Tween(登録商標)20及びTween(登録商標)80洗剤は生化学的用途においてブロッキング剤として使用されており、そして通常はプラスチック又はニトロセルロースのような疎水性物質への非特異的結合を防止するために蛋白溶液に添加される。それらはELISA及びブロッティング用途においてブロッキング剤として使用されている。一般的に、これらの洗剤は疎水性物質への非特異的結合を防止するために0.01〜1.0%の濃度で使用される。
【0208】
Tween(登録商標)20及び他の非イオン性洗剤はニトロセルロースの表面から一部の蛋白を除去することがわかっている。Tween(登録商標)80は多重ウェルのプラスチック製の組織培養プレートへの蛋白の非特異的結合を呈する膜蛋白を可溶化するため、及び、ELISAにおいてポリスチレンプレートへの血清蛋白及びビオチニル化されたプロテインAの非特異的結合を低減するために使用されている。
【0209】
これらの洗剤の間の相違点は脂肪酸鎖の長さである。Tween(登録商標)80はC18鎖を有するオレイン酸から誘導されているのに対し、Tween(登録商標)20はC12鎖を有するラウリン酸から誘導されている。より長い脂肪酸鎖のため、Tween(登録商標)80洗剤はTween(登録商標)20洗剤よりも親水性が低値である。両方の洗剤は水に極めて溶解性である。
【0210】
Tween(登録商標)洗剤は透析により溶液から除去することが困難であるが、Tween(登録商標)20は洗剤除去ゲルにより除去できる。これらの洗剤中に存在するポリオキシエチレン鎖の為にこれらはTriton(登録商標)X及びBrij(登録商標)シリーズの洗剤と同様に酸化(過酸化物形成)に付される。
【0211】
e.両性イオン洗剤
両性イオン洗剤であるCHAPSはコール酸のスルホベタイン誘導体である。この両性イオン洗剤は蛋白活性が重要である場合に膜蛋白可溶化の為に有用である。この洗剤は広範なpH(pH2〜12)で使用され、そして高いCMC(8〜10mM)のため透析により容易に除去される。この洗剤は280nmで低い吸光度を有しており、このため、この波長における蛋白のモニタリングが必要な場合に有用である。CHAPSはBCA蛋白試験に適合しており、そして洗剤除去ゲルにより溶液から除去できる。蛋白はCHAPSの存在下でヨウ素化することができる。
【0212】
CHAPSは内因性膜蛋白及び受容体を可溶化するために良好に使用されており、そして、蛋白の機能的能力を維持する。チトクロームP−450をTriton(登録商標)X−100又はコール酸ナトリウムの何れかで可溶化する場合、凝集塊が形成される。
【0213】
2.非洗剤方法
種々の非洗剤方法が、好適とはいえないものの、本発明の他の好都合な態様と組み合わせて使用してよい。
【0214】
a.凍結−解凍
これは穏やかで効果的な態様における溶解細胞の為に広範に使用されている手法であった。細胞は一般的に例えばドライアイス/エタノールバス中で急速に凍結され、完全に凍結されたのちに37℃のバスに移し、その後完全に解凍する。このサイクルを多数回反復することにより完全な細胞溶解を達成する。
【0215】
b.超音波処理
高周波の超音波振動は細胞破壊の為に有用であることがわかっている。超音波が細胞を破壊する方法は完全には理解されていないが、懸濁液を超音波振動に付すと高い一過性の圧力が生じることがわかっている。この手法の主要な難点はかなりの量の熱が生成することである。熱の作用を最小限にするためには、細胞懸濁液を保持するために特殊設計のガラス容器を使用する。このような設計は懸濁液を超音波プローブから離れて循環させて容器外に至らしめ、そこでフラスコが氷中に懸垂されるのでそれが冷却されるようにする。
【0216】
c.高圧押し出し
これは微生物細胞を破壊するために頻繁に使用されている方法である。フレンチプレスセルは細胞を破壊開放するために10.4×10Pa(16,000p.s.i.)の圧力を使用する。これらの装置はニードル弁を用いることにより外部に開放されるステンレス鋼製のチャンバーよりなる。細胞懸濁液はニードル弁を閉鎖位置にしながらチャンバー内に入れる。チャンバーを反転させた後、弁を開放し、ピストンを押し入れることによりチャンバー内の全ての基体を強制的に排出する。弁が閉鎖位置とし、チャンバーをその最初の位置に戻し、ソリッドベースに置き、そして水圧プレスによりピストンに必要な圧力をかける。圧力が充足すればニードル弁が少しずつ開放され僅かに圧力が開放され、そして細胞が膨張する際にそれらが爆発する。採取してよい破壊細胞の液滴が生じるように、圧力が維持されている間は弁を開放状態に維持する。
【0217】
d.固体剪断方法
研磨剤による機械的剪断力は、500nm直径のガラスビーズの存在下に激しく(300〜3000時間/分)懸濁液を振動させるMickleシェーカーにより達成してよい。この方法は細胞内小器官の損壊をもたらす場合がある。より制御された方法は、研磨剤と共に大部分の細胞を、或いは、完全凍結細胞ペーストを、ピストンにより強制的に圧力チャンバー内の0.25mm直径のスロットを通過させるHugesプレスを使用することである。5.5×10Pa(8000psi)までの圧力を使用して細菌調製物を溶解してよい。
【0218】
e.液体剪断方法
これらの方法は高速レシプロ又は回転ブレードを使用するブレンダー、プランジャー及びボールの上下運動を使用するホモゲナイザー、及び小径管の高速通過又は2液体流の高速インピンジメントを使用するマイクロフルイダイザー又はインピンジジェットを使用する。ブレンダーのブレードは効率的な混合ができるように種々の角度に傾ける。ホモゲナイザーは通常は局所的な熱を最小限にするために数秒間の短い高速バーストにおいて運転される。これらの手法は微生物細胞には一般的には適していないが、極めて穏やかな液体剪断力であっても動物細胞を破壊するには通常は十分である。
【0219】
f.低張性/高張性方法
細胞を遥かに低い(低張)又は高い(高張)溶質濃度を有する溶液に曝露する。溶質濃度の相違の為に浸透圧勾配が生じる。その結果起こる低張性環境の細胞内への水の流入が細胞を膨潤させ、破裂させる。低張性環境の細胞からの水の流出は細胞を収縮させ、その後破裂させる。
【0220】
G.濃縮及び濾過の方法
本発明はアデノウイルスを単離することを包含するアデノウイルスの製造方法を包含する。宿主細胞からアデノウイルスを単離する方法は当業者に知られた何れかの方法を包含する。例えば、これらの方法は浄化、濃縮及び透析濾過を包含してよい。濾過プロセスにおける1つの工程は大型の粒状物質、特に細胞成分を細胞溶解物から除去するための、細胞溶解物の浄化を包含することができる。溶解物の浄化は深度フィルターを用いるか、又は旋回流濾過により達成できる。本発明の1つの実施形態においては、細胞溶解物を濃縮する。粗製の細胞溶解物を濃縮することは当業者に知られた如何なる工程を含んでもよい。例えば、粗製の細胞溶解物を、比較的非吸着性の物質(例えばポリエステル樹脂、砂、珪藻土、コロイド、ゲル等)のパックドカラムよりなる深度フィルターに通してよい。旋回流濾過(TFF)の場合は、溶液塊への膜表面からの溶質の逆拡散を促進する膜表面を通過させながら溶解物溶液を流動させる。膜は一般的に種々の型のフィルター装置、例えば開放チャンネルプレート及びフレーム、中空糸及び管の内部に配置される。
【0221】
細胞溶解物の浄化及び予備濾過の後、得られたウイルス上澄みを濃縮し、緩衝液を透析濾過により交換してよい。ウイルス上澄みは100〜300Kの名目分子量カットオフの限外濾過膜を通過する旋回流濾過により濃縮できる。限外濾過は分子のサイズ、形状及び/又は電荷により物質種を分離するための半透膜を使用する圧力調節の対流プロセスである。これは溶質の分子サイズに関わらず、種々のサイズの溶質から溶媒を分離する。限外濾過は穏やかで効率的であり、溶液の濃縮と脱塩を同時に行うために使用できる。限外濾過膜は一般的に2つの異なる層、即ち孔径10〜400オングストロームを有する薄膜(0.1〜1.5μm)の緻密な皮膜、及び、限外濾過膜の浸透物側に向けて大部分が開口している漸増孔径の空隙の開放サブ構造を有する。従って、皮膜の細孔を通過できる物質種は全て膜を自由に通過できる。溶質の最大保持のためには、保持すべき物質種より十分小さい名目分子量カットオフを有する膜を選択する。巨大分子の濃縮の場合は、膜は所望の生物学的物質種の含有量をリッチ化氏、そして、保持された物質の無い濾液を与える。微小溶質は溶媒と共に対流除去される。保持された溶質の濃度が上昇するに従って、限外濾過速度は低下する。
【0222】
本発明の一部の実施形態は粗製の細胞溶解物の緩衝液の交換の使用を包含する。緩衝液交換、又は透析濾過は、限外濾過膜の使用を包含し、塩類、糖類、非水性溶媒の除去及び交換、結合物質種からの遊離物の分離、低分子量物質の除去、又はイオン及びpH環境の急速な変化のための理想的な方法である。微小溶質は、限外濾過速度と等しい速度で限外濾過すべき溶液に溶媒を添加することにより最も効率的に除去される。これにより一定の容量で溶液から微小物質種を洗浄し、保持された物質種を精製できる。
【0223】
H.核酸夾雑物の除去
アデノウイルスを製造するための方法の特定の実施形態は粗製の細胞溶解物中の夾雑核酸の濃度を低減することを包含する。本発明は夾雑核酸を除去するためにヌクレアーゼを使用する。例示されるヌクレアーゼはBenzonase(登録商標)、Pulmozyme(登録商標);又は当業者に一般的に使用されている何れかの他のDNase又はRNaseを包含する。
【0224】
Benzonase(登録商標)のような酵素は核酸を分解し、蛋白分解活性は有さない。核酸を急速に加水分解するBenzonase(登録商標)の能力は、酵素を、細胞溶解物の粘度を低下させるために理想的なものとしている。核酸がウイルスのような細胞由来粒子に接着する場合があることはよく知られている。接着は、凝集塊形成、粒子サイズの変化又は粒子荷電の変化により、分離を妨害し、所定の純度の生成物の回収量が減少する。Benzonase(登録商標)は精製の間の核酸負荷を低減し、これにより妨害を排除して収率を向上させるために特に適している。
【0225】
全てのエンドヌクレアーゼと同様、Benzonase(登録商標)は特定のヌクレオチドの間の内部ホスホジエステル結合を加水分解する。完全な消化により、溶液中に存在する全ての遊離の核酸は2〜4塩基長のオリゴヌクレオチドにまで小型化される。
【0226】
I.サイズ分画精製
本発明の1つの態様によれば、クロマトグラフィー及び以前は必要と考えられていた他の方法のような追加的精製工程を行うことなく治療投与してよいような十分な純度のアデノウイルス調製物を提供するためにサイズ分画精製の手法を用いてよいことが分かった。本発明の何れかの特定の理論に制約されないが、血清非含有培地中の細胞懸濁培養においてウイルス宿主細胞をプロセシングする工程は夾雑物負荷が低減したウイルス粒子産物をもたらすと考えられる。更にまた、夾雑物は、それらが単純なサイズ分画精製工程によりウイルス粒子から容易に分離されるサイズ及び性質のものである。
【0227】
膜フィルター濾過はバイオプロセシングの分野においてよく知られた手法である。膜はそれを通過する物質転移が種々の駆動力の下に起こってよい厚みよりも横方向の寸法が遥かに大きい構造として定義される。多くのフィルターが膜であると考えてよいが、フィルターは又その横方向の寸法がその深度よりも通常は100倍高値であり、その分離機能が主にその深度を介した物質種又は粒子の捕獲によるものである材料も包含する。膜を態様付けるために用いられる最も一般的なパラメーターは3つの一般的な範疇に属する。それらは輸送特性、細孔(幾何学的)特性及び表面(又は主に化学的)特性である。しかしなお、輸送特性は細孔及び表面の特性に大きく依存している。膜分離は他の分離プロセスよりも緩徐であり、低容量のプロセスであるが、その有効性により、価値ある生成物の少量を取り出すための好ましい方法となっている。
【0228】
膜フィルター系は多様な濾過特性を有するように種々の態様で設計してよい。設計の基準は、デッドエンド(攪拌を伴うか伴わない)又はクロスフローの様式の運転;完全又は部分的な原料混合物回収;送液、不活性ガスブランケット又は装置の浸透側の脱気を介した外部からの膜貫通圧力の適用;及びフラットシート(単一又は多重)、中空糸束又は管状膜を包含する。好ましいサイズ分画分離法は当業者に知られた透析用又は他の同様の膜であってよいサイズ分画膜を利用する。本発明のサイズ分画膜濾過において有用な適当な透析膜材料はポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリプロピレン等から製造されたもののような市販品を包含する。これらの透析膜材料の販売元はAkzo−Nobel、Millipore,Inc.、Poretics,Inc.及びPall Corp.等である。0.08ミクロン未満の孔径を有するサイズ分画膜が本発明の実施において有用であり、0.05ミクロン未満及び0.02ミクロン未満であり0.001ミクロン超の孔径を有するものが特に好ましい。このような膜は所望のウイルス粒子は通過させるが、望ましくない夾雑物は保持することができる。
【0229】
本発明の1つの態様によれば、「クロスフロー濾過」とも称される旋回流濾過(TFF)装置が本発明の実施の為に特に好都合であることがわかっている。旋回流濾過は流体が膜の表面に渡って旋回性に送液される圧力駆動分離プロセスである。適用された圧力は夾雑物を含む流体の一部分を強制的に膜通過させ濾過後の粒径とする。膜の細孔を通過するには大きすぎる粒子及び巨大分子は上流側に保持される。保持された成分が膜表面に堆積するノーマルフロー濾過(NFF)の手法とは対照的に、旋回流濾過は流体の流動に沿って保持された成分を掃出除去する。
【0230】
TFFは分離すべき成分の大きさに基づいて分類される。膜の孔径の格付けは典型的にはミクロン値として与えられ、そして格付けより大きい粒子は膜により保持されることになることを示している。一方、名目分子量限界(NMWL)はNMWLより高値の分子量を有する大部分の溶解している巨大分子及びNMWLより低値の分子量を有する一部のものが膜により保持されることになることを示す。成分の形状、その変形能力、及び溶液中の他成分とのその相互作用も全て保持に影響する。種々の膜製造者が異なる基準を用いてNMWL格付けを膜ファミリーに割り付けているが、当業者にあれば適切な格付けを実験的に決定できるはずである。
【0231】
限外濾過は、TFFの最も広範に使用されている形態であり、そして緩衝液交換、脱塩又は濃縮のための緩衝液成分から蛋白を分離するために使用されているが、ウイルス濾過にも使用してよい。ウイルス濾過に関する典型的なNMWL格付けは100kD〜500kDの範囲、又は、0.05〜0.08ミクロン以下である。
【0232】
透析濾過は生成物の収率又は純度の何れかを向上させるために分離の他の範疇の何れかと組み合わせて実施することができるTFFプロセスである。透析濾過の間、緩衝液をリサイクルタンクに導入し、濾液は装置の運転から除去する。生成物が保持物中にあるプロセスにおいては、透析濾過は成分を生成物プールから濾液中に洗い出し、これにより緩衝液を交換し、望ましくない物質種の濃度を低下させる。生成物が濾液中にある場合は、透析濾過はそれを膜通過させて収集容器中に洗い出す。
【0233】
TFF装置の運転においては、ポンプを用いて2つの膜表面の間の流路を通過させながら原料流の流動を生じさせる。膜表面の流体の各通過の間、適用された圧力が流体を強制的に膜通過させ、濾液流内に至らしめる。その結果、流路の中心の液体塊状態から膜表面におけるより濃縮された壁状態に向けて供給原料濃度に勾配が生じる。供給流路の長手方向にもやはり、導入口から排出口(保持物)に向けて、濾液側への漸増量の流体の受渡時に生じる。膜の長手方向の供給原料の流れはチャンネルの供給部から保持物側末端に向けて圧力低下を生じさせる。膜の濾液側の流れは典型的には低く、そして制約が殆ど無いため、濾液側の膜の長手方向の圧力はほぼ一定である。
【0234】
膜は噴出の特性及び化学的適合性における代替品を与えるような種々の材料から製作してよい。適当な材料はセルロース、ポリエーテルスルホン及び当業者に知られた他の材料を包含し、ポリエーテルスルホンが特に好ましい。典型的なポリエーテルスルホン膜は蛋白並びに他の生物学的成分も吸着する傾向を有しており、膜の劣化及び流量の低下をもたらす。一部の膜は、例えばBiomax(登録商標)(Millipore)のように劣化に対してより抵抗性とするため親水的に修飾されている。
【0235】
種々のTFFモジュールが本発明の実施において有用であることは当業者の知るとおりである。有用なTFFの例は限定しないが、フラットプレートモジュール(カセットとしても知られている)、スパイラルワウンドモジュール及び中空糸モジュールを包含する。フラットプレートモジュールにおいては、セパレータースクリーンの交互層を伴うか伴わない膜の層が共に積層され、次にパッケージ内に密封される。供給流体が積層物の一端において交互流路内に送液され、そして濾液が膜通過して濾液流路内に至る。フラットプレートモジュールは一般的に高い充填密度(床空間の面積当たりの膜表面の面積)を有し、直線的なスケール設定が可能であり、そして一部のものは開放型又は乱流促進型の流路の選択肢を与える。
【0236】
スパイラルワウンドモジュールは中空の中心コア部の周囲にまきつけられた膜とセパレータースクリーンの交互層を含む。供給流を一端に送液し、カートリッジの軸を下降して流動する。濾液は膜通過してコア部を旋回し、そこで除去される。セパレータースクリーンが流路の乱流を増大させ、中空糸よりも高効率モジュールとなっている。スパイラルワウンドモジュールの1つの難点は、供給流路長(カートリッジ長)又は濾液流路長(カートリッジ幅)の何れかを規模内で変更しなければならないため、それらが直線的にスケール変更できない点である。
【0237】
中空糸モジュールは狭小な直径(典型的には0.1〜2.0mmの範囲)を有する膜管の束よりなる。中空糸モジュールにおいては、供給流を管の腔部(内部)に送液し、そして、濾液を膜通過させてシェル側に至らしめ、そこで除去される。極めて開放された供給流路であるため、中程度のクロスフロー速度においてされも低い剪断力しか発生しない。
【0238】
何れの所定のモジュールについても、次に、重要なプロセスパラメーターを当業者が容易に最適化してよい。そのようなパラメーターにはクロスフロー速度、膜間差圧(TMP)、濾液の制御、膜面積及び透濾過設計が包含される。クロスフロー速度はどのモジュールを選択するかによる。一般的に、高いクロスフロー速度は等しいTMPにおいてはより高値のフラックスを与え、膜を渡る掃出除去作用を増大させ、膜表面方向への濃度勾配を低減する。多くのTFF用途がクロスフロー及び圧力設定点を適用しており、濾液はモジュール外では未制御及び未制約である。これはもっとも簡素な型の運転であるが、一部の状況においては、保持物の弁を用いて圧力を単に調節するだけにより達成される程度を超えた濾液の制御のある型を使用することが望ましい場合がある。膜面積はプロセスフロー及びプロセスに付すべき総容量を決定した後に選択され、そして、プロセス時間によっても異なる。
【0239】
本発明の1つの態様によれば、プレート及びフレームTFFシステムは表面積1.1ftの300KD、500KD又は1000KDのポリスルホン膜の各々と共に使用している。クロスフロー速度は900mL/ft/分、膜間差圧は約7psiとした。濾液速度は能動的には制御せず、透析濾過は一定容量方法を用いて実施した。
【0240】
本発明はクロマトグラフィー精製工程を包含する多重精製工程の必要性を回避する精製アデノウイルス組成物を製造する方法を提供する。しかしなお、当業者に知られた追加的精製工程を所望により実施してよい。そのような方法は参照により本明細書に組み込まれる米国特許6,194,191に記載されているもの、例えば密度勾配遠心分離;クロマトグラフィー、例えばサイズエクスクルージョンクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を包含する。
【0241】
J.医薬品製剤
本発明は特定の実施形態においては、薬学的に受容可能な組成物にアデノウイルスを入れることを行うアデノウイルスを製造するための方法を包含する。本発明はまた組成物が薬学的に受容可能な組成物である本明細書に開示したプロセスの1つにより製造されたアデノウイルスの組成物を包含する。
【0242】
上記した方法により精製した場合、本発明のウイルス粒子は種々の態様で投与されることになり、インビトロ、エクスビボ又はインビボが意図される。即ち、意図する用途の為に適切である医薬組成物として複合体を製造することが望ましい。一般的に、これは発熱物質並びにヒト及び動物に有害な何れかの他の不純物を本質的に含有しない医薬組成物を製造することを包含する。複合体を安定とし、そして標的細胞による複合体の取り込みを可能にするために、適切な塩及び緩衝物質を使用することが望ましい場合もある。
【0243】
「薬学的に受容可能な組成物」という用語は、適宜、動物又はヒトに投与した場合に、有害、アレルギー又は他の望ましくない反応をもたらさない分子実体及び組成物を指す。本明細書においては、「薬学的に受容可能な組成物」は全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗細菌剤及び抗カビ剤、等張性付与剤及び吸収遅延剤等を包含する。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体及び薬剤の使用は当業者に良く知られている。何れかの好都合な媒体又は薬剤が活性成分と適合しない場合を除き、治療用組成物におけるその使用は意図される。補助的な活性成分もまた組成物に配合できる。更に、組成物は補助的な不活性成分も含有できる。例えば洗口剤として使用するための組成物はフレーバー剤を含んでよく、或いは、組成物は製剤を時限放出とするための補助的成分を含有してよい。
【0244】
本発明の水性組成物は、薬学的に受容可能な担体又は水性媒体中に溶解又は分散された発現カセットの有効量を含む。このような組成物は接種物と称する。水性組成物の例は静脈内投与用の製剤又は局所適用製剤を包含する。
【0245】
遊離塩基又は薬学的に受容可能な塩としての活性化合物の溶液はヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤と適宜混合した水において製造できる。分散液もまたグリセロール、液体ポリエチレングリコール、それらの混合物中において、又は油脂中において製造できる。保存及び使用の通常の条件下において、これらの調製物は微生物の生育を防止するための保存料を含有する。
【0246】
本発明のウイルス粒子はヒトへの投与を含む治療用法において使用するための古典的な医薬調製物を包含してよい。本発明による治療用組成物の投与は標的組織がその経路により接触可能である限り如何なる一般的な経路を介してもよい。これには経口、経鼻、舌下、直腸、膣内又は局所が包含される。或いは、投与は同所、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内又は静脈内注射により行ってよい。このような組成物は通常は、生理学的に許容される担体、緩衝液又は他の賦形剤を包含する薬学的に受容可能な組成物として投与される。腫瘍に対抗する用途においては、直接の腫瘍内への注射、切除腫瘍床への注射、限局的(即ちリンパ)又は全身性の投与が意図される。疾患部位、例えば腫瘍又は腫瘍部位へのカテーテルを介した数時間又は数日間に渡る連続灌流を実施することが望ましい場合もある。
【0247】
本発明の治療及び防止用の組成物は、好都合には、液体の溶液又は懸濁液の形態で投与され;局所適用前に液体中の溶液又は懸濁液とするのに適する固体形態もまた製造してよい。そのような目的のための典型的な組成物は薬学的に受容可能な担体を含む。例えば、組成物はリン酸塩緩衝食塩水mL当たり10mg、25mg、50mg又は約100mgまでのヒト血清アルブミンを含有してよい。他の薬学的に受容可能な担体は水溶液、非毒性賦形剤、例えば塩、保存料、緩衝物質等を包含する。非水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油及び注射用有機エステル、例えばエチルオレエートである。水性担体は水、アルコール性/水性の溶液、食塩水、非経腸ビヒクル、例えば塩化ナトリウム、リンゲルデキストロース等を包含する。保存料は抗微生物剤、抗酸化剤、キレート形成剤及び不活性ガスを包含する。医薬組成物のpH及び種々の成分の厳密な濃度はよく知られたパラメーターに従って調節する。
【0248】
経口用製剤は通常使用されている賦形剤、例えば、医薬品等級のマンニトール、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等を包含する。これらの組成物は洗口剤及びマウスリンスのような溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、除放性製剤及び/又は粉末の形態をとる。特定の定義された実施形態においては、経口用医薬組成物は不活性希釈剤及び/又は同化可能な食用担体を含み、及び/又は、それらはハード及び/又はソフトシェルゼラチンカプセル中に封入してよく、及び/又はそれらは錠剤に圧縮成型してよく、及び/又はそれらは食餌中に直接配合してよい。経口治療用の投与のためには、活性化合物は賦形剤と共に配合するか、及び/又は内服用の錠剤、舌下錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウエハース等の形態で使用してよい。このような組成物及び/又は調製物は活性化合物少なくとも0.1%を含有する。組成物及び/又は調製物のパーセンテージは、当然ながら変動してよく、及び/又は好都合には投与単位の約2〜約75重量%、好ましくは25〜60%であってよい。そのような治療上有用な組成物中の活性化合物の量は適当な用量が得られるようなものとする。
【0249】
錠剤、トローチ、丸薬、カプセル等はまた以下のもの、即ち、結合剤、例えばトラガカントガム、アカシア、コーンスターチ及び/又はゼラチン;賦形剤、例えばリン酸2カルシウム;錠剤崩壊剤、例えばコーンスターチ、ポテトスターチ、アルギン酸等;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム;及び/又は甘味剤、例えばスクロース、乳糖及び/又はサッカリンを含有してよく、そして、フレーバー剤、例えばペパーミント、ウインターグリーン油及び/又はチェリーフレーバーも添加してよい。単位剤型がカプセルである場合は、上記種類の物質のほかに、液体担体を含有してよい。種々の他の物質がコーティングとして、及び/又はその他の態様で投与単位の物理的形態を変化させるために存在してよい。例えば錠剤、丸薬及び/又はカプセルはシェラック、砂糖及び/又は両方によりコーティングしてよい。エリキシルのシロップは活性化合物、甘味剤としてのスクロース、保存料としてのメチル及び/又はプロピルパラベン、染料及び/又はフレーバー、例えばチェリー及び/又はオレンジフレーバーを含有してよい。
【0250】
経口投与のためには、本発明の発現カセットは賦形剤と共に配合し、非内服用の洗口剤及び磨歯剤の形態で使用してよい。洗口剤は適切な溶媒、例えばホウ酸ナトリウム溶液(Dobell溶液)中に必要量の活性成分を配合することにより製造してよい。或いは、活性成分はホウ酸ナトリウム、グリセリン及び重炭酸カリウムを含有する殺菌洗浄液内に配合してよい。活性成分はまた、ゲル、ペースト、粉末及びスラリーを包含する磨歯剤中に分散させてもよい。活性成分は、水、結合剤、研磨剤、フレーバー剤、泡沫形成剤及び湿潤剤を含んでよいペースト磨歯剤中に治療有効量で添加してよい。
【0251】
本発明の組成物は中性又は塩の形態で製剤してよい。薬学的に受容可能な塩は酸付加塩(蛋白の遊離アミノ基で形成)、及び、塩酸又はリン酸のような無機酸又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等の有機酸で形成したものを包含する。遊離のカルボキシル基で形成した塩は又、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は鉄の水酸化物のような無機の塩基、及び、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等のような有機の塩基から誘導することもできる。
【0252】
投与のための本発明においては、溶液及び/又はスプレー、ハイポスプレー、エアロゾル及び/又は吸入剤も使用してよい。一例としては呼吸消化管への投与のためのスプレーである。スプレーは等張性及び/又は僅かに緩衝性付与してpH5.5〜6.5に維持する。更にまた、眼科用製剤において使用されるものと同様の抗微生物保存料、及び/又は、必要に応じて適切な薬剤安定化剤を製剤中に含有させてよい。投与の他の様式に適する追加的製剤は膣用又は直腸用の坐剤及び/又はペサリー剤を包含する。局所である他の型の投与のための製剤は、例えばクリーム、坐剤、軟膏又は膏薬を包含する。
【0253】
治療薬の有効量は意図する目標、例えば(i)腫瘍細胞増殖の抑制、(ii)腫瘍細胞の排除又は殺傷、(iii)ワクチン接種、又は(iv)治療用遺伝子の長期間発現のための遺伝子転移、に基づいて決定する。「単位用量」という用語は対象において使用するために適する物理的に異なる単位を指し、各単位は、その投与、即ち適切な経路及び治療用法との関連において上記した所望の応答をもたらすために計算された予め決定された量の治療用組成物を含有する。治療回数及び単位用量の両方に応じて投与されるべき量は治療すべき対象、対象の状態及び所望の結果に応じたものである。多重遺伝子療法の用法が、特にアデノウイルスの場合は期待される。
【0254】
本発明の特定の実施形態においては、腫瘍サプレッサ遺伝子をコードするアデノウイルスベクターを用いて癌患者を治療することになる。癌の遺伝子療法において使用するアデノウイルスベクターの典型的な量は、10〜1015PFU/用量(10、10、10、10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、1014、1015)であり、ここで用量は固形腫瘍内の異なる部位における数回の注射に分割してよい。治療の用法はまた3〜10週の期間に渡る遺伝子転移ベクターの投与の数回のサイクルを含んでよい。持続的な治療利益のためには数ヶ月〜数年のより長期間のベクターの投与が必要となる場合もある。
【0255】
本発明の別の実施形態においては、治療用遺伝子をコードするアデノウイルスベクターはヒト又は他の哺乳類にワクチン接種するために使用してよい。典型的には、トランスジーンの長期発現が達成され、強力な宿主免疫応答が生じるように、所望の作用、この例ではワクチン接種、をもたらすために有効なウイルスの量をヒト又は哺乳類に投与する。一連の注射、例えば一次注射とその後の2回のブースター注射が長期免疫応答の誘導の為に十分であることが意図される。典型的な用量は所望の結果に応じて10〜1015PFU/注射である。低用量の抗原は一般的に強力な細胞媒介応答を誘導するのに対し、高用量の抗原は一般的に抗体媒介の免疫応答を誘導する。治療用組成物の厳密な量もまた担当医の判断によるものであり、各個体に特有である。
【実施例】
【0256】
以下の実施例は本発明の好ましい実施形態を説明するために記載する。当業者の知る通り、以下の実施例に開示した手法は本発明の実施において良好に機能することを本発明者等が発見した手法であり、その実施のための好ましい様式を攻勢するものとみなされる。しかしながら、当業者の知る通り、本開示を鑑みれば、開示した特定の実施形態において多くの変更が可能であり、しかもなお、本発明の精神及び範囲から外れることなく同様又は類似の結果が得られる。
【0257】
(実施例1)
本実施例によれば、細胞を培養し、アデノウイルスベクターを図1に記載した製造及び精製のプロセスに従ってYSI−2700SELECTTM生化学分析器を装着した10L容(5Lワーキング容量)のWave Bioreactor(登録商標)20/50EH(Wave Biotech,LLC)を用いながら培地灌流により製造した。図3は細胞培養用培地(14)を含有する膨張させたプラスチックバッグ(12)及び細胞と使用済み培地の分離を可能にする内部フラット灌流フィルター(16)を含む灌流Waveバイオリアクター(10)を示す。培地はフィードポンプ(22)によりフィードバッグ(18)からバイオリアクターに供給する。使用済みの培地は採取ポンプ(24)により採取バッグ(20)にまでフローティングフィルター(16)を経由して引き出される。コントローラー(26)はポンプ及びバイオリアクター(10)の機能を制御する。培地の再循環は必要ではなく、そしてその結果、この様式の培地灌流は培養中の細胞にとって極めて穏やかなものとなる。灌流中のフィルターの目詰まりは波動により最小限となる。灌流の間の培地の容量は新鮮培地の添加をトリガーするために使用するロードセルにより維持される。米国特許6,194,191の方法に従って血清非含有懸濁培養に適合されたHEK293(ヒト上皮胚性腎細胞)を4.8×10個/mLで播種し、蛋白非含有CD293培地(InvitrogenTM)中1.2×10個/mLとなるまで生育させた。培養第3日において、培地の灌流を1.7×10個/mLの細胞密度で開始した。細胞の濃度は第6日には1×10個/mLまでほぼ指数的に増加し、そして細胞の生存性は90%超に維持された。培養中の細胞の成育、生存性及び栄養/代謝産物濃度を図4及び図5に示す。
【0258】
揺動速度は10に設定し、揺動角度は11に設定した。培地のpHはガス混合器により送達されるCOガスのパーセントを調節することにより維持した。培地中の溶存酸素張力(DOT)はWave BiotechTMより入手した使い捨てDOTプローブを用いてモニタリングした。
【0259】
細胞濃度が1×10個/mLに達した時点で、細胞培養物を新しいCD293培地で10倍に希釈して灌流フィルターを有さないWave BiotechTM200バイオリアクター内に投入することにより、栄養分を補給し、潜在的に毒性の代謝産物を希釈した。次に細胞を50vp/個のMOIでアデノウイルスベクター(AdCMVp53)に感染させた。AdCMVp53はサイトメガロウイルス(CMV)前早期プロモーターの制御下にヒト野生型p53蛋白を発現する遺伝子操作された複製不能のヒト型5アデノウイルスである。感染は2日間進行させた。培地は感染後第2日に採取した。次にウイルス採取物を500KDBiomax膜カセットを装着したPellicon2ミニシステムを用いてTFF濃縮に供し、そしてBenzonase(登録商標)を用いた酵素処理に供した。
【0260】
アデノウイルスベクター製造はアニオン交換HPLC法を用いて測定した。バイオリアクター中のアデノウイルスベクター濃度は1.1×1011vp/mLであることが判明し、ウイルス収量は1.1×1016vpであり、そして細胞特異的ベクター生産性は126,000vp/個であった。
【0261】
(実施例2)
本実施例によれば、実施例1の生成物を500KDBiomax膜カセットを装着したPellicon2ミニシステムを用いて旋回流濾過(TFF)を用いた透析濾過に供した。浄化された採取物はPellicon2ミニシステムを用いて20倍濃縮した後に500mMTris緩衝液pH8.0を用いた透析濾過に供した。透析濾過は一定容量法により実施した。濾液が膜から浸出するに従い、新鮮透析濾過緩衝液を継続的に系に添加した。実験は以下の表5に示す100Lの製造スケールを用いて実施した。培地中にウシ退治血清が無いことにより高い回収率のウイルス精製の方法としてTFF膜分画透析濾過を使用することが可能になる。
【0262】
【表5】

以下の表6は蛋白非含有懸濁プロセスにより製造した2ウイルスベクター産物の感染性(PFU/vp比)を示す。ウイルス粒子濃度はOD260分析により測定し、感染単位(IU)濃度はTCID50試験により測定した。これによれば、蛋白非含有懸濁プロセスにより製造されたウイルスは血清含有製造プロセス由来のものと同様に感染性であった。
【0263】
【表6】

伝統的カラムクロマトグラフィーにより精製したウイルス調製物と共に上記表6に示した生成透析濾過産物の各々をSDS−PAGE分析に付すことにより夾雑物の存在を調べた。図2に示す結果によれば、不純物は初期HPLC分析が良好な純度を示していたにも関わらず、透析濾過ウイルス調製物中にはなお存在していたことを示している。
【0264】
得られた精製ウイルス産物をクロマトグラフィー精製を用いた従来の方法により製造したウイルス調製物と比較した。SDS−PAGE分析によれば、絡む精製ウイルスはなお有意に高純度であった。HPLC分析により裏付けられたとおりサイズ分画によって有意な精製が実現されるが、SDS−PAGE分析は不純物の残存を明らかにしている。
【0265】
Waveバイオリアクタープロセスにより製造した生成物の遺伝子発現をCellCubeバイオリアクターを用いることにより製造したものと比較する別の試験を実施し、表6に示す通りとなった。Wave懸濁プロセスの実施により製造したウイルスは感染性及び活性の点においてCellCubeプロセスにより製造されたものに匹敵するものであった。
【0266】
旋回流濾過を組み合わせた血清非含有培地中の懸濁培養においてWaveバイオリアクターを使用することで、精製ウイルス調製物の製造のスケールアップ性とウイルス収率が向上する。
【0267】
本明細書に開示し、請求項に記載した方法及び組成物は全て、本開示を参照しながら予定外の実験を行うことなく作成し、実行することができる。本発明の組成物及び方法は好ましい実施形態に関して記載したが、当業者の知るとおり、本発明の概念、精神及び範囲を外れることなく本明細書に記載した方法及び組成物に対し、そして、工程において、また工程の順序において、変更を加えてよい。より詳細には、化学的及び生理学的な両方の面において関連している特定の薬剤が本明細書に記載した薬剤を代替してよく、その場合にも同様又は類似の結果が達成される。当業者には自明である全てのこのような代替及び改変は添付する請求項により定義される本発明の精神、範囲及び概念に包含されるものとする。
【0268】
(参考文献)
以下の参考文献は、それらが本明細書中に記載されているものに対して補充的に例示的な手順または他の詳細を提供する限りにおいて、参考として本明細書中に援用される。
【0269】
【数1】

【0270】
【数2】

【0271】
【数3】

【図面の簡単な説明】
【0272】
以下の図面は本発明の部分を構成し、そして、本発明の特定の態様を更に明らかにするために記載するものである。本発明は本明細書に記載する特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つ以上を参照することにより更に理解されるものである。
【図1】図1は旋回流濾過(TFF)透析濾過単独、及び、クロマトグラフィー精製と組み合わせたTFF透析濾過を用いたアデノウイルスの製造及び精製ノフローチャートを示す。
【図2】図2(スキャン画像)は旋回流濾過(TFF)精製ウイルス、レーン1〜5、及び、クロマトグラフィーカラムを用いた従来の方法により精製されたウイルスの分析を示す。
【図3】図3は灌流バイオリアクターシステムのダイアグラムを示す。
【図4】図4は細胞の成育及び生存性vs培養日数を示す。
【図5】図5は灌流培養物中のグルコース及びラクテートの濃度(g/L)vs培養日数を示す。
【図6】図6はCellCube及びWaveバイオリアクタープロセスにより得られたウイルス生成物の遺伝子発現の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス含有組成物から夾雑物を除去するための方法であって、該方法は、選択されたウイルス及び望ましくない夾雑物を含む水性組成物を得る工程、及び、該水性組成物を、ウイルスは保持し、かつ夾雑物は通過させる分画細孔を有するサイズ分画膜を用いたサイズ分画精製に供して夾雑物を除去することにより精製されたウイルス組成物を得る工程、を包含する、方法。
【請求項2】
前記ウイルスが、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス又はヘルペスウイルスである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
精製されたアデノウイルス組成物を製造する方法であって、以下:
a)培地中に宿主細胞を生育させる工程;
b)該宿主細胞に栄養物を提供する工程;
c)該宿主細胞をアデノウイルスに感染させる工程;
d)該宿主細胞を溶解してアデノウイルスを含有する細胞溶解物を得る工程;及び、
e)サイズ分画膜を用いたサイズ分画精製により該溶解物からアデノウイルスを精製することにより精製されたアデノウイルス組成物を得る工程;
を包含する、方法。
【請求項4】
前記サイズ分画膜が透析膜である、請求項1又は3記載の方法。
【請求項5】
前記サイズ分画膜が多孔性フィルターである、請求項1又は3記載の方法。
【請求項6】
前記サイズ分画膜が旋回流濾過装置内にある、請求項1又は3記載の方法。
【請求項7】
前記サイズ分画膜が約0.08ミクロン未満の孔径を有する、請求項1又は3記載の方法。
【請求項8】
前記サイズ分画膜が約0.08ミクロン未満であり約0.0001ミクロン超である孔径を有する、請求項5記載の方法。
【請求項9】
前記サイズ分画膜が約0.05ミクロン未満であり約0.0001ミクロン超である孔径を有する、請求項5記載の方法。
【請求項10】
前記サイズ分画膜が約0.02ミクロン未満であり約0.0001ミクロン超である孔径を有する、請求項5記載の方法。
【請求項11】
前記サイズ分画膜が約0.01ミクロン未満であり約0.0001ミクロン超である孔径を有する、請求項5記載の方法。
【請求項12】
イオン交換クロマトグラフィーを使用することなく、薬学的に受容可能な程度にまで前記ウイルスが精製される、請求項1又は3記載の方法。
【請求項13】
前記培地が血清非含有培地であり、前記宿主細胞が血清非含有培地中で生育可能である、請求項1又は3記載の方法。
【請求項14】
前記生育培地のウシ胎児血清含有量の逐次的低減により、前記宿主細胞が血清非含有培地中での生育に適合させられる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記宿主細胞が293細胞である、請求項3記載の方法。
【請求項16】
前記溶解工程が、低張性溶液、高張性溶液、インピンジジェット、マイクロ流動化、固体剪断、洗剤、液体剪断、高圧押し出し、自己溶解又は超音波を包含するプロセスにより実施される、請求項3記載の方法。
【請求項17】
洗剤溶解により前記細胞が溶解される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
洗剤であるThesit(登録商標)、NP−40(登録商標)、Tween−20(登録商標)、Brij−58(登録商標)、TritonX−100(登録商標)又はオクチルグルコシドにより、前記細胞が溶解される、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記洗剤が約1%(w/v)の濃度で前記溶解溶液中に存在する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
灌流チャンバー、バイオリアクター、可撓性ベッドプラットホームにおいて、又は、フェッドバッチにより、少なくとも一部の時間、前記宿主細胞を生育させる、請求項3記載の方法。
【請求項21】
前記精製されたアデノウイルス組成物が、1ミリリットル用量当たり夾雑物DNA10ナノグラム未満の純度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記アデノウイルスが外来遺伝子構築物をコードするアデノウイルスベクターを含む、請求項3記載の方法。
【請求項23】
前記遺伝子構築物がプロモーターに作動可能に連結している、請求項21記載の方法。
【請求項24】
前記プロモーターがS、V40 IE、RSV LTR、β−アクチン、CMV IE、アデノウイルス主要後期、ポリオーマF9−1又はチロシナーゼである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記外来遺伝子構築物が治療用遺伝子をコードする、請求項22記載の方法。
【請求項26】
前記治療用遺伝子がアンチセンスras、アンチセンスmyc、アンチセンスraf、アンチセンスerb、アンチセンスsrc、アンチセンスfms、アンチセンスjun、アンチセンスtrk、アンチセンスret、アンチセンスgsp、アンチセンスhst、アンチセンスbcl、アンチセンスabl、Rb、CFTR、p16、p21、p27、p57、p73、C−CAM、APC、CTS−1、zac1、scFV ras、DCC、NF−1、NF−2、WT−1、MEN−I、MEN−II、BRCA1、VHL、MMAC1、FCC、MCC、BRCA2、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、GM−CSF G−CSF、チミジンキナーゼ又はp53をコードする、請求項22記載の方法。
【請求項27】
前記治療用遺伝子がgp53をコードする請求項22記載の方法。
【請求項28】
前記アデノウイルスが複製不能アデノウイルスである、請求項22記載の方法。
【請求項29】
前記アデノウイルスがE1領域の少なくとも一部分を欠失している、請求項22記載の方法。
【請求項30】
前記アデノウイルスがE1A及び/又はE1B領域の少なくとも一部分を欠失している、請求項22記載の方法。
【請求項31】
前記宿主細胞が複製を補完し得る、請求項22記載の方法。
【請求項32】
0.5g/Lより高値のグルコース濃度を与えるような速度においてグルコース含有培地で前記細胞が灌流される、請求項22記載の方法。
【請求項33】
約0.7g/L〜1.7g/Lのグルコース濃度を与えるような速度においてグルコース含有培地で前記細胞が灌流される、請求項22記載の方法。
【請求項34】
前記細胞溶解物が、Benzonase(登録商標)又はPulmozym(登録商標)で処理される、請求項1又は3記載の方法。
【請求項35】
前記細胞を、細胞懸濁培養物として生育させる、請求項1又は3記載の方法。
【請求項36】
前記細胞を、足場依存培養物として生育させる、請求項1又は3記載の方法。
【請求項37】
少なくとも5×1015のウイルス粒子が単一の培養調製物から得られる、請求項3記載の方法。
【請求項38】
少なくとも1×1016ウイルス粒子が得られる、請求項37記載の方法。
【請求項39】
請求項1〜38の何れかの方法に従って製造された、精製されたアデノウイルス組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−518632(P2008−518632A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540297(P2007−540297)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/026178
【国際公開番号】WO2006/052302
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(504336375)イントロゲン セラピューティックス, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】