説明

アトピー性皮膚炎治療用組成物

【課題】 患者にとって掻痒感がなく良好な使用感でもって継続して使用できるアトピー性皮膚炎治療用の化粧品、医薬部外品または医薬品を提供すること。保湿成分を配合することによる使用感および体内蓄熱によるアトピー性皮膚炎の悪化を改善すること。
【解決手段】 治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、アトピー性皮膚炎治療用の組成物および保湿成分を含有しない該組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外用剤として適用する化粧品および医薬品分野に関する。詳細には、本発明は、アトピー性皮膚炎治療用の組成物に関する。特に、本発明は、表皮角層水分量が低下している患者のアトピー性皮膚炎を治療する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎は掻痒感が常に存在するため、夜も眠れずQOLが極めて低下する辛い病気である。アトピー性皮膚炎の発症は、乳・幼児における食物、ダニ、花粉などによるアレルギー反応から皮膚炎を引き起こすアレルギー的側面のみが考えられていたが、近年のライフスタイルの変化により、ストレス、感染、発汗、乾燥などによって皮膚炎を引き起こす非アレルギー的側面のアトピー性皮膚炎の発症が多くなってきている。非アレルギー的側面のアトピー性皮膚炎はアレルギー的側面のアトピー性皮膚炎と異なり、完治や自然治癒が期待できない難治性の疾患とされている。現在では日本の人口の約3〜10%にあたる人がこの疾患により大小の差はあるが、日常生活に支障があり肉体的・精神的に苦しんでいると言われている(非特許文献1)。
【0003】
非特許文献2は、日本国内でのアトピー性皮膚炎の診断基準(1994年策定)、重症度分類(1998年中間報告、2001年策定)、治療ガイドライン(2000年策定、2003年・2004年改定)を統合したものとして策定された。このガイドラインではアトピー性皮膚炎の治療として薬物療法が挙げられ、さらにその詳細として、炎症に対する外用療法や皮膚生理学的異常に対する外用治療・スキンケア、全身療法が挙げられている。しかし、いずれの方法においても日常生活に支障をきたす程度の副作用や、使用方法に部位や期間の限定があることも事実である。また、皮膚生理学的異常に対する外用治療・スキンケアとして主に用いられる保湿成分のひとつであるワセリンは塗布後の掻痒感や使用感が悪くべとつきがあったりする(非特許文献3)ため、患者にとって掻痒感がなく良好な使用感でもって継続して使用できる方法が確立されていなかったところ、保湿剤の使用感の改善や塗布時の摩擦を軽減するための発明が報告されている(特許文献1および2)。
【0004】
また、軽微な皮膚炎に対してはスキンケアが効果的であるとされているが、上記のように塗布後の掻痒感や使用感が悪いため、自己判断で辞めてしまったり塗布する回数を減らしてしまったりする患者もおり、症状が慢性・重症化してしまう。その結果、自己判断で治療を辞める→症状が悪化→さらに辛い治療方法はできない→症状がさらに悪化という悪循環に陥る患者も少なくないとされている。そこで患者にとっては、掻痒感がなく良好な使用感でもって継続して使用できる治療法の確立が課題であった。
【0005】
かかるアトピー性皮膚炎患者の炎症は皮膚生理学的異常も原因のひとつであり、健常者に比べて角層の水分保持能力が低下し、極めて表皮角層水分量が低下している(非特許文献1)。角層に必要十分量の水分が存在していないと、健康な皮膚状態を保持するうえで必要となる加水分解酵素の働き(加水分解能)が低下する。そのため症状の重さに関わらずアトピー性皮膚炎患者では加水分解酵素である角層トリプシン活性が低下している(非特許文献4、5および6)。角層トリプシン活性を促進するためには、角層トリプシンが加水分解酵素に属することから、角層に十分な水分を付与し、かつ、水分量を一定レベル以上に保つこと、すなわち水分と水分の蒸散を防ぐ保湿成分を併用し皮膚が十分な保湿状態にあることが前提であった。従来より、皮膚を十分に保湿することによる角層トリプシン活性促進が報告されている(非特許文献4、5、7、8および9)。
【0006】
皮膚は水分が不足すると、皮膚表面の角層間の空隙が増して細菌や化学性刺激物質が進入しやすくなるため、水分が十分に行き渡った状態の保湿された皮膚と比較するとアレルギー炎症を引き起こしやすくなる。また、日光を浴びると皮膚はその蒸散作用によって体温を下げようとするが、水分が十分でない場合には十分な放熱をすることができず皮膚が熱を溜めて新たな刺激により炎症をもたらす。加水分解酵素である角層トリプシン活性が低下すると落屑の異常化が生じる。これらのことからも、アトピー性皮膚炎患者には皮膚の保湿、すなわち角層での十分な水分保持が必要であることがわかる。したがって、アトピー性皮膚炎症状の改善には皮膚保湿が重要とされている。先行技術として報告されている「保湿+抗アレルギー作用」(特許文献3)や「保湿目的の入浴剤および化粧品」(特許文献4)がより積極的なアトピー性皮膚炎症の症状改善には有効と考えられ、また、肌細胞の潤いとターンオーバーの回復との関係が知られている。抗アレルギー作用のある成分を併用することによって顆粒層細胞からヒスタミン放出を抑えることが可能であるため、掻痒感を抑制してアトピー性皮膚炎症の改善につながる。
【0007】
しかし、アトピー性皮膚炎症患者はそもそも皮膚の水分保持機能が低下しているため、皮膚への水分付与と同時に皮膚からの水分蒸散を防ぐ閉塞性をもたらす成分(例えばワセリンなど)の併用が欠かせない(非特許文献3)。しかし、水分を閉塞する成分は熱をも同時に閉塞する働きがあるので、これがアトピー性皮膚炎症の新たな要因となり、期待される満足なアトピー性皮膚炎症の治療効果が得られない場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−072581号公報
【特許文献2】特開2007−39416号公報
【特許文献3】特開2007−137862号公報
【特許文献4】特許第2846799号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】医療情報科学研究所 「Selected Articles 2006(主要病態・主要疾患の論文集)」
【非特許文献2】日本皮膚科学会編「日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」
【非特許文献3】厚生労働省科学研究費研究班(平成17〜19年度)「アトピー性皮膚炎の症状の制御および治療法の普及に関する研究」作成 「保湿外用薬の種類/アトピー性皮膚炎!かゆみをやっつけよう!」
【非特許文献4】Redoules D.ら, Skin Pharmacology and Applied Skin Physiology, 1999, 12, 182-192. “Characterisation and Assay of Five Enzymatic Activities in the Stratum Corneum Using Tape-Strippings”
【非特許文献5】Suzuki Y.ら, British Journal of Dermatology, 1996, 134, 460-464. “The role of two endogenous proteases of the stratum corneum in degradation of desmoglein-1 and their deduced activity in the skin of ichthyotic patients”
【非特許文献6】Mizuno Y.ら, Clin. Exp. Dermatol., 2006 Sep; 31(5):677-80. “A case of a Japanese neonate with congenital ichthyosiform erythroderma diagnosed as Netherton syndrome”
【非特許文献7】小山純一, FRAGRANCE JOURNAL, 1995, 23(1), 13-18「皮膚保湿に関する新しい研究とスキンケアへの応用」
【非特許文献8】小山純一ら, J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn., 1999, 33(1), 16-2「角層の接着,剥離の機構とスキンケアに対する役割」
【非特許文献9】世喜利彦, FRAGRANCE JOURNAL, 2004, 9, 38-46「角層剥離を促す酵素と化粧品への応用」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の角層トリプシン活性の促進は、保湿成分を用いて表皮角層水分量を促進させることにより行われているが、保湿成分には塗布後の掻痒感や使用感が悪くべとつくなどの問題がある。また、保湿成分などの水分を閉塞する成分は、熱をも同時に閉塞する働きがあるため、アトピー性皮膚炎症の新たな要因となり、期待される満足なアトピー性皮膚炎症の治療効果が得られないという問題もある。
なお、皮膚生理学的異常により皮膚が極めて乾燥しているアトピー性皮膚炎患者では健常者と比較すると角層トリプシン活性の低下が認められ(図1)、またその低下の割合は重症度に相関していることが認められている(図2)。そこで発明者らは角層トリプシン活性の促進によりアトピー性皮膚炎患者の皮膚生理学的異常が改善されるのではないかという仮説を立て考証を行った。この考証を行うにあたり、アトピー性皮膚炎患者の皮膚の乾燥(保湿不足)は皮膚生理学的異常によるものであるから、この異常は容易に改善しないことを念頭におき、皮膚乾燥下であっても角層トリプシン活性を促進することのできる組成物を検討した。
また、従来のアトピー性皮膚炎治療用の外用剤は刺激性が強く、治療途中で適用を中断し、それによってさらに症状が悪化するという課題の観点から、刺激が少なく、継続的に安心して適用して有効に治療し得るという効果からも組成物を検討した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題に鑑みて、本発明者らは、保湿成分の併用を必要としない角層トリプシン活性の促進に着目したアトピー性皮膚炎患者の皮膚生理学的異常の改善について鋭意検討した結果、α−D−グルコピラノシルグリセロール類が本来の角層トリプシン活性を促進することを見出し、特に、皮膚が乾燥し、表皮角層水分量が低下した、アレルギー的側面および非アレルギー的側面の両方のアトピー性皮膚炎患者において角層トリプシン活性を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1] 治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、アトピー性皮膚炎治療用の組成物;
[2] 該α−D−グルコピラノシルグリセロール類が、式:
【化1】


【化2】


【化3】

よりなる群から選択される1または2種以上である前記[1]記載の組成物;
[3] 表皮角層水分量が低下している患者のアトピー性皮膚炎を治療するための前記[1]または[2]記載の組成物;
[4] 該患者の適用部位の表皮角層水分量が100μS以下の伝導率である前記[1]ないし[3]のいずれか1に記載の組成物;
[5] 保湿成分を含まない前記[1]ないし[4]のいずれか1に記載の組成物;
[6] 保湿成分が、グリセリン、キシリトール、ジグリセリン、ジプロリロングリコール、ソルビトール、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン;
NMF(自然保湿因子)、混合異性化糖、アミノ酸、DL−ピロリドンカルボン酸(PCA)、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム液(PCAソーダ)、乳酸、乳酸ナトリウム、尿素、尿酸、酸性ムコ多糖類、サイタイ抽出液、トサカ抽出液、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、グルクロン酸、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、細胞間脂質、セラミド(スフィンゴ脂質)、HSリピッド、ケラチン、核酸、リン酸、リン脂質(レシチン、ケファリン);
プラセンタエキス、動物胎盤エキス、牛血液除タンパク液、牛顎下腺ムチン、牛脾臓抽出エキス、牛胸腺抽出物、アルブミン、加水分解卵殻膜、脱脂粉乳、ホエー、ラクトース、カゼイン、牛乳糖タンパク、ラクトフェリン、加水分解シルク、シルクアミノ酸、シルク抽出物、シルクパウダー、加水分解コンキオリン液、コンキオリンパウダー、キチン、キトサン、ローヤルゼリー、ハチミツ、大豆タンパク質、大豆タンパク加水分解物、大豆発酵代謝液、AHA、混合植物抽出液、グリコール酸、リンゴ酸、海藻エキス、褐藻エキス、含硫ケイ酸アルミニウム、酵母エキス、乾燥酵母、プルラン、酵素発酵代謝産物、乳酸菌培養液、ビフィズス菌エキス、トレハロース、ヘパリン類似物質;
ウイキョウ、ウスベニタチアオイ、オウカホウシュン、イチョウ、オドリコソウ、アカキナノキ、オトギリソウ、アカシアカミツレ、海藻、ゲットウ、キュウリ、コウスイハッカ、カロット、ゲンノショウコ、カシア、キハダ、コガネバナ、クララ、コボタンヅル、スギゴケ、シラカンバ、セイヨウニワトコ、シャクヤク、セイヨウキヅタ、セイヨウオトギリソウ、スギナ、タチジャコウソウ、チョウジ、トウキンセンカ、ナツノハナワラビ、ナツメ、ノイバラ、ハトムギ、ビロウドアオイ、ヒカゲノカズラ、フキタンポポ、ブロードアオイ、ハマメリス、パセリ、ブナ、ヒカゲノカズラ、ブクリョウタケ、フユイボダイジュ、ホップ、マルメロ、ムクロジ、マツ、ローマカミツレ、レモン、ローズマリー、ユキノシタ、ヤグルマギクの抽出エキス;
酢酸ラノリン、イソステアリン酸ヘキシルデシル、イソステアリン酸コレステリル、エルカ酸オクチルドデシル、オクタン酸セチル、オクタン酸セトステアリル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジグリセリンイソパルミチン酸エステルセバシン酸縮合物、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸コレステリル、ステアリン酸ブチル、長鎖-αヒドロキシ脂肪酸コレステリル、トリミリスチン酸グリセリン、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、パルミチン酸イソプロピル、ヒドロキシステアリン酸コレステロール、ミリスチン酸イソトリデシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ラウリン酸ヘキシル、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリン脂肪酸コレステリル、リンゴ酸ジイソステアリル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、ジオレイン酸プロピレングリコール;
イソステアリルアルコール、グリセリルモノセチルエーテル、コレステロール、シトステロール、モノオレイルグリセリルエーテル、デシルテトラデカノール、バチルアルコール、フィトステロール、ラウリルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコール、水添ラノリンアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール;
マルトース、グルコース、スクロース、オリゴ糖、イソマルトース、パノース、イソマルトトライオース
海水乾燥物、ニガリパウダー、塩化マグネシウム、アルカリ単純温泉水、深層水、ニガリパウダー、マリンコラーゲン
よりなる群から選択される1種または2種以上である前記[5]記載の組成物;
[7] 治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、非アレルギー的側面のアトピー性皮膚炎治療用の組成物;
[8] 治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、表皮落屑抑制用の組成物;
[9] 治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、表皮肥厚抑制用の組成物;
[10] 治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、表皮苔癬化抑制用の組成物
を提供するものである。
【0013】
従来技術によると、角層トリプシン(プロテアーゼ)活性促進効果を有する成分として、カミツレ、セイヨウキヅタ、コボタンヅルの抽出物および味噌(ダイズ)抽出物の報告がある(特開2003−226613号公報および特開2006−096649号公報)。また、カミツレ(特開2006−219946号公報および特開2008−031065号公報)、セイヨウキヅタ(特開2008−031065号公報)、コボタンヅル(特開2000−212027号公報および特開2000−327552号公報)、味噌(ダイズ)種抽出物(国際公開WO 04/016236号公報)といずれの成分においても、保湿成分の効果が報告されている。
【0014】
これらのことから、従来技術においては、保湿下での角層トリプシン(プロテアーゼ)活性促進効果と保湿効果とを有する成分の報告がされていることがわかる。なお、いずれの成分においてもその活性促進は、水分を必要とする角層トリプシン(プロテアーゼ)が加水分解酵素であることから、保湿下での角層トリプシン(プロテアーゼ)活性についての報告であり、乾燥下(低水分量下、低保湿状態)においた状態での活性促進効果は報告されていない。
また、上述した特許文献3にはα−D−グルコピラノシルグリセロール類を含む、抗アレルギー剤が開示されているが、本発明の組成物はアレルギー的側面のアトピー性皮膚炎のみならず、非アレルギー的側面のアトピー性皮膚炎をも治療するものである。
以上のことから、本発明が従来全く示されていなかった効果を奏するものであることは明らかである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の組成物によれば、種々の重症度のアトピー性皮膚炎患者に対して、刺激なく“安全に”角層トリプシン活性を促進することができる。また、従来の皮膚外用剤と比べて刺激が少なく、使用感が極めて良好であるため、アトピー性皮膚炎患者が安全に、季節を選ばず継続的に安心して使用することができる。すなわち、本発明の組成物は従来のステロイド剤のように使用期間、使用部位および使用量が制限されないため、安全かつ気軽に顔など部位を選ばず使用することができる。また、従来の皮膚軟膏のように油性感の強いべたつく使用感がないため、適用時の摩擦を軽減して不快感が生じないため長期にわたって継続して適用し、また、夏場などの汗をかく環境下でも良好な使用感で適用することができ、季節などに制限されず使用することができる。さらに、従来の一部のステロイド剤や皮膚外用剤とは異なり医師の処方を必要としないで使用できるため、通院しなくとも安心して使用することができる。
このことにより、継続して使用し、症状が慢性化することを防ぐことができる。また、角層トリプシン活性を効果的に促進することで、皮膚生理学的異常の改善を目指すことができる。
また、本発明は、表皮角層の水分量にかかわりなく、α−D−グルコピラノシルグリセロール類に表皮角層におけるトリプシンの活性を促進する効果が存することを見出したことに基づくものであり、したがって、本発明の組成物によれば、通常の表皮角層水分量の患部に加えて、低い表皮角層水分量の患部に適用しても角層トリプシン活性を効果的に促進することができ、アトピー性皮膚炎の症状を改善することができ、また、保湿成分の存在下に加えて、不存在下においても上述のような効果が奏される。換言すれば、通常、本発明の組成物には水が配合されているが、皮膚に適用してその水が供給されたとしても皮膚の保湿を維持することはできず、この水が皮膚から蒸散するまでの間に、水の蒸散を防ぐ働きのある、皮膚を閉塞する効果のある成分(保湿剤やエモリエント剤)で皮膚を覆うことによって保湿が維持されるのであり、従来の皮膚外用剤はこの成分を配合して保湿を維持していた。しかしながら、本発明の組成物によれば、従来のように皮膚の保湿を維持する必要はなく、患部が乾燥していても、また、保湿成分を配合しなくてもα−D−グルコピラノシルグリセロール類により角層トリプシン活性を促進して、アトピー性皮膚炎の症状を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】健常者とアトピー性皮膚炎患者との角層トリプシン活性(頬部)を比較するグラフ。
【図2】アトピー性皮膚炎患者における重症度別での角層トリプシン活性(頬部)を示すグラフ。
【図3】保湿成分を使用したアトピー性皮膚炎患者での乾燥前後による表皮角層水分量を示すグラフ(a:頬部、b:腕部)。
【図4】保湿成分を使用したアトピー性皮膚炎患者における乾燥前後の角層トリプシン活性(頬部)を示すグラフ。
【図5】保湿成分を使用したアトピー性皮膚炎患者における乾燥前後の皮膚角層水分量および角層トリプシン活性(頬部)を示すグラフ。
【図6】試験前後の角層トリプシン活性変化および皮膚水分量変化を示すグラフ。
【図7】試験前後の角層トリプシン活性変化および皮膚水分量変化の割合を示すグラフ。
【図8】α−D−グルコピラノシルグリセロール類を添加した保湿成分を使用したアトピー性皮膚炎患者での乾燥前後の目視判定結果(全身)を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、アトピー性皮膚炎治療用の組成物を提供する。
本発明の組成物に有効成分として含まれるα−D−グルコピラノシルグリセロール類には、式:
【0018】
【化4】

で表される(2R)−1−O−α−D−グルコピラノシルグリセロール;
【0019】
【化5】

で表される(2S)−1−O−α−D−グルコピラノシルグリセロール;および
【0020】
【化6】

で表される2−O−α−D−グルコピラノシルグリセロールから選択される1種または2種以上が含まれる。
【0021】
これらのα−D−グルコピラノシルグリセロール類を得る方法としては、例えば、アスペルギルス属(Aspergillus)などのカビ類のα−グルコシダーゼをグリセロール溶液中でマルトースなど糖類の基質に作用させる方法、清酒、味噌、みりんなどの醸造物から抽出、精製する方法、イソマルトース、マルチトールなどを四酢酸塩や過ヨウ素酸塩でグリコール開裂したものを還元する方法、あるいはKoenigs−Knorr反応により合成したβ−グルコシドをアノメリゼーションした後、β−グルコシダーゼでβ−グリコシドを加水分解する方法などが挙げられるが、カビ類のα−グルコシダーゼをグリセロール溶液中で糖類の基質に作用させる方法により得られるα−D−グルコピラノシルグリセロール類が好ましい。
【0022】
本発明の組成物には、有効成分としてのα−D−グルコピラノシルグリセロール類に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品または医薬品に通常配合される他の成分を配合することができ、これらの他の成分の具体例としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、ホホバ油、カルナバロウ、キャンデリラロウなどの炭化水素類;シア脂、イソステアリン酸ヘキシルデシル、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ラノリン、セラミドなどの油脂類;ジメチルポリシロキサン、メチフェニルシロキサンなどのシリコーン類;カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、コレステロール、フィトステロールなどの高級アルコール類;カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸などの高級脂肪酸;バチルアルコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトールなどの多価アルコール;セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、クインスシード、カラギーナン、ペクチン、マンナン、カードラン、コンドロイチン硫酸、デンプン、ガラクタン、デルマタン硫酸、グリコーゲン、アラビアガム、ヘパラン硫酸、トラガントガム、ケラタン硫酸、コンドロイチン、キサンタンガム、ムコイチン硫酸、ヒドロキシエチルグアガム、カルボキシメチルグアガム、グアガム、デキストラン、ケラト硫酸、ローカストビーンガム、サクシノグルカン、カロニン酸、キチン、キトサン、カルボキシメチルキチン、寒天、ヒアルロン酸Na、ヘパリン類似物質などの増粘剤;エタノールなどの低級アルコール;ブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、フィチン、ハイドロキノンなどの酸化防止剤;安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸アルキルエステル、ヘキサクロロフェン、フェノキシエタノールなどの抗菌剤;アントラニル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤などの紫外線吸収剤;アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、ロイシン、トレオニン、バリン、タウリン、コラーゲンなどのアミノ酸類;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸などの有機酸;ビタミンAおよびその誘導体、ビタミンB類、ビタミンC類、ビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン、ユビキノン、ユビキノールなどのビタミン類;アラントイン、グリチルリチン酸(塩)、グリチルレチン酸およびその誘導体、ヒノキチオール、チモール、イノシトール、サポニン類、パントテニルエチルエーテル、エチニルエストラジオール、トラネキサム酸、アルブチン、セファランチン、プラセンタエキスなどの各種薬剤;アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤または両性界面活性剤などの乳化または分散助剤;賦形剤;濃縮海水(オリゴマリン)などのpH調整剤;酸化防止剤;色素;香料;精製水などを配合することができる。
【0023】
本発明の組成物は、通常、皮膚外用剤として適用する化粧品、医薬部外品または医薬品に含まれ、剤型としては、例えば口紅、ファンデーション、シャンプー、リンス、染毛剤、育毛剤、養毛剤、軟膏、クリーム、ハンドクリーム、乳液、パック、ローション、髭剃り用剤、日焼け止め剤、洗浄料、薬用石鹸、貼付剤、浴用剤などの従来より皮膚外用剤として知られている剤型であれば特に限定されない。
【0024】
本発明の組成物に含まれるα−D−グルコピラノシルグリセロール類の配合量は、1種または2種以上のα−D−グルコピラノシルグリセロール類の合計量として、組成物の全量に基づいて、例えば、皮膚外用剤として、口紅、ファンデーション、シャンプー、リンス、染毛剤、育毛剤、養毛剤などに処方する場合、好ましくは0.0001〜50.0重量%、より好ましくは0.0001〜30重量%、さらに好ましくは0.001〜20.0重量%であり、1日当たり1〜2回に分けて患部に適量を適用する。また、軟膏またはクリームなどに処方する場合、好ましくは0.0001〜30.0重量%、より好ましくは0.0001〜20.0重量%、さらに好ましくは0.001〜10.0重量%であり、1日当たり1〜2回に分けて患部に0.005〜150mg程度を適用する。また、乳液またはローションに処方する場合は、0.0001〜30.0重量%、より好ましくは0.0001〜20.0重量%、さらに好ましくは0.001〜10.0重量%であり、1日当たり1〜2回に分けて患部に0.005〜150mg程度を適用する。また、貼付剤に処方する場合は、0.0001〜20.0重量%、より好ましくは0.0001〜10.0重量%、さらに好ましくは0.001〜5.0重量%であり、1日当たり1〜2回に分けて患部に適量を適用する。さらに、浴用剤に処方する場合は、0.0001〜100.0重量%、より好ましくは0.001〜50.0重量%、さらに好ましくは0.1〜20.0重量%であり、浴槽水200Lに対して15g程度を投入する。
【0025】
下記の実施例でも示すように、本発明の組成物に有効成分として含まれるα−D−グルコピラノシルグリセロール類には、保湿成分存在下での効果とは異なり、低水分下(乾燥下)であっても角層トリプシン活性を促進する効果が見出されている。
したがって、好ましい形態において、本発明の組成物は表皮角層水分量が低下している患者のアトピー性皮膚炎を治療するための組成物とすることができ、対象患者としては、適用部位の表皮角層水分量が一定量以下である患者について有効な治療効果が奏され、具体的には伝導率を測定して頬部で50μS以下、四肢で10−20μS以下、一般的には適用部分の伝導率が100μS以下となる患者である。
また、好ましい形態において、本発明の組成物は保湿成分を含まない組成物とすることができる。ここに保湿成分とは皮膚外用剤において皮膚にバリア機能を付与することを目的に配合されている成分であり、具体的には限定されるものではないが、グリセリン、キシリトール、ジグリセリン、ジプロリロングリコール、ソルビトール、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリグリセリンなどの多価アルコール;NMF(自然保湿因子)、混合異性化糖、アミノ酸、DL−ピロリドンカルボン酸(PCA)、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム液(PCAソーダ)、乳酸、乳酸ナトリウム、尿素、尿酸、酸性ムコ多糖類、サイタイ抽出液、トサカ抽出液、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、グルクロン酸、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、細胞間脂質、セラミド(スフィンゴ脂質)、HSリピッド、ケラチン、核酸、リン酸、リン脂質(レシチン、ケファリン)などの生体系保湿成分;プラセンタエキス、動物胎盤エキス、牛血液除タンパク液、牛顎下腺ムチン、牛脾臓抽出エキス、牛胸腺抽出物、アルブミン、加水分解卵殻膜、脱脂粉乳、ホエー、ラクトース、カゼイン、牛乳糖タンパク、ラクトフェリン、加水分解シルク、シルクアミノ酸、シルク抽出物、シルクパウダー、加水分解コンキオリン液、コンキオリンパウダー、キチン、キトサン、ローヤルゼリー、ハチミツ、大豆タンパク質、大豆タンパク加水分解物、大豆発酵代謝液、AHA、混合植物抽出液、グリコール酸、リンゴ酸、海藻エキス、褐藻エキス、含硫ケイ酸アルミニウム、酵母エキス、乾燥酵母、プルラン、酵素発酵代謝産物、乳酸菌培養液、ビフィズス菌エキス、トレハロース、ヘパリン類似物質などの動植物性成分;ウイキョウ、ウスベニタチアオイ、オウカホウシュン、イチョウ、オドリコソウ、アカキナノキ、オトギリソウ、アカシアカミツレ、海藻、ゲットウ、キュウリ、コウスイハッカ、カロット、ゲンノショウコ、カシア、キハダ、コガネバナ、クララ、コボタンヅル、スギゴケ、シラカンバ、セイヨウニワトコ、シャクヤク、セイヨウキヅタ、セイヨウオトギリソウ、スギナ、タチジャコウソウ、チョウジ、トウキンセンカ、ナツノハナワラビ、ナツメ、ノイバラ、ハトムギ、ビロウドアオイ、ヒカゲノカズラ、フキタンポポ、ブロードアオイ、ハマメリス、パセリ、ブナ、ヒカゲノカズラ、ブクリョウタケ、フユイボダイジュ、ホップ、マルメロ、ムクロジ、マツ、ローマカミツレ、レモン、ローズマリー、ユキノシタ、ヤグルマギク、アボカド、アルテア、アルニカ、アシタバ、アロエ、アーモンド、イナゴマメ、イネ、イチゴ、ウコン、サイシン、エゴマ、オウレン、オリーブ、オドリコソウ、オウゴン、オノニス;コンブ、マコンブ、ワカメ、ヒジキ、ヒバマタ、ウミウチワ、マツモ、モズク、イシゲ、ハバノリ、コンブモドキ、フクロノリ、イワヒゲ、カゴメノリ、アナメ、スジメ、トロロコンブ、カジメ、ツルアラメ、チガイソ、エゾイシゲ、ラッパモク、ホンダワラ、オオバモク、ジャイアントケルプなどの褐藻類;テングサ、ヒラクサ、オニクサ、オバクサ、トサカノリ、キリンサイ、ツノマタ、トチヤカ、スギノリ、シキンノリ、カイノリ、ウスバノリ、ウシケノリ、アサクサノリ、フサノリ、カギノリ、ヒビロウド、カタノリ、ムカデノリ、マツノリ、トサカマツ、フノリ、イバラノリ、オゴノリ、カイメンソウ、ダルス、イギス、エゴノリ、コノハノリ、ヒメゴケなどの紅藻類;クロレラ、アオノリ、ドナリエラ、クロロコッカス、アナアオサ、カワノリ、マリモ、シオグサ、カサノリ、フトジュズモ、タマジュズモ、ヒトエグサ、アオミドロ等の緑藻類などの海藻抽出物や、カカオ脂、インチンコウ、カミツレ、カラスムギ、カンゾウ、キズタ、キイチゴ、キンギンカ、クマザサ、クチナシ、グレープフルーツ、クジン、クレソン、ゲンノショウコ、ゲンチアナ、ゴボウ、コボタンヅル、コムギ、ゴマ、コンフリー、サボテン、サボンソウ、サンザシ、サルビア、ショウガ、シソ、ジオウ、シモツケ、シャクヤク、シラカバ、センキュウ、ゼニアオイ、ソウハクヒ、タチジャコウソウ、緑茶、紅茶、烏龍茶などの茶抽出物、ツバキ、トウモロコシ、トウチュウカソウ、トルメンチラ、トウキ、ドクダミ、バクモンドウ、ハウチマメ、ハマメリス、ハッカ、ミドリハッカ、セイヨウハッカ、パセリ、バラ、ヒマワリ、ヒノキ、ヘチマ、ブドウ、プルーン、ブッチャーズブルーム、ボラージ、ボタン、ホホバ、ボダイジュ、ホップ、マツ、マロニエ、マカデミアナッツ、マルメロ、ムラサキ、メドウホーム油、メリッサ、ムクロジ、ヤグルマソウ、ユリ、ユズ、ユキノシタ、ヨクイニン、羅漢果、ライム、ラベンダー、リンドウ、ワレモコウ、リンゴ、レンゲソウなど植物の抽出エキスなど保湿剤として汎用されている成分や、酢酸ラノリン、イソステアリン酸ヘキシルデシル、イソステアリン酸コレステリル、エルカ酸オクチルドデシル、オクタン酸セチル、オクタン酸セトステアリル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジグリセリンイソパルミチン酸エステルセバシン酸縮合物、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸コレステリル、ステアリン酸ブチル、長鎖-αヒドロキシ脂肪酸コレステリル、トリミリスチン酸グリセリン、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、パルミチン酸イソプロピル、ヒドロキシステアリン酸コレステロール、ミリスチン酸イソトリデシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ラウリン酸ヘキシル、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリン脂肪酸コレステリル、リンゴ酸ジイソステアリル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、ジオレイン酸プロピレングリコールなどのエステル類;イソステアリルアルコール、グリセリルモノセチルエーテル、コレステロール、シトステロール、モノオレイルグリセリルエーテル、デシルテトラデカノール、バチルアルコール、フィトステロール、ラウリルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコール、水添ラノリンアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノールなどの高級アルコール類などエモリエント剤として汎用されている成分や、マルトース、グルコース、スクロース、オリゴ糖、イソマルトース、パノース、イソマルトトライオースなど糖類として汎用されている成分や、海水乾燥物、ニガリパウダー、塩化マグネシウム、アルカリ単純温泉水、深層水、ニガリパウダー、マリンコラーゲン、トコフェロールなどのその他の汎用成分が含まれる。
【0026】
また、他の形態において、本発明に係る組成物は、アレルギー的側面および非アレルギー的側面の両方のアトピー性皮膚炎治療、表皮落屑抑制、表皮肥厚抑制、表皮苔癬化の抑制の用途も有し、これらの用途を有する組成物には、上記と同様の有効成分および他の成分を配合することができ、上記と同様の剤型に処方化することができ、上記と同様の態様で適用することができる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
皮膚外用剤によるアトピー性皮膚炎症改善効果の評価
試験方法
一般的な処方からなる乳化タイプの皮膚外用剤を用い、[皮膚外用剤単独](処方1)および[皮膚外用剤+α−D−グルコピラノシルグリセロール類](処方2)を2ヶ月連続使用する使用試験を行った。30名からなる被験者は重症度の異なるアトピー性皮膚炎患者である。全症例30例において、2ヶ月間、問題なく継続使用することができ、安全性評価を「安全」とした。2ヶ月間連続使用後、被験者の皮膚を乾燥(低水分)状態に導くために洗顔料を使用して念入りに2回洗願をしたのち、さらに室温21±1℃、相対湿度50%の乾燥条件に2時間の一定環境下においた。その後、連続使用前(乾燥させていない状態)との比較を行った。また、使用前および連続使用の乾燥後、皮膚所見の判定も行った。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
試験結果
試験前後で頬および腕の表皮角層水分量を計測すると、いずれの部位においても試験後乾燥させた方が表皮角層水分量の低下が確認された(図3aおよび図3b)。このことから、被験者を一定の乾燥条件下に一定期間おくことによって腕のみならず頬においても皮膚が乾燥(低表皮角層水分量)状態に導かれたことがわかる。さらに、被服で覆われている腕と比べて直接外気に曝されている頬の方が、より顕著に皮膚が乾燥することが確認された。
【0032】
皮膚が乾燥しているこの状態において頬の角層トリプシン活性を測定すると、皮膚外用剤単独使用のものと比較して皮膚外用剤にα−D−グルコピラノシルグリセロール類を添加したものの方が角層トリプシン活性を促進していた(図4)。試験前後における皮膚角層水分量と角層トリプシン活性の相関を図5に示す。
【0033】
α−D−グルコピラノシルグリセロール類を添加しない皮膚外用剤単独使用の場合にも角層トリプシン活性は促進しているが、これは皮膚外用剤が持つ効果によりアトピー性皮膚炎の症状が改善しているためと考えられる。皮膚外用剤にα−D−グルコピラノシルグリセロール類を添加した場合、表皮角層水分量の変化率は皮膚外用剤単独使用の半分程度であったが、角層トリプシン活性の変化率は2倍程度となった(図6)。このことから、α−D−グルコピラノシルグリセロール類には皮膚外用剤単独使用による効果とは異なり、低表皮角層水分量下(乾燥下)であっても角層トリプシン活性を促進する効果があることがわかる。さらに、角層トリプシン活性の変化率に係る角層水分量変化率は、α−D−グルコピラノシルグリセロール類を皮膚外用剤に添加すると皮膚外用剤単独使用に比べて3倍以上となった(図7)。以上のことから、皮膚角層水分量変化率当たりの角層トリプシン活性変化率は、α−D−グルコピラノシルグリセロール類を皮膚外用剤に添加すると3倍以上促進され、アトピー性皮膚炎患者で皮膚が乾燥していても角層トリプシン活性を促進し得ることが判明した。
また皮膚所見においては、落屑、肥厚・苔癬化の2項目について、「0.なし」「1.軽微」「2.軽症」「3.中等症」「4.重症」の5段階(スコア)にて判定した。いずれの項目においても試験終了時と開始時を比較し、皮膚外用剤単独使用と同様にWilcoxon t-test検定にて有意に皮膚炎症の状態が改善した(表1および図8)。
【0034】
【表3】

【0035】
皮膚外用剤の刺激性の評価
試験方法
実施例1および実施例2の皮膚外用剤ならびに以下の表示成分を配合する市販および医師処方による皮膚外用剤(比較例1〜3)をアトピー性皮膚炎患者に2ヶ月間、継続して使用もらい、各々の皮膚外用剤使用の継続性および症状の発現について検討した。その結果を以下の表4に示す。
【0036】
比較例1:保湿クリーム
水、シクロメチコン、グリセリン、スクワラン、BG、ステアリン酸グリセリル(SE)、エタノール、オクテニルコハク酸デンプンAl、パルミチン酸、ステアリン酸、ステアリルアルコール、セタノール、豆乳発酵液、ダイズエキス、ダイズタンパク、カルボマー、キサンタンガム、クエン酸、ステアリン酸PEG−25、ミツロウ、酢酸トコフェロール、水酸化Na、メチルパラベン
【0037】
比較例2:油脂性軟膏
(有効成分)ジメチルイソプロピルアズレン、(その他成分)精製ラノリン、白色ワセリン、
【0038】
比較例3:ステロイド剤
(有効成分)ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、(その他成分)白色ワセリン、流動パラフィン、セタノール、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸メチル、結晶リン酸二水素ナトリウム、リン酸、水酸化ナトリウム
【0039】
【表4】

【0040】
試験結果
その結果、本発明の組成物である実施例1および2を使用した患者はほぼ全員が2ヶ月の評価期間にわたって使用を継続できたのに対して、比較例1の市販の皮膚外用剤は刺激が強く、2ヶ月の評価期間の途中で使用を中止する被験者の割合が多い。比較例2の医師処方による油脂性軟膏は、皮膚への刺激があったことや塗布時に不快感があったため、2ヶ月の長期継続の使用に耐え得る被験者が半数に満たなかった。比較例3の医師処方によるステロイド剤は、使用期間に限定があるため2ヶ月間の長期継続使用が不可能であり、被験者全員が使用試験を最後まで続けることができなかった。
したがって、本発明の組成物は、市販および医師処方による皮膚外用剤と比較して刺激が少なく、アトピー性皮膚炎患者が継続して使用することができた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の組成物は、化粧品、医薬部外品または医薬品として、アレルギー的側面および非アレルギー的側面のアトピー性皮膚炎、特に表皮角層水分量が低下した患部に適用する皮膚外用剤として利用し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、アトピー性皮膚炎治療用の組成物。
【請求項2】
該α−D−グルコピラノシルグリセロール類が、式:
【化1】


【化2】


【化3】

よりなる群から選択される1または2種以上である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
表皮角層水分量が低下している患者のアトピー性皮膚炎を治療するための請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
該患者の適用部位の表皮角層水分量が100μS以下の伝導率である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
保湿成分を含まない請求項1ないし4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
保湿成分が、グリセリン、キシリトール、ジグリセリン、ジプロリロングリコール、ソルビトール、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン;NMF(自然保湿因子)、混合異性化糖、アミノ酸、DL−ピロリドンカルボン酸(PCA)、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム液(PCAソーダ)、乳酸、乳酸ナトリウム、尿素、尿酸、酸性ムコ多糖類、サイタイ抽出液、トサカ抽出液、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、グルクロン酸、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、細胞間脂質、セラミド(スフィンゴ脂質)、HSリピッド、ケラチン、核酸、リン酸、リン脂質(レシチン、ケファリン);プラセンタエキス、動物胎盤エキス、牛血液除タンパク液、牛顎下腺ムチン、牛脾臓抽出エキス、牛胸腺抽出物、アルブミン、加水分解卵殻膜、脱脂粉乳、ホエー、ラクトース、カゼイン、牛乳糖タンパク、ラクトフェリン、加水分解シルク、シルクアミノ酸、シルク抽出物、シルクパウダー、加水分解コンキオリン液、コンキオリンパウダー、キチン、キトサン、ローヤルゼリー、ハチミツ、大豆タンパク質、大豆タンパク加水分解物、大豆発酵代謝液、AHA、混合植物抽出液、グリコール酸、リンゴ酸、海藻エキス、褐藻エキス、含硫ケイ酸アルミニウム、酵母エキス、乾燥酵母、プルラン、酵素発酵代謝産物、乳酸菌培養液、ビフィズス菌エキス、トレハロース、ヘパリン類似物質;ウイキョウ、ウスベニタチアオイ、オウカホウシュン、イチョウ、オドリコソウ、アカキナノキ、オトギリソウ、アカシアカミツレ、海藻、ゲットウ、キュウリ、コウスイハッカ、カロット、ゲンノショウコ、カシア、キハダ、コガネバナ、クララ、コボタンヅル、スギゴケ、シラカンバ、セイヨウニワトコ、シャクヤク、セイヨウキヅタ、セイヨウオトギリソウ、スギナ、タチジャコウソウ、チョウジ、トウキンセンカ、ナツノハナワラビ、ナツメ、ノイバラ、ハトムギ、ビロウドアオイ、ヒカゲノカズラ、フキタンポポ、ブロードアオイ、ハマメリス、パセリ、ブナ、ヒカゲノカズラ、ブクリョウタケ、フユイボダイジュ、ホップ、マルメロ、ムクロジ、マツ、ローマカミツレ、レモン、ローズマリー、ユキノシタ、ヤグルマギクの抽出エキス;酢酸ラノリン、イソステアリン酸ヘキシルデシル、イソステアリン酸コレステリル、エルカ酸オクチルドデシル、オクタン酸セチル、オクタン酸セトステアリル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジグリセリンイソパルミチン酸エステルセバシン酸縮合物、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸コレステリル、ステアリン酸ブチル、長鎖-αヒドロキシ脂肪酸コレステリル、トリミリスチン酸グリセリン、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、パルミチン酸イソプロピル、ヒドロキシステアリン酸コレステロール、ミリスチン酸イソトリデシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ラウリン酸ヘキシル、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリン脂肪酸コレステリル、リンゴ酸ジイソステアリル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、ジオレイン酸プロピレングリコール;イソステアリルアルコール、グリセリルモノセチルエーテル、コレステロール、シトステロール、モノオレイルグリセリルエーテル、デシルテトラデカノール、バチルアルコール、フィトステロール、ラウリルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコール、水添ラノリンアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール;マルトース、グルコース、スクロース、オリゴ糖、イソマルトース、パノース、イソマルトトライオース海水乾燥物、ニガリパウダー、塩化マグネシウム、アルカリ単純温泉水、深層水、ニガリパウダー、マリンコラーゲンよりなる群から選択される1種または2種以上である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、非アレルギー的側面のアトピー性皮膚炎治療用の組成物。
【請求項8】
治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、表皮落屑抑制用の組成物。
【請求項9】
治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、表皮肥厚抑制用の組成物。
【請求項10】
治療上有効量のα−D−グルコピラノシルグリセロール類を有効成分として含む、表皮苔癬化抑制用の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−161564(P2009−161564A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2009−105534(P2009−105534)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(591074231)常盤薬品工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】