説明

アニオン交換体の製造方法

【課題】 非イオン交換性の樹脂成形体の表面に、簡便な方法で選択的にアニオン交換基を導入することによりアニオン交換体を製造する方法を提供する。
【解決手段】 非イオン交換性樹脂成形体と、2個以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物とを混合し、該ポリアミノ化合物の一部を該非イオン交換性樹脂成形体の表面に固定してポリアミノ化合物介在層を形成させると同時に、残量のポリアミノ化合物を、該ポリアミノ化合物介在層の表面にフリーの状態で分布させる工程;前記ポリアミノ化合物介在層の表面にフリーの状態で分布したポリアミノ化合物を、少なくとも2個のハロゲン元素を有するポリハロゲン化炭化水素を用いての架橋反応により、前記ポリアミノ化合物介在層の表面に固定してイオン交換前駆体層を形成する工程;前記イオン交換前駆体層中に存在するアミノ基を第4級アンモニウム化する工程;からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体の表面にアニオン交換基が導入されたアニオン交換体に関するものであり、特に電気透析装置を用いた電解質溶液の脱塩処理に使用されるアニオン交換体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気透析による電解質溶液の脱塩技術は、かん水の脱塩を目的として1950年代に最初に開発された技術であり、その後食塩の製造を目的とする海水濃縮、しょうゆ及びホエーの脱塩、各種化学プロセスの合理化、廃水処理、ワイン中の不純物の分離など、さまざまな用途に利用されてきている。
【0003】
電気透析装置は、陽極室と陰極室を両端に有し、この間にアニオン交換膜とカチオン交換膜とを交互に配し、脱塩室と濃縮室を交互に形成してなる装置であるが、脱塩室内にイオン伝導体であるイオン交換体を収容することにより、電導性が向上し、主に異種イオンの交換体との界面(接点)で電位差によりもたらされる「水解」現象がおこりにくくなり、低濃度域の電解質脱塩が可能となるという提案はこれまでになされている。
【0004】
たとえば、繊維状イオン交換体からなる不織布として、ポリオレフィンまたはフッ化ポリオレフィンを原料とし、延伸開孔法により得られた多孔質繊維を原料とし、その空孔内にスチレン/ジビニルベンゼン系イオン交換性重合体を形成して得られる繊維状イオン交換体(特許文献1参照)や、同じポリオレフィンまたはフッ化ポリオレフィンを繊維状にし、放射線でグラフト重合を施した後交換基を導入して得られる繊維状イオン交換体(特許文献2参照)が提案されているが、これらの繊維状イオン交換体を電気透析に用いると、溶液は狭い繊維間隙を通過するばかりか、不織布の幅あるいは長さ方向の長い距離を通過するため、圧力損失が大きいという問題点がある。
【0005】
そのため、カチオン交換膜とアニオン交換膜の間に、イオン交換ネットの導入が提案された。そもそも電気透析装置において、カチオン交換膜とアニオン交換膜の間には、スペーサーと呼ばれるネットが介在している。スペーサーの役割としては、膜と膜の中間に介在して膜の接触を防ぐとともに、脱塩室と濃縮室との区画、膜の機械的支持、および脱塩液の攪拌混合などが挙げられる。このスペーサーにイオン交換基を付与し、イオン交換ネットとすることで、限界電流密度を向上させることができ、この結果、必要膜面積を減少させたり、低電解質濃度領域での脱塩が可能となる。さらに、イオン交換樹脂による脱塩性能の低下や、繊維状イオン交換体における圧力損失を防ぐことも可能となる。
【0006】
イオン交換スペーサーを導入することで、電気透析装置において脱塩を行う際に、水の通り道となるイオン交換膜に加え、スペーサーもイオンを捕捉するため、水のイオン濃度が低下しても、低電圧で効率よくイオンが移動できる。そのため、たとえば、海水から水を取り出すときにも、純度の高い純水を取り出すことが可能となっている。
【0007】
イオン交換スペーサーの製造方法としては、粉砕したイオン交換樹脂を親水性ポリマーの水溶液と混合し、この溶液を市販のネットのポリマー材料に塗布し、乾燥して親水性ポリマーを架橋させる方法(特許文献3参照)があるが、得られるイオン交換スペーサーの交換容量の低さから、実用化には至っていない。
【0008】
他に、イオン交換ネットの製造方法として、放射線グラフト重合によってイオン交換基を導入する方法がある。ここで放射線グラフト重合に用いられる電離性放射線はα、β、γ線、電子線、紫外線などがあり、実用化され市販されているイオン交換ネットは、γ線ないし電子線を用いてグラフト重合を行っているが、この方法は非常に煩雑であり、高価な装置を必要とする(特許文献4〜6参照)。
【0009】
また、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂を紐状にしたものを直角に交差するよう巻き付けたネット状物に、導電性炭素微粒子を塗布し、ネット状導電スペーサーがあるが(特許文献7参照)、製法の煩雑さから実用性に欠ける。
【特許文献1】特開2002−95978
【特許文献2】特開平4−293581
【特許文献3】米国特許第6090258号
【特許文献4】国際公開第2003/55604号パンフレット
【特許文献5】大韓民国特許2003−18635
【特許文献6】大韓民国特許2003−70398
【特許文献7】特開2004−97897
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、非イオン交換性の樹脂成形体の表面に、簡便な方法で選択的にアニオン交換基を導入することによりアニオン交換体を製造する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、電気透析装置を用いた脱塩処理に好適に使用され、特に低濃度域の電解質溶液の脱塩に際しても優れた脱塩性能を発揮させるアニオン交換体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、非イオン交換性樹脂成形体と、2個以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物とを混合し、該ポリアミノ化合物の一部を該非イオン交換性樹脂成形体の表面に固定してポリアミノ化合物介在層を形成させると同時に、残量のポリアミノ化合物を、該ポリアミノ化合物介在層表面にフリーの状態で分布させる工程;
前記ポリアミノ化合物介在層の表面にフリーの状態で分布したポリアミノ化合物を、少なくとも2個のハロゲン元素を有するポリハロゲン化炭化水素を用いての架橋反応により、前記ポリアミノ化合物介在層の表面に固定してイオン交換前駆体層を形成する工程;
前記イオン交換前駆体層中に存在するアミノ基を第4級アンモニウム化する工程;
からなることを特徴とするアニオン交換体の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の製造方法によれば、
(1)前記ポリアミノ化合物として、分子量が100〜10,000の範囲にあるポリアミノ重合体を使用すること、
(2)前記ポリハロゲン化炭化水素として、ジハロゲン化アルキルを使用すること、
(3)前記非イオン交換性樹脂成形体として、アミノ基と反応性を有する官能基を有する樹脂成形体を使用し、前記一部のポリアミノ化合物を該樹脂成形体の表面に反応させてポリアミノ化合物介在層を形成させること、
(4)前記非イオン交換性樹脂成形体がエポキシ基を有する樹脂からなること、
が好適である。
【0013】
本発明によれば、また、非イオン交換性樹脂成形体の表面に、2個以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物により形成されたポリアミノ化合物介在層を介して、第4級アンモニウム基が分布したアニオン交換層が形成されていることを特徴とするアニオン交換体が提供される。
【0014】
本発明のアニオン交換体は、0.1乃至100mmol/gの表面アニオン交換基濃度を有している。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、放射線グラフト重合などの煩雑でコストのかかる手段を用いることなく、樹脂成形体の表面に選択的にアニオン交換基が導入されたアニオン交換体を簡便に且つ安価に製造することができる。しかも、この方法では、反応条件等の変更により容易に表面アニオン交換基濃度等を調整することができる。また、本発明で得られたアニオン交換体は、アニオン交換基の離脱も生じにくく、長期においても安定的に機能を損なうことなく使用することができる。
【0016】
上記方法により製造されるアニオン交換体は、表面に選択的にアニオン交換基が導入されており、芯体の樹脂成形体にはアニオン交換基が実質上導入されず、従って、含水による膨潤などの変形が有効に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1には、本発明の製造方法によって製造されるアニオン交換体の概略構造を示す。この図1から理解されるように、このアニオン交換体は、非イオン交換性樹脂成形体(以下、芯体と呼ぶことがある)Aと、芯体Aの表面に固定されたポリアミノ化合物介在層Bと、この介在層Bの表面に形成されているアニオン交換層Cとから構成されている。
【0018】
図1を参照して、かかる構造を有するアニオン交換体は、非イオン交換性樹脂成形体(芯体)Aの表面に、2個以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物1を固定させて介在層Bを形成すると同時に、固定されたポリアミノ化合物1の表面にフリーのポリアミノ化合物を分布させ(図1では、フリーのポリアミノ化合物は3で示されている)、この状態で架橋剤5を用いての架橋反応により、フリーのポリアミノ化合物3を固定して介在層Bの表面にイオン交換前駆体層を形成し、次いで第4級アンモニウム化することによりイオン交換前駆体層をアニオン交換層Cに転換することにより製造される。
【0019】
芯体Aを形成する非イオン交換性樹脂は、イオン交換基を有しておらず且つポリアミノ化合物1を容易に離脱しない程度に表面に固定し得るものであれば特に制限されず、例えばポリエーテルイミドのように、ポリアミノ化合物との親和性の高い重合体の成形物であってもよいが、一般的には、介在層Bを強固に接合するために、アミノ基と反応性を有する官能基を分子内に有しているものを用いることが好ましい。
【0020】
アミノ基と反応性を有する官能基としては、例えば、グリシジル基、エポキシ基、酸無水物基(無水マレイン酸基など)等を挙げることができ、特にグリシジル基、エポキシ基が好適である。このような官能基を有する非イオン交換性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂が代表的であるが、このような官能基が共重合によりオレフィン系樹脂や(メタ)アクリル樹脂などに組み込まれた変性樹脂、例えば、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性メタクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレンなどを挙げることができ、これらは、1種単独で使用することもできるし、2種以上をブレンドして非イオン交換性樹脂として使用することもできる。また、官能基量は、十分な量のポリアミノ化合物1を固定し得る範囲で非イオン交換性樹脂中に含まれているべきであるが、十分な量の官能基量が確保されている限り、例えば上記で例示した重合体と、ポリオレフィン等とのブレンド物を非イオン交換性樹脂として使用することもできる。
【0021】
本発明においては、上記の非イオン交換性樹脂成形体の芯体Aにポリアミノ化合物1を固定して介在層Bを形成すると同時に、介在層Bの表面にフリーのポリアミノ化合物3を分布させる。
【0022】
即ち、図1において、1及び3で示されているポリアミノ化合物としては、アミノ基を2個以上有するものであれば特に制限されないが、例えば上記官能基とアミノ基との反応性を考慮すれば、第一級乃至第二級アミノ基を少なくとも1個有するものであることが望ましい。また、ポリアミノ化合物は、炭素結合が一直線上にのみ存在している構造(リニア構造)を有するものと、一直線上だけではなく、一箇所以上炭素鎖が枝分かれしている構造(ブランチ構造)を有するものとに大別され、何れの構造のポリアミノ化合物を使用してよいが、非イオン交換性樹脂成形体Aの表面に固定されたポリアミノ化合物1の上に、多くのポリアミノ化合物をフリーの状態で分布させるために、ブランチ構造のポリアミノ化合物を用いることが好ましい。分子同士の絡みにより、フリーの状態でポリアミノ化合物を捕捉することができるからである。
【0023】
このようなブランチ構造を有するポリアミノ化合物としては、例えば下記式(1)及び(2):
−CHCHNH− (1)
−CHCHN(R)− (2)
式(2)中、Rは、アミノエチル基またはアミノエチル連鎖である、
で表される構成単位を有するポリエチレンイミン等のポリアミノ重合体を挙げることができ、このようなポリアミノ重合体の分子量は、100〜10,000、特に200〜2,000の範囲にあることが好ましい。分子量が100未満のときには、十分なアニオン交換容量を得ることが困難になり、分子量が10,000を超えると、粘度が著しく高くなり、取り扱いが困難となる傾向がある。
【0024】
上記のポリアミノ化合物を用いての介在層Bの形成は、例えば、前述した官能基を有する非イオン交換樹脂成形体の芯体Aを、ポリアミノ化合物の液に浸漬し、該官能基とアミノ基とを反応させることにより行われ、この際、ポリアミノ化合物を過剰に使用することによって、ポリアミノ化合物1からなる介在層Bの形成と同時に、介在層Bの表面にフリーのポリアミノ化合物3を分布させることができる。
【0025】
尚、用いるポリアミノ化合物の液は、必要により、アミノ基と官能基との反応を阻害しないような有機溶媒などで希釈して使用することができるが、このような液において、ポリアミノ化合物の濃度は、20重量%以上であることが好ましい。あまり低濃度であると、アミノ基と官能基との反応効率が低下し、反応に長時間を要するようになってしまうからである。
【0026】
非イオン交換樹脂成形体の芯体Aとポリアミノ化合物との反応は、非イオン交換樹脂成形体が有する官能基の種類等によっても異なるが、一般には、60℃以上で且つ芯体Aの変形温度未満、例えば60〜130℃の範囲に加熱することにより行われる。温度が60℃よりも低いと、反応の進行が律速になり、十分な交換容量を得るために十分な量の介在層Bとフリーのポリアミノ化合物3を形成乃至分布させるのに長時間を要し、生産性が低下し、130℃よりも高温にすると、芯体Aが溶融し、変形してしまうおそれがあるからである。かかる反応は、通常、5乃至25時間程度行われる。かかる反応により、芯体Aの表面にポリアミノ化合物1が固定されて介在層Bが形成されるとともに、この介在層Bの表面には、未反応のポリアミノ化合物3が分子同士の絡み合いにより捕捉され、反応結合によらず、フリーの状態で分布することとなる。
【0027】
本発明においては、次いで、架橋剤5を用いての架橋反応により、フリーのポリアミノ化合物3を、介在層Bを形成しているポリアミノ化合物1に固定する。これにより、介在層Bの表面に、アニオン交換基を導入するためのイオン交換前駆体層が形成される。
【0028】
かかる架橋剤5としては、少なくとも2個のハロゲン元素を有するポリハロゲン化炭化水素が使用される。即ち、ポリハロゲン化炭化水素とポリアミノ化合物1,3中のアミノ基との間での脱ハロゲン化水素により、フリーのポリアミノ化合物3が架橋剤5を介してポリアミノ化合物1に固定されるのである。このようなポリハロゲン化炭化水素としては、特に限定されるものではないが、架橋4級化後の樹脂の安定性、耐久性を考慮して炭素数3〜10のポリハロゲン化アルキルが好ましい。またアルキル鎖に結合している複数のハロゲン元素は、異なる炭素原子に結合していることが好ましく、特にハロゲン元素結合間炭素鎖が、直鎖のものが好ましく、ハロゲン元素結合間炭素鎖が分岐している場合においては、該炭素鎖がC3以上の直鎖部分を有していることが好適である。例えば、同一の炭素原子に複数のハロゲン元素が結合している場合には、架橋が困難となる傾向があり、また、ハロゲン元素結合間炭素鎖があまり長いと、後述する第4級アンモニウム化が内部まで行われてしまい、選択的に表面に第4級アンモニウム化することが困難となる傾向がある。(内部まで第4級アンモニウム化が行われると、得られるアニオン交換体は、吸水性が高くなり、膨潤などの変形が生じ、性能低下を生じてしまう。)
【0029】
本発明において、上記のポリハロゲン化炭化水素の好適例としては、1,3−ジフルオロプロパン、1,3−ジフルオロブタン、1,4−ジフルオロブタン、1,4−ジフルオロペンタン、1,5−ジフルオロペンタン、1,6−ジフルオロヘキサン、2,5−ジフルオロヘキサン、1,7−ジフルオロヘプタン、1,8−ジフルオロオクタン、1,9−ジフルオロノナン、1,10−ジフルオロデカン、1,3−ジクロロプロパン、1,3−ジクロロブタン、1,4−ジクロロブタン、1,4−ジクロロペンタン、1,5−ジクロロペンタン、1,6−ジクロロヘキサン、2,5−ジクロロヘキサン、1,7−ジクロロヘプタン、1,8−ジクロロオクタン、1,9−ジクロロノナン、1,10−ジクロロデカン、1,3−ジブロモプロパン、1,3−ジブロモブタン、1,4−ジブロモブタン、1,4−ジブロモペンタン、1,5−ジブロモペンタン、1,6−ジブロモヘキサン、2,5−ジブロモヘキサン、1,7−ジブロモヘプタン、1,8−ジブロモオクタン、1,9−ジブロモノナン、1,10−ジブロモデカン、1,3−ジヨードプロパン、1,3−ジヨードブタン、1,4−ジヨードブタン、1,4−ジヨードペンタン、1,5−ジヨードペンタン、1,6−ジヨードヘキサン、2,5−ジヨードヘキサン、1,7−ジヨードヘプタン、1,8−ジヨードオクタン、1,9−ジヨードノナン、1,10−ジヨードデカン等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上のものを混合して使用することもできる。
【0030】
上記のようなポリハロゲン化炭化水素を用いての架橋反応条件は、特に制限されないが、ポリハロゲン化炭化水素を適当な有機溶媒に溶解させ、この溶液中に、介在層B及びフリーのポリアミノ化合物3が表面に分布している芯体Aの処理物を浸漬し、ポリハロゲン化炭化水素の沸点温度以下で反応を行う方法や、ポリハロゲン化アルキルを気化させて勳蒸法で反応を行う方法を採用することができる。
【0031】
上記のように介在層Bの表面に分布しているフリーのポリアミノ化合物3を介在層B(ポリアミノ化合物1)に固定してイオン交換前駆体層を形成した後、第4級アンモニウム化を図り、イオン交換前駆体層をイオン交換層(アニオン交換層)に転換し、目的とするアニオン交換体を得ることができる。
【0032】
このような第4級アンモニウム化は、イオン交換前駆体層を形成しているフリーのポリアミノ化合物3中に存在する3級アミノ基を、4級アンモニウム化剤を用いて4級アンモニウム基とすることにより行われる。このような4級アンモニウム化剤としては、モノハロゲン化アルキル、例えばフッ化メチル、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチルなどが好適に使用され、特に好ましくは、取扱の容易さから、ヨウ化メチルが使用される。このような4級化反応は、上記の4級アンモニウム化剤を適当な有機溶媒に溶解させた溶液を使用し、該溶液中に前記イオン交換前駆体層を浸漬することにより容易に行われる。この場合、ヨウ化メチルでの4級化反応は、ヨウ化メチルの沸点が43℃と低いことから、沸点温度以下で、1日程度時間をかけて4級化することが望ましい。
【0033】
尚、第4級アンモニウム化後は、亜硫酸ナトリウム水溶液などを用いて洗浄を行い、遊離しているヨウ素等を除去し、最終的なアニオン交換体とする。
【0034】
本発明においては、上記の第4級アンモニウム化がイオン交換前駆体層について選択的に行われ、内部の介在層Bを形成するポリアミノ化合物1についての第4級アンモニウム化を有効に抑制できることが大きな利点である。即ち、第4級アンモニウム化に際して、第4級アンモニウム化剤の内部への浸透が、前述した架橋構造により抑制され、この結果、表面のイオン交換前駆体層のアミノ化合物3について選択的に第4級アンモニウム化が行われるのである。このような選択的な第4級アンモニウム化は、後述する実施例にも示されているように、アニオン交換体の切断面について、走査電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により元素分析(Clマッピング)することにより、図2に示すようにClの分布が確認できる。図2において、ハッチングで示した領域が、着色し、Clが分布している部分であり、第4級アンモニウム基の存在が確認される部分である。この図2から、内部での第4級アンモニウム化が有効に抑制され、表面について選択的に第4級アンモニウム化が行われていることが確認される。また、図2の結果から、第4級アンモニウム基が存在する領域と第4級アンモニウム基が存在していない内部の領域との面積比と、全体のアニオン交換容量とから、表層部イオン交換基濃度を算出することができる。
【0035】
上述した本発明においては、芯体Aを形成する非イオン交換性樹脂中の官能基量や用いるポリアミノ化合物の種類によって、介在層B及び介在層Bの表面に分布するフリーのポリアミノ化合物3の量を調整することができ、フリーのアミノ化合物3の量により、表面に導入される第4アンモニウム基量を調整することができる。
【0036】
本発明におけるアニオン交換体(芯体A)の形状は、球状、シート状、ネット状などであり、特に限定されず、目的や用途に応じて自由に選択できる。特にこのアニオン交換体を、電気透析装置を用いた脱塩処理に使用する場合には、表面アニオン交換基濃度(第4級アンモニウム基濃度)は、0.1乃至100mmol/g、特に0.5乃至20mmol/gの範囲にあることが、低濃度域の電解質溶液の脱塩を行う上で好適であり、特にこのアニオン交換体は、内部にイオン交換基が存在していないため、吸水量が小さく、吸水による膨潤が有効に抑制されているため、長期にわたって安定に脱塩処理を行うことができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下に実施例、ならびに比較例で使用した化合物の名称を示す。
【0038】
(非イオン交換性樹脂)
エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(グリシジル基含量0.47mmol/g)
エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(グリシジル基含量0.93mmol/g)
無水マレイン酸−メタクリレート共重合体(無水マレイン酸含量0.23mmol/g)
無水マレイン酸グラフトポリプロピレン(無水マレイン酸含量0.04mmol/g)
【0039】
(ポリアミノ化合物)
PAA−01:
ポリアリルアミン(日東紡績製、平均分子量1000、濃度15%)
エポミンSP−003:
ポリエチレンイミン(日本触媒製、平均分子量300、濃度99%)
エポミンSP−006:
ポリエチレンイミン(日本触媒製、平均分子量600、濃度99%)
エポミンSP−018:
ポリエチレンイミン(日本触媒製、平均分子量1800、濃度99%)
【0040】
(ポリハロゲン化アルキル)
1,6−ジブロモヘキサン(和光純薬製)
1,5−ジブロモペンタン(和光純薬製)
1,8−ジクロロオクタン
(Lancaster Synthesis Ltd.製)
1,7−ジブロモヘプタン
(MP Biomedicals, Inc.製)
【0041】
(第4級アンモニウム化剤、溶媒、その他)
第4級アンモニウム化剤:ヨウ化メチル(東京化成工業製)
特級アセトン(和光純薬製)
特級ヘキサン(和光純薬製)
亜硫酸ナトリウム(和光純薬製)
【0042】
<実施例1>
非イオン交換性樹脂としてエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(グリシジル基含量0.93mmol/g)を使用し、これを直径0.2mmの球状に成型し、その球状物をエポミンSP−003に浸漬し、100℃、10時間反応させた。その後、ジブロモヘキサン/アセトン=質量比30/70中で、45℃、6時間架橋反応させ、さらにヨウ化メチル/ヘキサン=質量比40/60中で、30℃で1日、4級化反応を行い、さらに0.2規定亜硫酸ナトリウム水溶液中に浸漬し遊離しているヨウ素を除去してからアニオン交換体を得た。
【0043】
得られたアニオン交換体について、ポリアミノ化合物を赤外吸収分光法(ATR法)で分析したところ、反応前のエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(グリシジル変性量12%)と比較して、エポキシ環由来のC−H伸縮振動3050−2990cm−1領域の吸収帯は弱まり、新たにエポキシ環がアミンと反応してできる水酸基由来のO−H変角振動が1420cm−1と1330cm−1付近に確認できた。さらに、第一級アミン塩由来のN−H伸縮振動が3000〜2800cm−1領域および2000cm−1付近に確認できた。
【0044】
つぎに、メチルオレンジ指示薬による染色法で、イオン交換体をメチルオレンジ指示薬に浸漬したところ、樹脂が赤変した。このことで、表面アニオン交換基の存在が確認できた。
【0045】
また、表層部のアニオン交換容量を確認するために、走査電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により、300倍に拡大した樹脂の切断面を元素分析した。印加電圧は20kVで測定した。その結果を図2に示すように、交換基の存在が確認できる着色部が表面に認められた。この図より、着色部分と非着色部分の面積比で、樹脂全体のアニオン交換容量を得ることで表層部イオン交換基濃度を特定することができる。
【0046】
また、得られたアニオン交換体について、以下の方法で、アニオン交換容量及び含水率を測定した。
得られたアニオン交換体を0.5規定塩酸水溶液に2時間以上浸漬した。その後、1時間、イオン交換水に浸漬した。さらに、0.2規定硝酸ナトリウム水溶液に1時間以上浸漬した。その浸漬液を0.1規定硝酸銀水溶液で沈殿滴定を行い、溶離した塩素イオンを定量した(Pmeq)。
硝酸ナトリウム水溶液から取り出されたアニオン交換体は、海水に浸漬後、イオン交換水でよく洗浄し、液体をよく落とした後、アニオン交換体の湿潤重量(W)を測定した。その後、真空乾燥機で60℃、一晩乾燥させ、乾燥重量(D)を測定した。以上の結果から下記式より、アニオン交換容量及び含水率を算出し、さらに、図2の面積比から表層部アニオン交換容量を求め、その結果を表1に示した。
【0047】
アニオン交換容量(meq/g)=P/D
含水率含水率(%)=(W−D)/D
【0048】
尚、アニオン交換容量は1.80meq/g、表層部アニオン交換容量は4.23meq/g、含水率は15%であった。
【0049】
<実施例2及び比較例1、2>
非イオン交換性樹脂を表1に示したように変える他は実施例1と同様にして反応を行ない、更に実施例1と同様にして得られたアニオン交換体の評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から、本発明の製造方法により得られるアニオン交換体は、優れたアニオン交換容量値を示し、表面に選択的にアニオン交換基が導入されていることが判る。
【0052】
<実施例3、4及び比較例3>
ポリアミノ化合物を表2に示したように変える他は実施例1と同様にして反応を行ない、更に実施例1と同様にして得られたアニオン交換体の評価を行なった。その結果を表2に示す。実施例1の結果も併記する。
【0053】
【表2】

【0054】
表2から、低濃度のポリアミノ化合物溶液を用いた場合には、ポリアミノ化合物の固定を有効に行うことが困難であり、アニオン交換基の導入を行うことができず、高濃度のポリアミノ化合物を用いることが必要であることが判る。
【0055】
<実施例5〜8及び比較例4>
ポリハロゲン化アルキルを表3に示したように変える他は実施例1と同様にして反応を行ない、更に実施例1と同様にして得られたアニオン交換体の評価を行なった。その結果を表3に示す。実施例1の結果も併記する。
【0056】
【表3】

【0057】
表3の結果(比較例4)から、ポリハロゲン化アルキルによる架橋構造を形成しない場合には、内部まで第4級アンモニウム化が行われてしまい、含水率が高くなってしまうことがわかる。即ち、表面に架橋構造を導入して第4級アンモニウム化を行うことにより、表層部に選択的にアニオン交換基(第4級アンモニウム基)が導入され、含水率を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の製造方法によって製造されるアニオン交換体の概略構造を示す図。
【図2】本発明により得られるアニオン交換体の切断面について、走査電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により元素分析(Clマッピング)することにより得られる図である。
【符号の説明】
【0059】
A:非イオン交換性樹脂成形体(芯体)
B:ポリアミノ化合物からなる介在層
C:アニオン交換層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン交換性樹脂成形体と、2個以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物とを混合し、該ポリアミノ化合物の一部を該非イオン交換性樹脂成形体の表面に固定してポリアミノ化合物介在層を形成させると同時に、残量のポリアミノ化合物を、該ポリアミノ化合物介在層の表面にフリーの状態で分布させる工程;
前記ポリアミノ化合物介在層の表面にフリーの状態で分布したポリアミノ化合物を、少なくとも2個のハロゲン元素を有するポリハロゲン化炭化水素を用いての架橋反応により、前記ポリアミノ化合物介在層の表面に固定してイオン交換前駆体層を形成する工程;
前記イオン交換前駆体層中に存在するアミノ基を第4級アンモニウム化する工程;
からなることを特徴とするアニオン交換体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリアミノ化合物として、分子量が100〜10,000の範囲にあるポリアミノ重合体を使用する請求項1に記載のアニオン交換体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリハロゲン化炭化水素として、ジハロゲン化アルキルを使用する請求項1または2に記載のアニオン交換体の製造方法。
【請求項4】
前記非イオン交換性樹脂成形体として、アミノ基と反応性を有する官能基を有する樹脂成形体を使用し、前記一部のポリアミノ化合物を該樹脂成形体の表面に反応させてポリアミノ化合物介在層を形成させる請求項1乃至3の何れかに記載のアニオン交換体の製造方法。
【請求項5】
前記非イオン交換性樹脂成形体がエポキシ基を有する樹脂からなる請求項4に記載のアニオン交換体の製造方法。
【請求項6】
非イオン交換性樹脂成形体の表面に、2個以上のアミノ基を有するポリアミノ化合物により形成されたポリアミノ化合物介在層を介して、第4級アンモニウム基が分布したアニオン交換層が形成されていることを特徴とするアニオン交換体。
【請求項7】
0.1乃至100mmol/gの表面アニオン交換基濃度を有している請求項6に記載のアニオン交換体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−39509(P2007−39509A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223339(P2005−223339)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(503361709)株式会社アストム (46)
【Fターム(参考)】