アニオン性及びカチオン性多糖類のポリマー混合物並びにその使用
ポリアニオン性多糖類及びキトサンのオリゴ糖誘導体からなるポリカチオン性多糖類の混合物を有する組成物について述べる。本発明の組成物において、上記の混合物は、酸性の多糖類及びキトサン誘導体との間にイオン複合体が形成されるにもかかわらず、水性環境下で溶解性を有することが証明された。また、この組成物は、使用される多糖類が相対的に低い平均分子量を有するにもかかわらず、粘性及び粘弾性において予期せぬ増加を示すという有意なレオロジー的挙動を示す。この溶解性及びレオロジー的挙動により、生物医学的観点からみると、本発明の組成物が特に有利となるものであり、特に、関節病態及び眼科手術の分野において特に粘性補給源として有利である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性及びポリカチオン性多糖類からなる多糖類の混合物を有し、適当な物理−化学的特徴、特に高粘性及び粘弾性を有する組成物、並びにその生物医学的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類は、その高い生体適合性と独特の物理−化学的特性、特にその水溶液の粘性挙動に関し、かなりの適用可能な興味あるバイオポリマーとして知られており、そのレオロジー的挙動は、その分子量と主として関連することも知られている。これらのバイオポリマーのうち、ヒアルロン酸は、適用の観点から、最も興味ある生体適合性ポリマーであって、生物医学の分野で最も広く使用されている。その理由は、その水溶液が、興味深い粘性及び粘弾性特性を示す独特のレオロジー的挙動を有するためである。この多糖類は、グルクロン酸とN−アセチル−グルコサミンとからなる二糖の繰り返し単位を有することが知られている。この多糖の並びにおいてウロン酸単位が存在することから、ヒアルロン酸は、生理的pH(つまり、7.4)においてネットの負電荷を有し、従って、ポリアニオンである。化粧品分野及び医薬品分野又は薬物送達システムにおいて、その特徴(つまり、粘性及び粘弾性)のため、幅広い用途が見出されている。特に、眼科手術や骨関節病態に幅広い適用例が見出されており、ここで、ヒアルロン酸は、上記の物理−化学的特性の恩恵による滑液の粘性補給源(viscosupplementation)に広範に使用されている。事実、高分子量のヒアルロン酸(2,000kDa以上)の濃厚溶液(1〜2%)は、高い粘性とともに優れた粘弾性特性を有する。斯かる特性により、ヒアルロン酸は、炎症性であっても外傷性であっても、関節病態の処置に特に優れる。その理由は、関節自体の十分な機能性を提供し及び/又は回復し得るためである。骨関節領域におけるヒアルロン酸の適用例に関する好適な処方は、関節内経由で投与される注射可能なヒアルロン酸溶液としてのものである;この様式において、その独特のレオロジー的特性(つまり、粘性及び粘弾性)は、関節に対する「機械的な」機能性を回復する目的のために完全に使用され得る。
【0003】
しかしながら、分解及び低分子量のポリマーの形成及び/又は高い多分散性を阻害すると同時に、少なくとも2,000kDaの高分子量のヒアルロン酸を取得し精製することは、上記の処理に使用するための調製の全体的なコストに重い負荷をかける、複雑で高価な製造工程を必要とする。この問題を克服するため、低分子量、すなわち、安価なヒアルロン酸溶液の粘性の可能性について、かなりの興味が向けられており、低い価値が付加された適用例(例えば、化粧品分野)に通常使用される製造不良に、かなりの経済的利益を有するものとして使用を可能とするものである。このことは、低分子量のヒアルロン酸のレオロジー的挙動を向上/増加することを目的として、ヒアルロン酸誘導体、特に種々の架橋剤で架橋された誘導体に関する進展した研究をもたらしている。
【0004】
また、その他の多糖類は、水の溶液/懸濁液の粘性特性のため、幅広い用途が見出されている。豊富であり比較的低コストであることで医薬品及び食品工業の両方で最も利用されているものとしては、アルギン酸塩及びキトサンが挙げられる。
【0005】
キトサンは、クラスタシィアンの外骨格の主成分であるキチンの化学的脱アセチル化により得られる天然で広く利用可能な多糖類である。キトサンは、主として、N−アセチル−グルコサミン単位で散在されたグルコサミン単位からなり、残りは、キチン処理に由来する。この多糖類は、有機酸又は無機酸を添加することによりpHが5以下となるまで、水に溶解しない。pHを下げると、グルコサミン残基のアミン基がプロトン化し、系に溶解性を与える。その幅広い用途に関連して、キトサンは、適用目的に有用な、その特性、特に粘性及び水に対する溶解性を向上させる目的で、化学的態様を含む最も研究された多糖類のひとつとなってきた。過去数年来、ポリマー鎖の化学的改変により、種々のキトサン誘導体が得られてきた。これらの改変に関し、グルコサミン単位のアミン残基の反応が通常使用される。特に、側鎖として糖類単位(単糖及びオリゴ糖)を付加することにより、ポリマーの分解という次なる問題を伴う酸へとpHを低下させる必要なく、水溶性のキトサン誘導体を得ることが可能となる。
【0006】
特許文献1(Hall,L.D.及びYalpani,M.)は、これらの誘導体の合成について、最初に述べており、非酸性水系環境での溶解性についても、述べている。
【0007】
特許文献2(House,R.F.)においては、水溶液の粘性を増加させるために、溶液又は分散液のいずれかとして、その他のポリマー系と組み合わされてはいないものの、特許文献1で述べられているものと同様の様式で改変されたキトサンが使用されている。
【0008】
特許文献3(Nordquist,R.E.ら)においては、単糖又はオリゴ糖で改変されたキトサンを用いて調製された生体材料が、増感物質と組み合わせたレーザーシステムの使用に基づく免疫療法処置における免疫アジュバントとして使用されている。
【0009】
物理−化学的特性を向上させる目的、すなわち、これらの多糖類、特にヒアルロン酸、ヒアルロン酸及びキトサンを組み合わせて得た組成物の粘性及び/又は粘弾性についても述べられている。
【0010】
特許文献4(Cho,K.ら)においては、向上された物理−化学的特性、特に、向上された粘弾性を有するヒアルロン酸を得る目的で、グリコールに適当なアミン基を導入することで得たアミド基により、本質的にPEG又はPluronicのグリコールポリマーに架橋されたヒアルロン酸の誘導体を調製している。また、特定の例において、第二の多糖類、つまり、低分子量(最大5kDa)のキトサンに架橋されたヒアルロン酸誘導体についても述べている。この架橋反応には、NHS(N−ヒドロキシサクシニミド)の存在下、EDC(N−[3−ジメチルアミノプロピル]−N’−エチルカルボジイミドクロライド)などの縮合剤を使用する。この架橋されたヒアルロン酸誘導体は、高い粘弾性を有し、これらの物理−化学的特徴を有するヒアルロン酸の種々の用途に適しており、関節病態の処置用の粘性補給源への使用が含まれる。上記の特許出願で同定された処理により、2つの多糖類を組み合わせており、対に帯電した2つの多糖類間のイオン型の結合性相互作用ではなく、共有結合により、これらを向上させると同時に、その物理−化学的特性を利用する。
【0011】
注目すべきように、キトサンのポリカチオン性の性質は、他の多糖類との適合性を困難とし、特に、ヒアルロン酸などのポリアニオン性との適合性を困難とする。この点、ヒアルロン酸(ポリアニオン性)の水溶液と、キトサン(ポリカチオン性)の水溶液との組合せは、不溶性の液滴形成(coacervate)の瞬間的な形成を可能とする。このことは、水性環境において、一方の正電荷と他方の負電荷との強力な相互作用が確立するという事実に起因する。2つの多糖類の沈殿/液滴形成は、注入可能な組成物としての種々の処方を妨げる。この塩基性の多糖類と酸性の多糖類との液滴形成の工程は、周知であって、文献に広く述べられている。例えば、特許文献5(Severian,D.ら)キトサン及び側鎖に負の電荷を有する多糖類であるキサンタンの液滴形成について述べており、不溶性のハイドロゲルを得るのに使用される。
【0012】
キトサンをより水溶性とする目的で、特許文献6(Nordquist,R.E.,Carubelli,R.)は、キトサンの単糖及び/又はオリゴ糖で糖化された誘導体を一般的に提供するとともに、この発明の目的に好適な誘導体としてこれらのガラクトース誘導体について述べている。しかしながら、後者のタイプの反応において、ガラクトースは、不可逆的に改変されて、ガラクチトールを与える。これらの誘導体の溶液は、粘性を有する手術(viscosurgery)、特に眼科の粘性を有する手術に必要な特徴を有する。これらの特徴は、250〜350mMの生理的なオスモル濃度と、5.5〜7.5のpHとを有する。また、ヒアルロン酸などの粘性を有する手術に使用可能な他の材料と混合された上記の材料を組み合わせた用途についても提供する。しかしながら、斯かる混合物は、形成されず、言及したアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとの間の相互的な適合性の公知の問題ではない。従って、上記の混合物に必要な条件は、液滴形成又は可能な相分離を生じさせず、混合物が分子的に分散された溶液の条件の不可逆的な喪失、及び上記の組成物のレオロジー的特徴の改変について、言及していない。
【0013】
特許文献7(White,B.J.ら)は、塩基性多糖類と非架橋のアニオン性多糖類の水溶性架橋誘導体を有する組成物からなるハイドロゲルの調製について述べている。特に、このハイドロゲルは、ヒアルロン酸を、架橋されたN−カルボキシメチル、O−カルボキシメチル、O−ヒドロキシメチルキトサン誘導体と、又は部分的にアセチル化されたキトサンと混合することにより得られる。これらのキトサン誘導体は、本願発明者らによると、鎖に種々の正電荷を有さず且つイオン複合体の形成を阻止するpH条件下で溶解化されるので、ヒアルロン酸と水溶液中で混合可能である。この様式において、ポリアニオンとの液滴形成は、ポリマーの一方の電荷を完全に除去又は補完することにより、回避される。従って、これらは、ポリアニオン/中性の多糖類又はポリアニオン又は多両性電解質の溶液である。
【0014】
しかしながら、適当な物理的−化学的特徴を有する組成物を得るために互いに混合された異なる電荷のものであっても低分子量又は比較的低分子量の多糖類を使用する可能性は、高い粘性/粘弾性の多糖類溶液に関して、生物医学分野において大きな適用的興味及び複数の適用例の観点から、未だ追求されるべき目的である。この点、多くの公知の適用例に適当な物理的−化学的特徴を有する多糖類溶液を調製する新規の技術的解決法が、未だ精力的に探索されている。
【特許文献1】米国特許第4,424,346号明細書
【特許文献2】米国特許第6,277,792号明細書
【特許文献3】米国特許第5,747,475号明細書
【特許文献4】国際公開第2004/022603号パンフレット
【特許文献5】米国特許第5,620,706号明細書
【特許文献6】米国特許第6,756,363号明細書
【特許文献7】国際公開第2005/061611号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の第一の目的は、眼科手術などの生物医学領域における粘性及び/又は粘弾性溶液用のその他の公知の適用例を排除することなく、少なくとも炎症性及び外傷性の関節病態の粘性補給の処置の適用例のための適当な粘性/粘弾性を有する多糖類水溶液を調製することである。
【0016】
本発明の第二の目的は、物理的−化学的特徴を向上させつつコストに有意な影響を与える複雑な化学的手法に多糖類を付することなく、市販且つ安価な多糖類、従って、低分子量又は比較的低分子量の多糖類を有する組成物を調製することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を満たすため、本願発明者らは、アニオン性多糖類と物理的に混合した際、適当な条件下で、不溶性の液滴形成を生じることなく、両方の多糖類の水溶液を与える、塩基性多糖類の適当な誘導体を同定した。
【0018】
実行される目的は、アニオン性多糖類及びキトサンのオリゴ糖誘導体で達成される。さらに、同定された条件は、改変されたポリカチオン性多糖類及びポリアニオン性多糖類の溶解性混合物を得るように一般的に適用される。
【0019】
驚くべきことに、ポリアニオン性多糖類及びポリカチオン性多糖類誘導体の物理的な混合物が水性環境において水溶性である組成物を生じさせるとともに、この組成物は、キトサンのオリゴ糖誘導体を添加した後のポリアニオン溶液の粘度のかなりの増加を示す。
【0020】
従って、本発明は、少なくともひとつのアニオン性多糖類及び少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体の混合物の水溶液を有する多糖類組成物を提供し、上記のキトサン誘導体は、少なくとも40%の誘導体化率を有し、上記の水溶液は、少なくとも50mMで175mMを上回らないイオン強度を有し、且つ少なくとも7のpHを有する。
【0021】
また、本発明は、生物医学分野における多糖類混合物の上記の組成物の使用を提供し、骨関節病態の処理用の関節内への粘性補給源への、及び眼科手術への使用を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の多糖類組成物の目的及び利点は、下記の詳細な記載からより良好に理解されるであろう。ここで、本発明の非限定的な例示として、組成物の数次の例及びその物理的−化学的特徴について述べる。
【0023】
高くない平均分子量の多糖類から出発して、複雑な化学的操作を行うことなく、例えばヒアルロン酸などのポリアニオン性多糖類の水性環境における、多糖類の種々の公知の使用、特に排他的ではなく関節の粘性補給源に適した粘性及び/又は粘弾性を有する組成物を得る目的で、本願発明者らは、キトサンのオリゴ糖誘導体を用いることにより可能な解決法を達成し得ることを見出した。
【0024】
この目的は、酸性多糖類及び塩基性多糖類の誘導体の混合物を有する組成物、すなわち、少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物の水溶液を有する多糖類組成物で達成可能であり、このポリカチオン性多糖類誘導体は、少なくとも40%の誘導体化率を有し、上記の水溶液は、少なくとも50mMで175mMを超えないイオン強度と、少なくとも7のpHとを有する。本発明の多糖類混合物の水溶液を得るため、上記のアニオン性多糖類及びキトサンの誘導体は、オリゴ糖誘導体に対するポリアニオンの重量比で10:1(ポリアニオン:キトサン誘導体)〜1:1の範囲内である。本発明の目的のため、多糖類間の好ましい重量比は、特に、3:1〜1:1の範囲であり、一方、溶液のポリマー濃度は、1.5%w/v(g/mL)〜3%w/v(g/mL)である。
【0025】
例えば反応性アミノ化反応によりラクトース単位を挿入することによる、糖類の側鎖を用いたキトサンの誘導体化は、公知であって、特許文献1に述べられている;また、この誘導体は、水に対してこの塩基性多糖類のより高い溶解度を可能とすることも知られている。当業者に公知のキトサンは、1〜4のグリコシド単位を有するオリゴ糖を還元する反応性アミノ化反応により、誘導体化され得る。特に、本発明の目的のため、このオリゴ糖は、2〜4のグリコシド単位を有し、ラクトース、セロビオース、セロトリオース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、チトビオース(chitobiose)、キトトリオース、メリビオースからなる群から好ましく選択される。
【0026】
上記のオリゴ糖誘導体を製造するのに使用し得るキトサンの平均分子量(以下、Mwと称する。)は、1,500kDa以下であってもよく、好ましくは、400kDa〜1,000kDaの範囲である。また、本発明の目的のため、キトサンのアミン基の上記オリゴ糖を用いた置換度は、40〜45%(〜45%)を超える必要がある。好ましくは、キトサンのアミン基のオリゴ糖による置換度は、50〜80%の範囲であってもよく、より好ましくは70%である。
【0027】
キトサンのオリゴ糖誘導体の調製方法は、公知であって、シアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下、酢酸(pH4.5)及びメタノール中にキトサンを有する溶液を、ラクトースなどの還元糖と反応させることを有する。キトサンのアミン基とラクトースのアルデヒド基との間の相互作用により、シッフ塩基として公知の不安定な中間体が形成する。これを、水素化ホウ素の存在下、還元して、安定な第二級アミンを形成する。
【0028】
ポリアニオン性多糖類について、本発明の多糖類混合物の組成物は、カルボキシル化されたアニオン性多糖類(例えば、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ペクチン酸塩、カルボキシメチルセルロース、キサンタン及びその他の微生物由来のカルボキシル化された多糖類)及び硫酸物(カラギーナン、アガロース硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、硫酸化デンプン、ヘパリン、ヘパラン硫酸)を用いて、取得可能である。本発明の組成物に関し、酸性多糖類は、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ペクチン酸塩、カルボン酸塩に関してカルボキシメチルセルロース、カラギーナン、硫酸物に関してアガロース硫酸からなる群から好ましく選択される。ポリアニオンの平均分子量(Mw)は、1,500kDaに達してもよく、好ましくは、100kDa〜1,000kDaであり;より好ましくは約900kDaの平均分子量を有するものが利用される。
【0029】
本発明の目的に関し、キトサン誘導体及びポリアニオンの混合物は、3%w/v(g/mL)以下のポリマーの全濃度を有してもよい。好ましくは、このポリマーの全濃度は、1.5%w/v(g/mL)〜3%w/v(g/mL)の範囲である。
【0030】
一般的に、溶液における上記の2つの異なるポリマーの適合性は、少なくとも50mMのイオン強度を生じ得る支持塩の存在下、pH7.4を可能とし、好ましくは、10:1(ポリアニオン:キトサン誘導体)〜1:1(ポリアニオン:キトサン誘導体)であり、より好ましくは3:1(ポリアニオン:キトサン誘導体)〜1:1(ポリアニオン:キトサン誘導体)である。
【0031】
従って、本発明によると、混合物が水において溶液を形成するように、2つのポリマー溶液を混合するのに適用される条件は、pH7〜8であり、好ましくは生理的pHである7.4の近辺及び適当なイオン強度である。特に、十分なイオン強度[イオン強度=1/2(Σicizi2)であって、ここで、ciは、i番目のイオン種の濃度であり、ziは、その電荷の絶対値である]を得る目的で、本発明の混合物を有する組成物は、ポリマーの全濃度が1.5%〜3%である場合、簡単な支持塩、好ましくはNaClであって、0.05M(イオン強度50mM)〜0.175M(イオン強度=175mM)の濃度を有する。好ましくは、支持塩の濃度は、3%以下のポリマーの全濃度を有する溶液に関して、0.15M(イオン強度=150mM)である。支持塩及び多糖類の溶液と同様に、少量の緩衝液を添加してもよい。好ましくは、Hepes((N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−エタンスルホン酸)ナトリウム塩)を10mMの濃度で系に添加して、一定の値のpH、好ましくは7〜8、より好ましくは7.4に系を保持する。
【0032】
また、この組成物の生物医学用途のため、本発明の多糖類混合物の水溶液に関して、非イオン性溶質を可能にさらに添加することにより、250〜350mMのオスモル濃度を確保すべきである。使用可能な好ましい非イオン性溶質は、マンニトールである。
【0033】
いくつかのキトサンのオリゴ糖誘導体の合成、及び本発明の多糖類の混合物を有する組成物を調製する例について、非限定的に示すことにより、以下に述べる。
【0034】
例1
キトサンのラクトース誘導体(いわゆる、キトラック(chitlac))の合成
キトサン(1.5g、アセチル化度11%)を、メタノール(55mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(55mL)を有する溶液110mLに溶解する。ラクトース(2.2g)及びシアン水素化ホウ素ナトリウム(900mg)を含有するメタノール(30mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(30mL)を有する溶液60mLを添加する。この混合物を、24時間、攪拌下で載置し、透析チューブ(カットオフ:12000Da)に導入し、伝導度が4℃において4μSとなるまで、0.1MのNaCl(2倍量(change))及び脱イオン水に対して透析する。最終的に、溶液を、ミリポア社製0.45μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥する。
【0035】
例2
キトサンのセロビオース誘導体(以下、いわゆるキトセル(chitcell)と称する。)の合成
キトサン(1.5g、アセチル化度11%)を、メタノール(55mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(55mL)を有する溶液110mLに溶解する。セロビオース(2.2g)及びシアン水素化ホウ素ナトリウム(900mg)を含有するメタノール(30mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(30mL)を有する溶液60mLを添加する。この混合物を、24時間、攪拌下で載置し、透析チューブ(カットオフ:12000Da)に導入し、伝導度が4℃において4μSとなるまで、0.1MのNaCl(2倍量(change))及び脱イオン水に対して透析する。最終的に、溶液を、ミリポア社製0.45μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥する。
【0036】
例3
キトサンのマルトトリオース誘導体(以下、いわゆるキトマル3(chitmal3)と称する。)の合成
キトサン(300mg、アセチル化度11%)を、メタノール(11mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(11mL)を有する溶液22mLに溶解する。マルトトリオース(650mg)及びシアン水素化ホウ素ナトリウム(180mg)を含有するメタノール(6mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(6mL)を有する溶液12mLを添加する。この混合物を、24時間、攪拌下で載置し、透析チューブ(カットオフ:12000Da)に導入し、伝導度が4℃において4μSとなるまで、0.1MのNaCl(2倍量(change))及び脱イオン水に対して透析する。最終的に、溶液を、ミリポア社製0.45μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥する。
【0037】
下記の多糖類混合物の例は、上記のキトサン誘導体及び種々の平均分子量のポリアニオン性多糖類を用いて得られる。
【0038】
例4
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックロッドスターラー(magnetic rod stirrer)で混合し、1.5%のヒアルロン酸及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0039】
例5
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.1MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.1MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックロッドスターラーで混合し、1.5%のヒアルロン酸及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0040】
例6
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.05MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.05MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、1.5%のヒアルロン酸及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0041】
例7
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.025MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.025MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、1.5%のヒアルロン酸及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する40mLの溶液を得る。なお、液滴形成が観察される。
【0042】
例8
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(300mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0043】
例9
カルボキシメチルセルロース:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するカルボキシメチルセルロース(300mg、Mw〜270,000、d.s.0.9)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のカルボキシメチルセルロース及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0044】
例10
アルギン酸塩:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するアルギン酸塩(300mg、Mw〜130,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のアルギン酸塩及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0045】
例11
アガロース硫酸:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するアガロース硫酸(300mg、低ゲル化点)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製し、上記の溶液として同温度で保持する。この2つの溶液を、熱条件(〜50℃)下、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のアガロース硫酸及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0046】
例12
κ−カラギーナン:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するκ−カラギーナン(300mg、Mw〜270,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のκ−カラギーナン及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、沈殿物のない40mLの溶液を得る。
【0047】
例13
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの1:1w/wの混合物であって、脱イオン中でのポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
脱イオン水中でヒアルロン酸(300mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。脱イオン水中でキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する40mLの溶液を得る。なお、上記の2つの多糖類間で液滴形成/沈殿物の形成が観察される。
【0048】
例14
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの1:1w/wの混合物であって、支持塩を有さず、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のpH7.4のもの
10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(300mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する40mLの溶液を得る。なお、上記の2つの多糖類間で液滴形成/沈殿物の形成が観察される。
【0049】
例15
低いMwのヒアルロン酸:ポリ−L−リジン(PLL)の1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(300mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するポリ−L−リジン(PLL)(300mg、Mw〜20,000)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のPLL(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する40mLの溶液を得る。なお、上記の2つの多糖類間で液滴形成/沈殿物の形成が観察される。
【0050】
例16
ローダミンを用いたアルギン酸塩の標識化
毎約1500個のうち、アルギン酸塩の1個のウロン酸基を標識するのに十分な123 ローダミン(123 Rhodamine)の一定量を、10%のエタノール、N−ヒドロキシサクシニミド(NHS)及び1−エチル−2−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDC)([EDC]/[URアルギン酸塩]のモル比=1.5、[NHS]/[EDC]のモル比=1)を含有するモルフォリノエタン硫酸(MES、100mL)の緩衝液中にアルギン酸塩(300mg、Mw〜130,000)を有する溶液に添加する。この溶液を、暗下且つ攪拌下で24時間保持し、4℃における伝導度が4μSとなるまで、0.05MのNaHCO3(3倍量(change))及び脱イオン水に対して透析する。最終的に、溶液を、ミリポア社製0.45μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥する。
【0051】
例17
フルオレセインを用いたキトラックの標識化
毎約2000個のうち、1個のアミン基を改変するのに十分なフルオレセインイソチオシアネートの一定量を、0.5MのNaHCO3(65mL)中にキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)を有する溶液に添加する。この溶液を、暗下且つ攪拌下で24時間保持し、4℃における伝導度が4μSとなるまで、0.05MのNaHCO3(3倍量(change))及び脱イオン水に対して透析する。最終的に、溶液を、ミリポア社製0.45μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥する。
【0052】
例18
アルギン酸塩:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度0.15%w/v(g/mL)のもの
0.015MのNaCl、1mMのHepes(pH7.4)を含有する、ローダミンで標識したアルギン酸塩(15mg、Mw〜130,000、例16のもの)の溶液10mLを調製する。0.015MのNaCl、1mMのHepes(pH7.4)を含有するフルオレセインで標識したキトラック(15mg、Mw〜1.5×106、例17のもの)の溶液10mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.075%のローダミンで標識したアルギン酸塩及び0.075%のフルオレセインで標識したキトラック(ポリマーの全濃度0.15%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない20mLの溶液を得る。
【0053】
例19
高いMwのヒアルロン酸:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw約8〜9×105)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、1.5%のヒアルロン酸及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0054】
例20
アルギン酸塩:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するアルギン酸塩(600mg、Mw〜130,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、1.5%のアルギン酸塩及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0055】
例21
ヒアルロン酸:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度3%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw〜240,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(600mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、1.5%のヒアルロン酸及び1.5%のキトラック(ポリマーの全濃度3%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0056】
例22
ヒアルロン酸:キトサン誘導体(キトラック;キトセル;キトマル3(chitmal3))の1:1w/wの混合物
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(300mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0057】
同じ方法を用いて、ヒアルロン酸とキトセル(例2)との混合物、及びヒアルロン酸とキトマル3(例3)との混合物を調製して、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のキトセル又はキトマル3(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0058】
単一のアニオン性多糖類及びキトサン誘導体成分と比較した、例4〜22の多糖類混合物の物理−化学的特徴
a)多糖類混合物の溶解性に対するイオン強度の影響
イオン強度の変化によって誘導される本発明の多糖類混合物の溶解性に対する影響を評価するため、上記の例4〜7の通り調製したヒアルロン酸及びキトサン誘導体(キトラック)を含有する混合物の溶液について、λ=600nmにおける透過率(T)を測定した。図1が強調するように、ポリアニオン及び改変されたキトサンの混合物の水溶性は、例えば、2%のポリマーの全濃度の存在下、及び0.05M以上の支持塩濃度で確保される。特に、この図は、二成分ポリマー溶液の透過率(600nmで測定)の、個々の多糖類の透過率に対する比率を与えている。1と同一又はこれに近づく透過率は、二成分ポリマー溶液における液滴形成又は沈殿物が存在しないことを示す。逆に、この混合物における塩が0.05M未満の値に低下すると、透過率の有意な減少を伴う液滴形成が観察される。
【0059】
b)異なるアニオン性多糖類及びキトサン誘導体(キトラック)の1:1w/wの混合物
アニオン性多糖類の種類が変化することにより誘導される、本発明の多糖類−改変されたキトサンを含有する混合物の溶解性に対する影響を評価するため、上記の例8〜12の通り調製した、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、アガロース硫酸及びカラギーナンから選択されたアニオン性多糖類と、キトサン誘導体(キトラック)とを含有する溶液の高いw/w比、すなわち1:1の溶液について、λ=600nmにおける透過率(T)を測定した。図2が示すように、多糖類混合物の溶解性は、2つのポリマーの重量比が1:1でありポリマーの全濃度が1.5%であるときであっても、確保される。カルボキシル化されており又は硫酸化されていても、異なるポリアニオンの系の溶解性を保持することにより、混合は達成され得る。
【0060】
c)ポリアニオン性多糖類及びキトサン誘導体(キトラック;キトセル;キトマル3)の1:1w/wの混合物
上記の通り測定した本発明の多糖類組成物の溶解性は、例22で調製した二成分混合物が同じT/T0値を有するので、キトサン誘導体の種類によって影響されないことが証明されている。この点、図3aは、ポリアニオン及び多糖類で改変されたキトサンを有するポリマー溶液の調製する能力が、後者の化学的性質に影響を与えないことを示している。二糖であるセロビオース(キトセル)又は三糖であるマルトトリオース(キトマル3)に置き換えることにより、ラクトース(キトセル)に対して、液滴形成の有意な形成はない。
【0061】
適当な条件下で溶液を得るようにポリアニオンをキトサンのオリゴ糖誘導体と混合する実現可能性は、3つの因子に本質的に起因する。第一は、カチオン性多糖類を導入されるオリゴ糖の側鎖により生じる立体障害である。これらは、アニオン性多糖類の接近を妨害し、鎖の長い束を通じた2つのポリマー系のカップリングを阻害する。この効果を、図3bに示す。
【0062】
また、生理的pH、好ましくはpH7.4を使用することで、カチオン性多糖類であるキトラックの電荷が減少し、多糖類の側鎖のおかげで良好な水溶性を保持する。最終的に、支持塩、好ましくは塩化ナトリウムの存在により、2つのポリマーの電荷が防御され、液滴形成/沈殿を回避するように2つのポリマー間の静電的相互作用を制限する。これらの3つの因子を組み合わせることにより、ポリアニオン/オリゴ糖で改変されたキトサンの溶液が得られる。この点、図4から推測されるように、脱イオン水中(pH〜5.5)でのヒアルロン酸及びキトラックのポリマー混合物の形成は、上記の立体的因子が存在するにもかかわらず、実現可能ではない。支持塩の存在なく、生理的pH(7.4)を使用することで、取得されるべき真の溶液は得られない。最終的に、キトラックとは異なるポリカチオン、例えば、支持塩の存在下、生理的pHで溶解性を有するポリ−L−リジン(PLL)を使用することは、ポリアニオンが存在しても、取得されるべき溶液を得ることはできない(図4)。
【0063】
しかしながら、液滴形成が存在しないことは、ポリカチオン、例えば、キトラック上の正電荷と、ポリアニオン、例えば、ヒアルロン酸又はアルギン酸塩上の負電荷との相互作用がないことを意味するものではない。逆に、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)実験では、これらの本質的に静電的(クーロン)な相互作用が存在することを示している(図5)。この実験において、ポリアニオン(アルギン酸塩)は、ローダミンで標識され、ポリカチオン(キトラック)は、フルオレセインで標識された。これらの2つの多糖類上の対となる荷電間の相互作用がなく混合が行われたと仮定すれば、混合物の蛍光発光スペクトルは、別々に記録された2つのスペクトルの強度の合計に対応する。逆に、アニオン性及びカチオン性の多糖類の二成分溶液のスペクトルが、別々に取得した2つのポリマーのスペクトルの合計よりも低く見出されるとすれば、このことは、2つのポリマー間で非常に強く短い範囲(5nmのオーダーの長さ)の相互作用が確立していることを示す(蛍光クエンチング)。典型的には、イオン的相互作用は、この距離の範囲内である。図5は、アルギン酸塩及びキトラックの二成分溶液の発光スペクトルが、別々に試験した2つのポリマーの発光スペクトル強度の合計よりも低い強度を有することを示しており、このことは、キトラックの正電荷と、アルギン酸塩の負電荷との間にイオン的相互作用が存在していることを示す。この意味において、本発明の組成物は、溶解性混合物を形成するようにイオン的相互作用を行うため、鎖上に対となる電荷を有することを特徴とするアニオン性及びカチオン性の多糖類の溶液を調製することが可能である。ポリアニオン/中性の多糖類溶液について述べる特許文献7とは異なり、本発明は、溶液でも安定である複合体を形成するように相互作用するポリアニオン及びポリカチオンの両方を含有する溶液に関する。
【0064】
この点、図6は、「大規模」の組織化を起こすことなく、溶液中の複合体間の同一性(equality)及び絶対粘度を予測するいわゆるコックスメルツ則が、例19のヒアルロン酸及びキトラックを含有する二成分溶液に適用され得ることを示す。反対に、ゲル又はマイクロゲルの存在は、レオメーターで測定した複合的及び絶対的な2つの粘度の同一性の欠如により示される上記の法則から偏差を生じる。
【0065】
ポリアニオン及びオリゴ糖で改変されたキトサンの間の溶解性の複合体の形成は、1,500kDa以下で可変な平均分子量を有するカルボキシル化又は硫酸化された多糖類で生じ得る。
【0066】
また、オリゴ糖で改変されたキトサン上の正電荷とアニオン性多糖類(例えば、ヒアルロン酸又はアルギン酸塩)上の負電荷との間の相互作用の存在により、別々に取得した多糖類のポリマー溶液と比較して、アニオン性及びカチオン性の混合物のポリマー溶液の粘度が予期せず増加する。特に、ポリアニオン及びオリゴ糖で改変されたキトサンのポリマーの混合物の水溶液の粘度は、混合物の個々の成分であるポリマーの水溶液の粘度の合計よりも大きいことがわかる。図7、8、9及び10は、ポリアニオン及び改変されたキトサンが異なるw/w比である異なるポリマーで得たこの相乗効果を明確に示している。
【0067】
また、組成物は、図11から推測されるように、粘弾性特性において疑うべきもない向上性を示す。事実、図11bに示した例19のヒアルロン酸及びキトラックの二成分溶液の粘弾性スペクトルが示すように、第二の多糖類が、ヒアルロン酸の粘弾性により有意に阻害されないばかりでなく、むしろ、ヒアルロン酸単独の溶液と比較して(図11a)、G’及びG’’が互いに交叉する箇所における周波数の値が低下しており、すなわち、この系が粘度よりも高い弾性を示す特性を示し始める周波数が低下する。この効果は、多糖類の公知の適用において高度に望ましいものであり、特に、骨関節炎、変形性関節症、半月板断裂、靱帯断裂などの炎症性及び/又は外傷性を基礎とした骨関節病態の処置における粘性補給源において、高度に望ましいものである。本発明の目的のため、本発明の組成物は、ヒト又は非ヒト哺乳類への投与用に許容な製品の調製のための適当な賦形剤又は希釈剤と単独又は組み合わせて、用いられてもよい。上記の骨関節病態を処置するため、この製品は、公知の関節内経路で投与されてもよい。また、同様の理由のため、上記の組成物は、眼科手術に使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】ヒアルロン酸と、ラクトースで改変されたキトサン(以下、キトラック(Chitolac)と称する。)とを含有する溶液の透過率(λ=600nm)と、個々のポリマーの溶液の透過率(T0)との関係であって、A)(例4)NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4);B)(例5)NaCl0.1M、Hepes10mM(pH7.4);C)(例6)NaCl0.05M、Hepes10mM(pH7.4);D)(例7)NaCl0.025M、Hepes10mM(pH7.4);の各条件における関係。ポリマーの全濃度:2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1。全ての溶液において、オスモル濃度は、非イオン性溶質であるマンニトールを添加することにより、300mMに保持した。25℃において、CaryE4のUV−可視光分光光度計により、測定を行った。
【図2】二成分の多糖類混合物(キトラック/ポリアニオン)の透過率(λ=600nm)と、A)(例8)ヒアルロン酸;B)(例9)カルボキシメチルセルロース;C)(例10)アルギン酸塩;D)(例11)アガロース硫酸;E)(例12)カラギーナンのバイオポリマーに関する透過率(T0)との関係。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)。ポリマーの全濃度:1.5%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=1:1。D)の場合(例11)、約50℃で混合を行った。測定は、図1で言及の通り行った。
【図3a】二成分の多糖類混合物(例1、2及び3のヒアルロン酸/キトサン誘導体)の透過率(λ=600nm)と、キトラック(反応性アミノ化によりラクトースを用いて改変されたキトサン;例1)、キトセル(Chitcell)(反応性アミノ化によりセロビオースを用いて改変されたキトサン;例2)及びキトマル3(反応性アミノ化によりマルトトリオースを用いて改変されたキトサン;例3)の各誘導体に関する個々のポリマーの透過率(T0)との関係。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)。ポリマーの全濃度:1.5%、改変されたキトサンに対するヒアルロン酸の重量比=1:1。測定は、図1で言及の通り行った。
【図3b】このスキームは、ポリアニオンとポリカチオンとの間の液滴形成、又はそれらの溶液の形成を示す。
【図4】二成分多糖類混合物の透過率(λ=600nm)と、個々のポリマーの溶液の透過率(T0)との関係であって、A)(例13)ヒアルロン酸/キトラックを脱イオン水(pH〜5.5)中に有する場合;B)(例14)ヒアルロン酸/キトラックをHepes10mM(pH7.4)中に有する場合;C)(例8)ヒアルロン酸/キトラックをNaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)中に有する場合;D)(例15)ヒアルロン酸/ポリ−L−リジン(PLL)をNaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)中に有する場合;の各条件における関係。ポリマーの全濃度:1.5%、ポリカチオンに対するヒアルロン酸の重量比=1:1。測定は、図1で言及の通り行った。
【図5】ローダミンで標識したアルギン酸塩(例16)(0.75g/L)(−−)、ふたつの状態の寄与の理論的和算(●●●)と比較した、フルオレセインで標識したキトサン(例17)(0.75g/L)(●−●)の発光スペクトル、及びローダミンで標識したアルギン酸塩及びフルオレセインで標識したキトサンの混合物(ポリマーの全濃度0.15g/L、2つの多糖類の質量比=1:1、条件:NaCl0.015M、Hepes1mM(pH7.4))の発光スペクトル(例18)(−)。励起波長450nm。装置の設定:走査速度50nm/分、発光スリット4.5nm、励起スリット4.5nm。Perkin Elmer社のLS50B蛍光分光光度計により、25℃で測定を行った。
【図6】ヒアルロン酸(約8〜9×105Mw)及びキトラックの二成分溶液のコックスメルツ則の適用(例19)。凡例:(■)変形速度(γ’)の関数としての粘度、(△)角速度(ω)の関数としての複素粘度(η*)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック0.5%)。コーンプレート(50mm半径、角度1°)を有するStressTechのレオメーター(Reologica Instruments AB、22363、Lund、スウェーデン)により、25℃において測定を行った。
【図7】(▼)ヒアルロン酸(〜160,000Mw)及びキトラックを含有する溶液の粘度(例4)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック0.5%)。(○)ヒアルロン酸溶液(〜160,000Mw)の濃度1.5%における粘度。(■)キトラック溶液の濃度0.5%における粘度。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。上記の図6と同様に測定を行った。
【図8】(▼)ヒアルロン酸(約8〜9×105Mw)及びキトラックを含有する溶液の粘度(例19)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック0.5%)。(○)ヒアルロン酸溶液(〜8〜9×105Mw)の濃度1.5%における粘度。(■)キトラック溶液の濃度0.5%における粘度。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。上記の図6と同様に測定を行った。
【図9】(▼)アルギン酸塩(〜130,000Mw)及びキトラックを含有する溶液の粘度(例20)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するアルギン酸塩の重量比=3:1(アルギン酸塩1.5%及びキトラック0.5%)。(○)アルギン酸塩溶液(〜130,000Mw)の濃度1.5%における粘度。(■)キトラック溶液の濃度0.5%における粘度。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。上記の図6と同様に測定を行った。
【図10】(▼)ヒアルロン酸(約〜250,000Mw)及びキトラックを含有する溶液の粘度(例21)。ポリマーの全濃度3%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=1:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック1.5%)。(○)ヒアルロン酸溶液(〜250,000Mw)の濃度1.5%における粘度。(■)キトラック溶液の濃度1.5%における粘度。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。上記の図6と同様に測定を行った。
【図11a】ヒアルロン酸溶液(〜8〜9×105Mw)(1.5%)の粘弾性スペクトル(例19)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック0.5%)。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。凡例:(■)=G’、(○)=G’’、(▲)=η*。コーンプレート(50nmビーム、アパーチャ1°)を有するStressTechのレオメーター(Reologica Instruments AB、22363、Lund、スウェーデン)により、25℃において、0.01〜30Hzの周波数で測定を行った。
【図11b】ヒアルロン酸及びキトラックの二成分溶液の粘弾性スペクトル(例19)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック0.5%)。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。凡例:(■)=G’、(○)=G’’、(▲)=η*。コーンプレート(50nmビーム、アパーチャ1°)を有するStressTechのレオメーター(Reologica Instruments AB、22363、Lund、スウェーデン)により、25℃において、0.01〜30Hzの周波数で測定を行った。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性及びポリカチオン性多糖類からなる多糖類の混合物を有し、適当な物理−化学的特徴、特に高粘性及び粘弾性を有する組成物、並びにその生物医学的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類は、その高い生体適合性と独特の物理−化学的特性、特にその水溶液の粘性挙動に関し、かなりの適用可能な興味あるバイオポリマーとして知られており、そのレオロジー的挙動は、その分子量と主として関連することも知られている。これらのバイオポリマーのうち、ヒアルロン酸は、適用の観点から、最も興味ある生体適合性ポリマーであって、生物医学の分野で最も広く使用されている。その理由は、その水溶液が、興味深い粘性及び粘弾性特性を示す独特のレオロジー的挙動を有するためである。この多糖類は、グルクロン酸とN−アセチル−グルコサミンとからなる二糖の繰り返し単位を有することが知られている。この多糖の並びにおいてウロン酸単位が存在することから、ヒアルロン酸は、生理的pH(つまり、7.4)においてネットの負電荷を有し、従って、ポリアニオンである。化粧品分野及び医薬品分野又は薬物送達システムにおいて、その特徴(つまり、粘性及び粘弾性)のため、幅広い用途が見出されている。特に、眼科手術や骨関節病態に幅広い適用例が見出されており、ここで、ヒアルロン酸は、上記の物理−化学的特性の恩恵による滑液の粘性補給源(viscosupplementation)に広範に使用されている。事実、高分子量のヒアルロン酸(2,000kDa以上)の濃厚溶液(1〜2%)は、高い粘性とともに優れた粘弾性特性を有する。斯かる特性により、ヒアルロン酸は、炎症性であっても外傷性であっても、関節病態の処置に特に優れる。その理由は、関節自体の十分な機能性を提供し及び/又は回復し得るためである。骨関節領域におけるヒアルロン酸の適用例に関する好適な処方は、関節内経由で投与される注射可能なヒアルロン酸溶液としてのものである;この様式において、その独特のレオロジー的特性(つまり、粘性及び粘弾性)は、関節に対する「機械的な」機能性を回復する目的のために完全に使用され得る。
【0003】
しかしながら、分解及び低分子量のポリマーの形成及び/又は高い多分散性を阻害すると同時に、少なくとも2,000kDaの高分子量のヒアルロン酸を取得し精製することは、上記の処理に使用するための調製の全体的なコストに重い負荷をかける、複雑で高価な製造工程を必要とする。この問題を克服するため、低分子量、すなわち、安価なヒアルロン酸溶液の粘性の可能性について、かなりの興味が向けられており、低い価値が付加された適用例(例えば、化粧品分野)に通常使用される製造不良に、かなりの経済的利益を有するものとして使用を可能とするものである。このことは、低分子量のヒアルロン酸のレオロジー的挙動を向上/増加することを目的として、ヒアルロン酸誘導体、特に種々の架橋剤で架橋された誘導体に関する進展した研究をもたらしている。
【0004】
また、その他の多糖類は、水の溶液/懸濁液の粘性特性のため、幅広い用途が見出されている。豊富であり比較的低コストであることで医薬品及び食品工業の両方で最も利用されているものとしては、アルギン酸塩及びキトサンが挙げられる。
【0005】
キトサンは、クラスタシィアンの外骨格の主成分であるキチンの化学的脱アセチル化により得られる天然で広く利用可能な多糖類である。キトサンは、主として、N−アセチル−グルコサミン単位で散在されたグルコサミン単位からなり、残りは、キチン処理に由来する。この多糖類は、有機酸又は無機酸を添加することによりpHが5以下となるまで、水に溶解しない。pHを下げると、グルコサミン残基のアミン基がプロトン化し、系に溶解性を与える。その幅広い用途に関連して、キトサンは、適用目的に有用な、その特性、特に粘性及び水に対する溶解性を向上させる目的で、化学的態様を含む最も研究された多糖類のひとつとなってきた。過去数年来、ポリマー鎖の化学的改変により、種々のキトサン誘導体が得られてきた。これらの改変に関し、グルコサミン単位のアミン残基の反応が通常使用される。特に、側鎖として糖類単位(単糖及びオリゴ糖)を付加することにより、ポリマーの分解という次なる問題を伴う酸へとpHを低下させる必要なく、水溶性のキトサン誘導体を得ることが可能となる。
【0006】
特許文献1(Hall,L.D.及びYalpani,M.)は、これらの誘導体の合成について、最初に述べており、非酸性水系環境での溶解性についても、述べている。
【0007】
特許文献2(House,R.F.)においては、水溶液の粘性を増加させるために、溶液又は分散液のいずれかとして、その他のポリマー系と組み合わされてはいないものの、特許文献1で述べられているものと同様の様式で改変されたキトサンが使用されている。
【0008】
特許文献3(Nordquist,R.E.ら)においては、単糖又はオリゴ糖で改変されたキトサンを用いて調製された生体材料が、増感物質と組み合わせたレーザーシステムの使用に基づく免疫療法処置における免疫アジュバントとして使用されている。
【0009】
物理−化学的特性を向上させる目的、すなわち、これらの多糖類、特にヒアルロン酸、ヒアルロン酸及びキトサンを組み合わせて得た組成物の粘性及び/又は粘弾性についても述べられている。
【0010】
特許文献4(Cho,K.ら)においては、向上された物理−化学的特性、特に、向上された粘弾性を有するヒアルロン酸を得る目的で、グリコールに適当なアミン基を導入することで得たアミド基により、本質的にPEG又はPluronicのグリコールポリマーに架橋されたヒアルロン酸の誘導体を調製している。また、特定の例において、第二の多糖類、つまり、低分子量(最大5kDa)のキトサンに架橋されたヒアルロン酸誘導体についても述べている。この架橋反応には、NHS(N−ヒドロキシサクシニミド)の存在下、EDC(N−[3−ジメチルアミノプロピル]−N’−エチルカルボジイミドクロライド)などの縮合剤を使用する。この架橋されたヒアルロン酸誘導体は、高い粘弾性を有し、これらの物理−化学的特徴を有するヒアルロン酸の種々の用途に適しており、関節病態の処置用の粘性補給源への使用が含まれる。上記の特許出願で同定された処理により、2つの多糖類を組み合わせており、対に帯電した2つの多糖類間のイオン型の結合性相互作用ではなく、共有結合により、これらを向上させると同時に、その物理−化学的特性を利用する。
【0011】
注目すべきように、キトサンのポリカチオン性の性質は、他の多糖類との適合性を困難とし、特に、ヒアルロン酸などのポリアニオン性との適合性を困難とする。この点、ヒアルロン酸(ポリアニオン性)の水溶液と、キトサン(ポリカチオン性)の水溶液との組合せは、不溶性の液滴形成(coacervate)の瞬間的な形成を可能とする。このことは、水性環境において、一方の正電荷と他方の負電荷との強力な相互作用が確立するという事実に起因する。2つの多糖類の沈殿/液滴形成は、注入可能な組成物としての種々の処方を妨げる。この塩基性の多糖類と酸性の多糖類との液滴形成の工程は、周知であって、文献に広く述べられている。例えば、特許文献5(Severian,D.ら)キトサン及び側鎖に負の電荷を有する多糖類であるキサンタンの液滴形成について述べており、不溶性のハイドロゲルを得るのに使用される。
【0012】
キトサンをより水溶性とする目的で、特許文献6(Nordquist,R.E.,Carubelli,R.)は、キトサンの単糖及び/又はオリゴ糖で糖化された誘導体を一般的に提供するとともに、この発明の目的に好適な誘導体としてこれらのガラクトース誘導体について述べている。しかしながら、後者のタイプの反応において、ガラクトースは、不可逆的に改変されて、ガラクチトールを与える。これらの誘導体の溶液は、粘性を有する手術(viscosurgery)、特に眼科の粘性を有する手術に必要な特徴を有する。これらの特徴は、250〜350mMの生理的なオスモル濃度と、5.5〜7.5のpHとを有する。また、ヒアルロン酸などの粘性を有する手術に使用可能な他の材料と混合された上記の材料を組み合わせた用途についても提供する。しかしながら、斯かる混合物は、形成されず、言及したアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとの間の相互的な適合性の公知の問題ではない。従って、上記の混合物に必要な条件は、液滴形成又は可能な相分離を生じさせず、混合物が分子的に分散された溶液の条件の不可逆的な喪失、及び上記の組成物のレオロジー的特徴の改変について、言及していない。
【0013】
特許文献7(White,B.J.ら)は、塩基性多糖類と非架橋のアニオン性多糖類の水溶性架橋誘導体を有する組成物からなるハイドロゲルの調製について述べている。特に、このハイドロゲルは、ヒアルロン酸を、架橋されたN−カルボキシメチル、O−カルボキシメチル、O−ヒドロキシメチルキトサン誘導体と、又は部分的にアセチル化されたキトサンと混合することにより得られる。これらのキトサン誘導体は、本願発明者らによると、鎖に種々の正電荷を有さず且つイオン複合体の形成を阻止するpH条件下で溶解化されるので、ヒアルロン酸と水溶液中で混合可能である。この様式において、ポリアニオンとの液滴形成は、ポリマーの一方の電荷を完全に除去又は補完することにより、回避される。従って、これらは、ポリアニオン/中性の多糖類又はポリアニオン又は多両性電解質の溶液である。
【0014】
しかしながら、適当な物理的−化学的特徴を有する組成物を得るために互いに混合された異なる電荷のものであっても低分子量又は比較的低分子量の多糖類を使用する可能性は、高い粘性/粘弾性の多糖類溶液に関して、生物医学分野において大きな適用的興味及び複数の適用例の観点から、未だ追求されるべき目的である。この点、多くの公知の適用例に適当な物理的−化学的特徴を有する多糖類溶液を調製する新規の技術的解決法が、未だ精力的に探索されている。
【特許文献1】米国特許第4,424,346号明細書
【特許文献2】米国特許第6,277,792号明細書
【特許文献3】米国特許第5,747,475号明細書
【特許文献4】国際公開第2004/022603号パンフレット
【特許文献5】米国特許第5,620,706号明細書
【特許文献6】米国特許第6,756,363号明細書
【特許文献7】国際公開第2005/061611号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の第一の目的は、眼科手術などの生物医学領域における粘性及び/又は粘弾性溶液用のその他の公知の適用例を排除することなく、少なくとも炎症性及び外傷性の関節病態の粘性補給の処置の適用例のための適当な粘性/粘弾性を有する多糖類水溶液を調製することである。
【0016】
本発明の第二の目的は、物理的−化学的特徴を向上させつつコストに有意な影響を与える複雑な化学的手法に多糖類を付することなく、市販且つ安価な多糖類、従って、低分子量又は比較的低分子量の多糖類を有する組成物を調製することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を満たすため、本願発明者らは、アニオン性多糖類と物理的に混合した際、適当な条件下で、不溶性の液滴形成を生じることなく、両方の多糖類の水溶液を与える、塩基性多糖類の適当な誘導体を同定した。
【0018】
実行される目的は、アニオン性多糖類及びキトサンのオリゴ糖誘導体で達成される。さらに、同定された条件は、改変されたポリカチオン性多糖類及びポリアニオン性多糖類の溶解性混合物を得るように一般的に適用される。
【0019】
驚くべきことに、ポリアニオン性多糖類及びポリカチオン性多糖類誘導体の物理的な混合物が水性環境において水溶性である組成物を生じさせるとともに、この組成物は、キトサンのオリゴ糖誘導体を添加した後のポリアニオン溶液の粘度のかなりの増加を示す。
【0020】
従って、本発明は、少なくともひとつのアニオン性多糖類及び少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体の混合物の水溶液を有する多糖類組成物を提供し、上記のキトサン誘導体は、少なくとも40%の誘導体化率を有し、上記の水溶液は、少なくとも50mMで175mMを上回らないイオン強度を有し、且つ少なくとも7のpHを有する。
【0021】
また、本発明は、生物医学分野における多糖類混合物の上記の組成物の使用を提供し、骨関節病態の処理用の関節内への粘性補給源への、及び眼科手術への使用を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の多糖類組成物の目的及び利点は、下記の詳細な記載からより良好に理解されるであろう。ここで、本発明の非限定的な例示として、組成物の数次の例及びその物理的−化学的特徴について述べる。
【0023】
高くない平均分子量の多糖類から出発して、複雑な化学的操作を行うことなく、例えばヒアルロン酸などのポリアニオン性多糖類の水性環境における、多糖類の種々の公知の使用、特に排他的ではなく関節の粘性補給源に適した粘性及び/又は粘弾性を有する組成物を得る目的で、本願発明者らは、キトサンのオリゴ糖誘導体を用いることにより可能な解決法を達成し得ることを見出した。
【0024】
この目的は、酸性多糖類及び塩基性多糖類の誘導体の混合物を有する組成物、すなわち、少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物の水溶液を有する多糖類組成物で達成可能であり、このポリカチオン性多糖類誘導体は、少なくとも40%の誘導体化率を有し、上記の水溶液は、少なくとも50mMで175mMを超えないイオン強度と、少なくとも7のpHとを有する。本発明の多糖類混合物の水溶液を得るため、上記のアニオン性多糖類及びキトサンの誘導体は、オリゴ糖誘導体に対するポリアニオンの重量比で10:1(ポリアニオン:キトサン誘導体)〜1:1の範囲内である。本発明の目的のため、多糖類間の好ましい重量比は、特に、3:1〜1:1の範囲であり、一方、溶液のポリマー濃度は、1.5%w/v(g/mL)〜3%w/v(g/mL)である。
【0025】
例えば反応性アミノ化反応によりラクトース単位を挿入することによる、糖類の側鎖を用いたキトサンの誘導体化は、公知であって、特許文献1に述べられている;また、この誘導体は、水に対してこの塩基性多糖類のより高い溶解度を可能とすることも知られている。当業者に公知のキトサンは、1〜4のグリコシド単位を有するオリゴ糖を還元する反応性アミノ化反応により、誘導体化され得る。特に、本発明の目的のため、このオリゴ糖は、2〜4のグリコシド単位を有し、ラクトース、セロビオース、セロトリオース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、チトビオース(chitobiose)、キトトリオース、メリビオースからなる群から好ましく選択される。
【0026】
上記のオリゴ糖誘導体を製造するのに使用し得るキトサンの平均分子量(以下、Mwと称する。)は、1,500kDa以下であってもよく、好ましくは、400kDa〜1,000kDaの範囲である。また、本発明の目的のため、キトサンのアミン基の上記オリゴ糖を用いた置換度は、40〜45%(〜45%)を超える必要がある。好ましくは、キトサンのアミン基のオリゴ糖による置換度は、50〜80%の範囲であってもよく、より好ましくは70%である。
【0027】
キトサンのオリゴ糖誘導体の調製方法は、公知であって、シアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下、酢酸(pH4.5)及びメタノール中にキトサンを有する溶液を、ラクトースなどの還元糖と反応させることを有する。キトサンのアミン基とラクトースのアルデヒド基との間の相互作用により、シッフ塩基として公知の不安定な中間体が形成する。これを、水素化ホウ素の存在下、還元して、安定な第二級アミンを形成する。
【0028】
ポリアニオン性多糖類について、本発明の多糖類混合物の組成物は、カルボキシル化されたアニオン性多糖類(例えば、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ペクチン酸塩、カルボキシメチルセルロース、キサンタン及びその他の微生物由来のカルボキシル化された多糖類)及び硫酸物(カラギーナン、アガロース硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、硫酸化デンプン、ヘパリン、ヘパラン硫酸)を用いて、取得可能である。本発明の組成物に関し、酸性多糖類は、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ペクチン酸塩、カルボン酸塩に関してカルボキシメチルセルロース、カラギーナン、硫酸物に関してアガロース硫酸からなる群から好ましく選択される。ポリアニオンの平均分子量(Mw)は、1,500kDaに達してもよく、好ましくは、100kDa〜1,000kDaであり;より好ましくは約900kDaの平均分子量を有するものが利用される。
【0029】
本発明の目的に関し、キトサン誘導体及びポリアニオンの混合物は、3%w/v(g/mL)以下のポリマーの全濃度を有してもよい。好ましくは、このポリマーの全濃度は、1.5%w/v(g/mL)〜3%w/v(g/mL)の範囲である。
【0030】
一般的に、溶液における上記の2つの異なるポリマーの適合性は、少なくとも50mMのイオン強度を生じ得る支持塩の存在下、pH7.4を可能とし、好ましくは、10:1(ポリアニオン:キトサン誘導体)〜1:1(ポリアニオン:キトサン誘導体)であり、より好ましくは3:1(ポリアニオン:キトサン誘導体)〜1:1(ポリアニオン:キトサン誘導体)である。
【0031】
従って、本発明によると、混合物が水において溶液を形成するように、2つのポリマー溶液を混合するのに適用される条件は、pH7〜8であり、好ましくは生理的pHである7.4の近辺及び適当なイオン強度である。特に、十分なイオン強度[イオン強度=1/2(Σicizi2)であって、ここで、ciは、i番目のイオン種の濃度であり、ziは、その電荷の絶対値である]を得る目的で、本発明の混合物を有する組成物は、ポリマーの全濃度が1.5%〜3%である場合、簡単な支持塩、好ましくはNaClであって、0.05M(イオン強度50mM)〜0.175M(イオン強度=175mM)の濃度を有する。好ましくは、支持塩の濃度は、3%以下のポリマーの全濃度を有する溶液に関して、0.15M(イオン強度=150mM)である。支持塩及び多糖類の溶液と同様に、少量の緩衝液を添加してもよい。好ましくは、Hepes((N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−エタンスルホン酸)ナトリウム塩)を10mMの濃度で系に添加して、一定の値のpH、好ましくは7〜8、より好ましくは7.4に系を保持する。
【0032】
また、この組成物の生物医学用途のため、本発明の多糖類混合物の水溶液に関して、非イオン性溶質を可能にさらに添加することにより、250〜350mMのオスモル濃度を確保すべきである。使用可能な好ましい非イオン性溶質は、マンニトールである。
【0033】
いくつかのキトサンのオリゴ糖誘導体の合成、及び本発明の多糖類の混合物を有する組成物を調製する例について、非限定的に示すことにより、以下に述べる。
【0034】
例1
キトサンのラクトース誘導体(いわゆる、キトラック(chitlac))の合成
キトサン(1.5g、アセチル化度11%)を、メタノール(55mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(55mL)を有する溶液110mLに溶解する。ラクトース(2.2g)及びシアン水素化ホウ素ナトリウム(900mg)を含有するメタノール(30mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(30mL)を有する溶液60mLを添加する。この混合物を、24時間、攪拌下で載置し、透析チューブ(カットオフ:12000Da)に導入し、伝導度が4℃において4μSとなるまで、0.1MのNaCl(2倍量(change))及び脱イオン水に対して透析する。最終的に、溶液を、ミリポア社製0.45μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥する。
【0035】
例2
キトサンのセロビオース誘導体(以下、いわゆるキトセル(chitcell)と称する。)の合成
キトサン(1.5g、アセチル化度11%)を、メタノール(55mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(55mL)を有する溶液110mLに溶解する。セロビオース(2.2g)及びシアン水素化ホウ素ナトリウム(900mg)を含有するメタノール(30mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(30mL)を有する溶液60mLを添加する。この混合物を、24時間、攪拌下で載置し、透析チューブ(カットオフ:12000Da)に導入し、伝導度が4℃において4μSとなるまで、0.1MのNaCl(2倍量(change))及び脱イオン水に対して透析する。最終的に、溶液を、ミリポア社製0.45μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥する。
【0036】
例3
キトサンのマルトトリオース誘導体(以下、いわゆるキトマル3(chitmal3)と称する。)の合成
キトサン(300mg、アセチル化度11%)を、メタノール(11mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(11mL)を有する溶液22mLに溶解する。マルトトリオース(650mg)及びシアン水素化ホウ素ナトリウム(180mg)を含有するメタノール(6mL)及び1%の酢酸緩衝液(pH4.5)(6mL)を有する溶液12mLを添加する。この混合物を、24時間、攪拌下で載置し、透析チューブ(カットオフ:12000Da)に導入し、伝導度が4℃において4μSとなるまで、0.1MのNaCl(2倍量(change))及び脱イオン水に対して透析する。最終的に、溶液を、ミリポア社製0.45μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥する。
【0037】
下記の多糖類混合物の例は、上記のキトサン誘導体及び種々の平均分子量のポリアニオン性多糖類を用いて得られる。
【0038】
例4
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックロッドスターラー(magnetic rod stirrer)で混合し、1.5%のヒアルロン酸及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0039】
例5
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.1MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.1MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックロッドスターラーで混合し、1.5%のヒアルロン酸及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0040】
例6
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.05MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.05MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、1.5%のヒアルロン酸及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0041】
例7
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.025MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.025MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、1.5%のヒアルロン酸及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する40mLの溶液を得る。なお、液滴形成が観察される。
【0042】
例8
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(300mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0043】
例9
カルボキシメチルセルロース:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するカルボキシメチルセルロース(300mg、Mw〜270,000、d.s.0.9)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のカルボキシメチルセルロース及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0044】
例10
アルギン酸塩:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するアルギン酸塩(300mg、Mw〜130,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のアルギン酸塩及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0045】
例11
アガロース硫酸:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するアガロース硫酸(300mg、低ゲル化点)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製し、上記の溶液として同温度で保持する。この2つの溶液を、熱条件(〜50℃)下、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のアガロース硫酸及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0046】
例12
κ−カラギーナン:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するκ−カラギーナン(300mg、Mw〜270,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のκ−カラギーナン及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、沈殿物のない40mLの溶液を得る。
【0047】
例13
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの1:1w/wの混合物であって、脱イオン中でのポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
脱イオン水中でヒアルロン酸(300mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。脱イオン水中でキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する40mLの溶液を得る。なお、上記の2つの多糖類間で液滴形成/沈殿物の形成が観察される。
【0048】
例14
低いMwのヒアルロン酸:キトラックの1:1w/wの混合物であって、支持塩を有さず、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のpH7.4のもの
10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(300mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する40mLの溶液を得る。なお、上記の2つの多糖類間で液滴形成/沈殿物の形成が観察される。
【0049】
例15
低いMwのヒアルロン酸:ポリ−L−リジン(PLL)の1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度1.5%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(300mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するポリ−L−リジン(PLL)(300mg、Mw〜20,000)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のPLL(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する40mLの溶液を得る。なお、上記の2つの多糖類間で液滴形成/沈殿物の形成が観察される。
【0050】
例16
ローダミンを用いたアルギン酸塩の標識化
毎約1500個のうち、アルギン酸塩の1個のウロン酸基を標識するのに十分な123 ローダミン(123 Rhodamine)の一定量を、10%のエタノール、N−ヒドロキシサクシニミド(NHS)及び1−エチル−2−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDC)([EDC]/[URアルギン酸塩]のモル比=1.5、[NHS]/[EDC]のモル比=1)を含有するモルフォリノエタン硫酸(MES、100mL)の緩衝液中にアルギン酸塩(300mg、Mw〜130,000)を有する溶液に添加する。この溶液を、暗下且つ攪拌下で24時間保持し、4℃における伝導度が4μSとなるまで、0.05MのNaHCO3(3倍量(change))及び脱イオン水に対して透析する。最終的に、溶液を、ミリポア社製0.45μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥する。
【0051】
例17
フルオレセインを用いたキトラックの標識化
毎約2000個のうち、1個のアミン基を改変するのに十分なフルオレセインイソチオシアネートの一定量を、0.5MのNaHCO3(65mL)中にキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)を有する溶液に添加する。この溶液を、暗下且つ攪拌下で24時間保持し、4℃における伝導度が4μSとなるまで、0.05MのNaHCO3(3倍量(change))及び脱イオン水に対して透析する。最終的に、溶液を、ミリポア社製0.45μmのフィルターで濾過し、凍結乾燥する。
【0052】
例18
アルギン酸塩:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度0.15%w/v(g/mL)のもの
0.015MのNaCl、1mMのHepes(pH7.4)を含有する、ローダミンで標識したアルギン酸塩(15mg、Mw〜130,000、例16のもの)の溶液10mLを調製する。0.015MのNaCl、1mMのHepes(pH7.4)を含有するフルオレセインで標識したキトラック(15mg、Mw〜1.5×106、例17のもの)の溶液10mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.075%のローダミンで標識したアルギン酸塩及び0.075%のフルオレセインで標識したキトラック(ポリマーの全濃度0.15%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない20mLの溶液を得る。
【0053】
例19
高いMwのヒアルロン酸:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw約8〜9×105)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、1.5%のヒアルロン酸及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0054】
例20
アルギン酸塩:キトラックの3:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度2%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するアルギン酸塩(600mg、Mw〜130,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(200mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、1.5%のアルギン酸塩及び0.5%のキトラック(ポリマーの全濃度2%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0055】
例21
ヒアルロン酸:キトラックの1:1w/wの混合物であって、ポリマーの全濃度3%w/v(g/mL)のもの
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(600mg、Mw〜240,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(600mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、1.5%のヒアルロン酸及び1.5%のキトラック(ポリマーの全濃度3%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0056】
例22
ヒアルロン酸:キトサン誘導体(キトラック;キトセル;キトマル3(chitmal3))の1:1w/wの混合物
0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するヒアルロン酸(300mg、Mw〜160,000)の溶液20mLを調製する。0.15MのNaCl、10mMのHepes(pH7.4)を含有するキトラック(300mg、Mw〜1.5×106、例1のもの)の溶液20mLを調製する。この2つの溶液を、マグネティックスターラーで混合し、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のキトラック(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0057】
同じ方法を用いて、ヒアルロン酸とキトセル(例2)との混合物、及びヒアルロン酸とキトマル3(例3)との混合物を調製して、0.75%のヒアルロン酸及び0.75%のキトセル又はキトマル3(ポリマーの全濃度1.5%)を含有する、澄明で沈殿物及び/又は液滴形成のない40mLの溶液を得る。
【0058】
単一のアニオン性多糖類及びキトサン誘導体成分と比較した、例4〜22の多糖類混合物の物理−化学的特徴
a)多糖類混合物の溶解性に対するイオン強度の影響
イオン強度の変化によって誘導される本発明の多糖類混合物の溶解性に対する影響を評価するため、上記の例4〜7の通り調製したヒアルロン酸及びキトサン誘導体(キトラック)を含有する混合物の溶液について、λ=600nmにおける透過率(T)を測定した。図1が強調するように、ポリアニオン及び改変されたキトサンの混合物の水溶性は、例えば、2%のポリマーの全濃度の存在下、及び0.05M以上の支持塩濃度で確保される。特に、この図は、二成分ポリマー溶液の透過率(600nmで測定)の、個々の多糖類の透過率に対する比率を与えている。1と同一又はこれに近づく透過率は、二成分ポリマー溶液における液滴形成又は沈殿物が存在しないことを示す。逆に、この混合物における塩が0.05M未満の値に低下すると、透過率の有意な減少を伴う液滴形成が観察される。
【0059】
b)異なるアニオン性多糖類及びキトサン誘導体(キトラック)の1:1w/wの混合物
アニオン性多糖類の種類が変化することにより誘導される、本発明の多糖類−改変されたキトサンを含有する混合物の溶解性に対する影響を評価するため、上記の例8〜12の通り調製した、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、アガロース硫酸及びカラギーナンから選択されたアニオン性多糖類と、キトサン誘導体(キトラック)とを含有する溶液の高いw/w比、すなわち1:1の溶液について、λ=600nmにおける透過率(T)を測定した。図2が示すように、多糖類混合物の溶解性は、2つのポリマーの重量比が1:1でありポリマーの全濃度が1.5%であるときであっても、確保される。カルボキシル化されており又は硫酸化されていても、異なるポリアニオンの系の溶解性を保持することにより、混合は達成され得る。
【0060】
c)ポリアニオン性多糖類及びキトサン誘導体(キトラック;キトセル;キトマル3)の1:1w/wの混合物
上記の通り測定した本発明の多糖類組成物の溶解性は、例22で調製した二成分混合物が同じT/T0値を有するので、キトサン誘導体の種類によって影響されないことが証明されている。この点、図3aは、ポリアニオン及び多糖類で改変されたキトサンを有するポリマー溶液の調製する能力が、後者の化学的性質に影響を与えないことを示している。二糖であるセロビオース(キトセル)又は三糖であるマルトトリオース(キトマル3)に置き換えることにより、ラクトース(キトセル)に対して、液滴形成の有意な形成はない。
【0061】
適当な条件下で溶液を得るようにポリアニオンをキトサンのオリゴ糖誘導体と混合する実現可能性は、3つの因子に本質的に起因する。第一は、カチオン性多糖類を導入されるオリゴ糖の側鎖により生じる立体障害である。これらは、アニオン性多糖類の接近を妨害し、鎖の長い束を通じた2つのポリマー系のカップリングを阻害する。この効果を、図3bに示す。
【0062】
また、生理的pH、好ましくはpH7.4を使用することで、カチオン性多糖類であるキトラックの電荷が減少し、多糖類の側鎖のおかげで良好な水溶性を保持する。最終的に、支持塩、好ましくは塩化ナトリウムの存在により、2つのポリマーの電荷が防御され、液滴形成/沈殿を回避するように2つのポリマー間の静電的相互作用を制限する。これらの3つの因子を組み合わせることにより、ポリアニオン/オリゴ糖で改変されたキトサンの溶液が得られる。この点、図4から推測されるように、脱イオン水中(pH〜5.5)でのヒアルロン酸及びキトラックのポリマー混合物の形成は、上記の立体的因子が存在するにもかかわらず、実現可能ではない。支持塩の存在なく、生理的pH(7.4)を使用することで、取得されるべき真の溶液は得られない。最終的に、キトラックとは異なるポリカチオン、例えば、支持塩の存在下、生理的pHで溶解性を有するポリ−L−リジン(PLL)を使用することは、ポリアニオンが存在しても、取得されるべき溶液を得ることはできない(図4)。
【0063】
しかしながら、液滴形成が存在しないことは、ポリカチオン、例えば、キトラック上の正電荷と、ポリアニオン、例えば、ヒアルロン酸又はアルギン酸塩上の負電荷との相互作用がないことを意味するものではない。逆に、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)実験では、これらの本質的に静電的(クーロン)な相互作用が存在することを示している(図5)。この実験において、ポリアニオン(アルギン酸塩)は、ローダミンで標識され、ポリカチオン(キトラック)は、フルオレセインで標識された。これらの2つの多糖類上の対となる荷電間の相互作用がなく混合が行われたと仮定すれば、混合物の蛍光発光スペクトルは、別々に記録された2つのスペクトルの強度の合計に対応する。逆に、アニオン性及びカチオン性の多糖類の二成分溶液のスペクトルが、別々に取得した2つのポリマーのスペクトルの合計よりも低く見出されるとすれば、このことは、2つのポリマー間で非常に強く短い範囲(5nmのオーダーの長さ)の相互作用が確立していることを示す(蛍光クエンチング)。典型的には、イオン的相互作用は、この距離の範囲内である。図5は、アルギン酸塩及びキトラックの二成分溶液の発光スペクトルが、別々に試験した2つのポリマーの発光スペクトル強度の合計よりも低い強度を有することを示しており、このことは、キトラックの正電荷と、アルギン酸塩の負電荷との間にイオン的相互作用が存在していることを示す。この意味において、本発明の組成物は、溶解性混合物を形成するようにイオン的相互作用を行うため、鎖上に対となる電荷を有することを特徴とするアニオン性及びカチオン性の多糖類の溶液を調製することが可能である。ポリアニオン/中性の多糖類溶液について述べる特許文献7とは異なり、本発明は、溶液でも安定である複合体を形成するように相互作用するポリアニオン及びポリカチオンの両方を含有する溶液に関する。
【0064】
この点、図6は、「大規模」の組織化を起こすことなく、溶液中の複合体間の同一性(equality)及び絶対粘度を予測するいわゆるコックスメルツ則が、例19のヒアルロン酸及びキトラックを含有する二成分溶液に適用され得ることを示す。反対に、ゲル又はマイクロゲルの存在は、レオメーターで測定した複合的及び絶対的な2つの粘度の同一性の欠如により示される上記の法則から偏差を生じる。
【0065】
ポリアニオン及びオリゴ糖で改変されたキトサンの間の溶解性の複合体の形成は、1,500kDa以下で可変な平均分子量を有するカルボキシル化又は硫酸化された多糖類で生じ得る。
【0066】
また、オリゴ糖で改変されたキトサン上の正電荷とアニオン性多糖類(例えば、ヒアルロン酸又はアルギン酸塩)上の負電荷との間の相互作用の存在により、別々に取得した多糖類のポリマー溶液と比較して、アニオン性及びカチオン性の混合物のポリマー溶液の粘度が予期せず増加する。特に、ポリアニオン及びオリゴ糖で改変されたキトサンのポリマーの混合物の水溶液の粘度は、混合物の個々の成分であるポリマーの水溶液の粘度の合計よりも大きいことがわかる。図7、8、9及び10は、ポリアニオン及び改変されたキトサンが異なるw/w比である異なるポリマーで得たこの相乗効果を明確に示している。
【0067】
また、組成物は、図11から推測されるように、粘弾性特性において疑うべきもない向上性を示す。事実、図11bに示した例19のヒアルロン酸及びキトラックの二成分溶液の粘弾性スペクトルが示すように、第二の多糖類が、ヒアルロン酸の粘弾性により有意に阻害されないばかりでなく、むしろ、ヒアルロン酸単独の溶液と比較して(図11a)、G’及びG’’が互いに交叉する箇所における周波数の値が低下しており、すなわち、この系が粘度よりも高い弾性を示す特性を示し始める周波数が低下する。この効果は、多糖類の公知の適用において高度に望ましいものであり、特に、骨関節炎、変形性関節症、半月板断裂、靱帯断裂などの炎症性及び/又は外傷性を基礎とした骨関節病態の処置における粘性補給源において、高度に望ましいものである。本発明の目的のため、本発明の組成物は、ヒト又は非ヒト哺乳類への投与用に許容な製品の調製のための適当な賦形剤又は希釈剤と単独又は組み合わせて、用いられてもよい。上記の骨関節病態を処置するため、この製品は、公知の関節内経路で投与されてもよい。また、同様の理由のため、上記の組成物は、眼科手術に使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】ヒアルロン酸と、ラクトースで改変されたキトサン(以下、キトラック(Chitolac)と称する。)とを含有する溶液の透過率(λ=600nm)と、個々のポリマーの溶液の透過率(T0)との関係であって、A)(例4)NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4);B)(例5)NaCl0.1M、Hepes10mM(pH7.4);C)(例6)NaCl0.05M、Hepes10mM(pH7.4);D)(例7)NaCl0.025M、Hepes10mM(pH7.4);の各条件における関係。ポリマーの全濃度:2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1。全ての溶液において、オスモル濃度は、非イオン性溶質であるマンニトールを添加することにより、300mMに保持した。25℃において、CaryE4のUV−可視光分光光度計により、測定を行った。
【図2】二成分の多糖類混合物(キトラック/ポリアニオン)の透過率(λ=600nm)と、A)(例8)ヒアルロン酸;B)(例9)カルボキシメチルセルロース;C)(例10)アルギン酸塩;D)(例11)アガロース硫酸;E)(例12)カラギーナンのバイオポリマーに関する透過率(T0)との関係。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)。ポリマーの全濃度:1.5%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=1:1。D)の場合(例11)、約50℃で混合を行った。測定は、図1で言及の通り行った。
【図3a】二成分の多糖類混合物(例1、2及び3のヒアルロン酸/キトサン誘導体)の透過率(λ=600nm)と、キトラック(反応性アミノ化によりラクトースを用いて改変されたキトサン;例1)、キトセル(Chitcell)(反応性アミノ化によりセロビオースを用いて改変されたキトサン;例2)及びキトマル3(反応性アミノ化によりマルトトリオースを用いて改変されたキトサン;例3)の各誘導体に関する個々のポリマーの透過率(T0)との関係。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)。ポリマーの全濃度:1.5%、改変されたキトサンに対するヒアルロン酸の重量比=1:1。測定は、図1で言及の通り行った。
【図3b】このスキームは、ポリアニオンとポリカチオンとの間の液滴形成、又はそれらの溶液の形成を示す。
【図4】二成分多糖類混合物の透過率(λ=600nm)と、個々のポリマーの溶液の透過率(T0)との関係であって、A)(例13)ヒアルロン酸/キトラックを脱イオン水(pH〜5.5)中に有する場合;B)(例14)ヒアルロン酸/キトラックをHepes10mM(pH7.4)中に有する場合;C)(例8)ヒアルロン酸/キトラックをNaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)中に有する場合;D)(例15)ヒアルロン酸/ポリ−L−リジン(PLL)をNaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)中に有する場合;の各条件における関係。ポリマーの全濃度:1.5%、ポリカチオンに対するヒアルロン酸の重量比=1:1。測定は、図1で言及の通り行った。
【図5】ローダミンで標識したアルギン酸塩(例16)(0.75g/L)(−−)、ふたつの状態の寄与の理論的和算(●●●)と比較した、フルオレセインで標識したキトサン(例17)(0.75g/L)(●−●)の発光スペクトル、及びローダミンで標識したアルギン酸塩及びフルオレセインで標識したキトサンの混合物(ポリマーの全濃度0.15g/L、2つの多糖類の質量比=1:1、条件:NaCl0.015M、Hepes1mM(pH7.4))の発光スペクトル(例18)(−)。励起波長450nm。装置の設定:走査速度50nm/分、発光スリット4.5nm、励起スリット4.5nm。Perkin Elmer社のLS50B蛍光分光光度計により、25℃で測定を行った。
【図6】ヒアルロン酸(約8〜9×105Mw)及びキトラックの二成分溶液のコックスメルツ則の適用(例19)。凡例:(■)変形速度(γ’)の関数としての粘度、(△)角速度(ω)の関数としての複素粘度(η*)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック0.5%)。コーンプレート(50mm半径、角度1°)を有するStressTechのレオメーター(Reologica Instruments AB、22363、Lund、スウェーデン)により、25℃において測定を行った。
【図7】(▼)ヒアルロン酸(〜160,000Mw)及びキトラックを含有する溶液の粘度(例4)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック0.5%)。(○)ヒアルロン酸溶液(〜160,000Mw)の濃度1.5%における粘度。(■)キトラック溶液の濃度0.5%における粘度。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。上記の図6と同様に測定を行った。
【図8】(▼)ヒアルロン酸(約8〜9×105Mw)及びキトラックを含有する溶液の粘度(例19)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック0.5%)。(○)ヒアルロン酸溶液(〜8〜9×105Mw)の濃度1.5%における粘度。(■)キトラック溶液の濃度0.5%における粘度。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。上記の図6と同様に測定を行った。
【図9】(▼)アルギン酸塩(〜130,000Mw)及びキトラックを含有する溶液の粘度(例20)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するアルギン酸塩の重量比=3:1(アルギン酸塩1.5%及びキトラック0.5%)。(○)アルギン酸塩溶液(〜130,000Mw)の濃度1.5%における粘度。(■)キトラック溶液の濃度0.5%における粘度。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。上記の図6と同様に測定を行った。
【図10】(▼)ヒアルロン酸(約〜250,000Mw)及びキトラックを含有する溶液の粘度(例21)。ポリマーの全濃度3%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=1:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック1.5%)。(○)ヒアルロン酸溶液(〜250,000Mw)の濃度1.5%における粘度。(■)キトラック溶液の濃度1.5%における粘度。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。上記の図6と同様に測定を行った。
【図11a】ヒアルロン酸溶液(〜8〜9×105Mw)(1.5%)の粘弾性スペクトル(例19)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック0.5%)。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。凡例:(■)=G’、(○)=G’’、(▲)=η*。コーンプレート(50nmビーム、アパーチャ1°)を有するStressTechのレオメーター(Reologica Instruments AB、22363、Lund、スウェーデン)により、25℃において、0.01〜30Hzの周波数で測定を行った。
【図11b】ヒアルロン酸及びキトラックの二成分溶液の粘弾性スペクトル(例19)。ポリマーの全濃度2%、キトラックに対するヒアルロン酸の重量比=3:1(ヒアルロン酸1.5%及びキトラック0.5%)。条件:NaCl0.15M、Hepes10mM(pH7.4)、25℃。凡例:(■)=G’、(○)=G’’、(▲)=η*。コーンプレート(50nmビーム、アパーチャ1°)を有するStressTechのレオメーター(Reologica Instruments AB、22363、Lund、スウェーデン)により、25℃において、0.01〜30Hzの周波数で測定を行った。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物の水溶液を有する多糖類組成物であって、
前記のキトサン誘導体は、少なくとも40%の誘導体化率を有し、
前記水溶液は、少なくとも50mMであって175mMを超えないイオン強度と、少なくとも7のpHとを有することを特徴とする多糖類組成物。
【請求項2】
前記イオン強度は、150mMであることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項3】
前記イオン強度は、前記水溶液において、0.05M〜0.175Mの範囲の濃度を得るように、NaClを添加することにより、得られることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項4】
前記イオン強度は、前記水溶液において、0.15Mの範囲の濃度を得るように、NaClを添加することにより、得られることを特徴とする請求項2に記載の多糖類組成物。
【請求項5】
前記の少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物において、前記アニオン性多糖類及び前記キトサンのオリゴ糖誘導体は、キトサンのオリゴ糖誘導体に対するアニオン性多糖類の重量比で10:1〜1:1の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項6】
前記の少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物において、前記アニオン性多糖類及び前記キトサンのオリゴ糖誘導体は、キトサンのオリゴ糖誘導体に対するアニオン性多糖類の重量比で3:1〜1:1の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の多糖類組成物。
【請求項7】
前記の少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物の水溶液は、1.5%(w/v)〜3%(w/v)の範囲のポリマーの全濃度を有することを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項8】
前記の少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物の水溶液は、7〜8の範囲のpHを有することを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項9】
前記の少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物の水溶液は、非イオン性溶質をさらに添加することにより得られる、250〜350mMの範囲のオスモル濃度を有することを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項10】
前記非イオン性溶質は、マンニトールであることを特徴とする請求項6に記載の多糖類組成物。
【請求項11】
前記キトサンの置換度は、50%〜80%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項12】
前記キトサンの置換度は、70%であることを特徴とする請求項11に記載の多糖類組成物。
【請求項13】
前記キトサンのオリゴ糖誘導体は、キトサンを、2〜4のグリコシド単位を有するオリゴ糖で誘導体化して得られることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項14】
前記オリゴ糖は、ラクトース、セロビオース、セロトリオース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、チトビオース、チトトリオース、メリビオースからなる群から選択されることを特徴とする請求項13に記載の多糖類組成物。
【請求項15】
前記オリゴ糖は、ラクトースであることを特徴とする請求項14に記載の多糖類組成物。
【請求項16】
前記キトサンは、1,500kDa以下の平均分子量を有することを特徴とする請求項13乃至15のいずれか一項に記載の多糖類組成物。
【請求項17】
前記キトサンは、400kDa〜1,000kDaの平均分子量を有することを特徴とする請求項16に記載の多糖類組成物。
【請求項18】
前記アニオン性多糖類は、カルボキシル化又は硫酸化された多糖類であることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項19】
前記のカルボキシル化された多糖類は、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、キサンタンからなる群から選択されることを特徴とする請求項18に記載の多糖類組成物。
【請求項20】
前記のカルボキシル化された多糖類は、ヒアルロン酸であることを特徴とする請求項19に記載の多糖類組成物。
【請求項21】
前記の硫酸化された多糖類は、カラギーナン、アガロース硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、硫酸化デンプン、ヘパリン、ヘパラン硫酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項18に記載の多糖類組成物。
【請求項22】
前記アニオン性多糖類は、1,500kDa以下の平均分子量を有することを特徴とする請求項18乃至21のいずれか一項に記載の多糖類組成物。
【請求項23】
前記アニオン性多糖類は、100kDa〜1,000kDaの平均分子量を有することを特徴とする請求項22に記載の多糖類組成物。
【請求項24】
前記アニオン性多糖類は、900kDaの平均分子量を有することを特徴とする請求項23に記載の多糖類組成物。
【請求項25】
生物医学分野に適用するための、ヒト又は非ヒト哺乳類への投与用に許容な製品を製造するための、請求項1乃至24のいずれか一項に記載の多糖類組成物の使用。
【請求項26】
前記適用は、炎症性及び/又は外傷性骨関節病態を処置するための粘性補給源であることを特徴とする請求項25に記載の多糖類組成物の使用。
【請求項27】
前記骨関節病態は、骨関節炎、変形性関節症、半月板断裂、靱帯断裂からなる群から選択されることを特徴とする請求項26に記載の多糖類組成物の使用。
【請求項28】
前記投与は、関節内経由によるものであることを特徴とする請求項26又は27に記載の多糖類組成物の使用。
【請求項29】
前記適用は、眼科手術用であることを特徴とする請求項25に記載の多糖類組成物の使用。
【請求項1】
少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物の水溶液を有する多糖類組成物であって、
前記のキトサン誘導体は、少なくとも40%の誘導体化率を有し、
前記水溶液は、少なくとも50mMであって175mMを超えないイオン強度と、少なくとも7のpHとを有することを特徴とする多糖類組成物。
【請求項2】
前記イオン強度は、150mMであることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項3】
前記イオン強度は、前記水溶液において、0.05M〜0.175Mの範囲の濃度を得るように、NaClを添加することにより、得られることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項4】
前記イオン強度は、前記水溶液において、0.15Mの範囲の濃度を得るように、NaClを添加することにより、得られることを特徴とする請求項2に記載の多糖類組成物。
【請求項5】
前記の少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物において、前記アニオン性多糖類及び前記キトサンのオリゴ糖誘導体は、キトサンのオリゴ糖誘導体に対するアニオン性多糖類の重量比で10:1〜1:1の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項6】
前記の少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物において、前記アニオン性多糖類及び前記キトサンのオリゴ糖誘導体は、キトサンのオリゴ糖誘導体に対するアニオン性多糖類の重量比で3:1〜1:1の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の多糖類組成物。
【請求項7】
前記の少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物の水溶液は、1.5%(w/v)〜3%(w/v)の範囲のポリマーの全濃度を有することを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項8】
前記の少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物の水溶液は、7〜8の範囲のpHを有することを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項9】
前記の少なくともひとつのアニオン性多糖類と少なくともひとつのキトサンのオリゴ糖誘導体との混合物の水溶液は、非イオン性溶質をさらに添加することにより得られる、250〜350mMの範囲のオスモル濃度を有することを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項10】
前記非イオン性溶質は、マンニトールであることを特徴とする請求項6に記載の多糖類組成物。
【請求項11】
前記キトサンの置換度は、50%〜80%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項12】
前記キトサンの置換度は、70%であることを特徴とする請求項11に記載の多糖類組成物。
【請求項13】
前記キトサンのオリゴ糖誘導体は、キトサンを、2〜4のグリコシド単位を有するオリゴ糖で誘導体化して得られることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項14】
前記オリゴ糖は、ラクトース、セロビオース、セロトリオース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、チトビオース、チトトリオース、メリビオースからなる群から選択されることを特徴とする請求項13に記載の多糖類組成物。
【請求項15】
前記オリゴ糖は、ラクトースであることを特徴とする請求項14に記載の多糖類組成物。
【請求項16】
前記キトサンは、1,500kDa以下の平均分子量を有することを特徴とする請求項13乃至15のいずれか一項に記載の多糖類組成物。
【請求項17】
前記キトサンは、400kDa〜1,000kDaの平均分子量を有することを特徴とする請求項16に記載の多糖類組成物。
【請求項18】
前記アニオン性多糖類は、カルボキシル化又は硫酸化された多糖類であることを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項19】
前記のカルボキシル化された多糖類は、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、キサンタンからなる群から選択されることを特徴とする請求項18に記載の多糖類組成物。
【請求項20】
前記のカルボキシル化された多糖類は、ヒアルロン酸であることを特徴とする請求項19に記載の多糖類組成物。
【請求項21】
前記の硫酸化された多糖類は、カラギーナン、アガロース硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、硫酸化デンプン、ヘパリン、ヘパラン硫酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項18に記載の多糖類組成物。
【請求項22】
前記アニオン性多糖類は、1,500kDa以下の平均分子量を有することを特徴とする請求項18乃至21のいずれか一項に記載の多糖類組成物。
【請求項23】
前記アニオン性多糖類は、100kDa〜1,000kDaの平均分子量を有することを特徴とする請求項22に記載の多糖類組成物。
【請求項24】
前記アニオン性多糖類は、900kDaの平均分子量を有することを特徴とする請求項23に記載の多糖類組成物。
【請求項25】
生物医学分野に適用するための、ヒト又は非ヒト哺乳類への投与用に許容な製品を製造するための、請求項1乃至24のいずれか一項に記載の多糖類組成物の使用。
【請求項26】
前記適用は、炎症性及び/又は外傷性骨関節病態を処置するための粘性補給源であることを特徴とする請求項25に記載の多糖類組成物の使用。
【請求項27】
前記骨関節病態は、骨関節炎、変形性関節症、半月板断裂、靱帯断裂からなる群から選択されることを特徴とする請求項26に記載の多糖類組成物の使用。
【請求項28】
前記投与は、関節内経由によるものであることを特徴とする請求項26又は27に記載の多糖類組成物の使用。
【請求項29】
前記適用は、眼科手術用であることを特徴とする請求項25に記載の多糖類組成物の使用。
【図8】
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【公表番号】特表2009−537597(P2009−537597A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511491(P2009−511491)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/054860
【国際公開番号】WO2007/135116
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508345830)ユニヴァーシタ デグリ ステュディ デイ トリエステ (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/054860
【国際公開番号】WO2007/135116
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508345830)ユニヴァーシタ デグリ ステュディ デイ トリエステ (4)
【Fターム(参考)】
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