説明

アフィニティークロマトグラフィー用吸着体

【課題】 血液成分を構成するタンパク質群を含む試料からIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質(血清アルブミン等)を一度の簡便な操作で選択的に除去することのできる吸着体を提供する。
【解決手段】 プロテインAまたはプロテインG、およびIgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体が吸着体表面に呈示するように不溶性担体に結合していることを特徴とするアフィニティークロマトグラフィー用吸着体。この吸着体を用いて血液成分を含む溶液を処理することにより、タンパク質混合物中からIgGおよび既知血中高含量タンパク質を同時にかつ選択的に分離、除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、血漿、血清、または血清を含む細胞培養液上清などの血液由来試料に高含量で含まれるIgGおよびIgG以外の既知タンパク質(例えば、血清アルブミン)を一回の処理で同時に吸着し、他の微量タンパク質と分離するためのアフィニティークロマトグラフィー用吸着体、該吸着体を用いるIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質の同時除去方法、ならびに該吸着体を含んで成るIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質の同時除去用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病気に特有の微量物質を見出し、該微量物質を検出することにより病気の診断に役立てようとする試みが種々行われている。また、かかる微量物質(マーカー)を見出すために、或いは微量物質を検出するために、血液、血漿、血清などの血液由来試料が利用される場合が多い。
しかしながら、上記のような血液由来試料には、血清アルブミン、IgG、IgA,アンチトリプシン、トランスフェリン、ハプトグロビンなどのタンパク質が一般に全タンパク質の2%から60%の高含有率で含まれており、これらの総和の含有率は80%から90%に達する。血液由来試料中に微量しか存在しない他のタンパク質を検出・分析する際には、前記のような既知血中高含量タンパク質の存在が障害となる場合が多い。例えば、二次元ゲル電気泳動または質量分析によるタンパク質成分分析において、血清アルブミンやIgGは他のタンパク質の検出を著しく妨害する。そのため、この様な分析に際しては血清アルブミンやIgGを、好ましくはさらにIgA,アンチトリプシン、トランスフェリン、ハプトグロビンなどの既知血中高含量タンパク質を予め除去することが極めて望ましい。また、血液由来試料から微量物質を精製するに際しても、まず該試料から高含量で含まれる既知タンパク質を予め除去することは、続く精製過程を効率よく進めるために好ましい。
【0003】
特定のタンパク質を精製あるいは除去する手段として、アフィニティークロマトグラフィーがよく利用される。アフィニティークロマトグラフィーでは、目的物質に対する抗体や目的物質と親和性のある物質(リガンド)を不溶性担体に固定しておき、目的物質をこのリガンドに特異的に吸着させることで、目的物質を夾雑物から分離する。また、吸着された目的物は、リガンドとの親和性を下げることにより溶出され、これを回収することで、精製を行うことが可能である。
【0004】
プロテインAはブドウ球菌(Staphylococcus)由来のタンパク質であり、様々な動物由来のIgGのFc領域と特異的に結合する性質を持っており、血清、細胞培養上清、腹水等からのIgG精製に広く利用されている。また、プロテインGは連鎖球菌(Streptococcus)由来のタンパク質であり、広い範囲の動物由来のIgGと特異的に結合するため、プロテインAと同様にIgGの分離精製に利用されている。このため、プロテインAまたはプロテインGを不溶性担体に固定化させ、この担体を用いたアフィニティークロマトグラフィーによりIgGを特異的に分離精製する手法が広く知られている。[Kronvall,G.et al;J.immunol.104,p140−147,1970年、Bjourck,L.et al;J.immunol.133,p969−974,1984年]
また、シバクロンブルーは、血清アルブミンを結合する物質として知られており、これをリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィーによって血清アルブミンを精製あるいは除去する方法が知られている[Gianazza,E.et al;Biochem.J.201,p129−136,1982年]。
【0005】
従来の技術によれば、アフィニティークロマトグラフィーの手法を利用して血液、血漿、血清、または血清を含む細胞培養液上清などの血液由来試料からIgGおよび血清アルブミンをはじめとする高含有率既知タンパク質を除去するためには、除去したいタンパク質それぞれに特異的親和性のあるリガンドを準備し、各リガンドを不溶性単体に固定化した吸着体を用いて除去したいタンパク質を一種類ずつ除去しなくてはならない。例えば、血液由来試料から最も含有率が高い既知タンパク質である血清アルブミンとIgGを除去するためには、まず、プロテインAあるいはプロテインGが不溶性担体に固定化された吸着体を用いて、試料中のIgGを除去し、ついでシバクロンブルーが不溶性担体に固定化された吸着体を用いて、試料中のアルブミンを除去することが考えられる。しかしながら、この方法は、吸着操作を少なくとも2回行わなければならず、また時間もかかるため、除去の過程でロスあるいは失活が起こり、目的とする微量タンパク質の検出あるいは回収が効率的に実施できないという難点があった。
【0006】
この難点を克服するために、血清アルブミンとIgGとを同時に除去する方法が提案され、実用化されている。例えば、非特許文献1には、抗血清アルブミン抗体を不溶性担体に固定化させた吸着体と抗IgG抗体を不溶性担体に固定化させた吸着体の2種類の吸着体を用いる方法が開示されており、かかる吸着体を含むキットがアマシャム バイオサイエンス(Amersham Biosciences)社から、“Albumin and IgG Removal Kit”の商品名で発売されている。また、非特許文献2には、シバクロンブルーが不溶性担体に固定化された吸着体とプロテインAが固定化された吸着体の2種類の吸着体を用いる方法が記載されており、かかる吸着体を含むキットがバイオ・ラッドラボラトリーズ(Bio−Rad Laboratories)社から、“Aurum Serum Protein Mini Kit”の商品名で発売されている。さらに、特許文献1には、ビオチン化した抗血清アルブミン抗体−アビジン−マトリックスからなる吸着体とビオチン化したプロテインA−アビジンーマトリックスからなる吸着体の2種の吸着体を用いる方法が記載されている。
【0007】
上記の3つの方法は、血清アルブミンおよびIgGを高除去率で除去できる点で優れた方法であるが、非特許文献1の方法は、吸着体の調製に2種類の抗体(すなわち、抗血清アルブミン抗体と抗IgG抗体)を用意しなければならないといった問題があった。また、非特許文献2の方法に用いられているシバクロンブルーは血清アルブミン以外のタンパク質、例えば血液凝固因子、インターフェロン等とも結合するため、特異性に欠けるという欠点があった。さらに特許文献1の方法は抗体やプロテインAをビオチン化する必要があるだけでなく、不溶性担体を使用していないのでこれらの吸着体をさらにアビジンと結合させ、血清アルブミンおよびIgGを結合させた後遠心分離して上清を分離する必要があるなど、操作が煩雑であるという欠点があった。
【0008】
【特許文献1】米国特許第6410692号明細書
【非特許文献1】ライフ サイエンス ニュース(Life Science News)、2003年秋号(9月発行)、アマシャム バイオサイエンス(Amersham Biosciences)
【非特許文献2】プロテオミックス(Proteomics)、2003、3、1980−1987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、多種類のタンパク質を含む血液由来試料からIgGおよびIgG以外の他の既知血中高含有量タンパク質を簡便な操作で、しかも選択的にかつ同時に除去できるアフィニティークロマトグラフィー用吸着体を提供することである。また、本発明の他の目的は、このアフィニティークロマトグラフィー用吸着体を用いたIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質の同時除去方法を提供することである。更に、本発明の他の目的は、上記アフィニティークロマトグラフィー用吸着体を充填してなるアフィニティークロマトグラフィーカラム、あるいは該吸着体を含んでなるIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質の同時除去用キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、血液由来試料から簡便な操作でIgGおよびIgG以外の既知高含量タンパク質を同時にかつ選択的に除去する方法について種々研究を重ねた結果、プロテインAまたはプロテインGと、IgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体の両者を吸着体の表面に呈示するように固定化した吸着体の創生に成功し、この吸着体を用いたアフィニティークロマトグラフィーを使用することで上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、
(1) プロテインAまたはプロテインGとIgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体とが吸着体表面に呈示するように不溶性担体に結合していることを特徴とするアフィニティークロマトグラフィー用吸着体、
(2) プロテインAまたはプロテインGが不溶性担体に結合しており、かつIgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体が不溶性担体に結合したプロテインAまたはプロテインGの一部に結合していることを特徴とする前記(1)記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体、
(3) プロテインAまたはプロテインG、およびIgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体が不溶性担体に直接結合していることを特徴とする前記(1)記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体、
(4) IgG以外の既知血中高含量タンパク質が血清アルブミン、トランスフェリン、IgA、ハプトグロビン、アンチトリプシン、フィブリノーゲン、ヘモグロビンまたはケラチンである前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体、
(5) IgG以外の既知血中高含量タンパク質が血清アルブミンである前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体、
(6) 不溶性担体が膜状である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体、
(7) 請求項1〜3のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体を血液由来試料と接触させて該試料中のIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質を同時に該吸着体に吸着させることを特徴とするIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質の同時除去方法、
(8) 試料が、血液、血漿、血清、または血清を含む細胞培養液上清である前記(7)記載の同時除去方法、
(9) IgG以外の既知血中高含量タンパク質が血清アルブミン、トランスフェリン、IgA、ハプトグロビン、アンチトリプシン、フィブリノーゲン、ヘモグロビンまたはケラチンである前記(7)記載の同時除去方法、
(10) IgG以外の既知血中高含量タンパク質が血清アルブミンである前記(7)記載の同時除去方法、
(11) 前記(1)〜(6)のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体を充填してなるアフィニティークロマトグラフィーカラム、および
(12) 前記(1)のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体を含んでなるIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質の同時除去用キット、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸着体を使用することによって、血液中に高含量で含まれるIgGおよびIgG以外の既知タンパク質(血清アルブミンなど)を簡便な操作で同時にかつ選択的に除去できる。このことによって、血液成分を構成する微量タンパク質の検出、精製が容易となる。さらに、IgG以外の既知タンパク質が血清アルブミンのみである場合(すなわち、血清アルブミンとIgGとを同時に除去する場合)にも2種類の抗体を使用する必要がないため、吸着体の調製が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体は、プロテインAまたはプロテインG、およびIgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体が吸着体表面に呈示(露出)するように不溶性担体に結合してなるアフィニティークロマトグラフィー用吸着体である。このような吸着体としては、(1)プロテインAまたはプロテインGが不溶性担体に結合しており、かつIgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体が不溶性担体に結合したプロテインAまたはプロテインGの一部に結合しているアフィニティークロマトグラフィー用吸着体、(2)プロテインAまたはプロテインG、およびIgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体が不溶性担体に直接結合してなるアフィニティークロマトグラフィー用吸着体などがあげられる。
【0013】
本発明において“既知血中高含量タンパク質”とは、血中に本来含まれている全タンパク質に対して2質量%以上の含有量である既知の血中タンパク質(IgG、血清アルブミン、トランスフェリン、IgA,ハプトグロビン、アンチトリプシン、フィブリノーゲン等)をいい、人為的な要因から血清などの血液由来試料に混入することがあるケラチンやヘモグロビンも包含される。
【0014】
プロテインAまたはプロテインGに加えて、IgG以外の既知血中高含量タンパク質(例えば、血清アルブミン、トランスフェリン、IgA,ハプトグロビン、アンチトリプシン、フィブリノーゲン等)に対する抗体を使用することで、IgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質を同時に除去する吸着体を作成できる。例えば、以下に説明する様に、プロテインAまたはプロテインGおよび抗血清アルブミン抗体が吸着体表面に呈示(露出)するように不溶性担体に結合してなるアフィニティークロマトグラフィー用吸着体を作成することで、血清アルブミンとIgGとを同時に除去する吸着体を作成できる。以下に、抗体が血清アルブミン抗体である場合の吸着体の製造について説明するが、IgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体が血清アルブミン抗体以外の抗体(トランスフェリン、IgA,ハプトグロビン、アンチトリプシン、フィブリノーゲン等に対する抗体)の場合も、血清アルブミン抗体の場合と同様にして目的の吸着体を作製することができる。また、しばしば人為的な要因から血清等に混入する場合があるケラチンやヘモグロビンを除去する場合にも、これらに対する抗体を用いることで、同様の目的が達成できることは言うまでもない。
【0015】
(血清アルブミン結合リガンド)
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体の構成成分たりうる抗血清アルブミン抗体は、特に制限されないが、試料から除去したい血清アルブミンの由来である動物種と同一種の血清アルブミンに対する抗体であるのが望ましい。例えば、ウシ胎児血清(FBS)を含む培地でヒトの細胞を培養し、この培地に含まれるタンパク質を分析したい場合には、ウシの血清アルブミンおよびIgGを除去することになるので、このときはウシの血清アルブミンに対する抗体を使用することが好ましい。ただし、当該抗体が試料の動物種と親和性のあるものならば、必ずしも同一の動物種のものである必要はない。
【0016】
また、本発明にかかる抗血清アルブミン抗体は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。
【0017】
かかる抗血清アルブミン抗体は、種々の業者から販売されている抗体を用いてよく、また、試料の起源となる動物種に由来する血清アルブミンまたは血清アルブミンの部分ペプチドを抗原として用い、公知の抗体製造方法に従って製造することもできる。
【0018】
具体的には、本発明に係る抗血清アルブミン抗体は、例えば、「蛋白質・酵素の基礎実験法 改訂第2版(堀尾武一編集 南江堂発行 1994年)」または「Method in Enzymology vol.182 published by ACADEMIC PRESS、INC.1990」などに記載の方法に従って作製することができる。
【0019】
(IgG結合リガンド)
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体の構成成分であるプロテインAまたはプロテインGは、ブドウ球菌(Staphylococcus)由来のプロテインAあるいは連鎖球菌(Streptococcus)由来のプロテインGが挙げられる。これらは様々な動物種のIgGのFc領域と結合することが知られており、プロテインAとプロテインGのいずれを選択するかについては、除去したいIgGの由来となる動物種によって適宜選択することができる。ヒト、イヌ、ウサギ、ブタ由来のIgGはプロテインAと高い結合を示すが、ラット、ウマ、ヒツジ、ヤギ等のIgGではプロテインGに対してより結合性が高い。該プロテインAまたはプロテインGは上記した各々の菌を培養し、公知の方法を用いて単離精製することによって得られる。あるいは遺伝子組み換えによるタンパク質の発現方法により得ることができる。遺伝子組み換え技術によりプロテインAあるいはプロテインGを生成する方法は、該技術分野において十分に確立されているので、常法に従ってよい。
【0020】
(不溶性担体の選択およびプロテインAまたはプロテインGの結合)
本発明におけるアフィニティークロマトグラフィーに用いられる不溶性担体としては、プロテインAまたはプロテインGを固定化できる、水に不溶性のものであればいずれも使用してよい。例えば、セルロース、アガロース、デキストラン、ポリアクリルアミド、シリカゲルおよび多孔性ガラスなどが挙げられる。
【0021】
抗体およびプロテインAまたはプロテインGをリガンドとして不溶性担体に固定化させる方法は公知のものを用いてよい。例えば、上記リガンドに存在するアミノ基またはカルボキシル基、チオール基、水酸基等を介してゲルとリガンドを結合させる方法がよく知られている。ブロモシアン、ビスエポキシド、エピクロロヒドリン、N−ヒドロキシスクシイミド等が典型的な架橋剤となる。例としては、アガロースを架橋剤(例えば、ブロモシアン)で処理し、これとリガンドのアミノ基を結合させることができる。
【0022】
不溶性担体とリガンドの間には、スペーサーを介在させることができる。上記架橋剤で処理しスペーサーを付加した状態の不溶性担体が各社から市販されており、それらを用いることでリガンド固定化の操作が簡略化できる。リガンド固定化の手順は使用する架橋剤によって異なる。
【0023】
本発明に用いられる不溶性担体(架橋剤で処理したものを含む)は、各社から市販されており、市販品の例をあげれば、アマシャム バイオサイエンス社製のセファロース2B、セファロース4B、セファロース6B、CNBr−活性化セファロース4B、AH−セファロース、CH−セファロース、エポキシ−活性化セファロース6Bなど、バイオ・ラッドラボラトリーズ社製のBio−Gel A、Cellex、アミノエチル−Bio−Gel、Bio−Gel CM、Affi−Gel15、Affi−Pre10など、和光純薬工業株式会社製のクロマゲルA、クロマゲルP、エンザフィックスP−HZなど、セルバ(SERVA)社製のAE−セルロース、CM−セルロース、PABセルロースなどが挙げられる。
また、本発明に用いられる不溶性担体(架橋剤で処理したものを含む)の形状は、特に限定されず、粒状であっても、膜状であってもよい。
【0024】
各リガンドを不溶性担体に結合させる手順としては、プロテインAまたはプロテインGと抗体とを同時に各種架橋剤処理をした不溶性担体と反応させる方法も可能ではあるが、好ましくは、最初にプロテインAあるいはプロテインGを架橋剤処理した不溶性担体と反応させ、固定化する。その後固定化プロテインAあるいはプロテインGに抗体を作用させて固定化する手順を用いる。このとき、プロテインAまたはプロテインGと抗体のFc領域が特異的に結合するので、該抗体の抗原結合活性の損失を低く抑えることができる。さらに、抗体のプロテインAからの漏出を防ぐためにプロテインAまたはプロテインGと抗体を結合後、両者をジメチルピメリミデート等の二価性架橋試薬で化学的に架橋してもよい。
【0025】
なお、プロテインAを固定化した不溶性担体も市販されており、例えば、アマシャム バイオサイエンス社から、商品名
“rプロテインA Fast Flowゲル”として市販されている。さらに、抗血清アルブミン抗体についても市販された物があり、例として、株式会社 医学生物学研究所から
“抗ヒトアルブミン” の商品名で市販されている。本発明においては、このような市販の不溶性担体に上記方法で市販の抗血清アルブミン抗体を結合させることも可能である。
【0026】
本発明の吸着体の血清アルブミン結合能およびIgG結合能は、吸着体表面に呈示(露出)しているプロテインAまたはプロテインGと抗血清アルブミン抗体との量および比率によっても変化する。したがって、試料中の血清アルブミンとIgGを効率よく除去するためには、試料の種類に応じて前記リガンドの量および比率を適宜選択すればよい。例えば、吸着体の製造原料であるプロテインAを固定化した不溶性担体として、上記市販のrプロテインA Fast Flowゲル(プロテインAの結合量:6mgプロテインA/ml膨潤ゲル)を用いる場合には、膨潤ゲル0.1mlに対し、アフィニティー精製された抗血清アルブミン抗体を2〜4mg用いるのが好ましく、2〜3mgを用いるのがより好ましく、2.4〜2.8mgを用いるのが最も好ましい。抗血清アルブミン抗体を過剰に用いると、不溶性担体に結合しているプロテインAの殆どが抗体と結合して、IgG結合能が失われるので、好ましくない。また、抗血清アルブミン抗体の量が少なすぎると、血清アルブミン結合能が弱くなり、やはり好ましくない。通常、吸着体の表面に呈示しているプロテインAまたはプロテインGと抗血清アルブミン抗体との比率(モル比率)は、1:1から3:4であるのが最も好ましい。
【0027】
かくして得られる本発明の吸着体、すなわちプロテインAまたはプロテインGが不溶性担体に結合しており、かつ抗血清アルブミン抗体が不溶性担体に結合したプロテインAまたはプロテインGの一部に結合してなる吸着体は、これを図式化すると図1−aに示す通りである。
【0028】
一方、プロテインAまたはプロテインG、および抗血清アルブミン抗体が不溶性担体に直接結合してなる吸着体は、先ず抗血清アルブミン抗体を不溶性担体(架橋剤で処理したものを含む)に結合させたのち、プロテインAまたはプロテインGを該不溶性担体に結合させることにより製造できる。あるいは逆の手順でもよい。また、各リガンドを適切な比率で混合した後同時に不溶性担体に結合させることも可能である。この場合の各リガンドの好ましい比率は上記に従う。かくして得られる吸着体を図式化すると、図1−bの通りである。
【0029】
なお、本発明のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体には、プロテインAまたはプロテインGのみが不溶性担体に結合した吸着体(図1−c)、IgG以外の既知血中高含有タンパク質に対する抗体のみが結合した吸着体(図1−d)、あるいはIgG以外の既知血中タンパク質に対する抗体のみが吸着体表面に呈示するように不溶性担体に結合してなる吸着体(図1−e)が混在していても差し支えない。
【0030】
(保存条件)
IgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体およびプロテインA(またはプロテインG)を固定化した吸着体は、適当な静菌剤を添加した緩衝液中で4〜8℃にて保存することが望ましい。緩衝液は使用する試料によっても異なるが、ヒト血清を用いる場合、150mM塩化ナトリウムを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)(以下、PBSと略す)であることが好ましい。静菌剤としては、例えば、アジ化ナトリウムやマーチオレートが挙げられる。保存の一例を挙げれば、0.05%アジ化ナトリウムを含むPBSにて保存することが好ましい。吸着体を試料と反応させる前に、吸着体ゲルを適切な緩衝液で置換して使用してもよいし、そのまま使用してもよい。
【0031】
本発明の他の態様は、上記で得られたアフィニティークロマトグラフィー用吸着体に、試料を接触させて、該試料中に含まれるIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質を同時に除去することからなるIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質の同時除去方法である。
【0032】
(試料の選択および量)
除去するべきIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質は、典型的に他の微量タンパク質および/または生体分子を伴う試料中に存在する。当該試料としては、血液および血液に由来する加工・精製物(血漿、血清を含む)、血清を含む細胞培養液で培養した細胞、その他血液成分を含む溶液などが挙げられる。
【0033】
本発明の方法で一度に除去できるIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質の量は、上記吸着体の作成法、あるいは使用する試料の種類、量、IgGとIgG以外の既知血中高含量タンパク質の含有率などによって異なる。また、使用する試料によっては、希釈が必要となることがある。例えば、正常ヒト血清からIgGおよび血清アルブミンを除去する場合、適当な緩衝液(例えば、PBS)を用いて2〜5倍程度に希釈してから、本発明の方法に供するのが好ましい。この際、上記手順にて作製した吸着体保存液から緩衝液をなるだけ除去したのちに、希釈した試料に添加することが望ましい。また、吸着体保存液中の緩衝液を除去せず、試料を希釈なしでこれに添加してもよい。この場合も試料が正常ヒト血清である場合には試料と緩衝液の比率が1:2〜5であることが好ましい。
【0034】
(カラムの選択)
クロマトグラフィーの手法としてはバッチ法により、上記吸着体に試料液を接触させ、試料に含まれるIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質を吸着させたのちに非吸着成分を含む溶液を遠心分離などの方法で回収する。上記方法により作成した吸着体がゲル状である場合、カラムに充填してから使用するのが好ましい。カラムの材質は、ガラス製、プラスチック製、ステンレス製などが挙げられるが、ガラス製またはプラスチック製が好ましい。カラムの容量について特に制限はないが、使用する吸着体の量に応じて選択することが望ましい。少量の試料を処理する際には、マイクロチューブにセットできるタイプのスピンカラムの使用が好ましい。試料を吸着体と混合後、カラムにて両者を分離する前に10〜30分程度時間をおくことが好ましく、この間この混合体を5分に1回程度振とう混合することがより好ましく、両者の混合後分離までの間振とうを続けることがもっとも好ましい。
【0035】
試料と吸着体の混合物から非吸着成分を含む溶液を分離後、さらに吸着体を適切な緩衝液と接触させたのち分離した溶液も素通り溶液とあわせて利用することが好ましい。ここで用いる緩衝液は試料の希釈に用いた物と同じ組成であることが望ましい。
【0036】
(処理試料の用途)
上記方法で作製した吸着体による血液由来試料のアフィニティークロマトグラフィーで、吸着体と結合せず素通りした試料溶液からは、IgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質の両者が除去されている。使用した吸着体と等容量の緩衝液で吸着体を洗浄することにより、非吸着成分を効率よく回収することができる。このクロマトグラフィー後回収物は、例えばドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)や二次元電気泳動をはじめとする電気泳動に供することができる。血液由来試料の上記吸着体を用いたクロマトグラフィーによって、試料溶液中のタンパク質全体の濃度は減少するが除去したIgGおよびIgG以外の既知血中高含量たんぱく質を除く他のタンパク質の含量はほとんど変化しない。このため、同じ重量のタンパク質を含む試料溶液を電気泳動に供すれば、より微量のタンパク質を検出することが可能となる。また、10%トリクロロ酢酸や5倍容量の冷アセトンで処理サンプルのタンパク質を沈澱させることにより濃縮することも可能である。
【0037】
また、上記試料の上記吸着体によるクロマトグラフィーは、微量タンパク質の精製手段として位置づけることも可能である。例えば、このクロマトグラフィー後回収物をそのまま、あるいは適切な緩衝液で希釈あるいは置換したのちに、イオン交換クロマトグラフィーやゲルろ過クロマトグラフィーに供して、微量タンパク質を精製することができる。
さらに、上記吸着体の利用は血液サンプルを用いる臨床検査にも有用である。IgGおよびIgG以外の任意の既知血中高含量タンパク質を除去することで、微量タンパク質の動向を観察することが容易になる。
【0038】
本発明の更に他の態様は、上記で得られたアフィニティークロマトグラフィー用吸着体を含んでなる、IgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質除去用キットである。該キットは、通常、該吸着体およびカラムの外に、吸着体を平衡化するための緩衝液、試料希釈液などを含んでいてもよい。カラムは、ガラス製、プラスチック製、ステンレス製などが挙げられる。緩衝液としては、適用する試料によっても異なるが、例えばPBSが好適に挙げられる。
【0039】
以下本発明の実施例をあげて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、吸着体の血清アルブミン結合能およびIgG結合能を調節するために、本発明の吸着体は、吸着体表面にプロテインA(またはプロテインG)のみが呈示(露出)している吸着体あるいは吸着体表面に血清アルブミン抗体のみが呈示(露出)している吸着体と混合使用することもできる。
【実施例1】
【0040】
(抗血清アルブミン抗体結合プロテインAゲルの作製法およびヒト血清の処理条件)
[1−1:プロテインAゲルと抗血清アルブミン抗体の比率の検討]
予めPBSにて置換した50μlのrプロテインA Fast Flowゲル(Amersham Biociences社製、以下プロテインAゲルと称する。)に対し、抗血清アルブミン抗体(抗ヒトアルブミンウサギ免疫グロブリンG溶液[株式会社医学生物学研究所]、濃度:29.8mg/ml、力価:4.5mg/ml;以下抗アルブミン抗体溶液という)を30、40、50、60μlずつ適用し、室温にて1時間攪拌反応させた。その後遠心(250×g、3分間)にてゲルと溶液を分離し、上清の一部をSDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)に供した。その結果、50μlのプロテインAゲルに対し、50μl以上の抗アルブミン抗体溶液を適用したものでは、未反応の抗体が多く検出された(図2)。このことから、50μlのプロテインAゲルに対し、適当な抗アルブミン抗体溶液の量は40μlであると判断した。
【0041】
[1−2:架橋試薬の濃度検討]
プロテインAゲルと抗アルブミン抗体溶液を5対4の容量比率で混ぜ、室温にて1時間攪拌反応させた後、0.15、1.5、15、75、150、300、450mMのDMP(ジメチルピメリミデート)溶液(0.2Mトリエタノールアミン、pH8.3)をそれぞれプロテインAゲルと等量加え、室温にて1時間攪拌し架橋反応させた。それぞれのDMP濃度で架橋反応させた抗体結合プロテインAゲルの一部を、電気泳動用試料緩衝液に加え、95℃で5分間加熱した後、その上清をSDS−PAGEに供した。その結果、15mM以下のDMPで架橋させた抗体結合プロテインAゲルスラリーの上清からは未架橋の抗体が多く検出された(図3)。この結果から、15mM以下のDMPでは架橋反応が不完全であり、より完全な架橋反応には75mM以上のDMPが必要であることがわかった。
【0042】
また、各々の濃度のDMPで架橋反応させた抗体結合プロテインAゲルを200μlとり、30倍量の洗浄液(0.1Mグリシン、pH2.8)で洗浄し、更に30倍量のPBSで洗浄した。液を完全に除いた抗体結合プロテインAゲルに50μlのPBSと15μlのヒト血清を加え、室温にて30分静置した(この間5分毎に攪拌した)。その後、ゲルスラリーをマイクロバイオスピンカラムに移し、遠心操作(250×g、3分間)にて非吸着画分を回収した。さらに200μlのPBSをカラムに加えてゲルを洗浄し、遠心操作にて洗液を回収して最初に流出した非吸着画分に加えて混合し、この混合液の一部をSDS−PAGEに供した(図4)。この結果から、150mM以下のDMP濃度で架橋させた抗体結合プロテインAゲルでは血清アルブミンを十分除去できていないことがわかり、このことから、架橋反応に使用するDMP濃度は300mMが適していると判断した。
【0043】
[1−3:未架橋抗体の洗浄条件の検討]
300mMのDMPにて架橋させた抗体結合プロテインAゲルを10倍量の洗浄液で洗浄し、これを10回繰り返した。洗浄回数毎の洗浄液の一部をSDS−PAGEに供し、未架橋抗体の流出状態を確認した(図5)。この結果から、5回以上の洗浄で未架橋の抗体は十分に除去できることがわかり、架橋させた抗体結合プロテインAゲルの50倍量の洗浄液で洗浄すれば、未架橋の抗体は取り除けると判断した。
【0044】
[1−4:ヒト血清試料を用いた処理条件の検討]
蓋付きチューブに、200μlの抗体結合プロテインAゲルと、50μlのPBSを加え、さらに10、15、20μlのヒト血清をそれぞれ加えた。これらのチューブを室温にて30分静置した(この間5分毎に攪拌した)。その後、チューブ内のゲルスラリーをマイクロバイオスピンカラムに移し、遠心操作にて溶液を回収した(回収液1)。さらに200μlのPBSをそれぞれの抗体結合プロテインAゲルに加え、遠心操作にて溶液を回収し(回収液2)、カラム処理サンプル(回収液1+2)とした。それぞれのカラム処理サンプルの一部をSDS−PAGEに供した結果、20μlの血清を適用したものでは、残存する血清アルブミンが多かった(図6)。このことから、200μlの抗体結合プロテインAに適用できるヒト血清量は15μl以下であると判断した。
【0045】
以上の検討の結果、最適な抗血清アルブミン抗体結合プロテインAゲルの作成法を以下のように決定した。
まず、プロテインAゲル200μlに対し抗アルブミン抗体溶液160μlを適用し、室温にて1時間撹拌反応させた。その後、ゲルと等量の300mM DMP溶液をこのゲルに加え、室温にて1時間撹拌反応させた。次に、DMP架橋後のゲルを10倍量の洗浄液で10回洗浄した。さらに10倍量の0.05%アジ化ナトリウムを含むPBSにて3回洗浄した後、ゲルの0.25倍量の0.05%アジ化ナトリウムを含むPBSを加えた。このように作成した抗血清アルブミン結合プロテインAゲルスラリーを250μl取り、蓋付きチューブに移した。これに15μlのヒト血清を添加し、これらのチューブを室温にて30分静置した(この間5分毎に撹拌した)。その後、チューブ内のゲルスラリーをマイクロバイオスピンカラムに移し、遠心操作にて溶液を回収した(回収液1)。さらに200μlのPBSを血清処理後の抗体結合プロテインAゲルに加え、遠心操作にて溶液を回収し(回収液2)、カラム処理後の試料(回収液1+2)とした。
以降の実施例は、上記手順で作製したゲルを用いて試料の処理を行った。
【実施例2】
【0046】
(シバクロンブルーおよびプロテインAを用いた手法との血清アルブミン、IgG除去効率の比較)
[2−1:タンパク定量]
実施例1で決定した手順に従い作製した本発明のゲル(以下、本発明のゲルという)を用い、実施例1で決定した操作手順に従ってヒト血清を処理し、処理前および処理後の試料に含まれる総タンパク質量を定量した。操作はBCA Protein Assay Kit(Pierce社)の説明書に従い、分光光度計(U−best 30;日本分光)にて562nmの吸光度を測定することにより行った。その結果、処理前ヒト血清15μl中の総タンパク質量1087μgに対して、処理後の血清試料(n=4)265μl中には240.8±34.1μgであった。すなわち、本発明のゲルを用いることによって、血清試料中の総タンパク質量は22.2±3.1%に減少(77.8%の除去率)することがわかった。
【0047】
また、従来技術としてシバクロンブルーF3GA固定化アガロースゲルとプロテインA固定化アガロースゲルを混合したアフィニティークロマトグラフィーキットが市販されている(BIO−RAD社「Aurum Serum Protein Mini Kit」非特許文献2)。このキットを用いて、該キットに添付の操作方法に従って正常ヒト血清を処理した(以下、この処理をシバクロンブルー使用キットによる処理という)。
【0048】
さらに上記と同様にこのキットから回収した溶液に含まれる総タンパク質量を定量した。その結果、処理前ヒト血清50μl中の総タンパク質量3622μgに対して、シバクロンブルー使用キットによる処理後の血清サンプル400μl中には942.4μgであった。
すなわち、上記シバクロンブルー使用キットを用いた処理によって、血清試料中の総タンパク質量は26.0%に減少する(除去率は74.0%となる)ことがわかった。これは本発明のゲルを用いた際の除去率よりもやや低い値であった。
【0049】
[2−2:SDS−PAGE]
本発明のゲルとシバクロンブルー使用キットからそれぞれ回収した溶出液および処理前正常ヒト血清のそれぞれを一部取り、SDS−PAGEに供した(図7)。
【0050】
その結果、シバクロンブルー使用キットによる処理(図7ではシバクロンブルーと表示されたレーン)では、本発明のゲルによる処理(図7では、抗血清アルブミン抗体と表示されたレーン)に比べ、血清アルブミン、IgG共に素通り画分への溶出量が多く、除去効率が悪いことがわかった。さらに、シバクロンブルー使用キットによる処理後サンプルでは、分子量116kDaに位置するバンドが消失していることも確認された。
【0051】
[2−3 二次元電気泳動]
さらに、各カラム処理後サンプルを二次元電気泳動に供し、Sypro Ruby(Molecular Probes社)染色を行った。泳動には処理前正常ヒト血清あるいは各カラム処理後回収液、それぞれ5μgのタンパク質量のサンプルを用いた。各サンプルを50mM DTT(Dithiothreitol)を含むlysis buffer(9M UREA、2% Triton X−100、 2% 2−メルカプトエタノール、0.72% pharmalyte(pH3〜10)、20mMフェニルメチルスルホニルフルオライド)にて変性、溶解したのち、サンプルバッファー[8M UREA、0.5% Triton X−100、2% 2−メルカプトエタノール、0.72% pharmalyte(pH 3〜10;アマシャムバイオサイエンス)]で100μlに希釈してから泳動に供した。一次元目はReadyStrip IPG Strips pH3〜10、7cm(BIO−RAD)、二次元目には12.5%SDSポリアクリルアミドゲルを使用した。
【0052】
図8は正常ヒト血清(5μgタンパク質)の二次元電気泳動の写真図面であり、図9は本発明のゲルによる処理後(5μgタンパク質)の二次元電気泳動の写真図面であり、図10はシバクロンブルー使用キットによる処理後(5μgタンパク質)の二次元電気泳動の写真図面である。これらの図面で、血清アルブミンスポット、IgG H鎖の一部スポットを含む部分については細枠四角で囲み、部分拡大画像も載せた。図9中の丸で囲んだ部分はクロマト前ヒト血清試料泳動時には検出できなかったスポット、図10中の太枠四角で囲んだ部分はクロマト前ヒト血清試料泳動時には検出できていたスポットの位置を示す。図に記載している血清アルブミンおよびIgGスポットの位置についてはSWISS−2DPAGEデータベース(URL/http://kr.expasy.org/ch2d/)を参考にした。
【0053】
これらの結果から、本発明のゲルによる処理で、血清アルブミン、IgGのスポットが著しく減少していること、このため泳動タンパク質量を増やすことができ、血清中に存在する血清アルブミン、IgGと近接する位置にあったスポットの検出が容易となっていることが確認できた。また、染色強度が減少したスポットはみられなかった。
一方、シバクロンブルー使用キットによる処理では、本発明のゲルによる処理と比べ血清アルブミンおよびIgGの除去効率が悪いことに加えて、染色強度が減少あるいは消滅したスポットが複数個確認された。
【0054】
SWISS−2DPAGEデータベースからこれらのスポットタンパク質を推定したところ、本発明のゲルにより検出可能あるいは増大したスポットとしてIgD、IgM、Hemopexin、ApoAI、ApoDが挙げられた。その他未同定のスポットも多数検出された。一方、シバクロンブルー使用キットを用いた処理で減少したスポットはプラスミノーゲン、ApoJ、ApoE、α2−Antiplasminであると見られる。さらに、複数個の未同定スポットが減少あるいは消失していた。
【実施例3】
【0055】
(PMF(ペプチドマスフィンガープリンティング)解析)
本発明のゲルを用い、処理後および処理前の血清(タンパク質量1.5μg)を還元アルキル化処理したのちにそれぞれの溶液を0.5μgのトリプシンにて酵素消化(35℃、一晩静置)し、脱塩濃縮処理を行った後、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法飛行時間型質量分析装置(Voyager-DE STR: Applied Biosystems社)にてPMF分析を行った(図11)。
【0056】
その結果、処理前のヒト血清は、血清アルブミンの量が多い為、検出されたペプチドシグナルの上位20個中血清アルブミンのシグナルが17個(85%)を占め、血清アルブミン以外のシグナルが3個(15%)しか検出されないのに対して、本発明のゲルを用いた処理後の血清からは血清アルブミンのシグナルが7個(35%)に減り、血清アルブミン以外のシグナルが13個(65%)に増えた。このように本発明のゲルを用いて血清を処理することにより、PMF分析において血清アルブミンおよびIgG以外のタンパク質が検出され易くなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体を使用することによって、血液中に高含量で含まれるIgGおよびIgG以外の既知タンパク質を簡便な操作で同時にかつ選択的に除去でき、このことによって、血液成分を構成する微量タンパク質を容易に検出、精製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1−(a)および(b)は本発明に係る吸着体の模式図であり、図1−(c)、(d)および(e)は本発明に係る吸着体に混在していてもよい吸着体の模式図である。
【図2】プロテインAと反応させる抗アルブミン抗体溶液の液量を検討した結果であり、反応後上清を、SDS−PAGEし、CBB染色により抗体タンパク質を検出したときの写真図面である。
【図3】プロテインAと抗体との架橋反応におけるDMP濃度を検討した結果であり、反応後のゲルスラリー中に含まれる未架橋の抗体量をSDS−PAGEにて比較したときの写真図面である。
【図4】プロテインAと抗体との架橋反応におけるDMP濃度を検討した結果であり、架橋反応後抗体結合プロテインAゲルによる血清アルブミンおよびIgG除去能力をSDS−PAGEにて比較したときの写真図面である。
【図5】架橋反応後抗体結合プロテインAゲルからの未架橋抗体の洗浄条件を検討した結果であり、架橋反応後の洗浄毎に洗浄液を採取し、各洗浄液中に含まれる未架橋の抗体量をSDS−PAGEにて比較したときの写真図面である。
【図6】200μlの本発明のゲルによる、ヒト血清の処理可能量を検討した結果であり、処理後の回収試料中に残存する血清アルブミンおよびIgGの量をSDS−PAGEにて比較したときの写真図面である。
【図7】従来技術のカラムによる処理結果と本発明のゲルによる処理結果とをSDS−PAGEにて比較したときの写真図面である。
【図8】正常ヒト血清(5μgタンパク質)の二次元電気泳動の写真図面である。
【図9】本発明のゲルによる処理後(5μgタンパク質)の二次元電気泳動の写真図面である。
【図10】シバクロンブルー使用キットによる処理液(5μgタンパク質)の二次元電気泳動の写真図面である。
【図11】ヒト血清を本発明のゲルで処理した溶液(b)と、未処理の溶液(a)とを、還元アルキル化後に酵素消化し、PMF分析した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 不溶性担体
2 プロテインAまたはプロテインG
3 抗血清アルブミン抗体
M アプロサイエンス社分子量マーカー(ブロードレンジ)のレーン
A 架橋反応後の反応液を泳動させたレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインAまたはプロテインGと、IgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体とが吸着体表面に呈示するように不溶性担体に結合していることを特徴とするアフィニティークロマトグラフィー用吸着体。
【請求項2】
プロテインAまたはプロテインGが不溶性担体に結合しており、かつIgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体が不溶性担体に結合したプロテインAまたはプロテインGの一部に結合していることを特徴とする請求項1記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体。
【請求項3】
プロテインAまたはプロテインG、およびIgG以外の既知血中高含量タンパク質に対する抗体が不溶性担体に直接結合していることを特徴とする請求項1記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体。
【請求項4】
IgG以外の既知血中高含量タンパク質が血清アルブミン、トランスフェリン、IgA、ハプトグロビン、アンチトリプシン、フィブリノーゲン、ヘモグロビンまたはケラチンである請求項1〜3のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体。
【請求項5】
IgG以外の既知血中高含量タンパク質が血清アルブミンである請求項1〜3のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体。
【請求項6】
不溶性担体が膜状である請求項1〜5のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体を血液由来試料と接触させて該試料中のIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質を同時に該吸着体に吸着させることを特徴とするIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質の同時除去方法。
【請求項8】
試料が、血液、血漿、血清、または血清を含む細胞培養液上清である請求項7記載の同時除去方法。
【請求項9】
IgG以外の既知血中高含量タンパク質が血清アルブミン、トランスフェリン、IgA、ハプトグロビン、アンチトリプシン、フィブリノーゲン、ヘモグロビンまたはケラチンである請求項7記載の同時除去方法。
【請求項10】
IgG以外の既知血中高含量タンパク質が血清アルブミンである請求項7記載の同時除去方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体を充填してなるアフィニティークロマトグラフィーカラム。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用吸着体を含んでなるIgGおよびIgG以外の既知血中高含量タンパク質の同時除去用キット。


【図1】
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【図11】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−26607(P2006−26607A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213286(P2004−213286)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(501389800)株式会社アプロサイエンス (7)
【Fターム(参考)】