説明

アミド化合物の製造方法

【課題】副生成物の生成を抑制して高収率でアミド化合物を製造できるアミド化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】オキシム化合物をベックマン転位反応させることによりアミド化合物を製造する方法において、酸性塩化物、及びルイス酸のうち少なくとも1以上の第1触媒と、無水トリフルオロアルキルスルホン酸、及び酸化亜鉛のうち少なくとも1以上の第2触媒との存在下でベックマン転位反応させることを特徴とするアミド化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシム化合物のベックマン転位反応によるアミド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的なアミド化合物の製造方法として、オキシム化合物をベックマン転位反応させてアミド化合物に変換させる方法がある。例えば、液相中で濃硫酸や発煙硫酸などの強酸を使用して、シクロヘキサノンオキシムをベックマン転位反応させてε−カプロラクタムを製造する方法が知られている。しかしながら、この方法では、反応生成液からε−カプロラクタムを分離するときの中和工程で、アンモニア水溶液を用いるため、多量の硫酸アンモニウムが副生するという問題がある。
【0003】
その他にも、ベックマン転位反応に用いる触媒に関しては、種々、検討されている。例えば、N,N−ジメチルホルムアミドとクロルスルホン酸から生成するイオン対(ビルスマイヤー錯体)からなる触媒(非特許文献1)、エポキシ化合物と強酸(三フッ化ホウ素・エーテラート等)から生成するアルキル化剤、及びN,N−ジアルキルホルムアミドからなる触媒(非特許文献2)、リン酸若しくは縮合性リン酸化合物からなる触媒(特許文献1)、N,N−ジアルキルホルムアミド等の化合物、五酸化リン、及び含フッ素強酸若しくはその誘導体からなる触媒(特許文献2)、インジウムトリフラート(非特許文献3)、イッテルビウムトリフラート(非特許文献4)等の触媒などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−149665号公報
【特許文献2】特開平5−105654号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.A.Kira,et.al.,Egypt.J.Chem.,vol.16,pp.551−553(1973)
【非特許文献2】Y.Izumi,Chemistry Letters,pp.2171−2174(1990)
【非特許文献3】J.S.Sandhu,et.al.,Indian Journal of Chemistry,pp.154−156(2002)
【非特許文献4】J.S.Yadav,et.al.,Journal of Chemical Research(S),pp.236−238(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特にシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位反応は進行し難く、その解決方法が求められている。そこで、本発明は、副生成物の生成を抑制して高選択率で収率良くアミド化合物を製造できるアミド化合物の製造方法を提供することを目的とする。特に、シクロヘキサノンオキシムから副生成物の生成を抑制して高選択率で収率良くε−カプロラクタムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、酸性塩化物、及びルイス酸のうち少なくとも1以上の第1触媒と、無水トリフルオロアルキルスルホン酸、及び酸化亜鉛のうち少なくとも1以上の第2触媒との存在下でベックマン転位反応させることにより、副生成物の生成を抑制して高選択率で収率良くアミド化合物を製造できることを見出した。すなわち、本発明は、オキシム化合物をベックマン転位反応させることによりアミド化合物を製造する方法において、酸性塩化物、及びルイス酸のうち少なくとも1以上の第1触媒と、無水トリフルオロアルキルスルホン酸、及び酸化亜鉛のうち少なくとも1以上の第2触媒との存在下でベックマン転位反応させることを特徴とするアミド化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、副生成物の生成を抑制して高選択率で収率良くアミド化合物を製造できるアミド化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において用いられるオキシム化合物は、特に制限されず、製造目的とするアミド化合物に応じて適宜選択することができる。オキシム化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)中、R及びRは、それぞれ有機基を示す。また、R及びRは、互いに結合して環を形成した2価の有機基であってもよい。
【0012】
、Rにおける前記有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基、並びに複素環基が挙げられる。
【0013】
アルキル基としては、例えば、炭素原子数1〜20のアルキル基が挙げられ、炭素原子数1〜12のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数2〜8のアルキル基であることがさらに好ましい。アルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、及びペンタデシル基などが挙げられる。
【0014】
アルケニル基としては、例えば、炭素原子数2〜20のアルケニル基が挙げられ、炭素原子数2〜12のアルケニル基であることが好ましく、炭素原子数2〜8のアルケニル基であることがさらに好ましい。アルケニル基として、具体的には、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基、及び1−オクテニル基などが挙げられる。
【0015】
アルキニル基としては、例えば、炭素原子数2〜20のアルキニル基が挙げられ、炭素原子数2〜12のアルキニル基であることが好ましく、炭素原子数2〜8のアルキニル基であることがさらに好ましい。アルキニル基として、具体的には、エチニル基、及び1−プロピニル基などが挙げられる。
【0016】
シクロアルキル基としては、例えば、炭素原子数3〜20のシクロアルキル基が挙げられ、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基であることが好ましい。シクロアルキル基として、具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、及びシクロドデシル基などが挙げられる。
【0017】
シクロアルケニル基としては、例えば、炭素原子数3〜20のシクロアルケニル基が挙げられ、炭素原子数3〜15のシクロアルケニル基であることが好ましい。シクロアルケニル基として、具体的には、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、及びシクロオクテニル基などが挙げられる。
【0018】
アリール基としては、例えば、炭素原子数6〜24のアリール基が挙げられる。アリール基として、具体的には、例えば、フェニル基、及びナフチル基などが挙げられる。
【0019】
アラルキル基としては、例えば、炭素原子数7〜25のアラルキル基が挙げられる。アラルキル基として、具体的には、ベンジル基、2−フェニルエチル基、及び3−フェニルプロピル基などが挙げられる。
【0020】
複素環基としては、例えば、芳香族性の複素環基及び非芳香族性の複素環基が挙げられ、炭素数1〜24の複素環基であることが好ましい。複素環基として、具体的には、2−ピリジル基、2−キノリル基、2−フリル基、2−チエニル基、及び4−ピペリジニル基などが挙げられる。
【0021】
及びRが、互いに結合して環を形成した有機基である場合、2価の有機基としては、例えば、直鎖若しくは分岐アルキレン基が挙げられ、直鎖アルキレン基であることが好ましい。アルキレン基は、式(1)で表されるオキシム化合物の炭素原子を含めて、3〜30員環を形成していることが好ましく、4〜20員環を形成しているのがさらに好ましく、5〜14員環を形成しているのが特に好ましい。2価のアルキレン基として、具体的には、エチレン基、トリメチレン基、及びプロピレン基などが挙げられる。
【0022】
有機基は、ベックマン転位反応を阻害しなければ特に限定されることなく、種々の置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、メルカプト基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、アミノアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、及び複素環基が挙げられる。
【0023】
式(1)中、R及びRが、それぞれ有機基であるオキシム化合物としては、例えば、アセトンオキシム、2−ブタノンオキシム、2−ペンタノンオキシム、3−ペンタノンオキシム、1−シクロヘキシル−1−プロパノンオキシム、アセトフェノンオキシム、p−メトキシアセトフェノンオキシム、o−メトキシアセトフェノンオキシム、p−フルオロアセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、及び4−ヒドロキシアセトフェノンオキシムが挙げられる。式(1)中、R及びRが、互いに結合して環を形成した2価の有機基であるオキシム化合物としては、例えば、シクロプロパノンオキシム、シクロブタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロへプタノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、シクロノナノンオキシム、シクロデカノンオキシム、シクロドデカノンオキシム、シクロトリデカノンオキシム、シクロテトラデカノンオキシム、シクロペンタデカノンオキシム、シクロヘキサデカノンオキシム、シクロオクタデカノンオキシム、及びシクロノナデカノンオキシムが挙げられる。これらのオキシム化合物の中では、シクロドデカノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、p−メトキシアセトフェノンオキシム、o−メトキシアセトフェノンオキシム、p−フルオロアセトフェノンオキシムであることが好ましく、シクロヘキサノンオキシムであることがさらに好ましい。オキシム化合物は、1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0024】
オキシム化合物は、式(1)で表されるオキシム化合物に対応するケトンとヒドロキシルアミンを反応させることによって得ることができる。例えば、シクロドデカノンオキシムは、特公昭51−46109号公報の記載に従って、シクロドデカノンと硫酸ヒドロキシルアミンを反応させることによって得ることができる。
【0025】
また、オキシム化合物は、脂肪族多価カルボン酸無水物若しくは芳香族多価カルボン酸無水物から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物、又はそのN−ヒドロキシイミド化合物のヒドロキシル基に保護基(例えば、アセチル基等のアシル基)を導入することにより得られる化合物の存在下、メチル基又はメチレン基を有する化合物と、亜硝酸エステル又は亜硝酸塩とを反応させることによっても得ることができる。脂肪族多価カルボン酸無水物若しくは芳香族多価カルボン酸無水物としては、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N,N’−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミド、N−ヒドロキシグルタルイミド、N−ヒドロキシ−1,8−ナフタレンジカルボン酸イミド、及びN,N’−ジヒドロキシ−1,3,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドを挙げることができる。
【0026】
本発明において、第1触媒は、酸性塩化物、及びルイス酸のうち少なくとも1以上からなる触媒である。酸性塩化物としては、例えば、塩化チオニル、塩化スルフリル、クロロスルホン酸、ベンゼンスルホニルクロライド、p−トルエンスルホニルクロライド、及び塩化メタンスルホニル等のイオウ塩化物;三塩化リン、五塩化リン、及びオキシ塩化リン等の無機リン塩化物;クロロ炭酸メチル、クロロ炭酸エチル、クロロ炭酸フェニル、及びクロロ炭酸ベンジル等のクロロ炭酸エステル、フルオロ炭酸メチル、及びフルオロ炭酸エチル等のフルオロ炭酸エステル、ブロモ炭酸メチル、及びブロモ炭酸エチル等のブロモ炭酸エステル、並びに、ヨード炭酸メチル、及びヨード炭酸エチル等のヨード炭酸エステル等のハロゲン化炭酸エチル;蟻酸クロライド、アセチルクロライド、ベンゾイルクロライド、ホスゲン、及びオギザリルクロライド等の炭酸若しくはカルボン酸塩化物;並びに、三塩化ホウ素等のホウ酸塩化物が挙げられる。
【0027】
ルイス酸としては、例えば、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化スズ、塩化アルミニウム、及び塩化チタン等の金属ハロゲン化物;三フッ化ホウ素等のハロゲン化ホウ素化合物;並びに、イッテルビウムトリフラート、サマリウムトリフラート、ランタントリフラート、及びイットリウムトリフラート等のトリフラート化合物を挙げることができる。
【0028】
本発明において、第2触媒は、無水トリフルオロアルキルスルホン酸、及び酸化亜鉛のうち少なくとも1以上からなる触媒である。無水トリフルオロアルキルスルホン酸としては、例えば、無水トリフルオロメタンスルホン酸、無水トリフルオロエタンスルホン酸、及び無水トリフルオロプロパンスルホン酸が挙げられる。
【0029】
第1触媒と第2触媒との組み合わせとしては、第1触媒がルイス酸であり、第2触媒が無水トリフルオロアルキルスルホン酸であることが好ましく、第1触媒が塩化亜鉛であり、第2触媒が無水トリフルオロメタンスルホン酸であることがさらに好ましい。
【0030】
第1触媒と第2触媒とのその他の組み合わせとしては、第1触媒が、酸性塩化物及びルイス酸であり、第2触媒が酸化亜鉛であることが好ましく、第1触媒がハロゲン化炭酸エステル及びトリフラート化合物であり、第2触媒が酸化亜鉛であることがさらに好ましい。
【0031】
酸性塩化物の使用量は、オキシム化合物1モルあたり、0.001〜100モルであることが好ましく、0.001〜1.0モルであることがさらに好ましい。
【0032】
ルイス酸の使用量は、オキシム化合物1モルあたり、0.001〜100モルであることが好ましく、0.001〜1.0モルであることがさらに好ましい。
【0033】
無水トリフルオロアルキルスルホン酸の使用量は、オキシム化合物1モルあたり、0.001〜100モルであることが好ましく、0.01〜1.0モルであることがさらに好ましい。
【0034】
酸化亜鉛の使用量は、オキシム化合物1モルあたり、0.001〜100モルであることが好ましく、0.001〜1.0モルであることがさらに好ましい。
【0035】
本発明において、ベックマン転位反応は、無溶媒又は溶媒の存在下で行うことができる。溶媒を使用する場合、溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノール等の脂肪族アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、及びクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、シクロドデカン、及びハイドロクメン等の脂肪族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、及びシクロドデカノン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、及びベンゾニトリル等のニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン等のアミド類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド、スルホン類;蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、及びブタン酸エチル等のエステル類;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、及びトリフルオロ酢酸等のカルボン酸類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサン等のエーテル類;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のリン酸アミド類;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、及びトリフルオロメチルベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、及びニトロエタン等のニトロ化合物;並びに、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、及びトリフルオロエタノール等のフッ素系アルコールを挙げることができる。これらの中では、脂肪族アルコール、ニトリル類であることが好ましく、アセトニトリル、アセトニトリルとt−ブチルアルコールであることがさらに好ましい。溶媒は、単独で用いることもできるし、2種以上の溶媒を混合してもよい。
【0036】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、オキシム化合物の0〜100重量倍であることが好ましく、1〜50重量倍であることがさらに好ましい。
【0037】
ベックマン転位反応条件は、使用するオキシム化合物、触媒、及び溶媒等の種類や量により適宜選択でき、特に制限はない。一般的には、反応温度は、20〜120℃であることが好ましい。反応圧力は、常圧又は加圧条件下で行うことができる。反応は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、空気や酸素雰囲気下で行ってもよい。反応時間は、一般的には、0.01〜24時間であることが好ましく、0.05〜20時間であることがさらに好ましい。反応装置は、通常の撹拌装置を備えた反応器を用いることができる。
【0038】
本発明に係るアミド化合物の製造方法において、式(1)中、R及びRが、それぞれ有機基であるオキシム化合物をベックマン転位させた場合には、アミド結合部分が環状に含まれていないアミド化合物が得られる。例えば、アセトフェノンオキシムからは、アセトアニリドが得られる。R及びRが、互いに結合して環を形成した2価の有機基であるオキシム化合物をベックマン転位させた場合には、ラクタムが得られる。例えば、シクロアルカノンオキシムからは、員環数の1つ多いラクタムが得られる。具体的には、シクロヘキサノンオキシムからは、ε−カプロラクタムが、シクロヘプタノンオキシムからは、7−ヘプタンラクタムが、シクロオクタノンオキシムからは、8−オクタンラクタムが、シクロドデカノンオキシムからは、ラウロラクタムが得られる。
【0039】
ベックマン転位反応終了後、得られたアミド化合物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、又はカラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらの組み合わせにより分離精製してもよい。
【0040】
例えば、シクロドデカノンオキシムのベックマン転位反応後の分離精製としては、得られたラウロラクタム含有物に、水を添加し、有機溶媒で抽出した後、溶媒を留去することにより、ラウロラクタムを得ることができる。さらに、蒸留・結晶化等により分離精製してもよい。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
ネジ付き試験管に、シクロヘキサノンオキシム(56.3mg)、無水トリフルオロメタンスルホン酸(7.1mg)、塩化亜鉛(4.6mg)、及びアセトニトリル(1.0ml)を加え、窒素置換した後、80℃のオイルバスに浸して2時間攪拌して、黒色の液体を得た。得られた反応混合物に、飽和炭酸水素ナトリウム(2ml)を加え、ジクロロメタン(10ml×4)を用いて抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後に溶媒を留去して茶色の固体(47.3mg)を得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、カプロラクタムが21.8%、シクロヘキサノンが7.6%、シクロヘキサノンオキシムが70.6%であった。シクロヘキサノンオキシムの転化率は29.4%、カプロラクタムの選択率は74.1%であった。
【0042】
(実施例2)
ネジ付き試験管に、シクロヘキサノンオキシム(56.1mg)、無水トリフルオロメタンスルホン酸(7.1mg)、塩化亜鉛(5.3mg)、及びアセトニトリル(1.0ml)を加え、窒素置換した後、80℃のオイルバスに浸して2時間攪拌して、黒色の液体を得た。得られた反応混合物に、飽和炭酸水素ナトリウム(2ml)を加え、ジクロロメタン(10ml×4)を用いて抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後に溶媒を留去して茶色の固体(48.3mg)を得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、カプロラクタムが31.3%、シクロヘキサノンが5.9%、シクロヘキサノンオキシムが62.8%であった。シクロヘキサノンオキシムの転化率は37.2%、カプロラクタムの選択率は84.1%であった。
【0043】
(実施例3)
ネジ付き試験管に、シクロヘキサノンオキシム(56.2mg)、無水トリフルオロメタンスルホン酸(6.6mg)、塩化亜鉛(3.9mg)、及びアセトニトリル(1.0ml)を加え、窒素置換した後、80℃のオイルバスに浸して2時間攪拌して、黒色の液体を得た。得られた反応混合物に、飽和炭酸水素ナトリウム(2ml)を加え、ジクロロメタン(10ml×4)を用いて抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後に溶媒を留去して茶色の固体(51.5mg)を得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、カプロラクタムが28.4%、シクロヘキサノンが3.8%、シクロヘキサノンオキシムが67.8%であった。シクロヘキサノンオキシムの転化率は32.2%、カプロラクタムの選択率は88.2%であった。
【0044】
(実施例4)
ネジ付き試験管に、シクロヘキサノンオキシム(56.8mg)、無水トリフルオロメタンスルホン酸(11.3mg)、塩化亜鉛(3.8mg)、及びアセトニトリル(1.0ml)を加え、窒素置換した後、80℃のオイルバスに浸して20時間攪拌して、黒色の液体を得た。得られた反応混合物に、飽和炭酸水素ナトリウム(2ml)を加え、ジクロロメタン(10ml×4)を用いて抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後に溶媒を留去して茶色の固体(52.4mg)を得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、カプロラクタムが43.4%、シクロヘキサノンが16.8%、シクロヘキサノンオキシムが39.8%であった。シクロヘキサノンオキシムの転化率は60.2%、カプロラクタムの選択率は72.1%であった。
【0045】
(実施例5)
ネジ付き試験管に、シクロヘキサノンオキシム(56.0mg)、サマリウムトリフラート(15.3mg)、クロロ炭酸エチル(4.8μl)、酸化亜鉛(3.9mg)、及びアセトニトリル(1ml)を加え、窒素置換した後に80℃のオイルバスに浸して20時間撹拌した。得られた反応混合物をジクロロメタン(10ml)で希釈し、セライトを通じて不溶分を濾別した後に溶媒を留去し、茶色の固体(58.0mg)を得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、カプロラクタムが33.8%、シクロヘキサノンが4.2%、シクロヘキサノンオキシムが61.4%、シクロヘキサノンO−エトキシカルボニルオキシムが0.6%であった。シクロヘキサノンオキシムの転化率は38.6%、カプロラクタムの選択率は87.6%であった。
【0046】
(実施例6)
ネジ付き試験管に、シクロヘキサノンオキシム(56.4mg)、サマリウムトリフラート(14.9mg)、クロロ炭酸エチル(4.8μl)、酸化亜鉛(4.6mg)及びアセトニトリル(1ml)を加え、窒素置換した後に80℃のオイルバスに浸して20時間撹拌した。得られた褐色の反応混合物に、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(2ml)を加えてジクロロメタン(10ml×4)で抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後に溶媒を留去し、茶色の固体(48.2mg)を得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、カプロラクタムが30.9%、シクロヘキサノンが2.7%、シクロヘキサノンオキシムが64.6%、シクロヘキサノンO−エトキシカルボニルオキシムが1.7%であった。シクロヘキサノンオキシムの転化率は35.4%、カプロラクタムの選択率は87.2%であった。
【0047】
(実施例7)
ネジ付き試験管に、シクロヘキサノンオキシム(57.3mg)、サマリウムトリフラート(15.7mg)、クロロ炭酸エチル(4.8μl)、酸化亜鉛(4.4mg)、アセトニトリル(1ml)、及びt−ブチルアルコール(24.0μl)を加え、窒素置換した後に80℃のオイルバスに浸して20時間撹拌した。得られた反応混合物をジクロロメタン(10ml)で希釈し、セライトを通じて不溶分を濾別した後に溶媒を留去し、茶色の固体(42.0mg)を得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、カプロラクタムが36.4%、シクロヘキサノンが4.4%、シクロヘキサノンオキシムが59.1%であった。シクロヘキサノンオキシムの転化率は40.9%、カプロラクタムの選択率は89.0%であった。
【0048】
(実施例8)
ネジ付き試験管に、シクロヘキサノンオキシム(56.5mg)、サマリウムトリフラート(15.6mg)、クロロ炭酸エチル(4.8μl)、酸化亜鉛(3.8mg)、アセトニトリル(1ml)、及びt−ブチルアルコール(96.0μl)を加え、窒素置換した後に80℃のオイルバスに浸して20時間撹拌した。得られた反応混合物をジクロロメタン(10ml)で希釈し、セライトを通じて不溶分を濾別した後に溶媒を留去し、茶色の固体(43.4mg)を得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、カプロラクタムが45.0%、シクロヘキサノンが5.3%、シクロヘキサノンオキシムが49.2%、シクロヘキサノンO−エトキシカルボニルオキシムが0.5%であった。シクロヘキサノンオキシムの転化率は50.8%、カプロラクタムの選択率は88.6%であった。
【0049】
(比較例1)
ネジ付き試験管に、シクロヘキサノンオキシム(56.4mg)、無水トリフルオロメタンスルホン酸(11.3mg)、及びアセトニトリル(1.0ml)を加え、窒素置換した後、80℃のオイルバスに浸し20時間攪拌して、黒色の液体を得た。得られた反応混合物に、飽和炭酸水素ナトリウム(2ml)を加え、ジクロロメタン(10ml×4)を用いて抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後に溶媒を留去して茶色の固体(49.0mg)を得た。H−NMR分析により、その組成比を求めた。その結果、カプロラクタムが4.7%、シクロヘキサノンが13.0%、シクロヘキサノンオキシムが82.3%であった。シクロヘキサノンオキシムの転化率は17.7%、カプロラクタムの選択率は26.6%であった。
【0050】
実施例1乃至8及び比較例1において用いられた触媒、並びにオキシムの転化率及びカプロラクタムの選択率を表1に示す。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシム化合物をベックマン転位反応させることによりアミド化合物を製造する方法において、
酸性塩化物、及びルイス酸のうち少なくとも1以上の第1触媒と、無水トリフルオロアルキルスルホン酸、及び酸化亜鉛のうち少なくとも1以上の第2触媒との存在下でベックマン転位反応させることを特徴とするアミド化合物の製造方法。
【請求項2】
前記第1触媒がルイス酸であり、前記第2触媒が無水トリフルオロアルキルスルホン酸であることを特徴とする請求項1記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ルイス酸が塩化亜鉛であり、前記無水トリフルオロアルキルスルホン酸が無水トリフルオロメタンスルホン酸であることを特徴とする請求項2記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項4】
前記第1触媒が、酸性塩化物及びルイス酸であり、前記第2触媒が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項5】
前記酸性塩化物がハロゲン化炭酸エステルであり、前記ルイス酸がトリフラート化合物であることを特徴とする請求項4記載のアミド化合物の製造方法。





【公開番号】特開2011−178672(P2011−178672A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41788(P2010−41788)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】