説明

アミノチオール化合物を用いた、神経及び腎障害ならびに治療に伴う毒性の治療方法

【課題】治療薬、放射線治療、または糖尿病によって発生する毒性を治療及び逆転可能な治療方法の提供。
【解決手段】S-2-(3-アミノプロピルアミノ)エチル二水素ホスホロチオエート(アミホスチン)及びその他のアミノチオール化合物の使用方法であって、ヒトがガン患者、AIDS患者、糖尿病患者、高血圧患者等で、これらの治療薬(放射線を含む)を服用の結果、治療薬の副作用等による障害を発症した場合にその治療として当該化合物を投与されることによって当障害を治療する方法。特に、化学療法剤の投与に伴う神経毒性及び腎毒性の治療方法として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.技術分野
本発明は、薬物及び/または放射線治療により発生する毒性等の特定の毒性の治療及び逆転を目的とする、また、特定の障害、特に、神経及び腎臓障害の治療を目的とする、アミホスチンとしても知られるS-2-(3-アミノプロピルアミノ)エチル二水素ホスホロチオエート、その塩、水和物、エステル、代謝産物、機能性誘導体、機能性類似体、ならびに関連アミノチオール化合物の新しい使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2.発明の背景
2.1.アミノチオール化合物
S-2-(3-アミノプロピルアミノ)エチル二水素ホスホロチオエート(アミホスチン、エチオホス(ethiofos)、エチオール(Ethyol)(登録商標)、NSC 296961、及びWR-2721としても知られ、以後、「アミホスチン」と呼ぶ)、ならびにその他のアミノチオール化合物が、Piperらの米国特許第3,892,824号に開示されている。これらの化合物は、初め、特に、X線または核放射線の暴露に備えて使用し、軍事的紛争中に起こり得るこのような暴露による有害な影響から保護する目的で、放射線遮断剤(放射線防護剤)として開発された。
【0003】
軍事的放射線防護剤としての有用性以外にも、アミホスチンは、非軍事的放射線防護剤及び化学防護剤、すなわち、癌治療における化学療法及び放射線療法の使用の際に発生する望ましくない悪影響を軽減するために、治療前に投与する防護剤として優れた有用性が明らかにされている。Nygaardら編、1983、放射線防護剤と制癌物質(Radioprotectors and Anticarcinogens)、Academic Press、ニューヨーク、pp.73〜85;Grdinaら、1985、「V79細胞におけるHGPRT遺伝子座の放射線により誘発される突然変異を軽減する放射線防護剤WR-1065」、Carcinogenesis(ロンドン)6:929〜931。さらに、これらの化合物は、化学療法剤、例えば、シスプラチン及びカルボプラチンのようなアルキル化剤の投与前、または投与と同時に投与することによって、これら薬物による悪影響からの防護が可能であると報告されている。Jordanら、1982、「放射線防護剤WR-2721によるシスプラチン腎毒性の調節」、Exp. Mol. Pathol. 36:297;Dozら、1991、「WR化合物を用いた前処置によって、脳腫瘍治療におけるカルボプラチンの治療指数を増加するための実験原理」、Cancer Chemother. Pharmacol. 28:308。同様に、3'-アジド-3'-デオキシチミジミン(AZT)治療の有害な副作用からHIV感染患者(AIDS)を防護する目的で、治療の前に、実験的にアミホスチンを使用したことが報告されている。1990年11月29日に公開された国際公開出願WO 90/14007号。アミホスチンとその誘導体は、投与した治療薬の有益な作用(薬効)に影響することなく、上記のような防護作用を及ぼすことが明らかにされている。これは、化学療法の場合、正常な組織への防護チオール及びその他の代謝産物の選択的な取込みによるものと考えられる。Yuhas、1980、「WR-2721による正常組織の選択的防護の原理としての能動的対受動的吸収動力学」Cancer Res. 40:1519〜1524;Yuhas、1979、「メクロールエタミンの細胞毒性作用からの正常及び悪性腫瘍組織の示差的防護」、Cancer Treat. Rep. 63:971〜976。
【0004】
また、アミホスチン及び関連アミノチオール化合物は、骨髄の増殖を刺激することもわかっている。米国特許出願番号第08/390,713号;1996年8月22日に公開された国際公開出願WO 96/25045号;Listら、「正常及び骨髄異形成骨髄における多能性前駆細胞と巨視的コロニーのアミホスチンにより刺激された形成」、Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 15:449 [1403][要約]を参照のこと。現在、アミホスチンは、骨髄異形成症患者における骨髄刺激因子として、フェーズIIの臨床試験段階にある。Listら、1996、「骨髄異形成症候群(MDS)患者の多系統造血を促進するアミホスチン:フェーズI/IIの臨床試験の結果」、Am. J. Hem. 1(要約);Listら、1996、「骨髄形成異常症候群のin vitro及びin vivo造血を促進するアミホスチン」、Chem. Found Sympos.(要約);Listら、1996、「骨髄異形成症候群(MDS)患者の多系統造血を促進するアミホスチン:フェーズI/IIの臨床試験の結果」、要約、第8回大会、アメリカ血液学協会、フロリダ州オーランド。アミノチオール化合物を用いた前暴露は、化学療法後の骨髄機能をこれまで以上に迅速に回復させることができる。Listら、1996、「化学療法の細胞毒性から原始造血前駆細胞を防護するアミホスチン」、Semin. Oncol. 23 (4) Supp. 8:58〜63。
【0005】
現在、アミホスチンは、進行した卵巣癌または非小細胞肺癌の患者へのシスプラチンの反復投与に伴う累積腎毒性を軽減することが報告されている。Physicians’ Desk Reference, 第51版, 1997, p.485〜486。FDA承認の指示によれば、成人に対し、推奨される開始用量は、15分間の静脈内(i.v.)輸液として1日1回投与される910mg/m2であり、化学療法の30分前に開始する。しかし、臨床試験では、100mgという少量を使用している。
【0006】
米国特許第5,567,686号及び第5,488,042号(両者ともGrdinaによる)は、哺乳動物への照射前にアミノチオール化合物を投与することにより、遺伝子毒性の突然変異誘発からの防護が可能になると主張している。第5,488,042号特許は、照射から約3時間までのアミノチオール投与を記載しているが、両特許は共に、放射線または化学療法が誘発した損傷の治療もしくは逆転よりも、むしろ、突然変異の予防だけに焦点を絞っている。さらに、Grdina特許は、化学療法または放射線が誘発した障害や、神経、腎、血液もしくは粘膜障害などの毒性を治療することを目的とした、ヒトに対するアミノチオール化合物の使用についてはまったく触れていない。
【0007】
Nagyら、1986、「2-[(アミノプロピル)アミノ]エタンチオールによるV79細胞におけるシス−ジアミンジクロロ白金細胞毒性及び突然変異誘発性の防護」、Cancer Research 46:1132〜1135には、シス−ジアミンジクロロ白金(cis-DDP、シスプラチン)による細胞の治療前、治療中、及び治療直後に、アミホスチン(WR-1065としても知られる)の遊離チオール代謝産物を投与することにより、V79-B310Hチャイニーズハムスター細胞を防護することが開示されている。すべての条件下で、細胞死のいくらかの防護が認められたが、Nagyらは、シスプラチンに細胞を暴露する前の30分間に、細胞増殖培地にWR-1065が存在したとき、最大の防護が認められたと報告している。さらにNagyらは、WR-1065がシスプラチンの暴露中に存在しようとその直後に存在しようと、細胞死の防護の程度には、ほとんど差がなかったと述べている。
【0008】
Treskesら、1992、「チオ硫酸塩及びジエチルジチオ炭酸塩の効果と比較した、in vitroでのシスプラチン−DNA付加物の形成ならびに安定性に対するモジュレータWR-2721及びその主な代謝産物の効果」Biochemical Pharmacology 43(5):1013〜1019では、サケ精子のDNAとシスプラチンとの付加物の形成を防止するアミホスチン及びその主代謝産物、WR-1065及びWR-33278の能力を調べている。彼らは、アミホスチン、WR-1065及びWR-33278が、シスプラチンと同時に存在するとき、in vitroでサケ精子の白金化を減少させることをみいだした。また、すでに形成されたシスプラチン−DNA付加物の一部が、上記化合物との後インキュベーション中に分解されることもわかったが、この付加物レベルの減少は、同時インキュベーションで認められたものと比較すると小さかった。Treskesらは、他の研究者によって観察されたアミホスチンのWR-1065代謝産物により誘発されるDNAのコンホメーション変化が、シスプラチン投与後にアミホスチンを使用する論理的根拠を提供するだろうと推測している。
【0009】
しかし、Treskesらは、後の1993年「シスプラチン及びカルボプラチンが誘発する副作用のモジュレータとしてのWR-2721と、他の化学防護剤との比較:分子的アプローチ」、Cancer Chemother. Pharmacol. 33:93〜106に、WR-1065とWR-2721(アミホスチン)はいずれも、シスプラチン暴露から1時間後に細胞とインキュベートした場合には、シスプラチンの細胞静止作用から細胞を防護することはできなかったと報告している。さらに、シスプラチン暴露から30分後に与えたアミホスチンは、マウスを腎毒性からまったく防護しないことが明らかにされた。Treskesらは、WR-1065によるシスプラチン誘発毒性からの多様な非腫瘍組織の選択的防護は、シスプラチン誘発細胞損傷の逆転ではなく、その強力な予防により説明されると結論付けた。Treskesらは、さらに、これらの知見が、損傷の予防が主な防護メカニズムであり、白金誘発損傷の逆転は重要な防護メカニズムではないという仮定と一致することをみいだした。
【0010】
シスプラチン等の薬物によって発生する腎毒性は、患者に重大な影響を及ぼし、正常な腎機能の50%以上の永久喪失を招く恐れがある(Kempら, J. Clin. Oncology, 14:2101〜2112, 1996年7月)。これによって、深刻な障害が生じ、重度の場合には透析が必要となり、死亡を早めることもある。また、この毒性は、別の形態の生命維持化学療法や、薬物自体が腎毒性であったり、あるいは、身体からの排泄のために正常な腎機能を必要とする抗生物質等のその他の投薬法で、安全に治療を受ける患者の能力にも重要な影響をもたらす。
【0011】
神経毒性によって、衣服のボタン掛けのような日常の動作を行う能力が損なわれることから、指、つま先、手足の感覚の喪失もしくは歪み、ならびに、繊細な筋肉運動が喪失するために、患者のクオリティオブライフ(生活の質)を著しく低下させる恐れがある。さらに重症の場合には、患者は、重大な運動機能の喪失を起こし、歩行器や車椅子を必要とすることになる。
【0012】
2.2.シスプラチン及びパクリタキセル誘発毒性
シスプラチンは、今も尚、進行した卵巣癌、精巣癌、膀胱癌、ならびに、頭部、頸部及び肺癌の治療のために選択される薬物である。McGuireら、1996年、「III期及びIV期卵巣癌患者におけるシクロホスファミド及びシスプラチンと、パクリタキセル及びシスプラチンとの比較」、N. Engl. J. Med. 第334号:第1〜6頁。しかし、腎臓等の正常組織に対するシスプラチンの細胞毒性の影響は、長期衰弱作用を招き、これによって、癌に対する治療薬送達を行う能力が制限される恐れがある。急速な水分補給及びマンニトールの投与にも拘わらず、シスプラチン誘発の腎毒性は、いまだに罹患及び死亡の大きな原因である。Finleyら、1985年、「シスプラチン腎毒性:予防的介入の概要」、Drug. Intell. Clin. Pharm. 第19号:第362〜367頁;Kempら、1996年、「シクロホスファミド誘発及びシスプラチン誘発毒性からの防護のためのアミホスチン前処置:進行した卵巣癌患者におけるランダム化対照試験の結果」、J. Clin. Oncol.、第14号:第2101〜2112頁;Stewartら、「患者の特徴とシスプラチン腎毒性の関係、ならびにシスプラチン投与方法」、Cancer Chemother. Pharmacol.、第40号:第293〜308頁。
【0013】
防護剤をシスプラチン治療前または治療中に投与する場合でも、毒性は尚認められる可能性がある。発生する累積シスプラチン腎毒性は、治療を制限し、それ以上のシスプラチンの投与、腎から排出される二次系化学療法薬の有効容量を投与する能力が阻害される恐れがある(Kempら、1996年、J. Clin. Oncol.、第14号:第2101〜2112頁)。さらに、薬物が腎から排出されるため、あるいは、腎機能を悪化させる固有の可能性のために、他の病態の薬物治療も影響を被る恐れがある。腎毒性はまた、癌を治療するのに使用されるカルボプラチン等のその他の白金配位錯体にも付随して発生する。
【0014】
シスプラチンに伴う腎毒性は、累積性である。すなわち、治療過程を繰り返す毎に、損傷が増大する。Daugaardら、1989年、「シスプラチン腎毒性」、Cancer Chemother. Pharmacol.、第21号:第1頁;du Boisら、1994年、「シスプラチン及びカルボプラチン誘発の急性、累積性及び慢性腎毒性」、Proc. Annu. Meet. Am. Assoc. Cancer Res.、第35号:A1475頁。シスプラチンに伴って起こる腎機能の喪失は、一般に、永久的である。Macleodら、1988年、「精巣腫患者の腎機能に対するシスプラチンの影響」、Clin. Radiol.、第39号:第190〜192頁;Aassら、1990年、「悪性生殖細胞腫瘍の各種治療方法に関する腎機能について」、Br. J. Cancer、第62号:第842〜846頁;Meijerら、1983年、「腎機能に対する化学療法とシスプラチンとの併用の影響:長期的効果」、Oncology、第40号:第170〜173頁。この毒性作用の発生危険因子として、年齢、腎照射年数、脱水症、ならびに、アルコール中毒等が挙げられる。Anandら、1993年、「シスプラチン腎毒性についての新たな発見」、Ann. Pharmacother.、第27号:第1519〜1525頁。
【0015】
シスプラチン及びその他の白金配位錯体の投与に伴う腎毒性は、一般に、投与から2週間目に認められ、BUN及び/もしくは血清クレアチニンの上昇、ならびに/またはクレアチニンクリアランスもしくは血清マグネシウムの減少によって発現する。腎毒性は、薬物を繰り返し使用することで、さらに長引くと同時に、重篤になる。腎毒性は、糖尿病や高血圧症のような以前から存在する危険因子を有する患者、ならびに、アミノグリコシド抗生物質、もしくは、アンホテリシン等の抗真菌剤のようなその他の腎細胞毒素を受けている人には、特に強く現れる可能性がある。累積性シスプラチン腎毒性を軽減するのに利用可能な方法は限られており、一般に、投与の用量または頻度を減らすことから成り、いずれも抗腫瘍効能を低下させる恐れがある。Kempら、1996年、J. Clin. Oncol.、第14号:第2101〜2112頁。アミホスチンの前処置もしくは同時投与も一つの選択肢であるが、これらの処置は常に有効であるとは限らない。
【0016】
腎毒性以外にも、白金配位化合物の投与には、多くの毒性が付随する。例えば、シスプラチンの単一回の投与(50mg/m2)で治療した患者の31%までに、耳毒性が認められており、耳鳴や、高周波(4,000〜8,000Hz)での難聴として発現する。場合によっては、通常の会話音に対する聴力が低下する。シスプラチンの最初の投与後に聾になる例は稀である。難聴は、片耳もしくは両耳で起こる場合があり、反復投与によって、さらに頻度及び重篤度が増してゆく。さらに、シスプラチンで処置した患者のうち25〜30%に、骨髄抑制が発生している。循環する血小板及び白血球の最下点が、第18〜23日に発生するが、ほとんどの患者は、第39日までに回復している。投与量が多い(>50mg/m2)場合には、白血球減少症及び血小板減少症が認められる。
【0017】
神経毒性は、通常、末梢神経障害を特徴とし、白金配位錯体の投与にも付随して発生する。感覚の喪失もしくは歪み、または精密な運動機能の喪失として発現する神経障害は、通常、長期治療(4〜7カ月)の後に発生する。しかし、神経学的症状は、1回の投与後に起こることが報告されている。シスプラチン誘発の神経障害の症状及び兆候は、通常、治療中に発生するが、神経障害の症状は、白金配位錯体の最後の投与から3〜8週間後に始まる可能性がある。
【0018】
一般に、シスプラチン誘発の神経障害症の場合には、症状がおさまるか、消えるまで、シスプラチンの投与を中止する。しかし、神経障害は、治療を中止した後も進行する場合がある。事前報告によれば、神経障害は、患者によっては不可逆性である。また、レーミットの兆候、後柱脊髄病、自律神経障害、味覚および触覚の喪失も報告されている。突然襲来し、持続時間が短く、局部的で、痛みを伴う不随意の骨格筋の収縮として定義される筋肉痙攣、あるいは、十分な運動機能の喪失のために、患者が移動のために歩行器または車椅子を必要とすること等が報告されており、これらは、通常、シスプラチンの比較的高い累積投与を受けると同時に、進行した末梢神経障害期の症状を示す患者に認められる。アミホスチンは、シスプラチンに先立って投与すれば、神経障害の発生を軽減する能力があることが証明されている。ペンシルバニア癌センター大学病院で、シスプラチン療法±アミホスチンで治療した患者の予測評価において、アミホスチンで前処置した患者は、シスプラチンによる神経障害の発生率が大幅に減少し、シスプラチンの累積投与量が顕著に高い場合に、神経障害の症候が発生した[Mollman JE、Glover DJ、Hogan WM、Furman RE:シスプラチン神経障害:危険因子、予後、及びWR-2721による防護、Cancer、第61号:第2192〜2195頁、1988年]。アミホスチン前処置が、シスプラチン誘発の神経障害の発生及び重篤度を大幅に減少する能力は、卵巣癌が進行した女性患者におけるシスプラチン及びシクロホスファミド±アミホスチンのランダム化対照試験で確認された[Kemp G.、Rose P.、Lurain J.ら:シクロホスファミド及びシスプラチン誘発毒性からの防護のためのアミホスチン前処置:進行卵巣癌患者におけるランダム化対照試験結果、J. Clin. Oncol.、第14号:第2101〜2112頁、1996年]。
【0019】
第1系(first-line)、または、後に続く化学療法が失敗した後の、転移性卵巣癌の治療用として、パクリタキセルが報告されている。パクリタキセルはまた、転移性疾患のための併用治療の失敗、あるいは、補助薬治療から6カ月以内の再発後の乳癌の治療用に報告されている。パクリタキセルは、次の悪影響をもたらすことが知られている:好中球減少、白血球減少、末梢神経障害、関節痛/筋痛症、その他の神経学的症状。アミホスチンと、投与量を増加してゆくパクリタキセルを用いた臨床試験の結果から、アミホスチンで前処置をすれば、神経障害や関節痛/筋痛症に対する効果を制限するような投与をすることなく、これまでより高い用量及び累積投与量のパクリタキセルの投与が可能であることがわかった[DiPaolo R.ら:悪性腫瘍の進行した患者におけるアミホスチン及び用量増加パクリタキセル、Cancer Therapeutics, Proc. Am. Soc. Clin. Oncology、第16巻(要約第826頁)第235a頁(1997年)]。上記の症状は、薬物を、シスプラチン等の他の神経毒性薬剤と併用したとき、一層悪化する恐れがある。また、パクリタキセルを投与した多くの患者は、低血圧、無症候性徐脈を発症したり、無症候性心室頻拍の発現をみる場合もある。
【発明の開示】
【0020】
従って、特定の療法薬、特に、化学療法薬、放射線療法の適用、あるいは、糖尿病のような病状によって起こる神経毒性及び腎毒性の症状を治療するための、化学薬剤が必要である。
【0021】
3.発明の概要
本発明は、第1に、哺乳動物への一種以上の治療薬の投与に伴う毒性を治療するための方法であって、一つ以上の毒性の発生後に、該哺乳動物に対して、治療に有効な量の一種以上のアミノチオール化合物、または製剤学的に許容可能なその塩を投与することを含む方法に関する。思いがけなく、アミホスチン及びその塩、代謝産物、類似体、ならびに誘導体を用いて、治療薬による治療、癌化学療法及び/または放射線療法(しかし、これらに限定されるわけではない)等の様々な傷害によってヒトに発生する神経及び腎障害を治療または逆転できることがみいだされた。また、本発明は、糖尿病(しかし、これに限定されるわけではない)等の様々な代謝異常症によって発生する神経及び腎障害の治療方法にも関する。さらに、本発明は、未知の病因により誘発された神経及び腎障害の治療方法も含む。
【0022】
従って、一つの実施形態において、本発明は、化学療法薬の投与に伴う毒性を治療する方法であって、該化学療法薬の投与後、あるいは、該化学療法薬によって発生した毒性の最初の徴候の後に、アミホスチン、または、その塩、代謝産物、機能性誘導体、機能性類似体、エステル、ならびにプロドラッグを投与することを特徴とする方法に関する。さらに、本発明は、治療処置の後に発生する毒性の臨床発現後に、アミホスチン、または、その塩、代謝産物、機能性誘導体、機能性類似体、エステル、ならびにプロドラッグを投与することによって、治療薬の投与に伴う毒性を治療する方法に関する。さらに別の実施形態では、本発明は、哺乳動物の放射線への暴露に伴う毒性を治療するための方法であって、治療に有効な量の一種以上のアミノチオール化合物、または製剤学的に許容可能なその塩を、毒性の発生後に、該哺乳動物に投与することを含む方法に関する。
【0023】
特に、本発明は、化学療法薬の投与に伴う神経毒性及び腎毒性を治療する方法であって、化学療法薬の投与後に、治療に有効な量のアミホスチン、または、その塩、代謝産物、機能性誘導体、機能性類似体、エステル、ならびにプロドラッグを投与することを含む方法を提供する。好ましい実施形態では、化学療法薬の投与から1日以上の後、好ましくは、上記障害が出現し、確立された後に、本発明の化合物を投与する。
【0024】
本発明の方法によって治療可能な毒性としては、シスプラチン、カルボプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ナベルビン、ゲムシタビン、トポテカン、イリノテカン、ドキソルビシン、ならびに、本明細書に記載したその他の薬物の投与に伴うものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。その他の障害、毒性、ならびに毒性誘発薬物は、本明細書に記載されている。
【0025】
さらに別の実施形態では、本発明は、神経障害及び腎障害を治療する方法であって、神経及び腎障害が発生した後に、治療に有効な量の一種以上のアミノチオール化合物、または、製剤学的に許容可能なその塩を、治療が必要な患者に投与することを含む方法に関する。この障害は、化学的に誘発されたもの、または、薬物、加齢、放射線暴露、もしくは糖尿病(限定しないが)等の多様な代謝異常症のいずれによって誘発されたものでもよい。さらに、上記障害は、放射線療法の適用、もしくは、一種以上の治療薬の投与に伴う神経毒性または腎毒性であってもよい。また、本発明の方法は、未知の病因によって誘発された障害の治療にも適している。本発明の方法によって治療が可能な神経障害としては、末梢神経障害、自律神経障害、中枢神経障害、筋薄弱、関節痛または筋痛症が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。さらにまた、本発明は、I型またはII型糖尿病に伴う臨床症候及び障害を治療する方法であって、治療に有効な量の一種以上のアミノチオール化合物、もしくは、その塩、水和物または代謝産物を、糖尿病患者に投与することを特徴とする方法に関する。
【0026】
4.図面の簡単な説明
図面の説明については下記参照。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
5.本発明の詳細な説明
現在、充実性腫瘍や白血病等の様々な癌に使用できる多数の化学療法薬がある。残念なことに、これらの化学療法薬は、有害もしくは望ましくない副作用を起こすことが多いため、臨床医が薬物を使用する可能性を制限している。最も重要なのは、化学療法薬が、組織の損傷、器官の損傷等を引き起こすことがあり、患者にとっては苦痛なだけではなく、患者の耐容性や条件によっては、不可逆性、あるいは致死的となる可能性もある。
【0028】
本発明者らは、まったく思いがけず、アミホスチン、ならびに本明細書に記載した関連アミノチオール化合物の投与が、各種化学療法薬、特に、シスプラチンやパクリタキセル等の白金配位錯体の投与に伴う毒性を逆転する、あるいは治療するのに有用であることをみいだした。より具体的には、一般にシスプラチンまたはパクリタキセルの投与に付随して発生する神経または腎毒性を臨床的に確認した直後に、アミホスチン、もしくは関連化合物を使用して、患者を治療することにより、全体的処置/治療を改善することができる。
【0029】
上記発見に一部基づき、本発明は、治療に有効な量のアミホスチン、もしくは、製剤学的に許容可能なその塩、エステル、類似体、代謝産物、誘導体またはプロドラッグを投与することを含む、ヒトにおける神経及び腎障害の治療方法を包含する。本発明に従い治療が可能な神経及び腎障害は、癌化学療法、放射線療法、AIDS、化学療法、抗真菌治療、抗菌治療、ならびにI.V.造影剤等(しかし、これらに限定されるわけではない)を含む様々な傷害から発生するものであってよい。また、これらのアミノチオール化合物を用いて、加齢や、糖尿病(限定しないが)等の代謝異常症により誘発される神経及び腎障害を治療することもできる。さらに、本発明の方法は、未知の病因により発生した神経及び腎障害の治療にも適している。本発明の方法は、癌の罹患に拘わらず、また、化学療法を受けている、あるいは受けたことのある癌患者の治療に有効である。尚、本発明が、化学療法薬と、本明細書に記載したアミホスチン等の一種以上のアミノチオールレスキュー剤(rescue agent)とを併用して、様々な癌を治療する方法も含むことに留意されたい。実際、これらレスキュー剤の使用によって、毒性のために、使用の中止または延期を余儀なくされた化学療法薬の連続的な使用が可能になる。
【0030】
別の実施形態では、本発明は、治療薬の投与に伴う毒性を治療する方法であって、該治療薬の投与後に、アミホスチン、もしくは、その関連化合物を投与することを特徴とする方法を提供する。治療薬の投与に伴う毒性が発生した後に、アミホスチン、ならびに、本明細書に記載した化合物を投与すると、これら毒性の徴候及び症候を改善すると共に、逆転することができる。従って、本発明は、治療の処置後に、アミホスチン、もしくは、その塩、代謝産物、機能性誘導体、機能性類似体、エステル、及び、プロドラッグを投与することによって、化学療法に伴う毒性を治療する方法を包含する。
【0031】
本発明は、さらに、化学療法薬の投与に伴う毒性を治療する方法であって、一つ以上の該毒性が発生した後に、治療に有効な量のアミホスチン、または、その代謝産物、機能性誘導体もしくは類似体、あるいは、製剤学的に許容可能なその塩を投与することを含む方法を提供する。
【0032】
特に、本発明は、シスプラチンまたはパクリタキセル剤の投与に伴う神経毒性及び腎毒性を治療する方法であって、該化学療法薬の投与後に、治療に有効な量のアミホスチン、または、その塩、代謝産物、エステル、機能性誘導体、機能性類似体、及び、プロドラッグを投与することを含む方法を提供する。好ましい実施形態では、上記障害が出現して、確立された後、典型的には、化学療法薬の投与から1日以上後に、上記化合物を投与する。
【0033】
本発明はまた、末梢神経障害、中枢神経障害、自律神経障害、筋薄弱、ならびに筋痛症の特異的治療を目的とするアミノチオール類の使用を包含する。
【0034】
5.1.本発明に含まれる有用なアミノチオールおよび関連化合物
前述のように、本発明において使用できる化合物には、アミホスチン(WR-2721)、ならびに、その塩、水和物、活性代謝産物、プロドラッグ、機能性誘導体または類似体が含まれる。さらに詳細には、本発明は、アミホスチンのあらゆるプロドラッグおよび代謝産物、ならびに該活性代謝産物のプロドラッグを含む。従って、当業者には周知である、ヒトへの投与に適した化合物、ならびにWR-1065やWR-33278(二硫化物)のような代謝産物等の代謝産物である、もしくは、活性チオールに変換されることが周知の化合物、WR-151326のような代謝産物やその対応する二硫化物等を含む経口的に生物学的利用が可能なWR-151327およびその活性チオールが、本発明の範囲に含まれる。
【0035】
同様に、アミホスチンまたはその代謝産物の活性に類似した活性を示すアミノチオールが本明細書中に記載されている。好ましくは、これらの化合物はアミホスチンに構造的に関連している。あるいはまた、上記化合物は、生体内(in vivo)で代謝されて、生物学的に活性な薬物となるプロドラッグである。これらの化合物も本発明に含まれる。具体例を本明細書中に例示する。
【0036】
本発明で使用することのできるアミノチオール化合物は、次の式(I)によって表される:
(I) R1NH(CH2n(CH2mSR2
(ただし、上記式で、R1は、水素、C1〜C7アリル、C1〜C7アシル、またはC1〜C7アルキルであり;R2は、水素、PO32またはR3(ここでR3は、R1NH(CH2n(CH2mS−である)であり;nおよびmは、それぞれ、1〜10までの整数、好ましくは2〜6までの整数である。)。
【0037】
また、本発明の方法は、上記式(I)の化合物の製剤学的に許容可能な塩および水和物の使用も含む。
【0038】
本発明の方法に有用な好ましい化合物は、次の式で表されるS-ω(ω−アミノ−アルキルアミノ)アルキル二水素ホスホロチオエート類似体である:
R−NH−(Cn2n)−NH−(Cm2m)−S−PO32
(ただし、上記式で、Rは、水素、もしくは、1〜7個の炭素原子を有するアルキル基であり、mおよびnは、互いに独立して、1〜10までの、好ましくは2〜6までの値をとる)。
【0039】
アミホスチン(WR-2721)の化学構造は、次のように表すことができる:
2N−(CH23−NH−(CH22−S−PO32
【0040】
アミホスチンの好ましい代謝産物の一つは、WR-1065(化学名:S−2−(3−アミノプロピルアミノ)エタンチオール)として周知の脱リン酸遊離チオール形態であり、次のように表すことができる:
2N−(CH23−NH(CH22−SH
【0041】
もう一つの好ましいアミホスチンの代謝産物は、WR-33278(化学名:[2-[(アミノプロピル)アミノ]エタンチオール]-N,N'-ジチオイジ-2,1-エタンジイル)ビス-1,3-プロパンジアミン)として周知のその二硫化物であり、次のように表すことができる:
2N−(CH23−NH(CH22−S−S−(CH22−NH(CH23−NH2
【0042】
アミホスチンの好ましい類似体は、WR-15327(化学名:1-プロパンチオール-3-[[3-(メチルアミノ)プロピル]アミノ]−二水素ホスホチオエート)と呼ばれる化合物であり、次のように表すことができる:
CH3NH(CH23NH(CH23SPO32
【0043】
もう一つの好ましいアミホスチン類似体は、WR-151326と呼ばれる化合物、すなわち、WR-15327の脱リン酸遊離チオール形態であり、これは、次の化学構造を有する:CH3NH(CH23NH(CH23SH
【0044】
本発明における使用に適したその他の具体的な化合物には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるわけではない:
S-1-(アミノエチル)ホスホロチオ酸(WR-638)、
S-[2-(3-メチルアミノプロピル)アミノエチル]ホスホロチオエート酸(WR-3689)、
S-2-(4-アミノブチルアミノ)エチルホスホロチオ酸(WR-2822)、
3-[(2-メルカプトエチル)アミノ]プロピオンアミドp-トルエン−スルホネート(WR-2529)、
S-1-(2-ヒドロキシ-3-アミノ)プロピルホスホロチオ酸(WR-77913)、
2-[3-(メチルアミノ)プロピルアミノ]エタンチオール(WR-255591)、
S-2-(5-アミノペンチルアミノ)エチルホスホロチオ酸(WR-2823)、
1-[3-(3-アミノプロピル)チアゾリジン-2-Y1]-D-グルコ-1,2,3,4,5ペンタン−ペントールジヒドロクロライド(WR-255709)。
【0045】
さらに、本発明の使用に適したアミノチオールには、下記のものが含まれるが、これらに限定されるわけではない:S-2-(3-エチルアミノプロピルアミノ)エチル二水素ホスホロチオエート、S-2-(3-アミノプロピルアミノ)-2-メチルプロピル二水素ホスホロチオエート、S-2-(2-アミノエチルアミノ)-2-エチル二水素ホスホロチオエート、S-2-(4-アミノブチルアミノ)-2-エチル二水素ホスホロチオエート、S-2-(5-アミノペンチルアミノ)-2-エチル二水素ホスホロチオエート、S-2-(6-アミノヘキシルアミノ)-2-エチル二水素ホスホロチオエート、S-2-(2-メチルアミノエチルアミノ)-2-エチル二水素ホスホロチオエート、S-2-(3-メチルアミノプロピルアミノ)-2-エチル二水素ホスホロチオエート、およびS-3-(3-メチルアミノ-プロピルアミノ)-3-プロピル二水素ホスホロチオエート(WR-151327)、ならびに製剤学的に許容可能なこれらの塩。好ましくは、アミノチオールは、アミホスチン、WR-1065、WR-33278、WR-151327またはWR-151326であり、最も好ましくはアミホスチンである。
【0046】
本発明の使用に適したアミホスチン、その塩、類似体および誘導体の多くは市販されており、あるいは、標準技術を用いて容易に製造することができる。本発明の方法に有用なアミノチオール化合物は、当業者には公知の方法によって製造することができる(例えば、Cortese, 1943, Organic Synthesis pp.91〜93, Coll. Vol. II, Blatt, Ed., John Wiley & Sons, Inc., New York, NY;Akerfeldt, 1960, Acta Chem. Scand. 14:1980;Piperら、1966, Chem. Ind.(London):2010を参照)。特定のアミノチオール化合物、ならびに、このような化合物の合成方法は、Piperらの米国特許第3,892,824号、Kennedyらの米国特許第5,424,472号および第5,591,731号、ならびにWO 96/25045号に詳しく記載されており、各々、引用により本明細書中にその全内容を組み込むものとする。
【0047】
本発明の方法に有用なアミノチオール化合物は、遊離酸、遊離塩基、あるいは、製剤学的に許容可能なその付加塩の形態をしているものでよい。このような塩は、適切な酸および/または塩基でアミノチオール化合物を処理することにより、容易に製造することができる。このような酸の例として、ハロゲン酸(塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸のような無機酸、ならびに、酢酸、プロパン酸、2-ヒドロキシ酢酸、2-ヒドロキシプロパン酸、2-オキソプロパン酸、プロパン二酸、ブタン二酸等の有機酸が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。逆に、塩は、アルカリを用いた処理により遊離塩基に変換することができる。
【0048】
本発明の方法に有用なアミノチオール化合物、ならびに、製剤学的に許容可能なその付加塩は、水和、溶媒和した、もしくは、無水の形態をしていてもよい。このような形態を製造する方法は、有機化学の当業者には明らかであろう。
【0049】
5.2 定義
本明細書中で用いる用語「アミノチオール」とは、上記第5.1節に示した式(I)で表される化合物、あるいはそこに記載したその他の化合物を意味する。
【0050】
本明細書中で用いる「レスキュー剤(rescue agent)」とは、化学療法薬および放射線の投与に付随する徴候および症候ならびに病理、さらには付随する疾病の病理を改善、治療、逆転、軽減、あるいは阻止することができる化合物を意味する。
【0051】
本明細書中で用いる「障害」という用語は、身体機能、系統もしくは器官の中断、停止、混乱または異常により発現する病、疾病、または疾患を意味する。
【0052】
本明細書中で用いる「毒性」という用語は、認識された病因物質によって特徴付けられる障害、悪影響、好ましくない影響、有害な影響等の同定可能な徴候および症候群、あるいは、異常な徴候もしくは症候、または一貫した解剖学的変化を意味する。
【0053】
本発明の好ましい被験者は、ヒトを含む哺乳動物である。被験者には、化学療法、放射線治療、あるいはその両方を受けている、もしくは、受けていた患者;AIDS患者および糖尿病患者が含まれる。
【0054】
本明細書中で用いる「治療する」という用語は、化学療法に伴う毒性の症候の改善、あるいは、毒性の逆転を目的として、本発明のレスキュー剤、好ましくはアミホスチンもしくはその機能性類似体または誘導体を被験者に投与することを意味する。
【0055】
本明細書中で用いる「逆転する」という用語は、疾病、障害もしくは毒性の進行を阻止し、その症候が逆転する、すなわち、改善されることを意味する。
【0056】
5.3.毒性/治療すべき障害
本発明の方法は、許容可能な担体に、有効量の本発明のアミノチオールを含有する医薬組成物を、被験者の治療中、もしくは、好ましくは治療後に、該被験者に投与することを含む。アミノチオールは好ましくはアミホスチンであり、単独で用いても、治療に付随する毒性の治療に有用な一つ以上の他の薬物と併用してもよい。また、本発明の範囲には、前述した本発明のアミノチオール化合物の二つ以上の混合物を含む組成物の投与も含まれる。
【0057】
本発明の方法は、多岐にわたる治療薬に伴う毒性の治療薬に適している。さらに、本発明の方法は、様々な傷害によって発生する神経および腎障害の治療にも適している。
【0058】
5.3.1 化学的および放射線誘発毒性
1実施形態では、本発明の方法は、限定しないが、シスプラチン、カルボプラチン、パクリタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチンおよびメトトレキセート等の化学療法薬の投与に伴う毒性を治療するために使用する。別の実施形態では、本発明の方法は、放射線治療(X線、核放射線、特にガンマ線)に伴う毒性を治療するために使用する。
【0059】
本発明の方法は、次の化学療法薬の投与に伴う毒性を治療するために使用することができる:パクリタキセルおよびドセタキセル等のタキサン;メクロレタミン、シクロホスファミド、イフォサミド、メルファラン(フェナルフェニンマスタード)およびクロラムブシル等のナイトロジェンマスタードを含むアルキル化剤;アルトレタミン、ジアジコン(AZQ)およびチオテパ等のエチレニミンおよびメチルメラミン;ブスルファン等のスルホン酸アルキル;カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(メチル−CCNU)およびストレプトゾシン(ストレプトゾトシン)等のニトロソ尿素;ダカルバジン(DTIC;ジメチルトリアゼノイミダゾールカルボキサミド)等のトリアゼン;メトトレキセート、トリメトレキセート、およびその他のジヒドロ葉酸等の葉酸類似体を含む抗代謝産物;フルオロウラシル(5−フルオロウラシル;5−FU)、フロクスウリジン(フルオロデオキシウリジン;FUdR)およびシタラビン(シトシンアラビノシド)等のピリミジン類似体;メルカプトプリン(6−メルカプトプリン;6−MP)、チオグアニン(6−チオグアニン;TG)およびペントスタチン(2'−デオキシコフォルマイシン)等のプリン類似体および関連抑制剤;ビンブラスチン、ビンクリスチン、ナベルビンおよびビンクリスチン等のビンカアルカロイドを含む天然物質;エトポシドおよびテニポシド等のエピポドフィロトキシン;ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビンシン(ダウノマイシン;ルビドマイシン)、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)およびミトマイシン(ミトマイシンC)等の抗生物質;L−アスパラギナーゼ等の酵素;インターフェロンαおよびその他のインターフェロン等の生体応答修飾物質;シスプラチン(cis-DDP)およびカルボプラチン等の白金配位錯体;ミトキサントロン等のアントラセンジオン;ヒドロキシ尿素等の置換尿素;プロカルバジン(N−メチルヒドラジン、MIH)等のメチルヒドラジド誘導体、ならびにミトタン(o,p'-DDD)およびアミノグルテチミド等の副腎皮質抑制剤;プレドニソン等の副腎皮質ステロイドを含むホルモンおよび拮抗物質;カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロール等のプロゲスチン;ジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオール等のエストロゲン;タモキシフェン等の抗エストロゲン;プロピオン酸テストステロンおよびフルオキシメトステロン等のアンドロジェン;フルタミド等の抗アンドロジェン;ロイプロリド等の性腺刺激ホルモン放出ホルモン;イリノテカン、トポテカン等のカンプトテシン;ゲムシタビン等ののゲムシタジン;リン酸エストラムスチン、VM−26(ブモン)および全トランス型レチノイン酸(ATRA)。これらの薬物は、通常、頭部および頸部、卵巣、乳房、結腸、肺、前立腺、精巣および頸管の癌、ならびに、特定のリンパ腫、白血病、そして、CNSの癌の治療に使用されている。
【0060】
上記薬物の投与または放射線治療に伴う毒性としては、限定しないが、腎毒性、神経毒性、耳毒性、骨髄抑制、心臓毒性、脱毛症、不妊症、皮膚内への溢血による局部炎症、口内乾燥症および粘膜炎等が挙げられる。
【0061】
また、本発明の方法は、ddI(ジダノシン)、ddC(ザルシタビン)、d4T(スタバジン)、3TC(ラミブジン)、AZT(ジドブジン、3'アジド-3'-デオシキチミジン)等の抗ウイルス剤等、アミノグリコシド等の抗菌剤、ならびに、アンフォテリシンB等の抗真菌剤に伴う同様の毒性の治療にも適している。
【0062】
5.3.2 治療すべき腎障害
本明細書中で腎疾患とも呼ばれる次の腎障害を本発明の方法に従い治療することができる:急性後連鎖球菌性、急性非連鎖球菌性、急速進行性、慢性進行性、末期慢性等のびまん性糸球体腎炎を含む多様なタイプの糸球体腎炎;恐らく免疫系に由来する全身性細菌感染によるもの、すなわち、IgA焦点糸球体腎炎等の焦点糸球体腎炎、および遺伝性糸球体腎炎;微小変化病、リポイドネフローゼ、もしくはニル病、焦点分節性糸球体硬化症、先天性ネフローゼ症候群、膜性増殖性糸球体腎炎、特発性膜性腎症(膜性糸球体腎炎)、全身性エリテマトーデス、全身性感染または過敏反応、循環障害および腎静脈血栓症、アミロイドーシス、ならびに妊娠中毒症等のネフローゼ症候群;高血圧性血管疾患、良性腎硬化症、悪性腎硬化、糖尿病性腎症、腎梗塞、結節性多発動脈炎、ならびにヴェゲナー肉芽腫症等の血管に由来する腎疾患;播種性血管内凝固、両側腎皮質壊死、溶血性尿毒症候群、ならびに、血栓性血小板減少性紫斑等の血栓性腎疾患;強皮症;放射線腎炎;中毒性腎症および虚血性細管壊死、浸透性腎症、低カリウム血症性腎症を含む急性細管壊死、間質性腎炎、腎盂腎炎、結核性腎盂腎炎、尿路閉塞疾患、腎乳頭壊死、鎮痛薬濫用性腎症、多発性骨髄腫腎症、通風腎症、高カルシウム腎症、および腎石灰症および腎結石症等の慢性間質性および細管疾患等の細管疾患;発育不全や形成不全、融合、転位、重複、形成異常および多発性嚢胞形成異常、先天性閉塞性子宮嚢胞症、単発性嚢胞、小児多嚢胞症、成人多嚢胞症、ならびに髄質嚢胞症等の先天性奇形および異常;副腎皮質小節、過誤腫、間葉腫、および先天性細管腺腫を含む良性腫瘍等の腎腫瘍;ならびに、腺癌、ウィルム腫瘍、白血病性浸潤、ならびに転移性細胞癌等の悪性腫瘍。
【0063】
5.3.3 治療すべき代謝障害
本発明は、非常に多様な代謝障害の治療のための方法を提供する。このような代謝障害の一つは、糖尿病である。また、本発明の方法は、次の代謝障害に関する治療に適している:基礎代謝、すなわち、覚醒状態での細胞化学の最低レベルにおける個人の熱生成、もしくは呼吸、循環および分泌の連続的組織的機能に伴う最小量の細胞活性;炭水化物代謝、すなわち、組織内で炭水化物が被る変化であり、酸化、分解、および合成を含む;電解質代謝、すなわち、体液および身体組織内で、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の各種必須ミネラルが被る変化;脂肪代謝、すなわち、組織内で脂肪が被る、酸化、分解および合成等の化学的変化;タンパク質代謝、すなわち、組織内でタンパク質が被る、分解および合成等の化学的変化;呼吸代謝、すなわち、肺における呼吸ガスの交換、ならびに、二酸化炭素および水の生成による組織内での食物の酸化。
【0064】
5.3.4 糖尿病に伴う障害
糖尿病患者は、多数の消耗性の障害を患うことが多い。そのような障害の一つ、末梢神経障害は、特に、高齢の糖尿病患者に発生しやすく、患者の約30〜50%が手足に軽症の反射変化や消失性の痛みを現している。末梢神経における基本的な病理変化は、分節性脱髄である。糖尿病患者の障害は自律神経系にもおよび、その結果、重症の下痢や腹痛が発生する。実験的に誘発した糖尿病を有する動物の末梢神経で、非常に高レベルのソルビトールおよびフルクトースが認められている。ソルビトールおよびフルクトースの蓄積は、明らかに、アルドース還元酵素経路を介したグルコース代謝の部分的分路化に因るものである。ソルビトールの形成を伴うこのグルコースの異常代謝が、糖尿病被験体における低下した神経伝導および分節性脱髄の原因であるかどうかはわかっていない。実験的糖尿病では、ラットの腸管の自律神経腺維に、変性的変化が認められ、これらは、これらの動物の巨大結腸の発生に関係していた。膵島移植による対照糖尿病では、自律神経における変性病変の予防、もしくは消失という結果が得られた。
【0065】
腎疾患は、糖尿病には一般的であり、腎不全は、主な死亡原因の一つである。糖尿病性腎症の主なものは、腎糸球体に影響する微小血管疾患である。糖尿病の早期に、腎臓が肥大し、これに付随する糸球体肥大により、浸潤過度および微量アルブミン尿を伴う糸球体浸潤率が、新たにインスリン依存性糖尿病にかかった患者では、50%まで増加する。糖尿病が進行すると、糸球体基底膜のびまん性肥厚が認められると共に、メサンギウム量の増加、腎機能の進行性の損傷が起こり、これによって、メサンギウムがさらに膨張し、最終的には糸球体の閉塞を招くことになる。
【0066】
臨床的に、軽度のタンパク尿症が何年も続く場合もあれば、糸球体浸潤の減少や、腎機能がネフローゼ症候群のあらゆる典型的特徴を有するまでに進行する場合もある。一度、窒素血症(血清クレアチミンおよびBUNの増加)が発生すると、2、3ヶ月から2〜3年以内に腎不全および尿毒症に進行するのは不可避である。腎不全が進行すると、唯一の手段は、透析か移植しかない。
【0067】
以上述べた障害の治療は、本発明の範囲に含まれる。
【0068】
5.4 有効投与量
本発明での使用に適した医薬組成物は、治療上有効な量、すなわち、その意図する目的を達成するのに有効な量の活性成分を含有する組成物を含む。もちろん、活性成分の実際量は、中でも、治療する特定の障害に応じて異なってくる。有効量の決定は、当業者によって容易に実施することができる。
【0069】
本明細書中に記載したあらゆる化合物について、治療学的に有効な量は、初めに、細胞培養検定から推定することができる。例えば、細胞培養で決定した有効濃度を含む化合物、および/またはその活性代謝産物の循環濃度範囲を達成するように、動物モデルについての用量を配合する。このような情報を用いて、ヒトについての有用量をさらに正確に決定することができる。例えば、Washburnら、1976、「種間組織分布研究によるヒトに対するWR-2721の有効放射線防護量の予測」、Radiat. Res. 66:100〜5を参照のこと。
【0070】
ヒトに使用するための治療上有効な量も、動物モデルから推定することができる。例えば、動物で有効と認められた循環濃度を達成するように、ヒトに対する用量を配合することができる。
【0071】
また、治療上有効な量は、ヒトの薬物動態学データを含む最新の臨床実験およびデータから推定することもできる。特定の理論に拘束される意図はないが、血中濃度−時間曲線下面積(AUC)を測定して決定されるように、効力は、投与した薬物の適用量、および/またはその活性代謝産物に対する被験者の合計暴露に関係すると考えられる。従って、投与する化合物(および/またはその活性代謝産物)のAUCが、治療する障害について有効であることが公知の用量のAUCの50%以内にあれば、本発明の方法に従い投与される量は有効であると予測される。投与する化合物(および/またはその活性代謝産物)のAUCが、公知の有効量のAUCの約70%、80%もしくは90%以上の範囲内にある用量が好ましい。前記の方法、特に血中濃度、ならびに、投与化合物および/またはその活性代謝産物の持続時間に基づいて、ヒトに対する最大効力を達成するための用量調節は、通常の当業者の能力で十分に可能である。
【0072】
アミホスチンおよび/またはその活性代謝産物WR-1065を患者に投与する通常の量は、通常、約50mg/日〜6,000mg/日、一般には、約100mg/日〜4,000mg/日、典型的には約200mg/日〜3,500mg/日の範囲である。患者の体重に関して述べれば、通常、用量は、約0.6〜100mg/kg/日、一般に、約1.1〜66mg/kg/日、典型的には約2.2〜58mg/kg/日の範囲である。また、患者の体表面積に関して述べるならば、通常用量は、約23〜4,000mg/m2/日、一般には、約45〜2,666mg/m2/日、典型的には、約90〜2,333mg/m2/日の範囲である。
【0073】
その他の投与形式については、すでに述べたように、本明細書中に記載した薬物動態学プロフィールに従い、投与化合物および/またはその活性代謝産物の有効血漿レベルおよび/または組織レベルが得られるように、用量および間隔を個々に調節することができる。
【0074】
投与組成物の実際量は、治療する被験者、被験者の体重、罹患の程度、投与形式、ならびに処方する医師の判断によって、変動することはいうまでもない。
【0075】
非経口投与では、用量は、約10〜1,000mg/m2の範囲である。また、静脈内投与に好ましい用量は、体表面積m2当たり約100〜750mg、さらに好ましくは、体表面積m2当たり約200〜750mgである。経口投与に好ましい用量は、体表面積m2当たり約20〜2,000mg、さらに好ましくは、体表面積m2当たり約500〜1,500mgである。
【0076】
5.5 製剤と用量投与
本明細書中に記載したアミノチオール化合物、もしくは、製薬上許容されるその付加塩または水和物は、本発明に従い、非常に多様な投与経路または方法によって、患者に投与することができる。適した投与経路としては、限定しないが、吸入、もしくは、静脈内(注入またはボーラス薬注射)、筋肉内、腹腔内、鞘内、皮下、鼻内、経粘膜、口腔、舌下、膣、直腸、腸内、局部皮内、または、経皮を含む非経口経路が挙げられる。上記のもの以外に、あるいは、同時に、経口により投与することもできる。特に、静脈内投与が好ましい。
【0077】
本明細書中に記載したアミノチオール化合物、もしくは、製薬上許容されるその塩および/または水和物、あるいはこれらの混合物は、単独で投与してもよいし、本発明のその他のアミノチオール化合物と併用して、及び/または、治療中の被験者が被る毒性もしくは障害を治療する目的の癌化学療法薬を含む一種以上の治療薬と併用して投与してもよい。このような追加薬物の例として、限定しないが、ビタミン、特に、B複合体が挙げられる。
【0078】
薬物は、それらが、同時に、続けて、被験者に投与される場合、あるいは、各薬物の投与間隔が、生物学的活性を重複させ得る場合には、これら薬物は、互いに「併用して」投与されたとみなす。
【0079】
本発明のアミノチオール化合物は、その目的を達成する限り、あらゆる手段で投与することができる。アミノチオールレスキュー剤投与の量及び処方計画は、神経及び腎障害、毒性または癌治療の臨床法における通常の技術で容易に決定することができる。
【0080】
アミノチオール化合物の用量が、被験者の年齢、性別、健康状態、体重、同時治療の種類(もしあれば)、治療の頻度、ならびに、所望する効果の性質に応じて、変動することはいうまでもない。本発明の活性化合物の有効量とは、生体内への化学療法薬の投与により発生した神経または腎障害、もしくは、神経毒性または腎毒性の症候を治療、あるいは逆転するのに有用な量である。本明細書中に記載した有効用量の範囲は、本発明を制限するものではなく、好ましい用量範囲を示すことを目的とする。しかし、最も好ましい用量は、当業者には公知の技術により過度の実験をすることなく理解され、決定可能であり、個々の被験者に合わせて調節するものとする。
【0081】
あらゆる投与方法について、化合物の実際の投与量、ならびに、本明細書中に記載した有利な効果を達成するために必要な投与スケジュールもまた、部分的に、化合物(及び/またはその活性代謝産物)のバイオアベイラビリティー、治療する障害、所望の治療用量等の要因、ならびに、当業者には公知のその他の要因に応じて異なってくる。実際の投与量及び投与スケジュールは、投与化合物及び/またはその活性代謝産物の血漿レベルを監視し、所望の治療効果を達成するのに必要な用量または投与スケジュールを調節することにより、過度の実験なしで、当業者が容易に決定することができる。さらに、用量または投与スケジュールは、障害の徴候及び症状を監視することにより、所望の治療効果を達成するのに要求されるように、調節することができる。
【0082】
活性化合物は、単独、もしくは、この活性化合物に、製薬上許容される一種以上の担体、賦形剤または希釈剤を添加した医薬組成物の形態で投与することができる。本発明に使用にするための医薬組成物は、製薬上使用可能な製剤への上記活性化合物の加工を容易にする賦形剤や助剤を含む生理学上許容可能な一種以上の担体を用いて、従来の方法で配合することができる。適切な配合は、選択する投与経路によって異なる。
【0083】
本発明の方法はまた、上記活性化合物のそれを必要とする被験者に対する投与に適した、液体を基材とする投与形態の提供をも含む。液状の基剤としては、化合物の活性を妨害したり、患者を害することなく、活性成分を身体に輸送することができるものであればどんな液体でもよい。好ましい基材は、等張溶液であり、糖などの従来の添加剤を含んでいてもよい。これらの溶液は、経口及び静脈内投与の両方に有用である。
【0084】
注射の場合には、本発明の薬剤は、水溶液、好ましくは、ハンクス液、リンガー液、もしくは、生理食塩水等の生理学的に適合するバッファー中に配合することができる。経粘膜投与の場合には、浸透させるバリアに適した浸透剤を配合に使用する。このような浸透剤は、一般に、当業者には公知である。
【0085】
適切な注射可能な溶液には、静脈内、皮下及び筋肉内に注射可能な溶液が含まれる。また、活性化合物は、注入液、もしくは、鼻からの吸入または噴霧として投与してもよい。
【0086】
静脈内投与の場合には、活性化合物は、水溶液の滴注により投与するのが好ましい。活性成分は、一回で、もしくは何回かに分けて投与することができる。
【0087】
非経口投与の場合に適した製剤としては、水溶性の形態、例えば、水溶性塩の形態の活性化合物の水溶液がある。さらに、適切な油状注射懸濁液として、活性化合物の懸濁液を投与してもよい。適した親油性溶剤もしくはビヒクルとして、例えば胡麻油などの脂油若しくは、例えばオレイン酸エチルまたはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステルが挙げられる。水性注射懸濁液は、この懸濁液の粘度を高める物質を含有していてもよく、例として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、及び/またはデキストランが挙げられる。また、任意で、懸濁液は、安定剤を含有してもよい。
【0088】
経口投与の場合には、活性成分、好ましくはアミホスチン、もしくは、WR-151327のようなその機能性誘導体または機能性類似体は、経口投与が可能であれば、あらゆる服用形態の製剤でよい。このような服用形態として、錠剤、ハードまたはソフトゼラチンカプセル、キャプレット、糖衣錠、丸薬、被覆錠剤等の錠剤、ならびに、エリキシル、懸濁液、ゲル、スラリーまたはシロップ等の溶液が挙げられる。経口投与のための製剤は、固体賦形剤を用いて、任意で、混合物を粉砕し、必要に応じて適切な助剤を添加した後、顆粒混合物を加工して、錠剤または糖衣錠のコアを製造することによって得られる。
【0089】
本発明の活性化合物は、坐剤や浣腸剤の形態で、直腸から投与することもできる。
【0090】
一般に、本発明の活性化合物を投与する製剤は、担体または賦形剤と共に、約0.1〜約100%、好ましくは、約25〜85%の活性化合物を含有する。製薬上許容される担体として、製薬上使用可能な製剤への活性化合物の加工を容易にする賦形剤及び助剤が挙げられる。適した賦形剤としては、特に、乳糖、蔗糖、マンニトール、もしくはソルビトールのような糖、セルロース製剤、及び/またはリン酸トリカルシウムまたはリン酸水素カルシウム等のリン酸カルシウム等の充填剤;ならびに、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプンのようなデンプンペースト、ゼラチン、コラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/またはポリビニルピロリドン等の結合剤が挙げられる。所望であれば、前記デンプン類やカルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、または、アルギン酸ナトリウムのようなその塩等の崩壊剤を添加してもよい。本発明に従って組成物に使用できる助剤としては、シリカ、タルク、ステアリン酸またはその塩、及び/またはポリエチレングリコール等の流量調節剤や潤滑剤が挙げられる。
【0091】
糖衣錠のコアには、適したコーティングを施す。このために、濃縮した糖溶液を使用することができ、これに、任意で、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、及び/または二酸チタン、ラッカー溶液、ならびに適切な有機溶剤もしくは溶剤混合物を含有させてもよい。上記錠剤または糖衣錠に、染料もしくは顔料を添加して、錠剤の同定や、活性化合物の様々な組合せを特徴付けるのに役立てることもできる。
【0092】
経口的に使用できる医薬製剤としては、ゼラチンから成る押込嵌めカプセル、ならびに、ゼラチンと、グリセロールまたはソルビトール等の可塑剤から成るソフト密封カプセルが挙げられる。押込嵌めカプセルは、ラクトース等の充填剤、デンプン等の結合剤、及び/若しくはタルクまたはステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、ならびに、任意で、安定剤を添加した活性成分を含有することができる。ソフトカプセルの場合には、活性化合物は、脂油、液体パラフィン、もしくは液体ポリエチレングリコール等の適した液体に溶解または懸濁させることができる。さらに、安定剤を添加してもよい。経口投与用の製剤はすべて、そのような投与に適した服用形態でなければならない。
【0093】
口腔投与の場合には、組成物は、従来の方法で製剤化される錠剤またはロゼンジの形態でよい。
【0094】
吸入による投与の場合には、本発明に従って使用するための化合物は、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾル噴霧という形態で、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、その他の適したガス等の適切な噴霧剤を使用して簡便に投与される。加圧エアロゾルの場合には、投与単位は、計測量を送出する弁によって、決定することができる。吸入器または通気器に使用するための、例えばゼラチンから成るカプセルやカートリッジは、上記化合物と、ラクトースまたはデンプン等の適した粉末ベースとの粉末混合物を配合して、調剤することができる。
【0095】
上記化合物は、注射、例えば、ボーラス注射もしくは連続注入による非経口投与用に、配合することもできる。注射用の製剤は、防腐剤を添加し、例えば、アンプルまたは複数回用量容器等の単位用量形態でよい。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液もしくは乳濁液等の形態をし、また、沈殿防止剤、安定剤及び/または分散剤等の配合剤を含有してもよい。
【0096】
非経口投与のための医薬製剤としては、水溶性形態の活性化合物の水溶液が挙げられる。また、活性化合物の懸濁液を適切な油性注射懸濁液として調剤することもできる。適切な親油性溶剤もしくはビヒクルとして、ゴマ油のような脂油、あるいは、オレイン酸エチルやトリグリセリドのような合成脂肪酸エステル、あるいは、リポソーム等がある。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロールナトリウム、ソルビトール、またはデキストラン等、懸濁液の粘度を高める物質を含有してもよい。また、任意に、この懸濁液に適した安定剤、もしくは、化合物の相溶性を高める薬剤を含有させることにより、非常に濃縮された溶液を調製することも可能である。
【0097】
さらに、活性成分を粉末状にし、使用する前に、適したビヒクル、例えば、発熱物質のない滅菌水と混合することができる。
【0098】
化合物は、例えば、ココアバターやその他のグリセリドのような通常の坐剤基剤を含む、坐剤または固定浣腸剤等の直腸用の組成物として配合することもできる。
【0099】
以上記載した製剤以外にも、化合物を貯留配合物として配合してもよい。このように長く作用する製剤は、内移植、皮下または筋肉注射によって投与することができる。従って、例えば、化合物を適したポリマーまたは疎水性物質(例えば、許容可能な油中の乳濁液として)、または、イオン交換樹脂を用いて、若しくは、例えば難溶性塩等の難溶性誘導体として調製することができる。
【0100】
上記医薬組成物はまた、適した固体またはゲル相担体もしくは賦形剤を含んでいてもよい。このような担体もしくは賦形剤の例としては、限定しないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、各種糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、ならびにポリエチレングリコール等のポリマーが挙げられる。
【0101】
本発明のアミノチオールレスキュー剤が、化学療法薬の投与中または投与後のいつでも、好ましくは投与後に、本発明の方法に従って投与できることは理解されよう。例えば、レスキュー剤は、化学療法薬の投与から1時間後、より好ましくは、4時間以上経過した後、投与することができる。最も好ましくは、化学療法から数日後、あるいは、数週間後に、レスキュー剤を投与する。また、化学療法薬の投与に伴い発生する毒性が認められた後に、レスキュー剤を投与してもよい。好ましくは、化学療法により誘発された毒性が認められた、もしくは、確認された後に、レスキュー剤を投与する。
【0102】
化学療法を受けた患者に発生する毒性の徴候は、癌患者の治療に携わる当業者にはよく知られている。例えば、化学療法によって発生する神経毒性の徴候、すなわち「マーカー」としては、限定しないが、臨床上の徴候及び症状、神経伝導検定結果、ならびに、振動計測定値等が挙げられる。また、化学療法によって発生する腎毒性のマーカーとしては、限定しないが、1.5mg/Dlを超える血清クレアチニンレベルの上昇、20を超えるBUN、異常電解質(例えば、血清マグネシウム、重炭酸塩の減少、もしくは、血清カリウムの増加)等が挙げられる。本発明のアミノチオール化合物は、化学療法の後に、上記の毒性マーカーの一つ以上が認められた後に投与するのが好ましい。
【0103】
本発明のアミノチオール化合物は、1サイクル以上の化学療法薬の投与後に、本発明の方法に従って投与できることは理解されよう。例えば、1サイクル以上の化学療法薬の投与後に、レスキュー剤を投与することができるが、次の化学療法薬投与サイクルの前とする。
【0104】
以上、本発明について概要を説明してきたが、以下に示す実施例によって、本発明をさらに容易に理解することができるだろう。ただし、これらの実施例は、説明のために与えるものであり、特に記載のない限り、本発明を制限することはない。
【実施例】
【0105】
6.実施例
6.1.実施例1:事例研究
シスプラチン治療から6日後に、シスプラチン誘発の腎不全の新たな発症が確認された年齢61歳の患者を、3日間にわたり、400mgのアミホスチンを静脈内投与して治療したところ、患者の腎機能が部分的に回復し、全体的臨床状態が改善した。
【0106】
この患者は、強まる下腹部の痛みと、10カ月にわたる肋骨脊椎角痛を訴えて、婦人科検査のために患者を最初に診察した医師から委ねられた。その間、何度か超音波で、卵巣嚢腫を確認、監視した。患者は、尿路感染を再発した病歴があり、婦人科で診察を受けるまでの2週間ステントを装着していた。当時行ったCATスキャンにより、尿管狭窄ならびに、右腎に軽度の水腎症があることがわかった。同患者のその他の医療歴として、左腎の先天性欠如症、二重子宮があり、約30年前に、複式子宮全摘出及び左卵管−卵巣摘出手術を受けていた。
【0107】
強まる痛みの病因が、嚢腫卵巣、尿路感染、もしくは、尿管狭窄及び水腎症のいずれに付随するものか決定するため、患者に診断的開腹術を実施した。その結果、患者には、重症の腺線維症から発生したIII期乳頭状腺癌があることがわかり、網に転移していた。右卵巣摘出と部分的網切除術、ならびに癒着の溶解を実施した。約1カ月後、癌の病期分類するためのリンパ節の生検、ならびに、残った網の除去のために再び外科手術を実施した。このとき、将来の化学療法のために、腹腔内及び静脈内(iv)カテーテルを取り付けた。
【0108】
患者の化学療法について評価を行い、第1日に、135mg/m2(223mg)のパクリタキセルの静脈内投与と、続いて、第2日に、100mg/m2(165mg)のシスプラチンの腹腔内投与から成る治療法を患者に実施した。しかし、第1及び第2日の化学療法を受けた後、第3日に、患者は、嘔気、嘔吐、ならびに腹部痙攣により、救急室に運ばれた。患者は、水和と、嘔気の治療のために入院した。これに続く5日間、患者は、ガラニセトロン、デキサメタゾン、プロメタジンを含む制吐薬による強度の治療にも拘わらず、嘔気及び嘔吐を訴え続けた。その時点でのこれ以外の治療には、痛みに対するケトロラック、不安についてはロラゼパム、ならびに多量の静脈内流体投与があった。入院5日目までに、患者の血清クレアチニンは、4.9mg/Dlまで、また、BUNは39mg/Dlまで上昇した。このときの電解質異常は次の通りである:ナトリウムが128mMol/L、カリウムが1.9mMol/L、塩化物が94mMol/L、そして、CO2が22mMol/L。また、血清カルシウムは4.4mMol/Lであった。患者の治療法は、電解質の観察及び正常化のために、テレメトリーに移された。
【0109】
腎臓の診察から、患者の急性腎不全が、シスプラチン療法に付随するものであり、体積減少により合併症を引き起こしたことがわかった。患者は、再水和を継続し、それ以上の化学療法は控えた。持続性、かつ不応答性腎不全のために、薬物誘発腎毒性を軽減すべく、シスプラチン投与から7、8、9日後に、400mg/日のアミホスチンを静脈内投与した。患者は、治療によく耐容し、軽い嘔気だけとなった。患者の腎機能は、アミホスチン治療後から3日後に改善し、そのクレアチニンは、アミホスチン治療前の最高濃度6.0mg/dLから、アミホスチン治療後の4.6mg/dLまで減少した。このとき、患者の電解質は正常化し、その腹部痙攣が大幅に軽減され、経口流体に耐えられるようになった。入院12日目までには、患者のクレアチニンは、2.8mg/dLまで減少し,13日目に退院した。血清クレアチニンの改善によって証明されるアミホスチン治療に対する患者の応答を図1に示す。
【0110】
2日後、患者は、ひどい嘔気と嘔吐のためのプロメタジンの使用量の増加によるジストニーによって、再入院した。患者に水和処置を施し、続いての5日間にわたり監視した。電解質異常は矯正された。再度、アミホスチン400mg(iv)を入院2日目に投与し、嘔気のために必要に応じてオンダンセトロン24mgを投与した。患者は治療によく耐容した。患者の腎機能は、今回の入院中に安定化し、クレアチニン/BUNは、2.8/17mg/dL〜3.2/13mg/dLの範囲であった。彼女は入院5日目に退院した。
【0111】
フォローアップ往診が、退院後の3日間実施され、その時点で、患者は、化学療法を継続しないことを選択した。アミホスチン400mg(iv)を5日後に投与し、それまで以上の腎機能の改善が達成されたかを検査した。準備投薬として、グラニセトロン1mgを経口投与した。そのときの患者のクレアチニンは、2.5mg/dLであった。2週間後、最後の2週間コースのアミホスチン400mgの投与が決定され、治療終了後に再検査した。2〜3日置きにアミホスチンを投与し、2週間にわたって合計5回投与した。準備投薬として、ロラゼパム1mg(iv)とオンダンセトロン24mg(iv)を投与した。約6カ月後、患者の血清クレアチニンは2.0mg/dLであった。
【0112】
この実施例では、患者には、腎不全が既に進行した後、シスプラチン療法から7〜9日後にアミホスチンを投与した。アミホスチンは、部分的にシスプラチンの毒性腎作用を逆転し、患者の血清クレアチニンは、3日間の治療過程で、6.0mg/dLから4.6mg/dLまで、また、入院13日目の退院までには、2.8mg/dLまで減少した。腎機能の改善と同時に、患者の全体的臨床状態はこの時期改善し、電解質の不均衡が正常化すると共に、腹部痙攣、嘔気及び嘔吐が消失した。
【0113】
6.2.実施例2:事例研究
患者は、第二次世界大戦の強制収容所の生存者である75歳の白人男性であり、膀胱癌と診断され、肺に転移していた。患者は、3サイクルのカルボプラチン、ビンブラスチン及びメトトレキセート投与を受けた。強制収容所にいた間に、患者は足の下部を負傷し、それが絶え間ない痛みをもたらしてきた。この痛みが、化学療法によって悪化した。腫瘍は肺で収縮していたが、右腕に重度の神経毒性が発生したため、患者は、それ以上の治療を拒否した。これらの神経毒性は、化学療法を中止した後、さらに悪化したように思われた。患者には応急の鎮痛剤としてデメロールを投与し、患者の痛みを「耐えられる」程度にするため、2-100mcg/時のドュラジェシックパッチ(Duragesic patches)が必要であった。患者に対して、ステロイド及び非ステロイド系を含むその他多数の薬剤、薬剤の併用が試された。ドュラジェシックパッチの、痛みを耐えられるようにする効き目はすぐになくなり、患者は非常に気落ちして、眠気を訴えた。
【0114】
制吐薬での準備投薬の後、患者に、50cc 0.9生理食塩水中のアミホスチン500mgを10分間にわたり投与した。2日後、患者は、数カ月間で初めて痛みがなくなり、足の痛みさえ軽減したと報告した。患者は、杖なしで歩行できるようになった。続いて、患者はエチオール注入を受けたが、腕の痛みはないままだった。足の痛みは改善され、ドュラジェシックパッチ1つだけで済ませている。
【0115】
6.3.実施例3:事例研究
患者は、72歳の白人女性で、肺癌と診断され、3サイクルのアミホスチン、パクリタキセル、ならびにカルボプラチンを受けた。このうち、アミホスチンは、化学療法に先立って投与した。4回目のサイクルまでに、垂足のために車椅子を余儀なくされ、神経毒性のために、自分で食事をすることも、歯を磨くこともできなくなった。腫瘍は治療に応答していたが、化学療法を中止せざるを得なかった。神経障害の問題を軽減するため、物理的治療と共に、数回の投薬が試された。患者が、数カ月にわたるこの治療に応答しなくなったとき、エチオールだけによる治療を開始した。
【0116】
患者には、50ccの生理食塩水IVPB中のデカドロン23mg、ゾフラン(オンダンセトロン)32mgを15分間かけて準備投薬し、次に、50ccの生理食塩水中のアミホスチン970mgを10分間かけて投与した。患者は、この治療に問題なく耐容した。2日後、患者は、上腕及び足の力が改善したことを報告した。患者は、歯ブラシや銀器を再び持つことができるようになった。患者は、毎週アミホスチンの注入を継続して受けた。3回目の治療までには、患者は歩行器を用いて再び歩いていた。しかし、アミホスチンによる4回目の治療の翌日、患者は、体全体に紅斑及び水泡が発生し、これによって、完全皮膚剥離もみられた。アミホスチン治療を停止した。1カ月後、患者の皮膚は正常に戻り、その神経障害は安定したままであった。
【0117】
6.4.実施例4:事例研究
55歳の男性の、脊髄形成異常骨髄症候群(MDS)患者であり、非ホジキンリンパ腫のために実施したCHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニソン)化学療法によって、発生した神経毒性を8年間患っていた。この患者は、毎週月、水及び金曜日に、エチオール840mgによるMDSの治療を開始した。このようなアミホスチンによるMDS治療を5週間受けた後、患者は、アミホスチン治療を受けるようになってから、神経毒性が改善したと(求められてではなく)報告した。患者は、エチオールによるMDS治療を継続し、経過は良好である。
【0118】
本発明は、その範囲が、本明細書に記載した特定の実施形態に制限されることはない。実際、本明細書に記載したものに加えて、本発明の様々な変更は、以上の記載から、当業者には明らかである。このような変更は、添付の請求の範囲に含まれるものとする。
【0119】
様々な文献が本明細書中に引用されているが、その記載内容は、参照として、そのまま本文に組み込む。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】パクリタキセルと併用したシスプラチンにより誘発された腎不全を患う61歳の患者の血清クレアチニンレベル(mg/dL)を示すグラフである。このグラフは、シスプラチンの投与前の出発血清クレアチニンレベル:約1.0mg/dL、シスプラチン投与後の最大レベル:約5.5mg/dL、そして、アミホスチンによる治療後、約2.8mg/dLまで減少した血清クレアチニンレベルを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトへの治療薬の投与に伴う毒性を、該ヒトにおける一つ以上の該毒性の発生後に治療するための組成物であって、少なくとも1種のアミノチオール化合物、または製剤学的に許容可能なその塩を治療有効成分として含み、該アミノチオール化合物が、式:
1NH(CH2nNH(CH2mSR2 (I)
(式中、
1は、水素、C5〜C7アリール、C2〜C7アシル、またはC1〜C7アルキルであり;
2は、水素、PO32またはR3(ここでR3は、R1NH(CH2n(CH2mS−である)であり;
nは、1〜10の整数であり、
mは、1〜10の整数である)
で表される化合物または製剤学的に許容可能なその付加塩もしくは水和物である組成物。
【請求項2】
ヒトの放射線への暴露に伴う毒性を、該ヒトにおける一つ以上の該毒性の発生後に治療するための組成物であって、少なくとも1種のアミノチオール化合物、または製剤学的に許容可能なその塩を治療有効成分として含み、該アミノチオール化合物が、式:
1NH(CH2nNH(CH2mSR2 (I)
(式中、
1は、水素、C5〜C7アリール、C2〜C7アシル、またはC1〜C7アルキルであり;
2は、水素、PO32またはR3(ここでR3は、R1NH(CH2nNH(CH2mS−である)であり;
nは、1〜10の整数であり、
mは、1〜10の整数である)
で表される化合物または製剤学的に許容可能なその付加塩もしくは水和物である組成物。
【請求項3】
前記アミノチオール化合物が、WR-2721、WR-1065、WR-151326、WR-151327、WR-638、WR-3689、WR-2822、WR-2529、WR-77913、WR-255591、WR-2823、WR-255709、その塩及び水和物、ならびにこれらの混合物から成る群より選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アミノチオールがWR-2721である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記アミノチオールがWR-33278である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項6】
前記アミノチオールがWR-1065である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項7】
前記アミノチオールがWR-2721の活性代謝産物のプロドラッグである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項8】
前記毒性が、神経毒性、腎毒性、耳毒性、心臓毒性、脱毛症、粘膜炎、口内乾燥症、不妊症、肺毒性、及び腎不全から成る群より選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項9】
前記毒性の発生から1日以上後に投与される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項10】
二種以上のアミノチオール化合物を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項11】
前記治療有効成分が約10mg/m2〜約2,000mg/m2の量で含まれる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項12】
前記ヒトが癌患者、AIDS患者、糖尿病患者、または高血圧患者である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記治療薬が抗ウイルス剤、抗生物質、抗真菌剤、造影剤、または抗腫瘍剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記抗ウイルス剤が3'-アジド-3'-デオキシチミジン(AZT)、d4T(スタバジン)、ddI(ジダノシン)、ddC(ザルシタビン)、3TC(ラミブジン)、またはこれらの組合せである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記抗腫瘍剤がシスプラチン、カルボプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ナベルビン、ゲムシトビン、エトポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、またはこれらの組合せである、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記抗腫瘍剤がシスプラチンである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記ヒトが癌患者または糖尿病患者である、請求項2に記載の組成物。
【請求項18】
前記放射線治療がX線、核放射線、またはガンマ線照射である、請求項2に記載の組成物。
【請求項19】
ヒトの神経または腎障害を、該ヒトにおける該神経または腎障害の発生後に治療するための組成物であって、一種以上のアミノチオール化合物、または製剤学的に許容可能なその塩を治療有効成分として含む組成物。
【請求項20】
前記神経または腎障害が化学的に誘発されるか、または薬物、加齢、放射線への暴露、糖尿病、もしくは未知の病因によって誘発される、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記神経または腎障害が糖尿病によって誘発される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記神経または腎障害が一種以上の治療薬の放射線治療の投与に伴う神経毒性または腎毒性である、請求項19に記載の組成物。
【請求項23】
前記神経障害が末梢神経障害、自律神経障害、中枢神経障害、筋薄弱、関節痛または筋痛症である、請求項19に記載の組成物。
【請求項24】
前記腎障害がBUN、血清クレアチニンの上昇、またはクレアチニンクリアランスもしくはナトリウム、マグネシウムの減少、あるいはそれらの組合せにより特徴づけられる、請求項19に記載の組成物。
【請求項25】
前記治療薬が抗ウイルス剤、抗生物質、抗真菌剤、抗腫瘍剤、造影剤、またはそれらの組合せである、請求項22に記載の組成物。
【請求項26】
前記神経または腎障害がシスプラチン、カルボプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ナベルビン、ゲムシトビン、エトポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、またはこれらの組合せの投与によって発生する、請求項19に記載の組成物。
【請求項27】
前記神経または腎障害が3'-アジド-3'-デオキシチミジン(AZT)、d4T(スタバジン)、ddI(ジダノシン)、ddC(ザルシタビン)、3TC(ラミブジン)、ゲンタマイシン、トブラマイシン、カナマイシン、アミカシン、バンカマイシン(vancamicin)、アンホテリシンB、またはこれらの組合せの投与によって発生する、請求項19に記載の組成物。
【請求項28】
静脈内、皮下、筋肉内、皮内、局所的、または経口的に投与される、請求項1、2または19に記載の組成物。
【請求項29】
前記ヒトが癌患者、AIDS患者、糖尿病患者、または高血圧患者である、請求項19に記載の組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−188532(P2006−188532A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64774(P2006−64774)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【分割の表示】特願2000−523983(P2000−523983)の分割
【原出願日】平成10年12月9日(1998.12.9)
【出願人】(500271362)メドイミューン オンコロジー,インコーポレーテッド (1)
【出願人】(500271373)
【Fターム(参考)】