アミノ酸高含有食品素材の製造方法、及び特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法、並びにこれらの製造方法を用いて製造される食品素材、及びこれらの食品素材を添加した食品
【課題】 アミノ酸高含有食品素材及び特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法、並びにこれらの製造方法を用いて製造される食品素材、及びこれらの食品素材を添加した食品の提供。
【解決手段】
(1)生キノコ、又は凍結生キノコを保温して自己消化させた後、エキスを分離するアミノ酸高含有食品素材の製造方法
(2)下記の(A)〜(C)の工程による特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)キノコに水を加えてスラリーを得る工程
(B)前記スラリーからエキス(液状物質)を分離する工程
(C)前記エキスにアルギニンを添加して、エキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる工程
【解決手段】
(1)生キノコ、又は凍結生キノコを保温して自己消化させた後、エキスを分離するアミノ酸高含有食品素材の製造方法
(2)下記の(A)〜(C)の工程による特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)キノコに水を加えてスラリーを得る工程
(B)前記スラリーからエキス(液状物質)を分離する工程
(C)前記エキスにアルギニンを添加して、エキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アミノ酸高含有食品素材の製造方法、及び特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法、並びにこれらの製造方法を用いて製造される食品素材、及びこれらの食品素材を添加した食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(イ)きのこ類を野菜や果物と同様の食材として捕らえ、温風乾燥や凍結乾燥などにより乾燥し粉末化したものはすでに存在している(特許文献1及び特許文献2)。
(ロ)生キノコを凍結させてからそのまま粉砕し、その後融解させてから回収すると(凍結粉砕法)高い遊離アミノ酸含有量のキノコエキスが得られる(特許文献3)。
(ハ)エノキタケは暗黒下で子実体(キノコ)を発生させ、柄が長く傘が小さいキノコが多数束になった形態で一般的に販売されている。
(ニ)子嚢菌類である酵母を自己消化処理あるいは酵素処理し、遊離アミノ酸を高濃度に含有させたエキス系調味料(酵母エキス)が市販されている。
(ホ)冷却処理をすることにより、シジミ貝中のオルニチン含有量を増加させる方法が報告されている(特許文献4)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−189710
【特許文献2】特開昭50−46872
【特許文献3】特願2005−240561
【特許文献4】特開2001−204432
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は以前、生キノコを凍結させた後、そのまま粉砕し、その後融解させてからそのエキス回収すると、遊離アミノ酸を豊富に含むキノコエキスが得られることを知り、これに基づいて特許出願(発明の名称:食品素材、及びその製造方法、及びこの食品素材を添加した食品)をした事実がある(特許文献3)。
しかしながら、キノコエキスを得るための原料のキノコは、主に生食用として流通しており、エキス原料としては高価である。従って、より遊離アミノ酸含有量の高いキノコエキスの製造法が求められる。
又、キノコには機能性アミノ酸であるγ−アミノ酪酸(GABA)やオルニチンを含むものがあるが、これらの含有量を高めることはキノコエキスを原料とする食品素材及びこれを含有する食品の価値を高めることになる。
【0005】
オルニチンは、成長ホルモンを分泌させて筋肉合成を促進させる、あるいは基礎代謝を高めて肥満を予防する食品素材として、米国を中心に使用されている。また、ヨーロッパでは、肝臓障害を改善する医薬品として用いられている。
日本でも、L−オルニチン塩酸塩の形態で、食品素材として使用可能である。オルニチンは成長ホルモンの分泌を促すことが知られており、また、オルニチン回路の成分としてアンモニアの解毒に関わると共に、ポリアミンの前駆体となる。また、オルニチン回路を活性化させて肝機能障害に伴う高アンモニア血症を改善したり、免疫増強作用を示したりすることも知られている。
従って、オルニチン含有量の高い食品素材を開発することは、非常に意義のあることである。
【0006】
オルニチンは、食品素材では特に二枚貝のシジミに多く、エキス100g中186mg含まれている。シジミを冷凍すると、オルニチン含量が約4倍に増加する(特許文献4)。
栽培キノコのエノキタケ、ブナシメジ、ハタケシメジ、マッシュルーム、雪霊茸のエキスには多量のオルニチンが含まれている。その含有量は94.5〜136.5mg/エキス100mlで、これらのエキスを乾燥させることにより、天然オルニチンを0.96g/100g〜1.23g/100g含む素材を得ることができる(特許文献3)。この含有量は計算上冷凍シジミに含まれるオルニチン含有量を超えるが、現在市販されているサプリメントによる1日当たりのオルニチン摂取量の目安は500mg〜1000mgとかなり多い。
【0007】
本発明は、キノコ類に豊富に含まれている遊離アミノ酸を自己消化処理によって更に増加させ、遊離アミノ酸含有量の非常に高いエキスを製造するとともに、このエキスを用いた遊離アミノ酸含有量の高い新しい食品素材、及びその製造方法、及びこの食品素材を添加した食品を提供することを目的とする。
また、特にキノコエキスにアルギニンを添加し、機能性アミノ酸であるオルニチンに変換させてオルニチン高含有量の新しい食品素材、及びその製造方法、及びこの食品素材を添加した食品をも提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、下記の請求項1〜請求項18により構成されている。
〔請求項1〕 下記の(A)及び(B)の工程を順次経て生産されることを特徴とするアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は生キノコを凍結した後、これを保温して自己消化させ、キノコの自己消化物を得る工程
(B)前記自己消化物からエキス(液状物質)を分離する工程
〔請求項2〕 下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とするアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は生キノコを凍結した後、これらを粉砕又はこれらに水を加えて粉砕し、キノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーからエキス(液状物質)を分離する工程
(C)前記エキスを保温して自己消化させる工程
〔請求項3〕 自己消化後のエキスを濃縮又は(/及び)乾燥して、ペースト状又は粉末状とする請求項1、又は請求項2に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項4〕 自己消化させる条件が、下記の(a)及び(b)である請求項1〜請求項3に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(a)温度:20℃〜80℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜10時間)
〔請求項5〕 キノコにエノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジ、ヤマブシタケ、ハタケシメジ、シイタケ、マイタケ、ツクリタケ(マッシュルーム)、エリンギ、アガリクス、又はバイリングを使用する請求項1〜請求項4に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項6〕 キノコにエノキタケを用い、暗黒下で子実体を形成させた後、室温で光を照射して子実体の傘を大きくさせた生エノキタケを用いる請求項1〜請求項5に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項7〕 請求項1〜6に記載するキノコにエノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジ、ハタケシメジ、シイタケ、ツクリタケ、アガリクス、又はバイリング用いて、特にオルニチンを豊富に含有させるアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項8〕 請求項1〜請求項7に記載する製造方法を用いて製造されるアミノ酸高含有食品素材。
〔請求項9〕 請求項8に記載する食品素材を添加して栄養を強化し、かつ呈味性を改善したことを特徴とする食品。
〔請求項10〕 下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は凍結生キノコを破砕してキノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーにアルギニンを添加して、スラリー中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる工程
(C)前記スラリーからエキスを分離する工程
〔請求項11〕 下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は凍結生キノコを破砕してキノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーからエキス(液状物質)を分離する工程
(C)前記エキスにアルギニンを添加して、エキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる工程
〔請求項12〕 請求項10、又は請求項11の(A)工程に代えて、「酵素が失活しない温度帯で乾燥したキノコの粉末に水を加えてキノコのスラリーを得る工程」とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項13〕 請求項10〜請求項12のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させた後のエキスを、濃縮又は(/及び)乾燥して、ペースト状又は粉末状とし、特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項14〕 アルギニンの添加量が、請求項10〜12に記載するエキス1Lに付き、1g〜50gである請求項9〜請求項12に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項15〕 オルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる条件が、下記の(a)〜(c)である請求項10〜請求項12に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(a)温度:30℃〜70℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)pH:5.0〜11.0(より好ましくは、7.0〜10.0)
(c)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜8時間)
〔請求項16〕 キノコにエノキタケ、ヒラタケ、バイリング(雪霊茸、白嶺茸)、タモギタケ、ハタケシメジ、ブナシメジ、エリンギ、アガリクスを使用する請求項10〜請求項15に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項17〕 キノコにエノキタケを用い、暗黒下で子実体を形成させた後、室温で光を照射して子実体の傘を大きくさせた生エノキタケを用いる請求項10〜請求項16に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項18〕 請求項10〜請求項17に記載する製造方法を用いて製造される特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材。
〔請求項19〕 請求項18に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材を添加して栄養を強化し、かつ呈味性を改善したことを特徴とする食品。
【0009】
本願発明を以上のように構成する理由は、下記のとおりである。
(a)生キノコは、自己消化の工程を経ることによってキノコ自身の持つ酵素類により細胞内外のタンパク質が分解されるので、例えば、凍結粉砕法で回収したキノコエキス(特許文献3)に比べて遊離アミノ酸含有量のより高いエキスが容易に回収できることが判明したこと。
すなわち、キノコの子実体を生のまま、若しくは凍結した後、保温して自己消化させることにより、生のキノコの子実体中に多量に含まれている遊離アミノ酸を効率よく抽出できること、又キノコの子実体を生のまま、若しくは凍結したものをそのまま破砕してエキスを分離し、これを保温して自己消化させることにより、エキス中の遊離アミノ酸量を増加させることができること(請求項1、請求項2)。
(b)生キノコ、又は凍結生キノコを破砕して得られるキノコのスラリー、又はスラリーから分離して得られるエキスに、アルギニンを添加して保温すれば、キノコエキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)により、アルギニンからオルニチンが効率よく生成されることが判明したこと(請求項10、請求項11)。
又、前記キノコエキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)は、生キノコに限らず、酵素が失活しない温度帯で乾燥したキノコの粉末に水を加えて戻したスラリー又はスラリーから分離されたエキスにおいても、十分な活性があることが判明したこと(請求項12)。
(c)エノキタケは、終始暗黒下で栽培するよりも、暗黒下で子実体を形成させた後、室温で光を照射して子実体の傘を大きくさせたものを使用する方が、遊離アミノ酸を多量に得られることが判明したこと(請求項6、請求項16)。
(d)生キノコを自己消化させて得られるエキスを濃縮又は乾燥すれば、遊離アミノ酸高含有食品素材(請求項3及び請求項8)が容易に得られることが判明したこと。(e)生キノコのエキス(スラリ−中のエキスも含む)にアルギニンを添加して、生キノコエキス中に含まれるオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)によりオルニチンを生成(増加)させたエキスを濃縮又は乾燥すれば、特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材(請求項12、請求項17)が容易に得られることが判明したこと。
(f)前記(d)又は(e)に記載した遊離アミノ酸高含有食品素材、又は特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材を一般食品に添加すれば、食品に容易に旨味を付与することができ、又かてて加えて毎日オルニチンの必要量を容易に摂取することができること(請求項9、請求項18)。
【0010】
本願発明に用いる原料のキノコは生キノコでも、生キノコの凍結品でもよい。
【0011】
本願発明において、自己消化とは、生キノコ(生キノコを凍結したものを含む)をそのまま、若しくは破砕したもの(スラリー)を一定範囲の温度に保温すること、又は生キノコ(生キノコを凍結したものを含む)を破砕したもの(スラリー)から分離したエキスを一定範囲の温度に保温することを言う。
自己消化は、通常下記の条件により行う。
(a)温度:20℃〜80℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜10時間)
より具体的には、キノコに水を加えてから保温して自己消化させたり、ジューサー等で生キノコ或いは凍結キノコを破砕した後に自己消化させたりしても良い。この自己消化の工程を経ることによってキノコ自身の持つ酵素類により細胞内外のタンパク質が分解され、凍結粉砕法で回収したキノコエキスに比べて遊離アミノ酸含有量のより高いエキスが回収できる。
エキスの回収は、自己消化させた後にそのまま或いは一度凍結・融解、もしくは凍結・粉砕・融解後に圧搾又は遠心分離等の手段により行う。
【0012】
市販されているキノコ中、エノキタケは、通常暗黒下で5〜10℃に保つことにより、子実体の傘が小さく(直径1cm以下)、柄の長いキノコを束生させたものが栽培され、販売されている。
【0013】
しかし、エノキタケは、柄が5〜10cm程度に伸びたところで、15〜25℃程度の室温で蛍光灯のような電灯の下で1〜2日間栽培すると傘が大きくなり、最大直径が2.5cm程度に達する。このように傘を大きくしたエニキタケのエキスは、同じ時間、5〜10℃、暗黒化で栽培したキノコのエキスに比べ、遊離アミノ酸含有量が顕著に増加することが判明した。
このように栽培されたエノキタケに、自己消化処理を行うことにより遊離アミノ酸含有量の非常に高いエキスを得ることができる。
【0014】
自己消化処理により得られたキノコエキス、又はオルニチンを増やして得られたキノコエキスを濃縮してペースト状製品、又は真空凍結乾燥や温風乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥等の効率の良い乾燥法で乾燥することにより、遊離アミノ酸含有量の非常に高い食品素材を製造することが可能である。
乾燥温度は、120℃以上になるとエキスが炭化してしまうため80℃以下が望ましい。
【0015】
本願発明においては、オルニチン合成酵素(アルギナーゼ)の基質であるアルギニンを、キノコエキス(生キノコ又は凍結生キノコを破砕して得られるキノコのスラリー、又はスラリーから分離して得られるキノコエキス)に添加することにより、オルニチンを多量に生成させることができる。
原料キノコからエキスを得るには、生キノコ又はその凍結品をホモジナイザー又はジューサー等で粉砕した後、圧搾や遠心分離等でエキスを回収する。キノコに水を加えて粉砕した後エキス溶液を回収しても良い。
又、前記キノコエキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)は、生キノコに限らず、酵素が失活しない温度帯で乾燥したキノコの粉末に水を加えて戻したスラリー又はスラリーから分離されたエキスを使用してもよい。
また、乾燥キノコ粉末とアルギニンを予め混合しておき、これに水を添加したものを、以下に記載する条件下に保持してもよい。
【0016】
アルギニンを添加してオルニチンを生成させる好適な条件(反応条件)は下記のとおりである。
(a)温度:30℃〜70℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)pH:5.0〜11.0(より好ましくは、7.0〜10.0)
(c)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜8時間)
(d)添加するアルギニンの量(アルギニン/エキス):1g/L〜50g/L
前記条件に保持した後、80℃以上の熱水中で酵素を失活させ、濾過或いは遠心分離等にて沈殿物を除去する。
【0017】
種々のキノコについて調べた結果、オルニチン生成量は、キノコの種類によって異なるが、エノキタケ、ヒラタケ、バイリング、ブナシメジ、エリンギ、アガリクス等のキノコにおいて、オルニチン生産性が非常に高いことが判明した(後記する実施例10参照)。
【0018】
前記アルギニンを基質とするアルギナーゼによる反応では、オルニチンのほかに副産物として尿素やアンモニアが生成する。
ヒラタケ、バイリングで高濃度の尿素が検出された。
又,エノキタケ、ブナシメジ、エリンギ、アガリクスでは尿素の代わりに高濃度のアンモニアが生成した。このアンモニアは、エキス成分を濃縮するための乾燥工程で容易に除去される。尿素は、人体ではアンモニアを無毒化するために尿素サイクルで合成され、毒性は非常に低いことが(社)日本化学物質安全・情報センターの資料で示されている(http://www.jetoc.or.jp/HP_SIDS/htmlfiles/57-13-6.html)。
以上のようにして得られたエキスを真空凍結乾燥や温風乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥等の効率の良い乾燥法で乾燥することにより、重量百分率で10%以上のオルニチンを含む食品素材を製造することが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本願発明によれば、大量に生産可能な市販のキノコから、アミノ酸高含有食品素材,及び特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材を容易に生産することができるので、旨味を付与する調味料として、又旨味を付与すると共にオルニチンを強化した調味料を提供することができるという効果を有する。
【実施例1】
【0020】
(1)エノキタケエキスの調製
市販のエノキタケを購入し、以下の方法で凍結粉砕エキス、自己消化エキスを調製した。
(A)凍結粉砕エキス
エノキタケを-20℃のフリーザー(チェストフリーザーHF-10CG,三洋電機株式会社)に入れて凍結させた後、凍結したままミル(TM807、株式会社テスコム)で粉砕した。この粉砕物を50 mlの遠心チューブに入れてしばらく室温に放置し、完全に融解させた。その後、遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3000×g、10分間遠心して残渣とエキスを分離し、エキスのみを回収した。
(B)自己消化エキス
生エノキタケを50 ml遠心チューブに詰め、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃のそれぞれの温度で6時間保温した後、遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3,000×g、10分間遠心して残渣とエキスを分離し、エキスのみを回収した。
(2)エノキタケエキスの遊離アミノ酸分析
回収したエキスは回収量を測定後80℃の温浴に10分間浸して酵素を失活させ、一部を卓上微量高速遠心機(CT13R、日立工機株式会社)で16,000×g、10分間遠心した。上清をポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、濾液をサンプル希釈液(クエン酸リチウム緩衝液:6.9g/Lクエン酸リチウム(4H2O)、1.3g/L塩化リチウム、8.8g/Lクエン酸、4.0 ml/L塩酸、40.0 ml/Lエタノール、3.1 ml/L BRIJ-35(20%)、2.5 ml/Lチオジグリコール、0.1 ml/L n-カプリル酸; 日本電子(株)で販売)で適宜希釈してアミノ酸分析用サンプル溶液とした。サンプル溶液を全自動アミノ酸分析機(JLC-500/V、日本電子株式会社)用のバイアル瓶に入れてセットし、50μlを注入して分析を行った。装置の操作は付属の操作マニュアルに従った。
(3)アミノ酸分析結果
図1に各回収エキス中の総遊離アミノ酸量とエキス回収量を示す。尚、総遊離アミノ酸量は回収したエキス100 ml中の含有量、エキス回収量は試験に供したキノコ1 kg当たりの量で記載した。
図1の結果によれば、30〜60℃、6時間の自己消化処理でエキスの総遊離アミノ酸量は凍結粉砕処理エキスを上回り(特許文献3参照)、特に40℃で約1.58倍、50℃で約1.54倍と高かった。また、40〜70℃、6時間の自己消化処理で凍結粉砕処理(特許文献3参照)と同等量のエキスが回収できた。総遊離アミノ酸量とエキス回収量から考えて、自己消化処理の最適温度は40℃〜60℃であることがわかる。
【実施例2】
【0021】
生エノキタケを詰めた50 ml遠心チューブを数本ずつ40℃及び50℃の孵卵器に入れ、一定時間経過ごとに取り出した。取り出した遠心チューブはすぐに遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3,000×g、10分間遠心して残渣とエキスを分離し、エキスのみを回収した。エキスから実施例1の場合と同様にサンプル溶液を調製し、アミノ酸分析を行って総遊離アミノ酸量を算出した。図2に結果を示す。
15時間まで自己消化処理を行ったが、40℃と50℃で総遊離アミノ酸量の増加の仕方はほとんど変わらなかった。しかしながら、雑菌の繁殖を考慮した場合、50℃、6〜8時間の処理が良い。
【実施例3】
【0022】
生エノキタケを詰めた50 ml遠心チューブを16本用意し、8本をフリーザー(チェストフリーザーHF-10CG,三洋電機株式会社)で凍結させた。全てのチューブを40℃の孵卵器に入れ、一定時間経過ごとに生キノコと凍結キノコのチュ−ブを1本ずつ取り出した。取り出した遠心チューブはすぐに遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3,000×g、10分間遠心して残渣とエキスを分離し、エキスのみを回収した。エキスから実施例1の場合と同様にサンプル溶液を調製し、アミノ酸分析を行って総遊離アミノ酸量を算出した。図3に結果を示す。
総遊離アミノ酸量は、凍結キノコを自己消化処理した方が、処理時間が同じ場合高くなることがわかった。原料のキノコを安定に供給するためには何らかの方法でキノコを保存しなければならないが、図3の結果は凍結保存が遊離アミノ酸高含有量エキスを製造する際に非常に有効な手段であることを示している。
【実施例4】
【0023】
1000 ml種菌瓶で栽培し、10℃、暗黒下で子実体(キノコ)を発生させたエノキタケを4本用意し、2本を室温(20〜24℃)、蛍光灯下(約1000 lux)で2日間栽培した。他の2本は、コントロールとして10℃、暗黒下で2日間栽培した。栽培後収穫したそれぞれのエノキタケの形態を図4に示す。重量は室温、蛍光灯下栽培品が平均273.5 g、コントロール品が279.4 gで、ほとんど変わらなかったが、室温、蛍光灯下栽培品の傘の直径は最大2.5 cmに達し、中心付近の子実体の柄は約3.5 cm伸びた。
これらのキノコをフリーザー(チェストフリーザーHF-10CG,三洋電機株式会社)で凍結し、実施例1と同様に凍結粉砕エキスを調製した。これらエキスから実施例1の場合と同様にサンプル溶液を調製し、アミノ酸分析を行った。
さらにこれらキノコの凍結品を50℃の孵卵器に入れ、6時間保温して自己消化処理した。処理後再び凍結し、実施例1と同様に凍結粉砕エキスを調製した。これらエキスから実施例1の場合と同様にサンプル溶液を調製し、アミノ酸分析を行った。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
室温、蛍光灯下栽培品の総遊離アミノ酸含有量は、コントロール品の約1.7倍という高い値を示した。特に旨味の主成分であるグルタミン酸の含有量は、コントロールの約1.96倍であった。
また、自己消化により、総遊離アミノ酸含有量は、収穫後の場合と比べてコントロールでは、約1.36倍、室温、蛍光下栽培品は約1.31倍に増加した。上記エノキタケエキス中のアミノ酸含有量が増加し、更に自己消化処理することによって非常に高濃度アミノ酸を含むエキスを回収できることがわかった。
自己消化処理の場合、キノコ自身の酵素を働かせるためには、20℃〜80℃、より好ましくは40℃〜60℃での保温が必要だが、この温度帯は雑菌も繁殖しやすいため、長時間の保温は危険である。
これに対し、キノコ栽培の最後に、温度と光の条件を少し変えてキノコの傘を大きく成長させることは、極めて容易であり、この方法は、高濃度遊離アミノ酸含有エキスを得るための前処理として優れている。
【実施例5】
【0026】
市販されている種々のキノコについて、購入後直ちに凍結させたものとその凍結品を50℃、6時間自己消化処理したものから実施例1の場合と同様の方法でキノコエキスサンプルを作製し、アミノ酸分析を行って総遊離アミノ酸量を算出した。結果を図5に示す。
各キノコともに自己消化処理を行うことによって、回収したエキスの総遊離アミノ酸量が未処理の場合と比べて約1.4〜3倍に増加することを確認した。自己消化後の各キノコエキスを60℃、48時間乾燥した場合に得られたペーストと市販されている酵母エキスの総遊離アミノ酸量、γ−アミノ酪酸含有量およびオルニチン含有量を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
総遊離アミノ酸量は全てのキノコペーストで酵母エキス1及び2のそれを大きく上回り、キノコの自己消化処理エキスを乾燥させることにより非常に高濃度の遊離アミノ酸を含有する食品素材を製造することが可能であることが判明した。また、エノキタケペースト、アガリクスペーストでγ−アミノ酪酸、エノキタケペースト、ヒラタケペースト、ブナシメジペースト、ハタケシメジペースト、シイタケペースト、ツクリタケペースト、アガリクスペースト、バイリングペーストでオルニチン含有量が高かった。
【実施例6】
【0029】
生のエノキタケをジューサー(TM807、株式会社テスコム)に入れ、純水をキノコの半分の重量加えて粉砕した。粉砕物を50 ml遠心チューブに入れ、遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3,000×g、10分間遠心して残渣とエキスジュースを分離し、エキスジュースのみを回収した(生キノコエキスジュース)。
凍結したエノキタケについても同様の方法でエキスジュースを作製した(凍結キノコエキスジュース)。これらのエキスジュース20 mlにアルギニン0.2 g(1.148 mmol)を加え、50℃、6時間保温後溶液を1 ml採取して80℃の水浴に10分間浸し、酵素を失活させた。卓上微量高速遠心機(CT13R、日立工機株式会社)で16,000×g、10分間遠心した後、上清をポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過した。この濾液から実施例1に準じてアミノ酸分析用サンプルを調整し、アミノ酸分析を行ってオルニチン、アルギニン、アンモニアの含有量を測定した。さらに、生キノコエキスジュースを一晩冷凍及び冷蔵(5℃)保存した後室温に戻し、同様にアルギニンを加えて反応を行いオルニチン、アルギニン、アンモニアの含有量を測定した。結果を図6に示す。
オルニチンの生産効率は、エキスジュースを生キノコ、凍結キノコいずれから調製してもほぼ同じであったが、残存するアルギニン量は凍結キノコの場合の方が多かった。また、生キノコエキスジュースを凍結保存した場合オルニチン生産効率がエキスジュース調製直後に比べて約半分となり、冷蔵保存の場合はほとんど生産されなくなることが判明した。
【実施例7】
【0030】
冷凍エノキタケから実施例6と同様の方法でエキスジュースを調製し、エキスジュース20 mlにアルギニン0.4 g(2.296 mmol)を加えて30℃、40℃、50℃、60℃の各温度で6時間保温した。この溶液を実施例5の場合と同様に加熱処理、フィルター濾過等を行い、アミノ酸分析用サンプルを調製して分析を行った。各温度によるオルニチン、アルギニン、アンモニア量の比較結果を図7に示す。
この結果より、50℃での保温が最も効率良くオルニチンを生産できることが判明した。
【実施例8】
【0031】
実施例7と同様に調製したエノキタケジュース20 mlにアルギニン0.4 g(2.296 mmol)を加え、90%酢酸及び1N水酸化ナトリウムでpHを4、5、6、7、8、9、10、11に調製して50℃、6時間保温した。保温後実施例5の場合と同様に加熱処理、フィルター濾過等を行い、アミノ酸分析用サンプルを調製して分析を行った。溶液のpHの違いによるオルニチン、アルギニン、アンモニア量の比較結果を図8に示す。
この結果より、pH8〜10でオルニチンは効率良く生産されることが判明した。原料のアルギニンは塩基性アミノ酸で、エノキタケエキスジュースに1〜5%加えるとこの溶液のpH値は9〜10となるため、pH調製を行うことなしにオルニチン生成を効率良く行うことができる。
【実施例9】
【0032】
実施例7と同様に調製したエノキタケジュース20 mlにアルギニンを0.2 g(1.148 mmol)加え、50℃で保温しながら2時間、4時間、6時間、8時間経過時に1 mlずつサンプリングし、80℃、10分間加熱して酵素を失活させた。実施例5の場合と同様にアミノ酸分析用サンプルを調製し、アミノ酸分析を行ってオルニチン、アルギニン、
アンモニア量を測定した。結果を図9に示す。
保温時間6〜8時間でオルニチン生成量の増加及びアルギニン残存量の減少がほぼ止まることがわかった。8時間程度でアルギナーゼが失活することが推察される。
【実施例10】
【0033】
市販されているヒラタケ、バイリング、タモギタケ、ヤマブシタケ、ハタケシメジ、ブナシメジ、マッシュルーム、マイタケ、シイタケ、エリンギ、アガリクスからエノキタケの場合と同様に生キノコエキスジュースを調製し、ジュース20 mlに対してアルギニン0.4 g(2.296 mmol)を加えて50℃、6時間保温した。なお、これらのジュースのpHは9〜10の範囲であった。これらのジュースからエノキタケの場合と同様にアミノ酸分析用サンプルを調製し、アミノ酸分析を行ってオルニチンとアンモニアの生成量とアルギニンの残存量を測定した。結果を図10に示す。
ヒラタケ、バイリング、ブナシメジ、エリンギ、アガリクスでエノキタケと同様のオルニチン生産能が認められた。また、ヒラタケとバイリングでは副産物であるアンモニアがほとんど生成しなかったが、尿素が高濃度(ヒラタケ:108.3μmol/ml, バイリング:107.6μmol/ml)に生成した。さらに、ジュースにアルギニンを添加した後90%酢酸を用いてpH値をジュースのpH値近くまで下げ、50℃、6時間保温してオルニチンの生産能を比較した。結果を図11に示す。
pH値が5〜7の中性付近では、各種キノコエキスジュースのオルニチン生産能は非常に低いことが判明した。
【実施例11】
【0034】
市販のエノキタケ1 kgに500 gの純水を加え、ジューサー(TM807、株式会社テスコム)で粉砕した。粉砕物を50 ml遠心チューブ30 本に約40 gづつ詰め、遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3,000×g、10分間遠心して残渣とエキスを分離し、400 mlのエキスを回収した。このエキスに6 g(1.5%(w/v))のアルギニンを添加し、50℃、6時間保温した。保温後溶液を1000 mlのガラスビーカーに移して80℃のウォ−タ−バス(BM400、ヤマト科学株式会社)に入れて加熱後、濾過して沈殿物を除去した。回収した濾液350 ml中のアンモニアを蒸発除去するため、濾液を入れた1000 mlガラスビーカーを再度80℃のウォーターバスに入れて時々攪拌しながら加熱した。濾液の温度が80℃に達してから30分後に加熱を止めてウォーターバスからビーカーを取り出し、オルニチン高含有量エノキタケエキスを得た。このエキス1 mlをポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、アミノ酸分析用サンプル希釈液(実施例1参照)で適宜希釈してアミノ酸分析を行った。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
上記結果のように、1.5 g/100 ml(86.1μmol/ml)のアルギニン添加により、1.0137 g/100 ml(76.696μmol/ml)のオルニチンを含むエノキタケエキスが得られた。アルギニン添加前のエキスのオルニチン含有量は79.6 mg/100 ml(6.02μmol/ml)、アルギニン含有量は21.6 mg/100 ml(1.24μmol/ml)であったので、添加したアルギニンのオルニチンへの変換率は82.8%と推定される。このエキスを80℃、48時間乾燥したところ水分含量約5%の褐色のペ−ストが得られた。このペーストを水に溶かしてポアサイズ0.2μmのメンブレンフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、濾液をアミノ酸分析用サンプル希釈液で適宜希釈してアミノ酸分析を行ったところ、オルニチン含有量は約11.3 g/100 g、γ−アミノ酪酸は約1.1 g/100 gであった。
【実施例12】
【0037】
市販のエノキタケ約150gを凍結乾燥機(FRD-50M、岩城硝子(株))で凍結乾燥し、ミル(TM807、(株)テスコム)で粉末化した。この粉末3gとアルギニン0.3gを混合し水を加えて20mlの溶液に調製した(アルギニン添加量1.5%(w/v))。この溶液を50℃、6時間保持した後、実施6の場合と同様に加熱処理及びフィルター濾過を行い、アミノ酸分析用サンプルを調製して分析を行った。オルニチンとアンモニア生成量及びアルギニン残存量の定量結果を表4に示す。
【0038】
【表4】
【0039】
次に、前記処理した濾液10mlを80℃、48時間乾燥したところ、水分含量約5%の褐色ペーストが得られた。このペーストを水に溶かしてポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、濾液をサンプル希釈液で適宜希釈してアミノ酸分析を行ったところ、オルニチン含有量は約12.3g/100gであった。
この結果より、凍結乾燥エノキタケ粉末はオルニチン生産用酵素製剤として使用できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本願発明に係る食品素材は、下記の用途を期待できる。
(a)キノコ自己消化処理によるアミノ酸高含有量食品素材
万能型のエキス調味料として酵母エキスと同様に使用できる。例えば、自己消化エキスは液体スープ、ジュース等の飲料の味付けに使用できる。エキス粉末やペーストは各種複合調味料、調味液、調味味噌、粉末スープ等の調味素材として使用できる。さらに、アミノ酸含有を謳った健康飲料や健康食品等の素材として、特に天然物由来のアミノ酸原料として使用できる。
(b)キノコ由来のオルニチン高含有量食品素材
実施例11のエノキタケエキスペーストを用いた場合、以下の様な用途が考えられる。いずれも1食分に付き500 mg以上のオルニチンを含む。
【0041】
A.味噌汁用調味味噌
味噌汁は塩分0.8%、150 ml/杯として、塩分12%の味噌を使用するとすれば、味噌10 gに上記オルニチン高含有量エノキタケエキスペーストを4.5 g以上混ぜ込む。
B.液体ス−プ類
缶入りスープのような液状スープの場合、缶1本分に上記エキスペーストを4.5 g以上加えて溶かす。
C.粉末スープ類
従来の粉末状のスープの素1杯分に上記エキスペーストを4.5 g以上加え、完全に水分がなくなるまで乾燥させ粉末化する。
D.インスタントカレー、シチュー
固形のルー1皿分(約20 g)の原料に上記エキスペーストを4.5 g以上加えて固める。
E.なめ茸
1食で30 g食べると仮定すると、内容量150 gの製品に対して上記エキスペーストを22.5 g以上加える。
F.サプリメント
例えば、上記エキスペースト45 gに賦形剤を55g加え、50粒の錠剤を作る。5粒/日の摂取を目安とする。
【0042】
これらA〜Eのオルニチン高含有量食品には1食分に付き49.5 mg以上のγ−アミノ酪酸が同時に含まれる。この含有量は、ヤクルト本社販売の特定保健用食品プレティオに含まれるγ−アミノ酪酸(10 mg/本)の約5倍である。さらにこれらA〜Eの食品を製造する際にキノコ自己消化処理エキスまたは自己消化処理エキスペーストや粉末を加えれば、キノコの旨味や風味をさらに強化した食品ができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】温度別自己消化処理を行ったエノキタケのエキス中の総遊離アミノ酸量とエキス回収量を示す図である(実施例1)。
【図2】エノキタケ自己消化処理時間に伴うエキスの総遊離アミノ酸量の変化を示す図である(実施例2)。
【図3】エノキタケの生と凍結キノコを40℃で自己消化処理したときの総遊離アミノ酸量の変化を示す図である(実施例3)。
【図4】10℃、暗黒下で発生させた後、20〜24℃、1000 luxで2日間栽培したエノキタケを示す図である(実施例4)。A:真上から撮影、B:横から撮影(右:20〜24℃、1000 lux、2日、左:10℃、暗黒下、2日)
【図5】種々のキノコの自己消化処理と未処理の場合の総遊離アミノ酸量を示す図である(実施例5)。
【図6】エノキタケエキスジュースの作製法及び保存法の違いによるオルニチン生産能の比較を示す図である(実施例6)。
【図7】保温温度の違いによるオルニチン、アンモニアの生成量及びアルギニンの残存量の比較を示す図である(実施例7)。
【図8】溶液のpHの違いによるオルニチン、アンモニアの生成量及びアルギニンの残存量の比較を示す図である(実施例8)。
【図9】50℃保温におけるオルニチン、アンモニアの生成量及びアルギニン残存量の経時変化を示す図である(実施例9)。
【図10】各種市販キノコエキスジュースのオルニチン生産能の比較(pH9〜10)を示す図である(実施例10)。
【図11】各種市販キノコエキスジュースのオルニチン生産能の比較(pH5〜7)を示す図である(実施例10)。
【技術分野】
【0001】
この発明は、アミノ酸高含有食品素材の製造方法、及び特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法、並びにこれらの製造方法を用いて製造される食品素材、及びこれらの食品素材を添加した食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(イ)きのこ類を野菜や果物と同様の食材として捕らえ、温風乾燥や凍結乾燥などにより乾燥し粉末化したものはすでに存在している(特許文献1及び特許文献2)。
(ロ)生キノコを凍結させてからそのまま粉砕し、その後融解させてから回収すると(凍結粉砕法)高い遊離アミノ酸含有量のキノコエキスが得られる(特許文献3)。
(ハ)エノキタケは暗黒下で子実体(キノコ)を発生させ、柄が長く傘が小さいキノコが多数束になった形態で一般的に販売されている。
(ニ)子嚢菌類である酵母を自己消化処理あるいは酵素処理し、遊離アミノ酸を高濃度に含有させたエキス系調味料(酵母エキス)が市販されている。
(ホ)冷却処理をすることにより、シジミ貝中のオルニチン含有量を増加させる方法が報告されている(特許文献4)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−189710
【特許文献2】特開昭50−46872
【特許文献3】特願2005−240561
【特許文献4】特開2001−204432
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は以前、生キノコを凍結させた後、そのまま粉砕し、その後融解させてからそのエキス回収すると、遊離アミノ酸を豊富に含むキノコエキスが得られることを知り、これに基づいて特許出願(発明の名称:食品素材、及びその製造方法、及びこの食品素材を添加した食品)をした事実がある(特許文献3)。
しかしながら、キノコエキスを得るための原料のキノコは、主に生食用として流通しており、エキス原料としては高価である。従って、より遊離アミノ酸含有量の高いキノコエキスの製造法が求められる。
又、キノコには機能性アミノ酸であるγ−アミノ酪酸(GABA)やオルニチンを含むものがあるが、これらの含有量を高めることはキノコエキスを原料とする食品素材及びこれを含有する食品の価値を高めることになる。
【0005】
オルニチンは、成長ホルモンを分泌させて筋肉合成を促進させる、あるいは基礎代謝を高めて肥満を予防する食品素材として、米国を中心に使用されている。また、ヨーロッパでは、肝臓障害を改善する医薬品として用いられている。
日本でも、L−オルニチン塩酸塩の形態で、食品素材として使用可能である。オルニチンは成長ホルモンの分泌を促すことが知られており、また、オルニチン回路の成分としてアンモニアの解毒に関わると共に、ポリアミンの前駆体となる。また、オルニチン回路を活性化させて肝機能障害に伴う高アンモニア血症を改善したり、免疫増強作用を示したりすることも知られている。
従って、オルニチン含有量の高い食品素材を開発することは、非常に意義のあることである。
【0006】
オルニチンは、食品素材では特に二枚貝のシジミに多く、エキス100g中186mg含まれている。シジミを冷凍すると、オルニチン含量が約4倍に増加する(特許文献4)。
栽培キノコのエノキタケ、ブナシメジ、ハタケシメジ、マッシュルーム、雪霊茸のエキスには多量のオルニチンが含まれている。その含有量は94.5〜136.5mg/エキス100mlで、これらのエキスを乾燥させることにより、天然オルニチンを0.96g/100g〜1.23g/100g含む素材を得ることができる(特許文献3)。この含有量は計算上冷凍シジミに含まれるオルニチン含有量を超えるが、現在市販されているサプリメントによる1日当たりのオルニチン摂取量の目安は500mg〜1000mgとかなり多い。
【0007】
本発明は、キノコ類に豊富に含まれている遊離アミノ酸を自己消化処理によって更に増加させ、遊離アミノ酸含有量の非常に高いエキスを製造するとともに、このエキスを用いた遊離アミノ酸含有量の高い新しい食品素材、及びその製造方法、及びこの食品素材を添加した食品を提供することを目的とする。
また、特にキノコエキスにアルギニンを添加し、機能性アミノ酸であるオルニチンに変換させてオルニチン高含有量の新しい食品素材、及びその製造方法、及びこの食品素材を添加した食品をも提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、下記の請求項1〜請求項18により構成されている。
〔請求項1〕 下記の(A)及び(B)の工程を順次経て生産されることを特徴とするアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は生キノコを凍結した後、これを保温して自己消化させ、キノコの自己消化物を得る工程
(B)前記自己消化物からエキス(液状物質)を分離する工程
〔請求項2〕 下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とするアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は生キノコを凍結した後、これらを粉砕又はこれらに水を加えて粉砕し、キノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーからエキス(液状物質)を分離する工程
(C)前記エキスを保温して自己消化させる工程
〔請求項3〕 自己消化後のエキスを濃縮又は(/及び)乾燥して、ペースト状又は粉末状とする請求項1、又は請求項2に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項4〕 自己消化させる条件が、下記の(a)及び(b)である請求項1〜請求項3に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(a)温度:20℃〜80℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜10時間)
〔請求項5〕 キノコにエノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジ、ヤマブシタケ、ハタケシメジ、シイタケ、マイタケ、ツクリタケ(マッシュルーム)、エリンギ、アガリクス、又はバイリングを使用する請求項1〜請求項4に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項6〕 キノコにエノキタケを用い、暗黒下で子実体を形成させた後、室温で光を照射して子実体の傘を大きくさせた生エノキタケを用いる請求項1〜請求項5に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項7〕 請求項1〜6に記載するキノコにエノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジ、ハタケシメジ、シイタケ、ツクリタケ、アガリクス、又はバイリング用いて、特にオルニチンを豊富に含有させるアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項8〕 請求項1〜請求項7に記載する製造方法を用いて製造されるアミノ酸高含有食品素材。
〔請求項9〕 請求項8に記載する食品素材を添加して栄養を強化し、かつ呈味性を改善したことを特徴とする食品。
〔請求項10〕 下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は凍結生キノコを破砕してキノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーにアルギニンを添加して、スラリー中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる工程
(C)前記スラリーからエキスを分離する工程
〔請求項11〕 下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は凍結生キノコを破砕してキノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーからエキス(液状物質)を分離する工程
(C)前記エキスにアルギニンを添加して、エキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる工程
〔請求項12〕 請求項10、又は請求項11の(A)工程に代えて、「酵素が失活しない温度帯で乾燥したキノコの粉末に水を加えてキノコのスラリーを得る工程」とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項13〕 請求項10〜請求項12のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させた後のエキスを、濃縮又は(/及び)乾燥して、ペースト状又は粉末状とし、特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項14〕 アルギニンの添加量が、請求項10〜12に記載するエキス1Lに付き、1g〜50gである請求項9〜請求項12に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項15〕 オルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる条件が、下記の(a)〜(c)である請求項10〜請求項12に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(a)温度:30℃〜70℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)pH:5.0〜11.0(より好ましくは、7.0〜10.0)
(c)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜8時間)
〔請求項16〕 キノコにエノキタケ、ヒラタケ、バイリング(雪霊茸、白嶺茸)、タモギタケ、ハタケシメジ、ブナシメジ、エリンギ、アガリクスを使用する請求項10〜請求項15に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項17〕 キノコにエノキタケを用い、暗黒下で子実体を形成させた後、室温で光を照射して子実体の傘を大きくさせた生エノキタケを用いる請求項10〜請求項16に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
〔請求項18〕 請求項10〜請求項17に記載する製造方法を用いて製造される特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材。
〔請求項19〕 請求項18に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材を添加して栄養を強化し、かつ呈味性を改善したことを特徴とする食品。
【0009】
本願発明を以上のように構成する理由は、下記のとおりである。
(a)生キノコは、自己消化の工程を経ることによってキノコ自身の持つ酵素類により細胞内外のタンパク質が分解されるので、例えば、凍結粉砕法で回収したキノコエキス(特許文献3)に比べて遊離アミノ酸含有量のより高いエキスが容易に回収できることが判明したこと。
すなわち、キノコの子実体を生のまま、若しくは凍結した後、保温して自己消化させることにより、生のキノコの子実体中に多量に含まれている遊離アミノ酸を効率よく抽出できること、又キノコの子実体を生のまま、若しくは凍結したものをそのまま破砕してエキスを分離し、これを保温して自己消化させることにより、エキス中の遊離アミノ酸量を増加させることができること(請求項1、請求項2)。
(b)生キノコ、又は凍結生キノコを破砕して得られるキノコのスラリー、又はスラリーから分離して得られるエキスに、アルギニンを添加して保温すれば、キノコエキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)により、アルギニンからオルニチンが効率よく生成されることが判明したこと(請求項10、請求項11)。
又、前記キノコエキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)は、生キノコに限らず、酵素が失活しない温度帯で乾燥したキノコの粉末に水を加えて戻したスラリー又はスラリーから分離されたエキスにおいても、十分な活性があることが判明したこと(請求項12)。
(c)エノキタケは、終始暗黒下で栽培するよりも、暗黒下で子実体を形成させた後、室温で光を照射して子実体の傘を大きくさせたものを使用する方が、遊離アミノ酸を多量に得られることが判明したこと(請求項6、請求項16)。
(d)生キノコを自己消化させて得られるエキスを濃縮又は乾燥すれば、遊離アミノ酸高含有食品素材(請求項3及び請求項8)が容易に得られることが判明したこと。(e)生キノコのエキス(スラリ−中のエキスも含む)にアルギニンを添加して、生キノコエキス中に含まれるオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)によりオルニチンを生成(増加)させたエキスを濃縮又は乾燥すれば、特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材(請求項12、請求項17)が容易に得られることが判明したこと。
(f)前記(d)又は(e)に記載した遊離アミノ酸高含有食品素材、又は特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材を一般食品に添加すれば、食品に容易に旨味を付与することができ、又かてて加えて毎日オルニチンの必要量を容易に摂取することができること(請求項9、請求項18)。
【0010】
本願発明に用いる原料のキノコは生キノコでも、生キノコの凍結品でもよい。
【0011】
本願発明において、自己消化とは、生キノコ(生キノコを凍結したものを含む)をそのまま、若しくは破砕したもの(スラリー)を一定範囲の温度に保温すること、又は生キノコ(生キノコを凍結したものを含む)を破砕したもの(スラリー)から分離したエキスを一定範囲の温度に保温することを言う。
自己消化は、通常下記の条件により行う。
(a)温度:20℃〜80℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜10時間)
より具体的には、キノコに水を加えてから保温して自己消化させたり、ジューサー等で生キノコ或いは凍結キノコを破砕した後に自己消化させたりしても良い。この自己消化の工程を経ることによってキノコ自身の持つ酵素類により細胞内外のタンパク質が分解され、凍結粉砕法で回収したキノコエキスに比べて遊離アミノ酸含有量のより高いエキスが回収できる。
エキスの回収は、自己消化させた後にそのまま或いは一度凍結・融解、もしくは凍結・粉砕・融解後に圧搾又は遠心分離等の手段により行う。
【0012】
市販されているキノコ中、エノキタケは、通常暗黒下で5〜10℃に保つことにより、子実体の傘が小さく(直径1cm以下)、柄の長いキノコを束生させたものが栽培され、販売されている。
【0013】
しかし、エノキタケは、柄が5〜10cm程度に伸びたところで、15〜25℃程度の室温で蛍光灯のような電灯の下で1〜2日間栽培すると傘が大きくなり、最大直径が2.5cm程度に達する。このように傘を大きくしたエニキタケのエキスは、同じ時間、5〜10℃、暗黒化で栽培したキノコのエキスに比べ、遊離アミノ酸含有量が顕著に増加することが判明した。
このように栽培されたエノキタケに、自己消化処理を行うことにより遊離アミノ酸含有量の非常に高いエキスを得ることができる。
【0014】
自己消化処理により得られたキノコエキス、又はオルニチンを増やして得られたキノコエキスを濃縮してペースト状製品、又は真空凍結乾燥や温風乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥等の効率の良い乾燥法で乾燥することにより、遊離アミノ酸含有量の非常に高い食品素材を製造することが可能である。
乾燥温度は、120℃以上になるとエキスが炭化してしまうため80℃以下が望ましい。
【0015】
本願発明においては、オルニチン合成酵素(アルギナーゼ)の基質であるアルギニンを、キノコエキス(生キノコ又は凍結生キノコを破砕して得られるキノコのスラリー、又はスラリーから分離して得られるキノコエキス)に添加することにより、オルニチンを多量に生成させることができる。
原料キノコからエキスを得るには、生キノコ又はその凍結品をホモジナイザー又はジューサー等で粉砕した後、圧搾や遠心分離等でエキスを回収する。キノコに水を加えて粉砕した後エキス溶液を回収しても良い。
又、前記キノコエキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)は、生キノコに限らず、酵素が失活しない温度帯で乾燥したキノコの粉末に水を加えて戻したスラリー又はスラリーから分離されたエキスを使用してもよい。
また、乾燥キノコ粉末とアルギニンを予め混合しておき、これに水を添加したものを、以下に記載する条件下に保持してもよい。
【0016】
アルギニンを添加してオルニチンを生成させる好適な条件(反応条件)は下記のとおりである。
(a)温度:30℃〜70℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)pH:5.0〜11.0(より好ましくは、7.0〜10.0)
(c)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜8時間)
(d)添加するアルギニンの量(アルギニン/エキス):1g/L〜50g/L
前記条件に保持した後、80℃以上の熱水中で酵素を失活させ、濾過或いは遠心分離等にて沈殿物を除去する。
【0017】
種々のキノコについて調べた結果、オルニチン生成量は、キノコの種類によって異なるが、エノキタケ、ヒラタケ、バイリング、ブナシメジ、エリンギ、アガリクス等のキノコにおいて、オルニチン生産性が非常に高いことが判明した(後記する実施例10参照)。
【0018】
前記アルギニンを基質とするアルギナーゼによる反応では、オルニチンのほかに副産物として尿素やアンモニアが生成する。
ヒラタケ、バイリングで高濃度の尿素が検出された。
又,エノキタケ、ブナシメジ、エリンギ、アガリクスでは尿素の代わりに高濃度のアンモニアが生成した。このアンモニアは、エキス成分を濃縮するための乾燥工程で容易に除去される。尿素は、人体ではアンモニアを無毒化するために尿素サイクルで合成され、毒性は非常に低いことが(社)日本化学物質安全・情報センターの資料で示されている(http://www.jetoc.or.jp/HP_SIDS/htmlfiles/57-13-6.html)。
以上のようにして得られたエキスを真空凍結乾燥や温風乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥等の効率の良い乾燥法で乾燥することにより、重量百分率で10%以上のオルニチンを含む食品素材を製造することが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本願発明によれば、大量に生産可能な市販のキノコから、アミノ酸高含有食品素材,及び特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材を容易に生産することができるので、旨味を付与する調味料として、又旨味を付与すると共にオルニチンを強化した調味料を提供することができるという効果を有する。
【実施例1】
【0020】
(1)エノキタケエキスの調製
市販のエノキタケを購入し、以下の方法で凍結粉砕エキス、自己消化エキスを調製した。
(A)凍結粉砕エキス
エノキタケを-20℃のフリーザー(チェストフリーザーHF-10CG,三洋電機株式会社)に入れて凍結させた後、凍結したままミル(TM807、株式会社テスコム)で粉砕した。この粉砕物を50 mlの遠心チューブに入れてしばらく室温に放置し、完全に融解させた。その後、遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3000×g、10分間遠心して残渣とエキスを分離し、エキスのみを回収した。
(B)自己消化エキス
生エノキタケを50 ml遠心チューブに詰め、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃のそれぞれの温度で6時間保温した後、遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3,000×g、10分間遠心して残渣とエキスを分離し、エキスのみを回収した。
(2)エノキタケエキスの遊離アミノ酸分析
回収したエキスは回収量を測定後80℃の温浴に10分間浸して酵素を失活させ、一部を卓上微量高速遠心機(CT13R、日立工機株式会社)で16,000×g、10分間遠心した。上清をポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、濾液をサンプル希釈液(クエン酸リチウム緩衝液:6.9g/Lクエン酸リチウム(4H2O)、1.3g/L塩化リチウム、8.8g/Lクエン酸、4.0 ml/L塩酸、40.0 ml/Lエタノール、3.1 ml/L BRIJ-35(20%)、2.5 ml/Lチオジグリコール、0.1 ml/L n-カプリル酸; 日本電子(株)で販売)で適宜希釈してアミノ酸分析用サンプル溶液とした。サンプル溶液を全自動アミノ酸分析機(JLC-500/V、日本電子株式会社)用のバイアル瓶に入れてセットし、50μlを注入して分析を行った。装置の操作は付属の操作マニュアルに従った。
(3)アミノ酸分析結果
図1に各回収エキス中の総遊離アミノ酸量とエキス回収量を示す。尚、総遊離アミノ酸量は回収したエキス100 ml中の含有量、エキス回収量は試験に供したキノコ1 kg当たりの量で記載した。
図1の結果によれば、30〜60℃、6時間の自己消化処理でエキスの総遊離アミノ酸量は凍結粉砕処理エキスを上回り(特許文献3参照)、特に40℃で約1.58倍、50℃で約1.54倍と高かった。また、40〜70℃、6時間の自己消化処理で凍結粉砕処理(特許文献3参照)と同等量のエキスが回収できた。総遊離アミノ酸量とエキス回収量から考えて、自己消化処理の最適温度は40℃〜60℃であることがわかる。
【実施例2】
【0021】
生エノキタケを詰めた50 ml遠心チューブを数本ずつ40℃及び50℃の孵卵器に入れ、一定時間経過ごとに取り出した。取り出した遠心チューブはすぐに遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3,000×g、10分間遠心して残渣とエキスを分離し、エキスのみを回収した。エキスから実施例1の場合と同様にサンプル溶液を調製し、アミノ酸分析を行って総遊離アミノ酸量を算出した。図2に結果を示す。
15時間まで自己消化処理を行ったが、40℃と50℃で総遊離アミノ酸量の増加の仕方はほとんど変わらなかった。しかしながら、雑菌の繁殖を考慮した場合、50℃、6〜8時間の処理が良い。
【実施例3】
【0022】
生エノキタケを詰めた50 ml遠心チューブを16本用意し、8本をフリーザー(チェストフリーザーHF-10CG,三洋電機株式会社)で凍結させた。全てのチューブを40℃の孵卵器に入れ、一定時間経過ごとに生キノコと凍結キノコのチュ−ブを1本ずつ取り出した。取り出した遠心チューブはすぐに遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3,000×g、10分間遠心して残渣とエキスを分離し、エキスのみを回収した。エキスから実施例1の場合と同様にサンプル溶液を調製し、アミノ酸分析を行って総遊離アミノ酸量を算出した。図3に結果を示す。
総遊離アミノ酸量は、凍結キノコを自己消化処理した方が、処理時間が同じ場合高くなることがわかった。原料のキノコを安定に供給するためには何らかの方法でキノコを保存しなければならないが、図3の結果は凍結保存が遊離アミノ酸高含有量エキスを製造する際に非常に有効な手段であることを示している。
【実施例4】
【0023】
1000 ml種菌瓶で栽培し、10℃、暗黒下で子実体(キノコ)を発生させたエノキタケを4本用意し、2本を室温(20〜24℃)、蛍光灯下(約1000 lux)で2日間栽培した。他の2本は、コントロールとして10℃、暗黒下で2日間栽培した。栽培後収穫したそれぞれのエノキタケの形態を図4に示す。重量は室温、蛍光灯下栽培品が平均273.5 g、コントロール品が279.4 gで、ほとんど変わらなかったが、室温、蛍光灯下栽培品の傘の直径は最大2.5 cmに達し、中心付近の子実体の柄は約3.5 cm伸びた。
これらのキノコをフリーザー(チェストフリーザーHF-10CG,三洋電機株式会社)で凍結し、実施例1と同様に凍結粉砕エキスを調製した。これらエキスから実施例1の場合と同様にサンプル溶液を調製し、アミノ酸分析を行った。
さらにこれらキノコの凍結品を50℃の孵卵器に入れ、6時間保温して自己消化処理した。処理後再び凍結し、実施例1と同様に凍結粉砕エキスを調製した。これらエキスから実施例1の場合と同様にサンプル溶液を調製し、アミノ酸分析を行った。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
室温、蛍光灯下栽培品の総遊離アミノ酸含有量は、コントロール品の約1.7倍という高い値を示した。特に旨味の主成分であるグルタミン酸の含有量は、コントロールの約1.96倍であった。
また、自己消化により、総遊離アミノ酸含有量は、収穫後の場合と比べてコントロールでは、約1.36倍、室温、蛍光下栽培品は約1.31倍に増加した。上記エノキタケエキス中のアミノ酸含有量が増加し、更に自己消化処理することによって非常に高濃度アミノ酸を含むエキスを回収できることがわかった。
自己消化処理の場合、キノコ自身の酵素を働かせるためには、20℃〜80℃、より好ましくは40℃〜60℃での保温が必要だが、この温度帯は雑菌も繁殖しやすいため、長時間の保温は危険である。
これに対し、キノコ栽培の最後に、温度と光の条件を少し変えてキノコの傘を大きく成長させることは、極めて容易であり、この方法は、高濃度遊離アミノ酸含有エキスを得るための前処理として優れている。
【実施例5】
【0026】
市販されている種々のキノコについて、購入後直ちに凍結させたものとその凍結品を50℃、6時間自己消化処理したものから実施例1の場合と同様の方法でキノコエキスサンプルを作製し、アミノ酸分析を行って総遊離アミノ酸量を算出した。結果を図5に示す。
各キノコともに自己消化処理を行うことによって、回収したエキスの総遊離アミノ酸量が未処理の場合と比べて約1.4〜3倍に増加することを確認した。自己消化後の各キノコエキスを60℃、48時間乾燥した場合に得られたペーストと市販されている酵母エキスの総遊離アミノ酸量、γ−アミノ酪酸含有量およびオルニチン含有量を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
総遊離アミノ酸量は全てのキノコペーストで酵母エキス1及び2のそれを大きく上回り、キノコの自己消化処理エキスを乾燥させることにより非常に高濃度の遊離アミノ酸を含有する食品素材を製造することが可能であることが判明した。また、エノキタケペースト、アガリクスペーストでγ−アミノ酪酸、エノキタケペースト、ヒラタケペースト、ブナシメジペースト、ハタケシメジペースト、シイタケペースト、ツクリタケペースト、アガリクスペースト、バイリングペーストでオルニチン含有量が高かった。
【実施例6】
【0029】
生のエノキタケをジューサー(TM807、株式会社テスコム)に入れ、純水をキノコの半分の重量加えて粉砕した。粉砕物を50 ml遠心チューブに入れ、遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3,000×g、10分間遠心して残渣とエキスジュースを分離し、エキスジュースのみを回収した(生キノコエキスジュース)。
凍結したエノキタケについても同様の方法でエキスジュースを作製した(凍結キノコエキスジュース)。これらのエキスジュース20 mlにアルギニン0.2 g(1.148 mmol)を加え、50℃、6時間保温後溶液を1 ml採取して80℃の水浴に10分間浸し、酵素を失活させた。卓上微量高速遠心機(CT13R、日立工機株式会社)で16,000×g、10分間遠心した後、上清をポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過した。この濾液から実施例1に準じてアミノ酸分析用サンプルを調整し、アミノ酸分析を行ってオルニチン、アルギニン、アンモニアの含有量を測定した。さらに、生キノコエキスジュースを一晩冷凍及び冷蔵(5℃)保存した後室温に戻し、同様にアルギニンを加えて反応を行いオルニチン、アルギニン、アンモニアの含有量を測定した。結果を図6に示す。
オルニチンの生産効率は、エキスジュースを生キノコ、凍結キノコいずれから調製してもほぼ同じであったが、残存するアルギニン量は凍結キノコの場合の方が多かった。また、生キノコエキスジュースを凍結保存した場合オルニチン生産効率がエキスジュース調製直後に比べて約半分となり、冷蔵保存の場合はほとんど生産されなくなることが判明した。
【実施例7】
【0030】
冷凍エノキタケから実施例6と同様の方法でエキスジュースを調製し、エキスジュース20 mlにアルギニン0.4 g(2.296 mmol)を加えて30℃、40℃、50℃、60℃の各温度で6時間保温した。この溶液を実施例5の場合と同様に加熱処理、フィルター濾過等を行い、アミノ酸分析用サンプルを調製して分析を行った。各温度によるオルニチン、アルギニン、アンモニア量の比較結果を図7に示す。
この結果より、50℃での保温が最も効率良くオルニチンを生産できることが判明した。
【実施例8】
【0031】
実施例7と同様に調製したエノキタケジュース20 mlにアルギニン0.4 g(2.296 mmol)を加え、90%酢酸及び1N水酸化ナトリウムでpHを4、5、6、7、8、9、10、11に調製して50℃、6時間保温した。保温後実施例5の場合と同様に加熱処理、フィルター濾過等を行い、アミノ酸分析用サンプルを調製して分析を行った。溶液のpHの違いによるオルニチン、アルギニン、アンモニア量の比較結果を図8に示す。
この結果より、pH8〜10でオルニチンは効率良く生産されることが判明した。原料のアルギニンは塩基性アミノ酸で、エノキタケエキスジュースに1〜5%加えるとこの溶液のpH値は9〜10となるため、pH調製を行うことなしにオルニチン生成を効率良く行うことができる。
【実施例9】
【0032】
実施例7と同様に調製したエノキタケジュース20 mlにアルギニンを0.2 g(1.148 mmol)加え、50℃で保温しながら2時間、4時間、6時間、8時間経過時に1 mlずつサンプリングし、80℃、10分間加熱して酵素を失活させた。実施例5の場合と同様にアミノ酸分析用サンプルを調製し、アミノ酸分析を行ってオルニチン、アルギニン、
アンモニア量を測定した。結果を図9に示す。
保温時間6〜8時間でオルニチン生成量の増加及びアルギニン残存量の減少がほぼ止まることがわかった。8時間程度でアルギナーゼが失活することが推察される。
【実施例10】
【0033】
市販されているヒラタケ、バイリング、タモギタケ、ヤマブシタケ、ハタケシメジ、ブナシメジ、マッシュルーム、マイタケ、シイタケ、エリンギ、アガリクスからエノキタケの場合と同様に生キノコエキスジュースを調製し、ジュース20 mlに対してアルギニン0.4 g(2.296 mmol)を加えて50℃、6時間保温した。なお、これらのジュースのpHは9〜10の範囲であった。これらのジュースからエノキタケの場合と同様にアミノ酸分析用サンプルを調製し、アミノ酸分析を行ってオルニチンとアンモニアの生成量とアルギニンの残存量を測定した。結果を図10に示す。
ヒラタケ、バイリング、ブナシメジ、エリンギ、アガリクスでエノキタケと同様のオルニチン生産能が認められた。また、ヒラタケとバイリングでは副産物であるアンモニアがほとんど生成しなかったが、尿素が高濃度(ヒラタケ:108.3μmol/ml, バイリング:107.6μmol/ml)に生成した。さらに、ジュースにアルギニンを添加した後90%酢酸を用いてpH値をジュースのpH値近くまで下げ、50℃、6時間保温してオルニチンの生産能を比較した。結果を図11に示す。
pH値が5〜7の中性付近では、各種キノコエキスジュースのオルニチン生産能は非常に低いことが判明した。
【実施例11】
【0034】
市販のエノキタケ1 kgに500 gの純水を加え、ジューサー(TM807、株式会社テスコム)で粉砕した。粉砕物を50 ml遠心チューブ30 本に約40 gづつ詰め、遠心機(CN-1050、アズワン株式会社)で約3,000×g、10分間遠心して残渣とエキスを分離し、400 mlのエキスを回収した。このエキスに6 g(1.5%(w/v))のアルギニンを添加し、50℃、6時間保温した。保温後溶液を1000 mlのガラスビーカーに移して80℃のウォ−タ−バス(BM400、ヤマト科学株式会社)に入れて加熱後、濾過して沈殿物を除去した。回収した濾液350 ml中のアンモニアを蒸発除去するため、濾液を入れた1000 mlガラスビーカーを再度80℃のウォーターバスに入れて時々攪拌しながら加熱した。濾液の温度が80℃に達してから30分後に加熱を止めてウォーターバスからビーカーを取り出し、オルニチン高含有量エノキタケエキスを得た。このエキス1 mlをポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、アミノ酸分析用サンプル希釈液(実施例1参照)で適宜希釈してアミノ酸分析を行った。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
上記結果のように、1.5 g/100 ml(86.1μmol/ml)のアルギニン添加により、1.0137 g/100 ml(76.696μmol/ml)のオルニチンを含むエノキタケエキスが得られた。アルギニン添加前のエキスのオルニチン含有量は79.6 mg/100 ml(6.02μmol/ml)、アルギニン含有量は21.6 mg/100 ml(1.24μmol/ml)であったので、添加したアルギニンのオルニチンへの変換率は82.8%と推定される。このエキスを80℃、48時間乾燥したところ水分含量約5%の褐色のペ−ストが得られた。このペーストを水に溶かしてポアサイズ0.2μmのメンブレンフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、濾液をアミノ酸分析用サンプル希釈液で適宜希釈してアミノ酸分析を行ったところ、オルニチン含有量は約11.3 g/100 g、γ−アミノ酪酸は約1.1 g/100 gであった。
【実施例12】
【0037】
市販のエノキタケ約150gを凍結乾燥機(FRD-50M、岩城硝子(株))で凍結乾燥し、ミル(TM807、(株)テスコム)で粉末化した。この粉末3gとアルギニン0.3gを混合し水を加えて20mlの溶液に調製した(アルギニン添加量1.5%(w/v))。この溶液を50℃、6時間保持した後、実施6の場合と同様に加熱処理及びフィルター濾過を行い、アミノ酸分析用サンプルを調製して分析を行った。オルニチンとアンモニア生成量及びアルギニン残存量の定量結果を表4に示す。
【0038】
【表4】
【0039】
次に、前記処理した濾液10mlを80℃、48時間乾燥したところ、水分含量約5%の褐色ペーストが得られた。このペーストを水に溶かしてポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、濾液をサンプル希釈液で適宜希釈してアミノ酸分析を行ったところ、オルニチン含有量は約12.3g/100gであった。
この結果より、凍結乾燥エノキタケ粉末はオルニチン生産用酵素製剤として使用できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本願発明に係る食品素材は、下記の用途を期待できる。
(a)キノコ自己消化処理によるアミノ酸高含有量食品素材
万能型のエキス調味料として酵母エキスと同様に使用できる。例えば、自己消化エキスは液体スープ、ジュース等の飲料の味付けに使用できる。エキス粉末やペーストは各種複合調味料、調味液、調味味噌、粉末スープ等の調味素材として使用できる。さらに、アミノ酸含有を謳った健康飲料や健康食品等の素材として、特に天然物由来のアミノ酸原料として使用できる。
(b)キノコ由来のオルニチン高含有量食品素材
実施例11のエノキタケエキスペーストを用いた場合、以下の様な用途が考えられる。いずれも1食分に付き500 mg以上のオルニチンを含む。
【0041】
A.味噌汁用調味味噌
味噌汁は塩分0.8%、150 ml/杯として、塩分12%の味噌を使用するとすれば、味噌10 gに上記オルニチン高含有量エノキタケエキスペーストを4.5 g以上混ぜ込む。
B.液体ス−プ類
缶入りスープのような液状スープの場合、缶1本分に上記エキスペーストを4.5 g以上加えて溶かす。
C.粉末スープ類
従来の粉末状のスープの素1杯分に上記エキスペーストを4.5 g以上加え、完全に水分がなくなるまで乾燥させ粉末化する。
D.インスタントカレー、シチュー
固形のルー1皿分(約20 g)の原料に上記エキスペーストを4.5 g以上加えて固める。
E.なめ茸
1食で30 g食べると仮定すると、内容量150 gの製品に対して上記エキスペーストを22.5 g以上加える。
F.サプリメント
例えば、上記エキスペースト45 gに賦形剤を55g加え、50粒の錠剤を作る。5粒/日の摂取を目安とする。
【0042】
これらA〜Eのオルニチン高含有量食品には1食分に付き49.5 mg以上のγ−アミノ酪酸が同時に含まれる。この含有量は、ヤクルト本社販売の特定保健用食品プレティオに含まれるγ−アミノ酪酸(10 mg/本)の約5倍である。さらにこれらA〜Eの食品を製造する際にキノコ自己消化処理エキスまたは自己消化処理エキスペーストや粉末を加えれば、キノコの旨味や風味をさらに強化した食品ができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】温度別自己消化処理を行ったエノキタケのエキス中の総遊離アミノ酸量とエキス回収量を示す図である(実施例1)。
【図2】エノキタケ自己消化処理時間に伴うエキスの総遊離アミノ酸量の変化を示す図である(実施例2)。
【図3】エノキタケの生と凍結キノコを40℃で自己消化処理したときの総遊離アミノ酸量の変化を示す図である(実施例3)。
【図4】10℃、暗黒下で発生させた後、20〜24℃、1000 luxで2日間栽培したエノキタケを示す図である(実施例4)。A:真上から撮影、B:横から撮影(右:20〜24℃、1000 lux、2日、左:10℃、暗黒下、2日)
【図5】種々のキノコの自己消化処理と未処理の場合の総遊離アミノ酸量を示す図である(実施例5)。
【図6】エノキタケエキスジュースの作製法及び保存法の違いによるオルニチン生産能の比較を示す図である(実施例6)。
【図7】保温温度の違いによるオルニチン、アンモニアの生成量及びアルギニンの残存量の比較を示す図である(実施例7)。
【図8】溶液のpHの違いによるオルニチン、アンモニアの生成量及びアルギニンの残存量の比較を示す図である(実施例8)。
【図9】50℃保温におけるオルニチン、アンモニアの生成量及びアルギニン残存量の経時変化を示す図である(実施例9)。
【図10】各種市販キノコエキスジュースのオルニチン生産能の比較(pH9〜10)を示す図である(実施例10)。
【図11】各種市販キノコエキスジュースのオルニチン生産能の比較(pH5〜7)を示す図である(実施例10)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)及び(B)の工程を順次経て生産されることを特徴とするアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は生キノコを凍結した後、これを保温して自己消化させ、キノコの自己消化物を得る工程
(B)前記自己消化物からエキス(液状物質)を分離する工程
【請求項2】
下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とするアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は生キノコを凍結した後、これらを粉砕又はこれらに水を加えて粉砕し、キノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーからエキス(液状物質)を分離する工程
(C)前記エキスを保温して自己消化させる工程
【請求項3】
自己消化後のエキスを濃縮又は(/及び)乾燥して、ペースト状又は粉末状とする請求項1、又は請求項2に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項4】
自己消化させる条件が、下記の(a)及び(b)である請求項1〜請求項3に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(a)温度:20℃〜80℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜10時間)
【請求項5】
キノコにエノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジ、ヤマブシタケ、ハタケシメジ、シイタケ、マイタケ、ツクリタケ(マッシュルーム)、エリンギ、アガリクス、又はバイリングを使用する請求項1〜請求項4に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項6】
キノコにエノキタケを用い、暗黒下で子実体を形成させた後、室温で光を照射して子実体の傘を大きくさせた生エノキタケを用いる請求項1〜請求項5に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載するキノコにエノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジ、ハタケシメジ、シイタケ、ツクリタケ、アガリクス、又はバイリング用いて、特にオルニチンを豊富に含有させるアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7に記載する製造方法を用いて製造されるアミノ酸高含有食品素材。
【請求項9】
請求項8に記載する食品素材を添加して栄養を強化し、かつ呈味性を改善したことを特徴とする食品。
【請求項10】
下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は凍結生キノコを破砕してキノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーにアルギニンを添加して、スラリー中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる工程
(C)前記スラリーからエキスを分離する工程
【請求項11】
下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は凍結生キノコを破砕してキノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーからエキス(液状物質)を分離する工程
(C)前記エキスにアルギニンを添加して、エキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる工程
【請求項12】
請求項10、又は請求項11の(A)工程に代えて、「酵素が失活しない温度帯で乾燥したキノコの粉末に水を加えてキノコのスラリーを得る工程」とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項13】
請求項10〜請求項12のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させた後のエキスを、濃縮又は(/及び)乾燥して、ペースト状又は粉末状とし、特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項14】
アルギニンの添加量が、請求項10〜12に記載するエキス1Lに付き、1g〜50gである請求項9〜請求項12に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項15】
オルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる条件が、下記の(a)〜(c)である請求項10〜請求項12に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(a)温度:30℃〜70℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)pH:5.0〜11.0(より好ましくは、7.0〜10.0)
(c)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜8時間)
【請求項16】
キノコにエノキタケ、ヒラタケ、バイリング(雪霊茸、白嶺茸)、タモギタケ、ハタケシメジ、ブナシメジ、エリンギ、アガリクスを使用する請求項10〜請求項15に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項17】
キノコにエノキタケを用い、暗黒下で子実体を形成させた後、室温で光を照射して子実体の傘を大きくさせた生エノキタケを用いる請求項10〜請求項16に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項18】
請求項10〜請求項17に記載する製造方法を用いて製造される特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材。
【請求項19】
請求項18に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材を添加して栄養を強化し、かつ呈味性を改善したことを特徴とする食品。
【請求項1】
下記の(A)及び(B)の工程を順次経て生産されることを特徴とするアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は生キノコを凍結した後、これを保温して自己消化させ、キノコの自己消化物を得る工程
(B)前記自己消化物からエキス(液状物質)を分離する工程
【請求項2】
下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とするアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は生キノコを凍結した後、これらを粉砕又はこれらに水を加えて粉砕し、キノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーからエキス(液状物質)を分離する工程
(C)前記エキスを保温して自己消化させる工程
【請求項3】
自己消化後のエキスを濃縮又は(/及び)乾燥して、ペースト状又は粉末状とする請求項1、又は請求項2に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項4】
自己消化させる条件が、下記の(a)及び(b)である請求項1〜請求項3に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(a)温度:20℃〜80℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜10時間)
【請求項5】
キノコにエノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジ、ヤマブシタケ、ハタケシメジ、シイタケ、マイタケ、ツクリタケ(マッシュルーム)、エリンギ、アガリクス、又はバイリングを使用する請求項1〜請求項4に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項6】
キノコにエノキタケを用い、暗黒下で子実体を形成させた後、室温で光を照射して子実体の傘を大きくさせた生エノキタケを用いる請求項1〜請求項5に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載するキノコにエノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジ、ハタケシメジ、シイタケ、ツクリタケ、アガリクス、又はバイリング用いて、特にオルニチンを豊富に含有させるアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7に記載する製造方法を用いて製造されるアミノ酸高含有食品素材。
【請求項9】
請求項8に記載する食品素材を添加して栄養を強化し、かつ呈味性を改善したことを特徴とする食品。
【請求項10】
下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は凍結生キノコを破砕してキノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーにアルギニンを添加して、スラリー中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる工程
(C)前記スラリーからエキスを分離する工程
【請求項11】
下記の(A)〜(C)の工程を順次経て生産されることを特徴とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(A)生キノコ、又は凍結生キノコを破砕してキノコのスラリーを得る工程
(B)前記スラリーからエキス(液状物質)を分離する工程
(C)前記エキスにアルギニンを添加して、エキス中のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる工程
【請求項12】
請求項10、又は請求項11の(A)工程に代えて、「酵素が失活しない温度帯で乾燥したキノコの粉末に水を加えてキノコのスラリーを得る工程」とする特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項13】
請求項10〜請求項12のオルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させた後のエキスを、濃縮又は(/及び)乾燥して、ペースト状又は粉末状とし、特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項14】
アルギニンの添加量が、請求項10〜12に記載するエキス1Lに付き、1g〜50gである請求項9〜請求項12に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項15】
オルニチン合成酵素(アルギナーゼ)を作用させる条件が、下記の(a)〜(c)である請求項10〜請求項12に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
(a)温度:30℃〜70℃(より好ましくは、40℃〜60℃)
(b)pH:5.0〜11.0(より好ましくは、7.0〜10.0)
(c)保持時間:2時間以上(より好ましくは、6時間〜8時間)
【請求項16】
キノコにエノキタケ、ヒラタケ、バイリング(雪霊茸、白嶺茸)、タモギタケ、ハタケシメジ、ブナシメジ、エリンギ、アガリクスを使用する請求項10〜請求項15に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項17】
キノコにエノキタケを用い、暗黒下で子実体を形成させた後、室温で光を照射して子実体の傘を大きくさせた生エノキタケを用いる請求項10〜請求項16に記載するアミノ酸高含有食品素材の製造方法。
【請求項18】
請求項10〜請求項17に記載する製造方法を用いて製造される特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材。
【請求項19】
請求項18に記載する特にオルニチンを豊富に含有するアミノ酸高含有食品素材を添加して栄養を強化し、かつ呈味性を改善したことを特徴とする食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−274904(P2007−274904A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101292(P2006−101292)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(503353025)株式会社アセラ (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(503353025)株式会社アセラ (10)
【Fターム(参考)】
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