説明

アミロイドタンパク質模倣物

【課題】アミロイド関連疾患に対するワクチン療法のための新しい抗原分子、あるいはアミロイド関連疾患に対する間接免疫療法のための新しい抗体を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列、または該配列のアミノ末端の少なくとも5アミノ酸残基を含むアミノ酸配列からなり、アミノ酸残基Xaaは1以上の任意のアミノ酸残基である合成ペプチド、その誘導体、またはそれらの薬理学的に許容し得る塩であるアミロイドタンパク質模倣物、このタンパク質模倣物を特異的に認識する抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然のアミロイドタンパク質を模倣する合成ペプチド、その誘導体、またはそれらの薬理学的に許容し得る塩に関するものである。さらに詳しくは、アミロイド関連疾患のワクチン療法等に有用なアミロイドタンパク質模倣物、これをコードするポリヌクレオチド、アミロイド関連疾患の間接免疫療法等に有用な抗体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワクチンをはじめとした免疫療法では、生体免疫機能の働きを利用して標的となるウィルス、細菌、生体病因分子を攻撃することが治療につながる。多くの場合、標的となる病因分子が低下あるいは減少し高い効果を上げることが知られているが、同時に副作用が生じることもありえる。これは、抗原分子には複数の免疫反応が生じるからであり、期待する免疫作用以外の反応が副作用の一因と考えられる。
【0003】
アルツハイマー病の脳内神経病変は、臨床的な異常症状である失見当識、記憶低下、記憶喪失、判断力低下、行動異常などが生じる前に生じている。神経病変は、アミロイドタンパク質の沈着と神経原線維変化、細胞脱落変性であるが、この中でも、アミロイドタンパク質の沈着は最初期の病理反応である。
【0004】
このアミロイドタンパク質は、その前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein:APP。配列番号3)からの加水分解切断によって、42個のアミノ酸配列(配列番号3の第597-638位)からなるAβ1-42、43個のアミノ酸配列(配列番号3の第597-639位)からなるAβ1-43、40個のアミノ酸配列(配列番号3の第597-636位)からなるAβ1-40として産生される。またこのアミロイドタンパク質については、様々な変異型も知られている(詳細は、例えば特許文献1を参照)。
【0005】
アミロイドタンパク質には神経細胞毒性があることが実験的に証明されており(非特許文献1、2)、アルツハイマー病発症の鍵分子と考えられている。またアミロイドタンパク質の沈着はアルツハイマー病だけでなく、ダウン症や正常に老化した脳組織にあらわれる組織病変である。
【0006】
そこで、アミロイドタンパク質を対象とするワクチン療法等の治療法が様々に検討されている。例えば、合成ペプチドAβ1-42を抗原とするワクチン療法(非特許文献3)は、有望な治療法として検討されてきたが、重篤な脳炎を惹起する副作用が指摘されている(非特許文献4)。また、抗アミロイド抗体を用いた間接ワクチン療法あるいは間接免疫療法(非特許文献5)も注目されているが、臨床的にはさらなる検討を必要としている。
【0007】
なお、ワクチン療法の副作用は、抗原とするアミロイドタンパク質の抗原部位をAβ4-10のアミノ末端側にすること、誘導される抗体がIgG2b型イソタイプであること、経口投与による腸管免疫法などで副作用が減弱する可能性が指摘されているが、なお改良方法として確定するには至っていない。また、ペプチドのアミノ末端は抗原性も高く、この部分に対する抗体も多くの場合できやすい(非特許文献6、7)ことから、特異性の高い抗体あるいは抗原性を制限した抗体の作成には問題となることがある。
【特許文献1】国際公開第WO 2006/038729 A1号パンフレット
【非特許文献1】Yankner,B.A. et al., Neurotoxicity of a fragment of the amyloid precursor associated with Alzheimer's disease. (1989) Science. 245(4916): 417-20.
【非特許文献2】Yankner, B.A., Neurotrophic and neurotoxic effects of amyloid beta protein: reversal by tachykinin neuropeptides. (1990) Science. 1990 250(4978): 279-82.
【非特許文献3】Schenk,D., et al. Immunization with amyloid b-attenuates Alzheimer-disease-like pathology in the PDAPP mouse. (1999) Nature. 400, 173-6.
【非特許文献4】Nicoll JAR, Wilkinson D, Holmes C, Steart P, Markham H & Weller RO. (2003) Nature Med. 9: 448-452. Neuropathology of human Alzheimer disease after immunization with amyloid- peptide: a case report.
【非特許文献5】DeMattos et al. (2002) Science295: 2264-7.; Pfeifer, M. et al. Cerebral hemorrhage after passive anti-Aβ immunotherapy. (2002) Science 298: 1379-.
【非特許文献6】Saido T.C., Iwatsubo T., Mann D.M., Shimada H., Ihara Y., Kawashima S. Dominant and differential deposition of distinct beta-amyloid peptide species, A beta N3(pE), in senile plaques. (1995) Neuron 14(2), 457-466.
【非特許文献7】Arai, T., Akiyama H., Ikeda K., Kondo H., Mori H. Immunohistochemical localization of amyloid beta-protein with amino-terminal aspartate in the cerebral cortex of patients with Alzheimer's disease. (1999) Brain Res 823(1-2), 202-206.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アミロイド関連疾患に対するワクチン療法のための新しい抗原分子、あるいはアミロイド関連疾患に対する間接免疫療法のための新しい抗体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記の課題を解決するための手段として、以下を提供する。
(1)配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1のアミノ末端の少なくとも5アミノ酸残基を含むアミノ酸配列からなり、アミノ酸残基Xaaは1以上の任意のアミノ酸残基である合成ペプチド、その誘導体、またはそれらの薬理学的に許容し得る塩であるアミロイドタンパク質模倣物。
(2)配列番号1におけるアミノ酸残基XaaがMetである前記発明(1)のアミロイドタンパク質模倣物。
(3)配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2のアミノ末端の少なくとも5アミノ酸残基を含むアミノ酸配列からなり、アミノ酸残基Xaaは1以上の任意のアミノ酸残基である合成ペプチド、その誘導体、またはそれらの薬理学的に許容し得る塩であるアミロイドタンパク質模倣物。
(4)配列番号2におけるアミノ酸残基XaaがMetである前記発明(3)のアミロイドタンパク質模倣物。
(5)前記発明(1)から(4)のいずれかに記載の合成ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(6)前記発明(1)から(4)のいずれかに記載のアミロイドタンパク質模倣物を特異的に認識する抗体。
(7)前記発明(1)から(4)のいずれかに記載のアミロイドタンパク質模倣物を有効成分とする、アミロイド関連疾患治療薬剤。
(8)前記発明(5)に記載のポリヌクレオチドが体細胞内で発現可能な状態である、アミロイド関連疾患治療薬剤。
(9)前記発明(6)に記載の抗体を有効成分とするアミロイド関連疾患治療薬剤。
【0010】
なお、本発明において「タンパク質」および「ペプチド」とは、ペプチド結合によって互いに結合した複数個のアミノ酸残基から構成された分子を意味する。
【0011】
さらに、本発明において「アミロイド関連疾患」とは、例えばアルツハイマー病やダウン症をはじめとする、アミロイドタンパク質が直接・間接に病因として関与することが知られ、またはその可能性が疑われている疾患、およびアミロイドタンパク質が神経病変中に認められる疾患を意味する。
【0012】
この発明におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。なお、用語は基本的にはIUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるものであり、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。また発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はJ. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition)", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995;日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人 (1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA技術)」、東京化学同人 (1992); R. Wu ed., "Methods in Enzymology", Vol. 68 (Recombinant DNA), Academic Press, New York (1980); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 100 (Recombinant DNA, Part B) & 101 (Recombinant DNA, Part C), Academic Press, New York (1983); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 153 (Recombinant DNA, Part D), 154 (Recombinant DNA, Part E) & 155 (Recombinant DNA, Part F), Academic Press, New York (1987)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。また本発明の医薬の調製はRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, ed. A. Gennaro, Mack Publishing Co., Easton, PA, 1990などに記載の方法、あるいはそこで引用された文献記載の方法またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明者は、関連の研究知見に照らしつつ、アミロイドタンパク質を抗原とする場合、複数のエピトープ(抗原認識部位)と反応する抗体が生体内で誘導、産生されることを確認し、創意工夫を重ねた結果、生体内では存在しない非天然の抗原分子を導入することで、副作用を生じる原因となるエピトープに誘導される抗体活性が低下することを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち前記発明(1)から(4)のアミロイドタンパク質模倣物は、アミロイド関連疾患に対するワクチン療法のための、副作用を低減させることのできるワクチン成分(抗原分子)となる。
【0015】
また、前記発明(5)のポリヌクレオチドは、アミロイド関連疾患に対するワクチン療法のための抗原発現分子(DNAワクチン)となる。
【0016】
さらに、前記発明(6)の抗体は、アミロイド関連疾患に対する間接免疫療法のための抗体として使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のアミロイドタンパク質模倣物における一つの形態は、配列番号1のアミノ酸配列からなる合成ペプチド(以下、「Aβ[-1-42]」と記載することがある)であり、別の形態は、配列番号2のアミノ酸配列からなる合成ペプチド(以下、「Aβ[-1-40]」と記載することがある)である。配列番号1および2における第1位Xaaは、1以上(好ましくは、1〜3)の任意のアミノ酸残基である。また、特に、APPタンパク質(配列番号3)におけるアミロイドタンパク質の直前のアミノ酸残基であるMetであることも好ましい。
【0018】
さらに本発明の別の形態は、配列番号1または2におけるアミノ末端側の少なくとも5アミノ酸配列を含む「単鎖ペプチド」である。すなわち、短鎖ペプチドを抗原とする抗体については、例えば、Biochem. J., 1990, Vol.266, p.497-504(Ser-Glu-Asn-Tyr-Lys-Asp-Asnからなるペプチドを抗原して作成した抗cytochrom P-450IA2抗体)、Biochem. J., 1992, Vol.288, p.195-205(Lys-Lys-Asn-Gly-Arg-Ile-Leu-Thr-Leu-Pro-Arg-Ser-Asn-Pro-Serを抗原として作成した抗インスリンβ-サブユニットモノクローナル抗体)等が知られている(その他にも、Molecular and Cellular Biology, 1988, Vol.8, p.2159-2163、Cell, 1989, Vol.58, p.945-953)。従って、配列番号1または2の前記範囲の連続配列からなる単鎖ペプチドであっても、ワクチン療法の抗原分子として機能し、また間接免疫療法のための抗体作成の免疫原として機能することができる。
【0019】
本発明の合成ペプチドは、例えば、後述の実施例に準じて行なうことができるほか、周知の方法であるBoc(t-ブチルオキシカルボニル)化反応、DMSO酸化、アルカリ反応、酸性反応、エポキシ化反応、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルキル化反応、ケン化反応、加熱反応、脱炭酸反応、縮合反応、逆相高速液体クロマトグラフィー等を適宜組み合わせて行なうことができる。また例えば、変異型アミロイドタンパク質を構成するアミノ酸残基を順次反応させ、効率と反応物純度の検定を適宜実施する。さらに、合成されたペプチドを様々な時間だけ常温、高温、凍結融解処理等により変化させてもよい。具体的には、例えばMerrifield, R.B. J. Solid phase peptide synthesis I. The synthesis of tetrapeptide. J. Amer. Chem. Soc. 85, 2149-2154, 1963; Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis. A Practical Approach. Chan, W.C. and White, P.D., Oxford University Press, 2000に準じて行なうことができる。
【0020】
本発明の合成ペプチドのさらに別の形態は、「ペプチド誘導体」である。この誘導体は、合成や精製を促進するための修飾、物理・化学的安定化を促進するための修飾、生体内の代謝に対する安定性と不安定性、条件付けの等の活性化修飾、更には、脳血管関門通過を含む臓器搬送効率の高進と低下をもたらす制御修飾を含むものであってよい。ここにいう制御修飾としては、Tyr-Gly-Arg-Lys-Lys-Arg-Arg-Gln-Arg-Arg-Arg(配列番号4)の11個のアミノ酸よりなる配列(Schwarze, S.R., Ho, A., Vocero-Akbani, A. & Dowdy, S.F. In vivo protein transduction: Delivery of a biologically active protein into the mouse Science 285: 1569-1572)を例示することができる。N末端側にペプチド結合で連結されたこの制御配列を含むことにより、合成ペプチドは、血液脳関門の通過が容易化され、脳内の目標部位によりよい効率で到達することが可能となる。
【0021】
ペプチド誘導体におけるその他の修飾には、アセチル化、アシル化、ADP−リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、交差架橋、環化、ジスルフィド結合、脱メチル化、交差架橋共有結合形成、シスチン形成、ピログルタメート形成、ホルミル化、ガンマーカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、水酸化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質加水分解プロセッシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、脂質結合、硫酸化、セレノイル化等が含まれる。より具体的には、ペプチド誘導体は、合成ペプチドの活性を破壊せず、またこれを含有する組成物に毒性を与えない範囲において、残基の側鎖またはN末端基もしくはC末端基として生じる機能性基として調製することができる。例えば、体液中で合成ペプチドの残存を延長するポリエチレングリコール側鎖を含む誘導体、あるいはカルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアとまたは第1級もしくは第2級アミンと反応することによるカルボキシル基のアミド、アシル部分(moiety)(たとえば、アルカノイル基またはカルボサイクリックアロイル基)と形成されるアミノ酸残基の遊離アミノ基のN−アシル誘導体またはアシル部分と形成される遊離の水酸基(たとえば、セリルまたはスレオニル残基の水酸基)のO−アシル誘導体等である。
【0022】
本発明の合成ペプチドの別のさらに別の形態は、薬理学的に許容し得る「塩」であってもよい。この塩は、合成ペプチドのカルボキシル基の塩およびアミノ基の酸付加塩の両者を意味する。カルボキシル基の塩は、当該技術分野における公知の方法によって形成することができ、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄または亜鉛などの無機塩、およびトリエタノールアミン、アルギニンまたはリジン、ピペリジン、プロカインなどのようなアミンを用いて形成されたような有機塩基との塩が含まれる。酸付加塩としては、たとえば塩酸または硫酸などの鉱酸との塩およびたとえば酢酸またはシュウ酸などの有機酸との塩を含む。もちろん、このようなあらゆる塩は、合成ペプチドと実質的に同様の活性(抗原性)を有することを前提とする。
【0023】
本発明のポリヌクレオチドは、前記合成ペプチドをコードすることを特徴とする。このようなポリヌクレオチドは、配列番号1または2のアミノ酸配列に基づき、文献(例えばCarruthers(1982)Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 47:411-418; Adams(1983)J. Am. Chem. Soc. 105:661; Belousov(1997)Nucleic Acid Res. 25:3440-3444; Frenkel(1995)Free Radic. Biol. Med. 19:373-380; Blommers(1994)Biochemistry 33:7886-7896; Narang(1979)Meth. Enzymol. 68:90; Brown(1979)Meth. Enzymol. 68:109; Beaucage(1981)Tetra. Lett. 22:1859; 米国特許第4,458,066号)に記載されているような周知の化学合成技術により、in vitroにおいて合成することができる。
【0024】
このポリヌクレオチドは、前記の合成ペプチドを遺伝子工学的に作成するための材料となる他、合成ペプチドを生体内で発現させ、生体内での抗体作成のための抗原分子として機能させるためにも使用できる。すなわち、ポリヌクレオチドを「naked DNA」として体内に導入するDNAワクチン法(例えば、米国特許第5,580,859号参照)への利用、あるいは組換えウイルスベクターの形態で製剤化されてもよい。
【0025】
本発明の抗体は、前記のアミロイドタンパク質模倣物を抗原として用いて作成することができる。すなわち、本発明のアミロイドタンパク質模倣物を抗原として、アジュバントの存在または非存在下に、単独または担体に結合あるいは同居した状態で、抗原に対する体液性応答および/または細胞性応答の免疫誘導を行うことによって実施される。
【0026】
抗体の作成は、より具体的には、上記アミロイドタンパク質模倣物のFreund完全アジュバンドの懸濁液をマウスに免疫注射し、さらに1ヶ月後にFreund不完全アジュバンドに変えた懸濁液を免疫し、7日後に同じ免疫操作を繰り返して実施して得ることができる。あるいは培養条件下でリンパ球もしくはその前駆細胞を免疫刺激することによっても免疫誘導することができる。担体は、それ自体が宿主に対して有害作用をおこさなければ、特に限定されず例えばセルロース、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、重合アミノ酸、アルブミンおよびそれらの混合物等が例示されるがこれに限らない。免疫される動物は、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ、ウシ等が好適に用いられる。ポリクローナル抗体は、自体公知の方法により血清として、また血清からの抗体回収法によって取得される。好ましい手段としては、免疫アフィニティークロマトグラフィー法が挙げられる。
【0027】
モノクローナル抗体の生産は、上記の免疫誘導した動物から抗体活性を含む組織(例えば脾臓またはリンパ節)あるいは培養細胞を回収し、自体公知の永久増殖性細胞(例えば、P3X63Ag8株等のミエローマ株)への形質転換手段を導入することによって行われる。例えば、上記抗体産生細胞と永久増殖細胞とから作製されたハイブリドーマをクローン化し、本発明に係るアミロイドタンパク質模倣物を特異的に認識する抗体を産生しているハイブリドーマを選別し、このハイブリドーマの培養液から抗体を回収する。実例としては、ハイブリドーマ法(Kohler G. and Milstein C. (1975) Nature 256, 495-497)、トリオーマ法(Kozbor et al. Immunology Today (1983) 4: 72)、およびEBV法(Cole et al. Monoclonal antibodies and cancer therapy, Alan R. Liss, Inc., (1985): 77-96)に記載されるような種々の技法がある。
【0028】
このようにして得られた抗体は、アミロイド関連疾患に対する間接免疫療法のための薬剤成分として使用される。
【0029】
本発明の薬剤は、治療目的(ワクチン療法、間接免疫療法)に応じて、前記のアミロイドタンパク質模倣物、ポリヌクレオチド、抗体を有効成分として、薬理学的に許容しうる担体と混合して製剤化することができる。担体は、薬剤の投与形態に応じて広い範囲から適宜に選択することができる。例えば、懸濁剤およびシロップ剤のような経口液体調製物は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトース等の糖類、ポリエチレングリコール等のグリコール類、ゴマ油、大豆油等の油類、アルキルパラヒドロキシベンゾエート等の防腐剤、ストロベリー・フレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造することができる。散剤、丸剤、カプセル剤および錠剤は、ラクトース、グルコース、シュークロース、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤、マグネシウムステアレート、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の表面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製剤化することができる。さらに、注射用の溶液は、塩溶液、グルコース溶液、または塩水とグルコース溶液の混合物、各種の緩衝液等からなる担体を用いて製剤化することができる。また粉末状態で製剤化し、使用時に前記液体担体と混合して注射液を調製するようにしてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
実施例1:アミロイドタンパク質模ペプチドの分子形態
アミロイドタンパク質(Aβ[1-28]、Aβ[1-40]、Aβ[1-42]、Aβ[25-35])は市販製品(American Peptide Company, Inc. CA、PEPTIDE INSTITUTE、Inc., Mihoh, Osaka)より購入し、その部分配列のペプチドAβ[1-5]、Aβ[p3-8](アミノ末端はアミノ基が環化したピログルタミン構造をもつ)、ならびにメチオニンをアミノ末端に付加したアミロイドタンパク質模倣ペプチドAβ[-1-40]、Aβ[-1-42]は、Fmoc方式によりABIペプチド合成機で作成し逆相HPLCによって精製したものを使用した。
【0031】
アミロイドタンパク質模倣ペプチド(Aβ[-1-40])をPBSにて溶解し、37℃で3日間加温した。その一部をコロジオン膜を張った200メッシュに添加した後、ただちにウラン染色によるネガティブ染色観察をした。図1にその結果を示す。アミロイドタンパク質模倣ペプチド(Aβ[-1-40])から形成される線維状形態は正常型アミロイドタンパク質(Aβ[1-40]あるいはAβ[1-42])の線維と同じく直径5〜8nmの線維であり、模倣ペプチドの形態学的性質が野生型アミロイドタンパクと変わらないことが確認された。
実施例2:アミロイドタンパク質模倣ペプチドに対する抗体およびアミノ末端抗体の反応の特徴
アミロイドタンパク質模倣ペプチド(Aβ[-1-40])を抗原とする抗体を作成した。この目的のために、PBSに溶解した合成ペプチドとFreund完全アジュバンドの懸濁液をマウスに免疫注射した。1ヶ月後に、Freund不完全アジュバンドに変えた懸濁液を免疫し、7日後に同じ免疫操作を繰り返して実施した。採血はマウス尾静脈から100マイクロリットル採取し、その反応性を確認した。すなわち、模倣ペプチド(Aβ[-1-40])をスポットしたPVDF膜ストリップを複数用意し、乾燥後に20%牛血清を含むPBSにてブロッキングさせた後、各膜ストリップを個別に小さな反応箱中にて、150倍希釈したマウス血清(#1から#8)を反応させた。膜ストリップは、その後パーオキシダーゼ標識抗マウスIgG 抗体
を2次抗体として使用し、検出はECL発色にて確認した。
【0032】
膜ストリップには、左から10ng、2ng、1ng、0.1ng、PBS、牛アルブミン(BSA)をPVDF膜ストリップにドットした。図2に示したとおり、150倍希釈した抗血清は、少なくとも1ngの抗原量が必要であり、それ以下の抗原量では検出されないことが確認された。またPBSや牛アルブミン(BSA)には反応していない。
【0033】
つぎに、作成した抗体がアミノ末端を認識することを確認した。この目的のために、アミノ末端の異なる複数の合成ペプチドを使用した。すなわち、アミノ末端が正常アミロイドタンパク質のアミノ末端であるアスパラギン酸である合成ペプチド(a:Aβ[1-5]、b:Aβ[1-28]、c:Aβ[1-40]、d:Aβ[1-42])、アスパラギン酸をもたない合成ペプチド(e:Aβ[25-35]、模倣ペプチド(f:Aβ[-1-40]、g:Aβ[-1-42])、およびh:BSAの各5ngタンパク量をPVDF膜上にドットして(図3A)、抗ペプチド(Aβ[-1-40])抗体(図3B)および抗ペプチド(Aβ[1-5])抗体(図3C)を用いて免疫反応性を観察した。
【0034】
抗ペプチド(Aβ[1-5])抗体は、アミロイドタンパク質の末端アミノ酸であるアスパラギン酸(Asp)を主として認識しているために、このアミノ酸で始まるペプチド(a、b、c、d)の全てに高度に特異的に反応するが、アミロイドタンパク質模倣ペプチド(f、g)は認識しない。
【0035】
一方、アミロイドタンパク質のアミノ末端にさらに別のアミノ酸が付加されたアミロイドタンパク質模倣ペプチド(Aβ[-1-40])を抗原として作成された抗体は、単鎖のペプチド(a、b、e)とは反応していなかった。ただし、野生型のアミロイドタンパク質の全長に相当する合成ペプチド(c:Aβ[1-40]、d:Aβ[1-42])とも反応した。このことは、抗模倣ペプチド(Aβ[-1-40])抗体がポリクローン抗体であり、そのアミノ末端以外のアミロイドタンパク質のアミノ酸配列、構造さらには線維状もしくはオリゴマー状などの立体構造の共通するエピトープがアミノ末端以外の抗原部位となっていることを示している。
【0036】
以上の結果から、生体内に存在しない非天然のアミロイドタンパク質模倣ペプチドを抗原とする抗体は、アミノ末端の付加アミノ酸残基を含む抗原分子には反応するが、生体内にはこのような分子は存在しないために、外来性抗原以外の生体内分子には反応しないことがわかる。すなわち、アミノ末端が副作用を惹起するエピトープである場合、模倣ペプチドの利用により副作用の可能性を著しく低下させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】アミロイドタンパク質模倣ペプチド(Aβ[-1-40])の構造を示す顕微鏡像である。右下のスケールバーは100nmを示す。
【図2】模倣ペプチド(Aβ[-1-40])を抗原して作成した抗体のドットテストの結果である。
【図3】抗ペプチド(Aβ[-1-40])抗体および抗ペプチド(Aβ[1-5])抗体による各合成ペプチドに対する反応性を試験したドットテストの結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1のアミノ末端の少なくとも5アミノ酸残基を含むアミノ酸配列からなり、アミノ酸残基Xaaは1以上の任意のアミノ酸残基である合成ペプチド、その誘導体、またはそれらの薬理学的に許容し得る塩であるアミロイドタンパク質模倣物。
【請求項2】
配列番号1におけるアミノ酸残基XaaがMetである請求項1のアミロイドタンパク質模倣物。
【請求項3】
配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2のアミノ末端の少なくとも5アミノ酸残基を含むアミノ酸配列からなり、アミノ酸残基Xaaは1以上の任意のアミノ酸残基である合成ペプチド、その誘導体、またはそれらの薬理学的に許容し得る塩であるアミロイドタンパク質模倣物。
【請求項4】
配列番号2におけるアミノ酸残基XaaがMetである請求項3のアミロイドタンパク質模倣物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の合成ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のアミロイドタンパク質模倣物を特異的に認識する抗体。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載のアミロイドタンパク質模倣物を有効成分とする、アミロイド関連疾患治療薬剤。
【請求項8】
請求項5に記載のポリヌクレオチドが体細胞内で発現可能な状態である、アミロイド関連疾患治療薬剤。
【請求項9】
請求項6に記載の抗体を有効成分とするアミロイド関連疾患治療薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−300856(P2007−300856A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132643(P2006−132643)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(501295811)
【Fターム(参考)】