説明

アミンおよびアルコールの修飾

(i)アミノ基またはアルコール基を有する基質(ここで、該基質は、例えばポリサッカライドである)を提供すること;(ii)ラクトン、エステル、ポリエステル、カーボネート、ポリカーボネート、ラクチド、グリコリド、無水物、酸、チオエステルまたはカーバメートである修飾剤を提供すること;(iii)例えばアミノ酸または有機酸である触媒を提供すること;および(iv)前記触媒の存在下、基質と修飾剤とを反応させること
を含む、アミンおよびアルコールの修飾方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミンおよびアルコールの修飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
注文どおりの表面性質をもったポリマー材料の開発は、今日の社会で重要な役割を果たしている。基本的に全てのデバイスとキャリアー(devices and carriers)はそれらの環境と共存しなければならない、異なる材料を含む。さらに、再生可能資源に基づく化学を発展させる必要性がある。
【0003】
ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)およびそのコポリマーのような脂肪族ポリエステルは、生分解性、生物学的適合性および浸透性の望ましい性質により、生物学的および生物医学的分野での応用に対して、高分子化合物の重要なクラスの一部である。これらの高分子化合物を製造するために、最も一般的に用いられる合成戦略の一つは、ε-カプロラクトン(ε-CL)およびその他の環状エステルの開環重合(ROP)である。ROPsは、遷移金属の開始化合物により高効率で行なわれ得る。しかしながら、ポリマー生成物の鎖末端に付着した金属汚染物質の除去が、生体適合物質および超小型電子技術への応用の前に考慮されなければならない。脂肪族生分解性ポリマーの合成のためのもう一つの方法は、リパーゼ触媒ROPsである。つい最近、求核性アミンおよびN-へテロ環式カルベンが、環状エステルモノマーのROPのための触媒として利用された。
【0004】
小さな有機分子が介在する不斉反応は、近年、増大する注目を受けている。しかしながら、非選択的有機酸-触媒ROPsならびにアミノ酸および有機酸が介在するアミンおよびアルコール化合物の直接的エステル化の報告は、ほんの少ししかない。[F. Sanda, H. Sanada, Y. Shibasaki, T. Endo, Macromol. 2002, 35, 680; J. Liu, L. Liu, Macromol. 2004, 37, 2674.; J. Casas, P.V. Persson, T. Iversen, A. Cordova, Adv. Synth. Cat.
2004, 346, 10871]。さらに、反応条件下で溶解する、開始剤としてモノサッカライドを用いた、選択的乳酸-触媒ROPのたった一つの報告がある。[P.V. Persson, J. Schroder, K. Wickholm, H. Hedestrom, T. Iversen, Macromol. 2004, 37, 5889]。
【0005】
US 3,472,839は、修飾する量のカルボン酸および触媒量のヘキサハロアセトン-尿素付加物を含む組成物を用いたセルロースを修飾する方法を開示している。
【発明の開示】
【0006】
発明の要約
本発明の目的は、アミンおよびアルコールの直接的な均一ならびに不均一な有機酸-およびアミノ酸-触媒修飾を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、触媒としてアミノ酸および有機酸を用いる、金属フリーの位置選択的および化学種選択的なアミンおよびアルコールの修飾のための直接的な方法を提供することである。典型的な触媒は、天然および非天然のアミノ酸およびそれらの誘導体、オリゴペプチド、酒石酸、乳酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、H2O、α-ヒドロキシ酸、スルホン酸、テトラゾールおよび小さい有機酸である。
当該触媒は、ポリ-およびオリゴサッカライド、シリカ、脂肪族ならびに芳香族アミンおよびアルコール、蛋白質、ペプチド、デンドリマー、フラーレン、ポリ-、オリゴおよびモノ-ヌクレオチド、脂肪族ならびに芳香族ポリマーおよびオリゴマー、ならびに無機化合物のような異なる化合物のアミノ-およびアルコール基を、ラクトン、エステル、ポリエステル、カーボネート、ポリカーボネート、ラクチド、グリコリド、無水物、酸、チオエステルおよびカーバメートを用いて、修飾することが可能であった。
【0007】
換言すると、本発明の目的は、環境に優しい反応条件下、エステル、カーボネート、アミド、カーバメート、尿素および環状エステルを用いたアミンおよびアルコールの変換のための触媒として、非毒性の天然アミノ酸、ペプチドおよびそれらの誘導体、テトラゾール、H2Oおよび(アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、α-ヒドロキシ酸、乳酸およびマンデル酸を含む)小さい有機酸の使用に基づく方法の提供である。
【0008】
上記から、その基質は、改良された修飾方法のために要求されるような大きさ(例えば、高分子)または立体配座の化合物であることが推測され得る。
それゆえ、本発明の目的は、
(i)アミノ基またはアルコール基を有する基質(ここで、該基質はポリサッカライド、オリゴサッカライド、シリカ、蛋白質、ペプチド、デンドリマー、フラーレン、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチド、脂肪族または芳香族ポリマーもしくはオリゴマー、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、またはポリヒドロキシ化合物である)を提供すること;
【0009】
(ii)ラクトン、エステル、ポリエステル、カーボネート、ポリカーボネート、ラクチド、グリコリド、無水物、酸、チオエステルまたはカーバメートである修飾剤を提供すること;
(iii)アミノ酸、ペプチドもしくはそれらの誘導体、オリゴペプチド、H2O、スルホン酸、テトラゾールまたは有機酸である触媒を提供すること;および
(iv)前記触媒の存在下、前記基質と前記修飾剤とを反応させること
を含む、アミンおよびアルコールの修飾方法により提供される。
【0010】
本発明の一つの観点は、触媒としてアミノ酸および有機酸を用いて、(R = CO2H、CO2R'、アルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、脂肪族ポリマー、芳香族ポリマー、デンドリマー、シリカ、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、フラーレン、ポリ-、オリゴおよびモノ-ヌクレオチド、脂肪族および芳香族オリゴマーならびにポリ(ヒドロキシアルカノエート);R1 = HまたはR)のアルコールを、(R2 = アルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、アリール、脂肪族ポリマー、芳香族ポリマー、脂肪族および芳香族オリゴマーならびにポリ(ヒドロキシアルカノエート))の酸で修飾して、対応するエステル修飾された生成物を得ることである(スキーム1による)。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明のもう一つの観点は、触媒としてアミノ酸および有機酸を用いて、(R = CO2H、CO2R'、アルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、脂肪族ポリマー、芳香族ポリマー、シリカ、デンドリマー、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、フラーレン、ポリ-、オリゴおよびモノ-ヌクレオチド、脂肪族および芳香族オリゴマーならびにポリ(ヒドロキシアルカノエート);R1 = HまたはR)のアミンを、(R2 = アルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、アリール、脂肪族ポリマー、芳香族ポリマー、脂肪族および芳香族オリゴマーならびにポリ(ヒドロキシアルカノエート))の酸で修飾して、対応するアミド官能化(functionalized)生成物を提供することである(スキーム2)。
【0013】
【化2】

【0014】
本発明のもう一つの観点は、触媒としてアミノ酸および有機酸を用いて、(R = CO2H、CO2R'、アルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、脂肪族ポリマー、芳香族ポリマー、デンドリマー、シリカ、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、フラーレン、ポリ-、オリゴおよびモノ-ヌクレチド、脂肪族および芳香族オリゴマー、ならびにポリ(ヒドロキシアルカノエート);R1 = HまたはR)のアルコールを、(R2 = アルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、アリール、脂肪族ポリマー、芳香族ポリマー、脂肪族および芳香族オリゴマーならびにポリ(ヒドロキシアルカノエート)、脂肪族および芳香族アミン、アルコキシ;R3 = アルキル、アリール、ビニル)のエステル、カーボネートおよびカーバメートで修飾して、対応する修飾された生成物を得ることである(スキーム3)。
【0015】
【化3】

【0016】
本発明のもう一つの観点は、触媒としてアミノ酸および有機酸を用いて、(R = CO2H、CO2R'、アルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、脂肪族ポリマー、デンドリマー、芳香族ポリマー、シリカ、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、フラーレン、ポリ-、オリゴおよびモノ-ヌクレオチド、脂肪族および芳香族オリゴマー、ならびにポリ(ヒドロキシアルカノエート);R1 = HまたはR)のアミンを、(R2 = アルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、アリール、脂肪族ポリマー、芳香族ポリマー、脂肪族および芳香族オリゴマーならびにポリ(ヒドロキシアルカノエート)、脂肪族および芳香族アミン、アルコキシ;R3 = アルキル、アリール、ビニル)のエステル、カーボネートおよびカーバメートで修飾して、対応する修飾された生成物を得ることである(スキーム4)。
【0017】
【化4】

【0018】
本発明のもう一つの観点は、触媒としてアミノ酸および有機酸を用いて、(R = CO2H、CO2R'、アルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、脂肪族ポリマー、デンドリマー、芳香族ポリマー、シリカ、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、フラーレン、ポリ-、オリゴおよびモノ-ヌクレオチド、脂肪族および芳香族オリゴマー、ならびにポリ(ヒドロキシアルカノエート);R1 = HまたはR)のアミンおよびアルコールを、(R2 = アルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、アリール;R3 = アルキル)のチオ-エステルで修飾して、対応する修飾された生成物を得ることである(スキーム5)。
【0019】
【化5】

【0020】
本発明のもう一つの観点は、触媒としてアミノ酸および有機酸を用いて、(n = 0〜3、Y = CH2、CHOH、O、NH、CH-ハロゲン、Z = CH2、CHOH、O、NH、CH-ハロゲン、R3 = アルキル、アルケニル;グリコリド、ラクチド)の環状モノマーおよびそれらの混合物の開環重合(ROP)用開始剤として、(R = OH、CO2H、CO2R'、アルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、脂肪族ポリマー、芳香族ポリマー、デンドリマー、シリカ、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、フラーレン、ポリ-、オリゴおよびモノ-ヌクレオチド、脂肪族および芳香族オリゴマー、ならびにポリ(ヒドロキシアルカノエート);R1 = HまたはR)のアミンおよびアルコールを使用して、対応するアミンおよびアルコールで開始されたポリマーを提供することである。
【0021】
【化6】

【0022】
本発明のもう一つの観点は、α-ヒドロキシ酸が自己触媒エステル交換および開環重合に触媒作用を及ぼすことができることである。例えば、乳酸はラクチドの自己触媒的形成および続くポリ(ラクチド)のROPに触媒作用を及ぼす。さらに、α-ヒドロキシ酸は、アルコールのそれらのエステル化およびアミンのそれらのアミノアシル化にそれぞれ自己触媒作用を及ぼす。したがって、触媒がα-ヒドロキシ酸であれば、修飾剤は同じ化合物であり得る。
【0023】
本発明のもう一つの観点は、アミノ酸および有機酸-触媒の変換から誘導される生成物が、さらなる修飾のための取っ掛かりとして役に立つ、異なる官能性を有することができることである。例えば、アルキンまたはアジドは、遷移金属-触媒の位置選択的Huisgen 1,3-双極性環状付加で、それぞれ異なるアジドまたはアルキンと反応させて、新規なトリアゾールが結合した置換基を与えることができる(クリック ケミストリー)(Lewis et a
l., Angewandte Chemie Int. Ed. 2002, 41, 1053)。修飾のためのもう一つの取っ掛かりは、ホルムアルデヒドと異なるアニリンとの間のMannich型反応に関与し、新規なアルキル アリール アミンが結合した置換基を与え得るフェノールである(Joshi et al. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 15942)。
【0024】
【化7】

【0025】
本発明のもう一つの観点は、触媒としてのアミノ酸および有機酸が選択的であることである。例えば、一級アルコールが、二級アルコールの存在下、高い選択性で修飾される。さらに、脂肪族アルコールが、フェノールの存在下、高い化学種選択性で修飾される。脂肪族アミンも、アニリンおよびフェノールの存在下、高い化学種選択性で修飾される。
【0026】
本発明のもう一つの観点は、前記の変換全てが、鏡像異性体的に純粋な反応基質で行なわれ得るし、行なわれて、鏡像異性体的に純粋な生成物を生じることである。
【0027】
本発明の実施態様は、アミンおよびアルコールの不均一(すなわち、固相基質と液相修飾剤)触媒修飾に該当する。例えば、酒石酸は、開始剤として、固体セルロースでのε-カプロラクトン(ε-CL)の直接的開環重合に触媒作用を及ぼした。穏和なROPsは無溶媒で行なわれた。そして、それは操作が単純で、安価でかつ環境に優しい。
【0028】
官能性ポリサッカライド生成物の製造のための、金属フリーの化学的に制御された固相セルロース誘導化の報告はない。しかしながら、多分、固体基質に関する問題およびそのような方法の低い選択性と低い効率性が想定されるので、純粋なおよび応用の当該両分野の化学者は、この可能性のある変換に、それが受けるに値する注目を与えなかった。これらの直接的変換は高選択性をもっともらしく含むだろうが、環境に優しくかつ無毒性である。
【0029】
この明細書の背景の部分で提示される、可溶化されない固体基質の修飾を含む報告は全くない。無毒性の小さな有機分子の利用は、環境に優しい反応条件および持続性のある化学(sustainable chemistry)を可能にする可能性を有する。
【0030】
本発明の方法は、いくつかのポリサッカライド、例えば、リグノセルロース、ヘミセルロースまたは澱粉の修飾に適している。ポリサッカライドの供給源は木であってもよい。
【0031】
有機酸触媒不均一修飾の方法
純粋な環状モノマー(1〜100等量)および有機酸(モノマーの1〜10モル%)を、オーブンで乾燥したガラス瓶中で混合した。その混合物を30〜240℃の間に加熱し、有機酸が溶解したとき、アルコールおよびアミノ-官能化固形基質の既知量(1等量)を、その混合物中に導入し、浸した。ガラス瓶をスクリューキャップで密封し、反応を6〜48時間行なった。冷却後、非固定化ポリマーおよび有機酸を試料から(ソックスレー)抽出した。さらなる分析の前に試料を乾燥した。全ての新規な化合物は、NMR、FT-IRで分析し、ポリマーはMALDI-TOF MSおよびGPCで分析した。
【0032】
さらに、アルコールおよびアミノ官能化固形基質を、触媒量のアミノ酸または有機酸(1〜10モル%)の存在下、対応の修飾された生成物を生じる上記の反応条件下に、有機酸、エステル、チオエステル、カーボネート無水物およびカーバメートと反応させた。冷却後、粗生成物を試料から幅広く(ソックスレー)抽出した。試料をさらなる分析の前に乾燥した。全ての新規な化合物は、NMXおよびFT-IRで分析した。
【0033】
有機酸触媒均一修飾の方法
可溶性アルコールまたはアミン(1等量)、有機酸(1〜10モル%)および環状モノマー(1〜100等量)を撹拌下に混合し、35〜240℃の間に加熱した。反応温度を室温にすることにより、ROPsをクエンチした。粗ポリマー生成物をTHFで希釈し、次いで、冷メタノール中への沈殿により精製し、所望の生成物を得た。全ての新規な化合物は、NMR、FT-IR、MALDI-TOF MSおよびGPCで分析した。
【0034】
さらに、可溶性アルコールまたはアミン(1等量)ならびに有機酸、エステル、チオエステル、カーボネート無水物およびカーバメート(1〜100等量)を、撹拌下、触媒量のアミノ酸または有機酸(1〜10モル%)の存在下に混合し、35〜240℃の間に加熱して、所望の化合物を得た。反応を室温にし、EtOAcおよび食塩水で抽出することによりクエンチした。生成物を標準的なカラムクロマトグラフィーで精製した。全ての新規な化合物を、NMR、GCおよびFT-IRで分析した。
【0035】
(図面の簡単な説明)
図1は、コットン(a)およびペーパー(b)セルロース繊維のPCL-グラフトセルロース、ブランク(有機酸触媒なし)および未処理の参考物の実施例1からのFTIRスペクトルを示す。
図2は、PCL誘導化TMP(PCL-TMP)、触媒なしでのε-CLでのTMP(TMP-ブランク)および出発ペーパー材料の実施例3からのFT-IRを示す。
【0036】
図3は、MALDI-TOF MSで分析した、非固定化PCLの実施例3からの分子量分布を示す。
図4は、PLLA誘導化セルロース、ブランク(酒石酸触媒なし)および未処理の参考物の実施例4からのFT-IRスペクトルを示す。
【0037】
図5は、D-マンデル酸-誘導化セルロース、ブランク(酒石酸触媒なし)および未処理の参考物の実施例4からのFT-IRスペクトルを示す。
【実施例】
【0038】
実施例1 ポリサッカライドの有機酸-触媒修飾
基質:(ペーパーおよびコットンからの)セルロース
修飾剤:ε-カプロラクトン、ペンチン酸およびヘキサデカン酸
触媒:酒石酸
材料。 Whatman1濾紙(Whatman International)、およびエタノール-抽出された市販のコットンをセルロース源として使用した。濾紙およびコットンから切断された断片を、使用前に105℃で一晩乾燥した。活性モレキュラーシーブスで乾燥した後、ε-カプロラクトン(ε-CL;Sigma-Aldrich)を用いた。そして、酒石酸(Sigma-Aldrich)、ペンチン酸およびヘキサデカン酸をそのまま用いた。反応を、活性化された乾燥剤を含む、栓で密封された乾燥ガラス管中で行ない、薄層クロマトグラフィー(TLC)で観察した。TLCには、Merck 60 F254シリカゲル板を用い、化合物を、UV光での照射および/またはリンモリブデン酸(25 g)、Ce(SO4)2・H2O(10 g)、濃H2SO4(60 ml)およびH2O(940 ml)の溶液で処理、次いで加熱することにより可視化した。1H NMRおよび13C NMRスペクトルは、Varian AS 400スペクトロメータで記録した。ケミカルシフトはテトラメチルシランと相対的に示す(TMS;1Hに対してδ = 0 ppmおよび13Cに対してδ = 77.0 ppm);カップリン
グ定数、Jはヘルツで示す。スペクトルをCDCl3中、室温で記録した。
【0039】
セルロースの有機酸-触媒誘導化
純粋なε-CL(2.5 mmol)および酒石酸(0.25 mmol)を、オーブンで乾燥したガラス瓶中で混合した。その混合物を120℃に加熱した。酒石酸が溶解したとき、ペーパーおよびコットンの試料の既知量(約20 mg)を、その混合物中に導入し、浸した。ガラス瓶をスクリューキャップで密封し、反応を6時間行なった。冷却後、非固定化ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)および酒石酸を試料から(ソックスレー)抽出した(ジクロロメタンおよび水)。さらなる分析の前に試料を乾燥した。酒石酸およびε-カプロラクトンなしのコントロールも行なった。セルロースを、ε-CLに対する上記のように、ヘキサデカン酸(0.25 mmol)およびペンチン酸(0.25 mmol)でも誘導化した。ヘキサデカン酸のソックスレー抽出において、ジクロロメタンの代わりにクロロホルムを用いた。
【0040】
PCL-セルロース生成物のFTIR分析。 誘導化をFTIR分光法により確認した。セルロースおよびPCL-セルロース試料を、Perkin-Elmer Spectrum One FTIR分光光度計を用いて、試料の前処理なしに、直接、吸光度で分析した。各試料は32の平均スキャンを行った。
【0041】
PCL-セルロースの電子顕微鏡検査。 乾燥PCL-ペーパー、PCL-コットンおよび参考物を、スタブ(stubs)に取り付け、Polaron E5000スパッタ装置を使用して、金-被覆した。試料を、通常のSEMモードで操作して、Philips XL 30環境制御型走査電子顕微鏡(ESEM)で分析した。
【0042】
非固定化ポリ(ε-カプロラクトン)のNMRおよびMS分析。 ソックスレー抽出されたPCLを真空乾燥し、THFに再溶解し、メタノールを用いて沈殿した。沈殿物を集め、真空乾燥した。乾燥PCLをNMR分光法により分析した。
【0043】
PCL-1
1H NMR (CDCl3): δ = 1.34 (m, CH2, PCL鎖), 1.61 (m, CH2, PCL鎖), 2.26 (t, J = 6.0 Hz, CH2CO, PCL鎖), 3.64 (t, J = 5.0 Hz, 2H, CH2OH, PCL末端基), 4.05 (t, J = 5.2 Hz, CH2OR)
13C NMR: δ = 24.7, 24.8, 25.4, 25.7, 28.3, 28.5, 32.4, 34.3, 62.8, 64.3, 173.7
【0044】
結果および議論。 我々は、最初に、セルロース繊維からのε-CLのROPに触媒作用を及ぼすそれらの能力に対して、異なる有機酸およびアミノ酸をスクリーニングした。我々は、酒石酸、クエン酸、乳酸およびプロリンが触媒活性を示し、PCLを与えることを見出した。酒石酸が、PCL-グラフトセルロースの生成のために、最も効率的な触媒であった(スキームA)。
【0045】
【化8】

【0046】
a)セルロース繊維からの有機酸-触媒ROP;
b)ヘキサデカン酸またはペンチン酸を用いた、セルロース繊維のエステル化。
【0047】
有機触媒なしの反応も、120℃で、ε-CLとコットンおよびペーパーセルロース1とを混合することにより行なった(ブランク繊維)。この場合、有意な量のPCLを形成しなかった。成功した表面のグラフト化を確かめるために、PCL-セルロース繊維2を用いてFTIR分析を行なった(図1)。その分析は、参考物試料と比較して、グラフト化された繊維2のエステル基に起因して、1730 cm-1にカルボニルピークをはっきりと示した。これは、PCL鎖がセルロース繊維に共有的に結合していることを示す。セルロースフィルターペーパー試料のε-CL重合前および後の重力測定は、11%重量増加をはっきりと示した。非固定化PCLが、>90%収率で単離され、NMR分光法により分析された。疎水性の試験をPCL-グラフト化セルロース試料に行なった。コットン繊維(1)、コットン-PCL(2)およびセルロース-ブランク試料を水が満たされたカップの表面に置いた。コットン繊維1およびブランク試料は水を吸収し、すぐに底に沈んだ。対照的に、PCL繊維2は、水を吸収せず、水表面に浮いた。
【0048】
濾紙の疎水性を、濾紙表面に加えた水滴(4 ml)の接触角および吸水性により分析した。未処理の参考物および有機酸触媒なしのブランク試料は親水性であった;水滴はすぐにセルロースにより吸収された。濾紙-PCL生成物は、最初から114°の接触角を有し、強疎水性であった。10秒後、接触角は105°であった。そして、水の容積の11%だけが吸収された。セルロースはもともと親水性であり、それゆえ、セルロース-PCL生成物の疎水性は、ε-CLの酒石酸触媒ROPによるセルロース誘導化の成功を強く裏付ける。したがって、試料表面が疎水性になったので、酒石酸ではなくPCLが、FTIRスペクトルでカルボニルピークを生じる(図1)、セルロースヒドロキシ基上での主なグラフト分子である。
【0049】
セルロースの固体状態でのエステル化をさらに確かめるために、我々は、ROP実験操作にしたがって、ヘキサデカン酸およびペンチン酸を用いて、コットン繊維(1)の有機酸-触媒エステル化を行なった。広範なソックスレー洗浄後に、ヘキサデカン酸およびペンチン酸エステル化セルロース繊維3を得た。得られた修飾化繊維3のFTIR分析は、グラフト化された繊維のエステル基に対応する1730 cm-1でのカルボニルピークを示し、そのことは、PCLとセルロース繊維との共有結合をさらに支持する。
【0050】
我々は、触媒を用いないで、セルロース繊維と混合したROP ε-CLの長時間の加熱がセルロース-PCL繊維を与えるかどうも検討した。しかしながら、セルロースのPCLエステル
化は、有機酸触媒なしではゆっくりと進行した。さらに、セルロール繊維のε-CLまたは中性溶媒への不溶性が、セルロース-繊維の官能化に対するある種の課題を与える。
【0051】
ε-CLのROPおよびセルロースのエステル化に対するもっともらしいメカニズムは、有機酸によるモノマーのプロトン活性化、次いで、セルロース繊維1のヒドロキシ基による、活性化されたモノマーの開始であり、それが、モノマーのエステル交換および開環を招く。次に、プロトン-活性化モノマーおよび生長PCL鎖のエステル交換により、連鎖生長反応が起こる。さらに、酒石酸のより反応性のヒドロキシ基および残存水により、プロトン活性化モノマーの開始も起こり、有機酸で開始されたPCLを与える。
【0052】
実施例2 デンドリマーの有機酸-触媒修飾
基質:2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパン酸
修飾剤:ε-カプロラクトン
触媒:乳酸
【0053】
材料および方法。 化学物質および溶媒は、市販供給業者からプリス(puriss) p.A.を購入したか、または使用前に標準的方法で精製し、デシケーター中P2O5もしくは活性モレキュラーシーブスで乾燥した。反応は、活性化乾燥剤を含む、栓で密封された乾燥ガラス管中で行なった。薄層クロマトグラフィー(TLC)には、シリカゲル板Merck 60 F254を用い、化合物を、UV光での照射および/またはリンモリブデン酸(25 g)、Ce(SO4)2・H2O(10 g)、濃H2SO4(60 ml)およびH2O(940 ml)の溶液で処理、次いで加熱することにより可視化した。シリカゲルMerck 60(粒子径 0.040〜0.063 mm)を用いて、フラッシュクロマトグラフィーを行なった。1H NMRおよび13C NMRスペクトルは、Varian AS 400で記録した。ケミカルシフトはテトラメチルシラン(TMS)との相対的δで示し、カップリング定数JはHzで示す。スペクトルは、溶媒としてのCDCl3またはCD3OD中、室温で記録し、TMSを1H NMRに対する内部標準(δ = 0 ppm)として用い、CDCl313C MNRに対する内部標準(δ = 77.0 ppm)として用いた。
【0054】
GPC。 GPCシステム(Rheodyne 7125インジェクター、20 μL 4試料ループ、Waters HPLC ポンプ510、およびWaters 410示差屈折率検出器)に注入前に、試料をテトラヒドロフランで2 mg/mLの濃度に希釈し、0.45 μmのPTFE膜で濾過した。分離は、連続して接続された三つのカラム(50、100および500 Å、Ultrastyragel、Waters)によって行なった。流速1 mL/分で、溶離剤としてテトラヒドロフランを用いた。GPCシステムを、ポリスチレン標準、266〜34,500 Da(Machery Nagel)を用いて較正した。全てのGPC測定を二重で行なった。
【0055】
MALDI-TOF MS。 THFで10 mg/mLに希釈した試料10 μLを、マトリックス溶液(メタノールと水の1:1混液に溶解した、50 mg/mL 2,5-ジヒドロキシ安息香酸)の40 μLと混合した。この溶液0.5 μLを試料プローブに塗布し、減圧下に溶媒を除去した後で、スペクトロメータ(Hewlett Packard G20205A LD-TOF)に挿入した。
【0056】
デンドリマー1の製造: デンドリマーは文献の方法により合成した(Ihre, H.; Hult, A.; Frechet, J. M. J.; Gitsov, I. Macromolecules, 1998, 31, 4061; Malkoch, M.; Malmstrom, E.; Hult, A. Macromolecules 2002, 35, 8307)。
【0057】
2のL-乳酸-触媒合成の方法: ヘキサヒドロキシ-官能性デンドリマー1(30 mg, 0.046
mmol)、L-乳酸(33 mg, 0.37 mmol)およびε-CL(420 mg, 3.7 mmol)を撹拌下に混合し、120℃に加熱した。1時間反応後、GPCにより、全てのモノマーが消滅した。ポリマーをTHFで希釈し、次いで、メタノール中に沈殿して精製し、白色粉末を得た。2の全てのスペクトルデータは、前記のそれらと一致した。
【0058】
1H NMR (CDCl3): δ = 1.34 (m, CH2, PCL鎖), 1.61 (m, CH2, PCL鎖), 2.26 (t, J = 6.0 Hz, CH2OH, PCL鎖), 2.21 (s, 3H, CH3, デンドリマー), 3.64 (t, J = 5.0 Hz, 12H, CH2OH, PCL末端基), 4.05 (t, J = 5.2 Hz, CH2OR), 4.36 (bs, 12H, CH2OR, デンドリマー), 6.88 (d, J = 6.9 Hz, 6H, ArH, デンドリマー), 7.07 (d, J = 6.9 Hz, 6H, ArH, デンドリマー);
13C NMR: δ = 17.7, 24.4, 25.4, 28.2, 32.2, 34.0, 46.6, 51.5, 62.2, 64.0, 65.1, 120.6, 129.6, 146.2, 148.6, 171.3, 172.7, 173.4
【0059】
化学種選択性試験: 2-(4-ヒドロキシフェニル)エタノールの存在下、PCLの合成方法:
ε-CL(3.5 mmol)、2-(4-ヒドロキシフェニル)エタノール(0.1 mmol)および酒石酸(0.07 mmol, ε-CLを基に2モル%)を混合し、120℃に加熱した。24時間後に反応を停止し、粗生成物をNMRおよびGPCで分析した。
【0060】
1H NMR (CDCl3): δ = 1.38 (m, CH2, PCL鎖), 1.69 (m, CH2, PCL鎖), 2.26 (t, J = 6.0 Hz, CH2CO, PCL鎖), 2.85 (t, J = 7.2 Hz, 2H, CH2, 開始剤), 3.65 (t, J = 6.6 Hz,
2H, CH2OH, PCL末端基), 4.06 (t, J = 6.6 Hz, CH2OR, PCL鎖), 4.25 (t, J = 6.9 Hz,
2H, CH2OR, 開始剤), 6.77 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 7.06 (d, J = 8.5 Hz, 2H);
13C MNR: δ = 24.2, 24.4, 25.2, 25.3, 27.9, 28.1, 32.1, 33.9, 34.0, 62.3, 64.0, 64.9, 115.2, 129.0, 129.7, 154.9, 173.3, 173.4
【0061】
デンドリマー様PCLの製造(スキームB)
【化9】

【0062】
この反応系の多才な潜在能力を示すために、第一世代ビス-MPAデンドリマー1を、120℃でL-乳酸による触媒でのε-CLの重合の開始剤として用いた。1時間後、GPCで測定して、完全なモノマーの変換が起こった。冷メタノール中への沈殿後、デンドリマー様ポリマー2を収率90%で得た。2のNMR分析は、1の全てのヒドロキシ基がε-CLのROPを起こしたことを示した。ポリマー2は、NMRおよびGPCで測定して、多分散指数(PDI) 1.48、平均Mw 12 400 Daを有し、各ポリマーアームに20モノマー単位のDPを有した。
【0063】
実施例3 ポリサッカライドの有機酸-触媒修飾
基質:リグノセルロース(ペーパーから)
修飾剤:ε-カプロラクトン
触媒:酒石酸
【0064】
ペーパー誘導化。 サーモメカニカルウッドパルプ(TMP、ノルウェー トウヒから)の市販の新聞印刷用紙(「スタンダード ニュース(Standard News)」紙、SCA、スウェーデン)から、(約15 mgの)既知量を切断し、使用前に105℃で一晩乾燥した。(活性モレキュラーシーブスで)乾燥したε-カプロラクトン(2.5 mmol, Sigma-Aldrich)および酒石酸(0.25 mmol, Sigma-Aldrich)を、オーブン乾燥のガラス瓶中で混合した。その混合物を120℃に加熱し、酒石酸が溶解したとき、(乾燥)ペーパー試料を導入した。ガラス瓶をスクリューキャップで密封し、反応を6時間行なった。冷却後、非固定化PCLおよび酒石酸を、テトラヒドロフラン、ジクロロメタンおよび水を用いて、ペーパー試料から(スックスレー)抽出した。ペーパー試料は、さらなる分析の前に乾燥した。コントロール実験を、DMSO中の酒石酸とε-CLなしのTMP-ペーパー、TMPペーパーと酒石酸なしのε-CLで行った。
【0065】
誘導化されたリグノセルロース生成物の分析。 試料の誘導化をFTIRを用いて確認した。未誘導化ペーパー試料(ブランク)および誘導化ペーパー試料を、Perkin-Elmer Spectrum One FT-IR分光光度計を用いて、試料の前処理なしに、直接、吸光度で分析した。各試料は32の平均スキャンを行った。
【0066】
非固定化ポリ(ε-カプロラクトン)のNMR分析。 ソックスレー抽出PCLを真空乾燥し、THFに再溶解し、メタノールで沈殿した。沈殿物を集め、真空乾燥し、(Varian AS 400スペクトロメータで記録される)1H NMRおよび13C NMRで分析した。ケミカルシフトはテトラメチルシラン(TMS)との相対的なδで示し、カップリング定数JはHzで示す。スペクトルは室温で、溶媒としてCDCl3中で記録した。TMSを、1H NMRに対する内部標準(δ = 0 ppm)として用い、CDCl3を、13C NMRに対する内部標準(δ = 77.0 ppm)として用いた。
【0067】
PCL: 1H NMR (CDCl3): δ = 1.34 (m, CH2, PCL-鎖), 1.61 (m, CH2, PCL-鎖), 2.26 (t,
J = 6.0 Hz, CH2CO, PCL-鎖), 3.64 (t, J = 5.0 Hz, 2H, CH2OH, PCL-末端基), 4.05 (t, J = 5.2 Hz, CH2OR);
13C NMR: δ = 24.7, 24.8, 25.4, 25.7, 28.3, 28.5, 32.4, 34.3, 62.8, 64.3, 173.7
【0068】
非固定化ポリ(ε-カプロラクトン)のMALDI-TOF MS分析。 乾燥PCLをアセトニトリルに溶解(2 mg mL-1)し、アセトン、水およびメタノール(1:1:1)中の100 mM 2,5-ジヒドロキシ安息香酸のマトリックス(matrix)溶液と1:1に混合した。この試料溶液(10 μL)を、Bruker Reflex IIIを用いて、MALDI-TOFマス分光法による分子量の分析を行なった。
【0069】
PCL-TMPのFT-IR分析。 ε-CLのリグノセルロース開始バルクROPをFT-IRにより分析し、それで、リグノセルロースの誘導化の成功を確認した。リグノセルロース材料からのPCLの重合の一般的な提示をスキームCに示す。図2において、PCL-TMP生成物と一緒に、未処理出発リグノセルロース材料(TMPペーパー)およびコントロール(有機酸触媒の存在しないε-カプロラクトンで処理されたTMPペーパー)の両方をFT-IRにより分析した。反応後、ポリエステルポリマーの結果であり得る、PCLTMP試料中に明らかな(1730 cm-1での)カルボニルピークが存在した。
【0070】
【化10】

【0071】
PCLの分子量。 PCLTMPから抽出した非固定化ポリマーを、分子量のための、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF MS)で分析した(図3)。その分析は、ε-CLの酒石酸触媒ROPがPCLを与えたことをはっきりと示した。さらに、粗反応混合物の1H NMR分析は、完全な変換が起こり、沈殿したPCLは、24モノマー単位の重合度(DP)に対応する、2754 Daの平均分子量(Mn)を有することを示した。
【0072】
PCL-TMPの重量分析。 処理後、ペーパー試料の重量は94%(2回の平均)増加し、これはまた、誘導化の成功を裏付けた。反応から酒石酸が除かれたコントロール試料において、ペーパー試料は1%(2回の平均)の重量増加で、これは、意味がなく、非特異的なε-CLの繊維への物理-吸着およびε-CLの遅い熱-推進(slow thermal-driven)自然重合またはTMPの誘導体化を示す。
【0073】
実施例4 ポリサッカライドの有機酸-触媒修飾
基質:セルロース(ペーパーから)
修飾剤:L-ラクチド、D-マンデル酸
触媒:酒石酸、D-マンデル酸
この研究は、スキームDによる、新規なブレンステッド(Bronsted)酸-触媒の環境に優しくかつ溶媒フリーのセルロース-開始の、L-ラクチドの直接的ROPおよびD-マンデル酸でのキラル誘導体化を提供する。
【0074】
【化11】

a)セルロース繊維からのL-ラクチドのブレンステッド酸-触媒ROP
b)セルロース繊維の自己触媒キラル誘導体化
【0075】
材料。 濾紙、Whatman 1 (Whatman International)をセルロースとして用いた。濾紙からの切断片を105℃で一晩乾燥した。L-ラクチド(Sigma-Aldrich)
を使用するまで冷蔵しておき、D-マンデル酸(α-ヒドロキシフェニル酢酸)(Sigma-Aldrich)および酒石酸(Sigma-Aldrich)をシリカ上で真空保存した。全ての化学物質はそのまま用いた。>98% eeを有するD-酒石酸およびL-酒石酸(Sigma-Aldrich)の両方を触媒として用いた。反応は、活性化乾燥剤を含む栓で密封された乾燥ガラス管中で行なった。
1H NMRおよび13C NMRスペクトルは、Varian AS 400で記録した。ケミカルシフトはテトラメチルシラン(TMS)との相対的δで示し、カップリング定数JはHzで示す。スペクトルは、溶媒としてCDCl3中、室温で記録し、TMSを1H NMRに対する内部標準(δ = 0 ppm)として用い、CDCl313C MNRに対する内部標準(δ = 77.0 ppm)をして用いた。旋光度は、Perkin Elemer 241 Polarimeter(λ = 589 nm, 1 dmセル)で記録した。GCは、Varian 3800 GC Instrumentを用いて行なった。
【0076】
L-乳酸のセルロース-開始ROP。 L-ラクチド(2.5 mmol)およびL-酒石酸(0.25 mmol)を、オーブン乾燥ガラス瓶中、そのままで混合した。混合物を136℃に加熱し、次に、既知量のセルロースペーパー(20 mg)を導入し、混合物に浸した。瓶をスクリューキャップで密封し、反応を6〜18時間行なった。冷却後、非固定化ポリ(L-乳酸)(PLLA)および酒石酸をソックスレー抽出(ジクロロメタンおよび水)した。酒石酸を除いたコントロールも製造した。ソックスレー抽出でジクロロメタンの代わりにエタノールを用いた以外は上記のようにして、セルロースをD-マンデル酸(0.25 mmol)でも誘導化した。
【0077】
誘導化セルロースの分析。 PLLAおよびD-マンデル酸セルロース試料におけるカルボニル基を、FT-IRを用いて分析した。未誘導化セルロース試料(ブランク)および誘導化試料を、Perkin-Elmer Spectrum One FT-IR分光光度計を用いて、試料の前処理なしに、直接、吸光度で分析した。各試料は32の平均スキャンを行った。PLLA誘導化セルロースの疎水性を、自動化された接触角テスター(Fibro 1100 DAT)を用いて、シート状物質の表面湿潤性および吸収性のための標準ASTM試験法(D5725)にしたがって、接触角および水滴吸収の測定により試験した。D-マンデル酸誘導化セルロース-ペーパーは、UV光を当てて、撮影された。
【0078】
非固定化ポリ(L-乳酸)の分析。 ソックスレー抽出されたPLLAを真空乾燥し、THFに再溶解し、メタノールで沈殿した。沈殿物を集め、真空乾燥した。乾燥PLLAをNMRで分析した。
PLLA: 1H NMR (CDCl3): δ = 1.57 (d, J = 6.8 Hz, 33H, CH3, PLLA-鎖), 4.35 (m, 1H,
CHOH, PLLA-末端基), 5.15 (m, 22H, CHOR, PLLA-鎖);
13C NMR: δ = 16.9 (CH3), 67.1 (CHOH), 69.3 (CHOR), 169.9 (COOR).
[α]D23 = -128.9 (c = 1.1, CHCl3)
【0079】
セルロースのPLLA誘導化。 セルロース誘導化のために用いられたラクトンは、バルクROPでPLLAを形成する、鏡像異性体的に純粋な環状ラクトン、L-ラクチドであった。ポリサッカライドからのROPに対するもっともらしいメカニズムは、ブレンステッド酸によるL-ラクチドの最初のプロトン-活性化、次いで、L-ラクチド開始開環のプロトン-活性化である。そして、ポリサッカライドの一級ヒドロキシ基から、セルロースに共有的に結合したL-ラクチドを与える。プロトン-活性化モノマーおよび生長PCL鎖のエステル交換により、連鎖生長反応が起こる。
【0080】
L-ラクチドのセルロース開始バルクROPsをFT-IRにより分析し、ポリサッカライドの誘導化の成功を確認した(図4)。セルロースペーパー表面のPLLA修飾を、水吸収測定によっても確認した。通常の濾紙は水滴を6秒以内に吸収した。一方、L-ラクチド処理セルロ
ースは、未誘導化セルロースより遅い水滴吸収を示し、それは、酒石酸は疎水性官能基がないので、通常な親水性のセルロースの主としてのPLLA修飾を裏付ける。PLLA誘導化セルロースのFT-IRスペクトルにおいて、ブレンステッド酸触媒試料および酸触媒の添加なしでのL-ラクチドで処理された試料の両方にカルボニルピークがある。
【0081】
触媒の添加なしで起きるL-ラクチドの遅い重合とセルロース誘導化は、もっともらしいのは、自己触媒的な熱的推進および水分での開始である。PLLA形成およびセルロール誘導化は、酒石酸の存在下で、かなりより早くなり、極めて高い分子量を生じた。完全な変換は、18時間以内に達成され、得られるPLLAは1900 Daの平均分子量を有し、それは22のDPに対応する。しかしながら、ブレンステッド酸触媒の存在なしでは、18時間後でも、オリゴマーのみが低い変換で得られた。重要なことには、PLLAは、旋光度およびキラル-相GC分析で測定されるように、設定された反応条件下で有意なラセミ化なしに形成された。
【0082】
さらに、モノマーに対して投入する触媒および開始剤の比を減少することは、PLLAの分子量を増加した。セルロースは、そのモノマーの開環によってL-ラクチドの重合を開始し、反応性の二級アルコールとダイマーを形成し、それが生長する。したがって、我々は、より反応性の低い二級アルコール含有モノマー、L-ラクチドも、有機酸-触媒ROPsに用いることができることを初めて示す。さらに、D-ラクチドをモノマーとして用いることができ、相当するポリ(D-乳酸)セルロース繊維を形成する。
【0083】
セルロースのマンデル酸誘導化。 セルロースのヒドロキシ基のブレンステッド酸触媒エステル化は、D-マンデル酸を用いてのエステル化の成功により確認された。図5でのカルボニルピークでセルロースのD-マンデル酸エステル化を確認した。D-マンデル酸が、自己触媒的にセルロースを誘導化することも示された。酒石酸およびマンデル酸の両方は、α-ヒドロキシ有機酸なので、D-マンデル酸を用いて、セルロースの直接的不斉バルクエステル化を起こした。酒石酸をDMSOに溶解し、セルロールと反応させたコントロール実験は、酒石酸のエステル化をもたらさなかった。さらに、マンデル酸をDMSOに溶解したとき、エステル化は見られなかった。したがって、有機酸の高濃度が必要である。さらに、酒石酸をセルロースと一緒に単純に加熱することは、酒石酸とセルロースの結合を生じなかった。
【0084】
キラル分子でのポリサッカライドの誘導化。 我々は、L-ラクチドのようなキラル環状ラクトンが、セルロース-キラルポリエステル生成物を与える、ブレンステッド酸-触媒およびセルロール-誘導ROPsの基質として用いることができることを見出した。特に、キラルラクトンのブレンステッド酸-触媒ROPは、環境に優しく、ポリ(乳酸)-セルロース生成物の異なる性質を可能にするラクチドのエナンチオマーのどちらかを用いて容易に行なうことができる。さらに、α-ヒドロキシ酸としてのマンデル酸の固有の性質は、セルロースの直接的バルク自己触媒的エステル化への使用を可能にする。したがって、カルボキシリック-含有の光学的活性化合物のために有用なポリサッカライド-ベースのCPS製造のための新規な有機触媒ルートを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】コットン(a)およびペーパー(b)セルロース繊維のPCL-グラフトセルロース、ブランク(有機酸触媒なし)および未処理の参考物の実施例1からのFTIRスペクトルを示した図である。
【図2】PCL誘導化TMP(PCL-TMP)、触媒なしでのε-CLでのTMP(TMP-ブランク)および出発ペーパー材料の実施例3からのFT-IRを示した図である。
【図3】MALDI-TOF MSで分析した、非固定化PCLの実施例3からの分子量分布を示した図である。
【図4】PLLA誘導化セルロース、ブランク(酒石酸触媒なし)および未処理の参考物の実施例4からのFT-IRスペクトルを示した図である。
【図5】D-マンデル酸-誘導化セルロース、ブランク(酒石酸触媒なし)および未処理の参考物の実施例4からのFT-IRスペクトルを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)アミノ基またはアルコール基を有する基質(ここで、該基質はポリサッカライド、オリゴサッカライド、シリカ、蛋白質、ペプチド、デンドリマー、フラーレン、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチド、脂肪族または芳香族ポリマーもしくはオリゴマー、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、またはポリヒドロキシ化合物である)を提供すること;
(ii)ラクトン、エステル、ポリエステル、カーボネート、ポリカーボネート、ラクチド、グリコリド、無水物、酸、チオエステルまたはカーバメートである修飾剤を提供すること;
(iii)アミノ酸、ペプチドもしくはそれらの誘導体、オリゴペプチド、H2O、スルホン酸、テトラゾールまたは有機酸である触媒を提供すること;および
(iv)前記触媒の存在下、基質と修飾剤とを反応させること
を含む、アミンおよびアルコールの修飾方法。
【請求項2】
基質が式:
R-C(-OH)-Ra または R-C(-NH2)-Ra
(式中、
Rはポリヒドロキシ化合物、脂肪族もしくは芳香族ポリマー、デンドリマー、シリカ、ポリサッカライド、オリゴサッカライド、フラーレン、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチド、脂肪族もしくは芳香族オリゴマー、またはポリ(ヒドロキシアルカノエート)であり;
RaはRまたは水素である)
の化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基質がポリサッカライドである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
基質がセルロースである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
基質がリグノセルロース、ヘミセルロースまたは澱粉である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
修飾剤として作用する酸がカルボン酸である、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
修飾剤が式:HO(O=)C-Rb(ここで、Rbはアルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、アリール、脂肪族ポリマー、芳香族ポリマー、脂肪族オリゴマー、芳香族オリゴマーまたはポリ(ヒドロキシアルカノエート)である)の化合物である、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
修飾剤が式:RcO(O=)C-Rd(ここで、Rcはアルキル、アリールまたはビニルであり;Rdはアルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシ、アリール、脂肪族もしくは芳香族ポリマー、脂肪族もしくは芳香族オリゴマー、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、脂肪族もしくは芳香族アミン、またはアルコキシである)の化合物である、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
修飾剤が式:ReS(O=)C-Rf(ここで、Reはアルキルであり;Rfはアルキル、アルキン、アルケニル、ポリヒドロキシまたはアリールである)の化合物である、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
修飾剤が式:
【化1】

(式中、
nは0〜3であり;
YおよびZは独立して、CH2、CHOH、O、NHまたはCH-Br、CH-ClもしくはCH-FのようなCH-ハ
ロゲンであり;
Rgはアルキル、アルケニル、グリコリドまたはラクチドである)
の化合物である、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
修飾剤がラクチドである、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
修飾剤がε-カプロラクトンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
修飾剤がアルキン、アジドまたはフェノール官能性を有する、請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
触媒がアミノ酸または有機酸である、請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
触媒が有機酸である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
触媒が酒石酸、乳酸またはクエン酸のようなα-ヒドロキシ酸である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
修飾剤が触媒と同じである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
触媒として作用する有機酸が、フマル酸、リンゴ酸、α-ヒドロキシ酸、アスコルビン酸またはマンデル酸である、請求項1〜15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
触媒として作用する有機酸が、酒石酸、乳酸またはクエン酸のようなα-ヒドロキシ酸である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
基質が固相状態で存在する、請求項1〜19のいずれか一つに記載の方法。
【請求項21】
前記反応が追加の溶媒なしに行なわれる、請求項1〜20のいずれか一つに記載の方法。
【請求項22】
前記反応が開環重合である、請求項1〜21のいずれか一つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−525571(P2008−525571A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548158(P2007−548158)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【国際出願番号】PCT/SE2005/001999
【国際公開番号】WO2006/068611
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(507208657)オルガノクリック エービー (1)
【氏名又は名称原語表記】ORGANOCLICK AB
【住所又は居所原語表記】Arreniuslaboratoriet,SE106 91 Stockholm,SWEDEN
【Fターム(参考)】