説明

アラミド成分を含む高温用紙

セルロース系パルプ繊維、高分子バインダー、およびアラミド繊維/フィブリドを含むアラミド成分を含む紙構造体が提供される。この紙構造体は異なった組成の複数の層を含むこともできるが、少なくとも1層はアラミド成分および高分子バインダーを含む必要がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2002年9月10日に出願された米国特許仮出願第60/409,230号の利益を主張し、その全体が開示として本明細書に組込まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明は、高温用紙、特にアラミド成分を含む高温用紙に関する。このような高温用紙は単層または複層を含むことができる。
【0003】
[関連技術の説明]
高温用の電気絶縁紙は変圧器に使用され、二つの機能を有する。第一に、この電気絶縁紙は電気絶縁性を有し、変圧器内のコイルの短絡を防ぐ。第二に、この紙は機械的な強度を有する。変圧器に大電流が流れると、コイルに接着されている紙を動かそうとする力がコイルの各層に働く。紙がコイルに接着されていることで、種々のコイルが伸縮するのを防いでいる。個々のコイルが筒型コイルのような挙動をして動こうとする。この伸縮動作を防いでいるのが電気絶縁紙(E-board)である。
【0004】
電気絶縁紙の機械的強度が向上すれば、伸縮するコイルにまつわる問題を回避するのに役立つであろう。紙を強化するのに、強化電気絶縁紙を使用すれば、必要な機械的強度を付与するのに役立つはずである。しかし、この紙は効率的且つ効果的に製造される必要があるであろう。
【0005】
より安価な変圧器が設計できるよう、変圧器に使用される電気絶縁紙の耐熱性を向上させることも関心事である。変圧器内のコイル線径を細くすることによって、コイルは小型化する。細いコイルにすると、その鉄心や金属製容器もより小さくて済む。より小型の容器は保有オイルも少ない。つまり、線材の銅、鉄心の鋼鉄、絶縁用のオイルも少なくて済む。しかし、線が細いために、変圧器の電気抵抗は大きくなり高温になるであろう。従って、このような変圧器を実用化するには、電気絶縁紙の耐熱性を高めておく必要がある。
【0006】
このような高い機械的強度と高い耐熱性を併せ持つ紙があれば、上述した経済面及び性能面での利点を認知できる変圧器を工業的に設計することが可能になるであろう。
【0007】
従って、本発明の一つの目的は、高い耐熱性を有する紙構造体を提供することである。
【0008】
本発明の更にもう一つの目的は、高い機械的強度を有する紙構造体を提供することである。
【0009】
本発明の加えてもう一つの目的は、変圧器内での使用に好適な高温用紙を提供することである。
【0010】
本発明のこれら及びその他の目的は、当業者が以下の説明、および本明細書に添付の特許請求の範囲を検討すれば明白になるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明に従って、アラミド成分を含む紙構造体が提供される。本紙構造体はアラミド繊維および/またはフィブリド、ポリビニルアルコールのような高分子バインダー、およびセルロース系パルプ繊維を含む。
【0012】
ある好ましい実施態様では、紙構造体は2つの外層および少なくとも1つの内層を含む。この2つの外層は実質的にセルロース系(木質)パルプ繊維から成ることが好ましい。この内層はセルロース系パルプ繊維、アラミド繊維および/またはフィブリドおよび高分子バインダーを含む。好ましい実施態様では、本構造体は少なくとも3つの内層を含み、そのいずれもセルロース系パルプ繊維、アラミド成分および高分子バインダーを含む。
【0013】
得られた紙構造体からは、その高い耐熱性のために変圧器内の電気絶縁紙として非常に有用な紙が得られる。更に、本アラミド繊維は紙を補強し、コイルの伸縮問題を回避するのにも役立つ。
[好ましい実施態様の詳細な説明]
【0014】
本発明の紙構造体は高温用電気絶縁紙として、非常に有用である。該紙は高耐熱性と良好な機械的強度を併せ持つ。良好な耐熱性により、高温になりやすいより小型のコイルを備えた変圧器内でこの紙を使用することが可能になるであろう。更に、紙は補強もされているから、コイルに接着する際、種々のコイルが伸縮するのを防止するであろう。変圧器内での実際の使用に際しては、本紙はエポキシ接着剤のような接着剤でコーティングされコイルの線材表面に熱接着される。本紙が種々のコイルの伸縮を防止するのは、コイルへのこの接着による。高分子バインダーと組合せられたアラミド成分を含む、本発明の紙構造体の機械的強度は、電気絶縁紙がコイルの伸縮を防止しつつ、効率的且つ効果的に機能することを可能にする。
【0015】
本発明の紙構造体は、高分子バインダーと、アラミド繊維、フィブリド、またはこれらの組合せであってもよいアラミド成分、およびセルロース系パルプ繊維を含む。
【0016】
アラミド繊維は、NOMEX(登録商標)ようないかなる市販のポリアラミド繊維であることができる。この繊維は一般に長さが約1/4インチ、太さが約2デニールである。フィブリドはアラミドポリマーの不規則な形状の微小片であり、二次元の寸法が第三の次元に比して非常に大きい形状である。その形状は微細なコーンフレークのようである。大きい二つの次元は5乃至25マイクロメータのオーダーであり、小さい方の第三の次元は約0.01乃至1マイクロメータである。
【0017】
紙構造体において、セルロース系木質パルプ繊維の量は一般に50乃至80重量%の範囲であり、一方アラミド成分の量は一般に約5乃至25重量%の範囲である。好ましくはポリビニルアルコールである高分子バインダーの量は一般に約10乃至25重量%の範囲である。上記5乃至25重量%のアラミド成分は、夫々アラミド繊維やアラミドフィブリド単独、または好ましくはこの二つの組合せを含んでもよい。組合せの場合は、繊維/フィブリドの比が約60/40重量%のものが使用されるのが好ましい。アラミドフィブリドが含まれている場合には、それが網状構造へのバインダーの役目もするから、高分子バインダーの量を減らすことができる。このため、アラミドフィブリドがある程度含まれるのが好ましい。これが二役を果すため、アラミド繊維およびバインダーの必要量を減らすことができる。
【0018】
少量の他の合成繊維も存在してよい。このような合成繊維は、例えばポリエステル繊維またはナイロン繊維であることができる。
【0019】
本発明の紙構造体は単層または複層であることができる。単層が採用される場合には、紙構造体は、上述の如くセルロース系パルプ繊維、アラミド成分および高分子バインダーを含む。このような組合せの複層も採用でき、その場合ある特定の層における個々の成分の量は変化してよい。または、ベール掛けした(veiled)構造体も使用できる。このようなベール掛けした構造体では、2つの外層は、実質的に木質パルプ繊維から成り、好ましくは高分子バインダーを含まない。一方、1層であれ複層であれ、この内層はセルロース系木質パルプ繊維、アラミド成分および高分子バインダーの諸成分を含む。この外側のセルロース系パルプ繊維層には、少量のポリエステル繊維またはナイロン繊維のような合成繊維が存在し得る。
【0020】
複層が採用される場合には、当業界で知られているように少なくとも3つの異なったシリンダーを備えた円網抄紙機(cylinder machine)を使用して紙構造体を製造するのが好ましい。紙構造体のある特定の層に対応するこれらのシリンダーの各々に、異なった原料組成物を供給できる。
【0021】
好ましい実施態様では、本紙構造体は5つの異なった層を含む。2つの外層は、セルロース性、好ましくは木質のパルプ繊維から実質的に成る。内側の3層は全てセルロース系パルプ繊維、アラミド成分および高分子バインダーを含む。所望により、これら内側の層は異なった組成であってもよい。例えば、相対的に異なった量のセルロース系パルプ繊維、アラミド成分および高分子バインダーを含むことができる。これは、種々の層を製造するのに、その層に対応する種々のシリンダーに異なった原料組成物を供給できるからである。同様に、所望によりアラミド成分および高分子バインダーを含む1層のみを有してもよい。かくて、残りの層は主にセルロース系パルプ繊維から成り、またはアラミド成分内の繊維/フィブリドの相対量が変化してよい。
【0022】
もう一つの実施態様では、紙構造体は実質的にセルロース系パルプ繊維から成る2つの外層を含み、そして内側の層はアラミド成分および高分子バインダーを含む。紙構造体の少なくとも1つの内層には、アラミド成分および高分子バインダーが共に存在することが重要である。2つの外層が高分子バインダーを含まない限り、残りの層の組成が異なってよい。
【0023】
好ましい高分子バインダーはポリビニルアルコールであるが、アクリル系のような他の高分子バインダーも使用できる。バインダーは合成繊維の形で、または乾燥した粉末として添加される。バインダーが繊維として添加される場合は、その繊維が適切な化学特性を有していることが重要である。ポリビニルアルコールの繊維では水溶性を示す温度範囲が広い。該ポリマーが溶解性を呈する温度は、重合度、加水分解の程度および結晶度のようなポリマーの性質に依存する。この溶解温度は約60℃乃至100℃を超える範囲をとりうる。この溶解温度が紙製造方法と合致していることが重要である。ポリビニルアルコール繊維が繊維の形状を保っている間にバインダーとしての挙動をすれば、最も効果的である。ここで完全に溶解してはいけない。繊維の表面がまさに溶解し始める時に最も強い接着が得られるのである。次に乾燥の際に、ポリビニルアルコール繊維は、合成であれ、天然であれ、それが接触する他の全ての繊維に接着するであろう。
【0024】
これは、溶解温度が低いポリビニルアルコール繊維が、一般に高速の機械にかけられる低乃至中間の坪量の紙(3000平方フィート当り概略25乃至120ポンド)に使用されるべきであることを意味する。機械がより高速でかつ紙重量が低いため、蒸発により紙が冷却される。紙が高温になる前に乾燥してしまうのである。かくて、紙の最高到達温度は70℃未満となりそうである。
【0025】
高坪量の紙(3000平方フィート当り200ポンド以上)に対しては、より高い溶解温度を有するポリビニルアルコール繊維を使用できる。紙温度がもっと高くなるように、この種の紙は一般により低速で運転される。
【0026】
粉末状のポリビニルアルコールバインダーを使用する場合は、該ポリマーを完全に加水分解し(99%以上)、粒径100メッシュ以下に粉砕しておく必要がある。該粉末は洗練(refining)前の木質繊維に添加することができ、または洗練後にシステムに添加することもできる。この粉末化ポリマーを、紙製造システムに添加された後に膨潤させることが重要である。膨潤時間は水温に依存する。冷水(0〜14℃)では、約1時間の膨潤時間が必要である。温水(40〜50℃)では粒子は約20分で膨潤する。ポリビニルアルコールの繊維または粉末の場合に使用されるプロセス用水は60℃を超えないことが不可欠である。なぜなら、高温の水はポリマーを溶解し、接着特性が大半失われるからである。
【0027】
ポリビニルアルコールバインダーの粉末については、スチームシャワーを使用するのが有利である。該シャワーは乾燥工程の前に紙に当てられる必要がある。該スチームシャワーは特に低坪量紙に有用である。このシャワーにより、まだ濡れている間に紙が加熱され、かくて膨潤したポリマー粒子の外側が溶解し始めるのを助長する。
【0028】
本発明の「ベール掛けした」実施態様の調製においては、当業界でよく知られているように、円網抄紙機の使用が可能であり、好ましい。この円網抄紙機では、上述のように異なった原料を使用して異なった層を創出でき、かくて紙構造体を本発明の範囲内で必要に応じてあつらえることができる。
【0029】
ベール掛けした紙構造体を製造する方法には、実質的に木質パルプ繊維を含む原料組成物を、外層に対応するシリンダーに供給することが含まれる。かくて、得られた紙構造体の2つの外層は実質的にセルロース性の、好ましくは木質のパルプ繊維から成る。少量の合成繊維がこれらの原料組成物中に含まれていてよい。
【0030】
次いで、内層に対応するシリンダーには、セルロース系パルプ繊維と、繊維であれ、フィブリドであれ、またはこの二つの混合物であれ、選ばれたアラミド成分、および高分子バインダーを含む原料溶液が供給される。かくて、紙構造体の内層はセルロース系パルプ繊維、アラミド成分および高分子バインダーを含む。得られた紙構造体は内層だけが高分子バインダーを含み、外層はそれらを含まないものとなり、かくて、好ましくは乾燥缶上で紙構造体を乾燥する際に、高温のために高分子バインダーが活性化されることによって生じ得る粘着問題が避けられる。高分子バインダーが活性化されると、バインダーはアラミド成分と木質パルプ繊維が接着するように作用するが、これは内層で起こるため粘着問題まで引起こすことはない。
【0031】
本発明の紙構造体は、それが単層であれ、複層であれ、変圧器用の高温用紙として非常に有用な紙を提供する。該紙は優れた耐熱性と同時に優れた機械的強度を有し、変圧器の電気絶縁紙として必要な全ての機能を発揮する。
【0032】
本発明を好ましい実施態様で以って記載してきたが、変更や修正は当業者に明白なように委ねられていると理解すべきである。このような変更および修正は、本明細書に添付される特許請求の範囲の条項および範囲内であると考えるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系パルプ繊維、高分子バインダー、並びにアラミド繊維および/またはアラミドフィブリドを含むアラミド成分を含む紙構造体。
【請求項2】
2つの外層および少なくとも1つの内層を含む紙構造体であって、前記2つの外層が実質的にセルロース系パルプ繊維から成り、内層が請求項1記載の紙構造体である、紙構造体。
【請求項3】
高分子バインダーがポリビニルアルコールを含む、請求項1記載の紙構造体。
【請求項4】
アラミド成分がアラミド繊維とアラミドフィブリドの混合物を含む、請求項1記載の紙構造体。
【請求項5】
高分子バインダーがポリビニルアルコールを含む、請求項2記載の紙構造体。
【請求項6】
アラミド成分がアラミド繊維とアラミドフィブリドの混合物を含む、請求項2記載の紙構造体。
【請求項7】
外層が少量の合成繊維を更に含む、請求項2記載の紙構造体。
【請求項8】
実質的にセルロース系パルプ繊維から成る2つの外層、並びにセルロース性パルプ、高分子バインダー、およびアラミド繊維および/またはアラミドフィブリドを含むアラミド成分を含む少なくとも2つの内層を含む紙構造体。
【請求項9】
少なくとも3つの異なったシリンダーを備えた円網抄紙機を使用することを含む、請求項1記載の紙構造体を製造する方法であって、得られる紙構造体の2つの外層が実質的にセルロース系パルプ繊維から成るように、実質的にセルロース系パルプ繊維から成る原料組成物を外層に対応するシリンダーに供給すること、および他方のシリンダーには、紙構造体の内層がセルロース系パルプ繊維、アラミド繊維、アラミドフィブリドおよび高分子バインダーを含むように、セルロース系パルプ繊維、アラミド繊維、アラミドフィブリドおよび高分子バインダーを含む原料溶液が供給されることを含む方法。
【請求項10】
5つのシリンダーを採用し、紙構造体の外層に対応するシリンダーに、実質的にセルロース系パルプ繊維から成る原料溶液が供給され、かつ3つの内層用シリンダーには、セルロース系パルプ繊維、アラミド繊維、アラミドフィブリドおよび高分子バインダーを含む溶液が供給される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
内層に対応するシリンダーに供給される原料溶液中の高分子バインダーがポリビニルアルコールを含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
請求項1記載の紙構造体を含む、高温用の変圧器用紙。
【請求項13】
請求項2記載の紙構造体を含む、高温用の変圧器用紙。
【請求項14】
請求項3記載の紙構造体を含む、高温用の変圧器用紙。
【請求項15】
請求項1記載の紙を含む変圧器。
【請求項16】
請求項2記載の紙を含む変圧器。
【請求項17】
請求項4記載の紙を含む変圧器。
【請求項18】
請求項8記載の紙を含む変圧器。

【公表番号】特表2006−519318(P2006−519318A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571976(P2004−571976)
【出願日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2003/028386
【国際公開番号】WO2004/025024
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(504378397)ファイバーマーク インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】