説明

アラミド糸の束の結束性を向上させるための方法

アラミド糸の束の結束性を向上させ且つその摩擦係数を低減させるための方法であって、前記糸の束に対して、水溶性または水分散性フィルム形成性結合剤を、前記糸の重量に基づいて0.1〜3.0重量%添加した後、前記糸の束を、固有粘度が100mm/s未満である油で処理することを特徴とする方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド糸の束の結束性を向上させるための方法、前記アラミド糸の束を編む、縫うまたはブレイズ編みにするための方法、および前記束を含んでなる自動車用編みチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
紡績糸または延伸破断糸のアラミドコードは、ゴム、熱可塑性材料または熱硬化性材料のための補強材として用いられることが多い。前記アラミドコードは、2本以上の紡績撚糸または延伸破断糸で構成され、これらの糸が撚り合わされてコードを形成している。前記コードは、そのままで、あるいは、好適な装置で編み物、ブレイズ編み物または織物に加工されてから用いられる。しかしながら、機械でのそのようなアラミドコードの加工には問題があり、用いられる編機、ブレイズ編機、ミシンまたは織機の故障または度重なる停止を引き起こすことが多い。さらに、加工の最中、そのようなアラミドコードは容易にフィラメントを失い、個々の糸(ヤーン)からポリマー部分が容易に脱落して、機械部品の上および中に沈着物を形成する。とりわけ、編み物または縫い物に用いられる針の詰まりは、補強材の最終形態に斑を生じさせることになる。これらの斑のために、コード補強材は整然としたマトリクス型を形成できず、補強材の寿命が大幅に減少してしまう。
【0003】
これまで、アラミド繊維の束は、様々な成分で処理されていた。例えば、特許文献1では、アラミドをはじめとするマルチフィラメント糸の束を油で処理することによって、仕上げ処理の最中に毛羽立ちが生じるのを防いでいる。特許文献2では、アラミド繊維の束を水溶性ポリエステルで処理することによって結束力を高めているが、前記材料は、全く異なる用途、すなわち、セメント材料のための補強材に使われている。
アラミド糸の束を編み物、ブレイズ編み物および縫い物に用いる場合、公知の糸束には上述の欠点が存在する。そのような目的に好適なアラミド糸(繊維)は知られていない。従って、本発明の目的は、優れた結束性を備えるだけでなく、低い摩擦係数を有することによって編み物、ブレイズ編み物および縫い物をし易くするアラミド糸の束を提供することである。「アラミド糸の束」という用語は、少なくとも2本の独立した糸からなる束、とりわけ、アラミド糸でできたコードを包含する。
【0004】
特許文献3では、芳香族ポリアミド、とりわけポリ−p−フェニレンテレフタルアミドのマルチフィラメント糸に水溶性サイズ剤が付与されている。前記サイズ剤に加えて、前記糸には非イオン性ワックスが付与されてもよい。サイズ剤が付与されたヤーンは、製織産業における縦糸および横糸として用いられる。現在、このように非イオン性ワックスで処理された糸がコード編機で用いられるのに最適となるには、まだその摩擦が高すぎることが分かっている(実施例3を参照)。従って、低い摩擦係数を備えると同時に良好な結束性も備える糸を得る必要はまだ有る。
【特許文献1】特開平10−158939号公報
【特許文献2】特開平9−041274号公報
【特許文献3】US4455341
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
現在までに、これらの要件を満たす方法が見つかっている。この目的のために、本発明は、アラミド糸の束の結束性を向上させ且つその摩擦係数を低減させるための方法であって、前記糸の束に対して、水溶性または水分散性フィルム形成性結合剤を、前記糸の重量に基づいて0.1〜3.0重量%添加した後、前記糸の束を、固有粘度が(25℃において)100mm/s未満である油で処理することを特徴とする方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明によるアラミド糸の束、例えばコードは、フィルム形成性結合剤およびオーバーレイ仕上げ剤で処理される。前記結合剤はフィラメント間およびヤーンの結束性を向上させ、フィルム形成性ポリマーでなければならない。好ましくは、前記結合剤は、水溶性または水分散性ポリウレタンおよび/またはスルホン化ポリエステル樹脂である。好適なポリエステルの例としては、スルホン化ジカルボン酸、ジカルボン酸およびジオールから誘導されるポリマーが挙げられる。好ましいとされるのは、ジメチルスルホイソフタル酸ナトリウム、イソフタル酸およびエチレングリコールから誘導されるポリエステルである。そのような製品は、Eastman(登録商標)LB−100という商品名で入手可能である。好適なポリウレタンの例としては、Alberdingk(登録商標)U400Nという商品名で入手可能なポリエーテル−ポリウレタン分散液およびImpranil(登録商標)DLFという商品名で入手可能なポリエステル−ポリウレタン分散液が挙げられる。
前記オーバーレイ仕上げ剤は固有粘度の低い油であり、コードの糸対金属摩擦を低減させる。好ましくは、前記オーバーレイ仕上げ剤は、エステル油である。これらのコード特性によって、失敗の無い編み物、縫い物またはブレイズ編み物動作が可能となる。
【0007】
好適な油の例としては、2−エチルヘキシルステアレート、2−エチルヘキシルパルミテート、n−ブチルラウレート、n−オクチルカプリレート、ブチルステアレートおよびこれらの混合物が挙げられる。好ましいエステル油は、2−エチルヘキシルステアレートと2−エチルヘキシルパルミテートとの混合物であり、これはLW(登録商標)245という商品名で入手可能である。
前述のサイズ剤の使用それ自体は、US4,455,341により知られている。しかしながら、この特許は、サイズ剤を糸(ヤーン)の束に塗布することによってフィラメントよりはむしろ個々の糸(ヤーン)の結束性を高めることよりは、個々の繊維にサイズ剤を塗布することによって繊維内のフィラメントの結束性を高めることに関する。さらに、この特許は非イオン性ワックスの使用を必要とするが、編機で糸(ヤーン)の束を用いる場合、この非イオン性ワックスの使用は悪影響をもたらす。
【0008】
本発明の方法に従って処理することができる糸の束としては、紡績糸および延伸破断糸といった任意のアラミド糸が挙げられる。(スパナイズドヤーンとしても知られる)延伸破断糸は、本方法における使用に特に好適である。好適なアラミドとしては、メタ−およびパラ−アラミド糸、例えばTeijinconex(登録商標)糸[ポリ−(メタ−フェニレンイソフタルアミド);MPIA]、Twaron(登録商標)糸[ポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド);PPTA]およびTechnora(登録商標)糸[コポリ−(パラフェニレン/3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド)]が挙げられる。
【0009】
最後に、本発明は、アラミド糸の束を編む、縫うまたはブレイズ編みにするための方法であって、水溶性または水分散性フィルム形成性結合剤を糸の重量に基づいて0.1〜3.0重量%添加した後、固有粘度が100mm/s未満である油を添加した糸の束を使用することを特徴とする方法を提供することもその目的とする。
本発明の方法に従って処理された糸は、強い結束性を示す。すなわち、これらの糸を含んでなるコードは、個々の糸へとほぐれる傾向が低い。また、前記束(コード)は、従来と比べて改善された摩擦特性を示す。従って、本発明の糸の束は、編み物、縫い物またはブレイズ縫い物をするための方法における使用、および、自動車に用いられる編みチューブを製造するための方法における使用に好適である。
【実施例】
【0010】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。本発明の利点を下記実施例に示すが、下記実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0011】
(糸対金属)摩擦係数(f)の測定
コードの摩擦係数を求めるために、前記コードをボビンから磁気張力装置の上方に導いた。そして、前記コードは、張力測定ヘッド(予備張力T1)、摩擦ピン(ねじれ角90°)、第2張力測定ヘッド(後張力T2)およびゴデットを通過した。最後に、前記コードを巻き取った。測定の最中、後張力T2を測定した。摩擦係数は、下記条件の下で算出した。
条件気候室: 20℃/65%RH
コード/ゴデット速度: 50m/min
前張力: 磁気張力装置によって50cNに固定
摩擦ピン: 滑らかなクロムめっきスチール
摩擦ピンの直径: 32mm
摩擦係数(f)の計算: f = 1/αln(T2/T1)
上記式中、αはねじれ角(単位:ラジアン(1/2π))を表す。
【0012】
切断試験
長さが100cmのコードサンプルを、テーブルの上に垂直に吊るす。その上端をクランプに固定する。前記サンプルの固定されていない下端に、コード内の張力が0.15cN/dtexとなるようなおもりを取り付ける。前記ぶら下げられたコードが回転しないようにしなければならない。その後、前記コードを、懸架点から75cm下のところでハサミで切断する。次に、吊るされたままの前記コードサンプルの残りの3/4について、前記コードが切断された点に新しく形成されたすそが広がった端部までの長さを測定する。前述の張力下において切断されることによって縦方向に開いた前記コードの開き具合が、糸の結束力の度合いを示している。この試験を5回繰り返し、その平均値(cm)を切断試験値とする。この試験は、糸の束を形成する個々の糸の結束性を示している。
【0013】
実施例1 (実験1A〜1J、2A〜2J、3A〜3J、4)
本実施例では、Teijinconex(登録商標)KBの3層コードへの、オーバーレイ仕上げ剤と組み合わせた結合剤の適用を説明する。前記コードは、Teijinconex(登録商標)KBの延伸破断糸(1100dtex X 3Z80)から製造され、下記処理に付された。
一括りのコードを回転させて巻き解いていく一方で、巻き解いたコードを液体塗布装置A、蒸気室(温度:240℃、滞留時間:10秒間)、液体塗布装置Bに連続して通し、最後に60m/minの速度で巻き取った。
前記液体塗布装置Aおよびチューブポンプを用いて、前記コードを、表Iに記載の水性結合剤で処理した。前記液体塗布装置Bおよび注射器ポンプを用いて、前記コードを、表IIに記載のオーバーレイ仕上げ剤(生油)で処理した。
下記処理条件を変えた。
a)結合剤の組成
b)結合剤の添加量
c)オーバーレイ仕上げ剤の添加量
製造したコードの糸対金属摩擦および結束性を、切断試験に従って試験した。さらに、一部のコードの機械的特性および含水率を測定した。参考として、Teijinconex(登録商標)KBの未処理コードを試験した。その結果を表IIIに示す。
実験2Bおよび1EのコードがLucas丸編機において優れた編み動作を示したのに対し、未処理コード(実験4)は同じ機械において悪い編み性能(停止および故障)を示した。
【0014】
【表1】

【0015】
Eastman LB−100は、Eastman Chemical Company、Kingsport、USAが供給業者である水分散性ポリエステルポリマーである。
Alberdingk U 400N(40%)は、Alberdingk Boley GmbH、Krefeld、Germanyが供給業者であるポリエーテル−ポリウレタン水分散液である。
Impranil(登録商標)DLF(40%)は、Bayer AG、Leverkusen、Germanyが供給業者であるポリエステル−ポリウレタン水分散液である。
【0016】
【表2】

【0017】
LW 245は、Cognis、Dusseldorf、Germanyが供給業者である、粘度が14.6mm/秒(25℃)である低粘性エステル油(2−エチルヘキシルステアレートと2−エチルヘキシルパルミテートとの混合物)である。
【0018】
【表3】

【0019】
実施例2 (実験5および6)
コードをTeijinconex(登録商標)KBの延伸破断糸(1100dtex X 2Z120)から製造し、実験1Eに関連して前述した処理と同じ処理に付した。参考として、Teijinconex(登録商標)KBの未処理コードを試験した。その結果を表IVに示す。本発明に従って処理されたコードは、優れた結束性および低い摩擦係数を示した。
【0020】
【表4】

【0021】
実施例3
本実施例では、非イオン性ワックスと比較した、固有粘度が25℃において100mm/s未満である油の効果を示す。
Teijinconex(登録商標)KBの延伸破断糸(1100dtex X 3Z80)からコードを製造した。このコードを下記処理に付した。一括りの前記コードを回転させて巻き解いていく一方で、巻き解いたコードを液体塗布装置A、熱風炉(温度:240℃、滞留時間:10秒間)、液体塗布装置B(油の場合)または加熱したメタルキスロールC(ワックスの場合)に連続して通し、最後に36m/minの速度で巻き取った。前記液体塗布装置Aおよびチューブポンプを用いて、前記コードを、2.0重量%水溶液から、0.6重量%の結合剤Eastman LB 100(水分散性ポリエステルポリマー、供給業者:Eastman Chemical Company、Kingsport、USA)で処理した。
前記コードを、液体塗布装置Bおよび注射器ポンプを用いて、油LW245(25℃での粘度:14.6mm/s)で処理した。
【0022】
比較として、前記コードを、前記加熱したキスロールCを用いて、溶融ワックスBevaloid(登録商標)356で処理した。Bevaloid(登録商標)356は非イオン性ワックス(供給業者:Kemira Chimie SA、Lauterbourg、France)であり、もはや入手不可能である非イオン性ワックスSopromine(登録商標)CFの代用品としてKemiraから推奨されているものである。
前記処理されたコードの摩擦係数(糸対金属)は、前述のようにして求めた。
結果を下記表Vに示す。
【0023】
【表5】

【0024】
オーバーレイ仕上げ剤として油(25℃での粘度:<100mm/s)を用いたときにTeijinconex(登録商標)KBコードの糸対金属摩擦が最も低くなるということが結論づけられる。非イオン性ワックスのオーバーレイ仕上げ剤としての使用は、前記油の使用ほど効果的ではなく、そのため、例えばコード編機において、前記油を用いたときよりも早い段階で加工の中断および機械の故障を引き起こす。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の方法の効果を示す写真であって、切断試験後の本発明に従って処理されたコード(B)と未処理コード(A)(3 × 1100dtex)との比較を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド糸の束の結束性を向上させ且つその摩擦係数を低減させるための方法であって、
前記糸の束に対して、水溶性または水分散性フィルム形成性結合剤を、前記糸の重量に基づいて0.1〜3.0重量%添加した後、
前記糸の束を、固有粘度が25℃において100mm/s未満である油で処理することを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記フィルム形成性結合剤は、水分散性ポリウレタンまたはスルホン化ポリエステル、またはそれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記糸は、延伸破断糸である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記糸は、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)糸である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
アラミド糸の束を編む、縫うまたはブレイズ編みにするための方法であって、水溶性または水分散性フィルム形成性結合剤を糸の重量に基づいて0.1〜3.0重量%添加した後、固有粘度が100mm/s未満である油を添加した糸の束を使用することを特徴とする前記方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法によって得られる編まれた糸束を含んでなる、自動車用編みチューブ。

【図1】
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【公表番号】特表2008−522049(P2008−522049A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543751(P2007−543751)
【出願日】平成17年11月26日(2005.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012664
【国際公開番号】WO2006/058676
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(501469803)テイジン・アラミド・ビー.ブイ. (48)
【Fターム(参考)】