説明

アリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法

【課題】アリイン含有量の高い脱臭ニンニク及び脱臭ニンニクエキスを製造する方法、及び臭いはほとんど無いが風味のあるニンニク素材或いはこの素材を添加した食品を提供する。
【解決手段】(1)ニンニクの可食部に、その粉砕物のpHが、3.0以下、好ましくは2.8以下になるように、酸性物質又はこれを溶解した溶液を混合して粉砕するアリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法。(2)ニンニクの可食部に、その粉砕物のpHが、10.0以上、好ましくは10.3以上になるように、塩基性物質又はこれを溶解した溶液を混合して粉砕するアリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法。(3)前記方法により、ニンニク中のアリインがアリシンに変換することを防ぐ、アリイン高含有量の脱臭ニンニク食品素材(スラリー、粉末、エキス等)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法、アリイン含有量の高い脱臭ニンニク食品素材(スラリー、切片、粉末、エキス等)、及びこれを使用した食品に関する。
特に、脱臭処理後においても、ニンニクの有効成分であるアリインを多量に含有する食品素材が得られることを特徴とする。
本願発明において、「脱臭」とは、「無臭ないし低(減)臭化」を意味する。
【背景技術】
【0002】
ニンニクは滋養強壮効果を持つ食品素材、あるいは香辛料として古来より親しまれており、現在も洋の東西を問わず料理の素材として重要である。また、健康食品素材としても利用されており、有効成分としてはアリイン、アリシン、アホエン、γ−グルタミル−S−アリルシステイン等の含硫アミノ酸由来の化合物が知られている。
【0003】
アリシンはニンニクに特徴的な強い臭い物質で、アミノ酸の一種である無臭のアリインがアリイナーゼによって分解されてできるアリルスルフェン酸の脱水反応により生成する。
このアリシンを主成分とする臭いのため、仕事や重要な会合の前にはニンニクを食べるのを控えることも多い。そのため、様々な無臭化の試みがなされてきた。
【0004】
ニンニクの無臭化の方法として、高周波加熱(例えば、特許文献1参照)、アルコール漬け加熱(例えば、特許文献2参照)、蜂蜜漬け加熱(例えば、特許文献3参照)、活性炭処理(例えば、特許文献4参照)、牛乳中のミネラルによる処理(例えば、特許文献5参照)、加圧処理(例えば、特許文献6、7、8参照)、発酵処理(例えば、特許文献9、10、11参照)、有機酸と無機塩類を含む水溶液への浸漬(例えば、特許文献12参照)、卵黄の被膜を形成させる方法(例えば、特許文献13参照)、等が知られている。また、ニンニクを食した後の口臭を低減する方法として、pH7.0以上又はpH4.0以下の溶液による処理(例えば、特許文献14参照)が知られている。
【0005】
これらの方法のうち加熱工程を設けているものは、昇温中にニンニク細胞内でわずかでもアリイナーゼによる反応が起こり、臭い物質が生成する。また、アリイナーゼによる反応でなくても、加熱時に含流化合物が反応して臭い物質が生成する。高周波加熱は最も短時間でニンニクの温度を上昇させることが出来るが、それでも臭い物質の生成を完全には抑制できない。また、特許文献2の方法では、使用するアルコール溶液の濃度が数パーセントと低いため酵素失活効果は低く、ニンニクの煮沸とほとんど変わりがない。沸騰水中で煮沸したニンニクが無臭でないことは周知の事実である。特許文献3の方法では、臭い物質の生成に加え、処理後の蜂蜜除去や2度の高周波加熱による成分破壊の問題がある。加圧処理の場合も加圧時に加熱されるとやはり臭い物質が生成するが、特許文献6、7、8の方法ではいずれも加熱工程がある。
【0006】
発酵処理は、特許文献9、10、11いずれの方法においても培養に数日〜1ヶ月以上の期間を要し、しかも培養だけでは完全に無臭化することができず他の方法と組み合わせている。そのため、製造工程も煩雑である。
【0007】
特許文献12の方法は臭い物質をかなり良く除去できるが、有効成分の損失も非常に大きい。特許文献13の方法はマイクロ波加熱処理に加え、更に2度の加熱処理工程があるため臭い物質が発生する。卵黄で被覆しても摂食後体内で臭い物質が発生するため、根本的な無臭化とはならない。
【0008】
特許文献14の方法はニンニク自体の消臭ではなく、ニンニクを食した後の消臭に関する技術である。特許文献14では、アリイナーゼの至適pHをはずすように請求項1に記載のpHの範囲を決めたことが〔0012〕に示されているが、至適pHをはずしたからといって酵素活性が阻害または失活するとは限らない。特許文献14では、請求項1に記載のpHの範囲でアリイナーゼの活性が抑制又は阻害され、あるいは失活するかどうか確認していない。しかも、加工後のニンニク自体は有臭であって、無臭ニンニクの製造法ではない。
又、特許文献14の方法は酸性(pH4.0以下)又はアルカリ性(pH7.0以上)の溶液にニンニクを浸漬した後加熱や破砕を行うことに加え、多糖類の添加等かなり複雑な工程を必要としている。そして、酸性、アルカリ性といっても、実施例に記載されているのは、酸性は、pH4.0(酢酸)、アルカリ性は、pH8.5(炭酸ナトリウム)のみである。
【0009】
健康食品として販売されているニンニク加工品の中には無臭を謳っているものがかなりあるが、生理活性を持つ硫黄化合物を多量に含有するものは非常に少ない(非特許文献1)。また、無臭化ニンニクの製造法に関する特許文献1〜14について、臭い成分の含有量が記載されているものはあるが(特許文献4、12)、アリインをはじめとする無臭の有効成分の含有量を記載しているものはなく有効成分の含有量まで配慮していない。この事実は、非特許文献1の指摘を暗に裏付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭40−12464
【特許文献2】特公昭55−7222
【特許文献3】特公昭52−15655
【特許文献4】特開平5−103622
【特許文献5】特開平6−245729
【特許文献6】特開平6−311865
【特許文献7】特開平6−335360
【特許文献8】特開平7−87920
【特許文献9】特開平7−46966
【特許文献10】特開2000−83616
【特許文献11】特開2001−299261
【特許文献12】特開平9−187247
【特許文献13】特開2001−25371
【特許文献14】特開2004−159515
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】New Food Industry,Vol.36,No.11,1−10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ニンニクは、無臭のアリインを出発物質する数種類の硫黄化合物を主な有効成分として含み、健康に良い食品素材として認知されている。しかしながら有効成分の1つであるアリシンは強い臭いを持ち、ほんの少し生成しただけでもニンニクと判るほどである。生成したアリシンのみ除去できればよいが、無臭化のみを追及すると肝心の有効成分も除去してしまい、ニンニクの価値が失われてしまう。
【0013】
本発明は、種々の有効成分の出発物質であり自身も有効成分であるアリインを極力アリシンに変えず、乾燥物において重量比1%以上の高濃度のアリインを含む脱臭ニンニクを提供することおよび、滋養、強壮の成分でニンニクに多量に含有されるアルギニンも、1%以上の高濃度で含まれる状態で提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、生ニンニクを酸性物質又はこれを溶解した溶液と共に粉砕してその粉砕物のpHを低い状態(3.0以下)にすると、粉砕直後にはニンニク臭がするものの速やかに臭いが低減することを見出した。同様に、生ニンニクを塩基性物質又はこれを溶解した溶液と共に粉砕してその粉砕物のpHを高い状態(10.0以上)にすると、粉砕直後のニンニク臭は低減しなかったがアリイン含有量が高濃度に保たれることを見出した。以上の事実は、無臭のアリインを臭い物質のアリシンに変換する酵素アリイナーゼがpH3.0以下の強酸性或いはpH10.0以上の強塩基性の条件下で失活し、強酸性状態では生成したアリシンも分解或いは無臭性の物質に変化することを示している。
【0015】
本発明のポイントは、アリイナーゼが完全に失活するpHの範囲を明らかにしたことである。アリイナーゼを本発明のpH範囲下に置くことができれば、ニンニクの加工形態にはこだわらない。粉砕の他、スライスしたニンニクを酸性、又は塩基性の物質又はこれらを溶解した溶液に浸漬して達成しても良い。
【0016】
従って、本発明は以下のように構成されている。
請求項1:ニンニクの可食部に、その粉砕物のpHが、3.0以下、好ましくは2.8以下になるように、酸性物質又はこれを溶解した溶液を混合して粉砕することを特徴とするアリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法。
請求項2:ニンニクの可食部に、その粉砕物のpHが、10.0以上、好ましくは10.3以上になるように、塩基性物質又はこれを溶解した溶液を混合して粉砕することを特徴とするアリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法。
請求項3:ニンニクの可食部の切片(チップ)を、その切片を取り出して粉砕したときの粉砕物のpHが3.0以下、好ましくは2.8以下になるように、酸性物質又はこれを溶解した溶液に浸漬することを特徴とするアリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法。
請求項4:ニンニクの可食部として、生のニンニク、又はその冷凍品を使用する請求項1〜請求項3に記載するアリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法。
請求項5:ニンニクの可食部に対し、請求項1〜請求項4に記載する脱臭ニンニクの製造方法を適用して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニクスラリー又は切片。
請求項6: 請求項5に記載するスラリー又は切片を、そのまま、又は中和後に乾燥して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニク粉末、又は切片。
請求項7:ニンニクの可食部に対し、請求項1〜請求項6に記載する脱臭ニンニクの製造方法を適用して得られたスラリー又は切片から液体分を回収し、そのまま、又は中和して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニクエキス。
請求項8:請求項5に記載するアリイン含有量の高い脱臭ニンニクスラリー又は切片、請求項6に記載するアリイン含有量の高い脱臭ニンニク粉末又は切片、又は請求項7に記載するアリイン含有量の高い脱臭ニンニクエキスを添加した食品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ニンニクの可食部に、例えば塩酸やリン酸のような液体の酸、又はそれらの希釈溶液、又はクエン酸のような粉末状有機酸を溶かした溶液を添加して粉砕すれば、有効成分のアリインやアルギニン含有量の高い脱臭ニンニクスラリーを容易に得ることができる。また、これらの酸性溶液にスライスしたニンニク切片を浸漬することにより、アリインやアルギニン含有量の高い脱臭ニンニク片を容易に得ることができる。このようにして製造したニンニクスラリーは、例えば水酸化ナトリウムや重曹などの塩基性物質を高濃度に溶かした溶液を添加することで、又ニンニク切片(チップ)はこれらの溶液に浸漬することで容易に中和できる。特にスラリーの場合、例えば凍結乾燥することによって有効成分の損失の少ない脱臭ニンニク粉末が得られ、また、液体分の回収、又は水抽出を行うことにより、有効成分の豊富な脱臭ニンニクエキスを得ることができる。ニンニクの可食部を例えば水酸化ナトリウム水溶液を添加して粉砕すると、臭いは有るがアリインやアルギニン含有量の高いニンニクスラリーが得られる。このスラリーについて液体分の回収、又は水抽出を行った後、活性炭処理などの脱臭処理を行うことにより有効成分の豊富な脱臭ニンニクエキスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明で用いられるニンニクは鱗茎、茎、葉、花等どの部分でも良いが、生か、あるいは生を凍結したものが良い。また、加工前のアリシン生成低減のため、傷の少ないものが好ましい。
本願発明において、ニンニクの切片とは、ニンニクを必要なサイズにカットしたものをいう(チップ)。
本願発明において酸性物質とは、無機酸、又は有機酸をいう。
本願発明において塩基性物質とは、水に溶解して塩基性を示す物質をいう。
【0019】
生、又は凍結したニンニクの鱗茎を、食品製造で使用できる無機酸(例えば、塩酸やリン酸)や有機酸(例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、フマル酸、フィチン酸、アジピン酸、こはく酸、グルコン酸、イタコン酸)、又はこれらの水溶液を添加して粉砕する。各々の酸により添加量は異なるが、粉砕物のpHを3.0以下、好ましくは2.8以下にする。
【0020】
ニンニク鱗茎の切片を脱臭する場合は、生のものを使用する。凍結品や乾燥品の場合多くの細胞が破壊されており、液体に浸漬するとニンニクの成分の多くが流出する。生のニンニクはどのようにスライスしても良いが、厚い場合はより長い浸漬時間が必要である。スライスせずに丸のまま浸漬した場合、表皮のバリアー性が高いため数日経過しても溶液はほとんど浸透しない。例えば、ニンニク鱗茎を約1mmの厚さにスライスして食品製造で使用できる無機酸(例えば、塩酸やリン酸)や有機酸(例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、フマル酸、フィチン酸、アジピン酸、こはく酸、グルコン酸、イタコン酸)或いはこれらの水溶液に浸漬する。一定時間置いてから一部を取り出して粉砕し、そのpHが3.0以下、好ましくは2.8以下であることを確認する。
【0021】
生、又は凍結したニンニクの鱗茎を、食品製造で使用できる塩基性物質のうち強塩基性のもの(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム)の水溶液を添加して粉砕する。このときの粉砕物のpHを10.0以上、好ましくは10.3以上にする。これら粉砕物に当量の水を加えて攪拌後濾過し、濾液を活性炭で脱臭処理すると臭いの非常に少ない脱臭ニンニクエキスができる。
【0022】
酸性物質、又はその水溶液で脱臭したニンニクスラリーは、食品製造で使用できる塩基性物質(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸四ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム)の水溶液で中和できる。酸性物質、又はその水溶液で脱臭したニンニク切片は、上記塩基性物質の水溶液に浸漬して中和できる。ただし、切片の場合生のニンニクを使用してもある程度の成分の流出は避けられない。塩基性溶液に生ニンニク鱗茎の切片を浸漬する方法は、アリイナーゼの失活は達成できるが脱臭は難しい。塩基性溶液に浸漬後、酸性溶液に浸漬することで中和とある程度の脱臭はできるが、先に酸性溶液に浸漬した方が脱臭効果は高い。
【実施例1】
【0023】
スーパーマーケット等で普通に購入可能な中国産ニンニクの鱗茎を一粒ずつに分けて皮を剥き、約100gを純水100mlと一緒にジューサー(TM807、株式会社テスコム)に入れてホモジナイズした。ホモジネートのpHを測定した後真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で凍結乾燥し、乾燥物をミル(TM807、株式会社テスコム)で粉砕して粉末化した。次に酸性水溶液として0.15規定、0.2規定、0.3規定の塩酸水溶液、0.5規定、0.75規定、1.0規定のリン酸水溶液、1.0mol/L、1.5mol/L、2.0mol/Lの乳酸水溶液、0.3mol/L、0.5mol/L、1.0mol/Lのクエン酸水溶液、0.5mol/L、1.0mol/L、1.5mol/Lのリンゴ酸水溶液、1.0mol/L、1.5mol/L、1.8mol/Lのアスコルビン酸水溶液を各100ml調製し、各々を約100gのニンニク鱗茎に加えて純水の場合と同様にホモジナイズした。各ホモジネートは臭いの程度を確認してからpHを測定した後、10規定の水酸化ナトリウム水溶液を添加して純水を用いたホモジネートのpH値に近い値(5.87〜6.09)になるよう中和し、その後純水の場合と同様に凍結乾燥して粉末化した。さらに塩基性水溶液として0.2規定、0.3規定、0.35規定、0.4規定の水酸化ナトリウム水溶液を各100ml調製し、各々を約100gのニンニク鱗茎に加えて純水の場合と同様にホモジナイズした。各ホモジネートは臭いの程度を確認してからpHを測定した後、12規定の塩酸水溶液を添加して純水を用いたホモジネートのpH値に近い値(5.87〜5.99)になるよう中和し、その後純水の場合と同様に凍結乾燥して粉末化した。各粉末は、アリイン含有量をアミノ酸分析にて測定するためアミノ酸抽出に供した。
【0024】
アミノ酸抽出及び分析は以下のように行った。ニンニクの凍結乾燥粉末を1.00g量り取り、ホモジナイザー(エースホモジナイザーAM−3、株式会社日本精機製作所)用カップに入れて純水50mlを加え15,000rpm、10分間ホモジナイズした。ホモジネートを定量濾紙(No.5A,150mm、東洋濾紙株式会社)で濾過した後濾紙に残った残渣を回収し、再度純水50mlを加えて15,000rpm、10分間ホモジナイズした。ホモジネートを定量濾紙(No.5A,150mm、東洋濾紙株式会社)で濾過した後先の濾液と合わせ、200mlメスフラスコに移して純水にて定容した。この溶液の一部をポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、濾液をアミノ酸分析用サンプル希釈液(クエン酸リチウム緩衝液:6.9g/L クエン酸リチウム(4H2O)、1.3g/L 塩化リチウム、8.8g/L クエン酸、4.0ml/L 塩酸、40.0ml/L エタノール、3.1ml/L BRIJ−35(20%)、2.5ml/L チオジグリコール、0.1ml/L n−カプリル酸(日本電子株式会社で販売))で適宜希釈してアミノ酸分析用サンプル溶液とした。サンプル溶液を全自動アミノ酸分析機(JLC−500/V、日本電子株式会社)用のバイアル瓶に入れてセットし、50μlを注入して分析を行った。装置の操作は付属の操作マニュアルに従った。尚、標準物質としてのアリインは、L(+)−Alliin(LKT Labs. Inc., St. Paul MN)を和光純薬工業株式会社より購入した。各ホモジネートのpHと臭いの程度、及び粉末化後のアリイン含有量を表1〜表7に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
【表5】

【0030】
【表6】

【0031】
【表7】

【0032】
表1〜表6に示されるように、使用した無機酸及び有機酸水溶液のほとんどで、ニンニクホモジネートのpHが3.0付近になると脱臭効果が見られ、特に2.8以下で極低臭になることがわかる。しかしながら酸の強さが異なるため、同程度のpHまで下げるのに必要な添加量は酸により異なる。酢酸水溶液は、他の酸に比べて添加量が非常に多くなり実用的ではなかった(pHを3.0以下にするためには、5M以上の濃度が必要であった)。また、臭いが少ないホモジネートほどアリイン含有量は高かった。
【0033】
表7に示されるように、pHが10.5以上のホモジネートでは少し臭いの低減が見られたものの、pHを上げることによる脱臭効果は酸の場合ほど顕著ではなかった。しかしながら、アリイン含有量はpHが9.37の場合と10.71の場合で顕著に異なり、両者の間にアリイナーゼが失活するpH域が存在することがわかる。
【実施例2】
【0034】
pH3.0前後のpHとなるニンニクホモジネートを数種類作製し、その後中和してアリイナーゼに反応を行わせてから残存するアリインを測定することにより、アリイナーゼが失活する酸性領域が明らかとなる。以下に実施例を示す。
0.25mol/L、0.3mol/L、0.4mol/L、0.5mol/L、0.6mol/Lのクエン酸水溶液を用意し、約50gの中国産ニンニクの鱗茎に各水溶液を同重量加えてミル(TM807、株式会社テスコム)でホモジナイズした。ホモジナイズ後すぐにpHを測定した後、10規定水酸化ナトリウム水溶液でpH5.8〜5.9になるよう中和した。中和後、2本の50ml遠心チューブに20gずつ分注して1本はすぐに沸騰水中に10分間浸漬して酵素を完全に失活させた。他の1本は35℃に設定した孵卵器に入れて一晩保温した後、沸騰水中に10分間浸漬して酵素反応を停止した。酵素の失活処理後、遠心器(CN−1040、アズワン株式会社)で3000×g、10分間遠心し、上清を回収した。上清の一部を取ってポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、実施例1の場合と同様にアミノ酸分析を行った。各ホモジネートのpHとその上清のアリイン含有量および中和直後と一晩反応後の上清のアリイン含有量の差を表8に示す。
【0035】
【表8】

【0036】
表8に示されるように、クエン酸の濃度が増加してpHが下がるに伴い、中和直後と中和後一晩反応させた後の上清のアリイン含有量の差が小さくなっている。この結果は、pHが下がるにつれてアリイナーゼの失活の度合いが高くなることを示しており、特にpH2.81では完全に失活していることがわかる。
【実施例3】
【0037】
pH10.0前後のpHとなるニンニクホモジネートを数種類作製し、その後中和してアリイナーゼに反応を行わせてから残存するアリインを測定することにより、アリイナーゼが失活する塩基性領域が明らかとなる。以下に実施例を示す。
0.2規定、0.225規定、0.24規定、0.25規定、0.3規定の水酸化ナトリウム水溶液を用意し、約50gの中国産ニンニクの鱗茎に各水溶液を同重量加えてミル(TM807、株式会社テスコム)でホモジナイズした。ホモジナイズ後すぐにpHを測定した後、12規定塩酸でpH5.8〜5.9になるよう中和した。中和後、2本の50ml遠心チューブに20gずつ分注して1本はすぐに沸騰水中に10分間浸漬して酵素を完全に失活させた。他の1本は35℃に設定した孵卵器に入れて一晩保温した後、沸騰水中に10分間浸漬して酵素反応を停止した。酵素の失活処理後、遠心器(CN−1040、アズワン株式会社)で3000×g、10分間遠心し、上清を回収した。上清の一部を取ってポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、実施例1の場合と同様にアミノ酸分析を行った。各ホモジネートのpHとその上清のアリイン含有量および中和直後と一晩反応後の上清のアリイン含有量の差を表9に示す。
【0038】
【表9】

【0039】
表9に示されるように、酸性域の場合と異なって塩基性域ではpH9.65でもアリイナーゼの活性は強い状態を保っており、アリインが速やかにアリシンに変わっている事がわかる。アリイナーゼ活性の阻害が現れるのはpH10.0付近であり、10.27で完全に失活していることがわかる。
【0040】
実施例1〜実施例3の結果から、ニンニク中のアリイナーゼを確実に失活させるにはそのホモジネートのpHが2.8以下若しくは10.3以上でなければならないことが確認された。
【実施例4】
【0041】
生ニンニクの鱗茎約200gを包丁で約1mmの厚さに縦にスライスし、約100gを100mlの0.3規定塩酸水溶液、残り約100gを1.0mol/Lクエン酸水溶液に浸漬した。その後、2時間、4時間、8時間経過後に切片を約30gずつ取り出して軽く純水で洗浄後、ホモジナイザー(エースホモジナイザーAM−3、株式会社日本精機製作所)でホモジナイズして、ホモジネートのpHを測定した。測定後のホモジネートは真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で凍結乾燥し、実施例1の場合と同様にアミノ酸分析を行って乾燥粉末のアリイン含有量を測定した。各切片のホモジネートのpHと臭いの程度、及び粉末化後のアリイン含有量を表10、11に示す。
【0042】
【表10】

【0043】
【表11】

【0044】
表10、表11に示されるように、上記酸性溶液にニンニク切片を浸漬すると、4時間程度で切片内部のpHが3.0以下に低下することが解かる。しかしながら、4時間の浸漬ではアリイン含有量が2000mg/100gを超えているものの8時間の浸漬では極低臭になったにもかかわらず2000mg/100gを下回っており、浸漬によって成分の流失が起こったことがわかる。
【実施例5】
【0045】
中国産冷凍ニンニク約200gに0.5mol/Lクエン酸水溶液200mlを加え、解凍後ジューサー(TM807、株式会社テスコム)に入れてホモジナイズした。ホモジネートのpHが3.0以下であることを確認した後(測定値2.68)、攪拌しながら重曹15gを少しずつ加えて中和した(pH4.67)。この時点でのホモジネートの臭いは極低臭(ほんの僅か感じる程度)であった。このホモジネート約200gを凍結し、凍結真空乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で凍結乾燥した。一方、残りのホモジネート約200gは、200mlの純水を加えて攪拌した後目の粗い布で濾過した(水抽出エキス)。エキス250mlのうち100mlを珪藻土(ファインフロー、昭和化学工業株式会社)で濾過した(エキス1)。残り150mlに活性炭(特性白鷺、キリン協和フーズ株式会社)を液重量の2%添加し、良く攪拌した後珪藻土(ファインフロー、昭和化学工業株式会社)で濾過した(エキス2)。これらのエキスを凍結し、真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で凍結乾燥した。各凍結乾燥品はミル(TM807、株式会社テスコム)で粉砕して粉末化し、実施例1の場合と同様にアミノ酸分析を行って乾燥粉末のアリイン含有量を測定した。もう一つの有効成分であるアルギニンの含有量も合わせて、測定結果を表12に示す。
【0046】
【表12】

【0047】
表12に示されるように、極低臭でアリイン及びアルギニン含有量の高いニンニク粉末が得られたが、特に水抽出エキスの場合、アリイン及びアルギニン含有量が非常に高くなった。エキス1はホモジネートと同様に少し黄緑色を呈し極低臭ながらほんの僅か臭いが認められたが、エキス2はほとんど無臭、無色であった。
【実施例6】
【0048】
中国産冷凍ニンニク約100gに0.4規定水酸化ナトリウム水溶液100mlを加え、解凍後ジューサー(TM807、株式会社テスコム)に入れてホモジナイズした。ホモジネートのpHが11.5以上であることを確認した後(測定値11.68)、攪拌しながらクエン酸5gを加えて中和した(pH4.56)。中和前のホモジネートの臭いは強臭であったが、中和後は低減されて有臭レベルになった。ホモジネートに200mlの純水を加えて攪拌した後、目の粗い布で濾過してから活性炭(特性白鷺、キリン協和フーズ株式会社)を液重量の2%添加し、良く攪拌した後珪藻土(ファインフロー、昭和化学工業株式会社)で濾過した。得られたエキス(エキス3)はほとんど無臭、無色であった。エキス3を凍結し、真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で凍結乾燥した。凍結乾燥品はミル(TM807、株式会社テスコム)で粉砕して粉末化し、実施例1の場合と同様にアミノ酸分析を行って乾燥粉末のアリイン含有量を測定した。アルギニンの含有量も合わせて、測定結果を表13に示す。
【0049】
【表13】

【0050】
表13に示されるように、実施例5のエキス2と同程度のアリイン、アルギニン含有量で、ほとんど無臭のニンニクエキス粉末が得られた。
【実施例7】
【0051】
実施例6のニンニクホモジネート凍結乾燥粉末(脱臭ニンニク粉末)を使用して、以下の処方によるキムチ用調味液を試作して白菜を漬け込んだ。
【0052】
【表14】


比較のため、脱臭ニンニク粉末の変わりにおろしニンニク(株式会社ナカユキスパイス)を40g添加したものも試作した。添加量はニンニクの水分含有量が約65%であるため、おろしニンニク40gに対し脱臭ニンニク粉末を14g(重量比35%)とした。
【0053】
試食して両者を比較したところ、おろしニンニクを使用したものはニンニク臭の強い普通のキムチだが、脱臭ニンニク粉末を使用したものはニンニク臭が感じられず、前者では気づかなかったパプリカの臭い(パプリカ4万SS由来と思われる)を感じた。味はニンニクの風味がしっかり出ており、本発明の脱臭ニンニクを用いてニンニク臭のほとんど無いキムチが製造可能であることがわかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニンニクの可食部に、その粉砕物のpHが、3.0以下、好ましくは2.8以下になるように、酸性物質又はこれを溶解した溶液を混合して粉砕することを特徴とするアリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法。
【請求項2】
ニンニクの可食部に、その粉砕物のpHが、10.0以上、好ましくは10.3以上になるように、塩基性物質又はこれを溶解した溶液を混合して粉砕することを特徴とするアリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法。
【請求項3】
ニンニクの可食部の切片(チップ)を、その切片を取り出して粉砕したときの粉砕物のpHが3.0以下、好ましくは2.8以下になるように、酸性物質又はこれを溶解した溶液に浸漬することを特徴とするアリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法。
【請求項4】
ニンニクの可食部として、生のニンニク、又はその冷凍品を使用する請求項1〜請求項3に記載するアリイン含有量の高い脱臭ニンニクの製造方法。
【請求項5】
ニンニクの可食部に対し、請求項1〜請求項4に記載する脱臭ニンニクの製造方法を適用して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニクスラリー又は切片。
【請求項6】
請求項5に記載するスラリー又は切片を、そのまま、又は中和後に乾燥して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニク粉末、又は切片。
【請求項7】
ニンニクの可食部に対し、請求項1〜請求項6に記載する脱臭ニンニクの製造方法を適用して得られたスラリー又は切片から液体分を回収し、そのまま、又は中和して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニクエキス。
【請求項8】
請求項5に記載するアリイン含有量の高い脱臭ニンニクスラリー又は切片、請求項6に記載するアリイン含有量の高い脱臭ニンニク粉末又は切片、又は請求項7に記載するアリイン含有量の高い脱臭ニンニクエキスを添加した食品。


【公開番号】特開2011−10612(P2011−10612A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158603(P2009−158603)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(503353025)株式会社アセラ (10)
【出願人】(509189488)
【Fターム(参考)】