説明

アリルクロライドの製造方法

【課題】長期間の連続運転が可能なアリルクロライドの製造方法を提供すること。
【解決手段】反応器30内で高温にてプロピレンと塩素とを反応させてガス状反応生成物を得、このガス状反応生成物を熱交換器10にて冷却した後、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を分離してアリルクロライドを得る製造方法であって、前記熱交換器10が、筒型のシェル11内に複数の伝熱管13が挿通され且つじゃま板12を有し、シェル11内および伝熱管13にそれぞれプロピレンおよびガス状反応生成物を並流で通過させて、ガス状反応生成物とプロピレンとの間で熱交換を行なわせることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルクロライドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリルクロライドは、エピクロルヒドリンをはじめとする各種の化学薬品や合成樹脂の製造に使用される。
従来、アリルクロライドは、高温にてプロピレンと塩素とを反応させ、その反応生成物を冷却後、冷却留分を分留することによりアリルクロライドを回収する方法によって製造されている(例えば、特許文献1)。反応生成物の冷却は、通常、多管式熱交換器にて行われる。その際、熱媒体には予熱も兼ねて原料のプロピレンが使用される。
しかしながら、上記方法は熱交換器内、特にプロピレンが通過する伝熱管の周囲(シェル側)に、プロピレンが炭化して生じるカーボンが付着、堆積しやすく、このため熱交換器を閉塞させ、熱効率が低下して運転に支障をきたし、また付着したカーボンを除去するために連続運転が出来ないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−252434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、長期間の連続運転が可能なアリルクロライドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、かかる問題を解決すべく鋭意検討した結果、高温にてプロピレンと塩素とを反応させ、その反応生成物をプロピレンと熱交換させて冷却する際に、反応生成物と未反応プロピレン(回収プロピレン)の流れる方向を、向流でなく並流とすることで、熱交換器内のプロピレンが炭化するのを抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、反応器内で高温にてプロピレンと塩素とを反応させてガス状反応生成物を得、このガス状反応生成物を熱交換器にて冷却した後、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を分離してアリルクロライドを得る製造方法であって、前記熱交換器が、筒型のシェル内に複数の伝熱管が挿通され且つじゃま板を有し、シェル内および伝熱管にそれぞれプロピレンおよびガス状反応生成物を並流で通過させて、ガス状反応生成物とプロピレンとの間で熱交換を行なわせる、ことを特徴とするアリルクロライドの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱交換器のシェル内および伝熱管にそれぞれプロピレンおよびガス状反応生成物を並流で通過させることにより、カーボン等の付着、堆積を抑制することができる。そのため、熱交換器が閉塞したり、熱効率が低下することがなく、アリルクロライドを長期間にわたり、安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の製造方法の一実施形態の概要を示す工程図である。
【図2】本発明の多管式熱交換器の一実施形態を示す概略断面図である。(なお、伝熱管は説明の便宜上、一本のみを示している)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は前記したように、反応器内で高温にてプロピレンと塩素とを反応させてガス状反応生成物を得、このガス状反応生成物を熱交換器にて冷却した後、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を分離してアリルクロライドを得る製造方法である。
【0010】
<アリルクロライドの製造方法>
本発明のアリルクロライドの製造方法は、基本的に次の(1)(2)の工程を備える。
(1)プロピレンと塩素との反応により、アリルクロライド、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含むガス状反応生成物を得る塩素化工程。
(2)上記ガス状反応生成物を冷却し、ついで、該ガス状反応生成物をアリルクロライドと、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を含有する混合ガスとに分離する分離工程。
【0011】
なお、上記分離工程で分離された副生塩化水素から不純物を除去する不純物除去工程および不純物が除去された副生塩化水素を酸化して塩素を得る酸化工程を設けてもよい。
また、分離工程で分離された副生塩化水素を直接酸化することにより塩素を得てもよい。
以下、各工程について、図1を用いて詳細に説明する。図1は本発明の製造方法の一実施形態の概要を示す工程図である。
【0012】
(1)塩素化工程
本工程においては、プロピレンと塩素とを気相反応させることにより、アリルクロライド、プロピレンおよび副生塩化水素を主に含むガス状反応生成物を得る。まずプロピレンは予熱器20で予熱された後、配管4を通って反応器30に送られる。反応器30にてプロピレンは、塩素(図示せず)と混合され、ガス状反応生成物となる。気相反応は、プロピレンガスと塩素ガスを連続的に塩素化反応器へ供給する連続反応であってよい。反応温度は、通常約450〜510℃である。尚、反応器30は回分式(バッチ式)と連続式のどちらを用いても構わないが、工業的な連続運転の点からは連続式を用いるのが好ましい。
【0013】
反応器30にてプロピレンと塩素との気相反応により得られるガス状反応生成物には、アリルクロライド、未反応プロピレン、副生塩化水素等が含まれる。
【0014】
(2)分離工程
上記ガス状反応生成物は、反応器30から配管2を経て熱交換器10に送られる。ここでプロピレンとの熱交換により冷却され、図示しない次工程にてアリルクロライドと、未反応プロピレン、副生塩化水素等に分離される。導入されるプロピレンの温度は20〜70℃程度が適当である。熱交換器10を用いて予冷した後、必要に応じて急冷設備(図示しない)に導入して急冷してもよい。
【0015】
ガス状反応生成物から分離されたプロピレンは、回収プロピレンとして図1に示された配管1を通り、熱交換器10に送られる。
【0016】
熱交換器10において、ガス状反応生成物と熱交換され、予熱された回収プロピレンは、配管3および配管4を経て、反応器30に送られ、再び気相反応に供せられる。
一方、熱交換器10にて冷却されたガス状反応生成物は、次の分離工程にてアリルクロライドと未反応プロピレンなどに分離される。
【0017】
<熱交換器>
熱交換器10としては、例えば、二重管式熱交換器、スパイラル式熱交換器、プレート式熱交換器、タンクコイル式熱交換器、多管円筒式熱交換器等が適宜使用される。図2は本発明の多管式熱交換器の一実施形態を示す概略断面図である。
図2に示す熱交換器10は、筒型のシェル11内に複数の伝熱管13が挿通され、且つじゃま板12を有する。
【0018】
熱交換器内のシェル11内および複数の伝熱管13は、それぞれ回収プロピレンおよびガス状反応生成物が通過するものである。
【0019】
本発明の製造方法は、回収プロピレンおよびガス状反応生成物を上部もしくは下部の一端より流す並流で通過させる。これにより、熱交換器内のシェル11内または伝熱管13にカーボンが付着、堆積することがなくなる。プロピレンおよびガス状反応生成物を流すのは、シェル内11および伝熱管13のどちらでもよく、任意で決定することができる。
なお、回収プロピレンに代えて、新規のプロピレンを熱交換器10に通しても良い。
【実施例】
【0020】
(実施例)
多管式熱交換器にて、30℃の回収プロピレンをシェル内の下部から流し、一方、480℃のガス状反応生成物を伝熱管の下部から並流になるように流し、熱交換を行った。ガス状反応生成物は伝熱管の上部より排出され、プロピレンもシェル内の上部より307℃で排出された。その結果、154日間の連続運転により、シェル内にはカーボンの付着及び堆積は認められなかった。
【0021】
(比較例)
実施例と同型の熱交換器にて、30℃のプロピレンをシェル内の上部から流し、一方、480℃のガス状反応生成物を伝熱管の下部から向流になるように流し、熱交換を行った。ガス状反応生成物は伝熱管の上部より排出され、プロピレンはシェル内の下部より351℃で排出された。その結果、155日間の連続運転により、シェル内にカーボンの付着及び堆積が認められた。
【0022】
以上から明らかなように、ガス状反応生成物を挿通させた伝熱管の周囲に、シェル内を挿通させたプロピレンが炭化して出来たカーボンが付着及び堆積するのを抑えることができた。
【符号の説明】
【0023】
10:熱交換器
11:シェル
12:じゃま板
13:伝熱管
20:予熱器
30:反応器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内で高温にてプロピレンと塩素とを反応させてガス状反応生成物を得、このガス状反応生成物を熱交換器にて冷却した後、未反応プロピレンおよび副生塩化水素を分離してアリルクロライドを得る製造方法であって、
前記熱交換器が、筒型のシェル内に複数の伝熱管が挿通され且つじゃま板を有し、シェル内および伝熱管にそれぞれ未反応プロピレンおよびガス状反応生成物を並流で通過させて、ガス状反応生成物と未反応プロピレンとの間で熱交換を行なわせる、ことを特徴とするアリルクロライドの製造方法。
【請求項2】
前記熱交換器に通すプロピレンが、ガス状反応生成物から回収された回収プロピレンである請求項1記載のアリルクロライドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−100248(P2013−100248A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245236(P2011−245236)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】