説明

アリール−カロテノイド類の合成方法

少なくとも1個のβ−イオノン環を有する環状カロテノイド類の生物変換を介して、アリール−カロテノイド類を産生する方法を提供する。適当な環状カロテノイド基質を産生する宿主細胞におけるカロテン・デサチュラーゼをコードする異種遺伝子(crtU)酵素の発現が、アリールカロテノイド類の産生をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2002年5月6日出願の、米国仮特許出願第60/378312号の利益を請求する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、微生物学の分野である。より詳細には、本発明は、アリール−カロテノイド化合物の微生物による産生方法に関する。
【背景技術】
【0003】
カロテノイド類は、自然界全体のいたる所に存在し、また全ての光合成生物、および一部の従属栄養的生育細菌および菌・カビで合成される色素である。カロテノイド類は花、野菜、昆虫、魚および鳥に色を与える。カロテノイド類の色は、黄色から赤色までの範囲であり、褐色および紫の変化を含む。ビタミンAの前駆物質として、カロテノイド類は我々の食事の基本的な成分であり、またヒトの健康における重要な役割を担う。カロテノイド類の工業的使用としては、2、3の例を挙げると、医薬、栄養補助食品、動物の飼料添加物および化粧品の着色料などがある。
【0004】
動物は、カロテノイド類を新規に合成することができないため、食餌という方法によって得なければならない。したがって、植物または細菌におけるカロテノイド産生および組成物の操作によって、カロテノイド類の新規なまたは改良されたソースを提供することができる。
【0005】
カロテノイド類は、多くの異なる形態また化学構造で提供される。ほとんどの天然カロテノイド類は、8個のCイソプレン単位(IPP)の逐次縮合により誘導されるC40メチル分枝炭化水素主鎖を含有する疎水性テトラテルペノイド類である。さらに、より長いまたはより短い主鎖を有する新規なカロテノイド類が、非光合成細菌の幾つかの種で見出される。カロテノイド類は大きな変化を示し、炭化水素主鎖の末端が環化して脂肪族構造または環状環構造を生じるかどうかによって非環式、単環式、または二環式である可能性がある(非特許文献1)。
【0006】
カロテノイド生合成は、Cイソプレン単位、イソペンテニルピロリン酸(IPP)を生成するためのイソプレノイド経路で開始する。次いで、IPPを、その異性体ジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)と縮合して、C10ゲラニルピロリン酸(GPP)を生成し、次いでこれを伸長してC15ファルネシルピロリン酸(FPP)を形成する。FPP合成は、カロテン生成細菌および非カロテン生成細菌の両者でよくみられる。カロテノイド経路におけるさらなる酵素は、FPP先駆物質からカロテノイド色素を生成することができ、2つのカテゴリー、(i)カロテン主鎖合成酵素と、(ii)その後の修飾酵素と、に分かれる。主鎖合成酵素としては、ゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼ、フィトエンシンターゼ、フィトエンデヒドロゲナーゼ、およびリコピンシクラーゼ等々がある。修飾酵素としては、ケトラーゼ、ヒドロキシラーゼ、デヒドラターゼ、グリコシラーゼ等々がある。
【0007】
β−カロテンは、カロテン・デサチュラーゼで、イソレニエラテン(isorenieratene)に変換できることが知られている。ストレプトマイセス(Streptomyces)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)およびブレビバクテリウム(Brevibacterium)を含む若干の放線菌類で、カロテン・デサチュラーゼをコードするcrtU遺伝子が同定されている(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。もう1つのアリール−カロテンであるクロロバクテンが、光合成緑色細菌で報告された(非特許文献5;非特許文献6)。生来のクロロバクテンおよび誘導体の合成に関与しているであろう、推定上のカロテン・デサチュラーゼ遺伝子が、最近の、緑色硫黄細菌(Chlorobium tepidum)のゲノム配列決定で同定された(非特許文献7)。しかし、クロロビウム(Chlorobium)由来の推定上のカロテン・デサチュラーゼ遺伝子の機能は、未だ決定されていない。放線菌類由来のCrtUは、β−カロテンに加えて他の基質にも作用して、様々なアリール−カロテノイド類を産生する、たとえば、γ−カロテンをクロロバクテンに変換する、公算が高い。しかし、crtUを異種宿主で発現させるためのこれまでの試みは成功していない(非特許文献8)。カロテン・デサチュラーゼを異種宿主で発現させることができないことは不運であり、遺伝子操作による様々なアリール−カロテノイド類の合成の重大な障害となった。さらに、天然のアリール−カロテノイド類は、常に、アリール−カロテノイド類とそれらの前駆物質または誘導体との混合物として存在する(非特許文献9;非特許文献6)。純粋なアリール−カロテノイドの産生は、カロテン・デサチュラーゼを異種宿主で発現させることができることを必要とする。
【0008】
【非特許文献1】G.アームストロング(G.Armstrong)著、Comprehensive Natural Products Chemistry、エルセビエール・プレス(Elsevier Press)、1999年、2巻、321−352ページ)
【非特許文献2】クルーゲル(Krugel)ら、Biochimica et Biophysica Acta、1439:57−64(1999年)
【非特許文献3】クルバシク(Krubasik)およびサンドマン(Sandmann)、Mol Gen Genet、263:423−432(2000年)
【非特許文献4】ビベイロス(Viveiros)ら、FEMS Microbiol Lett、187:95−101(2000年)
【非特許文献5】リアーエン・ジェンセン(Liaaen−Jensen)ら、Acta Chem.Scand、18:1703−1718(1964年)
【非特許文献6】タカイチ(Takaichi)ら、Arch Microbiol、168:270−276(1997年)
【非特許文献7】エイセン(Eisen)ら、PNAS USA、99:9509−9514(2002年)
【非特許文献8】シューマン(Schumann)ら、Mol Gen Genet、252:658−666(1996年)
【非特許文献9】コール(Kohl)ら、Phytochemistry、22:207−213(1983年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しなければならない問題は、アリール−カロテノイド類を異種宿主で産生するために、機能性カロテン・デサチュラーゼ(crtU)遺伝子を発現させることである。出願人は、crtU遺伝子をブレビバクテリウム・リネンズ(Brevibacterium linens)から単離し、該遺伝子をプラスミドからロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072菌株で発現させることにより、記載の問題を解決した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カロテン・デサチュラーゼの存在下で、環状カロテノイド基質の生物変換によりアリールカロテノイド化合物を産生する方法を提供する。具体的には、本発明は、
(a)少なくとも1個のβ−イオノン環を有する環状カロテノイドを含んでなる宿主細胞を準備し;
(b)(a)の宿主細胞を、カロテン・デサチュラーゼをコードする遺伝子で形質転換させ;そして
(c)(b)の形質転換宿主細胞を、アリールカロテノイドが産生される条件下に増殖させる
ことを含んでなるアリールカロテノイド化合物の産生方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、
(a)適当な調節配列の制御下で、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするカロテン・デサチュラーゼ遺伝子を、宿主細胞に導入し;そして
(b)該カロテン・デサチュラーゼ遺伝子が発現され、かつアリールカロテノイド生合成が制御される条件下に、(a)の宿主細胞を増殖させる
ことを含んでなる宿主細胞におけるアリールカロテノイド生合成の調節方法を提供する。
【0012】
好ましい実施態様において、本発明は、
(a)β−カロテンを含んでなる宿主細胞を準備し;
(b)(a)の宿主細胞を、カロテン・デサチュラーゼをコードする遺伝子で形質転換させ;そして
(c)(b)の形質転換宿主細胞を、アリールカロテノイドが産生される条件下に増殖させる
ことを含んでなるイソレニエラテンの産生方法を提供する。
【0013】
別の好ましい実施態様において、本発明は、
(a)γ−カロテンを含んでなる宿主細胞を準備し;
(b)(a)の宿主細胞を、カロテン・デサチュラーゼをコードする遺伝子で形質転換させ;そして
(c)(b)の形質転換宿主細胞を、アリールカロテノイドが産生される条件下に増殖させる
ことを含んでなるクロロバクテンの産生方法を提供する。
【0014】
下記の詳細な説明、および本願の一部に関する添付の配列表から、本発明を、より十分に理解することができる。
【0015】
以下の配列は、37C.F.R.1.821−1.825(「ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列開示を含む特許出願の要件−配列規則(Requirements for Patent Applications Containing Nucleotide Seqences and/or Amino Acid Sequence Disclosures−the Sequence Rules)」)を満たし、また世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization)(WIPO)標準ST.25(1998)ならびにEPOおよびPCTの配列表要件(規則5.2および49.5(a−bis)、および実施細則のセクション208および付則C)と一致する。ヌクレオチドおよびアミノ酸配列データに使用される記号および書式は、37C.F.R.§1.822に記載の規則に従う。
【0016】
配列番号:1〜3は、16s rRNAを増幅するために使用されるオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0017】
配列番号:4は、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)AN12由来の16s rRNA遺伝子のヌクレオチド配列である。
【0018】
配列番号:5〜6は、crtO遺伝子を増幅するためにデザインされたオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0019】
配列番号:7は、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)AN12 crtO遺伝子のヌクレオチド配列である。
【0020】
配列番号:8は、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072 crtO遺伝子のヌクレオチド配列である。
【0021】
配列番号:9〜10は、pBR328配列を増幅するためにデザインされたオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0022】
配列番号:11〜12は、ATCC 47072 由来のcrtOを増幅するためにデザインされたオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0023】
配列番号:13は、pRHBR17大腸菌(E.coli)−ロドコッカス・シャトルプラスミドのヌクレオチド配列である。
【0024】
配列番号:14は、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)AN12のdxs遺伝子のヌクレオチド配列である。
【0025】
配列番号:15〜17は、AN12由来のdxsを増幅するために使用されるオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0026】
配列番号:18は、ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AF139916を持つブレビバクテリウム・リネンズ(Brevibacterium linens)ATCC 9175由来のcrtU遺伝子のヌクレオチド配列である。
【0027】
配列番号:19は、ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AF139916を持つブレビバクテリウム・リネンズ(Brevibacterium linens)ATCC 9175由来のCrtUのアミノ酸配列である。
【0028】
配列番号:20および21は、crtU遺伝子を増幅するために使用されるプライマーである。
【0029】
配列番号:22は、ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AJ 308376を持つクロラムフェニコール耐性マーカーのヌクレオチド配列である。
【0030】
配列番号:23および24は、配列番号:22により明確に規定されるクロラムフェニコール耐性マーカーを増幅および単離するために使用されるプライマーである。
【発明の詳細な記述】
【0031】
本発明は、カロテン・デサチュラーゼ遺伝子(crtU)の異種発現により、β−イオノン環を有する環状カロテノイド類を、対応するアリールカロテノイドに変換する方法を提供する。
【0032】
異種宿主におけるcrtUの発現は、個々の、アリールカロテノイド類の産生、ならびにイソプレノイド生合成経路における他のカロテノイド類の調節および産生に、有用である。カロテノイド化合物は、化学的に製造することが非常に難しいため、これらの化合物の微生物による産生は、一般に、実際に役に立つ(ネイルス(Nelis)およびリーンヒア(Leenheer)、Appl.Bacteriol.、70:181−191(1991))。芳香族環の導入は、ことによるとカロテノイド類をより安定にすることができ、このことは、食品着色剤用等の、ある種の用途に望ましいであろう。
【0033】
この開示では、特許請求の範囲および明細書を説明するために、多数の用語および略語が使用される。
【0034】
「オープンリーディングフレーム」は、ORFと略される。
【0035】
「ポリメラーゼ連鎖反応」は、PCRと略される。
【0036】
本明細書で使用されるとき、「単離された核酸断片」は、合成、非天然または変化したヌクレオチド塩基を場合により含有する、一本鎖または二本鎖であるRNAまたはDNAのポリマーである。DNAのポリマーの形の単離された核酸断片は、cDNA、ゲノムDNAまたは合成DNAの1つもしくはそれ以上のセグメントを含んでなってもよい。
【0037】
用語「イソプレノイド」または「テルペノイド」は、炭素10個のテルペノイド類を含む、イソプレノイド経路から誘導される化合物およびそれらの誘導体、たとえばカロテノイド類およびキサントフィル類を指す。
【0038】
用語「ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)AN12」または「AN12」は同義的に使用され、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)AN12菌株を指す。
【0039】
用語「ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072」または「ATCC 47072」は同義的に使用され、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072菌株を指す。
【0040】
用語「カロテノイド」は、炭素5個のイソプレン単位から縮合されるポリエン主鎖からなる化合物を指す。カロテノイド類は、非環式であってもよく、あるいは1個(単環式)または2個の(二環式)環状末端基で終結してもよい。用語「カロテノイド」は、カロテン類およびキサントフィル類の両者を包含することが可能である。「カロテン」は、炭化水素カロテノイドを指す。ヒドロキシ−、メトキシ−、オキソ−、エポキシ−、カルボキシ−、またはアルデヒド官能基の形で、あるいはグリコシド類、グリコシドエステル類、または硫酸塩内に、1個もしくはそれ以上の酸素原子を含有するカロテン誘導体は、集合的に「キサントフィル類」として知られる。本発明で特に好適なカロテノイド類は、単環式および二環式のカロテノイド類である。
【0041】
用語「カロテン・デサチュラーゼ」は、単環式もしくは二環式カロテノイド類のβ−イオノン環のメチル基または他の基を、不飽和化し、また移動させることができる、酵素群を指す。本明細書で使用するのに好ましいカロテン・デサチュラーゼは、ブレビバクテリウム・リネンズ(Brevibacterium linens)ATCC 9175から単離され、また配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するcrtUである。
【0042】
用語「アリール−カロテノイド」は、イソレニエラテン、β−イソレニエラテン、クロロバクテン、および図1に示す誘導体を含む、少なくとも1個の芳香族末端基を有するカロテノイド類を指す。
【0043】
用語「%同一性」は、当該技術分野で公知の通り、配列を比較することにより決定される、2つもしくはそれ以上のポリペプチド配列または2つもしくはそれ以上のポリヌクレオチド配列間の関係である。当該技術分野において、「同一性」は、場合によっては、このような配列の連続間のマッチによって決定される、ポリペプチド配列間またはポリヌクレオチド配列間の配列類似度も意味する。「同一性」および「類似性」は、Computational Molecular Biology、(レスク(Lesk)A.M.編)オックスフォード・ユニバーシティ・プレス(Oxford University Press)、ニューヨーク(NY)(1988);Biocomputing:Informatics and Genome Projects(スミス(Smith)D.W.編)アカデミック・プレス(Academic Press)、ニューヨーク(NY)(1993);Computer Analysis of Sequence Data,Part I(グリフィン(Griffin)A.M.、およびグリフィン(Griffin)H.G.編)、フマナ・プレス(Humana Press)、ニュージャージー(NJ)(1994);Sequence Analysis in Molecular Biology(ボン・ヘインジ(von Heinje)G.編)、アカデミック・プレス(Academic Press)(1987);およびSequence Analysis Primer(グリブスコフ(Gribskov)M.およびデベロー(Devereux)J.編)、ストックトン・プレス(Stockton Press)、ニューヨーク(NY)(1991);に記載のものを含むがその限りではない、既知の方法で容易に算出することができる。同一性を決定する好ましい方法は、被験配列間で、最高のマッチを与えるようにデザインされる。同一性および類似性を決定する方法は、公的に入手可能なコンピュータープログラムで体系化されている。配列アラインメントおよび%同一性の計算は、レーザージーン(LASERGENE)バイオインフォマティクス計算一式のメグアライン(Megalign)プログラム(ウィスコンシン州マジソンにあるDNAスター・インク(DNASTAR Inc.,Madison,WI))を使用して、実施することが可能である。クラスタル(Clustal)アラインメント方法(ヒギンズ(Higgins)およびシャープ(Sharp)(1989)CABIOS.5:151−153)とデフォルトパラメーター(ギャップ・ペナルティ(GAP PENALTY)=10、ギャップ・レングス・ペナルティ(GAP LENGTH PENALTY)=10)を使用して、配列のマルチプルアラインメントを実施した。クラスタル(Clustal)方法を使用したペアワイズアラインメントのデフォルトパラメーターは、KTUPLE 1、ギャップ・ペナルティ(GAP PENALTY)=3、ウインドウ(WINDOW)=5およびダイアゴナルズ・セーブド(DIAGONALS SAVED)=5であった。
【0044】
「合成遺伝子」は、当業者に公知の手順を使用して化学的に合成されたオリゴヌクレオチド構成単位から組み立てることができる。これらの構成単位を連結し、アニーリングして遺伝子セグメントを形成し、次いでこれを酵素的に組み立てて、完全な遺伝子を構築する。DNAの配列に関連しているとき、「化学的に合成された」は、成分ヌクレオチドが、in vitroで組み立てられたことを意味する。十分に確立した手順を使用して、DNAの手動式化学合成を遂行してもよく、あるいは多数の市販されている機械の1つを使用して、自動式化学合成を実施してもよい。したがって、宿主細胞のコドンバイアスを反映するためのヌクレオチド配列の最適化に基づいて、遺伝子を最適遺伝子発現に合わせて調整することができる。コドン使用が、宿主に好まれるコドンに偏る場合、当業者は、功を奏する遺伝子発現の可能性を十分に理解する。好ましいコドンの決定は、配列情報を入手できる宿主細胞に由来する遺伝子の調査を根拠にしてもよい。
【0045】
「遺伝子」は、コード配列に先行(5’非コード配列)および後続(3’非コード配列)する調節配列を含む、ある特定の蛋白質を発現する核酸断片を指す。「天然遺伝子」は、独自の調節配列と共に自然界に存在する遺伝子を指す。「キメラ遺伝子」は、自然界に一緒に存在しない調節配列およびコード配列を含んでなる、天然遺伝子ではない遺伝子を指す。したがって、キメラ遺伝子は、異なるソースに由来する調節配列およびコード配列を含んでなってもよく、あるいは同一ソースに由来する調節配列およびコード配列を含んでなるが、自然界に存在するものと異なる形で配置されていてもよい。「内在遺伝子」は、生物のゲノム中に生来の位置にある天然遺伝子を指す。「外来」遺伝子は、宿主生物中に通常は存在しないが、遺伝子移入によって宿主生物中に導入される遺伝子を指す。外来遺伝子は、非在来生物に挿入された天然遺伝子、すなわちキメラ遺伝子を含んでなることができる。「導入遺伝子」は、形質転換手順によってゲノム中に導入された遺伝子である。
【0046】
「コード配列」は、ある特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。「適当な調節配列」は、コード配列の上流(5’非コード配列)、コード配列内、またはコード配列の下流(3’非コード配列)に位置し、かつ関連コード配列の転写、RNAプロセッシングまたは安定性、あるいは翻訳に影響を及ぼすヌクレオチド配列を指す。調節配列は、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセッシング部位、エフェクター結合部位およびステムループ構造を含んでもよい。
【0047】
「プロモーター」は、コード配列または機能性RNAの発現を調節することができるDNA配列を指す。概して、コード配列は、3’からプロモーター配列までにある。プロモーターは、全体として、天然遺伝子に由来してもよく、または自然界に存在する異なるプロモーターに由来する異なる要素で構成されてもよく、または合成DNAセグメントを含んでなってもよい。異なる組織または細胞型で、あるいは発生の異なる段階で、または異なる環境条件または生理的条件に応じて、異なるプロモーターが遺伝子の発現を指令する可能性があることは、当業者に理解されている。ほとんどの細胞で、大抵のときに、遺伝子を発現させるプロモーターは、一般に「構成的プロモーター」と呼ばれる。さらに、大抵の場合に、調節配列の正確な境界が完全に画定される訳ではないため、異なる長さのDNA断片が全く同じプロモーター活性を有する可能性があることも理解される。
【0048】
「3’非コード配列」は、コード配列の下流に位置し、かつポリアデニル化認識配列およびmRNAプロセッシングもしくは遺伝子発現に影響を及ぼすことができる調節シグナルをコードする他の配列を含むDNA配列を指す。該ポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆物質の3’末端への、ポリアデニル酸路の付加に影響を及ぼすことを特徴とする。
【0049】
「RNA転写物」は、DNA配列のRNAポリメラーゼ触媒転写に起因する生成物を指す。該RNA転写物が、該DNA配列の完璧な相補的コピーであるとき、該RNA転写物は一次転写物と呼ばれ、あるいは該RNA転写物は、一次転写物の転写後プロセッシングに由来するRNA配列であることもあり、成熟RNAと呼ばれる。「メッセンジャーRNA(mRNA)」は、イントロンを持たず、かつ細胞により蛋白質に翻訳され得るRNAを指す。「cDNA」は、mRNAに相補的であり、かつmRNAから誘導される二本鎖DNAを指す。「センス」RNAは、mRNAを含み、したがって、細胞により翻訳され得るRNA転写物を指す。「アンチセンスRNA」は、標的一次転写物またはmRNAの全部または一部に相補的であり、かつ標的遺伝子の発現を妨害するRNA転写物を指す(米国特許第5107065号明細書;国際公開第9928508号パンフレット)。アンチセンスRNAの相補性は、特定の遺伝子転写物の任意の部分と、すなわち、5’非コード配列、3’非コード配列、またはコード配列であってもよい。「機能性RNA」は、アンチセンスRNA、リボザイムRNA、または細胞の過程に影響を及ぼす未だ翻訳されていない他のRNAを指す。
【0050】
用語「作動可能に連結された」は、一方の機能が他方により影響を受ける、1つの核酸断片上の核酸配列の関連を指す。たとえば、プロモーターが、コード配列の発現に影響を及ぼすことができる(すなわち、そのコード配列が該プロモーターの転写調節を受けている)とき、プロモーターは、コード配列と作動可能に連結されている。コード配列を、センス方向またはアンチセンス方向で、調節配列に作動可能に連結することができる。
【0051】
本明細書で使用されるとき、用語「発現」は、本発明の核酸断片に由来するセンス(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写および安定した蓄積を指す。発現は、mRNAのポリペプチドへの翻訳を指すこともある。
【0052】
「形質転換」は、結果として遺伝学的に安定した遺伝を生じる、宿主生物のゲノムへの、核酸断片の移入を指す。形質転換核酸断片を含有する宿主生物は、「トランスジェニック」または「組換え」または「形質転換」生物と呼ばれる。
【0053】
用語「プラスミド」、「ベクター」、および「カセット」は、多くの場合、細胞の中心的代謝部分ではない遺伝子を担持し、かつ通常は円形の二本鎖DNA断片の形状である、染色体外要素を指す。このような要素は、任意のソースに由来する、一本鎖−または二本鎖DNAまたはRNAの、線状または円形の、自己複製配列、ゲノム組込み配列、ファージまたはヌクレオチド配列であってもよく、多数のヌクレオチド配列が、適切な3’未翻訳配列と共に、選択された遺伝子産物のためのプロモーター断片およびDNA配列を、細胞内に導入することができる独特の構築物に連結もしくは組換えられている。「形質転換カセット」は、外来遺伝子を含有し、かつ該外来遺伝子に加えて、ある特定の宿主細胞の形質転換を容易にする要素を有する、特異的なベクターを指す。「発現カセット」は、外来遺伝子を含有し、かつ該外来遺伝子に加えて、その遺伝子の外来宿主における発現を増強することが可能な要素を有する、特異的なベクターを指す。
【0054】
ここで使用される標準的な組換えDNAおよび分子クローニング技術は、当該技術分野で周知であり、またサンブルック(Sambrook)J.、フリッツェ(Fritsch)E.F.およびマニアティス(Maniatis)T.著、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、第2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク(NY)(1989年)(以下、「マニアティス(Maniatis)」);およびシルヘイビー(Silhavy),T.J.、ベナン(Bennan)M.L.およびエンクイスト(Enquist)L.W.著、遺伝子融合を用いた実験(Experiments with Gene Fusions)、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク(NY)(1984年);およびオウスベル(Ausubel)F.M.ら著、分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)、グリーン・パブリッシング・アソシエーション(Greene Publishing Assoc.)およびワイリー−インターサイエンス(Wiley−Interscience)(1987年)に記載されている。
【0055】
本発明は、β−イオノン環を有する環状カロテン類を、対応するアリールカロテノイドに、in vivo生体内変換する方法を提供する。本方法は、カロテン・デサチュラーゼ(crtU)酵素をコードする異種遺伝子を、適当な環状カロテン基質を産生する宿主細胞で発現させ、ここでβ−イオノン環を芳香環化して、対応するアリールカロテノイドを産生することにより進行する。
【0056】
カロテン・デサチュラーゼ活性
CrtUにより触媒される芳香族カロテノイド類の生合成は、環状カロテノイド類のβ−イオノン環の不飽和化およびメチル基転移により進行する(クルーゲル(Krugel)ら、上掲)。自然の宿主で発現されたCrtUは、β−カロテン(2つのβ−イオノン環)を、イソレニエラテンの芳香族基に変換することが、ストレプトマイセス・グリゼウス(Streptomyces griseus)、ブレビバクテリウム・リネンズ(Brevibacterium linens)およびマイコバクテリウム・オーラム(Mycobacterium aurum)A+(クルーゲル(Krugel)ら、上掲;クルバシク(Krubasik)および サンドマン(Sandmann)、上掲;ビベイロス(Viveiros)ら、上掲)で証明されている。
【0057】
多数のカロテン・デサチュラーゼが知られており、また本発明で好適である。たとえば、カロテン・デサチュラーゼは、ストレプトマイセス・アベルミチリス(Streptomyces avermitilis)(ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AB070934)、ストレプトマイセス・グリゼウス(Streptomyces griseus)(ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AF272737)、マイコバクテリウム・オーラム(Mycobacterium aurum)(ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AJ133724)、ブレビバクテリウム・リネンズ(Brevibacterium linens)(ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AF139916)、およびストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)(ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AL109989およびAL109962)、および微生物ゲノムデータベースgnl|TIGR|マイコバクテリウム・アビウム(M.avium)89、緑色硫黄細菌(Chlorobium tepidum)TLS(CyanoBase CT0323)で同定されており、配列番号:19によって記載される、ブレビバクテリウム・リネンズ(Brevibacterium linens)から単離されるカロテン・デサチュラーゼが好ましい。
【0058】
カロテン・デサチュラーゼに好ましい基質は、少なくとも1個のβ−イオノン環を有する環状カロテンである。代表的な適当な基質としては、β−カロテン;γ−カロテン;α−カロテン;ゼアキサンチン;β−イソレニエラテン(φ,β−カロテン);トルレン;1’,2’−ジヒドロ−γ−カロテン;7,8−ジヒドロ−γ−カロテン;7’,8’−ジヒドロ−β−カロテン;7’,8’,7,8−テトラヒドロ−β−カロテン;β−ゼアカロテン;エキネノン;3−OH−β−カロテン;1’,2’−ジヒドロ−1’−OH−トルレン;16’−OH−トルレン;16’−オキソ−トルレン;および16’−カルボキシ−トルレンなどがあるが、この限りではない。
【0059】
環状カロテノイド上のβ−イオノン環の芳香環化によって産生される代表的なアリールカロテノイド類としては、イソレニエラテン(φ,φ−カロテン);β−イソレニエラテン(φ,β−カロテン);クロロバクテン(φ,ψ−カロテン);φ,ε−カロテン;1,2−ジデヒドロクロロバクテン;1’,2’−ジヒドロクロロバクテン;7,8−ジヒドロ−クロロバクテン;7’,8’−ジヒドロ−イソレニエラテン;7’,8’,7,8−テトラヒドロ−イソレニエラテン;7’,8’−ジヒドロ−クロロバクテン;β,φ−カロテン−4−オン;β,φ−カロテン−3−オール;3−OH−イソレニエラテン;3,3’−ジヒドロキシ−イソレニエラテン;7’,8’−ジデヒドロレニエラテン;OH−クロロバクテン;1’,2’−ジヒドロ−1’−OH−ジデヒドロクロロバクテン;16’−OH−ジデヒドロクロロバクテン;16’−オキソ−ジデヒドロクロロバクテン;および16’−カルボキシ−ジデヒドロクロロバクテンなどがあるが、この限りではない。本発明のアリールカロテノイド類は、たとえばβ−カロテンの場合のように、対称的(2個のβ−イオノン環を有する)であってもよく、またはたとえばγ−カロテンの場合のように、唯一のβ−イオノン環を有する非対称であってもよい。
【0060】
本発明の状況の中で、好ましい基質は、crtU遺伝子産物の作用によって、イソレニエラテンへと触媒されるβ−カロテンまたはクロロバクテンへと触媒されるγ−カロテンである。
【0061】
組換え発現−微生物
カロテン・デサチュラーゼをコードする遺伝子(crtU)は、異種微生物宿主で、組換え技術により発現されている。組換え微生物宿主crtUの発現は、今まで自然の宿主を使用すると実行できなかった新製品の合成に有用である。
【0062】
本遺伝子および核酸断片の発現に好ましい異種宿主細胞は、菌・カビの(fungal)または細菌のファミリー内で広く見られ、また広範囲の温度、pH値、および溶剤耐性にわたって成長することができる微生物宿主である。たとえば、細菌、酵母、および糸状菌のいずれも、本crtU遺伝子の発現に好適な宿主であると考えられる。
【0063】
本crtU遺伝子の発現は、多数の周知の因子を制御することによって調節されることを、当業者は十分理解するであろう。たとえば、光合成宿主または化学独立栄養的宿主の場合には、大規模増殖および機能性遺伝子発現は、広範囲の単純な炭水化物または複雑な炭水化物、有機酸類およびアルコール類、ならびに飽和炭化水素、たとえばメタンまたは二酸化炭素を使用することが可能である。しかし、crtU等の機能性遺伝子は、窒素、リン、イオウ、酸素、炭素または小さい無機イオンを含む微量元素の形および量を含んでもよい、具体的な増殖条件により、調節、抑制または低下される可能性がある。加えて、crtU遺伝子の調節は、培養に添加され、かつ栄養物もしくはエネルギー源ではないと一般に考えられる、特定の調節分子の有無によって達成される。成長速度も、遺伝子発現における重要な調節因子であろう。
【0064】
様々な微生物宿主細胞が、本crtUの異種発現に適する。宿主系統の例としては、細菌種、菌・カビ(fungal)種または酵母種、たとえば、アスペルギルス(Aspergillus)、トリコデルマ(Trichoderma)、サッカロミセス(Saccharomyces)、ピヒア(Pichia)、カンジダ(Candida)、ロードトルラ(Rhodotorula)、ロードスポリジウム(Rhodosporidium)、ファフィア(Phaffia)、ハンゼヌラ(Hansenula)、あるいは細菌種、たとえば、サルモネラ(Salmonella)、バチルス(Bacillus)、アシネトバクター(Acinetobacter)、ザイモモナス(Zymomonas)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、エリスロバクター・クロロビウム(Erythrobacter Chlorobium)、クロマチウム(Chromatium)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、サイトファーガ(Cytophaga)、ロドバクター(Rhodobacter)、ロドコッカス(Rhodococcus)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、コリネバクテリウム(Corynebacteria)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、デイノコッカス(Deinococcus)、エシェリヒア(Escherichia)、エルウィニア(Erwinia)、パントエア(Pantoea)、シュードモナス(Pseudomonas)、スフィンゴモナス(Sphingomonas)、メチロモナス(Methylomonas)、メチロバクター(Methylobacter)、メチロコッカス(Methylococcus)、メチロジーナス(Methylosinus)、メチロミクロビウム(Methylomicrobium)、メチロシスチス(Methylocystis)、アルカリゲネス(Alcaligenes)、シネコシスチス(Synechocystis)、シネココッカス(Synechococcus)、アナベナ(Anabaena)、チオバシラス(Thiobacillus)、メタノバクテリウム(Methanobacterium)、クレブシエラ(Klebsiella)、およびミクソコッカス(Myxococcus)などが挙げられるが、この限りではない。
【0065】
微生物の発現システムおよび外来蛋白質の高レベル発現を指令する調節配列を含有する発現ベクターは、当業者に周知である。これらのいずれかを使用すれば、本カロテン・デサチュラーゼを発現させるためのキメラの遺伝子を構築することができるであろう。次いで、形質転換により、これらのキメラの遺伝子を適切な微生物に導入し、酵素の高レベル発現を実現することができるであろう。
【0066】
したがって、適切なプロモーターの制御下に、本細菌酵素をコードするキメラ遺伝子を導入することにより、アリールカロテノイド類の産生または既存のイソプレノイド経路の調整を招くことが予期される。
【0067】
適当な宿主細胞の形質転換に有用なベクターまたはカセットは、当該技術分野で周知である。代表的なベクターまたはカセットは、関連遺伝子、選択可能マーカー、および自律複製もしくは染色体の組込みを可能にする配列の転写および翻訳を指令する配列を含有する。好適なベクターは、転写開始調節を含む遺伝子の領域5’および転写終結を調節するDNA断片の領域3’を含んでなる。両調節領域がともに、形質転換宿主細胞に相応する遺伝子に由来するときが最も好ましいが、当然のことながら、このような調節領域は、産生宿主として選択された特定の種に固有の遺伝子に由来する必要はない。
【0068】
望ましい宿主細胞の本ORFの発現を駆動するために有用な、開始調節領域またはプロモーターは、多数であり、また当業者によく知られている。CYC1、HIS3、GAL1、GAL10、ADH1、PGK、PHO5、GAPDH、ADC1、TRP1、URA3、LEU2、ENO、TPI(サッカロミセス(Saccharomyces)における発現に有用);AOX1(ピヒア(Pichia)における発現に有用);およびlac、ara、tet、trp、IP、IP、T7、tac、およびtrc(大腸菌(Escherichia coli)における発現に有用);ならびにバチルス(Bacillus)における発現に有用なamy、apr、およびnprプロモーターおよび様々なファージプロモーターを含むがこの限りではない、これらの遺伝子を駆動することができる実質的にあらゆるプロモーターが、本発明に適する。
【0069】
終結調節領域も、好ましい宿主に固有の様々な遺伝子に由来してもよい。場合により、終結部位は不要なこともあるが、含まれていれば、最も好ましい。
【0070】
本遺伝子の配列を知っていることは、このような経路を有する生物におけるイソプレノイドまたはカロテノイド生合成経路を操作する際に有用である。遺伝経路を操作する方法は一般に知られており、また当該技術分野で周知である。ある特定の経路における選択された遺伝子を、様々な方法でアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることが可能である。さらに、遺伝子中断および類似の技術で、競合経路生物を排除または純化することが可能である。
【0071】
いったん重要な遺伝経路を同定し、配列決定したら、特定の遺伝子をアップレギュレートして、経路の生産を増大させることが可能である。たとえば、pBR322等のマルチコピー・プラスミドで、標的遺伝子の付加的コピーを、宿主細胞に導入してもよい。あるいは、標的遺伝子を、非在来プロモーターの制御を受けるように改変してもよい。細胞周期または発酵行程中のある特定の時点で、経路が作動することが望ましい場合、調節プロモーターまたは誘導プロモーターを使用して、標的遺伝子の天然プロモーターを置換することが可能である。同様に、天然プロモーターまたは内因性プロモーターを改変して、遺伝子発現を増大できる場合もある。たとえば、突然変異、欠失、および/または置換により、内因性プロモーターをin vivoで変えることができる(クミーク(Kmiec)、米国特許第5565350号明細書;ザーリン(Zarling)ら、PCT/US93/03868号パンフレット参照)。
【0072】
あるいは、標的経路またはエネルギーもしくは炭素の競合シンクの役割を果たすことが可能な競合経路における、ある特定の遺伝子の発現を、減少もしくは排除することが必要なこともある。この目的のために、遺伝子をダウンレギュレートする方法が探索されてきた。中断すべき遺伝子の配列が判明している場合、最も効果的な遺伝子ダウンレギュレーション方法の1つは、転写を中断するために、外来DNAが構造遺伝子内に挿入される、標的遺伝子中断である。これは、中断すべき遺伝子の一部と高度の相同性を有する配列に隣接した、挿入すべきDNA(多くの場合、遺伝子マーカー)を含んでなる遺伝子カセットを作成することによって達成することができる。該カセットを宿主細胞に導入することにより、細胞の生来のDNA複製機構によって、外来DNAが構造遺伝子内に挿入される結果となる(たとえば、ハミルトン(Hamilton)ら、J.Bacteriol.、171:4617−4622(1989年)、バルバス(Balbas)ら、Gene、136:211−213(1993年)、ゲルデナー(Gueldener)ら、Nucleic Acids Res.、24:2519−2524(1996年)、およびスミス(Smith)ら、Methods Mol.Cell.Biol.、5:270−277(1996年)参照)。
【0073】
アンチセンス技術は、標的遺伝子の配列が判明している場合に、遺伝子をダウンレギュレートするもう1つの方法である。これを達成するためには、所望の遺伝子由来の核酸セグメントをクローニングし、RNAのアンチセンス鎖が転写されるように、プロモーターに作動可能に連結する。次いで、この構築物を該宿主細胞に導入し、RNAのアンチセンス鎖を産生させる。アンチセンスRNAは、当該蛋白質をコードするmRNAの蓄積を妨げることにより、遺伝子発現を阻止する。特定の遺伝子の発現を減少させるためには、アンチセンス技術の使用を特に考慮すべきであることが、当業者は分かるであろう。たとえば、適切なレベルのアンチセンス遺伝子発現には、当業者に公知の異なる調節要素を使用した異なるキメラ遺伝子の使用を必要とする可能性がある。
【0074】
配列が判明している場合、標的遺伝子中断およびアンチセンステクノロジーは、遺伝子をダウンレギュレートする効果的な方法を提供するが、配列に基づかない、特異性の低い他の方法が開発されている。たとえば、細胞を紫外線に暴露し、次いで、所望の表現型についてスクリーンングする。化学薬品を用いた突然変異誘発も、突然変異体の生成に有効であり、よく使用される物質としては、非複製性DNAに影響を及ぼす化学薬品、たとえばHNOおよびNHOH、ならびに複製性DNAに影響を及ぼす薬剤、たとえば、フレームシフト突然変異を引き起こすことで注目すべきアクリジン色素などがある。放射線または化学薬品を使用して突然変異体を作る具体的な方法は、当該技術分野で十分に資料が提供されている。たとえば、トーマス(Thomas)D.著、Brock in Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology、第2版、(1989年)シネアー・アソシアーツ・インコーポレイデッド(Sinauer Associates,Inc.)、マサチューセッツ州サンダーランド(Sunderland,MA.)、またはデシュパンド(Deshpande)、ムクンド(Mukund)V.、Appl.Biochem.Biotechnol.、36,227,(1992年)を参照されたい。
【0075】
もう1つの、遺伝子中断の非特異的方法は、転位因子またはトランスポゾンの使用である。トランスポゾンは、DNAにランダムに入るが、その後、挿入が生じた場所を決定するために、配列に基づいて回収することができる遺伝因子である。in vivo転位方法とin vitro転位方法の両者が知られている。両方法とも、トランスポザーゼ酵素と組み合せた転位因子の使用を含む。トランスポザーゼの存在下で、転位因子またはトランスポゾンを核酸断片と接触させるとき、該転位因子は、核酸断片にランダムに入る。この技術は、中断された遺伝子を、該転位因子の配列に基づいて同定することが可能なため、ランダム突然変異誘発および遺伝子単離に有用である。in vitro転位のためのキットが市販されている(たとえば、ニュージャージー州ブランチバーグにあるパーキン・エルマー・アプライド・バイオシステムズ(Perkin Elmer Applied Biosystems,Branchburg,NJ)から販売されている、酵母Ty1因子に基づいた、ザ・プラーマー・アイランド・トランスポジション・キット(The Primer Island Transposition Kit);マサチューセッツ州ベバリーにあるニュー・イングランド・バイオラブズ(New England Biolabs,Beverly,MA)から販売されている、細菌のトランスポゾンTn7に基づいた、ザ・ゲノム・プライミング・システム(The Genome Priming System);およびウィスコンシン州マジソンにあるエピセンター・テクノロジーズ(Epicentre Technologies,Madison,WI)から販売されている、Tn5細菌転位因子に基づいた、EZ::TNトランスポゾン・インサーション・システムズ(EZ::TN Transposon Insertion Systems)を参照されたい)。
【0076】
本発明の状況の中で、選択された宿主細胞に、既存のイソプレノイド経路がある場合、たとえば、crtOによりコードされているケトラーゼをコードする遺伝子を中断することが有用であろう。これは、同一基質に関して、crtOの遺伝子産物がcrtUと競合するため、crtOの中断が、crtUの酵素的産物を増強すると予想される(図2参照)。
【0077】
工業生産
本crtU遺伝子を使用したアリール−カロテノイド化合物の量産が望ましい場合、様々な培養方法を応用することが可能である。たとえば、組換え微生物宿主から過剰発現する特異的遺伝子産物の大規模生産は、バッチ式培養法でも連続培養法でも、実現することが可能である。
【0078】
伝統的なバッチ式培養方法は、培養開始時に培地の組成物がセットされ、培養工程中に、人工的変化を受けない、閉鎖系である。したがって、培養工程の開始時に、所望の生物を培地に接種し、系に何も追加せずに、増殖または代謝活動を起こさせる。しかし、一般に、「バッチ式」培養は、炭素源を加えることに関してバッチ式処理であって、pHおよび酸素濃度等の調節因子への試みはしばしば行われる。バッチ系では、培養を終了させる時まで、系の代謝物およびバイオマス組成が絶えず変化する。バッチ式培養内では、静的ラグ期から高成長対数期まで、さらに最終的には、成長速度が低減または停止する定常期までずっと、細胞は適度である。処置しなれば、定常期の細胞は最終的には死ぬ。幾つかの系では、しばしば、対数期の細胞が最終生成物または中間体の生産の大部分に関与する。他の系では、定常期生産または指数期後生産を得ることができる。
【0079】
標準的なバッチ系の変化形は、流加(Fed−Batch)系である。流加培養法も本発明で好適であり、また培養が進行するにつれて段階的に基質を追加すること以外は典型的なバッチ系を含んでなる。流加系は、異化生成物抑制が該細胞の代謝を阻害する傾向があるとき、および培地中に限られた量の基質を有することが望ましい場合に、有用である。流加系の実際の基質濃度の測定は困難であり、したがって、pH、溶存酸素およびCO等の排ガス分圧等の測定可能な因子の変化に基づいて推定される。バッチ式培養方法および流加培養方法はよく知られており、当該技術分野で周知であり、またブロック(Brock)(上掲)およびデシュパンド(Deshpande)(上掲)で例を見つけることができる。
【0080】
アリール−カロテノイド類の量産は、連続培養で達成することもできる。連続培養は、確定した培地をバイオリアクター連続的に加え、処理のために同量の馴化培地を同時に除去する、開放系である。連続培養は、概して、細胞が主として対数期増殖中である一定の高い液相密度に細胞を維持する。あるいは、炭素および栄養物が連続的に追加され、かつ有用な生成物、副生成物、または廃棄物が細胞塊から連続的に除去される固定化細胞を用いて、連続培養を実行してもよい。細胞固定化は、天然および/または合成の材料で構成された広範囲の固体担体を使用して実施することができる。
【0081】
連続培養または半連続培養は、細胞増殖または最終生成物濃度に影響を及ぼす1つの因子または任意の数の因子の調節を可能にする。たとえば、1つの方法は、炭素源または窒素レベル等の制限的栄養物質を定率に維持し、全ての他のパラメーターを加減することができる。他の系では、培地濁度で測定される細胞濃度は一定に保たれるが、増殖に影響を及ぼす多数の因子を連続的に変化させることができる。連続系は、定常状態増殖条件を維持するように努め、したがって、培地の除去に起因する細胞喪失は、培養における細胞成長速度と均衡が取れていなければならない。連栄養物および成長因子を続培養方法に合わせて調節する方法、ならびに生成物形成速度を最大化するための技術は、工業微生物学の技術分野で周知であり、また様々な方法がブロック(Brock)(上掲)により記述されている。
【0082】
本発明における発酵培地は、適当な炭素基質を含有しなければならない。好適な基質としては、グルコースおよびフルクトース等の単糖類、ラクトースまたはスクロース等のオリゴ糖類、デンプンまたはセルロース等の多糖類、あるいはそれらの混合物、ならびに乳清透過物、コーンスティープリカー、サトウダイコン糖液、およびオオムギ麦芽等の、再生可能な供給原料由来の未精製混合物などがあるが、この限りではない。さらに、炭素基質は重要な生化学的中間体への代謝変換が実証されている、二酸化炭素、メタンまたはメタノール等の、一炭素基質であってもよい。メチロトローフ生物は、一炭素基質および二炭素基質のほかにも、多数の他の炭素含有化合物、たとえばメチルアミン、グルコサミン、および様々なアミノ酸を代謝活動に利用することが知られている。たとえば、メチロトローフ酵母は、メチルアミン由来の炭素を利用して、トレハロースまたはグリセロールを形成することが知られている(ベリオン(Bellion)ら、Microb.Growth C1 Compd.、[Int.Symp.]、第7回(1993年)、415−32、編集者:ムーレルJ.コリン(MurrellJ.Collin);ケリー・ドンP(Kelly,Don P)。出版社:英国アンドーバーにあるインターセプト(Intercept,Andover,UK)。同様に、様々な種のカンジダ(Candida)は、アラニンまたはオレイン酸を代謝する(サルター(Sulter)ら、Arch.Microbiol.、153:485−489(1990))。したがって、本発明で使用される炭素源は、多種多様の炭素含有基質を包含してもよく、生物の選択によって制限を受けるにすぎない。
【0083】
組換え発現−植物
植物および藻類が、カロテノイド化合物を産生することも知られている。本発明のcrtU遺伝子を使用して、カロテン・デサチュラーゼを発現できる力を有するトランスジェニック植物を作ることができる。好ましい植物宿主は、この酵素の高産生レベルを維持する変種である。好適な緑色植物としては、ダイズ、ナタネ(Brassica napus、B.campestris)、コショウ、ヒマワリ(Helianthus annus)、ワタ(Gossypium hirsutum)、トウモロコシ、タバコ(Nicotiana tabacum)、アルファルファ(Medicago sativa)、コムギ(Triticum sp)、オオムギ(Hordeum vulgare)、オートムギ(Avena sativa,L)、モロコシ(Sorghum bicolor)、コメ(Oryza sativa)、シロイヌナズナ、アブラナ科の野菜(ブロッコリ、カリフラワー、キャベツ、パースニップ等々)、メロン、ニンジン、セロリ、パセリ、トマト、ジャガイモ、イチゴ、ラッカセイ、ブドウ、グラス・シード・クロップ(grass seed crops)、サトウダイコン、サトウキビ、豆類、エンドウ豆、ライ麦、アマ、硬葉樹、軟葉樹、およびまぐさ(forage grass)などがあるが、この限りではない。藻類としては、商業的に重要な宿主、たとえばスピルリナ(Spirulina)、ヘモタコッカス(Haemotacoccus)、およびドナリエラ(Dunalliela)などがあるが、この限りではない。アリールカロテノイド化合物の産生は、発生の所望の段階に、所望の組織における遺伝子の発現を指令することができるプロモーターに、コード領域が作動可能に連結された、本発明のキメラ遺伝子を先ず構築することにより、達成することができる。便宜上、キメラ遺伝子は、同一遺伝子に由来するプロモーター配列および翻訳リーダー配列を含んでなってもよい。転写終結シグナルをコードする3’非コード配列も備えなければならない。本キメラ遺伝子は、遺伝子発現を容易にするために、1つもしくはそれ以上のイントロンも含んでなってもよい。
【0084】
コード領域の発現を誘導することができるプロモーターおよびターミネーターの任意の組合せを、キメラ遺伝子配列で使用することができる。プロモーターおよびターミネーターの好適な例としては、ノパリンシンターゼ(nos)、オクトピンシンターゼ(ocs)およびカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)遺伝子に由来するものなどが挙げられる。使用することが可能な効率のよい植物プロモーターの1種は、高レベル植物プロモーターである。本発明の遺伝子配列と作動可能に連結されているこのようなプロモーターは、本遺伝子産物の発現を促進することができなければならない。本発明で使用することが可能な高レベル植物プロモーターとしては、ダイズ由来のリブロース−1,5−二リン酸カルボキシラーゼの小さいサブユニット(ss)のプロモーター(ベリー−ロウ(Berry−Lowe)ら、J.Molecular and App.Gen.、1:483−498(1982年))、およびクロロフィルa/b結合タンパク質のプロモーターなどがある。これらの2つのプロモーターは、植物細胞で光誘導されることが知られている(たとえば、Genetic Engineering of Plants,an Agricultural Perspective、A.キャシュモア(Cashmore)、プレナム(Plenum)、ニューヨーク(NY)(1983年)、29〜38ページ;コルッツィ(Coruzzi)G.ら、The Journal of Biological Chemistry、258:1399(1983年)、およびダンスミュア(Dunsmuir)P.ら、Journal of Molecular and Applied Genetics、2:285(1983年)参照)。
【0085】
次いで、本キメラ遺伝子を含んでなるプラスミドベクターを構築することができる。プラスミドベクターの選択は、宿主植物の形質転換に使用される方法によって異なる。当業者は、首尾よく形質転換するためにプラスミドベクター上に存在しなければならない遺伝因子を十分承知しており、該キメラ遺伝子を含有する宿主細胞を選択して増殖させる。当業者は、異なる独立した形質転換事象が、異なるレベルおよびパターンの発現を招くであろうこと(ジョーンズ(Jones)ら、EMBO J.、4:2411−2418(1985年);デ・アルメイダ(De Almeida)ら、Mol.Gen.Genetics、218:78−86(1989年))、およびしたがって、所望の発現レベルおよびパターンを示す系統を得るためには、多様な事象をスクリーニングをしなければならないことも認識するであろう。このようなスクリーニングは、DNAブロットのサザン分析(サザン(Southern)、J.Mol.Biol.、98:503(1975))、mRNA発現のノーザン分析(クロツェック(Kroczek)J.、Chromatogr.Biomed.Appl.、618(1−2):133−145(1993))、およびタンパク質発現のウエスタン分析、または表現型分析で達成することが可能である。
【0086】
幾つかの用途では、本タンパク質を異なる細胞区画に導くことは有用であろう。したがって、輸送配列等の適切な細胞内ターゲティング配列(キーグストラ(Keegstra)K.、Cell、56:247−253(1989))、シグナル配列または小胞体局在をコードする配列(クリスピールス(Chrispeels)J.J.、Ann.Rev.Plant Phys.Plant Mol.Biol.、42:21−53(1991))、または核局在シグナル(ライケル(Raikhel)N.、Plant Phys.、100:1627−1632(1992))が加えられかつ/または既に存在するターゲティング配列が除去された酵素をコードするように、コード配列を変更することによって、上述のキメラ遺伝子をさらに補足できると想定される。引用した参考文献は、これらのそれぞれの例を示すが、このリストは網羅的ではなく、本発明で有用な、より多くの実用的なターゲティングシグナルを将来的に発見する可能性がある。
【0087】
カロテン・デサチュラーゼ(crtU)酵素を含んでなる細胞がたぶん回収され、当該技術分野で周知の方法で、未精製細胞抽出物が調製される。あるいは、crtU酵素は、標準技術を使用したイオン交換、ヒドロキシアパタイト、硫酸アンモニウム、サイジング・ゲル、およびPAGE・ゲル電気泳動クロマトグラフィで精製することができる。
【0088】
未精製細胞抽出物または精製されたタンパク質を緩衝溶液中に懸濁させ、アセトン等の適当な溶剤に溶解したカロテノイド基質(β−イオノン環を有する)と接触させることが可能である。これらの反応物を混合し、適当な時間、インキュベートし、カロテノイド生成物の溶剤抽出により、反応を停止させる。
【0089】
好ましい実施態様の説明
本crtU遺伝子およびその発現産物であるCrtU(カロテン・デサチュラーゼ)は、アリール−カロテノイド化合物を産生できる力を有する組換え生物を作るのに有用である。CrtUをコードする核酸断片は、ブレビバクテリウム・リネンズ(Brevibacterium linens)の菌株から単離されており、またロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072で発現されている。ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072は生来、4−ケト−γ−カロテンを主要カロテノイドとして産生し、またγ−カロテンの4−ケト−γ−カロテンへの変換に関与するカロテノイドケトラーゼであるとして、CrtOが同定されている(図2)。CrtUにより触媒される芳香族カロテノイド類の生合成は、カロテノイド類のβ−イオノン環の不飽和化およびメチル基転移によって進行するため、β−カロテンまたはγ−カロテンのいずれも、なり得る基質である。CrtUに利用可能なβ−イオノン環構造を作るために、生来のCrtO活性を、ノックアウト突然変異によって、菌株から除去した。一例では、ロドコッカス(Rhodococcus)dxs遺伝子(1−デオキシキシルロース−5−リン酸シンターゼをコードする)を使用して、B.リネンズ(B.linens)由来のcrtU遺伝子を発現させ、これを使用して、イソプレノイド経路代謝物の流動を改善した。別の例では、クロラムフェニコール耐性遺伝子プロモーターを使用して、crtU遺伝子を発現させ、これが発現レベルを向上させた。
【実施例】
【0090】
本発明を、以下の実施例でさらに明確にする。当然のことながら、これらの実施例は、本発明の好ましい実施態様を示すが、例を挙げて説明するために示すに過ぎない。上記およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の本質的な特徴を確認することができ、また本発明を様々な使用および条件に適合させるために、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の様々な変更および修飾を行うことができる。
【0091】
一般法
実施例で使用される標準組換えDNAおよび分子クローニング技術は、当該技術分野で周知であり、またサンブルック(Sambrook)J.、フリッツェ(Fritsch)E.F.およびマニアティス(Maniatis)T.著、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual);コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)(1989年)(マニアティス(Maniatis));およびT.J.シルヘイビー(Silhavy)M.L.ベナン(Bennan)およびL.W.エンクイスト(Enquist)著、遺伝子融合を用いた実験(Experiments with Gene Fusions)、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory)、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク(NY)(1984年);およびAusubel,F.M.ら著、分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)、グリーン・パブリッシング・アソシエーション(Greene Publishing Assoc.)およびワイリー−インターサイエンス(Wiley−Interscience)(1987年)に記載されている。
【0092】
細菌培養の維持および増殖に好適な材料および方法は、当該技術分野で周知である。以下の実施例で使用するのに好適な技術は、Manual of Methods for General Bacteriology(フィリップ・ゲルハード(Phillipp Gerhardt)、R.G.E.マリー(Murray)、ラルフN.コスティロー(Ralph N.Costilow)、ユージーンW.ネスター(Eugene W.Nester)、ウィリスA.ウッド(Willis A.Wood)、ノエルR.クレイグ(Noel R.Krieg)およびG.ブリッグス・フィリップス(Briggs Phillips)編)、ワシントンDCのアメリカン・ソサイアティー・フォー・ミクロバイオロジー(American Society for Microbiology、Washington,DC.)(1994年))またはブロック(Brock)(上掲)に詳述されている。細菌細胞の培養および維持に使用された全ての試薬、制限酵素および材料は、特に明記されていない限り、ウィスコンシン州ミルウォーキーにあるオールドリッチ・ケミカルズ(Aldrich Chemicals(Milwaukee,WI))、ミシガン州デトロイトにあるディフコ・ラボラトリーズ(DIFCO Laboratories(Detroit,MI))、メリーランド州ゲーサスバーグにあるギブコ/BRL(GIBCO/BRL(Gaithersburg,MD))、またはミズーリ州セント・ルイスにあるシグマ・ケミカル・カンパニー(Sigma Chemical Company(St.Louis,MO))から入手した。
【0093】
遺伝子配列の操作は、ウィスコンシン州マジソン(Madison,WI)にあるジェネティクス・コンピューター・グループ・インク(Genetics Computer Group Inc.)から販売されている一揃いのプログラム、ウィスコンシン・パッケージ・バージョン9.0(Wisconsin Package Version 9.0,Genetics Computer Group(GCG))を使用して達成した。GCGプログラム「パイルアップ(Pileup)」を使用した場合、ギャップ・クリエーション・デフォルト値12、およびギャップ伸長デフォルト値4を使用した。GCG「ギャップ(Gap)」または「ベストフィット(Bestfit)」プログラムを使用する場合、デフォルト・ギャップ・クリエーション・ペナルティ50およびデフォルト・ギャップ伸長ペナルティ3を使用した。ファスタ(FASTA)プログラムを使用して、スミス・ウォーターマン(Smith−Waterman)アルゴリズムを取り入れたマルチプルアラインメントを作成した(W.R.ピアーソン(Pearson)、Comput.Methods Genome Res.、[Proc.Int.Symp.](1994年)、会議日程1992年、111−20。編集者:スハイ(Suhai)、サンドール(Sandor)。出版社:プレナム(Plenum)、ニューヨーク州ニューヨーク(New York,NY))。これらのプログラムまたは他のプログラムで、プログラム・パラメーターが指示されていない場合はいつも、デフォルト値を使用した。
【0094】
略語の意味は以下の通りである。「h」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「sec」は秒を意味し、「d」は日を意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「mM」はミリモル濃度を意味し、「μM」はマイクロモル濃度を意味し、「ppm」は百万分の1を意味し、および「nm」はナノメートルを意味する。
【0095】
細菌菌株
以下の実施例で使用した細菌菌株およびそれらの入手先を下表に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
ベクター
以下の実施例で使用した形質転換ベクターおよび発現ベクターならびにそれらの入手先を下表に示す。
【0098】
【表2】

【0099】
実施例1
菌株AN12の単離および特性決定
この実施例は、唯一の炭素源およびエネルギー源としてのアニリンで増殖できることに基づいた、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)の菌株AN12の単離について説明する。16S rRNA遺伝子配列の分析は、菌株AN12は、ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する高G+Cグラム陽性菌と関連していることを示した。
【0100】
アニリンで増殖する細菌を富化培養から単離した。該富化培養は、125mLネジブタ式エルレンマイヤー(Erlenmeyer)フラスコ内で、活性汚泥1mLを、S12培地(10mM硫酸アンモニウム、50mMリン酸カリウム緩衝溶液(pH7.0)、2mM MgCl、0.7mM CaCl、50μM MnCl、1μM FeCl、1μM ZnCl、1.72μM CuSO、2.53μM CoCl、2.42μM NaMoO、および0.0001%FeSO)10mLに接種することにより確立された。該活性汚泥は、汚水処理施設から入手した。培地に直接加えて、アニリン100ppmを該富化培養に補足し、往復振盪しながら25℃でインキュベートした。2〜3日ごとにアニリン100ppmを加えることにより、該富化培養を維持した。培養9.9mLを、同体積のS12培地と交換することにより、14日ごとに培養を希釈した。富化培養のサンプルをS12寒天上に広げることにより、唯一の炭素源およびエネルギー源としてアニリンを利用する細菌を単離した。各ペトリ皿の蓋の内側にアニリンを載せた。ペトリ皿をパラフィルムで密閉し、裏返して、室温(25℃)でインキュベートした。次いで、代表的な細菌コロニーを、唯一の炭素源およびエネルギー源としてアニリンを使用できる力についてテストした。コロニーを、初回単離に使用した最初のS12寒天プレートから、新しいS12寒天プレートに移し、各ペトリ皿の蓋の内側にアニリンを補充した。ペトリ皿をパラフィルムで密閉し、裏返して、室温(25℃)でインキュベートした。
【0101】
各単離菌の16S rRNA遺伝子をPCRで増幅し、以下の通りに分析した。各単離菌をR2A寒天(マサチューセッツ州ベッドフォードにあるディフコ・ラボラトリーズ(Difco Laboratories(Bedford,MA))上で増殖させた。培養皿のコロニー数個を、水100μLに懸濁した。この混合物を凍結し、次いで解凍した。製造会社の説明書(マサチューセッツ州ボストンにあるパーキン・エルマー(Perkin Elmer(Boston,MA))に従って市販のキットを使用することにより、プライマーHK12(5’−GAGTTTGATCCTGGCTCAG−3’)(配列番号:1)およびHK13(5’−TACCTTGTTACGACTT−3’)(配列番号:2)を用いて、PCRで16S rRNA遺伝子配列を増幅した。パーキン・エルマー・ジーンアンプ(Perkin Elmer GeneAmp)9600で、PCRを実施した。サンプルを、94℃で5分間インキュベートし、次いで、94℃で30秒間、55℃で1分間、および72℃で1分間を、35回反復した。増幅された16S rRNA遺伝子を、製造会社の説明書に従って市販のキット(カリフォルニア州バレンシアにあるキアジェン(Qiagen(Valencia,CA))から販売されているキアクイック・PCR・ピュアリフィケーション・キット(QIAquick PCR Purification Kit)を使用して精製し、自動式ABIシーケンサーで配列決定した。配列決定反応は、プライマーHK12、HK13、およびHK14(5’−GTGCCAGCAGYMGCGGT−3’)(配列番号:3、Y=CまたはTの場合、M=AまたはCである)で開始した。各単離菌の16S rRNA遺伝子配列を、類似配列を探すためのジェンバンク(GenBank)(登録商標)のBLAST検索(アルシュール(Altschul)ら、Nucleic Acids Res.、25:3389−3402(1997年))のクエリー配列として使用した。
【0102】
菌株AN12の16S rRNA遺伝子を配列決定し(配列番号:4)、ジェンバンク(GenBank)(登録商標)配列データベース中の他の16S rRNA配列と比較した。菌株AN12由来の16S rRNA遺伝子配列は、高G+Cグラム陽性菌ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)の16S rRNA遺伝子配列と98%類似していた。
【0103】
実施例2
産生宿主としてのロドコッカス(Rhodococcus)crtOノックアウト突然変異体の構築
下記の手順を使用し、相同組換えによって、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072のcrtOノックアウト突然変異体を作った(以下47072と称する)。ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)AN12 crtO配列(配列番号:7)に基づいて、PCRプライマーAN12_I2_F(5’−CCATGGTCTGCGCACCTCATGATCCGA−3’:配列番号:5)およびAN12_I2_R(5’−CCATGGAATGAAGCGGTCGAGGACGGA−3’:配列番号:6)をデザインした(下線を施した配列は操作されたNcoI部位であった)。これらのプライマーを使用して、遺伝子のN末端に275bpの切詰部分を有し、またC末端に173bpの切詰部分を有する、47072から1151bpのcrtO内部断片を増幅した。47072から増幅されたcrtO(配列番号:8)を配列決定により確認し、DNAレベルでAN12crtOと95%同一性を示した。このcrtO断片を先ずpCR2.1TOPOベクター(カリフォルニア州カールズバッドにあるインビトロジェン(Invitrogen(Carlsbad,CA))にクローニングした。次いで、このTOPOクローンをNcoIで消化し、続いて、crtO断片を、pBR328(ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号L08858)のNcoI部位にクローニングした。結果として得られた構築物を配列決定により確認し、pDCQ102と呼んだ。pDCQ102のDNAおよそ1μgを、47072にエレクトロポレーションで導入し、10μg/mLテトラサイクリンを含むNBYE(0.8%栄養ブロスおよび0.5%酵母エキス)プレート上にプレーティングした。pBR328ベクターは、ロドコッカス(Rhodococcus)で複製せず、したがって、30℃で3〜4日間インキュベートした後に得られたテトラサイクリン耐性形質転換体は、染色体の組込みによって作られた。標的とされた47072の染色体上のcrtO遺伝子への組込みを、PCRで確認した。遺伝子特異的プライマー(pDCQ102上の挿入物の外)I2_OP5(5’−ACCTGAGGTGTTCGACGAGGACAACCGA−3’;配列番号:11)およびI2_OP3(5’−GTTGCACAGTGGTCATCGTGCCAGCCGT−3’;配列番号:12)と対合した、ベクター特異的プライマーPBR3(5’−AGCGGCATCAGCACCTTG−3’;配列番号:9)およびPBR5(5’−GCCAATATGGACAACTTCTTC−3’;配列番号:10)を、テトラサイクリン耐性形質転換体から調製した染色体DNAを鋳型として用いたPCRに使用した。予想されたサイズのPCR断片を、テトラサイクリン耐性形質転換体から増幅したが、野生型47072からPCR産物は得られなかった。2つの遺伝子特異的プライマーを使用したとき、大きいベクターDNAの挿入が原因で、テトラサイクリン耐性形質転換体ではPCR断片は得られなかった。ベクター特異的プライマーおよび遺伝子特異的プライマーを用いて得られたPCR断片を配列決定した。ベクターおよびcrtO遺伝子の連結の配列分析で、予想部位で1つの乗換え組換えが起こり、標的とされたcrtO遺伝子を中断することが確認された。
【0104】
【表3】

【0105】
「nr」データベース(全ての非重複ジェンバンク(GenBank)(登録商標)CDS翻訳、3次元構造ブルックヘブン・プロテイン・データ・バンク(Brookhaven Protein Data Bank)由来の配列、SWISS−PROTタンパク質配列データベース、EMBL、およびDDBJデータベースを含んでなる)に対してBLAST(Basic Local Alignment Search Tool;アルシュール(Altschul)S.F.ら、J.Mol.Biol.、215:403−410(1993))検索を実行することにより、類似性について、crtOの配列を他の配列と比較した。米国バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information(NCBI))により提供されたBLASTNアルゴリズムを使用して、これらの配列を、「nr」データベースに含まれている全ての公的に入手できるDNA配列との類似性について分析した。全ての読み枠のDNA配列を翻訳し、NCBIにより提供されたBLASTX BLOSUM62アルゴリズムを使用し、残基のギャップコスト2ごとのギャップ存在コスト11、フィルター処理した、ギャップアラインメント(ギッシュ(Gish)W.およびステーツ(States)D.J.、Nature Genetics、3:266−272(1993))を用いて、「nr」データベース中に含まれる全ての公的に入手できるタンパク質配列との類似性について比較した。
【0106】
各配列が最大の類似性を有する配列をまとめた表1に、BLAST比較の結果を示す。表1は、BLASTXnrアルゴリズムに基づいたデータを、予想値で報告された値と共に示す。予想値は、所定のスコアを用いて、このサイズのデータベースの検索で全く偶然に予想されるマッチ数を特定し、マッチの統計学的有意性を推定する。
【0107】
BLAST分析は、CrtOがフィトエンデヒドロゲナーゼと最高の相同性を有することを示したが、CrtOのノックアウト突然変異体から、CrtOは、カロテノイドケトラーゼをコードすることが示唆された。crtO突然変異体、47072(crtO−)のコロニーが黄色であったのに対して、47072野生型菌株はピンク色であり、このことから、crtO突然変異体47072(crtO−)で、異なるカロテノイド色素が産生されたことが示唆される。47072(crtO−)からカロテノイド類を抽出するために、NBYE(0.8%栄養ブロス+0.5%酵母エキス)中の細胞培養100mLを、好気的条件下、26℃で定常期まで増殖させた。細胞を、4000gで15分間遠沈し、この細胞ペレットを、アセトン10mL中に再懸濁させた。室温で1時間、絶えず振盪しながら、カロテノイド類をアセトン中に抽出した。細胞を遠沈し、上澄を回収した。抽出を1回繰り返し、両抽出の上澄を合併し、窒素下で乾燥させた。乾燥材料を、メタノール0.5mL中に再度溶解し、不溶物質を、16,000gにて2分間の遠心分離で除去した。ベックマン・システム・ゴールド(Beckman System Gold)(登録商標)HPLCとベックマン・ゴールド・ヌーヴォー・ソフトウェア(Beckman Gold Nouveau Software)(メリーランド州コロンビア(Columbia,MD))を使用して、このサンプルをHPLCで分析した。対応するガードカラムが付いた125×4mmのRP8(5μm粒子)カラム(カリフォルニア州サンフェルナンドにあるヒューレット・パッカード(Hewlett−Packard(San Fernando,CA))に、抽出物(0.1mL)を負荷した。流量は、1mL/分であった。溶剤プログラムは、以下の通りであった。0〜11.5分 水40%/メタノール60%からメタノール100%までの直線勾配、11.5〜20分 メタノール100%、20〜30分 水40%/メタノール60%。ベックマン(Beckman)フォトダイオードアレイ検出器(168型)で、スペクトルデータを集めた。HPLC分析は、47072(crtO−)には、野生型菌株の主要カロテノイドピークがないことを示した。47072(crtO−)で確認された主要ピークは、溶離時間15.5分のときであり、吸収最大は435nm、458nmおよび486nmであり、これはγカロテンの特徴と全く同じであった。このように、ATCC 47072(crtO−)は、γカロテンを蓄積し、したがってcrtUが芳香族カロテノイド類を合成するための発現宿主として使用することができた。
【0108】
実施例3
pRhBR171およびpDCQ23シャトルベクターの構築
大腸菌−ロドコッカス(E.coli−Rhodococcus)シャトルベクターは、大腸菌(E.coli)およびロドコッカス(Rhodococcus)の両者で機能する、一組の複製機能および抗生物質耐性マーカーを必要とする。出願人は、ロドコッカス(Rhodococcus)に関する複製機能をコードする潜在性pAN12プラスミドを同定した。ロドコッカス(Rhodococcus)に関する抗生物質耐性マーカーを同定するために、大腸菌(E.coli)プラスミドpBR328(ATCC #37517、ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号L08858)をテストして、ロドコッカス(Rhodococcus)で機能するかどうかを調べた。プラスミドpBR328は、大腸菌(E.coli)で機能する、アンピシリン、クロラムフェニコール、およびテトラサイクリン耐性マーカーを担持する。pBR328をPvuIIで直線化してクロラムフェニコール耐性遺伝子を中断し、SspIで消化したpAN12と連結した。このようにして得られたクローンを、pRhBR17(配列番号:13)と呼んだ。
【0109】
シャトルプラスミドpRhBR17のトランスポゾン突然変異誘発から、シャトルプラスミドのある領域は、プラスミド機能に必須ではない可能性があることが示唆される(表2)。これらの領域の1つは、pBR328とpAN12の接合部にある。プラスミドのこの領域が可欠であるかどうか、またシャトルプラスミドのサイズを削減できるかどうかを、試験することに決定した。シャトルプラスミドpRhBR17をPst I(2部位/2520、3700bp)およびMlu I(1部位/4105bp)で消化し、下記のサイズの3断片を得た。9656、1180および405bp。製造会社の説明書に従って、消化したDNA断片を、マング・ビーン・ヌクレアーゼ(マサチューセッツ州ベバリーにあるニュー・イングランド・バイオラブズ(New England Biolabs(Beverly,MA))で平滑末端化した。アガロースゲルを用いて、最大の9.7kb断片を大きさで分離し、キアエクスIIゲル・エクストラクション・キット(QIAEX II Gel Extraction Kit(キアジェン(Qiagen))を使用して精製した。pRhBR17の領域2520−4105bpが欠失している、この9.7kbのDNA断片を自己連結して、pRhBR171と呼ばれる円形のプラスミドを形成した。大腸菌(E.coli)DH10B形質転換体からのプラスミド単離および制限酵素特性決定から、pRhBR171の正確なサイズおよび消化パターンが分かった。Pst IおよびMlu I消化物は、親プラスミド上のアンピシリン耐性遺伝子に関するコード領域の一部が除去されたため、pRhBR171プラスミドを包含する大腸菌(E.coli)細胞は、アンピシリン(100μg/mL)の存在下で生育できる力を失った。pRhBR171上のテトラサイクリン耐性遺伝子は、大腸菌(E.coli)およびロドコッカス(Rhodococcus)両者の、選択マーカーの役割を果たす。ロドコッカス(Rhodococcus)へのpRhBR171の形質転換を試験した。pRhBR171は、その親プラスミドpRhBR17と比較したとき、エレクトロポレーションで、コンピテント・ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072およびAN12細胞を、類似した頻度で形質転換した。トランスポゾン突然変異誘発によって示唆された通り、pRhBR17のこの領域(2520−4105bp)は必須ではないことが、これらの結果から分かる。クローニングにより便利な、より小さいシャトルベクターも提供される。
【0110】
【表4】

【0111】
dxs遺伝子とその天然プロモーター(配列番号:14)を、ロドコッカス(Rhodococcus)AN12菌株から、PCRで増幅した。2つの上流プライマー、New dxs 5’プライマー、5’−ATT TCG TTG AAC GGC TCG CC−3’(配列番号:15)、およびNew2 dxs 5’プライマー、5’−CGG CAA TCC GAC CTC TAC CA−3’(配列番号:16)を、異なる長さを有するdxsの天然プロモーター領域を含むように、デザインした。下流プライマー、New dxs 3’プライマー、5’−TGA GAC GAG CCG TCA GCC TT−3’(配列番号:17)は、下線を施したdxs遺伝子の停止コドンを含んでいた。New dxs 5’+New dxs 3’を使用したAN12全DNAのPCR増幅で、全長AN12 dxsコード領域およびすぐ上流の領域の約500bp(nt.#500−#3019)を含む、2519bpのサイズの生成物を得た。New2 dxs 5’+New dxs 3’プライマー対を使用するとき、PCR産物は、完全なAN12dxs遺伝子および約1kb上流領域(nt.#34−#3019)を含む、2985bpのサイズである。製造会社の説明書(インビトロジェン(Invitrogen))に従って、両PCR産物を、pCR2.1−TOPOクローニングベクターでクローニングした。結果として得られたクローンをスクリーニングし、配列決定した。確認されたプラスミドをEcoRIで消化し、dxs遺伝子および各プラスミドから上流領域を含む2.5kb断片および3.0kb断片をクレノー(Klenow)酵素で処理し、大腸菌−ロドコッカス(E.coli−Rhodococcus)シャトルプラスミドpRhBR171の特有のSspI部位にクローニングした。結果として得られた構築物pDCQ22(クローン#4および#7)およびpDCQ23(クローン#10および#11)を、テトラサイクリン10μg/mL選択を用いて、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072にエレクトロポレートした。
【0112】
pDCQ22およびpDCQ23のロドコッカス(Rhodococcus)形質転換体の色素は、ベクター対照で形質転換されたものと比較するとき、黒っぽく見えた。各ロドコッカス(Rhodococcus)菌株のカロテノイド産生を計量するために、新たに培養された細胞1mLを、0.05%トゥイーン(Tween)−80および10μg/mLテトラサイクリンを含む用時調製した新たなLB培地200mLに加え、定常期まで30℃にて3日間、増殖させた(表3)。4000gにて15分間の遠心分離により細胞をペレット化し、各細胞ペレットの湿重量を測定した。振盪しながら、細胞ペレットからアセトン10mL中にカロテノイド類を一晩抽出し、最高吸光度(465nm)にて定量した。465nmという波長は、ロドコッカス(Rhodococcus)sp.ATCC 47072から単離されたカロテノイドのピーク吸光度の特徴である。吸収データを使用して、産生されたカロテノイドの量を算出した。この量を算出し、細胞ペースト重量または細胞密度(OD600)のいずれかに基づいて、各菌株で標準化した。いずれの方法で算出したカロテノイド産生も、より短いプロモーター領域を有するdxs遺伝子を含む、pDCQ22を有する47072の約1.6倍の増加を示した。
【0113】
【表5】

【0114】
pDCQ23の場合のように、より長いプロモーター領域を有するdxs遺伝子が発現されたとき、カロテノイド産生は、さらに多く増加した(2.2倍)(表3)。1kb上流のDNAがプロモーターおよび発現を増強する幾つかの因子を含むようである。野生型菌株、47072(pRhBR171)、およびdxs発現菌株、47072(pDCQ22)または(pDCQ23)によって、同じカロテノイド類が産生されることが、HPLC分析でも確認された。
【0115】
実施例4
dxs遺伝子の下流のブレビバクテリウム(Brevibacterium)crtUの、ロドコッカス(Rhodococcus)における発現
dxs遺伝子(配列番号:14)は、カロテノイド合成のためのイソプレノイド経路で、グリセルアルデヒド−3−リン酸およびピルビン酸化合物前駆物質から1−デオキシキシルロース−5−リン酸を合成する第1ステップを触媒する1−デオキシキシルロース−5−リン酸シンターゼをコードする。実施例3で示した通り、ロドコッカス(Rhodococcus)dxs遺伝子とその天然プロモーターを、マルチコピーシャトルベクター(pDCQ23)上に配置することにより、ロドコッカス(Rhodococcus)カロテノイド産生がおよそ2倍増加した。最初に、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)crtU遺伝子(配列番号:18)(クルバシク(Krubasik)ら、Mol.Gen.Genet.,263:423−432(2000年))を、pDCQ23上のdxs遺伝子の下流にクローニングした。この戦術を推進する論理的根拠は、2つであった。第1に、pDCQ23で作動できることが証明されていた、dxsプロモーターにより、crtU遺伝子を、ロドコッカス(Rhodococcus)で発現させることができた。第2に、dxsを担持しない47072と比較したとき、pDCQ23を有するロドコッカス(Rhodococcus)菌株は、カロテノイドを2倍も産生した(表3)。pDCQ23上の特有のMscI部位がdxsのすぐ下流で同定され、そこにcrtU遺伝子をクローニングして、ポリシストロン性転写物を形成した。PCRで、フォワードプライマーcrtU_RBS(Brevi)(5’−GTGCTCATGCTGTGGCAGTGGCAA−3’配列番号:20)およびリバースプライマーcrtU_R(5’−TCATCGACGTCTCCTGATGAGCCCGAGCACT−3’配列番号:21)を使用して、crtU遺伝子とその生来のリボソーム結合部位を、ブレビバクテリウム・リネンズ(Brevibacterium linens)(ATCC 9175)のゲノムDNAから増幅した。1554bp PCR産物を、pCR2.1−TOPOクローニングベクター(インビトロジェン(Invitrogen))で先ずクローニングして、プラスミドpDCQ138を得た。crtU遺伝子を含むpDCQ138 DNAの1.6kbのEcoRI断片を、クレノー(Klenow)DNAポリメラーゼでフィルインし、pDCQ23のMscI部位に連結した。結果として得られた構築物pDCQ139において、crtU遺伝子は、dxs遺伝子と同じ方向であった。131bpのDNA配列によって隔てられているdxsとcrtUとの間に、転写終結部位は存在しなかった。crtUは、dxs遺伝子と同時転写されたと推定される。pDCQ139構築物は、実施例2で説明したcrtOノックアウト宿主を作るために使用したものと同じマーカーである、テトラサイクリン耐性マーカーを含んでいた。dxsおよびcrtU遺伝子群を含む6.0kbのHind III断片をpDCQ139から切取り、ロドコッカス(Rhodococcus)で選択するために、クロラムフェニコール耐性マーカー(ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AJ308376、配列番号:22)を有する別のロドコッカス(Rhodococcus)シャトルベクターpDA71(ATCC 77474)のHindIII部位に連結した(図4)。結果として得られた構築物、pDCQ140(図3)を、配列決定により確認した。プラスミドpDCQ140およびベクター対照pDA71を、47042(crtO−)にエレクトロポレートした。0.05%トゥイーン(Tween)−80、10μg/mLテトラサイクリンおよび40μg/mLクロラムフェニコールを含むLB 200mL中、30℃で2日間、細胞を増殖させた。アセトン20mLで、細胞ペレットからカロテノイド類を抽出し、窒素下で乾燥させ、メタノール1mLに溶解した。実施例2に記載の通りに、各サンプル0.1mLをHPLC分析に使用した。pDA71ベクター対照を担持する(図4)47042(crtO−)では、γ−カロテンは15.4分に溶離した。crtUを含むpDCQ140を有する47042(crtO−)では、カロテノイド類の大部分がγ−カロテンであり、15.4分に溶離した。しかし、全カロテノイド類の7%に相当する新しいカロテノイドは、15.1分に溶離した。この新しいカロテノイドは、CrtUの変換生成物、クロロバクテンであり、次の実施例に記載の通りに確認した。
【0116】
実施例5
Cm遺伝子の下流のブレビバクテリウム(Brevibacterium)crtUの、ロドコッカス(Rhodococcus)における発現
γ−カロテンのほんの一部が、pDCQ140上のdxsの下流のcrtUによって転換されるに過ぎなかった。dxsは、大腸菌(E.coli)におけるカロテノイド合成の律速段階であることが証明されていた(アルブレシュツ(Albrecht)M.ら、Biotechnol.Letters、21:791−795(1999年))ため、ロドコッカス(Rhodococcus)におけるdxsのプロモーターも強くなかった公算が高い。crtU発現を改善する一法は、より強力なプロモーターを使用することであった。pDA71上のCm遺伝子のプロモーター(配列番号:22)は、候補である公算が高い。Cm遺伝子のプロモーターを使用するもう1つの利点は、このCm遺伝子は、ロドコッカス(Rhodococcus)のみで発現し、大腸菌(E.coli)では発現しないことであって、このことより、サブクローニング段階中の、大腸菌(E.coli)における毒性または安定性の問題が回避される。pDA71上のCm遺伝子は、抗生物質マーカーカセットとして使用されており、該遺伝子およびそのプロモーターは、これまでは、1.8kbのBbrPI−StuI断片(デモット(DeMot)R.ら、Microbiology、143:3137−3147(1997);ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AJ308376)に局在化されていた。フォワードプライマーcm_F(5’−ccatggcgaagtaccgtcacgtgcac−3’;配列番号:23)およびリバースプライマーcm_R(5’−ccatggcaattgtcaggctgggacggtttcct−3’;配列番号:24)を使用して、上流領域の500bpを含むCm遺伝子を、pDA71プラスミドDNAからPCR増幅した。フォワードプライマー、cm_Fは、BbrPI部位(ボールド体)に架かった。リバースプライマー、cm_Rは、ボールド体で表示されている遺伝子の停止コドンの相補的配列を含んでいた。両プライマーはともに、NcoI部位(下線)を含み、cm_Rは、MfeI部位(イタリック体)を含んでいた。1640bpのPCR産物をpCR2.1−TOPOクローニングベクター(インビトロジェン(Invitrogen))でクローニングし、結果としてpDCQ141が得られた。pDCQ141由来の1.6kbのNcoI断片を、pRhBR171中のNcoI部位にサブクローニングし、Cm遺伝子を含む新規な大腸菌−ロドコッカス(E.coli−Rhodococcus)シャトルプラスミドpDCQ142を構築した。crtU遺伝子およびそのリボソーム結合部位を含むpDCQ138 DNAの1.6kbのEcoRI断片を、pDCQ142中のCm遺伝子のすぐ下流の特有のMfeI部位にサブクローニングした。結果として得られた構築物pDCQ143は、Cm遺伝子の下流のcrtU遺伝子を含んでおり、CmおよびcrtUの両者は同一方向であった。この2つの遺伝子は、明らかな転写終結部位がない62bpのDNAで隔てられていた。crtU遺伝子は、おそらく、そのプロモーターによって、Cm遺伝子を含むポリシストロン性メッセージとして転写された可能性がある。プラスミドpDCQ143およびベクター対照pDCQ142を、47042(crtO−)にエレクトロポレートした。0.05%トゥイーン(Tween)−80、10μg/mLテトラサイクリンおよび40μg/mLクロラムフェニコールを含むLB 200mL中、30℃で2日間、細胞を増殖させた。アセトン20mLで、細胞ペレットからカロテノイド類を抽出し、窒素下で乾燥させ、メタノール1mLに溶解した。各サンプル0.1mLを、実施例2に記載のHPLC分析に使用した。pDCQ142ベクター対照を含む47042(crtO−)では、γ−カロテンが15.3分に溶離した。crtUを含むpDCQ143を含む47042(crtO−)では、カロテノイドは15.3分に溶離せず、全てのカロテノイドが15.0分に溶離した。15.0分に溶離したカロテノイドは、γ−カロテン(15.3分に溶離した)と同じ吸収スペクトルを有していたため、15.0分におけるカロテノイドがpDCQ143で産生された新規なカロテノイドであること、あるいはHPLCのばらつきが原因で、γ−カロテンが、僅かに異なる時点で溶離されたかどうかは、確実ではない。これらの2つの可能性を見分けるために、pDCQ142対照菌株およびpDCQ143を含む菌株から抽出された同量のカロテノイド類を混合し、HPLCに負荷した。カロテノイドのピークが2つ確認され、15.0分に41%が溶離し、15.3分に59%が溶離した。このことから、pDCQ143を含む菌株から産生されたカロテノイドは、pDCQ142ベクター対照菌株から産生されたγ−カロテンと異なることが強く示唆される。pDCQ143上のCm遺伝子の下流に発現されたcrtUは、γ−カロテンを新規なカロテノイドにほぼ100%変換し、これを、実施例6に記載の通りに分析した。
【0117】
実施例6
ロドコッカス(Rhodococcus)におけるクロロバクテン合成の、LC−MSによる確認
クロロバクテンは、γ−カロテンと同じスペクトル吸収を示す。ロドコッカス(Rhodococcus)におけるクロロバクテンの合成を確認するために、異なるロドコッカス(Rhodococcus)菌株からのカロテノイド類の分子量を、LC−MSで決定した。カロテノイド類は、野生型ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072、47072(crtO−)、およびpDCQ143を含む47072(crtO−)から、上述の通りに抽出した。75%アセトニトリルおよび25%アセトンを使用して、各サンプル50μLを、ゾルバクス(Zorbax)2.1×150mmのSB−C18 LCカラムで定組成的に30分間溶離的した(カリフォルニア州アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies,CA)。走査間遅延0.1秒、3KVでのコロナ放電針および450℃でのAPCI(大気圧化学イオン化(Atomospheric Pressure Chemical Ionization)プローブが付いたAPCIモードで、質量分析計(英国マイクロマス・リミテッドのマイクロマス・クワトロ・LC・トリプル・クオードポール(Micromass Quattro LC triple quadrapole,Micromass Limited,UK))を、0.9秒で、100から1000AMUまで走査した。LC−MS分析の結果を図5に示す。予想通り、野生型ATCC 47072 は、分子量550ダルトンを有する4−ケト−γ−カロテンを産生し(図5)、47072(crtO−)は、分子量536ダルトンを有するγ−カロテンを産生し、pDCQ143を含む47072(crtO−)は、分子量532ダルトンを有する新規なカロテノイドを産生した。γ−カロテンと新規なカロテノイドとの間の4ダルトンの分子量の差は、2つのさらなる不飽和化ステップによる、γ−カロテンのβ−イオノン環の芳香環化と一致する。pDCQ143を含む47072(crtO−)で産生された新規なカロテノイドは、CrtUにより触媒されたγ−カロテンからの芳香化産物であるクロロバクテンであった。
【0118】
実施例7
野生型ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)におけるクロロバクテンの産生
実施例2に記載の通り、野生型ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072に存在する、カロテノイドケトラーゼCrtO(配列番号:8)であれば、異種アロマターゼCrtUと、γ−カロテン基質に関して競合する。そこで、上述の通りに、crtU遺伝子を47072(crtO−)で発現させた。野生型ATCC 47072宿主から、かなりの量のクロロバクテンが産生できるかどうかという疑問にも取り組んだ。野生型菌株は、宿主に関する抗生物質選択を持たず、成長速度が速い。Cm遺伝子の下流に発現した、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)crtUを含むプラスミドpDCQ143を、野生型ロドコッカス(Rhodococcus)ATCC 47072菌株に移入し、40μg/mLクロラムフェニコールを含むLBプレートで形質転換体を選択した。形質転換体からカロテノイド類を抽出し、実施例2に記載の通りに分析した。HPLC分析は、産生されたカロテノイド類大部分がクロロバクテンであることを示した。存在するカロテノイド類の10%未満は、4−ケト−γ−カロテンであり、14.5分に溶離した(465nmにおける吸収最大)。サンプルを濃縮し、薄層クロマトグラフィ(TLC)用の、厚さ250μmのシリカゲル60プレート(ニュージャージー州ギブズタウンにあるEMセパレーションズ・テクノロジー(EM Separations Techonology(Gibbstown,NJ))上にスポットした。図6は、7.5%アセトン+92.5%ヘキサンのシリカTLCで分離した野生型ロドコッカス(Rhodococcus)47072、47072(crtO−)、pDCQ143を含む47072、およびpDCQ143を含む47072(crtO−)からのカロテノイド類の比較を示す。図5に示す通り、野生型における4−ケト−γ−カロテン、47072(crtO−)におけるγ−カロテン、およびcrtO−(pDCQ143)におけるクロロバクテンが、LC/MSで今までに確認されている。pDCQ143を担持する47072では、予想通り、クロロバクテンと4−ケト−γ−カロテンの混合物が産生された。混合物中のカロテノイド類の大部分がクロロバクテンであったことから、クロロバクテン産生のためのcrtU発現宿主として野生型ATCC 47072を使用することが可能なことがわかる。pDCQ143プラスミドから発現したcrtUは、ATCC 47072の染色体上にコードされた単一コピーcrtOと十分に競合した。
【図面の簡単な説明】
【0119】
図面の簡単な説明および配列の説明
【図1】CrtUによるカロテノイド類の酵素的芳香環化を示す図である。
【図2】ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC 47072でアリール−カロテノイド類を合成する方法を示す図である。
【図3】ロドコッカス(Rhodococcus)シャトルベクターに基づく、pDA71上のdxs遺伝子の下流のcrtU発現を含むpDCQ140のプラスミド地図である。
【図4】ロドコッカス(Rhodococcus)シャトルベクターに基づく、pRhBR171上のCm遺伝子の下流のcrtU発現を含むpDCQ143のプラスミド地図である。
【図5】組換えロドコッカス(Rhodococcus)菌株により合成されたカロテノイド類のLC/MS分析を説明する図である。
【図6】ロドコッカス(Rhodococcus)菌株で産生されたカロテノイド類のTLC分析を示す図である。
【配列表】



















【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1個のβ−イオノン環を有する環状カロテノイドを含んでなる宿主細胞を準備し;
(b)カロテン・デサチュラーゼをコードする遺伝子で(a)の宿主細胞を形質転換させ;そして
(c)アリールカロテノイドが産生される条件下に、(b)の形質転換宿主細胞を増殖させる
ことを含んでなるアリールカロテノイド化合物の産生方法。
【請求項2】
アリールカロテノイドが非対称である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
β−イオノン環を有する環状カロテノイドが宿主細胞により内因的に産生される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
β−イオノン環を有する環状カロテノイドが外因的に宿主細胞に提供される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
β−イオノン環を有する環状カロテノイドがβ−カロテン;γ−カロテン;α−カロテン;ゼアキサンチン;β−イソレニエラテン(isorenieratene)(φ,β−カロテン);トルレン;1’,2’−ジヒドロ−γ−カロテン;7,8−ジヒドロ−γ−カロテン;7’,8’−ジヒドロ−β−カロテン;7’,8’,7,8−テトラヒドロ−β−カロテン;β−ゼアカロテン;エキネノン;3−OH−β−カロテン;1’,2’−ジヒドロ−1’−OH−トルレン;16’−OH−トルレン;16’−オキソ−トルレン;および16’−カルボキシ−トルレンよりなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アリールカロテノイドがイソレニエラテン(φ,φ−カロテン);β−イソレニエラテン(φ,β−カロテン);クロロバクテン(φ,ψ−カロテン);φ,ε−カロテン;1,2−ジデヒドロクロロバクテン;1’,2’−ジヒドロクロロバクテン;7,8−ジヒドロ−クロロバクテン;7’,8’−ジヒドロ−イソレニエラテン;7’,8’,7,8−テトラヒドロ−イソレニエラテン;7’,8’−ジヒドロ−クロロバクテン;β,φ−カロテン−4−オン;β,φ−カロテン−3−オール;3−OH−イソレニエラテン;3,3’−ジヒドロキシ−イソレニエラテン;7’,8’−ジデヒドロレニエラテン;OH−クロロバクテン;1’,2’−ジヒドロ−1’−OH−ジデヒドロクロロバクテン;16’−OH−ジデヒドロクロロバクテン;16’−オキソ−ジデヒドロクロロバクテン;および16’−カルボキシ−ジデヒドロクロロバクテンよりなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
カロテン・デサチュラーゼをコードする遺伝子が配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするcrtU遺伝子である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
カロテン・デサチュラーゼをコードする遺伝子がジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AB070934、ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AF272737、ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AJ133724、ジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AF139916、およびジェンバンク(GenBank)(登録商標)受入番号AL109989およびAL109962、ならびに微生物ゲノムデータベースgnl|TIGR|マイコバクテリウム・アビウム(M.avium)89およびCT0323(シアノベース(CyanoBase))よりなる群から選択されるcrtU遺伝子である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
宿主細胞が細菌、酵母、糸状菌、藻類、および緑色植物よりなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
宿主細胞がアスペルギルス(Aspergillus)、トリコデルマ(Trichoderma)、サッカロミセス(Saccharomyces)、ピヒア(Pichia)、カンジダ(Candida)、ロードトルラ(Rhodotorula)、ロードスポリジウム(Rhodosporidium)、ファフィア(Phaffia)、ハンゼヌラ(Hansenula)、サルモネラ(Salmonella)、バチルス(Bacillus)、アシネトバクター(Acinetobacter)、ザイモモナス(Zymomonas)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、エリスロバクター・クロロビウム(Erythrobacter Chlorobium)、クロマチウム(Chromatium)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、サイトファーガ(Cytophaga)、ロドバクター(Rhodobacter)、ロドコッカス(Rhodococcus)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、コリネバクテリウム(Corynebacteria)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、デイノコッカス(Deinococcus)、エシェリヒア(Escherichia)、エルウィニア(Erwinia)、パントエア(Pantoea)、シュードモナス(Pseudomonas)、スフィンゴモナス(Sphingomonas)、メチロモナス(Methylomonas)、メチロバクター(Methylobacter)、メチロコッカス(Methylococcus)、メチロジーナス(Methylosinus)、メチロミクロビウム(Methylomicrobium)、メチロシスチス(Methylocystis)、アルカリゲネス(Alcaligenes)、シネコシスチス(Synechocystis)、シネココッカス(Synechococcus)、アナベナ(Anabaena)、チオバシラス(Thiobacillus)、メタノバクテリウム(Methanobacterium)、クレブシエラ(Klebsiella)、およびミクソコッカス(Myxococcus)よりなる群から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
形質転換宿主細胞がスピルリナ(Spirulina)、ヘモタコッカス(Haemotacoccus)、およびドナリエラ(Dunalliela)よりなる群から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項12】
形質転換宿主細胞がダイズ、ナタネ、ヒマワリ、ワタ、トウモロコシ、タバコ、アルファルファ、コムギ、オオムギ、オートムギ、モロコシ、コメ、シロイヌナズナ、アブラナ科の野菜、メロン、ニンジン、セロリ、パセリ、トマト、ジャガイモ、イチゴ、ラッカセイ、ブドウ、グラス・シード・クロップ(grass seed crops)、サトウダイコン、サトウキビ、豆類、エンドウ豆、ライ麦、アマ、硬葉樹、軟葉樹、およびまぐさ(forage grass)よりなる群から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項13】
(a)適当な調節配列の制御下に、配列番号:19に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするカロテン・デサチュラーゼ遺伝子を、宿主細胞に導入し;そして
(b)カロテン・デサチュラーゼ遺伝子が発現され、かつアリールカロテノイド生合成が制御される条件下に、(a)の宿主細胞を増殖させる
ことを含んでなる宿主細胞におけるアリールカロテノイド生合成の調節方法。
【請求項14】
カロテン・デサチュラーゼ遺伝子がアップレギュレートされる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
マルチコピー・プラスミドで、該カロテン・デサチュラーゼ遺伝子が過剰発現される請求項13に記載の方法。
【請求項16】
該カロテン・デサチュラーゼ遺伝子が誘導または調節プロモーターに作動可能に連結される請求項13に記載の方法。
【請求項17】
カロテン・デサチュラーゼ遺伝子がダウンレギュレートされる請求項13に記載の方法。
【請求項18】
該カロテン・デサチュラーゼ遺伝子がアンチセンス方向で発現される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該カロテン・デサチュラーゼ遺伝子がコード領域への外来DNAの挿入により中断される請求項17に記載の方法。
【請求項20】
(a)β−カロテンを含んでなる宿主細胞を準備し;
(b)カロテン・デサチュラーゼをコードする遺伝子で(a)の宿主細胞を形質転換させ;そして
(c)アリールカロテノイドが産生される条件下に、(b)の形質転換宿主細胞を増殖させる
ことを含んでなるイソレニエラテンの産生方法。
【請求項21】
(a)γ−カロテンを含んでなる宿主細胞を準備し;
(b)カロテン・デサチュラーゼをコードする遺伝子で(a)の宿主細胞を形質転換させ;そして
(c)アリールカロテノイドが産生される条件下に、(b)の形質転換宿主細胞を増殖させる
ことを含んでなるクロロバクテンの産生方法。
【請求項22】
カロテン・デサチュラーゼをコードする遺伝子がクロラムフェニコール耐性遺伝子に由来するプロモーターの制御下にある請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
宿主細胞がロドコッカス(Rhodococcus)である請求項20または21に記載の方法。
【請求項24】
β−カロテンが宿主細胞により内因的に産生される請求項20に記載の方法。
【請求項25】
β−カロテンが宿主細胞に外因的に提供される請求項20に記載の方法。
【請求項26】
γ−カロテンが宿主細胞により内因的に産生される請求項21に記載の方法。
【請求項27】
γ−カロテンが宿主細胞に外因的に提供される請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−502701(P2006−502701A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−501341(P2004−501341)
【出願日】平成15年5月6日(2003.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2003/014111
【国際公開番号】WO2003/093200
【国際公開日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】