説明

アリールアミン化合物の製造方法

【課題】アリールアミン化合物を収率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】塩基の存在下、アミン化合物による芳香族ハロゲン化物のアミノ化反応において、触媒として2座ホスフィン類とニッケル系化合物との錯体を用いるアリールアミン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界発光素子や電子写真感光体等の電子材料用素子およびその中間体として有用なアリールアミン化合物を収率良く製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アリールアミン化合物を合成する方法として、芳香族アミン化合物と芳香族ハロゲン化物とを塩基及び銅触媒存在下で反応させるUllmann−Goldberg反応が知られている。(例えば、非特許文献1参照)
しかしながらこの方法は多量の銅触媒を使用することが必要であり、これを除去することが精製操作の際の大きな負担となり、実用化への妨げとなっている。また、高い温度を要することも特徴であり、反応物の着色が著しく、副生成物も多量に生成することから、アリールアミン類の収率が一般的に低いという欠点がある。
【0003】
また、パラジウム化合物を触媒とし、さらにトリアルキルホスフィンを配位子とする方法などが報告されている。(例えば、特許文献1参照)
この条件は安価な塩化アリールが原料として使用できるという利点はあるものの、パラジウム−ホスフィン錯体の活性を維持するためには、厳密な不活性ガス雰囲気下で反応を実施する必要がある。加えて、配位子となるトリアルキルホスフィン自体が空気中で不安定であるため、その貯蔵・計量なども不活性ガス雰囲気下で実施する必要があり、実用性に乏しい。加えて高価なパラジウム化合物を用いることも実用化には適さない。
【0004】
またニッケル化合物を触媒とし、さらにビス(トリフェニルホスフィノ)フェロセン(非特許文献2参照)ならびに、1,2−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタンあるいは1,3−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパンを用いる方法が報告されている。(例えば、特許文献2参照)
しかし、これらの製造方法は反応収率が必ずしも満足し得るものではなく、改良が求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開平10−139742号公報
【特許文献2】特開2003−201268号公報
【非特許文献1】Tetrahedron、40、1433(1984)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.119、6054(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、工業的に対応が可能な実用的な条件下で反応を行うことができ、反応後の精製操作も簡便なアリールアミン化合物を製造する方法を提供するものでる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、これらの課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、塩基の存在下、アミン化合物による芳香族ハロゲン化物のアミノ化反応において、特定構造の2座ホスフィン類とニッケル系化合物との錯体を触媒として用いることによって、生産効率が良く、工業的対応が可能な製造方法を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の構成を有する。
【0009】
[1]2座ホスフィン類、ニッケル系化合物および塩基の存在下で、下記一般式(1)で表されるアミン化合物を用いて下記一般式(2)で表される芳香族ハロゲン化物をアミノ化反応させることを特徴とする、下記一般式(3)で表されるアリールアミン化合物の製造方法。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Aはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メトキシメチル基、2−メトキシエチル基、フェニル基、ベンジル基、あるいはメチル基、エチル基、プロピル基、tert−ブチル基もしくはメトキシ基を有するフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基またはフルオレニル基を表し、Bは水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、フェニル基またはベンジル基を表す。)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Cはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基またはピレニル基を表し、これらの基はさらに炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはフェノキシ基を有していても良い。Xはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素を表す。)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、A、B、Cは前記一般式(1)および(2)で定義したものと同一である。)
【0016】
[2]前記2座ホスフィン類と前記ニッケル系化合物とが、前記アミノ化反応において触媒として作用することを特徴とする、前記[1]に記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【0017】
[3]前記2座ホスフィン類と前記ニッケル系化合物とが、前記アミノ化反応において錯体を形成し、触媒として作用することを特徴とする前記[1]または[2]に記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【0018】
[4]前記2座ホスフィン類が、配位挟角95°〜115°の2座ホスフィン類であることを特徴とする、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【0019】
[5]前記2座ホスフィン類が、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)−9,9−ジメチルキサンテン、ビス[2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル、(4R,5R)−(−)−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノメチル)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、(4S,5S)−(+)−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノメチル)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソランおよび1,4−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタンから選択される1種または2種以上であることを特徴とする、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【0020】
[6]前記ニッケル系化合物が、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、ニッケルアセチルアセトナート(II)、ステアリン酸ニッケル(II)、2−エチルヘキサン酸ニッケル(II)、クエン酸ニッケル(II)、ナフテン酸ニッケル(II)、ビス(η−シクロペンタジエニル)ニッケル(II)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)およびニッケルカルボニル(0)から選択される1種または2種以上であることを特徴とする、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【0021】
[7]前記ニッケル系化合物のニッケルの価数が二価の場合に、アミノ化反応に際して還元剤をさらに添加することを特徴とする、前記[6]に記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【0022】
[8]前記一般式(2)で表される芳香族ハロゲン化物のXが、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる1種であることを特徴とする、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法を用いることにより、産業上有用なアリールアミン化合物を、収率良く、またコスト的にも有利に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において使用する芳香族ハロゲン化物は、芳香族炭化水素環に少なくとも1個のハロゲン原子が置換していればよく、特に限定するものではないが、ハロゲン化ベンゼン、ハロゲン化ナフタレン、ハロゲン化アントラセン、ハロゲン化フェナントレン、ハロゲン化ピレンなどを挙げることができる。また、本発明において、芳香族ハロゲン化物のハロゲン原子は、特に限定されないが、塩素、臭素またはヨウ素が好ましい。さらに、本発明において、使用される芳香族ハロゲン化物は、ハロゲン原子の他に置換基を芳香環に有してもよい。該置換基としてはアルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基等が挙げられる。
【0025】
本発明において使用されるアミン化合物としては、一級アミン類、二級アミン類等が挙げられる。具体例としてはメチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、o−アニシジン、m−アニシジン、p−アニシジン、1−ナフチルアミン、2−ナフチルアミン、4−メトキシ−2−メチルアニリン、4−tert−ブチルアニリン、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、ジベンジルアミン、モルフォリン、ピロリジン、ピペリジンなどが挙げられる。
【0026】
本発明に用いられる2座ホスフィン類は、配位挟角が95°〜115°である2座ホスフィン類が好ましい。ここでいう配位挟角とは、錯体化学でいうbite angleのことを示す。(野依良治他編、大学院講義有機化学I、(株)東京化学同人、1999年、p404〜405)
【0027】
該2座ホスフィン類は、本発明のアリールアミン化合物の製造方法において後述するニッケル系化合物と錯体を形成し、該錯体のニッケル原子に原料の芳香族ハロゲン化合物とアミン化合物が配位・脱離してアミン化反応を促す触媒として機能すると考えられる。
【0028】
このとき、配位挟角が115°より広い2座ホスフィン類を用いた錯体では、その挟角の広さから、各リン原子やそれらと結合した基(原子団)がニッケル原子の周囲に嵩高く近接して存在し、その結果、原料である芳香族ハロゲン化合物とアミン化合物が該錯体のニッケル原子に配位するのを物理的に阻害し、反応が進みにくいものと考えられる。
また、配位挟角が95°より狭い2座ホスフィン類を用いた錯体では、上記の物理的阻害は生じにくいが、逆に原料の芳香族ハロゲン化合物とアミン化合物のニッケル原子への配位の安定度が高くなりすぎて、これら原料がニッケル原子から脱離しにくくなり、脱離と同時に起きるアミン化反応が進行しにくくなる、と考えられる。
【0029】
配位挟角95°〜115°の2座ホスフィンとしては、具体的には、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)−9,9−ジメチルキサンテン、ビス[2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル、(4R,5R)−(−)−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノメチル)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、(4S,5S)−(+)−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノメチル)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、1,4−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタン等が例示される。
【0030】
本発明において、2座ホスフィン類の使用量は、ニッケル原子に対して、通常0.1〜4当量、好ましくは0.5〜2.5当量である。
【0031】
ニッケル系化合物としては、例えば塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、ニッケルアセチルアセトナート(II)、ステアリン酸ニッケル(II)、2−エチルヘキサン酸ニッケル(II)、クエン酸ニッケル(II)、ナフテン酸ニッケル(II)、ビス(η−シクロペンタジエニル)ニッケル(II)などの二価ニッケル系化合物、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、ニッケルカルボニル(0)などのゼロ価ニッケル系化合物が挙げられる。かかるニッケル系化合物の形態としては、無水物体でも水和物体でもよい。
【0032】
ニッケルの価数が二価のものを使用する場合は、還元剤を使用して反応に供するのが好ましい。還元剤は特に限定されないが、好ましくは水素化ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素ナトリウム、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、アルキルグリニヤール試薬、アルキルリチウム、ポリメチルヒドロシラン、フェニルシラン、トリペンチルオキシシラン、ヘキサメチルトリシロキサン、オクタメチルテトラシロキサン、ポリメチルヒドロシロキサン、金属亜鉛などが挙げられる。
【0033】
この場合、触媒を調製するにあたって、二価ニッケル系化合物、2座ホスフィン類、還元剤、および必要に応じて適当な溶媒を用いるが、加える順序は、特に限定されない。ニッケル系化合物は反応混合物に溶解していてもよいし、懸濁していてもよい。
【0034】
ニッケル系化合物はそのまま用いてもよいし、かかる反応に使用する溶媒に溶解しない物質、例えば炭素、シリカ、アルミナなどに担持して用いてもよい。かかる反応においてニッケル系化合物の使用量は芳香族ハロゲン化物に対し、通常0.0001〜1当量、好ましくは0.001〜0.1当量である。
【0035】
本発明において、反応に用いられる塩基としては、無機塩基または有機塩基より選択されたものであれば特に制限はないが、好ましくはナトリウム−メトキシド、ナトリウム−エトキシド、カリウム−メトキシド、カリウム−エトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、カリウム−tert−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。該塩基は反応溶液に直接加えてもよいが、アルカリ金属、水素化アルカリ金属または水酸化アルカリ金属などからその場で調製したものを反応溶液に加えてもよい。
【0036】
本発明において、反応に用いられる塩基の量は、反応で生成するハロゲン化水素に対し、0.5当量以上使用するのが好ましく、特に1〜3当量の範囲が好ましい。反応に用いられる塩基の量が0.5当量未満では、得られるアリールアミン類の収率が低くなる場合があり好ましくない。また、反応に用いられる塩基を大過剰に加えた場合、得られるアリールアミン類の収率に影響はないが、反応終了後の後処理操作が煩雑になり好ましくない。
【0037】
本発明において用いられる溶媒は、反応に対して不活性な溶媒であれば特に限定するものではないが、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン系極性溶媒などを挙げることができる。原料であるアミン化合物、芳香族ハロゲン化物、2座ホスフィン類、ニッケル系化合物、塩基を溶解する溶媒が好ましい。
【0038】
本発明において、反応は常圧下、加圧下いずれでも行うことができ、通常空気の条件下で実施できるが、用いる有機溶媒の引火性の問題などから、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0039】
本発明において、反応温度は20℃〜300℃の範囲であれば特に限定するものではないが、反応を均一系で進行させることができる温度が好ましい。好ましい温度範囲は50℃〜200℃であり、特に好ましい温度範囲は80℃〜150℃である。
【0040】
本発明において、反応時間は反応に用いられるアミン化合物、芳香族ハロゲン化物、2座ホスフィン類、ニッケル系化合物、塩基の種類、量および反応温度によって変わってくるが、通常数分〜72時間の範囲が好ましい。
【0041】
本発明において、反応終了後の処理は、特に限定されないが、溶媒抽出、ろ過、洗浄などの常法によって行えばよく、目的とするアリールアミン化合物を簡便に効率よく得ることができる。
【実施例1】
【0042】
以下、実施例をもって本発明を説明するが、これらは本発明をなんら制限するものではない。実施例において、「部」はすべて「質量部」を、転化率とは、反応混合物をガスクロマトグラフィーで分析しアミノ化目的物と未反応アミン化合物のガスクロマトグラフィーの面積値総和でアミノ化目的物を割り百分率に換算した値を表す。
なお、すべての実施例・比較例において、転化率の測定は以下の装置・条件で行った。ガスクロマトグラフィー;GC−14A(島津製作所製)
カラム;TC−1(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
条件;70℃で5分流した後、15℃/minの速度で昇温、250℃で55分流す。
【0043】
攪拌機、冷却管、温度計およびガス導入管を備えた50mlの3つ口フラスコに、2−エチルヘキサン酸ニッケルの25wt%トルエン溶液1.38g(1ミリモル)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン 853mg(2ミリモル)、ジイソブチルアルミニウムヒドリドの1Mトルエン溶液2.0ml(2ミリモル)、トルエン25mlを加え、アルゴン気流下油浴の温度を60〜65℃とし90分攪拌した。反応液を室温まで冷却後、クロロベンゼン5.0ml(49ミリモル)、アニリン1.86g(20ミリモル)、ナトリウム−tert−ブトキシド2.5g(26ミリモル)を加えた。油浴の温度を130℃とし、還流条件下で7時間攪拌反応させた。目的物ジフェニルアミンの転化率は99.4%であったことから、反応液を室温にまで冷却した後、トルエン50mlを加えた。トルエン層を水にて2回洗浄した。無水硫酸ナトリウム5gで脱水乾燥後、溶媒を留去して残留物3.4gを得た。残留物をエタノールより再結晶してジフェニルアミン2.6g(収率77%)を得た。
【実施例2】
【0044】
攪拌機、冷却管、温度計およびガス導入管を備えた50mlの3つ口フラスコに、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル110mg(0.4ミリモル)、ビス[2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル431mg(0.8ミリモル)、ナトリウム−tert−ブトキシド865mg(9ミリモル)、クロロベンゼン788mg(7ミリモル)、アニリン466mg(5ミリモル)、トルエン15mlを室温、アルゴン気流下で加え、油浴の温度を130℃にコントロールして還流条件下で7時間反応させた。目的物ジフェニルアミンの転化率は100%であった。
【実施例3】
【0045】
攪拌機、冷却管、温度計およびガス導入管を備えた50mlの3つ口フラスコに、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル110mg(0.4ミリモル)、4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)−9,9−ジメチルキサンテン463mg(0.8ミリモル)、ナトリウム−tert−ブトキシド865mg(9ミリモル)、クロロベンゼン788mg(7ミリモル)、アニリン466mg(5ミリモル)、トルエン15mlを室温、アルゴン気流下で加え、油浴の温度を130℃にコントロールして還流条件下で7時間反応させた。目的物ジフェニルアミンの転化率は100%であった。
【実施例4】
【0046】
攪拌機、冷却管、温度計およびガス導入管を備えた100mlの3つ口フラスコに、2−エチルヘキサン酸ニッケルの25wt%トルエン溶液4.42g(3.2ミリモル)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン2.73g(6.4ミリモル)、ジイソブチルアルミニウムヒドリドの1Mトルエン溶液6.4ml(6.4ミリモル)、トルエン50mlを加え、アルゴン気流下油浴の温度を60〜65℃とし90分攪拌した。反応液を室温まで冷却後、p−クロロトルエン9.84g(77.7ミリモル)、p−トルイジン4.28g(40ミリモル)、ナトリウム−tert−ブトキシド5.0g(52ミリモル)を加えた。油浴の温度を130℃とし、還流条件下24時間攪拌反応させた。目的物4,4’−ジメチルジフェニルアミンの転化率は97.4%であった。
【実施例5】
【0047】
攪拌機、冷却管、温度計およびガス導入管を備えた100mlの3つ口フラスコに、2−エチルヘキサン酸ニッケルの25wt%トルエン溶液2.76g(2ミリモル)、(4S,5S)−(+)−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノメチル)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン1.99g(4ミリモル)、ポリメチルヒドロシロキサン(FW1900) 1.17g(0.6ミリモル)、トルエン50mlを加え、アルゴン気流下油浴の温度を130℃とし、90分攪拌した。反応液を室温まで冷却後、ヨードベンゼン9.79g(48ミリモル)、アニリン3.73g(40ミリモル)、ナトリウム−tert−ブトキシド5.0g(52ミリモル)を加えた。油浴の温度を130℃とし、還流条件下24時間攪拌反応させた。目的物ジフェニルアミンの転化率は95.6%であった。
【実施例6】
【0048】
攪拌機、冷却管、温度計およびガス導入管を備えた100mlの4つ口フラスコに、2−エチルヘキサン酸ニッケルの25wt%トルエン溶液2.21g(1.6ミリモル)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン 1.36mg(3.2ミリモル)、ポリメチルヒドロシロキサン{分子量1900}(0.5ミリモル)、トルエン50mlを加え、アルゴン気流下油浴の温度を130℃とし、還流条件下で90分攪拌した。反応液を室温まで冷却後、クロロベンゼン10ml(98ミリモル)、アニリン3.73g(40ミリモル)、ナトリウム−tert−ブトキシド5.0g(52ミリモル)を加えた。油浴の温度を130℃とし、還流条件下で7時間攪拌反応させた。目的物ジフェニルアミンの転化率は97.3%であった。
【0049】
[比較例1]
攪拌機、冷却管、温度計およびガス導入管を備えた50mlの3つ口フラスコに、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル140mg(0.5ミリモル),1,3−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン440mg(1ミリモル)、ナトリウム−tert−ブトキシド1.25g(13ミリモル)、クロロベンゼン1.44g(12.8ミリモル)、アニリン466mg(5ミリモル)、トルエン15mlを室温、アルゴン気流下で加え、油浴の温度を130℃にコントロールして還流条件下で7時間反応させた。目的物ジフェニルアミンの転化率は55.3%であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の製造方法を用いることにより、産業上有用なアリールアミン化合物を収率良く、またコスト的にも有利に製造することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2座ホスフィン類、ニッケル系化合物および塩基の存在下で、下記一般式(1)で表されるアミン化合物を用いて下記一般式(2)で表される芳香族ハロゲン化物をアミノ化反応させることを特徴とする、下記一般式(3)で表されるアリールアミン化合物の製造方法。
【化1】


(式中、Aはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メトキシメチル基、2−メトキシエチル基、フェニル基、ベンジル基、あるいはメチル基、エチル基、プロピル基、tert−ブチル基もしくはメトキシ基を有するフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基またはフルオレニル基を表し、Bは水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、フェニル基またはベンジル基を表す。)
【化2】


(式中、Cはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基またはピレニル基を表し、これらの基はさらに炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはフェノキシ基を有していても良い。Xはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素を表す。)
【化3】


(式中、A、B、Cは前記一般式(1)および(2)で定義したものと同一である。)
【請求項2】
前記2座ホスフィン類と前記ニッケル系化合物とが、前記アミノ化反応において触媒として作用することを特徴とする、請求項1に記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記2座ホスフィン類と前記ニッケル系化合物とが、前記アミノ化反応において錯体を形成し、触媒として作用することを特徴とする請求項1または2に記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記2座ホスフィン類が、配位挟角95°〜115°の2座ホスフィン類であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記2座ホスフィン類が、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)−9,9−ジメチルキサンテン、ビス[2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル、(4R,5R)−(−)−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノメチル)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、(4S,5S)−(+)−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノメチル)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソランおよび1,4−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタンから選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記ニッケル系化合物が、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、ヨウ化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、ニッケルアセチルアセトナート(II)、ステアリン酸ニッケル(II)、2−エチルヘキサン酸ニッケル(II)、クエン酸ニッケル(II)、ナフテン酸ニッケル(II)、ビス(η−シクロペンタジエニル)ニッケル(II)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)およびニッケルカルボニル(0)から選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【請求項7】
前記ニッケル系化合物のニッケルの価数が二価の場合に、アミノ化反応に際して還元剤をさらに添加することを特徴とする、請求項6に記載のアリールアミン化合物の製造方法。
【請求項8】
前記一般式(2)で表される芳香族ハロゲン化物のXが、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる1種であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のアリールアミン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−120875(P2010−120875A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295274(P2008−295274)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】