説明

アルカリケラチナーゼおよびこれをコードするDNAならびにその使用方法

【課題】Bacillus pseudofirmus FA30−01株由来のタンパク質を、効率的に大量生産するための技術を提供する。
【解決手段】従来のケラチナーゼに比べて、より高いpH下で、且つ、高い温度でケラチナーゼ活性を有する、特定のアミノ酸配列からなる前記菌株由来のタンパク質、及び前記タンパク質をコードするDNA。さらに、該遺伝子の形質転換体を作製し、組換え菌を用いて該遺伝子を発現させた該形質転換体、該形質転換体培養液、および精製した形質転換体酵素を用いた、羽毛処理および皮革処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産業用酵素として有用なアルカリケラチナーゼ活性を有するタンパク質、該タンパク質をコードするDNA、該DNAをベクターに組み込んで得られる組換え体DNA、該組換え体DNAを保有する形質転換体に関し、さらに該形質転換体、該形質転換体培養液を用いたケラチン含有物質、特に羽毛および皮革の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界では、年間数百万トン以上の羽毛が家禽工程から副産物として大量に生じている。羽毛はほとんど純粋なケラチンで構成されており、高度のジスルフィド結合、水素結合、疎水性相互作用による架橋の構造により水に不溶性であり、動物・植物および多くの微生物プロテアーゼ等の酵素分解に抵抗性を有する。その結果、羽毛は大量に蓄積されることになり、深刻なゴミ問題となっている。
【0003】
現在、生じた羽毛は堆肥に混ぜるなどの処理を行っているが、多くは焼却処理されている。羽毛は家畜飼料に粉末として添加する以外に一部物理的または化学的に処理され、肥料・接着剤や燃料などに変換されるか、アミノ酸やペプチドの材料として使用される。しかし、細かくした羽毛を得るための現在の工程は、コストが高いことやアミノ酸を壊してしまうなどの問題点があり、安価でより付加価値の高いものへ変換する処理法が望まれている。
【0004】
微生物が生産するケラチナーゼは、通常のプロテアーゼでは分解できない強固なタンパク質を分解することができる。羽毛を分解することができるケラチナーゼも知られており、その生産菌として様々な菌類、放線菌、細菌が報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2)。しかし、ほとんどのケラチナーゼは、pH8.0付近の弱アルカリ、50℃の中温域で至適活性を有している。より高いpHで活性を有するケラチナーゼもあり、例えば、Bacillus pseudofirmus AL−89株(非特許文献3)が産生するケラチナーゼは、至適活性(pH, 温度)はpH11.0, 50℃で得られている。しかしながらこのケラチナーゼは、熱安定性を確保するのにカルシウムイオンを必要とするため、工業的な用途には向いていない。
【0005】
本発明者等は先に、養鶏場の土壌サンプルより、羽毛分解酵素産生菌Bacillus pseudofirmus FA30−01株を単離することに成功した(非特許文献4)。当該株が生産するケラチナーゼは、アゾケラチンに対し、pH6〜pH11.5、30~80℃の広い範囲で活性を示し、至適活性は60℃、至適pHは8.9~10.3である。図1に示すように、該アルカリケラチナーゼは、60℃においてもカルシウムイオンを必要としない。該アルカリケラチナーゼを含む粗抽出液と羽毛片とをpH10.5の緩衝液に入れ、20℃〜70℃、24時間で処理したところ、30℃〜60℃で羽毛片が分解されることを確認した(図2)このように、該アルカリケラチナーゼは、カルシウム非依存性であり、かつアルカリ条件下で羽毛分解活性を有し、産業上有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Biotechnol. 20: 128(3), 693−703,2007
【非特許文献2】Bioresour.Technol.100(5),1868−1871,2009.
【非特許文献3】Enzyme Microb.Technol.32:519−524,2003.
【非特許文献4】Extremophiles.10(3),229−235, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、Bacillus pseudofirmus FA30−01株自体は、精製酵素の収率が7.3%と低く、酵素精製が困難である。そこで、本発明は、該株由来のアルカリケラチナーゼを、効率的に大量生産するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために、該DNAの単離条件を鋭意検討した結果、配列番号9に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAを単離することに成功し、その塩基配列を解析した。さらに、該遺伝子の形質転換体を作製し、組換え菌を用いて該遺伝子を発現させた該形質転換体、該形質転換体培養液、および精製した形質転換体酵素を、羽毛処理および皮革処理に利用することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)配列番号9に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(2)配列番号9に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。
(3)配列番号10に記載の塩基配列を有するDNA。
(4)(2)又は(3)のDNAをベクターに組み込んで得られる、組み換え体DNA。
(5)(4)の組み換え体DNAを有する形質転換体。
又、本発明は、上記形質転換体を用いてケラチン含有物質を処理する方法も提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のタンパク質は、従来のケラチナーゼに比べて、より高いpH下で、且つ、高い温度でケラチナーゼ活性を有することから、羽毛、皮革等のケラチン含有物質の工業的処理に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のタンパク質の耐熱性と、耐熱性へのカルシウムイオン添加の影響を示すグラフである。
【図2】20℃〜70℃、24時間振とう条件下での、本発明のタンパク質の羽毛分解活性を示す写真である。
【図3】本発明のタンパク質、およびアルカリ性セリンプロテアーゼALPIの、同条件下における至適温度の測定結果を示すグラフである。
【図4】本発明のDNAの塩基配列および該DNAがコードするアミノ酸配列を併記して示す図である。
【図5】本発明のタンパク質と、Bacillus sp.AH‐101株由来ケラチナーゼとのアミノ酸相同性検索の結果を示す図である。
【図6】本発明のタンパク質と、Bacillus sp.NKS21株由来プロテアーゼとのアミノ酸相同性検索結果を示す図である。
【図7】本発明のDNAが導入された形質転換体の、スキムミルク溶解斑の有無による本発明のタンパク質の生産確認の結果を示す写真である。
【図8】本発明のDNAが導入された形質転換体の、ケラチナーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例6においてアルカリケラチナーゼ生産菌FA30‐01株培養液で処理したウシ皮革の状態を、未処理(比較例1)のものと比較して示す写真である。
【図10】実施例6においてアルカリケラチナーゼ生産菌FA30‐01株培養液で処理したウシ皮革表面の電子顕微鏡(SEM)写真と、未処理(比較例1)のもののSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を説明する。
本発明のタンパク質は、配列番号9に記載のアミノ酸配列を有する。該アミノ酸配列は、Rosenfeldらの方法(Anal. Biochem.(1992) 203: 173‐179)に従って本発明のタンパク質の内部アミノ酸配列の一部を特定後、該内部アミノ酸配列に基づくランダムプライマーを用いた塩基配列解析によって得られた塩基配列に基づき決定した。該塩基配列解析の詳細は、実施例2を参照されたい。
【0013】
該アミノ酸配列の配列相同性検索の結果、ケラチナーゼの中では、Bacillus sp. AH−101由来のアルカリケラチナーゼとの相同性が最も高く、60%であった(図5)。さらに検索範囲をプロテアーゼまで広げたところ、該アミノ酸配列は、アルカリ性セリンプロテアーゼALPIと96%の高い相同性を有することが分かった。しかし、両者の至適温度を同条件下で判定した結果、本発明のタンパク質の至適温度は30〜60℃であり、80℃で活性がなくなるのに対して、アルカリ性セリンプロテアーゼALPIの至適温度は30〜40℃であり、50℃で活性がなくなった(図3)。従って、本発明のタンパク質は、アルカリ性セリンプロテアーゼALPIとは異なるものであり、わずかなアミノ酸配列の違いが、該タンパク質の耐熱性の向上等に寄与しているものと考えられる。
【0014】
本発明のタンパク質は、アルカリ条件下でケラチンを分解する活性(以下これを単に「アルカリケラチナーゼ活性」と称することがある)を有する。該活性は、アゾケラチンを基質とする反応系において、酵素として、目的のタンパク質、該タンパク質を発現する能力を有する形質転換体、または形質転換体培養液を作用させて、アゾケラチン分解速度を測定することにより測定することができる。
【0015】
本発明のタンパク質は、本発明によってそのアミノ酸配列および該アミノ酸配列をコードする塩基配列から明らかとなったので、後述するように該タンパク質のアミノ酸配列の一部または全部をコードする塩基配列をもとにして作成したプローブを用いて、アルカリケラチナーゼ活性を有する任意の微生物からアルカリケラチナーゼをコードするDNAを単離した後、それを元に通常の遺伝子工学的手法を用いて得ることができる。また、本発明を完成するにあたってなされたように、アルカリケラチナーゼ活性を有する微生物、すなわちアルカリケラチナーゼをコードするDNAを有する微生物、例えば、好ましくはBacillus属細菌の培養物より精製することもできる。
【0016】
Bacillus属細菌としては、例えば、Bacillus pseudofirmus FA30−01株が、特に本発明のタンパク質の産生能に優れている。
【0017】
微生物の培養物から本発明のタンパク質を取得する方法としては、通常の酵素の精製方法を用いることができ、例えば、以下の方法で行うことができる。上記微生物を掘越培地などの放線菌の培養に用いられる一般的な培地で培養することで十分増殖させた後に回収し、DTT(ジチオスレイオール)等の還元剤や、PMSF(フェニルメタンスルホニルフルオリド)のようなプロテアーゼ阻害剤を加えた緩衝液中で破砕して無細胞抽出液とする。無細胞抽出液から、タンパク質の溶解度による分画(有機溶媒による沈殿や硫安などによる塩析など)や、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲル濾過、疎水、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、キレート、色素、抗体等を用いたアフィニティークロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより、精製することができる。
【0018】
例えば、DEAE−Toyopearl 650s(東ソー社製)を用いたゲル濾過クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー(生化学工業社製)を経て、電気泳動的にほぼ単一バンドまで精製することが出来る。
【0019】
このように精製されたBacillus pseudofirmus FA30−01株に由来する本発明のタンパク質は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によると約 27.5kDaのサブユニット1種からなる。
【0020】
本発明のタンパク質をコードするDNAは、例えば以下の方法により得ることができる。まず、本発明のタンパク質を上記の方法等にて精製後、N末端アミノ酸配列を解析し、さらにリジルエンドペプチターゼ、V8プロテアーゼなどの酵素により切断し、逆相液体クロマトグラフィーなどによりペプチド断片を精製後、プロテインシーケンサーによりアミノ酸配列を解析することにより、複数のアミノ酸配列を決める。
【0021】
決定されたアミノ酸配列を元にPCR用のプライマーを設計し、アルカリケラチナーゼ産生株のDNAもしくは、cDNAライブラリーを鋳型とし、該PCRプライマーを用いてPCRを行うことにより本発明のDNAの一部を得ることができる。好ましくは、イノシン(I)を含むランダムプライマー1(配列番号3:5’−CAR ACI GTI CCI TGG GGI ATI CCI TAY AT−3’)およびランダムプライマー2(配列番号4:5’−TTI CCI ARI GGI ACI GCI GTK TGR TTC AT−3’)を用いる。
【0022】
次いで、得られたDNA断片をプローブ として、アルカリケラチナーゼ産生株のDNAの制限酵素消化物をファージ、プラスミドなどに導入し、大腸菌を形質転換して得られたライブラリー やcDNAライブラリーを利用して、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーションなどにより、本発明のDNAを得ることができる。
【0023】
形質転換体作製のための手順、宿主に適合した組換えベクターの構築および宿主の培養方法は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術(例えば、Molecular Cloningに記載の方法)に準じて行うことができる。
【0024】
本発明のDNAが組み込まれるベクターとしては、タンパク質発現ベクターであれば特に限定はされないが、プラスミドベクターであることが好ましい。より好ましくは、プラスミドベクターpHY300PLK(タカラバイオ社)が挙げられる。
【0025】
本発明の形質転換体の作製に用いられる組み換え用の細胞としては、形質転換可能なグラム陽性菌であれば特に限定はされないが、Bacillus属細菌であることが好ましい。より好ましくは、プロテアーゼ活性を欠損したBacillus属細菌である。さらにより好ましくは、プロテアーゼ欠損株であるBacillus sp.MW10株(Bacillus Genetic Stock Center,http://www.bgsc.org/)が挙げられる。
【0026】
本発明のDNAを用いて、配列番号9のアミノ酸配列を有するタンパク質を生産することができる。詳細には、目的とする宿主内で遺伝子を発現するのに適した任意のベクターに該DNAを組み込んだベクターを用いて宿主を形質転換し、得られた形質転換体を培養することによって生産することができる。
【0027】
上記の形質転換の方法としては、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、コンピテントセル法等が挙げられるが、好ましくはプロトプラスト法(Molec.gen.Gene.168,111−115,1979)である。
【0028】
上記の形質転換体の培養は、微生物の資化可能な炭素源・窒素源その他の必須栄養素を含む培地に接種し、常法に従って行えばよい。
【0029】
上記の形質転換体が、所望の本発明のタンパク質を発現しているかどうかの検査方法は定法に従って行えばよく、なかでもスキムミルク溶解斑アッセイが好ましい。
【0030】
上記の形質転換体の培養物より、本発明のタンパク質を含む液を回収する方法としては、上記の形質転換体の培養上清を回収する方法、上記の形質転換体を破砕して可溶性画分を回収する方法、またはこれらを適切なカラムクロマトグラフィーで精製する方法等が挙げられ、なかでも単純に培養液の上清を回収する方法が好ましい。
【0031】
本発明は、ケラチン含有物質に、配列番号10に記載の塩基配列を有するDNAを含む形質転換体、該形質転換体処理物、及び/又はそれを含む培養液(以下、まとめて「形質転換体含有物」という)を作用させるステップを含む、ケラチン含有物質の処理方法も提供する。ここで、形質転換体処理物には、該形質転換体に、破砕、凍結乾燥等の物理的処理を施したもの、及び、該形質転換体中の本発明のタンパク質を粗製物もしくは精製物として取り出したもの等が包含される。
【0032】
ケラチン含有物質としては、角質化したケラチン含有物質、例えば毛、爪、鱗、嘴、表皮、羽毛、及び角、並びに角質化していないケラチン含有物質、例えば細胞、が包含される。これらのなかでも、毛、特に羽毛、及び、表皮、特に皮革、の処理に、本発明の形質転換体含有物が好適に使用される。
【0033】
該処理の至適温度は、30〜80℃の範囲あり、好ましくは30〜60℃の範囲である。また、至適pHは、pH6~11.5の範囲であり、好ましくはpH8.9~10.3の範囲である。処理時間は、処理すべきケラチン含有物質、処理温度等に依存して異なるが、羽毛の場合、12〜24時間で、処理することができる。
【実施例】
【0034】
[実施例1]配列相同性解析
タンパク質のアミノ酸配列の相同性は、Lipman−Pearson法(Science, 227, 1435, (1985))によって計算した。詳細には、GENETYX−WIN(Ver.7; ソフトウェア開発)のホモロジー解析(サーチホモロジー)プログラムを用いて算出した。
【0035】
その結果、配列番号9に示すアミノ酸配列は、セリンプロテアーゼとして機能する推定成熟タンパク質のアミノ酸配列を含み、またセリンプロテアーゼに高度に保存されたプロテアーゼ活性に必要な領域もしくはアミノ酸配列を保持していた。配列番号9に示すアミノ酸配列と従来公知のケラチナーゼのアミノ酸配列との相同性を調べた結果、配列番号9に示すアミノ酸配列は、Bacillus sp. AH−101由来のアルカリケラチナーゼ(Appl.Microbiol.Biotechnol.38(1), 101−108, 1992.を参照)と相同性が最も高く、その相同性は60%であった(図5)。
【0036】
カテゴリーをプロテアーゼまで拡大して比較した場合、該アミノ酸配列は、Bacillus sp. NKS21株の生産するアルカリ性セリンプロテアーゼALPとの相同性が最も高く、その相同性は96%(図6)であった。そこで、本発明のタンパク質と、該アルカリ性セリンプロテアーゼALPIとを、pH10.0、10分において比較した結果(その他の詳細な測定条件はCurr.Microbiol.30(4), 201−209, 1995.に記載)、本発明のタンパク質は該アルカリ性セリンプロテアーゼALPIに比べて、至適温度が顕著に高かった(図3)。この結果から、両者は異なるものであることが分かった。
【0037】
[実施例2] Bacillus pseudofirmus FA30−01株由来アルカリケラチナーゼ遺伝子のクローニングおよび塩基配列の決定
Bacillus pseudofirmusFA30−01株由来タンパク質のN末端アミノ酸配Gln−Thr−Val−Pro−X−Gly−Ile−Pro−Tyr−Ile−Tyr−Ser−Asp(配列番号1)および内部アミノ酸配列Met−Asn−Gln−Thr−Ala−Val−Pro−Leu−Gly−Asn−Ser−Thr(配列番号2)を、Rosenfeldらの方法(Anal.Biochem.1992) 203: 173‐179)に従って特定した。詳細には、該タンパク質を含むサンプルをSDS‐PAGEに添加して電気泳動を行った後、目的のバンド部分を含むゲル片を切り出し、洗浄した。上記のゲル片に、トリプシンを含むTris‐HCl 緩衝液(pH8.0)を添加し、35℃、20時間処理した後、上清を逆相HPLC(TSKgel ODS‐80TS (2.0×250mm, 東ソー社))にインジェクションし、プロテインシークエンサー(Procise 494 HT Protein Sequencing SystemColumn,2.1mm I.D.×22cm,Applied Biosystems社製)で解析することにより決定した。得られた内部アミノ酸配列の情報に基づき、これらの領域間を増幅させるように設計したランダムプライマー1(配列番号3:5’−CAR ACI GTI CCI TGG GGI ATI CCI TAY AT−3’)およびランダムプライマー2(配列番号4:5’−TTI CCI ARI GGI ACI GCI GTK TGR TTC AT−3’)を合成した。
【0038】
Bacillus pseudofirmus FA30−01株を0.5% グルコース(和光純薬)、0.5% 可溶性デンプン(和光純薬)、0.5% ポリペプトン(ディフコ)、0.5% 酵母エキス(ディフコ)、0.1% リン酸水素二カリウム(ナカライテスク)、0.02% 硫酸マグネシウム7水和物(和光純薬)、1.0% 炭酸ナトリウム(和光純薬)を含む培地にて、30℃、24時間、好気的に振とう培養を行い、遠心分離により菌体を集めた。得られた菌体から斎藤と三浦の方法(Biochim. Biophys.Acta, 72, 619−629, 1963)に準じ、ゲノムDNAを調製した。PCRは、プライマー1と2を用いて行った。PCR条件はゲノムDNA 0.4 μg、100 μMの各プライマーを含む反応液に対し、サーマルサイクラーを用いて、95℃で2分間熱変性後、95℃で30秒間、50℃で30秒間、72℃で1分間を1サイクルとし、30サイクル行った。得られたPCR断片をABI PRISM(登録商標)377DNAシークエンサー(Applied Biosystems Japan Ltd, Tokyo,Japan)を用いて塩基配列を決定した。
【0039】
塩基配列が決定されたDNA断片に対して、プライマー3(配列番号5:5’−TAT GTA AAT CAG GAT GAG GAG CGA C−3’)、プライマー4(配列番号6:5’−TTAA ACT CAT ATT AGC AAT ATC CAT C−3’)、プライマー5(配列番号7:5’−GCC ATG ATT TCA AGC TCT GCT CCA T−3’)、プライマー6(配列番号8:5’−GAC GTC AAT GGC TTC TCC GCA TGT T−3’)を合成した。
【0040】
続いて、上述PCRにより得られたDNA断片の上流部分を増幅するために、該株のゲノムDNAをEcoRI(TAKARA BIO INC)で消化し、LA PCR in vitro cloning キット(TAKARA BIO INC)中のEcoRIカセットに上記消化断片を連結させ、プライマー4と付属のプライマーC1にてPCRを行った。PCRの反応条件はカセットに連結されたDNA断片1.0 ng、各プライマー10pmolを含む反応液に対し、サーマルサイクラーを用いて、95℃で2分間の熱変性後、95℃で30秒間、50℃で30秒間、72℃で3分間を1サイクルとし、30サイクル行った。続いて、得られたPCR断片について、プライマー3と付属のプライマーC2を用いて再度PCRを行った。PCRの反応条件は上述の条件で行った。得られたDNA断片をABI PRISM(登録商標)377DNAシークエンサー(Applied Biosystems Japan Ltd,Tokyo,Japan)を用いて塩基配列を決定し、目的遺伝子の上流側約450bpを得た。
【0041】
下流側は該株のゲノムDNAをSau3AI(NEW ENGLAND BIOLABS,INC.)で消化し、インバースPCR法により、プライマー5と6を用いてPCRを行った。PCRの反応条件は、Sau3AI切断後、自己連結したDNA 1.0 ng、各プライマー10pmolからなる反応液に対し、サーマルサイクラーを用いて95℃で2分間の熱変性後、95℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で1分間を1サイクルとし、30サイクル行い、約300bpの増幅断片を得た。PCR条件は上流側の増幅で用いた上述の条件で行った。得られたDNA断片をABI PRISM(登録商標)377DNAシークエンサー(Applied Biosystems Japan Ltd,Tokyo,Japan)を用いて塩基配列を決定し、目的遺伝子の下流側を得た。
【0042】
上記の手法により、該タンパク質[374アミノ酸(配列番号9)]をコードする遺伝子[1125塩基長の塩基配列(配列番号10)]を決定した。図4に、両者を併記したものを示す。
【0043】
[実施例3]本発明のタンパク質の組換え生産
該タンパク質を大量に生産させるために、Bacillus pseudofirmus FA30−01株由来のアルカリケラチナーゼ遺伝子のプロモーター領域前、ターミネーター後で、それぞれプライマー7(配列番号11:5’−GGA ATT CCG ATA GGA CTT GGC TTA ACG ATC AGT C−3’)、プライマー8(配列番号12:5’−CGG GAT CCC GTT TCA TTG AAA TTA AGC GTT−3’)を合成し、PCRでアルカリケラチナーゼ遺伝子を増幅した。
【0044】
PCRの反応条件は、セルフライゲーションしたDNA 1.0 ng、各プライマー 10pmolを含む反応液に対し、サーマルサイクラーを用いて95℃で2分間の熱変性後、95℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で2分間を1サイクルとし、30サイクル行い、約1.6 kbpの増幅断片を得た。PCR産物を精製し、BamHI、XbaIで切断した後、同様の酵素で処理したpHY300PLKへ連結し、プロテアーゼ欠損株Bacillus sp. MW10株(Bacillus Genetic Stock Center, http://www.bgsc.org/)にプロトプラスト法(Molec.gen.Gene.168,111−115,1979)で形質転換した。
【0045】
[実施例4]スキムミルク溶解斑アッセイ
スキムミルク含有アルカリLB培地(0.05%炭酸ナトリウム並びに12.5μg/mlのテトラサイクリンを含む)に形質転換体を塗布し、スキムミルク溶解斑の有無からプロテアーゼ遺伝子が導入された形質転換体を選抜した。その結果、37℃で2日間培養後、形質転換体で溶解斑を確認できた(図7)。
【0046】
[実施例5]本発明のタンパク質のケラチナーゼ活性の測定
該タンパク質のケラチナーゼ活性の測定は、X.linらの方法(Appl.Environ.Microbiol.58(10), 3271−3275,1992.)に準じて行った。アゾケラチンはTomarelliらの方法(J.Lab.Clin.Med,34,428−433,1949.)に従って調製した。調製アゾケラチン5mgを0.8mlの緩衝液(50mM グリシン−NaCl−NaOH, pH10.5)に懸濁し、0.52mg/mlの該タンパク質を含む培養液上清を0.2ml加え混合し、50℃、160rpmで15分間振とう処理した。振とう機はBiochaker MBR−024(タイテック社製)を使用した。反応後、10%TCA溶液(ナカライテスク)を0.2ml加え、反応を停止し、15000Gで15分間遠心し、上清の吸光度(450nm)を測定した。対照実験として基質と酵素を混合した後、すぐに10%TCAを0.2ml加えた実験群を行った。酵素活性の1Uは反応15分間あたり、450nmでの吸光度を0.01上昇させるのに必要な酵素量と定義した。形質転換体の培養上清を測定したところ、1.32U/mgのケラチナーゼ活性を示した(図8)。
【0047】
[実施例6]Bacillus pseudofirmusFA30‐01株を用いた皮革の処理方法
市販のウシ皮片を、0.5cm×1.5cmに切断後、オートクレーブ滅菌(121℃、15分)して使用した。
【0048】
シリコ栓をした24φガラス試験管に、10mlの掘越改変培地(グルコース0.5%(和光純薬)、デンプン0.5%(和光純薬)、酵母エキス0.5%(Difco社)、ポリペプトン0.5%(Difco社)、KHPO(和光純薬)0.1%、MgSO・7HO(和光純薬)0.05%、NaCO3(和光純薬)1.0%、pH10.5を入れ、該株を一晩培養した。
【0049】
ウシ皮片を上述の培地10mlに入れた後、該株を一晩培養した培養液を、培地に対し0.2体積%で接種し、30℃、160rpmの条件下で4日間振とう培養を行った。その後、培養液中の皮を取り出した。
【0050】
[比較例1]
該株を一晩培養した培養液を添加しない以外は、実施例6と同様に皮革処理を行った。
【0051】
図9および図10に、処理後の皮革の外観を示す。該株を接種した実験群(実施例6)では、4日後牛皮がほぼ分解され、牛皮上の毛のみが残っている状態であったのに対し、対照群(比較例1)では目立った変化はなかった。さらにまた、pH10.5に調製した溶液中の皮で上記と同様の実験を行い、皮の変化を確認したところ、1日の処理で皮表面上の毛がピンセットで簡単に抜くことができ、ケラチナーゼの効果が確認できた。SEM観察では、酵素処理の毛の表面部分の分解も確認できた(図10)。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のタンパク質及び組み換え体DNAを有する形質転換体は、羽毛の分解、皮のなめし等、ケラチン物質の処理に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号9に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
【請求項2】
配列番号9に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項3】
配列番号10に記載の塩基配列を有するDNA。
【請求項4】
請求項2または3に記載のDNAをベクターに組み込んで得られる、組み換え体DNA。
【請求項5】
請求項4に記載の組み換え体DNAを有する形質転換体。
【請求項6】
ケラチン含有物質に、配列番号10に記載の塩基配列を有するDNAを含む形質転換体、該形質転換体処理物、及び/又はそれを含む培養液を作用させるステップを含む、ケラチン含有物質の処理方法。
【請求項7】
前記ステップにおける温度が30〜60℃の範囲である、請求項6に記載のケラチン物質の処理方法。
【請求項8】
前記ステップにおけるpHが6〜11.5の範囲である、請求項6に記載のケラチン物質の処理方法。
【請求項9】
前記ケラチン含有物質が羽毛である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項10】
前記ケラチン含有物質が皮革である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の処理方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−155932(P2011−155932A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21599(P2010−21599)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】