説明

アルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液、及びその製造方法

【課題】粒径分布に優れ、特に短軸径の変動係数が小さい粒子であって、その含有率が高いアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】短軸径が40〜80nm、長軸径が160〜300nmであるアルカリ土類金属炭酸塩粒子が全含有アルカリ土類金属炭酸塩粒子の90%以上であり、且つ全含有アルカリ土類金属炭酸塩粒子の短軸径の変動係数が5%以上、30%未満であることを特徴とするアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短軸径の変動係数が小さく粒度分布が改良された針状または柱状の形態を有するアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムや炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩は、紙、ゴム、樹脂、プラスチック、塗料、化粧品、医薬品等の添加剤として、また誘電セラミック材料や高温超伝導体材料の原材料、光学材料等として広範囲の工業分野で利用されている。
【0003】
アルカリ土類金属炭酸塩は、その物理的な性状によって発現する機能や特性が異なることが知られており、例えば、低光沢でウェットインキ着肉性等に優れた塗料の製造には紡錘状炭酸カルシウムが適し、高光沢で不透明性、インキ着肉性及びインキセット性に優れた塗料の製造には針状炭酸カルシウムが適するとされている。また、チタン酸ストロンチウムの製造原料に炭酸ストロンチウムを用いる場合に、平均粒径0.8μm以下の粒子を用いると電気特性が改善されることが報告されている。更に透明な樹脂やプラスチック材料に適用する場合には、透明性を損なわないためにμmオーダー以下の小さな粒子が求められる。
【0004】
このように、目的に応じて粒子形状や粒径を選択する必要があるため、形態が制御されたアルカリ土類金属炭酸塩粒子の工業的な利用価値は高い。それ故、特に工業的用途が広い針状や柱状等の異方性形状を有する粒子の形態を精密に制御し、且つ目的とする機能を十分に発現させるためにより均一な粒子、即ち粒径分布に優れた粒子を製造できる技術が求められている。
【0005】
炭酸塩粒子の形態、及び粒度分布を精密に制御することを目的とした技術として、金属イオン源と炭酸源を液中で反応させ、反応液中の反応温度及びpHをある範囲内で行う技術(例えば、特許文献1参照。)、またポリアルキレンオキシド系化合物及びポリビニル系化合物のいずれかを凝集防止剤として用いる技術(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
【0006】
しかし、いずれの方法においても粒度分布の均一性が十分でなく、更に短軸径の変動係数も大きく、針状や柱状等の異方性形状を有する粒子の形態を精密に制御し、且つ目的とする機能を十分に発現させるために、より均一な粒子、即ち粒径分布に優れた粒子を製造できる技術が依然求められている。
【特許文献1】特開2006−193406号公報
【特許文献2】特開2006−176367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、針状や柱状等の異方性形状を有する粒子の形態を精密に制御し、且つ目的とする機能を十分に発現させるためにより均一な粒子、即ち粒径分布に優れ、特に短軸径の変動係数が小さく、これら粒子の含有率の高いアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、ポリビニルアセトアミド、ポリエチレンイミンなど一部の高分子が形態制御効果が高く、粒子製造過程において核形成工程と粒子成長工程の2工程を行い、粒子形成過程をダブルジェット法とすることで、高度に均一で、即ち粒径分布に優れ、短軸径の変動係数が小さく、且つ高アスペクト比である針状粒子、及びその含有比率が高い分散液を製造できることを見出した。
【0009】
本発明における前記課題の達成手段は、以下の通りである。
【0010】
1.短軸径が40〜80nm、長軸径が160〜300nmであるアルカリ土類金属炭酸塩粒子が全含有アルカリ土類金属炭酸塩粒子の90%以上であり、且つ全含有アルカリ土類金属炭酸塩粒子の短軸径の変動係数が5%以上、30%未満であることを特徴とするアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液。
【0011】
2.前記短軸径が40〜60nm、前記全含有アルカリ土類金属炭酸塩粒子の短軸径の変動係数が5%以上、25%未満であることを特徴とする前記1に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液。
【0012】
3.前記1または2に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法であって、凝集防止剤としてポリビニルアセトアミド、ポリエチレンイミンの少なくともいずれかを添加することを特徴とするアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法。
【0013】
4.前記1または2に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法であって、凝集防止剤としてセルロース系高分子を添加することを特徴とするアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法。
【0014】
5.前記セルロース系高分子が中性高分子であることを特徴とする前記4に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法。
【0015】
6.製造工程が核形成工程と粒子成長工程を含むことを特徴とする前記3〜5のいずれか1項に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法。
【0016】
7.前記核形成工程がアルカリ土類金属塩溶液と炭酸塩溶液とをダブルジェット法で反応容器内の液に添加し、反応させて行われることを特徴とする前記6に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、粒径分布に優れ、特に短軸径の変動係数が小さい粒子であって、その含有率が高いアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液、及びその製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態及びその詳細について説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【0019】
本発明は長軸及び短軸を有し、短軸径と長軸径の比(アスペクト比)が2以上の針状粒子、及びその含有比率の高い分散液に関するものである。本発明において、アスペクト比とは針状または柱状の形態を有する粒子の長さ(長軸径)と直径(短軸径)との比(長軸径/短軸径)である。
【0020】
本発明に係るアルカリ土類金属炭酸塩粒子は、製品性能上必要なスペックにより決められるべきものだが、より針状であることが求められることが多い。
【0021】
粒子形状は透過型電子顕微鏡による撮影により確認することができる。長軸径及び短軸径の変動係数は、透過型電子顕微鏡で1万倍から7万倍に拡大して撮影した写真から粒子を無作為に300個以上抽出し短軸径、長軸径の測定結果から下式によって算出される値である。
【0022】
径の変動係数[%]=(径の標準偏差/平均粒径)×100
また、本発明のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液とは、アルカリ土類金属炭酸塩粒子を1質量%以上含有する液を指し、アルカリ土類金属の含有比率は透過型電子顕微鏡で撮影した写真から粒子を無作為に300個以上抽出し、観察、集計し、記述範囲内に入っている粒子の個数を全粒子の個数で割った値に100をかけることにより求めることができる。
【0023】
請求項1に記載のアルカリ土類金属炭酸塩分散液中の短軸径40〜80nm、長軸径160〜300nmの範囲内にあるアルカリ土類金属炭酸塩の含有比率は、好ましくは92%以上、更に好ましくは95%以上である。また、請求項2に記載の範囲内にあるアルカリ土類金属炭酸塩の含有比率についても、好ましくは92%以上、更に好ましくは95%以上である。
【0024】
本発明のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液を製造する際の凝集防止剤として用いられる剤としては、作製する粒子の短軸径、長軸径により異なるが、本発明の場合、平均分子量0.5万から100万であるポリマーが好ましい。より好ましくは平均分子量1万から60万である。
【0025】
ポリマー種については一概に好ましい官能基を類型化できないが、例えば、窒素を含有したものは好ましいものが多い。ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミドなどのアクリルアミド系高分子、ポリエチレンイミンなどのイミン系高分子、イミダゾール系高分子、ポリアセトアミドなどが挙げられる。これらの中では、ポリエチレンイミン、ポリアセトアミド系が特に好ましい。理由は明らかでないが、分子構造から炭酸塩粒子(特に表面金属イオン)とインタラクションしやすい構造であること、粒子に吸着した後、液中で溶媒和しやすい構造であること等の条件を備えているものと考える。エチレンイミン、ビニルアセトアミドを含有する共重合性ポリマーも好ましく用いられる。
【0026】
また、ポリエチレンイミン、ポリビニルアセトアミド及びそのいずれかを含有した共重合性ポリマーを複数種組み合わせて使用してもよいし、ポリエチレンイミン、ポリビニルアセトアミド、及びそのいずれかを含有した共重合性ポリマーと他ポリマーを組み合わせて使用することもできる。
【0027】
組み合わせるポリマーとしては特に制限はない。ポリマー種は使用する分散媒に溶媒和するものを選択することができる。水、及びエタノールなど親水性の高い分散媒を使用する場合、水溶性ポリマーが好ましく用いられる。水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリビニル系のポリマー、ポリアクリル酸などの酸性基を含有するポリマー、ポリアクリルアミドなどの塩基性基を含有するポリマー、及びそれらの共重合体、セルロース系高分子などが挙げられる。
【0028】
ポリマー種としてセルロース系高分子を用いることも好ましい。この中で、ヒドロキシエチルセルロースなどの中性高分子を用いることはより好ましい。酸性ポリマーの場合、アルカリ土類金属イオンと反応する場合があるため、添加量を少なくするなどの制約が出てくる。
【0029】
セルロース系高分子を複数種、あるいはセルロース系高分子と他ポリマーを組み合わせて使用することもできる。
【0030】
組み合わせるポリマーとしては特に制限はない。ポリマー種は使用する分散媒に溶媒和するものを選択することができる。水、及びエタノールなど親水性の高い分散媒を使用する場合、水溶性ポリマーが好ましく用いられる。水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリビニル系のポリマー、ポリアクリル酸などの酸性基を含有するポリマー、ポリアクリルアミドなどの塩基性基を含有するポリマー、及びそれらの共重合体、またポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0031】
ポリマーの添加量に規定はない。粒子への吸着量はその表面積により規定されるべきものだが、吸着平衡分などがあり、粒子表面への吸着分より多い量を添加するのが好ましい。好ましくは粒子質量に対して1質量%以上で1000質量%未満の範囲、より好ましくは10質量%以上で500質量%未満である。
【0032】
次に粒子製造工程について説明する。
【0033】
本発明におけるアルカリ土類金属炭酸塩は、アルカリ土類金属イオンと炭酸イオンを反応させて形成することができる。アルカリ土類金属イオン源はCa2+、Sr2+、Ba2+、Ra2+であり、Ca2+の場合の具体的な化合物としてはCaCl2、Ca(NO32、CaSO4、Ca(OH)2、Ca(CH3COO)2、及びそれらの水和物等を挙げることができる。Sr2+、Ba2+、Ra2+の場合の具体的な化合物も同様である。炭酸イオン源として用いることができる化合物としては、Na2CO3、NaHCO3、K2CO3、KHCO3、(NH42NO3、NH4HCO3、(NH22CO等が挙げられる。
【0034】
本発明においては、アルカリ土類金属イオン源と炭酸イオン源のいずれも溶媒に対する溶解度が高く、濃度の高い溶液を調製できる化合物がより好適である。
【0035】
アルカリ土類金属の炭酸塩を製造する方法としては、アルカリ土類金属塩の溶液に炭酸ガスを導入して反応させる方法(「液−気」法)や、アルカリ土類金属塩の溶液と炭酸イオンを含む溶液を反応させる方法(「液−液」法)が知られている。本発明ではいずれの方法を用いることができるが、いずれの方法においても、アルカリ土類金属イオンと炭酸イオンとが反応するとアルカリ土類金属炭酸塩の析出が直ちに生じる。
【0036】
反応により生じたアルカリ土類金属炭酸塩微粒子は、核粒子の生成直後から粒子成長を始めるため早く発生した核粒子ほど成長しやすく、後から発生した核粒子ほど成長しにくい。この結果、核形成工程中の粒子成長は核粒子の粒径分布を増大させ、粒子成長終了後の粒径分布の劣化を招くため好ましくない。
【0037】
核形成工程中に起こる核粒子の粒径分布の広がりには、核形成時間と核形成温度に大きく依存する。即ち、核形成工程の時間が長いと早く発生した核粒子の成長によって粒径分布が劣化し、また核形成工程の温度が高いと核粒子の成長速度が増大し、早く発生した核粒子と後から発生した核粒子との粒径差が増幅される。このため、核形成工程と粒子成長工程を明確に分けることが好ましい。
【0038】
本発明において、粒子製造工程における核形成工程とは、核粒子を発生させるためのプロセスであり、粒子成長工程とは、新たな核粒子の発生を殆ど伴わずに粒子を成長させるプロセスを意味する。
【0039】
核形成工程では粒子数は増加し、粒子成長工程では粒子数は実質的に増加しない(オストワルド熟成を施すと粒子数は減少する場合もある)。よって、両者は新たな核の発生の有無によって区別できる。ここで粒子数が実質的に増加しないとは、粒子成長工程終了時の粒子数が粒子成長工程開始時(熟成工程を含む場合には熟成工程終了時)の125%以内であることを意味する。
【0040】
本発明では核形成工程の時間を任意に設定できるが、粒径分布の劣化を防止するために1800秒以内で終了することが好ましく、300秒以内がより好ましく、120秒以内が更に好ましい。また、同様に核形成工程の温度も任意に設定できるが、核形成工程中の核粒子の成長を抑制するためなるべく低い温度で行うことが好ましく、具体的には−10〜40℃の間で行うことが好ましい。更に低い温度では反応容器内の液が凍結したり、温度制御のために特殊な設備が必要となり生産コストが増大する。
【0041】
核形成の方法としてアルカリ土類金属塩の溶液中に炭酸ガスのみを導入する、所謂炭酸ガス法と、アルカリ土類金属塩の溶液と炭酸イオンを含む溶液を同時に添加するダブルジェット法、アルカリ土類金属塩の溶液と炭酸イオンを含む溶液のいずれかを反応容器内に入れておき、他方を添加するシングルジェット法などが選択できるが、本発明における核形成工程には、核発生を制御し易いダブルジェット法を適用することが好ましい。
【0042】
ダブルジェット法では、撹拌混合装置内の過飽和度を高めて単位時間当たりの核発生数を増大することができるため、核形成工程の時間を短縮し核形成工程における分布劣化を改善することが可能となる。
【0043】
ダブルジェット法とは、2種類の溶液を必要に応じて適当な送液装置等を用いて各々反応容器内の液の液面上、または液中に滴下または噴射、あるいは注入することにより該容器内の液中で反応させる方法であり、本発明においては、アルカリ土類金属塩溶液及び炭酸塩溶液を添加液として用いることにより実施できる。
【0044】
ダブルジェット法では、送液装置等で添加液の添加速度を変更することによって、モル添加速度を任意に設定したり変更したりすることができるが、モル添加速度が小さい場合には、単位時間当たりに形成される核粒子数が減少するため生産効率が低下し、添加時間を長くして形成される核粒子数を増やすと、生成した核の成長が並行して生じるため粒径分布が劣化する。
【0045】
従って、本発明では前記核形成工程におけるモル添加速度を、該工程で形成されるアルカリ土類金属炭酸塩1モル当たり0.1モル/min以上に設定することが好ましい。更に0.2〜4モル/minが好ましく、0.5〜2モル/minがより好ましい。モル添加速度が4モル/minより大きい場合には、反応容器内の撹拌効率が相対的に低下し、不均一な核が形成されたり、局所的な核密度の増加による凝集発生の懸念が増大する。
【0046】
本発明における粒子成長工程では、新たな結晶核が発生しないようにアルカリ土類金属イオンと炭酸イオンを反応させることが重要である。そのためには、粒子成長工程をダブルジェット法で実施する場合には、アルカリ土類金属塩の溶液と炭酸イオンを含む溶液の添加速度の調整が必要であり、炭酸ガス法で実施する場合には、炭酸ガス導入速度の調整が必要である。
【0047】
なお、本発明では、核形成工程終了後に必要に応じて反応容器内の液温を核形成工程より高く保持する(熟成工程)こともできる。通常、熟成工程では、粒径の小さな粒子が溶解し粒径の大きな粒子が成長する現象(オストワルド熟成)が起こる。従って、本発明においては熟成工程を粒子成長工程の一部と見なすことができる。
【0048】
粒子成長工程は、粒子の成長速度を高めるために核形成工程と同等以上の温度で行うことが好ましく、具体的には0〜60℃の間で行うことが好ましい。0℃より低い温度では、十分な粒子成長速度が得られないため粒子成長工程に長時間を要し、60℃以上では、針状粒子または柱状粒子の直径が大きくなり、アスペクト比を高めることが難しくなる。
【0049】
本発明では、核形成工程終了後及び/または粒子成長工程終了後に分散操作を行うことができる。該分散操作は核形成工程終了後及び/または粒子成長工程で発生した凝集粒子を解膠することを目的として実施され、少なくとも核形成工程終了後から該粒子成長工程開始までの間に行われることが好ましく、核形成工程終了後から粒子成長工程開始までの間と粒子成長工程終了後の両方で実施されることがより好ましい。更に、必要に応じて核形成工程や粒子成長工程の途中で実施することもできる。
【0050】
分散機としてはいずれの方式の機械を用いることができるが、例えば、メディアミル分散機、超音波分散機、コロイドミル、高速撹拌型分散機などが挙げられる。
【0051】
分散操作中の粒子の成長、凝集を抑えるために、冷却機構を設け液温を上げないことが重要である。液温としては好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下である。
【0052】
本発明では反応容器内の液がアルコールを含んでもよい。反応容器内の液にアルコールを添加するのは核形成工程、粒子成長工程のいずれの時点でもよい。用いるアルコールは水と任意の比率で混じり合うことができるものであり、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコールなどが挙げられる。
【0053】
本発明では、粒子凝集性を改良するために核形成工程、粒子成長工程の少なくとも一部を、反応容器内の液がアルカリ土類金属イオン過剰となる条件下で行うことができる。反応容器内の液がアルカリ土類金属イオン過剰となるように操作する方法に特に制限はないが、ダブルジェット法で添加されるアルカリ土類金属塩溶液とは別に必要量のアルカリ土類金属塩またはその溶液を反応容器内に添加する方法や、ダブルジェット法で添加されるアルカリ土類金属塩溶液と炭酸塩溶液の流量のバランスで調整する方法が好ましい。
【0054】
アルカリ土類金属イオンの過剰量としては、反応容器内の液に溶解しているアルカリ土類金属イオンのモル濃度として0.001〜0.5モル/Lが好ましく、0.01〜0.5モル/Lがより好ましく、0.01〜0.2モル/Lが更に好ましい。この範囲をはずれると凝集発生の懸念が増大する。
【0055】
本発明においては、反応容器内の液のpHを任意に設定することができるが、粒子の凝集抑制及び針状粒子または柱状粒子を形成するための異方成長性の観点から、核形成工程及び/または粒子成長工程の少なくとも一部をpH9以上の条件下で行うことが好ましい。更にはpH値9〜13.5が好ましく、pH値10〜13が特に好ましい。これより高いpH値にしても凝集抑制や異方成長性に対する効果は変わらない。
【0056】
本発明では、核形成工程及び/または粒子成長工程の少なくとも一部を形態制御剤の存在下で実施することができる。形態制御剤に用いることができる化合物としては、アミン類を挙げることができ、一級アミン類やアミノアルコール類などを用いてもよい。
【0057】
本発明では、粒子成長工程の一部で炭酸ガスを炭酸源として用いることもできる。この場合、粒子凝集の懸念を回避するために、熟成工程終了後または粒子成長工程の途中段階から適用することが好ましい。具体的な態様として、核形成工程及び熟成工程終了後の反応液にアルカリ土類金属の水酸化物を添加してスラリーを形成し、該スラリー中に炭酸ガスを導入して核粒子を成長させる方法を挙げることができる。この方法ではアルカリ土類金属塩のスラリーを用いるため、実効的に高濃度の溶液を用いることができ、生産性の向上に有効である。
【0058】
本発明においては、粒子成長工程終了後に限外濾過膜を用いて凝集防止剤を除去することができる。即ち、形成した粒子の粒径と凝集防止剤の分子量を考慮して適切な濾別特性を有する限外濾過膜を選択し、粒子成長工程終了後に限外濾過膜を用いて濃縮・希釈操作を行うことにより、凝集防止剤を除去することが可能である。
【0059】
また、凝集防止剤を除去すると同時に脱塩・水洗処理を施したり、種々の目的から適当な溶媒への置換処理を行うこともできる。例えば、アルカリ土類金属炭酸塩粒子を分散液として、保存する際に溶媒を粒子成長工程の溶媒よりも溶解度の低い溶媒に置換することによって、より好ましくはアルコール等のアルカリ土類金属炭酸塩粒子の貧溶媒に置換することによって、保存時のオストワルド熟成による粒径や形状の変化を防止することができる。
【0060】
また、製造したアルカリ土類金属炭酸塩粒子をゴムやプラスチック、塗料等の填料または顔料として使用する場合に、乾燥工程を経ることなく適切な溶媒に対する分散液を得ることができるため、乾燥後の固形物を粉砕する工程を省略できるだけでなく、粒子を乾燥させることによって発生する乾固凝集を回避でき、一次粒子を配合した場合に得られる効果を有効に発現させることができる。
【0061】
本発明に用いることができる限外濾過膜としては、アルカリ土類金属炭酸塩粒子を濾別できる分画分子量を有し、溶媒に対する耐性を有するものである限り特に制限はない。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明の効果を具体的に説明する。以下の実施態様における各種条件は、本発明の特徴や趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができ、本発明の範囲は以下の実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0063】
比較例1
容量4Lのステンレス製の反応容器に、塩化ストロンチウム0.03mol/Lの水溶液500ml(溶液A1)を投入し、続いて水酸化ナトリウムを用いてpH=12に調整した。また、塩化ストロンチウム6水和物から調製した塩化ストロンチウム1.0mol/L水溶液40ml(溶液B1)及び80ml(溶液B2)と、炭酸ナトリウムから調製した1.0mol/L水溶液40ml(溶液C1)及び80ml(溶液C2)を準備した。
【0064】
核形成工程として、反応容器内の溶液A1を5℃に保持し800rpmで撹拌しながら、5℃に冷却した各々溶液B1及び溶液C1を準備した。その後、十分に撹拌した後、溶液B1及びC1をダブルジェット法を用いて等しい添加速度で溶液A1の液中に1分間で添加した。
【0065】
添加後の液を超音波分散機(SMI社 UH−150)を用いて超音波分散を行った。粒子成長工程として、超音波分散後の液を5℃に保持し800rpmで撹拌しながら、5℃に冷却した各々溶液B2及びC2を準備した。その後、十分に撹拌した後、溶液B2及びC2をダブルジェット法を用いて等しい添加速度で溶液A1の液中に80分間で添加した。
【0066】
比較例2
比較例1において、凝集防止剤として溶液A1にポリビニルアルコール(PVA−217、重合度:1700、クラレ製)を固形分として20g投入した他は、比較例1と同様の方法で粒子形成を行った。
【0067】
実施例1
比較例1において、凝集防止剤として溶液A1にポリビニルアセトアミド(分子量:23万、昭和電工製)を固形分として20g投入した他は、比較例1と同様の方法で粒子形成を行った。
【0068】
実施例2
比較例1において、凝集防止剤として溶液A1にヒドロキシエチルセルロース(分子量:12万、ダイセル化学製)を固形分として20g投入した他は、比較例1と同様の方法で粒子形成を行った。
【0069】
実施例3
比較例1において、凝集防止剤として溶液A1にポリエチレンイミン(分子量:7万、日本触媒製)を固形分として20g投入した他は、比較例1と同様の方法で粒子形成を行った。
【0070】
実施例4
実施例3において、粒子形成工程をシングルジェット法に変更して粒子形成を行った。
【0071】
容量4Lのステンレス製の反応容器に、塩化ストロンチウム0.03mol/Lの水溶液500ml(溶液A1)を投入した。凝集防止剤として溶液A1にポリエチレンイミン(分子量:7万、日本触媒製)を固形分として20g投入した。また、塩化ストロンチウム6水和物から調製した塩化ストロンチウム1.0mol/L水溶液40ml(溶液B1)及び80ml(溶液B2)と、炭酸ナトリウムから調製した1.0mol/L水溶液40ml(溶液C1)及び80ml(溶液C2)を準備した。
【0072】
核形成工程として、反応容器内の溶液A1を5℃に保持し800rpmで撹拌しながら、5℃に冷却した各々溶液B1及びC1を準備した。その後、十分に撹拌した後、溶液B1を予め反応容器に投入し十分撹拌した後、溶液C1をシングルジェット法を用いて溶液A1の液中に1分間で添加した。
【0073】
添加後の液を超音波分散機(SMI社 UH−150)を用いて超音波分散を行った。粒子成長工程として、超音波分散後の液を5℃に保持し800rpmで撹拌しながら、5℃に冷却した各々溶液B2及びC2を準備した。その後、十分に撹拌した後、溶液B2を反応容器に投入し、撹拌後、溶液C2をシングルジェット法を用いて等しい添加速度で溶液A1の液中に80分間で添加した。
【0074】
実施例5
実施例3において、予め反応容器内に投入する溶液(A1)を塩化ストロンチウム0.03mol/Lの水溶液500mlから塩化ストロンチウム0.03mol/Lの水−EtOH(質量比9:1)混合液に変更した以外は、実施例3と同様の方法で粒子形成を行った。
【0075】
〔評価〕
作製したアルカリ土類金属炭酸塩粒子の評価は、走査型電子顕微鏡による撮影により確認した。長軸径及び短軸径は、透過型電子顕微鏡で5万倍に拡大して撮影した写真から粒子を無作為に300個以上抽出し、写真からの実測定を行い、この結果から、表1中に示す各粒子の存在割合、短軸径の変動係数を算出した。評価結果を表1に示す。
【0076】
表中、DJはダブルジェット法を、SJはシングルジェット法を示す。表1中、範囲1内の粒子割合(%)とは全粒子に対する短軸径40〜80nm、長軸径160〜300nmの範囲内にある粒子の存在割合(%)を表し、範囲2内の粒子割合(%)とは全粒子に対する短軸径40〜60nm、長軸径180〜300nmの範囲内にある粒子の存在割合(%)を表す。
【0077】
【表1】

【0078】
PVA:ポリビニルアルコール(PVA−217、重合度:1700、クラレ製)
PVAA:ポリビニルアセトアミド(分子量:23万、昭和電工製)
HEC:ヒドロキシエチルセルロース(分子量:12万、ダイセル化学製)
PEI:ポリエチレンイミン(分子量:7万、日本触媒製)。
【0079】
表1が示すように、本発明により均一な粒子、即ち粒径分布に優れた粒子、特に短軸径の変動係数が小さい粒子が製造できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短軸径が40〜80nm、長軸径が160〜300nmであるアルカリ土類金属炭酸塩粒子が全含有アルカリ土類金属炭酸塩粒子の90%以上であり、且つ全含有アルカリ土類金属炭酸塩粒子の短軸径の変動係数が5%以上、30%未満であることを特徴とするアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液。
【請求項2】
前記短軸径が40〜60nm、前記全含有アルカリ土類金属炭酸塩粒子の短軸径の変動係数が5%以上、25%未満であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法であって、凝集防止剤としてポリビニルアセトアミド、ポリエチレンイミンの少なくともいずれかを添加することを特徴とするアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法であって、凝集防止剤としてセルロース系高分子を添加することを特徴とするアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記セルロース系高分子が中性高分子であることを特徴とする請求項4に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
製造工程が核形成工程と粒子成長工程を含むことを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
前記核形成工程がアルカリ土類金属塩溶液と炭酸塩溶液とをダブルジェット法で反応容器内の液に添加し、反応させて行われることを特徴とする請求項6に記載のアルカリ土類金属炭酸塩粒子分散液の製造方法。

【公開番号】特開2008−169087(P2008−169087A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4405(P2007−4405)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】