説明

アルカリ易溶出性ポリエステル

【課題】
真比重5以上の重金属化合物を用いることなく環境に優しく、かつ色調および耐熱性が良好なポリエステルであり、該ポリエステルを用いると、製糸時の口金汚れが少なく、曳糸性に代表される製糸操業性が優れるアルカリ易溶出性ポリエステルを提供する。
【解決手段】
全酸成分に対し金属ホスホネート基を含有するイソフタル酸成分が4.5〜6.0モル%含まれるポリエステルであって、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3〜10ppm含有し、リン化合物としてホスホナイトまたはホスファイトをリン元素換算で5〜15ppm含有し、真比重5以上の元素を実質的に含まないポリエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のポリエステルは、真比重5以上の重金属を実質的に含まないため環境に優しく、色調や耐熱性に優れ、口金付着物の発生が低減し、曳糸性に優れ、アルカリ溶出性に優れる。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルはその機械的、物理的、化学的性能が優れているため、繊維、フィルム、ボトルをはじめ幅広い分野で用いられており、その中でも、汎用性、実用性の点でポリエチレンテレフタレートが優れ、好適に使用されている。
【0003】
そのポリエチレンテレフタレートは一般的に重縮合触媒としてアンチモン触媒、チタン触媒などが広く用いられている。
【0004】
しかしながら、アンチモン触媒は、重金属に分類されるものであり、環境負荷などへの影響が懸念されている。また、長時間連続的に溶融紡糸すると、アンチモン金属が異物となり口金孔周辺にその残渣が蓄積し、操業性を低下させる一因となっている。
【0005】
一方で、チタン触媒は上記問題を解決する触媒として検討が盛んに行われている。チタン触媒は重縮合触媒活性が高いために熱分解反応や酸化分解反応など副反応も大きく促進するため、得られたポリエステルは黄味に着色し、耐熱性に劣るという課題が生じる。
【0006】
かかる問題に対して、チタン化合物とともに特定のリン化合物を添加することで、ポリエステルの色調や耐熱性を向上させる検討がなされてきた。例えば、チタン化合物を用いた場合に、色相に優れた生産性の高いポリエステル繊維に関する方法が明示されている(特許文献1)。しかしながら、エチレンイソフタレートを共重合させる目的効果は高収縮性付与であり、本願で目的としているアルカリ減量速度に関する具体的例示がなされていない。
【0007】
また、リン化合物として3価のホスファイトおよび/または5価のホスフェイトおよび/または5価のホスホネートをフィルムやボトル等への適用を目的としたポリエステル樹脂に関する方法が明示されている(特許文献2、特許文献3)。しかしながらこれらの方法も、イソフタル酸成分を共重合したポリエステル樹脂であるが、アルカリ減量速度や曳糸性に代表される製糸操業性向上の効果について例示がみられない。さらに、3価のリン化合物としてホスホナイトの検討はされていない。
【0008】
一方、スルホイソフタル酸成分を共重合したポリエステル繊維の検討も多く行われている。例えば、チタン触媒存在下で、スルホイソフタル酸成分を共重合させることでカチオン染色性に優れたポリエステル繊維について明示されている(特許文献4、特許文献5)。確かに、色調やカチオン染色性、パック圧性に優れているものの、耐熱性および曳糸性に代表される製糸操業性において具体な例示は見られない。
【0009】
つまり上記背景技術においては、アンチモンに代表される真比重5以上の重金属化合物を用いず、色調および耐熱性に優れ、製糸時の口金汚れが少なく、曳糸性が良好であるアルカリ易溶出性ポリエステルは公知ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−119621
【特許文献2】特開2002−179781
【特許文献3】特開2005−89516
【特許文献4】特開2003−119273
【特許文献5】特開2003−119620
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、従来技術では成し得なかったアンチモンに代表される真比重5以上の重金属化合物を用いることなく環境に優しく、かつ色調および耐熱性が良好なポリエステルであって、該ポリエステルからなる繊維は製糸時の口金汚れが少なく、曳糸性が良好であり、アルカリ減量速度に優れるアルカリ易溶出性ポリエステルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の課題は、全酸成分に対し金属ホスホネート基を含有するイソフタル酸成分が4.5〜6.0モル%含まれるポリエステルであって、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3〜10ppm含有し、リン化合物としてホスホナイトまたはホスファイトをリン元素換算で5〜15ppm含有し、かつ真比重5以上の元素を実質的に含まないアルカリ易溶出性ポリエステルにより達成できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分を含むアルカリ易溶出性ポリエステルは、アンチモン触媒に代表される真比重5以上の金属を用いること無く、従来品に比べ色調および耐熱性が優れ、このポリエステルを用いると、曳糸性に代表される製糸操業性が優れるアルカリ易溶出性ポリエステルを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルカリ易溶出性ポリエステルの主成分は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体をエステル化または、エステル交換反応させた後に得られるポリエチレンテレフタレートである。
【0015】
そのポリエチレンテレフタレートは、全酸成分に対し金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を4.5〜6.0モル%含み、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3〜10ppm含有し、リン化合物としてホスホナイトまたはホスファイトをリン元素換算で5〜15ppm含有し、真比重5以上の元素を実質的に含まないアルカリ易溶出性ポリエステルである。
【0016】
本アルカリ易溶出性ポリエステルは、全酸成分に対し金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分が4.5〜6.0モル%含まれることが、良好なアルカリ易溶出性を有するためには必須である。さらに好ましくは4.8〜5.3モル%である。4.5モル%より少ないと、得られるポリエステルの耐熱性は良好であるが色調は劣り、そのポリエステルから成る糸のアルカリ易溶出性能が不足する。6.0モル%より多いと、得られたポリエステルの耐熱性が劣り、そのポリエステルから成る糸の曳糸性に代表される製糸操業性も劣る。
【0017】
金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分とは、公知の金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分を使用出来るが、好ましくは、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルもしくは5−ナトリウムスルホイソフタル酸である。
【0018】
本アルカリ易溶出性ポリエステルは、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3〜10ppm含有することが必須である。さらに好ましくは4〜8ppmである。3ppmより少ないと、重合反応活性が不足し反応が遅延してしまい、得られるポリエステルが黄味に着色する。10ppmより多いと、重合反応の活性は充分得られるものの、高活性のため分解反応が促進されやすくポリエステルの色調や耐熱性は悪化し、そのポリエステルから成る糸の曳糸性に代表される製糸操業性が悪化する。
【0019】
ポリエステルに可溶なチタン化合物とは、多価アルコールおよび/または多価カルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸および/または含窒素カルボン酸がキレート剤とするチタン錯体であることが、得られるポリエステルの色調や耐熱性の観点から好ましい。
【0020】
ポリエステルに可溶なチタン化合物はキレート剤としては、多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等が挙げられ、多価カルボン酸として、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミリット酸、ピロメリット酸等が挙げられ、ヒドロキシカルボン酸として、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられ、含窒素カルボン酸として、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ二酢酸、カルボキシメチルイミノ二プロピオン酸、ジエチレントリアミノ酸、トリエチレンテトラミノ六酢酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン酸、メトキシエチルイミノ二酢酸等が挙げられる。これらのチタン化合物は単独で用いても、併用して用いても良い。なお本発明でいうチタン化合物とは、繊維の艶消し剤として一般的に使用される酸化チタンはポリエステルに可溶ではないため除外される。
【0021】
本アルカリ易溶出性ポリエステルは、リン化合物をリン元素換算で5〜15ppm含有することが必須である。リン元素換算で5ppmより少ないと、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分が共重合されているためポリエステルの分解反応が促進されやすく、得られるポリエステルの色調や耐熱性が悪化し、そのポリエステルから成る糸の曳糸性に代表される製糸操業性も悪化する。リン元素換算で15ppmより多いと、重合反応触媒の失活により重合反応性が低下し、重合反応が遅延してしまい、得られるポリエステルが黄味に着色する。
【0022】
リン化合物としては、(式1)〜(式5)にて表されるリン化合物を用いることが出来る。この(式1)で代表されるホスファイト化合物ならびに(式2)または(式3)で表されるホスホナイト化合物を用いると、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分が共重合されているにも関わらす、本アルカリ易溶出性ポリエステルは色調や耐熱性に優れ、その後紡糸する際の曳糸性に代表される製糸操業性を飛躍的に向上させることができる。
【0023】
【化1】

【0024】
(上記(式1)中、R1〜R3は、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。)
【0025】
【化2】

【0026】
【化3】

【0027】
(上記(式2)、(式3)中、R1〜R4は、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。)
ポリエステルの着色や耐熱性の悪化は、飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社、初版、P.178〜P.198)に明示されているように、ポリエステル重合反応の副反応によって起こる。このポリエステルの副反応は、金属触媒によってカルボニル酸素が活性化し、β水素が引き抜かれることにより、ビニル末端基成分およびアルデヒド成分が発生する。このビニル末端基によりポリエンが形成されることによってポリエステルが黄味に着色し、また、アルデヒド成分が発生するために、主鎖エステル結合が切断されるため、耐熱性が劣ったポリエステルとなる。特に、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分をポリエステル骨格に有している場合、金属触媒によるカルボニル酸素への配位が容易に起こりやすく、β水素が引き抜かれやすくなり、ビニル末端機成分およびアルデヒド成分が発生しやすい。このビニル末端基により、ポリエンが形成されることによってポリエステルが黄味に着色する。また、アルデヒド成分が発生するために、主鎖エステル結合が切断されやすくなり、その結果として耐熱性や色調が劣ったポリエステルとなる。
【0028】
またチタン化合物を重合触媒として用いると、熱による副反応の活性化が強いために、ビニル末端基成分やアルデヒド成分が多く発生し、黄味に着色した耐熱性が劣ったポリエステルとなる。リン化合物は、重合触媒と適度に相互作用することにより、重合触媒の活性を調節する役割を果たすばかりか、リン化合物が嵩高いため、金属スルホネート基との立体障害が発生し、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分のカルボニル酸素へのチタン化合物の配位を起こりにくくする。
【0029】
本発明の(式1)のホスファイト化合物および(式2)または(式3)のホスホナイト化合物を用いると、チタン化合物の重合活性を充分に保持したまま、ポリエステルの色調や耐熱性を飛躍的に向上させることができるため好ましい。
【0030】
中でも下記の(式4)で表されるホスファイト化合物または(式5)で表されるホスホナイト化合物を用いると、ポリエステルの色調や耐熱性に優れ、曳糸性に代表される製糸性操業性が飛躍的に向上するため、好ましく使用される。
【0031】
【化4】

【0032】
上記(式4)にて表されるホスファイト化合物としては、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトがあり、この化合物はアデカスタブPEP−36として(ADEKA社製)として入手可能である。
【0033】
【化5】

【0034】
上記(式5)にて表されるホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイトがあり、この化合物はGSY−P101(大崎工業社製)として入手可能である。
【0035】
その他、開発の目的を損なわない範囲で公知の添加物を含有することが出来る。例えば、酢酸リチウム(以下、LAH)のジエチレングリコール(以下、DEG)の副生成物抑制剤、酢酸マグネシウム(以下、MGA)等の金属酢酸塩に代表されるエステル交換反応触媒、酸化チタンに代表される艶消し剤などである。特にLAHやMGAは真比重が5以下であるため、好ましく使用される。ここで、LAHの含有量は、リチウム元素として100〜300ppmが好ましく、150〜250ppmがより好ましい。酢酸マグネシウムは、マグネシウム元素として、5ppm〜35ppmが好ましく、15ppm〜25ppmがより好ましい。なお、艶消し剤として使用される酸化チタンを含有しても良く、得られるポリエステルの紡糸を安定的に実施するために、酸化チタン濃度として2.5wt%まで含有することが出来る。
【0036】
本発明のアルカリ易溶出ポリエステルは、公知の方法で製造することができる。
例えば、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオール成分、金属スルホネート基を有したイソフタル酸成分とを、ポリエステルに可溶なチタン化合物、および(式1)であるホスファイト、(式2)または(式3)であるホスホナイトから選ばれるいずれか一種類のリン化合物の存在下で、エステル化反応またはエステル交換反応を行う。その後、重合反応を行い所定のポリマー粘度まで上昇したところで反応を終了させ、常法によりチップ化を行う。
【0037】
また、本発明のアルカリ易溶出性ポリエステルは、例えば次の用途で効果を発揮する。
海島複合糸の海成分として用いた場合、アルカリ処理を施すことで海成分が溶出し、マイクロファイバーやナノファイバー等の極細糸を得ることができる。割繊糸の溶出成分として用いた場合は、多角断面の原糸を得ることができる。また、複合紡糸によりC型中空糸や超多葉形糸を形成するための充填成分としても好適に使用出来る。
【実施例】
【0038】
以下実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。
なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
【0039】
(1)ポリエステルの固有粘度IV
試料をオルソクロロフェノールに溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した。
【0040】
(2)ポリマーb値
色差計(スガ試験機社製、SMカラーコンピュータ型式SM−T45)を用いて、ハンター値(b値)として測定し、以下の基準で判断した。
13.5未満;○
13.5以上;×
(3)耐熱性
A.Δb値
ポリエステルを、窒素雰囲気下270℃で加熱し、完全に溶解した時点を0分とし、この時のサンプルをAとする。引き続き60分間加熱した際のサンプルをBとする。このサンプルAとサンプルBをそれぞれチップ化し、(2)にて示した色差計を用いて、ハンター値(b値)として測定する。サンプルAとサンプルBのb値差をΔb値とし、以下の基準で判定した。
2.0未満;○
2.0以上;×
B.ポリマ耐熱性
ポリエステルを、150℃で12時間減圧乾燥させた後、窒素雰囲気下300℃で360分間加熱溶融させた後、(1)の方法にて固有粘度を測定し、加熱溶融前後の差をポリマ耐熱性として測定し、(式6)を用いて計算し、以下の基準で判定した。なお、処理前の固有粘度をIV1、処理後の固有粘度をIV2とする。
ポリマー耐熱性=0.27×[(1/IV2)4/3−(1/IV1)4/3](式6)
1.25未満;○
1.25以上;×
(4)ポリエステル中のチタン元素、リン元素、硫黄元素等の含有量
蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)により、チタン元素以外の金属含有量を求めた。なお、ポリエステルに不溶なチタン化合物は次の前処理をした上で除去し、蛍光X線分析を行った。すなわち、ポリエステルをオルソクロロフェノールに溶解(溶媒100gに対してポリエステル5g)し、このポリエステル溶液と同量のジクロロメタンを加えて溶液の粘性を調製した後、遠心分離器(回転数18000rpm、1時間)で粒子を沈降させる。その後、傾斜法で上澄み液のみを回収し、上澄み液と同量のアセトンを添加することによりポリエステルを再析出させ、そのあと3G3のガラスフィルター(IWAKI社製)で濾過し、濾上物をさらにアセトンで洗浄した後、室温で12時間真空乾燥してアセトンを除去した。以上の前処理を実施して得られたポリエステルについてチタン元素の分析を行った。
【0041】
(5)ポリエステル中のリチウム元素の含有量
原子吸光法により分析した。分析方法は湿式分解法を用いた。硫酸を加え(ポリエステル0.7〜1.5gに対し硫酸5ml)サンドバス上でポリエステルを200℃から250℃で溶解して分解させる。さらに過塩素酸1.5mlを加え250℃から300℃で分解させる。試料が透明になるまで300℃から350℃で分解を進め、硫酸が十分リフラックスするまで分解を継続させ、該液を純水で定容し分析した。ブランクとして基準液をLiで2ppmになるように採取し、処理後、純水で定容量した。
【0042】
(6)口金周りの堆積物の観察
溶融紡糸開始から72時間後の口金孔周辺の堆積物量を、長焦点顕微鏡を用いて観察し、以下の基準で判定した。
堆積物がほとんど認められない状態 ;○
堆積物が認められ頻繁に糸切れが発生する状態;×
(7)曳糸性
紡糸温度290℃、33.3g/分の吐出量、孔径0.23mm、孔深度0.8mm、ホール数24個の口金を用い、フィルターは渡辺製作所社製金属不織布フィルター10μ(#325/XS40/#50)、サンド条件は#30(モランダム:昭和電工社製)/MP(メタルパウダー:帝人エンジニアリング社製):#100−#170/#30(モランダム:昭和電工社製)にて濾過したポリエステルを、1GD(ゴデーロール)増速速度2000m/(分^2)にて紡糸し、糸切れが発生した時点の1GD速度を曳糸速度とし、以下の基準で判定した。
3000m/分以上;○
3000m/分未満;×
(8)アルカリ減量速度
アルカリ減量前後の筒編み地の重量を比較した。筒編み地の紡糸方法および延伸方法は下記の通りである。
(紡糸方法)
本アルカリ易溶出性ポリエステルを海成分に(複合比20wt%)、公知のIV0.707のポリエチレンテレフタレートを島成分に(複合比80wt%)用いる海島複合糸を製造した。両チップを乾燥後、紡糸機に供し、それぞれ海成分を295℃、島成分を300℃にて溶融後、それぞれの吐出量を海成分として5g/分、島成分として20g/分で総量25g/分にて溶融ポリエステルを孔深度0.8mm、孔径0.8mmの丸孔吐出孔を9個有する口金ノズルより、紡糸温度298℃で吐出させた。吐出後の糸条は冷却チムニーによって0.4m/sの冷却風で冷却・固化され、口金下2mの位置で給油装置にて集束させながら油剤を付与し(純油分として繊維重量に対して0.75重量%塗布)、ワインダーにより1500m/分の速度で巻き取り、173dtex−9フィラメントの未延伸糸を得た。
(延伸方法)
得られた未延伸糸について延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度755m/分、延伸温度92℃、残留伸度30〜40%程度となるような倍率で延伸した後、130℃で熱セットし、66dtex−9フィラメントの延伸糸を得た。延伸中に断糸の問題は発生せず、巻き上がったボビン表面上の毛羽も無く、延伸性は優れていた。得られた延伸糸を用いて、2本合糸(168dtex)にて22ゲージで筒編み地を作製した。
該海島複合糸より製造した筒編み地を用い、NaOH濃度4wt%水溶液、浴比1:100、温度98℃にてアルカリ減量処理を行った。アルカリ減量前後の筒編み地の重量を比較し、20%減量に達するまでの時間を以下の基準で判定した。
45分未満;○
45分以上;×
(9)アンチモン元素流出調査
(8)の方法で得られた残液(廃液)を加熱し溶媒を留去した後、固体状残り物をレーザーICP質量分析装置(JFEテクノリサーチ株式会社製)にてアンチモン元素の有無を調査し、以下の基準で判定した。
アンチモン元素検出有り;×
アンチモン元素検出無し;○
実施例1
(重合方法)
精留塔を備えたエステル交換反応槽にテレフタル酸ジメチルを1070重量部とエチレングリコールを430重量部となるように仕込み、5−ナトリウムスルホイソフタル酸時メチルを得られるポリエステル中の全酸成分に対し5.1モル%(硫黄成分としてジカルボン酸成分に対し0.795wt%)となるように仕込む。その後、チタン元素換算で5ppmとなるよう乳酸キレートチタン化合物を、酢酸マグネシウム・4水和物をマグネシウム元素換算で11ppm、酢酸リチウム・1水和物をリチウム元素換算で204ppm添加する。その後、エステル交換反応槽の温度を徐々昇温し、エステル交換反応時に発生するメタノールを反応系外に留去させながら反応を進行させ、低重合体を得た。その後、エステル交換反応槽から重合反応槽にその低重合体を移液する。移液終了後、ポリエステル中の濃度が0.3wt%になるよう酸化チタンのエチレングリコールスラリーを添加した。さらに5分後に、反応槽内を240℃から270℃まで徐々に昇温するとともに、エチレングリコールを留去しながら、圧力を50Paまで下げた。所定の攪拌機トルク(電力値)となった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻し重合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリエステルのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の攪拌機トルク到達までの時間はおよそ2時間40分だった。得られたポリエステルは固有粘度0.55、b値12.1、Δb値1.7、耐熱性は1.18であり、色調および耐熱性に優れ、該ポリエステルからなる繊維はアルカリ減量速度に優れ、製糸時の曳糸性が良好であった。
【0043】
実施例2〜6
表1に記載の条件とする以外は、実施例1と同じ方法で実施した。いずれのポリエステルも色調b値、Δb値および耐熱性に優れ、該ポリエステルを用いた繊維はアルカリ減量速度に優れ、製糸時の曳糸性が良好であった。
【0044】
比較例1
表2に記載の条件とする以外は、実施例1と同じ方法で実施した。得られるポリエステルはΔb値および耐熱性に優れていたが、色調b値は劣っており、該ポリエステルを用いた繊維はアルカリ減量速度に劣っていたが、製糸時の曳糸性は良好であった。
【0045】
比較例2
表2に記載の条件とする以外は、実施例1と同じ方法で実施した。得られるポリエステルは色調b値に優れていたが、Δb値および耐熱性は劣っており、該ポリエステルを用いた繊維はアルカリ減量速度に優れていたが、製糸時の曳糸性は劣っていた。
【0046】
比較例3、5
表2に記載の条件とする以外は、実施例1と同じ方法で実施した。得られたポリエステルは色調b値、Δb値および耐熱性に劣っており、該ポリエステルを用いた繊維はアルカリ減量速度に優れていたが、製糸時の曳糸性は劣っていった。
【0047】
比較例4
表2に記載の条件とする以外は、実施例1と同じ方法で実施した。得られるポリエステルはΔb値および耐熱性に優れていたが、重合時間および色調b値は劣っており、該ポリエステルを用いた繊維はアルカリ減量速度に優れ、製糸時の曳糸性が良好であった。
【0048】
比較例6
表2に記載の条件とする以外は、実施例1と同じ方法で実施した。得られるポリエステルは色調b値、Δb値および耐熱性に優れ、該ポリエステルを用いた繊維はアルカリ減量速度に優れ、製糸時の曳糸性も良好であった。しかし、口金周りの積載物多く、アルカリ減量速度評価に用いた溶媒でアンチモン元素が検出された。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全酸成分に対し金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分が4.5〜6.0モル%含まれるポリエステルであって、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3〜10ppm含有し、リン化合物として(式1)であるホスファイト、(式2)または(式3)であるホスホナイトをリン元素換算で5〜15ppm含有し、かつ真比重5以上の元素を実質的に含まないアルカリ易溶出性ポリエステル。
【化1】

(上記(式1)中、R1〜R3は、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。)
【化2】

【化3】

(上記(式2)、(式3)中、R1〜R4は、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。))
【請求項2】
リン化合物が(式4)であるホスファイトを含有することを特徴とする請求項1記載のアルカリ易溶出性ポリエステル。
【化4】

【請求項3】
リン化合物が(式5)であるホスホナイトを含有することを特徴とする請求項1記載のアルカリ易溶出性ポリエステル。
【化5】


【公開番号】特開2011−213880(P2011−213880A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83720(P2010−83720)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】