説明

アルカリ蓄電池用ニッケル電極の製造方法およびアルカリ蓄電池の製造方法

【課題】アルカリ蓄電池を高温下で動作させた時の充電効率が高く、充放電サイクル性能
に優れたアルカリ蓄電池を実現する。
【解決手段】粒子の表面に水酸化コバルトから成る表面層を配置した水酸化ニッケルを主成分とする正極活物質と、苛性アルカリ水溶液に浸漬保存することによって得られた、CoのKα線によるX線回折図において、d=0.88nm、d=0.84nmおよびd=0.76nmに回折ピークを有するエルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)の中少なくとも一種の元素を含む化合物とを混合する工程含むことを特徴とするアルカリ蓄電池用ニッケル電極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素蓄電池やニッケルカドミウム蓄電池等のアルカリ蓄電池に正極
として組み込まれるニッケル電極およびそれを組み込んだアルカリ蓄電池に関するもので
ある。
【背景技術】
【0002】
近年携帯電話等の小型情報端末機器、パーソナルコンピュータ、電動工具等の電源とし
て、ニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池等のアルカリ蓄電池が広く用いられてい
る。この中、ニッケル水素電池は、高出力を必要とする用途には不向きとされていたが、
高率放電特性の改良によって前記の用途のみならず、ハイブリッド型電気自動車(HEV
)の動力源としても用いられている。
【0003】
前記用途においては、電池は、一般的に狭い密閉空間に収納されており、高率放電時の
ように電池内部で発熱を伴う場合、外部への放熱が起こりにくく、電池温度が上昇する。
アルカリ蓄電池は、充電末期に電解液に含まれる水分子の分解によって、ニッケル電極(
正極)で酸素ガスが発生する。常温においては、水酸化ニッケルからオキシ水酸化ニッケ
ルへの酸化電位が、酸素発生電位よりもかなり低いので水分子の分解は起こりにくく、充
電効率は高い。しかし、電池温度が40℃以上の高温になると、前記両電位が接近するた
め、水酸化ニッケルの酸化と同時に水分子が分解して酸素の発生量が増大する。該酸素の
発生は、充電効率の低下、電池内圧の上昇を引き起こすと共に、充放電サイクル性能に悪
影響を及ぼす虞があった。
【0004】
前記従来電池の欠点を改良するため、正極活物質である水酸化ニッケルのニッケル原子
の一部を周期律表の第II属元素およびまたはコバルト(Co)で置換することによって正
極での酸素発生電位を貴な方向にシフトさせたり、特開平3−78965号公報に提案さ
れているように、水酸化ニッケルの酸化電位を卑な方向にシフトさせることによって水酸
化ニッケルの酸化電位と正極での酸素発生電位をとの間の電位差を大きくして酸素の発生
を抑制する方法が提案されている。また、特開平7−45281号公報には、電解液に水
酸化リチウムを添加する方法が提案されている。しかし、これらの方法では、満足できる
酸素発生抑制効果が得られなかった。
【0005】
さらに、特開平9−92279号公報には、正極にY等の希土類酸化物を添加す
る方法および特開平5−28992号公報には、Y(OH)を添加する方法が提案され
ている。しかし、これら従来提案された方法では、正極に添加した希土類元素が正極内で
のオキシ水酸化コバルト生成による導電性ネットワークの形成を阻害したり、電池内で加
水分解反応を起こすために、電解液の構成要素である水分が消費される欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−78965号公報
【特許文献2】特開平7−45281号公報
【特許文献3】特開平9−92279号公報
【特許文献4】特開平5−28992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、高温環境下においても充電
効率が高く、且つ高率放電特性に優れ長寿命を有するニッケル水素電池を提供するもので
ある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、正極を、粒子の表面に水酸化コバルトから成る表面層を配置した水酸化ニッ
ケルを主成分とする正極活物質と、苛性アルカリ水溶液に浸漬保存することによって得られた、CoのKα線によるX線回折図において、d=0.88nm、d=0.84nmおよびd=0.76nmに回折ピークを有するエルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)から選ばれた希土類元素を含む少なくとも一種類の化合物を含有するニッケル電極とすることによって前記課題を解決するものである。
【0009】
また、前記課題を解決する上で本発明に係るアルカリ蓄電池用ニッケル電極において
は、正極に含まれる前記希土類元素を含む化合物の水酸化ニッケルに対する比率が重量比
で0.5〜8wt%であることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によればアルカリ電解液中での酸素発生抑制機能に優れ、かつ導電性に優れたニ
ッケル電極の提供することができる。また、本発明によれば、前記機能をさらに高めるこ
とができる。本発明によれば高温下の動作において、充電効率および高率放電特性に優れ
、且つ充放電サイクル性能の優れたニッケル水素電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るニッケル電極が含有するYb化合物のX線回折図である
【図2】本発明に係るニッケル水素蓄電池の内部を示す説明図である。
【図3】本発明電池および比較例電池の各温度における充電効率を示すグラフである。
【図4】Yb化合物の添加量と温度50℃における充電効率の関係を示すグラフであ る。
【図5】本発明電池および比較例電池のサイクル性能を示すグラフである。
【図6】本発明電池および比較例電池の放電レート特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前記のように、本発明は、水酸化ニッケルを主成分とするアルカリ蓄電池用ニッケル電極において、該ニッケル電極中にCoのKα線によるX線回折図において、d=0.88nm、d=0.84nmおよびd=0.76nmに回折ピークを有するエルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)から選ばれた希土類元素を含む少なくとも一種類の化合物を含有させたものである。
【0013】
本発明に適用される前記エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Y
b)およびルテチウム(Lu)化合物のCoのKα線によるX線回折図の1例として、Y
b化合物の回折図を図1に示す。図1に示すように、該化合物のX先回折図には○印を附
したd=0.88nm、d=0.84nmおよびd=0.76nmに,既知の単なる酸化
物や水酸化物には認められない特徴的な回折ピークが認められる。
【0014】
前記化合物は、苛性アルカリの水溶液を主成分とするアルカリ電解中で安定であり、こ
れらの化合物を含有するニッケル電極の酸素発生電位は、従来のニッケル電極に比べて著
しく貴な方向にシフトしている(酸素過電圧が大である)。その結果、ニッケル電極の酸
素発生電位と水酸化ニッケルの酸化電位の差が大きくなって酸素の発生が抑制されるため
、充電効率が顕著に向上する。
【0015】
本発明に適用する前記希土類元素元素の化合物は、当該希土類元素の酸化物あるいは水
酸化物をKOH、NaOH等の苛性アルカリ水溶液に浸漬保存することによって得ること
ができる。浸漬保存中の溶液の温度を約60℃に昇温したり、次亜塩素酸塩のような酸化
剤を添加することにより合成を速めることができる。1例を示せば、アルカリ水溶液には
濃度6.8Nの苛性カリ水溶液を用い、保存温度は60℃、保存時間は数時間から数日間
が適当である。
【0016】
その他、水酸化ニッケルを含まない希土類元素のみの化合物を合成する場合は、希土類
元素の硝酸塩を高温で空気酸化したり、前記酸化物や水酸化物をアルカリ水溶液中で酸化
剤(例えば次亜塩素酸ナトリウム、NaClO)を用いて酸化することによっても合成す
ることができる。このように、単独で合成した希土類元素の化合物を水酸化ニッケル粉末
に添加混合することによっても目的を達成することができる。
【0017】
前記処理の生成物は、Ln(OH)・HOあるいはLnOOH・2HOの化学式
で示される含結晶水型の化合物であろうと推定される。なお、前記含結晶水型の化合物は
希土類元素の中Er、Tm、Yb、Lu特有の化合物である。前記4種類以外の希土類元
素についても同様の処理を試みたが、前記の特徴的なX線回折ピークを有する化合物は得
られず、Ln(OH)3型化合物に相当する単純な水酸化物しか得られなかった。
【0018】
本発明に適用される希土類元素の化合物は、Er、Tm、Yb、Luの中、少なくとも
1種の元素を含む化合物である。従って、この中の2種以上の元素または他の元素を含む
複合化合物または2種以上の化合物の混合物であってもよい。特にEr、Tmの単独の化
合物は得られにくいので、例えばEr1−x(OH)・HO(MはEr以外の希
土類元素を表す)、Tm1−x(OH)・HO(MはTm以外の希土類元素を表
す)で表される他の元素との複合化合物とすることで、目的物の合成が容易となり確実性
が増す。
【0019】
前記本発明に適用される希土類元素の化合物を含むニッケル電極は、前記の方法により
合成した希土類元素の化合物粉末を水酸化ニッケル粉末に添加混合し、該混合粉末を導電
性の基板に担持させることによって作製することができる。また、当該希土類元素の酸化
物あるいは水酸化物を添加した正極活物質を含む粉末を導電性基板に担持させ、該極板を
電池に組み込む前にアルカリ水溶液中で高温貯蔵することによって作製することも可能で
ある。
【0020】
従来正極への添加剤として提案されている希土類元素の酸化物は、アルカリ溶液と反応
して水酸化物を生成する。該反応は水分の消費を伴うので、制限された量の電解液しか含
まない電池においては、水分の不足による電気的特性の低下を来たす虞があった。本発明
の場合、適用する希土類元素の化合物はアルカリ電解液中で安定であり、前記のような水
分の消費を伴う反応を起こす虞がない。また、正極の酸素過電圧を増大させる顕著な効果
を有する。
【0021】
さらに、従来正極への添加剤として提案されている希土類元素の酸化物は、コバルトイ
オンが水酸化コバルトとして析出するのを妨げるので、正極内にオキシ水酸化コバルトに
よる導電性パスが形成されにくい欠点があったが、本発明で適用する希土類元素の化合物
にはこのような欠点が無い。
【0022】
前記ニッケル電極中に含有される希土類元素の化合物の水酸化ニッケルに対する比率は
、重量比で0.5〜8wt%が望ましい。前記比率が0.5wt%未満ではニッケル電極
の酸素発生電位を貴な方向にシフトさせる効果が乏しい。また、前記比率が8wt%を超
えても、比率が8wt%以下のニッケル電極に比べて酸素発生電位に殆ど差が無く、活物
質である水酸化ニッケルの充填量が低下する結果となるので好ましくない。
【0023】
本発明に係るニッケル電極が含有する水酸化ニッケルは、高密度水酸化ニッケルであっ
てCoやZnのような遷移金属元素を固溶状態で含有するものが望ましい。さらに、ニッ
ケル電極内部には、オキシ水酸化コバルトを主成分とする導電性パスの前駆体である水酸
化コバルトや一酸化コバルトを含むことが望ましい。
【0024】
本発明に係るアルカリ蓄電池の負極は、特に限定されるものではない。水素吸蔵合金電
極、カドミウム電極または亜鉛電極が適用できる。水素吸蔵合金電極を例に採れば、Ca
Cu形の結晶構造を有するMmNi3.55Co0.75Mn0.4Al0.3(Mm
はLa、Ce、Pr、Nd等の希土類元素の混合物であるミッシュメタルを表す)で示さ
れる組成の水素吸蔵合金を含む水素吸蔵合金電極を適用することができる。それ以外に、
水素吸蔵合金としては、全てのMmNi5系合金、例えばNi元素の1部をAl、Mn、
Co、Ti、Cu、Znの元素で置換した多元系合金やTiNi系、TiFe系合金が適
用できる。
【0025】
本発明に係るアルカリ蓄電池のセパレータは、とくに限定されないが、1例を挙げれば
、アクリル酸をグラフト重合したポリプロピレン(PP)繊維から成る不織布の他、親水
処理をしたポリオレフィン系繊維またはフィルムを素材とするもの、あるいはポリアミド
繊維を素材とするものが適用できる。
【0026】
本発明に係るアルカリ蓄電池の電解液には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムおよび
水酸化リチウム単独または混合の水溶液が適用できる。
【0027】
以下に1実施例により本発明の詳細を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定さ
れるものではなく、前記請求項の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
【実施例】
【0028】
(正極活物質の調整)
正極活物質は、公知の方法によって合成したZnおよびCoをそれぞれ3wt%(正極
に含まれる善金属元素に対する比率)固溶させた高密度水酸化ニッケル粒子を用いた。ま
た該水酸化ニッケル粒子の表面にα形水酸化コバルトから成る表面層を配置した。該水酸
化コバルトの水酸化ニッケルに対する比率を水酸化ニッケル100重量部に対してα形水
酸化コバルト9重量部とした。
【0029】
(希土類元素化合物の調整)
Er、Tm、Yb、Luの酸化物粉末それぞれ3gを、濃度6.8NのKOH水溶液2
00mlに投入し十分に撹拌したのち、温度60℃に加温し該温度で3日間保存した。該
分散液の沈殿物を採取し、水洗した。生成した化合物をCoのKα線によるX線回折にか
け、所定の回折ピークを示すことを確認した。このようにして、それぞれEr、Tm、Y
b、Luを含む4種類の所望の化合物を得た。
【0030】
(ニッケル電極の作製その1、希土類元素の種類が異なる)
前記水酸化ニッケルを主成分とする活物質粒子100重量部と前記4種類の希土類元素
化合物粉末5重量部をそれぞれ混合した。該混合物に結着剤としてカルボキシメチルセル
ローズ(CMC)の水溶液を加えてペースト状とし、面密度350g/m、多孔度95
%のニッケル製発泡基板に充填した。次いで乾燥後、プレス加工して厚さを0.66mm
のニッケル電極とした。該ニッケル電極のEr化合物含有、Tm化合物含有、Yb化合物
含有、Lu化合物含有電極を、それぞれ電極A、電極B、電極C、電極Dとする。
【0031】
また、単独の希土類元素化合物に替えてTm化合物25wt%、Yb化合物50wt%
、Lu化合物25wt%から成る混合粉末を混合し、同様の手順にてニッケル電極を作製
した。該ニッケル電極を電極Eとする。さらに、Tm、Yb、Luの3種の希土類元素を
含む複合化合物を合成し、前記同様の方法で正極に添加した。該複合化合物中のTm、Y
b、Luの元素の比率は1.0:90:9.0%(atm.%)とした。該電極を電極Fと
する。
【0032】
前記6種類の電極区分の一覧を表1に示す。該6種類の電極の容量を全て1600mA
hに設定した。
【0033】
【表1】

<表1のイメージ>

【0034】
(ニッケル電極の作製その2、希土類元素含有比率が異なる)
表2に示すように、イッテルビウム化合物を添加比率0.2〜20重量%の範囲で添加
し、前記と同様の手順にてニッケル電極を作製した。該電極をそれぞれ電極G〜電極Lと
する。該6種類のニッケル電極の容量を何れも1600mAhに設定した。
【0035】
【表2】

<表2のイメージ>

【0036】
(比較例)
比較のため、前記希土類元素化合物に替えて活物質粒子100重量部と酸化イッテルビ
ウム(Yb)および水酸化ユーロピウム{Eu(OH)}5重量部から成る混合
粉末を適用して前記と同様の手順でニッケル電極を作製した。該電極を電極Mおよび電極
Nとする。さらに、前記希土類元素化合物を含有しない活物質粒子を用いてニッケル電極
を作製した。該電極を電極Oとする。これらの電極の容量は全て前記実施例電池と同じ1
600mAhに設定した。
【0037】
(負極の作製)
負極には、水素吸蔵合金電極を適用した。水素吸蔵合金には、CaCu5形の結晶構造
を有する粒度50μm以下のMmNi3.55Co0.75A10.3Mn0.4(Mm
はLa45%、Ce30%、Pr3%、Nd22%から成るミッシュメタルを表す)の組
成のものを用いた。該水素吸蔵合金粉末に増粘剤であるCMCの水溶液および結着剤であ
るスチレンブタジエンゴム(SBR)2重量部を加えてペースト状とし、穿孔鋼板の両面
に塗布した。次いで乾燥後プレス加工して厚さ0.4mmとしたものを負極とした。
【0038】
(特性評価用電池の作製)
図2は本発明の実施例に係る電池1の内部を示す説明図である。前記負極板(水素吸蔵
合金電極)4の容量を正極板(ニッケル電極)3の容量の1.6倍とし、両電極板の間に
アクリル酸をグラフト重合したポリプロピレン製の不織布から成るセパレータ5配置して
捲回式の極板群を構成した。該極板群の上部端面に集電端子9を取り付け、金属電槽2に
挿入した後、電解液として濃度6.8Nの水酸化カリウムと0.8Nの水酸化リチウムを
含む水溶液を1.9ml注入した。次いで封口板7を載置し、電槽の開口端部2aをガス
ケット6を介して、正極端子兼封口蓋8で密閉し、設計容量1600mAhのAAサイズ
(単3)の円筒形ニッケル水素蓄電池とした。電池の記号を前記ニッケル電極の記号A〜
Oに対応させ、それぞれ電池A〜電池Oとした。
【0039】
(電池の初期化成と容量の安定化)
電池組立後常温で2時間放置した後、温度を40℃に昇温し、初期化成処理を行った。
その後、温度常温にて放電容量が安定するまで、レート0.1It(A)(電流160m
A)で15時間充電、レート0.2It(A)(電流320mA)、終止電圧1.0Vで
放電を1サイクルとして、この条件で充電・放電操作を繰り返し行った。
【0040】
(充電効率の評価)
放電容量が安定した電池を常温および高温での充放電試験に供した。電池温度を20、
40、50および60℃に設定し、該温度において、レート0.1It(A)(電流16
0mA)で15時間充電を行った。充電した電池の温度を20℃に設定し、前記と同じ条
件で放電試験を行った。各温度に於いて充電した後の放電で得られた容量の、温度20℃
での充電後の放電で得られた容量に対する比率を求めこれを充電効率(%)とした。
【0041】
図3に前記本発明電池A〜電池F、比較例電池M〜Oの各温度における充電効率を示し
た。図に示したように本発明電池A〜Fの充電効率は、比較例電池Mのそれと同等であり
、比較例電池N、Oに比べて何れも高い値を示しており、特に度差温度が40℃以上の高
温領域においてその差が顕著である。ここでは省略したが、前記4種類とEu以外の希土
類元素の水酸化物を添加したニッケル電極を用いたニッケル水素電池の充電効率も比較電
池Nとほぼ同一の値を示した。
【0042】
図4にイッテルビウム化合物の含有比率が異なる正極を備えたニッケル水素蓄電池の温
度50℃における充電効率を示した。比較例(含有率0wt%)に比べ、含有率0.5w
t%以上で充電効率が向上しており、含有率が8wt%を超えてもそれ以上の顕著な効果
が認められない。この結果より、希土類元素の含有率は0.5%以上、さらには2wt%
以上が望ましく、8wt%以下が望ましいことが判る。
【0043】
充電効率が低いと充電末期の酸素ガス発生によって、電池の内圧が高くなり、また該酸
素によって負極の水素吸蔵合金やカドミウムが酸化腐蝕を受ける等の悪影響によって充放
電サイクル性能が低下する。後述のように、本発明に係るアルカリ蓄電池は、比較例電池
に比べて充放電サイクルにおいて優れた特性を有する。
【0044】
(充放電サイクル性能評価)
本発明電池C、比較例電池Mおよび比較例電池Oを、試験温度45℃における充放電サ
イクル試験に供した。充電はレート0.1It(A)(電流160mA)で10.5時間
実施した。放電の条件は前記と同じレート0.2It(A)(電流320mA)、終止電
圧1.0Vとした。この充電・放電を1サイクルとし、該サイクルを繰り返し行った。試
験結果を図5に示す。
【0045】
図5に示した如く、本発明電池Cのサイクル性能は、酸化イッテルビウムを含有する正
極を備えた比較例電池Mおよび希土類元素を含有しない比較例電池Oに比べて優れている
。比較例電池Mの特性が本発明電池Cと比較して劣るのは、電池Mの場合、正極に添加し
たYbが電池内で電解液と反応し、その際電解液の水分が消費されるためと考えら
れる。他方、比較例電池Oの場合には、本発明電池Cと異なり、充電時の正極での酸素発
生が抑制されず、負極の水素吸蔵合金の腐食が進んだために容量劣化が速くなったと考え
られる。
【0046】
(高率放電性能評価)
本発明電池C、比較例電池Mおよび比較例電池Oを、試験温度20℃、放電レートを0
.2〜5Itにおける各率放電試験に供した。充電条件は、前記と同様とした。試験結果を
図6に示す。図6に示した如く、本発明電池Cは、比較例電池Mに比べて高率放電での容
量が高く、正極に希土類元素を含まない比較例電池Mと同等以上である。これは、本発明
電池の場合、正極に希土類元素を添加しているにも拘わらず、電池に組み込んだ後に正極
のオキシ水酸化コバルトによる導電性パスの形成が阻害されないことと、電解液を構成す
る水分の消費が抑制されるためと考えられる。
【符号の説明】
【0047】
3 ニッケル電極(正極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の表面に水酸化コバルトから成る表面層を配置した水酸化ニッケルを主成分とする正極活物質と、
苛性アルカリ水溶液に浸漬保存することによって得られた、CoのKα線によるX線回折図において、d=0.88nm、d=0.84nmおよびd=0.76nmに回折ピークを有するエルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)の中少なくとも一種の元素を含む化合物とを混合する工程を含むことを特徴とするアルカリ蓄電池用ニッケル電極の製造方法。
【請求項2】
前記化合物は、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)の酸化物あるいは水酸化物を苛性アルカリ水溶液に浸漬して作製する請求項1記載のアルカリ蓄電池用ニッケル電極の製造方法。
【請求項3】
正極に含まれる前記希土類元素エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)を含む化合物の水酸化ニッケルに対する比率が、重量比で0.5〜8wt%であることを特徴とする請求項1および請求項2記載のアルカリ蓄電池用ニッケル電極の製造方法。
【請求項4】
請求項1および請求項2および請求項3記載のニッケル電極を備えたことを特徴とするアルカリ蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−84630(P2013−84630A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−25062(P2013−25062)
【出願日】平成25年2月13日(2013.2.13)
【分割の表示】特願2009−170378(P2009−170378)の分割
【原出願日】平成13年3月19日(2001.3.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年11月20日〜22日 電気化学会 電池技術委員会主催の「第41回電池討論会」において文書をもって発表
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】