説明

アルカリ蓄電池用焼結基板の製造方法及びアルカリ蓄電池の製造方法

【課題】
85%以上の高多孔度でも基板強度を確保したアルカリ蓄電池用焼結基板を提供する。
【解決手段】
本発明のアルカリ蓄電池用焼結基板は、タップ密度が0.92g/cm3以下のニッケル粉末を使用して作製したことを特徴とする。このようなニッケル粉末を用いて作製した焼結基板は、多孔度が85%程度の高多孔度であっても、250N/cm2以上の基板強度を有し、活物質の充填密度が高く、十分な品質を維持した焼結式電極を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池のニッケル電極やカドミウム電極などに用いる焼結基板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、種々のポータブル機器の電源として、アルカリ蓄電池が利用されている。特に大電流放電が要求されるアルカリ蓄電池においては、導電性能が良好な焼結式ニッケル正極や焼結式カドミウム負極が多く用いられている。焼結式電極の製造方法としては、導電性芯材に、メチルセルロースなどの増粘剤を溶解した水にニッケルパウダーを混練したスラリーを塗着し、還元性雰囲気下で焼結して多孔質焼結基板を作製し、これに活物質を充填する方法が一般にとられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、電池において一般的に、高容量化のために電極のエネルギー密度を高めることが要求されている。そのため、アルカリ蓄電池用の焼結基板においても、たくさんの活物質を充填できるように、その多孔度を向上させることが望まれている。焼結基板の多孔度を向上させる技術として、例えば特開昭58−169773号公報(特許文献1)には、スラリー中に有機中空体からなる造孔剤を含ませる方法が開示されている。この方法を用いれば、造孔剤の添加量を増やすにつれ孔の体積も増加するので基板の多孔度が向上する。
【特許文献1】特開昭58−169773号
【0004】
しかしながら、造孔剤の添加量を増やして多孔度を大きくするにつれて、基板強度が低下する傾向がある。基板強度が低下すると、活物質充填後に焼結基板の一部が剥がれたり、極板厚みが膨化したりして品質が低下するので好ましくない。よって、基板強度を維持しつつ、より高多孔度の焼結基板を作製しようとすると、特許文献1の方法のみでは不十分である。
【0005】
一方、特開平5−325978号公報(特許文献2)には、嵩密度が0.40〜0.65g/cm3 でフィッシャー粒子径が0.5〜1.5μm の第1のニッケル粉末と、嵩密度が0.30〜0.52g/cm3でフィッシャー粒子径が2.5〜4.0μmの第2のニッケル粉末とを混合した混合ニッケル粉末を含有するニッケルスラリーを用いる焼結基板の製造方法が提案されている。この方法によれば、基板強度を維持しつつ多孔度を向上させることができることが示されている。
【特許文献2】特開平5−325978号
【0006】
しかし、この特許文献2に示される方法でも、未だ十分な強度を持った焼結基板が得られるとは言い難い。焼結式極板では、極板中への活物質充填密度を高くすると、前記焼結基板の剥がれや極板厚みの膨化が顕著となる。従って、例えば多孔度85%以上の高多孔度焼結基板では、およそ250N/cm2以上の基板強度であるのが望ましいが、そこまでの強度を得るには至っていなかった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、従来の焼結基板よりも高い基板強度を持ったアルカリ蓄電池用焼結基板を提供するものであり、特に250N/cm2以上の基板強度を有する多孔度85%以上の高多孔度焼結基板の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明はタップ密度が0.92g/cm3以下のニッケル粉末を含有するスラリーを導電性芯材に塗着後焼結して焼結基板を作製するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
このようなニッケル粉末を用いて作製した焼結基板は、従来の焼結基板に比べ基板強度を高くすることができる。特に、このようにして作製した焼結基板の多孔度が85%程度の高多孔度であっても、250N/cm2以上の基板強度を有し、活物質の充填密度が高く、十分な品質を維持した焼結式電極を提供することができる。
本発明の発明者らは、ニッケル粉末の様々な特性と、出来上がった焼結基板の多孔度と基板強度との関係を評価した結果、特許文献2に記載されるようなニッケル粉末の粒子サイズや嵩密度よりも、タップ密度と基板強度の関係性が深いことを見出し、従来とは異なるニッケル粉末を用いることにより、本発明に係る焼結基板を作製することに成功したものである。
【0010】
上記のようなニッケル粉末を用いることにより高強度の焼結基板を得られるのは、以下のような理由が考えられる。
従来、ニッケル粉末として、微視的には微小なニッケル粒子が多数連なった鎖状構造を有するものが用いられている。このニッケル粉末の微視的構造は焼結基板の強度や多孔度に影響を与えると思われるが、スラリー作製時の混練により、この微視的構造が一部破壊されると考えられる。
タップ密度は、このスラリー作製時の混練によって当初の構造から変化したスラリー中のニッケル粉末の構造を反映する指標で、タップ密度が小さいとニッケル粉末の鎖状構造が発達したまま残っており、従って強度を維持したまま多孔度の高い焼結基板が得られるものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態に係る焼結基板とその製造方法について説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
(焼結基板の製造)
増粘剤を水に溶解した水溶液に、ニッケル粉末と発泡有機中空体からなる造孔剤とを混練してスラリーを作製する。有機中空体の有機材料としては、造孔剤としての機能を果たすように、加熱によって消失する性質を持つ樹脂(例えばアクリル樹脂)を用いる。また、増粘剤としては、例えばメチルセルロースを用いることができる。
そして、ニッケルメッキをした有孔薄鋼板からなる導電性芯材に、上記スラリーを塗着した後、還元性雰囲気で約1000℃に熱した炉中で加熱して焼結処理を行い、ニッケル焼結基板を作製する。焼結基板の厚みは、通常0.5〜1.0mm程度である。
【0012】
図1は、上記のようにして作製するニッケル焼結基板の断面を摸式的に示す図である。本図に示すように、導電性芯材10には孔11が開設されており、導電性芯材10の表面上及び孔11の内部に、多孔質の焼結層12が形成されている。焼結層12の内部には、ニッケル粉末13が焼結され3次元的な網目構造が生ずるとともに細孔14が形成されている。
【0013】
詳しくは後述するが、本実施形態の焼結基板では、ニッケル粉末として、タップ密度が0.92g/cm3以下のものを用いている。このようなニッケル粉末を用いることにより、多孔度が85%程度の高多孔度であっても、250N/cm2以上の基板強度を有する焼結基板を得ることができる。
【0014】
(活物質の充填)
作製したニッケル焼結基板を、硝酸ニッケルを溶解し加温した含浸液に浸漬することによって、焼結基板の孔に含浸液を含浸させる。
そして、温度80℃程度の熱風を短時間あてて、充填された含浸液を乾燥することによって、ニッケル焼結基板の孔内に硝酸ニッケルを定着させる。孔内に硝酸ニッケルが定着されたニッケル焼結基板を、例えば水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液に浸漬することによって、孔内の硝酸ニッケルを水酸化ニッケルに変化させる。これによって、ニッケル焼結基板の孔内には、水酸化ニッケル活物質が充填されることになる。
このような活物質充填操作を数回繰り返すことによって、ニッケル焼結基板の孔内にニッケル活物質が十分に充填され、焼結式ニッケル電極が完成する。
【0015】
(電池の製造)
上述の完成した焼結式ニッケル電極と、例えばペースト式カドミウム電極とを、ポリアミド不織布等からなるセパレータを介して巻回して電極体を作製し、この電極体を外装缶に収納するとともにアルカリ水溶液による電解液を注入し、その後封口蓋で密閉することにより本発明に係るアルカリ蓄電池(不図示)が完成する。
【実施例】
【0016】
上記で説明した本発明に係る焼結基板の従来の焼結基板に対する有効性を確認すべく実験を行った。実施例および比較例とともに以下に示す。なお、タップ密度の値は、ニッケル粉末を300μmの篩いにかけて容器内に入れ、その容器を100回タップした後の容器内のニッケル粉末の密度を密度測定機(SEISHIN TAPDENSER KYT−3000)を用いて測定することにより得た。また、フィッシャーサイズは、粒度計(Fisher Sub−seive Sizer)により測定した。
更に多孔度は、次のようにして得た。まず、焼結基板に水を含ませる前後の質量を計測し、その差分をとることにより焼結基板内の残孔体積(P)を測定する。また、水を含ませる前焼結基板の質量と焼結基板材料の真密度から、当該焼結基板材料の体積(M)を算出する。これらを用いて以下の式により多孔度を得た。
(数1)
多孔度(%)=100×P/(P+M)
【0017】
(実施例1)
タップ密度0.85g/cm3のニッケル粉末(INCO社製、嵩密度0.39g/cm3、フィッシャーサイズ2.1μm)のニッケル粉末を準備した。これをニッケル粉末aとする。次いで3質量%メチルセルロース水溶液60質量部に、造孔剤としてメチルメタアクリレート−アクリロニトリル共重合体を主成分とする有機中空球体(松本油脂製、粒径50μm)を0.5質量部と、前記ニッケル粉末a40質量部を加え、真空ポンプにより脱気しながら混練することによってスラリーを作製した。
前記スラリーを導電性芯材(厚さ80μmのニッケルメッキ穿孔鋼板)の両面に塗布して乾燥し、還元雰囲気下において1000℃で加熱して適宜時間を調整することによって、多孔度86%、厚み0.6mmの焼結基板Aを作製した。
【0018】
(実施例2)
タップ密度が0.77g/cm3のニッケル粉末(INCO社製、嵩密度0.39g/cm3、フィッシャーサイズ2.1μm)のニッケル粉末を準備した。これをニッケル粉末bとする。次いで3質量%メチルセルロース水溶液60質量部に、造孔剤としてメチルメタアクリレート−アクリロニトリル共重合体を主成分とする有機中空球体(松本油脂製、粒径50μm)を0.5質量部と、前記ニッケル粉末b40質量部を加え、真空ポンプにより脱気しながら混練することによってスラリーを作製した。
前記スラリーを導電性芯材(厚さ80μmのニッケルメッキ穿孔鋼板)の両面に塗布して乾燥し、還元雰囲気下において1000℃で加熱して適宜時間を調整することによって、多孔度86%、厚み0.6mmの焼結基板Bを作製した。
【0019】
(比較例)
タップ密度が1.15g/cm3のニッケル粉末(INCO社製、嵩密度0.57g/cm3、フィッシャーサイズ2.1μm)のニッケル粉末を準備した。これをニッケル粉末zとする。次いで3質量%メチルセルロース水溶液60質量部に、造孔剤としてメチルメタアクリレート−アクリロニトリル共重合体を主成分とする有機中空球体(松本油脂製、粒径50μm)を0.5質量部と、前記ニッケル粉末z40質量部を加え、真空ポンプにより脱気しながら混練することによってスラリーを作製した。
前記スラリーを導電性芯材(厚さ80μmのニッケルメッキ穿孔鋼板)の両面に塗布して乾燥し、還元雰囲気下において1000℃で加熱して適宜時間を調整することによって、多孔度86%、厚み0.6mmの焼結基板Zを作製した。
【0020】
(確認実験1)
以上作製した焼結基板A、B、Zの基板強度を接合強度測定機(Quad Group製SEBASTIANV強度テスター)を用いて、以下のようにして測定した。図を用いて説明する。
図2に示すような一定の接着面積(0.7cm2)を有するプルスタット20の接着部21に接着剤を塗布し、焼結基板(A、B、Z)に前記接着部21を接着した後、接合強度測定機を使用してプルスタット20の取手部22を基板に垂直な方向(図2のF方向)に引っ張り、プルスタット20を引き剥がす為に必要な力を測定し、この力を接着部21の接着面積で割って、基板強度を求めた。なお、プルスタット20を引き剥がしたときに、接着面や焼結体と導電芯材との接合部が剥がれた場合は、基板強度の測定から除外した。
【0021】
(確認実験2)
焼結基板A、B、Zに対して、硝酸ニッケルを主成分とする溶液とアルカリ液に交互に一定回数繰り返して浸漬し活物質を含浸することによって、ニッケル正極板α、β、ζを作製した。この含浸前後の焼結基板およびニッケル正極板の厚みを測定し、含浸による膨化の有無を確認した。なお、前記極板中の活物質充填密度(焼結基板の残孔(P)に対する充填活物質の質量)は3g/cm3であった。
【0022】
確認実験1、2の測定結果を以下の表1に示す。
【表1】

【0023】
実施例1、実施例2、比較例の基板強度の測定結果から、タップ密度が0.92g/cm3以下のニッケル粉末を用いた実施例1、実施例2は250N/cm2以上であるのに対し、タップ密度が0.92g/cm3より大きいニッケル粉末を用いた比較例は実施例1及び実施例2に比べ基板強度が小さく、250N/cm2以下であった。よって、実施例1、実施例2においては基板に活物質を含浸した後の極板の膨化が見られなかった一方、比較例では極板の膨化が確認された。
【0024】
また、実施例1と実施例2を比較した場合、フィッシャーサイズと嵩密度が同じであっても、タップ密度が異なることにより、同一多孔度での基板強度に差が見られた。
ここで実施例1、実施例2、比較例のタップ密度と基板強度の関係を図3に示す。図3に示されるように、タップ密度と基板強度の間には高い相関性が見られ、この図より多孔度85%以上で250N/cm2以上の基板強度を得るには、0.92g/cm3以下のタップ密度を有するニッケル粉末を用いればよいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態に係る焼結基板の断面を模式的に示す図である。
【図2】焼結基板の強度測定に用いた測定具の使用状態を模式的に示す斜視図である。
【図3】ニッケル粉末のタップ密度と基板強度の関係を表す図である。
【符号の説明】
【0026】
10・・・導電性芯材、11・・・孔、12・・・焼結層、13・・・ニッケル粒子、14・・・細孔
20・・・プルスタット、21・・・接着部、22・・・取手部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ密度が0.92g/cm3以下のニッケル粉末を含有するスラリーを導電性芯材に塗着後焼結することを特徴とするアルカリ蓄電池用焼結基板の製造方法。
【請求項2】
前記焼結基板の多孔度が85%以上であり、基板強度が250N/cm2以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池用焼結基板の製造方法。
【請求項3】
タップ密度が0.92g/cm3以下のニッケル粉末を含有するスラリーを導電性芯材に塗着後焼結して焼結基板を製造する工程と、前記焼結基板に活物質を充填して電極を製造する工程と、前記電極を用いて電池を組み立てる工程を備えたアルカリ蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−273293(P2007−273293A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98277(P2006−98277)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】