説明

アルカリ蓄電池

【課題】充電状態での保存特性に優れ、かつ過放電状態になっても電池容量の回復特性に優れたアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】水酸化ニッケルを主成分とする活物質粒子を有する正極と、負極と、電解液とを備えるアルカリ蓄電池であって、前記正極活物質粒子は水酸化ニッケルを含む芯層と、芯層の表面を被覆する導電補助層とを有し、前記導電補助層はオキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相を含み、前記電解液は水酸化ナトリウム水溶液を主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池、特に非焼結型正極を有するアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー密度が高く信頼性に優れた電池として、ニッケル水素蓄電池、とりわけ発泡ニッケル多孔体基板等に水酸化ニッケルを含む活物質を充填した非焼結型の正極を備えたものが、様々な用途に用いられている。また、非焼結型の正極では、放電状態の活物質である水酸化ニッケルの導電性が低いため、導電性の高いオキシ水酸化コバルト(CoOOH)を導電助剤として用いて活物質の利用率を上げることが行われる。その際、水酸化ニッケル粒子とコバルト化合物粒子を混合して用いたり、水酸化ニッケル粒子の表面をオキシ水酸化コバルトで被覆することが行われている。
【0003】
ニッケル水素電池には、自己放電によって残存容量が減少しやすいという問題が あった。すなわち、ニッケル電極の自己分解反応は

で表され、酸素発生を伴って水酸化ニッケルへ還元されることによって、自己放電がおこる。
【0004】
そこで、酸素発生過電圧を大きくすることで酸素発生反応を抑え、自己放電を抑えるために、様々な方法が提案されている。
特許文献1には、水酸化ニッケルとその表面を被覆する2価より高次のコバルト化合物を有し、被覆層にカルシウム等の化合物を含むアルカリ蓄電池用ニッケル正極について、カルシウム等の化合物を含むことにより酸素発生過電圧が上昇することが記載されている。
【0005】
また、電解液には導電性に優れる水酸化カリウムの水溶液が用いられることが多いが、カリウムを、よりイオン半径の小さなナトリウム、さらにはリチウムに置き換えることによって、酸素発生過電圧が上昇することが知られている。
【0006】
一方、電池が過放電となると、再度充電しても電池容量が完全には回復しないという問題が起こる。オキシ水酸化コバルトは通常の正極条件では安定で、アルカリ性電解液にも不溶である。しかし、電池が過放電となって正極電位と負極電位が近づいた場合、あるいは逆充電の状態になった場合は、オキシ水酸化コバルトは還元されてコバルト(Co)の酸化数が小さくなり、導電性が低下する。さらに還元されて水酸化コバルトに変化すると、電解液中に溶け出し、導電助剤としての機能を果たさなくなる。
【0007】
これに対して、オキシ水酸化コバルトの還元を抑制するための試みがなされている。特許文献2には、コバルトの酸化化合物にアンチモン等を添加する構成が提案されている。ただし、特許文献2には、コバルトの酸化化合物に添加する物質が多数列挙されているものの、実際に実験データとして評価されているのはマグネシウムやアルミニウムのごく一部について電池容量の変化を測定しているのみで、それ以外の物質についてどのような特性になり得るのかを推測させるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−261412号公報
【特許文献2】特開平10−50308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、充電状態での保存特性に優れ、かつ過放電状態になっても電池容量の回復特性に優れたアルカリ蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、水酸化ニッケルを主成分とする活物質粒子を有する正極と負極と電解液とを備えるアルカリ蓄電池であって、前記正極活物質粒子は水酸化ニッケルを含む芯層と、芯層の表面を被覆する導電補助層とを有し、前記導電補助層はオキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相を含み、前記電解液は水酸化ナトリウム水溶液を主成分とすることを特徴とする。
【0011】
導電補助層が二酸化セリウム相を含み、かつ電解液が水酸化ナトリウム水溶液を主成分とすることにより、過放電等の状況においてもオキシ水酸化コバルトの還元が抑制されるので、その後に電池を再充電したときの容量回復率を大きくすることができる。
また、導電補助層が二酸化セリウム相を含み、かつ電解液が水酸化ナトリウム水溶液を主成分とすることにより、充電状態で保存した場合にも、残存容量の減少を抑え、容量維持率を高くすることができる。
【0012】
好ましくは、前記電解液は、実質的に水酸化リチウムを含まないことを特徴とする。
また、好ましくは、前記正極活物質粒子中に含まれるリチウムは0.01質量%未満であることを特徴とする。
これにより、本発明の効果を一層大きくすることができ、過放電後の容量回復率および充電時の残存容量維持率をより大きなものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、充電状態での保存特性に優れ、かつ過放電状態になっても電池容量の回復特性に優れたアルカリ蓄電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例および比較例の一覧表である。
【図2】本発明の一実施形態に係る正極活物質の作製工程を示す図である。
【図3】コバルトセリウム化合物の還元電流量とセリウムイオンの含有割合との関係を示す図である。
【図4】コバルトセリウム化合物の比抵抗値とセリウムイオンの含有割合との関係を示す図である。
【図5】コバルトセリウム化合物の還元電流量と二酸化セリウム相の存在割合との関係を示す図である。
【図6】コバルトセリウム化合物の比抵抗値と二酸化セリウム相の存在割合との関係を示す図である。
【図7】コバルトセリウム化合物の評価装置の構成を示す図である。
【図8】コバルトセリウム化合物の一部を構成するオキシ水酸化コバルト相の結晶構造モデルである。
【図9】コバルトセリウム化合物の一部を構成する二酸化セリウム相の結晶構造モデルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の一実施形態であるアルカリ蓄電池について、これに用いる正極活物質粒子の構造を説明する。
活物質粒子は、水酸化ニッケルを含む芯層と、その表面を被覆する導電補助層からなる複合粒子である。
【0016】
水酸化ニッケルは、アルカリ蓄電池の充放電に伴って酸化・還元される活物質であり、活物質粒子の主成分である。
芯層は、水酸化ニッケルの改質のために、他の成分を含んでいてもよい。例えば、電極の膨潤を防ぐためにZnを含んでいてもよい。また、高温時の充電効率を改善するためにCoを含んでいることが好ましい。ただし、ZnとCoの濃度が高すぎると活物質の充填量が少なくなり、電池容量が低下するので、ZnとCoを合わせた濃度は5質量%以下とすることが好ましい。
また、活物質粒子中に含まれるリチウムは0.01質量%未満であることが好ましく、活物質粒子がリチウムを含まないことがさらに好ましい。
【0017】
導電補助層は、オキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相を含んでいる。導電補助層は、後述するように少量の四酸化三コバルト相を含んでいてもよい。また、導電補助層における、オキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相の合計に対する二酸化セリウム相の存在割合は、6.5質量%以上88.2質量%以下であることが好ましく、13.4質量%以上48.6質量%以下であることがさらに好ましい。
導電補助層が二酸化セリウム相を含むと、過放電や逆充電の状態となった場合に、オキシ水酸化コバルトが還元されることを抑制する効果が得られるからである。さらに、二酸化セリウム相の存在割合を上記好適な範囲とすることにより、導電補助層の抵抗値を低くすることができるからである。詳細は実施例に基づいて後述する。
【0018】
導電補助層に含まれるコバルトは当初より大半がオキシ水酸化コバルトとして存在するので、電池を使用する状態に至っても、オキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相が製造当初のままにミクロに混在した状態を維持することができる。
従来よりコバルトの化合物として水酸化コバルト等が用いられることがあるが、その場合には、水酸化コバルト等が電解液に溶解し、初回充電時に酸化されて、導電性の高いオキシ水酸化コバルトとして再析出することによって導電助剤としての機能を発揮できることとなる。したがって、水酸化コバルト相内に二酸化セリウム相が存在したとしてもコバルト化合物の溶解・再析出の過程でオキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相の分離が進行する。これに対して本発明では、オキシ水酸化コバルトの場合は溶解・再析出の過程を経ず、オキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相がミクロに混在した状態であるので、二酸化セリウム相によるオキシ水酸化コバルトの還元抑制効果が十分に発揮される。
コバルトの酸化数は、3.28価以上であることが好ましい。3.28価以上とすることで、還元を抑制する効果と導電補助層の抵抗値を低くする効果の両立ができる。なお、コバルトの酸化数は放射光XANES測定により求めた。また、0価のCoフォイル、2価のCo(OH)および2.666価のCoの測定値を検量線に用いて酸化数を算出した。
【0019】
導電補助層であるコバルトセリウム化合物の使用量(水酸化ニッケル粒子表面への被覆量)としては、コバルトセリウム化合物と水酸化ニッケルとの合計に対して0.1質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。水酸化ニッケル粒子の表面に導電補助層を析出させることにより、導電性のネットワークが形成されるので、内部抵抗の低いアルカリ蓄電池用電極を得ることができる。しかし、使用量が0.1質量%未満では、内部抵抗の十分に低いアルカリ蓄電池用電極を得ることができない。また、使用量が10質量%超では、電極に占めるニッケル活物質の量が相対的に減って、電池の容積効率が悪くなるからである。ただし、この使用量の好適範囲は、コバルトセリウム化合物に含まれるオキシ水酸化コバルト相および二酸化セリウム相の合計の含有割合が94質量%以上の場合には問題なく適用されるが、両相の含有割合が小さい場合には、オキシ水酸化コバルト相および二酸化セリウム相の合計量が同じ程度含まれるように、当該使用量範囲をより多い量を含む範囲に変更するのが好ましい。
【0020】
次に、本発明の一実施形態であるアルカリ蓄電池の構成は、上記正極活物質粒子を有し、電解液が水酸化ナトリウム水溶液を主成分とする以外は、公知のアルカリ蓄電池と同じとすることができる。
【0021】
電解液は、水酸化ナトリウム水溶液を主成分として、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を混合して使用することができる。
また、望ましくは実質的に水酸化リチウムを含まないことが好ましい。電解液が水酸化リチウムを含まないことによって、充電状態で保存したときの電池容量維持率をより高くすることができるからである。
ここで、「実質的に含まない」とは、電池材料および工程の設計上は水酸化リチウムを含まないが、意図しない不純物として含まれることは排除しないという意味である。特に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムは不純物として微量のリチウムを含むことがある。電解液中のリチウムの濃度が0.05質量%未満であれば、実質的に含まないといえる。
【0022】
さて、本発明者らは、導電補助層が二酸化セリウム相を含むことによるオキシ水酸化コバルト還元抑制の効果を確認し、適当なセリウムの含有量を決定するために詳細な検討を行った。具体的には、オキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相とを含む結晶構造を有する化合物の粒子(以下、コバルトセリウム化合物粒子ともいう)を作製し、粒子の結晶構造、比抵抗値および耐還元性を評価した。以下に詳細に説明する。
【0023】
試料となるコバルトセリウム化合物粒子は、コバルト化合物とセリウム化合物とを溶解してCoイオンとCeイオンを含む水溶液(以下「CoCe水溶液」と略すことがある)を、pHを一定に調整した溶液中に滴下して、コバルトとセリウムを含む水酸化物を水溶液中に析出させ、その水酸化物を酸化処理して作製する。溶解するコバルト化合物とセリウム化合物の割合を変えることで、得られる粒子中の化合物の濃度を調整することができる。
【0024】
硫酸コバルトと硝酸セリウムとを、所定の比率で、Co原子とCe原子との合計が1.6モル/L(リットル)になるように水に溶解して、CoCe水溶液を調製した。硫酸コバルトと硝酸セリウムの比率は、CoとCeの原子数比(Co:Ce)を100:0〜30:70の範囲で変化させた。
NaOH水溶液をpHを9、温度を45℃で一定に制御し、激しく撹拌しながら、その中に上記CoCe水溶液を滴下して、コバルトとセリウムを含む水酸化物を析出させた。滴下浴となるNaOH水溶液のpH調整は、18質量%のNaOH水溶液を適宜加えることによって行った。析出物をろ過によって回収、水洗、乾燥して、コバルトとセリウムを含む水酸化物の粒子を得た。
コバルトとセリウムを含む水酸化物粒子50gに対して、48質量%のNaOH水溶液40gを添加して、120℃で1時間、大気中で加熱し、次いでこれをろ過、水洗、乾燥して、目的のコバルトセリウム化合物粒子が得られた。
【0025】
得られたコバルトセリウム化合物粒子について、X線回折装置による測定結果をリートベルト法によって解析することで、結晶構造を特定すると共に、特定した結晶構造を有する相の存在割合の特定を行った。X線回折装置はBrukerAXS社製、品番MO6XCEを用い、測定条件は40kV、100mA(Cu管球)とした。リートベルト法による解析は、解析ソフトとしてRIETAN2000(F.Izumi,T.Ikeda,Mater.Sci.Forum,321−324(2000),p.198)を用いて行った。
【0026】
比抵抗値は、粉体抵抗測定により得た値である。粉体抵抗測定は、半径4mmの円形の型に試料粉末を50mg入れて10MPaで加圧して行った。この測定結果から試料粉末の比抵抗値(導電率の逆数)を求めることができる。
【0027】
試料の還元のされやすさは、図7に示す装置を用いて、還元電流を測定することによって評価した。
試料であるコバルトセリウム化合物粒子を発泡ニッケルに充填した作用極101と、参照極(Hg/HgO)102と、通常のニッケル水素電池の負極と同様の水素吸蔵合金極である対極103とを電解液(6.8モル/LのKOH水溶液)中に配置し、制御装置104によって参照極102を基準に作用極101の電位を設定した状態で、流れる電流を測定する。作用極101の電位はコバルトセリウム化合物粒子が還元反応を起こしやすい1V(対極103とほぼ同電位)に設定しておくことで、流れた電流は還元反応によって発生していることになり、その還元反応により流れる電流の積算値を求めることにより還元反応の起こりやすさを定量的に評価することができる。
【0028】
コバルトセリウム化合物粒子を充填した作用極101は、次の方法で作製した。合成したコバルトセリウム化合物粒子を1質量%のカルボキシルメチルセルロース(CMC)水溶液に添加混練し、そこへ40質量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水分散液を混合した。このときの比率は,コバルトセリウム化合物粒子:PTFE(固形分)=97:3とした。該正極ペーストを、厚さ1.4mm、面密度450g/mの発泡ニッケル基板に充填し、乾燥後ロール掛けして原板とした。該原板を2cm×2cmの寸法に裁断し、集電用タブを取り付け作用極101とした。該極板の充填量から算定されるコバルトセリウム化合物粒子の量は0.2gであった。
【0029】
コバルトセリウム化合物に含まれる結晶構造を解析した結果、コバルトセリウム化合物粒子は、菱面体構造で空間群R3m構造の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルト相(以下において、単に「オキシ水酸化コバルト相」と称する)と、ホタル石構造で空間群Fm3m構造の結晶構造を有する二酸化セリウム相(以下において、単に「二酸化セリウム相」と称する)とを主体として、コバルトセリウム化合物の作製条件によっては若干量の四酸化三コバルト結晶相を含むことがわかった。
【0030】
これらの結晶相のうち、重要なオキシ水酸化コバルト相及び二酸化セリウム相の結晶構造のリートベルト解析による解析結果を更に詳細に説明する。
オキシ水酸化コバルト相は、図8に結晶構造モデルを示すように、菱面体構造で空間群R3m構造の結晶構造を有しており、少なくともコバルト原子、酸素原子および水素原子を構成元素として含んでいる。そして、本発明のコバルトセリウム化合物においては、オキシ水酸化コバルト相はセリウム原子を含むことができる。これらの原子は、図8で示す所定のサイトに配置されている。具体的には、3al,3a2サイトにCoまたはCe、3a3,9bサイトに酸素原子(水分子、水酸イオンを構成する酸素原子を含む)が配置されている。このようにセリウムが含まれる場合には3al,3a2サイトに配置される。なお、3a4サイトには、原子が配置されていなくても良いが、同図のようにNaを配置することが好ましい。3a4サイトへのNaの配置は、コバルトとセリウムとを含む水酸化物を加熱処理する際に水酸化ナトリウムを共存させることによっておこなうことができる。このようにNaを含むことで、製造工程における酸化処理において、酸化を容易に進行させることができる。
【0031】
二酸化セリウム相は、図9に結晶構造モデルを示すように、ホタル石構造で空間群Fm3m構造の結晶構造を有しており、少なくともセリウム原子および酸素原子を構成元素として含んでいる。そして、本試料のコバルトセリウム化合物においては、二酸化セリウム相はコバルト原子を含むことができる。これらの原子は、図9で示す所定のサイトに配置されている。具体的には、4aサイトにCoまたはCe、8cサイトに酸素原子が配置されている。このように、二酸化セリウム相においては、コバルトが含まれる場合には、コバルトはセリウムの一部を置換している。
【0032】
表1に、得られたコバルトセリウム化合物粒子の比抵抗および還元電流の測定結果、ならびに各結晶相の含有割合を示す。
表中「セリウムの含有割合」とは、コバルトセリウム化合物の製造過程におけるコバルトイオンとセリウムイオンを含む水溶液中の、CoイオンとCeイオンとの合計に対するCeイオンの含有割合を原子%で表したものである。比抵抗値とは、上記の粉体抵抗測定により得た値である。還元電流量とは、上記の方法によって測定したもので、1時間の積算電流量である。結晶相の含有割合とは、リートベルト解析によって求めた値で、コバルトセリウム化合物中のオキシ水酸化コバルト相、二酸化セリウム相および四酸化三コバルト相の含有割合を質量%で表したものである。また、二酸化セリウム相の存在割合とは、コバルトセリウム化合物中における、オキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相との合計に対する二酸化セリウム相の存在割合を、各相の含有割合から算出したものである。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から還元電流量とセリウムの含有割合(表1の左端の欄)との関係をグラフにプロットしたものを図3に示す。図3にはアルミニウムを含有する化合物のデータを併記しているが、これについては後述する。
図3のデータから、セリウムの含有割合が1原子%であっても、還元電流量が急激に小さくなっている。すなわち、セリウムの含有割合が1原子%以上であると、急激に還元反応が起こりにくくなっていることを示している。還元電流量は、セリウムの含有割合が10原子%以上になるとさらに小さくなり、30原子%以上ではさらに小さく、データのある70原子%に至るまで低い値を維持している。
【0035】
表1から比抵抗値とセリウムの含有割合(表1の左端の欄)との関係をグラフにプロットしたものを図4に示す。図4でもアルミニウムを含有する化合物のデータを併記しているが、これについても後述する。
図4のデータから、比抵抗値は、セリウムの含有割合が1〜40原子%のときは、セリウムを全く添加していない状態とほとんど変わらない低い値を維持している。セリウムイオンの含有割合が50原子%以上になると比抵抗値が上昇するが、実用的には十分に小さい値である。
【0036】
次に、表1から還元電流量と二酸化セリウム相の存在割合(表1の右端の欄)との関係をグラフにプロットしたものを図5に示す。
図5のデータでも、図3のデータと対応して、二酸化セリウム相の存在によって、還元電流量が急激に小さくなっていることが分かる。すなわち、二酸化セリウム相の存在によって、還元反応が起こりにくくなっていることが分かる。二酸化セリウム相の存在割合が6.5質量%であっても還元電流量が急激に小さくなっている。還元電流量は、二酸化セリウム相の存在割合が13.4質量%以上になるとさらに小さくなり、40.0質量%以上ではさらに小さく、データのある88.2質量%に至るまで低い値を維持している。
【0037】
更に、表1から比抵抗値と二酸化セリウム相の存在割合(表1の右端の欄)との関係をグラフにプロットしたものを図6に示す。
図6のデータでも図4のデータと対応して、比抵抗値は、セリウムの含有割合が40原子%に対応する二酸化セリウムの存在割合が48.6質量%以下のときは、セリウムを全く添加していない状態とほとんど変わらない低い値を維持している。セリウムイオンの含有割合が50原子%に対応する二酸化セリウムの存在割合が88.2質量%では比抵抗値が上昇しているが、実用的には十分に小さい値である。
【0038】
次に、上記実験データとの比較のために、セリウム以外の物質を添加したコバルト化合物についての実験結果を示す。コバルト化合物に添加する物質として、アルミニウム(Al),マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)、及び、鉄(Fe)を用いた。これらの各物質について、上記のセリウムの場合と同様の処理を行ってコバルトとの化合物を作製し、上記と同様の比抵抗及び還元電流の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2において「添加元素の含有割合」は、表1における「セリウムの含有割合」と同様に、製造過程におけるコバルトイオンと各元素のイオンを含む水溶液中の、コバルトイオンと各元素のイオンとの合計に対する各元素のイオンの含有割合を原子%で示したものである。比抵抗値及び還元電流量は表1と同様である。
表2に示すように、アルミニウムについては添加元素の含有割合を3段階に変化させており、他の元素については30原子%で代表させておおよその特性を把握した。
【0041】
表2におけるアルミニウムを添加したコバルト化合物すなわちコバルトアルミニウム化合物についてのデータは、上述の図3及び図4にコバルトセリウム化合物と併せて示している。
コバルトセリウム化合物とコバルトアルミニウム化合物とを比較すると、還元電流量に関しては、コバルトセリウム化合物よりもかなり高い値であるものの、アルミニウムの増加に対して一応の減少傾向を示している。従って、アルミニウムの含有割合を更に大きくすると還元電流量を更に小さくできることが期待される。
【0042】
しかしながら、図4の比抵抗値のグラフでコバルトセリウム化合物とコバルトアルミニウム化合物とを比較すると、アルミニウムの含有割合の増大に対して比抵抗値が急激に増大している。これは、本来の目的である導電助剤としての機能を著しく損なうことを意味している。
【0043】
更に、表2における他の元素に関しては、マンガンについては、比抵抗値の値は小さいが還元電流量が大きく耐還元性が低いことを示しており、マグネシウムやイットリウムについては比抵抗値が非常に大きく、更に、鉄については還元電流量が大となっている。
コバルトセリウム化合物をこのような種々の元素を添加したコバルト化合物と比較すると、還元電流量及び比抵抗値の双方で極めて良好な値を示している点でコバルトセリウム化合物は特異な存在であると言える。
【0044】
以上の検討結果から、耐還元性と低抵抗値との双方を要求されるアルカリ蓄電池用正極の導電補助に用いられる物質としては、オキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相とを含み、二酸化セリウム相の存在割合がオキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相との合計に対して6.5質量%以上で88.2質量%以下となっているコバルトセリウム化合物が、そのような要求に的確に応えるものであることが分かった。また、二酸化セリウム相の存在割合は、13.4質量%以上48.6質量%以下であることがさらに好ましいことが分かった。
また、上記好ましい二酸化セリウムの存在割合を実現するには、コバルトイオンとセリウムイオンを含む水溶液中のセリウムの含有割合(Ce/(Co+Ce)の原子%)を、5原子%以上70原子%以下とすればよく、10原子%以上40原子%以下とすればさらに好ましいことが分かった。
【0045】
そして、コバルトセリウム化合物においては、オキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相とが主体として存在していることが好ましく、具体的には、これら二つの相の合計が50質量%以上、好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは94質量%以上、98質量%以上であることが好ましい。
【0046】
次に、本発明の一実施形態であるニッケル水素電池を製造する方法を説明する。
まず、活物質粒子は、図2に示すように、水酸化ニッケル粒子の作製、その表面へのコバルトとセリウムを含む水酸化物層の析出、コバルトとセリウムを含む水酸化物被覆層の酸化処理を行うことによって、作製することができる。
【0047】
芯層となる水酸化ニッケルを含む粒子は、ニッケル化合物を溶解した水溶液(以下、「Ni水溶液」と略すことがある)のpHを変化させることによって、作製することができる。具体的には、硫酸ニッケルなどの強酸の塩の水溶液を作製し、この水溶液のpHをアルカリ性に変化させることによって、Ni(OH)の粒子を析出させることができる。析出物を、ろ過によって回収し、これを水洗、乾燥することによって、球状の水酸化ニッケル粒子が得られる。
【0048】
ニッケル化合物としては、硫酸ニッケルなどの、水溶性の各種化合物を用いることができる。また、水溶液にアンモニウム化合物を加えることで、ニッケルのアンミン錯体を生成してもよい。
【0049】
pHを変化させる方法としては、pHを一定に制御した析出浴中に前記Ni水溶液を滴下することや、Ni水溶液にアルカリ水溶液を添加することができる。
Ni水溶液を滴下する方法の具体的な例としては、硫酸ニッケルが溶解した水溶液を、激しく撹拌しながら、pHを12、温度を45℃で一定に制御した1モル/Lの濃度の硫酸アンモニウム水溶液中に滴下することによって、水酸化ニッケルの粒子を析出させることができる。pHの調整は、例えば18質量%のNaOH水溶液を適宜添加することによって行うことができる。
Ni水溶液にアルカリ水溶液を添加する方法の具体的な例としては、Ni水溶液に、硫酸アンモニウムとNaOH水溶液を添加してアンミン錯体を生成させ、反応系を激しく撹拌しながら、さらにNaOH水溶液を滴下し、反応浴の温度を45±2℃、pHを12±0.2に制御することによって、水酸化ニッケルの粒子を析出させることができる。
【0050】
また、ニッケル以外の元素を添加する場合には、ニッケル化合物とともに、添加する元素の化合物を水溶液に溶解することができる。例えば、Ni化合物とともに、ZnやCoの各種水溶性の化合物を溶解しておき、水溶液のpHを変化させることで、水酸化ニッケル中のNiの一部がZnやCoによって置換された水酸化ニッケル(以下において、単に「水酸化ニッケル」と称する)の球状粒子が得られる。
【0051】
水酸化ニッケルを含む芯層粒子の表面にコバルトとセリウムを含む水酸化物層を析出させるには、水酸化ニッケル粒子を分散したpH調整済みの水溶液に、コバルトイオンとセリウムイオンを含む水溶液(以下、「CoCe水溶液」と略すことがある)を滴下する方法を用いることができる。
【0052】
CoCe水溶液は、コバルトの化合物とセリウムの化合物を水に溶解することで調製する。コバルトおよびセリウムの化合物としては、硫酸コバルト、硝酸セリウムなどの、各種の水溶性の化合物を用いることができる。このとき、溶解するコバルト化合物とセリウム化合物の割合を変えることで、析出物中のコバルトおよびセリウムの濃度を調整することができる。
【0053】
具体的な例は次の通りである。0.1モル/Lの硫酸アンモニウム水溶液に、水酸化ニッケル粒子を混合・分散し、pHを9、温度を45℃で一定に制御し、激しく撹拌する。pHの調整には、例えば18質量%のNaOH水溶液を用いることができる。この溶液中に、硫酸コバルトと硝酸セリウムを所定の割合で溶解した水溶液を滴下する。これによって,水酸化ニッケル粒子の表面にコバルトとセリウムとを含む水酸化物が析出する。固形分をろ過によって回収、水洗、乾燥して、コバルトとセリウムとを含む水酸化物がコートされた水酸化ニッケルの粒子が得られる。
【0054】
この水酸化ニッケルの表面がコバルトとセリウムを含む水酸化物層で被覆された複合粒子を酸化処理することによって、水酸化ニッケルを含む芯層粒子の表面がコバルトセリウム化合物で被覆された複合粒子を得ることができる。
【0055】
酸化処理は、水酸化ナトリウムを主成分とするアルカリ水溶液と酸素との共存下で加熱することが好ましい。なぜなら、ナトリウムは水酸化物中のコバルトの酸化を促進する作用があるからである。
使用する水酸化ナトリウムの量は,Na/(Co+Ce+Ni)がモル比で0.5以上となるように混合することが好ましい。
加熱温度は、60℃以上で水酸化ナトリウム水溶液の沸点以下、好ましくは100℃以上で水酸化ナトリウム水溶液の沸点以下とすることができる。
【0056】
より具体的な酸化処理の例としては、水酸化ニッケルを含む芯層粒子の表面がコバルトとセリウムを含む水酸化物層で被覆された粒子50gに対して、濃度が48質量%のNaOH水溶液40gを添加して、120℃で1時間、大気中で加熱することができる。なお、48質量%NaOH水溶液の沸点は、大気圧下で138℃である。その後固形分を回収、水洗、乾燥することによって、水酸化ニッケルを含む芯層粒子の表面がコバルトセリウム化合物で被覆された複合粒子を得ることができる。
【0057】
表面を被覆するコバルトセリウム化合物は、前述したX線回折による構造解析の結果から、空間群R3m構造の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルト相と、ホタル石構造で空間群Fm3m構造の結晶構造を有する二酸化セリウム相とを主体として、若干量の四酸化三コバルト結晶相を含むことがあると考えられる。また、NaOH水溶液と共存させて酸化処理を行うと、オキシ水酸化コバルト相にはNa原子が侵入しているものと考えられる。
【0058】
以上の方法によって、本実施形態にかかる正極活物質粒子を作製することができた。
これを用いて本実施形態の電池を製造する方法は、水酸化ナトリウム水溶液を主成分とする電解液を用いる以外は、公知の方法を用いることができる。概略以下の通りである。
【0059】
上記活物質粒子に増粘剤(カルボキシメチルセルロース等)の水溶液と、必要に応じて他の添加剤を混合してペースト状とする。このペーストを多孔質の発泡ニッケル基材などの電子伝導性のある基材に充填し、乾燥させた後、所定の厚さにプレスして、正極板とする。
【0060】
水素吸蔵合金粉末に、増粘剤(メチルセルロース等)の水溶液、結着剤その他の添加剤を加えてペースト状にし、穿孔鋼板等の両面に塗布して乾燥させた後、所定の厚さにプレスして、負極板とする。
【0061】
正極板と負極板とを、スルフォン化処理を施したセパレータを介して渦巻き状に捲回して電極群とする。これを円筒状の金属ケースに収納し、水酸化ナトリウム水溶液を主成分とする電解液を注液し、安全弁を備えた金属製蓋体で封口することにより、ニッケル水素蓄電池を作製することができる。
【実施例】
【0062】
次に本発明のアルカリ蓄電池の効果を、ニッケル水素蓄電池の実施例に基づいて、以下に説明する。
【0063】
(実施例1)
硫酸ニッケル、硫酸亜鉛および硫酸コバルトを溶解した水溶液を、激しく撹拌しながらpH12、温度45℃で一定に制御した1モル/Lの硫酸アンモニウム水溶液中に滴下した。pHの調整は18質量%のNaOH水溶液を用いて行った。ついで、析出物をろ過によって回収、水洗、乾燥した、球状の水酸化ニッケル粒子を得た。水酸化ニッケルはZnを3質量%、Coを0.6質量%固溶していた。
【0064】
得られた水酸化ニッケル粒子を0.1モル/Lの硫酸アンモニウム水溶液に加え、激しく撹拌しながらpH9、温度45℃で一定に制御した。pHの調整は18質量%のNaOH水溶液を用いて行った。この溶液中に、硫酸コバルトと硝酸セリウムを、Co原子とCe原子との合計が1.6モル/Lで、Co:Ceの原子数比を8:2として溶解した水溶液を滴下して、水酸化ニッケル粒子の表面に、コバルトとセリウムを含む水酸化物層を析出させた。次いで、ろ過、水洗、乾燥して、セリウムとコバルトとを含む水酸化物がコートされた水酸化ニッケルの粒子が得られた。水酸化ニッケル粒子表面の析出物の量は、水酸化粒子の質量に対して7質量%であった。
【0065】
得られた複合粒子50gに対して、48質量%のNaOH水溶液40gを添加して、120℃で1時間、大気中で加熱して、酸化処理を行った。処理後の粒子をろ過によって回収、水洗、乾燥して、水酸化ニッケルの芯層粒子の表面をコバルトセリウム化合物からなる導電補助層で被覆した活物質粒子を得た。
【0066】
得られた活物質粒子の表面を被覆するコバルトセリウム化合物は、表1における「セリウム含有割合」が20原子%である水溶液を原料として作製されたので、その組成は表1のデータを内挿することにより推定することができる。そのおおよその組成は、オキシ水酸化コバルト相を約70質量%、二酸化セリウム相を約26質量%、四酸化三コバルト結晶相を約4質量%含むものと考えられる。
【0067】
得られた活物質粒子と増粘剤であるカルボキシルメチルセルロースの1質量%水溶液と酸化イッテルビウム2質量%を添加混練してペーストを作製し、基材密度が380g/mの発泡ニッケル基板に充填し、乾燥させた後、厚さ0.93mmにプレスすることによって、2000mAhの正極板とした。
【0068】
平均粒径D50=50μmに粉砕したLa0.64Pr0.20Mg0.16Ni3.50Al0.15組成の水素吸蔵合金粉末を110℃で2時間、8モル/Lの水酸化カリウム水溶液中に浸漬させたのち,pHが10となるまで水洗を繰り返した。乾燥後の粉末100質量部に増粘剤(メチルセルロース)を溶解した水溶液を加え、さらに結着剤(スチレンブタジエンゴム)を1質量部加えてペースト状にしたものを厚さ35μmの穿孔鋼板(開口率50%)の両面に塗布して乾燥させた後、厚さ0.33mmにプレスして、2800mAhの負極板とした。
【0069】
正極と負極とを、スルフォン化処理を施したセパレータを介して渦巻き状に捲回して電極群とし、円筒状の金属ケースに収納した。つぎに、電解液として7モル/LのNaOH水溶液1.95mLを注液し、安全弁を備えた金属製蓋体で封口して、2000mAh、AAサイズのニッケル水素蓄電池を作製した。
【0070】
(比較例1)
電解液に7モル/LのKOH水溶液を使用した以外は、上記実施例1と同じ方法により作製した。
【0071】
(比較例2)
硫酸コバルトと硝酸セリウムを溶解した水溶液の代わりに硫酸コバルトのみを溶解した水溶液を用いて、導電補助層に二酸化セリウム層を含まない活物質粒子を作製し、これを使用した以外は、実施例1と同じ方法により作製した。
【0072】
(比較例3)
比較例2と同じ方法で導電補助層に二酸化セリウム層を含まない活物質粒子を作製して使用したことと、電解液に7モル/LのKOH水溶液を使用した以外は、実施例1と同じ方法により作製した。
【0073】
(初期化成)
上記の通り作製した電池について、以下の手順で初期化成を行った。充電を20℃で0.1ItA(200mA)で12時間、次いで放電を0.2ItA(400mA)で1Vとなるまで行い、これを2サイクル繰り返した。その後、40℃で48時間保存した。そして、充電を20℃で0.1ItA(200mA)で16時間、休止1時間、放電を0.2ItA(400mA)で1Vとなるまで行い、これを3サイクル繰り返し、化成を終了した。
【0074】
(残存放電容量・残存容量維持率の測定方法)
充電を20℃で0.1ItA(200mA)で16時間、休止1時間、放電を0.2ItA(400mA)で1Vとなるまでおこない、保存前の放電容量を測定した。そして、0.1ItA(200mA)で16時間充電した後、45℃で14日間保存した。その後、環境温度を20℃にし、放電を0.2ItA(400mA)で1Vとなるまでおこない、残存放電容量をもとめた。
残存容量維持率(%)=(残存放電容量/保存前の放電容量)×100 とした。
【0075】
(過放電後の回復放電容量・放電容量回復率の測定方法)
充電を20℃で0.1ItA(200mA)で16時間、休止1時間、放電を0.2ItA(400mA)で1Vとなるまでおこない、過放電前の放電容量を測定した。そして、60℃で3Ωの抵抗を6時間接続し、過放電をおこなった。その後、充電を20℃で0.1ItA(200mA)で16時間、休止1時間、放電を0.2ItA(400mA)で1Vとなるまでおこない、回復放電容量をもとめた。
放電容量回復率(%)=(回復放電容量/過放電前の放電容量)×100 とした。
【0076】
(活物質中のLiの定量)
活物質中のLi濃度は、電池を解体して正極活物質を取り出し、高周波プラズマ発光分校分析装置(Thermo Jarrell Ash社、IRIS/AP)を用いてICP発光分光分析で定量した。
【0077】
(試験結果)
後述する実施例および比較例と併せて、測定結果の一覧を図1に示す。
表中、導電補助層の欄に「Co」とあるのは水酸化ニッケルの芯層の表面にオキシ水酸化コバルトのみを被覆し、「Co,Ce]とあるのは、コバルトセリウム化合物を被覆し、CoCe水溶液中のCe含有割合が20原子%である試料を示す。Li濃度、放電容量回復率および残存容量維持率は、それぞれ前記の方法で測定したものである。
【0078】
実施例1と比較例1〜3との比較により、二酸化セリウムおよびNaOHが、残存容量維持率および放電容量回復率に及ぼす効果を確認することができる。
【0079】
まず、残存容量維持率について見る。
比較例3と比較例2との比較により、電解液をKOHからNaOHに変えることによって、残存容量維持率が84.8%から87.3%へと2.5%大きくなっている。これは、NaOHを用いることによって酸素発生過電圧が大きくなった(酸素発生電位が貴にシフトした)ことによると考えられる。
比較例3と比較例1との比較により、導電補助層をオキシ水酸化コバルトからオキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相を含むコバルトセリウム化合物に変えることによって、残存容量維持率は84.8%から86.7%へと1.9%大きくなっている。この理由も、酸素発生過電圧が大きくなったことによると思われる。
実施例1では、残存容量維持率は90.5%と、比較例2、3よりも一段と大きくなっており、比較例1に上記NaOHと二酸化セリウム相の効果を単純に加えたものよりも大きい。この結果から、二酸化セリウムとNaOHの相乗効果があったものと判断できる。
【0080】
次に、放電容量回復率について見る。
実施例1の放電容量回復率は99.9%で、過放電を経てもほぼ初期の容量を回復している。この結果から、過放電状態においてもCoOOHの還元がほとんど進行していないことが示唆される。
この放電容量回復率は、比較例3の96.5%のみならず、比較例1(実施例1と同様に二酸化セリウムを含む)の97.3%と比べても高く、二酸化セリウムとNaOHによる顕著な相乗効果を示している。
【0081】
(実施例2)
電解液に8モル/LのNaOH水溶液を使用した以外は、実施例1と同じ方法により作製した。
【0082】
(実施例3)
電解液に、7モル/LのNaOHと1モル/LのLiOHを含む水溶液を使用した以外は、実施例1と同じ方法により作製した。
【0083】
(比較例4)
電解液に、7モル/LのKOHと1モル/LのLiOHを含む水溶液を使用した以外は、実施例1と同じ方法により作製した。
【0084】
(比較例5)
比較例2と同じ方法で導電補助層に二酸化セリウム層を含まない活物質粒子を作製して使用したことと、電解液に7モル/LのNaOH水溶液と0.25モル/LのLiOHを含む水溶液を使用した以外は、実施例1と同じ方法により作製した。
【0085】
(比較例6)
比較例2と同じ方法で導電補助層に二酸化セリウム層を含まない活物質粒子を作製して使用したことと、電解液に7モル/LのKOHと1モル/LのLiOHを含む水溶液を使用した以外は、実施例1と同じ方法により作製した。
【0086】
(試験結果)
実施例1〜3および比較例1〜6について、適当な組み合わせで比較を行うことによって、正極活物質中のLiおよび電解液中のLiOHの影響を確認することができる。
【0087】
実施例1と実施例3を比較すると、実施例1の方が残存容量維持率が高く、本発明による効果が大きく出ている。両者の違いは、実施例3の電解液がLiOHを含み、その結果活物質がLiを含むことである。LiOHは酸素発生過電圧を大きくすることが知られているので、この結果を酸素発生過電圧の変化で説明することはできない。原因は明らかではないが、充電末期において自己放電しやすいγ型NiOOHの生成の有無または程度の違いによる可能性がある。試験後の正極活物質中のLi濃度は、実施例1では0.01質量%未満であったのに対して、実施例3では0.08質量%であった。実施例1および実施例3の正極活物質作製工程ではLiを含む材料は用いていないが、実施例3では電解液にLiOHを用いた結果、正極活物質中にLiが侵入したものと考えられる。そして、正極活物質中のLiの存在によって、実施例1と比べてγ型NiOOHが生成しやすかった可能性がある。
【0088】
総電解質濃度が等しい実施例2と実施例3との比較でも、上記と同様に、実施例2の方が残存容量維持率が高くなっている。実施例2の正極活物質中のLi濃度も0.01質量%未満と考えられる。Li分析は行わなかったが、電解液のNaOH濃度が異なる他は、すべて実施例1と同じ材料・工程で作製されたからである。
【0089】
電解液中のLiOHの影響は、比較例1と比較例4、比較例2と比較例5、比較例3と比較例6の、それぞれ残存容量維持率を比較することによっても認められる。いずれもLiOHを含む電池(比較例4、比較例5、比較例6)の方が残存容量維持率が低く、同じ傾向を示している。ただし、比較例2と比較例5の残存容量維持率はそれぞれ87.3%と87.0%で、その差は小さく、ほぼ同じであった。比較例5のLiOH濃度が0.25モル/Lと小さかったために、顕著な差が出なかったものと考えられる。
【0090】
以上の結果から、電解液は実質的にLiOHを含まないことが好ましく、正極活物質は実質的にLiを含まないことが好ましいものと判断できる。
【0091】
以上の通り、本発明の一実施形態として、巻回電極体を有するニッケル水素電池について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。本発明の特徴は、水酸化ニッケルを主成分とする正極活物質粒子表面の導電補助層とアルカリ電解液の組成にあるのであるから、ニッケル−カドミウム電池その他のアルカリ蓄電池としても実施することができる。また、巻回型以外の積層型その他種々の形態の電極体を有する電池として実施することができる。
【符号の説明】
【0092】
101 作用極
102 参照極
103 対極
104 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケルを主成分とする活物質粒子を有する正極と、負極と、電解液とを備えるアルカリ蓄電池であって、
前記正極活物質粒子は、水酸化ニッケルを含む芯層と、前記芯層の表面を被覆する導電補助層とを有し、
前記導電補助層は、オキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相を含み、
前記電解液は、水酸化ナトリウム水溶液を主成分とする
ことを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項2】
前記電解液は、実質的に水酸化リチウムを含まない
ことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項3】
前記正極活物質粒子中に含まれるリチウムは0.01質量%未満である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のアルカリ蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−146467(P2012−146467A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3426(P2011−3426)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】