説明

アルカリ蓄電池

【課題】希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の組成の量論比を最適化して、高出力と出力安定性を維持しつつ、小型化とメモリー効果抑制が可能なアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】アルカリ蓄電池10は、水素吸蔵合金を主成分とする負極11と、水酸化ニッケルを主成分とする正極12と、セパレータ13とからなる電極群を電解液とともに外装缶17内に備えている。水素吸蔵合金は、一般式がLaxNdyRe1-x-y-zMgzNin-m-vAlmv(Re:Yを含む希土類元素(LaおよびNdを除く)から選択される少なくとも1種の元素、T:Co、Mn、Znから選択される少なくとも1種の元素)で表され、かつ、0.13≦x≦0.34、0.14≦y≦0.60、0.10≦z≦0.15、3.50≦n≦3.75、0.13≦m≦0.22、v≧0の条件を満たすものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)等の高出力で大電流放電を必要とする用途(高出力・大電流用途)に適した水素吸蔵合金を負極に備えたアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金を負極に備えたアルカリ蓄電池は、安全性にも優れているという点からHEV用等といった高出力で大電流放電を必要とする用途(高出力・大電流用途)に用いられている。ところで、アルカリ蓄電池の負極に用いられる水素吸蔵合金は、一般的には、AB2型構造あるいはAB5型構造の単一相から構成されたものが用いられている。ところが、従来の範囲をはるかに超えた高出力や大電流放電性能が要望されるようになり、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金のように、AB2型構造とAB5型構造を組み合わせたA27型構造やA519型構造を主相として含むものが提案されるようになった。なお、AB2型構造、AB5型構造、A27型構造、A519型構造において、A成分は希土類とMgの量論比の和を表し、B成分はNi成分と、希土類およびMg以外の成分の量論比の和を表している。
【0003】
ここで、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、B成分(主に、Ni)の化学量論比によって結構構造が変態し、B成分の化学量論比が増加するに従ってA27型構造からA519型構造が構成されやすくなる。この場合、A519型構造は、AB2型構造が2層とAB5型構造が3層を周期として積み重なり合った構造を含むので、単位結晶格子当たりのニッケル比率を向上させることができるものである。このため、A519型構造を主相として含む(比較的多く含む)希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を負極に備えたアルカリ蓄電池は、特に優れた高出力を示す電池であるとして、特許文献1や特許文献2や特許文献3等で提案されるようになった。
【0004】
近年、HEV用途などに用いられるアルカリ蓄電池において、上述したような従来の範囲を超える高出力で大電流放電性能の他に、コストダウンや、部分充放電使用範囲(例えば、SOC(State Of Charge)が20〜80%の範囲)における出力安定性(SOC変動に伴う出力変動が小さいこと)や、メモリー効果の抑制などの更なる性能向上が要望されるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−300108号公報
【特許文献2】特開2009−054514号公報
【特許文献3】特開2009−087631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、コストダウンの要望に対しては、希土類−Mg−Ni系合金の希土類を低コストであるLaに置換した希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いることが検討されている。ところが、Laの含有量を増大させると、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の水素平衡圧の平坦性、即ち、出力安定性が顕著に低下するという新たな問題が生じるようになった。そこで、成分設計により水素吸蔵合金の結晶制御の種々の試みを行った結果、所定量のLa量を含む希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の場合、所定量のMg量とすることにより、結晶構造が安定化し、水素平衡圧の平坦性、即ち、出力安定性を改善できることが分かった。
【0007】
この場合、所定量のLa量を含む希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金において、Mgの含有量を増加させると、今度は、水素吸蔵合金の微粉化が加速されて、水素吸蔵合金の劣化が進行し易いという新たな問題が生じるようになった。また、所定量のLa量を含む希土類−Mg−Ni系合金の場合、所定量のAl量を含有させることで、水素吸蔵合金の結晶構造を安定化させて、水素平衡圧の平坦性、即ち、出力安定性を改善できることが分かった。
【0008】
しかしながら、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金に含まれるAlは、Niと比較して標準電極電位が卑であるために、アルカリ電解液中に溶出しやすいという問題があった。このため、Alの含有量を増加させた希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を負極に用いてアルカリ蓄電池を構成する場合、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金からアルカリ電解液中にAlが溶出し、これがニッケル正極へ移動して正極活物質内に侵入し、アルカリ蓄電池の耐久性(出力耐久性)が低下するといった新たな問題も生じるようになった。
【0009】
また、アルカリ蓄電池のコストダウンとしてサイズダウン(小型化)した場合、これに伴う水素吸蔵合金負極のサイズダウンにより、出力安定性の低下が顕著に現れる課題があった。さらに、正極活物質中に所定量のZnを含有させることでメモリー効果が抑制されることがわかったが、Zn量を増加させた場合、充電時の電池電圧の立ち上がりが早くなり、出力安定性が低下する課題があった。
【0010】
そこで、本発明は上記した問題を解決するためになされたものであって、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の組成の量論比を最適化して、高出力と出力安定性を維持しつつ、電池サイズダウン(小型化)とメモリー効果抑制が可能なアルカリ蓄電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のアルカリ蓄電池は、水素吸蔵合金を主成分とする水素吸蔵合金負極と、水酸化ニッケルを主成分とするニッケル正極と、セパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えている。そして、上記課題を解決するため、水素吸蔵合金は、一般式がLaxNdyRe1-x-y-zMgzNin-m-vAlmv(Re:Yを含む希土類元素(LaおよびNdを除く)から選択される少なくとも1種の元素、T:Co、Mn、Znから選択される少なくとも1種の元素)で表され、かつ、0.13≦x≦0.34、0.14≦y≦0.60、0.10≦z≦0.15、3.50≦n≦3.75、0.13≦m≦0.22、v≧0の条件を満たすものであることを特徴とする。
【0012】
ここで、一般式がLaxNdyRe1-x-y-zMgzNin-m-vAlmv(Re:Yを含む希土類元素(LaおよびNdを除く)から選択される少なくとも1種の元素、T:Co、Mn、Znから選択される少なくとも1種の元素)で表される希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金において、0.13≦x≦0.34、0.14≦y≦0.60、0.10≦z≦0.15、3.50≦n≦3.75、0.13≦m≦0.22、v≧0の条件を満たす水素吸蔵合金を負極に用いることで、従来レベルの高出力で、しかも出力安定性を維持し、かつ安価なアルカリ蓄電池を提供することが可能になるとともに、電池サイズダウン、メモリー効果抑制仕様においても高出力性能を維持することが可能となる。
【0013】
この場合、Laの量論比xが0.13以上で、0.34以下(0.13≦x≦0.34)で、かつNdの量論比yが0.14以上で、0.60以下(0.14≦y≦0.60)であると、コストダウンの要望に応えることができるとともに、高出力特性を達成することが可能となる。また、Mgの量論比zが0.16以上になると水素吸蔵合金の微粉化が進行して、耐食性が低下するようになる。一方、Mgの量論比zが0.15以下であると、耐食性特性がそれほど低下していないことが分かった。この場合、Mgの量論比zが0.10よりも小さくなると、水素吸蔵合金の平衡圧が低下して、電池としての機能が損なわれるため、結局、Mgの量論比zは0.10以上で、0.15以下(0.10≦z≦0.15)であるのが望ましいこととなる。
【0014】
また、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金において、A成分(希土類元素とMg)に対するB成分(Niと、希土類、Mg以外)の量論比(n)が3.45と低いと、水素平衡圧が低くなって、SOC20%出力およびSOC50%出力が低下することが明らかになった。一方、量論比(n)が3.75よりも多くなると、水素平衡圧の上昇が大きくなって、耐食性が低下することが明らかになった。これらに対して、A成分に対するB成分の量論比(n)が3.50以上で3.75以下(3.50≦n≦3.75)の範囲内であれば、SOC20%出力およびSOC50%出力が向上し、かつ耐食性特性が維持できることが明らかになった。これらのことから、A成分に対するB成分の量論比(n)が3.50以上で3.75以下(3.50≦n≦3.75)に規制するのが望ましいということができる。
【0015】
また、水素吸蔵合金に添加されるAlの量論比(m)が0.22より多くなると、水素吸蔵合金からアルカリ電解液中にAlが多量に溶出し、これがニッケル正極へ移動して正極活物質内に侵入し、アルカリ蓄電池の耐久性が低下するといった不具合が発生する。一方、水素吸蔵合金に添加されるAlの量論比(m)が0.13未満であると、結晶構造が不安定となって、プラトー性が低下し、安定な出力を取り出すことが困難となる。このため、Alの量論比(m)は0.13以上で0.22以下(0.13≦m≦0.22)に規制するのが望ましいということができる。
【0016】
以上の結果を総合勘案すると、一般式がLaxNdyRe1-x-y-zMgzNin-m-vAlmv(Re:Yを含む希土類元素(LaおよびNdを除く)から選択される少なくとも1種の元素、T:Co、Mn、Znから選択される少なくとも1種の元素)で表され、かつ、0.13≦x≦0.34、0.14≦y≦0.60、0.10≦z≦0.15、3.50≦n≦3.75、0.13≦m≦0.22、v≧0の条件を満たす水素吸蔵合金を負極に用いるのが望ましいこととなる。なお、元素Tとして、Co、Mn、Znから選択して添加すると、各元素は水素吸蔵に関する性能への影響が小さく、無添加の場合と同様の効果を引き出せる。この場合、元素Tの量論比(v)の上限値は0.10であるのが望ましい。
【0017】
ここで、水素吸蔵合金を負極に用いたアルカリ蓄電池において、負極容量α(Ah)と負極表面積β(cm2)の比β/αが60cm2/Ah以上になるのに伴って、負極の構造が薄長くなり、必然的にニッケル正極との対向面積が増加するとともに電池抵抗も小さくなって、高出力化が可能となる。このような高出力化の電池設計(60cm2/Ah≦β/α)を採用する場合には、本発明の水素吸蔵合金を負極に採用するのが好ましい。
【0018】
また、正極活物質中に含有される亜鉛の添加量を正極中のニッケル質量に対して2.0質量%以下に低減させることにより、メモリー効果を抑制される。これは、正極活物質中に含有される亜鉛の添加量が減少することで、充放電時の電圧勾配が大きくなり、所定のSOC範囲での電圧差が大きくなるからである。この弊害として、低SOC領域での出力低下が顕著となるため、これを改善するためには、本発明の水素吸蔵合金を負極に採用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、高出力で出力安定性を維持した安価な水素吸蔵合金を用いて、電池サイズの小型やメモリー効果の抑制仕様においても出力性能を維持することが可能なアルカリ蓄電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ついで、本発明の実施の形態を以下に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0022】
1.水素吸蔵合金
水素吸蔵合金は以下のようにして作製した。この場合、まず、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)を所定のモル比の割合で混合し、この混合物をアルゴンガス雰囲気中で溶解させ、これを溶湯急冷して組成式がLaxNdyRe1-x-y-zMgzNin-m-vAlmv(ただし、式中Reはランタン(La)ネオジウム(Nd)を除く希土類元素から選択された元素で、TはCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素)と表される水素吸蔵合金a1〜l1のインゴットを作製した。この後、これらの各水素吸蔵合金a1〜l1の塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で機械的に粉砕して、体積累積頻度50%での粒径(D50)が25μmの水素吸蔵合金粉末を作製した。
【0023】
なお、これらの水素吸蔵合金a1〜l1の組成を高周波プラズマ分光法(ICP)によって分析すると、下記の表1に示すように、水素吸蔵合金a1は組成式がLa0.29Nd0.20Sm0.41Mg0.10Ni3.48Al0.15で表されものであることが分かった。同様に、水素吸蔵合金b1は組成式がLa0.32Nd0.17Sm0.40Mg0.11Ni3.47Al0.13で表され、水素吸蔵合金c1は組成式がLa0.34Nd0.15Sm0.40Mg0.11Ni3.52Al0.15で表され、水素吸蔵合金d1は組成式がLa0.32Nd0.22Sm0.35Mg0.11Ni3.50Al0.17で表され、水素吸蔵合金e1は組成式がLa0.31Nd0.18Sm0.40Mg0.11Ni3.54Al0.17で表されるものであることが分かった。
【0024】
また、水素吸蔵合金f1は組成式がLa0.13Nd0.44Sm0.32Mg0.11Ni3.38Al0.17で表され、水素吸蔵合金g1は組成式がLa0.24Nd0.25Sm0.40Mg0.11Ni3.49Al0.22で表され、水素吸蔵合金h1は組成式がNd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17で表されるものであることが分かった。さらに、水素吸蔵合金i1はLa0.52Sm0.36Mg0.12Ni3.60Al0.09で表され、水素吸蔵合金j1はLa0.18Nd0.36Sm0.35Mg0.11Ni3.28Al0.17で表され、水素吸蔵合金k1はLa0.43Nd0.44Mg0.13Ni3.69Al0.10で表され、水素吸蔵合金l1はLa0.38Nd0.34Sm0.13Mg0.15Ni3.47Al0.09で表されるものであることが分かった。
【0025】
なお、下記の表1には、各水素吸蔵合金a1〜l1を組成式LaxNdyRe1-x-y-zMgzNin-m-vAlmv(TはCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素)で表した場合のA成分(希土類元素(La,Nd,Re)とMg)に対するB成分(NiとAlとT)のモル比(B/A=n)の値およびLaのモル比(x),Ndのモル比(y),Re(この場合はSm)のモル比(1−x−y−z),Mgのモル比(z),Niのモル比(n−m−v),Alのモル比(m),T(v)のモル比を示している。
【0026】
【表1】

【0027】
2.水素吸蔵合金負極
ついで、上述のようにして作製された水素吸蔵合金a1〜l1の粉末を用いて、以下のようにして水素吸蔵合金負極11を作製した。
この場合、まず、上述のようにして作製された水素吸蔵合金a1〜l1の粉末と、水溶性結着剤と、熱可塑性エラストマーおよび炭素系導電剤とを混合・混練して水素吸蔵合金スラリーを作製した。この場合、水溶性結着剤としては、0.1質量%のCMC(カルボキシメチルセルロース)と水(あるいは純水)とからなるものを使用した。また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレンブタジエンラテックス(SBR)を使用した。さらに、炭素系導電剤としては、ケッチェンブラック使用した。
【0028】
ついで、上述のようにして作製した水素吸蔵合金スラリーを負極用導電性芯体(ニッケルメッキを施した軟鋼材製の多孔性基板(パンチングメタル))に所定の充填密度(例えば、5.0g/cm3)となるように塗着、乾燥させて活物質層を形成させた後、所定の厚みになるように圧延した。この後、水素吸蔵合金負極容量が12Ah、水素吸蔵合金負極表面積が720cm2(負極表面積/負極容量=60cm2/Ah)となるように所定の寸法に切断して、水素吸蔵合金負極11(a,b,c,d,e,f,g,h,i,j,k,l)をそれぞれ作製した。
【0029】
この場合、水素吸蔵合金a1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極aとした。同様に、水素吸蔵合金b1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極bとし、水素吸蔵合金c1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極cとし、水素吸蔵合金d1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極dとし、水素吸蔵合金e1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極eとし、水素吸蔵合金f1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極fとした。
【0030】
また、水素吸蔵合金g1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極gとし、水素吸蔵合金h1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極hとし、水素吸蔵合金i1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極iとし、水素吸蔵合金j1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極jとし、水素吸蔵合金k1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極kとした。さらに、水素吸蔵合金l1の粉末を用いて作製したものを水素吸蔵合金負極lとした。
【0031】
3.ニッケル正極
ニッケル正極12は、以下のようにして作製した。
まず、多孔度が約85%の多孔性ニッケル焼結基板を比重が1.75の硝酸ニッケルと硝酸コバルトの混合水溶液に浸漬して、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内にニッケル塩およびコバルト塩を保持させた。この後、この多孔性ニッケル焼結基板を25質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に浸漬して、ニッケル塩およびコバルト塩をそれぞれ水酸化ニッケルおよび水酸化コバルトに転換させた。
ついで、充分に水洗してアルカリ溶液を除去した後、乾燥を行って、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主成分とする活物質を充填した。このような活物質充填操作を所定回数(例えば6回)繰り返して、多孔性焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主体とする活物質の充填密度が2.5g/cm3になるように充填した。この後、室温で乾燥させた後、所定の寸法に切断してニッケル正極12を作製した。
【0032】
4.ニッケル−水素蓄電池
ニッケル−水素蓄電池10は、以下のようにして作製した。
まず、上述のように作製された水素吸蔵合金負極11とニッケル正極12とを用い、これらの間に、ポリプロピレン繊維を含む不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の下部には水素吸蔵合金負極11の芯体露出部11cが露出しており、その上部にはニッケル正極12の芯体露出部12cが露出している。ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部11cに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル正極12の芯体露出部12cの上に正極集電体15を溶接して、電極体とした。
【0033】
ついで、得られた電極体を鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)16内に収納した後、負極集電体14を外装缶16の内底面に溶接した。一方、正極集電体15より延出する集電リード部15aと、正極端子を兼ねるとともに外周部に絶縁ガスケット18が装着された封口板17とを溶接した。なお、封口板17には正極キャップ17aが設けられていて、この正極キャップ17a内に所定の圧力になると変形する弁体17bとスプリング17cよりなる圧力弁が配置されている。
【0034】
ついで、外装缶16の上部外周部に環状溝部16aを形成した後、電解液を注液し、外装缶16の上部に形成された環状溝部16aの上に封口板17の外周部に装着された絶縁ガスケット18を載置した。この後、外装缶16の開口端縁16bをかしめ、外装缶16内にアルカリ電解液(例えば、30質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液からなる)を電池容量(Ah)当たり2.5g(2.5g/Ah)注入して、ニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L)を作製した。
【0035】
この場合、水素吸蔵合金負極aを用いて作製したものを電池Aとし、水素吸蔵合金負極bを用いて作製したものを電池Bとし、水素吸蔵合金負極cを用いて作製したものを電池Cとし、水素吸蔵合金負極dを用いて作製したものを電池Dとし、水素吸蔵合金負極eを用いて作製したものを電池Eとし、水素吸蔵合金負極fを用いて作製したものを電池Fとした。また、水素吸蔵合金負極gを用いて作製したものを電池Gとし、水素吸蔵合金負極hを用いて作製したものを電池Hとし、水素吸蔵合金負極iを用いて作製したものを電池Iとし、水素吸蔵合金負極jを用いて作製したものを電池Jとし、水素吸蔵合金負極kを用いて作製したものを電池Kとした。さらに、水素吸蔵合金負極lを用いて作製したものを電池Lとした。
【0036】
5.電池試験
(1)活性化
活性化は、以下のようにして行った。即ち、上述のようにして作製されたニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L)を電池電圧が放置時ピーク電圧の60%になるまで放置した後、25℃の温度雰囲気で、1Itの充電々流でSOC120%まで充電し、25℃の温度雰囲気で1時間休止する。ついで、70℃の温度雰囲気で24時間放置した後、45℃の温度雰囲気で、1Itの放電々流で電池電圧が0.3Vになるまで放電させるサイクルを2サイクル繰り返した。
【0037】
(2)出力特性(−10℃アシスト出力)
出力安定性を調べるために、出力特性(−10℃アシスト出力)を以下のようにして求めた。
まず、上述のようにして活性化したニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L)を25℃の温度雰囲気で1Itの充電々流でSOC50%まで充電した後、−10℃の温度雰囲気で1時間休止させた。ついで、−10℃の温度雰囲気で、任意の充電レートで20秒間充電させた後、−10℃の温度雰囲気で30分間休止させた。この後、−10℃の温度雰囲気で、任意の放電レートで10秒間放電させた後、−10℃の温度雰囲気で30分間休止させた。このような−10℃の温度雰囲気で、任意の充電レートでの20秒間充電、30分の休止、任意の放電レートで10秒間放電、−10℃の温度雰囲気での30分の休止を繰り返した。
【0038】
この場合、任意の充電レートは、0.8It→1.7It→2.5It→3.3It→4.2Itの順で充電々流を増加させ、任意の放電レートは、1.7It→3.3It→5.0It→6.7It→8.3Itの順で放電々流を増加させるようにして、0.8It充電→1.7It放電→1.7It充電→3.3It放電→2.5It充電→5.0It放電→3.3It充電→6.7It放電→4.2It充電→8.3It放電の充放電処理を行った。このとき、各放電レートで10秒間経過時点での各電池の電池電圧(V)を放電レート毎に測定した。ついで、測定した10秒間経過時点での各電池A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,Lの電池電圧(V)を放電レート毎の放電々流値に対して2次元プロットし、電池電圧と放電々流値の関係を示す近似曲線を求め、近似曲線における0.9V時の放電々流値を−10℃でのSOC50%出力特性(−10℃でのSOC50%アシスト出力)として求めると、下記の表2に示すような結果となった。
【0039】
また、活性化したニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L)を25℃の温度雰囲気で1Itの充電々流でSOC20%まで充電した以外、上記と同様にしてSOC20%出力特性(−10℃でのSOC20%アシスト出力)として求めると、下記の表2に示すような結果となった。なお、下記の表2においては、電池Hの−10℃でのSOC50%アシスト出力およびSOC20%アシスト出力を100とし、他の電池A,B,C,D,E,F,G,I,J,K,Lのアシスト出力はそれとの比で示している。
【0040】
(3)負極放電リザーブ(耐食性)
ついで、上述したニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L)を用い、以下のようにして負極放電リザーブ(耐食性特性)を求めた。この場合、まず、各ニッケル−水素蓄電池10(A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L)を開放して電解液リッチな状態にするとともに、開放した各電池に参照極(Hg/HgO)を配置する。ついで、正極活物質が完全に放電状態となった後、25℃の温度雰囲気において、1.0Itの放電々流で負極電位が参照極(Hg/HgO)に対して0.3V(絶対値)になるまで放電させ、このときの放電時間から負極の1It放電時の容量を求めた。
【0041】
この後、25℃の温度雰囲気において、10分間放電を休止させた後、0.1Itの放電々流で負極電位が参照極(Hg/HgO)に対して0.3V(絶対値)になるまで放電させ、このときの放電時間から負極の0.1It放電時の容量を求めた。そして、求めた1It放電時の負極放電容量と0.1It放電時の負極放電容量の和(負極放電リザーブ)を求め、水素吸蔵合金負極の理論容量に対するこれらの負極放電容量の和(負極放電リザーブ)の比率(負極放電リザーブ/負極の理論容量)を負極酸化量として求めた。そして、求めた負極酸化量から耐食性指標としての負極表面積当たりの電気化学的酸化量(負極酸化量×平均粒径)を耐食性の指標として求めると、下記の表2に示すような結果となった。
【0042】
なお、下記の表2においては、電池Hの負極hの表面積当たりの電気化学的酸化量を100とし、他の電池A,B,C,D,E,F,G,I,J,K,Lの負極a,b,c,d,e,f,g,i,j,k,lの電気化学的酸化量(負極酸化量×平均粒径)はそれとの比で示している。
【0043】
【表2】

【0044】
6.試験結果
(1)水素吸蔵合金の組成におけるLaの量論比(x)およびNdの量論比(y)について
ここで、電池Hに用いられた負極hのように、希土類をLaに置換することがない水素吸蔵合金h1を用いると、その水素吸蔵合金h1の価格が高価となるため、コストダウンの要望に応えることができないので、希土類をLaに置換することがない水素吸蔵合金を用いることは好ましくないということができる。
【0045】
一方、コストダウンの要望に応えるために、希土類−Mg−Ni系合金の希土類を低コストであるLaに置換した希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いた場合、電池I,K,Lに用いられた負極i,k,lのように、Laの含有量を増大させる(Laの量論比xが0.52、0.43、0.38と大きい)と、電池HよりもSOC20%出力およびSOC50%出力の低下が起きることが分かる。なお、電池Jに用いられた負極jのように、Laの含有量を減少させる(Laの量論比xは0.18である)と、電池Hに比較してSOC20%出力およびSOC50%出力がそれほど低下しないことが分かる。
【0046】
一方、電池A〜Gに用いられた負極a〜gのように、Laの量論比xが0.13以上で、0.34以下(0.13≦x≦0.34)で、かつNdの量論比yが0.14以上で、0.60以下(0.14≦y≦0.60)であると、電池Hに比較してSOC20%出力およびSOC50%出力が同等かそれ以上であることが分かる。このことから、Laの量論比xが0.13以上で、0.34以下(0.13≦x≦0.34)で、かつNdの量論比yが0.14以上で、0.60以下(0.14≦y≦0.60)である水素吸蔵合金を用いることにより、コストダウンの要望に応えることができるとともに、高出力特性を達成することが可能となる。
【0047】
(2)水素吸蔵合金の組成におけるMgの量論比(z)について
電池A〜Lに用いられた負極a〜lのように、Mgの量論比zが0.10以上で0.15以下(0.10≦z≦0.15)であると、耐食性が良好であることが分かる。このことから、Mgの量論比zが0.10以上で0.15以下(0.10≦z≦0.15)である水素吸蔵合金を用いるのが望ましいということができる。
【0048】
(3)水素吸蔵合金の組成におけるA成分に対するB成分の量論比(n)について
電池Jに用いられた負極jのように、Laの量論比xが0.13以上で、0.34以下(0.13≦x≦0.34)であっても、A成分に対するB成分の量論比(n)が3.45と低いと、SOC20%出力およびSOC50%出力が低下していることが分かる。これは、量論比(n)が3.50未満であると水素平衡圧が低くなるためと考えられる。
一方、電池A〜Gに用いられた負極a〜gのように、A成分に対するB成分の量論比(n)が3.50以上で3.75以下(3.50≦n≦3.75)の範囲内であれば、SOC20%出力およびSOC50%出力が向上し、かつ耐食性特性が維持できているので、A成分に対するB成分の量論比(n)が3.50以上で3.75以下(3.50≦n≦3.75)に規制するのが望ましいということができる。
【0049】
(4)水素吸蔵合金の組成におけるAlの量論比(m)について
Alの量論比(m)が0.23より多くなると、水素吸蔵合金からアルカリ電解液中にAlが多量に溶出し、これがニッケル正極へ移動して正極活物質内に侵入し、アルカリ蓄電池の耐久性が低下するといった不具合が発生する。一方、Alの量論比(m)が0.13未満であると結晶構造が不安定になり、プラトー性が低下、安定な出力を取り出すことが困難となる。このため、Alの量論比(m)は0.13以上で0.22以下(0.13≦m≦0.22)に規制するのが望ましいということができる。
【0050】
以上の結果を総合勘案すると、一般式がLaxNdyRe1-x-y-zMgzNin-m-vAlmv(Re:Yを含む希土類元素(LaおよびNdを除く)から選択される少なくとも1種の元素、T:Co、Mn、Znから選択される少なくとも1種の元素)で表され、かつ、0.13≦x≦0.34、0.14≦y≦0.60、0.10≦z≦0.15、3.50≦n≦3.75、0.13≦m≦0.22、v≧0の条件を満たす水素吸蔵合金を負極に用いることで、従来レベルの高出力且出力安定性を維持し、しかも安価な水素吸蔵合金負極を備えたアルカリ蓄電池を提供するとともに、電池サイズダウン、メモリー効果抑制仕様においても出力性能を維持することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
なお、上述した実施形態においては、元素Tが無添加(v=0)の水素吸蔵合金を用いる例について説明したが、元素Tとして、Co、Mn、Znから選択して添加しても、無添加の場合と同様の効果を引き出せる。この場合、元素Tの量論比(v)の上限値は0.10とするのが望ましい。また、上述した実施形態においては、LaおよびNdを除く希土類元素としてサマリウム(Sm)を用いる例について説明したが、サマリウム(Sm)に代えてプラセオジム(Pr)を用いるようにしても良い。この場合、プラセオジム(Pr)の添加量はサマリウム(Sm)と同程度とすればよい。
【0052】
さらに、水素吸蔵合金を負極に用いたアルカリ蓄電池においては、負極容量α(Ah)と負極表面積β(cm2)の比β/αが大きくなる(特に、β/αが60cm2/Ah以上)に伴って、負極の構造が薄長くなり、必然的にニッケル正極との対向面積が増加するとともに電池抵抗も小さくなって、高出力化が可能となる。このような高出力化の電池設計(60cm2/Ah≦β/α)を採用する場合には、上述した本発明の水素吸蔵合金を負極に採用するのが好ましい。
【0053】
また、正極活物質中に含有される亜鉛の添加量を正極中のニッケル質量に対して2.0質量%以下に低減させることにより、メモリー効果を抑制される。これは、正極活物質中に含有される亜鉛の添加量が減少することで、充放電時の電圧勾配が大きくなり、所定のSOC範囲での電圧差が大きくなるからである。この弊害として、低SOC領域での出力低下が顕著となるため、これを改善するためには、本発明の水素吸蔵合金を負極に採用するのが好ましい。
【符号の説明】
【0054】
11…水素吸蔵合金負極、11c…芯体露出部、12…ニッケル正極、12c…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、15a…正極用リード、16…外装缶、16a…環状溝部、16b…開口端縁、17…封口板、17a…正極キャップ、17b…弁板、17c…スプリング、18…絶縁ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金を主成分とする水素吸蔵合金負極と、水酸化ニッケルを主成分とするニッケル正極と、セパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池であって、
前記水素吸蔵合金は、一般式がLaxNdyRe1-x-y-zMgzNin-m-vAlmv(Re:Yを含む希土類元素(LaおよびNdを除く)から選択される少なくとも1種の元素、T:Co、Mn、Znから選択される少なくとも1種の元素)で表され、かつ、0.13≦x≦0.34、0.14≦y≦0.60、0.10≦z≦0.15、3.50≦n≦3.75、0.13≦m≦0.22、v≧0の条件を満たすものであることを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金負極の負極容量をα(Ah)とし、同水素吸蔵合金負極の負極表面積をβ(cm2)としたしたときの負極容量に対する負極表面積の比(β/α)が60cm2/Ah以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項3】
前記ニッケル正極に含有される亜鉛(Zn)の含有量はニッケル(Ni)の含有量に対して2.0質量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ蓄電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−99250(P2012−99250A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243854(P2010−243854)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】