説明

アルカリ金属硫化物及びその製造方法

【課題】原料に用いた場合に合成時間を短縮することができるアルカリ金属硫化物を提供する。
【解決手段】BET法で測定した比表面積が1.0m/g以上のアルカリ金属硫化物粒子を含むアルカリ金属硫化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属硫化物、それを用いて製造した硫化物系固体電解質及びアルカリ金属硫化物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属硫化物粒子は、医療、電池材料の原料に用いられる。アルカリ金属硫化物粒子を原料に医療用化合物、電池材料用化合物等を合成する場合、アルカリ金属硫化物粒子の比表面積が大きいことが合成時間の短縮を図る上で好ましい。
【0003】
特許文献1〜3等には硫化リチウムの製造方法が開示されており、特許文献1には、水酸化リチウムと非プロトン性有機溶媒からなるスラリー中に硫化水素を吹き込み、水硫化リチウム生成後、脱水・脱硫化水素することにより無水硫化リチウムを製造する第1の発明と、硫化水素を連続して吹き込み、直接無水硫化リチウムを得る第2の発明が開示されている。
また、硫化リチウムを原料に固体電解質を製造する技術としてメカニカルミリング法、炭化水素系溶媒中で合成するスラリー法、溶融法がある。
【0004】
特許文献1〜3の方法により製造した硫化リチウムは、平均粒径が20〜600μmの正六面体の形状になる。このため、この硫化リチウムを用いて固体電解質を製造する場合、硫化リチウムと他の原料との接触面積が小さいため、固体電解質の合成に非常に時間がかかる。
硫化リチウムを固体電解質以外の製造に使用する場合でも、他の原料との接触面積が小さいことから合成に時間がかかる。
また、特許文献1〜3の方法により硫化リチウム以外のアルカリ金属硫化物も製造することができるが、これらアルカリ金属硫化物を原料に用いて他の目的物を合成する場合にも同様の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−330312号公報
【特許文献2】国際公開第04/106232号パンフレット
【特許文献3】特開2006−151725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、原料に用いた場合に合成時間を短縮することができるアルカリ金属硫化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下のアルカリ金属硫化物等が提供される。
1.BET法で測定した比表面積が1.0m/g以上であり、平均粒径が150μm以下であるアルカリ金属硫化物粒子を含むアルカリ金属硫化物。
2.細孔容積が0.002ml/g以上であり、平均粒径が150μm以下であるアルカリ金属硫化物粒子を含むアルカリ金属硫化物。
3.前記アルカリ金属硫化物粒子が、硫化リチウム粒子である1又は2に記載のアルカリ金属硫化物。
4.3に記載のアルカリ金属硫化物を用いて製造した硫化物系固体電解質。
5.溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒を含む溶媒を用いて1〜3のいずれかに記載のアルカリ金属硫化物粒子を製造するアルカリ金属硫化物粒子の製造方法。
6.前記溶媒が、前記溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒を0.1wt%以上含む5に記載のアルカリ金属硫化物粒子の製造方法。
7.前記溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒が、水酸基、カルボキシ基、ニトリル基、アミノ基、アミド結合、ニトロ基、−C(=S)−結合、エーテル結合、−O−Si−結合、ケトン結合、エステル結合、カーボネート結合、−S(=O)−結合、クロロ、フロオロから選ばれる1種類以上の極性基を有する溶媒である5又は6に記載のアルカリ金属硫化物粒子の製造方法。
8.溶解パラメーターが8.5以上の、カーボネート結合を有する極性溶媒を含む溶媒を用いて1〜3のいずれかに記載のアルカリ金属硫化物粒子を製造するアルカリ金属硫化物粒子の製造方法。
9.前記溶媒が、前記溶解パラメーターが8.5以上の、カーボネート結合を有する極性溶媒を0.1wt%以上含む8に記載のアルカリ金属硫化物粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、原料に用いた場合に合成時間を短縮することができるアルカリ金属硫化物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のアルカリ金属硫化物はアルカリ金属硫化物粒子を含み、アルカリ金属硫化物粒子は(i)BET法(気体吸着法)で測定した比表面積が1.0m/g以上、又は(ii)細孔容積が0.002ml/g以上であり、平均粒径が150μm以下である。
【0010】
比表面積は、例えばAUTOSORB6(シスメックス株式会社製)で測定できる。また、BET法は窒素ガスを用いてもよく(窒素法)、クリプトンガスを用いてもよい(クリプトン法)。アルカリ金属硫化物粒子の比表面積は、好ましくは1.2m/g以上であり、さらに好ましくは1.5m/g以上である。
【0011】
細孔容積は比表面積と同じ装置で測定でき、相対圧P/Pが0.99以上の測定点から、0.99に内挿して求めたものを使用できる。装置の測定下限は0.001ml/gである。アルカリ金属硫化物粒子の細孔容積は、好ましくは0.003ml/g以上である。
【0012】
アルカリ金属硫化物粒子の平均粒径は好ましくは150μm以下、より好ましくは120μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。また、平均粒径は好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上である。
平均粒径が150μm以下であると、粒子表面から中心部までの距離が小さくなるため、アルカリ金属硫化物を合成原料とした場合に合成時間を短くでき、またアルカリ金属硫化物の中心部分が未反応になる可能性を低くすることができる。
平均粒径は、LASER回析法(例えば、MALVERN社Mastersizer200)により測定し、体積基準平均粒径から算出する。
【0013】
アルカリ金属硫化物としては、無水アルカリ金属硫化物が好ましい。無水アルカリ金属硫化物としては、例えば無水硫化リチウム、無水硫化ナトリウム、無水硫化カリウム、硫化リチウム含水物、硫化ナトリウム含水物、硫化カリウム含水物等を挙げることができる。より好ましくは、無水硫化リチウム、無水硫化ナトリウム、無水硫化カリウムである。
【0014】
次に本発明の第一のアルカリ金属硫化物粒子の製造方法について説明する。アルカリ金属硫化物粒子は、溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒を含む溶媒により処理して製造できる。具体的には溶媒中で攪拌する。極性溶媒の溶解パラメーターは好ましくは9.2以上であり、より好ましくは9.5以上であり、最も好ましくは11.0以上である。
改質とは、アルカリ金属硫化物の比表面積及び/又は細孔容積を大きくするように上記の溶媒により処理することをいう。
【0015】
溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒(改質剤)は、水酸基、カルボキシ基、ニトリル基、アミノ基、アミド結合、ニトロ基、−C(=S)−結合、エーテル(−O−)結合、−Si−O−結合、ケトン(−C(=O)−)結合、エステル(−C(=O)−O−)結合、カーボネート(−O−C(=O)−O−)結合、−S(=O)−結合、クロロ、フロオロから選ばれる1種類以上の極性基をもつ溶媒であることが好ましい。
【0016】
極性基を1種類含む極性溶媒としては、メタノール(14.5)(括弧内の数値は溶解パラメーターを示す)、エタノール(12.7)、n−プロパノール、イソプロパノール(11.5)、n−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタノール、水(23.4)、エチレングリコール(14.2)、蟻酸(13.5)、酢酸(12.6)、アセトニトリル(11.9)、プロピオニトリル、マロノニトリル、スクシノニトリル、フマロニトリル、トリメチルシリル=シアニド、N−メチルピロリドン、トリエチルアミン、ピリジン、ジメチルホルムアミド(12.0)、ジメチルアセトアミド、ニトロメタン、二硫化炭素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、フェニルメチルエーテル、ジメトキシメタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、シクロへキシルメチルジメトキシシラン、アセトン(10.0)、メチルエチルケトン、アセトアルデヒド、酢酸エチル(9.0)、無水酢酸、メチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、メチレンクロライド、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、ヘキサフロオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン等が挙げられる。
【0017】
極性基を2種類含む極性溶媒としては、2,2,2−トリフルオロエタノール、ヘキサフロオロイソプロパノール、2−アミノエタノール、クロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、メトキシプロピオニトリル、3−エトキシプロピオニトリル、シアノ酢酸メチル、ジフルオロアセトニトリル等が挙げられる。
【0018】
溶媒は、溶解パラメーターが9.0未満の溶媒を含んでもよい。溶解パラメーターが9.0未満の溶媒としては、例えば、ヘキサン(7.3)、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン(8.8)、キシレン(8.8)、エチルベンゼン、イプゾール100(出光興産製)、イプゾール150(出光興産製)、IPソルベント(出光興産製)、流動パラフィン、石油エーテル等が挙げられる。
【0019】
上記の溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒、溶解パラメーターが9.0未満の溶媒は脱水する必要はないが、水分量により複製する微粒化物中の水酸化アルカリ金属の量に影響を与えるおそれがあるため、好ましくは水分量が50ppm以下、より好ましくは30ppm以下である。
【0020】
溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒の溶媒中の濃度は、好ましくは0.1wt%以上100wt%以下である。より好ましくは0.2wt%以上、最も好ましくは、0.5wt%以上である。溶解パラメーターが大きいほど改質効果が大きいので、添加量を少量にしてもよい。逆に溶解パラメーターが9に近いほど改質効果は小さくなるため、添加量を多くし、改質時間を長くする必要がある。
また、溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒の沸点は、常圧下で好ましくは40℃〜300℃、より好ましくは45℃〜280℃である。この範囲であると、加熱真空下の溶媒除去での乾燥容易性から好ましい。
【0021】
改質の際、上記溶媒に対し、アルカリ金属硫化物を0.5wt%〜1000wt%とすることが望ましい。
【0022】
改質処理温度は、使用する溶媒の沸点、凝固点により異なるが、好ましくは−100℃以上100℃以下、より好ましくは−80℃以上80℃以下である。高温での改質処理は、望ましい結果が得られないおそれがある。
改質時間は、好ましくは5分から1週間、より好ましくは1時間から5日である。
【0023】
改質処理は、連続相、バッチ相いずれにおいても可能である。バッチ反応の場合、攪拌は一般的な翼が使用可能であり、好ましくはアンカー翼、ファドラー翼、ヘリカル翼、マックスブレンド翼である。ラボスケールでは、一般的にスターラーによる攪拌子が用いられる。また、バッチ反応では、ボールミルを用いた反応槽も使用可能である。
【0024】
改質処理を行った後に必要により溶媒を除去する。溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒を除去する場合、例えば真空下での加熱により、又は非極性溶媒置換により行うことができる。非極性溶媒置換は、例えば溶解パラメーターが9.0未満の溶媒に置換することができる。改質後の工程がスラリー状態を要求する場合、この溶媒置換を行った後、スラリー状態のままで保管することもできる。
【0025】
改質した微粒化物は、残存溶媒を除去するため、必要に応じて乾燥処理を行う。乾燥処理は好ましくは窒素気流下又は真空下で行う。乾燥温度は好ましくは室温〜300℃である。
【0026】
改質剤の種類によっては、改質時にアルカリ金属水酸化物が副生することがある。この水酸化物は、硫化水素ガスを微粒化物スラリー溶液へ導入することで硫化物へ再変換することができる。
【0027】
次に本発明の第二のアルカリ金属硫化物粒子の製造方法について説明する。本発明の第二のアルカリ金属硫化物粒子の製造方法は、溶解パラメータが9.0以上の極性溶媒の代わりに溶解パラメータが8.5以上のカーボネート結合を有する極性溶媒を用いる以外は、本発明の第一のアルカリ金属硫化物粒子の製造方法と同様である。
尚、溶解パラメータが8.7以上のカーボネート結合を有する極性溶媒が好ましく、より好ましくは溶解パラメータが8.8以上のカーボネート結合を有する極性溶媒である。
ここで、溶解パラメータが8.5以上のカーボネート結合を有する極性溶媒には、上記したもの以外にジエチルカーボネートが含まれる。
【0028】
本発明の硫化物系固体電解質は上記のアルカリ金属硫化物を用いて製造することができる。本発明の硫化物系固体電解質は、全固体リチウム二次電池の固体電解質層や、正極や負極合材に混合する固体電解質等としても使用できる。
【実施例】
【0029】
製造例1
(1)硫化リチウムの製造
硫化リチウムは、特許文献1の第1の発明(2工程法)の方法に従って製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpmで130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3L/分の供給速度で2時間吹き込んだ。
【0030】
続いて、この反応液を窒素気流下(0.2L/分)で昇温し、生成した水硫化リチウムを脱硫化水素化し硫化リチウムを得た。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発しはじめ、この水をコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度が上昇し、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。水硫化リチウムの脱硫化水素反応(約80分)が終了後、反応を終了し硫化リチウムを得た。
【0031】
(2)硫化リチウムの精製
(1)で得られた500mLのスラリ反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリ)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥した。得られた硫化リチウム中の不純物含有量を測定した。
【0032】
尚、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)並びにチオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物、及びN−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)の含有量をイオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、N−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)は0.07質量%であった。得られた硫化リチウムは平均粒径195μm、クリプトン法(Kr法)にて測定した比表面積は、0.05m/gであった。細孔容積は測定下限以下であった。
このようにして精製したLiSを、以下の実施例1〜7で使用した。
【0033】
平均粒径はLASER回析法によりMALVERN社Mastersizer200を用いて測定し、体積基準平均粒径から算出した。具体的には、測定装置はMalvern Instruments Ltd社製マスターサイザー2000を用い、装置の分散槽に脱水処理されたトルエン(和光純薬製、製品名:特級)110mlを入れ、さらに分散剤として脱水処理されたターシャリーブチルアルコール(和光純薬製、特級)を6%添加する。上記混合物を十分混合した後、微粒化アルカリ金属硫化物を添加して粒子径を測定する。
ここで、微粒化アルカリ金属硫化物の添加量は、Malvern Instruments Ltd社製マスターサイザー2000で規定されている操作画面で、粒子濃度に対応するバーグラフが規定の範囲内(10〜20%)に収まるように加減して加える。この範囲を超えると多重散乱が発生し、正確な粒子径分布を求めることが出来なくなる。また、この範囲より少ないとSN比が悪くなり、正確な測定が出来ない。Malvern Instruments Ltd社製マスターサイザー2000では、微粒化アルカリ金属硫化物の添加量に基きバーグラフ粒子濃度が表示されるので、上記濃度範囲に入る添加量を見つけることになる。
【0034】
上記したように、微粒化アルカリ金属硫化物の添加量は組成物の濃度によって最適量は異なるが、概ね10μL〜200μL程度、乾燥粉体で1μg〜100μgである。
ここで、トルエンに分散剤を添加するのは、微粒化アルカリ金属硫化物内の「凝集している固体電解質粒子」を一次粒子にする(分散させる)ためではなく、測定する微粒化アルカリ金属硫化物内の固体電解質粒子が凝集しないようにするためである。
【0035】
比表面積は、BET法によりAUTOSORB6を用いて測定した。窒素法の測定下限は1.0m/gであるため、窒素法の測定下限以下の場合には、クリプトンガスを用いて測定した。
細孔容積は比表面積と同じ装置で測定し、相対圧P/P0.99以上の測定点から、0.99に内挿して求めたものを使用した。装置の測定下限は0.001ml/gである。実施例と比較例においても同様に測定した。
【0036】
実施例1
(改質処理)
硫化リチウム2.0gをグローブボックス内でシュレンクビンに秤量した。これに窒素雰囲気下で脱水トルエン(和光純薬製)39ml、脱水メタノール(和光純薬製)1.4mlをこの順に加え、室温で4時間、スターラーで攪拌して改質処理をした。改質処理後、室温窒素気流下で溶媒を留去し、さらに真空下室温で2時間乾燥して、微粒化した硫化リチウムを回収した。得られた微粒化硫化リチウムの純度、水酸化リチウム含量、平均粒径、比表面積、細孔容積を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
純度、水酸化リチウム含量は滴定法によりそれぞれ定量した。尚、分析値合計が、100%とならないのは、炭酸リチウム、他のイオン塩や残存溶媒を含んでいるためである。
【0038】
実施例2〜7
表1に示した条件とした他は実施例1と同様にして改質処理を行い、微粒化硫化リチウムを評価した。結果を表1に示す。
ヘキサン(和光純薬製)は水分量10ppm以下、ジエチルカーボネート(和光純薬製)及びアセトニトリル(和光純薬製)は水分量30ppm以下であることをカールフィッシャー法にて確認し、それぞれ使用した。
【0039】
実施例8
(改質処理及び硫化水素ガス処理)
硫化リチウム4.0gをグローブボックス内でシュレンクビンに秤量した。これに窒素雰囲気下、脱水トルエン(和光純薬製)78ml、脱水メタノール(和光純薬製)13.8mlをこの順に加え、室温で4時間、テフロン(登録商標)製アンカー翼で攪拌した。改質処理後、硫化水素ガスを300ml/分で流通させながら、バス温を120℃まで昇温した。さらに90分硫化水素ガスを流通させて、処理を行った。硫化水素ガス処理後、室温窒素気流下で溶媒を留去し、さらに真空下、室温で2時間乾燥して微粒化した硫化リチウムを回収した。
実施例1と同様にして微粒化硫化リチウムを評価した。硫化リチウムは純度94.6%、水酸化リチウム量0.0%(測定下限以下)、平均粒径104μm、比表面積36m/g、細孔容積0.231ml/gであった。
【0040】
製造例2
硫化リチウムの製造法(別法)
窒素気流下でトルエン(広島和光製試薬)270gを600mlセパラブルフラスコに加え、続いて水酸化リチウム30g(本荘ケミカル製)を投入し、フルゾーン撹拌翼300rpmで撹拌しながら、95℃に保持した。
スラリー中に硫化水素(巴商会製)を300ml/分の供給速度で吹き込みながら104℃まで昇温した。セパラブルフラスコからは、水とトルエンの共沸ガスが連続的に排出された。この共沸ガスを、系外のコンデンサで凝縮させることにより脱水した。この間、留出するトルエンと同量のトルエンを連続的に供給し、反応液レベルを一定に保持した。
凝縮液中の水分量は徐々に減少し、硫化水素導入後6時間で水の留出は認められなくなった(水分量は総量で22mlであった)。尚、反応の間は、トルエン中に固体が分散して撹拌された状態であり、トルエンから分層した水分は無かった。
この後、硫化水素を窒素に切り替え300ml/分で1時間流通した。
【0041】
固形分をろ過・乾燥して得た白色粉末を分析したところ(塩酸滴定及び硝酸銀滴定)、硫化リチウムの純度は99.2%であった。X線回折測定したところ、硫化リチウムの結晶パターン以外のピークが検出されないことを確認した。硫化リチウム粉末の平均粒径は450μm、比表面積12.6m/g、細孔容積0.119ml/gであった。
【0042】
実施例9
アセトニトリル39ml中、室温で72時間とした他は実施例1と同様にして製造例2で合成した硫化リチウム2.0gの改質処理を行い、微粒化硫化リチウムを評価した。微粒化硫化リチウムは平均粒径5.7μm、比表面積15.0m/g、細孔容積0.144ml/g、LiS純度98.2%であった。
【0043】
比較例1
メタノールを使用しなかった他は実施例1と同様にして改質を行った。回収した硫化リチウムの粒子状態は処理前と同等であった。結果を表1に示す。
【0044】
比較例2
メタノールを使用しないで、改質温度を110℃とした他は実施例1と同様にして改質し、得られた微粒化硫化リチウムの評価をした。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
尚、硫化リチウムにメタノールを添加した場合(実施例1−4)、部分的にCHOLiが形成され、滴定分析の前処理によりLiOHに変換され、これがLiOHとしてカウントされている。表中実施例1−4のLiOH量は、これを考慮してCHOLiとした場合の量で記載した。
【0047】
実施例10
(電解質ガラスセラミックの調製)
攪拌機付きのフラスコ内を窒素で置換し、実施例6の微粒化LiS1.55g、五硫化二りん3.46g、水分含有量10ppm以下に脱水した50mlのキシレン(和光純薬工業株式会社製)を仕込み、140℃で24時間反応させ、非晶質固体電解質を得た。非晶質固体電解質の一部を抜き取り、ろ過により固体部分を分離し、真空乾燥した。さらに、真空下で300℃、2時間の加熱処理を行った。この結晶化固体電解質は粉末状であり、イオン伝導度を測定したところ、1.41×10−6S/cmであった。
【0048】
実施例11
製造例2で合成した硫化リチウムを用いた他は、実施例8と同様にして微粒化処理を行い、微粒化硫化リチウムを調製し評価した。硫化リチウムは純度95.5%、平均粒径14.3μm、比表面積25m/g、細孔容積0.325ml/gであった。
【0049】
実施例12
実施例11の微粒化硫化リチウム(LiS)を用いた他は実施例10と同様にして電解質ガラスセラミックを調製した。イオン伝導度を測定したところ、6.41×10−4S/cmであった。
【0050】
実施例13
攪拌子入りオートクレーブを窒素で置換し、実施例11の微粒化硫化リチウム1.55g、五硫化二りん3.46g、脱水トルエン(和光純薬工業株式会社製)50mlを仕込み、150℃で72時間反応させ、非晶質固体電解質を得た。非晶質固体電解質の一部を抜き取り、ろ過により固体部分を分離し、真空乾燥した。さらに、真空下で300℃、2時間の加熱処理を行った。この結晶化固体電解質は粉末状であり、イオン伝導度を測定したところ、9.24×10−4S/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のアルカリ金属硫化物は、医療、電池材料の原料、特に硫化物系固体電解質の原料として使用できる。本発明の硫化物系固体電解質は、リチウム二次電池等に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET法で測定した比表面積が1.0m/g以上であり、平均粒径が150μm以下であるアルカリ金属硫化物粒子を含むアルカリ金属硫化物。
【請求項2】
細孔容積が0.002ml/g以上であり、平均粒径が150μm以下であるアルカリ金属硫化物粒子を含むアルカリ金属硫化物。
【請求項3】
前記アルカリ金属硫化物粒子が、硫化リチウム粒子である請求項1又は2に記載のアルカリ金属硫化物。
【請求項4】
請求項3に記載のアルカリ金属硫化物を用いて製造した硫化物系固体電解質。
【請求項5】
溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒を含む溶媒を用いて請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ金属硫化物粒子を製造するアルカリ金属硫化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒が、前記溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒を0.1wt%以上含む請求項5に記載のアルカリ金属硫化物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記溶解パラメーターが9.0以上の極性溶媒が、水酸基、カルボキシ基、ニトリル基、アミノ基、アミド結合、ニトロ基、−C(=S)−結合、エーテル結合、−O−Si−結合、ケトン結合、エステル結合、カーボネート結合、−S(=O)−結合、クロロ、フロオロから選ばれる1種類以上の極性基を有する溶媒である請求項5又は6に記載のアルカリ金属硫化物粒子の製造方法。
【請求項8】
溶解パラメーターが8.5以上の、カーボネート結合を有する極性溶媒を含む溶媒を用いて請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ金属硫化物粒子を製造するアルカリ金属硫化物粒子の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒が、前記溶解パラメーターが8.5以上の、カーボネート結合を有する極性溶媒を0.1wt%以上含む請求項8に記載のアルカリ金属硫化物粒子の製造方法。

【公開番号】特開2011−136899(P2011−136899A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270191(P2010−270191)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】