説明

アルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物

【課題】本発明の目的は、空気よりも酸素濃度が低く、水蒸気や二酸化炭素の濃度が高い条件で焼成しても、高出力の放電容量を有するアルカリ金属複合金属酸化物が得られるアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物を提供することにある。
【解決手段】無機塩からなる融剤と、アルカリ金属化合物(ただし、前記融剤とは異なる化合物を少なくとも含む。)と、遷移金属化合物とからなるアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物であって、前記原料混合物を焼成するときの保持温度で、前記融剤がアルカリ金属複合金属酸化物を生成するために必要な酸化力を有するアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属複合金属酸化物の製造用の原料混合物に関する。特に、非水電解質二次電池用電極活物質に用いられるアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属複合金属酸化物は、リチウム二次電池などの非水電解質二次電池の電極活物質として用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話用途、ノートパソコン用途などの小型電源として実用化されている。さらに自動車用途や電力貯蔵用途などの大型電源においても、その適用が試みられている。
【0003】
従来、アルカリ金属複合金属酸化物は、アルカリ金属化合物と遷移金属化合物とを混合して得られる原料混合物を焼成して製造される。
そして、より結晶性の高いアルカリ金属複合金属酸化物を製造できる製造方法として、アルカリ金属化合物である水酸化リチウム一水和物または炭酸リチウムと、遷移金属化合物であるニッケル−マンガン−鉄共沈物(遷移金属複合金属水酸化物)と、融剤として塩化カリウムとを混合して得られるアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物を焼成する製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−21134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、アルカリ金属複合金属酸化物は、アルカリ金属化合物と遷移金属化合物とを混合して得られる原料混合物を焼成して製造される。特に、アルカリ金属複合金属酸化物を構成する遷移金属元素の平均酸化数が遷移金属化合物を構成する遷移金属元素の平均酸化数よりも高い場合には、空気中もしくは空気より高い酸素濃度の雰囲気で焼成する。酸素濃度が不十分であると、十分な酸化が進行せず、アルカリ金属複合金属酸化物の結晶化が不十分であったり、電極活物質として不活性な遷移金属元素および酸素元素のみからなる酸化物が生成したりするためである。
【0006】
アルカリ金属複合金属酸化物の焼成では、反応生成物として二酸化炭素や水蒸気が発生する場合がある。アルカリ化合物や遷移金属化合物として水酸化物を使用するときに、水蒸気が発生する。アルカリ化合物や遷移金属化合物として炭酸塩を使用するときに、二酸化炭素が発生する。アルカリ金属複合金属酸化物の焼成のときに二酸化炭素や水蒸気が雰囲気中に存在すると、アルカリ金属複合金属酸化物の結晶化が不十分であったり、電極活物質として不活性な遷移金属元素および酸素元素のみからなる酸化物が生成したりする。
【0007】
アルカリ金属複合金属酸化物の工業的な生産を考慮した場合、量産化、省エネルギー化、低コスト化のために、一定体積の炉内空間において、大量の原料混合物を焼成できることが望ましい。しかしながら、焼成では雰囲気中の酸素が消費されるため酸素濃度が低下する。また焼成中に水蒸気や二酸化炭素が生成する場合があり、このとき雰囲気中の水蒸気や二酸化炭素の濃度が上昇する場合がある。
さらに省エネルギー化や低コスト化のためには、焼成炉としてメタンやプロパンなどの炭化水素の燃焼熱を熱源とするガス炉を使用できることが望ましい。ガス炉においては、熱源を得るための燃料の燃焼において、酸素が消費され、水蒸気と二酸化炭素が発生し、結果的に、焼成雰囲気の酸素濃度の低下と水蒸気および二酸化炭素の濃度の上昇が生ずる。
そのため、一度に大量に焼成して得られたアルカリ金属複合金属酸化物や、ガス炉で焼成して得られたアルカリ金属複合金属酸化物では、結晶化が不十分であったり、電極活物質として不活性な遷移金属元素および酸素元素のみからなる酸化物が生成したりするため、該アルカリ金属複合金属酸化物を用いてなるリチウム二次電池の高出力の放電容量は十分ではない。
【0008】
<補足:焼成反応>
M(OH)+0.5LiCO+0.25O→LiMO+0.5CO+H
M:遷移金属元素、Li:リチウム(アルカリ金属元素)
【0009】
本発明の目的は、空気よりも酸素濃度が低く、水蒸気や二酸化炭素の濃度が高い条件で焼成しても、高出力の放電容量を有するアルカリ金属複合金属酸化物が得られるアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物を提供することにある。
【0010】
前記目的を達成するために、本発明者は、アルカリ金属化合物と、遷移金属化合物と、融剤との混合物の焼成について鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、下記の発明を提供する。
無機塩からなる融剤と、アルカリ金属化合物(ただし、前記融剤とは異なる化合物を少なくとも含む。)と、遷移金属化合物とからなるアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物であって、前記原料混合物を焼成するときの保持温度で、前記融剤がアルカリ金属複合金属酸化物を生成するために必要な酸化力を有するアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルカリ金属複合金属酸化物を用いれば、高い放電容量と高い出力特性を有する非水電解質二次電池を与えることができる。該二次電池は、特に、高い出力特性を要求される用途、例えば自動車用途や電動工具用途などの非水電解質二次電池に極めて有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】アルカリ金属複合金属酸化物の生成に必要な酸化力と各種酸化剤との酸化力の比較
【図2】アルカリ金属複合金属酸化物の生成に必要な酸化力と各種硫酸塩の酸化力の比較(1)
【図3】アルカリ金属複合金属酸化物の生成に必要な酸化力と各種硫酸塩の酸化力の比較(2)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物は、無機塩からなる融剤と、アルカリ金属化合物(ただし、前記融剤とは異なる化合物を少なくとも含む。)と、遷移金属化合物とからなるアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物であって、前記原料混合物を焼成するときの保持温度で、前記融剤がアルカリ金属複合金属酸化物を生成するために必要な酸化力を有する。
【0015】
<無機塩からなる融剤>
本発明において、無機塩からなる融剤は、焼成温度において、アルカリ金属複合金属酸化物を生成するために必要な酸化力を発揮できるものである。融剤の全部もしくは一部が、アルカリ金属複合金属酸化物を生成するために必要な酸化力を有する無機塩からなるものであればよい。
【0016】
<アルカリ金属複合金属酸化物の生成に必要な酸化力>
本発明におけるアルカリ金属複合金属酸化物を生成するために必要な酸化力および融剤の有する酸化力は、下記の計算により、酸素ポテンシャル(log[P(O)])を用いて推定できる。
【0017】
<LiFeOの生成に必要な酸化力>
アルカリ金属複合金属酸化物の生成に必要な酸化力の一例を下記の例に従って説明する。
ここで、一例として、アルカリ金属化合物としてLiCOを用い、遷移金属化合物としてFe(OH)を用いて、アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成する反応について、アルカリ金属複合金属酸化物の生成に必要な酸化力を計算する。
アルカリ金属化合物としてLiCOを用い、遷移金属化合物としてFe(OH)を用いて、アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成する平衡は次のように与えられる。

4LiFeO+2CO+4HO=2LiCO+4Fe(OH)+O
・・・平衡(a)
平衡(a)の平衡定数(Keq(a))には下記の関係がある。

・・・式(1)
平衡(a)の酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、次のように与えられる。

・・・式(2)
ここで式(2)の右辺第1項である

は、酸化還元系に特有の酸素ポテンシャルを表し、右辺第2項である

はその酸化還元系に関与する物質の濃度による酸素ポテンシャルの変化を表す。
各種の酸化還元系の酸素ポテンシャル(log[P(O)])を比較する上では、右辺第1項である

は、右辺第2項である

よりも大きく変化するため、酸素ポテンシャル(log[P(O)])の変化に与える影響が大きい。そこで、平衡(a)の酸素ポテンシャル(log[P(O)])を式(2)の右辺第1項のlog[Keq(a)]のみで表す。
すなわち平衡(a)の酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、式(3)で与えられる。
log[P(O)]=log[Keq(a)]・・・式(3)
ここでlog[Keq(a)]は、所定の温度T[℃]における反応の自由エネルギー変化ΔrG゜[J/mol]により計算される。

・・・式(4)
ここで、Rは気体定数(8.314[J/(K/mol)])である。
自由エネルギー変化ΔrG゜[J/mol]は、反応に関与する物質の所定の温度における生成自由エネルギーΔfG゜により計算される。平衡(a)においては、次のように計算される。
ΔrG゜(eq(a))
=2ΔfG゜(LiCO)+4ΔfG゜(Fe(OH))+ΔfG゜(O
−4ΔfG゜(LiFeO)−2ΔfG゜(CO)−4ΔfG゜(CO
・・・式(5)
式(5)における、各物質の生成自由エネルギーΔfG゜は熱力学データベースより調べることができる。また、ΔfG゜は熱力学計算ソフトで計算できる。熱力学データベースおよび熱力学計算ソフトとしては、例えばMALT2(著作権者:日本熱測定学会、発売元:株式会社科学技術社)を使用できる。
900℃におけるlog[Keq(a)]を計算すると−37である。すなわち、900℃におけるLiFeOを得るために必要な酸化力log[Keq(a)]=−37である。
アルカリ金属化合物をLiCOとし、遷移金属化合物をFe(OH)として、アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力を各温度について計算し、図1から図3に示した。
【0018】
<無機塩の酸化力の計算>
酸化力を有する融剤の例として、KSOを用いて計算例を示す。
SOを含有する融剤では、下記の平衡式で表されるKSO/KSの酸化還元平衡が生ずる。
0.5KSO=0.5KS+O・・・平衡(b)

平衡(b)の平衡定数(Keq(b))には下記の関係がある。

・・・式(6)
SO/KSの酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、次のように与えられる。

・・・式(7)
ここで、式(7)の右辺第1項である


は、酸化還元系に特有の酸素ポテンシャル(log[P(O)])を表し、右辺第2項である

はその酸化還元系に関与する物質の濃度による酸素ポテンシャル(log[P(O)])の変化を表す。
各種の酸化還元系に酸素ポテンシャル(log[P(O)])を比較する上では、右辺第1項である

は、右辺第2項である

よりも大きく変化するため、酸素ポテンシャル(log[P(O)])の変化に与える影響が大きい。そこで、KSO/KSの酸化還元平衡の有する酸素ポテンシャル(log[P(O)])を式(6)の右辺第1項log[Keq(b)]のみで表す。
すなわち、KSO/KSの酸素ポテンシャル(log[P(O)])は式(8)で与えられる。
log[P(O)]=log[K(KSO/KS)] ・・・式(8)
ここでlog[K(KSO/KS)]は、所定の温度T[℃]における反応の自由エネルギー変化ΔrG゜[J/mol]により計算される。

・・・式(9)
ここで、Rは気体定数(8.314[J/(K/mol)])である。
ΔrG゜(eq(b))
=0.5ΔfG゜(KS)+ΔfG゜(O)−0.5ΔfG゜(KSO
・・・式(10)
ここでlog[Keq(b)]は例えば熱力学データベースソフトMALT2を使用して計算される。
900℃におけるlog[Keq(b)]は−15である。すなわち、KSO融剤の900℃における酸化力log[Keq(b)(KSO/KS)]=−15である。
SOを含有する融剤で生ずるKSO/KSの酸化還元平衡の酸化力を各温度について計算し、図2の(b−3)に示した。
【0019】
図2では、アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力(0)とKSOを含有する融剤の酸化力(b−3)を比較できる。
SOを含有する融剤の酸化力(b−3)は、300℃以上で、アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力(0)よりも高くなる。
すなわちKSOを含有する融剤は300℃以上でアルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力を有する。
【0020】
アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力(0)を、硫酸ナトリウム(NaSO)の酸化力(a−1)と、タングステン酸ナトリウム(NaWO)の酸化力(a−2)と、バナジウム酸ナトリウム(NaVO)の酸化力(a−3)と、モリブデン酸ナトリウム(NaMoO)の酸化力(a−4)と、硝酸ナトリウム(NaNO)の酸化力(a−5)と、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO)の酸化力(a−6)と、ホウ酸ナトリウム(NaBO)の酸化力(a−7)とそれぞれ比較し、図1に示した。
アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力(0)に比較して、これらの酸化力はある温度以上において、高くなる。
すなわち硫酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、硝酸塩、ニオブ酸塩およびホウ酸塩は、アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力を有する。
そして硫酸塩、硝酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、ホウ酸塩からなる群より選ばれる1種以上を含有する融剤は酸化力、アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力を有する。
【0021】
アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力(0)を、LiSOの酸化力(b−1)、NaSOの酸化力(b−2)、KSOの酸化力(b−3)、RbSOの酸化力(b−4)、MgSOの酸化力(b−5)、CaSOの酸化力(b−6)、CsSOの酸化力(b−7)、BaSOの酸化力(b−8)のそれぞれと図2および図3で比較した。
アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力(0)に比較して、これらの酸化力はある温度以上において高くなる。
すなわちカチオンが、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaからなる硫酸塩は、アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力を有する。
そしてカチオンが、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaからなる硫酸塩を含有する融剤は酸化力、アルカリ金属複合金属酸化物としてLiFeOを生成するために必要な酸化力を有する。
【0022】
アルカリ金属複合金属酸化物を生成するために必要な酸化力を有する無機塩として、硫酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、硝酸塩、ニオブ酸塩およびホウ酸塩からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0023】
より好ましくは、前記無機塩を構成するカチオンがLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる1種以上である。
【0024】
アルカリ金属複合金属酸化物を生成するために必要な酸化力を有する無機塩からなる融剤を用いて、原料混合物を焼成すると、アルカリ金属複合金属酸化物を構成する遷移金属元素の平均酸化数が遷移金属化合物を構成する遷移金属元素の平均酸化数よりも高いことが好ましい。
【0025】
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaをカチオンとする硫酸塩としては、LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSO、CaSO、MgSO、SrSOおよびBaSOを挙げることができる。
これらの融点は、LiSO(859℃)、NaSO(884℃)、KSO(1069℃)、RbSO(1066℃)、CsSO(1005℃)、MgSO(1137℃)、CaSO(1460℃)、SrSO(1605℃)、BaSO(1580℃)である。
【0026】
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaをカチオンとするタングステン酸塩としては、LiWO、NaWO、KWO、RbWO、CsWO、MgWO、CaWO、SrWOおよびBaWOを挙げることができる。
これらの融点は、LiWO(742℃)、NaWO(687℃)、KWO(926℃)である。
【0027】
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaをカチオンとするバナジウム酸塩としては、LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVO、Mg(VO、Ca(VO、Sr(VOおよびBa(VOを挙げることができる。
これらの融点は、NaVO(630℃)、Ba(VO(Baとして863℃)である。
【0028】
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaをカチオンとするモリブデン酸塩としては、LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoO、MgMoO、CaMoO、SrMoOおよびBaMoOを挙げることができる。
これらの融点は、LiMoO(705℃)、NaMoO(698℃)、KMoO(919℃)、RbMoO(958℃)、CsMoO(956℃)、MGMoO(1060℃)、CaMoO(1520℃)、SrMoO(1040℃)、BaMoO(1460℃)である。
【0029】
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaをカチオンとする硝酸塩としては、LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO、Mg(NO、Ca(NO、Sr(NOおよびBa(NOを挙げることができる。
これらの融点は、LiNO(254℃)、NaNO(310℃)、KNO(337℃)、RbNO(316℃)、CsNO(417℃)、Ca(NO(561℃)、Sr(NO(645℃)、Ba(NO(596℃)である。
【0030】
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaをカチオンとするニオブ酸塩としては、LiNbO、NaNbO、KNbO、RbNbO、CsNbO、Mg(NbO、Ca(NbO、Sr(NbOおよびBa(NbOを挙げることができる。
これらの融点は、LiNbO(1255℃)、NaNbO(1250℃)、KNbO(1050℃)である。
【0031】
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaをカチオンとするホウ酸塩としては、LiBO、NaBO、KBO、RbBO、CsBO、Mg(BO、Ca(BO、Sr(BOおよびBa(BOを挙げことができる。
これらの融点は、LiBO(845℃)、NaBO(966℃)、KBO(950℃)、Ca(BO(1154℃)である。
【0032】
本発明における融剤とは、焼成時の保持温度で、その一部もしくは全体が融解するものを示す。2種以上の融剤を組み合わせることで、各融剤の単体の融点よりも、組み合わせた融剤の融点は低くなる。また融剤はアルカリ金属化合物と共存することで、融点が下がる。融剤の一部がアルカリ金属化合物と同じであってもよい。
【0033】
<その他の融剤>
アルカリ金属複合金属酸化物を生成するために必要な酸化力を有する無機塩以外にも、その他の無機塩として、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩およびハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭素化物、ヨウ素化物)からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。好ましくは、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる1種以上を構成元素とする。また、これらの無機塩を2種以上用いることができる。
【0034】
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaをカチオンとする水酸化物としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH、Mg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)およびBa(OH)を挙げることができる。
これらの融点は、LiOH(462℃)、NaOH(318℃)、KOH(360℃)、RbOH(301℃)、CsOH(272℃)、Mg(OH)(350℃)、Ca(OH)(408℃)、Sr(OH)(375℃)、Ba(OH)(853℃)である。
【0035】
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaをカチオンとする炭酸塩としては,LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO、MgCO、CaCO、SrCOおよびBaCOを挙げることができる。
これらの融点は、LiCO(735℃)、NaCO(854℃)、KCO(899℃)、RbCO(837℃)、CsCO(793℃)、MgCO(990℃)、CaCO(825℃)、SrCO(1497℃)、BaCO(1380℃)である。
【0036】
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaをカチオンとするリン酸塩としては、LiPO、NaPO、KPO、RbPO、CsPO、Mg(PO、Ca(PO、Sr(POおよびBa(POを挙げることができる。
これらの融点は、LiPO(857℃)、KPO(1340℃)、Mg(PO(1184℃)、Sr(PO(1727℃)、Ba(PO(1767℃)である。
【0037】
Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaをカチオンとする塩化物としては、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、MgCl、CaCl、SrClおよびBaClを挙げることができる。
これらの融点は、LiCl(605℃)、NaCl(801℃)、KCl(770℃)、RbCl、(718℃)、CsCl(645℃)、MgCl(714℃)、CaCl(782℃)、SrCl(857℃)、BaCl(963℃)である。
【0038】
本発明において、原料混合物中の融剤の割合は、通常、遷移金属化合物100重量部に対して、0.1〜1000重量部である。好ましくは、0.5〜200重量部、より好ましくは1〜100重量部である。
【0039】
<アルカリ金属化合物>
本発明においてアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の硝酸塩、アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、およびアルカリ金属のハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭素化物、ヨウ素化物)を挙げることができる。これらのアルカリ金属化合物は水和物でもよい。これらのアルカリ金属化合物は2種以上併用してもよい。ただし、前記融剤とは異なる化合物を少なくとも含む。
【0040】
アルカリ金属の水酸化物としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOHおよびCsOHを挙げることができる。
【0041】
アルカリ金属の炭酸塩としては,LiCO、NaCO、KCO、RbCOおよびCsCOを挙げることができる。
【0042】
アルカリ金属の硝酸塩としては、LiNO、NaNO、KNO、RbNOおよびCsNOを挙げることができる。
【0043】
アルカリ金属の硫酸塩としては、LiSO、NaSO、KSO、RbSOおよびCsSOを挙げることができる。
【0044】
アルカリ金属の硝酸塩としては、LiPO、NaPO、KPO、RbPOおよびCsPOを挙げることができる。
【0045】
アルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば塩化物が挙げられる。アルカリ金属の塩化物としては、LiCl、NaCl、KCl、RbClおよびCsClを挙げることができる。
【0046】
<遷移金属化合物>
本発明において、遷移金属化合物は、遷移金属の酸化物、水酸化物(オキシ水酸化物も含む。以下同じ。)、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩および酢酸塩を挙げることができる。これらの遷移金属化合物は水和物でもよい。これらの遷移金属化合物を2種以上併用してもよい。
【0047】
前記遷移金属化合物を構成する遷移金属元素が、Mn、Fe、CoおよびNiからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0048】
また、得られる非水電解質二次電池のレート特性をさらにより高めるためには、前記遷移金属化合物を構成する遷移金属元素が、Feと、さらにMn、CoおよびNiからなる群より選ばれる1種以上とであることが好ましい。より好ましくは前記遷移金属化合物を構成する遷移金属元素が、Feと、さらにNiまたはMnである。
【0049】
さらに好ましくは、前記遷移金属化合物を構成する遷移金属元素として少なくともFeを有することである。好ましいFeの量としては、遷移金属元素の中のFeのモル分率が0.01〜0.5であり、より好ましくは0.02〜0.2である。
【0050】
Mを遷移金属元素とすると、遷移金属の酸化物としては、例えば、MO、MおよびMOを挙げることができる。
【0051】
遷移金属の水酸化物としては、例えば、M(OH)およびM(OH)を挙げることができる。遷移金属の水酸化物としては、遷移金属のオキシ水酸化物でもよい。遷移金属のオキシ水酸化物としては、例えば、MOOHを挙げることができる。
【0052】
遷移金属の塩化物としては、例えば、MClおよびMClを挙げることができる。
【0053】
遷移金属の炭酸塩としては、例えば、MCOおよびM(COを挙げることができる。
【0054】
遷移金属の硫酸塩としては、例えば、MSOおよびM(SOを挙げることができる。
【0055】
遷移金属の硝酸塩としては、例えば、M(NOを挙げることができる。
【0056】
遷移金属のシュウ酸塩としては、例えば、MCを挙げることができる。
【0057】
遷移金属の酢酸塩としては、例えば、M(CHCOO)を挙げることができる。
【0058】
遷移金属化合物は、水酸化物が好ましく用いられる。
遷移金属化合物は、複数の遷移金属元素で構成されることが好ましい。該遷移金属化合物は、共沈により得ることができ、水酸化物であることが好ましい。
【0059】
<正極活物質の製造>
前記焼成における保持温度は、得られるアルカリ金属複合金属酸化物の比表面積を調整するために重要な因子である。通常、保持温度が高いほど、比表面積は小さくなる傾向にある。保持温度が低いほど、比表面積は大きくなる傾向にある。
焼成の保持温度として好ましくは200〜1050℃である。さらに好ましくは300〜1050℃であり、特に好ましくは600〜1050℃である。
保持温度の設定は、融剤の種類にも依存し、前記の融剤の融点および酸化力を考慮すればよい。
保持温度で保持する時間は、通常0.1〜20時間であり、好ましくは0.5〜8時間である。
保持温度までの昇温速度は、通常50〜400℃/時間であり、保持温度から室温までの降温速度は、通常10〜400℃/時間である。
また融剤は、アルカリ金属複合金属酸化物に残留していてもよいし、洗浄、分解、蒸発などにより除去されていてもよい。
【0060】
また、焼成後において、得られるアルカリ金属複合金属酸化物を、ボールミルやジェットミルなどを用いて粉砕してもよい。粉砕によって、アルカリ金属複合金属酸化物の比表面積を調整することが可能な場合がある。また、焼成と粉砕とを2回以上繰り返してもよい。また、アルカリ金属複合金属酸化物は必要に応じて洗浄または分級できる。
【0061】
本発明の原料混合物を用いて得られるアルカリ金属複合金属酸化物は、高い出力特性を要する非水電解質二次電池の正極活物質として有用となる。
【0062】
本発明の原料混合物を用いて得られるアルカリ金属複合金属酸化物は、通常0.05〜1μmの粒径の一次粒子からなる。一次粒子の粒径は、アルカリ金属複合金属酸化物の電子顕微鏡写真から測定できる。
【0063】
本発明の原料混合物を用いて得られるアルカリ金属複合金属酸化物の結晶構造は、層状構造であることが好ましい。さらに非水電解質二次電池の放電容量を大きくするために、結晶構造はR−3mまたはC2/mの空間群に帰属することが好ましい。空間群R−3mは、六方晶型の結晶構造に含まれる。前記六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P−3、R−3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P−31m、P−31c、P−3m1、P−3c1、R−3m、R−3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P−6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P−6m2、P−6c2、P−62m、P−62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcmおよびP63/mmcからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
また、空間群C2/mは、単斜晶型の結晶構造に含まれる。前記単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/cおよびC2/cからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
なお、アルカリ金属複合金属酸化物の結晶構造は粉末X線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定することができる。粉末X線回折測定におけるX線の線源としてはCuKα線、CoKα線、MoKα線およびWKα線を用いることができる。
【0064】
また、本発明において、アルカリ金属複合金属酸化物を構成する遷移金属元素が、Ni、Mn、CoおよびFeからなる群より選ばれる1種以上の遷移金属元素である場合には、本発明の効果を損なわない範囲で、該遷移金属元素の一部を、他元素で置換してもよい。ここで、他元素としては、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mg、Sc、Y、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ru、Rh、Ir、Pd、Cu、Ag、Znなどの元素を挙げることができる。
【0065】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のアルカリ金属複合金属酸化物の粒子の表面に、該酸化物とは異なる化合物を付着させてもよい。該化合物としては、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mgおよび遷移金属元素からからなる群より選ばれる1種以上の元素から構成される化合物であり、好ましくはB、Al、Mg、Ga、InおよびSnからなる群より選ばれる1種以上の元素から構成される化合物、より好ましくはAlの化合物を挙げることができる。
前記化合物として具体的には、前記元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硝酸塩および有機酸塩を挙げることができ、好ましくは、酸化物、水酸化物およびオキシ水酸化物である。また、これらの化合物を混合して用いてもよい。これら化合物の中でも、特に好ましい化合物はアルミナである。また、付着後に加熱を行ってもよい。
【0066】
本発明の製造方法によって得られるアルカリ金属複合金属酸化物を有する正極活物質は、非水電解質二次電池に好適である。
【0067】
<正極の製造>
前記正極活物質を用いて、正極を製造する方法として、非水電解質二次電池用の正極を製造する場合を例に挙げて、次に説明する。
【0068】
正極は、正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を正極集電体に担持させて製造する。
前記導電材としては炭素材料を用いることができ、炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)および繊維状炭素材料を挙げることができる。正極中の導電材の割合を高めることで、正極の導電性が高くなり、充放電効率およびレート特性を向上させることができる。正極中の導電材の割合が大きすぎると、正極合剤と正極集電体との結着性が低下させ、内部抵抗が増大することがある。通常、正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100重量部に対して5〜20重量部である。
導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。またカーボンブラックは、少量を正極合剤中に添加することで、正極内部の導電性を高め、充放電効率およびレート特性を向上させることができる。
【0069】
前記バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体および四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;が挙げられる。
また、これらの二種以上を混合して用いてもよい。
また、バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤100重量%中の該フッ素樹脂の割合が1〜10重量%、該ポリオレフィン樹脂の割合が0.1〜2重量%となるように含有させることによって、正極集電体との結着性に優れた正極合剤を得ることができる。
【0070】
前記正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの導電体を用いることができる。さらに、薄膜に加工しやすく、安価であるという点でAlが好ましい。
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法や正極合剤ペーストを固着する方法が挙げられる。
正極活物質と導電材とバインダーと溶媒とを用いて、正極合剤ペーストが作製される。該正極合剤ペーストを正極集電体上に塗布し、そして乾燥後プレスするなどして固着させる。
該溶媒としては、水系溶媒または有機溶媒を用いることができる。
溶媒には必要に応じて増粘剤を添加してもよい。該増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンが挙げられる。
該有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0071】
正極合剤を正極集電体へ塗布する方法としては、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。以上に挙げた方法により、非水電解質二次電池用正極を製造することができる。
【0072】
前記の正極を用いて、非水電解質二次電池を製造する方法として、リチウム二次電池を製造する場合を例に挙げて、次に説明する。
セパレータ、負極および前記の正極を、積層および巻回することにより電極群を作製する。該電極群を電池ケース内に収納し、電解液を含浸させることで、リチウム二次電池は製造される。
【0073】
前記電極群の形状としては、例えば、該電極群を巻回の軸と垂直方向に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形などの形状を挙げることができる。また、電池の形状としては、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0074】
前記負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極または負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属または合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。これらの負極活物質を混合して用いてもよい。
【0075】
<負極>
前記負極活物質につき、以下に例示する。
前記炭素材料として、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体などを挙げることができる。
前記酸化物として、具体的には、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V25、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe34、Fe23、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti512、LiVO2などのリチウムとチタンおよび/またはバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
前記硫化物として、具体的には、Ti23、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V34、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe34、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo23、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb23など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se53、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
前記窒化物として、具体的には、Li3N、Li3-xxN(ここで、AはNiおよび/またはCoであり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、併用して用いてもよく、結晶質または非晶質のいずれでもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、主に、負極集電体に担持して、電極として用いられる。
【0076】
また、前記金属として、具体的には、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属が挙げられる。
また、前記合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Siなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金;を挙げることもできる。
【0077】
前記負極活物質の中で、電位平坦性が良好である、平均放電電位が低い、サイクル性が良いために、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状または微粉末の凝集体のいずれでもよい。
【0078】
前記負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0079】
前記負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの導電体を挙げることができ、リチウムと合金を作り難い点、薄膜に加工しやすいという点で、Cuを用いればよい。
負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様であり、加圧成型する方法や負極合剤ペーストを固着する方法が挙げられる。
【0080】
<セパレータ>
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができ、また、前記材質を2種以上用いてセパレータとしてもよいし、前記材料が積層されていてもよい。セパレータとしては、例えば特開2000−30686号公報、特開平10−324758号公報などに記載のセパレータを挙げることができる。セパレータの厚みは電池の体積エネルギー密度が上がり、内部抵抗が小さくなるという点で、機械的強度が保たれる限り薄くした方がよく、通常5〜200μm程度、好ましくは5〜40μm程度である。
【0081】
セパレータは、好ましくは、熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムを有する。非水電解質二次電池においては、通常、正極−負極間の短絡などが原因で電池内に異常電流が流れた際に、電流を遮断して、過大電流が流れることを阻止(シャットダウン)する機能を有することが好ましい。ここで、シャットダウンは、通常の使用温度を越えた場合に、セパレータにおける多孔質フィルムの微細孔を閉塞することによりなされる。そしてシャットダウンした後、ある程度の高温まで電池内の温度が上昇しても、その温度により破膜することなく、シャットダウンした状態を維持することが好ましい。かかるセパレータとしては、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層されてなる積層フィルムが挙げられ、該フィルムをセパレータとして用いることにより、本発明における二次電池の耐熱性をより高めることが可能となる。ここで、耐熱多孔層は、多孔質フィルムの両面に積層されていてもよい。
【0082】
以下、前記耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層されてなる積層フィルムについて説明する。
【0083】
前記積層フィルムにおいて、耐熱多孔層は、多孔質フィルムよりも耐熱性の高い層であり、該耐熱多孔層は、無機粉末から形成されていてもよいし、耐熱樹脂を含有していてもよい。耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有することにより、塗工などの容易な手法で、耐熱多孔層を形成することができる。
耐熱樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、芳香族ポリエステル、ポリエーテルサルホンおよびポリエーテルイミドを挙げることができる。耐熱性をより高めるためには、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホンおよびポリエーテルイミドが好ましい。より好ましくは、ポリアミド、ポリイミドまたはポリアミドイミドである。さらにより好ましくは、芳香族ポリアミド(パラ配向芳香族ポリアミド、メタ配向芳香族ポリアミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミドなどの含窒素芳香族重合体である。とりわけ好ましくは芳香族ポリアミドであり、製造面で、特に好ましいのは、パラ配向芳香族ポリアミド(以下、パラアラミドということがある。)である。
また、耐熱樹脂として、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状オレフィン系重合体を挙げることもできる。これらの耐熱樹脂を用いることにより、積層フィルムの耐熱性、すなわち、積層フィルムの熱破膜温度をより高めることができる。
【0084】
前記積層フィルムの熱破膜温度は、耐熱樹脂の種類に依存し、使用場面、使用目的に応じ、選択使用される。より具体的には、耐熱樹脂として、前記含窒素芳香族重合体を用いる場合には400℃程度に、ポリ−4−メチルペンテン−1を用いる場合には250℃程度に、環状オレフィン系重合体を用いる場合には300℃程度に、夫々、熱破膜温度をコントロールすることができる。また、耐熱多孔層が、無機粉末からなる場合には、熱破膜温度を500℃以上にコントロールすることも可能である。
【0085】
前記パラアラミドは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレンなどのような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。
具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体などのパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0086】
前記芳香族ポリイミドとしては、芳香族の二酸無水物とジアミンの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。
該二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンおよび3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。該ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンソフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンおよび1,5−ナフタレンジアミンが挙げられる。
また、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドが挙げられる。
【0087】
前記芳香族ポリアミドイミドとしては、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるもの、ならびに、芳香族二酸無水物および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるものが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸の具体例としてはイソフタル酸およびテレフタル酸が挙げられる。また芳香族二酸無水物の具体例としては無水トリメリット酸が挙げられる。
芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリランジイソシアネートおよびm−キシレンジイソシアネートが挙げられる。
【0088】
また、イオン透過性をより高めるために、耐熱多孔層の厚みは、1〜10μm、さらには1〜5μm、特に1〜4μmが好ましい。また、耐熱多孔層は微細孔を有し、その孔径は、通常3μm以下であり、好ましくは1μm以下である。
また、耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有する場合には、耐熱多孔層は後述のフィラーを含有することもできる。
【0089】
前記積層フィルムにおいて、多孔質フィルムは、微細孔を有し、シャットダウン機能を有することが好ましい。この場合、多孔質フィルムは、熱可塑性樹脂を含有する。
多孔質フィルムにおける微細孔のサイズは通常3μm以下であり、好ましくは1μm以下である。
多孔質フィルムの空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。
熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムを用いた非水電解質二次電池では、通常の使用温度を越えると、熱可塑性樹脂が軟化して、微細孔を閉塞する。
【0090】
前記熱可塑性樹脂には、非水電解質二次電池における電解液に溶解しないものが選択される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂および熱可塑性ポリウレタン樹脂を挙げることができ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。より低温で軟化してシャットダウンさせるためには、ポリエチレンを含有することが好ましい。
前記ポリエチレンとして、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレンおよび分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンを挙げることもできる。
前記多孔質フィルムを構成する熱可塑性樹脂には、該フィルムの突刺し強度をより高めるために、少なくとも超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。
また、多孔質フィルムの製造面において、熱可塑性樹脂には、重量平均分子量1万以下の低分子量のポリオレフィンからなるワックスを含有することが好ましい場合もある。
【0091】
また、積層フィルムにおける多孔質フィルムの厚みは、通常、3〜30μmであり、さらに好ましくは3〜25μmである。また、本発明において、積層フィルムの厚みとしては、通常40μm以下、好ましくは20μm以下である。
また、耐熱多孔層の厚みをA(μm)、多孔質フィルムの厚みをB(μm)としたときには、A/Bの値が、0.1以上1以下であることが好ましい。
【0092】
また、耐熱多孔層に耐熱樹脂を含有する場合には、耐熱多孔層には1種以上のフィラーを含有していてもよい。フィラーは、有機粉末、無機粉末またはこれらの混合物のいずれから選ばれるものであってもよい。フィラーを構成する粒子の平均粒子径は0.01〜1μmであることが好ましい。
【0093】
前記有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチルなどの単独または2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライドなどのフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート;が挙げられる。
該有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。
これらの有機粉末の中でも、化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0094】
前記無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩などの無機物からなる粉末が挙げられる。これらの中でも、導電性の低い無機物からなる粉末が好ましく用いられる。
具体的に該無機粉末を例示すると、アルミナ、シリカ、二酸化チタンまたは炭酸カルシウムからなる粉末が挙げられる。該無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。
より好ましくは、フィラーがアルミナ粒子のみで構成されることである。さらに好ましくは、フィラーを構成するアルミナ粒子の一部または全部が略球状をしていることである。
耐熱多孔層が無機粉末から構成される場合には、前記例示の無機粉末を用いればよく、必要に応じてバインダーと混ぜて用いればよい。
【0095】
フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子である場合には、耐熱多孔層の総重量を100重量部としたときには、フィラーの重量は、通常5〜95重量部であり、20〜95重量部であることが好ましい。より好ましくは30〜90重量部である。これらの範囲は、フィラーの材質の比重により、適宜設定できる。
【0096】
フィラーの形状については、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状および繊維状が挙げられ、いずれの粒子も用いることができる。さらに、均一な孔を形成しやすいことから、略球状粒子であることが好ましい。略球状粒子としては、粒子のアスペクト比(粒子の長径/粒子の短径)が1〜1.5である粒子が挙げられる。粒子のアスペクト比は、電子顕微鏡写真から測定することができる。
【0097】
イオン透過性を高めるために、前記セパレータのガーレー法による透気度は、50〜300秒/100ccであることが好ましい。さらに好ましくは、50〜200秒/100ccである。
また、セパレータの空孔率は、通常30〜80体積%であり、好ましくは40〜70体積%である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0098】
<電解液および固体電解質>
二次電池において、電解液は、通常、電解質および有機溶媒から構成される。
電解質としては、アルカリ金属をカチオンとする過塩素酸塩、六フッ化リン塩、六フッ化ヒ素塩、六フッ化アンチモン塩、四フッ化ホウ素塩、トリフルオロメタンスルホナート塩、スルホンアミド化合物のトリフルオロメタンスルホン酸塩、ホウ素化合物塩およびホウ酸塩が挙げられる。これらの2種以上の混合物を使用してもよい。
リチウム塩について例を示すと、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C49SO3)、LiC(SO2CF33、Li210Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalate)borateのことである。)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられる。リチウム塩として、通常、これらの中でもフッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32およびLiC(SO2CF33からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いる。
【0099】
また前記電解液において、有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物;が挙げられる。
または、前記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができる。通常は前記有機溶媒のうちの二種以上を混合して用いる。
中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。
環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、動作温度範囲が広く、負荷特性に優れ、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。
また、特に安全性を向上する効果があることから、LiPF6などのフッ素を含むアルカリ金属塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。
ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、大電流放電特性にも優れており、さらに好ましい。
【0100】
前記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。
固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。
また、Li2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−P25、Li2S−B23、Li2S−SiS2−Li3PO4、Li2S−SiS2−Li2SO4などの硫化物を含む無機系固体電解質を用いてもよい。
これら固体電解質を用いて、安全性をより高めることができることがある。
また、本発明の非水電解質二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【実施例】
【0101】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
なお、アルカリ金属複合金属酸化物の物性の測定、アルカリ金属複合金属酸化物を正極活物質として用いた電池による充放電試験は、次のようにして行った。
【0102】
<アルカリ金属複合金属酸化物を正極活物質として用いた電池による充放電試験>
1.充放電試験
正極活物質と導電材とバインダー溶液とを調整して、正極活物質:導電材:バインダーの重量比がそれぞれ87:10:3とした。これらをメノウ乳鉢を用いて混練して、正極合剤ペーストを作製した。
ここで導電材にはアセチレンブラックと黒鉛とを重量割合で1:9として混合したものを使用した。
バインダー溶液としては、PVdFを溶解したN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)溶液を使用した。
該正極合剤ペーストをAl箔集電体に塗布した後、150℃で8時間真空乾燥して、正極を得た。
【0103】
得られた正極と、電解液と、セパレータと、負極とを組み合わせて、非水電解質二次電池(コイン型電池R2032)を作製した。なお、電池の組み立てはアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
電解液として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとをそれぞれ体積比で30:35:35とした混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解したものを使用した。
セパレータとしてポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層した積層フィルムセパレータを使用した。
また、負極として金属リチウムを使用した。
【0104】
前記のコイン型電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。充放電試験は、放電時の放電電流を変えて放電容量を測定した。
充電最大電圧4.3V、充電時間8時間、充電電流0.2mA/cm2
放電時は放電最小電圧を2.5Vで一定とし、各サイクルにおける放電電流を下記のように変えて放電を行った。
10Cにおける放電容量が大きいほど、高い出力特性が得られることを示す。
1サイクル目の放電(0.2C):放電電流0.2mA/cm2
2サイクル目の放電(0.2C):放電電流0.2mA/cm2
3サイクル目の放電(1C) :放電電流1.0mA/cm2
4サイクル目の放電(2C) :放電電流2.0mA/cm2
5サイクル目の放電(5C) :放電電流5.0mA/cm2
6サイクル目の放電(10C) :放電電流10mA/cm2
【0105】
<アルカリ金属複合金属酸化物の物性測定>
2.アルカリ金属複合金属酸化物の粉末X線回折測定
アルカリ金属複合金属酸化物の粉末X線回折測定には株式会社リガク製RINT2500TTR型を用いた。X線の線源にはCuKα線源を用いた。アルカリ金属複合金属酸化物を専用のホルダーに充填し、回折角2θ=10〜90°の範囲にて行い、粉末X線回折図形を得た。
【0106】
3.アルカリ金属複合金属酸化物の比表面積の測定
アルカリ金属複合金属酸化物0.5gを窒素雰囲気中150℃、15分間乾燥した後、マイクロメリティックス製フローソーブII2300を用いてBET比表面積を測定した。前記方法で測定された比表面積をアルカリ金属複合金属酸化物の比表面積とした。
【0107】
・実施例1
<遷移金属化合物の製造>
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水に、水酸化カリウムを10重量%となるように添加した。さらに攪拌して水酸化カリウムを完全に溶解させて、アルカリ水溶液として水酸化カリウム水溶液を調製した。
ガラス製ビーカー内で、蒸留水200mlに、目的とするニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を基準として、塩化ニッケル(II)六水和物を9重量%となるように、塩化マンガン(II)四水和物を8重量%となるように、さらに塩化鉄(II)四水和物を1重量%となるように添加した。さらに攪拌して遷移金属塩を完全に溶解させて、ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を得た。
前記水酸化カリウム水溶液を攪拌しながら、これに前記ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を滴下した。水溶液中に共沈物が生成し、共沈物スラリーを得た。
次いで、共沈物スラリーについて、濾過・蒸留水洗浄を行い、120℃で乾燥させて共沈物を得た。
【0108】
<アルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物の調整>
遷移金属化合物を構成する遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが130モルとなるように調製し、融剤である硫酸カリウムと炭酸カリウムがそれぞれ5モルと5モルなるように調整した。
遷移金属化合物として共沈物と、アルカリ金属化合物として炭酸リチウムと、無機塩からなる融剤として硫酸カリウムと、その他の融剤として炭酸カリウムとを、メノウ乳鉢を用いて乾式混合して、前記原料混合物を得た。
【0109】
<焼成によるアルカリ金属複合金属酸化物の作製>
アルミナ製焼成容器に前記原料混合物を10g入れ、電気炉に設置した。
酸素濃度が10体積%、二酸化炭素濃度が10体積%となるように調整したガスを毎分5Lで電気炉内に流通して、電気炉内の雰囲気を調整した。雰囲気を調整した該電気炉で、900℃まで加熱し、その温度で6時間保持して焼成を行なった。その後、室温まで冷却し、焼成品を得た。
該焼成品を粉砕し、蒸留水でデカンテーションによる洗浄を行い、濾過し、300℃で6時間乾燥して、アルカリ金属複合金属酸化物としてAを得た。
<アルカリ金属複合金属酸化物の物性とそれを正極活物質とした充放電試験>
の比表面積と、結晶構造と、Aを正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された放電容量とを表1に示す。
10Cにおける放電容量を比較すると、後述の比較例1におけるB1を正極活物質としたコイン型電池の値よりも、Aを正極活物質としたコイン型電池の値の方が大きかった。
【0110】
・比較例1
比較例1では、遷移金属化合物を構成する遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが130モルとなるように調製し、融剤中の炭酸カリウムが10モルとなるように調製した。
遷移金属化合物として実施例1と同様にして作製された共沈物と、空気中で安定なアルカリ金属化合物として炭酸リチウムと、その他の融剤として炭酸カリウムとを、メノウ乳鉢を用いて乾式混合して、原料混合物を得た。
次いで、実施例1と同様の条件で焼成、粉砕、洗浄、乾燥の過程を経てアルカリ金属複合金属酸化物としてBを得た。
の比表面積と、結晶構造と、Bを正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された放電容量とを表1に示す。
【0111】
・実施例2、比較例2
実施例2、比較例2では、焼成における雰囲気を酸素濃度が10体積%、二酸化炭素濃度が5体積%となるように調整した。
実施例2では、焼成における雰囲気以外の条件は、実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてAを得た。
比較例2では、焼成における雰囲気以外の条件は、比較例2と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてBを得た。
とBの比表面積と、結晶構造と、AとBとをそれぞれ正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された放電容量とを表1に示す。
10Cにおける放電容量を比較すると、比較例2におけるBを正極活物質としたコイン型電池の値よりも、実施例2におけるAを正極活物質としたコイン型電池の値の方が大きかった。
【0112】
・実施例3、比較例3
実施例3、比較例3では、焼成における雰囲気を酸素濃度が10体積%、二酸化炭素濃度が0体積%となるように調整した。
実施例3では、焼成における雰囲気以外の条件は、実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてAを得た。
比較例3では、焼成における雰囲気以外の条件は、比較例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてBを得た。
とBの比表面積と、結晶構造と、AとBとをそれぞれ正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された放電容量とを表1に示す。
10Cにおける放電容量を比較すると、比較例3におけるBを正極活物質としたコイン型電池の値よりも、実施例3におけるAを正極活物質としたコイン型電池の値の方が大きかった。
【0113】
・実施例4、実施例5、比較例4
実施例4、実施例5、比較例4では、焼成における保持温度を900℃として、雰囲気を酸素濃度が20体積%、二酸化炭素濃度が10体積%となるように調整した。
実施例4では、焼成における雰囲気以外の条件は、実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてAを得た。
実施例5では、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが140モルとなるように調製し、融剤中の炭酸カリウムと硫酸カリウムとがそれぞれ5モルと5モルとなるように調製した。焼成における雰囲気と原料混合物の比率以外の条件は、実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてAを得た。
比較例4では、焼成における雰囲気以外の条件は、比較例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてBを得た。
とAとBとの、比表面積と、結晶構造と、AとAとBとをそれぞれ正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された放電容量とを表2に示す。
10Cにおける放電容量を比較すると、比較例4におけるBを正極活物質としたコイン型電池の値よりも、実施例4におけるAを正極活物質としたコイン型電池の値および実施例5におけるAを正極活物質としたコイン型電池の値の方が大きかった。
【0114】
・実施例6、実施例7、実施例8、実施例9、比較例5
実施例6、実施例7、実施例8、実施例9、比較例5では、焼成における保持温度を850℃として、雰囲気を酸素濃度が20体積%、二酸化炭素濃度が10体積%となるように調整した。
実施例6では、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが130モルとなるように調製し、融剤中の炭酸カリウムと硫酸カリウムとがそれぞれ1モルと1モルとなるように調製した。焼成雰囲気その他の条件は実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてAを得た。
実施例7では、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが140モルとなるように調製し、融剤中の炭酸カリウムと硫酸カリウムとがそれぞれ1モルと1モルとなるように調製した。焼成における雰囲気と原料混合物の比率以外の条件は、実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてAを得た。
実施例8では、焼成における雰囲気以外の条件は、実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてAを得た。
実施例9では、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが140モルとなるように調製し、融剤中の炭酸カリウムと硫酸カリウムとがそれぞれ5モルと5モルとなるように調製した。焼成における雰囲気と原料混合物の比率以外の条件は、実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてAを得た。
比較例5では、焼成における雰囲気以外の条件は、比較例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてBを得た。
とAとAとAとBとの、比表面積と、結晶構造と、AとAとAとAとBとをそれぞれ正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された放電容量とを表3に示す。
10Cにおける放電容量を比較すると、比較例5におけるBを正極活物質としたコイン型電池の値よりも、実施例6におけるAを正極活物質としたコイン型電池の値や、実施例7におけるAを正極活物質としたコイン型電池の値や実施例8におけるAを正極活物質としたコイン型電池の値や、実施例9におけるAを正極活物質としたコイン型電池の値の方が大きかった
【0115】
・実施例10、実施例11、実施例12、実施例13、比較例6
実施例10、実施例11、実施例12、実施例13、比較例6では、焼成における保持温度を950℃として、雰囲気を酸素濃度が20体積%、二酸化炭素濃度が10体積%となるように調整した。
実施例10では、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが130モルとなるように調製し、融剤中の炭酸カリウムと硫酸カリウムとがそれぞれ1モルと1モルとなるように調製した。焼成における雰囲気と原料混合物の比率以外の条件は、実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてA10を得た。
実施例11では、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが140モルとなるように調製し、融剤中の炭酸カリウムと硫酸カリウムとがそれぞれ1モルと1モルとなるように調製した。焼成における雰囲気と原料混合物の比率以外の条件は、実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてA11を得た。
実施例12では、焼成における雰囲気以外の条件は、実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてA12を得た。
実施例13では、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが140モルとなるように調製し、融剤中の炭酸カリウムと硫酸カリウムとがそれぞれ5モルと5モルとなるように調製した。焼成における雰囲気と原料混合物の比率以外の条件は、実施例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてA13を得た。
比較例6では、焼成における雰囲気以外の条件は、比較例1と同様にして、アルカリ金属複合金属酸化物としてBを得た。
10とA11とA12とA13とBとの、比表面積と、結晶構造と、A10とA11とA12とA13とBとをそれぞれ正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された放電容量とを表4に示す。
10Cにおける放電容量を比較すると、比較例6におけるBを正極活物質としたコイン型電池の値よりも、実施例10におけるA10を正極活物質としたコイン型電池の値や、実施例11におけるA11を正極活物質としたコイン型電池の値や、実施例12におけるA12を正極活物質としたコイン型電池の値や、実施例13におけるA13を正極活物質としたコイン型電池の値の方が大きかった。
【0116】
・実施例14
<アルカリ金属複合金属酸化物の製造>
ポリエチレン製の反応容器内で、蒸留水に、水酸化カリウムを15重量%となるように添加した。さらに攪拌して水酸化カリウムを完全に溶解させて、アルカリ水溶液として水酸化カリウム水溶液を調製した。
ガラスコーティングされた鉄鋼製の反応容器内で、蒸留水に、目的とするニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を基準として、塩化ニッケル(II)六水和物を22重量%となるように、塩化マンガン(II)四水和物を18重量%となるように、さらに塩化鉄(II)四水和物を2重量%となるように添加した。さらに攪拌して遷移金属塩を完全に溶解させて、ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を得た。実施例14におけるニッケル−マンガン−鉄混合水溶液中のニッケルとマンガンと鉄のモル比は、実施例1のニッケル−マンガン−鉄混合水溶液と同じとした。
前記水酸化カリウム水溶液を攪拌しながら、これに前記ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を滴下した。水溶液中に共沈物が生成し、共沈物スラリーを得た。
次いで、共沈物スラリーについて、濾過・蒸留水洗浄を行い、120℃で乾燥させて共沈物を得た。
【0117】
<原料混合物の調整>
実施例14では、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが130モルとなるように調製し、融剤中の炭酸カリウムと硫酸カリウムとがそれぞれ5モルと5モルとになるように調製した。
遷移金属化合物として共沈物と、アルカリ金属化合物として炭酸リチウムと、無機塩からなる融剤として硫酸カリウムと、その他の融剤として炭酸カリウムとを、ロッキングミル(愛知電機株式会社製。以下同じ。)を用いて乾式混合して、原料混合物を得た。
【0118】
<焼成によるアルカリ金属複合金属酸化物の作製>
次いで、該混合物を□300mmの多孔質セラミックス製焼成容器に1.8kg入れた。このときの混合物の層厚は30mmであった。
プロパンガスを燃料として、その燃焼熱により炉内を加熱するシャトルキルン焼成炉を用いて焼成した。100℃/hで昇温して、860℃において6時間保持した。その後、常温になるまで冷却した。
炉内の酸素濃度は、焼成直前において21体積%であった。ガス燃焼により温度が上昇するとともに酸素濃度は低下し、860℃の保持温度に達した直後に最も低くなり、11体積%であった。炉内の二酸化炭素濃度は、焼成直前において0体積%であった。ガス燃焼により温度が上昇するとともに二酸化炭素濃度は上昇し、860℃の保持温度に達した直後に最も高くなり、8体積%であった。
シャトルキルン焼成炉から焼成品を取り出して、これを粉砕し、蒸留水でデカンテーションによる洗浄を行い、濾過し、300℃で6時間乾燥して、アルカリ金属複合金属酸化物としてA14を得た。
【0119】
<アルカリ金属複合金属酸化物の物性とそれを正極活物質とした充放電試験>
14の比表面積と、結晶構造と、A14を正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された放電容量とを表5に示す。
10Cにおける放電容量を比較すると、後述の比較例7におけるBを正極活物質としたコイン型電池の値よりも、実施例14におけるA14を正極活物質としたコイン型電池の値の方が大きかった。
【0120】
・比較例7
遷移金属化合物として実施例14と同様して得られた共沈物と、アルカリ金属化合物として炭酸リチウムと、その他の融剤として炭酸カリウムとを、混合して、原料混合物を得た。
このとき、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが130モルとなるように調製し、融剤の炭酸カリウムが10モルとなるように調製した。
次いで、実施例14と同様の条件で焼成、粉砕、洗浄、乾燥の過程を経てアルカリ金属複合金属酸化物としてBを得た。
の比表面積と、結晶構造と、Bを正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された放電容量とを表5に示す。
【0121】
・実施例15、実施例16、実施例17
<アルカリ金属複合金属酸化物の製造>
ポリエチレン製の反応容器内で、蒸留水に、水酸化カリウムを15重量%となるように添加した。さらに攪拌して水酸化カリウムを完全に溶解させて、アルカリ水溶液として水酸化カリウム水溶液を調製した。
また、ガラスコーティングされた鋼鉄製の反応容器内で、蒸留水に、目的とするニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を基準として、硫酸ニッケル(II)六水和物を24重量%となるように、硫酸マンガン(II)一水和物を16重量%となるように、さらに塩化鉄(II)七水和物を3重量%となるように添加した。さらに攪拌して遷移金属塩を完全に溶解させて、ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を得た。実施例15、実施例16、実施例17におけるニッケル−マンガン−鉄混合水溶液中のニッケルとマンガンと鉄のモル比は、実施例1のニッケル−マンガン−鉄混合水溶液と同じとした。
前記水酸化カリウム水溶液を攪拌しながら、これに前記ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を滴下した。水溶液中に共沈物が生成し、共沈物スラリーを得た。
次いで、共沈物スラリーについて、濾過・蒸留水洗浄を行い、120℃で乾燥させて共沈物を得た。
【0122】
<原料混合物の調整>
実施例15では、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが130モルとなるように調製し、融剤として硫酸カリウムが10モルとになるように調製した。
実施例16では、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが130モルとなるように調製し、融剤として硫酸カリウムが5モルとになるように調製した。
実施例17では、遷移金属化合物中の遷移金属元素(ニッケル、マンガン、鉄)の合計を100モルとしたときに、アルカリ金属化合物中のリチウムが130モルとなるように調製し、融剤として硫酸カリウムが2モルとになるように調製した。
遷移金属化合物として共沈物と、アルカリ金属化合物として炭酸リチウムと、無機塩からなる融剤として硫酸カリウムとをロッキングミルを用いて乾式混合して、原料混合物を得た。
【0123】
<焼成によるアルカリ金属複合金属酸化物の作製>
次いで、該混合物を□300mmの多孔質セラミックス製焼成容器に1.8kg入れた。このときの混合物の層厚は30mmであった。
プロパンガスを燃料として、その燃焼熱により炉内を加熱するシャトルキルン焼成炉を用いて焼成した。100℃/hで昇温して、880℃において6時間保持した。その後、常温になるまで冷却した。
炉内の酸素濃度は、焼成直前において21体積%であった。ガス燃焼により温度が上昇するとともに酸素濃度は低下し、880℃の保持温度に達した直後に最も低くなり、11体積%であった。炉内の二酸化炭素濃度は、焼成直前において0体積%であった。ガス燃焼により温度が上昇するとともに二酸化炭素濃度は上昇し、880℃の保持温度に達した直後に最も高くなり、8体積%であった。
シャトルキルン焼成炉から焼成品を取り出して、これを粉砕し、蒸留水でデカンテーションによる洗浄を行い、濾過し、300℃で6時間乾燥して、アルカリ金属複合金属酸化物を得た。実施例15、実施例16、実施例17で得られたアルカリ金属複合金属酸化物をそれぞれA15、A16、A17とした。
【0124】
<アルカリ金属複合金属酸化物の物性とそれを正極活物質とした充放電試験>
15とA16とA17との比表面積と、結晶構造と、A15とA16とA17とをそれぞれ正極活物質としたコイン型電池による充放電試験で測定された放電容量とを表5に示す。
10Cにおける放電容量を比較すると、前述の比較例7におけるBを正極活物質としたコイン型電池の値よりも、実施例15におけるA15を正極活物質としたコイン型電池の値や、実施例16におけるA16を正極活物質としたコイン型電池の値や、実施例17におけるA17を正極活物質としたコイン型電池の値の方が大きかった。
【0125】
製造例1(積層フィルムの製造)
(1)塗工液の製造
NMP4200gに塩化カルシウム272.7gを溶解した後、パラフェニレンジアミン132.9gを添加して完全に溶解させた。得られた溶液に、テレフタル酸ジクロライド243.3gを徐々に添加して重合し、パラアラミドを得て、さらにNMPで希釈して、濃度2.0重量%のパラアラミド溶液(A)を得た。得られたパラアラミド溶液100gに、アルミナ粉末(a)2g(日本アエロジル社製、アルミナC、平均粒子径0.02μm)とアルミナ粉末(b)2g(住友化学株式会社製スミコランダム、AA03、平均粒子径0.3μm)とをフィラーとして計4g添加して混合し、ナノマイザーで3回処理し、さらに1000メッシュの金網で濾過、減圧下で脱泡して、スラリー状塗工液(B)を製造した。パラアラミドおよびアルミナ粉末の合計重量中のアルミナ粉末(フィラー)の重量は、67重量%となる。
【0126】
(2)積層フィルムの製造および評価
多孔質フィルムとしては、ポリエチレン製多孔質膜(膜厚12μm、透気度140秒/100cc、平均孔径0.1μm、空孔率50%)を用いた。厚み100μmのPETフィルムの上に上記ポリエチレン製多孔質膜を固定し、テスター産業株式会社製バーコーターにより、該多孔質膜の上にスラリー状塗工液(B)を塗工した。PETフィルム上の塗工された該多孔質膜を一体にしたまま、水中に浸漬させ、パラアラミド多孔質膜(耐熱多孔層)を析出させた後、溶媒を乾燥させて、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層された積層フィルム1を得た。積層フィルム1の厚みは16μmであり、パラアラミド多孔質膜(耐熱多孔層)の厚みは4μmであった。積層フィルム1の透気度は180秒/100cc、空孔率は50%であった。積層フィルム1における耐熱多孔層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察をしたところ、0.03〜0.06μm程度の比較的小さな微細孔と0.1〜1μm程度の比較的大きな微細孔とを有することがわかった。尚、積層フィルムの評価は以下の方法で行った。
【0127】
<積層フィルムの評価>
(i)厚み測定
積層フィルムの厚み、多孔質フィルムの厚みは、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。また、耐熱多孔層の厚みとしては、積層フィルムの厚みから多孔質フィルムの厚みを差し引いた値を用いた。
(ii)ガーレー法による透気度の測定
積層フィルムの透気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社安田精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレー式デンソメータで測定した。
(iii)空孔率
得られた積層フィルムのサンプルを一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量W(g)と厚みD(cm)を測定した。サンプル中のそれぞれの層の重量(Wi(g))を求め、Wiとそれぞれの層の材質の真比重(真比重i(g/cm3))とから、それぞれの層の体積を求めて、次式より空孔率(体積%)を求めた。
空孔率(体積%)=100×{1−(W1/真比重1+W2/真比重2+・・+Wn/真比重n)/(10×10×D)}

表1


表2


表3


表4


表5


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機塩からなる融剤と、アルカリ金属化合物(ただし、前記融剤とは異なる化合物を少なくとも含む。)と、遷移金属化合物とからなるアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物であって、前記原料混合物を焼成するときの保持温度で、前記融剤がアルカリ金属複合金属酸化物を生成するために必要な酸化力を有するアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物。
【請求項2】
前記無機塩が、硫酸塩、硝酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩およびホウ酸塩からなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載のアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物。
【請求項3】
前記無機塩を構成するカチオンが、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群より選ばれる1種以上である請求項1または2に記載のアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物。
【請求項4】
前記アルカリ金属化合物を構成するアルカリ金属元素が、LiおよびNaからなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物。
【請求項5】
前記遷移金属化合物を構成する遷移金属元素が、Mn、Fe、CoおよびNiからなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜4のいずれかに記載のアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物。
【請求項6】
前記遷移金属化合物を構成する遷移金属元素が、Feと、さらにMn、CoおよびNiからなる群より選ばれる1種以上とである請求項1〜5のいずれかに記載のアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のアルカリ金属複合金属酸化物の原料混合物を200〜1050℃の保持温度で焼成するアルカリ金属複合金属酸化物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法で製造されるアルカリ金属複合金属酸化物。
【請求項9】
結晶構造が層状構造である請求項8に記載のアルカリ金属複合金属酸化物。
【請求項10】
アルカリ金属複合金属酸化物を構成する遷移金属元素の平均酸化数が遷移金属化合物を構成する遷移金属元素の平均酸化数よりも高い請求項8または9に記載のアルカリ金属複合金属酸化物。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載のアルカリ金属複合金属酸化物を有する正極活物質。
【請求項12】
請求項8に記載の正極活物質を有する正極。
【請求項13】
請求項12に記載の正極を有する非水電解質二次電池。
【請求項14】
さらにセパレータを有する請求項13に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−12272(P2012−12272A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152778(P2010−152778)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】